セラミックス材料学(亀川厚則)
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第3章 結晶構造!3"1.空間格子!結晶では、原子やイオンあるいは分子などが、何らかの化学結合によって周期的に規則正しく三次元
配列をしている。したがって、結晶全体の原子などの配列を知るには、最小の体積内において、原子などがどのように規則的に配しているかを調べるとよい。これがわかれば、周期的な繰り返しを行うことによって結晶の全体像がつかめる。このためにまず、ある単位の平行六面体〔単位胞#$%&'!()**+または単位抜子($%&'! *,''&())という〕を考え、もとの立体の各後の方向へ上記の平行六面体の各稜の単位長さの整数倍だけ平行移動(並進という)させる。このことによって立体の周期的な積み重ねを行ったことになり、全体を描いたことになる。空間での並進操作#平行移動+は次式で示される。!
! " #$ % &' % () (#* &* (は整数)!$* '* )は平行六面体の三つの稜の長さに相当する大きさをもつ単位ベクトルで、#* &* (は - を含む正、負の整数である。この式で示される!は、原点を起点として積み重ねられた平行六面体の、ある#頂+点までの位置ベクトルである。このような点を格子点#*,''&()!./&%'+という。すなわち、この式の計算によって結晶中のすべての格子点を表すことができる。このような格子点の周期的三次元配列を空間格子#0.,()!
*,''&()+とよんでいる。!単位格子は、上記のように最小の体積をもつ単位平行六面体であり、その三つの稜の長さ "#! $#! % と、
それらの稜のなす角 &#!'#!(によって決まる。これら "#!$#!%#!&#!'#!(を格子定数#*,''&()!(/%0',%'+という。このようにしてできる空間格子は、"#! $#! % や単位格子のとり方によって無数にあるように思えるが、実際には、空間格子の対称性などの制限があるので、格子の種類は図 123 に示す 34 種題に限られることが 56!
78,9,&0によって示されている。!図 123に示したように、34のブラベ-格子の形は七つの結晶系に分けて考えることができる6これら七
つの系に対する単位格子の軸と角についての制限をまとめると表 123のようになる。また、単位格子の中で、格子の頂点にのみ格子占をもつ場合(:)、格子の内部にさらに格子点がある場合(;)、面内に格子!占のある場合(<)、底面部に格子点のある場合(=)など、同一の系の中でも格子点の配置の仕方でいくつもの種類ができる。!
表 123 7つの結晶系(晶系)!結晶系! #(8>0',*!0>0')?+! ! 軸の長さ、なす角! ! 格子点の配置! !
立方晶! #($@&(+! ! ,A@A(B!CADAEAF-G! ! :B!;B!<!
正方晶! #')'8,H/%,*+! ! ,A@I(B!CADAEAF-G! ! :B!=!
直方晶! #/8'J/8J/?@&(+! ! ,I@I(B!CADAEAF-G! ! :B!;B!<B!=!
菱面体! #8J/?@/J)K8,*+! ! ,A@A(B!CADAEALF-G! ! :!
六方晶! #J)M,H/%,*+! ! ,A@I(BCADA!F-GEA3N-G! ! :!
単斜晶! #?/%/(*&%&(+! ! ,I@I(B!CAEAF-GID! ! :B!=!
三斜晶! #'8&(*&%&(+! ! ,I@I(B!CIDIEIF-G! ! :!
!
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P (Primitive) BB (Base-centered) II (Innenzentrierte) FF (Face-centered)
立方晶
Cubic
正方晶
tetragona
六方晶
hexagonal
菱面体晶
rhombohedral
直方晶
orthorhombic
単斜晶
monoclinic
三斜晶
triclinic
図 123 ブラベー格子
3-2.結晶構造!結晶を構成する原子、イオンあるいは分子は三次元の周期性をもって配列し、空間格子(0.,()!*,''&()0)
を形成している。結晶内の原子配列をその対称性に着目して分類すると、N1- 種の空間群に分類される。!
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希ガス元素などの単原子からなる結晶や金属結晶のように球対称の原子が方向性をもたずに結合している結晶は、面心立方構造!(<==O!P,()2()%')8)K!($@&((立方最密構造))あるいは六方最密構造(Q=:O!J)M,H/%,*! (*/0)!.,(R)K(をとるものが多く、体心立方構造#7==O!@/K>2()%')8)K! ($@&(+がこれに次ぐ化学式5S#5は金属元素#陽イオン+、S!は非金属元素#陰イオン++で示されるイオン結晶では、陽イオンの周囲に配位する陰イオンの数が 4B! TB! U と増加するにしたがって、イオン結合性も増加する。5SN型の構造でも5Sと同様に、この順序でイオン結合性も増加する。また価数または配位数の異なる N種類の陽イオン#5および 7+を含む複合化合物には、57S1型のペロブスカイト型B!57NS4型のスピネル型がある。このほか、上述した構造を含めた代表的な無機化合物の結晶構造を表 12Nに示す。!
表 12N 無機化合物の主な結晶構造!
構成比*!陽イオンの配位数! 構造! 化合物!
5OSA3O3!
1! グラファイト類似構造! J27VB!=#グラファイト+!
4!せん亜鉛鉱型構造! '"W%XB!'"X&=B!5H;B!(27VB!=!#ダイヤモンド+! !ウルツ鉱型! &"W%B!&"X&=B!7)YB!W%YB!5*V!
T!岩塩型! V,=*B!Z&<B![=*B!5H=*B!\HYB!=,YB!X8YB!7,YB!]&=B!
\%YB!<)YB!=/YB!V&YB!]&YB!=KXB!=KX)!ヒ化ニッケル型! V&50B!<)XB!=8X!
U! 塩化セシウム型! =078B!=0;B!]*=*B!]*78B!VQ4=*!
5OSA3ON!
4! 高温クリストバル石型! X&YN!
T!ヨウ化カドミウム型! =K;NB! <);NB! ]&=*NB! =,#YQ+NB! \H#YQ+NB! <)#YQ+NB!
\%#YQ+N!
ルチル型! ]&YNB!^YNB!'"\%YNB!_$YNB!=0YNB!;8YNB!`)YNB!=$YNB!:@YNB!5HYN!
U! 蛍石型! X8<NB!7,<NB!]JYNB!aYNB!W8YNB!=)YNB!QPYN!5OSANO1! T! コランダム型! &"53NY1B!=8NY1B!&"<)NY1!
5O7OSA3ONO4! 5A4B!7AT! スピネル型! =/5*NY4BB! \H53NY4B! <)53NY4B! <)1Y4B! <)=8NY4B!\H<)NY4B!W%<)NY4!
5O7OSA3O3O1!5A3NB!7AT! ペロブスカイト型! =,]&Y1B! 7,]&Y1B! X8]&Y1B! :@]&Y1B! X8X%Y1B! X8W8YNB!
:@W8Y1!5ATB!7AT! イルメナイト型! \H]&Y1B!<)]&Y1!
5O7OSA3O3O4! 5AUB!7AU! シーライト型! =,bY4B!=,\/Y4B!X8bY4B!=)`)Y4!5O7OSANO3O4! 5AFB!7AT! [NV&<型! Z,X8=$Y4B!VKN=$Y4B!Z,N=$Y4B!Z,NV&Y4B!c7,N=$Y4!5O7OSANONOd! 5AUB!7AT! パイロクロア型! =KNV@NYdB!=,NX@NYdB!e>N]&NYdB!cN],NYd!5O7OSA3O3NO3F! 5A3NB!7A4BT! マグネトプランバイト型! 7,5*3NY3FB!7,<)3NY3FB!=,5*3NY3FB!:@=83NY3F!5O7OSA1OfO3N! 5AUB!7A4BT! ガーネット型! c1<)N5*1Y3NB!c1<)fY3NB!`K1<)fY3NB!c15*fY3N!
*5および 7は価数または配位数の異なる陽イオン、Sは陰イオンを表す。!
3-3.配位構造!イオン結晶の \HY は \HNgと YN-からなる。陽イオンと陰イオンは静電的引力(クーロン力)で結合
しており、結合力は距離のみの関数で方向性はない、一般に、陽イオンは陰イオンより小さい陽イオンは電子を放出しており、残った電子に対する原子核の有効核電荷が大きくなり、電子が強く引きつけられるためである。一方、陰イオンは電子を余分に取り込んでいるため大きくなる。したがって、イオン性結
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晶では大きな陰イオンの充填構造のあいだに陽イオンが配置した構造となりやすい。陽イオンのまわりにある陰イオンの配位数は、陽イオンh陰イオンの半径比とのあいだに一定の規則がある。!
ポポーーリリンンググのの第第一一法法則則 結晶内において各陽イオンのまわりに陰イオンの配位多面体((//8K&%,'&/%!
./*>J)K8/%)が形成される配位数((//8K&%,'&/%!%$?@)8)は陽イオン対陰イオンの半径の比で決まる。!#3+!陽イオンが周りの陰イオンのどれとも接する!#N+!最近接イオンの数(配位数)をできるだけ大きくする!#1+!陽イオンの周りの陰イオンは互いの反発を最小にするように配列する!
#3+~#1+!を満足するためには、陰イオンが密に充填したところへ、その電荷を補償するように、陽イオンがそのすき間に位置する必要がある。!図 12Nにイオン半径と配位数の関係を図示している。陽イオンが大きくなるほど、多くの陰イオンを
配位することが可能となり、配位数が大きい。このとき、半径比 -63ffB!-6NNfB!-6434B!-6d1Nは、それぞれ 1B!
4B!TB!U配位の陰イオンの隙間に接するように陽イオンが配置するときの理論値(限界イオン半径比)である。すなわち、陽イオンが陰イオンにちょうど接するか、すこし大きいとき構造は安定となる。!
半径比
0.155~0225
半径比
0.225~0.414
3配位!!
! 4配位!!
!
!
!
半径比 0.414~0.732
6配位! 半径比 0.732~1.000
8配位!図 12N イオン半径比と配位数!
ダイヤモンドは炭素の共有結合からなっている。共有結合では、共有電子対を形成する電子軌道の方向性が重要となる。0B! .B! K 軌道が関与した混成軌道の形によって配位構造が決まる。0.N混成軌道は平面三角形#3配位+、0.混成軌道は正四面体#4配位+、K20.N混成軌道は正八面体#6配位+を形成する。実際の化合物は共有結合性とイオン結合性をあわせもっており、イオン半径と共有結合の形で配位数が定まる、この場合、イオン半径から予想される配位数と電子軌道から予想される配位数が同じ構造が安定となる。
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たとえば、X&YNではイオン半径と電子軌道から4配位が予想され、安定である。一方、W%Y ではイオン半径から6配位が、電子軌道から4配位が予想され、この相違のため実際の4配位構造は安定性が低い。!
!
【限界半径比】!結晶格子中において陽イオンは陰イオ
ンに、陰イオンは陽イオンにそれぞれ取り囲まれた配位構造であるが、同じ電荷のイオン同士では反発力が働き、それらが互いに接触した状態は不安定である。そのため各結晶格子について同種電荷のイオン同士が接触しない限界半径比((8&'&(,*! 8,K&$0!
8,'&/)がある。!例えば、U配位の限界半径比を求めてみると、U配位を示す =0=*型結晶構造(後述)の単位胞を図
121にしめす。立方体の頂点には陰イオンが、中心には陽イオンが配置している。この#33-+面における関係について考える。この時、図 124に示すように陽イオンと陰イオンの限界半径比 -6d1dギリギリまでは安定であるが、それより小さな値となると構造が不安定になり、より低配位数(例えば T 配位)をとった方が安定となる。!
!図 124 U配位の限界半径比!
!
! !
(a)!単位胞 (b)! (110)面
図 121 U配位の =0=*型構造!
結晶内の電荷の総和は -で、陽電荷と陰電荷とが均等に分布している。クーロン力には、異種電荷間(陽イオンと陰イオン)に引力、同種電荷間(陽イオン同士、陰イオン同士)に斥力が働き、いずれも力の定数が同一で方向が反対なので、静電エネルギーの総和は数学的に正になる場合と負になる場合の確立は同じのはずだが、実際の結晶では著しく引力が勝る。配置となっている。これは、イオン結晶の場合、陽イオンのまわりに複数個の陰イオンが配位し、正負のイオンがよく混じり合っている。からである。それら陰イオンを頂点とする。多面体を考え、これを配位多面体と呼ぶ。どのような配位多面体が作られるかは、陽イオンと陰イオンとの相対的な大きさという幾何学的な因子によって支配される。後述するように、イオン半径の考えを用いれば、正四面体、正八面体、立方体など配位多面体を形成できるイオン半径比に制限があることが分かる。!
!"!!#
!" !"
!"
安定 不安定限界半径比! "#"$! % & ' ! ()*%*
陽イオン
陰イオン
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陽イオンと陰イオンの結合距離は、配位するイオンの数の増加に伴って増大する。これは結合の数が増加することにより、3本あたりの結合力が弱くてすむということで理解できる。イオン結晶では、正負の電荷が全体として打ち消し合って電気的中性条件が満たされなければならないのはもちとんではあるが、配位多面体においても局所的な電荷中和が通常成り立っている。そのことをポーリングは陽イオンの価数を配位数で割って得られる静電結合強度の和が、陰イオンの価数に等しいとき、その構造は安定化されると表現した。ポーリングの静電原子価則と呼ばれるものである。!
ポポーーリリンンググのの第第二二法法則則((静静電電原原子子価価則則)) 陽イオンから陰イオンに向かうイオン結合の結合強度(7/%K&%H!0'8)%H'J)を、陽イオンの形式電荷数配位数で割った商であると定義するとき、安定な結晶構造を持つには周囲の全ての陽イオンから任意の陰イオンに届く結合強度の和は陰イオンの電荷に等しくなっていなければならない。例えば、図 121のようなペロブスカイト構造を有する =,]&Y1について考える。陽イオンは2種あり、!
(]&4gの結合強度)=! #電荷数 4+!h!#配位数 T+!=! N!h!1!(=,Ngの結合強度)=! #電荷数 N+!h!#配位数 3N+!=! 3!h!T!
各酸素には N個の! ]&4gと 4個の =,Ngが配位しており、結合強度の和はNとなる。これは酸素イオンの電荷 N2に適合する。!
3-4.イオン(結合)結晶!陽イオンと陰イオンの交互配列によりイオン性結晶が形成される。構造を決定する因子は、陽イオ
ンと陰イオンの半径比に基づく配位数、ならびに化学組成である。組成が複雑になると結晶構造も複雑となる。ところで前節で触れたように、結晶内の電荷の総和は -で、陽電荷と陰電荷とが均等に分布している。クーロン力には、異種電荷間(陽イオンと陰イオン)に引力、同種電荷間(陽イオン同士、陰イオン同士)に斥力が働き、いずれも力の定数が同一で方向が反対なので、静電エネルギーの総和は数学的に正(+)になる場合と負(-)になる場合の確立は同じのはずだが、実際の結晶では著しく引力が勝る配置となっている。これはイオン結晶の場合、陽イオン(カチオン)のまわりに複数個の陰イオン(アニオン)が配位し、正負のイオンがよく混じり合っているからである。それら陰イオンを頂点とする多面体を考え、これを配位多面体と呼ぶ。どのような配位多面体が作られるかは、陽イオンと陰イオンとの相対的な大きさという幾何学的な因子によって支配される。前述したように、イオン半径の考えを用いれば、正四面体、正八面体、立方体など配位多面体を形成できるイオン半径比に制限があることが分かる。ここでは、基本的な配位数に基づくイオン性結晶の構造ついて説明する。!!"#$%&'#(%(のの結結晶晶構構造造#陽イオン(陽性原子)と陰イオン(陰性原子)の化学量論比が 3O3の化合物結晶には、主に塩化ナト
リウム(岩塩)型、塩化セシウム型、セン亜鉛鉱型、ウルツ鉱型、ヒ化ニッケル型などがあり、ほかの構造もあるがこれら5つの結晶構造から派生した構造と考えて良い。それらにおける構造の差異は、イオン半径比や結合に及ぼす共有性の効果の程度の差によって生ずると考えられる。!
!図 121!ペロブスカイト構造!
Ca Ti O
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①!セン亜鉛鉱型構造!'-W%Xの結晶構造である。'-X&=はこの
構造に分類される。図 124のように、陰イオンが立方最密充填で、その4配位空間の半分に陽イオンが配置した構造である。面心立方構造の角と面にある陰イオンで囲まれる4配位の位置は単位格子に U個あり、4個の陽イオンが交互に配列している。陽イオン、陰イオンとも同種の原子に置き換えると、ダイヤモンド構造となる。!
②!ウルツ鉱型構造!&-W%Xの結晶構造である。W%YB!5;VB!&-X&=はこの構造をとる。陰イオンが六方最密充填で、その4
配位空間の半分に陽イオンが充填している。W%Yは半導体、5*Vは絶縁基板などに応用されている。硫化亜鉛の場合、セン亜鉛鉱型が室温安定形で、ウルツ鉱型が高温安定形である。また、陽イオンによる陰イオンの分極の程度も大きくなり、共有結合性の寄与も大きいと考えられている。!
③!岩塩型構造(8/(R20,*'!'>.)!0'8$('$8))!V,=*の結晶構造である。それぞれのイオン半径は V,gA!-6-Ff%?B!=*-A!-63U3%?であり、そのイオン半
径比から予想されるとおり、T配位構造である。また、ナトリウムイオンの結合強度はg3hTであり、塩素イオンの結合強度(-3hT)と平衡を保っている。この構造をとる化合物は多く [=*B!Z&<B!5H=*!などのハロゲン化物や\HYB!7,YB!V&YB!=/Yなど、多くの酸化物が知られている。酸化物の場合の結合強度も、ハロゲン化物の場合と同様に求められる。!図 12fのように、陰イオンが立方最密充填で、その6配位空間のすべてに陽イオンが充填している。
これは、単位格子中心の陽イオンに対して、各面の陰イオンが6配位している様子からわかる。この構造では、陽イオンと陰イオンともそれぞれ面心立方格子を形成している。たとえば! #333+面は陰イオン、または陽イオンで構成される。これらの面が周期的に重なり合うことによって岩塩構造になっている。なお、酸化物・ハロゲン化物以外の化合物として炭化物もこの構造を有するものが多いが、これらの化合物は融点が高いために、高温用構造材料として利用されている。このほかにも岩塩型構造にはイオン結晶以外にも多く見られ、金属間化合物や、多くの遷移金属は7B!=B!VB!X&および `)と結合して岩塩型構造(73型i)の金属性物質を与える。!
!図 124 四配位結晶構造!
!
岩塩#!V,=*+型! !ヒ化ニッケル! #V&50+型!
図 12f 六配位結晶構造!
Na+ Cl‒
NiAs
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④!ヒ化ニッケル! #V&50+型構造!六方晶系で単位格子中に N化学単位が含まれる。陽性原子のニッケルは T個の陰性のヒ素原子により
正八面体に囲まれ六配位をとる。V&50のほか\%7&,V&7&,=/X,=/X),=8X,=8X),D2<)X,<)X)などがこの型の構造をとり、イオン結晶と金属の中間の性質を示すものが多く、また組成が整数比でない不定比化合物が多い。!
⑤!塩化セシウム型構造(=0=*)!陰イオンが単純立方格子で、その体心(8配位空間)に陽
イオンが配置した構造である。体心立方構造に似ているが、別の結晶構造に分類される。VQ4=*の結晶もこの構造をとる。=0g
や VQ4gなどの大きな陽イオンになると配位数の多い結晶構造をとることが理解できる。!!*! 主に金属学の分野ではX'8$R'$8@)8&(J'と呼ばれる結晶構造の表記法がしばしば用いられる。例えば、上述の岩塩型構造は73、塩化セシウム型構造は7Nのほか、=$など単体の面心立方構造は53、α2<)のような体
心立方構造は5Nなどがある。ちなみにV,=*型や=0=*型などのような表記方法は:8/'/2!'>.)と呼ばれる。こ
のほかにも、学問分野によって良く用いられる表記方法がいくつかある。!!)"#$%&'#(%*のの結結晶晶構構造造#⑥!ルチル型構造(8$'&*)!0'8$('$8))!
]&YN(8$'&*)B!ルチル)の結晶構造の一つである#図 12d+。X%YNもこの構造をとる。この構造は、陰イオンがゆがんだ六方最密充填で、その6配位空間に陽イオンが配置した構造といわれている。格子の各頂点に ]&4gが位置し、その体心に少しひずんだ ]&-YT八面体を基本単位とすると、八面体が稜共有と頂点共有で連結した構造で説明される。]&4gは T配位(]&YNの半径比は -64F)であるが、YN2はそれぞれ三角形の頂点に配列された 1個の ]&4gによって囲まれており、TO1 配位である(陽イオンの配位数が T、陰イオンが 1)。一方、関連する塩化セシウム(=0=*)は格子の各頂点に =0gが位置し、その体心に =*-が位置する構造#UOU配位+で、また、赤銅鉱(=$NY)は格子の各頂点に YN2が位置し、その体心に =$-Y4四面体が位置する構造#NO4配位+であり、いずれの構造も体心構造に関連した構造である。下記のアナターゼ型 ]&YN
も同様の連結様式で説明される。結晶構造が複雑になると、このように酸素多面体の連結様式で結晶構造を理解する方がわかりやすくなる。!また、このルチル型構造をとる化合物には特徴
ある機能を有するものが多く、さまざまな用途に用いられている。たとえば ]&YNでは光触媒や誘電材料のほか、不定比化合物をつくることによって黒色顔料になったり、ガスセンサとしても使われ
!図 12T 八配位結晶構造(=0=*型)!
!
]&YT八面体!!
八面体の連続構造!
図 12d ルチル! #]&YN+の結晶構造!
Ti4+ O2-
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ている。また、X%YNは透明電極や半導体、ガスセンサ、ガラスコーティング剤などとして使われている。!]&YNには、ルチル型のほかにアナターゼ(,%,',0))型とブルッカイト(@8$(R&'))型の多形が存在する。
アナターゼ型 ]&YNは、最近光触媒として注目されている。図 12Uにその結晶構造を示す。アナターゼ型構造の単位格子は、面心立方格子の岩塩型構造を (軸方向に二つ積みあげ、そのうち構造内の陽イオンの半分が空孔となっている。この空孔によって陰イオンは(軸方向の陽イオン側に変位している。ブルッカイト型構造は斜方晶系に属する構造であり、工業的にはほとんど利用されていない。!
⑦!ホタル石型構造!=,<N(蛍石B!*$/8&'))の結晶構造であり、]JYNB!aYNB!W8YNなどがある。=,<Nにおける(XJ,%%/%の)イ
オン半径は =,NgA!-633N%?B!<-A!-6313%?で、イオン半径比は -6Ufになり =,Ngは U配位が安定である。また、=,Ngは U 個の <-に囲まれていることから、<-の結合強度はgNhUA!3h4 になり、<-は四つの =,Ngと配位して電気的な中和条件が保たれている。図 12F はホタル石型構造であり、陽イオン =,Ngは面心立方格子の位置に、また陰イオン <-は単位格子の各辺を長さ 3hNで切った U個の小立方体の中心に入る。=,Ng
は U 個の <-に囲まれた正六面体の中心に位置し、<-は四つの =,Ngに囲まれた正四面体の中心を占める <-の単純立方格子とその中心に =,Ngが配置した=0=* 型格子が交互に配置した構造で示される。また、=,Ngが面心立方構造で、その中に <-の単純立方格子が配置した構造でも説明される。!ホタル石型構造の化合物に W8YN(ジルコニアB!j&8(/%&,)の高温相(立方晶系)がある。立方晶 W8YNは
融点 NBTU-G=で耐熱性・耐食性に優れた酸化物である。イオン半径(XJ,%%/%)は W84gA!-6-U4%?B!YN2A!-6314%?
で、そのイオン半径比は -6T1となり、W84gを中心とする正八面体を形成するためには少し小さい。そのため、W8YNの構造は歪む。!
]JB!aB!W8 のような大きな原子では8配位構造が可能である。しかしながら、立方晶 W8YNは高温安定相であり、冷却すると N1d-G=で正方晶、33d-G=で単斜晶へと転移する。とくに正方晶から単斜晶への転移で大きく体積膨張(約 Fk)するため、材料が破壊する問題があった。W84gのイオン半径は -6UN!lであり、酸素イオンの8配位空間の最適イオン半径 36-N!lより小さいため、立方晶 W8YNは低温で不安定となる。この W84gに対してイオン半径の大きな =,Ng!#36-1!l+B!c!1g!#-6FT!l+を置換固溶させて立方晶を安定化したものが、いわゆる安定化ジルコニア(0',@&*&j)K!j&8(/%&,B!XW)である。(i!W8YNに cNY1を固溶させて立
! !!
ルチル型! アナターゼ型! ブルッカイト型!
図 12U ]&YNの多形!
! !
図 12F ホタル石#=,<N+型構造!
Ca F
セラミックス材料学(亀川厚則)
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方晶を得たものをイットリア安定可ジルコニア(>''8&,!0',@&*&j)K!j&8(/%&,B!cXW)と呼び、広く用いられている。)!立方晶 W8YNに低原子価の陽イオンを置換固溶した結果として、固溶した =,Ngmc1gは W84gの一部に置
換固溶し、電荷中性条件により酸化物イオン YN2の一部が#酸素+空孔になる。たとえば、-6UfW8YN--63f=,Y系固溶体では W8-6Uf=,-63fY36Uf□-63f(□:酸化イオン空孔)となり、! -6F3W8YN--6-FcNY1 系固溶体ではW8-6F3c-6-FY36Fff□-6-4fとなる。これらの空孔を介して酸素イオンが容易に移動できるようになり、酸化イオン導電体として利用される。さらに安定化ジルコニアを生成する場合よりも安定化剤の添加量が少い場合には、準安定相の正方晶が部分的に残る部分安定化ジルコニア(.,8'&,**>!0',@&*&j)K!j&8(/%&,B!:XW)になる。ホタル石型構造に関連した構造に逆ホタル石(,%'&2P*$/8&'))構造がある。これはホタル石型構造の陽イオンと陰イオンとを入れ替えた構造で、Z&NYB!V,NYB!=$NXB!=$NX)などがある。!
+"#複複合合酸酸化化物物のの結結晶晶構構造造#価数または配位数の異なる N種類の陽イオン! #5および 7+を含む複合化合物には、57S1型のペロブ
スカイト型、57NS4型のスピネル型などがある。!⑧!ペロブスカイト型構造(.)8/90R&'))!
=,]&Y1の結晶構造である。この構造をとる化合物のなかでも 7,]&Y1や :@#]&B!W8+Y1はさまざまな電子部品用材料として利用されている。チタン酸バリウム(7,]&Y1)の場合、単位格子内には 3個の 7,]&Y1
だけが存在し、大きな 7, イオンは酸素を 3N 配位し、小さな ]& イオンは酸素を6配位した構造となる。一般には、図 123- のように ]& を中心とした構造が理解しやすい。]&4gは立方体の面心位置を占める YN-
に T配位しており、また 7,Ngのまわりにはそれらの酸素が 3N配位している。つまり、7,Ngおよび ]&4gの結合強度はそれぞれ Nh3Nおよび 4hTであり、3個の酸化物イオンは N個の ]&4gと 4個の 7,Ngと結合している。ことから、酸素あたりの結合強度は N#4hT+!g!
4#Nh3N+A!Nとなり、酸化物イオンの価数と等しい。!この構造の 57Y1における 5イオン、7イオ
ン、酸化物イオンのイオン半径を+,B! +-B! +.とすると理想的なペロブスカイト構造ではイオン同士が接しているので、!
/01+- % +.2 " +, % +.!
しかし、一般的には!
3 "+, % +.
/01+- % +.2!
で表される。トレランスファクター(許容因子B!'/*)8,%()!P,('/8)3!を考える。通常、3!は45678544であり、とくに3 " 459:78544!の場合に立方晶となり、それよりも小さい場合には構造が多少歪む。この構造を有する物質は強誘電性を示すものが多く、強誘電性の発現には 7 イオンの変位が重要な役割を果たしている。!
!
図 123-!ペロブスカイト型構造(7,]&Y1)!
セラミックス材料学(亀川厚則)
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酸素八面体に入る最適の陽イオン半径に比べて、]&!4gはいくぶん小さいため、立方晶は 3N-G=以上では安定であるが、室温では正方晶が安定となる。図 123-に正方晶を側面からみた構造を示す。YNの配位構造の中心と ]&!4gの位置がずれている様子を示している。このようにgと-の電荷の重心が一定領域で同一方向にずれると自発分極が現れ、強誘電体として働く正方晶の 7,]&Y1は高誘電率コンデンサーとして広く利用されている。!このペロブスカイトと同様の化学組成を有する。構造として、イルメナイト(&*?)%&'))型構造がある。
これはペロブスカイト構造の場合と異なり、5 イオンの大きさが酸化物イオンのそれと異なる場合に生じる構造である。ペロブスカイト構造においては 7,Ngが酸化物イオンを置換した 3N配位を考えればよかったが、半径が酸化物イオンに比べてきわめて小さい場合には 3N配位構造をとることができず、5イオンと 7イオンはともに T配位構造となる。コランダム((/8$%K$?)(α-アルミナ)の N個の 5*1gを 5イオンと 7イオンに置いた構造である。#
⑨!スピネル型構造(0.&%)*)!! \H53NY4の立方晶系の結晶構造で、化学式量 WAUの大きな格子を組み、一見複雑に見える W%<)NY4、
V&<)NY4など多くのフェライト系化合物でみられる構造である。図 1233の蛍石型構造と同じように、二種の単位胞が交互に配列した構造で説明されるが、重要なのは陽イオンの酸素配位構造と組成である。組成を 57NY4で表したとき、単位格子には4配位の 5位置が U個、6配位の 7位置が 3T個、Y位置が 1N
個存在する。5サイトを#!+、7サイトをn!oで表すと、#!+n!o!NY4となる。一般に 5サイトには二価の陽イオン\HNgB!<)NgB!W%NgB!V&NgB!\%Ngなどが入り、7サイトには三価の陽イオン 5*1gB!<)1gB!=81gなどが入る。このとき 5サイトに 5原子、7サイトに 7原子が入った#5+n7o!NY4は正スピネルとよばれる。一方、5サイトに 7原子が入った#7+n5B7o!NY4は逆スピネル(&%9)80)!0.&%)*)とよばれる。5、7 原子のイオン半径が近い場合、このような置換は可能である。W%<)NY4は正スピネル、V&<NY4は逆スピネルである。さらに <)を含むスピネルはフェライトと呼ばれ、フェリ磁性を示すため、磁石や磁気記録媒体として使われてきた。マグネタイト(<)1Y4あるいは <)Y・<)NY1)は、4配位の位置に入る <)Ngと T配位の位置に入る <)1gがあり、それぞれのスピン方向は逆になっている。たとえば、<)Ngを他の N 価陽イオン W%Ngで置き換えると磁気モーメントの大きさが変化する。これは磁気モーメントをもたない W%Ngが正スピネル型構造の 4 配位の位置に入るので、同じ 4 配位の位置にあった <)Ngのスピン量が減少し、全体的な磁気モーメントは増加するためである。!
!!
#,+! 単位胞! #@+! 単位胞のU分割!
!#(+!単位胞の3h4!
図 1233 スピネル型構造!
A
A
B
B
A
B
B A
Mg2+
Al3+
O2-
A立方体 B立方体
セラミックス材料学(亀川厚則)
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スピネル構造の化合物を表 121 に示した。いずれの構造をとるのかに関する要因は明らかではないが、経験的に#54g+n7Ngo!NY4の化学式で表される。スピネルは、正スピネル型であることが多く、#5Ng+n71go!NY4
で表されるスピネルは逆スピネル型が多い。!\H53NY4 や#\HB!<)+=8NY4 などのスピネルは融点が高く、耐火物原料や高温構造材料として用いられている(m耐火物)。天然のスピネルの中には微量の着色イオン(=/YB!V&Y など)を含んだものがあり、宝石として用いられている。!
表 3-3 スピネル構造の主な化合物
正スピネル構造!\H^NY4B!W%^NY4B!\H=8NY4B!\%=8NY4B!<)=8NY4B!V&=8NY4B!=$=8NY4B!W%=8NY4B!=K=8NY4B!QH=)NY4B! QH=)NX)4B! \%\%NY4B! W%\%NY4B! W%<)NY4B! =K<)NY4B! =/=/NY4B! W%=/NY4B!
\H_JNY4B!W%_JNY4p\H5*NY4B!\%5*NY4B!<)5*NY4B!=/5*NY4B!W%5*NY4B!=,`,NY4!
逆スピネル構造!\H<)NY4B!]&<)NY4B!<)<)NY4B!=/<)NY4B!V&<)NY4B!=$<)NY4B!X%=/NY4B!]&W%NY4B!X%W%NY4B!
\H;%NY4B!=/;%NY4B!V&;%NY4!
ポポーーリリンンググのの第第三三法法則則 配位した構造における稜の共有、また特に面の共有は(陽イオンの接近を招き)その構造の安定性を低下させる。この効果は大きい電荷をもち小さい配位数をもつ陽イオンのときに著しく、また特に半径比が多面体の安定性の下限に近づくときに大きくなる。!これは、高原子価の陽イオンが構造中でできる限り離れる傾向にあることを述べており、マーデルングエネルギーを定性的に表現したものであると解釈できる。!!
【【ポポーーリリンンググのの法法則則】】#ゴールドシュミットにより早くから認識されていた原理を明確に表現したのがポーリングの法則
である。これまでに第一から第三法則まで述べてきたが、第五法則まである。!
ポポーーリリンンググのの第第四四法法則則 違った種類の陽イオンを含む結晶では、高い原子価で少ない配位数をもつ陽イオンは、互いにそのまわりの多面体を共有しない傾向がある。!
ポポーーリリンンググのの第第五五法法則則 一つの結晶中では、本質的に違った種類の構成要素の数は少なくなる傾向がある。!このうち第二、第三および第四法則は、イオン結晶の安定性に関する半定量的尺度としてのマーデ
ルングエネルギーを定性的に表現したものである。!ポーリングの法則のうちでもっとも重要なのが、N 番目の静電原子価則である。イオン結晶の構造
は、主として幾何学的安定性と電気的安定性に対する要求によって決定される。幾何学的な制約〔例えば、原子間距離が正常な範囲内に収まること〕を満足する構造が一通りしかないとは限らない。固体物質では、もっとも小さいポテンシャルエネルギーを与える原子配置がもっとも安定となる。電気的安定性の要求とは、結晶全体にわたって陽イオンの正電荷と陰イオンの負電荷とがつり合っていなければならないという要求である。!
セラミックス材料学(亀川厚則)
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静電原子価則は単純そうに見えるが、それを満足させるための幾何学的制限は驚くほど大きい。実際に一つの組成の鉱物に対して、第二法則に従うような構造のモデルはたかだか二、三見出されるだけであり、しかもそのうちの一つが常にその鉱物の正しい構造である。また電気的中性の要求を満たしているある種の仮想的な化合物が天然に存在しえないことをこの法則により説明することもできる。!
_)P6+!Z6!:,$*&%HB!q]J)!V,'$8)!/P!=J)?&(,*!7/%K0Br!18K!)K6B!=/8%)**!a%&9)80&'>!:8)00B!V)s!c/8R!#3FT-+B!.6!T446!
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【演習問題】!123+!ポーリングの第1法則について説明せよ。!
12N+!T配位の限界半径比について求めよ(計算過程も示せ)。!
121+!=0=*構造と V,=*構造を図示し、その違いを説明せよ。!
124+!5OSA3O3(5:陽イオン、S:陰イオン)の組成比でみられる代表的なイオン結晶の構造を5つ挙げ、それぞれの配位数について説明せよ。!
12f+!正スピネル構造の\H5*NY4について、\HNgと 5*1gイオンの配位数はそれぞれいくつか述べよ。また、静電原子価則が成立していることを示せ。!
12T+!理想的なペロブスカイト構造('/*)8,%()!P,('/8A3)の化合物 57Y1において、5イオンと酸化物イオン(Yイオン)の大きさが同じである場合、5イオンと 7イオンの大きさの関係を導き出せ。! !
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