天文地球物理学Ⅰ 2018年度
1.宇宙論の変遷
ⅩⅣ.宇宙論
・天地創成神話
(天の神ヌトと地の神ゲブを気の神シューが引き離して世界が創成) ・太陽や月は舟に乗って天を横切る
1.1.古代の宇宙論
●古代エジプトの宇宙観
●古代バビロニアの宇宙観
・天地創造の神マルドゥックが作った天球に星ぼしが張り付いている
・周囲が海で外周のアララト山で神の世界と隔てられている
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●古代インドの宇宙観
・世界は半球形と考えられ、ゾウが世界を支え、ゾウはカメの上に乗り、世界の周囲をヘビが取り巻く
・中央には須弥山、周囲は九山八海、太陽や月は中腹を回る
●古代ギリシアの宇宙観
自然哲学派(ピタゴラス派):
・幾何学的宇宙像(惑星ごとに天球、天球の自転、恒星天⇒同心天球説) ・集大成プトレマイオスの周天円説
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1.2.中世~近代の宇宙論
●コペルニクスの転回
⇒地動説:地球は宇宙の中心ではない(17世紀)
・ティコ・ブラーエの観測 ・ガリレオの望遠鏡観測 →ケプラーの法則 ・ジョルダーノ・ブルーノ 宇宙は無限・一様等方 (宇宙論原理)
●ニュートンの万有引力
・(著書:プリンキピア) →天体力学の確立=近代宇宙論
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1.3.現代の宇宙論の成立
●ニュートン力学による宇宙(19世紀末)
→絶対時間・絶対空間
→エーテル(電磁波の伝搬媒体)が空間に満ちる=絶対空間
●マイケルソン・モーリー実験
→光の速度は方向によらない
(絶対空間の否定)
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・特殊相対論: →光速度一定
→慣性系では物理法則が同じ形をとる(絶対空間の否定)
・一般相対論: →物理法則はどの座標系でも同じ形
→重力と加速度系での力は同じ(等価原理)
・宇宙論への応用: 一般相対論の基本方程式
+
宇宙論原理
(宇宙は一様・等方、静的)
・アインシュタインの宇宙モデル
(静的にするため宇宙項という定数を導入)
●相対性理論(20世紀初頭)
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●宇宙膨張の発見
ハッブル・ルメートルの法則
(遠方銀河は後退する) ⇒宇宙膨張の発見
宇宙は静的の仮定をはずす
フリードマンのモデル
(膨張を続けるか膨張・収縮する) ⇒宇宙の質量によって運命が決まる
●ビッグバン宇宙論の確立
[定常宇宙論] (ホイルら) VS [進化宇宙論](ガモフら)
・宇宙背景放射の発見: ペンジアス・ウィルソン(1965年) →宇宙初期の高温の名残 ⇒膨張宇宙の証拠 (ビッグバン・モデルの確立)
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ⅩⅣ.宇宙論 1.宇宙論の変遷
相対性理論
・古代エジプト、・古代バビロニア
・古代インド、・古代ギリシア
各地に神話ベースの宇宙観
1.1.古代の宇宙論
1.2.中世~近代の宇宙論
・コペルニクスの地動説への転回
・ニュートンの万有引力の法則
⇒ の確立
1.3.現代の宇宙論の成立
・ による宇宙モデル
・宇宙膨張の発見
⇒ビッグバン宇宙論の確立
天体力学
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2.ハッブル・ルメートルの法則と宇宙膨張
・ハッブルの発見:遠方銀河のスペクトルは赤方偏移
遠方銀河ほど赤方偏移が大きい
・赤方偏移=ドップラー効果なら
・銀河は後退速度を持つ
↕
・距離データと比較
⇒後退速度∝距離
↓
・後退速度=距離×定数
(定数をハッブル定数という、
~67.8±0.9km/s/Mpc)
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・ハッブル・ルメートルの法則の解釈:宇宙は膨張している
(宇宙空間そのものの膨張) ・時間を遡ると宇宙全体が1点に収縮=宇宙の始まり(~138億年前)
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2.ハッブル・ルメートルの法則と宇宙膨張
・遠方銀河ほど が大きい
・赤方偏移=ドップラー効果なら
距離データとの比較から、
⇒後退速度=距離×定数
(定数をハッブル定数という、
~67.8±0.9km/s/Mpc)
・ハッブル・ルメートルの法則の解釈: ⇒宇宙は膨張している
(空間そのものの膨張) ・時間を遡ると、
宇宙全体が1点に収縮
=宇宙の始まり
(~138億年前)
赤方偏移
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3.ビッグバン宇宙モデル
3.1.ビッグバン宇宙モデルの成立
・アインシュタインの一般相対論
(アインシュタイン方程式): 物質と時空の関連付け可能に
⇒宇宙全体へ適用:相対論的宇宙モデル
【アインシュタイン方程式の解】 ・静止宇宙モデル(宇宙項) (アインシュタイン,1917) ・膨張宇宙モデル(宇宙項なし) (フリードマン,1922) ・膨張宇宙モデル(宇宙項) (ルメートル, 1927)
・膨張宇宙モデル(宇宙項がない場合): ⇒「閉じた宇宙、平坦な宇宙、開いた宇宙」の3つの可能性
・膨張宇宙モデル(宇宙項あり=斥力)では次第に加速膨張
𝑅𝜇𝜈 −1
2𝑅𝑔𝜇𝜈 + Λ𝑔𝜇𝜈 =
8𝜋𝐺
𝑐4𝑇𝜇𝜈
(10本の連立偏微分方程式)
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【進化宇宙論】 ・ガモフはルメートルの膨張宇宙
に基づき宇宙は高温高密度から
時間と共に進化してきたと考えた
=ビッグバン理論
(ビッグバンは論敵の嘲笑的命名)
【定常宇宙論】 ・ホイルは遠ざかる銀河の跡には
新しい物質が産まれるとする
説を唱えた(定常宇宙説)
観測的証拠(次節)によりビッグバン宇宙論が定説に
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3.2.宇宙背景放射
【ビッグバン宇宙論による宇宙進化のシナリオ】
・始めは光と素粒子の熱いスープ(電子、陽子、ニュートリノなど) ・最初の3分間で水素、ヘリウムなどの軽元素が作られた
・30万年経って宇宙が晴れ上がる(温度は約1000K) ・約10億年経って星・銀河形成
⇒晴れ上がり時の電磁波は今も宇宙に存在=宇宙背景放射
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宇宙膨張による冷却
→電磁波も低温に
→現在の宇宙背景放射
温度で~3K
波長でマイクロ波電波
宇宙背景放射は(ほぼ)等方
→わずかな揺らぎ
(1/10000 程度) →星・銀河などの元?
COBE衛星による揺らぎ PLANCK衛星による揺らぎ
●観測の精密化により宇宙年齢推定も精密化(現在は 138億年)
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3.ビッグバン宇宙モデル
3.1.ビッグバン宇宙モデルの成立
【アインシュタイン方程式の解】 ・閉じた宇宙(いずれ収縮) ・平坦な宇宙(膨張は鈍化) ・開いた宇宙(永遠に膨張)
定常宇宙論との論争があったが
進化宇宙論の観測証拠があがった
3.2.宇宙背景放射 【ビッグバンによるシナリオ】 ・光と素粒子の熱いスープ
・3分で水素、ヘリウムなど
・30万年で宇宙晴れ上がり
⇒宇宙背景放射
(3Kの ) ・約10億年経って星・銀河形成
COBE衛星による揺らぎ
マイクロ波放射
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3.3.インフレーションの導入
●初期ビッグバンモデルの問題点
・始まりが密度無限大
(特異点の困難) ・宇宙の一様等方性
(地平線問題) ・宇宙は閉じているか
(平坦性の問題)
●インフレーションの提唱(グース、佐藤勝彦、1981) ・宇宙初期(10-36秒)に指数関数的に膨張
(時空の相転移によるエネルギー?) →地平線問題と平坦性問題に対する解
・インフレーションの終わった時点がビッグバンの始まり
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3.4.ダークマターと重力レンズ
・宇宙背景放射の揺らぎでは小さなサイズの天体にしかならない
→銀河サイズ(以上)の宇宙の大規模構造の元は何か
⇒候補の1つがダークマター
・スーパーコンピュータによるダークマター進化シミュレーション
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・ダークマターの存在は銀河の平坦回転曲線で予想ずみ
→見えないのでどうやって観測するか?
⇒重力は作用するので「重力レンズ」効果を使う
一般相対論の帰結の1つ
→光は時空の最短経路
→時空が重力で曲がる
⇒重力で光が曲がる
観測者と対象天体の間に
重力源があると、その重力で
光が曲がり収束する
=重力レンズ
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・重力レンズ効果の観測から逆算し質量分布を調べる
⇒ダークマター(質量)の分布
・その結果、見える物質の10倍もダークマターがある
・重力レンズ効果により調べたダークマター分布
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3.5.ダークエネルギーと加速膨張
・Ia型超新星観測⇒遠方ではハッブル定数がわずかに違う
⇒宇宙は加速膨張している(2011年ノーベル賞) ・ダークマターを考えると見える天体の質量×10が宇宙の質量
⇒それでも重力に打ち勝って膨張するにはエネルギーが必要
=ダークエネルギー(アインシュタイン方程式の宇宙項Λに相当)
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・宇宙の全エネルギーの大部分はダークエネルギー?
・我々の知る物質(天体など見える物)は5%?
※ダークマターやダークエネルギーの「ダーク」は不明の意味
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3.3.インフレーションの導入
・宇宙初期に に膨張
(時空の相転移による?) →地平線問題と平坦性問題に解
(インフレーション→ビッグバン)
・宇宙の大規模構造の元の候補
・重力レンズ効果による探査
・見える物質よりはるかに多い?
3.4.ダークマターと重力レンズ
3.5.ダークエネルギーと加速膨張
・遠方のIa型超新星観測
→宇宙は加速膨張している
・原因候補:ダークエネルギー
(宇宙項に相当、全Eの7割、
正体は不明)
指数関数的
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4.統一理論と宇宙論
●自然界の4つの力
・強い力(原子核を結び付ける)
・弱い力(中性子崩壊を起こす) ・電磁力(+と-の力) ・重力(質量による力)
・宇宙誕生時は1つの力?
⇒宇宙進化と共に分離
・全ての力を統一的に説明
⇒統一理論
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●超ひも理論と統一理論
・電磁力+弱い力+強い力
→量子力学的に統一
⇒重力も統一しようとすると
“点”による発散の困難
・物質の基本を“点”ではなく
“ひも”と考えて回避
⇒超ひも理論(南部陽一郎、1960年代
グリーン、シュワルツ、1980年代)
・5つの超ひも理論の乱立
→これらをまとめる1つの理論
⇒M理論
(ウィッテン、1990年代、
高次元はコンパクト化)
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●ブレーンワールド仮説
・4次元宇宙は高次元時空を
漂う膜のような存在?
(ブレーンワールド)
・11次元のうち4次元以外の
余剰次元はコンパクト化
⇒重力だけが膜の外にも
浸み出すと考えて、
重力の弱さを説明
・多次元時空の中での
ブレーン同士の衝突が
ビッグバン?
天文地球物理学Ⅰ 2018年度 4.統一理論と宇宙論
・自然界の4つの力
(強い力、弱い力、電磁力、重力) を統一=統一理論
・候補の1つが
(物質の基本を点でなくひもと考える) ・5つの理論を統一:M理論(11次元) ・宇宙は高次元時空の膜と考える仮説も
(重力の弱さを説明)
超ひも理論
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5.多次元宇宙
・我々の宇宙は人間にとって
ちょうどいいパラメータ?
(次元、物理法則など)
・宇宙誕生から138億年後の
この時期に人間という知的
生命が存在して宇宙を認識
するから=弱い人間原理
●人間原理
・物理定数などが適当でない
宇宙には生命が存在せず
宇宙を認識するものがない
(認識されない=存在しない) 人間がいるから宇宙が認識
される =強い人間原理
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●多世界宇宙(並行宇宙)
・観測によって量子力学的選択
が行われるたびに宇宙が分岐
⇒多世界解釈
(エヴェレット、1957)
・宇宙は無数にある?
⇒マルチバース(並行宇宙)
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5.多次元宇宙
●人間原理: ・我々の宇宙は人間にとって
ちょうどいいパラメータ?
(次元、物理法則など) ・弱い人間原理(偶然) ・強い人間原理
(認識するから宇宙が存在)
●多世界宇宙(並行宇宙) ・観測で量子力学的選択
が行われると宇宙が分岐
⇒多世界解釈
・宇宙は無数にある?
(マルチバース(並行宇宙)
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・補足1:赤方偏移、宇宙論方程式
【相対論的赤方偏移】:
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赤方偏移 𝑧 =𝜆−𝜆0
𝜆0, 𝑧~0.1程度から相対論的関係1 + 𝑧 = (1 + 𝑣 𝑐 )/(1 − 𝑣 𝑐 )
宇宙の典型サイズ スケールファクター 𝑎,運動方程式𝑑2𝑎
𝑑𝑡2= −
𝐺𝑀
𝑎2+Λ𝑐2
3𝑎
【宇宙方程式(ニュートン力学的扱い)】:
積分して1
2
𝑑𝑎
𝑑𝑡
2
−𝐺𝑀
𝑎−Λ𝑐2
6𝑎2 = 𝐸 = −
1
2𝑘𝑐2 (𝑘 = 1,0, −1宇宙モデルに対応)
⇒𝑣
𝑐=
2𝑧 + 𝑧2
2 + 2𝑧 + 𝑧2, ⇒非相対論的ケース 𝑐 → ∞近似 では、𝑣 = 𝑐𝑧
【重力レンズ方程式】:
重力レンズ天体質量𝑀,光線の最短経路距離𝑝,曲がる角度𝛿 =4𝐺𝑀
𝑐2𝑝=2𝑟𝑠𝑝
𝑘 = 0,宇宙項Λが無:𝑎 𝑡 =9𝐺𝑀
2
1
3𝑡2
3, Λ有:𝑎 𝑡 ∝ 𝑒 Λ𝑐2 3𝑡 (指数関数的膨張)