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CRDS-FY2012-OR-02 海外調査報告書  欧州における“Foresight”活動に関する調査 ―CRDS研究開発戦略の立案プロセスに活かすために―

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海外調査報告書 

欧州における“Foresight”活動に関する調査 ―CRDS研究開発戦略の立案プロセスに活かすために―

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欧州における“Foresight”活動に関する調査-CRDS 研究開発戦略の立案プロセスに活かすために-

CRDS-FY2012-OR-02 独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター

目 次

第Ⅰ部 CRDS の研究開発戦略立案プロセスと“Foresight”活動 1.調査の背景 ............................................................................................... 1 2.調査目的及び方法 .................................................................................... 4 3.調査結果の概要 ........................................................................................ 6 4.CRDS の研究開発戦略立案プロセスへの示唆 ......................................... 7 5.日本の科学技術イノベーション政策への示唆 .......................................... 8 第Ⅱ部 調査結果詳細 1.英国 ........................................................................................................ 11 2.ドイツ .................................................................................................... 29 3.欧州委員会 ............................................................................................. 36 4.OECD .................................................................................................... 46 付録 “Foresight”の手法について ................................................................... 55

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第 I 部: CRDS の研究開発戦略立案プロセスと “Foresight”活動

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第Ⅰ部

1.調査の背景

政府負担による研究開発投資の社会・経済的効果が、先進諸国においては特

にその厳しい財政状況を背景として、これまで以上に強く期待されている。そ

のため、科学技術イノベーション政策の推進にあたっては、研究開発の成果が

社会の課題解決につながりうるのか、あるいは産業化に結びつき経済的効果を

もたらすのか等についての将来ビジョンを示すことが求められている. これに応える方法の一つとして、“Foresight”1活動がある。 “Foresight”とは、「先見の明」「(将来に対する)洞察力」「予感」「(将来の)

展望」「(将来を見越した)配慮」等の意味を持ち、「予測」に比べ、より広がり

を持った語である2。(コラム1参照) 科学技術イノベーション政策における“Foresight”活動は、欧州を中心にこ

の10年ほどの間に、それまでの技術予測という枠組みを超えて、「社会と技術

の双方を視野に入れた将来ビジョンを描出する」という形で盛んに行われるよ

うになった。政策形成に関わる関係者の間での議論を深める、あるいは問題意

識を共有することを主要な目的として実施されていると言うことができる。

科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)では、研究開発戦

略の立案にあたり、社会が何を求めているか(=社会的期待)を把握し、これ

を研究開発領域と結び付ける(=邂逅)ことを基本方針としている(図1)3。

社会的期待の把握には、「どういう社会が望ましいのか」を展望することが不可

欠である。科学技術イノベーション政策における“Foresight”活動の歴史や手

法を知ることによって、CRDS における研究開発戦略の立案プロセスの検討と

実践に活かしていくことができると考えられる。 第4期科学技術基本計画(2011 年 8 月に閣議決定)においては、重要課題の

達成に向けた科学技術イノベーション政策の推進を大きな柱の一つとしている。

重要課題の達成に向けた施策の重点化のためには、課題に対する深い理解と洞

察が必要である。“Foresight”活動に関する知見は、課題達成型と呼ばれる第4

期計画下での施策展開において重要なものとなると考えられる。

以上のような認識に基づき、CRDS では、欧州の公的機関で実施されている

“Foresight”活動について調査した。本報告書は、その調査結果を取りまとめ

たものである。

1 本報告書では一般名詞としての Foresight には“”をつける。これは、“Foresight”活動が機関よっては固有名詞として使われていること、及び Forward Looking Activity など別の呼び方をされていることによる。

2 CRDS-FY2010-RR-07 「調査報告書 戦略立案の方法論~フォーサイトを俯瞰する~」(http://crds.jst.go.jp/type/others/201103010300)

3 吉川弘之『研究開発戦略立案の方法論 持続性社会の実現のために』、科学技術振興機構研究開発戦略センター、2010 年 6 月

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図1 研究開発戦略の立案プロセス ========= 参考:公的機関による“Foresight”活動 =========

本調査では欧州の4機関を調査対象としたが、他にも様々な公的機関が“Foresight”活動を実施している。 米国では、連邦政府監査院(Government Accountability Office)において、連邦政

府による科学技術政策に対する責任を明確にすることを目的に、技術アセスメント

(Technology Assessment)を実施している。 国際科学会議(International Council for Science:ICSU)では、戦略プラン作成の

一環として、2011 年に Foresight Analysis と呼ぶ活動を実施し、2031 年における各

国の科学の国際展開に関する4つのシナリオを作成した。シナリオの軸は 1) 国が国内

志向か国際志向か、2) 科学と社会との関係が独立的か協調的か、となっている。 日本の科学技術政策研究所による予測調査は海外からもよく知られている。長年の技

術予測(1971 年にデルファイ調査を開始)の実績を踏まえつつ、第 9 回(2010 年)で

は科学技術がチャレンジしていくべき社会の方向性についても議論された。

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第Ⅰ部

********* コラム1―“Foresight”とは?― *********

“Foresight”活動と呼ぶことができるものは幅広い。未来を展望する要素が何らか

の形で入っているあらゆる活動を、“Foresight”と呼ぶことも可能であろう。報告書な

どに見られる“Foresight”についての説明を以下に示す。

◇短期的な意思決定プロセスに資する長期的ビジョンを創出し、共有する参加型のア

プローチ FORESIGHT is a participative approach to creating shared long-term visions to inform short-term decision-making processes. (European Foresight Monitoring Network, What is FORESIGHT,

http://www.foresight-network.eu/index.php?option=com_content&task=view&id=13&Itemid=52 2012 年 5 月 21 日アクセス)

◇政府が、未来の不確実性に対しロバストであるような決定を、現時点にできるよう

に支援すること Foresight ―helps Government make decisions today which are robust to future uncertainties. (英国 Government Office for Science, Foresight 担当作成資料より(2012 年 3 月

6 日入手))

◇EU が様々な困難な問題に直面している中、 – 財政的、経済的危機から抜け出すために

– 高齢化、低成長、社会的不平等、域内の構造的弱さに対処するために

– エネルギー移行、資源不足、気候変動、病気等、世界的に共通な課題に対処す

るために

問題を特定し可能な回答を見出すために不可欠なツール

EU is facing critical problems To exit from the financial and economic crises

To address internal structural weakness: aging population; slow growth; social inequalities…

To address global common challenges: energy transition; scarcity of resources, climate change, diseases….

Foresight: indispensable tool to identify problems and possible answers (The 4th International Conference on Foresight, NISTEP (2011 年 3 月 8-9 日)

European Commission, Jaen-Michel BAER 氏 発表資料より)

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2.調査目的及び方法

調査の第一の目的は、CRDS の研究開発戦略の立案プロセスに資する知見や

ノウハウを得ることである。より具体的には、政策対象とすべき社会の課題と

最新の研究開発動向という2つの側面を、どの段階においてどのような手法に

よって“Foresight”活動に反映させているのか、について知り、CRDS の業務

に活かしていくためである。また、調査の第二の目的は、日本の科学技術イノ

ベーション政策において、政策対象とする重要課題をどのように認識し選定す

べきかについて示唆を得ることにある。

調査対象は、欧州において先導的な活動を実施している次の4つの公的機関

における“Foresight”活動である。 英国:ビジネスイノベーション技能省 政府科学局 Foresight 担当

(Department of Business, Innovation & Skills (BIS) Government Office of Science (Go-Science), Foresight)

ドイツ:フラウンフォーファ システム・イノベーション研究所 イノベーション・技術管理・Foresight 担当

(Fraunhofer Institute for Systems and Innovation Innovation and Technology Management and Foresight)

欧州委員会:研究・イノベーション総局内担当 ( European Commission, Directorate-General for Research and

Innovation) OECD:科学技術産業部 International Foresight Programme 担当

(Directorate for Science, Technology and Industry)

調査手順は次の通りである。 Step1:対象機関の Web サイト、報告書等に基づく事前調査 Step2:対象機関への訪問調査(事前に送付した質問票に基づくインタビュ

ー及び関連資料の入手等)(2012 年 3 月 6 日~12 日) Step3:入手資料に基づく追加調査

また、主な調査項目は次の通りとした。 ◇ 活動の目的・経緯 ◇ 活動内容 ・対象とするテーマの選定プロセスと方法 ・検討体制 ・スケジュール ・一般的な検討の流れ

◇ 検討結果が政策に与えた影響

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第Ⅰ部

********* コラム2―“Foresight”の手法― *********

“Foresight”活動で利用されている様々な手法を Popper*は、定性的な方法による

ものか、定量的な方法によるものか、あるいか半定量的な方法によるものかの3つに分

類した上で、フォーサイト・ダイヤモンド(The Foresight Diamond)の上にマッピン

グして整理した。“知識源による分類”を示すダイヤモンドの各頂点は、それぞれ次の

ように説明されている4。33 の各手法の説明を付録に示す。 Creativity:個人の独創的で創造的な思考、才能、創意、ワークショップ参加者から

出された発想 Expertise:特定の領域やテーマに関する個人のスキルや知識 Interaction:専門家同士の交流による創発、民主的なボトムアップや参加型 Evidence:信頼できる資料、統計データ、指標

出典:European Foresight Monitoring Network, ”Global Foresight Outlook 2007”.

* Rafael Popper―マンチェスター大学マンチェスターイノベーション研究所リサーチフェロー。欧州委員会による European Foresight Platform (EFP)(表2参照)の活動の一環として Foresight Diamond を作成。

4 Rafael Popper “Foresight Methodology”, Edited by Luke Georghiou el.al. “The Handbook

of Technology Foresight”, 2008.

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3.調査結果の概要

英国

ビジネスイノベーション省(BIS)政府科学局(GoSci)内に Foresight 担当

部署がある(第Ⅱ部 1.英国 組織図参照)。1994 年に開始され、10 年ほど前

から現在の検討方法とした。政府各省の科学顧問、研究会議等からの提案から

毎年1~2テーマを選び、通常1テーマにつき2年かけて Foresight Project を実施する。どの社会の課題を対象とするのかは、テーマ設定時に反映される。

各テーマに関連する研究開発の動向を踏まえた将来ビジョンと推進方策が報告

書にまとめられ、政府の判断を支援する。

ドイツ

教育科学省(BMBF)がフラウンフォーファ システム・イノベーション研究

所に“Foresight”活動を委託している。2000 年代前半には、需要側からのアプ

ローチとして知られる Futur を実施したが、2007~2009 年の Foresight 2007-2009 では、研究開発分野からスタートし、社会の課題への寄与も考慮し

つつ、新たな研究分野を導出した。Futur では一般の人も参加したのに対し、

2007~2009年のForesightでは専門家の意見聴取に基づいた。次期のForesightは、Foresight 2007-2009 に比べると需要側からのアプローチとなる見込みとし

ている。

欧州委員会

“Foresight”活動を、Forward Looking Activities と呼ぶ。欧州委員会内に

Expert Group を設置し、欧州が直面する課題をテーマにビジョンの共有と予測

される対策案を得ることを目的にプロジェクトを実施している。また、第7次

欧州フレームワークプログラム(FP7)社会及び人文科学(SSH)の中で、競

争的資金による関連の研究・活動に対する支援も行っている。“Foresight”手法

を俯瞰的に整理した European Foresight Monitoring Network(EFMN)の活

動(コラム2参照)は欧州委員会の支援によるものである。

OECD

ローマクラブによる「成長の限界」をきっかけに、International Foresight Programm(IFP)が 1990 年に開始された。IFP は、OECD 上層部や加盟国政

府の政策決定者に、新たな問題を提起することを目的としている。プロジェク

トのテーマは OECD が決定する。加盟国の専門家のネットワークを形成しつつ

すすめるが、プロジェクト運営も OECD 内部が主導する。プロジェクトの報告

書に基づいた各国での展開のため、各国の事情をレビューし実施プランを作る

こともある。

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第Ⅰ部

4.CRDS の研究開発戦略立案プロセスへの示唆

研究開発戦略の立案にあたり、政策対象とすべき社会の課題と最新の研究開

発動向という2つの側面をどのように取り入れているか―本調査の第一の目的

に照らしてみると、国による研究開発戦略が検討されている英国及びドイツに

おける“Foresight”活動では、両者とも何らかの形で、双方の側面を視野に入

れていることが分かる。 英国では、Foresight Project のテーマに、社会の課題が取り上げられる傾向

がこの 7~8 年に特に高まっている。また、“Global Food and Farming Futures(2011)”、“International Dimension of Climate Change(2011)”など、

グローバルな課題も選定されるようになっている。ただし、テーマの選定基準

の一つに、科学技術が主要な役割を果たすことがあげられており、各 Project の中では、課題解決に寄与すると考えられる研究開発領域の状況が詳細に検討さ

れる。英国の Foresight Project では、まず社会の課題を選定し、選定された課

題についての理解を深め、さらに課題の解決に必要とされる研究開発領域を精

査することを通じて政策提言がなされる。 ドイツの Foresight 2007-2009 では、研究開発領域からのアプローチが採ら

れている。社会の課題に対する考慮は、既存の研究領域(Established future fields)に基づいて新しい研究領域(New future fields)を選定していく際の基準

の中で反映させていく。2000 年代前半に実施された Futur では、多くの参加者

を巻き込み約2年間かけて社会の課題を網羅的に検討し、数個の先導ビジョン

(Lead Vision)を特定した。

このように、英国では社会の課題から、またドイツでは研究開発領域から、

という方法が近年の両国の“Foresight”活動で採用されているアプローチであ

り、それぞれのプロセスの中で、科学技術の研究開発領域の状況や社会の課題

が反映されていく。ナショナル・レベルの科学技術イノベーション政策におい

て、社会の課題と研究開発領域のそれぞれを俯瞰的に把握しておき、両者を“邂

逅”させていくという試みは、CRDS に特有のアプローチであるといえる。 “邂逅” という CRDS 特有の研究開発立案プロセスを確立させるには、今後

も具体的な取り組みを重ね、個別プロセスの検討方法を改善していく必要があ

る。その際に、両国における検討方法と実績―例えば英国の Foresight Projectにおける社会の課題を深く理解するための活動や、ドイツにおける新しい研究

領域の導出方法―から学べる点は多い。

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5.日本の科学技術イノベーション政策への示唆

今回の調査結果を踏まえると、科学技術イノベーション政策の推進にあたり

“Foresight”活動が果たしている役割の一つとして、自然科学、社会科学双方

の科学的知識が集結され、政府もしくは機関による判断のエビデンスとして用

いられている点がある。また、これらの科学的知識を利用することを通じて、

解決すべき社会の課題に対する深い理解と社会の将来に対する長期的な展望が

得られ、一国の政府関係者の間で、あるいは欧州委員会と OECD のような国際

機関の場合には加盟国の代表者の間で、ビジョンを共有することができる点も

重要である。さらに、国民や研究者、あるいは加盟国に対して、その時点での

判断の根拠を説明することも可能となる。 “Foresight”活動の実施体制について見ると、政府関係者や研究者など幅広

い参加者の協力を得ているが、いずれの調査対象機関においても、“Foresight”活動の機関内担当者がイニシアティブをとって推進しているという点に注目す

る必要がある。また、科学技術イノベーション政策の一環として実施されてい

るにもかかわらず科学技術研究の推進そのものを必ずしも“Foresight”活動の

直接の目的としていない、という点にも留意が必要だろう。社会の課題への理

解を深めること、関係者の参加を通じたビジョンの共有こそが、科学技術の重

要性を説明することにつながっている。 こうした点に鑑み、本調査の第二の目的―日本の科学技術イノベーション政

策において、政策対象とする重要課題をどのように認識し選定すべきかについ

て示唆を得る―に照らしてみると、日本においても、特に科学技術イノベーシ

ョン政策の基本政策の策定に際し、政策対象とすべき社会の課題に対する理解

を深めるための“Foresight”活動を、多様なステーク・ホルダーの関与を得て行

政機関において実施することが必要ではないだろうか。 例えば、第4期科学技術基本計画では、重要課題の達成に向けた科学技術イ

ノベーション政策の推進を大きな柱とし、日本及び世界にとっての喫緊の課題

として「エネルギーの安定確保と気候変動問題への対応」を取り上げ、「国とし

て、グリーンイノベーションを強力に推進する」としている。そして、「エネル

ギー供給源の多様化と分散化」や「エネルギー利用の効率化」を目指した研究

開発を推進するとともに、社会システムや制度の改革を実施することとしてい

る。こうしたグリーンイノベーションの施策推進にあたり、低炭素社会のエネ

ルギー需給とそれを支える社会システムのあり方を展望するために、“Foresight”活動を実施することが考えられる。 日本においては、科学技術イノベーション政策の意図を、実際に研究を行う

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第Ⅰ部

研究者に的確に伝える必要があるという点が指摘されている5。“Foresight”活

動を通じて、政策関係者や研究者が将来ジョンを共有することができ、さらに

研究開発課題の優先度の判断に社会の課題を反映していくことが可能となると

考えられる。また、国民に対し科学技術イノベーション政策の意義をより分か

りやすい形で伝えていくことも可能になると考えられる。

5 例えば、内閣府 科学技術イノベーション政策推進のための有識者研究会(2011 年 10 月

設置)での議論など

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第 II 部: 調査結果詳細

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第Ⅱ部

英国

1.英国

1.1 基本データ

調査対象機関:ビジネスイノベーション技能省 政府科学局 Foresight 担当 Department of Business, Innovation & Skills (BIS)

Government Office of Science (Go-Science), Foresight http://www.bis.gov.uk/foresight 訪問調査概要:

日時:2012 年 3 月 6 日 面会者:Prof. Sandy Thomas, Head of Foresight

Derek Flynn, Deputy Head of Foresight Mr. Martin Glasspool, Team Leader, Foresight Central Team Jon Parke, Follow-up Team Leader, Dr. Mark Galtrey, Project Leader Dr. Emily Eakins, Project Manager Alexander Salvoni, Foresight Horizon Scanning Centre

訪問者:嶋田一義 JST CRDS フェロー 前田知子 JST CRDS フェロー

中村亮二 JST CRDS フェロー 同行者:奥 篤史 在英日本国大使館 一等書記官(科学技術担当)

1.2 活動の目的及び経緯

英国における Foresight 活動の目的は、英国社会が将来直面しうる課題に対す

る理解や展望を示すことを通じて、政府による政策策定のプロセスを支援する

ことにある。Foresight 担当者による説明資料では、「Foresight とは、政府が、

未来の不確実性に対しロバストであるような決定を、現時点にできるように支

援すること(Foresight ―helps Government make decisions today which are robust to future uncertainties.)」6、「政府が将来について体系的に考えること

を支援し、21 世紀のためのロバストな政策を検討できるようにする(We help Government to think systematically about the future to develop robust policies for the 21st century)」7などと説明されている。

6 コラム1参照 7 科学技術政策研究所 The 4th International conference on Foresight(2011 年 3 月 8 日)

講演資料より

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**** コラム3 Government Office of Science 関連組織図 ****

2012 年 3 月 6 日訪問調査時の入手資料に示された組織図である。 政府科学局(Government Office of Science)は、ビジネスイノベーション技能省

(Department of Business, Innovation & Skills: BIS)の中にあるが、実質的な指揮系

統は政府主席科学顧問(Government Chief Scientific Advisor: GCSA)の下にあるた

め、このような組織図が提示されたと考えられる。政府主席科学顧問は首相に直接報告

する立場にあり、政府科学局は独立性を持ち特定の省庁に属さないので、Foresight 活動では将来を検討するため最良の科学とエビデンスを利用することができるとしてい

る(2012 年 3 月 6 日訪問調査時の担当者)。 英国の政府主席科学顧問は、福島第一原子力発電所事故に対する東京在住の英国民及び

駐日英国大使館の安全確保に向けた決定を行ったことで、日本国内でもよく知られるよ

うになった。 政府科学局 80 名の常勤スタッフのうち、半数近くの 35 名が Foresight 担当となって

おり、英国の科学技術イノベーション政策の中で Foresight が重要な位置づけにあるこ

とが分かる。 なお、当組織図の Foresight の下にある Policy Futures は、新たに開始された Policy Futures projects の担当である。この project では、政策関係が現時点でよく理解して

いないと考えられる課題を取り上げ、6 カ月から 12 ヶ月かけで分析する。2012 年の 2月と 3 月に 1 件ずつ結果が公開されている。

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第Ⅱ部

英国

これらの説明にも見られるように、Foresight の顧客は主に政府関係機関であ

り、産業界の意向はテーマによって多少入る程度となっている。

英国における Foresight 活動は、1994 年8に開始された。英国では、1993 年

5 月に「科学・工学・技術白書」が発表され、産業競争力の強化を目指した科学

技術政策の基本方針が示された。Foresight 活動はこうした流れの中で、科学技

術イノベーション政策の効果をより確かな形で把握していくために開始された

と考えられる。 訪問調査時のインタビューによれば、Foresight Project を通常2年かけて実

施し報告書を出すという現在の検討体制・方法となったのは 10 年ほど前でから

である。これは、David King 氏が政府主席科学顧問及び科学局長を務めていた

時期(2000 年 10 月~2007 年 12 月)に検討方法を見直したことによる。それ

までは様々なトピックについての未来を検討した報告書を出す小規模なものに

留まっており、「あまり成功していたとはいえない」と述べている。3~4年前

からは Foresight 活動のインパクトを高めることにも勤め始め、報告書作成後の

フォローアップにも力を入れるようになった。 Horizon Scanning Centre が設

立されたのは 2005 年9である。

Foresight 担当による活動項目は次の通りである。 1)Foresight Project の実施

2)Horizon Scanning Centre による活動 3)Policy Futures projects の実施

4)Foresight Toolkit の作成 以下でこれらの各項について記述する。

1.3 Foresight Project

Foresight Project は、 選定したテーマについて 10 年から 100 年先を見通す

ための検討を、幅広い関係者を巻き込んで行われる。成果は報告書に取りまと

められて公開され、その内容はテーマに関連する研究開発領域に対する政策の

検討に反映される。 これまでに実施されてきた Foresight Project のテーマ(報告書のタイトルも

同一である)を以下に示す。これに見られるように、社会的な問題に関するテ

ーマが取り上げられる傾向が年々強まっている。

8 http://www.bis.gov.uk/foresight/about-us(2012 年 6 月 12 日アクセス) 9 http://www.bis.gov.uk/foresight/our-work/horizon-scanning-centre (2012 年 6 月 12 日アクセス)

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◇ Foresight Project テーマ一覧(カッコ内は報告書発行年) Cognitive System(2003) Flooding & Coastal defence (2004) Exploiting the Electromagnetic Spectrum (2004) Cyber Trust & Crime Prevention (2004) Brain Science Addiction & Drugs (2005) Intelligent Infrastructure System (2006) Detection & Identification of Infectious Diseases (2006) Tackling Obesities: Future Choices (2007) Sustainable Energy & the Built Environment (2008) Mental Capital and Wellbeing (2008) Land Use Futures (2010) Global Food and Farming Futures (2011) International Dimension of Climate Change (2011) Global Environmental Migration (2011) The Future of Manufacturing (検討中) The Future Cities (検討中)

(1)テーマの選定方法

Foresight Projects のテーマは、政府省庁の科学顧問(Scientific Advisors)、研究会議(Research Council)、技術戦略委員会(Technology Strategy Boards)及び大学等の約 80 の機関及び関係者に対し、政府主席科学顧問(Government Chief Scientific Advisor、2012 年 3 月時点では John Beddington 卿)から提案

や意見を求めることから開始される。 これによって約 150 のテーマ案が提案されるが、これらはまず、Foresight

Project の担当者によって、大まかに 12 のテーマに絞り込まれる。12 のテーマ

はさらに、政府主席科学顧問と 6~7 名の研究会議のアカデミアから構成される

委員会により次の6つの基準に基づいて審議され、最終的には首席科学顧問の

決定により毎年2テーマが選定される。約 150 のテーマ案から2テーマまで絞

り込むのに約4カ月かかる。

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第Ⅱ部

英国

― Foresight Project のテーマ選定基準10 ― • 少なくとも 10 年先を見ており、その領域に対するアウトカムが不明であ

ること • 科学技術が、主要な変化の推進力もしくは解決の源として貢献できるこ

と • 政府が大きな影響を持つ内容を含んでいること • 他で実施されている領域と重複しない、活発な研究領域からの参画があ

ること • 人文社会科学を含む分野融合が必要とされ、また、アカデミア、産業界、

政府からなる検討体制が作れること • 将来もっとも影響を持ちうるグループからの支援がえられる

(2)一般的な検討スケジュール Foresight Project は、Pre-Scoping、Scoping、Research、Synthesis、Launch

の各プロセスを経て、通常2年かけて実施される(図*参照)。 テーマが選定された 2~3 カ月後、まず Pre-Scoping(約3ヵ月間)が開始さ

れる。Pre-Scoping では、担当部署間の調整、中心となる専門家の特定、キーと

なるステーク・ホルダーの特定、リーダの選定、スポンサーとなる機関の指定

を行う。簡単なエビデンスの評価や専門家によるスコーピングのワークショッ

プも行われる。 次に Scoping(約 4 カ月間)として、中心となる専門家を指定した上で第一回

の会議を開催するとともに、関係者の合意形成、ステーク・ホルダーの引き合

わせ、Project 実施の公表、先行例調査を実施する。 続けて、Research と呼ばれる約1年間に、文献レビュー、シナリオプランニ

ングのワークショップ、モデリングなど、テーマに応じた Foresight 手法を適用

した活動が行われる。次の Synthesis と呼ばれる約 6 ケ月間で、Research によ

る結果を分析し、報告書を取りまとめる。Synthesis では、主要なステーク・ホ

ルダーを集めたアクションプランの検討も行われる。 最後に、Launch と呼ばれる期間に、報告書の出版、それに伴うイベント開催、

政府機関による報告書の提案内容の実施を支援する Follow up が行われる。

Launch は、通常は約 1 カ月間であるが、Follow up が長期にわたった場合もあ

る。そのような例として、Flooding & Coastal defence(2004)がある。 Project 参加者による全体会合は、Research で 2 回、Synthesis と Launch で

各 1 回、計 4 回開催される。

10 2012 年 3 月 6 日訪問調査時の入手資料による

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図2 Foresight Project 一般的な検討スケジュール

(3)一般的な検討体制

Foresight Project は、政府主席科学顧問(GCSA)、Foresight 担当者、中心

となる専門家(Core Expert。Lead Expert と呼ばれることもある)グループを

中心にすすめられる。1 つの Project を担当する Foresight 担当者は 4~5 人で

ある。常時 3~4 の Foresight Project が並行して走っており、2 つ以上の Projectを担当者が兼務することはない。また、1 つの Project で、中心となる専門家は

5~6 名である。この3者を中心に、次のステーク・ホルダーが参加し、一つの

Foresight Project の参加者は、全体で約 2~300 人となる。(図*参照) ・提案を出した政府省庁の担当者など ・専門家のアドバイサリ・グループ ・海外からの参加者 ・科学及び工学の専門家 ・NGO や研究会議からの参加者

Project に参加した専門家や政策担当者の中には、報告書の提案を実施するた

めの協力し続けてくれる人もいるということであり、こうした Follow up 段階

での協力を得られるようにするために Project 期間中のステーク・ホルダーとの

関わり方(stakeholder management)が極めて重要であるとしている。 経費は、Foresight Project を選定する約4カ月のプロセス(上記(1)参照)

に約 100 万ポンド、また1つの Foresight Project の実施に 2 年間で約 100 万ポ

ンド~150 万ポンド(1.4 億円~2.1 億円)である。後者には、Foresight 担当の

スタッフ経費を含まない。提案を出した機関が経費の一部を負担することもあ

る。

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第Ⅱ部

英国

図3 Foresight Project 一般的な検討体制11 (4)報告書の内容 Foresight Project の報告書には通常、取り上げたテーマに関連する近年の研

究開発成果の分析結果、ありうる未来についてのビジョン、政府がとるべき行

動や方策についての提案が記載される。

Foresight Project の報告書について担当者は、取り上げたテーマの専門家か

ら、“知性を持つ非専門家”である政府関係者等のステーク・ホルダーに対し、

対応すべき社会の課題についての掘り下げた議論や関連する研究開発の状況を

伝える役割を果たすもの、としている。報告書は中立的な立場で書かれており、

あくまでも政府が決定するためのエビデンスとアドバイスを示すものである。

Project のテーマを提案した省庁は、必ずしもそれを採用する義務はない。しか

し、報告書と合わせて、ステーク・ホルダーがどのように報告書の内容を利用

するかを記した文書を作成しておくことが行われている。

11 出典:訪問調査時入手資料

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● Foresight Project の事例 1:Flood and Coastal Defence (http://www.bis.gov.uk/foresight/our-work/projects/published-projects/flood-an

d-coastal-defence/proposed-approach) 2004 年に報告書が発行された当 Foresight Project は、英国における河川域及び

沿岸域の洪水リスクついて、長期的(2030~2100)で包括的な将来ビジョンを提示

し、洪水リスクへの対応を検討することを目的に実施された。 当 Project では、まず将来の洪水リスクについてのシナリオ分析を実施し、これを

踏まえて、想定される洪水リスクに対処するための方策が検討された。シナリオ分

析では、洪水が起こるシステムを全地球的な水サイクルを含む地球表面の物理的状

態や社会人為的な側面の双方からとらえ、気候変動と社会経済状況を主要な変化ド

ライバーとして検討した。これに基づき、経済成長が高成長か低成長か、環境対策

が強化されるか否かにより、4つのケースでの洪水リスクが分析された。さらに洪

水リスクに対応するための英国内での手順―沿岸域の状態や土地利用状況の把握、

基本となる洪水対策の河川域、沿岸域、河口域、内陸部都市でのケーススタディー

等―が提示された。これらに見られるように、自然科学と社会科学の双方の専門家

が関与し、分野横断的な検討が実施されている。 当 Project は、訪問調査時のインタビューにおいて、国内の政策に対する効果が大

きかった例として、Tackling Obesities (2007 年)、Mental Capital and Wellbeing (2008 年)とともにあげられた。これらの政策へのインパクトは、政権交代後も継続

しており、これは Foresight Project の科学的独立性によるとしている。当 Projectの報告書を踏まえて洪水リスクに対する省庁横断的(cross-government)な戦略が

作られ、年間約 300 万~400 万ポンドの予算が計上されたとしている。Tackling Obesitiesについては健康省によって 3年間で 400万ポンドの予算が計上され、また、

Mental Capital・・・・についではメンタルヘルス問題に対する英国政府の 10 年計画

に反映された、としている。 また、訪問調査時のインタビューにおいては、報告書発行後のフォローアップが

長期的に行われた例としても当 Project があげられた。当初は現在もロンドンとテム

ズ川河口のインフラ計画など、平坦な地域の洪水リスクにどう対処するかの検討英

国国内の問題に対処するためのものとして開始されたが、当 Project で提案された洪

水リスクを管理する方法は、中国・上海の保護のためにも使われたほか、米国でも

利用され、インドからも関心が寄せられている。当 Project のフォローアップのため

に使った予算は、これまでに合計で約 350 万ポンドとなっている。

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第Ⅱ部

英国

● Foresight Project の例 2:Cyber Trust & Crime Prevention (2004) (http://www.bis.gov.uk/assets/bispartners/foresight/docs/cyber/executive

%20summary.pdf) 2004 年に報告書が発行された当 Foresight Project は、英国が情報技術を発展さ

せ、その恩恵を受けられるために我々がどのように最善を尽くすことができるかを、

明らかにするために行われた。45 人の科学者と 260 人の専門家が、文献の査読やワ

ークショップへの参加等様々な形式で関与した。 当 Project では、専門家とアドバイザリグループが集まったワークショップで、科

学的なレビューが行われ、10の研究開発テーマ(Risk Management in Cyberspace, Usability and Trust in information systems, Confidence and risk on the internet 等)が同定された。この10の研究開発テーマに基づき、二人の主査(専

門家)*が、“Synthesis Paper”とよばれる総括文書を作成した。 * Professor Robin Mansell of the London School of Economics and Political Science

Professor Brian Collins of the Royal Military College of Science, Shrivenham

一方で、二人の技術の専門家に、技術の展望を委任し、未来社会を“Pervasive Computing(日常生活のあらゆる場面にコンピューティングが浸透していく社会)”

という文脈を仮定した6つのトピック(Web Services, Software Liability and Operating System trends, Surveillance and Privacy 等)を導出し、各トピックに

ついて詳細に議論をした。 その後、上記総括文書と6つのトピックに基づく議論に基づき、RAND Europeのチームが 2018 年をふまえた 3 つのシナリオを作った。これは、Responsibility, Vulnerability, Privacy をドライバとして、「Frog Boiler」「Knowing it All」「Touch Me Not」というものである(図参照)。また、この3つのシナリオを RAND Europeチームによる“Virtual Future Hindsight®”というゲームイベントでテストしてい

る。このテストは、シナリオが含む本質的な不確実性を様々な立場の人にシステマ

ティックに理解させるものという。 2009 年に行われたフォローアップ調査**では、このプロジェクトの影響が幅広く

評価されている。専門家のステーク・ホルダーからは、Research Council や学術研

究等によりよいインパクトを与えているとの意見が得られている。 **http://www.bis.gov.uk/assets/foresight/docs/cyber/ctcp_midterm_review.pdf

例えば、EPSRC は、サイバー犯罪防止を「優先課題」として£0.7m の予算を確

保して 2003 年に公募をかけている。2004 年から Research Council はこのプロジェ

クトの重要性を認め直接的又は間接的に£60m の公募に影響が及んだ。また、

Technology Strategy Board (TSB)、British Telecom、QinetiQ その他によって形成

された Cyber-Security Knowledge Transfer Network(KTN)が直接的な成果の一

つとして挙げられている。このプロジェクトは、内務省(Home Office)の委員会や

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Council of Science and Technology and the Forensic Science Pathology Unit の業

務でも言及され、幅広い省庁に影響が及んでいる。

図 シナリオの構成

(FORESIGHT: Cyber Trust and Crime Prevention project Executive Summary より転載) http://www.bis.gov.uk/assets/bispartners/foresight/docs/cyber/executive%20summary.pdf

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第Ⅱ部

英国

● Foresight Project の例 3:Powering Our Lives: Sustainable Energy & the Built Environment (2008)

(http://www.bis.gov.uk/foresight/our-work/projects/published-projects/sustainable-energy-management-and-the-built-environment/reports-and-publications)

本プロジェクトは 2006 年 7 月に開始され、2008 年 11 月に最終報告書が公開され

た。プロジェクト発足当時、イギリスでは原子力に関する世論調査(2005 年)が行

われるなどエネルギー政策の転換に関する議論が政府内で大きく取り上げられてい

た。2006 年には貿易産業省がエネルギー政策のレビューも行っている。こうした状

況を受け、本プロジェクトの目的は「安定的、持続可能、かつ低炭素なエネルギー

システムへの今後50年間での移行を支援するために、イギリスの人工環境(Built Environment)※がどのように進化しうるか」を調べることとされた。また検討結

果は上述のようなエネルギー政策に関する議論にも資することを目指すとされた。 プロジェクトを通じた主要な成果は、科学的根拠に基づく検討の結果として「持

続可能なエネルギー・マネジメント」と「人工環境」の将来に関する4つのシナリ

オを作成し、それらに含まれる潜在的な挑戦や機会、あるいは不確実性の主なもの

の概略を明らかにしたことである。成果物としては、(1)最終報告書、(2)シナ

リオに関する技術的なレポート、(3)シナリオの詳細、(4)関連行政機関など主

要なステークホルダーによるエンゲージメントの概要がある。また調査の過程で行

った科学レビューの結果はエネルギー政策に関する国際誌 Energy Policy で特集を

組み、そこに約 60 の記事として発表された(Energy Policy, 2008, Volume 36, Issue 12)。

以下にプロジェクトの作業プロセスを示す。問いの設定から始まり、各種文献調

査、シナリオ作成、技術ロードマップ作成、それらの統合化と進められた。これら

のプロセスを通じ、大小合わせて合計 11 回(公開されたレポートに明示された回数

を足し合わせた数字)のワークショップが開催された。 (1)問いの設定 2006 年 11 月、Institute of Materials, Minerals and Mining でワークショップ

を 3 回開催。産官学民からの 100 名以上の専門家が、それぞれ妥当と考えるス

コープ(プロジェクトの中心的な問い)を提案。プロジェクトチームはここで

の提案に基づき中心的な問いを設定し、プロジェクトの目的として掲げた。 (2)将来変化の主要なドライバーの同定および分析 公共的なテーマに特化したコンサルテーションや調査・分析業務を請け負う会

社 Office of Public Management(OPM)に文献調査を委託。OPM は社会、技

術、経済、環境、政治(STEEP)の側面から調査を行ない、結果として当該ス

コープと関連の深いドライバー、要因(force)、傾向(trends)についてのクラ

スターを7つ得た:(1)気候変動と環境、(2)人口動態の変化、(3)インフ

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ラ、(4)技術と材料、(5)一般市民の態度、(6)経済(市場要因)、(7)政

治的枠組み。 (3)シナリオ作成のための軸の設定 OPM の調査結果をもとにワークショップを行い、「重要かつ不確実性の高い」

ものという観点からドライバーを順位付けしてシナリオ・オプションを検討。

軸の候補は 2 つ以上残ったが、最後はプロジェクトチームとしての判断に基づ

き2つに決定:(1)2050 年時点での世界的な政治的・経済的枠組み(オープ

ンで相互依存的か、閉鎖的だが自立的か)、(2)イノベーションの種類(新シ

ステム構築志向か、既存システム最適化志向か)。 (4)シナリオ作成 さらに複数回のワークショップを開催し、2軸で分けられた4つのシナリオの

内容を詳細化。 (5)技術ロードマップ作成 シナリオ作成と並行して、技術ロードマップの作成がケンブリッジ大の

Institute for Manufacturing 主導のもと専門家によるインプットとワークショ

ップでの議論を通じて進められた。各シナリオの中で技術の進展がどの程度見

込めるかを検討。 (6)将来的な不確実性と機会についての定性的検討 シナリオと技術ロードマップから、将来的な不確実性と機会にはどのようなも

のが考えられるかを定性的に検討。 (7)まとめ OPM が収集した各種エビデンスと、将来的な不確実性および機会についての検

討結果を踏まえ、行政への政策上の示唆を明示するための検討を実施。 ※ここでいう人工環境とは、人間によって作られたり改変されたりした全ての建築

物、場所、入植地であり、たとえば家、商業施設、学校、オフィス施設、病院、公

園、レクリエーション・エリア、緑地、水場が含まれる。

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第Ⅱ部

英国

1.4 Horizon Scanning Centre

Horizon Scanning Centre は、Foresight 担当内に位置づけられており、潜在

的な問題も含め幅広いテーマについて政策形成に資する情報源を提供し、

Foresight Project の実施を支援する役割を担っている。 インタビュー調査時点では職員 2 人とインターン生で運営されており、Sigma

Scan と呼ばれる基本的な調査と小規模な Project を実施している。

(1)Sigma Scan Sigma Scan は、約 250 の決められたテーマに関する基本調査で、結果は全て

Web 上で公開されている12。 テーマの内訳は、80 が科学技術関連、50 が経済・ビジネス関連、残りはその

他となっている。以前は科学技術関連のテーマを対象とするものを Delta Scanとして分けていたが、現在は Sigma Scan にマージされている。毎年、半年ほ

どかけて全てのテーマがレビューされ、更新するテーマを決め、残りの半年ほ

どでアップデート作業を行う。Sigma Scan のテーマを公募することはしない。

新しいテーマは毎年 12、3 テーマ程度である。原稿作成には外部の専門家やコ

ンサルティング会社などを使うが、公開までに Centre 内の担当者がかなりリラ

イトするということである。

(2)Project Horizon Scanning Centreで実施されるProjectは小規模なもので期間は1~

3ケ月である。テーマの選定は、外部の専門家の意見を参考にしつつ、Foresight担当内で行う。外部にテーマの提案を求めることはしない。

これまでに実施された Project には次がある。 ・The Future of Ageing ・The Future of Communication Convergence ・Wider Implication of Science and Technology ・Future of Food ・The Future Families Project

12 http://www.bis.gov.uk/foresight/our-work/horizon-scanning-centre/the-sigma-scan/sc

an-papers-list

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** コラム4 Sigma Scan のテーマ(この 1 年に更新追加されたもの)** ・ China Crisis: Possible Social and Political Upheaval? ・ The Decline of the Secular State: Merging Faith and Politics in Britain ・ The Bear Market: Authoritarianism in Russia – Putin and After ・ Economics As If Nature Mattered ・ Singleton Settlements: The increase in Single Households ・ Hydrogen Fuel Cells: Niche Technology or Backbone of Tomorrow’s ‘Hydrogen Economy’? ・ Europe Looks West: A Resurgence of Pro-Atlanticism Within the EU? ・ Black Daze: A Possible Collapse of Shareholder Wealth? ・ Divides we Fall?: The ‘Dis-integration’ of Ethnic Minorities ・ A General Theory of Everything? ・ Booze Britain: A National Obsession Gets Out of Hand ・ British Roads: Transformed by Intelligent Transportation Systems ・ Clean Coal Energy Generation through Gasification Techniques ・ Complexity Theory as a Tool in Social Relations ・ Conductive Polymers: The New Silicon? ・ Divine Division: Cold Sectarian Religious Conflict Engulf a Major Region? ・ Continued Growth in Energy Consumption ・ Divided Income, Divided Society: Hardening Attitude to Poverty ・ Exchange Rate Shock: he Collapse and Rebirth of Exchange Rate Mechanisms ・ Financial Faultlines: Could Global Financial Fragility be Exposed by an Interest Rate Shock? ・ Food for Thoughts: Obesity on the Rise ・ Dangerous Climate Change and Tipping Points ・ Growth of Chinese Science and Technology ・ The Rising Cost of Dementia ・ Security: Marrying Technological and Human Approaches ・ New Dominance of Parallel Programming ・ Surviving Peak Oil ・ Targeted Delivery for Drugs ・ HIV/AIDS: The Global Epidemic Marches On ・ Leaving the ‘Ever-Closer Union’: Cold Britain Withdraw From the EU? ・ Jobs for the Girls: A Female Dominated Workforce? ・ Justice For All: Global Institutions to Become Human Rights-Oriented? ・ More Accurate Modelling of Complex Economic Systems ・ Nanotechnologies for Water Purification ・ High Density of Housing and Urban Green Spaces: Place in the City? ・ Quantitative Simulation for Social Prediction ・ Quenching the Thirst: International Water Shortages? ・ Raising the Stakes: Will Iran Develop Nuclear Capability? ・ Return to the Ark ・ Solar Energy: A Staple of the Future Energy Mix ・ Conserving Habitats and Landscapes: Changing Designations? ・ Supercomputing in Demand ・ To Boldly Go? Future Prospects for Human Space Flight ・ Understanding Complexity: How to Answer the Big Questions ・ We all Sign On: Could Levels of Unemployment Rise Dramatically? ・ What Replaces the Factory? Post-Industrial Britain ・ From Lone Scientists to Regional Innovation Systems ・ From the Enlightenment to ‘Enlightenment’: Increasing Diversity in Religion in Britain ・ Future of Unmanned Space Exploration ・ Growth Synergy Between Biology and Mathematics ・ Will We Have Armies in the Future? Declining Recruitment Rates for the Armed Forces ・ The Advent of Global Peak Oil ・ The Burden of Ageing: Economic Impacts of Changing Demographics ・ The Quest for an Unbreakable Code ・ New Technologies for Cooperation ・ One Flag, Many Nations: The Establishment of an International Army? ・ Protecting Air Quality: The Effects of Air Pollution in Developed and Developing Countries ・ High-Tech Market Specialisaiton: Demand for Focused, Niche-Specific Business

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第Ⅱ部

英国

1.5 Policy Futures project13

Policy Futures project は、Foresight 担当による新しいプログラムである。 英国の政策担当者がよく理解していないと考えられる問題に焦点をあて、将

来についての分析やエビデンスを提供することを通じて、その問題に対する理

解を深めることを目的とする。科学もしくは工学を基盤とする分野に関する問

題を取り上げ、政府省庁からの参加も得て、6 カ月から 12 カ月で結果を取りま

とめる。 2012 年 2 月に開始が公表され、現在次の2つのテーマについて実施されてい

る。2012 年末に報告書が公開される予定である。

Improving Future Disaster Anticipation and Resilience The Future of Identity

1.6 Foresight Toolkit の作成

Foresight 担当では、Foresight Toolkit というタイトルの冊子を作成している

(Foresight Toolkit v1.0 を 2012 年 2 月発行)。この冊子には、Foresight Projectの検討体制、スケジュール、準備段階から Launch に至る各検討プロセス、

Project の中で用いられる文献レビュー、シナリオプランニング、ワークショッ

プ、モデリング等の手法の説明など、Project の運営に不可欠な 26 の項目が取

り上げられている。現在の方式が採用されて以降、約 10 年間のノウハウを取り

まとめたものであり、暗黙知に留まりがちな内容を形式知として伝えよう試み

ていると言える。

1.7 まとめ―本調査の調査目的に照らして

英国における Foresight 活動の中心的な取り組みである Foresight Project に関する調査結果を踏まえると、次の点が明らかになったといえる。 まず、研究開発戦略の立案にあたり、政策対象とすべき社会の課題と最新の

研究開発動向という2つの側面を、どの段階においてどのような手法によって

反映させているのか、という本調査の第一の目的に照らしてみると、社会の課

題の側面は、主として提案の段階に関係者の問題意識の中から、Foresight Project のテーマ提案を通じて反映されていると言える。また、研究開発動向に

ついては、Project を推進する中で、文献レビューや専門家の関与によって把握

されている。

13 http://www.bis.gov.uk/foresight/our-work/policy-futures

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次に、科学技術イノベーション政策の推進にあたり、政策対象とする重要課

題をどのように認識し選定すべきか、という本調査の第二の目的に照らしてみ

ると、まず、政府がよりよい判断をするためのエビデンスを Foresight Projectにより提供するという目的と方法そのものが、日本の科学技術イノベーション

政策に示唆を与える。また、Project のテーマ提案を政府機関等の関係者にひろ

く呼びかけた上で、最終的には主席科学顧問がテーマを選定すること、各 Projectは Foresight 担当者がステーク・ホルダー間の調整をはじめとする運営を担うこ

と等から学べる点が多い。 また、政策担当者の理解を深めるための短期間で実施されるプロジェクトと

して、Policy Futures projects が開始されたことも、注目すべき動向であると

言える。一方で、Horizon Scanning Centre による地道な調査活動が継続的に

行われている点や、Foresight Toolkit を作成しノウハウをひろく共有する試み

が行われている点からも、英国において“Foresight”活動が科学技術イノベー

ション政策に推進において重要な役割を果たしていることが伺える。

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第Ⅱ部

英国

(参考)事前に送付した質問票

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第Ⅱ部

ドイツ

2.ドイツ

2.1 基本データ

調査対象機関: フラウンフォーファ システム・イノベーション研究所 Fraunhofer Institute for Systems and Innovation (Bundesministerium für Bildung und Forschung (BMBF:

ドイツ連邦教育研究省)からの委託による ) 訪問調査概要:

日時:2012 年 3 月 12 日 面会者:Dr. Kerstin Cuhls, Project manager, Competence Center

Innovation and Technology Management and Foresight Dr. Daniel Jeffrey Koch, Coordination of Business Unit,

Management of Innovation and Technology 訪問者:嶋田一義 JST CRDS フェロー 前田知子 JST CRDS フェロー 以下では、インタビュー調査によって明らかになった Futur 終了の経緯、そ

してその後取り組まれた BMBF-Foresight 2007-2009 の検討方法を中心に記述

する。

2.2 活動の目的及び経緯

ドイツでは、日本の科学技術政策研究所で実施していたデルファイ法を参考

に、技術側からのアプローチによる“Foresight”活動を 1993 年から開始した。 需要側からのアプローチによる研究投資政策の検討事例として日本でもよく

知られているFutur14は、2000年から 2005年まで試みられた。2000年から 2001年にかけて実施された Futur0 では、インターネット上のプラットフォームを使

う方法をとったが、こうした Web 上での議論に当時はまだ馴染みがなかったこ

ともあり、上手くはいかなかったとしている。続けて実施された Futur1(2001~2002 年)は、若者や非専門家を含む約 1500 人を巻き込んだ大規模なもので

あった。しかし、参加した若者や非専門家の期待が非常に高かったため、かえ

って失望させる結果となった面もあるとしている。2003~2004 年に Futur1 に

14 Futur については次の報告書に詳しい。政策科学研究所『科学技術政策提言「需要」側

からの科学技術政策の展開』(2004 年 3 月)。また次の報告書に Futur1 の検討プロセス

が解説されている。科学技術振興機構 社会技術研究開発センター『将来予想される社会

問題の俯瞰的調査―社会技術研究開発事業 研究開発領域探索のための予備調査 報告

書』、2010 年。

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対する国際評価が実施されたが、目的が明確でない、年間約 500 万ユーロ(6億円)かかり経費が高額である、導出された次の6つの先導ビジョン(Lead Vision)の実現が難しい等、厳しい指摘を受けた。

1) 学習の場としてのドイツ、学習する社会における競争要因 2) 効率的、自律的、安全なインターネット社会における生活 3) 医療 2020 4) 知識を取り扱うための組織化したモデル 5) 明日の社会のための知的生産物とシステム 6) 思考機能の解明

また関係者の間でも、資金が提供される 5 年間のあいだに先導ビジョンを具

体化することが出来るかという点が懸念されたという。先導ビジョンの実現に

は融合分野の研究が必要になるので、自分たちの自身の問題として誰が責任者

となって検討をすすめるのかといった体制面も問題となった。Futur2(2003~2005 年)も Futur1 と同じ方法で実施されたが、BMBF との契約が 2005 年に

終わった段階で“フェイドアウト”した形となったとしている。 BMBF-Foresight 2007-2009 は、ドイツにおいて確立されている(established)

研究開発領域を確認するとともに、新たな領域を見出すことを目的に、科学技

術シーズの供給側からアプローチする方法によって実施された。次期の

BMBF-Foresight は、2007-2009 に比べると需要側からのアプローチが取り入

れられる予定であるとしている。

2.3 BMBF-Foresight 2007-2009

BMBF-Foresight 2007-2009 では、以下に示す検討プロセスによって、14 の既に確立されている研究領域 established future fields を踏まえ、最終的に7つ

の新しい研究領域 New future fields を導出した。

(1)established future fields German High-tech Strategy の 17 領域を踏まえ、次の 14 の established future fields を特定した。 1) health research

2) mobility 3) energy 4) environment and sustainable development 5) industrial production system 6) information and communication technology, 7) life science and biotechnology

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第Ⅱ部

ドイツ

8) nanotechnology 9) materials, substances and their manufacturing processes 10) neurosciences and learning search 11) optical technologies 12) services Sciences 13) systems and complexity research 14) water infrastructure

(2)Future topics と New future fields

まず、(1)の established future fields を縦横に入れた 14×14 のマトリク

スを作り、分野がクロスした所にどのような Future topic がありうるかを、内

外の専門家によるワークショップ等によってマッピングとクラスタリングを行

った。さらに、専門家へのオンラインインタビューやビブリオメトリクスの結

果も反映させて topics を絞っていき、次の 7 つの New future fields を導出し

た。(図4参照) a. Human-technology cooperation b. Deciphering Aging c. Sustainable living space d. Production Consumption 2.0 e. Trans-disciplinary models and multi-scale simulation f. Time research g. Sustainable energy solutions

社会の側の視点は、New future fields を推進した結果が次の判断基準のいず

れかに該当しうるか、という形で適用された。 科学技術における傑出した先駆的な知識の獲得が約束されること

他の研究分野に刺激を与えること

ドイツの経済発展を支援し国際競争力に貢献すること

生活の質の向上に相当に貢献すること

ドイツの科学及びビジネススキルに結びつくこと

資源、気候、環境の保護に持続的に貢献すること

例えば、Deciphering Aging であれは知識の獲得と生活の質の向上に、また Sustainable energy solutions であれば経済発展・国際競争力と環境の保護に、

それぞれ貢献しうるとしている。

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図4 Future topics と New Future Fields の検討プロセス15

New Future Fields を決める段階では、新しい融合的な領域を established future fields の誰が担当できるかを検討しアサインしてくことも行う。 これらの検討プロセス及び 7 つの New future fields に関連する研究の現状と

展望、関与しうるアクター、研究推進にあたっての勧告などが報告書16にとりま

とめられている。また、報告書が出た後のフォローアップとして、Strategic dialogue と呼ばれる活動も行われている。

15 Foresight Process on behalf of the German Federal Ministry of Education and

Research, New Future Fields (http://www.bmbf.de/pubRD/Foresight-Process_BMBF_New_future_fields.pdf)

16 15 に同じ。

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第Ⅱ部

ドイツ

2.4 まとめ―本調査の調査目的に照らして

ドイツにおける Futur 及び BMBF-Foresight 2007-2009 に関する調査結果を

踏まえると、次の点が明らかになったといえる。 まず、研究開発戦略の立案にあたり、政策対象とすべき社会の課題と最新の

研究開発動向という2つの側面を、どの段階においてどのような手法によって

反映させているのか、という本調査の第一の目的に照らしてみると、まず Futurでは、社会の課題の側面を中心に時間をかけて検討されたが、それらを研究開

発の課題へと結びつける段階には至らなかったと見ることができる。これは、

社会の課題の側から検討する際にも、一定の段階で研究開発動向の側面を反映

させる視点が重要であることを示唆している。そして“邂逅”という CRDS に

特有のアプローチの有用性を示しているとも考えられる。 一方、研究開発動向の側からのアプローチを採った BMBF-Foresight

2007-2009 では、社会の課題の側面は、2.3(2)に示した判断基準の中か

ら反映されている。この検討では、新しい融合的な領域の担い手を 14 の

established future fields からアサインすることによって、ある程度確立された

領域といわば“ひも付け”している点にも注目する必要がある。 次に、科学技術イノベーション政策の推進にあたり、政策対象とする重要課

題をどのように認識し選定すべきか、という本調査の第二の目的に照らしてみ

ると、まず Futur の経験からは、国の政策として社会の課題を検討する際の、

コスト、労力、専門家以外の参加の効果と課題等を論点として見出すことがで

きる。また、BMBF-Foresight 2007-2009 を受けた施策の結果が、判断基準と

して適用した社会の課題にどの程度貢献したかについて、今後注視していく必

要がある。

訪問調査時の面会者の次の発言には、国による科学技術イノベーション政策

推進における“Foresight”活動の重要性が示されている。 “Foresight”を実施するのは、自分たちが何を知っているのかを認識する

ため(to know what we know)である。2007 年に BMBF-Foresight に開

始した段階では、「自分たちは何が問題かについて全部分かっている」と活

動に理解を示さなかった人も、2009 年の段階では意義を理解してもらえる

ようになった。

これは具体的な経験をより多くの人々を巻き込んで積み重ねていくことが必

要であることを示唆している。また、より多くの人々を巻き込むには、ワーク

ショップなど、定性的な方法を採ることが必要であると面会者は指摘している。 次期の BMBF-Foresight は再び需要側からのアプローチが取り入れられる予

定とされており、この動きも今後注視していく必要がある。

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(参考)事前に送付した質問票

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3.欧州委員会

3.1 基本データ

調査対象機関:欧州委員会 研究・イノベーション総局内担当 European Commission, Directorate General for Research & Innovation

( http://ec.europa.eu/research/social-sciences/forward-looking_en.html ) 訪問調査概要:

日時:2012 年 3 月 9 日 面会者:Domenico Rossetti di Valdalbero, PhD.

Principal Administrator, Social Science and Humanities John Claxton,

Deputy Head of Unit, International cooperation policy 訪問者:嶋田一義 JST CRDS フェロー 前田知子 JST CRDS フェロー

同行者:仙波秀志 欧州連合日本政府代表部 参事官 荒川敦史 科学技術振興機構(JST)パリ事務所 所長

3.2 活動の目的及び経緯

欧州委員会では“Foresight”活動を、欧州と世界が極めて困難な問題に直面

している中、問題と予測される回答を特定し、オルタナティブな政策の選択肢

を開発し議論するために不可欠なツールである、としている17。“Foresight”活

動の対象は科学技術の発展だけに限定しておらず、政治や産業、さらに消費や

所有についての価値観等も対象にしている18。 欧州委員会の“Foresight”活動の背景には、長期的な視点と計画を持つとい

う伝統があるとしている。最初の“Foresight”活動は、1997 年に欧州委員会内

の Forward Studies Unit が“The Scenarios Europe 2010”の検討に着手し、

欧州の5つの可能性のある将来像を描いたものである。 欧州委員会では“Foresight”活動を Forward Looking Activities と呼び、関

連の活動をコラム5に示すように定義し整理している。

17 The 4th International Conference on Foresight, NISTEP (2011 年 3 月 8-9 日) 発表資

料による。 18 訪問調査時には、「車はその寿命のうち 97%はガレージにあって動いていない。所有概

念はどう変わっていくか」「欧州はイスラム教の国に囲まれており、これらの国の人口は

増加している。こうした中、2030 年に何が起こりうるか」といった例があげられていた。

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第Ⅱ部

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(1)公募型によるもの

公募型による Forward Looking Activities は、FP7 の Cooperation programの一つである The Socio-economic Sciences and Humanities(SSH)の8つの

領域19のうちの一つとして実施されている。毎年テーマを示して公募される。 公募型のテーマは、次の関係者の意向や助言を踏まえ、欧州連合(EU)にと

って新しいテーマか、EU の政策に関係するものであるか等によって決定される。 ・ワークショップの開催などを通じて得たステーク・ホルダーの意向 ・研究・イノベーション総局の中の意向 ・外部の専門家アドバイザリグループの助言 ・加盟国が参加するプログラム委員会での意見

2012 年のテーマは Post Carbon Society となる見込みであり、6 月末から 7月上旬にかけて公募がある予定としている。

公募型でこれまでに実施されたものを表120に示す。 表1に見られるように、欧州地域の社会を展望するもの、科学技術と社会の

関わりついての問題を取り上げたもの、研究評価の方法に関するもの、

“Foresight”の手法に関するものなど様々なものが採択されてきた。また、実

施期間は概ね 2 年から 3 年、欧州委員会からの資金提供は大きいもので 1 件に

つき約 250 万ユーロ(約 2 億 5000 万円)である。Foresight activities の予算

は、FP7 全体の 7 年間の予算約 6 億ユーロのうち、4~5000 万ユーロとなって

いる。

19 8つの領域は次のとおり(http://cordis.europa.eu/fp7/ssh/about-ssh_en.html)

1. Growth, employment and competitiveness in a knowledge society 2. Combining economic, social and environmental objectives in a European perspective 3. Major trends in society and their implications 4. Europe in the world 5. The citizen in the European Union 6. Socio-economic and scientific indicators 7. Foresight activities 8. Strategic activities

20 European Forward Looking Activities: EU Research in Foresight and Forecast(2010)による

http://ec.europa.eu/research/social-sciences/pdf/eu-forward-looking-activities_en.pdf

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表1 公募型による

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第Ⅱ部

欧州委員会

表2 Expert Group による Forward Looking Activities 略称 タイトル 実施期間 予算額

(千ユーロ)THE WORLD IN 2025 The World in 2025 1) 2008 年 1 月~

22 ヶ月間 500

GLOBAL EUROPE 2030/2050

The world and Europe up to 2030/2050-EU policies and research priorities 1)

2010 年 3 月~ 24 ヶ月間 500

EUROMED-2030 Forward looking in the long-term challenges for the Mediterranean area 1)

2010 年 1 月~ 12 ヶ月間 500

EFP European Foresight Platform –Supporting forward looking decision-making

2009 年 10 月~ 36 ヶ月間 720

ECPIST European consumer preferences in 2030- Implications for science and Technology 2)

2009 年 4 月~ 15 ヶ月間 274

MAPPING THE PAST Mapping the past in view of the future developments of the European Research Area- Analysis of public research institutes in Europe in selects S&T fields: historical evolution and future scenarios 2)

2009 年 4 月~ 14 ヶ月間

234

1) Expert Group によるもの 2) 研究・イノベーション総局内で実施するもの(EFP は Forward Looking Activities を支

援するためのもの。他の2件は調達による) (2)研究・イノベーション総局で実施されるもの

研究・イノベーション総局で実施されるものは、Expert Group によるものと

総局内で実施するものがある。 Expert Group によるものは、欧州委員会の中から提案されたテーマについて、

公募型のテーマと同様に関係者の意見を聞き、欧州全体でビジョンを共有する

必要があるもの選定して実施する。 これまで実施されたものを表 221に示す。このうち Expert Group によるもの

は3件で、研究・イノベーション総局 L2 が担当部局となっている。専門家によ

る会議には必ず、欧州委員会のスタッフも出席する。テーマはいずれも、グロ

ーバル化の進展など欧州を取り巻く状況を踏まえて想定される将来像を示すこ

とによって、加盟国の政策担当者の問題意識を高め、共有するための内容とな

っている。

21 同上

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********* コラム6 THE WORLD IN 2025 ********* Rising Asia and Socio-ecological Transition

Expert Group による Forward Looking Activities の一つとして 2008 年 1 月から約

2年をかけて実施されたプロジェクトである。報告書のサブタイトルの“Rising Asia and Socio-ecological Transition”には、EU の将来を検討する上での問題意識が端的に

表われている。 当プロジェクトでは、国際的な状況を特徴づける傾向(trends)についての予測的分

析、今後数十年の変化の構図(tension)、そして欧州が貢献できるであろう変化

(transition)について 14 名の専門家が参加して検討され報告書に取りまとめられた。 Trends では、2025 年にはアジアの人口が世界の約 3 分の 2 を占め、経済面で欧州を凌

駕するだけでなく、現在の傾向が続けば科学技術の面でも米国や欧州の優位性が失われ

るとしている。また、Tension として、食料、水、原材料、エネルギーといった天然資

源をめぐる生産と消費に関するもの、経済的な相互依存性と文化的な差異に関するもの、

都市化の進展に関するものをあげた上で、紛争の発生、発展途上国での都市の崩壊、再

生可能エネルギーでのブレークスルーなど 10 の“ワイルドカード”を示している。そ

して主要な Transition の方向性として、多極化した世界の中でのガバナンス、新たな

普遍主義、欧州域の拡大とグローバル化、環境に配慮した生産モデル、新たな都市のあ

り方、アクティブ・エイジングをあげている。

******* コラム7 GLOBAL EUROPE 2030/2050 *******

Expert Group による Forward Looking Activities の一つとして 2010 年 1 月から約

2年をかけて実施されたプロジェクトであり、2030 年から 2050 年を対象として検討

され、2050 年の欧州社会についての次の3つのシナリオを作成した。 「誰も構わない(Nobody cares):現在の欧州統合のまま留まる」 「脅威の中の EU(EU under threats):分裂した欧州」 「EU ルネッサンス(EU renaissance):さらなる欧州統合」 シナリオ作成は多様な分野の 26 名の専門家の参加によって行われ、定性的な方法と

定量的な方法の双方を組み合わせることにより次の6つの主要な局面が検討された。3

つのシナリオではこれらがどのような状況にあるかが記述されている。 ・グローバルな人口動態と社会の変化 ・エネルギーと自然資源の安全性と効率性、環境と気候の変動 ・経済と技術的見通し ・地理的政治的要因とガバナンス:EU 周縁部の統合化とグローバルな視野での位置

付け

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第Ⅱ部

欧州委員会

・領土と流動性の力学 ・研究、教育、イノベーション 欧州での研究・イノベーション政策は、「誰も構わない(Nobody cares)」シナリオ

では国別のものに比べ限定的なものに留まる上に重複が多くなり、また「脅威の中の

EU(EU under threats)」では現在のレベルが維持できず規模的な優位性が持てなく

なるが、「EU ルネッサンス(EU renaissance)」シナリオでは研究・イノベーション政

策の改革が結び付くことによって、欧州と他の地域に強い経済と福利をもたらすことが

できる、としている。

***********************************

3.4 まとめ―本調査の調査目的に照らして

研究開発戦略の立案にあたり、政策対象とすべき社会の課題と最新の研究開

発動向という2つの側面を、どの段階においてどのような手法によって反映さ

せているのか、という本調査の第一の目的に照らしてみると、欧州委員会では、

Expert Group による“Foresight”活動を通じて、主として社会の課題の側に

ついての検討が行われていると言える。 また、FP7 の一部で“Foresight”活動へ競争的資金が提供されていることは、

欧州における当活動の広がりを表しているといえよう。FP7 による“Foresight”活動への参加者は、本調査の調査対象とした英国、ドイツの他に、フランス、

イタリア、オーストリア、オランダ、ベルギー、スペイン、フィンランド、ハ

ンガリー等に広がっている。European Foresight Monitoring Network(コラ

ム 2参照)やEuropean Foresight Platform(表 2照)のような形での“Foresight”活動への支援は欧州委員会の利点を活かした取り組みと言えよう。

科学技術イノベーション政策の推進にあたり、政策対象とする重要課題をど

のように認識し選定すべきか、という本調査の第二の目的に照らしてみると、

Expert Group による“Foresight”活動は、欧州委員会の研究・イノベーショ

ン総局という科学技術イノベーション政策を推進する行政組織によって主導さ

れる重要課題の検討事例として参考になると考えられる。

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(参考)事前に送付した質問票

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第Ⅱ部

欧州委員会

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4.OECD

4.1 基本データ

調査対象:経済協力開発機構(OECD)Secretariat Advisory Unit to the Secretary General International Foresight Programme

(http://www.oecd.org/department/0,3355,en_2649_33707_1_1_1_1_1,00.html) 訪問調査概要:

日時:2012 年 3 月 8 日 面会者:Barrie Stevens, Head, OECD International Futures Programme,

Directorate for Science, Technology and Industry 訪問者:嶋田一義 JST CRDS フェロー 前田知子 JST CRDS フェロー

中村亮二 JST CRDS フェロー 同行者:庄崎未果 OECD Global Science Forum, Project Administrator

荒川敦史 科学技術振興機構(JST)パリ事務所 所長

4.2 活動の目的及び経緯

OECD では、事務総長(Secretary-General)や機関内部、加盟国の意思決定

者に向け、新たな問題について警告することを目的に“Foresight”活動を実施

している。 OECD における“Foresight”活動の歴史は古く、ローマクラブによるレポー

ト22に刺激を受け、20~30 年先を見据えた 4 年間のプロジェクトを実施したの

が最初である。この活動は、報告書「Facing the Future」(1979 年)に取りま

とめられ公開された。 International Futures Programme(IFP)が開始されたのは、1990 年であ

る。ミーティングを開催するだけでは深い洞察が得られない、と会議で取り上

げられる議題に対するより深い分析を要望する声が加盟国からあったことを受

け、OECD 内部で長期的視点に立って「今何が必要か」を示すための活動とし

て開始された。OECD の委員会は全会一致が条件なので、ある課題について先々

まで考えを進めておくことが必要であるためである。

22 『成長の限界―ローマクラブ「人類の危機」レポート』(日本語訳 1972 年)。ローマク

ラブは 1970 年にスイス法人として設立された民間組織。

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第Ⅱ部

OECD

4.3 International Futures Programme

International Futures Programme(IFP)は、OECD 内の幹部と加盟国の専

門家を巻き込んだプロジェクトの形で実施されている。 (1)テーマ選定方法

IFP のテーマは、IFP の担当者が、10 年から 15 年先を見て、自分たちの問

題意識の中から発案(initiation)し、OECD 内で決定される。 テーマ設定の基準は次の通りとしている。

1) 将来を展望するものであること (ただし、“将来”が何年ていどであるかはテーマによって異なる)

2) まだ取り上げたことのないものであること 3) 組織をまたいだ活動が必要なこと

これまでに実施された IFP のプロジェクトには次のようなものがある。 • Infrastructures to 2030 • Risk Management Reviews • Space Economy (Space 2030) • The Bioeconomy to 2030 • The Future of International Migration to OECD Countries • The Family in 2030 • The Future Global Stocks • Transcontinental Infrastructure Needs

2013-2014 のプロジェクトとして、Ocean Economy が準備中である。海を中

心とした産業は様々なものがあり、今後世界人口を養っていくために大きな挑

戦課題の一つとして認識されている。 (2)検討スケジュール

1つのプロジェクトに全体で4年程度をかけており、概ね次のようなスケジ

ュールで実施される。 まず、プロジェクトのテーマの発案(initiation)を OECD として行い、加盟

国から政府関係者や専門家を招待して Scoping meeting を開催する。この段階

から多くの専門家を巻き込んでいく Scoping meeting では、IFP の担当者が描

いたラフなスケッチを基に議論する。加盟国はテーマを国に持ち帰り、必要に

応じてさらに適任な専門家を特定し、次のステップである Steering Group の会

合に派遣する。

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Scoping meeting から 3 カ月程度の間に、OECD 内での決裁や予算確保を行

い、続けて Steering Group を立ち上げる。Steering Group は 12~18 か月程度

活動し、この間に 3~4 回の会合を開く。検討結果を取りまとめた報告書を発行

した後、約 1 年間かけて加盟国に適用していくためのワークショップや会議を

開催する。こうしたフォローアップのための期間に、約 1 年間をかける。加盟

国の事情をレビューし、その結果に合わせた実施プランを作ることもある (3)検討体制

プロジェクト運営のイニシアティブは、IFP の担当者23がとる。 IFP のスタッフ数は現在 3~5 人であるが、プロジェクトの数や大きさによっ

て変わり、13~14 人の頃もあった。概ね 2~3 プロジェクトを並行して運営し

ている。プロジェクト数はその時々の状況によるが、同時並行で運営できるの

は 4~5 が限度である。 予算額は、その時々の経済状態などにもよるが、1プロジェクト当たり約 20

万ユーロ/年(2000 万円/年)が目安となっている。内訳は 6 割が OECD 予

算、3 割は企業から、1 割は研究所等からの負担である。Bioeconomy to 2030は大きなプロジェクトで、予算額は約 80 万ユーロ/年(8000 万円/年)だっ

た。 プロジェクトに参加する専門家は、政府機関や企業等との組織的なつながり

を利用して適切な人をアサインする。 プロジェクトが終わると Steering Group は原則として解散し、参加していた

専門家との直接の関係性はなくなるが、長年にわたって様々なテーマのプロジ

ェクトを運営していると、OECD の IFP に興味を持つ個人や組織との継続的な

関係性が形成されてくる。IFP の検討体制は、こうしたネットワークを利用し

たものとなっている。

23 IFP の担当者は、Secretary General に直接、将来に対する視点(Forward-View)をレ

ポートすることを任務としている。

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第Ⅱ部

OECD

******** コラム8 The Family in 2030 ******** (International Futures Programme(IFP)の例)

次の 20 年間の家族構成の変化の方向について検討し、カギとなる政策領域に対する

含意を得ることを目的に、2009 年に開始されたプロジェクトであり、2012 年初頭に報

告書が取りまとめられた。 検討体制としては、OECD の IFP 担当者 5 名が企画と運営を担当し、加盟国の教育、

家族、経済、社会、地方自治などを担当する省庁から 20 名が Steering Group に参画

した。OECD 内部からは、雇用・労働・社会問題、教育の担当部局からの支援を得た。

また、プロジェクトに招聘された専門家あるいはオブザーバは、参加国の大学、研究機

関、政府機関等から約 30 名となっている。米国の Russell Sage 財団*からも資金援助

やアドバイスを受けた。 *1907 年に米国の社会と生活の状況を改善することを目的に設立。当初は低所得者の住宅供

給や都市計画に関する事業を実施。現在は、社会的課題を診断し、社会政策を改善するた

めの社会科学の研究を強化することを使命としている。

1960 年代以降、OECD 加盟国における家族の変容―大家族が減り、夫婦と子供とい

う伝統的な家族が離婚率の増加とともに減り、単身の親や同性婚も増え、移民の増加に

よって文化と価値観が多様なものになり、働く母親が増え、思春期の子供の教育期間が

長くなり、長寿命化が進み、かつ一人暮らしが増えている―これらは、年金、健康、介

護、労働市場、教育などを対象としたこれまでの公共政策に問題を投げかけている。 当プロジェクトでは、このような家族構成の変化が、OECD 加盟国で今後 20 年間に

どう変わるのかを予測した上で、2つのシナリオを作成し、政策策定者にどのような問

題を突き付けるのかについて検討された。

2025 年~2030 年の予測は、家族構成については、単身世帯、単親の家庭、子供のい

ない家族が増加し、人口構成では高齢者率は増加するが、出生率はわずかに回復すると

している。また人口に占める外国生まれの割合が 15%から 30%に増加し、都市化も早

い速度で進展するとしている。医療技術の進歩によって平均余命が延び、ICT の活用に

よるテレワークも浸透する。経済予測については不確実性が高いが、政策に大きな変化

がなければ OECD 加盟国の経済成長は健全だが緩やかなものとしている。だが高齢化

と退職者の増加がネガティブな要因となる。 シナリオ作成の軸は、経済成長の安定性が高いか低いか、人間主体の科学技術イノベ

ーションの適用が早いか遅いか、の2軸を設定し、次の 20 年の家族をめぐる状況につ

いて、“Golden Age”と“Back to Basic” の2つのシナリオを作成した。Golden Age は

経済が安定的に成長し技術の適用が早い場合、Back to Basic は経済の安定性が低く技

術の適用も遅い場合である。 家族の状況に関する長期的な予測とこれらのシナリオを踏まえ、健康、介護、年金な

どの社会福祉、教育、科学技術等に関する公的資金の投入を、より効果的なものにして

いく必要があるとしている。

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Golden Age 経済は緩やかに成長し、公的投資に対する圧力は強まるが、福祉に対す支出は減り、

社会的不平等は大きくなり、家族に対するストレスも大きくなる社会である。科学技術

に主導される産業への投資が増加することによって経済は回復するが、技術の進歩が生

産年齢の延長を可能にする一方で、寿命が延びることで年金生活者も増える。健康維持

や教育への政府による支援は、個人の自立を促すものを対象とし、人の潜在的な能力を

拡張する科学技術に公的な資金が投入される。女性の労働力市場への進出が進み、若者

の就業年齢は上がるが雇用も増加する。ICT を利用した生活や仕事も増加する。伝統的

な家族によるケアがなくなった分、公的なセクターによる対応が必要になるが、質の向

上には民間セクターが活用される。新しい家族の形が出現し、ひとり人のライフサイク

ルの中でも家族の形は変化する。

Back to Basic 経済面ではでは失業率とインフレ率が高く、利益の出ない低コストの技術は延びるが、

高度で高コストの技術は実用化に苦戦する。社会的な信頼感も低くなる中で、個人は原

初的なニーズに対する責任を負わなくてはならなくなるため、伝統的な家族の重要性が

再び高くなる。移民の流入は減るが、人口に占める割合は増加する。経済状況が安定し

ていないため、公的セクターの予算は大きくカットされ、ボランティアやチャリティー

による支援が増える。女性の労働力市場への進出は期待されていたより低く、家庭内で

の子育てや介護などを担う伝統的な形に戻り、家族の結束は強まる。貧しい家庭は平均

寿命も出生率も低くなる。結婚年齢は高くなるが、単身の親の割合や離婚率は変わらな

い。複数の働き手がいる収入のある家族だけが、家族を子育てや介護などのサービスを

買うことができる。

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第Ⅱ部

OECD

4.4 まとめ―本調査の調査目的に照らして

研究開発戦略の立案にあたり、政策対象とすべき社会の課題と最新の研究開

発動向という2つの側面を、どの段階においてどのような手法によって反映さ

せているのか、という本調査の第一の目的に照らしてみると、OECD における

IFP は、テーマによっては研究開発動向を取り込みつつも、基本的には社会の

課題の側についての検討を行っていると言うことができる。

また、加盟国に先んじて“Foresight”活動のテーマを取り上げることができ

るのは、OECD の利点である。IFP について面会者は、「各国の政府は直近のこ

とにもっとも注意を払っており、比較的短い時間軸でしか将来を展望できない

が、OECD 諸国ではより先を見た政策立案が求められている。IFP は、より長

い時間軸で将来を展望し、今から取るべきアクションを明らかにすることを目

的としている」と述べている。科学技術イノベーション政策の推進にあたり、

政策対象とする重要課題をどのように認識し選定すべきか、という本調査の第

二の目的に照らしてみると、国による科学技術イノベーション政策における、

国を超えたグローバルな視点からの長期的展望の必要性を示唆していると言え

よう。

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(参考)事前に送付した質問票

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第Ⅱ部

OECD

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付 録: “Foresight”の手法について

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Foresight Diamond(コラム2)に示された 33 の“Foresight”の手法に関

する概要を以下に示す。(参考資料:Luke Georghiou 他編 “The Handbook of Technology Foresight”,2008) 1.Backcasting

– 想定される未来から現在へとさかのぼる形で、未来に至る道筋を

設定するアプローチ(simulation modeling を含むこともある) – 望ましい未来の実現に必要な政策や戦略の特定を目的に使われる – 2.Brainstorming のセッションで行われる – 32.Roadmapping はより精緻化されたもの

2.Brainstorming – クリエイティブでインタラクティブな方法であり、グループワー

クのセッションで face-to-face でも online でも行われる – 特定領域の関心事項について、新しいアイディアを得ることを目

的とする 3.Citizens Panels

– 地方もしくは国の政府の問題に関し視点を提供する市民のグルー

プ – メンバは問題について深く理解しているので、通常の意識調査に

とどまらないものがある。情報を持った市民の視点を意思決定過

程に反映させる方法となりうる。 4.Conference/Workshop

– 2~3時間から2~3日に及ぶイベントで、ある特定の主題について

の発表と議論を組み合わせた構成になっている。参加者はある特定の

役割を持たされることがある。ネットワーク作り、知識の交換、合意

形成を目的とする。

5.Essay/Scenario writing – データ、事実、仮説に基づく将来のイベントについての説明 – 主要な目的は、a)特定の決定、戦略、政策の実施の結果として生じ

る将来の状況を描出する、b)これらの未来について勧告する – 2.Brainstorming のセッション、18.SWOT、27.Delphi、6.Expert

Panels など他の方法による結果を利用する 6.Expert Panels

– ある与えられた関心領域について持っている知識を、分析・結合

する役目を担った人々のグループ

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– ネットワークの形成と強化、戦略的知性の創成、検討結果の支持

者への拡大、青写真、白書、出版物、宣言、インタビュー等によ

る結果の発信、優先順位付けとフォローアップ活動の設計などが

行われる – 議論と 2.Brainstorming が良く使われる方法

7.Genius Forecasting 専門性と創造性を併せ持ち、尊敬を集めている個人によって行われる

活動。特定された領域に関する卓越した専門家、科学者もしくは権威

による、洞察に基づく予測など 8.Interviews

– 「構造化された会話」と言われ、社会科学では基本的な本法 – 幅広いインタビューの受け手から知識を集めるツールとして使わ

れる。 – インタビューで得られる知識は、まだ言語化されていない、暗黙

知である場合もある。9.Literature Review によるものに比べ、専

門家同士の議論の中で出るような知識。 9.Literature Review

– 13.Scanning(13)のプロセスで重要な役割を果たす – 取り上げているトピックの専門家が、その分野の既存の知識を使

いながら、重要な成果を見出し、そのトピックに対する含意を組

み上げていく 10.Morphological Analysis

– 11.Relevance Trees や soft-system アプローチに近く、複雑な問題

解決や変化のマネジメントを支援する – 計画づくりやシナリオ作成に利用されうる (いろいろなレベルでの、“問題と解決策の組み合わせを考えていく”

という単位アクションを指しているようだ) 11.Relevance Trees/Logic Charts

– 研究トピックへのアプローチを階層的に行う方法 – 主題に関する一般的な表現から開始し、各要素の相互依存性を特

に検証しながら、構成要素へと順次分解していく 12.Role Play/Acting

– 熟慮、想像上の相互作用、創造性を必要とする。 – 「もし自分が人物 X であれば問題 Y にどう対処するか?」「もし自

分たちが国 X であれば問題 Y に対する立場は?」を検討する。

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– 9.Literature Review、8.Interviews などによる分析結果が提供さ

れることもある 13.Scannning(しばしば environmental scanning と言われる)

– 関係するアクター(国、産業、組織等)を、技術的、社会文化的、

政治的、生態学的、経済的な文脈から観察、調査、モニタリング

し体系的に記述する – 9.Literature Review、18.SWOT、Web 検索、21.Bibliometrics、

24.Patent Analysis などから得た情報によって補強される。 14.Scenario/Scenario Workshop

– シナリオ―ある問題についてのありうる未来の状態に関する体系

的で一貫した視点―の作成と利用 – 数個の特徴づけるパラメタを持つ

これらは、デスクワーク、ワークショップ、あるいはコンピュ

ータモデリングのようなツールによって作られる。 – ワーキンググループがオルタナティブは未来について考える役割

を持つことが通常行われる。 (a)特定の分野についての専門家の視点、(b)特定のコミュニテ

ィ、組織、地域を代表する人々のグループの視点 を示すシナリ

オを作成する。 15. Science Fictioning

– まだ実現していないイベントが未来に起こると仮定した物語を取

扱う活動。 – 虚構の物語であるため、通常は政府や産業の政策形成には結びつ

けられないが、報告書の Scenario が未来の世界を SF 的に書くこ

とはよくある 16.Simulation Gaming

– 予測や計画の方法の中で最も古いものの一つ – 軍事戦略で戦争ゲームが長い間使われてきた – 12.Role Play の一形態 – 可能性を理解し探索するために用いられる

• アクションプランや協力関係の提案 • 32.Roadmap を作成する材料の提供

– ゲーム理論のような科学的なアプローチも適用される 17.Surveys

– 社会研究では基本的な方法。foresight では広く使われる – 調査票はオンラインで配布され、回答者は大勢の中から選ばれる

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欧州における“Foresight”活動に関する調査-CRDS 研究開発戦略の立案プロセスに活かすために-

CRDS-FY2012-OR-02 独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター

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– ほとんどは選択式の調査であるが、キーとなる技術のブレークス

ルーや社会・経済的なドライバーを聞くなど、定性的な解等を求

めることもある 18.SWOT analysis

– 組織や地政学的な単位の内部的な因子(資源、能力)をまず特定

し、それらを、強み(S)と弱み(W)に分類する方法。同様に、外的

な因子を機会(o)と脅威(T)に割り当てていく 戦略作りと意思決定のツールとして広く使われている

19.Weak Signals/Wild Cards – 専門知識を結びつけ、データを検証し、創造的な思考ができる高

度に訓練された小さなグループで行われる分析 – Weak Signal の探索は、13.Scannning の一部で実施される

• 今は強い影響はなくとも将来のイベントの引き金になりう

ることを同定することを含む。Future Study でもっともチ

ャレンジングなものの一つ。Wild Card の同定に結び付く – Wild Card は、起きる確率は低いが、高いインパクトのある予期

しないイベントを言う。(例として 9.11) • 2.Brainstorming、15.Science Fictioning、7.Genius

Forecasting が使われる 20.Benchmarking

– マーケティングやビジネス戦略でよく使われてきた方法で、最近

では政府や政府内の戦略的な意思決定過程でも使われるようにな

った – 共通の指標によって、例えば主要なセクターの研究能力、産業の

市場の大きさ、技術開発の潜在力、人材力などの項目を比較する 21.Bibliometrics

– 出版物の定量的で統計的な分析に基づく方法。 – 大規模のテキストデータベースから、フレーズの出現頻度や近接

度を抽出するアルゴリズムの開発や、分析の専門家の通訳的能力

が必要 22.Indicators/Time Series Analysis(TSA)

– Indicator は一般に統計データを用いる • GDP や労働コストなど経済的なもの、識字率や乳児死亡率

などの社会的なもの、ガス排出など環境関連のもの、研究

費や研究人材、出版など科学的に関するもの、特許や発明、

イノベーションなど技術に関するもの等

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– TSA:連続的に一定期間ごとに測定した一連のデータを分析する 23. Modeling

– 一般に、コンピュータによるモデルを使い、特定の変数から求め

られる値と相互に関連付けられる • 単純なモデルは、2-3 の変数、より複雑なモデルででは、

数百、数千あるいはそれ以上の変数が使われる • 経済モデルは経済の政策決定に利用される

24.Patent Analysis – 21.Bibliometrics と似ているが出版物ではなく特許を使う。技術に

ついての戦略的な知見を与え、顕示的な競争優位性を示すために

使われる。 – 定量的な分析では、特許登録数の増減を技術開発の潜在力の高低

を示すという仮定の下に見るため、統計的手法を使う。 – 定性的な分析では、特許の内容に注目することがある。

25.Trend Extrapolation/Impact Analysis – 予測の手法の中では、最も確立された方法。過去と現在から、未

来を過去からの継続であるという仮定のもとに示す。 (S カーブなどに合わせようとする)

– Impact Analysis では、主要な傾向やイベントの潜在的なインパク

トを、可能性、頻度、強さ、期待される結果などによって表現 26.Cross-impact/Structural Analysis (SA)

– 変数間の関係を通じてシステム的に捉えようとする試み – SA では、変数が関心のあるシステムを理解するように定義され、

専門家による判断が、変数間の影響の検討に使われる。マトリッ

クスを作り、セルで変数間の効果を表す – Cross-impact は、専門家のグループが、システム内部のトレンド

間、ステークホルダー間、対象間の相互作用について、何を考え

ているかを検討するのに使われる 27.Delphi

– 先行した投票の匿名の結果をフィードバックし、同じ個人に繰り

返し投票してもらうという定着した方法 – 成果は勧告、アクションプラン、Roadmap (32)などに使われる

28.Key/Critical Technology – 特定の産業部門、国、地域においてカギとなる技術リストの作成

を含む方法 – 6.Expert Panel や 17.Survey によって実施される

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– 優先付けのプロセスである33.Voting、29.Multi-criteria Analysis、26.Cross-impact などを含む

29.Multi-criteria Analysis – 優先付けと決定支援の手法 – 複雑な状況や問題に対応するために開発された – ある特定の介入による効果を比較評価するための、多数の基準が

ある 30.Poling/Voting

– 調査対象者の、特定のトピックについての意見の強さを評価する

ために使う調査方法 – ワークショップの後半で、さらなる分析や政策のために優先度を

計測する方法としてしばしば用いられる 31. Quantitative Scenario/SMIC

– 様々な形がある。一つはシナリオをもたらす不確実性の定量化を

含むもの。調査の分析から推定するものもある – 大きなマトリックスを使う複雑なもの(26.cross-impact)もあり

うる 32.Roadmapping

– ある分野の技術の未来を概観するもので、技術を開発するタイム

ラインを作成する。規制や市場構造を含む(こともある) – ハイテク産業で広く使われている。コミュニケーション、意見交

換、共有されたビジョン形成のツールとして – グループワークとデスクワークを組み合わせて実施。取り上げた

領域についての深い知識を持つ人からのインプットを必要とする 33.Stakeholder Analysis/MACTOR

– 種々のステーク・ホルダーの関心や強みや、あるシステムの中で

のキーとなる対象を特定するために用いられる – ビジネスや政治においてきわめてよく見られる方法。 – ステーク・ホルダーが、特定の対象に対し好意的か反対かを体系

的に考慮し、正式に分析できるようにマトリックスによって状況

を整理する。 • これらの情報は、scenario 作成、戦略的行動の計画、ステ

ーク・ホルダーの戦略を決定するために使われる。

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■作成メンバー■

前田 知子 フェロー(政策ユニット、社会的期待に関する横断グループ)

嶋田 一義 フェロー(電子情報通信ユニット、同上)

中村 亮二 フェロー(環境・エネルギーユニット、同上)

CRDS-FY2012-OR-02

独立行政法人科学技術振興機構研究開発戦略センター

調査報告書

「欧州における“Foresight”活動

-CRDS研究開発戦略立案プロセスに活かすために―」

平成 24 年 8 月 August 2012 独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター

Policy Unit, Center for Research and Development Strategy

Japan Science and Technology Agency

〒102-0084 東京都千代田区五番町7 K’s 五番町 10F

電 話 03-5214-7481

ファックス 03-5214-7385

http://crds.jst.go.jp/

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