児童が自らの成長を実感する 道徳科の評価の研究 ·...
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児童が自らの成長を実感する
道徳科の評価の研究
-児童の自己評価と関連付けた個人内評価を通して-
福岡市教育センター
道徳科
長期研修員 土田 晃久
平成 29 年度
研究報告書
(第 1045 号)
G10-01
新小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編の中で,「児童の成長
を見守り,努力を認めたり,励ましたりすることによって,児童が自らの
成長を実感し,更に意欲的に取り組もうとするきっかけとなるような評価
を目指すことが求められる。」と示されている。そこで,本研究では,児
童の自己評価と関連付けた教師が示す個人内評価を通して,児童が自らの
成長を実感する,道徳科の評価方法の一つの在り方を明らかにした。
具体的には,自己評価として毎時間,道徳科の目標に示されている四つ
の学習を振り返りの視点とし,授業での学びについて,「学びの足跡表」
に振り返らせた。そして,児童が1単位時間の学習を積み重ねた後,「振
り返りシート」を使わせ,一定のまとまり(本研究では,8単位時間)で
自らの成長を振り返らせた。それらの児童の自己評価と関連付けて,個人
内評価(「担任からのメッセージ」)を行った。
その結果,道徳科において,児童が自己理解を深めたり,自信をもった
り,新たな課題や目標を見付けたりすることができた。
目 次
1 主題について
(1)主題設定の理由 ·················································· 道・長研-1
(2)主題及び副主題の意味 ············································ 道・長研-2
2 研究の目標 ·························································· 道・長研-2
3 研究の仮説 ·························································· 道・長研-2
4 研究の構想 ·························································· 道・長研-3
(1)内容 ····························································· 道・長研-3
(2)過程 ····························································· 道・長研-3
(3)手だて ·························································· 道・長研-3
(4)研究の検証 ······················································ 道・長研-3
5 研究構想図 ·························································· 道・長研-4
6 研究の実際と考察 ···················································· 道・長研-5
(1)児童が自らの成長を実感する道徳科の評価についての考え方 ·········· 道・長研-5
(2)児童が自らの成長を実感する道徳科の評価の実際 ···················· 道・長研-8
(3)児童が自らの成長を実感する道徳科の評価の考察 ···················· 道・長研-16
7 研究の成果と課題 ···················································· 道・長研-20
(1)成果 ····························································· 道・長研-20
(2)課題 ····························································· 道・長研-20
巻末資料 ································································· 道・長研-21
引用文献,参考文献・参考資料 ············································ 道・長研-22
道・長研-1
1 主題について
(1) 主題設定の理由
① 我が国の道徳教育における動向から
文部科学省は,平成25年「道徳教育の充実に関する懇談会」において,道徳科の指導について
「道徳教育そのものが忌避されがちな風潮があり,他教科に比べて軽んじられている」という量
的な課題と,「登場人物の心情の理解など偏った形式的な指導になっている」という質的な課題等
をあげている。これらの課題を受け,平成27年7月,「小学校学習指導要領解説 特別の教科 道
徳編」を公示した。その中で,道徳性を養うことをめざした学習を行う道徳科の評価について以
下のように明記された。
児童の学習状況や道徳性に係る成長の様子を継続的に把握し,指導に生かすよう努める必要が
ある。ただし,数値などによる評価は行わないものとする。
さらに平成28年7月,「道徳教育に係る評価等の在り方に関する専門家会議」からの「『特別の
教科 道徳』の指導方法・評価等について(報告)」において,道徳科の指導に関しては,発達の
段階に応じ,答えが一つではない道徳的な課題を子どもが自分自身の問題ととらえて,「考え,議
論する道徳」授業へと質的転換を図るためには,学校や児童の実態に応じて,読み物教材の登場
人物への自我関与が中心の学習,問題解決的な学習,道徳的行為に関する体験的な学習など,質
の高い多様な指導方法を展開することが必要であるとされ,道徳科における評価の在り方も同時
に報告されている。これらの報告を受けて,平成29年6月,「学習指導要領解説 特別の教科 道
徳編」が公示された。その中の「道徳科における児童の学習状況及び成長の様子についての評価」
で,評価の基本的態度として,児童の成長を見守り,努力を認めたり,励ましたりすることによ
って,児童が自らの成長を実感し,更に意欲的に取り組もうとするきっかけとなるような評価を
目指すことが求められている。
小学校では平成30年度,中学校では平成31年度から道徳科が全面実施となり,質の高い多様な
指導方法を展開した上で,道徳科における評価の在り方を究明していく必要がある中,本市の道
徳教育の動向はどうだろうか。
② 本市の道徳教育の動向から
本市では,平成25年度より,児童の豊かな心を育み,規範意識や自尊感情,人権意識を高める
ために,道徳教育を充実させる「道徳教育推進事業」が始まっている。昨年度から,その事業の
方針を引き継ぎ,地域への授業公開を全小中学校に拡大させるなど,道徳教育の推進を図る取組
が行われている。また,「平成28年度福岡市道徳教育推進の手引き」において,指導方法等につい
て,「読み物資料の登場人物の心情理解のみに偏った形式的指導から脱却を図る,道徳科における
言語活動の充実を図る,指導のねらいに即して,問題解決的な学習,道徳的行為に関する体験的
な学習等を適切に取り入れる,つまり「『考え,議論する道徳』へと質的に変換を図る」としてい
る。評価については「児童の成長の様子を把握することを基本とする。数値による評価は行わな
い。」と示されている。しかし,評価の具体的な方法までは示されていない。そのような面からも
本市において,「考え,議論する道徳」へと質的に変換を図る指導を行った上で,「道徳科の評価」
の在り方の一提案が必要だと考える。
③ 本市教員の実態アンケートから
本市小・中学校教員,道徳担当者2 0 0人を対象
にアンケートを行った。そのアンケートでは,「道
徳科の授業を行うにあたって困っていることや悩
んでいること,不安なことはありますか」との問
い(複数回答可)に,1 5 0人以上の教員が「評価」
を選択し,最も多かった(図-1)。本市の教員が,
道徳科の評価について不安に感じていることが分
かった。
道徳科の評価が適切になされるためにも,児童
が自らの成長を実感し,更に意欲的に取り組むこ
とをめざした道徳科の評価を提案することは,本
市の教員の不安を軽減するものであると考える。
図-1 「道徳科の授業で不安に思っていること」
について本市教員へのアンケート
(人)
道・長研-2
④ 先行研究から
「考え,議論する道徳」について,西野(2017)は,1)「最もさまざまな意見を聞くことがで
き,議論が活性化するのは,行為を選択決定する場面である。人が自分の行為を決めるときには,
その根拠となる理由があり,その理由の是非を問題にすることができる。だから議論になる。」と
述べている。
評価の意義について,加藤(2017)は,2)「子どもたち自身が成長を自覚・実感し,実生活で
の道徳的な実践に意欲的になることが重要である」とし,児童が学習活動から何を学んだかを評
価することで,子ども自身が今の自分よりもよりよくなろうとする態度を見取ることの重要性を
示している。さらに,道徳科の評価について,赤堀(2017)は,3)「22の内容項目それぞれを詳
細に行ったり,1時間ごとの学習の様子を単独に評価したりするのではなく,授業における学習
状況や授業の積み重ねの中で,子どもがどのように向上的に変容していったかを記述で評価する」
とし,児童の学びの姿を肯定的に評価する必要性を説いている。
これらのことから,児童の成長を見守り,努力を認めたり,励ましたりすることが大切であり,
児童が自らの成長を実感し,更に学習に意欲的に取り組もうとするきっかけとなる評価について究
明する必要があると考える。その際,「自分との関わりを意識させ,物事を多面的・多角的に考えさ
せるために,主に行為を選択決定する場面を学習展開に取り入れ,一定のまとまりの中で評価を行
うこと」,「子どもが自分自身は何を学んだかという学習活動としての自己評価を重視すること」,「1
単位時間の学習の積み重ねを大切にすること」が,児童が自らの成長を実感する道徳科の評価につ
ながる。
(2) 主題及び副主題の意味
① 「児童が自らの成長を実感する」とは
児童が道徳科の学習を通して,自己理解を深めたり,自信をもったり,新たな課題や目標を見
付けたりすることである。
② 「道徳科の評価」とは
道徳的諸価値についての理解を基に,自己を見つめ,物事を多面的・多角的に考え,自己の生
き方についての考えを深める学習活動における児童の具体的な学習状況や道徳性に係る成長を,
月や学期,年間という一定のまとまりの中で見取ることである。本研究においては,学期を約2
ヵ月間(8単位時間)とみなして見取ることとする。
③ 「児童の自己評価」とは
児童が道徳科の学習で,自分の学習状況や道徳性に係る成長について振り返る活動である。
④ 「児童の自己評価と関連付けた個人内評価」とは
道徳科の学習において,児童が,四つの学習(道徳的諸価値についての理解,自己を見つめる,
物事を多面的・多角的に考える,自己の生き方についての考えを深める)の視点から毎時間振り
返った「学びの足跡表」を見ながら,一定のまとまり(本研究では8単位時間の学習)で自分の
学習状況を「振り返りシート」で振り返る。教師が,それらを主な材料にして,児童の学習状況
や道徳性に係る成長を受け止めて認め,励ます内容で記述したもの(「担任からのメッセージ」)
である。「担任からのメッセージ」は,児童理解が存在する学級担任が本来行うものであるが,
本研究においては,長期研修員と学級担任が協力して行う。
2 研究の目標
児童の自己評価と関連付けた個人内評価を通して,児童が自らの成長を実感する道徳科の評価方法
を明らかにする。
3 研究の仮説
道徳科の指導において,児童に道徳科の目標に示されている四つの学習の視点から,1単位時間の
学習を振り返る「学びの足跡表」や8単位時間の学習を振り返る「振り返りシート」を自己評価とし
て行わせ,それらと関連付けた個人内評価(「担任からのメッセージ」)を行えば,児童に自らの成
長を実感させることができるであろう。
道・長研-3
4 研究の構想
(1) 内容
① 道徳的価値についての理解を基に自己を見つめる姿
道徳的価値の理解を自分との関わりで深めたり,自分自身の体験やそれに伴う考え方や感じ方
などを想起したり,これからの生き方の課題を考え,それを自己の生き方として実現していこう
とする思いや願いを深めたりする。
② 自らの成長を実感する姿
道徳科において,自己理解を深めたり,自信をもったり,新たな課題や目標を見付けたりする。
(2) 過程
児童が自らの成長を実感する道徳科の評価で,学習状況や道徳性に係る成長を,学期を約2ヵ月
間(8単位時間)とみなして見取るために,本研究においては,「1単位時間の学習を振り返る」
「8単位時間の学習を振り返る」の2段階を設定する。「1単位時間の学習を振り返る」段階では,
道徳的価値についての理解を基に自己を見つめさせる。「8単位時間の学習を振り返る」段階では,
自らの成長を実感させる。
(3) 手だて
① 児童による自己評価
ア 「学びの足跡表」
1単位時間の道徳科の学習を振り返り,「①どんなことが新たに分かり納得したか」,「②
自分のことに置き換えて考えたか」,「③友達の考えを聞いて自分の考えが広がったり,変わっ
たり,深まったりしたか」の中から,本時の学習の学びを一番感じる振り返りの視点を児童自
身に選択させ,それについて文章で記述させる。さらに,「④これからの自分」について文章で
記述させる。
イ 「振り返りシート」
事前に児童にこれまでの道徳科における学習状況の様子を振り返らせる。そして,8単位時
間の道徳科の学習を行った後に,もう一度,同じ質問項目で振り返らせる。1学期の道徳科の
学習の振り返り(自己評価)と比べながら,2学期(8単位時間)の道徳科の学習で成長した
と思うところを文章で記述させる。
② 教師による個人内評価(以下,「担任からのメッセージ」)
教師が児童の学習状況(授業での発言,発表,様相や,「学びの足跡表」,「振り返りシート」,
道徳ノートの記述など)や道徳性に係る成長を受け止めて認め,励ます内容で記述したもの。
(4) 研究の検証
① 検証内容
道徳科において,児童が自己理解を深めたり,自信をもったり,新たな課題や目標を見付けた
りしているか。
② 検証方法
A 小学校第5学年 A 組を対象に,道徳科の評価方法を明らかにするために以下の方法で行う。
ア 実態の分析を行う。
○ 福岡市教員に対してアンケートの実施。
○ 「担任からのメッセージ」の実施し,それを受け取った児童のアンケート分析。
イ 長期研修員や学級担任による検証授業を行い,分析・考察を行う。
○ 「1単位時間の学習を振り返る」段階において,道徳的価値についての理解を基に自己を
見つめる姿。
…「学びの足跡表」の記述,道徳ノートの記述,授業での発言,発表,様相など。
○ 「8単位時間の学習を振り返る」段階において,自らの成長を実感する姿。
…「振り返りシート」の記述,「学びの足跡表」の記述,道徳ノートの記述,授業での発言,
発表,様相,児童を対象に「担任からのメッセージ」についてのアンケート。
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5 研究構想図
図-2 研究構想図
道・長研-5
6 研究の実際と考察
(1) 児童が自らの成長を実感する道徳科の評価についての考え方
① 道徳科の評価について
平成29年6月に公示された「小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編」において,道徳
科の評価について以下のように述べられている。
○ 道徳科の評価
学習活動における児童の「学習状況や道徳性に係る成長の様子」を,観点別評価ではなく個
人内評価として丁寧に見取り,記述で表現することが適切である。
・数値による評価ではなく,記述式であること。
・他の児童との比較による相対評価ではなく,児童がいかに成長したかを積極的に受け止め,
励ます個人内評価として行うこと。
・他の児童と比較して優劣を決めるような評価はなじまない。
・個々の内容項目ごとではなく,大くくりなまとまりを踏まえた評価を行うこと。
・発達障害等の児童についての配慮すべき観点等を学校や教員間で共有すること。
・調査書に記載せず,入学者選抜の合否判定に活用しないこと。
・学習活動において,児童がより多面的・多角的な見方へと発展しているか,道徳的価値の理
解を自分自身との関わりの中で深めているかといった点を重視する。
・道徳的判断力,心情,実践意欲と態度の道徳性の諸様相それぞれについて分節し,学習状況
を分析的にとらえる観点別評価は妥当ではない。
道徳性は内面的資質なので,これを評価するのは困難である。だからこそ,道徳性を養うこと
を学習活動として行う道徳科の指導では,その学習状況を適切に把握し評価する。その際,個々
の内容項目ごとではなく,大くくりなまとまりを踏まえた評価にするとされている。ここでいう
大くくりな評価とは,1単位時間の学習の全てを見取ったり,個々の内容項目を分析的に見取っ
たりすることではなく,複数時間ごと,月ごと,学期ごと,または年間を通して時間をかけて見
取ることである。よって,本研究では,学期ごとの評価を想定して,2学期の評価を試みること
にした。なお,道徳教育と道徳科の指導と評価について以下のように整理しておく(図-3)。
図-3 道徳教育と道徳科の指導と評価
道・長研-6
② 児童による自己評価について
新小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編「第5章 第2節2(3)評価のための具体的
工夫」の中で,児童が行う自己評価自体は児童の学習活動であり,児童が自身のよい点や可能性
に気付くことを通じ,主体的に学ぶ意欲を高めることなど,学習の在り方を改善していくことに
役立つものであり,これらを効果的に活用し学習活動を深めていくことも重要である。発達の段
階に応じて,年度当初に自らの課題や目標をとらえるための学習を行ったり,年度途中や年度末
に自分自身を振り返る学習を工夫したりすることも考えられるとある。また,西野(2017)は,4)
「子ども自身の自己評価は,評価が子ども自身の道徳性を養う力を育てるためのものであること
からすれば,最も大切な評価であると言ってよいだろう。自己評価とは『自己をみつめる』学習
活動であり,道徳科にとって本質的な学習活動である。」と述べている。
これらのことから,教師が個人内評価を行う際の材料として自己評価を中心に据えることにし,
「学びの足跡表」(資料-1)と「振り返りシート」(資料-2)を使って,自己評価活動を行
わせることにした。
ア 「学びの足跡表」(P21巻末資料-1)について
学習活動において,児童がより多面的・多角的な見方
へと発展しているか,道徳的価値の理解を自分自身との
関わりの中で深めているかという視点を重視して評価す
る。そこで,その二つの評価の視点が入っている道徳科
の目標に明記された四つの学習(①道徳的諸価値につい
て理解する,②自己を見つめる,③物事を多面的・多角
的に考える,④自己の生き方について考えを深める)を,
毎時間の学習の振り返りの視点(自己評価)とすること
で,児童の自己評価と教師が見取る視点を一致させてお
く。そうすることで,教師は児童の学習状況や道徳性に
係る成長を見取ったり,道徳科の授業改善に生かしたり
することができる。また,児童に本時の学習の学びを一
番感じる振り返りの視点①~③の中から選択させ,その
内容と④「これからの自分」について考えをまとめさせ
る。さらに,8単位時間の学習後に全体を通して一番の
学を感じた回に印を付けさせる。児童が道徳的価値につ
いてどのように学んだのか,児童の突出した学習状況や
道徳性に係る成長をとらえることができる。児童が以前
の学習を振り返りながら書いたり,教師が8単位時間の
児童の学習状況や道徳性に係る成長の状況をとらえやす
くしたりするために一覧表にする。
イ 「振り返りシート」(P21巻末資料-2)について
児童に道徳科の学習における自らの成長を実感させる
ために,まず事前に,これまでの道徳科の学習状況の様
子を別紙に振り返らせる。次に,8単位時間の道徳科の
学習を行った後に,もう一度,同じ質問項目で振り返ら
せる。そして,「学びの足跡表」を参考に,8単位時間
の学習を振り返り「①どんなことが新たに分かり納得し
たか」「②自分のことに置き換えて考えたか」「③友達
の考えを聞いて自分の考えが広がったり,変わったり,
深まったりしたか」の中から最も多く選択した振り返り
の視点を記入させる。最後に,8単位時間の道徳科の学
習を行う前の振り返りと比べながら,8単位時間の道徳
科の学習活動全体を通して,児童自身が成長したと思う
ところを文章で記述させる。
資料-1 「学びの足跡表」
資料-2 「振り返りシート」
道・長研-7
③ 個人内評価について
西野(2017)は4)「『押しつけであってはならない』道徳の授業には,特定の方向への意欲づ
けや強化が起こりやすい。その影響は決して小さくなく,先生が求める正解はこれだろうと子ど
もに推測させてしまうことは,道徳教育が目指す『道徳的な問題を考え続ける』資質の育成と対
極にあるというだけでなく,道徳ギライの子どもを増やしてしまう危険がある。」としている。
このような点を踏まえて,以下の点に留意して個人内評価を行っていくものとする。
ア 評価のねらい
道徳科における児童のよさや成長を受け止めて認める。
イ 評価の対象
児童の道徳科の学習状況や道徳性に係る成長の様子
ウ 評価の視点
○ 一面的な見方から多面的・多角的な見方へと発展させているか。
例)・道徳的価値に関わる問題に対する判断の根拠やその時の心情を様々な視点から捉え考
えようとしている。
・自分と違う立場や感じ方,考え方を理解しようとしている。
・複数の道徳的価値の対立が生じる場面において取り得る行動を多面的・多角的に考え
ようとしている。
○ 道徳的価値の理解を自分自身との関わりの中で深めているか。
例)・読み物教材の登場人物を自分に置き換えて考え,自分なりに具体的にイメージして理
解しようとしている。
・現在の自分自身を振り返り,自らの行動や考えを見直している。
・道徳的な問題に対して自己の取り得る行動を他者と議論する中で,道徳的価値の理解
をさらに深めているかや,道徳的価値の実現することの難しさを自分のこととしてと
らえ,考えようとしているか。
エ 内容構成
○ 学習状況や道徳性に係る成長の進歩の状況を認める。
○ 各時間の学習状況の中で,突出した学習状況や道徳性に係る成長をよさと認める。
オ 児童のよさや成長を受け止めて認め,励ます際の留意事項
新小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編 第2章2に,「道徳科の授業では,特定
の価値観を児童に押し付けたり,主体性をもたずに言われるままに行動するよう指導したりす
ることは,道徳教育の目指す方向の対極ある」と示されている。特定の価値観を児童に押し付
けないよう以下のような5)固有の「強化」の側面(梶田2010)が入らないように注意する。
○ 認知的コミュニケーション …どこができてどこができなかったか,どの程度の水準に達
したかなどを子どもに伝える。
○ 選択的強化 …ある種の行為を力づけ,またある種の行為の出現を抑制す
る。
○ 意欲の方向付け …ある方向への意欲を喚起したり,その方向へより一層の意
欲もたせたりする。
○ 感情的コミュニケーション …子どもの行為や成果によって教師が感じた満足感や不快感
などの感情を伝える。
④ 自己評価と関連付けた個人内評価について
新小学校学習指導要領では,自己評価を効果的に活用し,学習活動を深めていくことも重要だ
と示されている。また,西野(2017)は1)「一連の自己評価活動を教師が支援していくことで,
子どもの評価力を高め,『自ら道徳性を養う』(学習指導要領)ようにすることは,『自己を見
つめる』という道徳の本質的な学習活動の実現でもある。学習活動としての評価は,教師には,
子ども自身の目標意識を共有することで,『大くくりの』評価につながる視点を与えてくれる意
義がある」と述べている。児童が毎時間の道徳科の学習を振り返る際の視点(自己評価)と教師
が児童の学習評価を行う視点を一致させて見取ることで,教師と児童の意識を共有し,個人内評
価につながると考える。ただし,自己評価はあくまでも児童の学習活動である。
道・長研-8
(2) 児童が自らの成長を実感する道徳科の評価の実際
① 「1単位時間の学習を振り返る段階」における指導の積み重ねと評価の継続
道徳科の評価の前提として,より多面的・多角的な見方へと発展する授業や,道徳的価値の理
解を自分自身との関わりの中で深めることのできる授業が展開されてこそ,児童の学びが充実す
る。それを教師が見取り,成長を励まし,指導の改善にもつなげることが大切である。
「考え,議論する道徳」を実施する上で重要なのことは,児童が道徳的問題を自分自身の問題
としてとらえ,道徳的価値に多面的・多角的に向き合うことである。その一つの方法として,児
童が中心場面における行為を自分事として選択決定する場面を取り入れ,自分との関わりを意識
させ,物事を多面的・多角的に考えさせる授業を行う。
道徳的価値についての理解を基に自己を見つめさせるために,展開後段で自己評価活動を取り
入れ,児童自身が学んだことを「どんなことが新たに分かり納得したか」,「自分のことに置き
換えて考えたか」,「友達の考えを聞いて自分の考えが広がったり,変わったり,深まったりし
たか」,「これからの自分」という振り返りの視点から,「学びの足跡表」に記述させる。それ
を中心に,道徳的価値についての理解を基に自己を見つめている姿を見取っていく。
ア 8単位時間の指導計画(第5学年)
道徳科の評価は,大くくりなまとまりを踏まえた評価にする必要がある。そこで,本研究で
は,3学期制における学期ごとの通信表への記入を想定した。学期に約12単位時間行われる道
徳科の学習だが,学期を約2ヵ月間(8単位時間)とみなして行うこととした。また,8単位
時間の指導は,原則として指導計画に基づき行うが,学期を想定しているので可能な範囲で内
容項目のA,B,C,Dの視点が含まれるようにした。実際の8単位時間の指導計画は以下の通
りである(表-1)。
時
間 主題名 内容項目 教材名
1 役に立つ喜び 勤労,公共の精神
C-(14)
「ボランティアクラブに入って」
(文溪堂)
2 よりよく生きる よりよく生きる喜び
D-(22)
「真海のチャレンジ」
(文部科学省)
3 自然環境を守るために 自然愛護
D-(20)
「チョモランマ清掃登山隊」
(学研)
4 広い心で 相互理解,寛容
B-(11)
「すれちがい」
(文溪堂)
5 礼儀正しく 礼儀
B-(9)
「日本の心とかたち-真・行・草-」
(光文書院)
6 信頼し合う心 友情,信頼
B-(10)
俺たち仲間やん
(福岡市教育委員会)
7 誠実な心 正直,誠実
A-(2)
手品師
(文溪堂)
8 長所に目を向けて 個性の伸長
A-(4)
明の長所
(学校図書)
表-1 8単位時間の指導計画
道・長研-9
イ 8単位時間の第4時 第5学年 「相互理解,寛容」高学年B-(11)の授業実践
主題名 広い心で
教材名 「すれちがい」(文溪堂)
ねらい 自己本位に陥りやすい弱さをもっていることや相手の意見を素直に聞いたり,相手の立
場に立って考えたりすることの大切さに気付き,相手に対して広い心で接しようとする態
度を育てる。
教材の内容は,よし子とえり子がピアノの稽古に一緒に行く約束をし,それぞれの思いで行
動した結果,待ち合わせ場所で会うことができずにすれ違ってしまい,互いのことを誤解して
しまう話である。本時の展開前段で,よし子がえり子とはあまり付き合いたくなくなったとこ
ろを中心場面にした。自分との関わりでねらいとする道徳的価値をとらえやすくするために,
あなたがもしよし子だったら,「怒る」「怒らない」という立場から考えさせ,自分の立場を
ネームカードで黒板に貼らせた。児童は,迷いながらも自分の立場をはっきりさせることによ
り,自分の考えに根拠をもつことができていた。その後,ねらいとする道徳的価値に迫らせる
ために,えり子の日記を読ませた。よし子の視点からだけでなく,えり子の視点を入れてもう
一度,もし自分だったら「怒る」「怒らない」を選択させ,その根拠を記述させた。児童の記
述(資料-3)から,「えり子さんの言い分を聞くと,しょうがないなと思うから,おこらな
い。えり子さんが悪いわけでもないから。公園まで全速力で走ってくれたから。」と怒る立場
だった考えが,相手の事情を考慮に入れた上で判断し,怒らない立場に変わった様子が見られ
た。他にも「遅れたのにはちゃんと理由もあったし,いきなり頼まれたから,えり子さんのせ
いじゃないから怒らないにしました。」
など,自分事として,二人の状況を
多面的・多角的に考えさせることが
できた。これらを基に全体で考えを
交流させ,教師の補助発問により児
童をねらいとする道徳的価値に迫ら
せていった。
展開後段では,児童自身が学んだ
ことを「学びの足跡表」に書いてあ
る項目番号から選ばせ,その内容と
これからの自分を「学びの足跡表」
にまとめさせた。「①どんなことが
新たに分かり,なっとくしましたか」
を選択した児童の記述(資料-4)
には,「今までは友達とまちあわせ
をして,友達がおくれてしまってい
たときもあって,理由も知らないの
に怒ってしまったことがあったので,
れからは,相手がおくれても理由をし
っかりきけるようになりたいです。」
とある。また「③友達の考えを聞い
て~」を選んだ児童の記述には「最
初は怒る方にしてたけど,みんなの
意見やえり子さんの日記を読んで考
えが変わりました。けんかにならな
いようにするためには,相手のこと
を考えたり,わけを聞いたらいいと
思いました。」とある。記述から,
道徳的価値についての理解を基に自
己をみつめることができたと考える。
資料-4 自己の生き方について考えを
深めている児童の「学びの足跡表」
の記述
場面絵
資料-3 考えを変容させている児童の記述
道・長研-10
資料-5 互いの長所を見つけ合う体験学習
の様子
資料-6 道徳ノートの記述例
ウ 8単位時間の第8時 第5学年 「個性の伸長」高学年A-(4)の授業実践
主題名 長所に目を向けて 高学年 A-(4)
教材名 「明の長所」(学校図書)
ねらい 自分の特徴を知り,短所も自分の特徴の一側面であることを踏まえ,それを改善して
いく努力を重ねたり,長所は現状を維持し続けたりすることの大切さに気付き,自分の
よさを一層生かし更にそれを伸ばしていこうとする態度を育てる。
教材の内容は,主人公が隣の明の長所を作文にする際,
今までの明のことを振り返り,長所に気付き,自分らし
さを持ち続けるよさを教えてあげたいという話である。
展開前段では,教材中の内容を基に,自分の長所に気付
いたり,自分らしさをもち続けたりするよさについて考
えるところを中心場面とした。自分との関わりでねらい
とする道徳的価値をとらえやすくするために,「自分の
長所に気付いたり,自分らしさをもち続けたりするよさ」
について考えさせた。「よさがある」「よさがない」の
どちらかを選択させて考えさせることで,児童は選択し
た根拠について自分の考えをもつことができていた。そ
の後,多面的・多角的に考えさせ,ねらいとする道徳的
価値についての理解を深めさせるために,実際にグルー
プで互いの長所を見つけ合う体験的な学習(よさ見つけ)
を取り入れた(資料-5)。その後,もう一度,「自分
の長所に気付いたり,自分らしさを持ち続けたりするよ
さはあるのかないのか」について考えさせた。自分の立
場をはっきりさせた後,選択した根拠を記述させた。よ
さ見つけを体験する前に「よさがある」を選択した児童
の記述には,「自分のよさがもてると自信がもてる。そ
のよさがわかるともっとよくできる。アドバイスができ
る。」と記述していた。よさ見つけ体験をした後も「よ
さがある」を選択し,「よさが分かると自信がもてるし
アドバイスができる。堂々とできる。」と記述していた。
他の児童の記述も同様に,自分の長所に気付いたり,自
分らしさを持ち続けたりするよさがあると1回目同様,
2回目も「よさがある」を選択した児童は,「やっぱり
よさがある」という記述が見られた。自分事として多面
的・多角的に考えさせる体験的な学習を取り入れたこと
で,道徳的価値のよさを理解していることが分かる。こ
れらを基に全体で考えを交流させ,教師の補助発問によ
りねらいとする道徳的価値に迫らせていった。しかし,
「自分の長所に気付いたり,自分らしさを持ち続けたり
するよさはあるのかないのか」について,児童自身の考
えを記述させる意図の発問だったが,登場人物のよさを
記述した児童が見られた(資料-6)。途中で教師も児
童に考えさせたい内容と違うことに気付いて,全体に確
認を促した。児童が何について考えるのか明確になるよ
うに,発問を吟味する必要あったので,次の指導に生か
すことにした。
展開後段では,資料-6に載せた児童も,道徳的価値
についての理解を基に,伸ばしたい自己を深く見つめて
いる記述が見られた(資料-7)。道徳的価値について
資料-7 自己の生き方について考えを深めて
いる児童の「学びの足跡表」の記述
自分が考えていたよりもよさがあって、う
れしくなりました。自分は人からみられた
らおもしろいんだとあたらしく思いまし
た。なのでこれからもその長所、おもしろ
いをのばしたいです。
8
10/31
③
道・長研-11
資料-8 「振り返りシート(事前)」
資料-10 「8単位時間の授業を振り返ること
で,自分の成長に気付く記述」
資料-9 「『学びの足跡表』を振り返ることで,
自分の成長に気付いている記述」
資料-11 「自己理解を深めたり,自信をもった
りしている記述」
の理解を基に自己をみつめている様子が分かる。
このように,自分事として,物事を多面的・多角的に考えさせる授業を行い,道徳科の目標に
明記された四つの学習を,毎時間の学習の振り返りの視点(自己評価)とすることで,「学びの
足跡表」の記述の中に,道徳的価値についての理解を基に自己を見つめる姿が表れたと考える。
それらを教師が8単位時間で見取り,道徳科の評価としての個人内評価を行っていった。
② 「8単位時間の学習を振り返る段階」における
「振り返りシート」での自己評価
8単位時間の道徳科の学習を終えて,児童自身
が,自らの成長を実感することができるようにす
る。そのために,8単位時間の道徳の授業をする
前の自分を見つめさせたり,これからの学習の見
通しをもたせたりしておく(資料-8)。そして,
8単位時間の道徳科の学習を終えた後,「振り返
りシート(事前)」や「学びの足跡表」,道徳ノ
ートを基に,「振り返りシート(事後)」に自分
が成長したと思うところを振り返らせ,文章で記
述させた。同時に,「学びの足跡表」で今日の学
習を振り返る際に選択した視点で,最も多かった
番号を書かせた。児童の記述(資料-9)を見る
と,「『もし自分だったら』ということをたくさ
ん考えていました。自分の意見をもっていて,友
達の意見を聞いて,考えが変わったりすることが
多かったなと思いました。」と,「学びの足跡表」
を見返すことで,振り返りの視点(自己評価)の
多さや記述の内容から自分自身の成長に気付いて
いた。「学びの足跡表」が一覧表になっているこ
とで,児童自身がどのようにして道徳的価値と向
き合ってきたのか視覚的にも理解することができ
ていた。それにより,児童は,自分の学習経過を
把握しやすくなり,自分の成長を見つけやすくな
ったと考える。また,「友達の考えと自分の考え
を比べることができて,自分をより深く見つめる
ことができた。」という記述(資料-10)が見ら
れた。これは,「学びの足跡表」や道徳ノートを
見返しながら,8単位時間の授業の前と後を自分
自身で比較して,その内容について自分自身の成
長を振り返ることができたからだと考える。さら
に,「前の『自分のこと』を考えていた自分を利
用する」と,新たな自分の考え方に気付いたり,
「もし自分だったらというように考えることが成
長しました。自信をもって書くことができるよう
になりました。」と8単位時間の道徳科の学習を
振り返ることによって,自らの成長に気付いたり
する児童の記述が見られた(資料-11)。1単位
時間の学習を継続的に振り返らせ,8単位時間の
学習を通して振り返らせることで,自らの成長を
児童自身が実感できていたと考える。
道・長研-12
③ 「8単位時間の学習を振り返る段階」における個人内評価(担任からのメッセージ)の作成に
あたって
ア 「担任からのメッセージ」作成における評価の視点
先に挙げた個人内評価の留意点に基づいて,以下の2つの視点から取り上げる。
○ 一面的な見方から多面的・多角的な見方へと発展させているか。
例)・道徳的価値に関わる問題に対する判断の根拠やその時の心情を様々な視点からとらえ
考えようとしている。
・自分と違う立場や感じ方,考え方を理解しようとしている。
・複数の道徳的価値の対立が生じる場面において取り得る行動を多面的・多角的に考え
ようとしている。
○ 道徳的価値の理解を自分自身との関わりの中で深めているか。
例)・読み物教材の登場人物を自分に置き換えて考え,自分なりに具体的にイメージして理
解しようとしている。
・現在の自分自身を振り返り,自らの行動や考えを見直している。
・道徳的な問題に対して自己の取り得る行動を他者と議論する中で,道徳的価値の理解
をさらに深めているかや,道徳的価値の実現することの難しさを自分のこととしてと
らえ,考えようとしているか。
イ 「担任からのメッセージ」の内容構成(児童のよさや成長を受け止めて認める)
「担任からのメッセージ」は,通信表記載を想定しており,学級担任が上記の評価の視点か
ら見取り,以下の構成を踏まえた短文で記述する。
① 1文目は,発表や発言,「学びの足跡表」,「振り返りシート」,道徳ノートの記述等に
よる全体の様相等から成長の様子を記述。
② 2文目は,児童の学習活動での具体的な様子等からよさを記述。
ウ 「担任からのメッセージ」作成の手順
<1文目>
① 「振り返りシート」の質問項目ごとの自己評価を8単位時間の学習前と学習後で比べる。
② 全体の様相からよさや成長を認めて記述する。その際,8単位時間の学習前と学習後で変
容があるところや「振り返りシート」から,児童が成長したと思うところを主な材料とする。
<2文目>
① 「学びの足跡表」と「振り返りシート」などを照らし合わせる。
② 児童自身が「振り返りシート」で8単位時間の学習を振り返る際に,「学びの足跡表」で
最も多く選択した振り返りの視点と「学びの足跡表」に児童に青で付加させた自分で一番成
長したと感じた学習とその振り返りの視点を主な材料にして記述する。
エ 児童の実態に応じた対応
○ 「学びの足跡表」で最も多く選択した振り返りの視点と一番成長を感じた学習の振り返り
の視点が合わなかった児童の場合
児童に直接,話を聞いてみて,児童が成長したと感じている部分と学級担任が,児童の成
長したと見取った部分とを照合する。さらに,学級担任がその児童のよさを,エピソードや
気付いていないところから認めた内容を記述する。
○ 発言が多くない児童や考えたことを文章に記述することが苦手な児童の場合
発言が多くない児童や文章に記述することが苦手な児童を中心に,学習状況(授業での発
言や様子等)を記録しておく。あるいは,1単位時間1グループ(4人程度)と決めて,毎
時間,学習状況(授業での発言や様子等)を記録しておく。
道・長研-13
資料-12 A 児の「振り返りシート」
④ 「8単位時間の学習を振り返る段階」における個人内評価(担任からのメッセージ)の作成の
実際
ア 「一面的な見方から多面的・多角的な見方へと発展させているか」の視点から児童の学習状
況や道徳性に係る成長をとらえた評価
○ A児の場合
1文目は,「振り返りシート」の自己評価の質問項目で,「自信をもつことができた」の
数値が上がっていたことと,「『まちがったらどうしよう』と思っていたので手をあげてい
ませんでした。でも8回の道徳でどんどん楽しくなって,前より手を
挙げて発表できるようになりました。」というA児の記述(資料-12)
と学級担任の見取りから,「『まちがいとかはない』ことに気付き,
自分の考えに自信がもてるようになり,進んで発言することが多く
なっています。」と全体の様相から記述した(資料-14,ア)。
2文目は,「振り返りシート」による8単位時間の学習において,最も多く選択した振り
返りの視点は,「③友達の考えを聞いて自分の考えが広がったり,変わったり,深まったり
したか」だった(資料-12,イ)。それを手がかりに「学びの足跡表」で,A児が一番成長
したと思う学習が,第5回目に青で印を付けてある(資料-13,ウ)ことと照らし合わせ,
その回も「①,③」について振り返っている(資料-13,エ)。A児が選択した振り返りの
視点と最も多く選択した振り返りの視点が合い,学級担任の児童理解からもA児のよさが顕
著に見取ることができるということから,この第5回のA児のよさを具体的に認めることに
した。「友達の考えを聞いて,納得したところは,丁寧に対応し,相手がいやな気持ちにな
らない挨拶をしていたところを,友達に聞いて納得しました。」という記述(資料-13)と,
A児が事前アンケートで自分の礼儀について振り返った時に,「ワンストップ(立ち止まっ
て)挨拶をしている」と自分の経験を記述していたことと結びつけて,「ワンストップ(立
ち止まって)挨拶をしていると書いたけどそれだけではないと分かりました。」という記述
(資料-13)を見取った。そこを多面的・多角的な見方へと発展しているととらえ,「友達
の『ていねいに対応し相手がいやな気持にならない挨拶』という考えに納得して,自分の挨
拶を見直そうとしていました。」とA児のよさを認め,個人内評価として記述した(資料-14,
オ)。
イ
資料-14 A 児への個人内評価(「担任からのメッセージ」)
○○さんへ
ア「まちがいとかはない」ことに気付き,自分の考えに自信をもつことができるようになり,
進んで発言することが多くなっています。オ「日本の心とかたち」の学習では,友達の「て
いねいに対応し,相手がいやな気持ちにならないあいさつ」という考えになっとくして,自
分のあいさつを見直そうとしていました。
○ 2学期(8回分)の道徳の時間を終えてふり返ろう
授業のふり返りで一番多く選んだ番号は
道徳の時間で,どんなところが成長したと思いますか。成長したと思うところを書きましょう。
資料-13 A 児の「学
びの足跡表」
ウ
エ
5
10/10
①,③
わたしは、友達の考えをきいたりなっとく
したところは、ていねいに対応し、相手がい
やな気持ちにならないあいさつをしていたと
ころを友達にきいてなっとくしました。わた
しはワンストップあいさつをしていると書い
たけどそれだけではないと分かりました。
道・長研-14
資料-16 B 児の「学び
の足跡表」
資料-15 B 児の「振り返りシート」
○○さんへ
ア 登場人物と自分を重ねて考えを書くことや発言することが増えています。オ「すれちがい」
の学習では,話し合いの中で,自分とちがう感じ方や考え方があることに気付き,「自分のこ
としか考えていなかった」と自己を深く見つめ,自分の行動や考えを直そうとしていました。
イ 「道徳的価値の理解を自分自身との関わりの中で深めているか」の視点から児童の学習状況
や道徳性に係る成長をとらえた評価
○ B児の場合
1文目は,「振り返りシート」の自己評価の質問項目で,「進ん
で発言していますか」の数値が上がっていたことと,「自分の出来
事や自分と重ねて書くのもたくさんできたと思います。苦手だった
発表や書くことも少しできるようになって良かった。」というB児
の記述(資料-15)と学級担任の見取りから,「登場人物と自分を
重ねて考えを書くことや発言することが増えています。」と全体の
様相から記述した(資料-17,ア)。
2文目は,「振り返りシート」による8単位時間の学習において,最も多く選択した振り
返りの視点は,「①どんなことが新たに分かり納得したか」,「②自分のことに置き換えて
考えたか」だった(資料-15,イ)。それを手がかりに「学びの足跡表」で,B児が一番成
長したと思う学習が,第4回目に青で印を付けてある(資料-16,ウ)ことと照らし合わせ,
その回も「②自分のことに置き換えて考えたか」について振り返っている(資料-16,エ)。
B児が選択した振り返りの視点と最も多く選択した振り返りの視点が合い,学級担任の児童
理解からもA児のよさが顕著に見取ることができるということから,この第4回のB児のよ
さを具体的に認めることにした。「わたしも似たようなことがあって,ちょっと怒ってしま
ったことがあるので気持ちはすごく分かります。でも,それは,自分のことしか考えていな
いことと一緒なんだなあと思いました。友達の意見を聞くのはとてもいいことだと感じまし
た」という記述(資料-16)を見取った。そこを,道徳的価値の理解を自分自身との関わり
の中で深めているととらえ,「『自分のことしか考えていなかった』と自己を深く見つめ,
自分と違う感じ方や考え方があることに気付き,自分の行動や考えを見直そうとしていまし
た。」とB児のよさを認め,個人内評価として記述した(資料-17,オ)。
イ
ウ
エ
わたしも似たようなことがあって、ちょっとお
こってしまったことがあるので、気持ちはすごく
分かります。でも、それは自分のことしか考えて
いないことといっしょなんだなと思いました。
「おこらない」の人の意見もよくわかったけど、
「おこる」人の意見も分かる気がして、友達の意
見を聞くのはとてもいいことだと感じました。
資料-17 B 児への個人内評価(「担任からのメッセージ」)
○ 2学期(8回分)の道徳の時間を終えてふり返ろう
授業のふり返りで一番多く選んだ番号は
道徳の時間で,どんなところが成長したと思いますか。成長したと思うところを書きましょう。
4
10/3
②
道・長研-15
資料-19 「担任からのメッセージ」を見て
自己理解を深めている記述
このようにして,一面的な見方から多面的・多角的な見方へと発展させているか,道徳的価
値の理解を自分自身との関わりの中で深めているかという視点から学習状況をとらえ,児童一
人一人の「担任からのメッセージ」を作成していった。
⑤ 「8単位時間の学習を振り返る段階」における個人内評価(担任からのメッセージ)の組織的,
計画的な作成
「担任からのメッセージ」を作成するにあたって,教師が児童のよさを認める際に,長期研修
員は児童理解が不十分なので,児童一人一人の学習状況に応じた適切な把握をすることが難しい。
だからこそ,学級担任との協力体制を築いて行った。
学年会で,「学びの足跡表」や「振り返りシート」の考え方や使い方,指導方法について共通
理解した上で授業を行い,「担任からのメッセージ」を作成していった。指導では,児童の学習
状況や道徳性に係る成長を多面的・多角的に把握し,道徳科の評価の妥当性,信頼性等の担保に
つながるように,長期研修員と学級担任がT T体制で授業を行った。長期研修員が授業を行って
いる時に,学級担任が児童の学習状況を把握できるようにした。学級担任は,記述が苦手な児童
を中心に見取り,もっとくわしく児童の考えを聞きたい時には,直接児童に質問しながら,学習
状況を把握していた。
8単位時間の道徳科の学習と,その振り返りが終わった後,学年会で,「担任からのメッセー
ジ」の作成について協議を行った。作成手順の確認をし,「学びの足跡表」や「振り返りシート」,
道徳ノートなどと照らし合わせながら,個人内評価を行っていった。また,児童との人間関係や
児童理解が存在する学級担任が,よさや成長と認めたところを記述することや,押しつけになら
ないように,文末表現に気を付けることなどを確認しながら,児童一人一人のよさや成長を認め
る記述にしていった。
新小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編の中で,道徳科の評価を推進するに当たって
は,学習評価の妥当性,信頼性等を担保することが重要であると述べられている。道徳科の評価
の妥当性,信頼性等の担保につなげるために,今後,校長,教頭,教務主任,道徳教育推進教師
等が協力的に授業を行い,T T体制で児童の学習状況や道徳性に係る成長を普段の授業とは違う
角度から学級担任が見取るなど,評価に対してどのように組織的・計画的に取り組むのか考えて
いくことも大切である。
⑥ 「8単位時間の学習を振り返る段階」における「担任からのメッセージ」を伝える授業の実際
道徳科における児童のよさや成長を認め,励ます
ことによって,児童が自らの成長を実感し,更に学
習に意欲的に取り組もうとするきっかけとなるよ
うに,学級担任が「担任からのメッセージ」を一人
一人に手渡した。実際の通信表を想定しているため,
2学期の終業式当日に配付することにした。「担任
からのメッセージ」を伝えた後,児童にそれを読ん
で,感じたり,気付いたりしたことについての事後
アンケートに回答させた。自分の自信になったと答
えている児童の記述(資料-18)には,「前より少
し成長したということをくわしく知ることができ
た」と「担任からのメッセージ」を読んで,具体的
にどういうところが成長したのかを感じていた。そ
して,それが「もっと道徳の学習を頑張っていこう」
という学習意欲につながっていることが分かる。ま
た,自分のことがよく分かったと答えている児童の
記述(資料-19)には,「自分のことがよく分かっ
たし,こんなところもあるんだと気付いたから」と,
自分のよさを見つけてもらうことで自信をもち,同
時に自己理解を深めている様子が分かる。児童のよ
さや成長を認め,励ます「担任からのメッセージ」
が児童の自己理解や自信につながったと考える。
資料-18 「担任からのメッセージ」を見て
自信をもった記述
道・長研-16
資料-20 「学びの足跡表」を振り返り自分の成
長を感じている記述
(3) 児童が自らの成長を実感する道徳科の評価の考察
① 1単位時間の学習を振り返る段階において
「考え,議論する道徳」を実施する上で重要なのは,児童が道徳的問題を自分自身の問題とし
てとらえ,道徳的価値に多面的・多角的に向き合うことである。その一つの方法として,中心場
面に児童が自分事として行為を選択決定する場面を取り入れ,自分との関わりを意識させ,物事
を多面的・多角的に考えさせる授業を行った。
その結果,展開後段の自己評価活動の中で,児童自身が学んだことを「①どんなことが新たに
分かり納得したか」,「②自分のことに置き換えて考えたか」,「③友達の考えを聞いて自分の
考えが広がったり,変わったり,深まったりしたか」,「これからの自分」の視点から「学びの
足跡表」に記述させることで,より多面的・多角的な見方へと発展しているか,道徳的価値の理
解を自分自身との関わりの中で深めているかを見取ることは可能であった。本研究から「1単位
時間の学習を振り返る段階」において中心場面に行為を選択決定する場面を取り入れた指導の有
効性を踏まえた上で,「学びの足跡表」を使った児童の自己評価活動の有効性について,二つの
ことが明らかになった。
○ 各時間の学習状況の中で突出した学習状況や道徳性に係る成長を把握。
道徳科の目標に明記された学習に注目して一人一人の児童の姿を把握していくことが評価を
行う上で重要である。児童自身が学んだことを「①どんなことが新たに分かり納得したか」,
「②自分のことに置き換えて考えたか」,「③友達の考えを聞いて自分の考えが広がったり,
変わったり,深まったりしたか」,「④これからの自分」の視点から振り返らせたり,選択し
て記述させたりすることで,教師の評価と児童の振り返り視点(自己評価)を合致させること
ができ,児童の成長をとらえやすく,児童が自らの成長を実感する評価の材料となり得る。
○ 学習状況や道徳性に係る成長の進歩の状況を把握。
いろいろな見方や考え方ができるようになってくるなど,教師と児童が学びの経過を視覚的
に一目で把握できるということは,児童が自らの成長を実感する評価の材料と十分なり得る(資
料-20)。1単位時間ごとに違った内容項目の授業を行うからこそ,内容項目ごとの評価では
なく,大くくりの中で児童の学習状況を評価していく個人内評価に生かすことができると考え
る。
この段階において,道徳科の目標に明記された学
習を意識した指導を充実させることにより児童自
身が道徳的諸価値の理解を基に,一面的な見方から
多面的・多角的な見方へと発展したり,道徳的価値
の理解を自分自身との関わりの中で深めたりでき
る。
このような指導を継続し,「学びの足跡表」に,
道徳的価値の理解を自分との関わりで深めたり,自
分自身の体験やそれに伴う考え方や感じ方などを
想起したり,これからの生き方の課題を考え,それ
を自己の生き方として実現していこうとする思いや
願いを深めたりしたことを記述させていくことで,
「8単位時間の学習を振り返る段階」において,自
分の成長を児童自身がとらえることに役立ち,より
自分の成長を実感し,学習意欲につなげることがで
きるのである。
道・長研-17
資料-21 様々な視点から自己を見つめている様子
私が一番成長したと思うのは,自分のことをくわ
しく見つめれたのと書く量です。いつも人の意見
にながされてばかりいたけれど,自分をくわしく
見つめて自分の意見をしっかりと持てるようにな
りました。ふり返りの時,前までは,何を書いて
いいかよく分からず,てきとうに書いていること
が多かったです。でも,考えたプリントをもとに
ふり返りを書けるようになりました。そして,ふ
り返りの時間が楽しく,用意してあるわくよりも
いっぱい書けるようにもなりました。
資料-22 道徳科の学習,発言や記述ではない形で
表出していた様子
「おれたち仲間やん」ていうところで,私は信ら
いし合う心が必要なんだなと思いました。前はそ
んなのやんなくていいのにって思っていたけど,
友達の考えを聞いたら,信らいし合う心がいるん
だなって思いました。それに,「おれたち仲間や
ん」をしたあとに,友達の考えがこんなにちがう
んだなって思って,いつもよりも書く量が多くな
ったり,聞くときに,相手の方に体を向けたりす
るのが多くなった。
② 8単位時間の学習を振り返る段階において
大くくりの評価が大切な道徳科の評価において,児童が自らの成長を実感するには,一定期間
の学習を始める前と後で比べながら振り返らせることが,この段階において重要であることが分
かった。「振り返りシート」を使って,道徳科の学習全体を見通し,8単位時間の学習を始める
前の自分の有様を児童にとらえさせる。そして,8単位時間の学習後に,「振り返りシート」を
使って同じ質問項目でそれまでの学習や自分自身を振り返らせることが大切であった。道徳科に
おいて,児童が自信をもったり,自己理解を深めたり,新たな課題や目標を見付けたりする上で,
教師が自己評価と関連付けて,児童のよさや成長を認めていく個人内評価は重要である。
ア 「振り返りシート」を使った自己評価活動の有効性について二つのことが明らかになった。
○ 児童が自らの成長を多面的・多角的に見つめる。
児童自身に学んだことを「①どんなことが新たに分かり納得したか」,「②自分のことに
置き換えて考えたか」,「③友達の考えを聞いて自分の考えが広がったり,変わったり,深
まったりしたか」の,どの視点について一番考えたのかを気付かせることができたと考える。
また,児童自身に様々な視点から道徳科における自らの成長を実感させることが可能である
と考える(資料-21)。
○ 授業での発言や記述がほとんど見られない児童の学習状況や道徳性に係る成長を把握。
1単位時間の授業で発言や記述ほとんど見られない児童の学習状況や道徳性に係る成長を
教師が把握することも可能だと考える(資料-22)。
この段階において,8単位時間の自分の成長を児童自身にとらえさせることは,道徳科におい
て,児童が自信をもったり,自己理解を深めたり,新たな課題や目標を見付けたりすることにつ
ながるのである。「1単位時間の学習を振り返る段階」で道徳科の目標に明記された学習を充実
させるためには,児童が道徳的問題を自分の問題としてとらえ,道徳的価値に多面的・多角的に
向き合うことができる指導と評価を継続し,学期ごとの道徳科の学習について振り返らせること
により,児童が自分の成長を実感し,学習意欲につなげることができる個人内評価が可能となる
と考える。
イ 「担任からのメッセージ」を読んだ児童
のアンケートから
本研究において,児童が自らの成長を実
感する道徳科の評価として適切だったのか
検証した。アンケートを実施し,児童に「担
任からのメッセージ」を読んで,何を感じ
たり,気付いたりしたのかについての選択
肢(資料-23)を設け,当てはまるものを
選択させ,その理由を記述させた。
①~④の質問項目を「自己理解を深めた
り,自信をもったりしている姿」,⑦,⑧
の質問項目を「課題や目標を見つけた姿」
とした。⑤,⑥の質問項目は,評価の基本
① うれしくなった。
② 自分の自信になった。
③ 成長に気付いた(感じた)。
④ 自分のことが分かった。
⑤ 道徳科の学習が好きになった(楽しくなった)。
⑥ 道徳科の学習をがんばろうと思った。
⑦ 課題を見つけた。
⑧ 課題を見つけて,次の目標を設定しようと思った。
⑨ その他( )。
⑩ 特に何もなかった。
資料-23 アンケートの選択肢
道・長研-18
資料-25 成長につながった児童の記述
資料-26 自己理解につながった児童の記述
資料-24 自信につながった児童の記述
図-4 「担任からのメッセージ」を読んだ児童の
アンケート結果
的態度として,更に意欲的に取り組もうとするきっかけとなるような評価をめざすことから「学
習意欲につながる姿」とする。そのように,アンケート結果をまとめると以下の通りになった
(図-4)。
アンケート結果を見てみると,「担任からのメ
ッセージ」を読んで,自己理解や自信につながっ
たと考えられる,質問項目①~④のを選択した児
童の割合は92%であった。道徳科の学習において,
課題を見つけたり,新たな次の目標を見つけよう
としたりすることにつながったと考えらえる,質
問項目⑦,⑧を選択した児童の割合は,62%であ
った。道徳科の学習に更に意欲的に取り組もうと
するきっかけとなったと考えれる,質問項目⑤,
⑥を選択した児童の割合は,81%であった。「そ
の他」を選択した児童の割合は,12%であった。
特に何もないと答えた児童はいなかった。
質問項目①~④を選択した児童の記述の内容を
見てみると,自分のよさに気付き,自信になった
という記述(資料-24)が見られた。これは,「担
任からのメッセージ」で道徳科における児童のよ
さを取り上げたためだと考える。また,「自分の
成長を感じられた」という記述(資料-25)が見
られた。これは,記述にもあるように「担任から
のメッセージ」で,児童が自己評価で感じている
成長と違うところから,教師が児童の成長を取り
上げることで,児童が成長を感じることができた
と考える。自己理解につながった児童の記述(資
料-26)からも同様に,児童が自己評価で感じて
いる成長と違うところから,教師が児童の成長を
取り上げたことによるものと考えられる。
質問項目⑦,⑧を選択した児童の記述内容を見
てみると,「発表を増やす」という課題を見つけ,
次の目標にしている児童の記述(資料-27)が見
られた。これは,「担任からのメッセージ」に,
「自分の考えと友達の考えを比べながら聞いてい
る」と書かれていることで,「次は発表まで頑張
ろう」という課題を見付けたからだと考える。
質問項目⑤,⑥を選択した児童の記述内容を見
てみると,「担任からのメッセージ」を読んで「道
徳をしてそう感じているんだな」と自己理解を深
め,自信がつき,自らの成長を感じることで,「道
徳科の学習を頑張っていこう」という児童の記述
(次項資料-28)が見られた。これは,児童自身
が気付いたよさや成長と違うところから「担任か
らのメッセージ」でそれを取り上げ,児童の学習
状況や道徳性に係る成長を認める,個人内評価の
内容になっていたからだと考える。また,「担任
からのメッセージ」を読んだら「これからも頑張
ろうと思えた」という児童の記述(次項資料-29)
が見られた。これは,「担任からのメッセージ」
資料-27 課題を見つけた児童の記述
学級担任名
92
62
81
12
0
0% 50% 100%
自己理解,自信
課題,目標
学習意欲
その他
特に何もない
道・長研-19
が,児童の学習状況や道徳性に係る成長を
認める,個人内評価になっていたからだと
考える。ただ,児童の記述を見てみると,
「担任からのメッセージ」を読んで,「道
徳科の学習が,好きになった(楽しくなっ
た)」「道徳科の学習をがんばろうと思っ
た」という内容の記述はわずかであった。
ほとんどは,8単位時間の道徳科の学習を
経て感じた内容の記述であった。これは,
児童が道徳的問題を自分自身の問題として
とらえ,道徳的価値に多面的・多角的に向
き合うことできるように,中心場面に児童
が,自分事として行為を選択決定する場面
を取り入れ,自分との関わりを意識させ,
物事を多面的・多角的に考えさせる授業を
行ったからだと考える。指導があっての評
価だということが改めて分かる。
「その他」を選択した児童の記述内容を
見てみると,「もっと感じていないことを
気付きたいとも思いました」という児童の
記述(資料-30)が見られた。これは,中
心場面に児童が,自分事として行為を選択
決定する場面を取り入れ,物事を多面的・
多角的に考える授業を行い,「担任からの
メッセージ」で児童の学習状況や道徳性に
係る成長を認める内容になっていたから
だと考える。
本研究から,児童の自己評価と関連付け
た「担任からのメッセージ」の有効性につ
いて二つのことが明らかになった。
○ 児童が自己評価でとらえた学習状況や道徳性に係る成長と同じ,または違うところから取
り上げる。
児童が自ら成長を実感する道徳科の評価にするためには,学級担任が児童理解に基づいた
上で,児童の成長を見守り,努力を認めたり,励ましたりすることができることが明らかに
なった。児童に深く関わり続けている学級担任だからこそ,見えること,気付くことができ
る児童の成長を適切に伝えることができる。教師と児童のよりよい関係を築き,児童理解が
存在することが大切である。
○ 発表や発言,「学びの足跡表」,「振り返りシート」,道徳ノートの記述等による全体の
様相のよさや成長の様子等と児童の学習活動での具体的な様子を記述する。
学習状況や道徳性に係る成長を認めることで,児童の自己理解が深まり,児童が自信をも
ったり,成長を感じたり,目標や課題を見付けたりし,更なる学習意欲へつながることが明
らかになった。児童が自らの成長を促すものにすることが大切である。
資料-28 自己理解が深まり,学習意欲につながった
児童の記述
資料-29 学習状況や道徳性に係る成長を認められ,
学習意欲につながった児童の記述
資料-30 道徳科の学習が好きになり,もっと自己理解
を深めたいという児童の記述
学級担任名
道・長研-20
7 研究の成果と課題
(1) 成果
○ 「学びの足跡表」により,各時間の学習状況の中で突出した学習状況や道徳性に係る成長,そ
の進歩の状況を把握することができた。また,児童の自己評価の視点と教師の評価の視点を一致
させておくことで児童の学習状況を適切に把握することができた。
○ 「振り返りシート」により,学習を積み重ねる前と学習を積み重ねた後の児童の成長を児童自
身にとらえさせることができた。
○ 児童の自己評価と関連付けた「担任からのメッセージ」により,児童に自らの成長を実感させ
ることができた。
(2) 課題
○ 「学びの足跡表」や「振り返りシート」の内容や様式,枚数などを学校や学年ごとの実態に応
じて吟味する必要がある。
○ 児童の学習状況や道徳性に係る成長を受け止めて認め,励ます個人内評価を行う際,学習状況
や道徳性に係る成長の状況を組織的・計画的にどう把握していくのか更に研究を深めていく。
道・長研-21
巻末資料-1「学びの足跡表」
巻末資料-2「振り返りシート」
道・長研-22
引用文献
1)「考え,議論する道徳」を実現する! 「考え,議論する道徳」を実現する会
P84,87 図書文化(平成29年)
2)子どもに寄り添う道徳の評価 加藤宣行 P17 光文書院(平成29年)
3)子どもを幸せにする「道徳科」赤堀博行,佐藤幸司 P161 小学館 (平成29年)
4)「考え,議論する道徳」の指導法と評価 西野真由美 P155 教育出版(平成29年)
5)「教育評価(第2版補訂2版)」 梶田 叡一 P207 有斐閣 (平成22年)
参考文献・参考資料
1 押谷由夫 道徳の時代がきた!-道徳教科化への提言- (平成25年)
2 押谷由夫 道徳の時代をつくる!-道徳教科化への始動- (平成26年)
3 諸富祥彦 「問題解決学習」と心理学的「体験学習」による新しい道徳授業 (平成27年)
4 押谷由夫 新教科道徳はこうしたら面白い (平成27年)
5 松本美奈 特別の教科 道徳 Q&A (平成28年)
6 福岡市教育委員会 平成28年度 福岡市道徳教育推進の手引き (平成28年)
7 貝塚茂樹 道徳教育を学ぶための重要項目 (平成28年)
8 柳沼良太 問題解決的な学習で創る道徳授業 超入門 (平成28年)
9 文部科学省 小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編 (平成29年)
10 永田繁雄 「道徳科」評価の考え方・進め方 (平成29年)
11 永田繁雄 平成29年版 学習指導要領改定のポイント (平成29年)
小学校・中学校 特別の教科 道徳
研究指導員
松本 和寿 (筑紫女学園大学 教授)
長期研修員
土田 晃久 (舞鶴小学校 教諭)
担当主事
窪山 学 (研修・研究課 主任指導主事)
佐伯 修一郎 (研修・研究課 指導主事)