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M2 内内内内内内内 内内内内内内 内内内内内内内内内内内内 内内内内内 内内内内内内 内内 内内内内 ,,,, 内内内内内内内内内内内内内内内内内内内内内内内内● 内内内内内内内内 内内内内内内 内内内 =,体,,,,(QOL 内内 ),. 内内内内内内 内内内 () 内1内内内内内内 =(,), 内2内 内 内3内内内内 =() 内4内 内 内5内 内 ※ 内内内内内内 内内内内内内内内内内内内内内内内内内内 .,,,,,,. ● 内内内内内内内内 内内内内内内内内内 内“ 内 内内”内内内内内内内内 !) 「」 内内 内内 体( BMI=20-25 内内内内 (); HbA1c 内内内 内内内内内内内内内 (< 200mg/dl内LDL 内内内内内内内内120mg/d1, 内内内内 150mg/dl内 HDL 内内内内内内内40mg/dl. 内内内内内内内内内内内内内内 内内内内内内内内内180mg/dl, LDL 内内内内内内内内100 mg/dl内内内内内内内内 130/80 内内; 内内内内内内内内内内内内内内内内内内内内内内 内内内内内内内内内内 内内内内内内 血血血血血血血血血血血血血 内内内内内内内: 2013 内 6 内 1 内内内内内

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M2 内科学系統講義

糖尿病の治療                       国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 内分泌代謝科

                          森 保道

本講義では主として,糖尿病の病態の評価法,糖尿病の治療の原理,治療方針決定,および治療の実際について理解することを目標とする.

Ⅰ.治療総論

● 糖尿病治療の目的=高血糖をはじめとするインスリン作用不足に基づく代謝異常の是正,および体重,血圧,血清脂質の良好なコントロールの維持により,種々の合併症の発症 進展を予防し,健康な人と変・わらない日常生活の質(QOL)を維持し,寿命を確保すること.

糖尿病の治療目標(段階別)

第 1 段階=代謝失調による急性症状(高血糖昏睡,ケトアシドーシスなど)を回避し,生命を維持する第 2 段階=出来る限り健康人と同じような社会的活動を可能にする第 3 段階=良好な血糖コントロール(下記)を達成する第 4 段階=糖尿病の慢性合併症を予防する第 5 段階=健康人と変わらない生涯をおくらせる

※ 現実の治療目標は患者各々によって異なる.患者の年齢,自己管理能力,性格,現時点での合併症の程度,合併疾患,全身状態や種々の社会的・経済的因子をも十分考慮し,各患者に見合った治療目標を設定することも主治医の重要な役目である.

● 糖尿病治療の指標糖尿病(「血糖」だけではない!)の“良好な”コントロールとは① 適正体重(BMI=20-25)の維持② 高血糖の是正(下表);血糖コントロールの指標では HbA1c を重視③ 血清脂質の正常化(総コレステロール<200mg/dl,LDL コレステロール<120mg/d1,中性脂肪<150mg/dl,HDL コレステロール≧40mg/dl.ただし冠動脈疾患のある場合は総コレステロール<180mg/dl,LDL コレステロール<100 mg/dl)④ 適切な血圧の維持(降圧目標は 130/80 未満;糖尿病腎症を合併する場合は十分な降圧をはかる)⑤ 慢性合併症の進展停止⑥ 動脈硬化予防

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● 糖尿病治療の基本概念-病態に基づく治療,エビデンスに基づく治療-

糖尿病を治療する上で大切なことは,1)糖尿病という疾患とその病態を正しく理解し,科学的理論に基づいた治療を行うこと2)治療を正当化するに十分な根拠(エビデンス)に基づいた治療(EBM)を行うこと

上記をふまえて治療方針をたて,患者さんに十分な説明し,同意を得た上で(インフォームド・コンセント*)生活(食事・運動,その他) 指導を行い,必要に応じ薬物治療を行う.・

*インフォームド・コンセント(説明と同意,説明に基づく同意)A. 正しい情報(病気に関する説明,予後の説明,病状,治療法とその効果,これから生じうる合併症とその対処法,

自己管理上の注意)を提供した上で,B. 患者が十分に理解・納得し,治療意欲もしくはその必要性を実感し,そして実行する

**糖尿病治療に関するエビデンス(大規模臨床試験の成績から)**1)Diabetes Control and Complication Trial (DCCT, USA, N Engl J Med 329:977,1993)【対象】1型糖尿病 1,441名,平均 6.5 年間【方法】従来療法(1 日 1-2 回のインスリン注射)と強化インスリン治療「1 日 3 回以上または持続注入

によるインスリン注射,自己血糖測定)の 2群に分け,血糖コントロールと細小血管合併症の頻度を調査

【結果】平均HbA1c : 従来療法群 9%,強化療法群 7%(図1)☆強化療法により網膜症発症(-76%)・進展(-54%),微量アルブミン尿出現(-39%)

 顕性腎症発症(-54%),神経障害発症(-60%)を有意に抑制☆HbAlc を 1.0%下げると網膜症発症のリスクが約 45%低下する★心血管イベントについては両群間で有意差がなかった★重症低血糖・体重増加は強化療法群の方が顕著であった

2)Kumamoto Study(Japan,Diabetes Res Clin Pract 48:201,2000) 【対象】2型糖尿病 110名,10 年間 【方法】従来インスリン療法群(治療目標:空腹時血糖値<140)と強化インスリン療法群(治療目標:

空腹時血糖値<140,食後 2 時聞血糖値<200,HbAlc(JDS)<7%)で比較 【結果】☆強化療法により,網膜症の進展:67%,腎症の進展:66%,アルブミン尿:100%,神経障

害:64%の相対リスク低下 ☆また合併症発症までの期間が,網膜症進展で 2.0 年,腎症の進展で 1.5 年,神経障害で 2.2 年   延長した ☆治療コストは強化療法の方が高かったが,合併症のコストは従来法群のほうが高かった

細小血管障害発症阻止のための適正コントロール目標は,空腹時血糖値<110,食後血糖値<180, HbA1c(JDS)<6.5%である⇒現在用いられている NGSP 値で表記した HbA1c<6.9% に相当

3)United Kingdom Prospective Diabetes Study (UKPDS,UK, Lancet 352:837, 1998)【対象】新規診断 2型糖尿病のうち食事療法開始 3 か月後も空腹時血糖値が 110-270 であった 4209名【方法】食事療法,および薬物治療として,スルホニル尿素(SU)薬,ビグアナイド薬,インスリン療法の

3群に分け,従来療法群(空腹時血糖値 270 未満かつ無症状を目標とする)と強化療法群(空腹時血糖値 108以下を目標とする)で比較した. 登録期間は 1977 年から 1991 年,追跡期間は 1997 年までで追跡期間の中央値は 10.0 年【結果】平均HbAlc : 従来療法群 7.9%,強化療法群 7.0%

血糖コントロール指標と評価

日本糖尿病学会: 2013 年 6月 1 日より施行

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☆強化療法によりすべての糖尿病関連事象が 12%,細小血管障害 25%,心筋梗塞 16%,白内障手  術 24%とリスクの減少が認められた

☆血圧をより厳格に(最終平均血圧 144/82)コントロールした群ではそうでないもの(同154/87)  に比して糖尿病合併症(-24%),細小血管障害(-37%),脳血管障害(-44%)のリスクが減少⇒その後の報告 (N Engl J Med 359: 1577, 2008):当初のトライアルに参加した患者を 10 年後に再調査したところ,強化療法群では従来療法群に比べて,トライアル終了後血糖管理の差がなくなっていたのにもかかわらず,細小血管障害や心筋梗塞の発症や糖尿病関連死や全死亡が有意に減少していた (legacy effect(遺産効果)) .

● 糖尿病における糖代謝異常のアセスメント糖尿病のアセスメントを行う場合には以下の 3 点を考慮することが大切である.なぜならばこれらの評価によって,検査治療プランを決めることが出来るからである.(“ なぜ血糖値が高いのか”を考えないとの真のプランは立たない!)

1 成因(発症機序)と病態(病期):(☞糖尿病と糖代謝異常の分類,日本糖尿病学会2010)2 血糖コントロール増悪因子3 病態:「インスリン分泌不全」vs「インスリン抵抗性」

1.成因(発症機序)による基本的治療方針の決定●病態の特徴と治療方針

1)『1型糖尿病』:絶対的インスリン欠乏  →  出来る限り生理的(内因性)インスリン分泌パターンを模倣するかたちでインスリ

ンを補充する.*インスリン非依存状態(例えば緩徐進行型1型糖尿病)であっても,原則は経口薬ではなく インスリン注射である.

2)『2型糖尿病』:相対的インスリン欠乏+インスリン抵抗性(これら 2 つの病態が様々な程度で共存する)

  →  高血糖を成り立たせている主要な病態を各患者ごとに評価し,それに基づいた治療方針を立てる(後述).

3)『その他の特定の機序,疾患によるもの』  →  基本的には原因疾患の治療.実際に治療困難の場合も多く,適切な食事制限,薬物

療を行う.4)『妊娠糖尿病』  →  食事療法,薬物が必要であればインスリン治療を行う.

*糖毒性(Glucotoxicity),脂肪毒性(Lipotoxicity)の場合  →  種々の方法(インスリンを用いることが多い)で高血糖や血中遊離脂肪酸高値の病

態を解除する.

2.血糖コントロール悪化因子の特定とその除去

 以下に列挙するような因子が血糖コントロール悪化に寄与する.これらの原因を特定し,それ

を解決することで,良好なコントロールが得られることも多い.

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    特に考慮すべき血糖コントロール増悪因子     過食・運動不足・清涼飲料水多飲     ストレス     薬剤:ステロイド,利尿薬,ホルモン製剤,サイクロスポリン,インターフェロン etc.     感染,その他の急性疾患     悪性腫瘍(膵癌など)

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3.糖尿病の病態の評価- インスリン分泌不全 vs. インスリン抵抗性 - 糖尿病の大部分を占める 2型糖尿病においては,インスリン分泌不全とインスリン抵抗性の両者が混在し,患者ごとに種々の程度で存在する.こうした病態の面から見ると,2型糖尿病は広い病態スペクトラムを有する症候群であると言える.すなわち,インスリン分泌不全が顕著のものから,インスリン分泌能はかなり保たれているがインスリン抵抗性が強い(インスリン過剰分泌型)タイプまで,様々である.したがって,高血糖を呈する患者の治療においては,どのような病態が中心的な問題となっているかを客観的かつ正確に評価し,治療方針決定に結びつける必要がある. さらに,高血糖状態そのものがインスリン分泌不全とインスリン抵抗性の両者をさらに障害するという,いわゆる「糖毒性」の概念も重要である.この観点に立つならば,まずは積極的に高血糖状態から脱するような治療(インスリン投与などによる)を積極的に試みることによって,病態の改善が期待される.

4 インスリン分泌能とインスリン抵抗性の客観的評価1.HOMA (Homeostasis Model Assessment Index)

(1)HOMA-IR(インスリン抵抗性指数)(空腹時血糖値 140mg/dl以下の場合に良い指標となる)=空腹時血糖値(mg/dl)x 空腹時インスリン値(μU/ml) /405耐糖能正常者≒1,2.5以上の場合,インスリン抵抗性があると判定(4.0以上:高度インスリン抵抗性)

(2)HOMA-(インスリン分泌能,膵細胞機能)=空腹時インスリン値(μU/ml) x 360 /(空腹時血糖値(mg/d1)- 63)正常は約 50,20 未満で高度インスリン分泌不全

2.グルカゴン負荷試験早朝空腹時グルカゴン 1 mg静注,負荷前・5 (~6) 分後Cペプチド(CPR)採血.グルカゴンは直接膵細胞に作用してインスリン分泌を刺激する(生理的なインスリン分泌刺激機序を介するものではないことに注意).

インスリン感受性増強薬 グルカゴン負荷試験による内因性インスリン分泌能の評価    CPR 5 分値(ng/ml)        △CPR              評価                 (グルカゴン負荷前後の差)      4.0<             2.0<          (比較的)反応性保持     2.0-4.0            1.0-2.0         反応性不良      <2.0              <1.0          高度インスリン分泌不全その他,朝食前後(2時間)Cペプチド値や 24 時間尿中Cペプチド排泄量(20μg/day 未満は高度インスリン分泌不全→インスリン依存状態)などで判定する.

糖尿病の病態に基づく治療方針決定(概念図)

A : インスリン(比較的少量)B : インスリン分泌促進薬(弱)C : 食事療法のみD : インスリン(中等量)E : インスリン分泌促進薬(強)F : 食事療法+運動療法G : インスリン(大量)(+ インスリン抵抗性改善薬)H : インスリン分泌促進菓 + インスリン抵抗性改善薬I : インスリン抵抗性改善薬A B C

D E F

G H I

イン

スリ

ン抵抗

内因性インスリン分泌能

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*糖尿病における糖代謝異常の最も有効かつ合理的な治療法は,各患者において糖代謝異常を来

している病態を把握し,それに応じた戦略を立てることである.*その場合,糖代謝異常の面(各臓器別)およびインスリン作用不足の面(インスリン分泌不全/抵抗性)からのアプローチが考えられる(下表参照).*糖尿病の治療法として,(1)食事療法,(2)運動療法,(3)経口血糖降下薬,(4)注射薬(インスリン療法・GLP-1 受容体作動薬)があるが,「それぞれによって,いかなる病態を解決するのか」(治療の持つ意味)を理解していなければならない.

◆ インスリン作用不足の面から見た糖尿病の治療方針決定

         機序                 治療方針

(絶対的)インスリン分泌不全 (1型や膵全摘) 生理的インスリン分泌パターン(基礎・追加分泌)を模倣したインスリンの補充(超)速効型インスリン+中間型インスリン または持効型インスリン(強化インスリン療法)

(相対的)インスリン分泌不全 (2型糖尿病) インスリン療法 基礎分泌低下:中間型または持効型インスリン 追加分泌低下:(超)速効型インスリン または混合型インスリンSU薬(インスリン分泌促進,ただし長期使用で 2次無効の可能性あり)速効型インスリン分泌促進薬

                       インクレチン関連薬(インスリン分泌促進作用を有する)α-グルコシダーゼ阻害薬(糖消化吸収阻害による食後高血糖の防止)機能性食品(線維食品など)による食後高血糖の抑制その他,糖毒性の解除によるインスリン分泌回復

インスリン抵抗性 肥満の解消運動療法(糖取り込み増加)チアゾリジン薬(主として末梢インスリン抵抗性改善)ビグアナイド薬(主として肝糖産生抑制)SU薬(膵外作用および糖毒性の解除)

インクレチン関連薬(グルカゴン分泌抑制作用を有する,特に GLP-1 受容体作動薬は食欲抑制作用と体重減少効果を認める)インスリン療法(血糖低下および糖毒性解除)

                       SGLT-2阻害薬(尿糖排泄促進作用と体脂肪量減少作用)その他,糖毒性の解除によるインスリン作用回復

*いずれの場合にも,食事療法の順守・適正なカロリーの摂取が基本である

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*日本糖尿病学会:糖尿病治療ガイド 2012‐2013 血糖コントロール目標改訂版,文光堂,2013.

治療の基本方針(インスリン非依存状態の場合)

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Ⅱ.食事療法

● 食事療法の目的1)血糖値の低下 (インスリン需要の軽減)2)血清脂質の適正化 (インスリン分泌・抵抗性改善)3)血圧の適正化 (塩分制限,体重減少による)4)適正体重の維持 (インスリン抵抗性を軽減)5)合併症防止 (低蛋白食→腎症予防など)6)適切な栄養補給(三大栄養素,ビタミン・ミネラル,食物繊維)

● 食事療法の原則:(1)適正エネルギー(カロリー)の補給(2)栄養素のバランスがよいこと(3)脂質過剰にならないこと(4)砂糖・アルコールの摂取制限(5)十分なミネラル・ビタミン・食物繊維の摂取

○糖尿病においてはインスリン作用の不足によって糖処理能力が低下している.したがって余剰の食事摂取は血糖上昇につながる.

○すべての糖尿病患者に食事療法は必要である.糖尿病の治療にあって食事療法はその基礎をなすものであり,食事療法なくしては正しい治療は行えない.

○糖尿病患者が「食べてはいけない」食品は殆どない,また「食べた方がよい」という特定の食品もない.(ただし適正な食事療法を行うために配慮すべき点は多々ある.)

○個々人のライフスタイルを尊重した個別対応の食事療法が必要.○実際の指導にあたって栄養士が食事指導を行うことが重要である.

● 食事療法の実際  1)1 日摂取総エネルギー量の決定

 患者の標準体重,骨格,年齢,性別,身体活動量(運動量)などを参考にし,1 日に必要と思われる必要最低限として算出する.算出法① 標準体重の算出法(BMI=22 を標準体重とする方法)  標準(理想)体重 IBW ideal body weight ={身長(m)}2 × 22  *BMl body mass index =体重(kg)/{身長(m)}2

②1日必要エネルギー量の算定      軽労作(デスクワークが多い職業など):25~30kcal/kg 標準体重

普通の労作(立ち仕事が多い職業など):30~35kcal/kg 標準体重重い労作(力仕事が多い職業など):35~ kcal/kg 標準体重但し,肥満者の場合には,20~25 kcal/kg 標準体重として,体重減少を目指す.  

2)栄養素の配分

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    炭水化物(エネルギーになるものを糖質という):指示エネルギー量の 50 ~ 60%     蛋白質:標準体重 l kg あたり 1.0~1.2g (エネルギー摂取量の 20%以下が目安)    脂質:糖質,蛋白質以外の残りの割合となる    飽和・多価不飽和脂肪はそれぞれ摂取エネルギーの 10%以内に収める 3)他の注意点

食塩:多くても 10 g/日以内,高血圧や尿蛋白 1g/日以上の腎症では 6g/日アルコール:許可出来る場合で 160 kcal (ビール中ビン 1 本,日本酒 1 合,ワイン

200 ml,      ウィスキーダブル 1 杯)まで間食:余分なカロリー摂取としての間食は望ましくないが,インスリン治療中の患者な

どで低血糖予防に捕食することが必要となる場合もある.

食品交換表*を用いた指導

表 1:穀物,いも,炭水化物の多い野菜と種実,豆(大豆を除く)

表 2:くだもの

表 3:魚介,肉,卵,チーズ,大豆製品

表 4:牛乳,乳製品(チーズを除く)

表 5:油脂,多脂性食品

表 6:野菜,海藻,きのこ,こんにゃく

調味料:みそ,さとう,みりんなど (三大栄養素を含む場合もある)

*日本糖尿病学会編:糖尿病食事療法のための食品交換表(日本糖尿病協会・文光堂)第 7版

―「食品交換表」においては 80 kca1 = 1 単位 としている

  これは日常の生活でよく食べる量が 80 kcal またはその倍数になっているからである

  例:卵1個=1単位,白身の魚一切れ=1単位,6 枚切り食パン 1枚=2 単位

― 指示カロリーと炭水化物の割合に応じて各表のカロリー配分を決める

例:1600 kcal=20 単位,炭水化物 55%の場合

☞表 1 : 9, 表 2 : 1,表 3 : 5,表 4 : 1.5,表 5 : 1.5,表 6 : 1.2,調味料:0.8― 同じ表の中では等カロリーの食品を交換できる

  例:あじ 60g=豚肉(もも)60g=1単位,ごはん 50g≠とうふ 100g=1 単位

― 朝,昼,夕,間食へ配分する

外食に対してはカロリーブックなどを用いて大体のカロリーが判断できるよう指導する.

●食生活習慣介入による2型糖尿病の発症予防

1. Finnish Diabetes Prevention Study(N Engl J Med 344: 1343, 2001)

    522名の中年肥満境界型(BMI 31)

    生活習慣介入群の目標=体重減少>初期体重の 5%,脂肪摂取<全カロリーの 30%,

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飽和脂肪酸<全カロリーの 10%,食物繊維>15g / 1000kca1    4 年後の 2型糖尿病発症率 11%(対照 23%)=58%のリスク減少

2. Diabetes Prevention Program(N Engl J Med 346:393,2002)

    3,234名の非糖尿病者(BMI 34, 50.6 才)

    生活習慣介入群の目標=体重減少>初期体重の 7%,低カロリー・低脂防食+運動

    2.8 年後の 2型糖尿病発症率 4.8 / 100 人・年(対照 11.0)=58%のリスク減少

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● 食事療法についての新しい考え方一米国糖尿病学会ガイドラインより

 米国糖尿病学会(American Diabetes Association),日本糖尿病学会とも,治療のガイド

ラインを策定しており,基本的には様々なエビデンスに基づいて推奨される治療法を挙げている.

食事療法においてもその例外ではないが,他の薬物療法などと異なり,ランダム化比較試験など

のようなコントロールされたスタディが難しいため,多くは断片的なデータの集約および,い

わゆるコンセンサスというかたちで,勧告がなされている.上記の食事療法についての内容は,

日本糖尿病学会のガイドラインをふまえているが,ADA はそれとも若干異なる視点から勧告を

行っているので,一部紹介する.

*Evidence-Based Nutrition Principles and Recommendations for the Treatment and Prevention of Diabetes and Related Complications ( Diabetes Care 25 : 148-198, 2002 ) 基本的な考え方:栄養処方は,治療目標と,各患者が積極的かつ現実に実行できるようなラ

イフスタイルの改善を考慮して行うべきであり,あらかじめ定められたエネルギー量や糖質・

蛋白質・脂質の制限という観点からなされるべきではない. とくにここにおいては,従来の

“diet”ということではなく,Medical Nutritional Therapy という概念を強調している.Medical Nutritional Therapy=各糖尿病患者の栄養のケア,およびそのために必要なライフ

スタイルの改善を達成するためのプロセスやシステムをも含む概念

例:糖質摂取についての勧告

炭水化物が血糖に及ぼす影響は,炭水化物の種類ではなく,その量による(たとえば,特別に蔗

糖を制限する必要はない).[A レベル]

Glycemic Index(GI)の低い食物は食後高血糖を抑制するが,GI の低い食品の摂取による長期

的な効果についてのエビデンスはない.[B レベル]

Glycemic Index(表):ブドウ糖摂取による血糖上昇率を 100 とした場合,等量の糖質

を含む食品による血糖上昇指数を表したもの. 1981 年,Jenkins により提唱された.

表.おもな食品の Glycemic Index白パン

黒パン

玄米

白米

スパゲティ(粗)

スパゲティ(精)

とうもろこし

コーンフレーク

6972667242505980

にんじん

じゃがいも

さつまいも

いんげんまめ

そらまめ

大豆

レンズ豆

牛乳

9280483129152934

りんご

バナナ

オレンジ

ぶどう

果糖

ぶどう糖

蔗糖

アイスクリーム

39624064201005936

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● 「日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言 ~糖尿病における食事療法の現

状と課題~」(2013 年 3月 18 日:日本糖尿病学会):結語より抜粋:食事療法は,患者の病態・嗜好性に

応じて,医師・管理栄養士などの医療従事者が患者と共に考え,それが有効かつ安全に実践されていること

を常にモニターしていく必要があり,その中から,新しいエビデンスを構築していかなければならない.

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Ⅲ.運動療法

● 運動療法の役割

運動は,インスリン感受性改善を介して耐糖能悪化を予防し,糖尿病における糖代謝異常を

是正する.また糖尿病患者にしばしば合併する軽度の高血圧や脂質異常症(高脂血症)の改善

といった糖尿病合併症のリスクファクターを軽減する.

糖尿病患者における運動療法の効果

1.急性効果

 (1)コントロール良好例 血糖値低下インスリン拮抗ホルモン過剰反応是正

 (2)コントロール不良例 血糖値上昇,ケトン体・遊離脂肪酸の増加,インスリン拮抗ホルモン過剰反応

2.慢性効果

 (1)耐糖能改善 (2)インスリン感受性の改善 (3)脂質代謝改善

 (4)肥満の改善 (5)骨減少防止 (6)心肺機能の改善 (7)ストレス解消効果

中性脂肪低下,LDL-コレステロール低下HDL-コレステロール増加

● 運動療法の原則

○ 糖尿病の治療にあって運動療法は食事療法とともにその基礎をなすものである.

○ 運動療法が糖尿病に対して良い影響をもたらすことは古くから知られている.

  また運動不足が糖尿病発症・悪化の原因になることも明らかであり,運動と糖代謝は密接な

関係を有する.

○ 効果的な運動療法のためには,中等度の強度(最大酸素摂取量の 50%前後まで),ある程度

の持続時間(15-30 分),継続(週 3 日以上)を心がけることが大切である.

○ 望ましい運動としては,ウォーキング(1 万歩/日以上),ジョギング,水泳,サイクリング

(エルゴメーター),エアロビクス,ラジオ体操などがある.

○ 薬物療法中の患者では運動によってしばしば低血糖が誘発されることがある.

  補食の用意や場合によっては薬物投与量の調節が必要になる.

● 運動量を制限すべき場合

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心疾患の合併,網膜症活動期,高度腎症(腎不全期,ネフローゼ症候群),脳血管障害や整形

外科的疾患のため身体活動制限がある場合

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*日本糖尿病学会:糖尿病治療ガイド 2012‐2013 血糖コントロール目標改訂版,文光堂,2013.

● 運動療法の分子メカニズム-AMPキナーゼ活性化と GLUT4 運動により糖代謝の改善が得られることは,日常よく経験することであるが,それがいか

なる機序によるのかということについて,近年の研究により得られた成果を紹介する.

1.AMP キナーゼの活性化

 細胞内の ATPが減少し AMPが増加する(AMP/ATP比上昇)ような事態が生じると,AMPキナーゼが活性化され,下記のメカニズムにより脂肪酸の β酸化が刺激される.

AMP キナーゼ活性化 → アセチル COAカルボキシラーゼ活性↓ → マロニル COA↓→ カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ 1 (CPT1) 活性↑

→ ミトコンドリア内へのアシル COA 輸送↑ → β酸化↑ → アセチル COA ↑→ TCA 回路活性化 → ATP産生↑

2.運動による AMP キナーゼの活性化

 中等度~高度(VO2max の 60-80%)の運動を行った場合,筋での AMP キナーゼ活性が亢

進し,同時に糖取り込み・酸化の増加が認められる.後者の少なくとも一部は,AMPキナー

ゼ依存性に生じることが示されており,これは AMP キナーゼによる糖輸送胆体 (glucose transporter 4, GLUT4) の細胞膜への移動が起こり,糖取り込みを促進することによると考

えられる.

3.運動による慢性効果

 運動を習慣的に行うと,GLUT4 およびミトコンドリア数の発現が増加する. GLUT4 の増加

はインスリン感受性を高めて糖取り込みを促進し,インスリン抵抗性を改善する結果となる.

またミトコンドリア数の増加は脂肪酸の β酸化促進にもつながり,やはりインスリン抵抗性

100kcal消費する運動と時間(体重 60kg の場合)

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の改善につながるものと考えられる.

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Ⅳ. 薬物療法

 糖尿病の薬物療法は,経口薬療法と注射薬療法に大別される.注射薬には,GLP-1 受容体作

動薬とインスリン製剤が含まれる.それぞれの治療法の適応と作用機序について理解するこ

とが必要である.

我が国における主要な糖尿病治療薬の歴史(承認ないしは発売年)1955 Carbutamide(SU薬)1956 Tolbutamide(SU薬,ラスチノン®)1957 Phenfomin(ビグアナイド薬→乳酸アシドーシスのため発売中止)1959 Chlorpopamide(SU薬,ダイヤビニーズ®)1961 Metformin(ビグアナイド薬,メルビン®)1970 Buformin(ビグアナイド薬,ジベトス B®)1971 Glibenclamide(SU薬,オイグルコン®・ダオニール®)1984 Gliclaxide(SU薬,グリミクロン®)1993 Acarrbose(α-グルコシダーゼ阻害薬,グルコバイ®)1994 Voglibose(α-グルコシダーゼ阻害薬,ベイスン®)1997 Troglitazone(チアゾリジン薬,ノスカール®→肝障害のため発売中止)1999 Nateglinide(フェニールアラニン誘導体,ファスティック®・スターシス®)1999 Pioglitazone(チアゾリジン薬,アクトス®)1999 Lispro(超速効型インスリン,ヒューマログ®)*注射薬2000 Glimepiride(SU薬,アマリ一ル®)2001 Aspart(超速効型インスリン,ノボラピッド®)*注射薬2003 Glargine(持効型インスリン,ランタス®)*注射薬2004 Mitiglinide(速効型インスリン分泌促進薬,グルファスト®)2006 Miglitol(α-グルコシダーゼ阻害薬,セイブル®)2007 Detemir(持効型インスリン,レベミル®)*注射薬2009 Sitagliptin(DPP-4阻害薬,ジャヌビア®・グラクティブ®)2009 Glulisine(超速効型インスリン,アピドラ®)*注射薬2010 Vildagliptin(DPP-4阻害薬,エクア®)2010 Alogliptin(DPP-4阻害薬,ネシーナ®)

2010 Metformin(ビグアナイド,メトグルコ® 最高用量:750mg⇒2250mg まで増量可)2010 Liraglutide(GLP-1 受容体作動薬,ビクトーザ®)*注射薬2010 Exenatide(GLP-1 受容体作動薬,バイエッタ®)*注射薬2011 Linagliptin(DPP-4阻害薬,トラゼンタ®)2011 Repaglinide(速効型インスリン分泌促進薬,シュアポスト®)2012 Teneligliptin(DPP-4阻害薬,テネリア®)

2012 Anagliptin(DPP-4阻害薬,スイニー®)

2012 Degludec(持効型インスリン,デグルデク®)*注射薬2013 Saxagliptin(DPP-4阻害薬,オングリザ®)2013 Exenatide(持続性注射剤:GLP-1受容体作動薬,ビデュリオン®)*注射薬2013 Lixisenatide(GLP-1 受容体作動薬,リキスミア®)*注射薬2014 Ipragliflozin(SGLT-2阻害薬,スーグラ®)2014 Dapagliflozin(SGLT-2阻害薬,フォシーガ®)2014 Luseogliflozin(SGLT-2阻害薬,ルセフィ®)2014 Tofogliflozin(SGLT-2阻害薬,デベルザ、アプルウェイ®)2014 Canagliflozin(SGLT-2阻害薬,カナグル®)2015 Empagliflozin(SGLT-2阻害薬,ジャディアンス®)

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●2型糖尿病の病態と糖尿病治療薬

インスリン抵抗性増大

インスリン分泌能低下

インスリン作用不足

速効型インスリン分泌促進薬

ビグアナイド薬

α-グルコシダーゼ阻害薬食後高血糖

空腹時高血糖

2型糖尿病

インスリン製剤 *

②インスリン分泌促進系

①インスリン抵抗性改善系

③糖吸収排出関連系

GLP-1受容体作動薬 *インクレチン関連薬

① ③~ は経口血糖降下薬(OHA)*は注射薬

チアゾリジン薬

DPP-4阻害薬

スルホニル尿素薬(SU薬)

高血

糖状

態の

持続

によ

る糖毒

食後高血糖改善系

SGLT-2阻害薬

表 日本で臨床使用できる主要な糖尿病治療注射薬 (治療薬ハンドブック 2014, じほう)

一般名 商品名 発現時間 最大作用時間 持続時間

★ アスパルト ノボラピッド 10 20~ 分 1 3~ 時間 3 5~ 時間★ リスプロ ヒューマログ 15分未満 30 1.5分~ 時間 3 5~ 時間★ グルリジン アピドラ 15分未満 30 1.5分~ 時間 3 5~ 時間

ヒトインスリン Rノボリン 30分 1 3~ 時間 8時間ヒトインスリン Rヒューマリン 30 1分~ 時間 1 3~ 時間 5 7~ 時間

ヒトインスリン Nノボリン 1.5時間 4 12~ 時間 24時間★ リスプロ Nヒューマログ 30 1分~ 時間 2 6~ 時間 18 24~ 時間

ヒトインスリン Nヒューマリン 1 3~ 時間 8 10~ 時間 18 24~ 時間

★ デテミル レベミル 1時間 3 14~ 時間 24時間★ グラルギン ランタス 1 2~ 時間 明らかなピークなし 24時間★ デグルデク トレシーバ - 明らかなピークなし 42時間

一般名 商品名 血中半減期 注射回数 1回の使用量リラグルチド ビクトーザ 13 15~ 時間 1 1日 回 0.3 0.9mg~エキセナチド バイエッタ 1.4時間 1 2日 回 5 10μ g~エキセナチド ビデュリオン - 1週 回 2mgリキシセナチド リキスミア 2時間 1 1日 回 10 20μ g~

インスリン製剤

GLP−1 受容体作動薬

超速効型

速効型

中間型

持効型

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   ★のインスリン製剤はインスリンアナログ製剤である

表 日本で臨床使用可能な代表的な経口血糖降下薬 (治療薬ハンドブック 2014, じほう)2014 年 4月以降は,これに SGLT-2阻害薬が加わる見込みである.

*:食直前投与が重要である 

Ⅳ-1. 経口薬・GLP-1 受容体作動薬

 糖尿病の病態が明らかにされるにつれて,当然それらを解決する薬剤の開発が望まれるよ

うになった.実際,古くから使用されていた SU薬・ビグアナイド薬とは作用機序の全く異な

・500

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る薬剤が,近年になって続々と使用可能になっている.

● 経口薬療法の適応と原則

○1 型糖尿病はインスリン 治療が原則であり,通常経口薬は用いない

○原則として糖尿病の発症または診断直後から経口薬治療を始めることはない(血糖を緊急に

低下させたい場合はインスリンを使用する).食事療法・運動療法を十分に試みても血糖

コントロール目標に達しない場合に開始する.

○いずれの薬剤も,少量より開始,効果をみながら漸増するのが原則である.

○各薬剤の作用機序,適応となる病態,初回投与量,副作用について十分理解しておくこと

● 経口薬療法の禁忌または使用が望ましくない場合1型糖尿病(緩徐進行 1型糖尿病を含む) 高血糖昏睡妊娠中 重篤な副作用重症肝疾患・腎疾患 重症感染症,ステロイド糖尿病重症糖尿病性慢性合併症 決められた短期間での血糖コントロール厳密な血糖コントロールが要求される場合

● 経口薬・GLP-1 受容体作動薬の種類とその作用機序

1)スルホニル尿素(SU)薬(グリベンクラミド,グリクラジド,グリメピリドなど)

【作用機序】 膵 β細胞膜上の SU受容体に結合し,それと複合体を形成する ATP感受性 K+

(KATP)チャネルを閉鎖 → 膜脱分極 → 電位依存性 Ca2+ チャネル開口 → 細胞外 Ca2+ 流入 →

インスリン顆粒放出の機序でインスリン分泌を刺激する.グリメピリドはインスリン抵抗性改

善作用がある(膵外作用).【問題点】

(1)二次無効 : 5-7% per year の高率に発生する.要因として,患者(食事コンプライアン

ス不良など),薬剤(desensitization など),疾患(膵 β細胞量・機能低下など)の各

問題があると想定されている.(2)低血糖

(3)食前に比して食後血糖値の改善効果不十分(追加インスリン分泌不全・インスリン抵抗

性を克服しきれない)

(4)食欲増進・体重増加(食事コンプライアンス不良例などには不適)

(5)高インスリン血症 → インスリン抵抗性未改善,大血管障害の促進(?)

(6)心血管障害(心筋 KATPチャネル遮断による虚血・再灌流障害?)

*UGDP(University Group Diabetes Program, 1970)報告

2型糖尿病患者 l,027例,15 年間追跡, 開始 7 年後にトルブタミド投与群で,プラセボ群・

インスリン治療群に比し,全死亡率(20 vs.10%),心血管死(17 vs. 8%)が有意に増加.*UKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study, 1999)報告

 グリベンクラミド,クロルプロパミド群とも心血管イベントの増加はなかった.(7)膵 β細胞アポトーシス亢進?

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2)ビグアナイド薬(メトホルミン,ブホルミン)

【作用機序】SU剤のような内因性インスリン分泌促進効果はなく,単独では通常低血糖を生じ

ない.肝糖産生抑制作用(空腹時肝糖産生を 10-30%抑制,主として肝糖新生の抑制)が主た

る作用と考えられるが,骨格筋・脂肪組織での糖利用促進作用も指摘されている,最近肝で

の AMP キナーゼの活性化を介して肝糖新生を抑制し,骨格筋での糖取り込みを促進すること

が報告された.その他,体重減少・食欲低下などが報告され,血圧降下,脂質代謝改善,抗血

液凝固作用なども認められ,肥満・インスリン抵抗性を有する患者によい適応と考えられる.

実際,メトホルミンの単剤投与により,肥満 2型糖尿病患者の大血管障害イベントを有意に

抑制することが証明されている(UKPDS34,1998). また,米国で行われた 2型糖尿病の発

症予防に関する介入試験 (Diabetes Prevention Program) において,試験開始 3 年後での

糖尿病発症を 31% 抑制した(DPP,2002).【問題点】

(1)乳酸アシドーシス(致死的)の副作用(このためフェンホルミンは使用禁止となった)の

ため,腎障害 ( 血清 Crが男性 1.3 mg/d1,女性 1.2mg/dl以上を目安に),肝障害,高齢者,

心疾患などでの使用は禁忌または厳しく制限される.

(2)(一次・二次)無効例の存在(インスリン抵抗性のすべてが改善されるわけではない)

3)α-グルコシダーゼ阻害薬(アカルボース,ボグリボース,ミグリトール)

 【特性】二糖類分解酵素の阻害によって糖吸収を遅延させ,食後高血糖を是正する.追加インスリン分泌不全・インスリン抵抗性のいずれの病態にも対応できる.空腹時血糖値の改善効果はあまりない代わりに,単独では低血糖を起こさず,体重増加を来しにくい利点がある.近年欧州で行われた,2型糖尿病発症予防を目的としたトライアルで,アカルボース内服により,境界型からの糖尿病発症を平均 3.3 年で 25%抑止するという成績が得られた (STOP-NIDDM,2002). また,メトホルミン同様,大血管症予防効果を示す成績も得られており,心血管イベントや高血圧の新規発症リスクの低下,頚動脈内膜-中膜壁肥厚の進展抑制などが報告されている.

  【問題点】(1)放屁,腹部膨満の副作用が高頻度に生じる.(2)低血糖を生じた際は二糖類(蔗糖)ではなくブドウ糖を経口投与する.(3)アカルボースでは重症肝障害の副作用が報告されている.

4)チアゾリジン薬(ピオグリタゾン) 【特性】末梢組織でのインスリン抵抗性を改善する.標的細胞では脂肪細胞の分化などに重要

な役割を果たす核内受容体 peroxisome proliferator-activated receptor γ (PPAR-γ)を介して作用を発揮する.脂肪組織に作用してレプチンや TNF-α などの因子(アディポサイトカイン)の産生・分泌を低下させ,とりわけ後者のインスリン抵抗性惹起作用に対抗することが注目される.また熱消費にはたらく褐色細胞の uncoupling protein (UCP)2 を増加する.このように,理論的には脂肪細胞が主要な作用ターゲットと考えられるが,骨格筋での糖利用促進も認められる.従って,肝糖放出抑制作用が主のビグアナイド薬との相加効果が

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認められる.肥満合併例,インスリン抵抗性の関与が強い例(BMI 26.5以上,空腹時インスリン値≧15μU/ml,HOMA-IR≧4 など)によい適応と考えられる.

 【問題点】(1)1997 年,初の「インスリン抵抗性改善薬」としてトログリタゾンが登場したが,その

後致死的な肝障害の続発によって発売中止となった.(2)現在使用可能なピオグリタゾンでは水分貯留(浮腫,心不全の増悪)が高頻度に見られ,

心疾患合併例では注意が必要である.

5)速効型インスリン分泌促進薬(ナテグリニド,ミチグリニド,レパグリニド) 【特性】ナテグリニドは D-フェニールアラニン誘導体であり,SU 骨格はないが SU 受容体に結合.投与後の作用発現が速やかで作用時間の短い,インスリン分泌促進薬.2型糖尿病患者における食後早期のインスリン分泌不全を是正(食後 30-60 分にインスリン分泌のピーク)することにより,主として食後過血糖の改善をもたらす.逆に SU薬のような持続性のインスリン分泌刺激作用はないので,低血糖の発来・体重増加は少なく長期投与によるインスリン分泌能低下保持にもよいかもしれない.したがって内因性インスリン分泌能がある程度保持された,追加インスリン分泌不十分により食後過血糖を示す 2型糖尿病で空腹時血糖値の高くない( FPG < 160mg/dl など)者 がよい適応となる.

 【問題点】その特性からして空腹時血糖値の低下作用が弱く,各食直前に服用しなくてはならないため服薬コンプライアンスが維持しにくい.

6)インクレチン関連薬 (経口薬である DPP-4阻害薬と注射薬である GLP-1 受容体作動薬を含む)【作用機序】腸管から栄養素が吸収されるとインクレチンホルモンである GLP-1 と GIPが分

泌され,膵 β細胞に作用してインスリン分泌の増幅経路を刺激しインスリン分泌を促す.し

かしながら生体内の GLP-1 と GIP は Dipeptidyl Peptidase-4 (DPP-4)という酵素により数分

で分解されてしまい生理的な効果は限られている.DPP-4阻害薬は DPP-4 の作用を阻害して

インクレチンホルモンの活性を維持することで血糖降下作用を持つ.血糖が高値の際にはイ

ンスリン分泌を強く促し,血糖が低いとインスリン分泌刺激が弱まるため,単独使用では低

血糖を起こしにくい.この他に,膵 α細胞に作用してグルカゴン分泌を抑制することで,高

血糖を抑制する効果もある.

一方で,GLP-1 受容体作動薬は DPP-4 の作用部位のアミノ酸配列を変換することで DPP-4 に

よる分解を防ぎ血糖を降下させる.また,DPP-4阻害薬と異なり,GLP-1 受容体作動薬には

減量効果も認められる.

【問題点】

胃腸障害が出ることがある(特に,GLP-1 受容体作動薬).膵疾患との関連が指摘されている

が,否定する報告もある.

7) SGLT-2阻害薬 新しい経口薬として,尿糖排出促進薬である sodium-glucose co-transporter

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type2(SGLT-2)阻害薬の開発が世界中で進められている.SGLT-2阻害薬は近位尿細管に

おける原尿からのブドウ糖再吸収を阻害する。現在,わが国では 2014 年 4月から順次 6 成

分が承認され,臨床使用が開始となっている.尿糖排出促進を介した直接的な血糖降下作用

に加えて,体重減少・体脂肪量減少を介したインスリン抵抗性改善作用が期待される.血圧

低下作用の報告もある.ただし,ケトン体の増加や尿路感染症の増加,脱水症のリスクに留

意する必要がある.

***これからの血糖降下薬に望まれるもの*** 

① 生理的(速やか・十分な)インスリン分泌パターンの回復またはその代替② 膵 β細胞機能低下を来さない,二次無効を生じない(膵 β細胞保護効果)③ インスリン抵抗性の改善,大血管症の進展阻止(心血管イベントのリスクの評価が必要)④ 食事・運動療法の妨げにならない(低血糖・食欲増加・肥満をきたしにくい)⑤ 中長期的な安全性(特に,発癌リスクの検討)

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Ⅳ- 2. インスリン療法

● インスリン療法の役割

 (1)絶対的インスリン不足の補充(インスリン依存状態)

 (2)相対的インスリン不足の補充(インスリン非依存状態)

 (3)糖毒性の解除

 (4)顕著なインスリン抵抗性への対応(感染・ステロイド治療など)

 (5)内因性インスリン分泌能保持(β細胞の疲弊防止)(緩徐進行 1型糖尿病など)

 (6)各種合併症を有する場合(肝障害,腎障害など)の代替治療

 (7)自己管理の一環として(教育的意義)

● インスリン療法の原則

 1921 年 Banting と Best によって発見されたインスリンは,翌 1922 年には製品化,臨床

応用され,とりわけ当時「不治の病」であった 1型糖尿病患者の治療に多大な恩恵を授けた.

以後様々な作用特性を有するインスリン製剤が開発され,また皮下注,静注以外の投与法も検

討されている.

 インスリン療法は,最も確実に,生理的機序で血糖値を下げる治療法であるが,内因性に分

泌されるインスリンと外来性に投与されたインスリンにはその作用動態において大きな差異

がある(下表).つまり現行のインスリン療法は決して生理的な治療法とはいえない.

内因性インスリンの動態とインスリン療法との差異

インスリンの到達経路

生理的制御

分泌パターン

血中Cペプチド

末梢血インスリン濃度

低血糖の惹起

低血糖による抑制

内因性インスリン

膵 β細胞→門脈系一肝→大循環

→筋・脂肪

ブドウ糖,アミノ酸,内分泌

性,自律神経系

パルス状,日内変動

上昇

必要最小限

薬剤使用時のみ

あり

インスリン療法

(皮下一静脈)→大循環→筋・脂肪・肝

なし

製剤の特性に応じるが,基本的には皮下

からの吸収

抑制または不変

比較的高インスリン血症

投与量とタイミングにより

なし

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● インスリン治療の適応1.短期的プラン

1)糖尿病性昏睡(ケトアシドーシス,高浸透圧性非ケトン性昏睡)2)重症感染症,重篤な疾患における高度の代謝失調3)中等度以上の外科手術前後4)妊娠時5)ステロイド糖尿病など高度インスリン抵抗性6)高カロリー輸液時7)コントロール不良 2型糖尿病における糖毒性解除

2.長期的プラン1)1型糖尿病2)2型糖尿病(高度インスリン分泌不全,経口薬無効または禁忌)3)膵疾患などインスリン分泌不全4)慢性肝疾患・腎疾患など5)高度インスリン抵抗性

● インスリン療法を始める前に考えておくこと1)血糖値をどこまで下げるのか,あるいは下げてよいか? *糖尿病性昏睡の治療において急激な血糖は脳浮腫を惹起する危険がある *急激な血糖コントロール改善は網膜症や神経障害の悪化をきたすことがある2)そもそも薬物療法の適応か? *食事療法のみでも改善が期待できる場合 *食事療法不十分なケースに過剰のインスリン投与→体重増加3)経口薬か,インスリンか? *インスリン抵抗性の治療が優先される場合,ビグアナイド薬・チアゾリジン薬などを考慮 *たとえ経口薬で一定の血糖値におさまっていてもインスリン治療が望ましい場合 (緩徐進行 1型糖尿病,膵性糖尿病,インスリン分泌不全が著しい 2型糖尿病など)4)血糖コントロールの目標レベルは? *基本的にはすべての患者に正常域に近いコントロールをすべきだが,状況によって異なる (妊婦,幼児期,高齢者など)5)患者教育プラン *自己注射手技の指導 *インスリン療法にまつわる問題点(低血糖,シックデイなど) *自己管理能力の評価(必要に応じ家族を教育)

●インスリンの種類と注射法1.インスリン製剤の使い分け(後述表)速効型 (R):ヒトインスリンである.毎食前の皮下注が基本で,点滴静注用,CSII 用としても使用

される.速効型インスリンは皮下注6量体を形成するため血中への移行が遅く,食前 30分前の注射が基本である.

中間型 (N):ヒトインスリンである.約半日(~1 日)分のインスリン補充(朝 1 回または朝・晩2 回)として用いられる.

混合型 (30R など) : ヒトインスリンである.食後の血糖を抑えつつ半日(~1 日)分のインスリン補充(朝 1 回または朝・晩 2 回)として用いられる.

超速効型:インスリンのアミノ酸を一部置換することによって,速効型インスリンの問題点を改善したインスリンアナログ製剤.食直前の皮下注が基本である.

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リスプロ:B鎖 28番目のプロリンをリジンに 29番目のリジンをプロリンに相互に組み換え

アスパルト:B鎖 28番目のプロリンをアスパラギン酸に置換グルリジン:B鎖 3番目のアスパラギンをリジンに,29番目のリジンをグルタミン酸に置換

持効型:インスリンのアミノ酸を一部置換することなどによって,中間型よりもさらに長時間でフラットなインスリン血中濃度を維持できるインスリンアナログ製剤.グラルギン:A鎖 21番目のアスパラギンをグリシンに置換,B鎖 30番目のスレオニンのC 末端に 2 個のアルギニンを付加し,皮下組織で沈殿を形成させるようデザイン.デテミル:B鎖 30番目のスレオニンを削除し,B鎖 29番目のリジンに脂肪酸を付加し,皮下や血中のアルブミンとの結合を利用して,吸収・効果を遷延させるようデザイン.デグルデク:B鎖 30番目のスレオニンを削除し,B鎖 29 位のリジンにグルタミン酸をスペーサーとしてヘキサデカン二酸と結合させ,皮下組織において可溶性で安定したマルチヘキサマーとしてとどまり,長い薬物動態を得るようにデザイン

ヒトインスリン構造式: アミノ酸 21 個の A 鎖とアミノ酸 30 個の B 鎖が,S-S 結合で連結されたポリペプチドである.分子式: C257H383N65O77S6 分子量: 5808

   (http://www.novonordisk.co.jp/documents/article_page/document/CO_tcinsulin_011.asp?Print=True)

各インスリン製剤の作用発現パターン(概念図)(治療薬ハンドブック 2014, じほう)

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2.インスリンの投与ルート(1)静注             

- 経口摂取不能時(昏睡・重症疾患・消化器疾患・高カロリ-輸液など) - 必ず速効型を用いる - 昏睡の初期治療以外は原則としてブドウ糖(1 単位/4-10g)とともに点滴静注 -コントロール困難な場合(感染症・高カロリ-輸液時など)は,別ルートからインフュー

ジョン・ポンプで投与量を調節する - 一般的なコントロール目標は血糖値 100~150 (~200)mg/dl

(2)皮下注 - シリンジ,ペン型注射器,ジェット・インジェクターなどで,食前,眠前などに投与する,

原則として食事摂取が出来る場合の方法(3)持続皮下インスリン療法(CSII,Continuous Subcutaneous Insulin Infusion)

- 持続注入ポンプを用いて(超)速効型インスリンを腹壁皮下に持続注入 - 基礎注入+追加(ボーラス)注入 - 装置の問題,インスリン製剤による目詰まりなどのトラブルもあり注意

(4)その他の投与ルートとして検討中のもの 経鼻,経口,吸入,埋め込み型インスリンポンプ,座薬

3.食事摂取との関係からみたインスリン療法の目的A. 空腹時高血糖に対し

基礎分泌不足の補充肝過剰糖放出の抑制筋・脂肪への糖取り込み促進Dawn phenomenon への対抗

B. 食後高血糖に対し追加分泌不全の補充肝への糖取り込み促進筋への糖取り込み促進

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4.インスリン注射法(後述図) ①従来法(Conventional regimen)  【適応】内因性インスリン分泌が比較的保たれた 2型糖尿病

緩解期にある 1型糖尿病血糖値が比較的安定し,インスリン抵抗性が顕著でないもの経口糖尿病薬が使えない場合経口糖尿病薬との併用重篤な合併症自己管理能力不十分

 ②強化インスリン療法(Intensive regimen)  【適応】1 型糖尿病(インスリン依存状態)

インスリン分泌不全の顕著な 2型糖尿病不安定型糖尿病(brittle diabetes)糖尿病合併妊娠高度代謝失調時や糖毒性解除のための厳格なコントロール膵摘出術後*原則として頻回の血糖モニターを行う

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● インスリン療法の問題点1.低血糖交感神経緊張症状(発汗・ふるえ・動悸・不安)→中枢神経症状(意識障害)老人,1型糖尿病患者,急激な血糖降下ではいきなり中枢神経症状が出現することもあるので注意を要する.*無自覚性低血糖(hypoglycemia unawareness) 1型糖尿病で厳格な血糖コントロールを行ったり,低血糖の頻発によって自律神経症状発現の血糖閥値が低下して,無自覚性低血糖が生じやすくなる. 原因として自律神経障害の関与もあるが,低血糖に対するエピネフリン分泌反応低下やカテコラミン受容体感受性の低下などが寄与していると考えられる, また睡眠中は低血糖に対するカテコラミン・コルチゾールの反応が低下していることが報告されており,夜間の低血糖には十分注意を要する.

○低血糖の原因として考えること  1)インスリン注射手技の問題     インスリン量・製剤(超速効型と持効型)の誤り     懸濁製剤の混和不十分     自殺企図など(factitious hypoglycemia)  2)インスリンの吸収の問題     注射部位の違い(吸収はお腹>脚>腕の順に早い)     誤って筋注またはマッサージ       運動・入浴後  3)インスリン必要量の減少     糖毒性・インスリン抵抗性の改善     インスリン分泌回復(1型糖尿病のハネ.ムーン期を含む)     インスリン代謝遅延(腎障害,インスリン抗体など)     内分泌疾患(下垂体機能低下,副腎不全など)の合併     経口薬との併用(とくに切り替え直後)  4)生活上の問題     摂食不十分,食間が長すぎる     アルコール性低血糖     過度の運動や空腹時の運動

2. Counterregulation - Dawn Phenomenon と Somogyi 効果  Counterregulatory Hormones (インスリン拮抗ホルモン)    グルカゴン,コルチゾール,成長ホルモン,カテコラミン

1)Dawn Phenomenon (暁現象):夜明けから早朝にかけて主として成長ホルモン,コルチゾー    ルなどのホルモン上昇によりインスリン需要が増加する.内因性インスリン分泌の廃絶した 1型糖尿病ではこれにより著しい空腹時高血糖を生じる.

2)Somogyi Effect (ソモジ効果):低血糖後に生じるインスリン拮抗ホルモンの増加,内因性インスリン分泌不全により著しい高血糖を来す.Dawn Phenomenon とともに血糖不安定の原因となりうる.

3 .インスリンの副作用1)insulin allergy : 動物インスリンやインスリン添加剤による局所アレルギー2)insulin hypertrophy : インスリン注射部位に生じるスポンジ状腫脹3)insulin edema : 血糖コントロール不良例にインスリン療法を行いコントロールが急速に改善

した場合に見られることが多い,インスリンによる Na貯留促進によるとされる

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4)insulin lipoatrophy : インスリン注射部位における脂肪組織の萎縮5)insulin antibody : ヒト製剤の使用で頻度は減ったものの可能性はある,抗体価が著しく高<

なれば著明なインスリン抵抗性を来すこともある

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インスリン療法の実際

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*日本糖尿病学会:糖尿病治療ガイド 2012‐2013 血糖コントロール目標改訂版,文光堂,2013.

Ⅴ.膵(島)移植,そして再生医療

経口薬治療やインスリン療法は,決して生理的なインスリン分泌による血糖コントロール

を達成できるものではなく,結果的に不十分なコントロールから慢性合併症を生じることが

多い.その点で,インスリン分泌組織である膵移植が上手くなされれば,正常人同様の血糖

コントロールが得られることになる.従来は,1型糖尿病において,膵移植,とりわけ腎症に

よる腎不全に陥ったケースに膵腎同時移植が行われることが多かったが,近年では,インス

リン分泌細胞であるランゲルハンス島(膵島)を分離して経門脈的に投与する膵島移植が行

われるようになってきた.とくにカナダのグループにより開発された,ステロイドを含まな

い免疫抑制プロトコール(Edmonton Protocol)の成功は,この方法の有用性に明るい光を

投げかけたかたちとなった. 

わが国では,2004 年 4月 7 日に京都大学移植外科で国内初の膵島移植が行われ,インス

リン治療からの離脱に成功.さらに 2005 年 1月 19 日,世界で初めての生体膵島移植が行わ

れた. 

しかしながら,現状ではまだまだドナーが十分に確保できる可能性は低く,今後は再生医

学の発展と,それによってインスリン分泌細胞が十分に得られ,臨床応用されることが期待

されている.

Ⅵ.患者教育

1 糖尿病患者教育のポイント

(1)動機付け,意欲の向上 → 生活習慣の改善

(2)治療コンプライアンスの維持:規則的な通院,治療(食事・運動,服薬,インスリ

ン自己注射)

(3)自己管理:食事・運動,自己測定(体重,検尿,血糖,血圧),フットケア,シッ

クデイ

(4)家族への教育(必要に応じて)

2 方法:糖尿病教室,教育入院,メディア・教材の利用

3 チーム医療:

医師-看護師-栄養士-薬剤師-理学療法士-心理療法士-ソーシャルワーカー

(2001 年より糖尿病療養指導士の資格認定が行われている)

おわりに

糖尿病の治療においては,食事・運動療法,インスリン自己注射,血糖自己測定など,自

己管理の要素がきわめて大きい.そのために患者さんが,糖尿病について正しい知識を持ち,

治療の必要性について了解し,治療の原則を理解し,技術を取得することが必要である.その

ための動機づけと指導(患者教育)は私たち治療者に課された大きな義務であり,看護師,栄

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養士,薬剤師,理学療法士,心理療法士,ソーシャルワーカーなど(糖尿病療養指導士が法制

化された)とチームを結成し,そのリーダーとして診療にあたることが望まれる.