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生物薬剤学講座
児玉庸夫
3年次後期 専門科目群Ⅰ(必修科目) 2単位
臨床薬理学8回目
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臨床薬理学は薬物治療学を支える基礎として機能する
臨床薬理学
薬物治療学
臨床薬物動態学 医療薬学
例えば、TDMや薬物相互作用例えば、調剤、製剤、服薬指導、在宅医療における訪問薬剤管理指導
治療薬や用量などの薬物治療の個別化
臨薬
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臨床薬理学は医薬品開発や臨床薬効評価などを行う学問である
医薬品開発
厚生労働省は、薬事法に基づき医薬品としての承認の可否を判断する
臨床薬効評価 臨床試験(治験)例えば、臨床試験では、どのような方法で有効性(エンドポイント)を評価するか
例えば、どの種類の臨床試験をどの時期に行うか
例えば、治験の科学性、倫理性、信頼性をどのようにして確保するか
臨薬
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講義の内容(1)
• 第1回 臨床薬理学の役割、医薬品開発の歴史とコンセプト
• 第2回 医薬品市場と開発すべき医薬品(小テスト)
• 第3回 標的生体分子とリード化合物(小テスト)
• 第4回 医薬品の製造と品質管理(小テスト)
• 第5回 医薬品開発における非臨床試験 (小テスト)
• 第6回 医薬品の承認 (小テスト)
• 第7回 医薬品開発と生産のながれ、及びリード化合物のまとめと演習(中間テスト)
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講義の内容(2)
• 第8回 薬害(小テスト)
• 第9回 治験の意義と業務(1)(小テスト)
• 第10回 治験の意義と業務(2)(小テスト)
• 第11回 治験における薬剤師の役割(小テスト)
• 第12回 治験の意義と業務(3)(小テスト)
• 第13回 演習
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第8回 薬害• 代表的な薬害の事例について、その原因と社会
的背景を説明できる。また、演習によりこれらを回避するための手段を提案できるようになる
• 薬剤師国家試験医1T-a、有害事象と副作用医1T-b、副作用発現に影響する因子医1T-f、薬害医2A-d、代謝法2D-a、安全な血液製剤の安定供給の確保等
に関する法律法3B-g、市販後調査制度法3B-i、生物由来製品の特例法3B-j、監督
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医薬品の安全性に関連する用語
• 有害事象 adverse event
• 薬物有害反応 adverse drug reaction(ADR)
○薬事法では、副作用の用語を薬物有害反応に対応する意味で用いている
○医薬品添付文書の「使用上の注意」欄の副作用は薬物有害反応を示す
• 毒性 toxicity
8
医薬品の毒性• 動物を用いた試験(非臨床試験)で医薬品
の安全性を評価する
• 単回投与毒性試験、反復投与毒性試験、遺伝毒性試験、がん原性試験、生殖発生毒性試験、局所刺激性試験、及びその他の毒性試験がある
• 臨床推奨用量を超える複数用量を動物に投与し、急性の毒性徴候が認められる用量(単回投与毒性試験)、毒性変化が認められる用量(毒性量)及び毒性変化が認められない用量(無毒性量)(反復投与毒性試験)等を検討する
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医薬品の有害事象
• 医薬品を投与された患者に生じたすべての好ましくない、又は意図しない疾病又はその徴候 (臨床検査値の異常を含む)
• 投与された医薬品との因果関係の有無を問わない
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薬物有害反応(副作用)
• 疾病の予防、診断、治療、又は生理機能の調整のために用いられる通常の投与量範囲で生じる有害で意図しない反応(臨床検査値の異常を含む)
• 投与された医薬品との因果関係を否定できないもの
• 薬事法(医薬品添付文書)では、副作用の用語を薬物有害反応に対応する意味で用いている(薬物有害反応=副作用)
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医薬品の安全性評価
毒 性有害事象薬物有害反応(副作用)
臨床推奨用量付近で評価される
ヒ ト 動 物
臨床推奨用量を超える用量で評価される
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薬害は第Ⅳ相で発生する
研究開発段階
非臨床試験
品質試験
初回治験届
30日
臨床試験(治験)
2~10年(平均 5年)
第Ⅰ相
第Ⅱ相
第 Ⅲ 相
新薬承認申請
(規格・安定性)
承認審査
治験薬概要書Investigator’s Brochure
CommonTechnicalDocument
国際共通化資料
(薬理・薬物動態・毒性)
承認
製造販売後
薬害は医薬品として承認され、製造販売された後に発生する健康被害である
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薬害(1)
• 薬害は、避けられない副作用(薬物有害反応)の発生を意味するものではない
• 薬害とは、副作用(薬物有害反応)に関する情報が十分意識されずに医薬品が使用された結果生じた健康被害のうち、社会問題化したものをいう
• 薬害は、薬物自身の問題でなく薬物使用段階の問題である
薬8
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薬害(2)• 医薬品の使用により、重篤な健康被害(死亡、治
療のため入院加療が必要等)が発現したことを意味する
• 製薬企業、規制当局、及び医療機関の3者に関連した人災的要素を含む
• 医薬品の使用による薬物有害反応(副作用)(サリドマイドによる四肢奇形等)や感染症(非加熱血液製剤によるエイズ)が発現する
• 被害者は、医薬品副作用被害救済制度の救済対象である
• 輸血用血液製剤やワクチンなどによる感染等の被害者は、生物由来製品感染等被害救済制度(平成16年4月創設)の救済対象である
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日本における主な薬害
• 1962年、サリドマイド販売停止:胎芽病(四肢奇形)の原因
• 1970年、キノホルム販売停止:スモン(SMON、亜急性・脊髄・視神経・末梢神経障害)の原因
• 1974年、クロロキン製造中止:網膜症の原因
• 1985年、非加熱血液製剤を回収せず:エイズの原因
• 1993年、ソリブジン販売停止:5-FU系抗がん剤の代謝を阻害したため骨髄抑制発現
• 2006年裁判中:非加熱フィブリノゲン製剤及びその後の一部の加熱フィブリノゲン製剤(出産時の止血剤として投与) :C型肝炎の原因
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サリドマイドによる四肢奇形
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サリドマイドの開発と回収(外国と日本)
• スイスのチバ製薬で1953年にグルタミン酸誘導体として誕生
• 西ドイツのグリュネンタール社が1954年に合成
• EU諸国で、1957年「コンテルガン」の販売名(グリュネンタール社)で睡眠薬、精神安定剤として発売、1961年11月27日に販売中止・回収開始
• 日本で、1958年「イソミン錠」の販売名(大日本製薬)で、睡眠薬として、1960年「プロバンM」の販売名(大日本製薬)で、神経性胃炎薬(妊娠時のつわりに使用された)として発売、1962年9月18日に販売中止・回収開始
• 四肢奇形の被害者数(全世界で5800名、うち30%は死産のため四肢奇形は4000名程度)
薬8
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立体異性体間で異なる性質(2)
• サリドマイド胎芽病は、妊娠初期(受胎後30~40日)にサリドマイドを摂取することにより発生する奇形。先天性短肢症、特に上肢の低形成である「あざらし肢症」がよく知られている
• (S)-サリドマイドは催奇形性があると考えられている
• (R)-サリドマイドを投与すると、生体内でラセミ化するため、(S)-サリドマイドも体内に存在するといわれている
サリドマイド
ラセミ体として
販売された 薬8
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外国事例1 四肢奇形はサリドマイドによる影響であるとのレンツ報告(1)
• 四肢奇形児を出産した母親で、サリドマイドを服用した者は90人、服用しなかった者は22人である
• 正常児を出産した母親で、サリドマイドを服用した者は2人、服用しなかった者は186人である
↓
四肢奇形児の出産は、危険因子(リスク因子)であるサリドマイドによる影響を受けたと判定できるか
斉藤
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外国事例1 四肢奇形はサリドマイドによる影響であるとのレンツ報告(4)
事象あり奇形児出産
事象なし正常児出産
曝露ありサリドマイド服用
a
90
b
2
曝露なしサリドマイド非服用
c
22
d
186
オッズ 90/22 2/186
オッズ比(OR)a/c÷b/d=ad/bc → 90/22÷2/186=380.45
(95%信頼区間は不明)斉藤
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外国事例1 四肢奇形はサリドマイドによる影響であるとのレンツ報告(8)
• 算出したオッズ比からの判定
①四肢奇形はサリドマイドによる影響を受ける
根拠:オッズ比が380.45と高い値である
参考
• オッズ比は、疾患・副作用などが危険因子(リスク因子)による影響を受けたか考察する際に重要である
• オッズ比が1.0以上は、罹患に影響を及ぼすとされた因子は危険因子(リスク因子)であることを意味する
斉藤
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サリドマイド被害ーEUなどの場合
• 1960年頃、EU諸国で重症の四肢奇形が増加
• 1961年6月頃、ハンブルク大学小児科講師レンツ氏(W.Lenz)が、奇形児を出産した夫婦から聴き取り調査を行い、コンテルガン(サリドマイドの販売名)と四肢奇形との関係を疑う「レンツ警告」
• 1961年11月27日、グリュネンタール社はEU諸国でコンテルガンを販売中止・回収開始
• 被害者数(死産を除いて、西ドイツ3049名、英国201名、カナダ115名、スウェーデン107名、ブラジル99名、イタリア86名、合計3657名)
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サリドマイド被害ー米国の場合• 1960年9月頃、 FDA(米国食品医薬品局)に対
してサリドマイド発売申請が行われた
• FDA(米国食品医薬品局)の新薬部門審査官フランシス・ケルシー(F.Kelsey)は、サリドマイドによる末梢性神経に対する副作用(手足の震え、しびれ)に注目し、承認に慎重な姿勢を示した(承認の決定を引き延ばした)
• 1961年11月27日、グリュネンタール社はEU諸国でコンテルガンを販売中止・回収開始
• その結果、米国でサリドマイドによる胎児奇形発生の報告は10数名である
薬8
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サリドマイド被害ー日本の場合• EU諸国で、1961年11月27日グリュネンタール社はコ
ンテルガンを販売中止・回収開始
• 1962年5月、大日本製薬はサリドマイド製剤の販売を中止したが回収せず、薬局で入手可能な状態が続いた
• 1962年7月21日、北海道大学医学部小児科講師、梶井正氏のサリドマイドによる奇形児の論文が、医学雑誌「ランセット」に掲載された
• 1962年8月26日、読売新聞がサリドマイドによる奇形児の発生を報道
• 1962年9月18日、大日本製薬はイソミン錠、プロバンM(臭化プロパンテリン配合)を回収開始
• 被害者数(死産を除いて、日本309名)薬8
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日本でのサリドマイド被害の教訓(1)ー販売中止・回収が遅れたー
• EU諸国では、1961年11月27日にサリドマイド製剤を販売中止・回収開始。日本では、1962年9月18日にサリドマイド製剤を回収開始(EU諸国に比べ、販売中止・回収開始が294日遅れた)
• 日本のメディアは、EU諸国でのサリドマイド販売中止・回収開始情報を1962年8月26日に初めて報道した(メディアの無関心)
• サリドマイドは、妊娠1-2月の服用で胎児に障害を起こすため、日本でもEU諸国と同時に回収したとすると、日本の患者数は95名程度に留まり、1962年以降に生まれた214名の患者の発生は、ごく少数であったと推定される
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日本でのサリドマイド被害の教訓(2)ー医薬品の毒性評価が不十分ー
• 1958年(サリドマイド製剤発売時)には、医薬品の承認にあたり、生殖発生毒性(動物)の試験成績の提出は必要とされなかったため、非臨床試験(動物)でサリドマイドによる生殖発生毒性の一つである四肢奇形の発生を検討していなかった(当時の科学的水準)
• 1963年4月、「胎児に及ぼす影響に関するガイドライン」が発出され、医薬品の承認申請にあたり、次世代動物に及ぼす影響に関する試験成績の提出が必要となった
• 1967年、「医薬品の製造承認等の基本方針」が発出され、医薬品の承認申請にあたり、生殖発生毒性(動物)の試験成績の提出を規定した
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日本でのサリドマイド被害の教訓(3)ー一般用医薬品としての要件を満たさなかったー
• 日本では、安全性が確認された医療用医薬品のうち、再審査もしくは再評価が終了したものについて、一般用医薬品への転用(スイッチOTCという)を認めている
• 大日本製薬はサリドマイド製剤の販売を中止したが回収せず、薬局で入手可能な状態が続いたことから、臨床使用経験の少ない新薬は、容易に一般用医薬品へ転用(スイッチOTCという)しないようすべきである(スイッチOTC薬の要件)
薬8
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甦るサリドマイド• 1998年、 FDA(米国食品医薬品局)は、厳密な条件
つきでサリドマイドを承認した
• サリドマイドは国内未承認薬であるが、医師の個人輸入が急増したことに対する対策をとる必要があった(2003年度:53万錠を個人輸入)
• 2004年12月10日、厚生労働省は「多発性骨髄腫(血液のがん)に対するサリドマイドの適正使用ガイドライン」を公表した(責任医師と責任薬剤師を日本血液学会に登録し、サリドマイドの使用を厳重に管理)
• 2005年1月21日、厚生労働省はサリドマイドを「希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)」に指定した
• 2006年8月、開発会社により、多発性骨髄腫に対する効能・効果取得のため、製造販売承認申請された
薬8
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キノホルムによるスモン(SMON)
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キノホルムによるスモンの症状SMON:亜急性・脊髄・視神経・末梢神経障害、Subacute Myelo-optico-neuropathy)
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キノホルムの開発と回収(日本)(1)
• 1900年、スイスで、外用の殺菌剤としてキノホルムの販売が開始された(外国のスモン患者は約200名)
• 1936年(昭和11年)、キノホルムを劇薬に指定
• 1939年(昭和14年)、キノホルムを普通薬として「日本薬局方」に収載。整腸剤、下痢止め剤として使用された
• 1963年(昭和38年)~1970年(昭和45年)、日本各地でスモン(SMON:亜急性・脊髄・視神経・末梢神経障害、Subacute Myelo-optico-neuropathy)が多発(約10000名)し、ウイルスを原因とする「スモン感染説」が主流になると、患者とその家族は著しい社会的差別をうけた
薬8
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キノホルムの開発と回収(日本)(2)
• 1969年(昭和44年)、厚生省はスモン調査研究会議を設置し、原因究明を開始した
• 1970年(昭和45年) 、患者尿から結晶化したキノホルムが検出され、スモン=キノホルム中毒説が登場した
• 1970年(昭和45年)9月 、厚生省はキノホルム製剤の販売中止措置をとった
薬8
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キノホルムの開発と回収(日本)(3)
• 被害者数(1971年(昭和46年)までに11,127名)→外国のスモン患者は約200名
• この薬害をきっかけに薬事法が改正され、医薬品副作用被害救済制度が創設された
• 2000年(平成12年)4月1日現在、医薬品副作用被害救済制度による健康管理手当の受給者は3,187名
薬8
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スモンの教訓(日本)(1)ー社会的差別ー
• スモンは1955年頃から散発し、1967~1968年の大量発生で社会の注目を集め、「奇病」(ウイルス)として恐れられ、「スモン感染説」が主流になると、患者とその家族は著しい社会的差別をうけた
• 1970年8月6日、新潟大学の椿忠雄教授が、疫学的調査を踏まえてスモン=キノホルム原因説を提唱するまで、「奇病」として恐れられた
薬8
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スモンの教訓(日本)(2)ー医薬品の安全性評価が不十分ー
• 外国のスモン患者は約200名であるが、国内患者数は10000名を超している。外国では外用の殺菌剤としての使用であったが、国内では整腸剤、下痢止め剤の内用剤として幅広い使用を認めたことによると考えられる
• 医薬品の適応拡大(外用剤→内用剤)にあたっては、安全性の検討(毒性試験)が必要であることを示している(その後の動物実験により、キノホルムがスモンの症状を引き起こすことが確認された)
薬8
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クロロキンによる網膜症
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クロロキンの使用と回収
• 米国で、マラリヤの特効薬として開発された
• 日本ではマラリア治療以外に、 1958年以降に慢性腎炎、リウマチ、てんかんなどに適応拡大され、長期投与が行われるようになるとクロロキン網膜症が発生し始め、推定患者数は1000~2000名といわれている(適応拡大による被害者の増加はスモンとの共通点である)
• 1974年、日本で製造中止
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非加熱血液製剤によるエイズウイルス(HIV)感染
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薬害エイズ事件(米国)
• 1982年(昭和57年)7月、米国で非加熱血液製剤を投与された血友病患者について、ヒト免疫不全ウイルス( HIV 、Human Immunodeficiency Virus)によるエイズ感染の可能性が報告された(AIDS:Acquired Immunological Deficiency Syndrome、後天性免疫不全症候群)
• 1983年(昭和58年)、米国政府は、エイズ感染の可能性のある人たちの血液を血友病患者に使わないよう勧告し、同時に肝炎ウイルス対策として開発されていた加熱処理の血液製剤を認可して、非加熱製剤から切り替えた
• その結果、余った非加熱製剤が市場を求めて日本に殺到した
薬8
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薬害エイズ事件(日本)(1)
• 日本における血友病患者のHIV大量感染は1983年から始まり、1985年末に加熱血液凝固第Ⅷ因子、第Ⅸ因子製剤が認可されるまで続いた
• 1985年(昭和60年)12月、厚生省は安全な加熱血液製剤を承認したが、危険な非加熱血液製剤について、回収命令を出さなかった
• 患者は、血友病自体に加えて、肝炎ウイルスやHIVの感染、さらに“感染する”というおそれから派生する社会的な患者差別により苦しんだ
薬8
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薬害エイズ事件(日本)(2)
• 1989年、薬害エイズ訴訟により、国と製薬会社の責任が追求された
• 1996年、厚生大臣が法的責任を認めて被害者に謝罪し、和解が成立した
• 被害者数(2003年5月末現在、感染者1,434名、うち564名が死亡)
薬8
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薬害エイズ事件の教訓(日本)(1)ー安全性情報の収集・評価が不十分ー
• 米国で1982年に非加熱血液製剤による血友病患者へのエイズ感染の可能性が報告されたが、当時の日本ではエイズ感染の危険性に対する切迫感が薄かったため、非加熱製剤の使用を継続した
薬8
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薬害エイズ事件の教訓(日本)(2)ー非加熱製剤を回収しなかったー
• 1985年(昭和60年)12月、厚生省は安全な加熱血液製剤を承認したが、危険な非加熱血液製剤について、回収命令を出さなかったため、被害が拡大した(薬害エイズ事件の裁判では、厚生省の担当課長が非加熱血液製剤の回収命令を出さなかったことが争点となっている)
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薬害エイズ事件の教訓(日本)(3)ー血液製剤の使いすぎー
• 日本は、人口に比べて世界の血液製剤消費に占める割合が高く(使用量の90%以上を輸入していた)、安易にこれを消費する傾向があり、そのため血友病だけでなく各種の病気や手術後の出血予防に血液製剤を投与し、HIV感染被害を拡大することになったため、血液製剤の適正使用につとめる必要がある
薬8
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• 新薬の製造販売後は、治験段階とは異なる医療環境で使用される
○医師は新薬の有効性・安全性を熟知していない可能性がある
○治験で対象とされた患者背景と異なる背景(併用薬、合併症、年齢、性別、特殊な患者群)を有する患者に対して使用される
○臨床試験(治験)では、通常、妊婦や小児は対象から除外されるので、製造販売後の調査において、これらのデータを収集することが重要である
○投与される患者数は短期間に増大する
新薬製造販売後の安全性上の問題点(1)
46
• 製造販売後短期間で治験段階では予想されなかった重篤な副作用(薬物有害反応)が発生する可能性がある
• 未知で重篤な副作用(薬物有害反応)等により新薬が医療の場から回収、販売中止される可能性がある
新薬製造販売後の安全性上の問題点(2)
47
製造販売前・製造販売後を通じた医薬品評価製造販売前
承認審査
有効性と安全性の基本的評価
毒性試験薬理試験薬物動態試験第Ⅰ相試験第Ⅱ相試験第Ⅲ相試験
再審査
使用成績調査特定使用成績調査製造販売後臨床試験
臨床的特性の明確化
再評価 医療上の評価の確立(薬剤疫学的評価?)
市販直後調査
副作用・感染症報告(企業+医療機関・薬局)(随時)
有効性・安全性
安全性
製造販売後
安全性定期報告(再審査期間中)
通常6年後
感染症定期報告
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副作用・感染症報告制度-全体-
• 市販直後調査制度(医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の製造販売後安全管理の基準に関する省令、GVP)
• 企業報告制度(薬事法77条の4の2、薬事法施行規則253条)
• 医薬品・医療機器等安全性情報報告制度(薬事法77条の4の2)
• 安全性定期報告制度(薬事法施行規則63条)
• 感染症定期報告制度(薬事法68条の8、薬事法施行規則236条)
• WHO国際医薬品モニタリング制度
よ改
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製造販売前・製造販売後を通じた医薬品評価製造販売前
承認審査
有効性と安全性の基本的評価
毒性試験薬理試験薬物動態試験第Ⅰ相試験第Ⅱ相試験第Ⅲ相試験
再審査
使用成績調査特定使用成績調査製造販売後臨床試験
臨床的特性の明確化
再評価 医療上の評価の確立(薬剤疫学的評価?)
市販直後調査
副作用・感染症報告(企業+医療機関・薬局)(随時)
有効性・安全性
安全性
製造販売後
安全性定期報告(再審査期間中)
通常6年後
感染症定期報告
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• 実施期間は、製造販売業者が販売を開始した後の6ヵ月間
• 製薬企業は新薬納入2週間前に医療機関に対して新薬の適正使用に必要な情報を確実に提供○MRが医療機関を訪問して必要な情報を確実に提供
• 医療機関に対して重篤な副作用が発生した場合の迅速な報告を要請○MRが医療機関を訪問して迅速な副作用報告を要請
• 納入後6ヵ月間は医療機関に対して繰り返し適正使用と重篤な副作用報告を要請○MRが医療機関を定期的に訪問するなどにより要請
副作用・感染症報告制度-市販直後調査制度-
(医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の製造販売後安全管理の基準に関する省令、GVP)
51
製造販売前・製造販売後を通じた医薬品評価製造販売前
承認審査
有効性と安全性の基本的評価
毒性試験薬理試験薬物動態試験第Ⅰ相試験第Ⅱ相試験第Ⅲ相試験
再審査
使用成績調査特定使用成績調査製造販売後臨床試験
臨床的特性の明確化
再評価 医療上の評価の確立(薬剤疫学的評価?)
市販直後調査
副作用・感染症報告(企業+医療機関・薬局)(随時)
有効性・安全性
安全性
製造販売後
安全性定期報告(再審査期間中)
通常6年後
感染症定期報告
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副作用・感染症報告制度-企業報告制度ー
(薬事法77条の4の2、薬事法施行規則253条)
・製薬企業が、製造販売後調査で医療機関等から得た副作用・感染症情報、文献から得た研究報告等を収集し、厚生労働大臣に報告する制度
・未知・重篤な副作用症例(国内外)、重篤な感染症症例(国内外)、及び外国の規制情報は15日以内に報告すること
・未知・中等度の副作用(国内)、感染症症例(国内)、既知・重篤の副作用症例(国内)、及び研究報告については30日以内に報告すること
よ改
53
製造販売前・製造販売後を通じた医薬品評価製造販売前
承認審査
有効性と安全性の基本的評価
毒性試験薬理試験薬物動態試験第Ⅰ相試験第Ⅱ相試験第Ⅲ相試験
再審査
使用成績調査特定使用成績調査製造販売後臨床試験
臨床的特性の明確化
再評価 医療上の評価の確立(薬剤疫学的評価?)
市販直後調査
副作用・感染症報告(企業+医療機関・薬局)(随時)
有効性・安全性
安全性
製造販売後
安全性定期報告(再審査期間中)
通常6年後
感染症定期報告
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副作用・感染症報告制度-医薬品・医療機器等安全性情報報告制度-
(薬事法77条の4の2)
・すべての医療機関および薬局から、副作用、感染症および不具合の情報を厚生労働省に直接報告する制度
・医療機関や保険薬局は、医薬品・医療機器等安全性情報報告制度の対象である
・平成14年の薬事法改正により、医薬関係者は医薬品や医療機器による副作用、感染症等の発生を知った場合において、必要があると認めるときは、その旨を厚生労働大臣に報告しなければならない(平成15年7月施行)
・従来の医薬品副作用モニター制度、医療用具モニター制度、および薬局モニター制度を統合したもの
よ改
55
製造販売前・製造販売後を通じた医薬品評価製造販売前
承認審査
有効性と安全性の基本的評価
毒性試験薬理試験薬物動態試験第Ⅰ相試験第Ⅱ相試験第Ⅲ相試験
再審査
使用成績調査特定使用成績調査製造販売後臨床試験
臨床的特性の明確化
再評価 医療上の評価の確立(薬剤疫学的評価?)
市販直後調査
副作用・感染症報告(企業+医療機関・薬局)(随時)
有効性・安全性
安全性
製造販売後
安全性定期報告(再審査期間中)
通常6年後
感染症定期報告
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副作用・感染症報告制度-安全性定期報告制度-(薬事法施行規則63条)
・新医療用医薬品の場合、製薬企業は再審査期間中(通常6年)に、製造販売後調査として副作用その他の使用の成績等に関する調査を行い世界各国からの安全性情報を収集し、厚生労働大臣に報告
・ 初の2年間は半年ごと、その後は1年ごとに報告
・調査期間および調査症例数、調査結果の概要および解析結果、副作用等の種類別発現状況・発現症例一覧等を報告
よ改
57
製造販売前・製造販売後を通じた医薬品評価製造販売前
承認審査
有効性と安全性の基本的評価
毒性試験薬理試験薬物動態試験第Ⅰ相試験第Ⅱ相試験第Ⅲ相試験
再審査
使用成績調査特定使用成績調査製造販売後臨床試験
臨床的特性の明確化
再評価 医療上の評価の確立(薬剤疫学的評価?)
市販直後調査
副作用・感染症報告(企業+医療機関・薬局)(随時)
有効性・安全性
安全性
製造販売後
安全性定期報告(再審査期間中)
通常6年後
感染症定期報告
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副作用・感染症報告制度-感染症定期報告制度 -
(薬事法68条の8、薬事法施行規則236条)
・製薬企業は、生物由来製品(輸血用血液製剤やワクチンなど)について、感染症情報を収集し厚生労働大臣に報告
・承認を受けた日等から半年ごとに報告
・調査期間、出荷数量、研究報告、感染症の種類別発生状況及び発生症例一覧、措置、見解等を報告
よ改
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副作用・感染症報告制度-WHO国際医薬品モニタリング制度-
・各国が収集した副作用情報を国際的に収集し、安全性に関する情報を交換する制度
・日本は、国内の医薬品等安全性情報報告制度で得られた情報をWHOの協力センターへ報告したり、特定の医薬品の副作用についてWHOから意見を求められた場合にコメントをする等の活動を行っている
・平成14年12月現在の加盟国は日本を含め70カ国
よ改
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第8回講義の結論(1)
• 薬害は、避けられない副作用(薬物有害反応)の発生を意味するものではない
• 薬害とは、副作用(薬物有害反応)に関する情報が十分意識されずに医薬品が使用された結果生じた健康被害のうち、社会問題化したものをいう
• 薬害は、薬物自身の問題でなく薬物使用段階の問題である
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第8回講義の結論(2)
• 日本における主な薬害
○サリドマイド製剤によるサリドマイド胎芽病:四肢奇形(厚生省は1962年に販売停止を指示)
○クロロキンによる網膜症(厚生省は1974年に販売停止を指示)
○キノホルム製剤によるスモン(SMON:亜急性・脊髄・視神経・末梢神経障害)(厚生省は1970年に販売停止措置)
○非加熱血液製剤による薬害エイズ事件)(厚生省は1985年12月安全な加熱血液製剤を承認したが、危険な非加熱血液製剤について、回収命令を出さなかった)
• 薬害の被害者は、医薬品副作用被害救済制度の救済対象である
• 輸血用血液製剤やワクチンなどによる感染等の被害者は、生物由来製品感染等被害救済制度(平成16年4月創設)の救済対象である
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第8回講義の結論(3)
• サリドマイド被害の教訓として、日本では1962年9月18日に回収を開始したため、EU諸国などに比べ販売中止・回収開始が294日遅れ、被害者の増加に繋がった(販売中止・回収が遅れた)
• 1958年(サリドマイド製剤発売時)には、医薬品の承認にあたり、生殖発生毒性(動物)の試験成績の提出は必要とされなかったため、四肢奇形の発生を検討していなかった(当時の科学的水準)
• 大日本製薬はサリドマイド製剤の販売を中止したが回収せず、薬局で入手可能な状態が続いたことから、臨床使用経験の少ない新薬は、容易に一般用医薬品へ転用(スイッチOTCという)しないようすべきである(スイッチOTC薬の要件)
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第8回講義の結論(4)
• 日本におけるスモンの教訓として、スモンは1955年頃から散発し、1967~1968年の大量発生で社会の注目を集め、「奇病」(ウイルス)として恐れられ、「スモン感染説」が主流になると、患者とその家族は著しい社会的差別をうけた(社会的差別)
• 外国のスモン患者は約200名であるが、国内患者数は10000名を超している。キノホルムは外国では外用の殺菌剤としての使用であったが、国内では整腸剤、下痢止め剤の内用剤として幅広い使用を認めたことによると考えられる。医薬品の適応拡大(外用剤→内用剤)にあたっては、安全性の検討(毒性試験)が必要であることを示している(医薬品の安全性評価が不十分)
• クロロキンは、日本ではマラリア治療以外に、 1958年以降に慢性腎炎、リウマチ、てんかんなどに適応拡大され、長期投与が行われるようになるとクロロキン網膜症が発生し始め、推定患者数は1000~2000名といわれている(適応拡大による被害者の増加はスモンとの共通点である)
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第8回講義の結論(5)
• 日本における薬害エイズ事件の教訓として、米国で1982年に非加熱血液製剤による血友病患者へのエイズ感染の可能性が報告されたが、当時の日本ではエイズ感染の危険性に対する切迫感が薄かったため、非加熱製剤の使用を継続した(安全性情報の収集・評価が不十分)
• 1985年(昭和60年)12月、厚生省は安全な加熱血液製剤を承認したが、危険な非加熱血液製剤の回収命令を出さなかったため、被害が拡大した(非加熱製剤を回収しなかった)
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第8回講義の結論(6)
• 医薬品等の製造販売後の安全性確保対策には、
①市販直後調査制度(GVPで規定)
②企業報告制度(薬事法77条の4の2)
③医薬品・医療機器等安全性情報報告制度(薬事法77条の4の2)
④安全性定期報告制度(薬事法施行規則63条)
⑤感染症定期報告制度(薬事法68条の8)
⑥WHO国際医薬品モニタリング制度
がある