一 橋論叢 第七 十 一 巻 第 一 号 ( 3 2 )
判例変更と
罪刑法定主
義
一
問題
設
定
罪刑
法定主
義の
一
つ
の
重
要な
柱で
ある
遡及
処
罰
禁止の
原
則は
、
もっ
ぱ
ら
立
法
者を
名
宛人
と
する
もの
と
さ
れ
て
き
た。
行
為当
時の
法
律に
よ
れ
ば
罰せ
られ
ない
行為を
事後の
法
律に
よ
っ
て
処罰す
る
こ
とが
で
き
ない
一事後立
法の
禁
止こ
そ
が
罪
刑
法
定主
義に
よっ
て
要請さ
れ
る
もの
で
あっ
た。
「
法
律な
けれ
ば
犯
罪
な
く、
刑
罰な
し
(
2
已-
亡
ヨ
C
ユ
me
n.
n亡
ロP
勺Oe
ロ
P
S
ぎ①
-
e
笥)
+
とい
う
命題の
本来的
意味か
ら
す
れ
ば、
こ
れ
も
ま
た
当
然の
こ
と
で
あ
る。
し
か
し、
遡及
処
罰
の
禁止
を
事後立
法の
禁止に
限
定
する
た
め
に
は、
一
つ
の
前
提が
必
要で
あ
る。
す
なわ
ち、
立
法者の
行為以
外に
事実上
遡及
処
罰の
虞れ
が
ない
と
い
うこ
と
を
前凍と
し
な
け
れ
ば
な
村
井
敏
邦
ら
ない
。
実際
、
事後立
法禁止の
原
則に
は、
一
義的に
明
確
な
法
律の
制
定と
裁判官に
よ
る
解釈の
禁止が
結び
つ
い
て
い
た
の
で
あ
る。
「
法
律が
成
文と
し
て
はっ
き
り
規定
さ
れ
て
お
り、
司
法
官の
役目に
、
た
だ
国
民の
行為を
審査
し、
そ
の
行
為が
違法で
あ
る
か
適法で
ある
か
を
法
律の
条文に
て
ら
して
判断する
こ
と
だ
けに
な
れ
ば、
そ
し
て
ま
た、
無知な
着で
あ
ろ
うと
、
有識者で
あ
ろ
う
と
そ
の
すべ
て
の
行動を
指導す
る
正と
不
正の
規範が
、
議論の
余地の
ない
もの
で
あ
り、
単純
な
事実問題で
しか
ない
こ
とに
なれ
ば、
そ
の
と
き
は
国
民が
無数の
小
圧
制
者の
ク
ビ
キ
の
た
め
に
苦し
むこ
と
ほ
も
う
見
ら
(
1)
れ
な
くな
る
で
あ
ろ
う。
+
(
ペ
ッ
カ
リ
ー
ア)
し
か
し、
現
在、
解
釈の
余地の
ない
一
義的に
明
確な
法
律
の
制定
ほ、
立
法
故簡約に
不
可
能で
ある
とし
て、
一
定
老度
3 β
( 3 3 ) ・判例 変 更 と罪 刑法 定 主 義
の
不
明
確性は
容
認さ
れ
て
い
る。
こ
れ
に
伴い
、
裁判官に
よ
る
解釈の
禁止
も、
せ
い
ぜ
い
類推解
釈の
禁止
に
と
ど
ま
り、
拡
張解釈は
禁止
さ
れ
て
い
ない
。
法解釈の
法
則造
機能を
強
調
する
こ
とに
よっ
て、
類推解釈と
拡
張解釈の
区
別
さ
え
あ
(
2)
い
まい
化
さ
れ
つ
つ
あ
る。
他
面、
法律も
、
ペ
ッ
カ
リ
ー
ア
が
理
想
と
し
た
よ
う
な、
圧
制者の
慈
恵を
規制し
、
被圧
制者の
利益
を
擁護する
もの
で
あ
る
と
は、
単純に
観念で
き
な
くな
っ
て
い
る。
各種の
行
政
取
締法
規の
増大は
、
条文
通り
の
解
釈で
は
か
え
っ
て
処罰
範囲が
不
当に
広が
る
とい
う
事態
を
招
来し
て
い
る。
こ
うし
た
中に
あ
っ
て、
時に
、
限定
解釈あ
る
い
は
縮小
解釈
を
施して
処
罰範囲の
妥
当
性を
追求し
よ
う
と
する
判決も
現
わ
れ
る。
と
こ
ろ
が、
裁判官の
構成が
変化
す
る
こ
と
に
よっ
て、
日
なら
ずし
て
多
数意見が
少
数
意見に
転
落し
、
先
例が
適法で
あ
る
と
し
た
行為も
新た
に、
あ
る
い
は
再び
処
罰に
伍
する
畠と
判
断さ
艶。
こ
の
新判
断が
遡っ
て
適用さ
れ
る
と
き、
判例
変更に
よ
る
事実上の
遡及
処罰と
い
う
問題が
生
じ
る
の
で
あ
る。
「
判例
は
法
律で
は
ない
+
あ
る
い
は
「
解釈は
そ
の
性質上
遡及
的に
の
み
行
なわ
れ
る+
か
ら、
事実
上の
遡及
処罰も
ま
た
や
む
を
得ない
、
と
放置し
て
お
い
て
よい
もの
か。
ペ
ソ
カ
リ
ー
ア
が
言っ
た
「
国
民が
無
数の
小
圧
制者の
ク
ビ
キ
の
た
め
に
苦し
むこ
と+
を
防止
する
とい
う
理
念を
、
今日
の
罪刑
法
定
主
義の
原
則に
生か
す
と
すれ
ば、
事実上の
遡及
処
罰を
も
た
ら
す
判例
変
更に
対
して
、
罪
刑
法
定
主
義上の
何
らか
の
規
制が
加え
ら
れ
て
然る
べ
きで
は
な
か
ろ
うか
。
本稿は
、
右の
よ
うな
問題意識に
基づ
き、
ア
メ
リ
カ
法に
お
ける
判
例の
不
遡及
的
変更の
問題と
、
こ
れ
に
示
唆を
受け
て
展
開さ
れ
て
い
る
西ド
イ
ツ
に
お
ける
議論の
状
況を
検討し
、
こ
れ
を
通
じて
判例
変更と
罪
刑
法
定
主
義と
の
関係に
つ
い
て
(
4)
考
察を
加え
る
こ
と
を
目
的と
する
。
(
1)
べ
γ
カ
リ
ー
ア
『
犯
罪
と
刑
罰』
風
早八
十二
、
二
葉
共
訳、
岩波文
庫(
昭
和三
四
年)、
三
四
頁。
(
2)
SP
メ
D
監S
t【
巳H
e
C
Ft-
訂Fe
こ
Aロ
巴O
g-
e
諾旨O
t
=.
G几
喜-
ヲ
管ロ
ー
諾㌣
S・
£声‥
Art
F亡1
只
2f
ヨ
賀n
-
Aロ
已O
g-
e
仁ロ
d
こ
Z
芝弓
告【
S
発
訂:
・只
邑∽
ヨFe
-
ま㌣
S
.N
琴平
野
竜一
『
刑
法の
基
礎』
東京大
学
出
版
会
(
昭
和
四一
年)
二
二
七
頁以
下。
(
3)
典型
的な
事
例
は、
国
家
公
務
員の
争議
行
為あ
お
り
罪に
関
し
て、
最高
裁凋
所
昭
和
四
四
年四
月二
日
大
法廷
判
決
(
刑
集二
三
巻五
号
六
八
五
頁)
を
変
更し
た
全
農
林
警職法
反
対
あ
お
り
事
件判
決
(
最
判
昭
和四八
年四
月二
五
目、
判
例
時
撃ハ
九
九
号二
七
頁)
で
ある
。
そ
の
ほ
か、
威力
業務
妨
害
罪の
「
業
務+
に
ほ
3 3
「
一 橋論叢 第 七 十一 巻 籍
一
号 ( 3 ヰ)
公
務が
含ま
れ
ない
と
し
て
い
た
従
来の
判
例を
実質的に
変更し
て、
国
鉄
職員の
現
業
業
務に
対
す
る
業
務
妨
害
罪の
成
立
を
認め
た
最
判
昭
和三
五
年一
一
月一
八
日
刑
集一
四
巷一
三
号
∵七
一
三
頁、
同
四一
年一
一
月三
〇日
刑
集二
〇
巷九
号一
〇
七
六
頁な
ど。
(
4)
刑
事判例の
変
更
と
遡
反
禁止の
問題は
、
わ
が
国で
は、
小
暮得
雄
「
刑
事
判
例の
規範的
効
力+
北
大法
学
論叢
一
七
巻国
号
一
〇七
頁
以
下
と
西
原
春
夫
「
刑
事
裁
判に
お
ける
判
例の
意義+
(
中
野次
嬉
判
事還
暦祝
賀
『
刑
事
裁
判の
課
題』
〔
昭
和四
七
年〕
三
〇五
頁以
下
所収)
三一
〇
頁に
論じ
られ
て
い
る
の
み
で、
ま
だ一
般の
も
の
と
は
なっ
て
い
ない
。
な
お、
ア
メ
リ
カ
に
お
け
る
判例の
不
遡
及
的
変更に
つ
い
て
は、
田
中
英夫
教
授の
詳
細な
研
†
究(
「
判
例の
不
遡
及的
変更+
法
学協
会
推
論八
三
巻
七・
八
号
一
頁以
下)
が
ある
。
第二
章は
、
こ
れ
に
負
う
とこ
ろ
が
大
きい
。
〓
ア
メ
リ
カ
法の
場合
一
合衆国
憲法は
、
第一
条第九
節に
お
い
て
「
私
権
剥
奪
法ま
た
は
事後法
(
§い
甘已
甘へ
替-
p
弓)
は、
制定さ
れ
て
は
な
ら
ない
。
+
と
定め
、
続く第
十
節に
お
い
て、
「
州は
、
‥
い
か
な
る
事後法
を
も
制定
して
は
な
ら
ない
。
+
と
定
め
て
い
る。
こ
れ
らの
規
定が
刑
事
遡及
法の
み
を
禁止し
た
も
の
と
す
(
5)
る
に
は、
立
憲過
程の
研
究か
ら
疑
問
視
する
者も
あ
る
が、
判
例は
、
一
七
九八
年の
カ
ル
ダ
ー
対ブ
ル
事件判決(
C
已de【
く・
班已-
、
山
亡.
S.
い
慧、
-
「
Hd
.
宝∞
)
以
来、
事後法と
は
刑
3 卓
(
6)
事遡及
法で
あ
る
と
する
点に
お
い
て、
一
致
し
て
い
る。
とこ
ろで
、
事後「
法+
に
は、
判例も
含ま
れ
る
か
とい
う
問魁で
あ
る
が、
連邦
最高裁判所は
こ
れ
を
否定
的に
解して
い
る
の
が
現
状で
あ
る。
ま
ず、
ロ
ス
事
件
判
決
(
河OSS
く・
〇
記gO
n
〔
-
¢
-
い
〕-
N
N
N
亡.
S.
-
h
O-
い
い
L
内d
.
N
N
O)
に
お
い
て、
裁判
所が
新し
く
制定さ
れ
た
法律に
つ
い
て
被告人の
予
期
し
ない
不
利益な
解
釈に
よっ
て
被告人
を
処罰
して
も、
事後法禁止
条項に
違反し
ない
と
さ
れ、
次い
で、
フ
ラ
ン
ク
対マ
ン
ガ
ム
事件判決(
句r
p
ロ
好
く.
呂2-
習m〔
【
¢
-
凸-
-
芸
亡・
S.
N
苫.
窒N
、
い
h
r
Hd.
訟N
)
に
お
い
て、
事後法禁止
条
項は
、
立
法行
為に
の
み
む
け
ら
れ、
被告人に
不
利益に
先
例
を
変更する
判決の
遡及
的
適用
を
禁じる
もの
で
は
ない
、
と
さ
れ
た。
こ
れ
らの
判例は
、
現
在なお
維持さ
れ
て
い
る。
し
た
が
っ
て、
い
わ
ゆ
る
リ
ア
リ
ズ
ム
法
学の
接頭に
よ
り、
裁判
所は
法を
創造
する
と
こ
ろ
で
は
な
く、
こ
れ
を
宣
言
する
とこ
(
7)
ろで
ある
とい
うブ
ラ
ッ
ク
ス
タ
ン
以
来の
考え
方が
批判さ
れ、
と
くに
民
事
に
お
い
て
発
展し
た
「
判
例の
不
遡
及
的
変
更
(
8)
(
勺
岩S
勺e
C
t
訂e
O
くer
2-
F耶)
+
と
い
う
方
法が
、
刑
事
事件に
も
採用さ
れ
る
よ
うに
なる
の
で
あ
る
が、
そ
の
場合で
も、
事後
( 3 5 ) 判例変 更 と罪刑 法 定主 義
法
禁止
条項と
の
直接的
なか
か
わ
り
合い
に
お
い
て
論じら
れ
る
わ
けで
は
ない
の
で
あ
る。
二
こ
の
よ
うに
、
判例の
遡及
的変更は
、
そ
れ
が
被告
人
に
不
利
益
な
もの
で
あっ
て
も、
事後法禁止
条項に
抵触し
な
い、
そ
の
意味に
お
い
て
憲法
問題を
び
き
お
こ
さ
ない
、
とさ
れ
て
い
る。
しか
し、
被告人
に
不
利益
な
判例変更に
遡及
効
を
認
め
る
こ
とに
よ
っ
て
生
じ
る
不
当
な
結
果も
看過し
得ない
。
そ
こ
で、
裁判所は
、
以
下の
よ
う
な
種々
の
方
法で
、
こ
の
不
当
な
結
果を
避けよ
うと
して
い
る。
(
一
)
伝
統的
な
先
例拘束性の
原
理に
よ
っ
て、
判
例
変
更
そ
の
も
の
を
認め
ない
も
の
〔
l〕
勺e
O
勺-
e
く・
TO
mp打
Fs
(
】
害か)
-
∞
か
芦
ぺ.
た山
.
3
2.
.
M.
い
N
か
に
せ
の
競馬
情報を
流し
て
金
銭を
騙取
し
た
とい
う
事案に
つ
き、
ニ
ュ
ー
ヨ
ー
ク
上
訴裁判所は
、
不
正の
目
的の
た
め
に
金
銭が
支
払わ
れ
た
場合に
は、
た
と
え
そ
れ
が
欺
岡に
よ
る
も
の
で
あ
る
と
し
て
も
重
盗
取
罪が
成
立
し
ない
と
し
た
先
例を
誤
ま
り
で
あ
る、
と
し
た。
しか
し、
こ
の
先
例は
、
すで
に
人の
自由に
関
する
ル
ー
ル
と
して
確立
さ
れ
て
お
り、
確
立
さ
れ
た
ル
ー
ル
を
変更す
る
こ
とは
裁判所の
任
務で
は
な
く、
立
法
府
の
任
務に
属
する
。
し
た
がっ
て、
裁判所とし
て
は、
立
法
府
に
ル
ー
ル
の
変更を
勧告す
る
以
外に
は
ない
、
と
判
断し
た。
こ
の
判
例が
依拠し
た
先
例
拘束性の
原
理は
、
イ
ギ
リ
ス
で
(
9)
は
最近まで
堅
持さ
れ
て
い
た
が、
ア
メ
リ
カ
で
は、
か
つ
て一
(
1 0)
度も
そ
の
厳
棉な
採用
を
み
て
い
ない
と
言わ
れ
て
い
る。
刑
事
事件に
お
い
て
も、
犯
罪者に
利益
を
付
与
する
形で
先
例拘束
(
1 1)
性の
原
理
を
援用し
得ない
と
さ
れ
て
きて
い
る。
した
が
っ
て、
右の
判決は
、
ア
メ
リ
カ
法の
流れ
か
ら
する
と、
異例の
部類
に
属する
と
言
うべ
き
で
あ
ろ
う。
(
二)
「
法の
不
知は
許さ
ず+
の
例外と
して
、
故
意の
阻
却
を
認め
る
も
の
〔
1〕
St
已e
く.
〇、
2e-
-
(
-
苫○)
-
毛
H
O
弓p
訟山
.
-
N
か
芦
W.
心
山
谷
被告
人
は、
制定
法が
憲法に
.違反
す
る
と
し
た
州
最高裁判
所の
判決を
信じて
行
為を
し
た
とこ
ろ、
後に
なっ
て、
連邦
裁
高裁判
所の
合憲判決が
出、
州の
最高裁判所も
こ
れ
に
従
っ
て
先
例を
変
更し
た。
そ
こ
で、
被告人は
、
右の
制定法
で
禁止さ
れ
て
い
る
酒
類の
注
文
を
とっ
た
罪で
起訴さ
れ
た。
ア
イ
オ
ワ
州
最高裁判
所は
、
自分の
属する
州の
最高裁判
所が
下
し
た
達意判
決を
信じて
行
為を
し
た
場
合に
は、
「
法の
不
お
一
橋論叢 第七 十一 巻 第
一
号 ( 3 6 )
知は
許さ
ず+
とい
う原
則の
例外が
認
めら
れ、
被告人に
は
責任が
ない
、
と
し
た。
こ
の
多数
意見に
対し
て、
裁判長の
ディ
ー
マ
ー
は、
法律を
違
憲と
判断した
先
例は
そ
れ
が
くつ
が
え
さ
れ
る
まで
は
万
人を
拘束す
る
法で
あ
る。
こ
れ
を
遡及
的に
変更
する
判決は
事後法に
あ
た
り
許さ
れ
ない
。
し
た
が
っ
て、
判例変更は
不
遡
及
的に
の
み
行
な
わ
れ
る
べ
きで
あ
る。
し
か
も、
違
憲判決を
信じ
て
行為し
た
者を
処罰
する
こ
とは
、
残
虐、
異常な
処
罰を
禁止
し
て
い
る
憲法に
違反
す
る、
と
の
意見を
付
して
い
る
こ
と
が
注
目さ
れ
る。
こ
の
ディ
ー
マ
ー
の
意見は
、
後記
(
三)
の
〔
2〕
判
例の
多数意見に
受け
継が
れ
で
い
る。
〔
2〕
-
p
me
∽
く一
Pn-
訂d
St
已の
S
(
-
芸【
)
い
芸
亡・
S・
N
-
u、
ひ
L.
Hd
.
N
d.
N
A
か
横領に
よ
っ
て
得た
所得は
課
税対
象と
な
り
得る
か
に
つ
き、
先
例は
こ
れ
を
消
極に
解し
て
い
た。
本件に
お
い
て、
多数意
見
(
%)
は、
こ
の
先
例を
変更
すべ
きで
あ
る
と
し
た
が、
そ
の
うちの
三
裁判官の
意見は
、
被告人が
行為した
時点で
は、
こ
れ
を
適法
と
する
先
例の
解
釈が
支配して
い
た
の
で
ある
か
ら、
脱税の
故意が
証
明で
きない
、
と
い
うもの
で
あっ
た。
こ
の
意見は
、
先
例が
変更さ
れ
る
ま
で
の
行
為に
つ
い
て
ほ、
先
例の
解釈に
よ
る
こ
と
を
表明
し
た
も
の
と
すれ
ば、
判例の
諮
不
遡及
的
変更を
示
唆して
い
る
と
見る
こ
と
が
で
き
る。
し
か
し、
厳密に
言え
ば、
そ
の
場合に
は、
故意の
有無を
論じ
る
まで
の
こ
とは
な
く、
被告人の
行
為は
適法で
あ
る
と
判
断さ
れ
な
けれ
ば
な
らな
い。
し
た
が
っ
て、
こ
の
意見は
、
必
ずし
も一
般的に
判例変更の
遡及
効を
否定
し
た
もの
で
は
ない
と
言わ
ざ
る
を
得ない
の
で
あ
る
が、
実
は、
次に
見る
判例
群の
場合に
も、
判例変更の
不
遡及
性を
言う
もの
の、
具体
的に
被告
人が
先
例に
依拠して
い
た
か
否か
を
問題と
する
よ
うな
表現も
見ら
れ、
必
ずし
も、
こ
の
点の
処理
は
明
確で
ない
。
理
論的に
は、
被告人の
主
観的
側面に
着眼して
、
個別
的に
判例の
遡及
効を
否定
する
考え
方は
、
法
宣言
説に
な
じ
み、
一
般的に
遡
及
効を
否定
する
考え
方は
、
法創
造
説に
な
じ
む
と
思
わ
れ
る
の
で
あ
る
が、
実
際に
は、
両
者が
明
確に
区
別さ
れ
て
い
ない
と
こ
ろ
に、
ア
メ
リ
カ
に
お
ける
判
例の
不
遡及
的
(
1 2)
変更
とい
う
主
張の
一
つ
の
特
徴が
あ
る
と
も
言え
よ
う。
(
三)
先
例を
変更し
た
判決の
遡及
劾を
香定し
、
判
例
変更
の
効果が
将来に
の
み
及ぶ
こ
と
-判
例の
不
遡
及
的
変
更
-を
明
示
した
も
の
〔
1〕
St
巳e
く.
切e
ロ
(
【
害e
-
誤
写
C・
笥串
~
志
S・
河●
ー
か
いノ
ー
ス
・
キ
ャ
ロ
ラ
イ
ナ
州の
制定
法
で
は、
農地の
借地
人
は、
地
主に
負っ
て
い
る
債務を
弁
済す
る
か、
あ
る
い
は、
予
告を
し
な
け
れ
ば、
作物を
移
動し
て
は
な
ら
ず、
こ
れ
に
違反
し
た
場合に
は
処
罰さ
れ
る
こ
と
に
なっ
て
い
た。
被告
人は
、
こ
の
制定
法に
違反
した
と
し
て
起
訴さ
れ
た。
とこ
ろが
、
被
告人
は、
地
主に
対
して
自分が
負っ
て
い
る
債務以
上の
債権
を
持っ
て
お
り、
こ
の
よ
う
な
場合に
は、
右法
律の
通
用が
な
い
と
する
の
が
従
来の
判例で
あ
っ
た。
裁判所は
、
従
来の
判
例は
くつ
が
え
さ
れ
る
べ
きで
ある
と
し
た
が、
「
被告
人は
、
当
裁
判所の
先
例を
基礎に
した
弁護人の
意見
に
従っ
て
行動
( 3 7 ) 判 例変更 と罪刑法 定 主 義
し
た
の
か
も
知れ
ない
。
する
こ
と
が
で
き
る
限
り+
、
っ
て
判断すべ
き
で
あ
る。
来の
事件に
適用さ
れ
る、
…
被告
人が
先
例に
依っ
た
と
抗
弁
被告人に
つ
い
て
は、
先
例に
従
こ
こ
に
示さ
れ
た
新た
な
解
釈は
将
と
した
。
本
判
決は
、
刑
事事件に
お
い
て
判例の
不
遡及的
変
更とい
う
方
法を
採用し
た
最初の
もの
で
あ
る
と
言わ
れ
て
い
る。
し
か
し、
カ
ツ
コ
内の
表現に
よ
れ
ば、
先
例に
従っ
た
こ
と
が
抗
弁と
な
り、
そ
の
立
証
責任が
被告人に
負わさ
れ
る
こ
とに
な
る。
現に
、
裁判所は
、
証言
等に
よ
っ
て
こ
の
抗弁が
成立
す
る
と
認
定し
て、
被告人に
無罪を
言い
渡して
い
る。
こ
の
点
に
お
い
て、
(
二)
の
判例
群と
実
質的
差
異が
見
出せ
ない
。
〔
2〕
S{
邑①
く.
「O
n
惣ロ○
(
-
ごh
)
-
○心
Ei
ss
-
N
㌣
笥
S
〇.
¢
O
N
被告人
は、
銀
行
業務の
取
締に
関する
法
律に
違
反
し
た
と
し
て
起訴さ
れ
た
が、
行
為当
時の
判例に
よ
れ
ば、
被告人の
行為は
適法で
あっ
た。
こ
の
判例が
変更さ
れ
た
の
は、
被告
人の
行為の
あ
とで
あっ
た。
そ
こ
で、
ミ
シ
シ
ブ
ピ
ー
最高裁
判所は
、
一
た
ん
州の
最
高裁判所に
よ
っ
て
適
法で
あ
る
と
宣
言さ
れ
た
行
為を
解
釈の
変更に
よ
っ
て
処
罰する
こ
と
は、
残
虐の
き
わ
み
で
あ
る
と
言
わ
な
けれ
ば
な
ら
ない
。
こ
の
よ
うな
不
正
義か
つ
残虐な
処罰を
避
ける
意味か
ら、
刑
事制定
法の
解
釈に
関
する
先例
変更
は、
不
遡及
的
効
果を
持つ
ぺ
き
で
あ
る。
こ
の
原
則は
、
憲法上の
事
後立
法
禁止と
同一
の
原理
を
通用
する
も
の
で
あ
る、
と
判断し
た。
こ
の
判決は
、
前
記オ
ニ
ー
ル
事件判決の
ディ
ー
マ
ー
裁判
官の
意見に
依っ
た
もの
で
ある
。
残
虐な
処罰
を
避
ける
とい
う
点に
、
判例の
不
遡及
変更の
根拠を
求め
、
さ
ら
に、
そ
れ
が
事後立
法の
禁止
と
原理
的に
同一
で
あ
る
と
する
点に
お
い
て、
〔
1〕
の
ベ
ル
事件判
決よ
り
も、
客観的
、
一
般
的
な
処
3 7
一 橋論叢 第七 十一 巻 第
一
号 ( 3 8 )
理
方
法で
あ
る
と
言い
得る
。
しか
し、
本
判
決で
は、
判例変
更に
不
遡
及
的
効果を
与
え
る
こ
とが
、
憲法
上の
事後法
禁止
と
同一
の
原
理か
ら理
由づ
けら
れ
る
とい
うこ
とは
認め
ら
れ
た
が、
判例の
遡及
的
変更が
憲法
問題を
び
きお
こ
す
と
まで
は
認め
ら
れ
て
い
ない
。
被告人は
、
い
ま
だ
憲法上の
保護を
受けて
い
ない
の
で
あ
る。
(
3)
St
巴2
く・
-
○
ロe
S
(
-
芸○)
芸
当・
=
芦
か
N
いー
岩¶
勺・
N
d.
い
N
中
破告人
は、
州
法の
禁じる
く
じを
開催し
た
罪に
よっ
て
起
訴さ
れ
た。
彼は
、
数年前に
も
同
様の
行為で
起訴さ
れ、
そ
の
と
き
は、
く
じの
成
立が
否定さ
れ
て
無罪と
なっ
て
い
る。
裁判所は
、
前の
判例を
くつ
が
え
し
て、
被告人の
行
為は
州
法の
禁じ
る
くじ
に
あ
た
る
と
した
が、
被告人に
は
こ
の
解
釈
を
通用し
な
かっ
た。
そ
の
理
由
は、
被告人が
依拠し
た
先
例
の
変更が
不
遡及
的に
なさ
るぺ
き
で
あ
る
とい
うの
は、
最も
明
白な
正
義の
原
理の
要請する
とこ
ろで
あ
り、
し
た
がっ
て、
被告人の
権利の
確定は
、
先
例に
従っ
て
な
さ
れ
な
けれ
ば
な
らな
い、
と
い
うこ
と
に
あっ
た。
本
件の
特
徴は
、
先
例もこ
れ
を
くつ
が
え
した
本
判決も
同
一
人
物の
行
為を
問題と
し
て
い
る
こ
と
で
ある
。
した
が
っ
て、
先
例の
変
更に
遡及
効を
認め
る
こ
と
の
不
当性が
、
容易に
認
諮
め
ら
れ
得る
事
案で
あっ
た。
ま
さ
に、
「
最も
明
白
な
正
義の
原理+
の
要請する
とこ
ろで
あ
っ
た
と
言え
る。
三
以
上の
三
方
法の
う
ち、
事実上の
遡及
処罰を
避
ける
に
は、
第一
の
方
法、
す
な
わ
ち、
被告人に
不
利益
な
判例
変
更は
、
そ
れ
自体が
許さ
れ
ない
と
する
こ
と
が、
最も
有効な
方
法で
あ
る
こ
と
は
言
う
まで
も
ない
。
し
か
し、
こ
れ
は、
ア
メ
リ
カ
法の
流れ
に
必
ずし
も
合
致し
て
い
ない
とい
うこ
と
も
あ
っ
て、
あ
ま
り
採用
さ
れ
て
い
ない
。
残る
第二
と
第三
の
方
法で
あ
る
が、
憲法上の
人
権保障条項と
無関
係に
論じ
ら
れ
る
限
り、
両
者を
区
別
する
実
益
は
な
い。
第三
の
方
法を
採り
なが
ら、
被告人が
先
例に
依拠して
い
た
こ
と
の
証
明を
要す
(
1 3)
る
と
すれ
ば、
な
ぁ
さ
ら
で
あ
る。
こ
の
場
合に
は、
「
判例の
不
遡及
的変更+
は、
被告
人の
人
権を
保
障する
と
い
うよ
り、
む
し
ろ、
被告人に
不
利益
な
判
例変更を
容易に
する
技術と
して
しか
認
識さ
れ
ない
とい
うこ
と
に
な
る。
「
判
例の
不
遡
及
的変更
を
許
すこ
と
に
よ
っ
て、
被告
人に
不
利益
を
及ぼ
す
とい
う
当
面の
難点が
解消さ
れ、
か
えっ
て、
判例変更が
安
(
M)
易に
なさ
れ
ない
か。
+
判例の
不
遡及
的
変
更
を
判
例変更の
単な
る
哉彿と
して
観念する
場合に
ほ、
右の
批判に
対し
て、
( 3 9 ) 判例 変更と 罪刑 法 定主 義
(
15)
有効な
反
論を
加
え
得ない
で
あ
ろ
う。
こ
れ
に
加
えて
、
判
例の
不
遡及
的変更
とい
う
方
法に
は、
(
16)
次の
よ
うな
批
判が
あ
る
こ
と
を
注
意しな
けれ
ば
な
らない
。
す
なわ
ち、
第一
に
判例
変更
を
不
遡及
的に
する
とい
うこ
と
は、
新しい
解釈が
予
想
外の
も
の
で
あっ
た
こ
とを
前提と
す
る。
し
か
し、
予
想外な
解釈
を
許
すほ
ど
に
あ
い
まい
な
法
律
の
条文は
、
憲法上の
明
確性の
要請に
反
する
。
判例の
不
遡
及
的変更は
、
こ
の
点の
検討を
ない
が
し
ろ
に
する
。
第二
に、
過
去の
行
為に
通用
する
の
が
不
当で
あ
る
よ
うな
解
釈に
、
将
来に
向か
っ
て
の
効力
を
与え
る
こ
と
に、
立
法
者さ
え
行
な
わ
な
かっ
た
新た
な
犯
罪の
創造で
あ
る。
第一
の
批判
は、
判例
の
不
遡及
的
変更
と
い
う
方
法の
も
つ
技術
性に
向
け
られ
、
第
二
の
批判は
、
そ
の
法
創造
性に
向
け
ら
れ
て
い
る。
い
ずれ
も、
罪刑法
定
主
義上
、
大い
に
問題と
な
る
点で
あ
る。
さ
らに
、
判例の
不
遡及
的
変更と
い
う
方
法
は、
被告人に
とっ
て
利益な
判例変更の
遡及
効を
否定
する
た
め
に
も
用い
ら
れ、
ア
メ
リ
カ
に
お
い
て
は、
む
し
ろ、
そ
の
方に
有効
性が
認
め
られ
て
い
る
と
い
う
問題が
あ
る。
連邦最高裁
判所の
リ
ン
ク
レ
タ
対
ウ
ォ
ー
カ
ー
事
件
判
決(
En
k-
et
t
el
く.
W巴
訂r
〔
-
宗凸
誌-
亡・
S∵
三才
一
斗
「N
d・
芸-
)
以
来の
傾向
が
そ
れ
で
あ
る。
こ
の
判
決は
、
連邦最高裁判所が
判例の
不
遡及
的変更を
正
面か
ら
認め
た
最初の
判決で
ある
と
評価さ
れ
て
い
る。
しか
し、
こ
れ
は、
前記(
三)
の
判例と
くに
〔
2〕
の
ロ
ン
ギ
ー
ノ
判決の
よ
うに
、
正
義に
反
する
処罰
、
残虐な
処罰
を
防止
する
と
い
う、
い
わ
ば
人
権
保障的な
発想に
支え
ら
れ
た
もの
で
は
ない
。
む
し
ろ、
こ
れ
と
は
逆に
、
違法収
集
証
拠の
全
面
的排除を
認め
たマ
ッ
プ
判決(
呂P勺
勺
く.
〇h
i
O
〔
-
芸-
〕
山
笥
亡・
S・
芝山
)
の
遡
及
効を
香足
する
こ
と
に
よっ
て、
人
権保
障の
後退
を
も
た
ら
す
もの
で
あ
っ
た。
こ
の
基
本
的
な
差
異に
眼
を
つ
ぶ
っ
て、
前記ジ
ョ
ー
ン
ズ
事件判決や
ジ
ェ
イ
ム
ス
事
件判決
を
もっ
て
自
己の
論理を
正
当
化し
ょ
う
と
し
て
い
る
本
判決の
多数
意見に
は、
奇
異な
威さ
え
い
だ
か
れ
る
の
で
あ
る。
こ
の
判
決の
主た
る
論拠は
、
一
般に
従
来の
判
例に
依拠し
た
者が
保護さ
れ
る
べ
き
な
ら
ば、
本
件(
人
身保
護令状の
発
給
を
求め
た
事件)
の
ご
と
きの
場合に
は、
マ
ッ
プ
判
決以
前の
判
例に
依拠し
た
州の
裁判所こ
そ
保護さ
れ
る
べ
き
で
ある
、
ま
た、
マ
フ
プ
判決に
遡
及
劾を
与
える
と、
州
の
司
法
運
営上
多大の
影
響が
あ
る、
と
い
うに
あ
る。
そ
し
て、
こ
の
論理に
よ
っ
て、
以
後、
刑
事上の
人
権保
障に
関し
て
画
期
的
な
判断を
下
し
た
グ
リ
フ
ィ
ン
、
エ
ス
コ
べ
ー
ド、
ミ
ラ
ン
朗
一
橋 論叢 第 七 十一 巻 第 一
号 ( 4 0 )
ダ、
キ
ャ
ッ
ツ
な
どの
諸
判例に
、
次々
と
遡及
効が
否定さ
れ
(
17)
て
い
る。
こ
うし
た
判
例の
動向
は、
そ
れ
が
人
身保護手
続に
関する
もの
で
あ
る
と
い
う
特
殊性を
考
慮
して
も、
人
権保障の
観点
と
は
お
よ
そ
あ
い
い
れ
ない
もの
で
あ
る。
こ
の
点に
関し
て、
「
判
例の
不
遡
及的
変更+
と
い
う
方
法は
、
い
ま
や
廃
棄さ
れ
(
1 8)
るべ
きで
あ
る
とい
う主
張が
出て
く
る
の
は、
けだ
し
当
然と
言うぺ
きで
あ
ろ
う。
と
も
あ
れ、
人
権保
障とい
う
観点か
ら
切り
離さ
れ、
もっ
ぱ
ら
技術
論と
して
展開さ
れ
る
「
判例の
不
遡及
的変更+
論
に
は、
こ
の
よ
うに
無
差
別
的に
遡及
効を
否定
する
と
い
う
危
険性が
内
包さ
れ
て
い
る
こ
と
を
注
意し
な
けれ
ば
なら
ない
。
(
5)
こ
の
こ
と
に
つ
い
て
は、
呂c
とごs
te
r、
E舛
勺O
St
句
害t
O
JP
W∽
こロ
t
Fe
S亡
勺1℡
me
CO
弓t
O{
t
F①
亡n
ニ
わー
St
邑OS
・-
h
C
巴-
訂コー
ー
P
「一
声N
Yロ
参照
。
(
6)
W賢s
O
ロ
く
Ed
.∞い
ぶ
以
下、
(
7)
田
中
英夫
、
(
8)
Ge
an
bS
く・
不
遡
及
的
変更+
呂e
岩e
l
(
-
∞
窒)
い
い
亡・
S・
00
ダ
ー
岩-
加
「・
多数の
判
例が
ある
。
法
協
八三
巻七
・
八
号三
頁以
下
参
照。
]
野○
宅n
(
-
∞
巳)
h
勺F
ロ
P
-
筈
が
「
判
例の
を
認
め
た
最初の
もの
とさ
れ
て
い
る。
(
9)
一
九六
六
年に
至っ
て、
貴族
院ほ
判
例変
更の
自
由を
認め
る
決
定
を
行
なっ
た
(
〔
-
芸ヱ
ー
We
e
打-
叫
L
戸-
N
宝)
。
こ
の
4 0
決定に
つ
い
て
は、
田
中
英夫
「
イ
ギ
リ
ス
に
お
ける
先
例
拘束
性
の
原
理の
変
更に
つ
い
て+
法
協八
四
巻七
号
四
四
頁以
下
参照
。
(
10)
田
中、
前
掲
論
文、
法
協八
三
巻七
・
八
号
五
頁。
(
1 1)
「p
n
訂1
く.
St
巳0
(
-
∞
笠)
h
叫
呂【
s
s
・岩N
-
-
○
¶
(
12)
本
判
決の
ク
ラ
ー
ク
裁判
官の
意見も
、
被告人
が
先
例に
依
拠す
る
に
つ
き、
善意
(
bO
ロ
p
-
岩e
)
で
は
な
か
っ
た、
と
し
て
い
る。
な
お、
模
範刑
法
典
第
二
・
〇
四
条㈱
項
肘は
、
「
相当の
理
由に
基き
…
…
裁判所の
決
定、
意見
又
は
判
決:
‥
‥
に
包
含さ
れた
公の
法
律
見解
を
信
寂して
行
為
し
たが
、
後に
そ
の
法
律見
解が
無
効又
は
誤
謬と
さ
れ
た
と
き+
に
は、
行
為が
法
律上
罪と
な
ら
ない
と
信じ
たこ
と
が、
抗弁と
な
る、
と
規定
して
い
る。
こ
れ
ほ、
明
らか
に
「
法
律の
不
知は
許さ
ず+
とい
う
原
則の
例
外
を
定
めた
も
の
で
あ
る
が、
田
中教
授
は、
「
判
例の
不
遡
及
的
変更+
を
認
め
たも
の
と
見て
お
られ
る
よ
うで
あ
る
(
法
協
八三
巻七
・
八
号
五一
頁)
。
(
1 3)
.ご
吋已e
「
ナ
窒㌣
宝ひ
(
宅Ot
e
)
(
1 4)
ミ
HPH
く.
L
声
-
きN
(
宅。t
e
)
は、
こ
の
点を
批判
し
て
い
る。
(
1 5)
田
中
教
授は
、
「
現
在の
裁
判
所が
、
そ
う
簡
単に
判
例
に
対
する
尊
重の
度合を
変更す
る
と
は
考
え
ら
れ
ない
。
も
ち
ろん
不
遡
及
的
変更を
認め
れ
ば、
判
例の
変更の
例
は
よ
り
多く
なる
で
あ
ろ
う。
し
か
し、
そ
れ
は、
裁
判
所が
、
従
来の
先
例が
明
白に
不
合
理
だ
と
考
える
場合に
限
られ
る
と
予測
し
て
よ
い
の
で
ほ
な
( 4 1 ) 判例変更 と罪刑 法 定 主 義
か
ろ
うか
。
+
(
漁
協、
八
三
巻七
・
八
号四
三
頁)
と
し
て
い
る
が、
刑
事
事件の
場合
、
被
告人
に
不
利
益
な
判
例
変
更が
多く
なる
こ
と
自
体、
一
つ
の
問題で
あ
る。
判
例
変
更
を
容
易に
さ
せ
ない
だ
けの
歯止
めが
必
要で
あ
ろ
う。
そ
れ
に
は、
「
判
例の
不
遡
及
的
変更を+
単なる
判
例
変更の
テ
クニ
ッ
ク
と
して
は
な
ら
ない
の
で
ある
。
(
1 6)
ジェ
イム
ス
事
件判
決に
お
ける
ブ
ラ
ッ
ク
裁
判
官
の
意
見
(
山
霊
亡・
∽・
N
N
牟.
N
N
h
)
に
代
表
さ
れ
る。
(
17)
Te
F
呂く・
亡
邑e
払
St
已e
s
e
H
re
r
∽
FO
t
t
(
-
ま
ヱ
山
∞
N
亡・
S・
合か
‥
l
。
F
ロS
。
ロ
く・
ヨe
w
l
er
se
y
(
-
諾か
)
宗谷
亡.
S
.
ご¢
い
St
01
巴-
く.
ロe
ロ
n
O
(
-
まご
い
監
亡.
∽.
N
巴い
De
s
賢く
.
亡2 .
t
e
d
St
巳e
s
(
-
讃ヱ
い
窒
亡.
S
一N
玉
(
1 8)
H
邑d
邑∵
貞et
岩害t-
まt
q
s
F。
已d
bO
H
et
F〇一
品Ft
。‥
A
C
巴-
訂r
t
Fe
e
ロ
ー
○什
t
Fe
「-
ロ
打【
①t
t
e
r
d
OCt
ユロe
.堅U
TFe
JO
亡
岩巴
○{
c
ユ
m呂.巴-
P
W-
Cr-
mi
ロ○-
○
聖1
Pロ
ー
pO
-
ト
c
e
s
c
訂・
ロC
e
小
-
N
三
西ド
イ
ツ
に
お
ける
問
題状
況
一
ボ
ン
基
本
法第
一
〇三
条
第
二
項
は、
「
行
為は
、
そ
れ
が
行な
わ
れ
る
以
前に
そ
の
可
罰性が
法律に
よっ
て
規定さ
れ
て
い
る
場
合に
の
み
処
罰さ
れ
る。
+
と
し、
現
行
刑
法
は、
そ
の
第二
条
第一
項に
同
文の
規定を
持っ
て
い
る。
こ
れ
に
よ
っ
て、
遡
及
処
罰が
禁じ
られ
、
こ
れ
に
違
反
し
た
場
合に
は、
憲
法
裁判
所へ
の
提訴が
で
きる
とい
うこ
と
に
は、
格別
問題が
ない
。
問題は
、
そ
の
遡及
処
罰の
禁止
が、
刑
罰法
規の
み
な
ら
ず被告人に
不
利
益
な
判例変更の
遡及
を
禁じる
趣旨を
も
含ん
で
い
る
か、
とい
う
点で
あ
る。
従
来、
こ
と
に、
一
九六
〇
年以
前は
、
遡及
処罰の
禁止
は
刑
罰法
規の
遡及
効の
み
を
禁止
する
とい
う理
解が
、
支
配
的
で
あっ
た。
た
とえ
ば、
ラ
ー
ト
ブ
ル
フ
は、
英
米法の
分
析を
通
じて
、
「
判
例法+
とい
う
範疇が
刑法の
分
野に
あ
る
こ
と
を
認め
た
が、
こ
の
判
例法に
は、
遡及
処
罰の
禁止の
原
則が
(
1 9)
妥当し
ない
こ
と
を
も
ち
ろん
で
あ
る
と
し
た。
ま
た、
ボ
ア
ケ
ル
マ
ン
は、
裁判官が
新しい
解
釈を
示し
、
こ
れ
を
具
体
的
事
案に
適用
する
場合に
は、
法
律自
体
を
変更する
とい
うよ
り
も、
正
しい
法を
提示
する
と
い
う
確
信に
支配さ
れ
て
い
る
の
で
あっ
て、
こ
の
よ
うな
確信
な
く
して
、
裁判官が
新しい
法
規を
決定
する
と
すれ
ば、
そ
れ
は、
も
は
や
解
釈で
は
な
くて
法律に
よ
っ
て
禁じ
ら
れ
た
法
創造で
あ
る。
も
し、
仮に
、
新
しい
解釈は
、
必
然的に
、
遡及
性を
持つ
法創造で
あ
る
と
す
る
立
場に
立
ち、
遡及
禁止
と
判例法との
矛
盾を
解決する
と
すれ
ば、
一
切の
法
解
釈を
禁止
する
か、
罪刑
法
定
主
義を
放
棄す
る
か、
以
外に
は
方
法が
ない
。
こ
の
場合に
、
新しい
解
幻
一 橋論 叢 第 七 十一 巻 第 一
号 ( 42 )
釈
を
将来の
事案に
の
み
効力が
あ
る
も
の
と
する
こ
と
は、
裁
判官に
よ
る
法規の
創造
を
公
然と
許
すこ
と
に
な
り、
罪刑
法
(
2 0)
定
主
義に
反
する
、
と
述べ
て
い
る。
シ
ュ
ン
ケ
=
シ
ュ
レ
ー
ダ
ー
も、
何が
禁じ
ら
れ、
何が
許さ
れ
て
い
る
か
に
つ
い
て
の
決
定
的
基準は
、
法
律だ
けで
あっ
て
判決で
は
ない
と
して
、
判
例変更に
は
遡及
処
罰禁止の
原
則の
適用が
ない
、
と
して
い
(
21)
た。
以上の
よ
うな
通
説
的見
解で
は、
従
来の
判例に
基づ
い
て
自己の
行為を
適法で
あ
る
と
信じ
て
行
為し
た
者の
救済は
、
禁止の
錯誤に
関
する
理
論に
よっ
て
な
さ
れ、
そ
れ
で
十
分で
(
2 2)
あ
る
と
考え
られ
て
い
た
の
で
あ
る。
二
しか
しな
が
ら、
裁判官の
法
通
用を
立
法
者の
法定立
機能と
裁然と
区
別
する
伝
統的理
解に
対
して
は、
ア
メ
リ
カ
の
リ
ア
リ
ズ
ム
法学の
影響も
あっ
て、
裁判官の
法
通用は
、
単純な
形
式論理
的
包
摂作業に
と
ど
ま
ら
ず、
一
定
程度の
法
(
2 3)
創
造活
動で
あ
る
と
の
理
解が
有力に
なっ
て
きた
。
一
方に
お
い
て
伝統的理
解に
立
ち、
判例変
更の
遡及
劾を
肯定
する
シ
ュ
レ
ー
ダ
ー
や
シ
ュ
ト
ゥ
レ
ー
な
ど
も、
判例に
よ
る
慣習
法の
形成
(
た
と
え
ば、
超法
規的緊急
避
難や
禁止
の
錯誤
の
理
論)
を
認
め
る
限
度に
お
い
て
ほ、
裁判官の
法
則造
機能を
承
(
2 4)
認し
て
い
た。
こ
うし
た
機運を
背景に
して
、
一
九六
〇
年、
デュ
ー
リ
ッ
ヒ
は、
判例が
形
成し
た
慣習
法を
解釈に
よ
っ
て
変更し
、
こ
れ
を
遡及
的に
適用して
被告人
を
処
罰
する
こ
と
は、
基本
法
第一
〇三
条第二
項に
違反
する
、
と
主
張し
、
こ
の
よ
う
な
場
合に
は、
判例
変更
は
「
鑑定
的
(
傍論に
お
い
て)
+
な
し
得
る
に
過ぎ
ない
と
して
、
い
わ
ゆ
る
「
判
例の
不
遡及
的
変更+
(
2 5)
を
提唱し
た。
こ
の
年、
バ
ウ
マ
ン
も、
法
律と
そ
の
解釈と
の
補充
関
係か
ら、
解
釈に
よ
る
判例の
遡及
的不
利益
変更を
防
止
す
る
こ
とが
で
きた
場合に
、
は
じ
め
て、
刑
法の
マ
ブ
ナ・
(
2 6)
カ
ル
タ
性が
実
現さ
れ
た
と
言い
得る
、
と
述べ
た。
税法や
特
許法の
分
野で
は、
比
較的
早
くか
ら
判例変更の
(
2 7)
不
遡及に
つ
い
て
論じ
ら
れ
て
い
た
よ
うで
あ
る
が、
刑
法の
分
野で
は、
デュ
ー
リ
γ
と
とバ
ウマ
ン
の
主
張が
最初の
もの
で
あ
る。
以
後、
こ
の
間題を
め
ぐつ
て
賛否両
論あい
争うの
で
(
詣)
あ
る
が、
と
くに
、
一
九
六
五
年、
離酎運転の
基準に
関
する
判
例変更は
、
こ
の
間題を
議論する
うえ
で
具体
的な
素材
を
提
供し
た。
三
ド
イ
ツ
刑
法
は、
わ
が
国の
道路
交
通
法(
鮨蝿
讃一
㌔)
と
同
様に
、
ア
ル
コ
ー
ル
飲料類の
影響に
ょ
り、
正
常な
運
転
4 β
( 4 3 ) 判例 変 更 と罪刑 法 定 主 義
が
で
きない
状
態で
車両の
運
転
を
した
者
を
処
罰
す
る
規
定
(
一一一㌔彗祁
㌔)
を
設けて
い
る。
従
来の
判例は
、
血
中ア
ル
コ
ー
ル
濃度
一
・
五
‰もっ
て
「
正
常な
運
転が
で
き
ない
状
態+
の
判定基
準と
して
い
た。
と
こ
ろ
が、
連邦
通常裁判所は
、
一
九六
六
年九
月一
二
日
の
決定
(
田口諾St
N
-
+山
○
に
よっ
て、
右の
基
準を
一
・
三
‰に
引き
下
げ
た。
そ
こ
で、
こ
の
判
例変更以
前に
、
血
中ア
ル
コ
ー
ル
濃
度一
二二
‰以上
一
五
‰
以
下の
飲酒
量で
車両
運
転を
し
た
者に
対
して
も、
変更
後の
厳
格な
基
準が
適用さ
れ
る
か
香か
が、
各地の
裁判所で
具
体
的に
問題に
なっ
たの
で
あ
る。
こ
の
間題に
対
し
て
各上
故地
方
裁判
所の
とっ
た
態
度は
、
以
下の
三
類型に
分
類さ
れ
得る
。
(
1)
判例変更
は
法
律の
変更で
は
ない
か
ら、
禁止の
錯誤が
問題に
な
る
こ
と
は
あっ
(
2 9)
て
も、
遡及
処罰
禁止の
問題で
は
ない
、
と
する
もの
。
(
2)
一
般論に
は
触れ
ず、
血
中ア
ル
コ
ー
ル
濃度は
単なる
証
明
資
料に
過
ぎ
ない
か
ら、
そ
の
変更は
遡及
処
罰禁止
条項と
か
か
(
劫)
わ
り
が
ない
、
と
する
も
の。
(
3)
判例
変更の
場
合に
も
遡
及
処罰の
禁止が
問題に
な
り
うる
と
し
なが
らも
、
当
該
基
準
の
引
下
げは
、
諸
事情か
ら
予
め
蓋
然的に
認
識し
得た
の
で
あ
る
か
ら、
そ
れ
に
もか
か
わ
ら
ず、
一
・
三
‰以上の
甑酎
度で
車両
運
転を
し
た
者は
、
自ら重
大な
危険を
引
き
受けた
も
の
で
あ
る、
と
して
、
具
体
的に
は、
遡及
処
罰
禁
止
条項違反の
(
3 1)
主
張を
排斥する
も
の。
こ
の
う
ち、
第三
の
見
解を
表
明し
た
カ
ル
ル
ス
ル
ー
エ
上
叔
地
方
裁判
所一
九六
七
年一
〇月
五
日
の
判決は
、
上
級
地方
裁
判
所と
して
は、
は
じ
めて
、
判例変更が
遡及
処
罰
禁止
条項
と
の
抵触問題を
び
き
起こ
し
得る
こ
とを
認め
た
もの
と
して
(
3 2)
注
目さ
れ
て
い
る。
学説上
も、
こ
の
問題を
契
機と
して
、
遡
及
処
罰禁止
は
刑罰
法
規の
制
定・
変更の
み
な
ら
ず判例変
更
の
場合に
も
適用さ
れ
る、
と
する
見
解が
除々
に
増え
つ
つ
あ
(
33)
る
よ
うで
あ
る。
そ
の
根
拠と
する
と
こ
ろ
を
列
挙
す
れ
ば、
(
1)
裁判所
、
と
くに
上
告審は
、
具体
的事
案の
解決
と
同
(
3 4)
時に
、
法
律解
釈の
統一
を
任
務と
する
。
(
2)
実
際上
、
法
律の
条文
自体よ
り
も、
こ
れ
を
解釈す
る
判例が
、
国
民の
行
動の
指針を
提供して
い
る。
(
3 5)
の
解
釈は
補完
関
係に
あ
る。
例は
「
判
例法+
を
形
成し
、
そ
の
意味に
お
い
て、
法律と
そ
(
3)
と
くに
、
確立
さ
れ
た
判
そ
の
変更は
法
律の
変更と
同
視
(
3 6)
さ
れ
る。
(
4)
遡及
処
罰禁止
は
国
民の
信類保
護に
根
拠を
持つ
の
で
あ
る
か
ら、
従
来の
判例の
示
した
法
解釈を
信頼し
(
3 7)
て
行為し
た
者も
保護さ
れ
て
然る
べ
き
で
あ
る。
(
5)
立
法
4 3
一 橋 論叢 第 七 十一 巻 第
一
号 ( 4 4 )
技術的に
まっ
た
く一
義的に
明
確な
規定を
設け
る
こ
と
は
不
可
能で
あ
る。
し
た
が
っ
て、
方
法
的に
不
可避的な
、
そ
の
意味
に
お
い
て
憲法
上
甘
受し
得る
程度の
不
明確
な
規定
を
明
確
化
する
こ
とが
、
裁判
官の
任
務と
な
る。
い
わ
ば、
裁判官は
、
立
法
者の
な
した
法
形
成を
受け
継い
で、
こ
れ
を
完
成
する
の
で
あ
る。
こ
の
限
りに
お
い
て、
裁
判官
は、
一
種の
立
法
者
的
機能を
は
た
すの
で
あ
る
か
ら、
立
法
者
と
同
様の
憲法上
の
制
(
3 8)
約に
服さ
な
けれ
ば
な
ら
ない
。
(
6)
罪刑
法定
主
義の
指
導
理
念は
、
国家に
よ
る
自由の
侵害か
ら
国民を
保護する
こ
と
に
ある
。
そ
れ
は、
すべ
て
の
国家
機関の
行
動が
国
民に
とっ
て
予
測
可
能と
な
る
こ
とに
よ
っ
て、
具
体化
さ
れ
る
もの
で
あ
る。
し
た
がっ
て、
立
法の
領域の
み
な
ら
ず裁判官に
よ
る
法
適用の
領域に
お
い
て
も、
予
測可
能性は
確
保さ
れ
な
け
れ
ば
な
ら
ない
が、
こ
れ
は、
従
来の
判
例か
ら
逸
脱して
、
被告
人
に
不
利益
な
法認
識に
達し
た
判決の
遡及
的
適用
を
禁止
する
(
3 9)
こ
とに
よっ
て、
は
じめ
て
達成す
る
こ
と
が
で
き
る。
(
7)
被告人に
不
利益な
判例
変更に
遡
及
効
を
認め
る
と、
法の
下
(
仙)
の
平
等とい
う原
則に
反
する
結果が
生
じる
。
こ
れ
に
対し
て、
判例変更の
遡
及
効を
肯定
する
立
場か
ら
以
下の
よ
うな
批
判が
な
さ
れ
て
い
る。
(
1)
判
例
変
更は
法
(
4 1)
律の
変更と
同
視し
得る
も
の
で
は
ない
。
(
2)
裁判官は
、
4 4
具
体
的
事案の
解
決
を
任
務
と
する
の
で
あっ
て、
一
般的に
国
民に
行動の
指
針を
提供する
こ
と
を
任
務
と
す
る
も
の
で
は
(
42)
ない
。
(
3)
仮に
、
「
判例
法+
と
言わ
れ
て
い
る
もの
が
形
成
さ
れ
る
と
して
も、
そ
れ
は、
具
体
的事
案の
解
決を
通
し
て
(
4 3)
形
成
さ
れ
る
の
で
あ
る
か
ら、
遡及
的
性
格を
免れ
得ない
。
(
4)
新た
な
判断に
遡及
効を
否定
す
る
と、
法の
発展が
阻
(
4 4)
害さ
れ
る。
(
5)
現
代の
よ
うに
無数の
判例が
出さ
れ
て
い
る
状態で
は、
主
観的な
信
顧の
保護や
予
測
可
能性の
確保は
、
ユ
ー
ト
ピ
ア
で
し
か
あ
り
得ない
。
現
代的意味に
お
ける
罪
刑
法
定主
義の
目
的は
、
も
は
や
信
頗の
保護や
予
測可
能性の
確
保に
あ
る
の
で
は
な
く、
一
般的に
、
慈
意的
な
処
罰か
ら
国民
(
4 5)
を
保護す
る
こ
と
に
ある
。
(
6)
新しい
法
解
釈を
遡
及
的
に
適用
する
と
して
も、
すで
に
無罪が
確定し
た
もの
に
まで
、
そ
の
効力が
及ぶ
わ
けで
は
な
く、
すべ
て
の
係
属中の
事件
、
あ
る
い
は、
今後係
属する
事件に
等し
く
そ
の
適用
を
み
る
の
(
裾)
で
あ
る
か
ら、
な
ん
ら
平
等原
則に
反
す
る
も
の
で
は
ない
。
(
1 9)
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己
官宍F
、
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∽
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( 4 5 ) 判例変更 と罪刑法 定 主 義
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版
まで
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解
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一
四
版
(
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「
完
全
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致
し
た
判
例+
の
場合に
は、
そ
の
変更は
、
遡
及
禁止
に
か
か
わ
る
と
して
い
る。
(
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況
を
詳
細に
跡づ
けて
、
「
判
例の
不
遡
及
的
変
更+
と
い
う方
法
を
と
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きこ
と
を
主
張し
た。
(
2 9)
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.
Z-
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司
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宗か
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3 1)
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3 2)
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決
が、
判
例
変
更が
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見で
きた
こ
と
を
も
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て、
結
論的
に
は
遡
及
処
罰
禁止
条
項の
適
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香
定し
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点
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橋論叢 第七 十一 巻 第 一
号 ( 4 6 )
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3 8)
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こ.
明
確性の
要請は
立
法
者の
み
な
ら
ず
裁判
官
に
も
向
け
ら
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ぺ
き
で
あ
る
と
す
る。
(
3 9)
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2-
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芸V
.
訟∞
四
私
見の
展開
一
以上
、
判例変更と
遡及
禁止を
め
ぐる
ア
メ
リ
カ
と
ド
イ
ツ
の
議論状況
を
概観して
きた
。
そ
こ
で、
以上の
議
論状
況を
踏まえ
て、
判例
変更
と
罪刑
鎮定
主
義と
の
関
係に
つ
い
て
若
干の
考察を
加え
て
み
よ
う。
ま
ず、
裁判
官の
法創造
機能を
強
調
する
こ
と
に
よっ
て、
判例に
独立の
法
政性を
付
与
し、
そ
こ
か
ら、
判例
変更
を
法
律の
制定
・
変更
と
同
視する
式の
議論で
あ
る
が、
こ
れ
は、
や
は
り
罪
刑法
定
主
義上
疑問が
あ
る
と
言わ
な
けれ
ば
な
ら
な
い。
た
し
か
に、
法
解
釈が
単なる
形
式論理
的な
包
摂作
業に
と
ど
ま
ら
ず、
一
種の
価値
判
断作業で
あ
る
と
い
う
事実
は
認
め
ざる
を
得ない
で
あ
ろ
う。
しか
し、
そ
れ
は、
あ
くまで
も
法
律の
枠内で
の
作業で
あ
り、
そ
の
中に
あっ
て
も、
法解
釈
は、
複数可
能なこ
とば
の
意味の
中か
ら
ど
れ
か
を
選
択
する
と
い
う
要素を
含ん
で
い
る
事実を
承認
する
限
りに
お
い
て
で
あ
る。
法
律の
枠を
越え
て、
新た
な
法
律を
形
成
する
こ
と
ま
で
は、
裁
判
官の
法解釈作業の
枠内に
取
り
込
むこ
とが
で
き
ない
。
と
くに
、
処
罰を
拡大
する
方
向で
の
解
釈に
つ
い
て
は、
4 ∂
( 4 7 ) 判例変 更 と罪 刑 法 定主 義
国
会の
制定
し
た
法
律に
よ
ら
な
け
れ
ば、
何人
も
処
罰さ
れ
る
こ
と
は
な
い
とい
う
罪刑法
定
主
義の
基本
的要請は
、
厳稗に
維持さ
れ
な
け
れ
ば
な
らない
。
判例の
法政性を
認
め
る
こ
と
(
4 7)
は、
こ
の
基本
的
要請に
反
する
こ
と
に
な
る
の
で
ある
。
次に
、
明
確性の
要請は
、
立
法
者の
み
な
ら
ず裁判官に
向
けら
れ
る
と
して
、
そ
の
限り
に
お
い
て
裁判官も
立
法者と
同
様の
憲法上の
制
約に
服する
、
とい
う
議論は
ど
うで
あ
ろ
う
か。
こ
れ
も、
立
法者の
機能と
裁
判官の
機能の
質的差異を
量的
差
異に
転化
す
る
こ
とに
よ
っ
て、
明
確性の
原
則の
本
来
的
意味を
失わ
し
め
る、
とい
う
点で
問題が
あ
る。
わ
が
国の
最高裁
判所の
例を
見て
も、
解
釈に
よっ
て
法文の
意味を
確
定で
き
る
と
い
う理
由で
、
明
確性の
原
則に
反
する
との
主
張
(
4 8)
が
排斥さ
れ
る
の
が
通
例で
あ
る、
とい
う
事実
を
忘れ
て
は
な
ら
ない
。
こ
の
よ
うに
、
裁判官の
機能を
立
法
者の
機能と
同
視
する
よ
うな
論理
は
採り
得ない
の
で
あ
る
が、
そ
れ
に
もか
か
わ
ら
ず、
判例が
事実上
の
拘束
力を
有し
、
国
民に
対し
て
そ
の
行
動の
指針
を
与
え
る
役割を
果た
して
い
る
事実
は、
こ
れ
を
認
め
ざる
を
得ない
。
と
くに
、
最高裁
判所は
、
制度上も
、
単
に
具
体
的
事
案の
解
決の
み
な
ら
ず、
法律解
釈の
統一
と
い
う
機能も
担っ
て
い
る
か
らそ
の
判決が
国民に
与
え
る
影
響は
無
視し
得な
い
の
で
あ
る。
こ
の
判例の
事実上の
役割
と
最高裁
判所の
制
度上の
機能とに
着眼
する
と
き、
最高裁判所の
判
例を
国民に
とっ
て
不
利益に
変更
する
こ
と
は、
極力
避
けな
けれ
ば
な
ら
ず、
や
む
を
得ず変更する
場合に
も、
十
分に
国
民の
人
権保
障に
留意し
て、
最低限
、
国民に
対
する
不
意打
ちと
な
ら
ない
よ
うに
し
な
けれ
ば
な
ら
ない
、
とい
う
要請が
生
じ
て
くる
。
予
測可
能性と
信
顧の
保
護は
、
い
ま
やユ
ー
ト
ピ
ア
で
あ
る
とい
う
批判が
あ
っ
た。
た
し
か
に、
一
般条項や
規範的
構成
要件
要素
は、
裁判官の
価値判
断の
幅を
広め
、
予
測可
能性
の
確保
を
困
難に
し
て
い
る。
しか
し、
こ
う
した
事態に
あ
る
か
らこ
そ、
ま
す
ま
す、
法律の
明
確化が
要請さ
れ、
裁判官
の
行
動に
も
制約が
加え
ら
れ
な
け
れ
ば
な
ら
ない
と
も
言い
得
る。
予
測
可
能性が
確
保し
に
くい
事態が
生
じ
た
か
ら
と
い
っ
て、
直ちに
こ
の
現
状を
肯定
し、
ユ
ー
ト
ピ
ア
論を
持ち
出す
の
は、
あ
ま
り
に
安易
な
態
度で
あ
る
と
言わ
な
けれ
ば
な
ら
な
ヽ
0
、.
∨
二
法
律
主
義を
根幹に
据えつ
つ、
予
測可
能性を
裁判
官
の
行
動に
対
して
も
要
請して
い
くこ
と、
こ
れ
が
現
代に
お
け
4 7
一 橋論叢 第 七 十一 巻 第 一 号 ( 48 )
る
罪刑
法
定
主
義の
い
わ
ば
最
低限の
内
容で
あ
る。
そ
こ
で、
′裁判官の
行
動に
対
する
予
測
可
能性は
ど
の
よ
う
に
確保さ
れ
る
か
で
あ
る
が、
こ
れ
に
は、
さ
し
あ
た
り、
①国
民に
とっ
て
不
利益
な
判例変更は
許さ
ない
、
②不
利益
な
判
例
変更の
遡及を
禁止
する
との
二
方
法が
考え
ら
れ
る。
しか
し、
第①の
方
法は
、
裁判官の
判例へ
の
拘束を
強調
し
過
ぎ
る
こ
と
に
よっ
て、
法
律主
義の
趣旨に
反
する
こ
とに
なる
。
や
は
り、
第②の
方
法を
もっ
て
至
当と
すべ
き
で
あ
ろ
う。
も
っ
と
も、
こ
の
場合
、
国
民に
とっ
て
不
利益
な
判例
変更は
、
よ
ほ
どの
法
律上の
根拠と
必
要性が
ない
限り
は
許さ
れ
ない
こ
と
を
前提と
し
な
けれ
ば
な
ら
ない
。
こ
の
前
提が
あっ
て、
は
じ
めて
、
判例変更の
遡及
禁止
とい
う
意味が
生
き
て
くる
の
で
あ
る。
判例変更の
遡及
禁止
に
対
し
て
ほ、
な
お、
二
つ
の
問題が
指
摘さ
れ
て
い
た。
第一
に、
被告
人の
信顧の
保護とい
う点
か
ら
す
れ
ば、
洪律の
錯誤
(
禁止の
錯誤)
の
理
論の
活
用に
ょっ
て、
十
分そ
の
目
的が
達成さ
れ
る
とい
うこ
と
で
あ
る。
しか
し、
被告人が
行
為し
た
と
き
に
は、
こ
れ
を
適
法と
解す
る
判例しか
な
か
っ
た
と
すれ
ば、
こ
の
判決を
信じ
る
に
つ
き、
被告人に
は
何らの
錯誤
も
なか
っ
た
の
で
あ
り、
た
だ、
の
ち
の
違法
判
決に
よ
っ
て
事後的に
錯誤が
あっ
た
と
み
な
さ
れ
る
胡
の
で
あ
る。
こ
の
場合の
錯
誤
は、
一
種の
擬
制で
あ
る。
ま
た、
先
例自体は
錯誤
を
理
由づ
ける
一
つ
の
資料に
しか
過
ぎ
ない
の
で
あ
る
か
ら、
先
例を
信
じた
か
ら
と
言っ
て、
常に
必
ず故意が
阻
却さ
れ
る
わ
けで
は
ない
。
「
合
理
的な
理
由+
(
”
り
詣謂熊
㌍)
、
「
相
当な
理
由+
が
必
要と
さ
れ、
そ
の
判断は
裁判
官が
行
な
うの
で
ある
か
ら、
ま
た
ま
た、
不
安定
な
要素
が
つ
け
加わ
る
こ
と
に
な
る。
し
か
も、
禁止の
錯誤に
関する
ド
イ
ツ
判例の
多数は
、
被告
人が
先
例の
存在
を
知っ
て
い
た
(
4 9)
場合に
の
み、
行
為が
不
可
罰と
な
る
と
して
い
る
か
ら、
一
般
的
な
国
民の
信頼の
保護の
た
めに
は
必
ずし
も
十
全な
方
法で
は
ない
。
一
律的に
判例変更の
遡及
を
禁止
する
方
法に
、
ま
さ
る
もの
で
は
ない
。
第二
に、
判
例
変更の
効力
を
将来に
むか
っ
て
の
み
発生さ
せ
る
こ
とは
、
裁判
所の
機能を
超え
る
か、
と
い
う
問題が
あ
る。
新た
に
示さ
れ
た
判
断が
、
将来に
向か
っ
て
法と
して
通
用
して
ゆ
くと
す
れ
ば、
裁判所の
権能問題が
お
きて
こ
よ
う。
し
か
し、
後の
判決が
具体
的
事案と
の
関係で
示
すべ
き
判断
は、
行
為時の
判例に
よ
れ
ば、
被告人の
行
為は
適法で
あ
り、
こ
れ
を
処罰す
る
こ
とが
で
き
ない
、
とい
うこ
とだ
けで
あ
っ
( 4 9 ) 判例変更と罪刑 法定 主 義
て、
新しい
法
解釈は
、
傍論的判
断と
して
従
来の
判例に
対
す
る
国
民の
信頼の
基盤を
切
り
崩す
意
味を
持つ
に
過
ぎない
。
新旧
ど
ち
らの
法解釈が
将来の
行動の
指
針に
な
り
得る
か
は、
ど
ち
らが
国
民に
対
する
よ
り
強い
説得力
を
持ち
、
定
着
して
ゆ
くか
に
か
か
っ
て
い
る。
新旧い
ずれ
か
の
法
解釈が
定
着する
まで
は、
国
民は
法
的に
不
安定
な
状態に
置か
れ
る。
こ
の
状
態で
犯さ
れ
た
行為は
、
も
は
や
遡及
処罰禁止
とい
う
憲法
上の
保護を
受け
待ない
が、
他
方、
法
的不
安
定
状態に
お
ける
危険を
も
っ
ぱ
ら
国
民
が
負担すべ
き
とい
われ
も
ない
か
ら、
で
き
る
限り
処
罰を
さ
し
控える
方
向で
考え
ら
れ
な
け
(
5 0)
れ
ば
な
らない
。
こ
うし
た
場合に
こ
そ、
禁止の
錯誤理
論が
大い
に
活
用さ
れ
る
べ
きで
あ
る。
三
と
こ
ろで
、
どの
よ
う
な
場合に
、
判例変更は
遡及
禁
止と
な
る
か、
で
ある
が、
こ
れ
に
は、
裁判所の
種類を
問題
に
する
考え
方と
、
判例の
一
致
度を
問題と
する
考え
方が
あ
り
得る
。
判例法の
形
成とい
う点
を
遡及
禁止の
論拠と
す
れ
ば、
一
致し
た
判
例を
変更
する
場合で
あ
る
こ
と
を
要し
、
ま
た、
そ
れ
で
足り
る
とい
うこ
とに
な
ろ
う。
しか
し、
前述し
た
ご
と
く、
私
は
そ
の
よ
うな
発想を
と
ら
ない
。
先
例が
、
法
律解釈の
統一
を
任
務
と
する
裁判所の
もの
で
あ
る
か
香か
を
重
視する
か
ら、
最
高裁判所の
判例を
変更
する
場合に
限
ら
れ
る
とい
うこ
と
に
な
る。
そ
して
、
最高裁判
所の
判例で
あ
る
限り
、
そ
れ
が一
致
した
もの
で
あ
る
と
か、
変更
可
能性の
ない
も
の
で
あ
る
と
か
の
不
確定
な
要素は
問題に
すべ
きで
な
い
と
考え
る。
なぜ
な
らば
、
先
例が
一
致し
た
も
の
で
なか
っ
た
と
か、
変更
さ
れ
る
こ
と
が
予
見で
き
た
とか
を
う
ん
ぬ
ん
す
る
こ
と
は、
結局
、
法
的不
安
的な
状態
を
国
民の
危険負担に
ょっ
て
解決する
結
果に
な
り、
妥当で
ない
か
らで
ある
。
な
お、
遡及が
禁止
さ
れ
る
の
は、
被告人に
とっ
て
不
利益
な
判例変更だ
けで
あ
る
こ
と
は
も
ち
ろ
ん
で
あ
る。
司
法
機関
や
検
察官の
信顧の
保護は
、
人
権保
障上
問題
と
なり
得ない
こ
と
は、
言
うま
で
も
な
か
ろ
う。
被告人に
利益な
判例は
遡
及
する
と
な
る
と、
被告人に
不
利益
な
判例が
遡及を
禁止
さ
れ
る
の
は、
先
例か
ら
判例
変更
まで
の
問の
行
為に
限ら
れ
る
の
で
は
な
く、
判例
変更以
前の
すべ
て
の
行
為に
つ
い
て
で
あ
る
と
い
うこ
と
に
な
る。
四
最後に
、
条文
上の
根拠に
つ
い
て一
言し
よ
う。
ア
メ
リ
カ
で
は、
判例が
事
後
法
禁止
条項は
判例変更の
場
合を
含ま
ない
と
して
い
る
た
め
に、
フ
リ
ー
マ
ン
な
ど
は、
デ
ュ
ー
・
プ
ロ
セ
ス
条項に
判
例変更の
遡及
禁止の
根拠を
求
め
4 9
一 橋論叢 第七 十 一 巻 第 一
号 ( 5 0 )
(
5 1)
て
い
る。
こ
の
考え
に
よ
れ
ば、
わ
が
国で
は、
憲法三
一
条に
根
拠を
求
め
る
こ
と
に
な
ろ
う。
し
か
し、
デュ
ー
・
プ
ロ
セ
ス
とい
う概
念は
、
ほ
なは
だ
あ
い
まい
で
あ
る。
他に
適切な
規
定が
あ
れ
ば、
で
きる
だ
けそ
れ
に
依る
の
が
妥当で
ある
。
さ
い
わい
、
わが
国の
憲法三
九
条は
、
「
何
人
も、
実
行
の
時に
適法で
あっ
た
行為…
…に
つ
い
て
は、
刑事上の
責任
を
問わ
れ
ない+
と
して
お
り、
ド
イ
ツ
の
基本
法の
よ
うに
「
法
律に
ょ
り+
とい
う限定
を
付
して
い
ない
。
し
た
が
っ
て、
被告人
に
利益な
類推
解釈と
い
う技巧
を
用い
な
くて
も、
判例に
よ
っ
て
適法と
さ
れ
た
行
為も
右
条文に
よ
っ
て
憲法上の
保
障を
受ける
と
解
釈する
こ
とが
で
きる
。
なお
、
改正
刑法
草案第二
条第
二唄
は、
「
法
律上
罰せ
ら
れ
な
か
っ
た
行為は
、
事後の
法律に
よ
っ
て
こ
れ
を
処罰
す
る
こ
とが
で
きない+
と
し
て
お
り、
憲法三
九
条
以上
に
事後立
法だ
け
を
禁止
する
表
現を
とっ
て
い
る。
こ
れ
は、
第一
条に
「
法律の
規定に
よ
る
も
の
で
な
けれ
ば、
い
か
な
る
行為も
、
こ
れ
を
処
罰する
こ
と
が
で
き
ない+
と
規定
した
こ
と
と
歩調
を
合わ
して
い
る
の
で
あ
ろ
うが
、
前
述の
ご
と
く、
罪刑
法定
主義の
根
幹を
法律主
義に
求
め
る
こ
と
と、
判例変更の
遡及
禁止
と
は、
必
ずし
も
矛
盾し
ない
。
む
し
ろ、
法律主
義を
実
効
あ
ら
し
め
る
た
め
に
も、
判例
変更に
よ
る
実
質的
な
遡
及
処
淵
罰を
禁止
する
必
要が
あ
る
の
で
あ
る。
改正
刑
法
草
案第二
条
第一
項の
表
現
は、
少な
くと
も
憲法三
九
条
前段の
よ
う
な
表
現
に
変え
ら
れ
る
べ
きで
は
な
か
ろ
うか
。
(
4 7)
小
暮、
西
原
両
教
授も
、
判
例の
法
濾
性か
ら
議論を
展開
し
て
お
ら
れ
る
が、
疑問で
あ
る。
(
4 8)
た
と
え
ば、
「
通
貨
及
証
券
模造
取
締法
一
条の
『
紛ハ
シ
キ
外
観ヲ
有ス
ル
モ
ノ』
との
文
言は
、
日
常
用
語と
し
て
合
理
的に
解
釈
する
こ
と
が
可
能で
あり
、
社
会
通
念に
従い
通
貨に
紛
ら
わ
しい
外
観を
有
す
る
もの
で
あ
る
か
ど
うか
判
断で
き、
あい
まい
不
明
確と
はい
え
ない
。
+
と
した
最判昭
和四
五
年四
月二
四
日
(
刑
集二
四
巻四
号一
五
三
頁)
な
ど。
(
4 9)
せP
叫
Ob
rG
-
2】
W-
冨〇
.
合ご
Bp)
■1
0J
LG
こZ
-
芸ざ、
諾い
、
訟ヰ
など
。
た
だ
し、
Sc
F
望}
打e・
Sc
F
岩倉1
、
脚
笠
Rn
Fr
一
ご
は、
行
為
者が
先
例の
存
在を
知っ
た
とこ
ろで
、
妥
当
な
認
識に
到
達し
得ない
の
で
あ
る
か
ら、
そ
の
不
知は
禁止の
錯
誤の
成立
に
とっ
て
障害
と
な
ら
ない
、
と
する
。
(
5 0)
グ
ロ
ス
も、
裁
判
官に
も
明
確
性の
要
請が
向
け
ら
れ
る
とい
う立
場か
ら
で
あ
る
が、
同
様
の
結
論
に
達
し
て
い
る
(
G
岩S
S.
GA一.
S
.N
O
)。
(
5 1)
句
完2
ヨPロ
.
→Fe
p
岩∽
勺e
Ct
才e
p
持○
邑e
一
品巴ロSt
t
Fe
完耳O
p
Ct
-
<e
O
勺爪
【
芝i
O
ロ
○れ
Pロ
○一
品r
コー
〓
口
内
n
bC
-
sト
O
P-
加
C
?
-
亡
ヨEP
L・
声
N
旨、
N
宗
(
一
橋大
学
専任
講師)