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内科合同カンファ
2013.5.23
48歳 女性
【主訴】発熱、下腹部痛
【現病歴】 来院3日前より尿意はあるものの、1回尿量が減少していた。1日の排尿回数は4-‐5回。来院2日前から水分を1L/day摂るようにしたが依然排尿は少なく、下腹部を中心とした腹部膨満感、腹痛が出現した。来院当日は悪寒を伴う38℃台の発熱があり、ER受診した。
【既往歴】 #動脈管開存症:15歳で手術 #胆石:32歳で腹腔鏡下胆嚢摘出術 #糖尿病疑い:健診で指摘あるも受診せず 【生活歴】 家族:子供3人 タバコ:1箱/day 酒:最近数年ビール2−3L/day 内服薬:なし
【身体所見】 身長:150cm 体重:75kg BMI:33 BP:128/80mmHg P:90/min RR:20/min T:39.9℃ SpO2:96%(RA)
全身状態:軽度倦怠感 眼球:貧血なし 軽度黄染あり 口腔内:乾燥なし 頚部:リンパ節腫脹なし 心音:整 Ⅲ/Ⅳなし 雑音なし 呼吸音:清 wheezeなし crackleなし 腹部:下腹部正中に手術痕あり、膨満・軟、鼓音著明 左右の下腹部に圧痛あり、反跳痛2+ 直腸診で圧痛なし 背部:叩打痛なし 四肢:把握痛なし 関節:腫脹・圧痛なし
追加で聞きたい病歴はありますか? Problem list:問題点をあげてください。 鑑別:どんな疾患を考えますか? 検査:どんな検査をしますか?
【追加病歴】 最近の性交渉はないが、避妊リングを7年前に挿入してから抜去していない。 帯下の増加や悪臭はなし。 妊娠分娩歴) para3003 経腟分娩1回、帝王切開2回 月経歴) 周期:不整、期間:5日間 経血量:普通、月経困難:軽度 STD既往) #クラミジア感染:15年前に治療終了
鑑別 #骨盤部感染症(PID、憩室炎) #尿路感染症 ➡膀胱炎+腎盂腎炎? #SBP?アルコール性肝硬変?
血液検査 WBC: 17700/μl(Stab:6.5%, Seg:80%, Lym:9%, Mo:2.5%, Eo:2%) RBC:421万 /μl Hb: 15.4g/dl Ht: 45.3% Plt: 20.0万/μl TP: 6.5g/dl Alb: 2.9g/dl AST: 27IU/L ALT: 47IU/L ALP:299 IU/L LDH: 174IU/L γGTP:304IU/L T-‐Bil: 2.7mg/dl D-‐Bil: 1.2mg/dl Amy:40 IU/L BUN: 6mg/dl Cr: 0.5mg/dl Na: 130mEq/L K: 3.5mEq/L Cl: 97mEq/L CRP:9.76mg/dl
尿検査 比重:1.027 pH:6.9 尿蛋白(2+) 潜血(+) ケトン体(+) WBC反応(3+) 亜硝酸塩(-‐) 赤血球:5-‐9/HPF 白血球:>100/HPF 妊娠反応(-‐)
腹部レントゲン 胸部レントゲン
尿スメア PMN(+) GNR(2+) Phagoはっきりしない
臥位 立位
造影CT
造影CT
右付属器:42×28mm、左付属器:52×42mmと腫大、fluid貯留あり。腹水、骨盤部腹膜の肥厚あり。
【診断】 両側卵管卵巣膿瘍
【経過】 ERでは尿路感染を疑いCTM開始されたが、診察上、局所的な腹膜炎徴候を疑い、CMZに変更しながら造影CT検査施行。画像上、卵巣卵管膿瘍を疑い、ABPC+GM+CLDMに変更した。 婦人科診察にて臭気のある帯下あり、内診にて子宮頚部・両側付属器に圧痛を認めた。経膣エコーにて子宮内にIUD確認し、抜去した。 その後、解熱し腹部症状も改善していき、膿瘍は縮小していった。
腟培養,IUD培養: Streptococcus constellatus Peptostreptococcus anaerobius 淋菌・クラミジアPCR:陰性 IUD付着物細胞診:放線菌検出。
膀胱刺激症状
• 炎症により尿管・膀胱・尿道の神経、粘膜が刺激され、頻尿、排尿障害、排尿時痛、残尿感が生じる。
膀胱刺激症状を伴う腹痛
①泌尿器系 腎盂腎炎、膀胱炎、結石症、膀胱癌 ②生殖器系 子宮外妊娠、骨盤腹膜炎 ③消化器系 虫垂炎、S状結腸憩室炎、Crohn病
尿検査が有用
骨盤内感染症 (pelvic inflammatory disease:PID)
子宮留膿腫
卵管卵巣膿瘍 子宮内膜炎
骨盤腹膜炎
卵管・卵巣炎
• 子宮頚部、腟、外陰部から子宮内膜、卵管、付属器、腹腔内へ逆行性に感染
骨盤内感染症 (pelvic inflammatory disease:PID)
risk factor 性活動年齢、複数の性パートナー、IUDなどの異物 症状 下腹部痛、発熱、性交痛、不正出血、帯下の増加
疑わしきは・・・ ①性感染症のリスクのある女性
②発症前に最終の性交歴あり ③24時間以内に両側に拡大する下腹部痛
④異物(腟内、子宮内)
骨盤内感染症 (pelvic inflammatory disease:PID)
起炎菌 淋菌、T.Chlamydia、腸内細菌、嫌気性菌などの複数感染
治療 ①軽症例 n CMZ ± MINO n ABPC/SBT ± MINOorDOXY
②中等〜重症例 n CMZ + GM ± MINOorDOXY n ABPC/SBT + GM ± MINOorDOXY n CTXorCTRX + CLDM ± MINOorDOXY
• PIDの約10%で卵管卵巣膿瘍、Fitz-‐Hugh-‐Curns症候群(肝周囲炎)へ進展する。
Fitz-‐Hugh-‐Cur4s症候群
n 症状は右上腹部痛 n 淋菌やクラミジア卵管炎によって引き起こさ
れる。 n トランスアミナーゼや腹部エコーで異常を呈さ
ない。 n 診断には腹腔鏡が必要であるが、臨床的に
疑い、他疾患が除外されてクラミジアIgA抗体が陽性であれば臨床的に診断して治療をしていく。
卵巣卵管膿瘍 (tubo-‐ovarian abscess:TOA )
n 高度の骨盤内炎症性疾患 n 多くは上行性感染、複数菌感染 n 子宮内操作(子宮内膜細胞診、人工授精・体外受
精)や、IUD、卵巣子宮内膜症性囊胞もリスクである n 抗菌薬に抵抗性を示すが、抗生剤による治癒率は70%
n 直径9cm以上の膿瘍、抗生剤治療開始48-‐72時間後も改善傾向ない症例では外科処置が必要
n 破裂すると致死率は1.7-‐3.7% n 若い女性にあっては、卵管・卵巣切除,、卵管周囲
癒着などにより妊孕性を損なう危険性もある
放線菌(Ac#nomyces) 顔面・頚部型(40-‐60%) 歯根膿瘍、抜歯後の窪みなどから感染する。下顎に好発し、顎放線菌症と呼ばれる。
胸部型(10-‐20%) 膿汁の中にあるドルーゼという顆粒の誤嚥によって発症する。下葉に多い。肺癌や肺結核との鑑別が必要。
腹部型(20-‐30%) 回盲部に好発する。開腹後に診断される場合が多い。
骨盤内(3%) 避妊リング(IUD)装着後の骨盤内放線菌症、原発性卵巣放線菌症
放線菌(Ac#nomyces)
n グラム陽性の嫌気性菌 n ヒトの感染症の多くは Acnnomyces israelii n 慢性・化膿性あるいは肉芽腫性疾患 n 化膿性肉芽腫病変では中心病巣内に菌塊を形成
し、慢性化すると腫瘍を形成し瘻・瘻孔を作る n 菌の産生するproteolync enzymeのため周辺臓器
に浸潤が強い➡悪性疾患との鑑別が困難 n 培養は困難で陽性率は2%未満➡病理が有効 n ペニシリンGの大量長期投与が原則とされている。6
か月から12 か月の内服治療が有効との報告もある。
婦人科的問診で聞きたい事 n 月経歴 ①最終月経 ➡妊娠の可能性、月経不順の有無など ②月経周期・期間、不正出血の有無 ➡患者の申告する最終月経が違う事もある! ③経血量:1日に使用するナプキンやタンポンの数 ④月経困難:下腹部や骨盤の圧迫感、鈍痛 ⑤初経・閉経の時期 ➡閉経後の出血は子宮内膜癌の可能性 ⑥無月経 ➡低体重、神経性食欲不振症、ストレス、慢性疾患、視床下部−下垂体−卵巣機能不全
n 妊娠 ①妊娠・分娩歴 ②妊娠の早期症状:悪心・嘔吐、乳房の圧痛・刺痛、乳房の大きさの変化、頻尿、易疲労感、胎動の自覚 n 外陰腟症状 腟分泌物、掻痒感 ➡STD、萎縮性腟炎 n 性的活動 パートナーの人数、最終性交渉
おわりに・・
n 膀胱刺激症状を呈するのは尿路感染症だけではありません
n 女性の腹痛の際には産婦人科病歴を聴取し、これらの鑑別を挙げてください