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利子所得税の効果 財政論 I/II No.11 麻生良文

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利子所得税の効果財政論 I/II

No.11

麻生良文

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内容

•貯蓄の決定モデル• 2期間モデル•利子率の変化

• 所得効果と代替効果

• 労働所得の経路

•他のモデル

•利子課税の効果•利子課税の死重損失

•企業段階での課税の効果•投資の決定•企業段階での課税

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利子所得税の効果

•貯蓄の決定モデル•ライフサイクル仮説

• 老後のための貯蓄• 恒常所得仮説

•予備的動機• 所得の不確実性

•遺産動機•ここでは,ライフサイクル・モデルを考える

•利子所得税の効果•家計の直面する利子率の変化の効果•資本所得に対する課税

• 企業段階での課税(法人税)

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貯蓄の決定モデル

𝐶1 + 𝑆 = 𝑊1𝐶2 = 𝑊2 + (1 + 𝑟)𝑆 𝐶1 +

𝐶21 + 𝑟

= 𝑊1 +𝑊2

1 + 𝑟

𝑈(𝐶1, 𝐶2)

2期間モデルC1,C2 第1期,第2期の消費

W1,W2 第1期,第2期の労働所得(外生)

S:第1期の貯蓄, r:利子率

生涯の予算制約

効用関数

各期の予算制約

生涯の予算制約のもとで効用関数を最大にするようにC1,C2を選ぶ

S=W1─C1で決定

消費・貯蓄生涯所得,利子率に依存

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貯蓄の決定モデル(2)

max 𝑈(𝐶1, 𝐶2)

s. t. 𝐶1 +𝐶2

1 + 𝑟= 𝑊1 +

𝑊2

1 + 𝑟

C1

C2

W1C1*

C2*

W2

E

W u0

S 1+r

予算線は点W(労働所得の経路を表す点)を通り,傾き1+rの直線

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利子率の変化と予算線

C1

C2

W1

W2

W

利子率の上昇

利子率の低下

利子率の上昇予算線は点Wを中心に右回りに回転

利子率の下落予算線は点Wを中心に左回りに回転

利子率上昇は代替効果と所得効果をもたらす

利子率上昇の代替効果→予算線の傾きが急に→ C2が相対的に割安

現実の世界では流動性制約が重要かもしれない→点Wで屈折する予算線

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利子率の変化と予算線(2)

C1

C2

W

C1

C2

W

利子率上昇の効果と所得経路

点Wが所得の経路を表す

W2=0,またはW2が少ないとき,利子率の上昇はプラスの所得効果をもたらす所得効果,代替効果はC1を増加させる教科書の2期間モデルの通常の想定利子率の変化が貯蓄に与える効果は0に近い?

W2がW1に比べて大きいとき利子率の上昇はマイナスの所得効果をもたらす将来の所得をあてに借金をすることが困難になる→借金は大きく減少

E

F

EF

Case A

Case B

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所得効果と代替効果

Case A 代替効果

所得効果

総合

C1 - + ?

C2 + + +

S + - ?

Case B 代替効果

所得効果

総合

C1 - - -

C2 + - ?

S + + +

利子率上昇の効果

Case A: 貯蓄をする場合

Case B:借金をする場合

どちらの場合でも代替効果は同じ

所得効果がプラスになるかマイナスになるかの違い

Case B(借金をする場合)では利子率の上昇によって貯蓄が増加する(借金が減る)

現実の世界での若年者→将来の労働所得が多→CaseBに相当

多期間モデルで考えると,CaseBの人やCaseAの人(高齢者)が混在して,マクロ的貯蓄が決定される

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利子所得税の効果(1)

C1

C2

W1

W2

W

課税後の予算線

課税前の予算線

1+(1-t)r

借金の利払いが課税ベースから控除される場合

借金の利払いが課税ベースから控除されない場合

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C2

C1OW

u1

u0

E

G

利子所得税の死重損失

死重損失

H

課税前の予算線

課税後の予算線

F

I

J

一括税の税収

利子所得税の税収

課税前の均衡

利子所得税の導入

G点が選択される

効用水準はu1に低下

IGだけの税収

歪みのない一括税を用いると

課税後の効用水準がu1になるような一括税導入

F点が選択される

HFだけの税収

利子所得税のもとで,GJ=HF–IG だけの税収がっ社会から失われたと考えられるーー>死重損失

ここではW2=0を仮定

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投資

投資の決定

MPK=c

• MPK:資本の限界生産物

• c:資本コスト(資本1単位あたり賃貸費用)

I=K*(MPK,c)−(1 − d)K-1

資本コスト c=q(r+d)

q:資本財の価格(生産物価格を1とした場合), r:利子率,d:資本減耗率

資本ストックの水準の調整費用の存在

急激に投資を増やすと余分に費用がかかる

調整費用を明示的に考慮したモデル

MPK

資本コスト

K

MPK

c

K*

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資本所得課税の効果

• 企業の支払った利子(資本所得)と家計が最終的に受け取る利子の間にどれだけ「くさび」が打ち込まれるかが重要

• 家計段階での課税

• 企業段階での課税

• 投資優遇税制が存在すると,家計段階での課税の効果を打ち消して投資=貯蓄促進的になる場合もある。

• ただし,投資促進的な優遇税制は,異なる産業に異なる影響を与える場合が多い→非効率性

家計の受取利子

貯蓄,投資

I

S

I’

t

r0

r1

(1-t)r0

(1-t)r1

E

F

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課税の長期的な効果(資本蓄積の変化)

1. 利子課税の死重損失

現在の消費と将来の消費の組合わせについての資源配分上の損失

2. 資本蓄積の変化を通じた効果

貯蓄の減少→投資の減少→将来の資本ストックの減少→将来の産出量の減少

1.の効果より2.の「資本蓄積の変化を通じた効果」の方がはるかに重要

所得税,労働所得税,支出税の比較の際にもマクロ的貯蓄の変化を通じた資本蓄積への影響を議論することが重要