甲府盆地西部地域の地形研究紀要(1983)...

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甲府盆地西部地域の地形 高木 勇夫・中山 正民 1. はしがき 甲府盆地は,山梨県のほぼ中央に位置し,県内 では最も重要な生活空間を構成している。この盆 地は,フォッサマグナに沿う構造盆地で,周囲を 巨摩・秩父・御坂などの各山地によって囲まれ, 山麓から盆地床に向けて数多くの扇状地が発達し ている。したがって,甲府盆地は周辺山地から流 出する河川によって形成された合流扇状地からな る盆地であると言っても過言ではない(図1)。 甲府盆地の西に位置し,富士川の中・上流域を 構成する釜無川は,赤石山地の駒ヶ岳北斜面に源 を発し,途中,韮崎付近で塩川を合流して甲府盆 地に至る。釜無川の西にある駒ヶ岳(2,966m) から櫛形山(2,052m)に至る南アルプスの前山 である巨摩山地は,富士川流域でもっとも起伏量 \、 ㌧\、、} ㌧、 11 10 i 、~ 1 ●、 /・ ’、!」 12 !’ .ノ: ~! 1 1琴 /・ !ノ 1 ¥・ ◎一’・、噸 ’7 3 _.’ フロヘじ /4 6 、、 豆5 一・、 o、 い. 7、。一’、一・一・ 、● 0 4km Fig.1 D三stribution of alluvial fans in Kofu Basin l Fuefukigawa alluvial fan 20moigawa alluvial fan 3Hikawa al alluvial fan 5001sk玉gawa alluvial fan 6Kanekawa alluvial fan 8Aikawa alluvial fan9Arakawa a1王uvial fan 10Kamanashigawa a gawa alluvlal fan 12Togawa a11uvial fan 一31一

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Page 1: 甲府盆地西部地域の地形研究紀要(1983) の大きな地域である。巨摩山地の東斜面を流れる 釜無川の支流の各河川流域には,崩壊地が数多く

甲府盆地西部地域の地形

高木 勇夫・中山 正民

1. はしがき

 甲府盆地は,山梨県のほぼ中央に位置し,県内

では最も重要な生活空間を構成している。この盆

地は,フォッサマグナに沿う構造盆地で,周囲を

巨摩・秩父・御坂などの各山地によって囲まれ,

山麓から盆地床に向けて数多くの扇状地が発達し

ている。したがって,甲府盆地は周辺山地から流

出する河川によって形成された合流扇状地からな

る盆地であると言っても過言ではない(図1)。

 甲府盆地の西に位置し,富士川の中・上流域を

構成する釜無川は,赤石山地の駒ヶ岳北斜面に源

を発し,途中,韮崎付近で塩川を合流して甲府盆

地に至る。釜無川の西にある駒ヶ岳(2,966m)

から櫛形山(2,052m)に至る南アルプスの前山

である巨摩山地は,富士川流域でもっとも起伏量

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ハ        Fig.1 D三stribution of alluvial fans in Kofu Basin

l Fuefukigawa alluvial fan 20moigawa alluvial fan 3Hikawa alluvlal fan 4Ky6dogawa

alluvial fan 5001sk玉gawa alluvial fan 6Kanekawa alluvial fan 7Asagawa a11uv三al fan

8Aikawa alluvial fan9Arakawa a1王uvial fan 10Kamanashigawa alluvial fan U Midai-

gawa alluvlal fan 12Togawa a11uvial fan

一31一

Page 2: 甲府盆地西部地域の地形研究紀要(1983) の大きな地域である。巨摩山地の東斜面を流れる 釜無川の支流の各河川流域には,崩壊地が数多く

研究紀要(1983)

の大きな地域である。巨摩山地の東斜面を流れる

釜無川の支流の各河川流域には,崩壊地が数多く

分布しており,岩屑生産の活発さを物語ってい

る。その結果,巨摩山地の山麓部には,大武川,

尾白川,御勅使川などの形成した扇状地をはじ

め,崖錐,麓屑面などの発達が著しい。したがっ

て,甲府盆地西部の低地は,極く大雑把に言え

ば,釜無川の堆積によるものと,巨摩山地の東斜

面を流れる河川によるものとからなっている。

 ところで,一般論として言えば,河川の中流域

に位置する盆地と,下流域を占める平野とでは,

供給される堆積物の大きさや量,それらを受け入

れる堆積環境などに基本的な違いのあることが考

えられる。一つの河川流域における盆地・峡谷の

持つ意義については,すでに指摘されているよう

に(大矢 1974,中山 1975),盆地は上流山地

から運搬されてくる堆積物の堆積の場となり,峡

谷は下流側への岩屑供給のための浸蝕の場となっ

ている。大きな起伏をもった周辺山地から,複数

の河川によって供給される大量の堆積物は,流域

面積に比較して小さな盆地に集中して,ここを埋

積する。一方,平野は盆地周辺を取り囲む山地に

比較すれば,相対的に小さな起伏の山地から供給

される堆積物が,陸地に接する浅海域を埋積して

形成される1)。

 このように考えれば,河川下流域にみられる扇

状地,氾濫原,三角州という模式的な地形配列

は,河川中流域の盆地には該当せず,これとは異

った原理に基づく地形配列のあることが考えられ

る。こうした観点に立った研究は,これまで報告

されていない。

 そこで,この小論では,甲府盆地の西部地域の

低地を対象に,ここにみられる微地形の特徴を明

らかにし,あわせて盆地の地形配列について若干

の検討を試みた。

2。 扇状地の分布と釜無川・笛吹川の縦断曲線

対象とした地域は,甲府盆地の西部,釜無川を

中心に北は御勅使川,東は貢川・荒川,西は滝沢

ハL南は笛吹川に囲まれる範囲である。その主要

部は,いわゆる釜無川扇状地と御勅使川扇状地で

ある。

 甲府盆地の地形を特徴づけている扇状地の分布

状態を図1によってみると,盆地東部ではほぼ東

から西へ向けて拡がるが,盆地西部では西から東

ないし北から南へ向けて拡がり,両地域における

扇状地の発達方向に違いのあることがわかる。し

かも,この両者の中問に位置する盆地中央部は,

扇状地の発達が極めて悪い。

 盆地東部に発達する扇状地は,笛吹川水系に属

し,盆地西部のものは釜無川水系に属する。笛吹

川と釜無川は盆地出口付近で合流し,富士川とな

る。この合流点までの流路延長は,笛吹川が55。5

㎞,釜無川が68㎞である。

 いま,この両河川の盆地内における縦断曲線

(図2)をみると,笛吹川は深い凹形曲線を描く

のに対し,釜無川は直線に近い浅い凹形曲線を示

している。

 すなわち,釜無川は笛吹川との合流点に向け

て,しばらく笛吹川と同じ傾斜で流れているが,

7㎞付近から徐々に傾斜が増加して行き,途中,

数ヵ所で傾斜の変換点のあることがわかる。一

方,笛吹川は,釜無川との合流点から上流側18㎞

付近まで平均傾斜α9飾の極めて緩やかな傾斜を

示し,そこから上流側に向けて急に傾斜を増大さ

せていく。このような両河川にみられる縦断曲線

の遠いは,両者が性格を異にする河川であること

を示唆している。また,この縦断曲線から窺える

ように,笛吹川は合流点よりもやや上流側で,下

流部に較べてやや低くなる傾向のあることがわか

る。これは,釜無川の堆積が活発に行われるた

め,笛吹川の下流部を閉塞した状態にしているこ

とによるのであろう。

 このような縦断曲線にみられる変化は,河床の

堆積物にも違いを示し,釜無川では合流点付近ま

で砂礫が認められるが,笛吹川では平均傾斜0.9

一32一

Page 3: 甲府盆地西部地域の地形研究紀要(1983) の大きな地域である。巨摩山地の東斜面を流れる 釜無川の支流の各河川流域には,崩壊地が数多く

甲府盆地西部地域の地形

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Fig.2 Long玉tudial profiles of the Kamanashi R五ver and Fuefuki River

%を示す地域の大部分は砂ないしシルトからなっ

ているo

3・ 甲府盆地西部地域の地形分類

 3-1御勅使川流域の地形

 櫛形山の西,唐松峠付近に源を発した御勅使川

は北流し,金山沢を合流して東流に転じ,上梅津

沢,下梅津沢・御庵沢を併せて塩前付近で甲府盆

地に入る。甲府盆地に入った御勅使川は,塩前付

近を扇頂とする扇状地を形成しているが,その末

端部は釜無川の浸蝕によって約10m程の崖を形成

して釜無川の低地と隔てられている。この御勅使

川扇状地と釜無川扇状地を中心とした流域の地形

を,形態的特徴と地形的境界線に留意して分類し

たのが図4である。

 古期扇状地が,御勅使川扇状地の主要部を構成

しているが,その形成時期や形成過程については

明らかでない。しかし,この御勅使川扇状地の南

にある市之瀬台地は,上位から上野山面,伝嗣院

面,市之瀬川面に分けられ,3面のうち上野山面

は信州ロームの中期と新期ロームに相当する上野

山ロームと伝嗣院ロームに,伝嗣院面は伝嗣院

ロームによってそれぞれ覆われている(崎田

1961,甲府盆地第四紀研究グループ 1969)。

 この古期扇状地の内部構造を示す図3の3~6

のボーリング資料によれば,場所による変化が著

しいが,表面直下には,褐色の礫混り粘土や粘土

混り砂礫層が厚く堆積しており,とくにNα5では

表層を構成する礫層の直下に厚さ約L5mの黄色

粘土が記載されている。また,台地末端部の徳永

付近にみられる露頭では,褐色の火山灰質粘土層

と,小礫を主とする礫層の互層が約8m以上の厚

さで堆積している。

 一方,この台地上の微地形に注目すると,かな

り複雑な起伏が認められ,これは図5に示す等高

線の特徴からも明らかである2)。すなわち,台地

の西側,いわゆる扇頂に近い部分は小さな波長の

微起伏が,反対に東側の扇央から扇端に至る部分

は,大きな波長の起伏と,末端部における浸蝕谷

の発達が指摘できる。扇頂に近い地域は,直線的

一33一

Page 4: 甲府盆地西部地域の地形研究紀要(1983) の大きな地域である。巨摩山地の東斜面を流れる 釜無川の支流の各河川流域には,崩壊地が数多く

研究紀要(1983)

1

2

3   4   5   6

Fig.3

7   8

11

15

12

16

9   10

13  14

17

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圃即ave1

図S㎡aces・i1

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50

100

Columnar sections of Midai gawa alluvial fan and Kamanashi gawa

alluvial fan in westem Kofu Basin.locality is shown in Fig.6

で鳥趾状に拡がる微高地が高い密度で分布してい

る。ことに微高地の先端部は,その高さが漸減せ

ず,低い部分へ向けて急変する。この微高地は,

おもに数㎝の大きさの砂岩や頁岩の角礫からなっ

ており,その形態的特徴とあわせて,閃光洪水

(flash flood)のような氾濫による土石流堆積に

よって形成されたものと考えられる。したがっ

て,鳥趾状の微高地は,土石流堆3)と考える。図

3でこの土石流堆の分布する地域は,古期扇状地

を覆って形成された新しい土石流性の扇状地であ

る。これに対し,台地の

東側半分は大きな波長の

起伏がみられるのみで,

台地の上を覆う新しい堆

積物の存在は認められな

いo

 御勅使川に沿う流路跡

は,明治時代まで御勅使

川が八田村六科付近で北

を流れる後御勅使川と,

南を流れる前御勅使川に

分流していたうちの,前

御勅使川の流路跡であ

る。ここには細粒の堆積

物がほとんどみられず,

六科付近における砂利採

掘穴では,5m内外の露

頭の全面にわたって新鮮

な砂礫層が堆積してい

る。礫は最大10~20㎝の

ものもあるが,多くは5

㎝以下で,角礫~亜角礫

である。この断面には,

薄く層理の発達している

部分と,ほとんど認めら

れない部分とがあり,層

理の認められる部分は礫

径が比較的均等である。

このことから,この礫層によって構成される流路

跡の部分は,土石流による流送と流水による流送

の双方の作用によって形成されたものである4)。

台地主部の堆積物は,褐色の砂混り粘土や粘土混

り砂碍層によって構成されており,この流路跡の

露顕にみられる灰色の新鮮な砂碍層とは,堆積物

の層相および色調に明らかな違いが認められる。

したがって,この流路跡は,褐色の火山炭質堆積

物を含む台地を切って形成された河道跡である。

 御勅使川の台地末端部には,新しい小規模な扇

一34一

Page 5: 甲府盆地西部地域の地形研究紀要(1983) の大きな地域である。巨摩山地の東斜面を流れる 釜無川の支流の各河川流域には,崩壊地が数多く

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Fit. 4 Geomorphological map of w~stern Kofu Basin

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Fig. 5 Contor map of western Kofu Basin

Page 7: 甲府盆地西部地域の地形研究紀要(1983) の大きな地域である。巨摩山地の東斜面を流れる 釜無川の支流の各河川流域には,崩壊地が数多く

甲府盆地西部地域の地形

状地が発達している。これらの小扇状地のうち,

御勅使川下洗部にあるものは・釜無川の沖積低地

との間に数mの地形的境界線が形成され,大きく

2段に分けられる。このような段化した小規模な

扇状地は,扇状棚(fan bench.Carter1975)と

考えられる。しかし,滝沢川下流部の小扇状地

は,釜無川の沖積低地に向けてその高度を漸減す

る。滝沢川は,御勅使川扇状地を切って流れてく

るが,深沢川との合流点より下流側の小笠原付近

から堆積が始まり,ここを扇頂とする小扇状地を

形成している。このような地点は交差点(interse・

ction point)とよぱれ,河川の流れが岸をのり越

えるのに十分な深さになると,河岸に向けて小さ

な突出部が分岐し,広い突出部が交差点より下

流側に形成され,小規模な扇状地が形成される

(R.L.Hooke1967,Wasson1974)。この二次的

な小扇状地は,土石流によるものと考えられ(R・

L.Hooke1967),図4にみられる形態的特徴と,

構成層の特徴から,ここが泥流堆積によって形成

されたものと考えられる。すなわち,この扇状地

上の微高地は,滝沢川に平行して幅広く続き,し

かも表土直下には礫混りの黒灰色の粘土層が5~

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Fig.6 Distr…bution of grey hor…zon and artesian spring zone

一35一

Page 8: 甲府盆地西部地域の地形研究紀要(1983) の大きな地域である。巨摩山地の東斜面を流れる 釜無川の支流の各河川流域には,崩壊地が数多く

研究紀要(1983)

10mの厚さで堆積している(図3Nα1~2)。こ

れは台地面を構成している褐色粘土混りの砂礫層

や,礫混りの褐色粘土層とは明らかに異ってい

る。これは,沖積層へ没入する台地面を,新しい

堆積物が被覆する様子を示している。しかも,ほ

ぼこの両者の境界付近における地下水の自噴帯の

存在とグライ層の出現は,上述のような事実と関

係しているものと考える(図6)。

 3-2 釜無川流域の地形

 釜無川扇状地は,甲府盆地にみられる扇状地の

なかでは,扇状地面積,岩屑供給域面積,高度差

が最大で,しかも平均傾斜が最も緩やかな扇状地

である。この扇状地の表面形態は,河川下流域に

みられる扇状地に類似している。これは,釜無川

扇状地に堆積物を供給する上流域のうち,東側の

塩川流域には八ガ岳や芽ガ岳にみられる半固結の

厚い火山砕屑物や火山灰など,西側の大武川,尾

白川などの流域では一部で深層風化をうけた花闘

岩があり,大量の細粒な堆積物が生産され,盆地

へ運搬されてくる。したがって,釜無川扇状地は

河川下流域の扇状地と共通する堆積過程によって

形成されたためであろう。

 この釜無川扇状地にみられる微高地と旧河道の

配置に注目すると,北半部と南半部における差違

が指摘できる。すなわち,微高地の分布密度は北

半部に高く,南半部に低いこと,微高地の長軸方

向が北半部ではNW-S E方向であるが,南半部

ではN-S方向を示すこと,旧河道は北半部で網

状流跡を示すが,南半部では旧河道の分布が少な

く,網状流跡を示さないことなどである。これら

の事実は,釜無川扇状地が2つの異った部分から

構成されていることを示唆している5)。写真1に

は,北半部と南半部における階調の差が明瞭に示

されている。

 このような差は,この地域の土壌にも認められ

る。図6は土壌中のグライ層の有無を示したもの

であるが,図4にみられる両地域の境界にほぼ一

致しており,かつての地下水の自噴帯とも大体の

ところで一致している。さらに,図2の釜無川の

縦断面にも,両地域の間に明確な傾斜変換点があ

り,これを境に北半部は7。7%,南半部は42%と

なっているo

 つぎに,両地域を構成している地層の状態をボ

ーリング資料によってみると,図3に示すように

かなり明瞭な違いが認められる。すなわち,北半

部では,表土直下に暗灰色の厚い砂礫層が堆積し

ているが,南半部では砂,シルト,粘土,腐植物

などの細粒な物質が数mの厚さで堆積している。

 扇状地面にみられる微地形とそれを構成してい

る堆積物との関係から検討すると,北半部のNW

-S E方向に配列する微高地は,西から合流する

御勅使川の強い勢いによって釜無川が盆地内の沖

積低地に流入し,おもに河床に堆積した流路堆堆

積によって形成されたものである。しかし,南半

部のN-S方向の微高地は,釜無川,荒川,笛吹

川の浴流堆積によるものであろう。

 釜無川の右岸の沖積低地は,左岸側に比較する

と微起伏が少なく,平滑で単純である。微高地は

釜無川に沿って,自然堤防状にのびており,その

背後には氾濫盆状地がある。このうち,甲西町の

東南湖と西南湖よりも下流側では,釜無川と笛吹

川の合流点に近く,しかも増水時には,下流部の

狭窄部のダムアップによって背水となって逆流す

るため湛水し易い地域である。

4. 地形配列の考え方

 図7は,甲府盆地西部にみられる微地形の特徴

をもとに模式的に地形配列を示したものである。

すなわち,上流側の長い距離を流れてきた主河川

は,粗粒な岩屑を山麓や流送中の谷底に堆積し,

盆地に至り,ここまで運搬してきた砂礫を盆地内

に向けて氾濫を繰返しつつ堆積する。この時,砂

礫は基本的にはまず流路堆堆積により,さらに下

流に向けては溢流堆積が行われる。

 一方,盆地内において主河川に合流する支流

は,盆地に接する高度差の大きな山地から岩屑類

一36一

Page 9: 甲府盆地西部地域の地形研究紀要(1983) の大きな地域である。巨摩山地の東斜面を流れる 釜無川の支流の各河川流域には,崩壊地が数多く

甲府盆地西部地域の地形

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Fig、7 Typical Iandform order ln a basin

よって浸蝕された細かな物質が,

下流側に向けて堆積する。これ

は,泥流堆積であろう(Rachocki

1981)。

 内陸盆地における地形を特徴づ

けるものは,下流部に位置する狭

窄部の存在である。この狭窄部

は,洪水時に押しよせる河川の水

を一時的にダムアップするため,

盆地出口付近に排水不良の洪水湛

水地域が形成される。この洪水湛

水地域は,微起伏に乏しく,極め

て低平で,低湿な土地であり,場

合によっては小規模な湖や沼沢

地の形成されることも考えられ

る。

 内陸盆地における地形配列を微

地形および営力についてまとめた

のが表1である。

5. まとめ

を直接運搬してくるため,大量の極めて粗粒な堆

積物が盆地に供給される。この粗粒な物質は,山

腹斜面を流下した後,一時的に渓床に不安定な状

態で貯溜される。その後,大量の降雨などをインパ

クトに,不安定な渓床堆積物は土石流となって下

流方向に押し出され,盆地内に堆積して土石流凸

地(debrisflowlobe,seivelobe)や土石流堆

(debris flow levee)を形成する。さらに,渓床

内に残された比較的細かな物質や,土石流凸地や

土石流堆の表面物質のうち土石流直後の洪水流に

 甲府盆地西部地域の特徴をまと

めると次のようになる。

 1) 釜無川と笛吹川の縦断曲線

  から,両者が基本的に異った

  性格の河川であることがわか

  る。すなわち,釜無川は大量

  の砂礫が供給されるが,笛吹

 川は相対的に少なく,合流点付近では前者が

 砂礫,後者が砂によって構成され・釜無川は

 天井川化し,笛吹川を閉塞したような状態に

 なっている。

2) 釜無川の沖積低地は旧中州,自然堤防など

 の微高地が分布し,おもに流水堆積によって

 形成されているが,北半部と南半部では堆積

 様式が異っている。また,盆地に最も近い部

 分では,平均傾斜が0。9飾と極めて平坦で,

 狭窄部のダムアップによる湛水を受ける逆流

一37一

Page 10: 甲府盆地西部地域の地形研究紀要(1983) の大きな地域である。巨摩山地の東斜面を流れる 釜無川の支流の各河川流域には,崩壊地が数多く

研究紀要(1983)

 氾濫原がみられる。

3) 御勅使川流域は,古期の扇状地の上に扇頂

 付近において,土石流堆からなる新期の扇状

 地が形成されている。また,古期の扇状地の

 末端部には,新しい小扇状地が形成され,一

 部に,泥流堆積を示す扇状地がある。

4) 盆地の地形配列は,扇状地と盆地性氾濫原

 に大別できる。扇状地は急傾斜扇状地と緩傾

 斜扇状地に,盆地性氾濫原は上位氾濫原と下

 位氾濫原にそれぞれ分けられる。急傾斜扇状

 地は,本流に流入する支流において,土石流

 堆積によって形成される。盆地の出口に位

 置する下位氾濫原は,狭窄部のダムアップに

 よる背水の影響をうけ,逆自然堤防や湿地・

洪水湛水地域が形成される。

 内陸盆地の地形配列については,ここで十分に

述べ得なかったが,この点について別に稿を改め

て検討したい。ここで提示した考え方は,中部山

岳地域に分布する盆地には適用できる可能性があ

るが,西日本や北日本の盆地はこれとは別の原理

を考えねばならない。すなわち,岩屑供給域であ

る上流山地が,壮年期で主に古期岩類からなる中

部山岳地域に対し,西日本では隆起準平原で深層

風化の影響を受けており,北日本では比高の小さ

な山地で,火山噴出物からなっているという違い

がある。

Table.1 Landform order and micro-landforms

目¢

>コ

i嘔

ρ目

q吋

q℃oo

瞳魍喫罰鯉舗

碧需萎}贋呂礁窃

畢9硬霧

 ロ署謡『弊①

1嘔8礁窃駆聲鰹8 bO .ヨ

懸国 ユ蝿で羅8

お』 の覗q 負 コ .目

瞳些 ユ蝿℃農8

翅=■窪

 o

微     地     形

  micro-1andforms

 流動・氾濫様式flow and flood modes

土石流凸地土石流堆土石流間凹地土石流堆間低地

泥流舌状地

debris flow lobe(seive lobe)

debris flow levee

inter debris flow depression

lnter debris flow levee flat

mudflowtongue

旧 中 州旧  河  道

河間低地

abandoned channel bar

abandoned low water chamelinter channel flat

自 然堤防破堤堆積堤氾濫盆状地旧  河  道

natural levee

creVaSSeSSplay

flood basin

abandoned low water channel

自然堤防氾濫盆状地逆自然堤防

湿

natural levee

flood basin

upside down natural levee

地   marsh

T  3絹燧8ぐロ障.雲

銀引右   の箏  ℃の

頃   韓

の爆2ご

目曜ヌ↓  日

蠣辱喫2訳』 の区増

32』の

琶韓

蝿℃喫8萎頃樽蓉 傷

 薯輯ε

羅馨燧ζ お鋸さ

 堰止氾濫flood by backwater

l dammed up at al flood time↓

営  力

processes

握筍 写度三1苫・R’タ

 讐闘 bO

餐一 .空

 塞虞鴫

 需賢℃ つ襲罵 q

一38一

Page 11: 甲府盆地西部地域の地形研究紀要(1983) の大きな地域である。巨摩山地の東斜面を流れる 釜無川の支流の各河川流域には,崩壊地が数多く

甲府盆地西部地域の地形

Plate.1 Aerial photograph of Kamanash玉gawa alluvial fan

    (54vv31PRS M662314ew21Nov.4727)

一39一

Page 12: 甲府盆地西部地域の地形研究紀要(1983) の大きな地域である。巨摩山地の東斜面を流れる 釜無川の支流の各河川流域には,崩壊地が数多く

研究紀要(1983)

                  註・参

1)中流域の盆地の場合は,周辺山地から求心的に堆積

物が運搬・供給されるのに対し,下流域の沖積平野

は,おもに主河川によって運搬されてきた堆積物が,

浅海域に向けて遠心的に拡散する。したがって,盆地

は一種の閉鎖系であるのに対し,沖積平野は開放系

で・上流側から供給される物質はで盆地は垂直方向

に,平野では水平方向に堆積する。

2)等高線が小さな間隔で激しく屈曲している部分と,

比較的大きな間隔で屈曲している部分とがある。また

釜無川と比較すると等高線間隔が狭いだけに,わずか

考文献に突出した等高線でも,実際の起伏はかなり大きい。

3)ここは,地元で「クロ」とか「ツカ」とよばれている。

4)このような構造から,狭義にいえば土砂流といえ

る。

5)Bu11(1964)は・扇状地縦断面はスムーズな直線に

よって描れるのではなく,3~4つの直線部分からな

っていることを指摘している。しかも,このような分

割構成(Segmentation)は間欠的な隆起運動の結果

であるとしている。

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 系・目本の第四系・地団研専報,15、254~262,

中山正民(1975) :信濃川における河川堆積物の分布と

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大矢雅彦(1974):最上川における砂レキ流動に対して

 盆地・峡谷のもつ意義・東北地理,26,123~129.

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 地理学論文集,100~106.

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 Geogr.Ann,56A,83~92.

The Landfoms in Westem Kofu Basin,Yamanashi Prefecture

     Isao TAKAGI and Masatami NAKAYAMA

 Kofu Basin・faultbas量n,is located in the mldd里e reaches of the Fuji River and conslsts of a large number of

alluvial fans・In genera1,the landforms of alluvial plains by the lower reaches of a river have been

considered to come in the order of alluvial fan,flood plaln and de】ta.But,as for a basin by the mlddle

reaches of a river,the landform order differ from that of an a11uvial plain.

 Abasinissurroundedwithmountainousarea.thenumerousdethtus「aretransportedbywaterflowor mass且ow from su皿ounding areas and mass on the basin floor.On the other hand,an alluvial plain…s

devel・pedbythedep・siti・n・fsuspendedl・adsfr・mamainriver.Thenumer・ussuspende41・adsarespreading and massing in the shallow sea area.Thorefore,a basin can be considered as closed system in

the way of deposition,and an alluvial plai亘as open system.

 Accordingly,the purpose of this papeτis to make clear the distribution of la軌dforms…n westem Kofu

Basin and the typical landform order in a basin.

 The results as follows have been made clear.

1・ The feature of出e Kamanashi River is fundamentally different from that of the Fue∫uki River.

 (Both are two main river in Kofu Basin).Namely,the longitudial profile Qf the Kamanashi River

 shows a stmight line,but the Fuefuki River shows a concave line hke a graded river.this is due to

 the dlfference of the amount of deposits.

2、Westem Kofu Basin can be dlvlded into the Midai&11avial fan area and the Kamanashi alluvial fan

 area・The Kamanashi alluvial f&n area can be divlded lnto two segments,upper and Iower segments。The

 upper segment is made up of the micro-landform units of abandoned channel bar,abandoned low water

 chamel and inter-channel flat.The lower segment is made up of natural Ievee,flood basin and aba一

一40一

Page 13: 甲府盆地西部地域の地形研究紀要(1983) の大きな地域である。巨摩山地の東斜面を流れる 釜無川の支流の各河川流域には,崩壊地が数多く

甲府盆地西部地域の地形

ndoned low water channeL Thls depends on the difference of flood and depositlonal modes,And the

junction area o{the Kamanashi River and the Fuefuki River is a poor drained low land and get

submerged by the back water dammed up at a flood time,

3. The Midai alluvial fan area is an old alluvial fan.But the head of the old alluva1{an三s covered

withnewdebrisflowdeposits。Consequently,therehaveappearednewdebrisflowlevees.Asecondaryalluvial fan is distributed at the base of the old alluvial fan。

4.The typcal landform order in a basin shows Table1.The landform in basin can be divided into

alluvial{an and flood plain in a basin.The former consists of the steep slope alluvial fan formed by

mass flow and the gentle slope alluvial fan formed by water flow・The latter consists of upper

flood plain affected by overflow flood and lower flood plain af{ected by the back water damed up at

flood time.

一41一