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経営戦略を成功へと導く人材戦略

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1経営戦略を成功へと導く人材戦略

はじめに経営戦略とは、どんなに詳細なものであれ、単なる道案内の地図に過ぎない。そこには進むべき方向、代替ルート、予想所要時間、旅の途上の注目スポットなどは記されているかもしれない。しかし、A地点からB地点までの道のりを実際に進むためには車、つまりは人材が必要だ。それも道端で壊れたりせずに、確実に目的地へと到達する頑強なものが。

車のボンネットを開けてエンジンを調べるように、組織の中味をチェックしてみよう。必要な時に必要な場所に必要な人材を配置できる体制になっているだろうか? 各指標を達成する可能性について、取締役会は確信を持てているだろうか? ヒューマンリソース部門(HR)は戦略の優先順位を明確に設定しているだろうか?

つまり、その人材戦略は経営戦略に整合しているだろうか?

Fortune500企業をはじめとする多くの企業において、人件費はコストの70%にも達する1。企業がこの投資を最大限回収するには、十分に練られた人材戦略が必要だ。そして、ビジネス目標に沿って人材を配置することにより、適格なスキルを持った人材が適切な取り組みを実行し、組織は戦略遂行や業績向上といった果実を手にすることができるようになるのだ。

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戦略整合への道のり

戦略的なタレントマネジメントには、2つの主要要素がある。戦略への整合性とタレントマネジメント施策の一貫性だ2。

縦軸の戦略的整合性は、ビジネス・ニーズと個人の能力の関連性を指す。企業はタレントマネジメントを展開するにあたり、経営戦略を実行する上で必要なスキル、知識、意欲を持った人材を育成しなければならない。つまり、経営戦略によって、競争優位をもたらす職務、必要な人材像、伸ばすべきスキルが決定されるのだ。

横軸の統合タレントマネジメントは、人材にまつわるすべての施策が一貫性を保ち、同じゴールへと指向されているかの度合いが示される。異なるタイプの人材はそれぞれ異なる戦略的価値を持つのが最適なシステムだ3。よく調整されたタレントマネジメント施策を計画し、戦略的に重要な人材に継続的に投資することで、極めて大きな恩恵を企業にもたらすことになる。

企業は人材と戦略を結ぶこれら縦横の軸を最適化することで、ターボ全開の最高級マシンを構築することができ、戦略の遂行を加速させ、好業績を達成できるのだ。

エンジン・トラブル優れたナビを有するが、エンジンが不調(人材戦略と経営戦略は整合しているが、人材が不足)

弱低 高

ガス欠タレントマネジメント施策が一貫性を欠き、人材もビジネスの推進役になっていない

人材戦略と経営戦略の整合度合い

タレントマネジメント施策の統合度合い

ターボ全開経営戦略と人材戦略が整合しており、組織の成長とパフォーマンスを最大化できる状態

ナビ欠陥強力なエンジンを有するが、ナビが不調(仕組みは構築されているが、経営戦略に整合していない)

図 1戦略とタレントマネジメント施策の整合度合い

3経営戦略を成功へと導く人材戦略

ターボ全開の人材戦略

経営戦略と整合した人材戦略を策定した企業は、戦略目標の達成、市場での業績向上、意欲あふれる高業績人材の引き留め、といった数々の効果を享受することが期待される。

HR実務を統合し、一貫性を保つことにより達成される見返り(ROI)は計り知れない。ある有力な調査によると、HR実務の整合し、統合した投資の標準偏差が「1」増加すると、社員の離職率は7.5%低下し、社員1人当たりでは、売上高が27,044ドル、市場価値が18,641ドル、収益が3,814ドルそれぞれ増加する4。

その他の調査でも、企業が経営戦略と人材戦略を整合させた場合、以下のような明白なプラス効果があることが分かっている:

• 社内士気の向上5

• 生産性の向上4, 6

• 自己裁量業務の増加7

• 離職率の低下4, 8

• 顧客満足度の向上6

• プロセス効率の改善6

• 社内イノベーション力の向上7

• 企業業績の改善4, 5, 7

これらのメリットを得るためには、いくつかの成功要因を押さえておく必要がある。まず、企業の経営戦略が堅実であることに加え、人材戦略が経営戦略をサポートするものであり、なおかつすべてのHR実務にわたって一貫性を保っていること。ベストプラクティスに基づいて人材戦略を策定することは有用ではあるものの、調査によると、HR実務を経営戦略に整合させることが高業績の達成にひと際大きな影響を与えることが明らかになっている9,10, 11。

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目的地へ向けて視界良好

一般的に、経営戦略と人材戦略を整合させるアプローチは、経営戦略かタレントマネジメント施策のどちらかに偏りがちだ。経営戦略の策定において実施の現実性や必要な人材が軽視されている場合もあれば、タレントマネジメントの専門家が一般的なベストプラクティスを重視しすぎるあまり、組織に特有の状況が考慮されないケースもある。

経営戦略と人材戦略の整合には、以下の要素を含むアプローチが最も有効となる:

• リサーチに基づき、強力な知的財産によって支えられる、構造化されたプロセスがあること

• 戦略整合の経験が豊富であり、ビジネスや業界の現状に加えてタレントマネジメント業務についての優れた洞察力を持つオピニオン・リーダーがいること

• 事業部門のトップとHRのリーダーの間に積極的な対話があること

コーン・フェリーは、以下の領域を探究することにより、戦略的な人材投資を定義し、優先事項を特定し、最も効果的な手順を決定する構造化されたプロセスを推奨している。

経営環境を精査する。経営戦略と人材戦略を整合させるには、幅広い視点からビジネスの現状を把握する必要がある。21世紀のトレンド、現実的な経済環境、業界事情といったビジネス上の外的要因を理解することで、経営戦略にとって有用な背景情報が得られる。

業界でどのようなトレンドが台頭しているか? これらのトレンドはどのような影響をもたらすか? 業界の先行きについて何が想定されるか? 競合他社はどの分野を重視しているか?

経営戦略を理解する。次のステップは、組織の戦略上の目的および目標を理解することだ。企業の規模や複雑性が増している今日では、企業内に経営戦略が複数存在し、ときにそれらが相容れない場合がある。

戦略目標は何か、その実現のためにどのような計画が立てられているか? 不可欠なビジネスプロセスは何か? それらのビジネスプロセスのどこにギャップがあるか? 他社との差別化をどこで図るか?

5経営戦略を成功へと導く人材戦略

経営戦略の実現に必要な能力を特定する。企業が経営戦略の実現に向けてどのような能力に秀でている必要があるかを把握することは、人材戦略を策定するうえで重要な鍵となる12。特定の職務や個人が成功するための要件を定義したサクセス・プロファイルを含む企業の「コア・コンピテンシー」を明らかにすることは、人材戦略と経営戦略を結ぶ手段の1つとなる13。

組織が最も得意とすることは何か? 組織が戦略目標を達成するためには、どのような能力に秀でている必要があるか?

必要な人材像を特定する。企業の競争優位性の大部分は、そのリーダーシップと人材によってもたらされる。この点を踏まえ、企業が戦略をうまく具体化して、進行し、遂行するためには、どのような人材が必要であるかを正確に見極める必要がある。

戦略を実現するために、どのような人材のギャップを解決しなければならないか? その戦略的ビジネスプロセスを利用して競争優位を実現するにはどのような人材が必要か?

経営戦略に整合する人材戦略を策定する。組織の能力、配備可能な人材、重要職務、競争優位獲得の機会、制約リスクといった過去のインプットを、実行可能なプランに織り込むことで人材戦略を策定する。企業はこの段階で、不可欠な能力と現在活用可能な人材とのギャップを把握する。堅実な人材戦略は、重大なギャップを埋め、人材を活用して、戦略の実行に極めて大きな影響を与える。

必要な人材を市場で獲得できるか? 人材を獲得できない場合、どのような違いが生じるか? 重要職務のサクセス・プロファイルはどのようなものか? 成功するリーダーを予測する最大の要因は何か?

HRとタレントマネジメントのプロセスを設計する。最後にやるべきことは、人材が戦略実現をサポートする戦力となるために、人材獲得やタレントマネジメントのプロセスを十分に調整することだ。ここで重要なのは、単にそれぞれのプロセスが最適化されているだけでなく、システム全体が統合され、組織内のさまざまな人材ニーズに対応できるように調整されていることである。

タレントマネジメントのプロセスやプログラムを人材戦略に整合したものにするための最適な方法は何か? タレントマネジメント・プロセスの人材戦略への貢献度を測る評価基準は何か?

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コーン・フェリーの人材戦略ワークショップは、企業の経営陣、タレントマネジメントのリーダー、コーン・フェリーのパートナーが協業し、企業の経営戦略をタレントマネジメントの優先事項に置き換えて、整合させるプロセスに着手することを目的としている。数日間にわたるこのワークショップでは、各組織のリーダーが戦略上の人材ニーズについて共通のビジョンを確立し、組織に不可欠な能力を特定し、最も重要な場面における人材投資に重点的に取り組む。主な成果物となる人材戦略ロードマップには企業独自の方向性が反映され、具体的かつ実行可能な目標により人材戦略と経営戦略のより的確な整合が実現されることになる。

注意:前方に障害物あり

経営戦略を模倣した人材戦略を策定する必要はない。多くの人が「整合」と「反映」を混同しがちだ。経営戦略はイノベーションを推進するものだ、故に人事にはイノベーションが必要だ、というロジックを唱えてしまう。だが、必ずしもそうではない。むしろ人事に必要なのは、イノベーションの推進役となる人材を揃えることだ。人材戦略は、経営戦略を成功させるように組み立てる必要があるのだ。

すべてに当てはまる万能な戦略はない。すべてのケースでうまくいく公式は存在しない。タレントマネジメントの施策を企業特有の状況に合わせようとする場合、業界、ビジネスのライフサイクル、戦略的方向性といった事項に留意する必要がある。確立された人事のベストプラクティスをただ実行するよりも、人事をビジネス・ニーズに合わせて調整したほうが大きな価値があることは、調査からも明らかになっている11。

すべての職務を同等に扱わない。組織の成功にとっては、すべての職務が重要だ。しかし、最低限必要な要員として機能する職務もあれば、特定の経営戦略の成功にとって不可欠な職務もある。人材を区分けし、それぞれのセグメントに特定のタレントマネジメント方法を適用することが、より大きな投資リターンにつながる。

7経営戦略を成功へと導く人材戦略

目的地:戦略を成功へと導く人材

企業が組織の力を増強し(ターボ全開)、最大限の成長と業績を達成するには、戦略目標に正確に照準を合わせた人材配置を行い、相互に歩調を合わせながらタレントマネジメントの施策を始動させなければならない。このアライメントがなされている組織は、計画実行と目的達成において競争優位に立つことになる。

戦略的なタレントマネジメントは、ひいては、企業が持続的な競争優位性を獲得するための源泉にもなり得る。ただし、企業が戦略に整合したタレントマネジメントの仕組みを計画・実施する際には、常に留意すべき重要ポイントがいくつかある:

• 経営戦略と市場環境を注視した上でタレントマネジメントのアプローチを構築する

• タレントマネジメント施策は、戦略との整合性に加え、個々の施策を相互に連携させ統合させる

• 経営戦略を必要な組織の能力に置き換えて、人材投資の判断を推進する

• 戦略上不可欠な人材を“特別扱い”する。人材を区分けすることにより、組織はそれまで以上にタレントマネジメントの施策を調整し、最大のリターンを生むことができる

コーン・フェリーの整合性アプローチは、ビジネス成果を実現させるために発案された。このフレームワークでは、ビジネスの状況や戦略を把握し、人材が持つ意味を明確にし、それらに沿った人材戦略を策定する。また、これには組織の能力、重要職務、サクセス・プロファイルの特定、ならびに人材獲得と重要人材のマネジメントにかかわる最善の方法を定義するプロセスも含まれる。

人材は、戦略の方向性に正確に沿って配備されれば、持続可能な競争優位性を引き出す大きな源泉となる。経営戦略と人材戦略が完璧に整合したとき、目の前には経営戦略実現という目的地へと連なる、きれいに舗装された道が開けているはずだ。

企業が組織の力をターボ全開へと増強させるには、戦略目標に正確に照準を合わせた人材配備を行う必要がある。

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注釈

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1. Society for Human Resource Management. 2007. “SHRM Human CapitalBenchmarking Study 2007 Executive Summary.” Retrieved from http://www.shrm.org/Research/SurveyFindings/Documents/SHRM%20Human%20Capital%20Benchmarking%20Study%202007%20Executive%20Summary.pdf.

2. Bowen, David E., and Cheri Ostroff. 2004. “Understanding HRM-FirmPerformance Linkages: The Role of the ‘Strength’ of the HRM System.” TheAcademy of Management Review 29 (2): 203-221.

3. Lepak, Dave P., and Scott A. Snell. 2002. “Examining the Human ResourceArchitecture: The Relationships Among Human Capital, Employment, andHuman Resource Configurations.” Journal of Management 28 (4): 517-543.

4. Huselid, Mark A. 1995. “The Impact of Human Resource Management Practiceson Turnover, Productivity, and Corporate Financial Performance.” TheAcademy of Management Journal 38 (3): 635-672.

5. Huang, Tung-Chun. 2001. “The effects of linkage between business and humanresource management strategies.” Personnel Review 30 (2): 132-151.

6. Youndt, Mark A., Scott A. Snell, James W. Dean Jr., and David P. Lepak.1996. “Human Resource Management, Manufacturing Strategy, and FirmPerformance.” Academy of Management Journal 39 (4): 836.

7. Verburg, Robert M., Deanne N. Den Hartog, and Paul L. Koopman. 2007.“Configurations of human resource management practices: a model and testof internal fit.” The International Journal of Human Resource Management 18(2): 184-208.

8. Bird, Allan, and Schon Beechler. 1995. “Links Between Business Strategy andHuman Resource Management Strategy in U.S.-Based Japanese Subsidiaries:An Empirical Investigation.” The Journal of International Business Studies 26(1): 23-46.

9. Khatri, Naresh. 2000. “Managing human resource for competitive advantage:a study of companies in Singapore.” The International Journal of HumanResource Management 11 (2): 336-365.

10. Lee, Feng-Hui, Tzai-Zang Lee, and Wann-Yih Wu. 2010. “The relationshipbetween human resource management practices, business strategy andfirm performance: evidence from steel industry in Taiwan.” The InternationalJournal of Human Resource Management 21 (9): 1351-1372.

11. Bjorkman, I., and X. Fan. 2002. “Human Resource Management and thePerformance of Western Firms in China.” International Journal of HumanResource Management 13: 853-64.

12. Schuler, R. 1992. “Strategic human resources management: Linking the peoplewith the strategic needs of the business.” Organizational Dynamics 21 (1): 18-32.

13. Prahalad, C. K., and Gary Hamel. 1993. The core competence of thecorporation. [Boston, MA]: Harvard Business School Pub. Corp.

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