口腔ケア - asahikawa medical university...2 あさひかわ緩和ケア講座2013...

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1 あさひかわ緩和ケア講座 2013 あさひかわ緩和ケア講座 2013 あさひかわ緩和ケア講座 2013 あさひかわ緩和ケア講座 2013 あさひかわ緩和ケア講座 2013 第9講 看護ケア口腔ケア・浮腫のケア 旭川赤十字病院 緩和ケア認定看護師 蟹谷 和子 あさひかわ緩和ケア講座 2013 口腔ケア あさひかわ緩和ケア講座 2013 がん患者の口腔ケア 看護師による口腔ケアが必要な場合 ・がん治療中、倦怠感や嘔気などでセルフケアがで きない時 ・がん手術直後の患者 ・造血細胞移植治療や、大量化学療法などによる 副作用が強く、セルフケアができない状況 ・がん終末期で予後が月単位から週単位となり、 寝たきりの状態となった場合 など あさひかわ緩和ケア講座 2013 がん患者に生じやすい口腔トラブル 口腔トラブル 主な原因 口内乾燥 ・脱水や絶食による唾液分泌減少 ・放射線治療による有害事象 ・口呼吸や酸素投与 ・抗精神薬・オピオイドなど 粘膜の脆弱 性(口内炎な ど) ・唾液分泌減少による抗菌作用の低下、日和見感染 ・ビタミンや微量元素欠乏による粘膜の脆弱化 ・化学療法や放射線治療の有害事象 味覚異常 ・低栄養によるビタミンや亜鉛などの微量元素の欠乏 ・化学療法や放射線治療の有害事象 ・カンジダ症 口臭 ・唾液分泌減少やケア不足による細菌の貯留や歯周病の悪化 ・吐物、痰、食物残渣などの口内残留や壊死組織 舌苔・痂皮様 痰付着 ・口腔乾燥やケア不十分による洗浄不足 義歯不適合 ・体重減少 ・ケア不足による歯肉の腫脹や潰瘍 あさひかわ緩和ケア講座 2013 口腔乾燥 唾液 ・白く濁り糸を引く、細かい泡状になって粘膜に付着 ・義歯粘膜面に唾液がついていない ・舌乳頭が委縮して、舌背は平滑化 ・舌苔が多く付着 ・溝状舌がみられ食物残渣が付着 ・舌側縁部に歯列の型がつく 口蓋 ・乾燥した喀痰や粘膜上皮が付着 頬粘膜 ・粘膜が委縮し伸展しにくい、出血しやすい 歯肉 ・歯垢や食物残渣が多く付着し炎症を起こしている ・出血しやすく、乾燥している 口唇 ・伸展しにくい、口角にびらんや潰瘍がみられる ・急にう歯が増える 症状

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Page 1: 口腔ケア - Asahikawa Medical University...2 あさひかわ緩和ケア講座2013 口腔乾燥のケア 洗口液を用いて含嗽(刺激性の少ないノンアルコールの液を使用)

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あさひかわ緩和ケア講座 2013あさひかわ緩和ケア講座 2013

あさひかわ緩和ケア講座 2013

あさひかわ緩和ケア講座 2013あさひかわ緩和ケア講座 2013

第9講看護ケアⅡ

口腔ケア・浮腫のケア

旭川赤十字病院

緩和ケア認定看護師

蟹谷 和子

あさひかわ緩和ケア講座 2013

口腔ケア

あさひかわ緩和ケア講座 2013

がん患者の口腔ケア

• 看護師による口腔ケアが必要な場合

・がん治療中、倦怠感や嘔気などでセルフケアができない時

・がん手術直後の患者・造血細胞移植治療や、大量化学療法などによる副作用が強く、セルフケアができない状況

・がん終末期で予後が月単位から週単位となり、寝たきりの状態となった場合

など

あさひかわ緩和ケア講座 2013

がん患者に生じやすい口腔トラブル

口腔トラブル 主な原因

口内乾燥 ・脱水や絶食による唾液分泌減少 ・放射線治療による有害事象・口呼吸や酸素投与 ・抗精神薬・オピオイドなど

粘膜の脆弱性(口内炎など)

・唾液分泌減少による抗菌作用の低下、日和見感染・ビタミンや微量元素欠乏による粘膜の脆弱化・化学療法や放射線治療の有害事象

味覚異常 ・低栄養によるビタミンや亜鉛などの微量元素の欠乏・化学療法や放射線治療の有害事象 ・カンジダ症

口臭 ・唾液分泌減少やケア不足による細菌の貯留や歯周病の悪化・吐物、痰、食物残渣などの口内残留や壊死組織

舌苔・痂皮様痰付着

・口腔乾燥やケア不十分による洗浄不足

義歯不適合 ・体重減少 ・ケア不足による歯肉の腫脹や潰瘍

あさひかわ緩和ケア講座 2013

口腔乾燥

唾液 ・白く濁り糸を引く、細かい泡状になって粘膜に付着・義歯粘膜面に唾液がついていない

舌 ・舌乳頭が委縮して、舌背は平滑化 ・舌苔が多く付着・溝状舌がみられ食物残渣が付着・舌側縁部に歯列の型がつく

口蓋 ・乾燥した喀痰や粘膜上皮が付着

頬粘膜 ・粘膜が委縮し伸展しにくい、出血しやすい

歯肉 ・歯垢や食物残渣が多く付着し炎症を起こしている・出血しやすく、乾燥している

口唇 ・伸展しにくい、口角にびらんや潰瘍がみられる

歯 ・急にう歯が増える

症状

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

口腔乾燥のケア

洗口液を用いて含嗽(刺激性の少ないノンアルコールの液を使用)

6~8回/日程度の含漱

(頻回の含嗽は粘性成分のムチンを失わせるので乾燥を助長)

口蓋粘膜・頬粘膜・歯肉清掃

まず初めに口腔内に保湿剤(水でも可)を塗布し、滑りを良くする。口唇も忘れずに塗布

口腔の奥から手前に転がすように行う

とくに汚染しやすい口腔底や口腔前庭を丁寧に行う

ブラッシング

事前に水で湿らせておく

歯肉にブラシの毛先が当たらないように、毛先の角度を調整する

あさひかわ緩和ケア講座 2013

口腔乾燥のケア

口唇口腔粘膜保護

2~4時間毎の定期的保湿が効果的

保湿剤は液体よりジェルタイプの方が口腔内にとどまりやすい

舌背以外にも舌下や頬粘膜に薄く塗りのばす

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口腔粘膜炎

原因 ・義歯などの物理的刺激 ・感染症(ヘルペス)・熱症や薬剤 ・抗癌剤や放射線照射・口腔乾燥 ・栄養不良

ケア• 口腔内の清潔保持(歯ブラシは歯面のみ、粘膜に当てない)

アルコールを含まない洗口液や水などで含嗽疼痛が強い場合は生理食塩水を使用

• 口唇にワセリンや保湿剤、白ゴマ油などを塗布• 口腔内保湿

ワセリン、グリセリン入り含嗽や保湿剤・白ゴマ油などの使用• 疼痛コントロール

キシロカインを使った含嗽+NSAIDSモルヒネの使用

うがいは『ガラガラ』ではなく『グチュグチュ』で!

あさひかわ緩和ケア講座 2013

口腔粘膜炎

ヘルペス性口内炎

・はじめ水泡形成を認め、その後痂皮を形成

・痛みを伴うので鎮痛剤を使用

・バルトレックスやゾビラックスなどの抗ウイルス薬を使用

・アラセナ-A軟膏の塗布(口唇)

あさひかわ緩和ケア講座 2013

口腔カンジダ症

原因

症状 舌、口蓋粘膜、頬粘膜、咽頭粘膜に白苔が点状に不

連続に広がる。ピリピリ・チクチクした持続性の痛み。

ケア 口腔ケア(義歯の清掃も)で衛生状態を改善。

軽症例には、イソジンガーグルによる洗口やリフレケ

ア・オーラルバランスなどの抗真菌作用のある保湿剤。

重症になればファンギゾンシロップ、フロリードゲル、

イトリゾールなどの抗真菌薬を使用。

・易感染状態 ・口腔乾燥・ステロイドや抗菌薬の長期投与・口腔内(義歯も含めた)衛生状態の不良など

あさひかわ緩和ケア講座 2013

口臭口臭の原因 (6割が舌苔で生産)

ケア・舌苔・口腔内のケア~保湿剤や洗口液などの使用

10~20倍に希釈したオキシドール液の使用・口腔内嫌気性菌を抑制する口臭予防剤を3~4回/日使用

例:ハイザック®(揮発性硫化物をキレート化して消臭)・腫瘍による口臭の場合は、嫌気性菌への対応としてメトロニダゾール(フラジール)の投与が有効

口腔内 未治癒のう歯、不良充填物内での腐敗、歯周病、舌苔、口腔乾燥、口腔内のがん、義歯に付着している歯垢

全身性 耳鼻咽喉・肺・上部消化管の疾患、耳鼻咽喉のがん、重症の糖尿病・肝硬変・尿毒症

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

出血傾向のある場合のケア

• 超軟毛歯ブラシ・スポンジブラシを使用• 歯垢の除去(出血の原因の炎症症状を改善する)• ケア前後に保湿剤を粘膜に塗布し、全体を湿潤• 出血している時は、頻回に含嗽しない• 歯肉を傷つけないように、歯ブラシ、スポンジブラシは湿らせておく

• 出血時は生理食塩水で湿らせたガーゼや綿球で10~20分圧迫止血。またボスミン(1000倍希釈)やオキシドール(2~10倍希釈)の併用もあり

• 血餅を無理に剥がさない

血餅が自然に落ちるのを待つ。それまでの間は

血餅の上から保湿剤をのせて、湿潤させておく。

あさひかわ緩和ケア講座 2013

保湿剤選択のポイント

自分で口腔ケアができるか、介護者が行うか

効果時間が短くても良いか、長い方が良いか

保湿剤に味を求めるか、無味か

口腔乾燥の程度

どの部位に使用するか(舌、口唇、頬粘膜、口蓋など)

口呼吸か鼻呼吸か

口腔カンジダ症などはあるか

嚥下障害はあるか

あさひかわ緩和ケア講座 2013

保湿剤選択のポイント

・液状タイプ・・・ オーラルウェット、絹水、コンクールマウスリンスなど

加湿効果に適している、ベタつかず使用感が良い、

保湿しながら洗浄できる、誤嚥のリスクあり

・ジェルタイプ・・・オーラルバランス、リフレケア、オーラルアクアジェル、

ビバジェルエットなど

保湿効果に適している、液だれしにくい、誤嚥リスクが低い、

就寝中などの保湿に適している

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口腔ケア 動画

あさひかわ緩和ケア講座 2013

含嗽液・鎮痛薬

使用方法 性状 適応 含嗽・使用方法

食塩水 Nacl9gを水1000mlに溶かす

含嗽水 重症口内炎、口腔乾燥

5~8回/日使用、粘膜の刺激が少ない

オキシドール

口内局所消毒時は2~3倍希釈、洗口時は10~20倍希釈

含嗽水 粘膜消毒、口内炎洗口、舌苔

5~8回/日またはケア

時。粘膜出血、痂皮付着、舌苔付着時の口内清掃または洗口、痂皮をはがしやすくする

ハチアズレ・グリセリン

ハチアズレ5P、グリセリン60ml、水500ml

含嗽水 口内乾燥、唾液分泌減少

5~8回/日、グリセリン

の味が少し甘い。疼痛時キシロカイン併用

口腔ケアに使用される含嗽剤、鎮痛薬(1)

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含嗽液・鎮痛薬

使用方法 性状 適応 含嗽・使用方法

食塩水・キシロカイン

Nacl9g、水1000ml、4%キシロカイン10ml or20ml or30ml

含嗽水 口内炎、咽頭炎 毎食直前に含嗽、10ml/回をグチュグチュ含嗽2分

ポンタールシロップ

10ml/回 シロップ 口内炎の痛み、咽頭炎による嚥下痛

食事前15分に服用、

食事前の粘膜痛、嚥下時痛に有効

アルロイドG アルロイドG 10ml~20ml/回

内用液 粘膜炎 嚥下痛がある場合、粘膜保護作用、止血作用、食前服用で痛みの緩和

アズノール・キシロカイン軟膏

キシロカインゼリー1本(30ml)と、アズノール軟膏150gを混合

軟膏 口唇部、頬粘膜部の粘膜炎

直接塗布、持続は10~15分と短い、口内

炎が限局し局所使用時有効

口腔ケアに使用される含嗽剤、鎮痛薬(2)

静岡がんセンター歯科・口腔外科で使用されている含嗽剤・鎮痛剤資料より引用、一部改変

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

終末期がん患者への口腔ケア

目的 : 口腔トラブルによる苦痛の予防、または苦痛の緩和

最小の苦痛で、最大の効果が得られるようなケアを早期から検討

・倦怠感や呼吸困難などによりケア時間や体位に制限がある・口腔トラブルの原因が除去しきれない(オピオイドや酸素投与等)・口腔トラブル以外の苦痛な症状に注意やケアが集まりやすいので、口腔トラブルへの対応が後手に回りやすい

口腔トラブルは“食べる・話す”を奪い、QOL低下の大きな要因!!

あさひかわ緩和ケア講座 2013

認知症患者への口腔ケア

• 口腔ケアによる突然の刺激でパニックに陥り、拒否に繋がる可能性がある

• 2つ以上の刺激、例えば「声をかけながら口を触る」「口腔内を触りながら、急に顔を見せる」などを行うと、声に反応してそちらの理解に困惑しているところに、さらに口への触覚刺激が加わり、パニックを誘発する

• 強い刺激は痛みなどの不快感を与え、複雑な思考を想起させ、それを処理できないジレンマが生じ、その間に次の刺激が加わると、パニックを誘発する

• 口腔ケアに時間がかかると、意識を集中することができず、意識や思考が他に移ることから、口腔ケアが余分で不快な刺激となり、拒否につながる

• 手足の動きや目つきなどは精神状態を表すので、これらの状態をよく観察し刺激を除くことで、大きな拒否を回避できる

• 怒ったような強い言葉は不快な印象を受ける。優しい言葉も、何度もかけられると処理しきれなくなって、不快な感覚を与えてしまうこともある

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リンパ浮腫ケア

あさひかわ緩和ケア講座 2013

リンパの働き

<リンパ液の成分>

細胞で不要になった老廃物や白血球などに分解された

蛋白成分、リンパ球などの細胞成分、侵入してきた細菌、

脂肪など

過剰な組織液を血液中に戻す

血液中のタンパク成分量を維持

細菌・ウイルスや異物が血液循環に進入するのを防ぐ

あさひかわ緩和ケア講座 2013

リンパ系の特徴(1)

1.リンパ管の自動運搬能:

一定のリズムで自律的な収縮運動(10回/分)

2.弁構造:集合リンパ管には弁があり逆流を防ぐ

あさひかわ緩和ケア講座 2013

3.筋肉ポンプ:筋肉運動や関節運動、マッサー

ジなどで流れが促進(10~20倍)

4.その他:腹式呼吸、動静脈血流や胃腸運動も

リンパ運搬を補助

リンパ系の特徴(2)

どの一つが欠けてもリンパ運搬に支障がでる

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

表在リンパ管のしくみ(1)• 毛細リンパ管

・弁構造がない ⇒ あらゆる方向に流れる可能性・全身に張り巡らされている ⇒側副リンパ路として機能

あさひかわ緩和ケア講座 2013

表在リンパ管のしくみ(2)

• 集合リンパ管:弁構造がある

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表在リンパ管のしくみ(3)

• リンパ分水嶺:リンパの流れを区分する境界線

•それぞれの領域の主要リンパ節に流れるしくみ

•境界線を境に弁は反対向き

あさひかわ緩和ケア講座 2013

表在リンパ管のしくみ(4)

• 主要リンパ連絡路:主要なリンパ節間では、毛細リンパ管が多く、密になっている

あさひかわ緩和ケア講座 2013

深部リンパ管のしくみ

あさひかわ緩和ケア講座 2013

浮腫の種類浮腫の種類種類 概念 原因 特徴

全身性浮

腫皮下組織に細胞外液が過剰に貯留

腎での排泄障害、毛細血管から間質への体液漏出

・急速に拡がる・両側性浮腫・皮膚は柔い、押すと凹む・治療で浮腫が軽減

慢性静脈機能

不全症

静脈還流に関する慢性的な問題の総称

・下肢静脈瘤や深部静脈血栓症による還流不全

・全身性浮腫が長期にわたる

・足先の浮腫が強い・静脈瘤や毛細血管の怒張、擦過傷、下腿潰瘍・皮膚の硬化・色素沈着・治療で浮腫は軽減

リンパ浮腫

リンパ管の障害により皮下組織内に高蛋白性の液が過剰に貯留

リンパ管の損傷、手術、外傷、感染

・ゆっくりと拡がる・片側の浮腫・角化し、硬化する・鋭い痛みはない・完全な消失はできない

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

別紙資料1 フローチャート参照

浮腫を見分ける

あさひかわ緩和ケア講座 2013

リンパ浮腫~定義

リンパ管の障害があるために、リンパ管によって吸収・

運搬・排除する能力が低下することにより、皮下組織内

に組織間液が過剰にたまった状態

• 原発性(一次性)リンパ浮腫

発症の原因疾患が確定しない~リンパ管の発育不全・

形成不全など

• 続発性(二次性)リンパ浮腫

悪性腫瘍に伴う手術・放射線治療、リンパ管炎、

悪性腫瘍の増悪など

あさひかわ緩和ケア講座 2013

リンパ浮腫の臨床分類

期 皮膚の状態と特徴

0期(潜伏期)

リンパ管シンチなどでリンパ管の閉塞はあるが、臨床的には浮腫がない状態

Ⅰ期(可逆期)

浮腫が軽度で水分が多く、指で押すと圧迫痕が残る 安静臥床で浮腫が軽減する

Ⅱ期(不可逆期)

浮腫が強く硬くなり、繊維化や脂肪増生で圧迫しても痕が残らず、安静では改善しない

Ⅲ期(象皮期)

皮膚が硬さを増して角化がみられ、放置すると潰瘍を形成したり象皮症になる

あさひかわ緩和ケア講座 2013

リンパ浮腫による影響

リンパ浮腫

視覚的な影響

自尊心の低下

経済的負担

職場での困難

楽しみ・趣味の制限

セクシャリティへの影響

自立性の低下 QOLの

低下!!

あさひかわ緩和ケア講座 2013

リンパ浮腫の合併症

蜂窩織炎(発赤・発熱・炎症)

リンパ漏・・・蜂窩織炎を来しやすい

象皮症・皮膚硬化・・・感染を起し

やすい

急性皮膚炎

白癬・皮膚感染症・・・蜂窩織炎を起しやすい

色素沈着

関節機能障害

褥創・・・感染を起しやすい

リンパ浮腫は炎症をきっかけに悪化しやすい

蜂窩織炎

あさひかわ緩和ケア講座 2013

1.情報収集~疾患の状態、浮腫の原因や状況、

データ(リンパ管造影・エコ-など)、

禁忌の有無、患者の認識など

2.信頼関係~面談、視診、触診、ADL、生活状況、

の構築 ケアへの意欲など

3.ケア効果~ケアによりどこまで浮腫が改善できるか、

の予測 ケアすることで生命に危険を及ぼさないか

ケアの立案と看護介入

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

4.ケア目標決定・ ~具体的な計画立案計画立案

5.患者・家族に~ケアの内容と限界を説明・指導、セル説明 フケア継続の必要性、生活スタイルに

合わせたケアの工夫

6.ケア実施~記録、計測値や写真などのデータ保存

7.ケアの見直し、評価

ケアの立案と看護介入

あさひかわ緩和ケア講座 2013

複合的理学療法

• スキンケア• 医療徒手リンパドレナージ• 圧迫療法• 運動療法

※医師の診察を受けてから許可のもとに治療を開始※知識と技術を習得したセラピストの協力を得る※症状に合わない弾性圧迫衣の着用や無理な圧迫療法は、症状悪化や炎症を招く

あさひかわ緩和ケア講座 2013

複合的理学療法

スキンケア

免疫力の低下、皮膚乾燥、傷などにより感染を起こしやすいため清潔や保湿を

保つ

リンパドレナージ

患肢に溜まっているリンパ液を側副路を介して、健康なリンパ節から深部リン

パ管に誘導する

圧迫療法

患肢を外部から適度に圧迫することで、リンパ液の再貯留を防ぐ

運動療法

弾性包帯や弾性圧迫衣を用いた状態で筋肉

ポンプ作用を促す

あさひかわ緩和ケア講座 2013

複合的理学療法の禁忌

原則的禁忌 感染症による急性炎症、心性浮腫・心不全、深部静脈血栓症、急性静脈炎など

相対的禁忌(基本的には禁忌だが、状況により治療を行える場合)

悪性疾患(症状緩和として状況に応じて可能)、高血圧、狭心症、不整脈など

局所的禁忌(治療できるが、局所的に行ってはいけない場合)

(頸部)甲状腺機能亢進症、頸動脈洞症候群、重症な不整脈、頸部の急性疾患など(腹部)急性・慢性疾患、開腹手術の既往、腸閉塞、放射線治療後、大動脈瘤など

あさひかわ緩和ケア講座 2013

1.皮膚の清潔を保つ

弱酸性~中性の洗浄剤、愛護的な洗浄、擦らない

2.皮膚の乾燥を防ぐ

保湿剤塗布による皮膚保護

3.皮膚の損傷をまねく行為は避ける

採血や血圧測定、粘着・医療用テープ、虫さされ、

日焼け、カミソリなどを避ける。ペットによる掻き傷に

注意

スキンケア

セルフケア指導が大事!!

あさひかわ緩和ケア講座 2013

リンパドレナージ

方向:流したい方向のリンパ節にむかって行う

圧力:優しく撫でるくらいの軽い圧で行う

手のひらを皮膚に密着させ、ゆっくりと伸張させる

速度:2~3秒間に1回程度

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

リンパドレナージ

あさひかわ緩和ケア講座 2013

リンパドレナージ手技

静止クライス

指もしくは手掌全体で皮膚に接触し、皮膚と皮下部分に円運動を加える手技(身体のいたる部分に用いることが出来る)

ポンプ手技母指と示指の間の部分を排液方向に向けて置き、手掌全体で圧を加える手技(主に四肢や乳房に用いられる)

あさひかわ緩和ケア講座 2013

リンパドレナージ手技

シェップ手技四肢後面を手掌全体で交互にすくうような手技(主に前腕・下腿に用いる)

ドレ一手技手掌全体を体表に接触させ、適度に圧をかけながら前方へ柔らかく皮膚を動かす手技(主に体幹部など広い面のところに用いる)

あさひかわ緩和ケア講座 2013

リンパドレナージ注意点

• もまない

• さすらない

• たたかない

• 強すぎない

• 痛くない

• 早くなりすぎない

• 手をまわすことにこだわらない

あさひかわ緩和ケア講座 2013

リンパドレナージ~前処置

1.両肩後ろ回し、または両上肢の上下運動

(静脈角の流れを促す)

2.腹部マッサージ、または腹式呼吸

(乳び槽に流入するリンパの流れを促す)

3.健康なリンパ節のマッサージ

(リンパ液を流す時に、受け入れ先となるリンパ節を

刺激しておく)

4.患肢と健康な主要リンパ節を結ぶ体幹のマッサー

(主要リンパ連絡路を刺激する)

あさひかわ緩和ケア講座 2013

• 別紙資料 2.左上肢リンパ浮腫、

3.左下肢リンパ浮腫 参照

・ DVD視聴

リンパドレナージ~具体例

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

①肩回し:10回②腹式呼吸:5回③右脇窩マッサージ:20回④前胸部マッサージ:abcの順で各5回⑤左ソケイ部マッサージ:20回⑥左体側面マッサージ:efgの順で各5回⑦上腕マッサージ:前面・後面各5回⑧肘(内側・外側):各10回⑨前腕マッサージ:前面・後面各5回⑩手関節(内側・外側):各10回⑪手掌と手背のマッサージ:各5回⑫手指のマッサージ:各5回⑬左手指先→左肩先→④の道→右腋窩

までをさする:3回

リンパドレナージの手順患肢:左上肢

あさひかわ緩和ケア講座 2013

リンパドレナージの手順①肩回し:10回②腹式呼吸:5回③左腋窩マッサージ:20回④左体側面マッサージ:abcの順で各5回⑤大腿マッサージ:deの順で各5回⑥膝と膝裏のマッサージ:5回・10回⑦下腿(前面・後面)マッサージ:各5回⑧足関節(前面・後面)マッサージ:各5回⑨足背と足底マッサージ:各5回⑩足趾マッサージ:各5回⑪腰殿部マッサージ:各5回⑫足指先→足付け根外側→左腋窩までさする:3回

患肢:左下肢

あさひかわ緩和ケア講座 2013

圧迫療法

複合的理学療法の中で、最も効果的

弾性圧迫包帯 弾性圧迫衣

ティジーグリップティジーソフト

ティジーチューブラストッキネット

あさひかわ緩和ケア講座 2013

運動療法

あさひかわ緩和ケア講座 2013

• 悪性腫瘍の進行や再発・転移に伴うリンパ浮腫をいう

• がん細胞がリンパ管内に浸潤したり、再発・転移したリンパ節や腫瘍がリンパ管を直接圧迫閉塞し、浮腫の増悪を招く

• 静脈を圧迫・閉塞すれば静脈うっ滞による浮腫も出現や、がん性胸膜炎・腹膜炎を合併すれば胸腹水も出現し、コントロールは困難になる

悪性リンパ浮腫

あさひかわ緩和ケア講座 2013

「リンパドレナージを受けると気持が良い」

• 施術後間もなく腫脹したり、体液の移動が

腫瘍浸潤部を刺激し、不快感を感じる

• 胸水や腹水が貯留している場合は、呼吸困難

や腹満感をさらに感じる

⇒リンパドレナージや圧迫療法は負担がかかる

緩和ケア領域でのリンパ浮腫

しかし

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

緩和ケア領域でのリンパ浮腫

• 目標

QOLの維持・向上と合併症の予防

1.苦痛になることは行わない2.スキンケアとタッチング程度の軽いドレナージ

と圧迫治療(刺激や圧迫力の少ない包帯)が中心

3.心地良さの提供、傍にいてくれるという感覚

あさひかわ緩和ケア講座 2013

症例

• 30歳代 女性胃がん(リンパ節切除後) がん性腹膜炎

行ったケア・スキンケア(保湿・外傷予防)・安楽な体位の確保・ドレナージのリスクを説明し、ケアプランを作成

・刺激の少ない柔らかいマッサージ・スキンケアと外果部周囲のほぐし手技を中心

・死亡後に最期のマッサージ⇒ おだやかな柔らかい表情へ変化

あさひかわ緩和ケア講座 2013

Take Home Message!

あさひかわ緩和ケア講座 2013

口腔ケアの基本はセルフケアである。セルフケアが適切に行われるように支援を行う必要がある。

患者の「食べる」楽しみや「話す」楽しみにつなげるために、口腔内環境を整える必要がある

口腔ケアは一つの単なるケアではなく、生きることの尊厳を支援するケアである

リンパ浮腫治療を行うには、複合的理学療法と日常生活指導を加えた複合的治療が標準治療である

あさひかわ緩和ケア講座 2013

Take Home Message!

あさひかわ緩和ケア講座 2013

適切なリンパ浮腫治療を行うためには、解剖・生理から発生のメカニズムまで正しい知識を習得し、個々の病態に即した治療法を選択しなければならない

緩和領域でのリンパ浮腫は、循環不全や低蛋白血症などによる浮腫と混在しやすく、両方の浮腫に対応することが必要となる

緩和ケア領域でのリンパ浮腫ケアは、心地良さとケアされているという安心感、人とのつながりを実感できるケアであり、また最期まで提供可能なケアである

あさひかわ緩和ケア講座 2013

1.病院に入院中の患者で、子宮悪性腫瘍、子宮付属器悪性腫瘍、前立腺悪性腫瘍または腋窩部郭清を伴う乳腺悪性腫瘍に対する手術を行ったものに対し、手術を行った月、またはその前月もしくは翌月のいずれかに、リンパ浮腫に対する適切な指導を実施した場合に、1回限り算定できる

2.当該保険医療機関入院中にリンパ浮腫指導管理料を算定した患者であって、当該保険医療機関を退院したものに対して、当該保険医療機関において、退院した日の属する月またはその翌月にリンパ浮腫の重症化等を抑制するための指導を再度実施した場合に、1回に限り算定する。

・リンパ浮腫重篤化予防の弾性着衣の購入費用は、療養費払いの対象

リンパ浮腫指導管理料診療報酬改定 100点/回

あさひかわ緩和ケア講座 2013

参考文献1.神津三佳:口腔内と口唇のケア,がん看護14(7),772‐776,南江堂,東京,20092.篠原明子・有賀悦子:終末期における口腔ケアの重要性,臨床養,113(5),2008

3.柿木保明・山田静子編著:看護で役立つ口腔乾燥と口腔ケア,医歯薬出版,東京,2007

4.岸本裕充:ナースのための口腔ケア実践テクニック,照林社,東京,2008

5.門田和気・戸谷美紀他編:がん患者の消化器症状マネジメント,がん看護13(2)増刊号,98‐114,南江堂,東京,2008

6.太田洋二郎他:根拠がわかる口腔ケア,がん看護15(5),南江堂,東京,2010

7.佐藤佳代子:リンパ浮腫治療のセルフケア,文光堂,東京,2008

8.小川佳宏・佐藤佳代子:リンパ浮腫の治療とケア,医学書院,東京,2007

9.西川史江:口腔乾燥,がん看護13(2),増刊号,南江堂,東京,2008

10.渡邊 裕・大野友久:終末期の口腔ケアUP date,看護技術,Vol.59 No.7別刷,2013,メヂカルフレンド社

Page 11: 口腔ケア - Asahikawa Medical University...2 あさひかわ緩和ケア講座2013 口腔乾燥のケア 洗口液を用いて含嗽(刺激性の少ないノンアルコールの液を使用)

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あさひかわ緩和ケア講座 2013

11.日本緩和医療学会編:終末期癌患者に対する輸液治療のガイドライン第

1版,23貢,2007

12.近藤敬子他編:ベッドサイドのリンパ浮腫ケア,日本看護協会出版会,東

京,2008

13.北村 薫他:基礎から最新知識まで最前線のリンパ浮腫ケア36(7),臨床看護,へるす出版,東京,2010

14.増島麻里子他:リンパ浮腫ケア,がん看護13(7),南江堂,東京,2008

15.リンパ浮腫診療ガイドライン作成委員会編:リンパ腫診療ガイドライン2008年度版,金原出版株式会社,東京,2009

参考文献