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第10回遺伝子組換えと遺伝子改変動物
基盤理工学専攻
化学生命工学プログラム
神経生物学研究室 准教授 松田信爾
身の回りにある遺伝子組換え作物食べても大丈夫か?
(なんとなく不安?許可されているから大丈夫?)
そもそも遺伝子組換えってどういう技術?役に立つのか?
今日の内容
1.遺伝子組み換え技術の概略(大腸菌でのタンパク質発現)
2.遺伝子組み換え動物の作製法3.RNA干渉
遺伝子組換え技術とは
ある生物(または細胞)から遺伝子を取り出し、他の生物(細胞)に導入する技術
ある生物(細胞)が本来持っていないタンパク質を発現(持つように)させることができる。
ある生物が本来持っているタンパク質を欠損(持たないように)することもできる。
Figure 7-1 Essential Cell Biology (© Garland Science 2010)
DNAのACGTの4種類の塩基の配列
RNAに写し取られる(転写)
タンパク質の20種のアミノ酸配列を指定(翻訳)
DNAの塩基配列(遺伝子)を組み換えれば望みのタンパク質を細胞に合成させることができる。
通常の作物以外に体内に入ってくるのは導入したDNA、そこから転写されるRNA、翻訳されたタンパク質タンパク質が酵素である場合はその代謝産物
DNA, RNA,タンパク質の大部分は消化酵素により分解
一部例外あり(プリオンタンパク質等は分解されずに取り込まれて病気を発症しうる)
ただし、病原性が確認されているようなタンパク質を発現させる作物は作られていない。
代謝産物についても病原性が確認されているような産物を作る酵素を発現する作物は作られていない。
100%安全かは不明。数十年あるいは100年にわたって摂取し続けた場合の検証はできない。
ただし、摂取し続けた場合あるいは過剰に摂取した場合は従来の食品でも100%安全かは不明
遺伝子改変により害虫やウィルスに対する耐性をもった植物や海水の侵入する湿地など様々な環境に耐える植物、栄養価の優れた作物を作ることができる
例:ゴールデンライス
βカロテン(ビタミンAの前駆体)を作ることができるように遺伝子操作したイネ
途上国では、毎年数十万人の子供たちがビタミンAの欠乏により失明
ゴールデンライスにより軽減される可能性がある。
なぜわざわざ遺伝子改変作物を作るのか?
遺伝子組換え技術の概略(インスリンの大腸菌での作成を例に)
元来インスリンは膵臓のβ細胞で作られる。
糖尿病の治療に必要
以前はウシ・ブタなどの膵臓から精製していたが、ヒトのインスリンとはアミノ酸配列が異なるため副作用
遺伝子組換え大腸菌を用いてヒトのインスリンを大量に精製
Figure 10-13 Essential Cell Biology (© Garland Science 2010)
膵臓(pancreas)
なぜ膵臓からmRNAを抽出しcDNAを合成しなければならないのか?
分からない人は真核生物のゲノム構造について要復習(exon, intronについて)
Figure 10-15 Essential Cell Biology (© Garland Science 2010)
インスリンcDNA
インスリンcDNAの両端に結合するプライマー
鋳型
Figure 10-16 Essential Cell Biology (© Garland Science 2010)
インスリンcDNA増幅
インスリンcDNA
Figure 10-9 Essential Cell Biology (© Garland Science 2010)
増幅したインスリンcDNAをプラスミドに連結
このとき制限酵素が良く利用される
環状プラスミドDNA
制限酵素で切断
インスリンcDNA組換えプラスミドDNA
Figure 10-2 Essential Cell Biology (© Garland Science 2010)
復習:制限酵素とは
特定の配列(回文構造)をもつDNAを切断する酵素
Figure 10-6a Essential Cell Biology (© Garland Science 2010)
プライマーの末端に制限酵素の切断配列を付けておき、増幅インスリンDNA とプラスミドを同じ制限酵素で切断すれば容易に連結可能
Figure 10-10 Essential Cell Biology (© Garland Science 2010)
タンパク質発現用の大腸菌に導入しインスリンを発現・精製
プラスミド精製用の大腸菌
大腸菌委は様々な株がありプラスミド精製用に適した大腸菌株やタンパク質発現に適した大腸菌株がある。
組換えプラスミドDNAを大腸菌に導入
大腸菌を培養(多量の菌体が回収可能)
プラスミドDNAを回収
精製したプラスミドDNAを操作して変異を導入し、遺伝子を作り変えることができる
タンパク質機能に対する特定のアミノ酸の役割を研究できる
Figure 10-34 Essential Cell Biology (© Garland Science 2010)
アスパラギン酸をアラニンに置換する部位指定変異導入例 変化させるアミノ酸を指定するコドン
コドンを変化させた合成DNAプライマー
95℃にして1本鎖にし、冷却してプライマーを結合
DNAポリメラーゼによる合成
大腸菌に導入し複製
元のタンパク質 変異タンパク質
遺伝子改変動物の作製により変異タンパク質の生物個体に対する影響も解析可能
今日の内容
1.遺伝子組み換え技術の概略(大腸菌でのタンパク質発現)
2.遺伝子組み換え動物の作製法3.RNA干渉
Figure 10-35 Essential Cell Biology (© Garland Science 2010)
遺伝子改変動物:大きく分けて3種類のアイデア
どれも相同組換えを利用してゲノムに遺伝子を導入
遺伝子の置き換え変異タンパク質のみ
遺伝子のノックアウトタンパク質がなくなる
遺伝子の追加変異タンパク質と元のタンパク質
Figure 6-31 Essential Cell Biology (© Garland Science 2010)
相同組換えとは
広い領域にわたって相同な塩基配列を持つ
DNA分子間でおきる遺伝情報の交換
減数分裂の際などに見られる
母方由来の染色体父方由来の染色体
2本鎖の切断
1本鎖の露出
DNA鎖の置き換わり
DNA合成
DNAの連結
ホリデイジャンクション
DNA鎖の切断と連結
DNA鎖の組換え
Figure 10-35 Essential Cell Biology (© Garland Science 2010)
相同組換えを利用して遺伝子X欠損マウスの作製法の概略
相同なDNA配列
遺伝子Xとは無関係のDNA配列(例えばネオマイシン耐性遺伝子)
ターゲッティングベクター
Figure 10-36 (part 1 of 2) Essential Cell Biology (© Garland Science 2010)
胚性幹細胞(ES細胞)
ターゲッティングベクターを導入
ネオマイシンを含む培地で培養
組換えの起こったES cellをマウスの初期胚に
ES cellが取り込まれる
妊娠マウスの子宮内に戻す
全能性
体の一部が組換えの起こったES cellから作られたマウス(キメラマウス)が生まれる。その中に生殖細胞に組換え遺伝子をもつマウスを選ぶ 正常マウスと交配
子は組換え遺伝子を1コピーもっているはず
子同士を掛け合わせると2コピーの組換え遺伝子をもつマウスがメンデルの法則にしたがって生まれてくる
子同士を掛け合わせる
Figure 10-36 (part 2 of 2) Essential Cell Biology (© Garland Science 2010)
欠点:欠損が致死となるような遺伝子の機能解析はできない。
様々な代償作用のために機能が分からない場合がある。
作製に多くの時間と費用が掛かる。
こうして生まれたマウスは遺伝子Xを完全に欠損しており、その遺伝子が動物個体でどのような機能を果たしているかを解明する強力なツールとなる
今日の内容
1.遺伝子組み換え技術の概略(大腸菌でのタンパク質発現)
2.遺伝子組み換え動物の作製法3.RNA干渉
Figure 8-27 Essential Cell Biology (© Garland Science 2010)
細胞が持つ外来RNA(ウィルスなどに由来)を破壊する機構を利用
解決法の1つ:RNA干渉(遺伝子ノックダウン)
外来の2本鎖RNA ウィルスはその生活環の中で2本鎖RNAを形成することがよくある。
DICERによる切断
RISCの形成
相補配列を持つRNAを認識
RNAを分解
Figure 8-27 Essential Cell Biology (© Garland Science 2010)
欠損させたい遺伝子と同一の塩基配列を持つ短いRNAを細胞や生体に導入
目的のmRNA
RISCの形成
相補配列を持つRNA認識
RNAを分解
RNA干渉(遺伝子ノックダウン)の利点
動物の発生が終了してから遺伝子発現を抑えることができるため、致死となることが少なく、また代償作用も抑えられる可能性がある。
簡便で費用が安く済む
Figure 10-38a Essential Cell Biology (© Garland Science 2010)
特に、線虫では簡単に個体の遺伝子発現を制御できる
ヒトの病気の新しい治療法としても大きな可能性を秘めている。
欠点:遺伝子の発現を完全に抑えることはできない(わずかでも遺伝子は機能している)
二本鎖RNAを発現させた大腸菌を食べさせる。
腸管内に二本鎖RNAを注入する。
今日の内容
1.遺伝子組み換え技術の概略(大腸菌でのタンパク質発現)
2.遺伝子組み換え動物の作製法3.RNA干渉
補充
Figure 10-39 Essential Cell Biology (© Garland Science 2010)
遺伝子改変は菌や動物だけでなく、植物にも適用されている。
タバコの葉を切り取る
遺伝子操作したアグロバクテリウムと共に培養
アグロバクテリウム:
細胞内にプラスミドを持つ
接触した植物細胞にプラスミド上の遺伝子を導入する培地で培養カルス形成
カルス:未分化な植物細胞の集団
芽を誘導
根を誘導
遺伝子改変植物の完成
まとめ
遺伝子組換え技術とは、ある生物から遺伝子を取り出し、他の生物に導入する技術
ヒトのタンパク質を大腸菌などに作らせることもできる。また、タンパク質を構成するアミノ酸を置き換えて、天然にはないタンパク質も作ることができる。
相同組換えを利用して、動物のゲノム上の遺伝子を欠損、変化させることができる。
ゲノム上の遺伝子を変化させることなく、特定のタンパク質の合成を抑えることがRNA干渉を利用することで可能になって来ている。(これは病気の治療にも有望)
遺伝子組換え植物は比較的簡単に作成でき、農業分野で実際に使われている。(安全性に関しては議論もある一方、有用性もある。)