computerworld.jp jun, 2008

87

Upload: shinichi-sugimoto

Post on 27-Jun-2015

159 views

Category:

Documents


0 download

DESCRIPTION

[特集]Windows Server 2008が登場──移行/展開戦略を固める■[多角検証]Windowsプラットフォーム2008エンドユーザーが日々用いるクライアントPCはもちろんのこと、部門サーバ、そして近年では全社の基幹業務システムのプラットフォームとしても採用が進んでいるWindows。業種・規模を問わず、このプラットフォームの技術/製品の採用や運用管理について検討を行わない企業は皆無と言ってよいだろう。本特集では、今年4月15日に国内リリースされたWindows Server 2008をはじめとした、Windowsプラットフォームを構成する主要な製品/サービスをレイヤごとに取り上げ、これらの自社での導入/移行や運用管理方針を定めるためのガイドラインを示したい。[特別企画]VMwareの導入から配備までを「誌上ハンズオン」■サーバ仮想化導入ステップ・ガイドシステムのダウンタイム短縮や柔軟性の向上、さらにはサーバ・マシンの利用率向上など、サーバ仮想化技術はさまざまなメリットをもたらす。しかし、特に SMB(小・中規模企業)においては、「自社の場合、投資に見合う効果があるのか」「少人数のITスタッフと限られた資金で導入できるのか」といったハードルが立ちはだかり、なかなか導入に踏み切れないでいるのが実情だ。そこで本企画では、サーバ仮想化の導入プロセスをステップ・バイ・ステップ形式で解説し、導入に際しての注意点や効果的な配備方法を指南していく。

TRANSCRIPT

Page 1: Computerworld.JP Jun, 2008
Page 2: Computerworld.JP Jun, 2008
Page 3: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 5

Features 特集&特別企画

Windows Server 2008が登場──移行/展開戦略を固める

最新サーバOSの実力を120%引き出すための勘所Windows Server 2008への完全移行をはたす6つの最終チェック山市 良

Windows XPを継続するか Windows Vistaに移行するかIT管理者の視点で考えるWindows Vistaのメリット山市 良

企業の信頼を勝ち得るまでの軌跡を再確認するWindowsの進化課程から探る「実力」と「課題」山口 学

マイクロソフトが描く次世代ITモデルの構成要素「Software+Services」時代のWindowsプラットフォーム

鈴木章太郎

VMwareの導入から配備までを「誌上ハンズオン」

サーバ仮想化導入ステップ・ガイドMatt Prigge 

HotTopicsホットトピックスIT Inside Topics [ニュースなIT]極寒の地にも「熱問題」あり南極基地の管理者が語る、マイナス50℃下のITマネジメントRobert L. Mitchell

特集 42

44

53

60

68

77

8

Part1

Part2

Part3

Part4

特別企画

発行・発売 (株)IDGジャパン 〒113-0033 東京都文京区本郷3-4-5TEL:03-5800-2661(販売推進部) © 株式会社 アイ・ディ・ジー・ジャパン

月刊[コンピュータワールド]

世界各国のComputerworldと提携

TM

June2008Vol.5No.55contents

2008年6月号

6

Chew-Mock

Windowsプラットフォーム2008

[多角検証]

Page 4: Computerworld.JP Jun, 2008
Page 5: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 7

News&Topicsニュース&トピックス   14

TechnologyFocusテクノロジー・フォーカス

コンシューマーからエンタープライズへ──本格化するOpenIDの明日を探る工藤達雄

高速処理と省電力を共に実現する新世代ストレージ「SSD」の可能性土屋 勝

ITIL適用の真実──いかに着手し、実践するかSue Hildreth

RunningArticles連載ITキャリア解体新書(第3回)

システム・エンジニア横山哲也

Opinions紙のブログインターネット劇場佐々木俊尚

IT哲学江島健太郎

テクノロジー・ランダムウォーク栗原 潔

InformationインフォメーションGreen IT Conference & Demo 2008リポート

IT KEYWORD

本誌読者コミュニティ&リサーチ のご案内

エンタープライズ・ムック「ITマネジャーのための内部統制/日本版SOX法講座」のご案内

バックナンバーのご案内

イベント・カレンダー

おすすめBOOKS

読者プレゼント

FROM READERS & EDITORS

次号予告/AD.INDEX

88

94

100

104

107

108

109

25

106

110

113

114

116

117

118

119

120

Networks

contents6

Chew-Mock

Chew-MockStorages

Sys.Admin.

Page 6: Computerworld.JP Jun, 2008

I T I n s i d e To p i c s

ニ ュ ー ス な I T

Computerworld June 20088

南極点は少しずつ移動する

──では、さっそくインタビューを始めよう。そちらの天気はどう?Malmgren氏:とてもいい天気だ。気温は-53℃、

風速は秒速3.2mしかない。こちらの基準では文句な

しにいい天気だ。

──よく「南極点」と言われるが、正式な点があるのか。Malmgren氏:もちろんある。南極点には、理髪店

の回転看板のようなポールが立っている。アムンゼン・

スコット基地のすぐ目の前だ。

──氷床は1年間に約9m動くと言われている。ポールの位置が実際の南極点からずれたりすることはないのか。Malmgren氏:毎年1月1日に行っているセレモニー

の際に、ポールの位置を調整している。米国地質調

査所の調査団がここまでやって来て、太陽の位置に

基づいて厳密な測量を行う年もあるが、われわれが

測量用のGPS(全地球測位システム)を用いて可能な

かぎりの精度で測量を行う年もある。

 こうして測量した南極点に新しいポールを立ててい

ヘンリー・マルムグレン(Henry Malmgren)氏、34歳。彼は、米国が南極点付近に建設したアムンゼン・スコット基地で働くITマネジャーだ。冬期は気温が-50℃以下になる南極点の氷床の上で、Malmgren氏はデータセンターをはじめ、衛星回線や電話システム、さらには携帯ラジオに至るまで、電気通信やコンピュータに関するあらゆるものに責任を負っている。そんな同氏に、南極基地での仕事や生活などについて、衛星回線でインタビューした。

Robert L. MitchellComputerworld米国版

極寒の地にも「熱問題」あり南極基地の管理者が語る、マイナス50℃下のITマネジメントデータセンターの構成から過酷な伝統行事まで一問一答

くので、これまでにポールを立てた場所を結んでみる

と、基地から伸びる1本のラインを確認することができ

る。ポールの位置は年々アムンゼン・スコット基地に

近づいてきており、20年以内には発電施設の真下に

南極点が位置することになりそうだ(写真1)。

──地球温暖化の影響でそちらの土地が縮小していると報じられているが、実際そうなのか。Malmgren氏:南極の積氷が縮小し、氷河流動速

度が上がっていることは、衛星写真によってはっきり

と確認されている。この速度を正確に数値化するには、

現地でのさらなる研究が必要だが。

写真1:南極点付近に立つHenry Malmgren氏。手前の南極点ポールは公認のものではなく、測量時の位置を示している

Page 7: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 9

極寒の地にも「熱問題」あり南極基地の管理者が語る、マイナス50℃下のITマネジメントデータセンターの構成から過酷な伝統行事まで一問一答

──以前、南極点の公式サイトにあるWebカメラで基地の様子を見たのだが、カメラが下のほうを向いていて建物の最上部が写っていなかった。これは単に調整不足が原因なのか。Malmgren氏:そうではない。初夏の太陽は基本的

に、水平線から昇って沈むのではなく、水平線上を

一定の高さでぐるりと回る。そのため、カメラをその

ように設置せざるをえなかったのだ。

 年の初めは太陽が非常に低い位置にあり、カメラ

を建物の方向にまっすぐ向けると、太陽の光によって

カメラの虹彩絞りが焼き切れてしまう。太陽が高く昇

る今の時期はカメラも上に向けてあるので、建物の全

景が写っているはずだ。

──タイムゾーンは通常、グリニッジからの経度上の距離で決まる。すべての経線が1点に収束する南極点では、時間はどのようにして決まるのか。Malmgren氏:時間は自由に選ぶことができる。わ

れわれの場合、ニュージーランド標準時を使用してい

る。輸送機はすべてニュージーランドから来ており、

その予定に合わせるにはニュージーランド標準時を使

用するのが最もわかりやすいからだ。

システム全般に直接携われることの喜び

──いったいなぜ、南極で働こうと思ったのか。Malmgren氏:大学を卒業するまで米国の外に出た

ことがなかったが、交換留学生として欧州に行ってい

たガールフレンドがいて、彼女の話を聞くうちに国外

で仕事をしたいと思うようになった。

 その後、就職活動中にたまたま南極圏での仕事を

見つけ、全米科学財団(NSF)の契約業者である米国

Raytheonに入社した。それからは、コロラド州デンバー

にあるRaytheonの本社とアムンゼン・スコット南極基

地を行き来した。同基地で夏と冬をそれぞれ2回ずつ

過ごしたあと、現在の役職であるITマネジャーに就い

たのだ。

──基地におけるあなたの役割は何か。Malmgren氏:わたしの担当領域は、ITの上部構

造から衛星、電話システム、携帯ラジオに至るまで非

常に多岐にわたっている。要するに、電気通信やコン

ピュータに関するあらゆるものに責任を負っていると

いうことだ。夏の間は7人ほどのスタッフとともに250

〜270人の職員をサポートしている。一方、2月中旬

から10月中旬までの冬の間は人数が減って、4人だけ

で60〜70人の職員をサポートする。

──典型的な1日の業務はどのような感じなのか。Malmgren氏:1日の勤務時間は最短で9時間、休

みは週に1日だ。勤務日は、最初の2〜3時間をデンバー

の本社から来たメールへの返信に費やし、その後、

基地内を回って科学者たちに声をかけ、必要なもの

はないか、われわれに解決可能な問題は起きていな

いかを確認する。

 わたしがうれしく思うのは、マネジャーという立場

でありながら、基地のシステム全般に直接携われるこ

とだ。ここでのわたしは、スポーツ選手のコーチのよ

うな存在だと言える。わたし自身は延べ5年間にわた

りこの基地のシステムに携わっているが、スタッフの

ほとんどはここに来るのが初めてだからだ。

──最も多くの時間を占めるのはどのような作業か。Malmgren氏:このところ最優先事項となっている

のは情報セキュリティだ。最新の脆弱性情報を入手し、

パッチを適用するといった作業に勤務時間の3分の1

程度を費やしている。すでに2年ほど前から、このよ

うな状況が続いている。

──南極で働くスタッフを確保するのは簡単なのか。Malmgren氏:ほとんどの場合、求人には多くの応

募がある。わたし自身、4年間応募し続けてようやく

採用されたほどだ。ただし、そのときの景気によって

は十分に人が集まらないこともある。

 例えば今は、イラクやアフガニスタンの請負業者と

の間で衛星通信員を奪い合っている状況だ。こうし

た請負業者は、われわれよりはるかに高い給与を支

払うことができる。むろん、イラクやアフガニスタンと

は違い、こちらには「銃で撃たれることを心配せずに

済む」という強みがあるのだが。

──南極ならではのマネジメント上の苦労を教えてほしい。Malmgren氏:補給物資を計画どおりに受け取るた

めには、1年半前に計画を立て、すべて発注しておか

Page 8: Computerworld.JP Jun, 2008

Computerworld June 200810

なければならず、これが遅れたら大変なことになる。

この基地への補給物資は輸送機で送られてくるのだ

が、その輸送機はマクマード基地を経由してやって来

る。そしてマクマード基地への補給物資は、貨物船

で1年に一度輸送されてくるだけなのだ。

 また南極での業務は、肉体的にも厳しいものがある。

基地が海抜3,650mの高地にあるため空気が薄く、多

くの人が到着してすぐ体調を崩してしまう。

 わたし自身は、寒さや高度といった環境的な問題、

新鮮な食べ物や野菜が少ないといった問題を除けば、

南極ではないどこか普通の場所にいるような気分にな

ることもある。でも、窓の外に目を向ければ、基地の

すぐ目の前に南極点のポールが見える(写真2)。そん

なとき、わたしは世の中で最高の仕事に就いているの

だということを実感する。

データセンターの熱は南極でも課題

──基地内のデータセンターはどのような構成になっているのか。Malmgren氏:2005年に完成したばかりの新しい基

地にフル装備のデータセンターがある。床がフリー・

アクセス構造になっており、一般的なデータセンター

に必要となるものはすべて用意されている。また、サー

バは約30台だ。

 このほか、メインの基地から1kmほど離れたところに、

RF(Radio Frequency)ビルと呼ばれる建物がある。

ここに緊急時のバックアップ用データセンター(写真3)があり、SAN(Storage Area Networks)に接続さ

れた予備のファイル・サーバが置かれている。衛星通

信用のパラボラ・アンテナが設置されているのも、こ

の建物だ。メインのデータセンターに障害が発生した

ときに、こちらのデータセンターにオペレーションを切

り替えるようになっている。

──米国のデータセンターでは熱密度が問題になってきている。南極では、もちろん問題にはならないと思うが。Malmgren氏:南極は熱問題とは無縁と思われるか

もしれないが、実際にはこちらのデータセンターでも

相当量の熱が発生しており、この熱を取り除くことが

課題の1つになっている。

 そこでわれわれは、熱の一部を建物の別の場所へ

送り出すという方法を試みている。古い基地のデータ

センターでは、単純に壁にファンを取り付け、そこか

ら熱を外に逃がすことでシステムを冷却していた。

──データセンターでは大量の電力を消費すると思うが、そのことは問題にならないのか。Malmgren氏:こちらには約100万ワットの電力を発

電できる設備があるが、実際にそこまでフルに電力を

使ってしまうと、燃料供給が圧迫されることになる。

そのため、発電機を常に動かし続けることは現実には

難しい。一般に、発電機は高所に弱く、電圧が低下

してしまうこともある。

 発電可能な電力量は、燃料をどれだけ備蓄できる

かに依存する。燃料は1滴残らず空輸されてきており、

輸送機が飛ぶ夏の4カ月間に運ぶことのできる量は限

られている。冬になって基地が閉ざされてしまえば、

その後の8〜9カ月間、輸送機は飛ばないのだ。

写真2:こちらは公認の南極点ポール(中央右の赤と白のまだら模様)。各国の国旗で囲まれている。後方はアムンゼン・スコット南極基地

写真3:バックアップ用データセンターの内部。ここには外に直接つながる通気口があり、適温を保つのは比較的容易だ

Page 9: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 11

送信記録は1日で94GBだ。

 インターネットへの接続には3つの衛星を使用して

いる。いずれも年代物で、内訳は気象衛星、海上通

信衛星、NASAの衛星である。気象衛星は1981年、

残りの2つは1976年から1977年にかけて打ち上げら

れたものだ。

 基本的には、そのつど捕捉できた衛星を使ってい

るが、各衛星を捕捉できるのは1日3〜4時間だけで、

それ以外の点では一般的なネットワークとほぼ同じ

だ。ネットワーク機器には米国Cisco Systemsの製品

を使用し、すべての寝室に有線回線を引いているほか、

FTTD(Fiber to the Desktop)に備えて建物全体に

光ファイバーを張り巡らせている。できるだけ将来に

備えた設計を施しているわけだ。

──これらの衛星が機能停止した場合はどうするつもりなのか。Malmgren氏:現在使っている衛星はすでに設計時

の寿命を過ぎているので、数年以内に別の衛星に切

り替える予定だ。衛星の状態は悪くなる一方で、双

方向通信を行えない時間が次第に増えている。NSF

では、現在のものより新しい衛星を時間単位で借り

受けることを検討しているが、それには130ドル/分

ほどの費用がかかりそうだ。

──衛星回線に障害が発生したときはどう対応しているのか。だれかがRFビルのアンテナの様子を見に行くのか。Malmgren氏:ここではだれもが、気温-70度の真っ

暗闇の中、衛星通信用のパラボラ・アンテナ(写真4)

が設置されているバックアップ用データセンターまで

歩いていくという経験をしている。このようなことは、

南極で働くのであれば不可避だし、目の前には極限

的な状況がいくらでもある。-70度の中でルータを交

換することができれば、どこへ行ってもルータの交換

に困ることはないだろう。

直径10mの電波望遠鏡で宇宙マイクロ波背景放射を調査

──最近のプロジェクトで特に興味深いものは何か。Malmgren氏:2006年の話になるが、イリジウム衛

星ネットワークへの接続に利用する画期的なシステム

──データセンター向けの非常用電源は用意してあるのか。Malmgren氏:予備の発電機をデータセンター用に

確保することはしていないが、UPS(無停電電源装置)

は用意している。実際に稼働している(施設全体用の)

発電機は常に1台だけだが、全部で3台の発電機があ

る。1台が運転用、1台がホット・スタンバイとして待機、

そして残りの1台はメンテナンス用という構成だ。運転

中の発電機が停止したときは、5〜6秒以内に別の発

電機が動き出す仕組みになっている。

 発電機が完全に停止してしまうと、施設内の熱が

失われることになる。もしそうなれば、4時間か5時間

もしないうちに建物全体が冷え切ってしまうだろう。

帯域確保が外部通信時の最大の課題

──外部との通信はすべて衛星経由で行うのか。Malmgren氏:そうだ。基地が建っている氷床は1

年間に約9m動く。また、最も近い基地とも960km離

れている。このような環境下でケーブルを敷設するの

は容易ではない。

──通信に際して技術的な課題は何か。Malmgren氏:最大の課題はネットワークの帯域を

確保することだ。ネットワークに接続できるのは1日12

時間だけで、回線速度もT-1(1.54Mbps)から3Mbps

程度にすぎない。ただし、トランスポンダを使えば、

こちらからの送信にかぎり60Mbpsの速度でデータを

送ることができるため、科学データの送信にはトラン

スポンダを使用している。ちなみに、これまでの最大

写真4:バックアップ用データセンターの衛星通信用パラボラ・アンテナ。電波をキャッチするため、地平線に向かってほとんど水平に設置されている

Page 10: Computerworld.JP Jun, 2008

Computerworld June 200812

を開発した。12個のモデムを多重化して、28.8Kbps

の回線を24時間・365日いつでも使えるようにしたのだ。

こんなものがきちんと動作するとはだれも思わなかっ

たし、いつでも使える回線を南極点で確保できるとは

だれも思っていなかった。現在、この回線はネットワー

ク通信による最後の手段になっており、ブロードバン

ドの衛星回線が使用できなくなると、自動的にこの回

線に切り替わる。

──そちらの基地ではどのような科学プロジェクトをサポートしているのか。Malmgren氏:この基地では非常に大規模な科学

プロジェクトがいくつか進行中であり、そのすべてで

膨大な量のデータが収集されている。とりわけ大がか

りなのは南極点望遠鏡だ。これは、直径10mの電波

望遠鏡で、宇宙マイクロ波背景放射を調べるのに用

いられる。

 科学者たちはこの望遠鏡で暗黒物質などを探して

おり、その際に集められた膨大なデータはできるかぎ

り早く米国に送る必要がある。もしブロードバンドの

衛星回線がなければ、冬の間9カ月もデータをここに

置いておかなければならない。衛星回線のおかげで、

分析結果が出るまでの時間が大幅に短縮されている

わけだ。またこれによって、望遠鏡に関するあらゆる

問題を分析し、冬の観測期間中に修正することが可

能になっている。従来は、まるまる1年間待たなけれ

ばならなかった。

──研究者や科学者をどのような形でサポートしているのか。Malmgren氏:基本的に、研究用の機器などは彼ら

自身が用意し、われわれはバックエンドの設備を提供

する。ただし、それらの機器が故障したときなどは、

われわれも修理の手伝いを申し出るなどしている。

 これは彼らを非難して言うわけではないのだが、多

くの科学者は、研究データをほかのだれかの手に委

ねることを好まない。それゆえ、われわれはあくまで

彼らが必要とする情報や技術サポートを提供すること

に徹している。

──実績のない先進的なテクノロジーを取り入れる機会はあるのか。Malmgren氏:南極は、登場したばかりのテクノロジー

を試すような場所ではない。最先端のテクノロジーと

いうのは何かと手がかかるものだし、ここでその人手

を確保することは困難だ。南極はそうしたことにふさ

わしい場所ではない。

──過酷な気象条件はシステムの信頼性や稼働時間にどの程度影響するのか。Malmgren氏:とにかく空気が乾燥しているので、

静電気が大きな問題となる。実際、静電気はノート

PCやハードディスクの最大の故障原因となっている。

特に故障が多いのは、電源やハードディスクというよ

うなたぐいのものだ。海抜3,650mの高地にあるため

空気が薄く、冷却ファンが十分な空気を送れないた

めだ。したがって、熱を発生させるものについては特

別な配慮が必要になる。

 ハードディスクについては、高地に関連するもう1

つの問題がある。ハードディスクのヘッドは一般に、

プラッタとの間の空気の層をクッションにして浮いて

いる。だが、ここでは空気分子の量が少ないため、ヘッ

ドがプラッタから十分に浮くことができず、故障が多

発してしまうのだ。

──機器の故障が発生した場合はどのように対応するのか。Malmgren氏:ベンダーのサポート担当者を呼ぶわ

けにもいかないので、少なくとも1年ぶんのスペア・パー

ツをストックするようにしている。

──ディザスタ・リカバリはどのように行うのか。Malmgren氏:これは重要な問題だ。空気が乾燥し、

液体水が貴重である南極では、火災が壊滅的な被害

をもたらす可能性が高い。そのため、すべてのデータ

を別の場所にバックアップし、各システムをできるか

ぎり2つの場所で並行して動作させるようにしている。

──火災が発生したときはどのように対応するのか。Malmgren氏:南極では非常に先駆的なことなのだ

が、この基地には湿式スプリンクラーが設置されてい

る。建物自体もモジュール構造になっており、複数の

セクションに分割されている。

 またメインの基地が使えなくなった場合に備えて、

シェルターも用意されている。シェルターには緊急用

の通信装置や発電機、キッチンが備え付けられており、

Page 11: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 13

非常時にはそこに避難することになる。ここから1km

ほど離れたところにバックアップ用のデータセンター

があるので、非常時にもデータが失われることはない。

 火災の発生が夏であれば、われわれは基地から脱

出することになっている。冬の場合は、輸送機がいつ

こちらに来られるかによるが、4〜5カ月間を何とか生

き延びなければならないだろう。

「300クラブ」で華氏300度の温度差を味わう

──南極基地での生活の中で、一般にあまり知られていない意外な話はある?Malmgren氏:食生活の意外な充実ぶりには驚かれ

るかもしれない。ここにはちょっとした温室があって、

2〜3日おきにサラダを食べられるほどの野菜が水栽培

で収穫できる。

──業務の中で最も楽しいこと、そして最もつらいことは何か。Malmgren氏:最も楽しいのは、科学者たちといっしょ

に働けることだ。皿洗い係から科学者、建設作業員

に至るまで、ここにいる人々は皆、興味深い経歴を持っ

ている。ありきたりで平凡な人など1人としていない。

 最もつらかったのは、丸2年をこちらで過ごしたとき

だ。時折、特に休暇期間中などに、家族や友人たち

と長く会えずにいることが本当につらく感じられること

がある。

──南極基地での生活から学んだことで、将来役に

立ちそうなのは?Malmgren氏:まず挙げられるのは外交術だ。博士

号レベルの科学者、初めて南極にやって来た建設作

業員、コンピュータの電源を入れる方法や家族へ電

子メールを送る方法といったことばかり尋ねてくる人

など、実にさまざまな人々とうまくやっていくことが求

められる。このように、まったくタイプの異なる人々を

サポートしなければならない状況というのは、めった

に経験できるものではない。

──これまでで最も過酷な経験は何か。Malmgren氏:この基地には「300クラブ」と呼ばれ

る伝統的なイベントがある。気温が-73℃(華氏-

100度)まで下がったら、まずサウナに入る。93℃(華

氏200度)の温度で限界まで体を温めたら、今度は裸

のまま外へ飛び出していき、南極点のポールをぐるっ

と回って戻ってくる(写真5)。つまり、華氏300度の

温度差を身をもって体験するわけだ。

 このイベントに参加すれば、実に強烈な感覚を味

わうことができる。この温度差を直接肌に感じるとい

う体験は、ほかの何にも例えようがない。-50℃と

-70℃の違いなどわかるのかとよく聞かれるが、もち

ろんわかる。

──その温度で皮膚が凍ったりしないのか。Malmgren氏:できるだけ長くサウナに入るのは、

それを防ぐためだ。大切なのは、ゆっくり歩くこと。走っ

たりすると、肺が凍傷になってしまう。ただし、あま

りゆっくりすぎると、今度は体の熱を奪われ、寒さに

弱いあちこちの部位に凍傷を負うハメになる。要は、

その中間のスピードで歩く必要があるということだ。

 もっとも、うまくペースを守れたとしても、室内に

戻ってきたときには皆、咳をしている。その後の数日間、

基地内はまるで結核病棟のように咳の音が鳴り響くこ

とになる。

──いつまで南極での仕事を続けるつもりなのか。Malmgren氏:わたしは、こちらへ来るたびに自分

は幸運だと感じる。毎年何かしら変化があるし、ほか

の仕事をしている自分の姿など想像することができな

い。だが、ガールフレンドには常々こう言われている。

もっと近くで別の仕事をしてほしいとね。今もそのこ

とで話し合いを続けているところだ。

写真5:「300クラブ」でのMalmgren氏。裸のまま、南極点ポールをぐるっと回って戻ってくるのがルールだ

Page 12: Computerworld.JP Jun, 2008

NEW

S HE

ADLI

NE

Computerworld June 200814

Vistaへ移行/XPを継続/Windows 7待ち……企業が頭を抱えるクライアントOSの選択肢Windows 7のリリースは2009年? ゲイツ会長が可能性を示唆

 米国MicrosoftはWindows Vistaの堅

調な売れ行きをアピールしているが、多く

の企業はVistaへの移行に消極的なようだ。

 米国の調査会社Forrester Research

は3月27日、米国企業の多くが依然として

Internet Explorer(IE)6およびWindows

XPを使っているとの調査リポートを発表し

た。同調査リポートは、Forresterが昨年1

年間に、5万人の企業ユーザーに対して毎

月実施したアンケート調査が基になってい

る。

 同調査リポートによると、2007年12月

の時点でVistaを使っていると答えた企業

は、Windowsユーザー全体の6.3%にと

どまったという。この数字は2007年1月の

結果(0.7%)に比べれば若干増えたものの、

Windows XPを使っているWindowsユー

ザーの割合は1年を通じてほとんど変わら

ないという結果になった(2007年1月が

89.5%、同12月は89.8%)。

 Forresterの調査員リードワン・イクバ

ル(Reedwan Iqbal)氏は、Vistaユーザー

が若干増えたのは、Windows 2000ユー

ザーがVistaに移行したためだと分析して

いる。調査リポートによると、Windows

2000ユーザーの割合は、2007年1月の

9.1%から12月には3%に下がっており、こ

れは2007年1月から12月までのVistaの伸

び率とほぼ同じだという。

Windows 7の登場は2009年の可能性も 企業がVista導入に二の足を踏んでいる

背景には、Windows XPからVistaを飛び

越してVistaの後継OS「Windows 7」(開

発コード名)へと移行するという選択肢も見

えてきたことがあるようだ。折しもMicrosoft

のビル・ゲイツ(Bill Gates)会長は4月4日、

米国マイアミで開催されたビジネス・ユー

ザー向けフォーラムにおいて、「来年のいず

れかの時期に、(Vistaの後継OSとなる)新

バージョンOSがリリースされる予定だ」と

コメントしたという。

 また同社は4月3日、2008年6月30日ま

でとしていたWindows XP Home Edition

のOEM販売期限を、延長すると発表した。

そ の 際、Windows

XP Home Edition

のOEM販売期限は、

2010年6月30日まで、

またはWindows 7の

発売から1年後までの

いずれかに設定すると

明言している。

 Microsoftは現在、

Vistaの後継OSの初

期ビルド版を、ごく限

定されたユーザーに

提供していること、次

●北京五輪組織委、オリンピック開催中のネット・アクセスを保証(4/7)

●Windows 7のリリースは2009年? ゲイツ会長が可能性を示唆(4/7)⇒14ページ

●EMCがコンシューマー市場へ参入──「Wiiでも管理できるストレージ」を中国で販売(4/3)

●AT&T、「Android」への支持を表明(4/3)●ネットスイート、ISV/SIer向けSaaS開発プラッ

トフォーム「NS-BOS」を発表(4/3)⇒20ページ●「ポケットの中からインターネット体験を」──イ

ンテルがMID向け新CPU「Atom」を発表(4/2)⇒16ページ

●サイベース、独自手法の「リアルタイムBI」を披露(4/2)⇒17ページ

●IDC調査、国内コンプライアンス市場規模、2012年には1兆8,200億円に(4/2)

●IBM、ミッドレンジ・サーバ製品ラインを「Power Systems」に統合(4/2)⇒16ページ

●マイクロソフト、Windows Mobile 6.1と「IE Mobile」の新版を発表(4/1)

●Gartner調査、半導体業界が「永久」の停滞期に突入?(4/1)

●サン期待のJavaFX Script、5月のJavaOne 2008でデモを披露予定(3/31)

●CanSecWest 2008で行われたハッキング・コンテストでMacとVistaは陥落──Linuxだけが無傷(3/31)⇒18ページ

●YouTube、投稿ビデオのアクセス解析ツールを提供開始(3/26)

●オラクル、エンピレックスのWebアプリ・テスト技術を買収へ(3/27)

●ノーテル、既存の10Gbps光網を最大10倍に高速化できる新技術を発表(3/27)⇒19ページ

●グーグルの検索広告事業に減速の兆し──広告クリックの伸びが横ばい傾向に(3/28)

●モジラ、「Firefox 3.0」正式版を6月にリリースへ

NEW

S

期OSは32ビット版と64ビット版の両方を

提供することの2点については明らかにし

ているものの、それ以上の情報は明らかに

していない。

 こうしたMicrosoftの動きは、来年半ば

にWindows 7のリリースに向けた何らかの

発表があることを示唆すると言ってよいだ

ろう。ただし、その“発表”がWindows 7

の一般向けファイナル・リリースなのか、

ベータ版の提供なのかは、現段階では読

み取ることはできない。

 今後、Windows 7に関する情報が増加

し、リリース・スケジュールが前倒しになる

ことが明らかにされれば、Vistaは一層、

厳しい立場に立たされそうだ。

(IDG News Service/Computerworld)

動画投稿サイト「YouTube」に投稿された「Windows 7」の画面。Microsof tは当初、Windows 7の存在を否定していた

Page 13: Computerworld.JP Jun, 2008

M a r c h , 2 0 0 8

June 2008 Computerworld 15

「XMLはもはや“空気”のような存在であり、必要不可欠なもの」──生誕10周年を迎えたXML、その普及・活用の進展度

「XML Today & Tomorrow」セミナーで語られたXMLの今とこれから

 XMLの最初の仕様「XML 1.0」が1998

年2月にW3C勧告としてリリースされてか

ら、今年でちょうど10年になる。その節目

の年を記念したセミナー「XML Today &

Tomorrow」が3月5日、業界団体XMLコ

ンソーシアムの主催で行われた。

 言うまでもなくXMLは、アプリケーショ

ンやプラットフォームに依存しない“ユニ

バーサル”なデータを記述するための言語

仕様だ。その拡張性・柔軟性、および相

互運用性の高さから、多方面で実装・活用

が進んでいる。

 今回のセミナーに講演者の1人として参

加した日本IBMの執行役員・東京基礎研究

所長、丸山宏氏はXMLの浸透度をこう表

現する。「今日のITにとって、XMLはもはや

“空気”のような存在。われわれの周りに当

たり前のように存在し、かつ必要不可欠な

ものだ。今や、XMLでデータを表現する

ことは、ITエンジニアの当然のリテラシー

だと言える」

次世代EDIの実践 今回のセミナーでは、国内でのXMLの

普及・活用の進展度を示す目的で、各業界・

公的機関におけるXMLの活用事例や取り

組みが紹介された。その1つが、中京地域

を地盤に食品卸のビジネスを展開するトー

カンの「流通ビジネス・メッセージ標準

(BMS)」導入報告である。

 流通BMSは、流通業界におけるサプラ

イチェーンの全体最適化に向けた標準で

あり、その策定はイオンやイトーヨーカ堂

など日本の大手小売各社で構成される「次

世代EDI標準化ワーキング・グループ」で

行われた。こうした業界の動きにトーカン

は早くから呼応し、流通BMSベースの次

世代EDI環境への移行を2007年4月に完

了させ、新システムの実稼働をスタートさ

せている。

 トーカンの執行役員である牧内孝文氏

は、流通BMSの導入効果について、現時

点ではデータ通信のスピードアップなどに

限定されているとしながらも、「今後、流通

BMSが業界各社にさらに広がれば、業務

コストの削減やビジネス・プロセスの合理

化といった点で、より大きな効果が得られ

るはず」と、期待を込めて語った。

さらなる普及に向けて 日本企業のビジネスを支えるITシステム

のデータ形式としてXMLの利用が一般化

しているかと言えば、実はそうではない。

流通BMSのように、業界内でやり取りす

るデータ/メッセージをXMLによって標準

化する取り組みについても、その多くが道

半ばの状況にある。

 XMLコンソーシアムでは現在、こうした

(3/27)●オラクル、3Q決算は増収増益──ソフトの売上

げが大幅増(3/26)●富士通、6月に社長交代へ──経営執行役上席

常務の野副州旦氏が就任(3/27)●AMD、初の3コアCPUを含む新型「Phenom」プ

ロセッサをリリース(3/27)⇒19ページ●BMC、ITILv3準拠のサービス・リクエスト管理ソ

フト「SRM Ver. 2.2」を発表(3/25)⇒21ページ●ヤフーがOpenSocialを支持──グーグル、マイ

スペースと共同で支援団体を設立へ(3/25)●Windows XP SP3のリリース、4月後半で確定

か(3/20)●グーグル、「ホワイト・スペース」開放案をFCCに

提出(3/24)●ダルフール問題の啓蒙サイトがハッキング被害、

FBIは中国の関与を調査(3/24)●オバマ上院議員の旅券記録に国務省職員が不正

アクセス(3/24)●HP、データセンターの仮想化をサポートするハ

イエンド・サーバと新サービスを発表(3/17)⇒21ページ

●生誕10周年を迎えた「XML」──その普及・活用の進展度は(3/13)⇒15ページ

●「VMwareより3倍高効率」──日本オラクルが「Oracle VM」の国内提供を開始(3/13)⇒18ページ

●日立、システム運用管理ソフト「JP1」のグリーンIT対応を強化(3/12)⇒17ページ

●ソニックとデータディレクトが経営統合に向けて始動──両社新社長、田上一巳氏に聞く⇒20ページ

●マイクロソフト、IT資産を可視化するVisio 2007用アドオンを無料提供(3/24)

●マイクロソフト、仮想化ハイパーバイザ「Hyper-V」のRC版を公開(3/19)

EVEN

T REP

ORT

現状を打破するための1つの施策として、

XMLの活用実態を可視化する取り組みを

推進している。具体的には、XMLが「どの

業種・業務」で「どういった形で使われてい

るか」を、業種・業務・技術の側面から一

望できるXML活用実態の俯瞰図を作成す

るというものだ。

 さらに、このようなIT業界側の努力と併

せて、IT化に対する日本企業の姿勢・意識

変革も、XMLのさらなる普及には必要とさ

れている。

 XMLは今、企業内外のITシステムやビ

ジネス・プロセスを相互に結び付けるため

の言語として、世界的な規模で活用が進

んでいる。そうした流れにどう対応し、ビ

ジネスのプロセスとITの全体最適化を実現

していくか――その辺りの判断が、今日の

日本企業に大きく問われ始めているようだ。

(Computerworld)

午前中に行われたディスカッションでは、日本IBMの丸山氏(右)と共に、国際大学・併任研究員の村田真氏もパネラーとして登壇。XMLの発展を支えてきた両氏は、XMLの本質的価値や将来について語り合った

Page 14: Computerworld.JP Jun, 2008

Computerworld June 200816

IBM、ミッドレンジ・サーバ製品ラインを「Power Systems」に統合旧System i/pシリーズからの円滑な移行をサポート。ブレード型など順次発売へ

 米国IBMは4月2日、ミッドレンジ・サー

バ製品ラインの「System i」と「System p」

を統合した新しい製品ライン「Power Sys

tems」を発表した。メインフレーム用を除

く同社の全OSをサポートするという。

 Power Systemsは、IBMのPOWER6プ

ロセッサを採用し、LinuxやAIXなどさまざ

まなOSをサポートする。近々Windowsを

サポートするブレード・サーバも投入される。

 Power Systemsの誕生で最も影響を

受けるのは、ビジネスの中核を担う(カスタ

ム開発された)業務用アプリケーションを

System i上で稼働しているユーザーだ。

 System iは、セキュリティ・ツールや管

理ツールなどの機能と内蔵データベースを

統合したシステムであり、強固なユーザー

層を形成している。

 IBMは、製品ラインを変更するにあたり、

特にSystem iユーザーに対して、Power

Systemsへの円滑な移行を保証すること

に腐心している。同社ビジネス・システム

ズ部門のマーケティング担当バイスプレジ

デント、マーク・シャー(Mark Shear)氏は、

「製品ラインの変更に伴う混乱は一切生じ

ない」と強調し、ミッドレンジOSの現行バー

ジョンは統合プラットフォームで稼働する

と説明している。

 また、Shear氏は、ミッドレンジ・シス

テムをサポートするというIBMの姿勢に変

化はなく、統一された製品ラインに移行す

ることで、ユーザーの間でIBM i(旧i5/OS)

の認知度が高まると強調した。

 Power Systemsの出荷開始は4月18日

から。最初のモデルは、POWER6を搭載し、

「ポケットの中からフル・インターネット体験を」──インテルがMID向け新CPU「Atom」を発表Atom搭載MIDは今夏から順次発売予定。「Centrino Atom」としてのブランド構築を目指す

 インテルは4月2日、都内で記者会見を

開き、モバイル・インターネット端末(MID)

をターゲットにした新CPU「Atom」(開発

コード名:Silverthorne)を発表した。同

社代表取締役共同社長の吉田和正氏は、

「ポケットに収まる小型端末でフル・イン

ターネット・エクスペリエンスを提供する」

とアピールした。

 Atomは、45nm(ナノメートル)プロセス

が適用されており、4,700万個のトランジ

スタを集積している。ダイサイズは25ミリ

㎡以下を実現し、小型・高性能に加えて、

低消費電力も追求されている。平均消費

電力は160〜220mWで、アイドル時の消

費電力に至っては80〜100mWを実現し

ている。今回、同時に5製品が発表され、

動作周波数は800MHz〜1.86GHzまでそ

ろえている。

 高性能および低消費電力を可能にした

のは、設計段階における性能と消費電力

量の相関関係を見直したことが関係してい

る。インテルによると、従来基準だと、性

能を1%向上させるのに消費電力量が3%

増加するものとして設計されていたという。

しかし、Atomの設計に際しては、1%の性

能向上に対する消費電力の増加量を1%に

抑えることを目標とし、開発を進めてきた。

 チップセットとしてAtomとともに提供さ

れる新しいシステム・コントローラ・ハブは、

ノースおよびサウス・ブリッジを1チップに

統合したLSIだ。HD映像を再生可能で、

さまざまなビデオ・プレーヤーやコーデック

に対応している。

 Atomチップセットにワイヤレス機能を

PROD

UCTS

PROD

UCTS

写真はPOWER6を搭載した「IBM Sys tem p 520 Express」

IBM iがインストールされた「Power 520

Express」で、価格は9,000ドルを下回る

予定。5月末には、マルチOSモデルの

「BladeCenter JS12 Express」などが投

入される予定だ。(Computerworld米国版)

Atomを手に持つインテルの代表取締役共同社長、吉田和正氏

付加したMIDが、「Centrino Atomプロセッ

サ・テクノロジー」という広く認知された

Centrinoブランドを名乗ることができる。

インテルによれば、ワイヤレス機能は同社

が提供する製品のほかに、サードパーティ

製品を採用することもできるという。Atom

を搭載したMIDは、今夏から順次発売され

る予定である。 (Computerworld)

Page 15: Computerworld.JP Jun, 2008

M a r c h , 2 0 0 8

June 2008 Computerworld 17

サイベース、DBの差分ログをベースにデータを抽出・蓄積する独自手法の「リアルタイムBI」を披露

「本当のリアルタイムBIソリューションを国内で提供できるのはわれわれだけ」と自信

 サイベースは4月2日、「リアルタイムBI(ビ

ジネス・インテリジェンス)の実現」と題した

報道関係者向けの説明会を開催した。同

社では、データ・ソースとなる基幹データ

ベースへの負荷を軽減し、リアルタイム性

を高めたBIソリューションを提案している。

 リアルタイムBIの“リアルタイム”とは、

従来のデータ・ウェアハウス(DWH)などと

比較したときの、データの抽出・分析に要

する時間の短さを示している。具体的には、

週次や日次といったインターバルでデータ

を抽出・分析する従来型DWHとは異なり、

例えば1時間ごとに鮮度の高いデータを抽

出するのがリアルタイムBIとなる。

 サイベースのリアルタイムBIソリュー

ションは、Replication Agent、ステージ

ング・サーバ(Replication Serverとステー

ジング・データベース)、DWHサーバとい

う4つのコンポーネントから構成される。

 Replication Agentは、基幹データベー

ス(データ・ソース)の上で稼働するエー

ジェント・ソフトで、データベース・ログの

差分を抽出するコンポーネントだ。サイベー

スのセールスエンジニアリング部 部長、花

木敏久氏によると、同コンポーネントは「(従

来からの課題だった)データ・ソースへの負

荷を大幅に軽減する、同ソリューションの

肝となるもの」だという。また、Replica

tion Serverはログから履歴データ登録用

のSQLを復元し、DWHサーバは履歴デー

タを登録・蓄積する。

 サイベースでは、各コンポーネントに当

たる実際の製品として、Replication Age

ntには「Replication Agent for Oracle」、

日立、システム運用管理ソフト「JP1」のグリーンIT対応を強化PCの省電力一元管理機能などをサポート

 日立製作所は3月12日、統合システム運

用管理ソフト「JP1」の機能強化版を13日か

ら販売すると発表した。昨今ニーズが高ま

る「グリーンIT」への対応を強化するべく、

情報システムの省電力化を運用面から支

援する新機能を搭載している。

 今回のJP1の機能強化は、消費電力削

減に向けた各種技術開発や省電力対応製

品の提供などを推進する「Harmonious

Green(ハーモニアス・グリーン)」プロジェ

クトに則ったもので、(1)PCの省電力管理、

(2)温度監視センサーと連動したサーバ省

電力運用、(3)内部統制への対応の支援、

の3つが柱となっている。

 PCの省電力管理機能は、オフィス内の

PCの省電力設定などを運用側で一元的に

管理できるようにするもの。「JP1/NETM/

Client Security Control - Manager」と

「JP1/NETM/DM Manager」を用いて、

PCモニタの電源オフやCPUの省電力モー

ド設定などを省電力ポリシーとして設定す

れば、部署ごとのポリシーへの適合状況を

時系列にリポートすることができる。

 2番目のサーバ省電力運用機能では、

サーバ・ラック上に設置された温度監視セ

ンサーと「JP1/Integrated Manage

ment」とを連携させることで、データ

センターでの熱異常発生やその予兆

に対応できるようにする。これにより、

CPUの省電力モード設定の変更や、

サーバ構成変更による縮退運転など

を自動実行し、発熱を抑える運用処

置が可能となる。

 3番目の内部統制支援では、従来

PROD

UCTS

PROD

UCTS

Replication Serverには「Data Integ

ration Suite」、ステージング・データベー

スには「Adaptive Server Enterprise(ASE)

Small Business Edition」、そしてDWHサー

バには「Sybase IQ」を想定している。

(Computerworld)

から提供されてきたITIL(IT Infrastructure

Library)サービスデスクでの案件対応をさ

らに効率化する機能を、JP1/Integrated

Management - Service Supportで提供

する。

 価格はJP1/NETM/Client Security

Control - Managerで、26万2,500円か

らとなっている。 (Computerworld)

サイベースのセールスエンジニアリング部 部長、花木敏久氏は「本当のリアルタイムBIソリューションを国内で提供できるのは当社だけだと自負している」と自信を見せた

省電力化を支援する「JP1」最新版のリポート画面

Page 16: Computerworld.JP Jun, 2008

Computerworld June 200818

 日本オラクルは3月13日、同社のサーバ

仮想化ソフトウェア「Oracle VM」の国内

提供を開始したと発表した。

 Oracle VMのハイパーバイザには「Xen」

が採用されており、仮想マシン上で動作す

るゲストOSはWindowsとLinuxの両OSを

サポートしている。ゲストOS当たり最大32

個まで仮想CPUを割り当てることが可能だ。

 Oracle VMは、同社Webサイトから無

料でダウンロードできる。加えて、米国

VMwareのサーバ仮想化ソフトでは有償

であるライブ・マイグレーション機能も、

Oracle VMでは無料である。また、管理

コンソールの「Oracle VM Manager」はブ

ラウザ・ベースであり容易な管理を実現し

ている。

 発表に際し来日した、米国Oracleのチー

フ・コーポレート・アーキテクト、エドワード・

スクリーベン(Edward Screven)氏は、

「(Oracle VMは)VMwareと比べて3倍も

効率がよい」とアピールした。

 Oracle VM上では、主要なOracle製品

の動作が保証されている。さらに日本オラ

クルは、エンタープライズ・レベルのサー

バ仮想化ソフトとしてOracle VMがデファ

クト的に選ばれることを目指し、「ソフトウェ

ア・アプライアンス」へ注力する方針だ。

 ソフトウェア・アプライアンスとは、SIer

やISVのソフトウェア・パッケージをテンプ

レート化し、それをOracle VM上の仮想マ

シンに読み込むだけで、すぐさまそのソフト

ウェアを実行可能にするというものだ。日本

オラクルは、ソフトウェア・アプライアンス

をそろえることにより、開発環境から本番

「VMwareより3倍高効率」──日本オラクルがサーバ仮想化ソフト「Oracle VM」の国内提供を開始仮想アプライアンスの提供にも本腰。今後1年以内に100製品をラインアップ

ハッキング・コンテストでMacとVistaは陥落──Linuxだけが無傷「Linuxにだれも侵入できなかったのには驚いた」とコンテストのスポンサー

 カナダのバンクーバーで開催されたセ

キュリティ・コンファレンス「CanSecWest

2008」(3月26日〜28日)のハッキング・コ

ンテストにおいて、最初に陥落したのは米

国Appleの「MacBook Air」であったが、

コンテスト最終日にはWindows Vistaを

搭載した富士通のノートPCが侵入を許し

た。だが、ソニーのノートPC「VAIO」上で

稼働しているLinuxだけは、最後まで何者

をも寄せ付けなかった。

 同コンテストのスポンサーは、3種類の

ノートPCを用意し、コンテスト参加者がこ

のうち1台に侵入して、自分のソフトウェア

を動作させることができるかどうかを競わ

せた。2万ドルに上る賞金がコンテストに

花を添えたが、1日ごとに競技ルールが緩

和され、コンピュータへの侵入が簡単にな

る代わりに、賞金額は半分ずつカットされ

ていった。

 コンテストの2日目、セキュリティ専門家

のチャーリー・ミラー(Charlie Miller)氏が、

WebブラウザのSafariに未公表の攻撃を

仕掛け、そこからMacBook Airの乗っ取

りに成功した。同氏は3月27日、わずか2

分間ほどの作業で、賞金1万ドルと

新しいノートPCを自宅へと持ち帰っ

た。

 また、友人の助力を得たシェイン・

マコーレー(Shane Macaulay)氏

も28日、ようやくWindows Vistaを

ハッキングした。同氏は、Javaを利

用してWindows Vistaのセキュリ

ティを回避するクロスプラットフォー

ム・バグに目を付けたと述べた。

PROD

UCTS

NEW

S

 TippingPointのセキュリティ・レスポン

ス・マネジャー、テリ・フォースロフ(Terri

Forslof)氏は、「Linuxに挑戦した参加者も

何人かいたが、だれも侵入できなかった」

と語った。「だれもハッキングに成功しな

かったのには驚いた」(Forslof氏)

(IDG News Service)

ブラウザ・ベ ースの 管 理コンソール「Oracle VM Manager」の画面

環境へOracle VM上でスムーズに移行でき

るようにすることを目指している。同社は、

今後1年以内にソフトウェア・アプライアン

スを100製品ラインアップする予定である。

 なお、Oracle VMのサポートは、物理

CPUが2個までで6万2,400円/年、物理

CPUが無制限で12万4,900円/年となる。

(Computerworld)

ハッキング・コンテストの対象となった3種類のノートPC

Page 17: Computerworld.JP Jun, 2008

M a r c h , 2 0 0 8

June 2008 Computerworld 19

PROD

UCTS

PROD

UCTS

 ノーテルネットワークスは3月27日、ハ

イエンド・クラスの10Gbps光ネットワーク

の通信速度を、現在の4倍もしくは10倍に

高めることが可能な光技術「40G/100G

Adaptive Optical Engine」を発表した。

同技術を用いることで、通信キャリアは既

存のネットワーク資源を生かしつつ、安価

に通信速度を向上できるほか、メンテナン

スや運用にかかわるコストも削減できると

いう。

 従来、40Gbpsの通信速度を持つネッ

トワークを構築しようとした場合、通信キャ

リアはサービス・エリア全域に40Gbps対

応の新しい光ファイバ・ケーブルを敷設す

る必要があった。

 10Gbps光ネットワーク上で40Gbps/

100Gbpsの通信を可能にするのは、「Pola

rization Quadrature Phase Shift Key

ing」と呼ばれる新しい光検出技術だ。また、

ネットワークからの補正要求を不要とする

デジタル信号処理技術も使われる。この

デジタル信号処理技術によって、補正要

求に関連する設備投資や運用コストが削

減できるようになるという。

 ノーテルは、「この光技術を用いることで、

通信キャリアはIPTV、インターネット・ビ

デオ、HD(高精細)番組制作、携帯テレビ

電話といった、高速な通信を必要とするア

プリケーションによって激増している帯域

幅需要への対応が可能になる」と説明して

いる。

 40G/100G Adaptive Optical En

gineは、ノーテルの現行製品である通信

キャリア向け光通信プラットフォーム

ノーテル、既存の10Gbps光ネットワークを最大10倍に高速化できる新技術を発表激増する帯域幅需要への対応が容易に

 米国AMDは3月27日、同社のデスクトッ

プPC向けプロセッサ「Phenom」シリーズ

の新製品として、クアッドコア・プロセッサ

「Phenom X4 9000シリーズ」と、トリプ

ルコア・プロセッサ「Phenom X3 8000シ

リーズ」を発表した。

 AMDは、同社初のトリプルコア・プロセッ

サについて、「デュアルコアよりも高いパ

フォーマンスを求めるPCバイヤーに新たな

選択肢を提供できる」と説明している。

 Phenom X3 8000シリーズでは、クロッ

ク周波数2.1GHzの「Phenom X3 8400」

と2.3GHzの「同8600」の2つがラインアッ

プされる。いずれも1.5MBのL2キャッシュ

と2MBのL3キャッシュを備える。

 一 方、クアッドコアのPhenom X4

9000シリーズでは、クロック周波数2.4

AMD、初の3コアCPUを含む新型「Phenom」プロセッサをリリースデュアルコアに物足りなさを感じるデスクトップPCユーザーに照準

GHzの「Phenom X4 9750」と2.5GHzの

「同9850」、低消費電力型で1.8GHzの

「Phenom 9100e」、旧製品「Phenom

9600/9500」のマイナーチェンジ版であ

る「Phenom X4 9650」(2.3GHz)と「同

9550」(2.2GHz)の5製品が提供される。

いずれも2MBのL2キャッシュと2MBのL3

キャッシュを備える。これらのクアッドコア

Phenomプロセッサを搭載した製品は、第

2四半期にPCメーカー各社から

出荷される予定だ。

 なお、トリプルコアはクアッド

コアをベースにしているが、1つの

コアが機能しない設計になってい

る。米国Mercury Researchの

代表、ディーン・マカロン(Dean

McCarron)氏は、「トリプルコア・

チップは新しいコンセプトの製品であるた

め、市場にどれくらいなじむかは未知数」と

分析する。また、同氏は、「トリプルコアの

投入で、AMDはIntelに対し優位に立った。

Intelは今後、デュアルコアまたはクアッド

コアのキャッシュ機能などを調整し、トリ

プルコアと同等の価格を設定するといった

アプローチでAMDに対抗してくるだろう」と

語っている。 (IDG News Service)

「Optical Multiservice Edge 6500」

(10Gbps対応タイプ)に実装され、4月末

から世界同時に販売される。

 販売価格は構成によって変わるため、

個別見積もりとなっている。なお、4月末

の時点では40Gbpsタイプのみが販売され

るという。 (Computerworld)

光ネットワーク高速化技術「40G/100G Adaptive Optical Engine」が実装される光通信プラットフォーム

「Optical Multiservice Edge 6500」(現行製品)

Phenom X4 9000シリーズの性能比較(9600を100%とする)

0 25 50 75 100 1259850975096509600955095009100e

114.8%111.1%

108.2%100%

105.3%96.7%

76.8%

*資料:AMD 新製品 旧製品

Page 18: Computerworld.JP Jun, 2008

Computerworld June 200820

INTE

RVIEW

 米国Progress Softwareを親会社とす

るソニック ソフトウェアとデータディレク

ト テクノロジーズの両社の代表取締役社

長に、4月1日付けで田上一巳氏が就任し

た。今後は田上氏の主導の下、両社の事

業を統合する新会社の設立を目指すとい

う。編集部は今年3月、田上氏に経営統合

後の両社製品群の統合計画などについて

話を聞いた。

──両社の事業統合、そして経営統合の時

期は決まっているのか。

田上氏:経営統合の具体的なスケジュー

ルは未定だが、確実な意思を持って進め

ていくことになる。両社の統合はワールド

ワイドでも初の試みとなる。すでに両社の

営業部間では連携の動きが始まっている。

例えば、ソニックの「Sonic ESB」の顧客

の中で、データディレクトのメインフレー

ム連携ツール「Shadow」にも興味を示して

いる顧客がこれだけいるといった情報の共

有などだ。

──統合後、市場でのポジションはどのよう

なものになるのか。

田上氏:領域はもちろん顧客層も異なる

のだから、製品ラインアップだけで考えて

いくと、ポジショニングは大変難しいもの

となる。そこで、両社の製品群から、いく

つかのソリューション・コアを構築していく

という方法を1つ視野に入れている。例え

ば、ソリューション・コア1がメインフレー

ム連携、ソリューション・コア2はデータ

ベース・コネクティビティ、そしてソリュー

ション・コア3では、ESBを用いたSOAシ

ステム構築といった具合だ。こうすること

で、ShadowからSonic ESBまでを包含

したデータ連携の総合ソリューション・ベ

ンダーという展開が可能になってくる。

(Computerworld)

ソニックとデータディレクトが経営統合に向けて始動両社新社長の田上一巳氏に、両社製品群の統合計画を聞く

ソニック ソフトウェアおよびデータディレクト テクノロジーズの代表取締役社長に就任した田上一巳氏

 ネットスイートは4月3日、ISV/SIer向け

のSaaS開発プラットフォーム「NetSuite

Business Operating System(NS-BOS)」

を発表した。米国NetSuiteが今年2月14

日に発表したプラットフォームの日本版で、

国内においてもすでに販売開始されている。

 NS-BOSは、ネットスイートのSaaSイ

ンフラストラクチャ、統合業務アプリケー

ション・スイート「Integrated Suite」、

SaaS開発環境「SuiteFlex」、SaaS配備

ツール「SuiteBundler」の各スタックで構

成される。ISV/SIerは、同プラットフォー

ムを利用することで、短期間で自社ソフト

ウェアのSaaSモデルに移行し、ビジネス

を展開することが可能になる。

 同社上席執行役員・マーケティング本部

長の高沢冬樹氏は、ISVがSaaSモデルを

展開するにあたってハードルとなる問題と

して、マルチテナント型ホスティングへの

対応、顧客に対して一斉に行う定期的な

バージョンアップ/アップデートへの対

応、顧客ごとのAPM(アプリケーション・

パフォーマンス監視)やバックアップへの

対応の難しさを挙げた。

 「特に、垂直展開される業種別アプリケー

ションの大半は、ISV各社が独自の手法で

構築しており、SaaSモデルへの転換は容

易ではない。自社の全アプリケーションを

一気に再構築するか、それとも既存のアプ

リケーション上での機能追加で対応してい

くか。ISVは、厳しい選択を迫られている

状況だ」(高沢氏)

 NS-BOSは、こうした課題を解決し、

ISVによる自社アプリケーションのSaaS展

ネットスイート、ISV/SIer向けSaaS開発プラットフォーム「NS-BOS」を発表

ブラウザ・ベースのデバッガを新たに提供。垂直型統合SaaSの普及を目指す

開を支援するための開発プラットフォーム

である。同プラットフォームは、上記したネッ

トスイートの既存のスタックの組み合わせ

で構成されるものだが、新たにブラウザ・

ベースのデバッガ「SuiteScript D-Bug」

が用意されることで、ISVごとの要件を満

たす複雑なSaaSアプリケーションの構築

を容易にするという。 (Computerworld)

PROD

UCTS

NS-BOSの利用イメージ

ISV① ISV③ISV②

NetSuiteIntegrated Suite

ERP/CRM/eコマースSuiteBundler

SuiteFlex

SaaSインフラストラクチャ

NS-BOS

Page 19: Computerworld.JP Jun, 2008

M a r c h , 2 0 0 8

June 2008 Computerworld 21

 BMCソフトウェアは3月25日、ITサポー

ト部門が提供するサービスの詳細が掲載さ

れた「サービス・カタログ」を提供すること

で、担当者ではなく、エンドユーザー自身

がサービスのリクエストを行うことを可能

にするサービス・リクエスト管理ソフトウェ

ア「BMC Service Request Manage

ment Ver. 2.2(日本語版)」(以下、SRM)

を発表した。出荷開始は6月1日から。

 SRMは、今年4月に日本語版の発行が

予定されている「ITIL Version 3」で新たに

追加される「リクエスト管理」の項目に準拠

している。同製品を活用することで、エン

ドユーザー自身がWeb上でIT部門への依

頼内容のコストや進捗などを確認できるよ

うになるため、サービス・リクエスト管理に

おけるエンドユーザーならびにヘルプデス

ク担当者双方の手間を解消できるという。

また、リクエスト可能なサービスをカタロ

グとしてエンドユーザーに公開することで、

必要なサービスをエンドユーザー自身で選

べるようになるとしている。

 SRMは、BMCのビジネス・アプリケー

ション開発プラットフォーム「BMC Re

medy Action Request System」上で稼

働する。そのため、既存の「BMC Reme

dy IT Service Management(ITSM)」製

品群との統合が可能だ。また、SAPや

Siebelといった他社の業務アプリケーショ

ンやサービス・デスク製品との連携もサ

ポートしている。BMCは、「既存のRemedy

ITSM製品とSRMを組み合わせることで、

ITサポートを一元的に管理できるようにな

る」と説明している。

PROD

UCTSBMC、ITIL Version 3準拠のサービス・リクエスト管理ソフト

「SRM Ver. 2.2」を発表「サービス・カタログ」の提供で、サービス・リクエストの進行プロセスを自動化

HP、データセンターの仮想化をサポートするハイエンド・サーバと新サービスを発表需要の高まりを受け、製品/サービスを拡充。他社対抗も意識

 米国Hewlett-Packard(HP)は3月17日、

x86サーバの最上位モデルとなる「HP

ProLiant DL785 G5」を発表した。同サー

バは、AMDのクアッドコアOpteronプロセッ

サを搭載する8ソケット対応システムで、

メモリは最大256GBをサポートする。

 また同社は、データセンター設計関連の

コンサルティング・サービス「HP Data

Center Transformation」を提供開始する

計画も明らかにした。同サービスには、新

しいデータセンターの構築だけでなく、IT

を最適化するためのサービスやソフトウェ

ア、データセンターの改良など、さまざま

なコンサルティング・メニューが盛り込まれ

ている。また、物理/仮想リソースの分析

および最適化を支援するソフトウェアや、

新しい自動化ツールも提供されるという。

 HPは、同サーバおよび同サービスの投

入について、「データセンターの業務を改善

させるとともに、顧客のシステム環境を統

合して仮想環境に移行させるための取り組

みの一環」と説明している。

 これら一連の動きについてHPは、さま

ざまなビジネスのトレンドに促されたものと

強調する。同社がビジネス担当役員とIT担

当役員161人を対象に実施した調査の結

果によると、回答者の3分の1は、2〜5年

後には自社のデータセンターがビジネスの

ニーズに対応できなくなるという懸念を抱

いているという。

 これに対し、米国の調査会社Pund-IT

Researchのアナリストは、「HPは4ソケッ

ト以下のシステムで市場をリードしている

が、Windows Server 2008のリリース

PROD

UCTS

 SRMの価格は 460万円。別途ユーザー

数に応じたライセンス料金がかかる(7万

6,700円/50ユーザーから)。なお、SRM

の稼働にはBMC Remedy Action Re

quest System(340万円)の導入が必須

となる。BMCでは2009年3月までにSRM

を20社に販売するという目標を掲げてい

る。 (Computerworld)

BMC Service Request Management Ver. 2.2(英語版)のリクエスト状況確認画面

ハイエンド・サーバ「HP ProLiant DL785 G5」

に伴い、企業内でx86サーバのニーズが

高まっているなか、他社に対抗するために

8ソケット・システムを投入する必要があっ

た」と指摘する。また米国Forrester Re

searchのアナリストは、「IBMのGlobal

Technology Services部門が大きな成功

を収めていることから、HPもそれに追随し

ようとしているのではないか」との見方を示

している。 (Computerworld米国版)

Page 20: Computerworld.JP Jun, 2008

Computerworld June 20084242

Windows Server 2008が登場──移行/展開戦略を固める

Page 21: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 4343

Windowsエンドユーザーが日々用いるクライアントPCはもちろんのこと、部門サーバ、そして近年では全社の基幹業務システムのプラットフォームとしても採用が進んでいるWindows。業種・規模を問わず、このプラットフォームの技術/製品の採用や運用管理について検討を行わない企業は皆無と言ってよいだろう。本特集では、今年4月15日に国内リリースされたWindows Server 2008をはじめとした、Windowsプラットフォームを構成する主要な製品/サービスをレイヤごとに取り上げ、これらの自社での導入/移行や運用管理方針を定めるためのガイドラインを示したい。

プラットフォーム2008

特集多 角検証

Page 22: Computerworld.JP Jun, 2008

Computerworld June 200844

バ構築を実現する。加えて、CPU数の制約が撤廃さ

れており、各エディションの違いは、最大メモリ容量、

サーバ・クラスタを含む高可用性機能、仮想化環境

におけるライセンス上の優遇の3点に集約される。

 Windows Server 2008の各エディションは、x86(32

ビット)とx64(64ビット)の両バージョンをサポートし

ている(for Itanium-Based Systemsを除く)。x64バー

ジョンは、以前のように特別なものではなく、逆に

x86バージョンよりも標準的な位置づけとなった。x86

バージョンが提供されるのはWindows Server 2008

までで、2009年にリリース予定のWindows Server

2008の次期バージョンからは、x64バージョンのみが

提供される。

 そのほか、Windows Server 2008は、Windows

Server 2003 Service Pack(SP)1以降からのアップ

グレードに対応している。ただし、CPUアーキテクチャ

をまたいだアップグレードには対応していない。つまり、

x86バージョンからx64バージョンへはアップグレード・

 Windows Server 2008は、Standard、Enter

prise、Datacenterの3エディションに、Webサーバ

専用のWindows Web Server 2008、Itaniumプロセッ

サ・アーキテクチャ向けのWindows Server 2008

for Itanium-Based Systemsを加えた5つのエディショ

ンで構成される。Standard、Enterprise、Datacen

terの各エディションには、サーバ仮想化技術の

「Hyper-V」が含まれるが、これを含まずに価格を抑

えた「without Hyper-V」も提供される(表1)。なお、

Hyper-Vは現在、RC版の段階にあり、2008年後半

に正式に提供される予定である(50ページのSide Storyを参照)。

 また、Windows Server 2008の各エディションは、

「Server Core」インストールを選択できる。Server

Coreとは、OSのコア部分のみで構成され、エクスプ

ローラなどのGUIを含まない軽量OSのことで、ファイ

ル・サービスやインターネット・インフォメーション・サー

ビス(IIS 7.0)などにおいて、セキュアで安定したサー

最新サーバOSの実力を120%引き出すための勘所

2008年4月15日より製品版リリースとなるサーバOS、Windows Server 2008。周知のとおり、Windows Server 2008とWindows Vistaは同じコード・ベースの下に開発されており、いわば双子の兄弟のようなOSである。Windows Vistaがそうであったように、Windows Server 2008もそれ以前のWindows Serverから機能が大幅に変更されている。本パートでは、この最新サーバOSへのスムーズな移行を実現するうえで、押さえておきたい6つの最終チェック・ポイントを紹介する。ぜひとも参考にしていただきたい。

山市 良

Windows Server 2008への完全移行をはたす6つの最終チェック

1Part

64ビットにするか、32ビットにするかWindows Server 2008のエディションを決定する

Check

1

Page 23: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 45

特集Windowsプラットフォーム2008

多 角検証

インストールができないということだ。

 また、Windows Server 2008に移行、あるいはリ

プレースするにあたって、十分に検討しなければなら

ない点は、使う予定のアプリケーションが正確に動作

するかどうかという互換性の問題である。アップグレー

ドの場合は、ハードウェアの互換性も重要になる。

Windows Server 2008は、最新技術の採用やセキュ

リティ強化に伴う仕様変更などにより、完全な下位互

換性は保証されていない。そのため、Windows

Server 2008に含まれないMicrosoft製品や、サード

パーティのアプリケーションを利用する場合は、導入

する前に対応状況を確認しておく必要がある。

エディション 概要

Windows Server 2008 Standard

Windows Server 2008 Enterprise

Windows Server 2008 Datacenter

Windows Web Server 2008

Windows Server 2008 for Itanium-Based Systems

Windows Server 2008 Standard without Hyper-V

Windows Server 2008 Enterprise without Hyper-V

Windows Server 2008 Datacenter without Hyper-V

標準エディション。サーバ・クラスタ非対応、その他機能の一部に制限あり

大規模環境向けプラットフォーム。サーバ・クラスタなどにより高可用性を実現。仮想化環境で最大4インスタンスを実行可能

大規模データベースや業務アプリケーションなど、最も要件が厳しい基幹系システム向けに最適化されたプラットフォーム。最大64個のCPUに対応

基幹系システムや大規模な仮想化環境向けのプラットフォーム。最大64個のCPUに対応し、サーバ・クラスタや動的ハードウェア・パーティション分割機能により、可用性をさらに高めている。仮想化環境におけるインスタンス数の制限はなし

Webサーバ(IIS 7.0)専用プラットフォーム

Hyper-V未搭載のStandardエディション

Hyper-V未搭載のEnterpriseエディション

Hyper-V未搭載のDatacenterエディション

表1:Windows Server 2008の製品ラインアップ。Hyper-Vは現在開発中であるため、Hyper-Vを含むエディションであっても、最初のリリースには含まれない。Hyper-Vは、Windows Server 2008の出荷後、180日以内に追加提供される予定だ

最新サーバOSの実力を120%引き出すための勘所

パスワード・ポリシーの変更やUACでユーザーが戸惑わないためにセキュリティ機能の変更点を理解する

Check

2 Windows Server 2008におけるセキュリティ関連

の変更点としては、Administratorにデフォルト設定

されたパスワード・ポリシーが挙げられる。Windows

Server 2003 R2以前は、ドメイン構成でのみ要求さ

れていた「パスワードは複雑さの要件を満たす必要が

ある」ポリシーが、ワークグループでもデフォルトで要

求されるようになる。

 そのほか、大きな変更点としては、「ユーザー・アカ

ウント制御(UAC)」機能の追加がある。UACは、Win

dows Vistaで新たに追加されたセキュリティ機能で、

管理者権限を持つユーザーであっても、通常は一般

ユーザーの権限でプログラムが実行され、管理者権

限が求められる操作には、権限を昇格するための対

話的な“許可”が必要になる。

 UACは、Administratorでログオンした場合は動

作しないが、他のユーザーの場合は、「Administrators」

や「Domain Admins」グループのメンバーであっても、

その対象となる。こうした点は、アプリケーションがバッ

クグラウンドで特権タスクを自動実行するようなケー

スで多少面倒なことになるかもしれない。

 Windowsファイアウォールについても、Windows

Server 2008ではデフォルトで有効になっており、イ

ンストール直後の状態ではすべての着信トラフィック

がブロックされる(46ページの画面1)。加えて、「セキュ

リティが強化されたWindowsファイアウォール」が採

用されているため、「着信の規則」「発信の規則」に基づ

き、着信/発信トラフィックを制御可能である。

 さまざまなネットワーク・サービスを提供するWin

dows Server 2008では、ファイアウォールの構成が

一見難しそうであるが、実際はそんなことはない。

Page 24: Computerworld.JP Jun, 2008

Computerworld June 200846

Pa

rt

1

Wi

nd

ow

s

Se

rv

er

2

00

8

への完全移行をはたす6つの最終チェック

Windows Server 2008の各種機能で必要になる規

則は事前に定義されており、各種ウィザードを利用し

てインストールすれば、標準的な許可設定が自動的に

行われる。

 Windowsコンポーネントについては、Windowsファ

イアウォールの規則が自動構成されるが、リモート管

理系の規則は手動で構成する必要がある。Windows

Server 2008に搭載されている「MMC(Microsoft管

理コンソール)」スナップイン・ベースの各種管理ツー

ルは、そのほとんどがリモート管理に対応しているが、

リモートからの接続要求は基本的にWindowsファイ

アウォールでブロックされてしまう。そのため、管理

対象によっては、Windowsファイアウォールだけでな

く、管理用サービスでリモート管理を有効にしなけれ

ば、リモートから接続できないケースもある。

Windows 2000以前のOSが存在する場合は要注意Active Directoryドメインの互換性を確認する

Check

3 Windows Server 2008のActive Directoryでは、

フォレスト/ドメイン機能レベルとして「Windows

2000ネイティブ」「Windows Server 2003」「Windows

Server 2008」の3つがサポートされており、Windows

2000 Serverのドメイン・コントローラとも共存できる

(画面2)。

 フォレスト/ドメイン機能レベルは、Active Direc

toryのフォレスト/ドメインに存在できるドメイン・コ

ントローラのWindowsバージョンを制限する。例えば、

Windows Server 2003モードのフォレスト/ドメイン

には、Windows Server 2003およびWindows Ser

ver 2008のドメイン・コントローラが存在できるが、

Windows 2000 Serverのドメイン・コントローラは追

加できない。

 Active Directoryの全機能を利用できるのは、

Windows Server 2008モードであるが、Windows

Server 2003とWindows Server 2008のフォレスト/

ドメイン機能レベルの違いは少ない。フォレスト機能

レベルには機能差がなく、ドメイン機能レベルにおい

て以下に示す4つの新機能がサポートされている。

●SYSVOLに対する分散ファイルシステムのレプリケーションのサポート

●AES 128および256に対するKerberos認証プロトコルのサポート

●対話型の最終ログオンに関する情報収集●詳細なパスワード・ポリシー(ユーザーおよびグロー

バル・セキュリティ・グループに対してパスワードとアカウントのロックアウト・ポリシーを指定可能)

 また、Windows Server 2008で新たに追加された

「読み取り専用ドメイン・コントローラ(RODC)」は、

Windows Server 2003モードからサポートされる。

これにより、これまでのリモート拠点でも安全にドメイ

ン・コントローラを配置できる。

 Windows Server 2008のActive Directoryでサポー

トされるクライアントに明確な定義はないが、Active

Directoryの導入メリットを享受するには、最低でも

Windows 2000以降であることが望ましい。Windows

NT 4.0およびWindows 98/Me以前については、グ

ループ・ポリシーで管理できないばかりか、サポート・

画面1:Windows Server 2008では、Windowsファイアウォールがデフォルトで有効。「セキュリティが強化されたWindowsファイアウォール」スナップインで構成する

Page 25: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 47

特集Windowsプラットフォーム2008

多 角検証

 ITサービス/製品サプライヤーの米国CDW Governmentが今年2月に行った調査「Windows Server 2008 Tracking Poll」によると、企業や教育機関に属するIT担当者の17%は、「Windows Server 2008」へのアップグレードを現在計画中で、63%がゆくゆくは同製品を採用する考えだという。 同調査は小〜大規模企業、州政府/地方自治体、高等教育機関およびK-12

(幼稚園から12年生)教育機関に勤める772人のIT担当者を対象に行われた。 調査結果によると、Windows Server 2008の主なメリットとして回答者が挙げたのは、セキュリティ(49%)、セットアップ/コンフィギュレーションの改善(41%)、今後追加される仮想化機能(35%)であった。 一方、主な懸案事項としては、OSに関するものがリストのトップに挙がった。例えば、OSのバグ(48%)、アプリケーションとの互換性(41%)、ハードウェアとの互換性(28%)などだ。 CDWの製品/パートナー管理担当ディレクター、デービッド・コッティンガム(David Cottingham)氏は、「(Windows Server 2008を導入するにあたり)IT担当者らはWindows Vistaと同様、厳密な評価プロセスを経て、きわめて入念な手順を踏むと思われる」と語った。 同社はWindows Vistaに関する同様の調査を、2006年11月から2008年1月の間に3回に分けて行っている。Cottingham氏によると、Windows Server 2008 Tracking Pollは、Windows Server 2008を対象にした

調査として初めてのものであるという。 Windows Server 2008は、Windows Vistaと同じコード・ベースの下に開発されており、両製品を組み合わせて使うことで、さまざまなメリットが得られるとされている。しかし、回答者の66%はWindows VistaとWindows Server 2008のアップグレードを関連づけて考えてはいないようだ。なお、関連づけているとした回答者のうち22%は、最初にWindows Vistaをアップグレードすると答え、6%はまずWindows Server 2008に移行すると答えている。 また、Windows Server 2008の仮想化機能がメリットとして挙がった一方で、回答者の大半はすでにサーバ仮想化技術を実装済みと回答した。Windows Server 2008から180日以内に出荷される予定のMicrosoftの仮想化ハイパーバイザ「Hyper-V」を待って、自社に仮想化技術を導入する組織は少ないと見られる。 仮想化に最も高い関心を示したのは、高等教育機関(49%)で、州政府/地方自治体(48%)がそれに続いた。 なお、Windows Server 2008への移行に最も抵抗感を示したのはビジネス部門で、59%が現在のところアップグレードの予定はないとした。アップグレードを予定しているとの回答はわずか5%であった。特に中〜大規模企業では、「Windows Server 2003」のほうを依然として好んでいるという。

8割の組織がWindows Server 2008の採用に前向き01 John Fontana Network World米国版

ライフサイクルが打ち切られており、OS自身にセキュ

リティ上のリスクが存在する。また、これらのクライア

ントをドメインに参加させるには、ドメイン全体のセ

キュリティを緩和しなければならない。

 なお、Windows Server 2008には、ファイル共有

プロトコルの新バージョン「Server Message Block

(SMB)2.0」が搭載されており、より高速なファイル

共有が可能となっている。ただし、SMB 2.0が使用

できるのは、クライアントがWindows Server 2008ま

たはWindows Vistaの場合のみだ。それ以外のOS

とのやり取りには、これまでと同様にSMB 1.0が使用

される。

画面2:Active Directoryにおけるフォレスト/ドメイン機能レベルは、ドメイン・コントローラのバージョンを規定し、サポートされる機能に影響する。旧バージョンのドメイン・コントローラが存在しなくなった時点で、機能レベルを昇格させることも可能だ

一度設定したら、あとは“お任せ”で運用可能「Windows Serverバックアップ」を効果的に利用する

Check

4 Windows Server 2008に搭載されている管理ツー

ルの中で大きく変更されたものとしては、バックアッ

プ・ツールの「Windows Serverバックアップ」が挙げ

られる。このツールは、標準ではインストールされず、

「機能の追加ウィザード」を使用して追加することがで

きる。

 Windows Serverバックアップは、ディスク・ボリュー

ム単位でブロック・レベルをイメージ化し、D2D(Disc

Page 26: Computerworld.JP Jun, 2008

Computerworld June 200848

Pa

rt

1

Wi

nd

ow

s

Se

rv

er

2

00

8

への完全移行をはたす6つの最終チェック

to Disc)方式でバックアップする。これは、Windows

NT時代から存在する「NTBackup」とは、まったく異

なるバックアップ技術である。バックアップ先は、ロー

カル・ディスクやUSB、外付けリムーバブル・ディス

クなどが指定できる。なお、テープ・デバイスはサポー

トしていない。

 Windows Serverバックアップの管理ツールは、

非常に単純化されており、スケジュール・バックアッ

プは初回に一度だけ構成すればよい(画面3)。ただし

構成は、「バックアップの実行時刻」「バックアップ対

象のボリューム」「バックアップ先のディスク」くらいで、

増分や差分を組み合わせたローテーションや、システ

ム状態のみのバックアップなどはできない。

 また、Windows Serverバックアップは、一度設

定してしまえば、あとはすべて自動化できる。バック

アップ先として複数のリムーバブル・ディスクを設定

しておけば、管理者がディスクを定期的に差し替える

だけで、自動的にローテーションしてくれる。バックアッ

プ先のディスク領域が足りなくなった場合は、古い

データを自動的に削除してくれる。

 一方、バックアップ技術が変更されたことで、

NTBackupで保存したバックアップ・メディアとの互

換性は失われている。つまり、Windows Serverバッ

クアップでは、NTBackupで取得したテープ・メディ

アやバックアップ・ファイルからデータを復元すること

はできない。Windows Server 2008で以前のバック

アップ・メディアからデータを復元する場合には、

Microsoftが無償で提供している「Windows NTバッ

クアップ/復元ユーティリティ」を使用する必要があ

る。同ユーティリティは、バックアップ・データの復元

機能だけを提供するツールであり、バックアップの実

行機能は持っていない。

画面3:「Windows Serverバックアップ」は、初回に一度スケジュール設定をするだけでよい。バックアップ先として空の固定ディスク、または外付けディスクが必要となる

標準プロトコルとなったIPv6。ただし焦る必要はないIPv6のグローバル・アドレス取得を考える

Check

5 IPv6(Internet Protocol version 6)は、IPアド

レスの枯渇やルーティング情報の肥大化に対応する

ために、アドレス空間を128ビットに拡張したIPである。

Windows Vista以降は、標準プロトコルとして採用

されており、ほとんどのネットワーク・アプリケーショ

ンがIPv6に対応している。そして、IPv6に対応した

Windows Server 2008の登場により、実用レベルの

プロトコルになったと言える。

 Windows Server 2008では、ファイル/プリント・

サービスといった基本機能から、Active Directory

やDHCPサーバ、Windowsファイアウォール、IIS

7.0など、ほとんどのサーバ・サービスがIPv6上で動

作する。Windows Vistaとの組み合わせでは、サー

ドパーティ・アプリケーションが対応していれば、ネッ

トワークを完全にIPv6化することも可能である。

 だからと言ってWindows Server 2008の導入に伴

い、ネットワークをIPv6化する必要があるかというと、

必ずしもそうではない。IPv6は、「リンク・ローカル・

アドレス」というローカル・サブネット用IPv6アドレス

の自動生成機能と、「近隣探索」という発見メカニズム

を持っている。そのため、ローカル・サブネット内にお

いては、何もしなくても必要に応じてIPv6が使用され

る。

 IPv4アドレスの枯渇が世間で騒がれているからと

Page 27: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 49

特集Windowsプラットフォーム2008

多 角検証

いって、ネットワークのIPv6化を焦って行うことはな

い。IPv4アドレスが枯渇しても、IPアドレスの新規割

り当てができないだけであり、IPv4ベースのインター

ネットは問題なく利用できる。Windows Vistaや

Windows Server 2008には、IPv4ネットワークから

IPv6ホストへの接続を実現するトンネリング技術

「Teredo」といったIPv6への移行技術が備わっている。

そのため、インターネットの主流がIPv6に切り替わっ

たとしても、インターネットから孤立してしまう心配は

ない。

 しかし、IPv4環境のリモート拠点を含む複数のサ

ブネット間でIPv6を使用する場合は、話が変わって

くる。IPv6をルーティングするためには、IPv6用ルー

タと、IPv6の「グローバル・アドレス」が必要になる。

IPv6には、IPv4のようなプライベート・アドレスが存

在しない。そのため、現時点でIPv6をルーティング

するのであれば、IPv6のグローバル・アドレスを正式

に取得してIPv6ネットワークを設計し、インターネッ

ト接続を含めて本格的にIPv6化を進めることになる

だろう。

Windows Server 2008+Vista=新世代エンタープライズWindowsWindows Vistaの導入を検討する

Check

6 Windows Server 2008は、Windows Vistaと同

じコード・ベースで開発されたサーバOSであるため、

当然ながらWindows Vistaをクライアントとして使用

することが望ましい。

 例えば、ファイル・サービスにおいては、Windows

Vista以降で強化されたSMB 2.0が利用できる。

SMB 2.0は、現在のネットワーク環境や次世代ファイ

ル・サーバのニーズに合わせて再設計されており、ト

ラフィック量の削減やパフォーマンスの向上、より大

きなバッファ・サイズのサポートといった改善・強化が

行われている。また、Windows Server 2008の

Active Directoryは、Windows Vistaに追加された

広範なポリシーを標準でサポートしている。追加され

たポリシーには、デバイスのインストール制御、リムー

バブル・メディアの読み書き制御、ワイヤレス・ポリシー

などがある(画面4)。

 ターミナル・サービスの新機能を利用できるのも、

Windows Vistaを使うメリットだ。ターミナル・サー

ビス用の最新プロトコル「Remote Desktop Protocol

(RDP)6.1」は、ネットワークやサーバなどに対する認

証機能が強化されたほか、フォント・スムージングや

マルチモニタ表示機能が搭載されるなど多彩な機能

をサポートしている。Windows Vistaならこうした新

機能を標準で利用できる。

 ターミナル・サービスの新機能「TS RemoteApp」は、

従来のようなデスクトップ単位でのセッションではな

く、リモート・アプリケーションをウィンドウ単位で実

行可能にする。また、「TSゲートウェイ」は、プライベー

トなネットワーク上に展開されたターミナル・サービス

への中継サーバとして動作する新機能だ。TSゲート

ウェイは、RDPをインターネット標準のHTTPSでカ

プセル化する。RDP自身が暗号化機能を持つうえに、

SSL(Secure Socket Layer)で二重に暗号化され、

さらにRDP 6.1で強化された認証機能を適用できる。

そのため、セッションの内容が漏洩する心配がない。

画面4:Windows Vistaで追加されたデバイスのインストール制御、リムーバブル・メディアへの読み書き制御、ワイヤレス・ポリシーなどは、情報漏洩対策/コンプライアンス強化に有効だ

Page 28: Computerworld.JP Jun, 2008

Computerworld June 200850

Pa

rt

1

Wi

nd

ow

s

Se

rv

er

2

00

8

への完全移行をはたす6つの最終チェック

これらの機能はRDP 6.0以降のクライアントだけが利

用できる。

 また、Windows Vista SP1では、RDP 6.1へのアッ

プデートが行われ、新機能の「TS EasyPrint」が利

用可能となった。同機能は、リモート・セッションや

TS RemoteAppから、ローカル・プリンタ・ドライバを

使用した印刷を可能にするものだ。

 Windows Server 2008が備えるクライアント検疫

ソリューション「ネットワーク・アクセス保護(NAP)」も、

Windows Vistaとともに導入することで最大の効果

が得られる。NAPは、組織内のネットワークにアクセ

スしてきたクライアントをいったんアクセスが制限され

た検疫ゾーンに配置し、正常性チェックをパスしたク

ライアントにだけ、ネットワークへの完全なアクセスを

許可する機能だ。Windows Vistaには、デフォルト

でNAPエージェントが組み込まれているため、ネット

Hyper-VとVirtual Serverの違い Microsoftは現在、仮想化ソフトウェア技術として、デスクトップOS向けの「Virtual PC 2007」と、サーバOS向けの「Virtual Server 2005 R2」を無償で提供している。 Windows Server 2008には、Virtual Serverの後継となる新設計のサーバ仮想化技術「Hyper-V」が搭載される。ただし、現在リリースされているWindows Server 2008には、Hyper-Vが含まれていない。Hyper-Vは、Windows Server 2008とは別に開発が進められており、現状ではRC(出荷候補)版の段階である。 Virtual Server 2005 R2 Service Pack(SP)1は、Windows Server 2008をホストOSとしてサポートしており、Hyper-Vが正式にリリースされるまでは、引き続きVirtual Serverで仮想化環境を運用することができる。Hyper-Vがリリースされたら現在の仮想化環境をHyper-V環境に移行すればよいのだが、Virtual Serverで運用していた仮想マシンが、そのままHyper-V環境で動作するわけではない。 その理由は、Hyper-VがVirtual PCやVirtual Serverとは異なる仮想化技術を採用しているからだ。Virtual PCやVirtual Serverは、x86コンピュータの主要なハードウェアをソフトウェア的にエミュレートする。一方、Hyper-Vは、ハイパーバイザ型のアーキテクチャを採用している。 Hyper-Vの実装には、ハードウェア仮想化支援機能である「Intel VT」または「AMD-V」を備えたx64ベースのCPUが必要で、「Windows Hyper visor」と呼ばれるごく薄い仮想化レイヤにより、ハードウェアとOSを切り離している。Windows Hypervisorは、単一のハードウェア上で複数のOSを並列実行するためにパーティションを分割する。Windows Hypervisorが持たない仮想マシンの管理機能とデバイスのサポートについては、ペアレント・パーティションのホストOSが担当する。

エミュレート方式に比べて高速なI/O処理を実現 Hyper-Vでは、Virtual Serverのハードディスク・イメージ「Virtual Hard Disk(VHD)」形式を引き続き採用している。Virtual Serverにおける

仮想マシンの構成は、XMLベースの仮想マシン構成ファイルに格納するが、これはHyper-Vとはまったく互換性がない。実は、仮想マシン構成ファイルの形式だけでなく、仮想マシンのハードウェア・スペックも、基本的にはVirtual ServerとHyper-Vは互換性がない。 Virtual Serverは、ディスク・コントローラやネットワーク・アダプタ、ビデオ・カードなど、実際に存在するハードウェアをソフトウェア的にエミュレートすることで仮想化環境を構築している。ゲストOSは、これらのハードウェアに対応したデバイス・ドライバを使用して、エミュレートされたハードウェアを使用する。CPUは本来、1つのOSやドライバにしか特権命令の実行を許可しないため、ホストOSはゲストOSのCPU命令を監視し、特権命令をトラップして実行結果をゲストOSに返す、という切り替え処理を常に行っている。 エミュレートされたハードウェアやCPUの切り替え処理は、オーバーヘッドが大きく、仮想マシンのパフォーマンスに大きく影響していた。そこでHyper-Vでは、ハードウェアをエミュレートするのではなく、I/O処理を「統合デバイス(Synthetic Device)」と呼ばれるサービスとして提供する。 Hyper-VのホストOSとゲストOSの間には、「VMBus」と呼ばれる仮想的なバスがある。ゲストOSは、従来のデバイス・ドライバに代わる「Virtualization Service Client(VSC)」を使用してホストOSの「Virtualization Service Provider(VSP)」と通信を行い、そこからホストOSのデバイス・ドライバ経由で物理的なデバイスを利用する。ゲストOSは、デバイス・ドライバを使用しないため、オーバーヘッドが減少し、高速なI/Oが実現されるのである。

「統合サービス」でゲストOSのパフォーマンスを最適化 Hyper-Vでは、x64ベースのゲストOSや、マルチプロセッサに対応した大容量メモリ(最大32GB)の割り当てが可能なため、Virtual Serverと比べてゲストOSの大幅な性能向上が期待できる。それゆえ、大規模な基幹データベースやマルチスレッド・アプリケーションをホストすることも可能だ。 Hyper-Vで最適なパフォーマンスを得るには、ゲストOSで「統合サービス

(Integration Services)」の利用が前提となる。統合サービスは、ゲストOSにVMBusを認識させ、ストレージやネットワークのVSCを提供する機能

進化したサーバ仮想化技術「Hyper-V」の実力Windows Server 2008のリリース後、180日以内に追加提供されることになっている新たなサーバ仮想化技術「Hyper-V」。Microsoftは、これまでサーバ仮想化ソフトとして「Virtual Server」を提供してきたが、Hyper-VはVirtual Serverと比べてどれほどの進化を遂げたのだろうか。以下では、Virtual Serverとの比較を交えながら、進化したHyper-Vの各種機能を紹介していく。

山市 良

Side Story

Page 29: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 51

特集Windowsプラットフォーム2008

多 角検証

ワーク・セキュリティ・センターが監視するWindows

ファイアウォール/ウイルス対策/スパイウェア/自

動更新の正常性に基づき、検疫を実施/強制するこ

とができる。

 Windows Server 2008とWindows Vistaは間違

いなくベストな組み合わせであるが、現状としては

Windows XPクライアントが多数を占めている。

Windows XPは、RDP 6.0へのアップデートでTS

RemoteAppやTSゲートウェイを利用することができ

る。ネットワーク認証には対応していないが、まもな

くリリースされるWindows XP SP3でRDP 6.1にアッ

プデートされ、ネットワーク認証にも対応する。また、

Windows XP SP3では、一部の機能に制限はあるも

のの、NAPもサポートしている。

 なお、Windows Vistaの詳細については、本特集

のPart 3を参照していただきたい。

だ。統合サービスは、以下のゲストOSをサポートしている(Hyper-V RC0時点)。

●Windows Server 2003 x86およびx64●Windows Server 2003 R2 x86およびx64●Windows Server 2008 x86およびx64●Windows Vista SP1 x86●Windows XP SP3 x86

 統合サービスがサポートしないOS、例えば、Windows 2000 Serverは、Hyper-Vで運用しないほうがよい。おそらく、Virtual Server R2 SP1で運用したほうが、高いパフォーマンスが得られるだろう。Hyper-V環境で統合サービスが利用できない場合、IDEコントローラやネットワークのI/Oにエミュレートされたハードウェアを利用することになる。しかし、Hyper-V環境では、Virtual Serverの仮想マシン追加機能がサポートされていないうえに、エミュレートされたハードウェアはVirtual Serverほど最適化されていないため、I/O処理のパフォーマンスが逆に落ちてしまうのだ。 Windows Server 2003以降であれば、現在、Virtual Serverの仮想マシンで運用しているシステムを、比較的スムーズにHyper-Vへ移行することができる。ゲストOSがIDEディスクにインストールされているのであれば、VHDをそのままコピーすればよい。ネットワークは無効化されてしまうが、統合サービスをインストールすることで、ネットワークVSCが利用可能だ。一方、Virtual Serverの仮想SCSIアダプタは、Hyper-Vとは互換性がないため、SCSIディスクにインストールされたゲストOSをHyper-Vに移行するには、変換作業が必要になる。

Xen対応カーネルもゲストOSとしてホスト可能 Virtual Server 2005 R2 SP1は、ゲストOSとして複数のLinuxディストリビューションを正式にサポートしているが、ゲストOSにLinuxを利用する際のサポート方法がHyper-Vでは根本的に変更されている。Virtual Serverでは、仮想マシンにLinuxカーネルをインストールすることで、LinuxをゲストOSとして動作させることができるほか、一部のLinuxディストリビューションに対しては仮想マシン追加機能(「VM Additions for Linux」)を提供している。 一方、MicrosoftはHyper-Vの開発にあたって、Xenの開発元である米国XenSource(米国Citrix Systemsが2007年8月に買収)や、SUSE

Linuxの開発元である米国Novellとの協業を通して、Linux版統合サービスを開発し、Xen対応カーネルをサポートした(画面A)。 Xenは、Hyper-Vと同様にハイパーバイザ型の仮想化技術であり、Hyper-Vのペアレント・パーティションとチャイルド・パーティションは、ホストOSの役割を果たすXenの「ドメイン0」とゲストOSの「ドメインU」にそれぞれ相当する。Linux版統合サービスには、ドメインUに相当するXen対応LinuxカーネルをHyper-V上で動作できるように、XenのハイパーコールをHyper-Vのハイパ ーコールへと翻 訳 する「Hypercall Adapter」と、VMBus対 応 のネットワークVSCとストレージVSCが 含まれている。Hyper-Vのネーティブな仮想マシンでLinuxをゲストOSとして運用できるので、Virtual Serverに比べて大幅にパフォーマンスが向上する。 Microsoftは、Hyper-Vベ ータ 版 のリリースと同 時 期 に、「Linux Integration Components for Microsoft Windows Server 2008 Hyper-V」のベータ版をMicrosoft Connectサイトを通じて公開した。この段階では、SUSE Linux Enterprise Server 10 SP1(x86およびx64)のみのサポートとなるが、Red Hat Enterprise Linux(RHEL)5も今後サポートする計画だ。

画面A:Hyper-Vの仮想マシンで、Intel64版のXen対応カーネルが動作

Page 30: Computerworld.JP Jun, 2008

Computerworld June 200852

Pa

rt

1

Wi

nd

ow

s

Se

rv

er

2

00

8

への完全移行をはたす6つの最終チェック

 米国で2月27日に正式リリースされた「Windows Server 2008」を本番環境で早期導入しているユーザーからは、ストレッチ・クラスタ(地理的に分散されたクラスタ)対応機能や負荷分散機能など、さまざまな新機能を評価する声が上がっている。ここではその一部を紹介しよう。

セキュリティ機能に高い評価 「多くの企業のIT担当者は、Windows Server 2008を導入するか、Windows Server 2003を利用し続けるかどうかで悩んでいるようだ」と話すのは、企業のネットワーク構築を支援する、米国Convergentのコンサルタント、ランド・モリモト(Rand Morimoto)氏だ。 「企業のIT担当者がWindows Server 2008を評価すれば、われわれもWindows Server 2008の導入を支援する。実際、現在までに約100台のサーバへWindows Server 2008を(本番環境として)導入した。Windows Server 2008で搭載されたT1 WAN接続の末端にクラスタを設置できるストレッチ・クラスタ機能は、顧客から高い評価を得ている」

(Morimoto氏) ストレッチ・クラスタ機能は、過去のWindows Serverでは搭載されていなかった機能である。Morimoto氏によると、早期導入ユーザーらは、課題とされてきた障壁がようやく取り払われたと喜んでいるという。 「今までこの種のクラスタを利用できるのは、WAN全体を光ファイバでサポートできる、潤沢な資金を持つ企業に限定されていた。Windows Server 2008の新機能は、Exchange 2007の障害復旧などのニーズに応える大きな進歩のたまものだ」(Morimoto氏) また、Morimoto氏は、企業ネットワークにおいてクライアントのセキュリティを保証するネットワーク・アクセス保護機能「Network Access Protection (NAP)」は、非常に魅力的だと評価する。 「NAPをWindows VistaとWindows Server 2008で統一された環境下で展開すれば、さらに堅牢で“クリーン”なプラットフォームが構築できる」

(Morimoto氏) 先ごろ出版された『Windows Server 2008 Unleashed』の著者でもあるMorimoto氏は、グローバル企業に大きなメリットを与えるWindows Server 2008の新機能として、「Read-Only Domain Controllers(読み取り専用ドメイン・コントローラ)」を挙げる。また、Windowsファイル共有プロトコルの新バージョンとなる「SMB 2.0」は、ブランチ・オフィスとリモート・オフィス間のデータ伝送速度を、30%〜40%も向上させるという。 米国Pacific Coast Companiesのエンタープライズ・アーキテクトであるマット・オクマ(Matt Okuma)氏は、「Windows Server 2008が原因となる問題や、パフォーマンスの低下といった支障は、一切生じていない」と断言する。「Windows Server 2008にはすばらしい新機能が備わっている。問題は、移行作業が従来のWindows Serverと異なることだ。Windows Server 2003と比較すると、サーバの管理方法はかなり異なる。従来の手法に慣れた管理者は大変だろう。実際、私も使い始めたころは、インタフェースの違いに戸惑った。しかし、今はWindows Server 2008のメリットを理解できるようになった」(Okuma氏) 現在、Okuma氏は、4台のサーバにWindows Server 2008を導入している。以前はCitrixの製品上で稼働させていたトラス構造のアプリケーションを、現在は「Terminal Services」でサポートしているという。 2007年12月からWindows Server 2008を本番環境で使用している

Okuma氏は、「Server Roles」機能を利用して、Terminal Servicesと「Windows Rights Management Services (RMS)」をインストールしたという。 RMSは「SharePoint Server」と連携し、企業内の機密文書を共有する際に、保護機能を提供するものだ。 Okuma氏によると、今年5月までの計画として、Windows Server 2008に「Active Directory」を移行することを目標にしているという。さらに、2009年2月までに、現在使用している主要サーバすべてをWindows Server 2008に移行して、約2,000人のユーザーをサポートする予定だとしている。 現在Okuma氏はNAPの機能検証を行っているが、Pacific Coastのインフラとの相性もよいと話す。 「今後は、Windows Server 2008の機能と重複するサードパーティ製品は、購入しないで済むようにしたい」(Okuma氏)

「SQL Server」と「Visual Studio 2008」との連携で実力発揮 また、「SQL Server」と「Visual Studio 2008」とを連携させることで、Windows Server 2008の実力がさらに向上すると指摘するユーザーもいる。 SQL ServerとVisual Studio 2008は、Windows Server 2008のリリース・イベントでも紹介された。ユーザーからは、3製品を組み合わせることで、プラットフォーム全体の連携を強化できると期待されている。 MicrosoftのCEO、スティーブ・バルマー(Steve Ballmer)氏は、Windows Server 2008、Visual Studio 2008、SQL Server 2008の3本柱が、同社のサービス・プラットフォームの強固な基盤を形成すると強調した。 Ballmer氏のことばを実践しようとしているのが、米国Big Hammer Dataである。同社は、テレビ製品に関する説明書や仕様などの製品データをベンダーから収集し、そのデータを小売店に供給するサービスを手がけている。 データベース、アプリケーション、プレゼンテーションの3層で構成されるBig Hammerのプラットフォームは、Windows Server 2008のリモート・デスクトップ機能と連携したベンダー向けのWebサーバ・クラスタ、小売店向けのTerminal Serversクラスタ、SQL Server 2008データベースを搭載している米国Unisysの「ES7000」で構成されている。 Big Hammer DataでIT担当バイスプレジデントを務めるマイク・スタインク(Mike Steinek)氏は、「わが社のようなラージスケール・システムを持つ企業にとっては、高速性と敏捷性が不可欠だ。Windows Server 2008とSQL Server 2008、さらにはVisual Studio 2008という3製品の連携強化がなされたことで、われわれは何の支障もなくアプリケーションを開発できるようになった」と語った。 Steinek氏によると、ユーザー認証などの個々の機能は、3製品をサポートしたコンポーネント上に構築されているという。 「ユーザー認証の相互運用性は、Web層から自社開発したアプリケーション・コードを通過してSQL Serverに確保される。Windows Server 2008プラットフォームを導入してから、これまで開発者が何日もかけて対処した問題は一度も発生していない」(Steinek氏) なお、Big Hammerは、本番環境および障害復旧環境で、約40台のサーバにWindows Server 2008を展開しているという。

早期導入ユーザーが高評価──Windows Server 2008の新機能John Fontana Network World米国版02

Page 31: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 53

特集Windowsプラットフォーム2008

多 角検証

年第2四半期には、Windows XP SP3がリリースされ

ることになっており、Windows XPの成熟度、安定度

は登場したばかりのWindows Vistaの比ではなくなる

と言っても過言ではないだろう。このセキュアで快適

なPC環境は、エンドユーザーにとっても、システム管

理者にとってもなかなか手放せるものではない。つま

り、もうしばらくの間、Windows XPを使い続けるこ

とには何の問題もなさそうだ。問題があるとすれば、

今後、新たに追加される機能がないことぐらいだろう。

 しかし、セキュリティ修正プログラムが、ゆくゆく

は無料提供されなくなる以上、それ以降の使用を継

続するべきではない。また、Windows XPのメインス

トリーム・サポートが2009年4月14日で終了することも

忘れてはならない。企業のセキュリティ担当者は、

Windows Vistaへの移行をそろそろ考える時期にさ

しかかっていると言えるのだ。

 とは言え、Windows Vistaに移行したくても、簡単

にはいかない事情もある。Windows Vistaを快適に動

かすには、それなりのPCスペックが必要だからだ(詳

細は後述)。また周辺機器を含むハードウェアおよび

アプリケーションが、Windows Vistaで利用できるか

迫るWindows XPのサポート期限終了

 2006年11月に提供が始まったWindows Vista

Business/Enterprise/Ultimateの企業への導入は、

いまだほとんど進んでいない。その大きな理由の1つ

は、Windows XP投入からWindows Vista投入まで

の間に5年の空白が生じてしまったことにあると言っ

てよい。

 この5年間でWindows XPは成熟し、安定性を増

した。また、PCハードウェアの進化も目覚ましく、

Windows XPは非常に快適かつ高速に動作するよう

になった。2004年8月にリリースされたWindows XP

Service Pack(SP)2により、セキュリティが大幅に

強化された点も大きいと言える。

 Windows XP SP2では、「Windowsセキュリティ・

センター」や「Windowsファイアウォール」、ポップアッ

プ・ウィンドウのブロック機能といった、大幅なセキュ

リティ強化が行われた。Windows XP SP2へのセキュ

リティ修正プログラムの提供は、少なくともあと6年は

継続される予定だ(2014年4月8日まで)。さらに2008

Windows XPを継続するかWindows Vistaに移行するか

Windows Vistaが登場して1年が経過した。しかし、企業への導入はあまり進んでおらず、いまだ多くの企業でWindows XPが使われている。確かにWindows XPは完成度の高いOSである。しかし、だからといって、Win dows Vistaに搭載されている企業向けの先端機能を利用しないのはもったいない。Windows Server 2008がリリースされた今こそ、企業はWindows Vista導入を視野に入れるべきだ。本パートでは、Windows Vista導入のメリットを示すとともに、Windows Vistaに搭載されている注目すべき企業向け機能を紹介する。

山市 良

IT管理者の視点で考えるWindows Vistaのメリット

2Part

Page 32: Computerworld.JP Jun, 2008

Computerworld June 200854

Pa

rt

2

│IT管理者の視点で考えるW

in

do

ws

V

is

ta

のメリット

 IT関連製品のサプライヤーである米国CDW Governmentが2007年10月末から11月初旬にかけて実施した調査によると、Windows Vistaへの移行に向けて評価やテストを実施する米国企業は着実に増えているという。1年前(2007年2月)の調査時に比べると、「Vistaを検討中/テスト中」と答えた企業は今回の調査で20ポイント近く増加した。 同調査によると回答者の48%が、「Vistaを検討中またはテスト中」と答えている。この数字は、1年前の調査時の12%を大きく上回り、Vistaへの移行に前向きな企業が増えていることを示している。

 また、「Vistaに現在移行中、またはすでに移行済み」と答えたのは30%だった。Vistaへの移行が進むにつれ、Vistaに対する好意的な評価も集まるようになっており、主要機能の性能について「期待を上回っている」と答えた回答者が全体の50%近くを占めている。 Vistaの長所として最も高く評価されているのは、依然として「セキュリティの改善」だ。またそのほかVistaの長所としては、「パフォーマンス」「生産性」「検索/分類機能」「Windows Update」「ネットワーキング機能」「パッチ管理」などが挙げられている。

2008年は企業のVista移行が本格化?John Fontana Network World米国版

どうかも不安材料だろう。Windows Vistaがリリース

されて1年以上経ち、多くのハードウェアとアプリケー

ションがWindows Vistaへの対応を完了させている。

しかし、サポートが切れたようなレガシーなアプリケー

ションや、対応させるにはコストが発生するカスタム・

アプリケーションを利用している場合、Windows

Vistaに移行するのは非常に難しい。

XPへの配慮はしばらく続くも終われば利便性が低下へ

 即座にWindows Vistaへの移行を行わないとした

場合、問題となるのは移行までの間にMicrosoftによ

る先進のOSテクノロジーの恩恵が受けられるかどうか

という点だろう。例えば、いよいよ提供が始まった

Windows Server 2008は、Windows Vistaと同じ開

発プロジェクト(開発コード名:Longhorn)の中で生み

出されたもので、その先進テクノロジーの真価は、こ

れらを併せて使うことで発揮されるのだ。

 もちろん、Windows XPであってもWindows

Server 2008のActive Directoryドメインに参加でき

るし、認証で問題が発生することもない。ファイル共

有サービスや印刷サービスも、Windows Server

2003環境とまったく同じように利用できる。Windows

Server 2008の「ターミナル・サービス」と「ネットワーク・

アクセス保護(NAP)」については、Windows XPもク

ライアントとして完全にサポートされる。

 Windows Server 2008の新機能には、例えば、ウィ

ンドウ単位でのリモート・セッションを可能にする

「RemoteApp」や、インターネット経由でプライベート・

ネットワーク上のターミナル・サービスやリモート・デ

スクトップへの安全な接続を可能にする「TSゲート

ウェイ」などがある。これらを利用するには、ターミナル・

サービス用の最新プロトコル「Remote Desktop

Protocol(RDP)6.0」以降に対応したリモート・デスク

トップ接続クライアントが必要となる。

 Windows VistaにはRDP 6.0が標準で搭載されて

いるが、実はWindows XPでもRDP 6.0対応クライ

アントを入手することが可能だ。Windows XP SP3

に含まれるRDP 6.1への更新によって、ネットワーク・

レベル認証にも対応する。

 ファイアウォール、ウイルス/ワーム対策、スパイ

ウェア対策の自動更新の構成と状態、およびセキュ

リティ更新プログラムの適用状況を検査して、ネット

ワークへのアクセスを禁止したり、準拠したりするこ

とができるNAPは、Windows Vistaには標準で搭載

されている(画面1)。NAPについても、Windows XP

SP3において、Windows XP用のNAPクライアント

が提供される予定であり、スパイウェア対策を除いて、

Windows Vistaと同様の検疫を実施することができ

る。

 また、Windows Vistaでは、新フォント「メイリオ」

および従来から利用されている「マイクロソフト5フォ

ント(MSゴシック、MS Pゴシック、MS UI Gothic、

MS明朝、MS P明朝)」において、2004年に改定され

た新JIS漢字「JIS X2013:2004」(JIS2004)が採用さ

Page 33: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 55

特集Windowsプラットフォーム2008

多 角検証

れ、一部の漢字の字体の変更と追加が行われた。

Microsoftは、JIS漢字規格の混在により起こる混乱

を回避するために、Windows XP向けにはJIS2004

対応のフォント・パッケージを、またWindows Vista

向けには、従来の「JIS X0208-1990」(JIS90)対応の

フォント・パッケージを提供している。JIS90対応のフォ

ント・パッケージはWindows Server 2008向けにも

提供が予定されており、引き続き、組織内でJIS漢字

規格を統一することができる。

 Windows Vistaのリリースと同時期に、2007

Microsoft Office systemが採用した新しいファイル・

フォーマット「Open XML」もOSのバージョンの違い

を際立たせる問題となった。2007 Microsoft Office

systemはWindows XP上でも動作するが、Office

2003以前のユーザーはそのままではOpen XML形式

のドキュメントを扱えない。そこでMicrosoftは「ファ

イル形式互換機能パック」を無料提供して、この問題

を回避できるようにした。

 Microsoftのこのような対応は、Windows Vista

や2007 Microsoft Office systemへのアップグレー

ドの準備が整っていないユーザーに配慮したものであ

る。しかし、このような配慮がいつまでも続くわけで

はない。Windows XPのメインストリーム・サポートの

期限である2009年4月14日以降は、新機能の追加は

行われなくなる。特に、新しいハードウェアや規格へ

の対応がサポートされなくなることは、近い将来問題

になるかもしれない。Windows NTでUSBがサポー

トされることがなかったように、将来的に登場する革

新的なハードウェアや規格がWindows XPではサポー

トされず、PCの利便性が大きく低下するかもしれな

いのだ。

Windows Vista SP1のリリースで本格導入開始

 初期出荷バージョンの常として、システムの完成度

や安定性が問題視されることがある。これを理由に、

Windows Vistaの導入や移行を踏みとどまっていた

企業にとって、Windows Vista SP1のリリースは

Windows Vistaへの本格的な移行を開始するマイル

ストーンになるに違いない。Windows Vista SP1に

より、これまでに判明しているバグが修正されるとと

もに、安定性およびパフォーマンスが向上する。

 また、Windows Vista SP1は、発売されたばかり

のWindows Server 2008との併用を意識したもので

あることも忘れてはならない。Windows Vistaが先に

リリースされたことで、2つのコードに分かれてしまっ

たが、Windows Vista SP1により、サーバOSとクラ

イアントOSのコードが再び統一されることになる。

 Windows Server 2008が提供するドメイン管理機

能をはじめとするITインフラストラクチャ、そして推奨

クライアントとしてのWindows Vistaとの組み合わせ

で実現できることを見れば、すぐにでも最新環境に移

行したくなるはずだ。

 例えば、日本版SOX法など内部統制に取り組む企

業にとっては、「BitLockerドライブ暗号化」やデバイ

スのインストール制御、リムーバブル・メディアへのア

クセス制御、ディザスタ・リカバリのための「Windows

Computer PCバックアップ」など、両OSが提供する

強力なセキュリティ基盤は、最適なプラットフォーム

となる。また、大容量化するデータの高速コピーを可

能にするファイル共有プロトコル「SMB(Server

Message Block)2.0」は、ユーザーの生産性を向上さ

せるはずだ。以下、注目の機能をいくつか紹介しよう。

画面1:NAPはクライアントのセキュリティの状態を検査して、組織の正常性ポリシーに準拠しない場合はアクセスを制限または禁止する。この機能はWindows XP SP3でも利用可能になる

Page 34: Computerworld.JP Jun, 2008

Computerworld June 200856

Pa

rt

2

│IT管理者の視点で考えるW

in

do

ws

V

is

ta

のメリット

画面3:デバイスのインストール制御は、デバイスのタイプやデバイスIDなどで新規デバイスのインストールを許可または禁止する機能。メッセージのカスタマイズもグループ・ポリシーで行える

BitLockerドライブ暗号化で情報漏洩対策は万全に BitLockerドライブ暗号化は、Windows Vista

Enterprise/Ultimateで利用可能な新しいデータ保

護機能である。この機能は、システムを含むドライブ

全体を暗号化するもので、PCの紛失時や盗難時、あ

るいは破棄する際に、ハードディスクからの情報漏洩

を防止するのに大きな効果がある。

 BitLockerドライブ暗号化では、ドライブ全体が暗

号化されるだけでなく、「トラステッド・プラットフォー

ム・モジュール(TPM)1.2」の採用によって、ドライブ

がそのコンピュータ上に存在する場合にだけ複合化さ

れる。そのため、ハードディスクを外してデータの抽

出を試みるといった攻撃に強い。また、PIN(個人識

別番号)の入力やUSBメモリに格納されたキーとの併

用で、2重にデータを保護することができる(画面2)。

グループ・ポリシーによるセキュリティ一括管理 Windows ServerのActive Directoryドメイン・サー

ビスは、グループ・ポリシーをドメインや組織単位(OU)

で展開することで、クライアントPCのデスクトップ制

御やセキュリティ設定などを中央から集中管理できる

ようにするものだ。Windows Server 2008のグループ・

ポリシーは、Windows Vistaで新たにサポートされた

豊富なポリシーに完全対応しており、特にセキュリティ

に関しては、これまでにないレベルの高度な管理が可

能となっている。

 Windows Vistaで新たに追加されたポリシーの中

でも、デバイスのインストール制御やリムーバブル記

憶域へのアクセス制御を行う機能は、内部統制のた

めの有効な手段だ。USBメモリなどのリムーバブル・

デバイスは、情報の流出経路となったり、ウイルス/

ワームの侵入経路になったりすることが多い。しかし、

Windows Vistaの新しいポリシーを利用することで、

例えば社内で配布したデバイス以外の使用を禁止し

たり、リムーバブル・メディアを読み取り専用で使用

させ、書き込みを禁止したりといったことが可能にな

る(画面3)。

 Windows Vistaには、Windows XP SP2で導入

されたWindowsファイアウォールの後継版が実装さ

れている。この新しいファイアウォールは、受信と送

信に別々の規則を適用できるなど、よりきめ細かな設

定が行えるよう強化されている。その構成も、グルー

プ・ポリシーで完全に制御することが可能だ。

SMB 2.0とIPv6によりネットワークが高速化 CIFS(Common Internet File System)とも呼ば

れるWindowsのファイル共有プロトコルSMBは、

Windows Vista以降でバージョン2.0にアップデート

された。SMB 2.0は、現在のネットワーク環境と次世

画面2:TPMを搭載していないPCでも、USBメモリにスタートアップ・キーを格納して、起動時に要求するように構成することも可能だ

Page 35: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 57

特集Windowsプラットフォーム2008

多 角検証

代のファイル・サーバに対するニーズに合わせて再設

計されている。例えば、SMBパケット数の削減、よ

り大きなバッファ・サイズのサポート、サーバ上での

ファイル・ハンドラ数の増加、ファイル共有数の増加、

遅延や断絶の多いリンク経由でファイル共有に接続

する際の可用性の向上、相互認証やメッセージ署名

の使用によるセキュリティの向上など、多数の機能強

化が行われている。

 Windows VistaとWindows Server 2008を併用

すれば、SMB 2.0により、ネットワークが高速化され、

巨大なファイルをコピーする時間が短縮されるほか、

遅延の多いワイヤレスLAN環境においてコピーのた

めの通信が途切れにくくなるなどの効果が得られる。

なお、Windows VistaやWindows Server 2008が、

以前のWindowsバージョンと通信する際には、従来

からあるSMB 1.0が利用されることになる。

 Windows Vista以降の環境でIPv6を利用すること

も、ネットワーク高速化に寄与する。IPv6はWindows

XP以前でも利用できたが、実用レベルではなかった。

その理由は、IPv6に対応したアプリケーションが少な

かったことと、IPv6とIPv4が別々のプロトコル・スタッ

クとして実装されていたことにある。

 Windows Vista以降では、TCP/UDPのトランス

ポート層が共通となり、ネットワーク層としてIPv4と

IPv6の両方がサポートされるデュアルIPスタックが採

用された。すなわち、Windows VistaおよびWin

dows Server 2008で利用可能なサービスとアプリケー

ションのすべてが、IPv4とIPv6の両方に完全対応す

る。カスタム・アプリケーションに関しても、.NET

Frameworkや上位APIを使用するものは、コードを

書き換えることなくIPv6上でそのまま使えるように

なっている。

Windows Complete PCバックアップでディザスタ・リカバリも簡単に ビジネス向けのWindows Vista Business/Enter

prise/Ultimateでは、Windows Complete PCバッ

クアップという、ディスク・ツー・ディスクの新しいバッ

クアップ・ツールが利用できる。同バックアップは、ロー

カル・ディスク(外付けを含む)または書き込み可能な

DVDメディアに対して、システムの完全なバックアッ

プをドライブ単位で取得することを可能にする。

 バックアップは、「ボリューム・シャドウコピー・サー

ビス(VSS)」と連動して、ブロック・レベルで、ディスク・

イメージとして取得される。そのため、システムが完

全に壊れてしまったとしても、DVDメディアまたは回

復パーティションから起動して、バックアップ済みの

イメージをディスクに展開することで、OSをインストー

ルすることなく、高速な復旧が可能となる(58ページ

の画面4)。

 実は、Windows XP以前にもバックアップ・ツール

「NTBackup.exe」が提供されており、Windows XP

 Windows Vistaはすべてのエディションについて、32ビット版と64ビット版を用意しているが、いったい、どちらを選択すればよいのだろうか。 サーバOSの分野では、64ビット化が進んでいる。Windows Server 2008については、32ビット版と64ビット版の両方が提供されているが、実は32ビットのサーバOSはこれが最後であり、次期バージョンのWindows Server 2008 R2からは64ビット版のみの提供になることが決まっている。 デスクトップやモバイル向けのPCにも、64ビットCPUを搭載したマシンは増えている。しかし、その上で稼働させるOSとしては、特に理由がない限り、32ビット版を選択するとよいだろう。 64ビット環境の特徴は、32ビットOSの制約である4GBというメモリ制限

がない点だ。逆に言えば、4GBを超える大容量メモリを必要とするアプリケーションを利用しない限り、32ビット版でも何の問題もないはずだ。逆に、64ビット版を選択してしまうと、周辺機器が問題になるケースが多い。 アプリケーションについては、WOW64(Windows on Windows 64)により、32ビットアプリケーションも問題なく動作するのだが、デバイス・ドライバについては64ビット版のWindows向けに開発されたものでなければ動作しない。 64ビット版が必要になるとすれば、エンジニアリング(CAD/CAM)業務、デジタルコンテンツの制作、科学/技術データ演算などで使う場合だろう。ビジネス用途で64ビット版を選択するメリットは、今のところ見当たらない。

どうする、64ビット化──ビジネス用途では時期尚早?

Page 36: Computerworld.JP Jun, 2008

Computerworld June 200858

Pa

rt

2

│IT管理者の視点で考えるW

in

do

ws

V

is

ta

のメリット

画面4:Windows Complete PC復元の実行は、製品DVDメディアから起動して行う。イメージを展開するだけなので、高速かつ簡単に実行できる

およびWindows Server 2003では「ASR(自動システ

ム回復)」というディザスタ・リカバリ機能を利用するこ

とができた。ASRを利用すれば、まっさらなディスク

にシステムを復元することも可能だが、復元用

Windowsをインストールし、その後、バックアップか

らシステムを書き戻すという手順が必要だった。また、

復旧できるのはシステムが含まれるドライブに限定さ

れ て い た。これ に 対し て、Windows Vistaの

Windows Complete PCバックアップは、イメージを

空のディスクに展開するだけなので、高速かつ確実だ。

 Windows Complete PCバックアップを実行する

には、バックアップ対象のドライブとバックアップ先

のディスクまたはDVDメディアを指定するだけでよい。

スケジュール機能やネットワーク共有へのバックアッ

プには対応していないが、コマンドライン版の

「WBADMIN.EXE」とタスク・スケジューラを組み合

わせれば、ローカル・ディスクやネットワーク共有へ

のバックアップを完全に自動化することが可能だ。

アップグレードではなくリプレースを前提に考える

 前述したように、先進テクノロジーの恩恵をフルに

受けるために、またセキュリティのレベルを維持する

ために、クライアントOSの移行はいつかは行わなけれ

ばならない。しかし、Windows Vistaの導入には厳

しいシステム要件が立ちはだかる(表1)。メモリとハー

ドディスクの要件については、実にWindows XPの

10倍ものスペックが要求されるのだ。

 もしWindows Vistaを実行するのに十分なスペッ

クを備えたPCや、メモリの追加など最小限のハード

ウェア・アップデートで対応可能なPCの場合は、アッ

プグレード・インストールを検討してもよいだろう。そ

の際には、事前にハードウェアとアプリケーションの

互換性情報を確認しておこう。アップグレードの可否

や最適なエディション、問題のあるハードウェアとソ

フトウェアをリストアップしてくれる「Windows Vista

Upgrade Advisor」も役に立つ(画面5)。

 Microsoftは、Windows XPからWindows Vista

へのアップグレード・パスを用意している。これにより、

例えばWindows XP Home EditionからWindows

Vista Businessなどのビジネス向けエディションへと

アップグレードすることも可能となっている。ただし、

Windows Vistaを何とか動かすことができる程度の

スペックしかないPCや、ハードウェアの拡張性(最大

メモリ容量など)に乏しいPCの場合は、Windows

Vistaにアップグレードすることは決してお勧めできな

い。ハードウェアのリプレースを検討するべきである。

アップグレードするにしろ、リプレースするにしろ、

Windows Vistaのエディションを決定する際には、

必ずBusiness以上のエディションを選択することだ。

単に価格的な理由から、Home BasicやHome Pre

miumを選択するべきではない。これらのエディション

Windows XP Professional Windows Vista

発売日(パッケージ版) 2001年11月16日 2007年1月30日

プロセッサ 233MHz以上 800MHz以上

メモリ 64MB以上(推奨128MB) 512MB以上(推奨1GB)

ハードディスク 2.1GB以上の空き 15GB以上の空き

光ディスク・ドライブ CD-ROMドライブ DVDドライブ

表1:Windows XPとWindows Vistaの最小システム要件。Vistaをストレスなく稼働させるにはメモリ1GB、ハードディスク20GB以上はほしいところだ

Page 37: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 59

特集Windowsプラットフォーム2008

多 角検証

では、以下に挙げる企業向けの機能を利用すること

ができないからだ。

●Complete PCバックアップと復元(Business以上に搭載)

●BitLockerドライブ暗号化(Enterprise以上に搭載)●リモート・デスクトップ接続(Business以上に搭載)●ドメイン参加(Business以上に搭載)●延長サポートの提供(ビジネス製品が対象)

 Windows XPでもそうであったが、「Home」は文字

どおり家庭向けの製品であることを肝に銘じておこう。

互換性問題は仮想化テクノロジーでカバーする

 前述したとおり、Windows Vistaに対応していな

いレガシーなアプリケーションの存在は、Windows

Vistaへの移行をはばむ大きな要因となる。しかし、

解決手段がないわけではない。

 Windows XP上でしか動作しないアプリケーション

を、Windows Vista上で動かす方法として、仮想化

テクノロジーを利用する方法がある。Virtual PC

2007(無料)を利用すれば、Windows Vista上で

Windows XPをインストールした仮想マシンを稼働さ

せ、その中でWindows XP専用のアプリケーションを

実行できる(画面6)。

 また、プレゼンテーションの仮想化やアプリケーショ

ンの仮想化を用いる方法もある。プレゼンテーション

の仮想化とは、ターミナル・サービスやRemoteApp

を利用してアプリケーションを展開する方法だ。一方、

アプリケーションの仮想化は、アプリケーションをOS

から分離する仮想ランタイム環境のテクノロジーであ

る。

 Microsoftは、ソフトウェア・アシュアランス契約者

向けに「SoftGrid Application Virtualization」を販

売している。これを利用すれば、最新のクライアント

環境において、問題を起こすことなく旧バージョンの

アプリケーションを実行することができる。

 なお、プレゼンテーション/アプリケーションの仮

想化には、Citrix Systemsの「Citrix Presentation

Server」など、他ベンダーの製品を選択することも可

能となっている。

画面5:Windows Vista Upgrade Advisorは、現在使用中のPCのハードウェアとアプリケーションがWindows Vistaで利用可能かどうか評価してくれるツールだ

画面6:Virtual PC 2007(無料)を利用して、Windows Vista上でWindows XPの仮想マシンを稼働させれば、その中でレガシーなアプリケーションが実行できる

Page 38: Computerworld.JP Jun, 2008

Computerworld June 200860

ては、現在もそのようなアプリケーションが使われて

いる。

 では、なぜ、OSは存在しているのだろうか。それは、

「同一機能の重複開発によるむだを省くため」だと言っ

てよいだろう。乱暴に言ってしまえば、多くのアプリ

ケーションが使用する機能は、1つにまとめたほうが

効率がよい。こうして生まれたのがOSやミドルウェア

などの、システムの基盤となるソフトウェアである。こ

のうちOSは、主にハードウェア制御を行う機能を提

OSの基本的役割は開発重複の回避

 そもそも、OSの役割とは何だろうか。

 例えば、販売管理や顧客管理などの業務をシステ

ム化するうえで必要なのは、アプリケーション・ソフト

ウェアだ。原理的には、これらのアプリケーションが

直接、ハードウェアを制御することは可能である。実際、

そのようにしていた時代もあるし、特殊な分野におい

企業の信頼を勝ち得るまでの軌跡を再確認する

オープン・システム時代が幕を開けたころ、企業ユーザーのWindowsに対する信頼は低かった。時は流れ、クライアントPCユーザーのだれもがWindowsを使うようになり、サーバ分野でも今や金融機関の基幹システムのプラットフォームに選ばれるまでになっている。本パートでは、Windowsという製品の進化過程を振り返り、そこから、企業コンピューティング・プラットフォームとしての現在の実力、そして課題を探ってみたい。

山口 学

Windowsの進化過程から探る「実力」と「課題」

3Part

1985年 1986年 1987年 1988年 1989年 1990年 1991年 1992年 1993年 1994年 1995年 1996年 1997年 1998年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年

サーバ

クライアント

スタンドアロン

Windows NT Advanced Server

Windows 1.0 Windows 2.0

Windows/386 2.0

Windows 3.0 Windows 95 Windows 95 OSR2

Windows 98 Windows 98 SE

Windows MeWindows 3.1 Windows for Workgroups (Windows

3.11)

Windows NT 3.1

Windows NT Workstation 3.51

Windows NT 4.0 Workstation

Windows 2000 Professional

Windows XP Windows Vista

Windows NT Workstation 3.5

Windows Server 2003R2

Windows NT Server 3.5

Windows NT Server 3.51

Windows NT 4.0 Server

Windows 2000 Server

Windows Server 2003

Windows Server 2008影響を与える

統合される

OS/2 1.0 OS/2 1.1 OS/2 1.2 OS/2 1.3 OS/2 2.0 OS/2 2.1 (OS/2 Warp V3) (OS/2 Warp V3)

Linux誕生 Java誕生 Mac OS X誕生

図1:Windowsの系譜。1983年にWindows 1.0が登場、1993年から1995年にかけて大きな転機を迎え、2007年のWindows Vistaと2008年のWindows Server 2008に至る

Page 39: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 61

特集Windowsプラットフォーム2008

多 角検証

供し、ミドルウェアはOSとアプリケーションの中間的

な機能を提供する。そして、どのような機能までを提

供するのかは、OSによって異なる。

 現在、IA(インテル・アーキテクチャ。注1)を採用

したコンピュータの多くは、WindowsをOSとして採

用している。もちろん、UNIXやLinux、Mac OS X

を選択することも可能だが、いずれのOSも、市場占

有率ではWindowsに遠く及ばない。そして、企業コ

ンピューティングの世界においても、クライアントOS

としてはもちろん完全に普及し、サーバOSとしても

確実に普及が進んできている。以下、Windowsの進化、

機能強化の軌跡を確認していく(図1)。

Windowsヒストリー──“ビジネスWindows”の元年は1993年

 Windowsが誕生したのは1985年のことである。当

時のWindowsは、「MS-DOS(PC-DOS)」(注2)のた

めの、ウィンドウ型ユーザー・インタフェースという位

置づけだった。

 初版のWindows 1.0はウィンドウを重ねることがで

きないタイリング・ウィンドウ方式だったが、1987年

に登場したWindows 2.0からは、ウィンドウを重ね合

わせられるオーバーラッピング・ウィンドウ方式が採用

された。同時に、より大きなメモリ空間を確保する目

的で「Expanded Memory Specification(EMS)」(注3)

に対応し、仮想メモリ・システムをサポートしたIntel

80386(注4)用のWindows/386 2.0が別バージョン

として投入された。しかし、これらは、お世辞にも実

用レベルに達していると言えるものではなかった。

 Windowsがビジネスにも使えるOSとして認識され

始めたのは、1990年に登場したWindows 3.0からだ

ろう。さらに、Windows 3.1が登場した1992年ごろ

になると、多くのアプリケーションがWindowsに対応

するようになる。ちなみに、1993年に発売された

Windows for Workgroups(別名:Windows 3.11、

日本では未発売)では、ピア・ツー・ピアLAN(注5)も

企業の信頼を勝ち得るまでの軌跡を再確認する

注1:インテル・アーキテクチャ:Intel Architecture-32(IA-32)とIntel Architecture-64(IA-64)の総称。IA-32はx86アーキテクチャと呼ばれることもある注2:MS-DOS:Microsoft Disk Operating Systemの略で、インテル・アーキテクチャの16ビット・プロセッサのためにマイクロソフトが開発したOS。Ver.1.0は

1981年に登場した。「Personal Computer DOS(PC-DOS)」はIBMブランドとしての商品名注3:EMS:Expanded Memory Specificationの略で、640KB超のアドレス空間をMS-DOSから利用するための技術注4:Intel 80386:インテル・アーキテクチャの32ビット・プロセッサ。初期のWindowsはインテル・アーキテクチャの16ビット・プロセッサである、Intel 80286でも

動作可能だった注5:ピア・ツー・ピアLAN:サーバを用意せず、クライアントどうしが対等(peer)の立場で接続する方式のLAN

1985年 1986年 1987年 1988年 1989年 1990年 1991年 1992年 1993年 1994年 1995年 1996年 1997年 1998年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年

サーバ

クライアント

スタンドアロン

Windows NT Advanced Server

Windows 1.0 Windows 2.0

Windows/386 2.0

Windows 3.0 Windows 95 Windows 95 OSR2

Windows 98 Windows 98 SE

Windows MeWindows 3.1 Windows for Workgroups (Windows

3.11)

Windows NT 3.1

Windows NT Workstation 3.51

Windows NT 4.0 Workstation

Windows 2000 Professional

Windows XP Windows Vista

Windows NT Workstation 3.5

Windows Server 2003R2

Windows NT Server 3.5

Windows NT Server 3.51

Windows NT 4.0 Server

Windows 2000 Server

Windows Server 2003

Windows Server 2008影響を与える

統合される

OS/2 1.0 OS/2 1.1 OS/2 1.2 OS/2 1.3 OS/2 2.0 OS/2 2.1 (OS/2 Warp V3) (OS/2 Warp V3)

Linux誕生 Java誕生 Mac OS X誕生

Page 40: Computerworld.JP Jun, 2008

Computerworld June 200862

Pa

rt

3

Wi

nd

ow

sの進化過程から探る「実力」と「課題」

利用できるようになった。しかし、Windowsが企業ユー

ザーから本格的に注目され始めたのは、1993年以降

のことである。特に大きな転換期となったのは、1993

年から1995年にかけてだろう。

 まず、1993年にはドメイン・コントローラ専用のサー

バOSであるWindows NT Advanced Serverと、ク

ライアントOSとしても利用できるWindows NT 3.1

がリリースされた。これら2つのOSは、その後の

Windows NTシリーズの源流となるものだ。当時、

MicrosoftはIBMとクライアント/サーバOSである

OS/2を共同開発していたが、1993年9月にソースコー

ドの相互公開を停止し、独自のクライアント/サーバ

OSとして、Windows NTの開発に踏み切っている。

 そして、1995年にはクライアントOS、と言うよりも、

スタンドアロン向けのOSとして、Windows 95が登場

する。Windows 95は、「OSに要求される全機能を盛

り込む」というコンセプトで設計されたOSである。

MS-DOSと決別した同OSは、ご存じのように世界中

のユーザーから支持を集め、OS単体としての存在感

を飛躍的に高めることになる。ちなみに、Windows

95の当初のリリースは、NetBEUI(注6)ベースのピア・

ツー・ピアLANを基本のネットワーク機能としていた

が、程なくインターネット(TCP/IP)対応へと路線を

変更している。いわゆるインターネット時代の幕を開

いたOSとして記憶している読者も多いだろう。

 その後、Windows NTシリーズのクライアント版と

Windows 9xシリーズは、一本化への道をたどるこ

とになる。Windows NTシリーズは、1996年の

Windows NT 4.0 Server、Windows NT 4.0 Work

stationを経て、2000年のWindows 2000 Server、

Windows 2000 Professionalで「NT」(New Tech

nology)の2文字が外される。また、Windows 9xシリー

ズは、1998年のWindows 98、1999年のWindows

98 Second Edition(SE)、2000年 のWindows

Millennium Edition(Me)とバージョンアップを重ね、

2001年のWindows XPにおいて、ついにWindows

NTシリーズと統合された。そして、2007年に、現行

のクライアントOSであるWindows Vistaが登場して

いる。

 一方、サーバOSとしてのWindowsは、Windows

2000 Serverが2003年にWindows Server 2003に

バージョンアップし、2006年のWindows Server

2003 R2を経て、今年2月(日本国内では4月)に、

Windows Server 2008がリリースの運びとなった。

Windowsプラットフォームの現在の実力

 Windowsが企業コンピューティングに不可欠なプ

ラットフォームとなって久しい。Windows NTの時代

には、「ファイル・サーバやプリンタ・サーバ用途ならま

だしも、基幹業務にはとてもとても……」といった声も

少なくなかった同OSが、今では、金融機関の基幹シ

ステムの基盤として採用されるまでになっている。ここ

では、Windowsプラットフォームの現在の実力を、処

理速度、RAS(信頼性、可用性、保守性)、アプリケー

ション開発といった各観点から探ってみることにしよう。

処理速度 コンピュータの重要な性能指標である処理速度は、

基本的にはCPU、メモリ、I/Oといったハードウェア・

コンポーネントの性能に依存する。しかし、ご存じの

とおり、ハードウェアの条件がたとえ同じでも、OSの

出来次第でアプリケーションの処理速度は大幅に異

なってくる。OSによって、内部処理に費やされるオー

バーヘッドの大きさやCPU性能の引き出し量が変

わってくるからだ。

 アプリケーションの処理速度に関する中立的評価に

は、トランザクション処理性能評議会の発表する指標

がしばしば使われる(画面1)。現在発表されているのは、

表1の4種類だ。どの指標もハードウェア、OS、ミド

ルウェア(データベースやアプリケーション・サーバな

ど)を組み合わせたベンチマーク・テストの結果に基づ

いており、OSの性能を客観的に評価することができる。

TPCの指標はしばしば変更されるが、筆者の知るか

注6:NetBEUI:NetBIOS Extended User Interfaceの略で、LANのトランスポート層プロトコル。「OS/2」、「LAN Manager(NOS」(マイクロソフト製のネットワークOS)、Windows、Windows NTで利用できる。NetBIOSはNOSとしてのLAN ManagerとOS/2のAPI

Page 41: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 63

特集Windowsプラットフォーム2008

多 角検証

ぎりでは、Windowsベースのシステムは、たいていトッ

プ10内にランクされており、「by Performance」(絶対

的な速度順)よりも、「by Price/Performance」(価格

性能比順)で上位になることが多い。

信頼性 Windows NT 3.51までは、「毎日1回はコールド・ス

タート(注7)が必要」と揶揄されるほど、かつての

Windowsの信頼性は評価が低かった。筆者も、当時

のWindowsマシンが、しばしば「ブルー・スクリーン

(Blue Screen Of Death)」(注8)を表示して固まって

いたのをよくおぼえている。

 その後、Microsoftは奮起し、Datacenter Server

版が登場したWindows 2000 Server以後、Windows

の信頼性は大幅に向上した。「基幹システム用OS」に

位置づけられたWindows 2000 Datacenter Server

について、同社はこのOSを搭載したサーバを販売す

るハードウェア・ベンダーに対して「Windows Data

center Program」と呼ばれるソリューションの提供を

義務づけ、14日間に及ぶ連続負荷テスト「Hardware

Compatibility Test(HCT)」にパスしなければ出荷で

きないというハードルを設けたのである。

 事実、HCTは、企業が基幹プラットフォームに

Windowsを採用する際の、1つの評価基準となって

いる。例えば、百五銀行は2007年5月、Windows

Server 2003 Datacenter Editionをベースに開発さ

れた日本ユニシスの銀行業務基幹系システム「Bank

Vision」を導入している。

 さらに、最新のWindows Server 2008では、OS

の異常終了を招きやすいコンポーネントをあらかじめ

取り除いておくこともできるようになった。「Server

Core」というオプションを選択してWindows Server

2008をインストールすると、「.NET Framework」(詳

細は後述)や「Internet Explorer(IE)」を含まない、基

本コンポーネントだけで構成されたWindows Server

を構築することが可能だ。Server Core構成では、

Windowsの新しいユーザー・インタフェースや、.

NET Framework環境で実行可能な「Windows

PowerShell」などが利用できなくなるが、サーバOS

としての信頼性はさらに向上することになる。

可用性 企業のサーバOSに求められる、可用性を確保する

ための機能としては、Windows 2000 Advanced

Server以降に標準装備されている、フェールオーバ

型クラスタリング・ソフトウェアの「Microsoft Cluster

Service(MSCS)」が挙げられる。MSCSは、障害が

発生したサーバで実行されていたサービスを、待機系

サーバに切り替える機能を提供する。いわゆるミッショ

ン・クリティカルな用途では欠かせない機能だ。 

Windows Server 2003からは、ディザスタ・リカバリ

(DR)用の地理的分散クラスタを実現するための

「Majority Node Set(MNS)」も用意されるようになる。

画面1:トランザクション処理性能評議会のWebサイト(http://www.tpc.org/)

指標 内容

TPC-C オンライン・トランザクション処理(OLTP)の速度

TPC-H アドホック型クエリを伴うデシジョン・サポートの速度

TPC-App アプリケーション・サーバの速度

TPC-E オンライン・トランザクション処理(OLTP)の速度

表1:トランザクション処理性能評議会で公開されている、アプリケーション・ソフトウェアの実効処理速度に関する中立的評価

注7:コールド・スタート:コンピュータの電源をいったんオフにし、その後再度オンにして起動すること。リセット・スイッチやショートカット・キーによる再起動は、「ホット・スタート」または「ウォーム・スタート」と呼ぶ

注8:ブルー・スクリーン(Blue Screen Of Death):動作中のWindowsで突然に出現する、背景が青色の画面。これが現れるとOS、ミドルウェア、アプリケーション・ソフトウェアのそれぞれは異常終了し、メモリ内のデータは失われてしまう

Page 42: Computerworld.JP Jun, 2008

Computerworld June 200864

Pa

rt

3

Wi

nd

ow

sの進化過程から探る「実力」と「課題」

なお、Windows Server 2008では、MNSとほぼ同

じ機能が「地理的分散クラスタ(Stretch Cluster)」と

いう名称で提供されている。

保守性 保守性に関しては、Windowsが以前から備えてい

るアドバンテージと言ってよいだろう。Windowsでは、

OSに備わる機能の設定を、ダイアログ・ボックスやウィ

ザードを利用して容易に行える。そのため、専任のシ

ステム管理者を置くことができない小・中規模企業で

も、比較的容易にサーバの運用管理が行える。

 ただし、このようなGUIを基本とした操作スタイル

は、特に中級以上のシステム管理者にとってはわずら

わしいと感じられることも少なくない。管理対象が増

え、設定も複雑になってくると、かえって作業効率が

低下してしまうからだ。Windows Server 2008で採

用されたWindows PowerShellとServer Coreイン

ストール・オプションは、そうしたマイナス面を改善す

るために、UNIXやLinuxの作法にならったと見るこ

ともできる。

アプリケーション開発 Windowsをビジネス・ユースとして定着させた“立

役者”の1つに.NET Frameworkがある。これは共通

言語基盤(CLI)およびその実装である共通言語ラン

タイム(CLR)を核とするソフトウェア開発/実行プ

ラットフォームで、現行のWindowsソフトウェアの基

盤である。.NET対応アプリケーションは、.NET

Frameworkがインストールされている環境であれば、

OSなどに依存せず動作することができる。開発ツー

ルとして利用できるのは、Microsoftの統合開発環境

「Visual Studio」などである。なおサード・ベンダー製

品を使えば、JavaアプリケーションやEnterprise

JavaBeans(EJB)の実行も可能だ。

 こうして確認してみると、WindowsというOS自体は、

着実に企業コンピューティングのプラットフォームに

求められる要件をクリアしてきていることがわかる。あ

とは、その上で稼働する業務アプリケーションの充実

度にかかっている。この点は、小・中規模のシステム

用途であれば、すでに十分な選択肢がそろってきて

いるが、大規模なサーバ・アプリケーションに関しては、

かつてメインフレームからオープン・システムへのシフ

トが進んだときに台頭したUNIX、そしてその派生

OSであるLinuxへの支持が強い。今後、Windows

Serverが基幹業務システムのプラットフォームとして

も順調に普及していくことになれば、ここでも状況は

変わっていくことになろう。

Windowsオンリーの3階層システム

 あらためて言うまでもないことだが、Windowsは、

OSを核に、ミドルウェア、アプリケーションサーバ、

開発ツール、システム運用管理ツールなどが勢ぞろい

したMicrosoftファミリー製品となっている。オープン・

システムでは、餅は餅屋、ベスト・オブ・ブリードの発

想で、異なる開発元のソフトウェアを組み合わせて運

用するスタイルが基本形だ。しかし、Microsoftはあ

えてファミリー化を選択しているのだ。

 この背景には、オープン・システムならではの難し

さがある。ベスト・オブ・ブリード型のオープン・システ

ムは、自由度が高い反面、「すべてが自己責任」の厳し

い世界だ。複数ベンダーの製品を選択し、相互運用

性を保つように組み合わせて開発/運用できるスキ

ルがない企業が、オープン・システムを運用するのは

至難の業である。一方、製品間の連携が確立され、

かつ統合性が高いWindows製品ファミリーは、多く

の企業にメリットをもたらすと言えるだろう。

 クライアント・ユーザーに対するインタフェースを提

供するプレゼンテーション層、中央の業務処理を担う

ビジネス・ロジック層、そしてデータ・アクセス層から

なる3階層システムは、今日、ある程度の規模以上の

企業における情報システムの標準型と言ってよい。こ

の各層をWindows製品ファミリーだけで構築した場

合、全体の構成は図2のようになる。

 現行の製品で構成した場合、プレゼンテーション

層を担当するのはWindows Vistaである。エンドユー

Page 43: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 65

特集Windowsプラットフォーム2008

多 角検証

ザーは、クライアントPC内のローカルでクライアント・

ソフトウェアを動作させるか、Webブラウザの「Internet

Explorer 7」を介して、アプリケーション・サーバなど

にアクセスして実行することになる。ビジネス・ロジッ

ク層で基盤となるのは、OSのWindows Server

2008や.NETアプリケーション、「Internet Infor

mation Services(IIS)7.0」だ。そして、データ・アク

セス層をつかさどるのは、RDBMSの「SQL Server

2008」である。

Windowsプラットフォームの課題

 最後に、Windowsプラットフォームの課題につい

て考察してみたい。筆者が最も注目しているのは、バー

ジョンアップのたびに進む多機能化と、それに伴う肥

大化による悪影響を回避する策との折り合いを、今後、

Microsoftがどうつけていくかということだ。

 時代がコンピューティングに求める要請に応え続け

ていくためには、多機能化はやはり不可避の流れであ

る。特にMicrosoftの製品ではそれが顕著だ。しかし、

そうして肥大化したソフトウェアの膨大なコードは、

処理オーバーヘッドの増大をもたらす。

 実のところ、Microsoftは、早い段階からこの課題

に取り組んでいる。前述したとおり、Windows

Server 2003にはサーバの役割、Windows Server

2008にはServer Coreといった“機能をそぎ落とす

機能”が組み込まれた。これらの機能のポイントは、

必要最低限のモジュールだけのプラットフォームが構

成できる点だ。ただし、モジュール間の役割分担が

完全には調整されていないため、CUIモードで威力

を発揮するはずのWindows PowerShellがServer

Coreでは利用できないという不可解な現象も発生し

ている。

 また、製品開発/リリースのロードマップを厳守す

ることも、同社にとっての大きな課題となっている。

例えば、ファイルシステムの「WinFS」(開発コード名)

やサーバ仮想化技術の「Hyper-V」といった新世代の

プレゼンテーション層 ビジネス・ロジック層 データ・アクセス層

クライアント・ソフトウェア サーバ・ソフトウェア ストアド・プロシージャ

IIS 7.0 SQL Server 2008

.NET Framework .NET Framework .NET Framework

Windows Vista Windows Server 2008 Windows Server 2008

ソースコード

Visual Studio 2008

.NET Framework

Windows Vista

図2:Windowsプラットフォームだけで構築した3階層システム

Page 44: Computerworld.JP Jun, 2008

Computerworld June 200866

Pa

rt

3

Wi

nd

ow

sの進化過程から探る「実力」と「課題」

技術は、「Longhorn」(開発コード名)の目玉として開

発項目にリストアップされ、製品版であるWindows

VistaやWindows Server 2008に標準搭載される予

定であった。しかしながら、その開発は順調に進まず、

WinFSは次期クライアントOSでの搭載と先延ばしに

なり、Hyper-Vも、Windows Server 2008のファー

スト・リリースには間に合わず、製造工程向けリリース

の180日後に出荷されることとなった。こうした

Microsoftの製品開発の遅れは常態化してきており、

ユーザーの導入計画に少なからず影響を及ぼしてい

る。開発プロジェクトが大規模化の一途をたどってい

るなか、難しい課題ではあるが善処を望みたい。

 そして、Microsoftに限らない、すべての商用ソフ

トウェア・ベンダーにとっての重大なテーマではあるが、

ソフトウェア製品の提供形態の今後の行方も注目され

る。初期コストがフリー、もしくはきわめて低コストの

オープンソース・ソフトウェアや、Googleに代表される

ような、無料で利用可能なWeb上のアプリケーション・

鳴り物入りで登場したADも企業は機能を持て余し気味? 筆者とActive Directoryの付き合いは1998年以来なので、かれこれ10年以上になる。Windows 2000 Serverが発売される1年前(1999年)には、筆者が所属する会社を含めたMicrosoft認定トレーニング・パートナーは、Microsoftのパートナー企業に対し、Active Directoryに関する大規模な教育コースを数多く開催した。筆者も相当数の教育コースを担当したことをおぼえている。 当時のユーザーは、Active Directoryに何を期待していたのだろうか。 Windows 2000がWindows NT 5.0と呼ばれていた1998年、現在の「Windows Server World」の前身である「Windows NT World」5月号の特集、「Active Directoryで変貌するNTネットワークの世界」を読み返してみると、「Windows NTの最大の課題は、パフォーマンスと拡張性であり、それを解決するのがActive Directoryだ」と書かれていた。 記事には、「Windows NTのドメインに登録できるユーザーの上限は約4万だが、Active Directory環境では数百万人のユーザーを管理できる」とある。なるほど、すばらしい進化だが、冷静に考えていただきたい。数万人の社員を擁する会社が、日本にどれくらいあるだろうか。 実は、この記事を書いたのは筆者自身である。白状すると、「従業員が1万人を超える企業はそう多くはないだろう」と思いながらも、Microsoftの主張をそのまま紹介してしまった。当時、この記事を読んだ人に感想を聞いてみたい気もする。 鳴り物入りで登場したWindows 2000 Serverだが、普及の速度は遅かった。もともとサーバOSは、新製品のリリースと同時に導入する性質のものではない。しかし、Windows NT Serverと比較した優位点を考えると、もう少し早く普及してしかるべきだったのではないかと思う。 ではなぜ、普及が遅れたのか。最大の原因は、「ウチはActive Directory

を利用するほど、大規模な環境じゃない」と思った企業が多かったからだと筆者は考えている。

クライアント管理を強化するグループ・ポリシーも真価が発揮できず…… もう1つ、Windows 2000 Serverで大きく進化したものの、普及が遅かった機能に「グループ・ポリシー」がある。これはクライアント管理を強化するもので、Active Directory環境で利用する。 グループ・ポリシーの基本コンセプトは「Follow me(ついてこい)」である。ユーザーが利用するクライアントPCを変更しても、特定ユーザー名でログインすれば、自動的にそのユーザー環境を再現する( =環境がついてくる)というものだ。「移動プロファイル」の機能とあわせて、Microsoftはこれを「Intelli Mirror」と命名していた。IntelliMirrorが提供したのは、以下の3点である。●ユーザー設定の維持●ユーザー・データの維持●ユーザー・アプリケーションの維持 しかし当時は、「ユーザー設定は個人の趣味の領域であり、企業側が維持すべき対象ではない」と考えるIT管理者も(少なからず)存在した。また、ユーザーデータも、業務上重要なデータはサーバに置くべきだという意見も多かった。アプリケーションの自動インストール(ユーザー・アプリケーションの維持)に魅力を感じたIT管理者は多かったが、同機能を効果的に活用するには、

「Windows Installer形式(MSIファイル)」に対応したアプリケーションが必要であり、当時はMSIファイルを採用したアプリケーションは少なかった。今でもグループ・ポリシーで配付できないアプリケーションは多い。 こうした観点からActive DirectoryやActive Directory環境上で活用するグループ・ポリシーは、すぐれた機能を有しながらも、あまり普及しなかったのである。

Active Directory進化論基幹業務システムにWindowsプラットフォームを採用している企業の多くは、その理由として「Active Directoryによるドメイン管理の利便性」を挙げる。今から8年前、Windows 2000 Serverと共に登場したActive Directoryは、エンタープライズ環境でWindowsを使ううえでは欠かせない存在となっている。ここではActive Directoryの進化の軌跡をたどりつつ、その将来を展望してみよう。

横山哲也グローバル ナレッジ ネットワーク、マイクロソフトMVP

Side Story Windowsプラットフォームの根幹を支える機能の過去、現在、未来Active Directoryの

カリスマ

特別寄稿

Page 45: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 67

特集Windowsプラットフォーム2008

多 角検証

サービス、そして、SaaS(Software as a Service)と

いうソフトウェアの新パラダイム──。圧倒的な市場

シェアの上に成り立っていたMicrosoftのパッケージ・

ソフト販売ビジネスは、今、大きな転換期にある。

 同社はこのテーマに対する回答の1つとして、昨年

より「Software +Services」というコンセプトを掲げ

ている。従来型のソフトウェアとサービスの両方のメ

リットに着目したこのコンセプトについては、本特集の

パート4で解説されているので参照されたい。

 また、ソフトウェアは有料か無料かの議論について

も、同社はすでに、無料でダウンロードでき、再配布

も可能な「SQL Server 2005 Express Edition」の

ような製品の提供を始めている。願わくは、コアとな

るWindows Serverもこのような機能限定版の形で

提供できないものだろうか。Windows Serverが、ク

ライアントWindowsと同様のデファクト・スタンダード

のポジションをとるには、このような大胆なアプローチ

も必要だと考えるのは、筆者だけではないだろう。

セキュリティ意識の高まりでActive Directoryが表舞台に しかし、その後、大きな転機が訪れる。個人情報保護法(2003年成立)に代表される、セキュリティ意識の高まりだ。Active Directoryの真価が認められ、普及していった背景には、企業がITのセキュリティ対策を徹底しなければ、ビジネスに大ダメージを受けるというせっぱ詰まった状況があったからだ。そして、堅牢なセキュリティを構築するためには、Windows NTでは不十分だったのだ。 そこで脚光を浴びたのが、グループ・ポリシーの活用である。グループ・ポリシーが持つ「管理者が決めた設定でアクセス権などを運用する」という機能は、大いに役立った。 実はWindows NTには「システム・ポリシー」と呼ばれる同様の機能も存在していた。しかし、システム・ポリシーには、①階層管理の概念がない、②設定可能な項目が限定される、③クライアントPCの管理権限があれば設定を回避できる、などの“特権”があった。そしてこれらは、「堅牢なセキュリティを確保する」という観点から見ると、十分ではなかったのである。 一方、グループ・ポリシーにはこうした制約がなかった。利用可能なクライアントOSがWindows 2000以降という制約はあったものの、もともとWindows NTがクライアントOSとして普及していなかったので、制約と感じたIT管理者はほとんどいなかったはずだ。そして、Windows 98のリプレース時期と重なったこと、「Windows 98では、抜本的なセキュリティ対策は不可能」という見解がIT管理者だけでなく企業のマネジャー・クラスにも浸透していたことなどが要因となり、グループ・ポリシーに注目が集まったのである。 一度真価が認められれば、普及に時間はかからない。その後、Windows Server 2003に搭載されたグループ・ポリシーの数も、大幅に増加している。 例えば、2005年3月31日公開のグループ・ポリシー設定一覧で、「管理用テンプレート」に含まれるポリシーの総数は1,670ある。ちなみに、Windows 2000 Server以 降 す べ てで 有 効 な ポリシ ー 数 は351、Windows Server 2003(/Windows XP)以降に限定される有効なポリシー数は342だ。Windows Server 2003はWindows 2000 Serverを踏襲しているので、Windows Server 2003に有効なポリシー数は351と342を足した693となり、Windows 2000 Serverのほぼ倍であることがわかる。また、「Internet Explorer(IE)6」関連のポリシーが806あるのに対し、IE 5はわずか98しかなかった。

 現在、Microsoftが提供する、さまざまなセキュリティ機能は、ほとんどがグループ・ポリシーの機能を利用する。例えば管理者が承認した更新プログラムだけを自動インストールする「WSUS (Windows Server Update Services)」の構成は、グループ・ポリシーを利用すれば、簡単に展開できる。また、Windows Vista標準のスパイウェア対策ツールである「Windows Defender」や、企業向けセキュリティ製品群「Forefront」も、グループ・ポリシーを使って設定すれば、全社の環境を統一できるのだ。

Active Directoryの今後の課題は「他社OSフレンドリー」 では、今後、Active Directoryはどのように進化していくのだろうか。 「セキュリティ管理のインフラ=Active Directory」という地位は、(当分は)揺るがないだろう。Windowsクライアントを利用して、セキュリティを向上させたいのであれば、グループ・ポリシーは最も安価で高機能な“ツール”である。そして、グループ・ポリシーを使うには、Active Directoryは不可欠だ。 Active Directoryの次のステップは、認証の統合だと筆者は考えている。Active Directoryは、基本部分ではKerberosやLDAP(Lightweight Directory Access Protocol)などの業界標準プロトコルを利用しているものの、規格の許す範囲で独自の拡張も行っている。その結果、他社のOSをActive Directoryに参加させることは難しくなっているのが現状だ。細かいことを言えば、Microsoftは「Identity Integration Server」など、他社のOSと連携するための製品もリリースしている。しかし、ユーザーが求めているのは、他社OSをもっとシンプルにActive Directoryに参加させる機能だ(技術的には、LinuxをActive Directoryに参加させることはできるが、設定に手間がかかる)。 他社のOSを容易にActive Directoryに参加させることができるようなツールを、オープンソース・コミュニティに開放してほしいと考えているのだが、いかがだろうか。

Page 46: Computerworld.JP Jun, 2008

Computerworld June 200868

ある。

 S+Sモデルの下、ユーザー企業は、利用するソフ

トウェアの形態を“選択”することになる。例えば、シ

ステムのカスタマイズや拡張に対する柔軟性、高速な

レスポンス、リッチなユーザー・エクスペリエンスの提

供が求められる用途には、社内で構築するソフトウェ

アを選び、一方、低コストの運用管理、柔軟な課金

モデルが求められる用途には、インターネットを介し

て利用する社外のサービスを選ぶといった具合だ。

そして、社内ソフトウェアと社外サービスは必ずしも

二者択一で選ばれるのではなく、コンポジット(組み

合わせ)型の構成をとることもでき、ここがS+Sの最

大の特徴となっている(図1)。

コンポジット構成のメリット S+S、すなわちソフトウェアとサービスのコンポジッ

ト構成は、ユーザー企業にどのようなメリットをもたら

すのか。いくつかの観点から、両モデルを比較しなが

ら考えてみたい。

 まず、ITリソースを使った分だけ支払うという柔軟

な課金モデルを実現しやすいのは、明らかにサービス

Software+Servicesとは

 CPUの処理速度向上、ストレージの容量拡大、そ

してネットワークの広帯域化を背景に今、コンピュー

ティング環境はシステム中心からユーザー中心へとシ

フトしつつある。このようなユーザー中心のコンピュー

ティングでは、だれもが、いつでも、どこにいようとも

必要な情報にアクセスでき、それを活用することで、

ワークスタイルやライフスタイルを革新するための機

会を最大化していくことが目指されている。

両方の利点を融合したハイブリッド・アプローチ こうしたビジョンを実現するための次世代コン

ピューティング・モデルとして、現在、Microsoftは、

「Software+Services」(以下、S+S)を推進している。

S+Sは、ソフトウェアとサービスの両方の利点を融合

させたハイブリッド型のアプローチであり、このイニシ

アチブの目的は、個人の生産性やユーザーの満足度

を可能なかぎり高めることのできる、真の意味での

ユーザー中心のコンピューティングを実現することに

マイクロソフトが描く次世代ITモデルの構成要素

各種のソフトウェアおよびサービスを、ユーザーの使いたい場所・時間・形態に応じて提供する。今、Microsoftが掲げている「Software+Services」は、このようなユーザー中心のコンピューティングを真の意味で実現するためのコンピューティング・モデルである。本パートでは、Software+Servicesを実現するための技術基盤としてのWindowsプラットフォームという観点から、アプリケーション開発プラットフォームの.NET Framework 3.0/3.5やVisual Studio 2008、サーバOSのWindows Server 2008、RDBMSのSQL Server 2008について見ていく。

鈴木章太郎マイクロソフト デベロッパー&プラットフォーム統括本部 エバンジェリスト早稲田大学 講師(非常勤)

「Software+Services」時代のWindowsプラットフォーム

4Part

Page 47: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 69

特集Windowsプラットフォーム2008

多 角検証

のほうである。また、購入前に

試用が可能な点や、ハードウェ

アや運用にかかる労力・コストの

面でもサービスが有利だろう。

 一方で、企業ユーザーが、自

社における要件やコンプライアン

スに沿って自由にコントロール可

能であるという面においては、

従来型のソフトウェアに軍配が

上がる。また、柔軟なカスタマイ

ズ、拡張あるいは統合といった

面でサービスには限界があり、

これもソフトウェアが有利だ。そ

して、ユーザー・エクスペリエン

スの観点でも、ハードウェアに

備わるグラフィックス・パワーを十分に引き出すことが

でき、オフラインでの利用も可能なソフトウェアが勝っ

ている。

 このように、両者は決してどちらか一方がすぐれて

いるという関係ではない。そのため、ローカルに存在

するソフトウェアと、オンラインで提供されるサービス

とを適材適所の形で組み合わせることができるという

点こそが、S+Sの最大のメリットと言える。

 Microsoftは、今後、同社が提供するすべてのソ

フトウェアとサービスについて、何らかの形でこのS+

Sのコンセプトを取り入れ、提供していくことを明言し

ている。

 米国Microsoftのチーフ・ソフトウェア・アーキテクト、

レイ・オジー(Ray Ozzie)は、今年3月5日にラスベガス

で開幕されたWeb開発者向けコンファレンス「MIX08」

の基調講演において、「既存製品とサービスのすべ

てを、インターネットによって作り変える」と述べ、

RDBMSの「Microsoft SQL Server」のSaaS(Soft

ware as a Service)版となる「SQL Server Data Ser

vices」(画面1)の概要など、Microsoftが描くS+S戦

略について詳細な説明を行っている。

 それでは、S+Sを具現化する技術基盤としての

Windows製品ファミリーについて、順に見ていくこと

にしよう。

S+Sの技術基盤①.NET Framework 3.0/3.5

 S+Sを構成する技術を具現化するうえでコアとな

るのは、Microsoftのアプリケーション開発プラット

フォームの最新バージョン「.NET Framework 3.0/

3.5」である。.NET Framework 3.0/3.5では、S+S

のコンセプトに沿ったアプリケーションを設計・開発

するための各種クラス・ライブラリ/技術が提供され

図1:S+Sのコンセプトに基づく、ソフトウェアのコンポジット構成マイクロソフトが描く次世代ITモデルの構成要素

「Software+Services」時代のWindowsプラットフォーム

SaaS(会計)

SaaS(CRM)

ユーザー

構成アーキテクチャ

ITサービス・ポートフォリオ

統合アーキテクチャ

会計

CRM

連携ポータル

メール・システム

画面1:「Microsoft SQL Server」のSaaS版「SQL Server Data Services」(http://www.microsoft.com/sql/dataservices/)

Page 48: Computerworld.JP Jun, 2008

Computerworld June 200870

Pa

rt

4

│「S

of

tw

ar

e

+Se

rv

ic

es

」時代のW

in

do

ws

プラットフォーム

る(図2)。

 .NET Framework 3.0/3.5のプレゼンテーション

層では、クライアントOSのWindows VistaにGUI/

ユーザー・エクスペリエンスを提供する「Windows

Presentation Foundation(WPF)」、リッチ・インター

ネット・アプリケーションの開発/実行環境である

「Silverlight」、ブラウザ拡張の「ASP.NET AJAX」、

ウィジェット・アプリケーションの「Vista Sidebar

Gadget」などが提供される。

 .NET Framework 3.0/3.5において、各種のアプ

リケーションの相互運用を制御するのは、Windows

Communication Foundation(WCF)だ。開発者は、

さまざまなアプリケーションを統一的な手法で接続さ

せるWCFによって、サービス指向アプリケーションの

構築をより容易に行えるようになり、社内のみならず

社外のサービスも加えたコンポジット構成をとること

が可能となる。ちなみにWCFは、.NET Framework

3.5で強化され、Windows Workflow Foundation(WF)

との連携がより緊密になった。

 WFは、定義したワークフローの入出力にWCFの

サービスを用いることで、社内外の外部クライアント

との連携を実現する。Microsoftは、この連携を旧来

のWebサ ービ スに 対 し て「Workflow Enabled

Services」と呼んでいる。Workflow Enabled Servi

cesの下では、ワークフローを内部に持つサービスを

.NET Framework 3.5●ASP.NET AJAX●.NET LINQ

●基本クラス・ライブラリ、など

.NET Framework 3.0●Windows Presentation Foundation(WPF)●Windows Workflow Foundation(WF)

●Windows Communication Foundation(WCF)●Windows CardSpace

.NET Framework 2.0●基本クラス・ライブラリ

●ASP.NET●ADO.NET

●Windows Form

図2:.NET Framework 3.0/3.5の技術スタック

 「Google Docs」や「Google Apps」といった米国Googleのホステッド型オフィス・スイートに対抗するべく、米国Microsoftが新プロジェクト「Albany」

(開発コード名)の開発を秘密裏に進めているようだ。今年3月末に、同社に近い情報筋が明らかにした。 この情報筋によると、Albanyは「Microsoft Office」のような、インストール型のオフィス・スイートと、「Office Live Workspace」「同OneCare」「同Suite」などの「Office Live」ホステッド型サービスを統合した小・中規模/コンシューマー向けパッケージ製品で、BestBuyなどの小売店を通して販売される見通しだという。ただし、Albanyに含まれるのは、Office Liveホステッド型サービスではなく、デスクトップ版のOneCareや「Windows Live Messenger」「Windows Live Writer」といったクライアント・アプリケーションが含まれるとの情報もある。 Microsoftが一部のテスターにAlbanyベータ版の試用を依頼していると、匿名の情報提供者は述べている。ただし、一切の情報を開示しないことがテスターの条件となっている。今回のベータ版は、パッケージの統合インストーラのテストが主目的のようだ。 Microsoft Officeの機能がどの程度、Albanyに入るかは不明だ。低価格を1つ の 売 りに す ると 見 ら れ るAlbanyは、お そらくWordやExcel、

PowerPointを含む「Office Home and Student 2007」が中心になる可能性が高い。米国でのOffice Home and Student 2007の小売価格は149ド ル95セントだ。これに 対し、Outlookを 含 むOffice 2007のStandard版は399ドル95セントで、250ドルの価格差がある。 Microsoftの広報担当者は3月26日、Albanyという開発コード名を持つ製品のベータ版テストを開始したことは認めたものの、詳細は明かさなかった。 Microsoftにとって、Googleなどが提供する低コストの「オフィスSaaS」は、もはや無視できない存在になってきている。同社が長年支配してきたパッケージ・ソフトウェアの領域をじわじわと浸食しているからだ。これに対抗するため、パッケージ・ソフトをメイン事業に据え、販売してきたMicrosoftも、オンライン・ソフトウェアを提供し、Software+Service構想に基づく具体的なサービスの投入を始めている。 「複数のバージョンを持つパッケージ版Officeが今後もコンシューマー市場やビジネス市場で成功し続けるとしても、将来的にはホステッド版のOfficeも提供する」と、あるMicrosoft幹部は過去に語っている。同社は、サービスを拡充するSoftware+Services構想を推し進めながら、既存のパッケージ・ソフトウェア・ビジネスとの“共食い”にならないよう、Albanyをハイブリッド製品として販売しようと考えているのかもしれない。

コンシューマー向けS+Sと目される「Albany」プロジェクトの正体は?Elizabeth Montalbano IDG News Serviceニューヨーク支局

Page 49: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 71

特集Windowsプラットフォーム2008

多 角検証

実現する、ワークフロー中心の分散アプリケーション

の開発が可能だ。

 加えて、企業のシステム管理者は、かつて「Info

Card」の開発コード名で呼ばれていたアイデンティ

ティ管理技術の「Windows CardSpace」を採用する

ことで、増大する一方のエンドユーザーのアカウント/

パスワード管理にかかる労力やリスクを軽減し、フィッ

シング詐欺などのセキュリティ被害の発生を最小化で

きるようになる。

S+Sの技術基盤②Visual Studio 2008

 上述した.NET Framework 3.0/3.5に対応するア

プリケーションを開発するための統合開発環境(IDE)

として、2007年12月に「Visual Studio 2008」がリリー

スされた。

 Visual Studio 2008は、Visual Studioの最新バー

ジョンとして、すぐれたユーザー・エクスペリエンスを

提供しうるアプリケーションを迅速に構築するための

機能群を提供する。.NET Frameworkの複数のバー

ジョンをサポートしており、開発者は、開発目的に応

じて、2.0/3.0/3.5の3バージョンを切り替えて使うこ

とが可能だ(画面2)。 その際、開発ツール自体がバー

ジョンの違いを正しく認識し、コンパイラや入力支援

の「IntelliSense」などの同期実行が行われる仕組み

になっている。

データ・アクセス/開発スタイルの統一化 Visual Studio 2008では、Visual Studio 2005

Team Systemで提供されていた単体テスト機能の統

合、「.NET LINQ」(Language Integrated Query:

統合言語クエリ)のサポートなどにより、データ・アク

セスの統一化が図られており、チーム開発時の効率

を向上させることができる(72ページの図3)。各種の

アプリケーションの開発を統一的な作業環境の下で

行えるので、チームで共有する知識や経験を生かし

た作業が可能となるわけだ。

 例えば、WPFをベースとしたWindows Vista用の

アプリケーションやWebデザイン・ツール「Microsoft

Expression」との連携による、ユーザー・インタフェー

ス・デザイナーとの共同作業、「Microsoft Office」ア

プリケーションの構築、Webアプリケーションの構築

など、異なる要件に合わせて最適なアプリケーション

を配備する必要があるケースで、大きな効果を発揮す

ることになる。

最新のWebアプリケーション開発技法に対応 普及が進むWebアプリケーションを開発するための

機能も大きく拡充されている。具体的には、Web UI

の最新技法であるAjax(Asynchronous JavaScript

+XML)スタイルのリッチなWebアプリケーションの

構築において、Ajaxアプリケーション開発環境自体

の強化、ASP.NET AJAXへの対応、JavaScript

対応のIntelliSense、デバッガ機能の強化などが施

された。

 先に紹介したMIX08コンファレンスで発表された、

RIA開発/実行環境の最新バージョン「Silverlight 2」

(本稿執筆時点ではベータ1)は、通称「.NET on the

Web」と呼ばれるクロスプラットフォーム/クロスブラ

ウザ対応のブラウザ・プラグインである。なお、Micro

softはSilverlightを、.NETとWebの統合を促進し、

.NETを次世代のWebプラットフォームへと昇華させ

るための主要技術の1つとして位置づけている。

画面2:「Visual Studio 2008」は、.NET Frameworkの複数のバージョンをサポートしている

Page 50: Computerworld.JP Jun, 2008

Computerworld June 200872

Pa

rt

4

│「S

of

tw

ar

e

+Se

rv

ic

es

」時代のW

in

do

ws

プラットフォーム

 そのほかには、品質向上のためのデザイン・ツール

やWebテスト・ツールの強化、サービス・プロセス機

能の強化、REST(Representational State Trans

fer)を採用したWeb 2.0系アプリケーションのサポー

ト、ワークフローおよびコミュニケーション・ツールの

強化、Webアプリケーションのデザインに対するサポー

トの拡充などがポイントとして挙げられる。

大規模開発プロジェクトに不可欠なALMの強化 チーム開発/運用の効率化を推進するアプリケー

ション・ライフサイクル・マネジメント(ALM)は、特に

大規模な開発プロジェクトにおいて重要となる。

Visual Studio 2008では、ALM関連機能も大幅に

強化され、大きな特徴の1つとなっている。

 同IDEには、チーム・コラボレーション機能として

コード・コメント機能が備わっている。この機能は、ソー

スコードの行単位で変更履歴を取得したうえで作業

項目と連動し、どの行の修正をいつ、だれが、どんな

理由で実施したかを記録・追跡できるようにするもの

だ。また、常時結合という機能も用意されている。こ

れは、ソースコードのチェックイン時に自動的にビル

ドを実施し、変更された機能が他の機能に影響を与

えないことを確認するための機能である。

 このほか、開発テストとアプリケーション品質確保

のための機能として、取得済みのパフォーマンスの基

準値を基に差分を数値化し、パフォーマンスの全体

最適を実現する機能や、ソースコードを分析し、コー

ドの複雑性を数値化するコード・メトリクス機能が用

意されている。

S+Sの技術基盤③Windows Server 2008

 ソフトウェアとサービスのハイブリッド・モデルであ

るS+Sにおいて、その実行基盤となるOSプラット

フォームは、当然のことながら、リプレースを強制され

るようなものであってはならず、ユーザー企業の既存

資産を保護できるものである必要がある。この点から、

世界中の企業で採用されているWindows Serverを

S+SのOSプラットフォームとして採用することは、理

アーキテクト

プロジェクト・マネジャー

データベース・プロフェッショナル

開発者 テスト担当者

システムの定義

ソリューションSDM

(システム定義モデル)

システムの実装

ビルド

タスク/不具合管理 プロジェクト管理 プロジェクト・ポータル

ビルド・プロセス自動化 構成管理 品質/進捗リポート化

プロジェクト

テスト・コード

ソースコード

データベースの設計・変更

DBプロジェクト スキーマ テスト用DB

システムの検証

各種テスト

図3:Visual Studio 2008で強化されたチーム開発

Page 51: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 73

特集Windowsプラットフォーム2008

多 角検証

にかなった選択であると言える。

 今年4月に国内で製品版がリリースとなったWindows

Server 2008は、新しい仮想化技術やネットワーク保

護技術をはじめとした数多くの機能強化・改善によっ

て、基幹業務にも堪えるサーバOSとしての信頼性や

管理性、柔軟性をさらに向上させている。

管理性の強化 Windows Server 2008には、システムの運用管理

にまつわる日々の作業負担を軽減し、コストを削減す

るための機能が多数備わっている。サーバ機能の容

易な構成を可能にする統合管理コンソール「サーバー

マネージャ」や、GUIを省いた管理コンソールのみの

構成「Server Core」などだ。加えて、UNIXサーバ

の管理者にはおなじみの管理手法である、スクリプト

による管理タスクの自動化を可能にする「Windows

PowerShell」が用意されている。

堅牢性の強化 アイデンティティ管理とアクセス制御をつかさどる

ディレクトリ・サービス「Active Directory」を核に、サー

バとネットワークを種々の脅威から保護するための機

能強化が施されている。例えば、検疫ネットワークで

クライアントPCを保護するNAP(ネットワーク・アクセ

ス保護)やWindowsファイアウォール、Windows

Vistaのデバイス使用の制御、バックアップなど、従

来から備わる機能がさらに強化された。また、システ

ムのダウンタイムを削減して高い可用性を確保するた

めのフェールオーバー・クラスタリングも備わる。

柔軟性の強化 柔軟性の強化に関する機能としては、ハイパーバ

イザを 採 用した 新 設 計 のサーバ 仮 想 化 技 術

「Hyper-V」(旧称:Windows Server Virtualiza

tion/開発コード名:Viridian)をはじめ、Windows

 マイクロソフトは3月6日、小規模企業を対象にしたホスティング・サービス「Office Live Small Business 日本語版」の正式運用を開始した。 Office Live Small Businessは、IT管理者がいない小規模企業を対象に、独自ドメインを利用できるホスティングやWebサイトの構築支援、「Windows SharePoint Services」を利用した基本的なマネジメント、従業員コラボレーション、CRM(Customer Relationship Management)などの機能を、オンライン経由で提供するサービスである。なお、2006年12月にベータ・プログラムが開始された当初は単に「Office Live」という名称だったが、正式運用を機に名称が変更された。 サービスの運用はマイクロソフトが一括して行い、ユーザーはPCからWeb経由で同サービスを利用できる。同社は「大きな投資を必要としない。登録した当日から利用可能で、多くのサービスは無料で提供される」と利点を強調している。なお、約2年間のベータ・プログラム期間中には、約2万4,000社のユーザーからフィードバックがあったという。 今回の正式運用で改良されたのは、「新規登録プロセスの簡略化」「インタフェースの改良」「独自ドメインの初年度無料化」「電子メールサービスのディスク容量拡大」「Webサイトデザインの操作性向上」「Outlookとの連携強化」

「専用ワークスペースの充実化」などである。 なかでも専用ワークスペースは、「Windows SharePoint Services 3.0」ベースの情報共有基盤であるワークスペースが装備されており、50MBのディスク容量と5名分のユーザー・アカウントが無料で提供される。また、Windows Live IDによるユーザー認証と、共有128bit SSLによるセキュ

リティも実現しているという。 サポート体制については、登録後30日間であれば、無料電話サポートが受けられる。なお、登録後30日以降は、メールによる無料サポートとなる。

「Office Live Small Business 日本語版」が正式スタートComputerworld編集部

「Office Live Small Business 日本語版」のポータル画面

Page 52: Computerworld.JP Jun, 2008

Computerworld June 200874

Pa

rt

4

│「S

of

tw

ar

e

+Se

rv

ic

es

」時代のW

in

do

ws

プラットフォーム

展開サービス(WDS)、場所に左右されないアクセス

環境を実現するターミナル・サービスの強化が挙げら

れる。また、遠隔の事業所内のサーバを管理するケー

スで用いられる読み取り専用のドメイン・コントローラ

や「BitLockerドライブ暗号化」機能などが提供される。

 このほか、Windows Server標準のWebアプリケー

ション基盤「Internet Information Services(IIS)」

はバージョン7.0に進化している。IIS 7.0には、オン

メモリ・プロセスのFastCGIが最初から備わっており、

これを用いると、例えばLinux上のPHPソースコード

が、そのまま改変なしで数倍から数十倍の処理速度

で実行可能になるという。

 

S+Sの技術基盤④SQL Server 2008

 Microsoftの次期RDBMSであるSQL Server

2008は、2008年第2四半期にリリースが予定されてい

る。現行のSQL Server 2005は、米国NASDAQや

英国LSE(ロンドン証券取引所)、日本の百五銀行など、

大規模かつミッション・クリティカルな環境で稼働実

績を積んできている。SQL Server 2008は、SQL

Server 2005のアーキテクチャや機能、操作体系を

継承したうえで強化や改良が施されている。そのため

ユーザーは、開発スキルや運用・バックアップなども

含め、既存の資産を生かしての移行が可能である。

 SQL Server 2008に備わる100近い新機能は、

Improvementと呼ばれる専門の開発チームによって

開発作業が進められてきた。そこでは、製品クオリティ

に近づいたときに初めて、開発のメイン・ラインに組

み込むというプロセスを採用し、製品の信頼性向上に

努めている。

コンプライアンス関連機能の強化 SQL Server 2008では、コンプライアンス(法令順守)

がメイン・テーマの1つに掲げられており、それを実現

するための改良が施されている。そのうちの1つに、透

過的なデータ暗号化がある。これまでは関数を利用し

て明示的に暗号化/復号を行う必要があったところ、

SQL Server 2008では、既存のアプリケーションを

変更せずに、データベース内のすべてが暗号化できる

ようになった。また、データベースが事前に定義した

ポリシーに従っているかどうかを確認する「Declarative

Management Framework」、企業全体の監査リポー

トの一元管理機能なども追加されている。

サーバ統合機能の強化 分類したワークロードに従って、CPUやメモリなど

のリソース利用率を制限する「リソースガバナ」機能が

用意される。1つのデータベース内で複数のアプリケー

ションが動作すると、各アプリケーション間でのリソー

ス調整が必要になるが、同機能を用いることで、これ

を詳細に調整できるようになった。例えば、ある優先

順位の低いアプリケーションのワークロードが、CPU

を5%しか利用できないように制限することが可能だ。

ただし、他にワークロードがまったく動作していない

のに常時5%しか利用できないのでは、リソースの有

効活用の面で問題になるため、こうしたケースでは制

限が自動的に解除される仕組みになっている。そのた

め、バッチ・ファイル処理に割り当てるリソースを昼

間に5%、夜には100%といった設定も可能である。

大規模データ・ウェアハウスへの対応と管理性の向上 大規模データ・ウェアハウスの構築などで重要とな

るデータ・パーティション機能が強化された。パーティ

ションをまたがるクエリについて、SQL Server 2005

ではシングルスレッド処理しか対応していなかったが、

SQL Server 2008では並列処理をサポートし、パ

フォーマンスを大幅に向上させている。さらに、運用

時のデータ圧縮機能が実装されるほか、データ圧縮

後に書き出すバックアップ圧縮機能も備わっている。

ビジネス・インテリジェンスのための機能 Webリポーティング機能が強化された。ゲージ表

示を可能にするなど、「Report Designer」で選択可

能なグラフを増やし、表現力を増している。加えて、

Page 53: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 75

特集Windowsプラットフォーム2008

多 角検証

空間情報をサポートし、経度・緯度情報をデータベー

ス内に格納できるほか、地図情報サービスWeb API

の「Microsoft Virtual Earth」との統合もサポートし

ている。また、2007 Office Systemとの緊密な統合

が可能であり、それにより、全社で利用するBI基盤

の構築が実現される。

S+SによるITインフラ改革に備える

 S+Sは、従業員の生産性向上を図りつつ、企業に

競争力とイノベーションをもたらすための手段である。

企業のIT/IS部門はこの新しいコンピューティング・

モデルに基づき、これまでの社内ITインフラの最適化

に加え、社外のサービスを取り込んだ複合的なITイ

ンフラを構築し、その戦略的活用を考えるフェーズに

入ることになる。

 その際には、社内外のサービスを組み合わせて利

用することの価値について検討することになる。例え

ば、自社のコーポレートWebサイトに、ホスティング

型の社外のCRMシステムや、その上にあるBPO(ビ

ジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスの機能な

どを組み合わせて提供し、バックエンドの顧客情報

システムなどと連携をとるといったケースである。

 こうすることにより、これまで会社案内のような紙

媒体と同じ役割であった静的なサイトが、ダイレクト

に顧客に開かれたチャネルとして企業に新たな収益

をもたらす。あるいは、従業員に、ビジネス・ツール

の1つとしての外部サービスの利用を促すことになり、

生産性や業務品質の向上を促進することになる。こ

れこそが、S+Sが実現しようとしている、真にユーザー

中心のコンピューティングの1つの形なのである。

 今後は、こうした手法をIT部門主導で検討し、経

営や業務に変革をもたらすことが目指される。そうし

た動きに今から注目し、自社での利用開始のタイミン

グを計っていただきたい。

 米国Microsoftは3月2日、企業向けホステッド・サービス「Microsoft Online Services」のサービス対象を拡大すると発表した。対象が拡大されたのは、グループウェアの「SharePoint Online」と、メッセージング・ツールの

「Exchange Online」である。両サービスは、2007年9月に提供が始まったが、利用できるのは、ユーザー数が5,000名以上の大規模企業に限定されていた。今後は、企業規模を問わず、これらのホステッド・サービスが利用可能となる。 なおMicrosoftは現在、米国に拠点を構える企業を対象にした、同サービスのベータ・テストを実施している。同社によると、一般企業への提供は2008年下半期を予定しているという。 Microsoft会長のビル・ゲイツ(Bill Gates)氏は3月3日、シアトルで開催された年次コンファレンス「Microsoft Office SharePoint Conference 2008」で基調講演を行い、これらのホステッド・サービスを紹介したうえで、

「2008年末までには、あらゆる規模の企業顧客に、同ホステッド・サービスを提供していきたい」と語った。 一般提供が開始されれば、Microsoftはホステッド・サービス分野において米国Googleと真っ向勝負をすることになる。Googleは2月28日、コラボレーション/コミュニケーション・ツールのホスティング・サービス「Google Sites」をリリースしている。 米国の市場調査会社Gartnerのアナリスト、マット・ケイン(Matt Cain)氏は、次のように指摘する。「MicrosoftのSaaS戦略は、2つの側面が共存している。

それは、ホステッド・サービスによるライセンス料と、それに付随する事業からの収入を獲得するという“攻め”の側面。もう1つは、Googleなどホステッド・サービスの強敵が仕掛けてくる侵攻を食い止めるという“守り” の側面だ」 しかし、Gates氏は、Googleとの競合にも動じる様子はない。同氏は、Googleが提供しているサービスを、以下のように痛烈に批判した。 「Googleのサービスには、多機能であるという“リッチ性”と、(ユーザーの操作要求にすぐに反応するという)“反応性”が決定的に欠如している。そのため、

“そこそこ”の成功しか収めていない。Googleは新サービスを発表して話題を作るのは得意だが、人々の関心を維持することはできない。率直に言って、Googleが最高の仕事をするのは、(新サービスの)発表当日だけだ」 一方、アナリストらは、今後、Microsoftがこの分野に本格参入することで、さまざまな課題を抱えることになると見ている。「Microsoftは業界最大級の一般向けポータル・サイトを運営しているが、企業を対象にした大規模なSaaSの提供には、高可用性、セキュリティ、マルチテナント・アーキテクチャ、ネットワーク・トポロジー、問題解決などに関する高度な専門知識が要求される」

(Cain氏) とはいえ、小・中規模企業にとってMicrosoftのホステッド・サービスが魅力的に映ることはまちがいない。Gartnerは2012年までに、企業内で使われるメールの総シート数の20%がホスティング・サービスへ移行すると予測している。ちなみに2007年の同数字は、わずか1%だった。

グーグルとのホステッド・サービス競争に自信を見せるゲイツ氏Nancy Gohring IDG News Serviceシアトル支局

「グーグルが最高の仕事をするのは新サービスの発表日だけだ」

Page 54: Computerworld.JP Jun, 2008
Page 55: Computerworld.JP Jun, 2008

システムのダウンタイム短縮や柔軟性の向上、さらにはサーバ・マシンの利用率向上など、サーバ仮想化技術はさまざまなメリットをもたらす。しかし、特にSMB(小・中規模企業)においては、「自社の場合、投資に見合う効果があるのか」「少人数のITスタッフと限られた資金で導入できるのか」といったハードルが立ちはだかり、なかなか導入に踏み切れないでいるのが実情だ。そこで本企画では、サーバ仮想化の導入プロセスをステップ・バイ・ステップ形式で解説し、導入に際しての注意点や効果的な配備方法を指南していく。犯しやすい過ちやそれによって起こる結果など、一般的なマニュアルではなかなか知りえない問題をあぶり出すために、「フェルゲンシュマイヤー(Fergenschmeir)」という架空企業での導入シナリオを設定して解説している。自社での導入をイメージしながら、何が成功し、どこが失敗したのかを見届けていただきたい。

サーバ仮想化導入ステップ・ガイド

VMwareの導入から配備までを「誌上ハンズオン」

June 2008 Computerworld 77

Matt PriggeInfoWorld米国版

特別企画

Page 56: Computerworld.JP Jun, 2008

78

特別企画

サーバ仮想化導入ステップ・ガイド

Computerworld June 2008

 Fergenschmeir社がサーバ仮想化の検討に入った

きっかけはいくつかある(画面1)。2007年5月、インフ

ラストラクチャ・マネジャーのエリック・ブラウン(Eric

Brown)氏は、サマー・インターンとして意欲的に仕

事をこなしていたマイク・ベイヤー(Mike Beyer)氏を

採用した。Beyer氏は入社早々、「社内でサーバを仮

想化している割合は?」と聞いてきた。もちろん、答

えはゼロだった。ソフトウェア開発チームは、開発プ

ロセスを効率化するために米国VMwareの「VMware

Workstation」と「VMware Server」をごく少数だけ

利用していたものの、サーバ仮想化の本格導入を考

えたことはなかった。だが、Beyer氏のこの何気ない

質問をきっかけに、Brown氏はサーバ仮想化を真剣

に検討してみることにした。そして、まずは市場調査

に乗り出した。

 Brown氏は、ITチームに早速相談し、過去に直面

した問題と仮想化がその解決策になりうるかどうかを

聞いた。その結果、仮想サーバのポータビリティ性と

いった明らかなメリットに加えて、特定のハードウェ

アにしばられないことや、サーバ統合によりITコスト

を削減できることも判明した。

 事業部門が実際に仮想化へ関心を示したのは、そ

の1カ月後のこととなる。Fergenschmeirのビジネス

に不可欠な存在でありながら、まったくサポートされ

ていなかったCRM(顧客関係管理)アプリケーション

用サーバが突然クラッシュしたからだ。アプリケーショ

ンを再インストールする方法をだれも知らなかったた

め、復旧するまで4日間もダウンしたままだった。原因

はすでに倒産したソフトウェア開発元にあったが、こ

の失態はIT部門にとって大きな汚点となり、同社で

キャリアを積み始めたばかりのBrown氏にとって、幸

先の悪いスタートとなった。

 最終的にサーバ仮想化の導入を決定づけたのは、

FergenschmeirのCEO、ボブ・ターシタン(Bob Ter

sitan)氏が日ごろからIT業界誌/サイトに目を通して

いたことだ。同氏は気に入った記事を見つけると、

CTOのブラッド・リヒター(Brad Richter)氏に、「この

Webポータルの記事を読んだのだが、わが社でもや

らないか? 携帯に電話してくれ」といった内容の電子

メールを送っていた。いつもならRichter氏が言葉を

濁したり、とんでもない予算を提出したりするうちに、

Tersitan氏はあきらめて別のプロジェクトに興味を向

けるのだが、InfoWorldで「サーバ仮想化導入ステッ

プ・ガイド」を読んでいたため、同社が抱える問題を

解決するにはこれしかないと確信していたようだ。

Brown氏は、そのころすでに市場調査を終えており、

CEOの承諾を得たからには前進あるのみだった。大

失態は一転してチャンスとなったのだ。

Step 2試用版で事前検証を行う

 Brown氏は、サーバ仮想化がディザスタ・リカバリ

とサーバ利用率の向上にいかに役立つかをよく理解

画面1:�サーバ仮想化導入の舞台となるFergenschmeir社。Webサイト(http://www.fergenschmeir.com/)はあるが、あくまで架空の会社だということをお忘れなく

Step 1サーバ仮想化の目的を考える

Page 57: Computerworld.JP Jun, 2008

79

サイバー・セキュリティ[罪と罰]

June 2008 Computerworld

していた。CEOからもゴー・サインが出ている。

 ただ、Brown氏は、IT部門に仮想化の経験がほと

んどないことに不安を抱いていた。一番詳しいのは

Beyer氏だったが、それとて仮想化環境を少しばかり

管理した程度の経験しかなく、新たな仮想化アーキ

テクチャを一から設計したことがあるわけではない。

 スタッフから出ていた反対意見も悩みの1つだった。

サーバ管理者のエド・ブラム(Ed Blum)氏とメアリー・

エドガートン(Mary Edgerton)氏は、VMware

Serverと「Microsoft Virtual Server」を以前使っ

ていたが、パフォーマンスに関して不満を抱いていた。

データベース管理マネジャーのポール・マルコス(Paul

Marcos)氏も、仮想ディスクのI/Oはトラブルが多発

するとの記事を読んだことがあるとして、仮想化プラッ

トフォーム上にデータベース・サーバを配備することに

二の足を踏んでいた。

 Brown氏とRichter氏は、1カ月以内にベンダーか

らプロポーザルをもらう予定だとTersitan氏へすでに

伝えていたため、いくつか不安材料はあるものの、プ

ロジェクトを進めていくことにした。両氏はまず、他

社がどのようにシステムを構築したかを知るために、

できるだけ多くの資料に目を通した。Brown氏は、

Beyer氏に「VMware ESX Server」の試用版を用

いて、テスト環境を構築するよう指示した(画面2)。IT情報を扱うブログで、サーバ仮想化ソフトとして

ESX Serverの評判が高かったからだ。

 数日後、Beyer氏はESX Serverを導入し、テス

ト用の仮想化環境で仮想マシンを走らせてみた。そ

の結果、仮想化プラットフォームと通常のサーバとで

は、ハードウェア要件が異なることがわかった。テス

ト用サーバに搭載されていた4GBの物理メモリでは、

4台以上の仮想サーバを同時に動かすことはできず、

また、オンボードの2つのネットワーク・インタフェース

だけでは、ネットワークの帯域幅が狭すぎて、仮想サー

バを増やせなかった。

 こうした制約はあったものの、彼らが配備したテス

ト用の仮想マシンは安定しており、Brown氏のチーム

が予想していたよりも、ずっと高いパフォーマンスを

発揮した。それまで懐疑的だったMarcos氏でさえ、

ディスクのスループットに目を丸くしたほどだ。Mar

cos氏は、基幹系データベース・サーバへの仮想マシ

ンの使用についてはまだ自信を持てなかったものの、

ワークグループ・アプリケーションの多くは仮想化の

候補になりうると断言した。

 事前検証を終えたRichter氏とBrown氏は、2週

間もあればTersitan氏に具体的なプランを提出でき

ると、自信を深めた。

Step 3キャパシティ・プランニングを行う

 FergenschmeirのITマネジャーらは、サーバ仮想

化ソフトによるパフォーマンスをテストし、十分な性能

を発揮すると判断した後、具体的な導入計画を立て

る必要があった。Brown氏とRichter氏は、プランニ

ングにあたり、「各サーバにどういう役割を持たるか」

「何を仮想化できるか」という基本的な2点を明確にし

なければならなかった。

 Richter氏は、各チームにサーバ・ベースのアプリ

ケーションと、それらのアプリケーションをインストー

画面2:��「VMware�ESX�Server」は、サーバ仮想化ソフトとして最も普及している製品で、市場での信頼性も高い

Page 58: Computerworld.JP Jun, 2008

80

特別企画

サーバ仮想化導入ステップ・ガイド

Computerworld June 2008

ルしてあるサーバのリストを作成するよう指示した。

Brown氏は、作成したリストを基に、サーバとアプリ

ケーションの依存関係を表す依存ツリーを作成した。

物理サーバの役割を正しく評価する Brown氏は、完成した依存ツリーを見て、サーバ

に対するアプリケーションの割り当てを従来のままに

するのは非効率だと判断した。データセンター内にあ

る約60台のサーバのうち、20個に及ぶアプリケーショ

ンを継続的に運用していたのは、わずか4台のサーバ

だった。このような状況となった最大の理由は、異種

アプリケーションの“データベース処分場”として使わ

れていた、2、3台のSQLデータベース・サーバにあり、

アプリケーションがサポートしているバージョンよりも

新しい、もしくは古いバージョンのSQLを使わざるを

えなかったためだ。

 そればかりか、5つの基幹アプリケーションが同じ

サーバにインストールされているなど、リスクの高い依

存関係も判明した。さらに、部門内のファイル共有シ

ステムに5台のサーバが重複して使われていたりと、

むだな依存関係が次々と明らかになった。

 Brown氏は、サーバ仮想化の導入に際しては、こ

うしたリスクやむだを避ける必要があると判断した。

このため、新しいアーキテクチャは、サーバ障害のリ

スクを最小限に抑えるため、基幹アプリケーションを

物理サーバで配信しつつ、不要な重複を排除するこ

とが前提条件となった。そのためには、サーバを60

台から72台に増やし、ライセンスに応じてさらにサー

バを増設しなければならないという試算になった。

仮想サーバと物理サーバを選別する ともあれ、アーキテクチャが決まった。Brown氏が

次に取り組んだのは、仮想化環境に配備するサーバ

と、物理サーバとして残すサーバの選別である。この

作業は、当初予想していたよりも難しかった。

 サーバを選別するには、各サーバに対する負荷、

つまり、物理的な仮想化ホストがいくつ必要かを決定

する必要がある。初期テストの結果、ESX Serverの

ハイパーバイザが、ホスト・サーバの“生”のパフォー

マンスを約10%消費していたため、仮想化ホストの実

際的なキャパシティは、仮想化されていないホスト・

サーバの90%であることがわかった。利用率90%以

上のアプリケーションを仮想化環境で運用すれば、

パフォーマンスが悪化するおそれがあるため、サーバ

を統合する意味もない。

 さらに、利用率を測定するのは容易ではなかった。

Windowsマシンで「Perfmon」、Linuxマシンで「SAR」

などの性能測定ツールを使えば、特定サーバの利用

率は簡単にわかるものの、そのサーバが別のサーバと

どういう関係にあるかまでを把握するのは一筋縄では

いかなかったからだ。

 例えば、医療費還付/給付金管理ソフトウェアを

走らせていたサーバ「Thanatos」は、デュアルソケッ

トに対応した動作周波数2.8GHzのシングルコア

Pentium 4プロセッサを搭載しており、平均ロードは

4%だった。一方、ボイスメール・システムの「Hermes」

は、デュアルソケットに対応した動作周波数2.2GHz

のデュアルコアOpteron 275プロセッサを搭載してお

り、平均ロードは12%という稼働状況だった。これら

2つのCPUは、アーキテクチャがまったく異なるうえに、

HermesのCPUコア数はThanatosの2倍だ。しかも、

仮想化環境をプランニングする際、基本的なリソース

としてCPUの利用率だけでなく、メモリ/ディスク/

ネットワークの利用率も同じくくらい重要なことが、事

態をさらに複雑にしていた。

 Brown氏は、キャパシティ評価用のアプリケーショ

ンがなぜこれほど多く存在するのかを、このとき初め

て理解した。10〜20台程度のサーバであれば、Ex

celをこじ開けて独力で解析するのにそれほど手間も

コストもかからなかっただろう。負荷を段階的に仮想

化して実環境での利用率を知るという手段もあった

が、これでは予算がいくらかかるかわからず、Tersi

tan氏とCFOのクレイグ・ウィンダム(Craig Wind

ham)氏から承認を得られるとは思えなかった。

 そこでBrown氏は、市場調査を行った後、Rich

ter氏に、サーバ仮想化のキャパシティ・プランニング

Page 59: Computerworld.JP Jun, 2008

81

サイバー・セキュリティ[罪と罰]

June 2008 Computerworld

を社外のコンサルティング会社に任せてはどうかと提

案した。そしてBrown氏は、VMwareのパートナー

に評価を依頼したところ、結果が出るまで1、2カ月か

かるとの返答を得た。少なくとも1カ月間はサーバの

稼働状況を観察しないことには、サーバ利用率を完

全かつ正確に解析できないというのがその理由だ。そ

れくらい時間をかけなければ、週報や月報など、処理

業務が毎日発生するわけではないプロセスの負荷を

反映できないのだ。

 技術的には確かにコンサルティング会社の言うとお

りだが、それだとBrown氏とRichter氏は、Tersitan

氏と約束した実装プロポーザルの締め切りに間に合

わなくなる。しかし、幸いにもWindham氏がプロポー

ザルは正確であるべきだと賛成してくれたおかげで、

Tersitan氏も納得してくれた。

 プロポーザルの延期は、Brown氏とTersitan氏の

両者にとって、むしろ幸いだったと言える。システム

の土台となるハードウェアやソフトウェアの選択など、

プランニング作業にはまだまだ時間がかかりそうな案

件が山ほどあったからだ。

 しばらくするとキャパシティ・プランニングの最初の

解析結果が届き、Fergenschmeirが抱えるアプリケー

ション・サーバの大半が10%以下のキャパシティで稼

働していることが判明した。加えて、サーバを72台配

備することを考えていたが、実際はかなりの数まで仮

想化により統合できることがわかった。既存アプリケー

ションを余裕をもってホスティングし、将来的な拡張

性を持たせつつ、1台のホスト・サーバに障害が起こっ

た場合でもダウンタイムを極力抑えられるようにする

ためには、デュアルソケット対応のクアッドコアCPU

を搭載した8、9台の物理サーバを、ESX Serverで

仮想化するという構成が最良だと判断した。

Step 4仮想化環境の物理基盤を整備する

 仮想サーバ上で動作させるアプリケーションと物理

サーバに残すべきアプリケーションを決めるために、

コンサルティング会社がサーバ利用率を解析している

間、FergenschmeirのITチームは、ホスト・サーバと

してどのハードウェアを使うかを考え始めていた。

仮想化ソフトの判断基準 ハードウェアは、テスト済みのESX Serverと互換

性を持っていることが条件だったため、Brown氏の

チームはESX Serverのハードウェア互換性リストを

チェックすることから取りかかった。だが、Edgerton

氏が発した「本当にVMwareでいいのか?」という一

言をきっかけに、仮想化のソフトをもう一度見直すこ

とになった。

 ここまでの解析とプランニングの過程において、だ

れ1人としてVMwareに疑問を挟む者はいなかった。

VMwareはだれもが知っている定番の製品だが、仮

想化プラットフォームは他にもいくつかある。そもそも、

Brown氏のチームがVMwareの導入を決めた理由は、

Beyer氏が過去に使ったことがあるという、ただそれ

だけの理由なのである。後悔しないためにも、ここで

再検討したほうがよいという話になった。

 Brown氏が知るかぎり、当時、主な仮想化プラッ

トフォームは4種類あった。VMwareの「VMware In

frastructure」(ESX Serverを含む)、米国Virtual

Iron Softwareの「Virtual Iron」、米国XenSource

の「XenEnterprise」、そしてMicrosoftのVirtual

Serverである。

 Brown氏は、この中でもMicrosoftを選ぶ気には

なれなかった。過去に読んだ記事や、Virtual Ser

verを使ったことがあるBlum氏の話を聞き、VMware

に比べて成熟度、パフォーマンスともに劣ると判断し

たからだ。XenSourceについても成熟度に不安があっ

たうえ、この会社がM& Aの標的にされていると噂さ

れていたことから、できれば避けたかった(事実、

XenSourceは後に米国Citrix Systemsにより買収さ

れた)。

 Virtual Ironには、別の点で不安があった。VM

wareとVirtual Ironは成熟度の点でかなり近かったが、

Page 60: Computerworld.JP Jun, 2008

82

特別企画

サーバ仮想化導入ステップ・ガイド

Computerworld June 2008

Virtual IronはVMwareと比べて価格が4分の1だった。

Brown氏は、この点が気になり、Richter氏とそれぞ

れの長所/短所についてじっくりと話し合った。

 結局、Brown氏とRichter氏は、当初の計画どお

りVMwareを採 用することにした。決め手は、

VMwareのほうが広く普及しており、使用経験を持

つエンジニアがはるかに多かったことと、VMware向

けサードパーティ・ツールが将来的に増えると思われ

たからだ。加えて、Tersitan氏とWindham氏が

VMwareという名前をすでに知っていたことも大き

かった。無名の製品を使うとなれば、その理由を説

明するのにかなりの手間と時間がかかるうえに、もし

失敗すればBrown氏とRichter氏のキャリアに傷が

付くことになる。両氏は、そこまでのリスクを冒す気

にはなれなかった。

ホスト用としてブレード・サーバを採用する 仮想化プラットフォーム選定の問題が解決した後、

Brown氏はコンサルティング会社からキャパシティ・

プランニングの解析結果を受け取った。結果は、8、

9台のデュアルソケットを備えたクアッドコアCPU搭

載サーバが必要とのことだった。これを踏まえ、IT部

門は、データセンター向けのハードウェア・プラット

フォームを選定する作業に戻った。Fergenschmeirは、

すでにDellとHPのハードウェアを多数所有していた

ため、まずはこの2社のプラットフォームから検討する

ことにした。IT部門のだれもが、両社のハードウェア

で苦い経験をしたことがあり、どちらを使うべきかを

決めかねていた。HPのほうが品質はよいが、Dellも

低価格で魅力的だという点で全員の意見は一致して

いた。しかし、Brown氏にとって、ハードウェアの細

かい仕様はどうでもよかった。両社のサーバは、

VMwareのESX Serverが正常に稼働していたし、

世界的にも有名なブランドである。Blum氏とEdger

ton氏がHPの管理ソフトを気に入っていたことから、

Brown氏の気持ちは早くからHPに傾いていた。

 Brown氏のチームがサーバ・モデルの選定に入ろ

うとしたとき、再びTersitan氏からRichter氏に、「Info

Worldのブレード・サーバに関する記事を読んでくれ。

わが社の“グリーン・キャンペーン”にぴったりだ。読

んだら携帯に電話すること」という内容のメールが送

られてきた。Tersitan氏は、ブレード・サーバの運用

管理面におけるメリットや低い電力消費量、効率的な

空調能力など、物理サーバの選定に関する有益なア

ドバイスを与えてきたわけだ。

 Tersitan氏のメールにより、ハードウェアの選択

基準は大きく変わった。一般的にブレード・サーバの

アーキテクチャは、使用するインターコネクトの種類

と組み合わせが標準的なサーバよりも限られているこ

とから、どのタイプのストレージを選ぶかが非常に重

要になる。

 ブレード・サーバの選定に際してBrown氏は、スタッ

フのストレージに関するスキルも再度見直す必要に迫

られた。チーム内にSAN(Storage Area Networks)

の導入経験を持つスタッフはいなく、ファイバ・チャ

ネル(FC)に至ってはほとんど知識さえなかった。こ

のため、Brown氏は、価格が安くコンフィギュレーショ

ンが簡単で、かつ高いパフォーマンスを発揮できる

SANを使いたかった。

 Brown氏は、さまざまな製品を検討し、ESX Ser

写真1:�サーバ仮想化にはそれなりのハードウェア要件が求められる。Fergenschmeirは、HPのブレード・サーバ「HP�BladeSys�tem�c-Class」を物理基盤として利用した

Page 61: Computerworld.JP Jun, 2008

83

サイバー・セキュリティ[罪と罰]

June 2008 Computerworld

verのハードウェア互換性リストや価格を比較した結

果、EqualLogic iSCSIアレイを2台採用することに

した。高〜中レベルのパフォーマンスが求められるデー

タ用に、SASアレイとSATAアレイをそれぞれ1台ず

つ選んだ。

 EqualLogicのiSCSIアレイを選択したことで、ブ

レード・サーバ1台につき、多数のギガビットEther

netリンクをサポートするアーキテクチャを構成しなけ

ればならなくなった。ここでDellは候補から外され、

選択肢がHPの「HP BladeSystem c-Class」(写真1)とSun Microsystemsの「Sun Blade 6048」に絞られ

た。結局、HPの管理ソフトを推すEdgerton氏の意

向に従い、HPに決まった。各ブレードは、24GBの

RAMと6GbpsのEthernetポートを搭載する、デュア

ルソケットを備えたクアッドコアCPUサーバである。

ホスト・サーバのRAM容量が厳しくなったら、ITチー

ムはアップグレードを通してブレードのRAMを増設

することになるだろうが、とりあえずスタートとしては

このコンフィギュレーションで十分だと思われた。

ネットワークの構成を決定する 次の問題は、ネットワークにどういった装置を追加

するべきかを決めることだった。Fergenschmeirのネッ

トワーク・コアには、2台の旧型のスイッチ「Cisco

Catalyst 4503」が使われている。ネットワーク・クロ

ゼットからのファイバ・チャネルはすべてここに引き込

まれており、データセンター内の全サーバに対応でき

る十分な銅線密度を提供できていなかった。すべて

のサーバをデュアルホーム化して冗長構成にするだけ

では不十分であった。前年には、不足分を補うため

に無名ベンダーのギガビット・スイッチを増設したス

タッフがいたが、今回もその必要があった。

 Brown氏は、スイッチの価格と仕様を検討した結果、

「Cisco Catalyst 3750-E」(写真2)を2スタック導入

して、メンテナンスすればまだ使えるCatalyst 4503

スイッチをネットワーク・エッジに追いやることにした。

Catalyst 3750-Eスイッチは、通信ルームのファイバ・

ターミネーション近くに設置して、中核となるルーティ

ング作業を行わせ、Catalyst 4503は廊下の奥に置

いてサーバ・ファームの切り替え作業を行わせること

にした。

 Brown氏は、将来の拡張性を見据え、Catalyst

3750-Eのスタック間で2本の10Gリンクをサポート可

能なモデルを採用することにした。今回導入したスイッ

チ製品の価格を合計すれば、非常に冗長性の高い

「Cisco Catalyst 6500」シリーズを1台購入できる金

額になるが、そうすると通信ルームからデータセンター

まで膨大な量の銅線を確保するか、そのスイッチを稼

働させるためにデータセンターまで光ファイバ・ドロッ

プ・ケーブルを拡張しなければならず、Brown氏とし

てはどちらも避けたかった。

サーバ仮想化に伴う総コストを見積もる サーバ仮想化に伴うハードウェア/ソフトウェアの

予算は、ここまで検討してきたすべてを含むと、総額

30万ドル程度と見積もられた。内訳は、サーバ・ハー

ドウェアに11万ドル、ネットワーク・ハードウェアに4

万ドル、ストレージ・ハードウェアに10万ドル、VMwa

reのライセンスに5万ドルである(84ページの表1)。 30万ドルという予算額は、仮想サーバと物理サー

バの比率が10対1、つまり72台のアプリケーション・

サーバを仮想化するために8台の物理サーバが必要に

なると試算した、コンサルティング会社のキャパシ

ティ・プランニングをベースにした数字である。これを

受けBrown氏は、障害復旧と将来的な拡張性を加味

写真2:��サーバを仮想化する前に、「Cisco�Catalyst�3750-E」を新規導入し、ネットワーク・インフラのボトルネックを解消した

Page 62: Computerworld.JP Jun, 2008

84

特別企画

サーバ仮想化導入ステップ・ガイド

Computerworld June 2008

し、9台のホスト・サーバと管理用のブレード・サーバ

を1台確保して仮想化環境を構築することにした。

 このやり方だと、仮想サーバ当たり約4,200ドルの

導入コストがかかる計算になる(完全に冗長性のある

ストレージとコア・ネットワーク・インフラを含む。ただ

し、人件費とソフトウェア・ライセンスは除外)。一般

的にコモディティ・サーバは、5,000〜6,000ドルの導

入コストがかかると言われているため、かなり経済的

だと思われた。Brown氏は、コモディティ・サーバが

高可用性/ロード・バランシング機能を備えておらず、

90%以上がアイドル状態になっている現状を考えれ

ば、まさに破格の導入コストだと思った。

 ちなみにBrown氏とRichter氏がこの事実を知っ

たのは、Tersitan氏からの予算承認を得て、購入注

文書をファクスで送った後のことである。

Step 5仮想サーバを配備する

 サーバ仮想化に使用するハードウェアとソフトウェ

アの購入注文書を送ってから1カ月後、Fergen

schmeirのIT部門はサーバ仮想化の配備にすぐに取

りかかることができた。

 このわけは、HP、ないしはVAR(付加価値再販業者)

からブレード・サーバを購入してプリアセンブルさせる

のではなく、Edgerton氏がディストリビューターに直

接注文したからだ。こうすれば自由にアセンブルでき

るうえに、コストも安く済む。

 プリアセンブルを避けたことで、Fergenschmeirに

届けられたハードウェアの入った段ボールは、合計

120箱以上に上った。Edgerton氏とBeyer氏は、箱

から中身を取り出すだけで丸1日を費やした。ハード

ウェアのアセンブルは特に難しくなく、1週間もしない

うちに、彼らはブレード・サーバのシャーシを組み立

ててデータセンターに設置し、電気技師といっしょに

回線の引き込み作業を完了した。これと並行して

Blum氏は、コア・ネットワーク・スイッチを交換する

ために、連日深夜まで残業していた。

 9台のブレード・サーバにESX Serverをインストー

ルし、管理用として確保したブレード・サーバに「VM

ware VirtualCenter」をインストールするまで、そう

長くはかからなかった。

想定外の“壁”に直面 だが、ここからプロジェクトが脱線し始める。それ

までは、Beyer氏が大学でESX Serverを扱ってい

た経験が大いに役立っていた。Beyer氏は、ESX

Serverのインストール方法を知っていたし、本格稼

働後も基本的な管理方法を熟知していた。しかし、

大学では、インストラクターがネットワーク・スタック

を構成する現場までは指導していなく、ESX Server

とSANをどう統合するかについて、Beyer氏は何も

知らなかったのだ。

 いろいろと試行錯誤したり、VMwareのオンライン・

フォーラム(画面3)で的外れな質問をして恥をかいた

りしながら、どうにか動かせるまでにはなったが、

Blum氏、Edgerton氏、Beyer氏の3人は、この構

成が正しいのかどうかまったく自信を持てなかった。

ネットワークとディスクのパフォーマンスが期待したほ

ど出なく、一部の仮想マシンとネットワーク接続に至っ

ては頻繁に途切れたりしていた。3人は、このままで

はプロジェクトが台無しになるのではないかと恐怖心

を募らせていった。

 Brown氏は、IT部門のスタッフに自信をもって仮

表1:�Fergenschmeirにおけるサーバ仮想化の導入コスト。72台のアプリ・サーバを仮想化するために、管理用を含め10台の物理サーバを導入している

導入品目

サーバ・ハードウェア

ネットワーク・ハードウェア

ストレージ・ハードウェア

サーバ仮想化ソフト

合計

コスト

11万ドル

4万ドル

10万ドル

5万ドル

30万ドル

Page 63: Computerworld.JP Jun, 2008

85

サイバー・セキュリティ[罪と罰]

June 2008 Computerworld

想サーバを実装させるには、研修に行かせるか、第

三者のアドバイスに頼るしかないと判断した。VM

wareが定期的に開催しているセミナーは2週間も先

だったため、Brown氏はキャパシティ・プランニング

を依頼したコンサルティング会社に実装の手助けを

依頼した。

 予想外の手痛い出費だったが、その価値はあった。

コンサルティング会社は、Edgerton氏とチームを組

んで最初に数台のブレード・サーバを構成した。さら

にBlum氏とも、非常に複雑なVMwareの仮想ネット

ワーキング・スタックとCiscoのスイッチをメッシュす

るにはどうすれば一番効果的かを話し合った。このよ

うにして、実地で知識を習得できたことは非常に有意

義だった。

 Edgerton氏は後日、VMwareの研修を受けたもの

の、そのカリキュラムでは独力で完全なシステムを構

成するのは到底不可能だと感じた。仮想化には、ネッ

トワーク/サーバ/ストレージといった多くの要素が

かかわってくるため、小規模なサーバ環境に実装す

るだけでも、すべてに精通したベテランでなければ実

現は困難なのである。

マイグレーション作業に潜む落とし穴 デプロイメントを開始してから約1カ月後、Brown

氏のチームは検証をすべて終え、サーバのマイグレー

ション作業に取りかかる準備が整った。

 Brown氏は、VMware Infrastructureスイートで

用意されている、物理サーバから仮想サーバへのマイ

グレーション・ツール「VMware Converter」を試し、

とりあえず2、3台の物理サーバをマイグレーションし

てみることにした。

 ところが、しばらくするとVMware Converterのス

ピードと使い勝手に難があることがわかった。古い物

理サーバから仮想化ソフトを導入した最新のブレー

ド・サーバにマイグレーションしたことで、Fergen

schmeirが抱えていたハードウェア関連の問題はある

程度解消された。しかし、アプリケーションのインストー

ルやアップグレード、アンインストールを長年繰り返

してきたことで、Windows環境全体の性能が劣化し

ており、侵入されたバグの問題が逆に悪化してしまっ

た。なかには問題なく稼働するサーバもあったが、元

の状態よりパフォーマンスが低下するサーバもあった。

 少し掘り下げてテストを実施したところ、一昔前に

構築したWindowsサーバに関しては、既存のサーバ

へまるごと移植するよりも、ゼロから仮想マシンを構

築した後、アプリケーションを再インストールし、デー

タを移行するほうが効果的だと判明した。

 だが、そうするとマイグレーション作業に予定より

長い時間がかかってしまう。Blum氏、Edgerton氏、

Beyer氏の3人は、VMwareのクローニング/デプロ

イメント・ツールを使い、ベース・テンプレートからクリー

ン・サーバをわずか4分で配備したが、これはあくまで

簡単な部分にすぎない。難しいのは、アプリケーショ

ンのドキュメンテーションに隅々まで目を通しながら、

アプリケーションが最初にどうインストールされて、こ

れからどうのようにインストールするべきかを判断する

ことだった。3人は、ESX Serverのインストールおよ

び構成方法を理解するために、経験したことがないほ

どの長い時間をかけてアプリケーション・ベンダーと電

画面3:�VMwareのコミュニティ・サイトでは、製品に関するさまざまな質問ができる。テーマやトピックごとに質問が細分化されており、例えばここでは、Oracle製品の仮想化についてQ&Aがなされている

Page 64: Computerworld.JP Jun, 2008

86

特別企画

サーバ仮想化導入ステップ・ガイド

Computerworld June 2008

話で話し合った。

 また、彼らの仮想化に対する無知は、もう1つ手痛

い結果をもたらした。3人は、プロジェクト・プランニ

ングの間、ハードウェアをVMwareの互換性リストと

照合したが、だれ1人としてアプリケーション・ベンダー

に電話して、仮想化環境をサポートしているかどうか

を確認しなかった。実際、後になってベンダーがサポー

トしていないケースがあった。

 仮想化をサポートしてないアプリケーション・ベン

ダーの中には、長年パッチを適用していないOSでア

プリケーションを走らせていてもサポートを拒否しな

かったり、インストール先のハードウェアがかなり寿

命に近づいていてもふつうにサポートしてくれていた

りしたが、仮想サーバで走っているアプリケーション

だけは、不安を感じて及び腰だった。

 一部のソフトウェア・ベンダーにとっては、単にイン

フラの構成にまで責任を負いたくないという考えだっ

たようだ。ITチームは、こうしたベンダー側の不安を

理解し、ハードウェアが原因でパフォーマンスに問題

が生じたときは、Fergenschmeirの手で解決するか、

仮想化されていない環境でその問題を再現させてほ

しいというベンダー側の要望を受け入れることにした。

 また、仮想化に対して無知なベンダーもいた。サポー

ト・センターに電話しても、ESX Serverのようなハイ

パーバイザ型のサーバ仮想化ソフトではなく、VM

ware WorkstationやVMware Serverといったエミュ

レータ的な仮想化ソフトと勘違いする担当者がいた。

このため、知識の乏しいサポート・スタッフの名前を

覚えておいて、そのスタッフが電話に出たときは別の

エンジニアに代わるよう頼んでいた。

 ある企業に至っては、仮想マシンへのインストール

は一切サポートしていないと、まったく取り合ってさ

えくれなかった。そういう場合は、いったん電話を切っ

てかけ直すことにした。2度目の電話で「仮想化」とい

う言葉を使わなかったところ、テクニカル・サポートは

インストールと構成を快く教えてくれた。

 アプリケーション・ベンダーが仮想化に乗り気でな

かったり、まったく無知、あるいは頭ごなしに拒否し

たりしたことに、FergenschmeirのITスタッフはいい

気分はしなかったが、サーバ仮想化に伴い発生する

問題はこれからが本番だと言えた。Brown氏と

Richter氏は、「お互い思いがけず大きな責任を背負

うことになったな」と個人的に話すことが度々あった。

Step 6仮想化の経験を次に生かす

 FergenschmeirのITチームがサーバ仮想化に取り

組んでから5カ月後、プロジェクトがようやく完了の運

びとなった。

 結局、ESX Serverで構築した仮想化環境を安定

させ、ITチームのスタッフを教育し、十分快適に使

いこなせるよう環境をテストするのに1カ月半もかかっ

てしまった。そして、ユーザーから不満が出ないレベ

ルのサポート品質を保ちながら、すべてのアプリケー

ションを手作業でマイグレーションするのに、さらに3

カ月を要した。

 Brown氏は、プロジェクトの終了間際、作業効率

を上げるために外部の人材を利用していたが、仮想

化の基幹部分はほとんどFergenschmeirのITスタッ

フみずからの手で行った。

 サーバ仮想化を導入してから数カ月が経過したが、

Brown氏はサーバ・ネットワークの安定性に現在、非

常に満足している。VMware特有のバグ、特に管理

ソフトのバグこそあったものの、仮想化環境に移行す

る前に発生したバグの量に比べれば、微々たるもの

である。

 苦労してインフラをゼロから再構築したことも、IT

スタッフにとってアプリケーション・インフラの構造を

再確認するよい機会となった。Brown氏は、再構築

のステップを1つ1つ文書化するよう指示することで、

仮想化を通してITスタッフに知識を整理する機会を

与えた。将来、テクノロジーやアーキテクチャが根本

から変わったとしても、すぐに対応できるようになる

からだ。

Page 65: Computerworld.JP Jun, 2008

「話題の製品の機能を詳しく知りたい」「自社では、どのような技術を使うのが最適なのだろうか」──企業において技術や製品の選択を行う「テクノロジー・リーダー」の悩みは尽きない。そこで、本コーナー[テクノロジー・フォーカス]では、毎号、各IT分野において注目したい製品や技術をピックアップし、その詳細を解説する。

[テクノロジー・フォーカス]

Storages[ストレージ]高速処理と省電力を共に実現する新世代ストレージ「SSD」の可能性

Networks[ネットワーク]

Sys.Admin[システム運用管理]

ITIL適用の真実──いかに着手し、実践するか

TechnologyFocus

June 2008 Computerworld 87

コンシューマーからエンタープライズへ──本格化するOpenIDの明日を探る

Page 66: Computerworld.JP Jun, 2008

Computerworld June 200888

Technology Focus

ユーザーは、通常、サービスへのログイン時にユーザー

IDとパスワードを入力するが、OpenIDでは上記のよ

うなURLまたはXRIを自身のIDとして入力すること

で、サービスへログインできるようになる。

 ユーザーからURLまたはXRIを受け取ったリライ

ング・パーティは、それをユーザー IDとして認めるの

が妥当かどうかを、OpenIDプロバイダーに確認する

ことになる。ここで、リライング・パーティがどのOpen

IDプロバイダーに問い合わせるかは、ユーザーがID

として利用しているURL/XRIに基づいてアドホック

に探索・取得する、XMLベースのXRDS(Extensible

Resource Descriptor Sequence)文書、もしくは

HTML文書内の記述に基づいて決定される。つまり、

リライング・パーティ側では、OpenIDプロバイダーの

情報をあらかじめ持つ必要がないため、Webサイト間

のサービス連携において手間のかかる、相互の事前

設定作業を不要にしている。

 ユーザー IDを保証するOpenIDプロバイダーで、

どのような本人確認がなされるかはOpenIDの仕様を

規定した「OpenID Authentication」のスコープ外で

あるが、基本的にはパスワードや、あるいはより強固

な認証機構が利用される。そして、OpenIDプロバイ

OpenIDを特徴づけるユーザーIDの役割

 OpenIDとは、ユーザーが自由に選択したIDをさま

ざまなWebサービスへのログインに利用できる、非集

中型のアイデンティティ・フレームワークのことである。

最大の特徴は、「ユーザー識別子(ユーザー ID)を基

盤とするデジタル・アイデンティティ」という点にある。

 OpenIDでは、ユーザー IDを単なる文字列として

ではなく、ユーザーのアイデンティティを証明する

Webサイト(OpenIDプロバイダー)に対する“ポインタ”

として利用する。つまり、OpenIDを受け入れるWeb

サイト(リライング・パーティ)へログインする際のユー

ザー IDを入力する行為は、同時に「わたしのアイデン

ティティを証明するのは、このOpenIDプロバイダー

である」と表明することにもなる。

 OpenIDでは、ユーザー IDとして2つの形式を定

義している。1つはURLであり、例えば、「http://

johnsmith.example.com」のような形式になる。もう1

つは、URI(Uniform Resource Identifier)と互換

性があるXRI(Extensible Resource Identifier)で、

こちらは「=john.smith」のような形式で表現される。

Nコンシューマー分野でOpenIDが急速な勢いで普及しつつある。機能を絞ったシンプルな仕様であるOpenIDは、これまで大手ベンダーが挑み、ことごとく足踏みしてきた、Webサイト間をまたいだシングル・サインオン(SSO)の基盤作りに活路を開こうとしている。一方、エンタープライズ分野でも、企業内および企業間におけるアイデンティティ管理やSSO基盤にOpenIDを利用しようとする動きがある。本稿では、OpenIDのこれまでの軌跡やその最新仕様を解説するとともに、エンタープライズ分野で想定される利用シーンを検証していく。それらを通し、エンタープライズ分野におけるOpenIDの課題と可能性を探っていきたい。

工藤達雄サン・マイクロシステムズhttp://blogs.sun.com/tkudo

etworks[ネットワーク]

コンシューマーからエンタープライズへ──本格化するOpenIDの明日を探るB2BでのID管理基盤作りには、各種標準仕様との相互運用が必須

Page 67: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 89

Netw

orksNetworks

IDプロバイダーの運用を開始するなど、さまざまな分

野へOpenIDは広がってきている。

 そして2007年12月には、「OpenID Authentication

2.0」と「OpenID Attribute Exchange(AX) 1.0」の

両仕様からなる、いわゆる「OpenID 2.0」が最終的に

確定した。これを受けて2008年1月、Yahoo!がOpen

ID Authentication 2.0に準拠したOpenIDプロバイ

ダーの運用を米国のみならず日本でも開始した。

 それまで国内では、ライブドアやはてなといった一

部の企業がOpenIDプロバイダーとしてサービスを提

供していたが、さらにYahoo!がOpenIDをサポートし

たことにより、日本のYahoo!サイトに登録済みのID

すべてがOpenIDに対応することになり、潜在的な

OpenID利用者が爆発的に増大した。

 OpenIDの仕様はコミュニティ主導の下に策定され

ているが、仕様の知的財産権を管理し、OpenIDの

普及促進を目指す団体として、2007年6月にOpenID

Foundation(OIDF)が米国で設立されている。OID

Fは今年に入り、Google、IBM、Microsoft、Veri

Sign、Yahoo!を新たなメンバーとして加えており、日

本支部も今年4月に設立される予定だ。

支持に回った大手Webサービス・ベンダーの“本音”

 MicrosoftやGoogle、Yahoo!などの大手企業が

OpenIDを支持する背景には何があるのだろうか。

 その狙いの1つは、外部サイトとの連携強化による

自社サービスの向上にある。自社サービスのユーザー・

アカウントを外部サイトのログイン時にも利用できるよ

うにすることで、アカウントの有用性を高め、ひいて

は自社サービスに対するロイヤルティを維持すること

につながるわけだ。

 こうした連携を実現するために、これまで各Web

サービス・ベンダーは、それぞれ独自の認証APIを開

発・公開し、外部サイトに採用を呼びかけてきた。

Yahoo!のBBAuthやAOLのOpenAuthなどはその一

例である。

ダーは、ユーザーが主張する「自分を識別するための

URL/XRI」が本当にユーザー IDとして正しいかどう

かを判断し、その結果をリライング・パーティに送信

する。こうした一連の作業により、ユーザー認証が行

われるわけだ。

 最終的にリライング・パーティは、OpenIDプロバイ

ダーからの回答に基づきユーザー IDを識別し、ログ

インの許可/拒否の判断や、サービス内容およびア

クセス範囲の制限/認可を行うことになる。以上の処

理をユーザーの視点から見ると、1つのOpenIDプロ

バイダーにログインするだけで、複数のリライング・パー

ティで個別のログインが不要となる、いわゆるWebサ

イト間をまたいだシングル・サインオン(SSO)が実現

されることになる。

激変するOpenIDを取り巻く状況

 2007年から2008年にかけて、大手ITベンダーと

Webサービス・ベンダーが次々とOpenIDへの支持を

表明している。

 OpenIDは、2005年にその原型が作られたものの、

しばらくは開発者や先進的なユーザーの間で検討さ

れたり、試験的な実装/サービスの提供にとどまった

りしていた。

 こうした流れに変化が起きたのは、2007年2月に開

催されたセキュリティ関連のコンファレンス「RSA

Conference 2007」において、MicrosoftがOpenID

への支持を表明したことに加えて、同時期にAOLが

自社サービスのユーザー 6,300万人を対象にOpenID

を提供すると発表したことが大きく関係している。最

大手のソフトウェア・ベンダーと大手ISPの両社がと

もにOpenIDへの支持を表明したことにより、一般企

業やコンシューマーからの注目は一気に高まった。

 その後、2007年5月には、Sun Microsystemsが

自社の社員を対象としてエンタープライズ用途に

OpenIDの発行を開始したほか、同年9月には、Fran

ce Telecomが大手電話通信会社として初めてOpen

Page 68: Computerworld.JP Jun, 2008

Computerworld June 200890

Technology Focus

る大きなメリットになるわけだ。

柔軟性/拡張性が増した最新仕様

 ここで、現在までに策定されたOpenIDの最新仕

様について解説する。

 OpenID Authentication 2.0では、新たに「ディレ

クテッド・アイデンティティ」と呼ばれるコンセプトが導

入されており、ユーザーは、OpenIDプロバイダーが

提示した複数のデジタル・アイデンティティ候補の中

から、リライング・パーティごとにどれを用いるかを選

択することができる。

 例えば、Yahoo!では、OpenIDプロバイダーからリ

ライング・パーティに送信するURLとして、「ユーザー

みずからが値を設定したURL」に加えて、「ランダムに

割り振られたURL」も選択できる。これによりユーザー

は、サイト上で積極的に自身のIDを公開したい場合

には前者を使ってリライング・パーティにログインし、

逆の場合には後者を用いることで匿名性を維持する

という、デジタル・アイデンティティの使い分けができ

るようになる(画面1)。 そのほか、先述したXRIやXRDS文書もOpenID

Authentication 2.0から仕様に盛り込まれたものだ。

 また、OpenID Authentication仕様をコアとする

拡張仕様がいくつか提案されている。その中でも、現

在確定している拡張仕様の1つが、AX 1.0である。

AX 1.0では、OpenIDに対応したWebサイト間でや

り取りするユーザーの属性情報に関して、その交換

方法を定めた仕様である。AX 1.0に準拠することで、

OpenIDプロバイダーが管理しているユーザーの個人

情報を、リライング・パーティが取得/更新できるよ

うになる。

 OpenIDの拡張仕様に関しては、OpenIDプロバイ

ダーの認証ポリシーをリライング・パーティと交換し、

ユーザーの本人確認における認証レベルを担保する

ための仕様「Provider Authentication Policy Ex

tension(PAPE)」などが今後策定される見込みだ。

 大手Webサービス・ベンダーの認証APIを利用して、

ユーザーの新規登録やログイン処理を簡略化するこ

とで、ユーザーの利便性は向上するものの、外部サ

イトにとってみれば、ベンダー独自の認証APIに対応

することで、ベンダー・ロックインの危険性が高まる。

また、認証APIはベンダーごとに仕様が異なるため、

対応の手間も決して小さくは無かった。

 結果的に、Webサービス・ベンダーが独自に開発し

た認証APIは、各社の思惑どおりには普及していない。

こうした状況下で登場したのがOpenIDである。

OpenIDは、仕様が標準化されたことに加えて、実装

の種類が豊富にそろってきたことで、外部サイトはベ

ンダー独自の認証APIではなく、OpenIDへの対応を

優先するようになってきた。

 そして現在においては、Webサービス・ベンダーも

独自の認証APIに固執せず、OpenIDの採用を積極

化しだしている。ベンダーにとってみれば、OpenID

はコミュニティ主導の標準仕様であるため、その機能

や方向性を自社でコントロールできない点はデメリッ

トとなる。しかし、これまで実現できなかった外部サ

イトとの連携がOpenIDを利用することで可能になり、

ベンダーにとってもこの点はデメリットを補って余りあ

画面1:�OpenID�Authentication� 2.0でサポートした「ディレクテッド・アイデンティティ」のYahoo!による適用例。ユーザーみずからが指定した値(ここではFlickrのURL)とランダムに割り振られた値の両方が、OpenID識別子として利用可能となっており、ユーザーはこれらをリライング・パーティの種類に応じて使い分けることができる

Page 69: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 91

Netw

orksNetworks

て機能することで、アプリケーション統合作業の効率

化が図れる。

 また、OpenIDプロバイダーを社内利用に限定せず、

外部のWebアプリケーションとの連携も行われるよう

になってきた。先に述べたように、Sunは社員の身元

保証のために「OpenID.sun.com」というOpenIDプロ

バイダーを運用している。Sunの社員は、このOpen

IDプロバイダーから発行されたOpenID(URL)を、

自社製品/サービスに関するフォーラムや、業界内の

標準化団体において、メール・アドレスに代わる身元

証明手段として活用することができる(図1)。

取引相手を対象とするリライング・パーティの運用 次に考えられるのは、企業が取引相手/顧客企業

へのサービス提供基盤としてOpenIDを活用するケー

スである。

 企業向けアウトソーシング・サービスやパートナー

向けサービスなどでは、通常、利用者のアカウントを

個別に発行・管理している。その結果、ユーザーはサー

ビスごとに個別のアカウントを用いなくてはならず、利

便性の面でもセキュリティの面でも効率的とは言い難

い。

 こうした状況を改善するために、特に大規模企業

向けサービスにおいては、以下に示すいずれかの方

エンタープライズ分野での利用シーンを検証

 ここまでOpenIDを取り巻く状況と仕様の概要につ

いて述べてきた。それでは、エンタープライズ分野に

おいてこのOpenIDはどのような意味を持つのであろ

うか。

 実際のところ、利活用の事例はまだそれほど多くは

ないが、ここでは企業がOpenIDプロバイダーとなる

ケースとリライング・パーティとなるケースのそれぞれ

について、利用シーンを含めて実世界での動向を紹

介する。

社員を対象とするOpenIDプロバイダーの運用 まず想定されるのが、企業内アプリケーションへの

アクセス管理やSSO基盤として、OpenIDプロバイダー

のシステムを構築することである。

 これまで企業では、独自プロトコルを用いたアクセ

ス管理/ SSO基盤を導入することで、アクセス制御

を集中的に管理するのが一般的であった。しかし、今

後、製品標準の機能としてOpenIDを受け入れる(リ

ライング・パーティとして動作する)アプリケーション

が社内に順次導入されていくような環境では、アクセ

ス管理/ SSO基盤自身がOpenIDプロバイダーとし

外部コミュニティ

ディスカッション/フォーラム

(リライング・パーティ)

企業内ネットワーク

コンテンツ管理(リライング・パーティ)

標準化団体

共同作業エリア(リライング・パーティ)

OpenIDでログイン

OpenIDでログイン

OpenIDでログイン

OpenIDでログイン

ユーザー認証

社員

グループウェア(リライング・パーティ)OpenIDプロバイダー

図1:社員を対象とするOpenIDプロバイダーの運用イメージ

Page 70: Computerworld.JP Jun, 2008

Computerworld June 200892

Technology Focus

法によって、企業間でのアクセス管理/ SSOを実現

してきた。

●ベンダー独自の認証APIを用いて、連携を図る企

業にSSOシステムを実装したり、サービス専用の

アプライアンスを導入

●包括的だが複雑な標準仕様、例えば「SAML(Secu

r i t y Asse r t ion Ma rkup Language)」 や

「WS-Federation」などを自社および相手企業の

双方が実装してアイデンティティ連携を実現

 上記2つに加えて、OpenIDはもう1つの選択肢を

提供する。

●ベンダー独自の認証APIではない標準仕様に基づ

いた、比較的導入が容易な企業間のサービス連携

 実際に企業向けリライング・パーティを運用してい

る米国37signalsの例を挙げてみる。37signalsは、

主に中小企業や個人事業者向けの業務アプリケー

ション・サービスを展開しているが、自社が提供する

各種Webアプリケーションへのログインに、外部の

OpenIDプロバイダーを利用することが可能である(図2)。

普及の“カギ”は対応アプリと先行事例の充実にあり

 コンシューマー向けWebサービスではOpenIDへの

対応が着実に進んでいるものの、エンタープライズ分

野ではなかなか普及に結び付いていない。その最大

の要因は、OpenIDを受け入れる(リライング・パーティ

として動作する)企業向けアプリケーションが、現状

ではまだごく少数に限られている点にある。

 ブログに代表されるコンテンツ管理システムやグ

ループウェアなど、一部の業務横断的なエンタープラ

イズ向けソフトウェア/ SaaS(Software as a Ser

vice)では、OpenIDに対応した製品/サービスが登

場してきているものの、より業務に近いアプリケーショ

ン・パッケージでは、対応する製品/サービスは皆無

に等しい。

 また、市場に存在する企業向けアクセス管理/ SS

Oソフトウェアにしても、OpenIDに対応している製品

はほとんどない。つまり、企業が自社のアイデンティ

サービス利用企業(OpenIDプロバイダーを自社内で運用)

サービス提供企業ユーザー認証

OpenIDプロバイダー(内部)

OpenIDプロバイダー(外部)

プロジェクト管理サービス

顧客管理サービス

リライング・パーティ

社員

サービス利用企業(OpenIDプロバイダーを外部に委託)

OpenIDサービス提供企業

ユーザー認証

社員

OpenIDでログイン

OpenIDでログイン

図2:取引相手を対象とするリライング・パーティの運用イメージ

Page 71: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 93

Netw

orksNetworks

ティ管理システムの一部としてOpenIDの機能を盛り

込みたいと思ったとしたら、現状ではカスタマイズや

インテグレーションの追加工数が相当発生することに

なる。

 加えて、エンタープライズ分野におけるOpenIDの

利用事例が十分に存在しないため、企業内のセキュ

リティ基準との関連性や、B2Bでのベスト・プラクティ

スが圧倒的に不足している。

 例えば、企業間におけるプライバシー保護や、やり

取りされるメッセージの否認防止、信頼できる取引相

手にのみOpenID機能を提供する仕組み「ホワイト・リ

スト」の管理、サービス間での統一的なログイン・セッ

ション管理など、現在のOpenID仕様ではカバーしき

れていないさまざまな課題を解決するには、もう少し

時間がかかりそうだ。

 また、将来的にOpenIDの仕様が充実したとしても、

企業内のアクセス管理/ SSO基盤すべてを、Open

IDで統一するのは非現実的だと言えるだろう。例えば、

企業内のWindows環境には、Microsoftが開発した

アイデンティティ管理技術「CardSpace」のほか、

WS-Federationが存在するし、企業間連携では

SAMLや、リバティ・アライアンスの仕様に基づくア

イデンティティ連携が市場で実績を積み重ねている。

今後、企業内アイデンティティ管理システムの構築/

運用にあたっては、OpenIDを含めたこれらの仕様と

の相互運用が求められるだろう(図3)。 こうしたアイデンティティ連携/管理に関する各種

仕様との相互運用に取り組んでいるのが、リバティ・

アライアンスが主導する「コンコーディア・プロジェク

ト」である。同プロジェクトには、先述した各種仕様

の策定メンバーやその仕様を実装するベンダー、そし

て仕様を実システムに活用するユーザー企業が参加

しており、さまざまな導入シナリオをベースに議論を

続けている。

*  *  *

 現在、OpenIDは非常に勢いがあり、この流れは

今後も続くだろう。エンタープライズ分野でOpenID

が本格的に普及するかは、率直に言ってまだ未知数

な要素が多い。

 しかし、コンシューマー分野で成功したテクノロジー

が後年、エンタープライズ分野に浸透していくという

前例は枚挙にいとまがない。この先数年のうちに、

OpenIDをサポートするASP/SaaSがどれほど登場し

てくるかが、エンタープライズ分野でのOpenID普及

の“カギ”になると筆者は考えている。

 今後、ITマネジャーは、アイデンティティ管理シス

テムの構築を検討する場合には、パッケージ・アプリ

ケーションやASP/SaaSのOpenIDへの対応状況や

その企業ユースでの先行事例、そしてコンコーディア・

プロジェクトによるベスト・プラクティスなどの動向を

注視しながら、OpenIDと他の標準仕様との相互運

用を念頭に置いて、プロジェクトを進めていくべきで

ある。

企業内ネットワーク

Windowsデスクトップ

Windowsシステム

業務アプリケーション

取引相手

グループ企業

ASP/SaaS 軽量アプリケーション

アイデンティティ管理システム

ディレクトリアクセス管理/SSO

ユーザー・プロビジョニングアイデンティティ監査ロール管理

リバティ・アライアンス

SAML

OpenID

WS-Federation

CardSpace

OpenID

SAML

図3:マルチプロトコルに対応したアイデンティティ管理システム

Page 72: Computerworld.JP Jun, 2008

Computerworld June 200894

Technology Focus

ら半導体メモリに置き換えたもの」となる。OSからは

HDDと同じにしか見えないが、物理的にはモーターも

プラッタもヘッドもない、半導体の固まりというわけだ

(図1)。 そのメリットは容易に想像できる。HDDでは避けら

れない物理的な故障がSSDではなくなるほか、機械

部分の電力消費を低減することができる。また、デー

タ転送速度が頭打ちになってきているHDDよりも高

速化が可能となる。

 SSDのようなストレージ(保存)用途の半導体メモ

リとしては、SDカードやUSBメモリがなじみ深いだ

ろう。SDカード、USBメモリ、そしてSSDは、形状

や用途がそれぞれ違うが、いずれもフラッシュ・メモ

リという不揮発性メモリを使った記憶デバイスである

(97ページのコラムを参照)。その中でもSSDは、

HDDと同じインタフェースを持ち、OSからはHDDと

同様にアクセスできるのが特徴だ。

 単に小型化を優先するなら、HDDよりメモリICを

直接基板に実装するのがよいように思える。実際、ポー

タブル・オーディオ・プレーヤーやICレコーダーでは

そのようになっている。だが、PCは過去からのさまざ

まなレガシー・デバイスや、欠かすことのできないイン

2008年、SSD搭載のノートPCが続 と々登場

 2008年1月から日本でも発売になった台湾ASUS

の「Eee PC」。Windows XPインストール済みで1台

4万9,800円という低価格が話題になったが、このモ

バイルPCはHDD(ハードディスク・ドライブ)の代わり

に4GBのSSD(Solid State Disk)を搭載している。

また、2008年3月に発表されたLenovoの「ThinkPad

X300」シリーズは、3機種すべてが64GBのSSDを搭

載しており、現時点でHDDタイプは存在しない(写真1)。国内勢では東芝が、主にノートPC向けの128GB

のSSDを2008年3月より量産開始すると発表してい

る(写真2)。こうして見ると、2008年はSSDを搭載

するモバイルPCが一気に普及しそうな気配がある。

HDDからSSDへの置き換えは容易

 このようにSSDを搭載するノートPCが目立つよう

になったが、そもそもSSDとは何だろうか。一言で説

明するなら、「SSDとはHDDの中身を磁気メディアか

SHDDの代わりにSSD(Solid State Disk)を搭載するノートPCが増えている。HDDに匹敵する容量を備えつつあることで、ノートPCでは今後、SSDが標準になるとの予測もある。そして、最近では、SSD対応のエンタープライズ向けストレージが登場するなど、徐々に応用範囲を広げてもいる。SSDは、HDDで課題となっていた処理速度の向上や省電力化を実現できる点で期待されている反面、コストが高いという問題を抱えている。はたして、SSDは広範に普及していくのか。本稿では、SSDの基本を押えるとともに、最新の動向に迫ってみたい。

土屋 勝

torages[ストレージ]

高速処理と省電力を共に実現する新世代ストレージ「SSD」の可能性ハードディスクに取って代わるか/企業向け製品でも普及が進むか

Page 73: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 95

StoragesStorages

タフェースをいくつも引きずっている。HDDはその最

たるものだろう。つまり、PC用記憶デバイスとしては

従来の設計手法が使えるもののほうが効率的だ。

SSDの存在意義は、正にそこにあると言える。

 最近は、USBメモリからLinuxなどのOSを起動す

ることも可能になっている。しかし、古い機種だとU

SB起動には対応していないものもある。今でこそ広

く普及しているUSBにしても、規格が制定されたの

は1996年のことであり、一般的に使われるようになっ

たのはWindows 98でサポートされてからである。

 これに対し、HDDはMS-DOSの時代から起動デ

バイス/外部記憶デバイスとして使われてきた実績が

ある。どんなPCでも、どんなPC用OSでもHDDをサ

ポートしていないものはないだろう。

 現在、市場に出回っているSSDには2つのタイプが

ある。1つは2.5インチや1.8インチといった小型HDD

と同じ外観、同じコネクタを持っていて、HDDとその

まま置き換えができるもの。もう1つは、サイズやイン

タフェースはHDDと同じだが、金属ケースなどはなく、

チップむき出しの基板で提供されるものだ。

 PCショップなどで単体販売されているものは、ユー

ザーがノートPCのHDDと換装できるよう、HDD型

のものとなっている。だが、最初からノートPCに実

装してしまうのであればコスト的にもスペース的にも

写真1:SSDを標準で搭載するLenovoのノートPC「ThinkPad X300」

写真2:東芝の多値NAND対応SSD。容量は最大128GB

スイング・アーム

ボイスコイル・モーター

(アクチュエーター)

スピンドル・モーター

セクタ

プラッタ(ディスク)

トラック

ヘッド

シリンダー

電極

SSDの本体である半導体メモリは、格子状に配置されたセルと、各セルに沿って縦・横に走る電極から構成され、データはセル単位で記録される。一方、HDDは、高速で回転するプラッタ(ディスク)と、直径方向に動くヘッドなどから構成され、データは円周方向の区画(セクタ)単位で記録される。

セル半導体メモリ

SSDの構造

HDDの構造

図1:HDDとSSDの構造比較

Page 74: Computerworld.JP Jun, 2008

Computerworld June 200896

Technology Focus

ランダム・アクセス(データを飛び飛びに読み書きする

処理)の速度が相対的に低下し続けていることだ。

 HDDのパフォーマンス、つまりPCから見た読み書

きの速度は、プラッタの回転速度、PC/HDD間のイ

ンタフェース速度、シーク・タイム、内部データ転送

速度、バッファ量といったパラメータで決まってくる。

 プラッタの回転速度が大きいほど処理速度は上が

る。データを読み書きするには、最悪のタイミングだと、

プラッタが1回転するまで待たなければならない。当

然ながら高速回転しているほうが待ち時間は短くて済

み、処理速度が上がる。1990年代には毎分4,200回

転(4,200rpm:revolutions per minute)の製品が

主流であったが、その後5,400rpmの製品が登場、現

在では7,200rpmのものが主流となっている。ハイエ

ンドの製品では1万rpmを超えるものもある。

 PCとHDDの間をつなぐインタフェースの速度につ

いては、この10年ぐらいでも毎秒33MBのUltra AT

Aから毎秒66MBのUltra DMA/66、毎秒100MBの

Ultra DMA/100と改良が進められた。2000年代に

入ると、パラレル処理のATAに代わってシリアルAT

A(SATA)が制定され、現在は毎秒300MBのSA

TA300が主流となっている。

 ところが、磁気ヘッドの移動に要するシーク・タイ

ムはあまり向上していない。

 データが連続した領域に記録されているのであれ

ば、ヘッドを移動させる距離は最小になるため、シーク・

タイムはあまり影響を与えない。だが、PCではランダ

ム・アクセスが頻繁に発生する。実際、データはプラッ

タ上の飛び飛びのセクタに記録されるので、ヘッドは

頻繁に円盤上を動かなければならない。

 隣り合ったシリンダへの移動を最短シーク、内周か

ら外周への移動を最大シーク、その平均値を平均シー

クという。この平均シーク・タイムはここ数年、10ミリ

秒前後と変化していない。磁気ヘッドが取り付けられ

たスイング・アームをボイスコイル・モーターで左右に

振るという基本原理が変わらないかぎり、なかなか

シーク・タイムの向上は望めそうにない。この点が

HDDの限界になっているのだ。

金属ケースは不要なので、基板タイプが使われる。

フラッシュ・メモリの大容量化で姿を消す小型HDD

 初期のMP3プレーヤーで、大容量タイプの製品は

HDDを搭載していた。だが、今ではごく一部の大容

量モデルを除いてフラッシュ・メモリが使われている。

また初期のデジカメでは、コンパクト・フラッシュと同

じ形状でHDDを内蔵したマイクロ・ハード・ドライブ

も使われたが、今ではほとんど消え去ってしまった。

記憶容量ではSDカードのほうが上回っているほどだ。

 すでに多くのHDDメーカーは、1インチ以下などの

超小型HDDの製造を打ち切っている。フラッシュ・

メモリの大容量化と低価格化に対抗できないからだ。

 HDDでは、3.5インチや2.5インチで1TB(テラバイト)

といった大容量かつ高速なHDDが今後の主流になる

だろう。音楽や動画、特にハイビジョン映像の保存な

どでは容量が不足しがちになるからだ。

 しかし、ビジネス用途のモバイルPCなどでは、そ

れほどの大容量は必要ないだろう。Windowsと

Office、それにワープロや表計算ソフトなどのファイ

ルだけなら数十GBで十分であり、SSDで何ら問題は

ない。むしろ紛失時の情報漏洩などを考えれば、ノー

トPCに何でもかんでも保存して持ち歩くのは危険だ。

つまり、ビジネス用途なら、過剰に大容量のHDDは

必要ないと言ってよいだろう。

HDDの処理速度は構造的な理由で限界に

 実は、HDDはある問題に突き当たっている。それ

は構造的な理由によって処理速度が限界に達しつつ

あることだ。もちろん、さまざまな改良が加えられては

いるが、CPUやメモリの高速化が進むなかで立ち遅

れているのが実情である。

 特に問題となっているのがシーケンシャル・アクセ

ス(データを連続的に読み書きする処理)に対する、

Page 75: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 97

StoragesStorages

 ヘッドが動いている状態で突然電源が切れたり、

落下による衝撃を受けたりするとプラッタにヘッドが

当たってしまい、プラッタに傷がつくなどの損傷が起

きる。これがヘッド・クラッシュである。

 最近のノートPCや外付けHDDには加速度センサー

が内蔵されており、落下や傾きを検知してヘッドを退

避させる仕組みが備わっている。また、衝撃を吸収

するダンパーによってHDDは保護されている。しかし、

それでも完全にヘッド・クラッシュを避けることはでき

ない。バッグやポケットから頻繁に出し入れするよう

なモバイル機器では、ノートPC以上に落下の危険性

が高く、HDDが壊れる可能性も高くなる。また、消

費電力の面でもHDDはフラッシュ・メモリに比べ不利

だ。そのため、モバイル機器ではいち早くHDDから

フラッシュ・メモリへの移行が進んだ。

 ノートPCの場合、CPUや液晶ディスプレイなども

消費電力量が大きい。そのためSSDに切り替えれば

 一方、SSDには、このシーク動作が存在しないため、

純粋に電子回路の能力である読み書きの速度が上が

れば、それに伴ってトータルの速度も上がるわけだ。

HDDに付きまとうヘッド・クラッシュもSSDには無関係

 HDDには、その構造上どうしても避けられないトラ

ブルとして、ヘッド・クラッシュがある。

 HDDの磁気ヘッドはプラッタからごくわずかに浮い

た状態でデータを読み書きする。プラッタは固いため、

磁気テープやフロッピーディスクのように完全に密着

させるわけにはいかない。プラッタとヘッドの間隔は

10nm ~ 30nm(ナノ:10億分の1)であり、タバコの

煙の粒子も入れないほど狭い。プラッタが高速回転

することで発生する空気の流れにより、ヘッドはわず

かに浮いているのだ。

SSDの中身である半導体メモリのおさらいCOLUMN

 半導体メモリは大きく分けて2種類ある。電源を切ると中身が消えてしまう揮発性メモリと、電源を切っても中身が保存される不揮発性メモリだ。PCのメイン・メモリとして使われるDRAM(Dynamic Random Access Memory)やキャッシュ・メモリは揮発性メモリであり、SDカード、SSDに使われるフラッシュ・メモリは不揮発性メモリである。 揮発性メモリは、記録保持用の電源が必要であり、特にDRAMは一定間隔で書き直し作業を行わないと記録が消えてしまう(そのため、Dynamic RAMと呼ばれる)。だが、読み書きが自由に行え、高速であるという特徴を持っている。これに対し、不揮発性メモリは電源を切っても内容を保持できるが、書き込みには制約があり、読み書きの速度が遅いという特徴がある。 不揮発性メモリはROM(Read Only Memory)とも呼ばれる。本来は書き換えができずに、読み出し専用のメモリという意味である。実際にゲーム・カセットに使われているマスクROMは製造工程でデータを記録し、後からは書き換えができない。しかし、現在使われているROMは書き換えができるEPROM(Erasable Programmable ROM)がほとんどであり、その中でも電気的処理によって書き換えができるものをEEPROM

(Electrically Erasable PROM)という。フラッシュ・メモリはEEP ROMの一種ということになる。 フラッシュ・メモリは、構造の違いでNOR型とNAND型に分けられる。NOR型はデータの信頼性が高く、読み出し速度が100ナノ秒(ナノ:10

億分の1)程度と高速で、高速ランダム・アクセスが可能だ。しかし、NAND型に比べて集積度が低く、書き込み速度が遅い。 これに対し、NAND型は集積度を上げられるので大容量化に向いている。書き込み/消去の速度はNOR型よりも速いが、ランダム・アクセス速度は低い。データの信頼性という面ではNOR型に劣っており、エラー訂正(ECC)機能が不可欠である。 NOR型は主にファームウェアやBIOSなどを保存する用途に、NAND型は主にストレージ用、つまりSDカードやUSBメモリ、SSDなどに使われている。 フラッシュ・メモリは、さらにセルごとの記録容量の違いでSLC(Single Level Cell)とMLC(Multi Level Cell)の2タイプに分けられる。SLCは1つのセルに「0」か「1」の2値1ビットを記録する。一方、MLCは1つのセルに複数ビットを記録する。例えば、4値2ビット・タイプであれば、「00」

「01」「10」「11」のように1セルにSLCの倍のデータを記録できる。 SLCは高速かつ信頼性が高いが、集積度でMLCに劣る(2分の1から4分の1)。一方、MLCは、大容量かつ低価格だが、信頼性、高速性でSLCに劣る。 単純に言えばMLCは同じ面積で容量をSLCの2倍以上にすることが可能となり、同じ容量であれば大幅なコスト・ダウンが実現できる。NAND型フラッシュ・メモリで世界トップ・シェアを持つ東芝は、MLCの開発に注力しており、フラッシュ・メモリの多値化比率は95%を超えている。

Page 76: Computerworld.JP Jun, 2008

Computerworld June 200898

Technology Focus

バッテリーの持続時間が非常に長くなるというわけで

はない。しかし、各パーツの省電力化が機器の省電

力化の第一歩である。また、衝撃吸収ダンパーなど

が不必要になることで、よりいっそうの軽量化や小型

化、薄型化も実現できるはずだ。さらに、プラッタを

回転させる必要がないため、省電力化だけでなく音が

静かになるというメリットも出てくる。

 SSDは、ヘッド・クラッシュがない点で、車載機器

の市場などで注目されている。過酷な衝撃・振動にさ

らされる車載機器でHDDを保護することは大きな課

題だが、SSDならば、この問題を考慮しなくてよいわ

けだ。実際、例えば東芝には自動車関連メーカーか

らの引き合いが来ているという。

半導体メモリに付きものの「寿命」オフィス・ユースでは問題なし

 自由に読み書きできるフラッシュ・メモリだが、書き

換え可能回数には上限がある。

 フラッシュ・メモリは「トンネル酸化膜」という絶縁

体を使って電荷を保存する。これによって外部から

電源を供給しなくてもデータが保存できるわけである。

だが、書き込みや消去といった動作を行うと酸化膜

を電子が通過し、酸化膜が徐々に劣化していく。最

終的には絶縁性が失われてしまい、メモリとしては使

えなくなる。NAND型では100万回程度が書き換え

の上限と言われている。

 ただ、この絶縁不良はメモリ・チップ全体に起きる

のではなく、セル単位で発生する。そのため、書き換

えを行うセルをコントローラ・チップによって分散させ

たり、不良セルを切り離す「ウェアレベリング」を使っ

たりして実質的な寿命を伸ばしている。

 東芝メモリ事業部NANDシステム企画部部長の西

川哲人氏は、フラッシュ・メモリの寿命の問題はオフィ

ス・ユースでは問題ないと話す。「例えば、ノートPC

のSSDの場合、通常のオフィス・ユースで何万回、

何十万回と書き換えを行うことは、まずありえないで

しょう。その前に他の部品の寿命が来ます」(西川氏)

SSD普及のカギは低コスト化

 処理速度や耐衝撃性、消費電力の面からすれば

ノートPCにSSDを採用するメリットは大きい。だが、

現実には、ようやく普及の緒についたばかりだ。最大

の理由は、単純にHDDと比較して「割高」だからだ。

 2006年7月にソニーが発売した「VAIO type U ゼ

ロスピンドル」モデルが本格的なフラッシュ・メモリ搭

載の小型モバイルPCのはしりと言えよう。同モデルは、

20GB/30GBのHDDを搭載した「VAIO type U」の

ストレージ部分を16GBのフラッシュ・メモリに置き換

えたものである。ゼロスピンドルとは、「スピンドル=回

転軸」がない、つまりHDDを搭載していないという意

味だ。Windows XPがプリインストールされており、

出荷時の空き容量は約9.1GB、HDDタイプが直販価

格14万4,800円からであったのに対し、フラッシュ・

メモリ・タイプは20万9,800円からとなっていた。

 現在では、パーツ・メーカーからPC用のSSDユニッ

トも販売されている。2.5インチで32GBのものが4万

円程度となっており、ほとんどのノートPCで、そのま

まHDDと入れ替えることが可能だ。

 前述した東芝の2.5インチ、128GBのSSDは10万

円程度になるという。2.5インチ、160GBのHDDが1

万円程度から売られていることを考えれば、まだまだ

価格差は大きく、普及の障壁になっていると言える。

2010年にはノートPCの16%がSSDを搭載するとの予測

 東芝はNAND型フラッシュ・メモリの最大手である

が、これまでSSDは手がけていなかった。東芝にとっ

てSSDの量産を開始する2008年は、「SSD元年」と

いうことになる。

 同社はSSDを市場に送り出すにあたり、MLCを採

用した。SLCに比べると処理速度では見劣りするも

のの、MLCでは大幅なコスト・ダウンが可能となる。

そして、何よりもSSDをノートPCの標準デバイスと

Page 77: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 99

StoragesStorages

して普及させるためにはコスト・ダウンが不可欠だ。

「PCメーカーは、HDDにかけられる費用は100ドル程

度と言っています。SSDがそこまで安くなるのはまだ

かなり先だと思いますが、3倍、つまり300ドルぐらい

に落ちれば一気に採用されるでしょう」(東芝メモリ営

業統括部ファイルメモリ営業部参事の江島克郎氏)

 また、MLCの処理速度について西川氏は、「内部

でパラレルにデータを読み書きすることなどで改善さ

れ、SLCに引けを取らなくなります」と語っている。

 同社の予測では、2010年には世界中のノートPC

の16%がSSDを搭載するようになるという(図2)。また、

米国Gartnerは、SSDに使われるNAND型フラッシュ・

メモリの世界市場が、2011年には2006年の20倍に

成長すると予測している。2010年ごろには、モバイ

ル性を重視した軽量タイプのノートPCはSSD搭載が

当たり前となり、HDDは影が薄くなってしまうかもし

れない。

大企業向けストレージにもSSD採用の流れが到来

 現在のところ、モバイル用途として注目が集まって

いるSSDだが、ついに企業向け大容量ストレージに

SSDを採用するベンダーが登場した。

 EMCジャパンは、エンタープライズ・ストレージの

ハイエンドモデル「EMC Symmetrix DMX-4」に、

73GB/146GBの2種類のSSDを搭載し、2008年3

月末より販売を開始している(写真3)。採用された

SSDは、国防/宇宙航空業界に高信頼メモリやスト

レージを提供する米国STECが同社の「ZEUS-IO

PS」をベースに、EMCと共同開発したもので、容量

より高速性を重視したSLCタイプの3.5インチ・モデ

ルだ。インタフェースはFC(ファイバ・チャネル)、HD

D搭載モデルに比べてI/O処理能力は30倍、アプリ

ケーションの応答速度は10倍向上するという。また、

消費電力は同容量のHDD搭載モデルと比較して

38%削減され、同等の処理性能を持つHDD搭載モ

デルと比べると実に98%削減されるとしている。

 価格は公表されていないが、EMCによると「性能

が30倍なので、それに見合った価格になる」(EMCプ

ロダクトマーケティング部部長の中野逸子氏)という。

前モデルのSymmetrix DMX-3が定価1億円程度か

らであったことを考えると、相当高価なものになりそう

ではある。

 データセンターなどでは、増大する機器の消費電

力量と放熱量を低減することが急務となっている。そ

の両方を一度に低減できるSSDの採用は、エンター

プライズ分野でも進むと見ていいだろう。

SSD市場は年平均成長率295%で推移

2010年にはモバイル/企業向けPC市場にてSSDの普及が加速

(百万台/年)

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

小容量タイプ

SSD

中・大容量タイプ

HDD

高速/大容量タイプ

Hybrid(HDD/SDD混在)

2006年 2007年 2008年 2009年 2010年

図2:ノートPC市場におけるSSD搭載PCの台数/割合の推移予測

写真3:SSDに対応したEMCのハイエンド・ストレージ「Symmetrix DMX-4」

資料:東芝

Page 78: Computerworld.JP Jun, 2008

Computerworld June 2008100

Technology Focus

プラクティス(成功事例)をまとめたフレームワークで

あるからだ。

 例えば、ITILのサービス・サポートとサービス・デ

リバリのセクションには、インシデント管理、問題管理、

構成管理、変更管理、リリース管理、IT財務管理、

IT継続性管理、キャパシティ管理、サービス・レベル

管理などのガイダンスが含まれる。こうした領域にお

いて、まったく改善の必要のない企業など存在しない

はずだ。

 実際、ITILの適用範囲はきわめて広い。ITILトレー

ニング会社のITSM Solutionsでバイスプレジデント

を務めるリック・ルミュー(Rick Lemieux)氏は、「わ

れわれはITILがどのようなものであるか、どのような

価値をもたらすか、あるいはどのようなプロセスで行

うかといったことを、顧客に対して正確に説明しなけ

ればならない立場にあるが、一言ではとても説明しき

れない」と語る。

 もっとも、ITILの実利的な価値については、IT分

野にかかわる人間であればだれでも理解できるはず

だ。Lemieux氏は、「ビジネスとITの目標を一致させ

るためにどうすればよいかをITILは教えてくれる」と

強調する。

ITサービス業務の改善が不要な企業など存在しない

 米国ノースカロライナ州サリスベリーのスーパー

マーケット・チェーンFood Lionは2004年、SOX法

(Sarbanes-Oxley Act:米国企業改革法)に準拠す

るにあたって、ITシステムの変更管理を自動化する

必要に迫られ、ITIL(Information Technology

Infrastructure Library)の変更管理プロセスを導

入した。だがそのとき、変更管理以外のITILのフレー

ムワークについては導入を見合わせた。「ITILを直ち

に全面導入するつもりはなかったので、当面必要がな

いと思われたものは外したのだ」と、同社のITオペレー

ション担当シニア・マネジャー、デール・エドミストン

(Dale Edmiston)氏は説明する。

 ところがFood Lionでは、その後すぐにITILの他

のパートの導入も真剣に検討するようになり、まもな

く全面導入へ踏み切った。

 他の多くの企業と同じく、Food Lionも最初は1つ

の問題を解決するためにITILを導入し、後により幅

広い問題にITILを適用するようになった。それは

ITILがさまざまなIT運用管理業務に役立つベスト・

ITサービス業務を行うための有力なプロセス・フレームワークとして、すでに多くの企業で活用が進んでいるITIL(Information Technology Infrastructure Library)。2007年5月には最新バージョンの「ITIL Version 3」が公開され、これまで欧州などに比べて導入が遅れていた米国でも、ITIL導入に取り組む企業が急激に増えている。そこで本稿では、そうしたITILの適用に取り組む米国企業の姿を紹介しながら、実際にみずからの組織にITILを適用する際のポイントを探ってみたい。

Sue HildrethComputerworld米国版

ys.Admin[システム運用管理]

ITIL適用の真実──いかに着手し、実践するかベスト・プラクティスを自社で活用するためのポイントを探るS

Page 79: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 101

Sys.Adm

in.Sys.Admin.

を提供しているかを問い合わせた」とStinnett氏。

 同社はBMCのサービス・モデリング・エディタ

「Service Impact Manager」(102ページの画面1)を利用して、ワークフロー・ダイアグラムをAtrium CM

DBへ入力し、プロセスやトランザクションがどのよう

にアプリケーション間を移動するかを視覚化すると同

時に、ITリソースに変更が生じた際のビジネスへの

影響をリアルタイムに把握できるようにした。これに

より、データベースの中の情報更新も容易になったと

いう。

 CMDBやサービス・モデリング・ツールを実装した

ことで、CARFAXは「手作業によるIT業務を、過去

2年間で約400%削減することができた」(Stinnett氏)

という。例えば、特定のシステムのアップグレード計

画が他のシステムに及ぼす影響を自動的に確認、調

整できるようになったため、CARFAXのITスタッフは、

これまでのように何時間もかけてアップグレードの影

響を分析したり、アップグレード後のトラブルシュー

ティングに煩わされたりすることがなくなった。「これ

により、システム変更管理やキャパシティ・プランニン

グの精度が向上した」とStinnett氏は強調する。

 ITILの各種プロセスについて、同氏は、「いずれも

必要に応じて自由に組み立てることができる。ITIL

には厳格な、あるいは融通の利かないルールなどない」

と考えている。

ITサービスの成熟度を測りプロセスの優先順位を決める

 イリノイ州ノースブルックの生命保険会社Allstate

Insuranceでは、2002年からITILの採用に取り組ん

でいる。それは一部のITスタッフがIT部門の上層部

に対してITIL関連のトレーニングを受けたいと要望

したことからスタートした。現在、同社はITILを全面

的に導入し、すでに数百人のITスタッフがトレーニン

グを受けている。

 ITILの実装化にあたって、AllstateのIT部門は、

さまざまなプロセスの成熟度を測る基準を設定し、優

プロセスの組み合わせは自由まずは“小さく”スタート

 ITILの導入にはさまざまな作業が伴うが、最も改

善が必要なものから段階的に進めていけば、それほど

難しいものではない。

 バージニア州センタービルにある民間の自動車調

査機構CARFAXが最初に着手したのは、ITILのキャ

パシティ・プランニングの領域だった。同社のシニア・

アナリスト、ロバート・スティンネット(Robert Stin

nett)氏がITIL採用に向けて取り組み始めたのは、

2004年にCARFAXがBMC Softwareのエンタープ

ライズ・ジョブ・スケジューリング・ソフトウェア「Control

-M」を購入したときからだった。なお、BMCはITIL

関連の教育サービスを提供しており、Stinnett氏と

彼の同僚らは、そのいくつかのコースを受講していた。

 CARFAXにとってITIL導入の最初のステップは、

ITのプロセスとワークフローのダイアグラムを作成す

ることだった。「壁一面を使って、クレジットカード・プ

ロセスや自動車履歴リポートのフローチャートを描き、

ディーラーのログインやサーバどうしのやり取りなど、

さまざまなプロセスを個別のサービスに分解していっ

た」とStinnett氏。

 またCARFAXは、IT資産およびプロセス上を流

れるデータの中央リポジトリとして、BMCの構成管理

データベース(CMDB)「Atrium」を購入した。CMDB

はITILのコア・コンポーネントだ。

 CARFAXでは、ハードウェアやネットワークのコ

ンフィギュレーション情報と、各システムがデータを

やり取りする業務アプリケーションおよびデータベー

スの物理ロケーション情報をCMDBに手作業で移植

した。これによりCMDBは、CARFAXのIT環境全

体のハードウェア、ソフトウェア、および統合リンク

のインベントリ、ディスクリプションを包括する構成管

理の中核となった。

 その作業が完了するまでには1年ほど要した。「われ

われは古いドキュメントを読み返し、各部署にどのよ

うなサーバやソフトウェアがあり、どのようなサービス

Page 80: Computerworld.JP Jun, 2008

Computerworld June 2008102

Technology Focus

察官がリポートを作成しなければ、捜査官が仕事をで

きないのと同じだ」(Pugh氏)

“ビッグバン導入”で大きな効果を引き出す

 テキサス州タラント郡では、他の多くの組織と異な

り、ITILの初期段階から大規模な導入が展開された。

同郡のIT部門は2005年9月、ITIL専門のコンサルティ

ング会社Pink Elephantと契約し、さまざまなITプ

ラクティスの分析を行った。その結果に基づいて作成

された20ページのリポートで、同郡のITオペレーショ

ンは「全般にわたり未熟」と評価された。「事実、サー

ビスデスクがなく、ヘルプデスクがあるだけだった。

ヘルプデスクはコールを受けて他の部署へ回すだけ

だが、サービスデスクはコールを受けて問題解決を目

指す点が異なる」と同郡のオペレーション担当ディレ

クター、ピート・リッツォ(Pete Rizzo)氏は語る。

 ITIL導入にあたって、同郡のITスタッフはITIL/

ITSM関連のトレーニングを受講し、24人がITIL認

定資格を得た。それらのスタッフは、複数立ち上げら

れたプロセス導入チーム(PIT)に配属された。同郡

のITオペレーション担当プロジェクト・マネジャー、

ジャン・オールレッド(Jan Allred)氏によると、PIT

は特定のITILプロセスに特化したチームで、サーバ・

グループやデータベース管理グループ、デスクトップ・

サポートなど、複数のセクションに分けられている(な

お、各チーム・メンバーはIT部門内でフルタイムの日

常業務にも従事している)。

 ITIL導入は、まずインシデント管理と問題管理か

ら着手し、その後、変更管理、構成管理へと展開す

ることにした。また、コンサルタントの助けを借りて、

従来のプラクティスとITILのそれを比較し、その

ギャップを埋めるまでのロードマップを作成した。例

えば、ヘルプデスクをITILのサービスデスクに転換し、

スタッフとオペレーションの時間を増やす、などである。

さらに、Hewlett-Packard(HP)のITサービス管理ツー

ル「HP ServiceCenter software」のインシデント管理、

先順位を決めていった。ITオペレーションを評価す

る基準としては、多くの企業がCCM(能力成熟度モ

デル)などの参照モデルを利用しており、ITILには、

ITサービスの成熟度を評価する手段として「成熟度

フレームワーク」と呼ぶ独自の測定基準が用意されて

いる。

 Allstateでは、キャパシティ管理や可用性管理、サー

ビス・レベル管理などの各プラクティスの評価が行わ

れた。具体的には、十分なレベルで機能しているか、

従業員が適正な手順を理解しそれを順守しているか、

ドキュメンテーションに一貫性があるか、などである。

 その結果から同社は、インシデント管理と変更管理、

そして構成管理に着手することにした。「まず何を改

善すべきかを考え、プロジェクト・プランを立案し、す

ぐさま実行に移した」と、Allstateのプロセス・コンサ

ルタント、キャシー・カーチ(Cathy Kirch)氏は語る。

 Kirch氏とともにAllstateのプロセス・コンサルタン

トを務めるケビン・フン(Kevin Pugh)氏は、プロセス

間の相互依存とハンドオフを理解し、それをドキュメ

ント化することが、ITILを成功させるうえで重要と指

摘する。「特に問題管理はインシデント管理でドキュメ

ント化されていなければ、分析も修正もできない。警

画面1: 「BMC Service Impact Manager」は、ビジネスとITインフラの関係性をCMDBを基に分析し、システム障害がビジネスに与える影響範囲を動的に可視化することができる

Page 81: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 103

Sys.Adm

in.Sys.Admin.

(Control Objectives for Information and related

Technology)とともに、他のITILプロセスの追加導

入を決断した。

 Edmiston氏は、「ITILの特定のサービス領域を単

独で導入するのは現実的ではない。例えばインシデン

ト管理を行うなら、問題管理と変更管理も必要となる。

また、インシデントには原因分析が不可欠であり、そ

の結果は変更に直結する」と語る。

 同氏によると、Food LionのIT部門では、最初に

実装した4つのITILプロセス領域(変更管理、インシ

デント管理、問題管理、サービス・レベル管理)ごと

にスタッフ10名からなるチームを編成しているという。

各プロセス領域では順調に作業が進行しており、構

成管理とリリース管理に責任を持つ新たなチームの

追加も決定した。それでも、ITILへの取り組みに終

わりはない、とEdmiston氏は断言する。「ITILは常

に進化し続ける、終わりのない改善のサイクルなのだ」

(同氏)

変更管理、構成管理の各機能モジュールを導入し、

機能の拡張を図った。

 こうした“ビッグバン導入”の過程において、タラン

ト郡のIT部門は、急速にITILの世界観を取り込ん

でいったとRizzo氏は振り返る。「ITILは、インシデ

ント管理を『サービスの迅速な復旧』と定義している。

したがって、もしだれかのプリンタが機能しなくなっ

た場合、サービスデスクの最終目標はプリンタを修理

することではなく、何らかの方法でプリントできるよう

に支援することとなる。プリンタが動かない原因を探

るのは、問題管理の領域になる」(同氏)

ITILは常に進化し続ける終わりのない改善のサイクル

 Food LionのEdmiston氏と配下のスタッフは、

ITIL導入後、すぐにその価値を確信し、ITガバナン

スの成熟度を測る標準フレームワークであるCOBIT

データセンター管理のキーワードは「ITIL」と「自動化」「いずれも効率的なIT環境の実現に貢献」とアナリストが指摘

COLUMN

 最近実施された2つの調査によると、大企業のITマネジャーは今後、データセンターを効果的に稼働させるために、さまざまな自動化技術を導入し、ITILなどのベスト・プラクティス・フレームワークを採用することになりそうだ。 米国の調査会社Enterprise Strategy Group(ESG)のシニア・アナリスト、メアリー・ジョンストン・ターナー(Mary Johnston Turner)氏は、

「2008 IT Service & Infrastructure Management Survey」と題した報告書の中で次のように指摘している。「IT管理の効率化を図るには、サーバ、ストレージ、ネットワーク、ソフトウェア、エンドユーザー・システムがどのように相互作用しているのかを正確かつタイムリーに把握する必要がある。そのためにはIT管理の自動化が不可欠であることを当社の調査は示している」 ESGの調査は「データセンターがどのように変化しているか」「その変化にITマネジャーはどのように対応しているか」をテーマに、グローバル企業のIT意思決定者602人を対象に実施されたもの。それによると、回答者の4分の3以上が、仮想化技術は向こう2年間でIT管理の要件に「かなり」または「ある程度」の影響を及ぼすだろうと回答し、SOA(サービス指向アーキテクチャ)やWeb 2.0の場合も同程度の影響を及ぼすと予想していることがわかった。

 また、「非常に効率的なIT組織では、複数の技術レイヤにわたってワークフローの自動化が図られている」との回答が36%に上った。「IT資産管理ツールやイベント監視/相関処理/根本原因分析(RCA)ツールのほか、ITILのようなITサービス管理のベスト・プラクティスが効率的なIT環境の実現に貢献しているようだ」とTurner氏は報告書で指摘している。 一方、システム管理ソフトウェア・ベンダーの米国CAも先ごろ、世界のCIO(最高情報責任者)300人を対象に、データセンターの自動化に関する調査を実施した。この調査では、回答者の65%が「データセンターのタスクの多くを自動化している」と答え、31%は「中央集中型の管理を行っている」と答えたという。平均すると、多くのCIOがデータセンターのタスクの48%を自動化しており、向こう1年半でその比率が56%に増える見通しだ。「この調査は、サーバの整理統合、仮想化、性能管理、アップタイム、事業継続性などに関する取り組みが、自動化の必要性を加速させていることを示している」とCAは指摘している。 また、同調査の回答者の半数近くが「ITILを採用している」と答え、30%が「ビジネス・サービス管理に取り組んでいる」、23%が「(ITガバナンスの評価標準フレームワークである)COBITを採用している」と答えたという。「ベスト・プラクティス・フレームワークは、自動化技術よりも先に導入するのが望ましい」とCAはアドバイスしている。

Denise Dubie Network World米国版

Page 82: Computerworld.JP Jun, 2008

経営管理編販売/サービス編ITトレーナー編システム運用管理編システム開発編

存在意義

 顧客の要求をITで実現可能な手順にまとめるのが

SEの任務である。

 プログラマーは、SEが作成する仕様書に従って、

実際に動作するプログラムを作成する。しかし、その

プログラムが実際のビジネスに役に立つかどうかは判

断しない。システム開発の過程では、SEだけが顧客

と直接の情報交換を行う。

 現在、ITをまったく利用しないでビジネスを行って

いる企業は存在しないと言ってよいだろう。しかし、

ITが一般化した今日でも、やはりITシステム構築には、

特別なスキルが必要であり、ビジネス・スキルとの乖

離は大きい。SEはこの乖離を埋める職業である。

必要な経験/スキル

 一般的に、SEはプログラマーの次に進むべきキャ

リアだとされている。プログラマーとしてITに精通し

職務概要

 SEの仕事は、“ビジネスの人”と“ITの人”の間に立

つ「通訳」である。ビジネス用語で語られる顧客の要

求を聞き、コンピュータで実現可能な形態を考え、

IT用語で記述された仕様書にまとめる。しかし、最

近ではSEの職域は拡大傾向にあるようだ。

 従来、SEが作成するのは、顧客の要求の中でも

ITで実現可能な範囲を記述した「要求仕様書」だけ

であった。しかし、最近では要求を実現するための、

具体的な手順を記述した「詳細仕様書」までをSEが

記述することもある。

 また、実際のコーディング作業まで行うSEもいる。

こうなると前回紹介したプログラマーの仕事とSEの

仕事との境界線があいまいになる。もっとも、上流/

下流プログラマーまでをトータルでSEと呼称する会

社も多い。プログラマーからSEへのキャリアアップを

考えて転職活動を行う場合には、希望する会社のSE

の仕事内容を事前に調査しておこう。

104

「下流プログラマー」→「上流プログラマー」とキャリアを積んだら、次のステップはシステム開発の花形ともいうべき「システム・エンジニア(SE)」だ。ITとビジネスの橋渡し的な役割を担うSEは、ITに精通すると同時に、顧客とのコミュニケーション能力や、関係者との調整能力など、オールラウンドな能力が求められる。「プロジェクトのカギ」を握ると言ってよいほど重要な役割を担っているのだ。

横山哲也グローバル ナレッジ ネットワーク、マイクロソフトMVP

ITキャリア解体新書IT業界でサバイバルするための

システム・エンジニア

Computerworld June 2008

第3回

Page 83: Computerworld.JP Jun, 2008

労などを相談されるタイプの人は、「話させ上手」で「聞

き上手」な人が多い。仕事上の苦労を聞き出すことは、

システム化のポイントを聞き出すことと(ほぼ)同じだ。

また、相手の苦労(課題)に共感し、仲間意識が芽生

えることで、プロジェクトが成功する確率も高まる。

人の苦労話を聞くことが苦痛ではない人は、コミュニ

ケーションを心から楽しんでいる人だろう。

待遇

 インターネットで公開されている情報を総合すると、

30歳のプログラマーの平均年収は、上流/下流をま

とめて500万円程度、SEだと600万円程度のようだ。

ただし、会社の給与形態や個人の能力によるばらつ

きは大きい。ベテランSEの中には、1,000万円を超え

る年収を得ている人もいる。�

たうえでビジネスを学び、ITとビジネスの橋渡しがで

きるようになるのが、典型的なキャリアパスである。し

たがって、SEには以下の経験/スキルが求められる。

プログラマーとしての経験 会社によっては、プログラマーを経験させずにSE

を育成することもある。理論的にはこうしたやり方は

不可能ではない。SEに必要なITスキルは、プログラ

ムの細部を見渡すことではない。概要がわかれば十

分である。

 しかし、仕様書を書くには、実装技術の詳細まで

知っていたほうがよいとする意見も根強くある。現実

問題として、最低限のプログラミング・スキルは必要

と見たほうがよいだろう。筆者の個人的な見解では

1,000行程度のプログラムを1人で書ければよいと考

えている。

仕様書を読み書きした経験 SEの仕事は仕様書を書くことである。読みやすく

誤解を与えない仕様書を書くには、すぐれた仕様書

を多く読む必要がある。また簡潔かつ誤解のない表

現で仕様書を作成することも、SEの必須スキルだ。

IT業界動向の把握 常に最新技術を使うわけではないが、業界の動向

は一とおり押さえておきたい。顧客の要求を実現する

のに最適な手法を提案するためである。

顧客のビジネスに対する理解 ビジネスとITの橋渡しを行うためには、その両方を

理解する必要がある。顧客のビジネスを理解していな

いと、顧客の要望には十分に応えられない。

採用の決め手となる“究極の質問”

「合コンなどの席で、彼女(彼)から仕事上の苦労など

を相談されたことがありますか? 相談を受けること

は、あなたにとって苦痛ですか?」

 顧客の職種は千差万別である。今まで聞いたこと

もない業務のシステムを扱うこともある。仕事上の苦

June 2008 Computerworld 105

国家資格系

●情報処理技術者試験「テクニカル・エンジニア」情報処理推進機構(IPA)が実施している情報処理技術者試験「テ

クニカル・エンジニア」には、「システム管理」「エンベデット・システ

ム」「情報セキュリティ」「データベース」「ネットワーク」の5分野の試

験がある。すべての試験を受ける必要はないが、自分の専門分野

となる試験は受けておきたい。

ベンダー資格系

●マイクロソフト認定システム・エンジニア(MCSE)「マイクロソフト認定プロフェッショナル(MCP)」の最上位資格。

マイクロソフト製品を用いてITインフラの設計や実装を行っている

SEを対象にしている。また、下流/上流プログラマーで紹介した

「オラクルマスター」なども取得しておきたい。

年収やりがい将来性モテ度

★★★★★★★★

★★★★

★★

所属する組織、与えられる権限によってかなり差がある

プロジェクトの行方はSEの双肩にかかっている

大丈夫、仕事“量”は今後も増え続けるハズだ

ITが「花形職種」だった頃はモテたらしい……

SEが持っていたい資格ワ ン ポ イ ン ト お 役 立 ち

2 2 2 2

情 報

【謝辞】本稿を執筆するにあたり、元プログラマーの鈴木和久氏(グローバル ナレッジ ネットワーク)に協力をいただいた。

Page 84: Computerworld.JP Jun, 2008

IT

K

EY

WO

RD

39

Computerworld June 2008106

 USB 3.0(通称SuperSpeed USB)は、PCと周辺

機器との間でデータをやり取りするためのシリアル通

信規格「USB」の次期規格である。現在、米国Intel

や米国Microsoft、日本のNECなど6社で結成された

「USB 3.0 Promoter Group」と、USBの仕様策定を

行う非営利団体「USB-IF(Implementers Forum)」

が共同で標準化を進めている。正式規格として公開

されるのは2008年前半になる見通しだ。

 USB 3.0の最大の特徴は、現行のUSB 2.0と比べ

て転送速度がきわめて速くなる点だ。USB 2.0の転

送速度は最大480Mbpsだったが、USB 3.0ではその

10倍以上の約5Gbpsまで速くなるとされている。

 これを可能にするのが、USB 2.0から変更された

データ転送仕様だ。USB 2.0では、データ転送のた

めの通信線が送信/受信で共用されている。しかし、

USB 3.0では送信/受信で別々の通信線があてがわ

れる。また、USB 2.0で使われていた通信プロトコル

(ポーリング方式)が、USB 3.0では使われなくなる点

USB 2.0の10倍の転送速度を実現する次期USB規格

も大きい。同方式を用いた場合、PC側が周辺機器

側に対して通信を許可した時にだけデータ転送が可

能となる。一方、USB 3.0では、周辺機器側でも自

由に通信のタイミングが決められるプロトコルが用い

られる。こうした仕様変更によって、通信の効率性が

増し、高速化、そして省電力化も実現するようだ。

 現在公開されているコネクタの形状を見ると、USB

3.0用端子とは別にUSB 2.0用端子が組み込まれてお

り、下位互換可能となっている。また、現状では銅

線用の端子が実装されているのみだが、ゆくゆくはよ

り高速なデータ転送が可能な光通信にも対応する仕

様となる予定だ。

 なお、USBの“ライバル”とも言えるシリアル通信

規格IEEE 1394(通称FireWire)でも、現行の4

倍の転送速度3.2Gbpsを実現するとされる次期規

格(S3200)の標準化が進められている。

 2008年は、シリアル通信規格が飛躍的に速くな

る年になりそうだ。

Computerworld 編集部

USB 3.0(Universal Serial Bus 3.0)

▼39

IT KEYWORD

断面図 前面図USB 2.0の場合

USB 3.0の場合

電源アース

アース

送信/受信端子

送信端子 受信端子

USB 2.0用端子群

USB 2.0用端子群USB 3.0用端子群

USB 2.0およびUSB 3.0のコネクタ形状の比較(プラグ)

Page 85: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 107

P R O F I L E

ささき・としなお。ジャーナリスト。1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社記者として警視庁捜査一課、遊軍などを担当し、殺人事件や海外テロ、コンピュータ犯罪などを取材する。その後、アスキーを経て、2003年2月にフリー・ジャーナリストとして独立。以降、さまざまなメディアでIT業界の表と裏を追うリポートを展開。『ライブドア資本論』、『グーグル——既存のビジネスを破壊する』など著書多数。

Attention Trust」より)

 暗黙Webは、ユーザーのクリックとい

う行動によって成り立っている。ユー

ザーが何かのリンクをクリックすれば、

それは何らかの評価を下したということ

を意味する。

 そして、このクリックという行為によっ

て、さまざまなパーソナライゼーション

やレコメンデーションが可能になる。

ReadWriteWebは、暗黙Webの最良事

例として、音楽共有サイトのLast.fmを

挙げている。Last.fmは、ユーザーがiTunesなどで日々

聴いている音楽の情報を記録していき、そのユーザー

がどんなアーティストや楽曲を好んでいるのかを集計・

ランキングしてくれる。そして、集計結果をマイニングし、

ユーザーが好みそうな楽曲ばかりがかかるネット・ラジ

オを流してくれる(残念ながら、現在、日本語版ではこ

のネット・ラジオ機能が「準備中」になっている)。

 つまり、Last.fmはユーザーが音楽を好きなように聴

いているだけで、そのリスニング傾向をどんどん蓄積し

てくれる。ユーザーが「この曲が好き」「このアーティスト

の曲を聴きたい」と明示的(explicit)にリクエストしなく

ても、ユーザーの無意識(implicit)を自動収集し、「あな

たの好みはこれでしょう?」とレコメンドしてくれるのだ。

 これは一種の監視システムではある。だが、さまざま

な情報を入力する手間を省いてくれるうえ、ユーザーの

好みを自動判別してくれるようなレコメンデーション機

能は、今後の主流になっていくことが予想される。

 ナレッジ・マネジメントの用語に、形

式知と暗黙知がある。前者はドキュメン

トや図表などで表現され、容易に他人に

伝達できる明文化された知識のことであ

る。後者は人間の経験に基づくノウハウ

のようなもので、テキストで表現するの

は難しい知識を指す。当然、後者のほう

がシステムでインデックス化しにくい。

 この2つの言葉を英語で言うと、「expli

cit knowledge」「implicit knowledge」

となる。explicit/implicitは、明示と暗

黙の対比語だ。そして最近、Webの世

界でimplicit webという言葉が使われるようになってき

ている。直訳すれば「暗黙Web」となろうか。一見、何

のことかわからない言葉だが、ニュース・サイトのRead

WriteWebによれば、次のような意味だという。

 「暗黙Webのコンセプトはシンプルだ。われわれがあ

る情報に触れたとすれば、われわれはその情報に何ら

かの意思表示をしたということになる。何かの記事に出

会ってその記事を読むのに時間を費やす。面白い映画

を観て、その映画を友人や家族に薦める。音楽に共鳴

すれば、その曲を何度も繰り返し聴く。われわれはこ

うした行為を反射的に、無意識のうちに行っている。

つまり暗黙のうちに行っているのだ。でもそうした暗黙

の行為の結果には、重要な意味がある。われわれがそ

の音楽や映画や記事に対して注意を払ったという暗黙

の行為が、『私はそのコンテンツを気に入った』という評

価になっているからだ」(2007年6月12日のエントリー

「The Implicit Web: Last.fm, Amazon, Google,

インターネット劇場

佐々木俊尚T o s h i n a o S a s a k i

「暗黙Web」による

新しいレコメンデーションの形

Entry

23

Page 86: Computerworld.JP Jun, 2008

Computerworld June 2008108

P R O F I L E

えじま・けんたろう。インフォテリア米国法人代表/XMLコンソーシアム・エバンジェリスト。京都大学工学部を卒業後、日本オラクルを経て、2000年インフォテリア入社。2005年より同社の米国法人立ち上げのため渡米し、2006年、最初の成果となるWeb2.0サービス「Lingr(リンガー)」を発表。1975年香川県生まれ。

 1997年──当時、ハードウェア・ベ

ンダーからITサービスの会社へと大変

革を遂げつつあった外資系ベンダーの

新卒採用面接を受けたときの出来事で

ある。面接も終盤にさしかかり、「弊社

について、何か聞きたいことはあります

か?」と聞かれたとき、私はすかさずこの

ような質問をした。

 「IT業界というのはとても奇妙な業界

だと思います。IT業界が目指す理想の

世界が訪れるとき、つまり、ITのイノベー

ションによってだれもが個人で簡単に情報にアクセス

できる時代が来るとき、今、御社が目指そうとしている、

ITのソリューションを販売するという商売はなくなって

しまうのではないでしょうか」

 「自分で自分をクビにするためにイノベーションを起

こすという、とても不思議な矛盾を抱えた仕事だと思

うのですが、御社は、50年後の自社がどのような姿に

なっているとお考えでしょうか」

 今にして思えば、わざと答えのない問いを投げかけ

ることで相手を困らせてやれという、ナイーブな若者

にありがちな態度だったと少し反省している。しかし

一方で、この問いは今も問い続ける価値のある問いだ

と考えている。

 あるテクノロジーが、もしプロのエンジニア集団に

何百万円も何千万円も出してカスタマイズしてもらわ

ないと使えないようなものなら、それはそのテクノロ

ジーが未熟であることにほかならない。

カスタマイズをしなくても簡単に使える

ように、絶えず進化していくのがイノ

ベーションの宿命であり、また、ユーザー

のほうもテクノロジーに対するリテラ

シーを次第に高めていき、やがてそれら

が交差する瞬間がやってくる。

 しかし、そうしたイノベーションの行

き着く先は、プロのエンジニアが不要に

なるということでもある。

 かつて、PCを買ってきてネット回線

を引いてあげるだけでソリューションと呼んで商売に

なっていた時代があった。今では考えられないことだ、

と読者の皆さんは笑うかもしれない。だが、今のソ

リューション・ベンダーの仕事を未来の世界の住人た

ちが振り返ったとき、同じ感想を持たないと言えるだ

ろうか。

 情報技術は、どこまでも個人の能力を増幅する方向

へと進化し、やがて空気のような存在となり、社会の

総セルフサービス化を加速させていくだろう。IBMか

らマイクロソフト、グーグルへという業界重鎮の交代

劇は、大企業から中小企業、そしてとうとう個人へと、

ITの主たるターゲットが変化してきたことを意味してい

るのだ。

 ソリューション・ベンダーは今、正に自分で自分を

クビにする大変革の時期が到来しているはずなのに、

このことに自覚的なベンダーが驚くほど少ないように

思われる。これははたして杞憂だろうか。

IT哲学

江島健太郎K e n n E j i m a

自分で自分をクビにするために働く

Entry

33

Page 87: Computerworld.JP Jun, 2008

June 2008 Computerworld 109

P R O F I L E

くりはら・きよし。テックバイザージェイピー(TVJP)代表取締役。弁理士の顔も持つITアナリスト/コンサルタント。東京大学工学部卒業、米国マサチューセッツ工科大学計算機科学科修士課程修了。日本IBMを経て、1996年、ガートナージャパンに入社。同社でリサーチ・バイスプレジデントを務め、2005年6月より独立。東京都生まれ。

 「産消逆転」(産業分野と消費者分野

の逆転)、あるいは「コンシューマリゼー

ション」(Consumerization:消費者化)

という言葉に代表されるように、新しい

テクノロジーが、まず消費者分野で普

及し、その後、産業分野で普及すると

いうパターンが増えています。GUI、携

帯電話、マルチメディア、サーチ・エン

ジン、Web 2.0などがその典型例と言

えるでしょう。

 こうした動きには、十分な理由があり

ます。今日のテクノロジーにおいて価値

をもたらす中核要素になっているのは、ソフトウェアと

半導体です。どちらも生産のための固定費と比較して、

複製と流通のための変動費がはるかに小さいという特

性を持っているので、大量に販売すればするほど極端

に安くできます。したがって、新しいテクノロジーを、

まずは消費者向け市場で大量に展開して開発コストを

回収するビジネス・モデルが有効となるわけです。

これからの企業ITの動向予測に求められる新しいアプローチ このような産消逆転の現象は今後、企業ITの動向

予測を行うITアナリストの業務にも影響を与えると思

われます。過去においては、過去の傾向を見て先を予

測したり(「過去5年間に10%成長してきたので、当面

は10%成長が続くだろう」)、あるいは、企業のIT部門

におけるテクノロジー採用の意思決定者に導入意欲

を尋ねたり(「今後3年間にこのテクノロジーを採用す

る予定がありますか?」)という手法が動向予測の中心

となっていました。

 しかし、産消逆転時代には、このよ

うな伝統的手法だけでは企業ITの将来

動向を先読みすることが困難になってく

るでしょう。企業向けIT市場だけではな

く、消費者向け市場にも目を向けて、次

に来るテクノロジーを探さなければなら

ないのは当然ですが、これに加えて、消

費者の世代別動向にも目を向けなけれ

ばならなくなると思います。例えば、20

代の消費者において広く普及している

テクノロジーがあるとするならば、およそ5年後、すな

わち、それらの消費者が企業の意思決定担当者となる

タイミングで、そのテクノロジーが企業において急速

に普及するといった可能性が考えられます。

 以前にも書きましたが、米国においては若年層の消

費者において、コミュニケーションの手段に電子メー

ルよりもインスタント・メッセージング(IM)を好む傾向

が顕著に現れています。また、日本においても、

「Twitter」のようなカジュアルなコラボレーション・ツー

ルを好む若年層が増えているようです。従来型の企業

ITの予測手法だけでは、これらのテクノロジーが企業

内で短期間のうちに急速に普及する可能性を見逃して

しまうかもしれません。

 もちろん、従来型の予測手法も重要ですが、特に

将来のシナリオの検討においては、一般消費者の世代

別動向という要素を含めることがますます重要になっ

てくると思います。

テクノロジー・ランダムウォーク

栗原 潔K i y o s h i K u r i h a r a

「産消逆転」時代の

企業IT動向の読み方

Entry

33