看護専門学校生の学業継続に影響する要因 -...

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人間看護学研究 13:43-49(2015) 43 研究 ノー ト 看護専門学校生の学業継続に影響する要因 住谷 圭 子1),甘 京 子2),松 行 弘2),山 下 真 裕 子3) 1)近江 八 幡市立 看護 専 門学校 2)滋賀 県立 大学 人 間看護 学部 3)神奈川 県立 保健 福祉 大学 保健 福祉 学部 看護 学科 背景 2013年 か ら過 去5年 間 、 看 護 師 養 成 所 の 入 学 者 の う ち約3300人(15%)が 留年、休学、退学 して い る1)。約6割 の学生が 「学校を辞めたいと思ったこと」があると回答しており、臨地実習 ・対人関係 ・ 日々 の 学 習 上 の課 題 等 に多 くの学 生 が ス トレス を 感 じて い る との 報 告 が あ る2)。看 護 基 礎 教 育 在 り方 検 討 会 に お いて 日本 看 護 協 会 で は看 護 師 の 養 成 ・確 保 の3つ の 観 点 の ひ とつ と して 「看護学生の退学者の 防 止 」 を 挙 げて い る3)。 目的 看 護 専 門 学 校 生 の 学 業 継 続 に影 響 す る要 因 を明 らか にす る。 方法 看護専門学校卒業後の新人看護師13名 に学業継続に影響する要因についてインタビュー(半 構造 化 面 接)を 実施 した。収集したデータは、内容を質的に分析 し、コード化 し、類似 した項目ごとに集約 し、 カ テ ゴ リーを 抽 出 した 。 結果 学 業 の 継 続 が 困 難 と感 じた 要 因(体 験)と 学業継続を支えた要因(体 験)の2つ に分 け られ た。 全 コー ド数305の うち、 学 業 困 難 体 験 は15の サ ブ カ テ ゴ リーか ら、3つ の カ テ ゴ リー、 【実習を通 して 感じた困難な体験】 【日々の学習を通 して感 じた困難な体験】 【学生生活 を通 して感 じた人間関係の困 難 な 体 験 】 が 抽 出 され た 。 学 業 継 続 を 支 え た と感 じた 要 因 は、20の サ ブ カ テ ゴ リーか ら、3つ のカテゴ リー 【自己 の 気 持 ちの 持 ち 方 】 【自己の行動の工夫】 【支援 して くれ た人の存在】が抽出 され た。 結論 看護専門学校生の学業継続に影響する要因は、学業継続が困難と感 じた要因と学業継続を支えた 要 因 が あ った 。 学 業 継 続 を 支 え た 要 因 に は、 自己 の 気 持 ちの 持 ち方 と行 動 、 支 援 を して くれ た人 の 存 在 が必要であった。 キー ワー ド 看護専門学校生、学業継続、学習支援 1.緒 The factors of program completion among Nursing Students in Nursing Traning Schools. Keiko Sumitani Kyoko Amasa', Yukihiro Matsumoto'', Mayuko Yamashita" "Nursing School of Oumihatiman municipal , 'School of Human nursing , The University of Shiga Prefecture "Kanagawa University of Human Services , Faculty of Health& Social Services School of nursing 2014年9月30日 受 付 、2015年1月9日 受理 連 絡 先:住 圭子 近江八幡市立看護専門学校 所:滋 賀 県 近 江 八 幡 市 江 頭 町983 e-mail : hachmans@zc. ztv. ne. jp 近年、看護学生の留年や退学が増加 し続 けている。過 去5年 間 の 看 護 師 養 成 所 の学 校 数 は482校(2007)か ら、 500校(2012)と 増加 して い る。 しか し、入 学者 の数 は 24092人(2012)に 対 し、 卒 業 者 数 は20806人 とな り、 入 学 者 の15%(3286人)が 留 年 も し くは休 学 、 あ る い は退 学 して い る こ とが 推 測 で き る1)。看 護 師 養 成 所 に入 学 した 学 生 の1割 が 退 学 し、 退 学 率 は、 約1割 を 占め る。 ま た 約1割 弱 の学 生 が 留 年 して い る。 休 学 後 に退 学 す る学 生 も増 え て い る2)。看 護 学 生 の6割 以上が 「学校 をやめ た い と思 っ た こ と」 が あ り3)4)、そ の 理 由 は、 看 護 師 の 適 性 や 自 己 の能 力 な どが あ げ られ 、 学 校 を辞 め よ う と思 っ た看護学生(看 護専門学校3年 課 程)は 、 全 学 年 の6割 以 上 を 占 め る。 看 護 教 育 の カ リキ ュ ラ ム の 過 密 さ が あ り、その中でも実習記録が大変、課題が多いなどの実習

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人間看護学研究 13:43-49(2015) 43

研究 ノー ト

看護専門学校生の学業継続に影響する要因

住 谷   圭 子1),甘 佐   京 子2),松 本   行 弘2),山 下 真 裕 子3)

1)近江八幡市立看護専門学校

2)滋賀県立大学人間看護学部

3)神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部看護学科

背景 2013年 か ら過去5年 間、看護師養成所の入学者の うち約3300人(15%)が 留年、休学、退学 して

い る1)。約6割 の学生が 「学校を辞めたい と思 ったこと」があると回答 してお り、臨地実習 ・対人関係 ・

日々の学習上 の課題等 に多 くの学生 がス トレスを感 じて いるとの報告が ある2)。看護基 礎教育在 り方検

討会にお いて 日本看護協会で は看護師の養成 ・確保の3つ の観点の ひとつ と して 「看護学生の退学者の

防止」を挙 げてい る3)。

目的 看護専門学校生の学業継続 に影響す る要因 を明 らか にす る。

方法 看護専門学校卒業後の新人看護師13名 に学業継続 に影響す る要因 につ いて インタビュー(半 構造

化面接)を 実施 した。収集 したデ ータは、内容を質的 に分析 し、 コー ド化 し、類似 した項 目ごとに集約

し、カ テゴ リーを抽出 した。

結果 学業の継続が困難 と感 じた要因(体 験)と 学業継続を支えた要因(体 験)の2つ に分 けられ た。

全 コー ド数305の うち、 学業困難体験 は15の サ ブカテゴ リーか ら、3つ の カテゴ リー、  【実 習を通 して

感 じた困難な体験】 【日々の学習を通 して感 じた困難な体験】 【学生生活 を通 して感 じた人間関係の困

難な体験】が抽出 された。学業継続を支えた と感 じた要因 は、20の サ ブカテゴ リーか ら、3つ のカテゴ

リー 【自己の気持 ちの持ち方】 【自己の行動の工夫】 【支援 して くれ た人の存在】が抽出 され た。

結論 看護専門学校生の学業継続 に影響す る要因 は、学業継続が困難 と感 じた要因 と学業継続 を支えた

要因があ った。学業継続を支えた要因 には、 自己の気持 ちの持 ち方 と行動、支援を して くれ た人の存在

が必要であ った。

キー ワー ド  看護専門学校生、学業継続、学習支援

1.緒  言

The factors of program completion among Nursing Students in

Nursing Traning Schools.

Keiko Sumitani Kyoko Amasa', Yukihiro Matsumoto'',

Mayuko Yamashita"

"Nursing School of Oumihatiman municipal , 'School of Human nursing , The University of Shiga Prefecture

"Kanagawa University of Human Services, Faculty of Health&

Social Services School of nursing

2014年9月30日 受付、2015年1月9日 受理

連絡先:住 谷 圭子

     近江八幡市立看護専 門学校

住 所:滋 賀県近江八幡市江頭 町983

e-mail : hachmans@zc. ztv. ne. jp

 近年、看護学生の留年や退学が増加 し続 けている。過

去5年 間の看護師養成所の学校数は482校(2007)か ら、

500校(2012)と 増加 している。 しか し、入学者の数は

24092人(2012)に 対 し、卒業者数は20806人 となり、入

学者の15%(3286人)が 留年もしくは休学、あるいは退学

していることが推測できる1)。看護師養成所に入学 した

学生の1割 が退学 し、退学率は、約1割 を占める。また

約1割 弱の学生が留年 している。休学後に退学する学生

も増えている2)。看護学生の6割 以上が 「学校をやめた

いと思ったこと」があり3)4)、その理由は、看護師の適

性や自己の能力などがあげられ、学校を辞めようと思っ

た看護学生(看 護専門学校3年 課程)は 、全学年の6割

以上 を占める。看護教育のカ リキュラムの過密さがあ

り、その中でも実習記録が大変、課題が多いなどの実習

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の困難さや、授業が難 しい、教員、家族 との関係などが

ある5)。退学や留年 となった原因の一つには、臨地実習

が不合格となり、単位未修得となったことがあげられる。

看護学生が入学後、学生生活で最 もス トレスを感 じたこ

とは臨地実習、次いで対人関係、 日々の学習上の課題が

ある6)。また、看護学導入時期に学生が感 じる困難性 と

して,【今までとは異なる学習方法】、【慣れない環境】、

【科 目の位置づけの認識不足】、【学習資源の不便 さ】、

【看護学に対する学習意欲,動 機づけの違い】があげら

れている7)。看護学生の学習に関するス トレス、特に実

習に関する不安やス トレスなどは多 くの報告がある8)。

看護学生の学生生活で学生が最 もス トレスに感 じたこと

は、対人関係、学習、実習が上がっており、その中で も

特に実習という意見が多 くある9)。看護学生にとって、

臨地実習は、履修上最大の課題であり1°)多くの研究者が

看護学生の学習上の危機にっいて臨地実習の存在を挙げ

ている11)。臨地実習が不合格になり留年となった学生が

どのようなプロセスを経て、看護師になることができた

のか学生の体験に関する研究12)13)がある。そこでは、学

業を継続することを支援する家族や友人、教員の存在が

挙げられている。また、学校をやめたいという気持ちを

実習の中で乗り越えた報告 もある'4)。

  2009年 の看護基礎教育在 り方検討会で日本看護協会が

提示 した 【今後求められる看護師の資質と教育~20年 後

の看護師確保の観点か ら~】15)では看護師の養成 ・確保

の在 り方の3っ の観点に、入学者の確保、早期離職の防

止、そして退学者の防止を挙げている。看護学生は在学

中に多くの困難や課題に直面 し、ス トレスの多い状況に

ある。 しか し、困難を感 じっっもそれを乗り越え、多 く

のことを学び、入学生の約9割 の看護学生は、卒業に至

るまで学業を継続することができている。困難要因に着

目した先行研究はみ られるが、困難状況を乗り越えるに

辺 り、具体的に何が支える要因になったのかに焦点をあ

てた研究はみあたらない。学生の学業継続を支える要因

を明らかにすることは支援方法を検討する上で重要な示

唆を得 ることができると考える。そこで、看護学生の学

業継続に影響する要因を明 らかにし、支援方法の一助 と

する。

II.研 究 目的

 看護専門学校生の学業継続に影響する要因を明 らかに

する。

皿.用 語 の操作 的定義

 学業継続に影響する要因:看 護学生が在学中、学業を

続けることが難 しいと考えたとき、それを乗り越え、卒

住谷 圭子

業要件を満たすまで、勉学を行 うことに影響する要因と

定義する。 この要因は学業を継続す ることを支えること

に影響する要因と学業の継続が困難になることに影響す

る要因に分けられる。

N.研 究方法

1.研 究デザイン 看護専門学校生にとって学業の継続

に影響する体験を明 らかにし理解するために質的記述

的研究 とする。

2.研 究参加者

専門学校を卒業 した卒後1年 目の看護師 13名

  1)対 象の選定理由 学生時代の在学中に学業継続に

  影響する体験を色濃 く鮮明に覚えている卒後1年 目

  の専門学校卒業の新人看護師を選定 した。

  2)選 定方法

   各研究協力施設の施設長及び看護部を通 し文書に

  て研究参加者を募った。

3.調 査内容(イ ンタビューガイ ド)

 学業継続に影響する要因:

 学生時代に学業の継続が困難であると感 じた体験の有

無 と感 じた時期及び内容、どのように乗 り越えていった

か、乗 り越えていくのに必要なもの(こ と)、学業継続

を支援 してくれたもの(こ と)

4.デ ー タ収 集

  1)調 査 期 間:平 成24年9月 ~12月

  2)調 査 方 法:イ ンタ ビュ ー ガ イ ドに そ って 、 半 構 成

   面 接 を実 施 した 。 実 施 回 数 は1人 に っ き1回 、 所 要

   時 間 は30~60分 程 度 で あ った。 な お、 参 加 者 の 承 認

   を 得 て 、 イ ン タ ビ ュ ー 内 容 をICレ コ ー ダ ー に録 音

    した。

  3)調 査 場 所:対 象 者 の 指 定 す る場 所 に 出 向 き、 本 人

   の プ ライ バ シ ーが 確 保 で き る個 室 で、 イ ン タ ビュ ー

   を実 施 した 。

5.デ ー タ分 析 方 法

  ICレ コ ー ダ ー に録 音 した イ ン タ ビ ュ ー 内 容 か ら逐 語

録 を作 成 し、 コ ー ド化 し、 似 た意 味 合 い を持 っ コ ー ドを

カ テ ゴ リー化 した 。

6.倫 理的配慮

 研究者が研究協力施設の施設長宛へ、口頭ならびに文

書で、また個人の研究対象者へは文書で研究の意義、目

的、方法、予測される結果や危険などについて、口頭お

よび文書により十分な説明を行い、理解を得た上で研究

看護専門学校生の学業継続に影響する要因

の協力に同意を得られたものを対象者と した。 インタ ビュー

内容は、本人の同意を得、ICレコー ダーに保存 した。

取得した個人情報は、管理と制御を行った。本研究は研

究者の所属する機関の研究に関する倫理審査会の承認を

得て実施 した。(平成24年 9月承認番号306)

1 .対象者の基本属性(表 1参照)

専門学校卒業後 1年目の看護師13名にインタビュ ー

を実施した。年齢幅は21'-""34歳で、平均年齢は26.3歳

であった。性別の内訳は女性10名、男性 3名であった。

現在の勤務病棟は外科系病棟 3名、内科系病棟 3名、

重症心身障害児施設 2名、精神科病棟 4名、老人保健

施設 1名であった。

表 1 対象者の基本属性

項 目 結果

年 齢 26.3 歳土

』性 別男 性 3名

女 性 10名

0 ・ n a R

.. n a R ...

勤務病棟 d S Q … ..

a s ... ,

V P

2. インタビュー内容の結果および分析

インタ ビューガイ ドにそって収集したデータを質的に

分析 した結果、学業継続に影響する要因と して、学業の

継続が困難と感じた要因(体験)と学業の継続を支えた

要因(体験)の 2つに分けることができた。

1 )学業の継続が困難であると感 じた体験

収集したデータを質的に分析した結果、全 コー ド数

305のうち、学業継続が困難だと感じた体験は、15の

サブカテ ゴリーに分類された。さらに、サブカテゴ リー

から、以下の 【実習を通して感じた困難な体験】 【日々

の学習を通して感じた困難な体験】 【学生生活を通し

て感じた人間関係の困難な体験】の 3つのカテゴ リー

が抽出された。

各領域のカテゴリ ーは 【 】で囲み、サブカテ ゴリー

については[ ]で囲んだ。また、生データは rjで

囲み、斜め文字とした。

( 1 )【実習を通して感じた困難な体験】

このカテゴ リーには、以下の 5つのサブカテ ゴリー

が存在した。

① [実習中の睡眠不足]

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『全然、寝れず、実習に行っていた、最後の一年はし

んどかったρ 記録やって寝れない01 f実習中は

寝れずにきつい。最初の 1週間は寝れない。次の週

は少しは寝れる01 (,眠れない、記録もあるし。

大変やけど、やることだけやって睡眠時間をとって

いた。1f実習中は記録で体力を使う。朝も早起き、

2時間の仮眠で、今思うとよくやったと思うJ

②[実習中の課題の多さ]

『専門の実習が大変。最後の年の中間ぐらい。もう

したくない。実習が、一番しんどかった。1 f実習がしんどい。くらべものにならないくらいしんど

い。苦手な領域が、母性が大変でした01 f実習

の提出物の多さ。患者さんの疾患の勉強。アセスメ

ン人 膨大な課題。1 f実習中が一番しんどいo

時々辞めたいと思ったことがあるρ 課題が多い。J

③ [実習中の緊張感]

『実習先で緊張するρ 居場所がなかった.01r学生の

居場所がない01『病院、病棟によって雰囲気が違う01{;病棟によっ

て学生の受け入れが違う。』

④ [実習中の人間関係]

『実習は人との関係のタイミングが合わないとう

まくいかなし)01『クソレープメンバーによってモチベーションが下が

るO 合う入、合わない人がいた01『実習は人が相手なのでどうあがいてもあかんとき

もあった。』

⑤[実習指導の厳しさ]

『実習中に怒られ、自分には看護部は向かへんと思っ

た。苦手めようと思った。』

『指導者さんは、厳しいし、知識をいっぱいもって

らして、これはどうなの?といわれても応えること

ができなかった01( 2 )【日々の学習において感じた困難な体験】

このカテゴ リー には以下の 6つのサブカテゴリ ー

が存在した。

① [テス トの多さ]

『学校の勉強は、勉強した後、 テス トの繰り返し、

ばっかりだった。J

(2年生は、テス ト三味。寝れない。後半はテス ト

と看護過程。』

②[専門科目の難しさ]

(1年生の 3ヶ月日がいやだったρ 専門的な勉強が

始まり、 これが続くのかと思った。やっていけるの

かなと思った。』

③[勉強に集中できない]

『関連図書けへん。壁にぶつかるρ ひきずりながら

3年に行くJ

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『勉強は歳いってる分、頭に入らなかった。』

④ [座学が続く時期]

「座学は 1年生が大変座ってきくばっかり、疲れ

ました。』

⑤ [他の学生への劣等感]

『自分がどんだけサボってきたか 今になってわかっ

てくるJ

⑥ [国家試験への不安]

F国家試験の勉強も大変。プレッシャー感じるoJ

( 3 )【学生生活を通して感じた人間関係の困難な体験

このカテゴリーには以下の 4つのサブカテゴリー

が存在した。

① [友達との関係]

『同級生でも何人も辞めた人がいるO 自分がなんで

この道をめざしたのかうっすらしてたように思うoJF大半は、実習でつまずき、辞めた友人がいるoJ『実習で辞めていく人もみてきたρ 自分も無理かな

と思った。』

② [教員との関係]

F学校は厳しかった。学校の先生は厳しい。結構厳

しし)oJ③ [家族との関係]

「高校に入るときは、美容関係に行きたかった。親

に勧められた。』

F親が病気で病院に行って大変だった。家のことと

かせなあかんしJ

④ [指導者との関係]

F実習では、指導者さんの意見が違い、因った。』

2 )学業の継続を支えた要因

学業の継続を支えた要因については、 20のサブカテ

ゴリーが抽出され、そこから【自己の気持ちのもち

方】 【自己の行動の工夫】 【支援してくれる人の存

在】の 3つのカテゴリーが抽出された。

( 1 )【自分の気持ちのもち方】

このカテゴリーには以下の 5つのサブカテゴリー

が存在した。

① [気分の転換を図る]

『趣味に没頭するO 実習中はしんどかつて、燃え尽

きてる時は趣味に没頭するoJ r遊べる持は遊ぶ。

休む時は休む。気分を変えてリフレッシュするoJ② [自分を励ます]

『人間やればなんでもできるρ 向いてないなと患っ

てもなんとかなるoJF自分でやればなんでもできるO 身体悪くても、頭

住谷圭子

悪くても、やればなんとかなるρJ r1、 2年生

頑張ってきたんや。みんな頑張ってきたんやし、私

も頑張れると思った。』

③ [期待できる自分をイメージする]

『入学時にみんなを巻き込んでいた。最初の気持ち

はなんやったん。看護師になりたい患いはあったρ

自分がなりたいと豆、うのが一番。J

『なった先のことを考える。ボーナスもらったら、

こんな病棟で働いて、怒られてばっかりでない自分

を思い描くJ

④[周囲の支えに感謝する]

『周りの支え。いろんな人に感謝している。J

『患者さんの思いはその人にしかわからな~ )0 でも、

わかろうとすることが大事。』

⑤ [あきらめない]

『自分からあきらめなかったことがよかった。Jr自分でやれることはやってしまうρ 自分で後悔する諦

め方はしない方がいい。』

( 2 )【自己の行動の工夫】

このカテゴリーには以下の 7つのサブカテゴリー

が存在する。

①[適度に頑張る]

『そこそこでやってしぺ。パーフェクトは難しい。J

F頑張りすぎはよくな~ )0 ほどほどにバランスをと

るoJ②[健康を維持する努力をする]

『体調を崩さない。もともと身体が弱い。メンタノレ

面も弱い。冬場とか季節の変わり目に体調を崩しや

すい。気をつけていた。J

『身体は崩さないように、 3年後半はやるだけのこ

とはやったoJ『必死でした。健康に気をつけたoJ『休む時は休む。 2年の実習は遠く、ルームシェア

をしていた'oJ③ [勉強方法を工夫する]

『家庭があったので、帰るときに頭のなかで整理し

ていた。計画的に学習を進めるO 実習中は帰って先

に計画を立てて、白分の中ですることを決めてやっ

たoJ『どこでつまずくのかそれぞれ違う、実習の計画た

てるのが苦手、テストが苦手とか、それぞれ、自分

だけが大変じゃな~ )0 と思ってできることからするJ

④ [要領よく勉強する]

『要領よくやらないとρ 勉強、勉強だと押しつぶさ

れそうになる。』

⑤[事前学習をする]

仁患者さんが変わったり、小児実習が大変だったが、

事前学習でなんとか乗り切れたJ

看護専門学校生の学業継続に影響する要因

⑥ [友人と教えあう]

『年下の子に頭下げて、教えてもらったρ 恥ずかし

いけど。』

『クラスメイトと誰かと勉強している方が記憶に残

る 国家試験の前は』

⑦ [自己の責任を振り返る]

同iき返せへんと思った。 3年の半ばでやめられな

い。生活かかってる。』

『お金借りていたので、頑張らなくてはいけない。』

『奨学金の返済があり、後戻りできない。 3年で卒

業せんとあかんJ( 3 )【支援してくれる人の存在】

このカテゴリーには以下の 7つのサブカテゴリー

が存在した。

① [実習のグループメンバー]

『同じ実習にいく実習メンバーに支えてもらった01

F実習メンバーで助け合う。実習はつらいけど。達

成したときは、グッとくる。』

『支えてくれたメンバーもいた.01② [友人の存在]

行中のいい子と不満を言いあい、ため込まず、実習

していた。』

行中のいいクラスメイトと励ましあう。一番は一緒

に学ぶ仲間がいたこと。みんなでお互い励まし合い

ながら、日々のいつもいてる環境が頑張ろうと思え

た。J

『クラスメイト誰とでもうまくいけた。いけるよう

に考えていた01『学内以外の友達は、なにもわからないけど、それ

でもいろいろ、潤いてもらえた。J

③ [家族の存在]

『支えてくれたのは母親「なれるんやったら、なりj

といわれたJ

『家族は何にも知らない。どんだけ大変か。一緒に

いないからわからなし 1。でも、国家試験受けてがん

ばれやと言われていた01

『家族も食事も作ってくれて、 3年間応援してくれ

た。J

F家族が支えてくれた。 rお母さん、夜中に泣きな

がら記録書いてたゃん。頑張ってたゃん。j っていっ

てくれた01

『私は一回社会に出た。また学生になっても母がお

弁当作ってくれた。母親が支えてくれた。』

④ [先輩の存在]

『学校に遊びにきた先輩に「今、やってることは無

駄にはならない。学生時代やってることは無駄には

ならない。絶対に。j といわれた。励ましてもらっ

た。その時はわからなかったが今は看護師になって

47

わかる01『奨学金生の集会に参加し、先輩のアドバイスをき

いた。顔を合わせると、声をかけていただいた01

⑤ [恋人の存在]

『彼女が支えてくれた……一番J

⑧ [実習指導者の存在]

『病棟の指導者さんは、怖いひとばかりじゃなく優

しい方もいた01

⑦ [看護教員の存在]

『先生のサポートも実習中は、安心したり、頑張弓

うかなとも思えた。J

r~) ~、先生にめぐりあえたら。いい関係でいられる

からJ

VI.考察

1 .学業継続を困難にさせる要因と学業継続を支える要

1 )学業継続を困難にさせる要因

学業を困難にさせる要因として【実習を通して感じ

た困難な体験】 【日々の学習を通して感じた困難な体

験】 【学生生活を通して感じた人間関係の困難な体

験】の 3つのカテゴリーが抽出された。学生時代に学

業の継続が困難であると感じた人は、 13人中 9人

(70%)であり、その中でも、実習中に辞めたいと感

じた体験をした人は 9人(100%)であり、その中の

1人はH しょっちゅう実習中に辞めたい"と感じる体験

をしていた。看護学生の学校をやめたい理由のなかに

実習の困難さがあり 5) 看護学生の履修上の最大の

課題は臨地実習でヘ学習上の危機の存在とされてい

る1九

【実習を通して感じた困難な体験】は、先行研究と

同様に臨地実習が学習上の危機であることを示してい

る。看護学生の実習に関するストレスは強く、この臨

地実習が学生の心身の健康を保ちにくい状況を作り出

しておりへ心身の健康は臨地実習中が続くにつれ更

に乱れやすい状況になる。学習継続の困難を生じさせ

る要因ともなる。本研究では実習中に感じた学業困難

な体験は、実習中の睡眠不足であった。睡眠不足は実

習中の課題の多さによって生じていた。また、実習中

は慣れない学習環境による緊張感や、人間関係に疲弊

している現状もあった。実習中は人間関係を円滑に調

整し維持していく力も必要となってくる。実習中の人

間関係の中には、実習指導者や学校の教員、実習グルー

プメンバーなどがあるO 看護学生の看護師の資格を取

りたいという目標は学習継続の大きな原動力となって

おり、学校を辞めたいと思いながらも、 2割の学生が

学習を継続していた問。実習中の辞めたい体験の中に

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実習指導の厳 しさが挙げられている。実習中に自分は

看護師に向いてないのではないか、看護師になるのを

辞めようとかという思いを抱 くような怒 られ方を体験

 した人もいた。看護師の資格を取 りたいという学業継

続の原動力を損なってしまうほどの体験もあった。学

生の学習意欲の低下を招き、学習継続への影響につい

て看護師、教員による言語的暴力の体験が関与 してい

 る報告もある18)。指導する側が学生の学習意欲を引き

出すような実習指導が必要である。また、実習以外に

 も看護学生が 【日々の学習において感 じた困難な体

験】は、テス トの多さ、専門科 目の難 しさ、勉強に集

中できない、座学の続 く時期への疲れ、国家試験への

不安、他学生への劣等感が挙げられた。入学当初の学

習動機の中心 は[学習に対す る責任の受容」があり19)、

学習動機を維持 しっっ、主体的に日々の学習に取 り組

むことが過密なカリキュラムを乗 り越えて学業を継続

する力となる。 【学生生活を通 して感 じた人間関係の

困難な体験】は、友人との関係、教員との関係、家族

 との関係、指導者との関係のそれぞれの関係性の保持

することの困難性が挙げられた。看護学の看護技術習

得過程における経験の特徴 として、[学 習継続へ向け

た仲間との関係性保持]が あげられてお り2°)、学業を

支えるためには、その周囲に存在する人との人間関係

を保持する必要性 も示唆されている。臨地実習におい

て困難な状況にあった看護学生は、その状況と向き合

い、何らかの行動を起 こす ことで困難を乗り越えるこ

 とができている21)

2)学 業継続を支える要因

  学業継続を支える要因 として 【自己の気持ちのもち

方】 【自己の行動の工夫】 【支援 して くれる人の存

在】が抽出された。 なかでも、行動 にっいて、 〔勉強

方法を工夫すること〕、〔要領よく勉強すること〕、 〔事

前学習をすること〕といった、学習についての記述だ

けでなく、〔健康を維持すること〕〔適度に頑張ること〕

等健康面に配慮する記述 も含まれている。先行研究で

 も学業継続のために健康的な学生生活を過ごすための

指導を検討 し、精神的ス トレスと身体症状の関連に有

意差がみ られている22)。健康を維持するための努力は

学業継続の基盤となる。学習を継続の過程で生 じる様々

な困難状況を受け入れ、乗 り越えてい くために心身の

健康 は重要である。教員は、学生の学習状況だけでな

 く、身体状況にも目を向け必要に応 じて指導を行 う必

要がある。

  また、 〔努力をすること〕、 〔友人 と教え合 うこと〕、

 〔経済的な支援を受けること〕、 〔自己の責任を振 り返

 ること〕が挙げられている。学生 は、実習中に他者の

存在が重要であり自分にはなかった考えに気づ くこと

で困難な状況を乗 り越えることができるといわれてい

住谷 圭子

る21)。本 研 究 に お い て も、  【支 援 して くれ る 人 の 存

在 】 と して 〔実 習 の グ ル ー プ メ ンバ ー〕、 〔友 人 〕、 〔家

族 〕、 〔先 輩 〕、 〔恋 人 〕、 〔実 習 指 導 者 〕、 〔教 員 〕 が 挙 げ

られ た。 即 ち 、 学 生 は教 員 の存 在 だ け で な く、 様 々 な

人 間 関係 を 拠 り所 に して 、 学 業 を継 続 す る こ とが で き

て い る。 しか し、 臨 床 実 習 とい うよ りス ト レス フル な

環 境 に お い て は、 教 員 の よ り積 極 的 な、 情 動 へ の 介 入

とSAT気 質 コー チ ン グ法 に よ り、 学 生 の メ ンタ ル ヘ

ル ス が 改善 し、 自己 イ メ ー ジ変 容 支 援 が有 効 で あ る こ

とが 示 唆 され て い る24)。様 々 な背 景 を 持 っ 学 生 に配 慮

しな が ら、 看 護 教 員 は学 習 継 続 を 支 援 して い る23)。看

護 学 生 が 判 断 に困 った 実 習 場 面 に お い て 、[学 習 継 続

へ 向 け た精 神 的 支 援]が 教 授 活 動 と して展 開 され て い

る が、 学 生 が 認 識 しに くい活 動 で あ る こ とが 明 らか に

な って い る と い う報 告 も あ る。25)教員 の 関 わ りが 効 果

的 に な る よ う に学 生 か らの フ ィ ー ドバ ック を 確 認 し、

介 入 して い くこ とが 重 要 で あ る。

皿.結  語

 学生は3年 間の学生生活を継続す るうえで、実習中の

困難な体験、 日々の学習での困難な体験、学校生活の人

間関係における困難な体験等か ら学業継続が困難と感 じ

ていた。 しか し、自分の気持ちの持ち方 と行動を整え工

夫すること、および周囲の人々の存在に支えられながら、

学業を継続することができていた。

 看護教員は、教育的な支援者 としてどのような介入が

必要か具体的な検討を深める必要がある。

謝 辞

 本研究にご協力いただきました看護師の皆様 に感謝い

たします。なお、本研究は、2013年 度滋賀県立大学大学

院修士論文の一部に加筆 したものです。

文 献

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  /100-1.html.

2)富 樫 和 代,東 條 美 春,安 藤 恵 子,他:3年 課 程 看 護 専

   門学 校 の 過 去10年 間 にお け る退 学 ・休 学 ・留 年 の 実

  態,中 国 四国 地 区 国立 病 院 付 属 看 護 学 校 紀 要,第2巻

  88-91,2006.

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   い の調 査 一YG性 格 検 査 と の関 連 か ら,看 護 教 育,35,

  419-426,1994.

看護専門学校生の学業継続に影響する要因

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5)吉 野ひろ子、川田淳子、大竹由美子:看 護専門学

  校(3年 課程)に おける学生が学業継続をはかる要

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  護学会論文集(看 護教育)48-50,2008.

9)柴 田文子,井 上真弓,江 藤和子:GHQ精 神健康度調

  査にみる看護学生のス トレス状況 とその背景.第39

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11)篠 原百合子,澁 谷恵子:っ まず きやすい学生のため

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  87,2008

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13)墓 野美奈子:臨地看護学実習評価が不合格になり留

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15)久 常節子:今後求められ る看護師の資質 と教育~20

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  保健専門学校紀要,第15巻  55-59  2007.

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  会論文集,看 護教育43号106-109  2013.

24)渡 辺洋子:学 習継続が困難な看護学生への他者報酬

  型 自己イメージ低減に向けての一事例,帝 京平成看

  護短期大学紀要 22号 25-28  2012.

25)鶴 田晴美:看 護学生が判断に困 った実習場面におけ

  る学生 と指導者が認識 した教授活動,お 茶の水看護

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