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1 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 6 回
ミクロ経済学 基本講義
第 6 回 消費者行動 Ⅲ
Ⅰ.労働ろうどう
供 給きょうきゅう
(1) 労働供給と余暇よ か
労働者(= 消費者)は、所得を得るために企業に労働(時間)を供給する。
(2) 無差別曲線と予算制約線
① 労働供給の無差別曲線
◆ 最適労働供給(N*) = 初期保有時間(24 時間) - 最適余暇消費(L*)
労ろう
働どう
(N) …… 増えるほど効用は低下● ●
する。
(労働には苦痛が伴う ⇒ 限界不効用)
※ 基本的には、効用を最大にするように余暇を先に決定し、労働供給は差額で計算する。
所得(Y)
O 余暇(L)
U0
U1
U0<U1
余よ
暇か
(L) …… 増えるほど効用は上昇● ●
する。
(⇒ 限界効用)
初期し ょ き
保有ほ ゆ う
時間じ か ん
24 時間
(30 日、365日)
横軸の余暇(L)も縦軸の所得(Y)
も効用を高めるもの(= goods)
ですので、これまでの「財」と同等
のものと考えられます。よって、こ
れまでの無差別曲線をそのまま活用
できます。
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2 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 6 回
② 労働供給の予算制約線
限られた時間の中で、選択可能な所得(Y)と余暇(L)の組み合わせを考える。
(3) 最適余暇消費および労働供給の決定
⇔ Y = -wL + 24w
所得(Y)
O 余暇(L)
- w
24w
●
24
Y
O L
- w
24w
●
24
● E
L*
労働供給(時間)
U0
U*
Y*
ここは「定点」
Y:所得、w:賃金率(一定)
L:余暇
予算よ さ ん
制約せいやく
線せん
初期保有時間の下で選択可能な
余暇と所得の組み合わせの軌跡。
MRSLY
効用最大化点
Y = w (24 - L)
労働供給
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3 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 6 回
※ 通常の消費者理論(2 財モデル)の効用最大化条件
~★ 計算練習 ★~ (V問題集 №099)
MRSxy= = Px
Py
MUx
MUy
ある人の効用関数 U が次式で示されている。余暇時間のほかは、すべて労働時間であり、労
働時間 1 時間当たりの賃金率は 1 万円であるとする。この人がその効用を最大にするように行
動するとき、1 日の労働時間として、正しいのはどれか。
U=44L+LY-L2
L:1 日当たりの余暇時間
Y:1 日当たりの所得
1. 6 時間
2. 7 時間
3. 8 時間
4. 9 時間
5. 10 時間
【 効用最大化条件 】
無差別曲線の“(接線の)傾き● ●
” = 予算制約線の“傾き● ●
”
◆ MUL = (余暇の限界効用) …… 余暇が 1 単位増えた時に、効用が
どれだけ上昇するかを表す。
⊿U
⊿L
◆ MUY= (所得の限界効用) …… 所得が 1 単位増えた時に、効用が
どれだけ上昇するかを表す。
⊿U
⊿Y
MRSLY = = w(賃金率)
MUL
MUY
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4 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 6 回
労働供給の問題における効用最大化条件は以下の通りです。
そこで、まずは余暇と所得の限界効用(MUL、MUY)を計算します。
よって、賃金率(w)を 1として、①式は
⇔ 44+Y-2L=L ∴ Y=3L-44 …… ②
と計算できます。
一方、消費者の予算制約線は、以下のようになります。
Y=w(24-L)
⇔ Y=1(24-L) ∴ Y=24-L …… ③
②式と③式を連立して解くと、余暇(L)が得られます。
3L-44=24-L
⇔ 4L=68 ∴ L=17
最後に、労働供給時間(N)はN=24-Lと計算できますから、
N=24-17=7(時間)
となります(肢 2 が正解)。
まず、消費者の予算制約線を立てます。
Y=w(24-L)
⇔ Y=1(24-L) ∴ Y=24-L …… ①
この①式を、問題文の効用関数に代入すると、以下のようになります。
MRSLY= = w …… ① MUL
MUY
MUL= = 1・44L1-1+1・L1-1Y-2・L2-1= 44+Y-2L ⊿U
⊿L
MUY= = 0+1・LY1-1-0= L ⊿U
⊿Y
44+Y-2L
L = 1
解法 1 : 効用最大化条件を使って解く方法
解法 2 : 制約条件を組み込んだ効用関数を、微分してゼロとおいて解く(『解説』)
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5 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 6 回
U=44L+L(24-L)-L2
=68L-2L2 …… ②
ここで②式を良く見ると、L2の前の定数(係数)が-2(マイナスの値)になっていますから、
②式は概ね以下のような形状のグラフとなります(上に凸)。
②式を余暇Lについて微分してゼロとおくことで、
効用を最大にする余暇消費(L)を求めることがで
きます。
⇔ 68-4L= 0 ∴ L=17
最後に、労働供給時間(N)はN=24-Lですから、
N=24-17=7(時間)
と計算できます(肢 2 が正解)。
~★ 計算練習 ★~ (V問題集 №105)
効用関数が財の消費量(Z)と余暇(V)で表されています。両方とも消費者にとって効用を高め
るものですから、基本的な消費者理論の計算方法で計算することができます。
ただ、考え方の“コツ”として、財の価格が一定(1,000 円)ですから、所得が決まれば財の消
費量(Z)が決まります。さらに、賃金も一定(7,000 円)ですから、労働日数が決まると所得も
= 1・68L1-1-2・2L2-1= 0 ⊿U
⊿L
U
O L L*
● U Max
1年365日を、労働と余暇のどちらかで過ごす労働者がいる。この労働者は1日働くと7000
円の所得を得るが、所得のすべては価格 1000 円のz財の購入に充てられる。また、この労働
者の効用関数は、
U=Z3V2 (V:余暇の日数、Z:z財の消費量)
で表される。この場合、この労働者の効用を最大にする労働日数として最も適当なのはどれか。
1. 155 日
2. 183 日
3. 219 日
4. 287 日
5. 292 日
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6 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 6 回
決まることになります。つまり、財の消費量は労働日数に依存する関係になっています。
本問の効用関数はコブ=ダグラス型ですから、以下のように計算することができます。
上記(解法 1)のすべての計算式から賃金率(w)7,000 円を除いて考えてしまえば、以下の計
算で良いことが分かります。
※ 「所得総額」 …… すべての時間を労働に向けた場合に得られる所得の最大値
= 365 日 × 賃金率(w)7000 円 = 2,555,000 円
所得総額
2,555,000
⇔ 7,000V=1,022,000
: w・労働日数 = 2,555,000・ 3●
3+2
∴ 労働日数 = 219(日)
: w・V = 2,555,000・ 2●
3+2
∴ V = 146(日)
⇔ 7,000・労働日数 = 1,533,000
◆ 「所得総額」が 3:2 の比率で、「稼げる所得」と「失う所得」に按分される。
注 意 労働で稼いだ所得はすべて財の購入に充てられるものとする。
∴ 労働供給による所得 = 財の支出額
解法 1 : “金額”ベースの計算方法
労働による所得
(= 財の支出額)
余暇で失う所得
解法 2 : “日数”ベースの計算方法
初期日数
365 日
労働日数 : 365 日・ = 219 日
余暇日数 : 365 日・ = 146 日
3●
3+2
2●
3+2
※ 但し、この解法 2 は、消費者に労働以外の所得(= 非労働所得)がある場合には使えま
せんので注意して下さい(今年度の V 問題集にはこれに関する問題は掲載されていません)。
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7 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 6 回
Ⅱ.異時い じ
点間てんかん
の最適消費
(1) 貯蓄ちょちく
主体しゅたい
と借入かりいれ
主体しゅたい
① 貯蓄主体の行動
② 借入主体の行動
現在の所得
y1(一定)
将来の所得
y2(一定)
現在の消費(C1)
C1=y1-S
将来の消費(C2)
C2=y2+(1+r)S
利子率をrとすると、
貯蓄Sは将来時点で
(1+r)Sとなる。
貯蓄S
現在の所得
y1(一定)
将来の所得
y2(一定)
現在の消費(C1)
C1=y1+S
将来の消費(C2)
C2=y2-(1+r)S
利子率をrとすると、
借入Sの返済総額は
(1+r)Sとなる。
借入S
ⅰ).2 期間を考え、現在と将来の所得(y1、y2)は一定であるとする。
ⅱ).2 期間にわたって、所得の合計(生涯所得)をすべて消費する。
ⅲ).利子率り し り つ
(r)を一定として、自由に貯蓄・借入が可能である。
《 完全資本市場の仮定 》
仮 定
◆ 利子率り し り つ
(金利) 資金貸借(金融サービス)の“価格● ●
”
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8 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 6 回
(2) 無差別曲線と予算制約線
① 異時点間モデルの無差別曲線
② 異時点間モデルの予算制約線
(A).貯蓄主体の予算制約線
現在の制約 : C1=y1-S …… ①
将来の制約 : C2=y2+(1+r)S …… ②
①式より
S=y1-C1
これを②式に代入すると、
C2=y2+(1+r)(y1-C1)
将来の消費
(C2)
現在の消費
(C1)
◆ C2-y2= -(1+r)(C1-y1)
これは(C1、C2)平面において、定点(y1、y2)を通り、
傾きが-(1+r)の右下がりの直線であることを示す。
O
U0
U1
U0<U1
現在の消費(C1)と将来
の消費(C2)は、断りが
ない以上は「消費額●
」と考
えて下さい。
◆ 定点(x、y)=(a、b)を通り、傾きが-Aの直線
公 式
y-b = -A(x-a)
C2
O C1 y1
y2
-(1+r)
●
予算よ さ ん
制約せいやく
線せん
ここは「定点」
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9 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 6 回
(B).借入主体の予算制約線
現在の制約 : C1=y1+S …… ①
将来の制約 : C2=y2-(1+r)S …… ②
①式より
S=C1-y1
これを②式に代入すると、
C2=y2-(1+r)(C1-y1)
★ 完全資本市場の仮定が成立する状況では、貯蓄主体であれ借入れ主体であれ、消費者の予算
制約線は同じになる。
因みに、予算制約線を変形すると以下のようになります(V問題集【№101】参照)。
(3) 異時点間の最適消費の決定
◆ C2-y2= -(1+r)(C1-y1)
これは(C1、C2)平面において、定点(y1、y2)を通り、
傾きが-(1+r)の右下がりの直線であることを示す。
C2
O C1 y1
y2
-(1+r)
●
【効用最大化条件】
無差別曲線の“(接線の)傾き● ●
” = 予算制約線の“傾き● ●
”
C1+ = y1+ C2
1+r
y2
1+r
◆ MUC1 = ⊿U
⊿C1 ◆ MUC2 =
⊿U
⊿C2
MRSC1C2 = = 1+r
MUC1
MUC2
現在消費の
限界効用
将来消費の
限界効用
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10 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 6 回
① 貯蓄主体となるケース
⇒ 効用を最大にする現在の消費(C1*)が現在の所得(y1)を下回れば、y1-C1
*分だけの
貯蓄(S)が行われる。
② 借入主体となるケース
⇒ 効用を最大にする現在の消費(C1*)が現在の所得(y1)を上回れば、C1
*-y1分だけの
借入(S)が行われる。
C2
O C1
-(1+r)
●
y1
y2
C2
O C1 -(1+r)
●
y1
y2
E
U* MRSC1C2
効用最大化点
●
C1*
C2*
C1*
C2* ●
E
U*
効用最大化問題を解いた結果、現在
の消費(C1)が現在の所得(y1)
を下回るようなら、この消費者は貯
蓄主体と判断できます。(y1-C1)
が貯蓄額(S)になります。
効用最大化点
効用最大化問題を解いた結
果、現在の消費(C1)が現在
の所得(y1)を上回るような
ら、この消費者は借入主体と
判断できます。(y1-C1)が
借入額(S)になります。
貯蓄 S
借入 S
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11 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 6 回
~★ 計算練習 ★~ (V問題集 №111)
異時点間モデルにおける効用最大化条件は以下の通りです。
そこで、まずは今期と来期の消費の限界効用を計算します。
よって、利子率(r)を 0.25 として、①式は
となります。
次に、予算制約線を立てます。仮に、貯蓄主体を前提として今期と来期の制約を立てると(貯蓄
をSとする)、以下のようになります。
今期及び来期にそれぞれ 50 の所得がある個人に、来期において政府から 25 の臨時給付があ
る旨の通知があった。
この個人の効用関数が、
U=C0・C1 (C0:今期消費、C1:来期消費)
であり、利子率 25%の下で自由に貯蓄と借入ができるならば、この個人は効用を最大にするた
めに今期どのように行動することが合理的か。
なお、この個人に前期までの貯蓄及び借入はないものとし、今期及び来期の所得は来期までに
使いきるものとする。
1. 5 の貯蓄
2. 10 の貯蓄
3. 15 の貯蓄
4. 5 の借入
5. 10 の借入
MRSC0C1= = 1+r …… ①
MUC0= = 1・C01-1・C1= C1
MUC1= = 1・C0・C11-1= C0
MUC0
MUC1
⊿U
⊿C0
⊿U
⊿C1
C1
C0 = 1.25 ∴ C1=1.25C0 …… ②
解法 1 : 効用最大化条件を使って解く方法
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12 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 6 回
今期の制約 : C0=y0-S …… ③
来期の制約 : C1=y1+(1+r)S+給付額 …… ④
まず、③式を以下のように変形します。
C0=50-S ⇔ S= 50-C0 …… ③´
次に、④式を整理します。
C1=50+1.25・S+25 ⇔ C1=1.25・S+75 …… ④´
ここで、③´式を④´式に代入すると、
C1=1.25(50-C0)+75 ⇔ C1-75= -1.25(C0-50) …… ⑤
となります。これが予算制約線です。
最後に、効用最大化条件と予算制約線を連立して解きます。効用最大化条件である②式を⑤式に
代入すると、
1.25C0-75 = -1.25(C0-50)
⇔ 2.5C0= 137.5 ∴ C0= 55
と計算できます。今期の所得は 50 しかないので、5 の借入が必要となります(肢 4 が正解)。
異時点間モデルでは、効用関数がコブ=ダグラス型である場合、以下の関係が成立することが知
られています。
本問の場合、按分する所得総額は以下のように計算できます。
これを、今期と来期の消費に1対1で按分すれば良いので(半分ずつ)、
C0=55
となります。今期の所得は 50 しかないので、5 の借入が必要となります(肢 4 が正解)。
◆ U=C0αC1
βの場合、以下の「所得総額」がα対βの比率で各期の消費に按分される。
按分する「所得総額」 = 今期の所得 + 来期の所得
1+利子率
按分する所得 = 50 + = 110 50+25
1.25
解法 2 : 効用関数がコブ=ダグラス型のときの解き方
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13 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 6 回
Ⅲ.不確実性ふかくじつせい
の経済学
(1) 不確実性って?
(2) 期待き た い
効用こうよう
最大化さいだいか
…… 確率を考慮した確率変数(= どう転ぶか分からない値)の平均値● ● ●
期待値き た い ち
♪ 所得● ●
が 50%の確率で 100になり、残りの 50%の確率で 50になる状況があるとしましょう。
このとき、所得の期待値(= 期待き た い
所得しょとく
)は
期待所得 = 0.5・100+0.5・50 = 75
と計算します。これは(100+50)÷2=75と同じことで、まさに所得の平均値です。
αの確率 : 所得x1(100 万円) ⇒ 効用U(x1)…“ニッコリ”
(1-α)の確率 : 所得x2(50 万円) ⇒ 効用U(x2)…“ガッカリ”
消費者の効用(U)は、所得(x)の大きさによって決まるとする。
ex.U=x2、U=x0.5、U=2x など
仮 定
・ 宝くじ
・ 株
・ 保険
所得(得られるお金)がどうなるか分からないにもかかわらず、
なぜ買う人(or 買わない人)が存在するのか?
消費者が“期待”(予測)する効用● ●
(満足感)の大きさの違いによる。
…… 人々は、所得の期待値ではなく、期待効用(Eu)を最大にす
るように行動する。
期待き た い
効用こうよう
最大化さいだいか
期待効用(Eu) = α・U(x1)+(1-α)・U(x2)
消費者は期待所得の大きさでは行動しない!
例えば、U(x1)の部分は、所得
(x1)を問題文の効用関数に代入
して計算します。
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14 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 6 回
~★ 計算練習 ★~ (国家一般 平成 5 年)
まず、問題文の状況を以下のように整理します。
宝くじに投資する 宝くじに投資しない
当選する確率 : 0.01 賞金 M 円
ハズレる確率 : 0.99 0 円
(A).宝くじに投資する場合の期待効用(Eu1)
このケースでは、1%の確率で賞金Mが当たってニッコリし、99%の確率でガッカリ(ハズレ)
します。このときの期待効用(Eu1)は、以下のように計算できます。
Eu1= α・u(M)+(1-α)・u( 0 )
= 0.01・M2+0.99・0
= 0.01M2 …… ①
(B).宝くじに投資しない場合の期待効用(Eu2)
一方、宝くじを購入しなければ 100%の確率で 1 万円の所得を残すことができます。このと
きの期待効用(Eu2)は、以下のようになります。100%の確率は「1」として計算します。
Eu2= α・u( 1 )
= 1・12 = 1 …… ②
(Eu2= 0.01・12+0.99・12 = 1としても同じです)
所得のすべてを宝くじに投資するか、投資せずに保持するかのどちらかを選択する個人がいる
とする。この個人は 1 万円の所得をもち、所得xに対する効用関数が
u=x2 (u:効用水準)
で示される場合、1%の確率で賞金が当たる宝くじについて、賞金がいくら以上であれば個人は
宝くじに投資するか、賞金の最小額として正しいのはどれか。
なお、この個人は、期待効用を最大化するものとする。
1. 1 万円
2. 5 万円
3. 10 万円
4. 50 万円
5.100 万円
1(万円)
(確率は 100%)
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15 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 6 回
さて、宝くじを購入する場合のドキドキ・ワクワク感を表す期待効用が 0.01M2(①式)で、
何もしないときの期待効用 1(②式)です。「当たっちゃうかもしれない!」というワクワク感の
強い人が宝くじを購入するのですから、
0.01M2≧ 1 …… ③
となっていればこの人は宝くじを購入するでしょう。③式をMについて解くと、
M≧10(万円)
となります。
~★ 計算練習 ★~ (国家総合職 平成 10 年)
支払う保険料をPとして問題文の状況を整理すると、以下のようになります。
保険に加入する 保険に加入しない
事故が起きる確率 : 0.05 0
事故が起きない確率 : 0.95 10,000
富の額をWとして、ある消費者の効用関数が、
U(W)=W1/2
で示されるとする。この消費者の現在の富の保有額は 10,000 であり、事故が発生する可能性を
考慮して、事前に保険料を支払うと、事故が起きたときに損害を全額保障するような保険を考え
る。事故が起きる確率を 5%、事故が起きたときの損害を 10,000 とした場合、この消費者が保
険に加入するのは、保険料がいくら以下のときか。ただし、この消費者は期待効用の最大化を図
るものとし、また自分が事故に会う確率を知っているものとする。なお、事故が起きなくても保
険料は返却されない。
1. 95
2. 950
3. 975
4. 1,900
5. 3,100
10,000-P
(確率は 100%)
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16 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 6 回
(A).保険に加入する場合の期待効用(Eu1)
保険に加入すれば、100%の確率で(10,000-P)の財産を残すことができます。このとき
の安心・確実な期待効用(Eu1)は以下のように示せます。
Eu1= α・u(W)
= 1・(10,000-P)1/2
= (10,000-P)1/2 …… ①
(Eu1= 0.05・(10,000-P)1/2+0.95・(10,000-P)1/2としても同じです)
(B).保険に加入しない場合の期待効用(Eu2)
一方、保険に加入しなければ、5%(α)の確率で財産は 0 となってガッカリ、95%(1-α)
の確率で財産は 10,000 残せてニッコリします。このときの「何かあったらどうしよう…。ドキ
ドキ!」の期待効用(Eu2)は以下のように計算できます。
Eu2= α・u( 0 )+(1-α)・u(10,000)
= 0.05・(0)1/2+0.95(10,000)1/2
= 0+0.95(1002)1/2
= 0+0.95・100
= 95 …… ②
さて、「安心が何よりです!」という消費者が保険に加入しますので、②式よりも①式の方が大き
くなっていることが条件になります。よって、
(10,000-P)1/2≧ 95
⇔ 10,000-P ≧ 952
⇔ P ≦ 10,000-9,025 ∴ P ≦ 975
となります(肢 3 が正解)。
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17 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 6 回
~★ 練習問題 ★~ (V問題集 №087)
所得のすべてをXとYの 2 つの財に支出する消費者がいる。Xは上級財で、Yは下級財とす
る。消費者の所得及びXの価格が一定であるとして、Yの価格が低下した場合、XとYの需要量
の変化に関する記述として、妥当なのはどれか。
1. X財の需要量は代替効果により増加し、所得効果によって減少する。
2. X財の需要量は代替効果により減少し、所得効果によって増加する。
3. X財の需要量は代替効果でも所得効果でも、ともに減少する。
4. Y財の需要量は代替効果により減少し、所得効果によって増加する。
5. Y財の需要量は代替効果でも所得効果でも、ともに増加する。
最低限解くべき問題
番 号 1 回目 2 回目 コメント
№ 087 / │ / │ 次ページ(P.18)でやり方を覚えておきましょう。
№ 090 / │ / │ 財の定義(所得と消費の関係)の確認に。
№ 091 / │ / │ 次ページ(下部)参照。
№ 092 / │ / │ 財の定義(価格と消費の関係)の確認に。
№ 094 / │ / │ 代替財については第 5 回レジュメ p.17 で紹介しています。
№ 095 / │ / │ 補完財についても第 5 回レジュメ p.17 で紹介しています。
№ 096 / │ / │ ギッフェン財のグラフは分かるようにしておきましょう。
№ 099 / │ / │ 「解法 2」でやりましょう(P.4 参照)。類題は№098。
№ 102 / │ / │ L(余暇)を、W(労働)を使って表しちゃいます。
№ 105 / │ / │ この問題は「解法 2」だね(P.6 参照)。類題は№104。
№ 107 / │ / │ カッコをはずしちゃダメ(P.19 参照)。類題は№103。
№ 110 / │ / │ これが“ベタ”な形です。忘れたころに復習しましょう。
№ 111 / │ / │ 「臨時給付」は来期の所得ですからね。
№ 112 / │ / │ この問題で解くスタイルを確立しましょう。
№ 114 / │ / │ 結局、№112と同じですね。
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18 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 6 回
まずは問題文の記述内容を下記のように“見える化”します。
代替効果と所得効果に分けて、2 つの財の需要量がどのように変化するかを見ていきます。上記
のような下書きが書けてしまえば、あとは選択肢と照らし合わせるだけです。
1.代替効果
Y財の価格が下落していますので、“お買い得”になっているのはY財です。よって、代替効果
はお買い得なY財の需要量を増やし、X財の需要量を減少させる方向に作用します。
2.所得効果
また、価格の下落は消費者の実質所得(= 買える財の量)を上昇させます。これは、経済学上、
所得の増加と同じです。今、X財は上級財なので、実質所得の上昇によってX財の需要量は増加
します。一方、Y財は下級財なので、実質所得の上昇によってY財の需要量は減少します。
ついでに、【 №091 】の需要量の動きを示しておきます。参考にして下さい。
所得効果
Py↓ X ↓
Y ↑
M
Py↓ ↑ (X:上級) X ↑
(Y:下級) Y ↓
代替効果
(実質所得の上昇)
① 肢 1~肢 3
② 肢 4 と肢 5
所得効果
Px↑ X ↓
Y ↑
M
Px↑ ↓ (X:ギッフェン) X ↑↑↑
(Y:上級) Y ↓↓↓
代替効果
(実質所得の低下)
所得効果
Py↑ X ↑
Y ↓
(X:ギッフェン) X ↑↑↑
(Y:上級) Y ↓↓↓
代替効果
(実質所得の低下)
所得効果を大きく
とるのがポイント
M
Py↑ ↓
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19 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 6 回
~★ 計算練習 ★~ (V問題集 №107)
余暇にあたる部分を 1 つの文字として読んでしまえば、コブ=ダグラス型の性質を使って解くこ
とができます。
この問題は、労働によって得る所得しかありません。よって、№104 と同様に賃金率(20)を
除いて“時間ベース”(解法 2)で考えてしまって差し支えありません。
ある個人の効用関数が次のように与えられている。
u=x(12-L)
ここでuは効用水準、xはX財の消費量、Lは労働供給量を表す。X財の価格は 10であり、
労働 1 単位当たりの賃金率は 20 とする。この個人が効用を最大化するときの労働供給量はい
くらになるか。
なお、この個人は労働によって得た所得のすべてをX財の消費に使うものとする。
1. 4
2. 6
3. 8
4. 10
5. 12
効用関数 : u = x (12 - L)
1 1
財 余暇
初期時間
12 時間
労働時間 : 12 時間・ = 6 時間 (肢 2 が正解)
余暇時間 : 12 時間・ = 6 時間
1
1+1
1
1+1
所得が労働所得のみである場合には、賃金率を無視した上記のような計算でOKということは、
仮に、賃金率に税金が課せられたとしても、消費者の労働時間や余暇時間には影響がないという
事になります。これもコブ=ダグラス型が持つ性質なので、次のページで整理しておきます。
研 究 所得税が課された場合
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20 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 6 回
※ V問題集【 №108 】を使って、念のため“金額ベース”で確認しておきます。
ⅰ).課税前●
所得総額 = 24 時間×賃金率(w)1 = 24
ⅰ).課税後●
所得総額 = 24 時間×賃金率(w)1 ×(1-0.1)= 21.6
このように、課税前と課税後とでは労働時間に変化がありません(余暇時間も)。このことを知っ
ていれば、この手の問題では計算● ●
する● ●
こと● ●
なく● ●
正解肢を絞ることができます。
試験会場では、
① 労働所得のみであることの確認
② 日数(時間)ベースで労働時間を計算
③ この性質を思い出して肢 5 をとる
という流れになります。
消費者の効用関数がコブ=ダグラス型で、その人の所得が労働所得のみである場合、
◆ 「所得税」が課されても、労働時間(余暇時間)は変化● ●
しない● ● ●
。
所得総額
24
労働による所得 : 1(24-L) = 24・
余暇で失う所得 : w・L= 24・ ∴ L=12
1
1+1
1
1+1
∴ L = 12(時間) ⇒ 労働 = 12(時間)
労働所得税の税率が 0.1 なので、賃金率(w)に 0.9
を掛けて、賃金率を課税後の値(0.9)にしています。
1
1+1 所得総額
21.6
労働による所得 : 0.9(24-L) = 21.6・
余暇で失う所得 : 0.9L= 21.6・ ∴ L=12 1
1+1
∴ L = 12(時間) ⇒ 労働 = 12(時間)
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21 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 6 回
~★ 計算練習 ★~ (国家一般職 平成 19 年)
問題文の状況を整理すると、以下のようになります。
保険に加入する 保険に加入しない
良い天候の確率 : 0.5 900(万円)
天候不順の確率 : 0.5 100(万円)
(A).保険に加入する場合の期待効用(Eu1)
保険に加入すれば、100%の確率でh(万円)の所得を得ることができます。このときの安心・
確実な期待効用(Eu1)は以下のように示せます。
Eu1= α・u(h)
= 1・h1/2
= h1/2 …… ①
(Eu1= 0.5・h1/2+0.5・h1/2としても同じです)
ある農家の効用関数が次のように与えられている。
u=x1/2
ここでuは効用水準、xは 1年当たりの農作物収入を表す。この農家には、年間を通じて良い天
候に恵まれる場合には900万円、天候不順の場合には100万円の農作物収入があるものとする。
また、この農家は期待効用を最大にするように行動するものとする。
ここで、ある保険会社が天候にかかわらず一定金額の所得h(100 万円≦h≦900 万円)を
保証し、もし農作物収入が保険金額hを上回れば農家が差額(900 万円-h)を保険会社に支払
い、もし農作物収入が保険金額hを下回れば保険会社が差額(h-100 万円)を農家に支払うと
の契約内容の保険を販売する。良い天候に恵まれる確率と天候不順となる確率がそれぞれ 50%
である場合、この農家は保険金額hがいくら以上であれば保険を購入するか、その最小値を求め
よ。
1. 250 万円
2. 300 万円
3. 350 万円
4. 400 万円
5. 450 万円
h(万円)
(確率は 100%)
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22 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 6 回
(B).保険に加入しない場合の期待効用(Eu2)
一方、保険に加入しなければ、50%(α)の確率で所得は 900 万円となってニッコリ、50%
(1-α)の確率で所得は 100 万円となってガッカリします。このときの期待効用(Eu2)は
以下のように計算できます。
Eu2= α・u( 900 )+(1-α)・u(100)
= 0.5・(900)1/2+0.5(100)1/2
= 0.5・(302)1/2+0.5(102)1/2
= 0.5・30+0.5・10
= 20 …… ②
さて、保険に加入する場合の安心・確実な期待効用がh1/2(①式)で、保険に加入しない場合の
「何かあったらどうしよう…。ドキドキ!」の期待効用が 20(②式)です。「安心が何よりです!」
という人が保険に加入しますので、
h1/2≧ 20 …… ③
となっていれば保険に加入するでしょう。③式をhについて解くと、
h≧400(万円)
となります。
以 上