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CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~ アンダーソン・毛利・友常法律事務所 弁護士・公認会計士 中村 慎二 2020528本資料は20203月末に作成したものです

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Page 1: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法

~企業各部門における活用のためのヒント集~

アンダーソン毛利友常法律事務所弁護士公認会計士 中村 慎二

2020年5月28日

本資料は2020年3月末に作成したものです

1

目次

1資本コストに関する改訂CGコードの概要 4株主資本コストの活用

(1)事業投資意思決定への活用

(2)業績評価への活用

(3)財務会計への活用

(4)法務の観点からの留意点

(5)総括~経営者に向けて

2株主資本コストの役割

(1)投資家側からみた株主資本コスト

(2)企業側からみた株主資本コスト

3株主資本コストの算定と把握

(1)概要

(2)資本コストの算定方法(過去の株価を用いる方法)

(3)資本コストの算定方法(現在の株価を用いる方法)

(4)算定方法の留意事項

5株主資本コストをめぐる対話と開示

(1)投資家との対話に際しての留意事項

(2)開示に際しての留意事項

資本コストの重要性が強調されるようになった背景 CGコード実施後の課題の1つとして「なお多くの企業において経営

環境の変化に応じた果断な経営判断が行われていない」との指摘 その例として「日本企業においては事業ポートフォリオの見直しが

必ずしも十分に行われていないとの指摘があるがその背景として経営陣の資本コストに対する意識が未だ不十分である」との指摘

rarr企業が自社の資本コストを的確に把握すべきことを明確化する必要があると考えられた

<参照>「コーポレートガバナンスコードの改訂と投資家と企業の対話ガイドラインの策定について」(スチュワードシップコード及びコーポレートガバナンスコードのフォローアップ会議)(平成30年3月26日)

2

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

「平成29年度生命保険協会調査 株式価値向上に向けた取り組みについて」(一般社団法人生命保険協会) 回答企業のうちおよそ8割程度が自社の資本コストを把握 うち資本コストの詳細数値を算出している企業は4割程度

rarr これまでの上場企業の取組みの水準では投資家を満足させられないのではないか

回答した企業の4割は ROE > 資本コスト との認識 回答した投資家の5割は ROE < 資本コスト との認識

rarr 資本コストの捉え方に関して企業と投資家の間にギャップはないか

3

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

4

出典平成29年度生命保険協会調査

「株式価値向上に向けた取り組みについて」

CGコードの新旧対照表(原則5-2)

5

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

改訂後(下線部は追記箇所) 改訂前

【原則5-2経営戦略や経営計画の策定公表】

経営戦略や経営計画の策定公表に当たっては自

社の資本コストを的確に把握した上で収益計画や

資本政策の基本的な方針を示すとともに収益力

資本効率等に関する目標を提示しその実現のた

めに事業ポートフォリオの見直しや設備投資研

究開発投資人材投資等を含む経営資源の配分等

に関し具体的に何を実行するのかについて株主に

分かりやすい言葉論理で明確に説明を行うべきで

ある

【原則5-2経営戦略や経営計画の策定公表】

経営戦略や経営計画の策定公表に当たっては収

益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに

収益力資本効率等に関する目標を提示しその実

現のために経営資源の配分等に関し具体的に何

を実行するのかについて株主に分かりやすい言

葉論理で明確に説明を行うべきである

投資家と企業の対話ガイドライン(金融庁 平成30年6月1日)

1-2 経営陣が自社の事業のリスクなどを適切に反映した資本コストを的確に把握しているかその上で持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けて収益力資本効率等に関する目標を設定し資本コストを意識した経営が行われているかまたこうした目標を設定した理由が分かりやすく説明されているか中長期的に資本コストに見合うリターンを上げているか

2-1 保有する資源を有効活用し中長期的に資本コストに見合うリターンを上げる観点から持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けた設備投資研究開発投資人材投資等が戦略的計画的に行われているか

6

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

2-2 経営戦略や投資戦略を踏まえ資本コストを意識した資本の構成や手元資金の活用を含めた財務管理の方針が適切に策定運用されているか

4-1 政策保有株式についてそれぞれの銘柄の保有目的や保有銘柄の異動を含む保有状況が分かりやすく説明されているか

個別銘柄の保有の適否について保有目的が適切か保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し取締役会において検証を行った上適切な意思決定が行われているかそうした検証の内容について分かりやすく開示説明されているか

政策保有株式に係る議決権の行使について適切な基準が策定され分かりやすく開示されているかまた策定した基準に基づいて適切に議決権行使が行われているか

7

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

資本コストとは 企業が資金調達するときに資金提供者(投資家)に約束すべきリ

ターンを利回り()によって表現したものbull 企業にとって資本コストの本質はハードルレート=割引率

(調達した資金の運用によって獲得すべき最低限のリターン)

投資家にとっては当該企業に対する投資を通して達成すべき目標利回り

調達資本にはすべてコスト(使用の対価)が必要であるということ 留保利益すら利用するに際してコストを要するという意識

8

2株主資本コストの役割

2株主資本コストの役割

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株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

資本コスト企業にとっての調達コスト hArr 投資家にとっての期待リターン

企業 投資家

2株主資本コストの役割

10

営業経費

残余利益

負債利子

税金

収益

株主に分配(分配)

債権者に帰属(分配)

残余利益はすべて株主に帰属する

rArr株主に還元(配当)しても内部留保しても株主に帰属するものであることに変わりはない

現在の株価を11987511987501年後の予想株価を11987511987511年後の予想配当額を1198631198631とすると

この株式から投資家が予想する年間期待投資収益率 119903119903は以下のとおり

119903119903 =1198631198631 + 1198751198751 )minus1198751198750

1198751198750

投資家は期待投資収益率が要求利回り=資本コストを超えているか否かによって投資のパフォーマンスを評価する

(注)実際はもっと長期の期間を対象に評価する

11

2株主資本コストの役割 (1)投資家

インカムゲイン キャピタルゲイン

資本コストを割引率としてキャッシュフローの割引現在価値を計算する

12

2株主資本コストの役割 (2)企業

評価額

1年目 2年目 3年目 4年目

CFCF

CFCF CF CF

割引率(資本コスト)を用いて割引現在価値を計算

CGコード原則を実践するためには 自社の資本コストを的確に把握する 自社の資本コストを効果的にかつ整合的に活用する 自社の資本コスト水準を適宜見直す

rarr 一種のPDCAサイクルとして実践することが考えられる(次スライド参照)

最初に取り組むべきは企業内の役割分担の問題 資本コストの把握検証を行うのはどの部署か 資本コストの情報をどの部署と共有するか 資本コストを用いてどの部署が意思決定(稟議)するか 資本コストの開示(外部提供)はどの部署が行うか

13

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

14

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

行動②(資本コスト

に基づく意思決定)

③ 評価(資本コストの水準の検証)

計画①(資本コストの算定と把握)

④ 改善(必要に応じて修正)

PLAN

DOCHECK

ACTION

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

資本コストの把握方法

1 (メイン)CAPM

2 (併用)配当割引モデル

3 (調整)ビルディングブロックモデル

4 (比較)PERの逆数

15

リスクとリターンの考え方 = リスクフリーレート+リスクプレミアム

16

リターン

リスク

【仮定】投資はリスクが多いほど見返りとして多くの(平均)リターンを要求する

リターン平均の収益率リスクリターンの不確実性(変動の大きさ)

リスクフリーレート=リスクのない投資から得られるリターン

リターンrArr期待値リスクrArr分散として数値化してみる

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

0

リスクフリーレート

リスクプレミアム

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMとは 資本コスト=リスクフリーレート+企業のリスクプレミアム

bull リスクフリーレート≒安全資産(長期国債)の利率 企業のリスクプレミアム=マーケットリスクプレミアム times(β)

bull マーケットリスクプレミアム=市場全体のリターンがリスクフリーレートを超える部分

bull β (ベータ)当該企業の株式の市場全体に対する感応度 当該企業に固有の数値(変数)はベータのみ

bull いわゆるシングルファクターモデル β値は基本的には過去の一定期間(たとえば5年)のマーケット

(市場たとえばTOPIX)の収益率と個別銘柄の株価の収益率の変動を比較して推計

17

資本コストの把握方法(1)

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

【図CAPMのモデル

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )

Cov(Rm Ri)ただしβi = (Cov共分散)

σm 2

Ri個々の証券(i)の期待収益率 ( E( )は期待値を示す)

Rm市場全体の期待収益率

Rfリスクフリーレート ( (Rm - Rf ) を 「マーケットリスクプレミアム」という)

σm 2市場全体の分散

18

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

証券市場線期待収益率が唯一のリスク要素 β の1次関数で表現される

19

M

リスクが小さい リスクが大きい

繊維119864119864 119877119877

119864119864 119877119877119872119872

119877119877119891119891

1

証券市場線

120573120573

1)リスクが市場全体と同じ()rArr株主資本コストも市場全体と同じ

2)リスク(β)の1次関数rArrリターンはリスクの大きさに比例

3)リスク(β)が0のときのリターンが「無リスク資産利子率」

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例 リスクフリーレートとマーケットリスクプレミアム

ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

20

リスクフリーレート 03

マーケットリスクプレミアム 60

出典Pablo Fernandezet alDiscount Rate (Risk-Free Rate and Market Risk Premium) used for 41 countries in 2017 a survey

業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

ベータ値 0685 1318 1402 0722 0744

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例(つづき) 自社の業種が医薬品としてβ=0744を用いて株主資本コストを

計算する

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )=03 + 0744 times 60=4764

で株主資本コストは4764と計算される

21

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

22

配当成長モデルに基づく株主資本コストの算定式の例

119903119903119890119890 = 1198631198631119875119875+119892119892

re 株主資本コストD1 翌期の1株当たり予想配当P 株価g 配当成長率

なお成長率としてサステナブル成長率(財務構成を変えずに内部留保により実現可能な成長率)を用いれば配当成長率は

119892119892 = 119877119877119877119877119864119864 times 1 minus配当性向 として計算することができる

119875119875 =1198631198631

119903119903119890119890 minus 119892119892

配当割引モデルをreについて解く

1ー配当性向rArr内部留保割合

資本コストの把握方法(2)

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

配当成長モデルを用いた数値例

配当成長率(g)= 50 times (1 - 02) = 40

株主資本コスト= 50 10000 + 40 = 45 と計算される

23

翌期の1株当たり予想配当 50円

株価 10000円

ROE 50

配当性向 20

3(4)算定上の留意事項

留意点①CAPMに過度な信頼を置かないこと 特定の手法を用いさえすれば株主資本コストの推計結果の妥当性が

保証されるわけではないbull (例)CAPMを使えば妥当な推計値が得られるわけではない

特定の手法を継続して用いることによって算出結果の信頼性が増すものではないbull (例)CAPMを毎年使い続ければ精度が向上するものではない

CAPMを採用している企業でも配当成長モデルによる株主資本コストの推計を試す意義は大きいbull CAPMは過去の株価の推移配当成長モデルは現在の株価を用

いるrarr2つの異なる情報から資本コストを推計することができる

24

3(4)算定上の留意事項

CAPMのβ値はデータの集計期間等によって大きく異なる可能性がある ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

(東証第一部上場会社対象)

25

期間業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

201404-201903 0685 1318 1402 0722 0744

200904-201403 0711 1295 1141 0549 0563

200404-200903 0210 1081 1294 0713 0634

199904-2004-03 -0091 0499 0887 0411 0292

199404-199903 0182 0969 1332 0887 0561

198904-199403 1002 1017 0936 1084 0825

全期間 0545 1025 1121 0788 0640

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(4)算定上の留意事項

業種

期間

電気機器 輸送用機器 銀行 通信 精密機械

1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動

2001年5~8月 07924 03674 06096 07978 06391

8~11月 07630 05086 05172 06367 08286

11~2002年2月 07381 06376 05638 06457 06820

2~5月 07548 04907 06162 06007 06110

5~8月 08143 06928 06543 05699 07137

26

出典内閣府「今週の指標No368 業種別株価の決定係数とベータ値からみる本邦株式市場の動向」(平成14年8月19日)一部抜粋

CAPMにおけるベータ値の推計はモデルの決定係数(R2)が低ければ説明力が低い

3(4)算定上の留意事項

投資家との対話 ~ビルディングブロック方式~ 株主資本コスト=長期国債利回り+一定のリスクプレミアム 自社に適用すべきリスクプレミアムを投資家と率直に議論 リスクプレミアムの水準は5から8程度が標準 業種自社の業務特性に応じて自社の事業リスクが平均より高め

か低めかに応じて設定する ある程度幅をもって(つまりレンジで)資本コストを把握してお

くことにも合理性がある

27

CAPMの限界を補う必要があるrArr投資家からのヒアリングで修正する

資本コストの把握方法(3)

3(4)算定上の留意事項

ビルディングブロック法のイメージ

28

50

30~40

03

合計株主資本コスト(例) 83~93

リスクフリーレート

マーケットリスクプレミアム

個社のリスクプレミアム 見直し(内部)

見直し(外部)

見直し(外部)

3(4)算定上の留意事項

留意点②エクイティスプレッドを用いた分析の留意点 エクイティスプレッド=ROE-株主資本コスト エクイティスプレッドが高いほど望ましいがそれをどのように

活用することができるか

hArrエクイティスプレッドがプラスであれば問題ないと判断してよいのか

29

3(4)算定上の留意事項

30

エクイティスプレッド = ROE ndash 株主資本コスト

マーケットリスクプレミアム times 120631120631 + 03

(例)6と想定

各企業で異なるベータ

国債利回りをベース

自社ROE

エクイティスプレッドの求め方

(出所)大和証券ウェブサイトを一部改変

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

39Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
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  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
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  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 2: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

1

目次

1資本コストに関する改訂CGコードの概要 4株主資本コストの活用

(1)事業投資意思決定への活用

(2)業績評価への活用

(3)財務会計への活用

(4)法務の観点からの留意点

(5)総括~経営者に向けて

2株主資本コストの役割

(1)投資家側からみた株主資本コスト

(2)企業側からみた株主資本コスト

3株主資本コストの算定と把握

(1)概要

(2)資本コストの算定方法(過去の株価を用いる方法)

(3)資本コストの算定方法(現在の株価を用いる方法)

(4)算定方法の留意事項

5株主資本コストをめぐる対話と開示

(1)投資家との対話に際しての留意事項

(2)開示に際しての留意事項

資本コストの重要性が強調されるようになった背景 CGコード実施後の課題の1つとして「なお多くの企業において経営

環境の変化に応じた果断な経営判断が行われていない」との指摘 その例として「日本企業においては事業ポートフォリオの見直しが

必ずしも十分に行われていないとの指摘があるがその背景として経営陣の資本コストに対する意識が未だ不十分である」との指摘

rarr企業が自社の資本コストを的確に把握すべきことを明確化する必要があると考えられた

<参照>「コーポレートガバナンスコードの改訂と投資家と企業の対話ガイドラインの策定について」(スチュワードシップコード及びコーポレートガバナンスコードのフォローアップ会議)(平成30年3月26日)

2

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

「平成29年度生命保険協会調査 株式価値向上に向けた取り組みについて」(一般社団法人生命保険協会) 回答企業のうちおよそ8割程度が自社の資本コストを把握 うち資本コストの詳細数値を算出している企業は4割程度

rarr これまでの上場企業の取組みの水準では投資家を満足させられないのではないか

回答した企業の4割は ROE > 資本コスト との認識 回答した投資家の5割は ROE < 資本コスト との認識

rarr 資本コストの捉え方に関して企業と投資家の間にギャップはないか

3

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

4

出典平成29年度生命保険協会調査

「株式価値向上に向けた取り組みについて」

CGコードの新旧対照表(原則5-2)

5

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

改訂後(下線部は追記箇所) 改訂前

【原則5-2経営戦略や経営計画の策定公表】

経営戦略や経営計画の策定公表に当たっては自

社の資本コストを的確に把握した上で収益計画や

資本政策の基本的な方針を示すとともに収益力

資本効率等に関する目標を提示しその実現のた

めに事業ポートフォリオの見直しや設備投資研

究開発投資人材投資等を含む経営資源の配分等

に関し具体的に何を実行するのかについて株主に

分かりやすい言葉論理で明確に説明を行うべきで

ある

【原則5-2経営戦略や経営計画の策定公表】

経営戦略や経営計画の策定公表に当たっては収

益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに

収益力資本効率等に関する目標を提示しその実

現のために経営資源の配分等に関し具体的に何

を実行するのかについて株主に分かりやすい言

葉論理で明確に説明を行うべきである

投資家と企業の対話ガイドライン(金融庁 平成30年6月1日)

1-2 経営陣が自社の事業のリスクなどを適切に反映した資本コストを的確に把握しているかその上で持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けて収益力資本効率等に関する目標を設定し資本コストを意識した経営が行われているかまたこうした目標を設定した理由が分かりやすく説明されているか中長期的に資本コストに見合うリターンを上げているか

2-1 保有する資源を有効活用し中長期的に資本コストに見合うリターンを上げる観点から持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けた設備投資研究開発投資人材投資等が戦略的計画的に行われているか

6

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

2-2 経営戦略や投資戦略を踏まえ資本コストを意識した資本の構成や手元資金の活用を含めた財務管理の方針が適切に策定運用されているか

4-1 政策保有株式についてそれぞれの銘柄の保有目的や保有銘柄の異動を含む保有状況が分かりやすく説明されているか

個別銘柄の保有の適否について保有目的が適切か保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し取締役会において検証を行った上適切な意思決定が行われているかそうした検証の内容について分かりやすく開示説明されているか

政策保有株式に係る議決権の行使について適切な基準が策定され分かりやすく開示されているかまた策定した基準に基づいて適切に議決権行使が行われているか

7

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

資本コストとは 企業が資金調達するときに資金提供者(投資家)に約束すべきリ

ターンを利回り()によって表現したものbull 企業にとって資本コストの本質はハードルレート=割引率

(調達した資金の運用によって獲得すべき最低限のリターン)

投資家にとっては当該企業に対する投資を通して達成すべき目標利回り

調達資本にはすべてコスト(使用の対価)が必要であるということ 留保利益すら利用するに際してコストを要するという意識

8

2株主資本コストの役割

2株主資本コストの役割

9Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

資本コスト企業にとっての調達コスト hArr 投資家にとっての期待リターン

企業 投資家

2株主資本コストの役割

10

営業経費

残余利益

負債利子

税金

収益

株主に分配(分配)

債権者に帰属(分配)

残余利益はすべて株主に帰属する

rArr株主に還元(配当)しても内部留保しても株主に帰属するものであることに変わりはない

現在の株価を11987511987501年後の予想株価を11987511987511年後の予想配当額を1198631198631とすると

この株式から投資家が予想する年間期待投資収益率 119903119903は以下のとおり

119903119903 =1198631198631 + 1198751198751 )minus1198751198750

1198751198750

投資家は期待投資収益率が要求利回り=資本コストを超えているか否かによって投資のパフォーマンスを評価する

(注)実際はもっと長期の期間を対象に評価する

11

2株主資本コストの役割 (1)投資家

インカムゲイン キャピタルゲイン

資本コストを割引率としてキャッシュフローの割引現在価値を計算する

12

2株主資本コストの役割 (2)企業

評価額

1年目 2年目 3年目 4年目

CFCF

CFCF CF CF

割引率(資本コスト)を用いて割引現在価値を計算

CGコード原則を実践するためには 自社の資本コストを的確に把握する 自社の資本コストを効果的にかつ整合的に活用する 自社の資本コスト水準を適宜見直す

rarr 一種のPDCAサイクルとして実践することが考えられる(次スライド参照)

最初に取り組むべきは企業内の役割分担の問題 資本コストの把握検証を行うのはどの部署か 資本コストの情報をどの部署と共有するか 資本コストを用いてどの部署が意思決定(稟議)するか 資本コストの開示(外部提供)はどの部署が行うか

13

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

14

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

行動②(資本コスト

に基づく意思決定)

③ 評価(資本コストの水準の検証)

計画①(資本コストの算定と把握)

④ 改善(必要に応じて修正)

PLAN

DOCHECK

ACTION

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

資本コストの把握方法

1 (メイン)CAPM

2 (併用)配当割引モデル

3 (調整)ビルディングブロックモデル

4 (比較)PERの逆数

15

リスクとリターンの考え方 = リスクフリーレート+リスクプレミアム

16

リターン

リスク

【仮定】投資はリスクが多いほど見返りとして多くの(平均)リターンを要求する

リターン平均の収益率リスクリターンの不確実性(変動の大きさ)

リスクフリーレート=リスクのない投資から得られるリターン

リターンrArr期待値リスクrArr分散として数値化してみる

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

0

リスクフリーレート

リスクプレミアム

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMとは 資本コスト=リスクフリーレート+企業のリスクプレミアム

bull リスクフリーレート≒安全資産(長期国債)の利率 企業のリスクプレミアム=マーケットリスクプレミアム times(β)

bull マーケットリスクプレミアム=市場全体のリターンがリスクフリーレートを超える部分

bull β (ベータ)当該企業の株式の市場全体に対する感応度 当該企業に固有の数値(変数)はベータのみ

bull いわゆるシングルファクターモデル β値は基本的には過去の一定期間(たとえば5年)のマーケット

(市場たとえばTOPIX)の収益率と個別銘柄の株価の収益率の変動を比較して推計

17

資本コストの把握方法(1)

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

【図CAPMのモデル

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )

Cov(Rm Ri)ただしβi = (Cov共分散)

σm 2

Ri個々の証券(i)の期待収益率 ( E( )は期待値を示す)

Rm市場全体の期待収益率

Rfリスクフリーレート ( (Rm - Rf ) を 「マーケットリスクプレミアム」という)

σm 2市場全体の分散

18

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

証券市場線期待収益率が唯一のリスク要素 β の1次関数で表現される

19

M

リスクが小さい リスクが大きい

繊維119864119864 119877119877

119864119864 119877119877119872119872

119877119877119891119891

1

証券市場線

120573120573

1)リスクが市場全体と同じ()rArr株主資本コストも市場全体と同じ

2)リスク(β)の1次関数rArrリターンはリスクの大きさに比例

3)リスク(β)が0のときのリターンが「無リスク資産利子率」

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例 リスクフリーレートとマーケットリスクプレミアム

ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

20

リスクフリーレート 03

マーケットリスクプレミアム 60

出典Pablo Fernandezet alDiscount Rate (Risk-Free Rate and Market Risk Premium) used for 41 countries in 2017 a survey

業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

ベータ値 0685 1318 1402 0722 0744

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例(つづき) 自社の業種が医薬品としてβ=0744を用いて株主資本コストを

計算する

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )=03 + 0744 times 60=4764

で株主資本コストは4764と計算される

21

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

22

配当成長モデルに基づく株主資本コストの算定式の例

119903119903119890119890 = 1198631198631119875119875+119892119892

re 株主資本コストD1 翌期の1株当たり予想配当P 株価g 配当成長率

なお成長率としてサステナブル成長率(財務構成を変えずに内部留保により実現可能な成長率)を用いれば配当成長率は

119892119892 = 119877119877119877119877119864119864 times 1 minus配当性向 として計算することができる

119875119875 =1198631198631

119903119903119890119890 minus 119892119892

配当割引モデルをreについて解く

1ー配当性向rArr内部留保割合

資本コストの把握方法(2)

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

配当成長モデルを用いた数値例

配当成長率(g)= 50 times (1 - 02) = 40

株主資本コスト= 50 10000 + 40 = 45 と計算される

23

翌期の1株当たり予想配当 50円

株価 10000円

ROE 50

配当性向 20

3(4)算定上の留意事項

留意点①CAPMに過度な信頼を置かないこと 特定の手法を用いさえすれば株主資本コストの推計結果の妥当性が

保証されるわけではないbull (例)CAPMを使えば妥当な推計値が得られるわけではない

特定の手法を継続して用いることによって算出結果の信頼性が増すものではないbull (例)CAPMを毎年使い続ければ精度が向上するものではない

CAPMを採用している企業でも配当成長モデルによる株主資本コストの推計を試す意義は大きいbull CAPMは過去の株価の推移配当成長モデルは現在の株価を用

いるrarr2つの異なる情報から資本コストを推計することができる

24

3(4)算定上の留意事項

CAPMのβ値はデータの集計期間等によって大きく異なる可能性がある ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

(東証第一部上場会社対象)

25

期間業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

201404-201903 0685 1318 1402 0722 0744

200904-201403 0711 1295 1141 0549 0563

200404-200903 0210 1081 1294 0713 0634

199904-2004-03 -0091 0499 0887 0411 0292

199404-199903 0182 0969 1332 0887 0561

198904-199403 1002 1017 0936 1084 0825

全期間 0545 1025 1121 0788 0640

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(4)算定上の留意事項

業種

期間

電気機器 輸送用機器 銀行 通信 精密機械

1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動

2001年5~8月 07924 03674 06096 07978 06391

8~11月 07630 05086 05172 06367 08286

11~2002年2月 07381 06376 05638 06457 06820

2~5月 07548 04907 06162 06007 06110

5~8月 08143 06928 06543 05699 07137

26

出典内閣府「今週の指標No368 業種別株価の決定係数とベータ値からみる本邦株式市場の動向」(平成14年8月19日)一部抜粋

CAPMにおけるベータ値の推計はモデルの決定係数(R2)が低ければ説明力が低い

3(4)算定上の留意事項

投資家との対話 ~ビルディングブロック方式~ 株主資本コスト=長期国債利回り+一定のリスクプレミアム 自社に適用すべきリスクプレミアムを投資家と率直に議論 リスクプレミアムの水準は5から8程度が標準 業種自社の業務特性に応じて自社の事業リスクが平均より高め

か低めかに応じて設定する ある程度幅をもって(つまりレンジで)資本コストを把握してお

くことにも合理性がある

27

CAPMの限界を補う必要があるrArr投資家からのヒアリングで修正する

資本コストの把握方法(3)

3(4)算定上の留意事項

ビルディングブロック法のイメージ

28

50

30~40

03

合計株主資本コスト(例) 83~93

リスクフリーレート

マーケットリスクプレミアム

個社のリスクプレミアム 見直し(内部)

見直し(外部)

見直し(外部)

3(4)算定上の留意事項

留意点②エクイティスプレッドを用いた分析の留意点 エクイティスプレッド=ROE-株主資本コスト エクイティスプレッドが高いほど望ましいがそれをどのように

活用することができるか

hArrエクイティスプレッドがプラスであれば問題ないと判断してよいのか

29

3(4)算定上の留意事項

30

エクイティスプレッド = ROE ndash 株主資本コスト

マーケットリスクプレミアム times 120631120631 + 03

(例)6と想定

各企業で異なるベータ

国債利回りをベース

自社ROE

エクイティスプレッドの求め方

(出所)大和証券ウェブサイトを一部改変

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

39Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

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連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 3: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

資本コストの重要性が強調されるようになった背景 CGコード実施後の課題の1つとして「なお多くの企業において経営

環境の変化に応じた果断な経営判断が行われていない」との指摘 その例として「日本企業においては事業ポートフォリオの見直しが

必ずしも十分に行われていないとの指摘があるがその背景として経営陣の資本コストに対する意識が未だ不十分である」との指摘

rarr企業が自社の資本コストを的確に把握すべきことを明確化する必要があると考えられた

<参照>「コーポレートガバナンスコードの改訂と投資家と企業の対話ガイドラインの策定について」(スチュワードシップコード及びコーポレートガバナンスコードのフォローアップ会議)(平成30年3月26日)

2

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

「平成29年度生命保険協会調査 株式価値向上に向けた取り組みについて」(一般社団法人生命保険協会) 回答企業のうちおよそ8割程度が自社の資本コストを把握 うち資本コストの詳細数値を算出している企業は4割程度

rarr これまでの上場企業の取組みの水準では投資家を満足させられないのではないか

回答した企業の4割は ROE > 資本コスト との認識 回答した投資家の5割は ROE < 資本コスト との認識

rarr 資本コストの捉え方に関して企業と投資家の間にギャップはないか

3

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

4

出典平成29年度生命保険協会調査

「株式価値向上に向けた取り組みについて」

CGコードの新旧対照表(原則5-2)

5

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

改訂後(下線部は追記箇所) 改訂前

【原則5-2経営戦略や経営計画の策定公表】

経営戦略や経営計画の策定公表に当たっては自

社の資本コストを的確に把握した上で収益計画や

資本政策の基本的な方針を示すとともに収益力

資本効率等に関する目標を提示しその実現のた

めに事業ポートフォリオの見直しや設備投資研

究開発投資人材投資等を含む経営資源の配分等

に関し具体的に何を実行するのかについて株主に

分かりやすい言葉論理で明確に説明を行うべきで

ある

【原則5-2経営戦略や経営計画の策定公表】

経営戦略や経営計画の策定公表に当たっては収

益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに

収益力資本効率等に関する目標を提示しその実

現のために経営資源の配分等に関し具体的に何

を実行するのかについて株主に分かりやすい言

葉論理で明確に説明を行うべきである

投資家と企業の対話ガイドライン(金融庁 平成30年6月1日)

1-2 経営陣が自社の事業のリスクなどを適切に反映した資本コストを的確に把握しているかその上で持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けて収益力資本効率等に関する目標を設定し資本コストを意識した経営が行われているかまたこうした目標を設定した理由が分かりやすく説明されているか中長期的に資本コストに見合うリターンを上げているか

2-1 保有する資源を有効活用し中長期的に資本コストに見合うリターンを上げる観点から持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けた設備投資研究開発投資人材投資等が戦略的計画的に行われているか

6

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

2-2 経営戦略や投資戦略を踏まえ資本コストを意識した資本の構成や手元資金の活用を含めた財務管理の方針が適切に策定運用されているか

4-1 政策保有株式についてそれぞれの銘柄の保有目的や保有銘柄の異動を含む保有状況が分かりやすく説明されているか

個別銘柄の保有の適否について保有目的が適切か保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し取締役会において検証を行った上適切な意思決定が行われているかそうした検証の内容について分かりやすく開示説明されているか

政策保有株式に係る議決権の行使について適切な基準が策定され分かりやすく開示されているかまた策定した基準に基づいて適切に議決権行使が行われているか

7

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

資本コストとは 企業が資金調達するときに資金提供者(投資家)に約束すべきリ

ターンを利回り()によって表現したものbull 企業にとって資本コストの本質はハードルレート=割引率

(調達した資金の運用によって獲得すべき最低限のリターン)

投資家にとっては当該企業に対する投資を通して達成すべき目標利回り

調達資本にはすべてコスト(使用の対価)が必要であるということ 留保利益すら利用するに際してコストを要するという意識

8

2株主資本コストの役割

2株主資本コストの役割

9Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

資本コスト企業にとっての調達コスト hArr 投資家にとっての期待リターン

企業 投資家

2株主資本コストの役割

10

営業経費

残余利益

負債利子

税金

収益

株主に分配(分配)

債権者に帰属(分配)

残余利益はすべて株主に帰属する

rArr株主に還元(配当)しても内部留保しても株主に帰属するものであることに変わりはない

現在の株価を11987511987501年後の予想株価を11987511987511年後の予想配当額を1198631198631とすると

この株式から投資家が予想する年間期待投資収益率 119903119903は以下のとおり

119903119903 =1198631198631 + 1198751198751 )minus1198751198750

1198751198750

投資家は期待投資収益率が要求利回り=資本コストを超えているか否かによって投資のパフォーマンスを評価する

(注)実際はもっと長期の期間を対象に評価する

11

2株主資本コストの役割 (1)投資家

インカムゲイン キャピタルゲイン

資本コストを割引率としてキャッシュフローの割引現在価値を計算する

12

2株主資本コストの役割 (2)企業

評価額

1年目 2年目 3年目 4年目

CFCF

CFCF CF CF

割引率(資本コスト)を用いて割引現在価値を計算

CGコード原則を実践するためには 自社の資本コストを的確に把握する 自社の資本コストを効果的にかつ整合的に活用する 自社の資本コスト水準を適宜見直す

rarr 一種のPDCAサイクルとして実践することが考えられる(次スライド参照)

最初に取り組むべきは企業内の役割分担の問題 資本コストの把握検証を行うのはどの部署か 資本コストの情報をどの部署と共有するか 資本コストを用いてどの部署が意思決定(稟議)するか 資本コストの開示(外部提供)はどの部署が行うか

13

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

14

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

行動②(資本コスト

に基づく意思決定)

③ 評価(資本コストの水準の検証)

計画①(資本コストの算定と把握)

④ 改善(必要に応じて修正)

PLAN

DOCHECK

ACTION

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

資本コストの把握方法

1 (メイン)CAPM

2 (併用)配当割引モデル

3 (調整)ビルディングブロックモデル

4 (比較)PERの逆数

15

リスクとリターンの考え方 = リスクフリーレート+リスクプレミアム

16

リターン

リスク

【仮定】投資はリスクが多いほど見返りとして多くの(平均)リターンを要求する

リターン平均の収益率リスクリターンの不確実性(変動の大きさ)

リスクフリーレート=リスクのない投資から得られるリターン

リターンrArr期待値リスクrArr分散として数値化してみる

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

0

リスクフリーレート

リスクプレミアム

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMとは 資本コスト=リスクフリーレート+企業のリスクプレミアム

bull リスクフリーレート≒安全資産(長期国債)の利率 企業のリスクプレミアム=マーケットリスクプレミアム times(β)

bull マーケットリスクプレミアム=市場全体のリターンがリスクフリーレートを超える部分

bull β (ベータ)当該企業の株式の市場全体に対する感応度 当該企業に固有の数値(変数)はベータのみ

bull いわゆるシングルファクターモデル β値は基本的には過去の一定期間(たとえば5年)のマーケット

(市場たとえばTOPIX)の収益率と個別銘柄の株価の収益率の変動を比較して推計

17

資本コストの把握方法(1)

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

【図CAPMのモデル

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )

Cov(Rm Ri)ただしβi = (Cov共分散)

σm 2

Ri個々の証券(i)の期待収益率 ( E( )は期待値を示す)

Rm市場全体の期待収益率

Rfリスクフリーレート ( (Rm - Rf ) を 「マーケットリスクプレミアム」という)

σm 2市場全体の分散

18

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

証券市場線期待収益率が唯一のリスク要素 β の1次関数で表現される

19

M

リスクが小さい リスクが大きい

繊維119864119864 119877119877

119864119864 119877119877119872119872

119877119877119891119891

1

証券市場線

120573120573

1)リスクが市場全体と同じ()rArr株主資本コストも市場全体と同じ

2)リスク(β)の1次関数rArrリターンはリスクの大きさに比例

3)リスク(β)が0のときのリターンが「無リスク資産利子率」

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例 リスクフリーレートとマーケットリスクプレミアム

ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

20

リスクフリーレート 03

マーケットリスクプレミアム 60

出典Pablo Fernandezet alDiscount Rate (Risk-Free Rate and Market Risk Premium) used for 41 countries in 2017 a survey

業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

ベータ値 0685 1318 1402 0722 0744

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例(つづき) 自社の業種が医薬品としてβ=0744を用いて株主資本コストを

計算する

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )=03 + 0744 times 60=4764

で株主資本コストは4764と計算される

21

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

22

配当成長モデルに基づく株主資本コストの算定式の例

119903119903119890119890 = 1198631198631119875119875+119892119892

re 株主資本コストD1 翌期の1株当たり予想配当P 株価g 配当成長率

なお成長率としてサステナブル成長率(財務構成を変えずに内部留保により実現可能な成長率)を用いれば配当成長率は

119892119892 = 119877119877119877119877119864119864 times 1 minus配当性向 として計算することができる

119875119875 =1198631198631

119903119903119890119890 minus 119892119892

配当割引モデルをreについて解く

1ー配当性向rArr内部留保割合

資本コストの把握方法(2)

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

配当成長モデルを用いた数値例

配当成長率(g)= 50 times (1 - 02) = 40

株主資本コスト= 50 10000 + 40 = 45 と計算される

23

翌期の1株当たり予想配当 50円

株価 10000円

ROE 50

配当性向 20

3(4)算定上の留意事項

留意点①CAPMに過度な信頼を置かないこと 特定の手法を用いさえすれば株主資本コストの推計結果の妥当性が

保証されるわけではないbull (例)CAPMを使えば妥当な推計値が得られるわけではない

特定の手法を継続して用いることによって算出結果の信頼性が増すものではないbull (例)CAPMを毎年使い続ければ精度が向上するものではない

CAPMを採用している企業でも配当成長モデルによる株主資本コストの推計を試す意義は大きいbull CAPMは過去の株価の推移配当成長モデルは現在の株価を用

いるrarr2つの異なる情報から資本コストを推計することができる

24

3(4)算定上の留意事項

CAPMのβ値はデータの集計期間等によって大きく異なる可能性がある ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

(東証第一部上場会社対象)

25

期間業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

201404-201903 0685 1318 1402 0722 0744

200904-201403 0711 1295 1141 0549 0563

200404-200903 0210 1081 1294 0713 0634

199904-2004-03 -0091 0499 0887 0411 0292

199404-199903 0182 0969 1332 0887 0561

198904-199403 1002 1017 0936 1084 0825

全期間 0545 1025 1121 0788 0640

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(4)算定上の留意事項

業種

期間

電気機器 輸送用機器 銀行 通信 精密機械

1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動

2001年5~8月 07924 03674 06096 07978 06391

8~11月 07630 05086 05172 06367 08286

11~2002年2月 07381 06376 05638 06457 06820

2~5月 07548 04907 06162 06007 06110

5~8月 08143 06928 06543 05699 07137

26

出典内閣府「今週の指標No368 業種別株価の決定係数とベータ値からみる本邦株式市場の動向」(平成14年8月19日)一部抜粋

CAPMにおけるベータ値の推計はモデルの決定係数(R2)が低ければ説明力が低い

3(4)算定上の留意事項

投資家との対話 ~ビルディングブロック方式~ 株主資本コスト=長期国債利回り+一定のリスクプレミアム 自社に適用すべきリスクプレミアムを投資家と率直に議論 リスクプレミアムの水準は5から8程度が標準 業種自社の業務特性に応じて自社の事業リスクが平均より高め

か低めかに応じて設定する ある程度幅をもって(つまりレンジで)資本コストを把握してお

くことにも合理性がある

27

CAPMの限界を補う必要があるrArr投資家からのヒアリングで修正する

資本コストの把握方法(3)

3(4)算定上の留意事項

ビルディングブロック法のイメージ

28

50

30~40

03

合計株主資本コスト(例) 83~93

リスクフリーレート

マーケットリスクプレミアム

個社のリスクプレミアム 見直し(内部)

見直し(外部)

見直し(外部)

3(4)算定上の留意事項

留意点②エクイティスプレッドを用いた分析の留意点 エクイティスプレッド=ROE-株主資本コスト エクイティスプレッドが高いほど望ましいがそれをどのように

活用することができるか

hArrエクイティスプレッドがプラスであれば問題ないと判断してよいのか

29

3(4)算定上の留意事項

30

エクイティスプレッド = ROE ndash 株主資本コスト

マーケットリスクプレミアム times 120631120631 + 03

(例)6と想定

各企業で異なるベータ

国債利回りをベース

自社ROE

エクイティスプレッドの求め方

(出所)大和証券ウェブサイトを一部改変

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

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株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

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アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

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  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 4: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

「平成29年度生命保険協会調査 株式価値向上に向けた取り組みについて」(一般社団法人生命保険協会) 回答企業のうちおよそ8割程度が自社の資本コストを把握 うち資本コストの詳細数値を算出している企業は4割程度

rarr これまでの上場企業の取組みの水準では投資家を満足させられないのではないか

回答した企業の4割は ROE > 資本コスト との認識 回答した投資家の5割は ROE < 資本コスト との認識

rarr 資本コストの捉え方に関して企業と投資家の間にギャップはないか

3

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

4

出典平成29年度生命保険協会調査

「株式価値向上に向けた取り組みについて」

CGコードの新旧対照表(原則5-2)

5

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

改訂後(下線部は追記箇所) 改訂前

【原則5-2経営戦略や経営計画の策定公表】

経営戦略や経営計画の策定公表に当たっては自

社の資本コストを的確に把握した上で収益計画や

資本政策の基本的な方針を示すとともに収益力

資本効率等に関する目標を提示しその実現のた

めに事業ポートフォリオの見直しや設備投資研

究開発投資人材投資等を含む経営資源の配分等

に関し具体的に何を実行するのかについて株主に

分かりやすい言葉論理で明確に説明を行うべきで

ある

【原則5-2経営戦略や経営計画の策定公表】

経営戦略や経営計画の策定公表に当たっては収

益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに

収益力資本効率等に関する目標を提示しその実

現のために経営資源の配分等に関し具体的に何

を実行するのかについて株主に分かりやすい言

葉論理で明確に説明を行うべきである

投資家と企業の対話ガイドライン(金融庁 平成30年6月1日)

1-2 経営陣が自社の事業のリスクなどを適切に反映した資本コストを的確に把握しているかその上で持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けて収益力資本効率等に関する目標を設定し資本コストを意識した経営が行われているかまたこうした目標を設定した理由が分かりやすく説明されているか中長期的に資本コストに見合うリターンを上げているか

2-1 保有する資源を有効活用し中長期的に資本コストに見合うリターンを上げる観点から持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けた設備投資研究開発投資人材投資等が戦略的計画的に行われているか

6

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

2-2 経営戦略や投資戦略を踏まえ資本コストを意識した資本の構成や手元資金の活用を含めた財務管理の方針が適切に策定運用されているか

4-1 政策保有株式についてそれぞれの銘柄の保有目的や保有銘柄の異動を含む保有状況が分かりやすく説明されているか

個別銘柄の保有の適否について保有目的が適切か保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し取締役会において検証を行った上適切な意思決定が行われているかそうした検証の内容について分かりやすく開示説明されているか

政策保有株式に係る議決権の行使について適切な基準が策定され分かりやすく開示されているかまた策定した基準に基づいて適切に議決権行使が行われているか

7

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

資本コストとは 企業が資金調達するときに資金提供者(投資家)に約束すべきリ

ターンを利回り()によって表現したものbull 企業にとって資本コストの本質はハードルレート=割引率

(調達した資金の運用によって獲得すべき最低限のリターン)

投資家にとっては当該企業に対する投資を通して達成すべき目標利回り

調達資本にはすべてコスト(使用の対価)が必要であるということ 留保利益すら利用するに際してコストを要するという意識

8

2株主資本コストの役割

2株主資本コストの役割

9Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

資本コスト企業にとっての調達コスト hArr 投資家にとっての期待リターン

企業 投資家

2株主資本コストの役割

10

営業経費

残余利益

負債利子

税金

収益

株主に分配(分配)

債権者に帰属(分配)

残余利益はすべて株主に帰属する

rArr株主に還元(配当)しても内部留保しても株主に帰属するものであることに変わりはない

現在の株価を11987511987501年後の予想株価を11987511987511年後の予想配当額を1198631198631とすると

この株式から投資家が予想する年間期待投資収益率 119903119903は以下のとおり

119903119903 =1198631198631 + 1198751198751 )minus1198751198750

1198751198750

投資家は期待投資収益率が要求利回り=資本コストを超えているか否かによって投資のパフォーマンスを評価する

(注)実際はもっと長期の期間を対象に評価する

11

2株主資本コストの役割 (1)投資家

インカムゲイン キャピタルゲイン

資本コストを割引率としてキャッシュフローの割引現在価値を計算する

12

2株主資本コストの役割 (2)企業

評価額

1年目 2年目 3年目 4年目

CFCF

CFCF CF CF

割引率(資本コスト)を用いて割引現在価値を計算

CGコード原則を実践するためには 自社の資本コストを的確に把握する 自社の資本コストを効果的にかつ整合的に活用する 自社の資本コスト水準を適宜見直す

rarr 一種のPDCAサイクルとして実践することが考えられる(次スライド参照)

最初に取り組むべきは企業内の役割分担の問題 資本コストの把握検証を行うのはどの部署か 資本コストの情報をどの部署と共有するか 資本コストを用いてどの部署が意思決定(稟議)するか 資本コストの開示(外部提供)はどの部署が行うか

13

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

14

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

行動②(資本コスト

に基づく意思決定)

③ 評価(資本コストの水準の検証)

計画①(資本コストの算定と把握)

④ 改善(必要に応じて修正)

PLAN

DOCHECK

ACTION

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

資本コストの把握方法

1 (メイン)CAPM

2 (併用)配当割引モデル

3 (調整)ビルディングブロックモデル

4 (比較)PERの逆数

15

リスクとリターンの考え方 = リスクフリーレート+リスクプレミアム

16

リターン

リスク

【仮定】投資はリスクが多いほど見返りとして多くの(平均)リターンを要求する

リターン平均の収益率リスクリターンの不確実性(変動の大きさ)

リスクフリーレート=リスクのない投資から得られるリターン

リターンrArr期待値リスクrArr分散として数値化してみる

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

0

リスクフリーレート

リスクプレミアム

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMとは 資本コスト=リスクフリーレート+企業のリスクプレミアム

bull リスクフリーレート≒安全資産(長期国債)の利率 企業のリスクプレミアム=マーケットリスクプレミアム times(β)

bull マーケットリスクプレミアム=市場全体のリターンがリスクフリーレートを超える部分

bull β (ベータ)当該企業の株式の市場全体に対する感応度 当該企業に固有の数値(変数)はベータのみ

bull いわゆるシングルファクターモデル β値は基本的には過去の一定期間(たとえば5年)のマーケット

(市場たとえばTOPIX)の収益率と個別銘柄の株価の収益率の変動を比較して推計

17

資本コストの把握方法(1)

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

【図CAPMのモデル

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )

Cov(Rm Ri)ただしβi = (Cov共分散)

σm 2

Ri個々の証券(i)の期待収益率 ( E( )は期待値を示す)

Rm市場全体の期待収益率

Rfリスクフリーレート ( (Rm - Rf ) を 「マーケットリスクプレミアム」という)

σm 2市場全体の分散

18

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

証券市場線期待収益率が唯一のリスク要素 β の1次関数で表現される

19

M

リスクが小さい リスクが大きい

繊維119864119864 119877119877

119864119864 119877119877119872119872

119877119877119891119891

1

証券市場線

120573120573

1)リスクが市場全体と同じ()rArr株主資本コストも市場全体と同じ

2)リスク(β)の1次関数rArrリターンはリスクの大きさに比例

3)リスク(β)が0のときのリターンが「無リスク資産利子率」

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例 リスクフリーレートとマーケットリスクプレミアム

ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

20

リスクフリーレート 03

マーケットリスクプレミアム 60

出典Pablo Fernandezet alDiscount Rate (Risk-Free Rate and Market Risk Premium) used for 41 countries in 2017 a survey

業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

ベータ値 0685 1318 1402 0722 0744

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例(つづき) 自社の業種が医薬品としてβ=0744を用いて株主資本コストを

計算する

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )=03 + 0744 times 60=4764

で株主資本コストは4764と計算される

21

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

22

配当成長モデルに基づく株主資本コストの算定式の例

119903119903119890119890 = 1198631198631119875119875+119892119892

re 株主資本コストD1 翌期の1株当たり予想配当P 株価g 配当成長率

なお成長率としてサステナブル成長率(財務構成を変えずに内部留保により実現可能な成長率)を用いれば配当成長率は

119892119892 = 119877119877119877119877119864119864 times 1 minus配当性向 として計算することができる

119875119875 =1198631198631

119903119903119890119890 minus 119892119892

配当割引モデルをreについて解く

1ー配当性向rArr内部留保割合

資本コストの把握方法(2)

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

配当成長モデルを用いた数値例

配当成長率(g)= 50 times (1 - 02) = 40

株主資本コスト= 50 10000 + 40 = 45 と計算される

23

翌期の1株当たり予想配当 50円

株価 10000円

ROE 50

配当性向 20

3(4)算定上の留意事項

留意点①CAPMに過度な信頼を置かないこと 特定の手法を用いさえすれば株主資本コストの推計結果の妥当性が

保証されるわけではないbull (例)CAPMを使えば妥当な推計値が得られるわけではない

特定の手法を継続して用いることによって算出結果の信頼性が増すものではないbull (例)CAPMを毎年使い続ければ精度が向上するものではない

CAPMを採用している企業でも配当成長モデルによる株主資本コストの推計を試す意義は大きいbull CAPMは過去の株価の推移配当成長モデルは現在の株価を用

いるrarr2つの異なる情報から資本コストを推計することができる

24

3(4)算定上の留意事項

CAPMのβ値はデータの集計期間等によって大きく異なる可能性がある ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

(東証第一部上場会社対象)

25

期間業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

201404-201903 0685 1318 1402 0722 0744

200904-201403 0711 1295 1141 0549 0563

200404-200903 0210 1081 1294 0713 0634

199904-2004-03 -0091 0499 0887 0411 0292

199404-199903 0182 0969 1332 0887 0561

198904-199403 1002 1017 0936 1084 0825

全期間 0545 1025 1121 0788 0640

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(4)算定上の留意事項

業種

期間

電気機器 輸送用機器 銀行 通信 精密機械

1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動

2001年5~8月 07924 03674 06096 07978 06391

8~11月 07630 05086 05172 06367 08286

11~2002年2月 07381 06376 05638 06457 06820

2~5月 07548 04907 06162 06007 06110

5~8月 08143 06928 06543 05699 07137

26

出典内閣府「今週の指標No368 業種別株価の決定係数とベータ値からみる本邦株式市場の動向」(平成14年8月19日)一部抜粋

CAPMにおけるベータ値の推計はモデルの決定係数(R2)が低ければ説明力が低い

3(4)算定上の留意事項

投資家との対話 ~ビルディングブロック方式~ 株主資本コスト=長期国債利回り+一定のリスクプレミアム 自社に適用すべきリスクプレミアムを投資家と率直に議論 リスクプレミアムの水準は5から8程度が標準 業種自社の業務特性に応じて自社の事業リスクが平均より高め

か低めかに応じて設定する ある程度幅をもって(つまりレンジで)資本コストを把握してお

くことにも合理性がある

27

CAPMの限界を補う必要があるrArr投資家からのヒアリングで修正する

資本コストの把握方法(3)

3(4)算定上の留意事項

ビルディングブロック法のイメージ

28

50

30~40

03

合計株主資本コスト(例) 83~93

リスクフリーレート

マーケットリスクプレミアム

個社のリスクプレミアム 見直し(内部)

見直し(外部)

見直し(外部)

3(4)算定上の留意事項

留意点②エクイティスプレッドを用いた分析の留意点 エクイティスプレッド=ROE-株主資本コスト エクイティスプレッドが高いほど望ましいがそれをどのように

活用することができるか

hArrエクイティスプレッドがプラスであれば問題ないと判断してよいのか

29

3(4)算定上の留意事項

30

エクイティスプレッド = ROE ndash 株主資本コスト

マーケットリスクプレミアム times 120631120631 + 03

(例)6と想定

各企業で異なるベータ

国債利回りをベース

自社ROE

エクイティスプレッドの求め方

(出所)大和証券ウェブサイトを一部改変

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

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株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 5: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

4

出典平成29年度生命保険協会調査

「株式価値向上に向けた取り組みについて」

CGコードの新旧対照表(原則5-2)

5

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

改訂後(下線部は追記箇所) 改訂前

【原則5-2経営戦略や経営計画の策定公表】

経営戦略や経営計画の策定公表に当たっては自

社の資本コストを的確に把握した上で収益計画や

資本政策の基本的な方針を示すとともに収益力

資本効率等に関する目標を提示しその実現のた

めに事業ポートフォリオの見直しや設備投資研

究開発投資人材投資等を含む経営資源の配分等

に関し具体的に何を実行するのかについて株主に

分かりやすい言葉論理で明確に説明を行うべきで

ある

【原則5-2経営戦略や経営計画の策定公表】

経営戦略や経営計画の策定公表に当たっては収

益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに

収益力資本効率等に関する目標を提示しその実

現のために経営資源の配分等に関し具体的に何

を実行するのかについて株主に分かりやすい言

葉論理で明確に説明を行うべきである

投資家と企業の対話ガイドライン(金融庁 平成30年6月1日)

1-2 経営陣が自社の事業のリスクなどを適切に反映した資本コストを的確に把握しているかその上で持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けて収益力資本効率等に関する目標を設定し資本コストを意識した経営が行われているかまたこうした目標を設定した理由が分かりやすく説明されているか中長期的に資本コストに見合うリターンを上げているか

2-1 保有する資源を有効活用し中長期的に資本コストに見合うリターンを上げる観点から持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けた設備投資研究開発投資人材投資等が戦略的計画的に行われているか

6

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

2-2 経営戦略や投資戦略を踏まえ資本コストを意識した資本の構成や手元資金の活用を含めた財務管理の方針が適切に策定運用されているか

4-1 政策保有株式についてそれぞれの銘柄の保有目的や保有銘柄の異動を含む保有状況が分かりやすく説明されているか

個別銘柄の保有の適否について保有目的が適切か保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し取締役会において検証を行った上適切な意思決定が行われているかそうした検証の内容について分かりやすく開示説明されているか

政策保有株式に係る議決権の行使について適切な基準が策定され分かりやすく開示されているかまた策定した基準に基づいて適切に議決権行使が行われているか

7

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

資本コストとは 企業が資金調達するときに資金提供者(投資家)に約束すべきリ

ターンを利回り()によって表現したものbull 企業にとって資本コストの本質はハードルレート=割引率

(調達した資金の運用によって獲得すべき最低限のリターン)

投資家にとっては当該企業に対する投資を通して達成すべき目標利回り

調達資本にはすべてコスト(使用の対価)が必要であるということ 留保利益すら利用するに際してコストを要するという意識

8

2株主資本コストの役割

2株主資本コストの役割

9Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

資本コスト企業にとっての調達コスト hArr 投資家にとっての期待リターン

企業 投資家

2株主資本コストの役割

10

営業経費

残余利益

負債利子

税金

収益

株主に分配(分配)

債権者に帰属(分配)

残余利益はすべて株主に帰属する

rArr株主に還元(配当)しても内部留保しても株主に帰属するものであることに変わりはない

現在の株価を11987511987501年後の予想株価を11987511987511年後の予想配当額を1198631198631とすると

この株式から投資家が予想する年間期待投資収益率 119903119903は以下のとおり

119903119903 =1198631198631 + 1198751198751 )minus1198751198750

1198751198750

投資家は期待投資収益率が要求利回り=資本コストを超えているか否かによって投資のパフォーマンスを評価する

(注)実際はもっと長期の期間を対象に評価する

11

2株主資本コストの役割 (1)投資家

インカムゲイン キャピタルゲイン

資本コストを割引率としてキャッシュフローの割引現在価値を計算する

12

2株主資本コストの役割 (2)企業

評価額

1年目 2年目 3年目 4年目

CFCF

CFCF CF CF

割引率(資本コスト)を用いて割引現在価値を計算

CGコード原則を実践するためには 自社の資本コストを的確に把握する 自社の資本コストを効果的にかつ整合的に活用する 自社の資本コスト水準を適宜見直す

rarr 一種のPDCAサイクルとして実践することが考えられる(次スライド参照)

最初に取り組むべきは企業内の役割分担の問題 資本コストの把握検証を行うのはどの部署か 資本コストの情報をどの部署と共有するか 資本コストを用いてどの部署が意思決定(稟議)するか 資本コストの開示(外部提供)はどの部署が行うか

13

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

14

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

行動②(資本コスト

に基づく意思決定)

③ 評価(資本コストの水準の検証)

計画①(資本コストの算定と把握)

④ 改善(必要に応じて修正)

PLAN

DOCHECK

ACTION

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

資本コストの把握方法

1 (メイン)CAPM

2 (併用)配当割引モデル

3 (調整)ビルディングブロックモデル

4 (比較)PERの逆数

15

リスクとリターンの考え方 = リスクフリーレート+リスクプレミアム

16

リターン

リスク

【仮定】投資はリスクが多いほど見返りとして多くの(平均)リターンを要求する

リターン平均の収益率リスクリターンの不確実性(変動の大きさ)

リスクフリーレート=リスクのない投資から得られるリターン

リターンrArr期待値リスクrArr分散として数値化してみる

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

0

リスクフリーレート

リスクプレミアム

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMとは 資本コスト=リスクフリーレート+企業のリスクプレミアム

bull リスクフリーレート≒安全資産(長期国債)の利率 企業のリスクプレミアム=マーケットリスクプレミアム times(β)

bull マーケットリスクプレミアム=市場全体のリターンがリスクフリーレートを超える部分

bull β (ベータ)当該企業の株式の市場全体に対する感応度 当該企業に固有の数値(変数)はベータのみ

bull いわゆるシングルファクターモデル β値は基本的には過去の一定期間(たとえば5年)のマーケット

(市場たとえばTOPIX)の収益率と個別銘柄の株価の収益率の変動を比較して推計

17

資本コストの把握方法(1)

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

【図CAPMのモデル

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )

Cov(Rm Ri)ただしβi = (Cov共分散)

σm 2

Ri個々の証券(i)の期待収益率 ( E( )は期待値を示す)

Rm市場全体の期待収益率

Rfリスクフリーレート ( (Rm - Rf ) を 「マーケットリスクプレミアム」という)

σm 2市場全体の分散

18

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

証券市場線期待収益率が唯一のリスク要素 β の1次関数で表現される

19

M

リスクが小さい リスクが大きい

繊維119864119864 119877119877

119864119864 119877119877119872119872

119877119877119891119891

1

証券市場線

120573120573

1)リスクが市場全体と同じ()rArr株主資本コストも市場全体と同じ

2)リスク(β)の1次関数rArrリターンはリスクの大きさに比例

3)リスク(β)が0のときのリターンが「無リスク資産利子率」

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例 リスクフリーレートとマーケットリスクプレミアム

ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

20

リスクフリーレート 03

マーケットリスクプレミアム 60

出典Pablo Fernandezet alDiscount Rate (Risk-Free Rate and Market Risk Premium) used for 41 countries in 2017 a survey

業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

ベータ値 0685 1318 1402 0722 0744

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例(つづき) 自社の業種が医薬品としてβ=0744を用いて株主資本コストを

計算する

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )=03 + 0744 times 60=4764

で株主資本コストは4764と計算される

21

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

22

配当成長モデルに基づく株主資本コストの算定式の例

119903119903119890119890 = 1198631198631119875119875+119892119892

re 株主資本コストD1 翌期の1株当たり予想配当P 株価g 配当成長率

なお成長率としてサステナブル成長率(財務構成を変えずに内部留保により実現可能な成長率)を用いれば配当成長率は

119892119892 = 119877119877119877119877119864119864 times 1 minus配当性向 として計算することができる

119875119875 =1198631198631

119903119903119890119890 minus 119892119892

配当割引モデルをreについて解く

1ー配当性向rArr内部留保割合

資本コストの把握方法(2)

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

配当成長モデルを用いた数値例

配当成長率(g)= 50 times (1 - 02) = 40

株主資本コスト= 50 10000 + 40 = 45 と計算される

23

翌期の1株当たり予想配当 50円

株価 10000円

ROE 50

配当性向 20

3(4)算定上の留意事項

留意点①CAPMに過度な信頼を置かないこと 特定の手法を用いさえすれば株主資本コストの推計結果の妥当性が

保証されるわけではないbull (例)CAPMを使えば妥当な推計値が得られるわけではない

特定の手法を継続して用いることによって算出結果の信頼性が増すものではないbull (例)CAPMを毎年使い続ければ精度が向上するものではない

CAPMを採用している企業でも配当成長モデルによる株主資本コストの推計を試す意義は大きいbull CAPMは過去の株価の推移配当成長モデルは現在の株価を用

いるrarr2つの異なる情報から資本コストを推計することができる

24

3(4)算定上の留意事項

CAPMのβ値はデータの集計期間等によって大きく異なる可能性がある ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

(東証第一部上場会社対象)

25

期間業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

201404-201903 0685 1318 1402 0722 0744

200904-201403 0711 1295 1141 0549 0563

200404-200903 0210 1081 1294 0713 0634

199904-2004-03 -0091 0499 0887 0411 0292

199404-199903 0182 0969 1332 0887 0561

198904-199403 1002 1017 0936 1084 0825

全期間 0545 1025 1121 0788 0640

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(4)算定上の留意事項

業種

期間

電気機器 輸送用機器 銀行 通信 精密機械

1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動

2001年5~8月 07924 03674 06096 07978 06391

8~11月 07630 05086 05172 06367 08286

11~2002年2月 07381 06376 05638 06457 06820

2~5月 07548 04907 06162 06007 06110

5~8月 08143 06928 06543 05699 07137

26

出典内閣府「今週の指標No368 業種別株価の決定係数とベータ値からみる本邦株式市場の動向」(平成14年8月19日)一部抜粋

CAPMにおけるベータ値の推計はモデルの決定係数(R2)が低ければ説明力が低い

3(4)算定上の留意事項

投資家との対話 ~ビルディングブロック方式~ 株主資本コスト=長期国債利回り+一定のリスクプレミアム 自社に適用すべきリスクプレミアムを投資家と率直に議論 リスクプレミアムの水準は5から8程度が標準 業種自社の業務特性に応じて自社の事業リスクが平均より高め

か低めかに応じて設定する ある程度幅をもって(つまりレンジで)資本コストを把握してお

くことにも合理性がある

27

CAPMの限界を補う必要があるrArr投資家からのヒアリングで修正する

資本コストの把握方法(3)

3(4)算定上の留意事項

ビルディングブロック法のイメージ

28

50

30~40

03

合計株主資本コスト(例) 83~93

リスクフリーレート

マーケットリスクプレミアム

個社のリスクプレミアム 見直し(内部)

見直し(外部)

見直し(外部)

3(4)算定上の留意事項

留意点②エクイティスプレッドを用いた分析の留意点 エクイティスプレッド=ROE-株主資本コスト エクイティスプレッドが高いほど望ましいがそれをどのように

活用することができるか

hArrエクイティスプレッドがプラスであれば問題ないと判断してよいのか

29

3(4)算定上の留意事項

30

エクイティスプレッド = ROE ndash 株主資本コスト

マーケットリスクプレミアム times 120631120631 + 03

(例)6と想定

各企業で異なるベータ

国債利回りをベース

自社ROE

エクイティスプレッドの求め方

(出所)大和証券ウェブサイトを一部改変

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

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株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

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4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

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4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 6: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

CGコードの新旧対照表(原則5-2)

5

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

改訂後(下線部は追記箇所) 改訂前

【原則5-2経営戦略や経営計画の策定公表】

経営戦略や経営計画の策定公表に当たっては自

社の資本コストを的確に把握した上で収益計画や

資本政策の基本的な方針を示すとともに収益力

資本効率等に関する目標を提示しその実現のた

めに事業ポートフォリオの見直しや設備投資研

究開発投資人材投資等を含む経営資源の配分等

に関し具体的に何を実行するのかについて株主に

分かりやすい言葉論理で明確に説明を行うべきで

ある

【原則5-2経営戦略や経営計画の策定公表】

経営戦略や経営計画の策定公表に当たっては収

益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに

収益力資本効率等に関する目標を提示しその実

現のために経営資源の配分等に関し具体的に何

を実行するのかについて株主に分かりやすい言

葉論理で明確に説明を行うべきである

投資家と企業の対話ガイドライン(金融庁 平成30年6月1日)

1-2 経営陣が自社の事業のリスクなどを適切に反映した資本コストを的確に把握しているかその上で持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けて収益力資本効率等に関する目標を設定し資本コストを意識した経営が行われているかまたこうした目標を設定した理由が分かりやすく説明されているか中長期的に資本コストに見合うリターンを上げているか

2-1 保有する資源を有効活用し中長期的に資本コストに見合うリターンを上げる観点から持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けた設備投資研究開発投資人材投資等が戦略的計画的に行われているか

6

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

2-2 経営戦略や投資戦略を踏まえ資本コストを意識した資本の構成や手元資金の活用を含めた財務管理の方針が適切に策定運用されているか

4-1 政策保有株式についてそれぞれの銘柄の保有目的や保有銘柄の異動を含む保有状況が分かりやすく説明されているか

個別銘柄の保有の適否について保有目的が適切か保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し取締役会において検証を行った上適切な意思決定が行われているかそうした検証の内容について分かりやすく開示説明されているか

政策保有株式に係る議決権の行使について適切な基準が策定され分かりやすく開示されているかまた策定した基準に基づいて適切に議決権行使が行われているか

7

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

資本コストとは 企業が資金調達するときに資金提供者(投資家)に約束すべきリ

ターンを利回り()によって表現したものbull 企業にとって資本コストの本質はハードルレート=割引率

(調達した資金の運用によって獲得すべき最低限のリターン)

投資家にとっては当該企業に対する投資を通して達成すべき目標利回り

調達資本にはすべてコスト(使用の対価)が必要であるということ 留保利益すら利用するに際してコストを要するという意識

8

2株主資本コストの役割

2株主資本コストの役割

9Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

資本コスト企業にとっての調達コスト hArr 投資家にとっての期待リターン

企業 投資家

2株主資本コストの役割

10

営業経費

残余利益

負債利子

税金

収益

株主に分配(分配)

債権者に帰属(分配)

残余利益はすべて株主に帰属する

rArr株主に還元(配当)しても内部留保しても株主に帰属するものであることに変わりはない

現在の株価を11987511987501年後の予想株価を11987511987511年後の予想配当額を1198631198631とすると

この株式から投資家が予想する年間期待投資収益率 119903119903は以下のとおり

119903119903 =1198631198631 + 1198751198751 )minus1198751198750

1198751198750

投資家は期待投資収益率が要求利回り=資本コストを超えているか否かによって投資のパフォーマンスを評価する

(注)実際はもっと長期の期間を対象に評価する

11

2株主資本コストの役割 (1)投資家

インカムゲイン キャピタルゲイン

資本コストを割引率としてキャッシュフローの割引現在価値を計算する

12

2株主資本コストの役割 (2)企業

評価額

1年目 2年目 3年目 4年目

CFCF

CFCF CF CF

割引率(資本コスト)を用いて割引現在価値を計算

CGコード原則を実践するためには 自社の資本コストを的確に把握する 自社の資本コストを効果的にかつ整合的に活用する 自社の資本コスト水準を適宜見直す

rarr 一種のPDCAサイクルとして実践することが考えられる(次スライド参照)

最初に取り組むべきは企業内の役割分担の問題 資本コストの把握検証を行うのはどの部署か 資本コストの情報をどの部署と共有するか 資本コストを用いてどの部署が意思決定(稟議)するか 資本コストの開示(外部提供)はどの部署が行うか

13

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

14

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

行動②(資本コスト

に基づく意思決定)

③ 評価(資本コストの水準の検証)

計画①(資本コストの算定と把握)

④ 改善(必要に応じて修正)

PLAN

DOCHECK

ACTION

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

資本コストの把握方法

1 (メイン)CAPM

2 (併用)配当割引モデル

3 (調整)ビルディングブロックモデル

4 (比較)PERの逆数

15

リスクとリターンの考え方 = リスクフリーレート+リスクプレミアム

16

リターン

リスク

【仮定】投資はリスクが多いほど見返りとして多くの(平均)リターンを要求する

リターン平均の収益率リスクリターンの不確実性(変動の大きさ)

リスクフリーレート=リスクのない投資から得られるリターン

リターンrArr期待値リスクrArr分散として数値化してみる

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

0

リスクフリーレート

リスクプレミアム

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMとは 資本コスト=リスクフリーレート+企業のリスクプレミアム

bull リスクフリーレート≒安全資産(長期国債)の利率 企業のリスクプレミアム=マーケットリスクプレミアム times(β)

bull マーケットリスクプレミアム=市場全体のリターンがリスクフリーレートを超える部分

bull β (ベータ)当該企業の株式の市場全体に対する感応度 当該企業に固有の数値(変数)はベータのみ

bull いわゆるシングルファクターモデル β値は基本的には過去の一定期間(たとえば5年)のマーケット

(市場たとえばTOPIX)の収益率と個別銘柄の株価の収益率の変動を比較して推計

17

資本コストの把握方法(1)

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

【図CAPMのモデル

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )

Cov(Rm Ri)ただしβi = (Cov共分散)

σm 2

Ri個々の証券(i)の期待収益率 ( E( )は期待値を示す)

Rm市場全体の期待収益率

Rfリスクフリーレート ( (Rm - Rf ) を 「マーケットリスクプレミアム」という)

σm 2市場全体の分散

18

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

証券市場線期待収益率が唯一のリスク要素 β の1次関数で表現される

19

M

リスクが小さい リスクが大きい

繊維119864119864 119877119877

119864119864 119877119877119872119872

119877119877119891119891

1

証券市場線

120573120573

1)リスクが市場全体と同じ()rArr株主資本コストも市場全体と同じ

2)リスク(β)の1次関数rArrリターンはリスクの大きさに比例

3)リスク(β)が0のときのリターンが「無リスク資産利子率」

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例 リスクフリーレートとマーケットリスクプレミアム

ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

20

リスクフリーレート 03

マーケットリスクプレミアム 60

出典Pablo Fernandezet alDiscount Rate (Risk-Free Rate and Market Risk Premium) used for 41 countries in 2017 a survey

業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

ベータ値 0685 1318 1402 0722 0744

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例(つづき) 自社の業種が医薬品としてβ=0744を用いて株主資本コストを

計算する

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )=03 + 0744 times 60=4764

で株主資本コストは4764と計算される

21

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

22

配当成長モデルに基づく株主資本コストの算定式の例

119903119903119890119890 = 1198631198631119875119875+119892119892

re 株主資本コストD1 翌期の1株当たり予想配当P 株価g 配当成長率

なお成長率としてサステナブル成長率(財務構成を変えずに内部留保により実現可能な成長率)を用いれば配当成長率は

119892119892 = 119877119877119877119877119864119864 times 1 minus配当性向 として計算することができる

119875119875 =1198631198631

119903119903119890119890 minus 119892119892

配当割引モデルをreについて解く

1ー配当性向rArr内部留保割合

資本コストの把握方法(2)

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

配当成長モデルを用いた数値例

配当成長率(g)= 50 times (1 - 02) = 40

株主資本コスト= 50 10000 + 40 = 45 と計算される

23

翌期の1株当たり予想配当 50円

株価 10000円

ROE 50

配当性向 20

3(4)算定上の留意事項

留意点①CAPMに過度な信頼を置かないこと 特定の手法を用いさえすれば株主資本コストの推計結果の妥当性が

保証されるわけではないbull (例)CAPMを使えば妥当な推計値が得られるわけではない

特定の手法を継続して用いることによって算出結果の信頼性が増すものではないbull (例)CAPMを毎年使い続ければ精度が向上するものではない

CAPMを採用している企業でも配当成長モデルによる株主資本コストの推計を試す意義は大きいbull CAPMは過去の株価の推移配当成長モデルは現在の株価を用

いるrarr2つの異なる情報から資本コストを推計することができる

24

3(4)算定上の留意事項

CAPMのβ値はデータの集計期間等によって大きく異なる可能性がある ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

(東証第一部上場会社対象)

25

期間業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

201404-201903 0685 1318 1402 0722 0744

200904-201403 0711 1295 1141 0549 0563

200404-200903 0210 1081 1294 0713 0634

199904-2004-03 -0091 0499 0887 0411 0292

199404-199903 0182 0969 1332 0887 0561

198904-199403 1002 1017 0936 1084 0825

全期間 0545 1025 1121 0788 0640

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(4)算定上の留意事項

業種

期間

電気機器 輸送用機器 銀行 通信 精密機械

1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動

2001年5~8月 07924 03674 06096 07978 06391

8~11月 07630 05086 05172 06367 08286

11~2002年2月 07381 06376 05638 06457 06820

2~5月 07548 04907 06162 06007 06110

5~8月 08143 06928 06543 05699 07137

26

出典内閣府「今週の指標No368 業種別株価の決定係数とベータ値からみる本邦株式市場の動向」(平成14年8月19日)一部抜粋

CAPMにおけるベータ値の推計はモデルの決定係数(R2)が低ければ説明力が低い

3(4)算定上の留意事項

投資家との対話 ~ビルディングブロック方式~ 株主資本コスト=長期国債利回り+一定のリスクプレミアム 自社に適用すべきリスクプレミアムを投資家と率直に議論 リスクプレミアムの水準は5から8程度が標準 業種自社の業務特性に応じて自社の事業リスクが平均より高め

か低めかに応じて設定する ある程度幅をもって(つまりレンジで)資本コストを把握してお

くことにも合理性がある

27

CAPMの限界を補う必要があるrArr投資家からのヒアリングで修正する

資本コストの把握方法(3)

3(4)算定上の留意事項

ビルディングブロック法のイメージ

28

50

30~40

03

合計株主資本コスト(例) 83~93

リスクフリーレート

マーケットリスクプレミアム

個社のリスクプレミアム 見直し(内部)

見直し(外部)

見直し(外部)

3(4)算定上の留意事項

留意点②エクイティスプレッドを用いた分析の留意点 エクイティスプレッド=ROE-株主資本コスト エクイティスプレッドが高いほど望ましいがそれをどのように

活用することができるか

hArrエクイティスプレッドがプラスであれば問題ないと判断してよいのか

29

3(4)算定上の留意事項

30

エクイティスプレッド = ROE ndash 株主資本コスト

マーケットリスクプレミアム times 120631120631 + 03

(例)6と想定

各企業で異なるベータ

国債利回りをベース

自社ROE

エクイティスプレッドの求め方

(出所)大和証券ウェブサイトを一部改変

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

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株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

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4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

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連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 7: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

投資家と企業の対話ガイドライン(金融庁 平成30年6月1日)

1-2 経営陣が自社の事業のリスクなどを適切に反映した資本コストを的確に把握しているかその上で持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けて収益力資本効率等に関する目標を設定し資本コストを意識した経営が行われているかまたこうした目標を設定した理由が分かりやすく説明されているか中長期的に資本コストに見合うリターンを上げているか

2-1 保有する資源を有効活用し中長期的に資本コストに見合うリターンを上げる観点から持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けた設備投資研究開発投資人材投資等が戦略的計画的に行われているか

6

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

2-2 経営戦略や投資戦略を踏まえ資本コストを意識した資本の構成や手元資金の活用を含めた財務管理の方針が適切に策定運用されているか

4-1 政策保有株式についてそれぞれの銘柄の保有目的や保有銘柄の異動を含む保有状況が分かりやすく説明されているか

個別銘柄の保有の適否について保有目的が適切か保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し取締役会において検証を行った上適切な意思決定が行われているかそうした検証の内容について分かりやすく開示説明されているか

政策保有株式に係る議決権の行使について適切な基準が策定され分かりやすく開示されているかまた策定した基準に基づいて適切に議決権行使が行われているか

7

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

資本コストとは 企業が資金調達するときに資金提供者(投資家)に約束すべきリ

ターンを利回り()によって表現したものbull 企業にとって資本コストの本質はハードルレート=割引率

(調達した資金の運用によって獲得すべき最低限のリターン)

投資家にとっては当該企業に対する投資を通して達成すべき目標利回り

調達資本にはすべてコスト(使用の対価)が必要であるということ 留保利益すら利用するに際してコストを要するという意識

8

2株主資本コストの役割

2株主資本コストの役割

9Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

資本コスト企業にとっての調達コスト hArr 投資家にとっての期待リターン

企業 投資家

2株主資本コストの役割

10

営業経費

残余利益

負債利子

税金

収益

株主に分配(分配)

債権者に帰属(分配)

残余利益はすべて株主に帰属する

rArr株主に還元(配当)しても内部留保しても株主に帰属するものであることに変わりはない

現在の株価を11987511987501年後の予想株価を11987511987511年後の予想配当額を1198631198631とすると

この株式から投資家が予想する年間期待投資収益率 119903119903は以下のとおり

119903119903 =1198631198631 + 1198751198751 )minus1198751198750

1198751198750

投資家は期待投資収益率が要求利回り=資本コストを超えているか否かによって投資のパフォーマンスを評価する

(注)実際はもっと長期の期間を対象に評価する

11

2株主資本コストの役割 (1)投資家

インカムゲイン キャピタルゲイン

資本コストを割引率としてキャッシュフローの割引現在価値を計算する

12

2株主資本コストの役割 (2)企業

評価額

1年目 2年目 3年目 4年目

CFCF

CFCF CF CF

割引率(資本コスト)を用いて割引現在価値を計算

CGコード原則を実践するためには 自社の資本コストを的確に把握する 自社の資本コストを効果的にかつ整合的に活用する 自社の資本コスト水準を適宜見直す

rarr 一種のPDCAサイクルとして実践することが考えられる(次スライド参照)

最初に取り組むべきは企業内の役割分担の問題 資本コストの把握検証を行うのはどの部署か 資本コストの情報をどの部署と共有するか 資本コストを用いてどの部署が意思決定(稟議)するか 資本コストの開示(外部提供)はどの部署が行うか

13

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

14

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

行動②(資本コスト

に基づく意思決定)

③ 評価(資本コストの水準の検証)

計画①(資本コストの算定と把握)

④ 改善(必要に応じて修正)

PLAN

DOCHECK

ACTION

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

資本コストの把握方法

1 (メイン)CAPM

2 (併用)配当割引モデル

3 (調整)ビルディングブロックモデル

4 (比較)PERの逆数

15

リスクとリターンの考え方 = リスクフリーレート+リスクプレミアム

16

リターン

リスク

【仮定】投資はリスクが多いほど見返りとして多くの(平均)リターンを要求する

リターン平均の収益率リスクリターンの不確実性(変動の大きさ)

リスクフリーレート=リスクのない投資から得られるリターン

リターンrArr期待値リスクrArr分散として数値化してみる

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

0

リスクフリーレート

リスクプレミアム

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMとは 資本コスト=リスクフリーレート+企業のリスクプレミアム

bull リスクフリーレート≒安全資産(長期国債)の利率 企業のリスクプレミアム=マーケットリスクプレミアム times(β)

bull マーケットリスクプレミアム=市場全体のリターンがリスクフリーレートを超える部分

bull β (ベータ)当該企業の株式の市場全体に対する感応度 当該企業に固有の数値(変数)はベータのみ

bull いわゆるシングルファクターモデル β値は基本的には過去の一定期間(たとえば5年)のマーケット

(市場たとえばTOPIX)の収益率と個別銘柄の株価の収益率の変動を比較して推計

17

資本コストの把握方法(1)

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

【図CAPMのモデル

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )

Cov(Rm Ri)ただしβi = (Cov共分散)

σm 2

Ri個々の証券(i)の期待収益率 ( E( )は期待値を示す)

Rm市場全体の期待収益率

Rfリスクフリーレート ( (Rm - Rf ) を 「マーケットリスクプレミアム」という)

σm 2市場全体の分散

18

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

証券市場線期待収益率が唯一のリスク要素 β の1次関数で表現される

19

M

リスクが小さい リスクが大きい

繊維119864119864 119877119877

119864119864 119877119877119872119872

119877119877119891119891

1

証券市場線

120573120573

1)リスクが市場全体と同じ()rArr株主資本コストも市場全体と同じ

2)リスク(β)の1次関数rArrリターンはリスクの大きさに比例

3)リスク(β)が0のときのリターンが「無リスク資産利子率」

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例 リスクフリーレートとマーケットリスクプレミアム

ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

20

リスクフリーレート 03

マーケットリスクプレミアム 60

出典Pablo Fernandezet alDiscount Rate (Risk-Free Rate and Market Risk Premium) used for 41 countries in 2017 a survey

業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

ベータ値 0685 1318 1402 0722 0744

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例(つづき) 自社の業種が医薬品としてβ=0744を用いて株主資本コストを

計算する

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )=03 + 0744 times 60=4764

で株主資本コストは4764と計算される

21

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

22

配当成長モデルに基づく株主資本コストの算定式の例

119903119903119890119890 = 1198631198631119875119875+119892119892

re 株主資本コストD1 翌期の1株当たり予想配当P 株価g 配当成長率

なお成長率としてサステナブル成長率(財務構成を変えずに内部留保により実現可能な成長率)を用いれば配当成長率は

119892119892 = 119877119877119877119877119864119864 times 1 minus配当性向 として計算することができる

119875119875 =1198631198631

119903119903119890119890 minus 119892119892

配当割引モデルをreについて解く

1ー配当性向rArr内部留保割合

資本コストの把握方法(2)

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

配当成長モデルを用いた数値例

配当成長率(g)= 50 times (1 - 02) = 40

株主資本コスト= 50 10000 + 40 = 45 と計算される

23

翌期の1株当たり予想配当 50円

株価 10000円

ROE 50

配当性向 20

3(4)算定上の留意事項

留意点①CAPMに過度な信頼を置かないこと 特定の手法を用いさえすれば株主資本コストの推計結果の妥当性が

保証されるわけではないbull (例)CAPMを使えば妥当な推計値が得られるわけではない

特定の手法を継続して用いることによって算出結果の信頼性が増すものではないbull (例)CAPMを毎年使い続ければ精度が向上するものではない

CAPMを採用している企業でも配当成長モデルによる株主資本コストの推計を試す意義は大きいbull CAPMは過去の株価の推移配当成長モデルは現在の株価を用

いるrarr2つの異なる情報から資本コストを推計することができる

24

3(4)算定上の留意事項

CAPMのβ値はデータの集計期間等によって大きく異なる可能性がある ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

(東証第一部上場会社対象)

25

期間業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

201404-201903 0685 1318 1402 0722 0744

200904-201403 0711 1295 1141 0549 0563

200404-200903 0210 1081 1294 0713 0634

199904-2004-03 -0091 0499 0887 0411 0292

199404-199903 0182 0969 1332 0887 0561

198904-199403 1002 1017 0936 1084 0825

全期間 0545 1025 1121 0788 0640

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(4)算定上の留意事項

業種

期間

電気機器 輸送用機器 銀行 通信 精密機械

1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動

2001年5~8月 07924 03674 06096 07978 06391

8~11月 07630 05086 05172 06367 08286

11~2002年2月 07381 06376 05638 06457 06820

2~5月 07548 04907 06162 06007 06110

5~8月 08143 06928 06543 05699 07137

26

出典内閣府「今週の指標No368 業種別株価の決定係数とベータ値からみる本邦株式市場の動向」(平成14年8月19日)一部抜粋

CAPMにおけるベータ値の推計はモデルの決定係数(R2)が低ければ説明力が低い

3(4)算定上の留意事項

投資家との対話 ~ビルディングブロック方式~ 株主資本コスト=長期国債利回り+一定のリスクプレミアム 自社に適用すべきリスクプレミアムを投資家と率直に議論 リスクプレミアムの水準は5から8程度が標準 業種自社の業務特性に応じて自社の事業リスクが平均より高め

か低めかに応じて設定する ある程度幅をもって(つまりレンジで)資本コストを把握してお

くことにも合理性がある

27

CAPMの限界を補う必要があるrArr投資家からのヒアリングで修正する

資本コストの把握方法(3)

3(4)算定上の留意事項

ビルディングブロック法のイメージ

28

50

30~40

03

合計株主資本コスト(例) 83~93

リスクフリーレート

マーケットリスクプレミアム

個社のリスクプレミアム 見直し(内部)

見直し(外部)

見直し(外部)

3(4)算定上の留意事項

留意点②エクイティスプレッドを用いた分析の留意点 エクイティスプレッド=ROE-株主資本コスト エクイティスプレッドが高いほど望ましいがそれをどのように

活用することができるか

hArrエクイティスプレッドがプラスであれば問題ないと判断してよいのか

29

3(4)算定上の留意事項

30

エクイティスプレッド = ROE ndash 株主資本コスト

マーケットリスクプレミアム times 120631120631 + 03

(例)6と想定

各企業で異なるベータ

国債利回りをベース

自社ROE

エクイティスプレッドの求め方

(出所)大和証券ウェブサイトを一部改変

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

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株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

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4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

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4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 8: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

2-2 経営戦略や投資戦略を踏まえ資本コストを意識した資本の構成や手元資金の活用を含めた財務管理の方針が適切に策定運用されているか

4-1 政策保有株式についてそれぞれの銘柄の保有目的や保有銘柄の異動を含む保有状況が分かりやすく説明されているか

個別銘柄の保有の適否について保有目的が適切か保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し取締役会において検証を行った上適切な意思決定が行われているかそうした検証の内容について分かりやすく開示説明されているか

政策保有株式に係る議決権の行使について適切な基準が策定され分かりやすく開示されているかまた策定した基準に基づいて適切に議決権行使が行われているか

7

1資本コストに関する改訂CGコードの概要

資本コストとは 企業が資金調達するときに資金提供者(投資家)に約束すべきリ

ターンを利回り()によって表現したものbull 企業にとって資本コストの本質はハードルレート=割引率

(調達した資金の運用によって獲得すべき最低限のリターン)

投資家にとっては当該企業に対する投資を通して達成すべき目標利回り

調達資本にはすべてコスト(使用の対価)が必要であるということ 留保利益すら利用するに際してコストを要するという意識

8

2株主資本コストの役割

2株主資本コストの役割

9Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

資本コスト企業にとっての調達コスト hArr 投資家にとっての期待リターン

企業 投資家

2株主資本コストの役割

10

営業経費

残余利益

負債利子

税金

収益

株主に分配(分配)

債権者に帰属(分配)

残余利益はすべて株主に帰属する

rArr株主に還元(配当)しても内部留保しても株主に帰属するものであることに変わりはない

現在の株価を11987511987501年後の予想株価を11987511987511年後の予想配当額を1198631198631とすると

この株式から投資家が予想する年間期待投資収益率 119903119903は以下のとおり

119903119903 =1198631198631 + 1198751198751 )minus1198751198750

1198751198750

投資家は期待投資収益率が要求利回り=資本コストを超えているか否かによって投資のパフォーマンスを評価する

(注)実際はもっと長期の期間を対象に評価する

11

2株主資本コストの役割 (1)投資家

インカムゲイン キャピタルゲイン

資本コストを割引率としてキャッシュフローの割引現在価値を計算する

12

2株主資本コストの役割 (2)企業

評価額

1年目 2年目 3年目 4年目

CFCF

CFCF CF CF

割引率(資本コスト)を用いて割引現在価値を計算

CGコード原則を実践するためには 自社の資本コストを的確に把握する 自社の資本コストを効果的にかつ整合的に活用する 自社の資本コスト水準を適宜見直す

rarr 一種のPDCAサイクルとして実践することが考えられる(次スライド参照)

最初に取り組むべきは企業内の役割分担の問題 資本コストの把握検証を行うのはどの部署か 資本コストの情報をどの部署と共有するか 資本コストを用いてどの部署が意思決定(稟議)するか 資本コストの開示(外部提供)はどの部署が行うか

13

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

14

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

行動②(資本コスト

に基づく意思決定)

③ 評価(資本コストの水準の検証)

計画①(資本コストの算定と把握)

④ 改善(必要に応じて修正)

PLAN

DOCHECK

ACTION

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

資本コストの把握方法

1 (メイン)CAPM

2 (併用)配当割引モデル

3 (調整)ビルディングブロックモデル

4 (比較)PERの逆数

15

リスクとリターンの考え方 = リスクフリーレート+リスクプレミアム

16

リターン

リスク

【仮定】投資はリスクが多いほど見返りとして多くの(平均)リターンを要求する

リターン平均の収益率リスクリターンの不確実性(変動の大きさ)

リスクフリーレート=リスクのない投資から得られるリターン

リターンrArr期待値リスクrArr分散として数値化してみる

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

0

リスクフリーレート

リスクプレミアム

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMとは 資本コスト=リスクフリーレート+企業のリスクプレミアム

bull リスクフリーレート≒安全資産(長期国債)の利率 企業のリスクプレミアム=マーケットリスクプレミアム times(β)

bull マーケットリスクプレミアム=市場全体のリターンがリスクフリーレートを超える部分

bull β (ベータ)当該企業の株式の市場全体に対する感応度 当該企業に固有の数値(変数)はベータのみ

bull いわゆるシングルファクターモデル β値は基本的には過去の一定期間(たとえば5年)のマーケット

(市場たとえばTOPIX)の収益率と個別銘柄の株価の収益率の変動を比較して推計

17

資本コストの把握方法(1)

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

【図CAPMのモデル

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )

Cov(Rm Ri)ただしβi = (Cov共分散)

σm 2

Ri個々の証券(i)の期待収益率 ( E( )は期待値を示す)

Rm市場全体の期待収益率

Rfリスクフリーレート ( (Rm - Rf ) を 「マーケットリスクプレミアム」という)

σm 2市場全体の分散

18

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

証券市場線期待収益率が唯一のリスク要素 β の1次関数で表現される

19

M

リスクが小さい リスクが大きい

繊維119864119864 119877119877

119864119864 119877119877119872119872

119877119877119891119891

1

証券市場線

120573120573

1)リスクが市場全体と同じ()rArr株主資本コストも市場全体と同じ

2)リスク(β)の1次関数rArrリターンはリスクの大きさに比例

3)リスク(β)が0のときのリターンが「無リスク資産利子率」

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例 リスクフリーレートとマーケットリスクプレミアム

ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

20

リスクフリーレート 03

マーケットリスクプレミアム 60

出典Pablo Fernandezet alDiscount Rate (Risk-Free Rate and Market Risk Premium) used for 41 countries in 2017 a survey

業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

ベータ値 0685 1318 1402 0722 0744

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例(つづき) 自社の業種が医薬品としてβ=0744を用いて株主資本コストを

計算する

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )=03 + 0744 times 60=4764

で株主資本コストは4764と計算される

21

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

22

配当成長モデルに基づく株主資本コストの算定式の例

119903119903119890119890 = 1198631198631119875119875+119892119892

re 株主資本コストD1 翌期の1株当たり予想配当P 株価g 配当成長率

なお成長率としてサステナブル成長率(財務構成を変えずに内部留保により実現可能な成長率)を用いれば配当成長率は

119892119892 = 119877119877119877119877119864119864 times 1 minus配当性向 として計算することができる

119875119875 =1198631198631

119903119903119890119890 minus 119892119892

配当割引モデルをreについて解く

1ー配当性向rArr内部留保割合

資本コストの把握方法(2)

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

配当成長モデルを用いた数値例

配当成長率(g)= 50 times (1 - 02) = 40

株主資本コスト= 50 10000 + 40 = 45 と計算される

23

翌期の1株当たり予想配当 50円

株価 10000円

ROE 50

配当性向 20

3(4)算定上の留意事項

留意点①CAPMに過度な信頼を置かないこと 特定の手法を用いさえすれば株主資本コストの推計結果の妥当性が

保証されるわけではないbull (例)CAPMを使えば妥当な推計値が得られるわけではない

特定の手法を継続して用いることによって算出結果の信頼性が増すものではないbull (例)CAPMを毎年使い続ければ精度が向上するものではない

CAPMを採用している企業でも配当成長モデルによる株主資本コストの推計を試す意義は大きいbull CAPMは過去の株価の推移配当成長モデルは現在の株価を用

いるrarr2つの異なる情報から資本コストを推計することができる

24

3(4)算定上の留意事項

CAPMのβ値はデータの集計期間等によって大きく異なる可能性がある ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

(東証第一部上場会社対象)

25

期間業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

201404-201903 0685 1318 1402 0722 0744

200904-201403 0711 1295 1141 0549 0563

200404-200903 0210 1081 1294 0713 0634

199904-2004-03 -0091 0499 0887 0411 0292

199404-199903 0182 0969 1332 0887 0561

198904-199403 1002 1017 0936 1084 0825

全期間 0545 1025 1121 0788 0640

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(4)算定上の留意事項

業種

期間

電気機器 輸送用機器 銀行 通信 精密機械

1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動

2001年5~8月 07924 03674 06096 07978 06391

8~11月 07630 05086 05172 06367 08286

11~2002年2月 07381 06376 05638 06457 06820

2~5月 07548 04907 06162 06007 06110

5~8月 08143 06928 06543 05699 07137

26

出典内閣府「今週の指標No368 業種別株価の決定係数とベータ値からみる本邦株式市場の動向」(平成14年8月19日)一部抜粋

CAPMにおけるベータ値の推計はモデルの決定係数(R2)が低ければ説明力が低い

3(4)算定上の留意事項

投資家との対話 ~ビルディングブロック方式~ 株主資本コスト=長期国債利回り+一定のリスクプレミアム 自社に適用すべきリスクプレミアムを投資家と率直に議論 リスクプレミアムの水準は5から8程度が標準 業種自社の業務特性に応じて自社の事業リスクが平均より高め

か低めかに応じて設定する ある程度幅をもって(つまりレンジで)資本コストを把握してお

くことにも合理性がある

27

CAPMの限界を補う必要があるrArr投資家からのヒアリングで修正する

資本コストの把握方法(3)

3(4)算定上の留意事項

ビルディングブロック法のイメージ

28

50

30~40

03

合計株主資本コスト(例) 83~93

リスクフリーレート

マーケットリスクプレミアム

個社のリスクプレミアム 見直し(内部)

見直し(外部)

見直し(外部)

3(4)算定上の留意事項

留意点②エクイティスプレッドを用いた分析の留意点 エクイティスプレッド=ROE-株主資本コスト エクイティスプレッドが高いほど望ましいがそれをどのように

活用することができるか

hArrエクイティスプレッドがプラスであれば問題ないと判断してよいのか

29

3(4)算定上の留意事項

30

エクイティスプレッド = ROE ndash 株主資本コスト

マーケットリスクプレミアム times 120631120631 + 03

(例)6と想定

各企業で異なるベータ

国債利回りをベース

自社ROE

エクイティスプレッドの求め方

(出所)大和証券ウェブサイトを一部改変

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

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株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

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証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 9: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

資本コストとは 企業が資金調達するときに資金提供者(投資家)に約束すべきリ

ターンを利回り()によって表現したものbull 企業にとって資本コストの本質はハードルレート=割引率

(調達した資金の運用によって獲得すべき最低限のリターン)

投資家にとっては当該企業に対する投資を通して達成すべき目標利回り

調達資本にはすべてコスト(使用の対価)が必要であるということ 留保利益すら利用するに際してコストを要するという意識

8

2株主資本コストの役割

2株主資本コストの役割

9Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

資本コスト企業にとっての調達コスト hArr 投資家にとっての期待リターン

企業 投資家

2株主資本コストの役割

10

営業経費

残余利益

負債利子

税金

収益

株主に分配(分配)

債権者に帰属(分配)

残余利益はすべて株主に帰属する

rArr株主に還元(配当)しても内部留保しても株主に帰属するものであることに変わりはない

現在の株価を11987511987501年後の予想株価を11987511987511年後の予想配当額を1198631198631とすると

この株式から投資家が予想する年間期待投資収益率 119903119903は以下のとおり

119903119903 =1198631198631 + 1198751198751 )minus1198751198750

1198751198750

投資家は期待投資収益率が要求利回り=資本コストを超えているか否かによって投資のパフォーマンスを評価する

(注)実際はもっと長期の期間を対象に評価する

11

2株主資本コストの役割 (1)投資家

インカムゲイン キャピタルゲイン

資本コストを割引率としてキャッシュフローの割引現在価値を計算する

12

2株主資本コストの役割 (2)企業

評価額

1年目 2年目 3年目 4年目

CFCF

CFCF CF CF

割引率(資本コスト)を用いて割引現在価値を計算

CGコード原則を実践するためには 自社の資本コストを的確に把握する 自社の資本コストを効果的にかつ整合的に活用する 自社の資本コスト水準を適宜見直す

rarr 一種のPDCAサイクルとして実践することが考えられる(次スライド参照)

最初に取り組むべきは企業内の役割分担の問題 資本コストの把握検証を行うのはどの部署か 資本コストの情報をどの部署と共有するか 資本コストを用いてどの部署が意思決定(稟議)するか 資本コストの開示(外部提供)はどの部署が行うか

13

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

14

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

行動②(資本コスト

に基づく意思決定)

③ 評価(資本コストの水準の検証)

計画①(資本コストの算定と把握)

④ 改善(必要に応じて修正)

PLAN

DOCHECK

ACTION

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

資本コストの把握方法

1 (メイン)CAPM

2 (併用)配当割引モデル

3 (調整)ビルディングブロックモデル

4 (比較)PERの逆数

15

リスクとリターンの考え方 = リスクフリーレート+リスクプレミアム

16

リターン

リスク

【仮定】投資はリスクが多いほど見返りとして多くの(平均)リターンを要求する

リターン平均の収益率リスクリターンの不確実性(変動の大きさ)

リスクフリーレート=リスクのない投資から得られるリターン

リターンrArr期待値リスクrArr分散として数値化してみる

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

0

リスクフリーレート

リスクプレミアム

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMとは 資本コスト=リスクフリーレート+企業のリスクプレミアム

bull リスクフリーレート≒安全資産(長期国債)の利率 企業のリスクプレミアム=マーケットリスクプレミアム times(β)

bull マーケットリスクプレミアム=市場全体のリターンがリスクフリーレートを超える部分

bull β (ベータ)当該企業の株式の市場全体に対する感応度 当該企業に固有の数値(変数)はベータのみ

bull いわゆるシングルファクターモデル β値は基本的には過去の一定期間(たとえば5年)のマーケット

(市場たとえばTOPIX)の収益率と個別銘柄の株価の収益率の変動を比較して推計

17

資本コストの把握方法(1)

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

【図CAPMのモデル

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )

Cov(Rm Ri)ただしβi = (Cov共分散)

σm 2

Ri個々の証券(i)の期待収益率 ( E( )は期待値を示す)

Rm市場全体の期待収益率

Rfリスクフリーレート ( (Rm - Rf ) を 「マーケットリスクプレミアム」という)

σm 2市場全体の分散

18

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

証券市場線期待収益率が唯一のリスク要素 β の1次関数で表現される

19

M

リスクが小さい リスクが大きい

繊維119864119864 119877119877

119864119864 119877119877119872119872

119877119877119891119891

1

証券市場線

120573120573

1)リスクが市場全体と同じ()rArr株主資本コストも市場全体と同じ

2)リスク(β)の1次関数rArrリターンはリスクの大きさに比例

3)リスク(β)が0のときのリターンが「無リスク資産利子率」

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例 リスクフリーレートとマーケットリスクプレミアム

ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

20

リスクフリーレート 03

マーケットリスクプレミアム 60

出典Pablo Fernandezet alDiscount Rate (Risk-Free Rate and Market Risk Premium) used for 41 countries in 2017 a survey

業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

ベータ値 0685 1318 1402 0722 0744

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例(つづき) 自社の業種が医薬品としてβ=0744を用いて株主資本コストを

計算する

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )=03 + 0744 times 60=4764

で株主資本コストは4764と計算される

21

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

22

配当成長モデルに基づく株主資本コストの算定式の例

119903119903119890119890 = 1198631198631119875119875+119892119892

re 株主資本コストD1 翌期の1株当たり予想配当P 株価g 配当成長率

なお成長率としてサステナブル成長率(財務構成を変えずに内部留保により実現可能な成長率)を用いれば配当成長率は

119892119892 = 119877119877119877119877119864119864 times 1 minus配当性向 として計算することができる

119875119875 =1198631198631

119903119903119890119890 minus 119892119892

配当割引モデルをreについて解く

1ー配当性向rArr内部留保割合

資本コストの把握方法(2)

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

配当成長モデルを用いた数値例

配当成長率(g)= 50 times (1 - 02) = 40

株主資本コスト= 50 10000 + 40 = 45 と計算される

23

翌期の1株当たり予想配当 50円

株価 10000円

ROE 50

配当性向 20

3(4)算定上の留意事項

留意点①CAPMに過度な信頼を置かないこと 特定の手法を用いさえすれば株主資本コストの推計結果の妥当性が

保証されるわけではないbull (例)CAPMを使えば妥当な推計値が得られるわけではない

特定の手法を継続して用いることによって算出結果の信頼性が増すものではないbull (例)CAPMを毎年使い続ければ精度が向上するものではない

CAPMを採用している企業でも配当成長モデルによる株主資本コストの推計を試す意義は大きいbull CAPMは過去の株価の推移配当成長モデルは現在の株価を用

いるrarr2つの異なる情報から資本コストを推計することができる

24

3(4)算定上の留意事項

CAPMのβ値はデータの集計期間等によって大きく異なる可能性がある ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

(東証第一部上場会社対象)

25

期間業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

201404-201903 0685 1318 1402 0722 0744

200904-201403 0711 1295 1141 0549 0563

200404-200903 0210 1081 1294 0713 0634

199904-2004-03 -0091 0499 0887 0411 0292

199404-199903 0182 0969 1332 0887 0561

198904-199403 1002 1017 0936 1084 0825

全期間 0545 1025 1121 0788 0640

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(4)算定上の留意事項

業種

期間

電気機器 輸送用機器 銀行 通信 精密機械

1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動

2001年5~8月 07924 03674 06096 07978 06391

8~11月 07630 05086 05172 06367 08286

11~2002年2月 07381 06376 05638 06457 06820

2~5月 07548 04907 06162 06007 06110

5~8月 08143 06928 06543 05699 07137

26

出典内閣府「今週の指標No368 業種別株価の決定係数とベータ値からみる本邦株式市場の動向」(平成14年8月19日)一部抜粋

CAPMにおけるベータ値の推計はモデルの決定係数(R2)が低ければ説明力が低い

3(4)算定上の留意事項

投資家との対話 ~ビルディングブロック方式~ 株主資本コスト=長期国債利回り+一定のリスクプレミアム 自社に適用すべきリスクプレミアムを投資家と率直に議論 リスクプレミアムの水準は5から8程度が標準 業種自社の業務特性に応じて自社の事業リスクが平均より高め

か低めかに応じて設定する ある程度幅をもって(つまりレンジで)資本コストを把握してお

くことにも合理性がある

27

CAPMの限界を補う必要があるrArr投資家からのヒアリングで修正する

資本コストの把握方法(3)

3(4)算定上の留意事項

ビルディングブロック法のイメージ

28

50

30~40

03

合計株主資本コスト(例) 83~93

リスクフリーレート

マーケットリスクプレミアム

個社のリスクプレミアム 見直し(内部)

見直し(外部)

見直し(外部)

3(4)算定上の留意事項

留意点②エクイティスプレッドを用いた分析の留意点 エクイティスプレッド=ROE-株主資本コスト エクイティスプレッドが高いほど望ましいがそれをどのように

活用することができるか

hArrエクイティスプレッドがプラスであれば問題ないと判断してよいのか

29

3(4)算定上の留意事項

30

エクイティスプレッド = ROE ndash 株主資本コスト

マーケットリスクプレミアム times 120631120631 + 03

(例)6と想定

各企業で異なるベータ

国債利回りをベース

自社ROE

エクイティスプレッドの求め方

(出所)大和証券ウェブサイトを一部改変

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

39Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

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連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
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  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
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  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
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  • 3(4)算定上の留意事項
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
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  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
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  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
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  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
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  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 10: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

2株主資本コストの役割

9Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

資本コスト企業にとっての調達コスト hArr 投資家にとっての期待リターン

企業 投資家

2株主資本コストの役割

10

営業経費

残余利益

負債利子

税金

収益

株主に分配(分配)

債権者に帰属(分配)

残余利益はすべて株主に帰属する

rArr株主に還元(配当)しても内部留保しても株主に帰属するものであることに変わりはない

現在の株価を11987511987501年後の予想株価を11987511987511年後の予想配当額を1198631198631とすると

この株式から投資家が予想する年間期待投資収益率 119903119903は以下のとおり

119903119903 =1198631198631 + 1198751198751 )minus1198751198750

1198751198750

投資家は期待投資収益率が要求利回り=資本コストを超えているか否かによって投資のパフォーマンスを評価する

(注)実際はもっと長期の期間を対象に評価する

11

2株主資本コストの役割 (1)投資家

インカムゲイン キャピタルゲイン

資本コストを割引率としてキャッシュフローの割引現在価値を計算する

12

2株主資本コストの役割 (2)企業

評価額

1年目 2年目 3年目 4年目

CFCF

CFCF CF CF

割引率(資本コスト)を用いて割引現在価値を計算

CGコード原則を実践するためには 自社の資本コストを的確に把握する 自社の資本コストを効果的にかつ整合的に活用する 自社の資本コスト水準を適宜見直す

rarr 一種のPDCAサイクルとして実践することが考えられる(次スライド参照)

最初に取り組むべきは企業内の役割分担の問題 資本コストの把握検証を行うのはどの部署か 資本コストの情報をどの部署と共有するか 資本コストを用いてどの部署が意思決定(稟議)するか 資本コストの開示(外部提供)はどの部署が行うか

13

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

14

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

行動②(資本コスト

に基づく意思決定)

③ 評価(資本コストの水準の検証)

計画①(資本コストの算定と把握)

④ 改善(必要に応じて修正)

PLAN

DOCHECK

ACTION

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

資本コストの把握方法

1 (メイン)CAPM

2 (併用)配当割引モデル

3 (調整)ビルディングブロックモデル

4 (比較)PERの逆数

15

リスクとリターンの考え方 = リスクフリーレート+リスクプレミアム

16

リターン

リスク

【仮定】投資はリスクが多いほど見返りとして多くの(平均)リターンを要求する

リターン平均の収益率リスクリターンの不確実性(変動の大きさ)

リスクフリーレート=リスクのない投資から得られるリターン

リターンrArr期待値リスクrArr分散として数値化してみる

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

0

リスクフリーレート

リスクプレミアム

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMとは 資本コスト=リスクフリーレート+企業のリスクプレミアム

bull リスクフリーレート≒安全資産(長期国債)の利率 企業のリスクプレミアム=マーケットリスクプレミアム times(β)

bull マーケットリスクプレミアム=市場全体のリターンがリスクフリーレートを超える部分

bull β (ベータ)当該企業の株式の市場全体に対する感応度 当該企業に固有の数値(変数)はベータのみ

bull いわゆるシングルファクターモデル β値は基本的には過去の一定期間(たとえば5年)のマーケット

(市場たとえばTOPIX)の収益率と個別銘柄の株価の収益率の変動を比較して推計

17

資本コストの把握方法(1)

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

【図CAPMのモデル

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )

Cov(Rm Ri)ただしβi = (Cov共分散)

σm 2

Ri個々の証券(i)の期待収益率 ( E( )は期待値を示す)

Rm市場全体の期待収益率

Rfリスクフリーレート ( (Rm - Rf ) を 「マーケットリスクプレミアム」という)

σm 2市場全体の分散

18

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

証券市場線期待収益率が唯一のリスク要素 β の1次関数で表現される

19

M

リスクが小さい リスクが大きい

繊維119864119864 119877119877

119864119864 119877119877119872119872

119877119877119891119891

1

証券市場線

120573120573

1)リスクが市場全体と同じ()rArr株主資本コストも市場全体と同じ

2)リスク(β)の1次関数rArrリターンはリスクの大きさに比例

3)リスク(β)が0のときのリターンが「無リスク資産利子率」

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例 リスクフリーレートとマーケットリスクプレミアム

ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

20

リスクフリーレート 03

マーケットリスクプレミアム 60

出典Pablo Fernandezet alDiscount Rate (Risk-Free Rate and Market Risk Premium) used for 41 countries in 2017 a survey

業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

ベータ値 0685 1318 1402 0722 0744

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例(つづき) 自社の業種が医薬品としてβ=0744を用いて株主資本コストを

計算する

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )=03 + 0744 times 60=4764

で株主資本コストは4764と計算される

21

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

22

配当成長モデルに基づく株主資本コストの算定式の例

119903119903119890119890 = 1198631198631119875119875+119892119892

re 株主資本コストD1 翌期の1株当たり予想配当P 株価g 配当成長率

なお成長率としてサステナブル成長率(財務構成を変えずに内部留保により実現可能な成長率)を用いれば配当成長率は

119892119892 = 119877119877119877119877119864119864 times 1 minus配当性向 として計算することができる

119875119875 =1198631198631

119903119903119890119890 minus 119892119892

配当割引モデルをreについて解く

1ー配当性向rArr内部留保割合

資本コストの把握方法(2)

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

配当成長モデルを用いた数値例

配当成長率(g)= 50 times (1 - 02) = 40

株主資本コスト= 50 10000 + 40 = 45 と計算される

23

翌期の1株当たり予想配当 50円

株価 10000円

ROE 50

配当性向 20

3(4)算定上の留意事項

留意点①CAPMに過度な信頼を置かないこと 特定の手法を用いさえすれば株主資本コストの推計結果の妥当性が

保証されるわけではないbull (例)CAPMを使えば妥当な推計値が得られるわけではない

特定の手法を継続して用いることによって算出結果の信頼性が増すものではないbull (例)CAPMを毎年使い続ければ精度が向上するものではない

CAPMを採用している企業でも配当成長モデルによる株主資本コストの推計を試す意義は大きいbull CAPMは過去の株価の推移配当成長モデルは現在の株価を用

いるrarr2つの異なる情報から資本コストを推計することができる

24

3(4)算定上の留意事項

CAPMのβ値はデータの集計期間等によって大きく異なる可能性がある ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

(東証第一部上場会社対象)

25

期間業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

201404-201903 0685 1318 1402 0722 0744

200904-201403 0711 1295 1141 0549 0563

200404-200903 0210 1081 1294 0713 0634

199904-2004-03 -0091 0499 0887 0411 0292

199404-199903 0182 0969 1332 0887 0561

198904-199403 1002 1017 0936 1084 0825

全期間 0545 1025 1121 0788 0640

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(4)算定上の留意事項

業種

期間

電気機器 輸送用機器 銀行 通信 精密機械

1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動

2001年5~8月 07924 03674 06096 07978 06391

8~11月 07630 05086 05172 06367 08286

11~2002年2月 07381 06376 05638 06457 06820

2~5月 07548 04907 06162 06007 06110

5~8月 08143 06928 06543 05699 07137

26

出典内閣府「今週の指標No368 業種別株価の決定係数とベータ値からみる本邦株式市場の動向」(平成14年8月19日)一部抜粋

CAPMにおけるベータ値の推計はモデルの決定係数(R2)が低ければ説明力が低い

3(4)算定上の留意事項

投資家との対話 ~ビルディングブロック方式~ 株主資本コスト=長期国債利回り+一定のリスクプレミアム 自社に適用すべきリスクプレミアムを投資家と率直に議論 リスクプレミアムの水準は5から8程度が標準 業種自社の業務特性に応じて自社の事業リスクが平均より高め

か低めかに応じて設定する ある程度幅をもって(つまりレンジで)資本コストを把握してお

くことにも合理性がある

27

CAPMの限界を補う必要があるrArr投資家からのヒアリングで修正する

資本コストの把握方法(3)

3(4)算定上の留意事項

ビルディングブロック法のイメージ

28

50

30~40

03

合計株主資本コスト(例) 83~93

リスクフリーレート

マーケットリスクプレミアム

個社のリスクプレミアム 見直し(内部)

見直し(外部)

見直し(外部)

3(4)算定上の留意事項

留意点②エクイティスプレッドを用いた分析の留意点 エクイティスプレッド=ROE-株主資本コスト エクイティスプレッドが高いほど望ましいがそれをどのように

活用することができるか

hArrエクイティスプレッドがプラスであれば問題ないと判断してよいのか

29

3(4)算定上の留意事項

30

エクイティスプレッド = ROE ndash 株主資本コスト

マーケットリスクプレミアム times 120631120631 + 03

(例)6と想定

各企業で異なるベータ

国債利回りをベース

自社ROE

エクイティスプレッドの求め方

(出所)大和証券ウェブサイトを一部改変

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

39Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

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連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
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  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
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  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
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  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
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  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 11: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

2株主資本コストの役割

10

営業経費

残余利益

負債利子

税金

収益

株主に分配(分配)

債権者に帰属(分配)

残余利益はすべて株主に帰属する

rArr株主に還元(配当)しても内部留保しても株主に帰属するものであることに変わりはない

現在の株価を11987511987501年後の予想株価を11987511987511年後の予想配当額を1198631198631とすると

この株式から投資家が予想する年間期待投資収益率 119903119903は以下のとおり

119903119903 =1198631198631 + 1198751198751 )minus1198751198750

1198751198750

投資家は期待投資収益率が要求利回り=資本コストを超えているか否かによって投資のパフォーマンスを評価する

(注)実際はもっと長期の期間を対象に評価する

11

2株主資本コストの役割 (1)投資家

インカムゲイン キャピタルゲイン

資本コストを割引率としてキャッシュフローの割引現在価値を計算する

12

2株主資本コストの役割 (2)企業

評価額

1年目 2年目 3年目 4年目

CFCF

CFCF CF CF

割引率(資本コスト)を用いて割引現在価値を計算

CGコード原則を実践するためには 自社の資本コストを的確に把握する 自社の資本コストを効果的にかつ整合的に活用する 自社の資本コスト水準を適宜見直す

rarr 一種のPDCAサイクルとして実践することが考えられる(次スライド参照)

最初に取り組むべきは企業内の役割分担の問題 資本コストの把握検証を行うのはどの部署か 資本コストの情報をどの部署と共有するか 資本コストを用いてどの部署が意思決定(稟議)するか 資本コストの開示(外部提供)はどの部署が行うか

13

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

14

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

行動②(資本コスト

に基づく意思決定)

③ 評価(資本コストの水準の検証)

計画①(資本コストの算定と把握)

④ 改善(必要に応じて修正)

PLAN

DOCHECK

ACTION

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

資本コストの把握方法

1 (メイン)CAPM

2 (併用)配当割引モデル

3 (調整)ビルディングブロックモデル

4 (比較)PERの逆数

15

リスクとリターンの考え方 = リスクフリーレート+リスクプレミアム

16

リターン

リスク

【仮定】投資はリスクが多いほど見返りとして多くの(平均)リターンを要求する

リターン平均の収益率リスクリターンの不確実性(変動の大きさ)

リスクフリーレート=リスクのない投資から得られるリターン

リターンrArr期待値リスクrArr分散として数値化してみる

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

0

リスクフリーレート

リスクプレミアム

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMとは 資本コスト=リスクフリーレート+企業のリスクプレミアム

bull リスクフリーレート≒安全資産(長期国債)の利率 企業のリスクプレミアム=マーケットリスクプレミアム times(β)

bull マーケットリスクプレミアム=市場全体のリターンがリスクフリーレートを超える部分

bull β (ベータ)当該企業の株式の市場全体に対する感応度 当該企業に固有の数値(変数)はベータのみ

bull いわゆるシングルファクターモデル β値は基本的には過去の一定期間(たとえば5年)のマーケット

(市場たとえばTOPIX)の収益率と個別銘柄の株価の収益率の変動を比較して推計

17

資本コストの把握方法(1)

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

【図CAPMのモデル

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )

Cov(Rm Ri)ただしβi = (Cov共分散)

σm 2

Ri個々の証券(i)の期待収益率 ( E( )は期待値を示す)

Rm市場全体の期待収益率

Rfリスクフリーレート ( (Rm - Rf ) を 「マーケットリスクプレミアム」という)

σm 2市場全体の分散

18

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

証券市場線期待収益率が唯一のリスク要素 β の1次関数で表現される

19

M

リスクが小さい リスクが大きい

繊維119864119864 119877119877

119864119864 119877119877119872119872

119877119877119891119891

1

証券市場線

120573120573

1)リスクが市場全体と同じ()rArr株主資本コストも市場全体と同じ

2)リスク(β)の1次関数rArrリターンはリスクの大きさに比例

3)リスク(β)が0のときのリターンが「無リスク資産利子率」

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例 リスクフリーレートとマーケットリスクプレミアム

ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

20

リスクフリーレート 03

マーケットリスクプレミアム 60

出典Pablo Fernandezet alDiscount Rate (Risk-Free Rate and Market Risk Premium) used for 41 countries in 2017 a survey

業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

ベータ値 0685 1318 1402 0722 0744

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例(つづき) 自社の業種が医薬品としてβ=0744を用いて株主資本コストを

計算する

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )=03 + 0744 times 60=4764

で株主資本コストは4764と計算される

21

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

22

配当成長モデルに基づく株主資本コストの算定式の例

119903119903119890119890 = 1198631198631119875119875+119892119892

re 株主資本コストD1 翌期の1株当たり予想配当P 株価g 配当成長率

なお成長率としてサステナブル成長率(財務構成を変えずに内部留保により実現可能な成長率)を用いれば配当成長率は

119892119892 = 119877119877119877119877119864119864 times 1 minus配当性向 として計算することができる

119875119875 =1198631198631

119903119903119890119890 minus 119892119892

配当割引モデルをreについて解く

1ー配当性向rArr内部留保割合

資本コストの把握方法(2)

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

配当成長モデルを用いた数値例

配当成長率(g)= 50 times (1 - 02) = 40

株主資本コスト= 50 10000 + 40 = 45 と計算される

23

翌期の1株当たり予想配当 50円

株価 10000円

ROE 50

配当性向 20

3(4)算定上の留意事項

留意点①CAPMに過度な信頼を置かないこと 特定の手法を用いさえすれば株主資本コストの推計結果の妥当性が

保証されるわけではないbull (例)CAPMを使えば妥当な推計値が得られるわけではない

特定の手法を継続して用いることによって算出結果の信頼性が増すものではないbull (例)CAPMを毎年使い続ければ精度が向上するものではない

CAPMを採用している企業でも配当成長モデルによる株主資本コストの推計を試す意義は大きいbull CAPMは過去の株価の推移配当成長モデルは現在の株価を用

いるrarr2つの異なる情報から資本コストを推計することができる

24

3(4)算定上の留意事項

CAPMのβ値はデータの集計期間等によって大きく異なる可能性がある ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

(東証第一部上場会社対象)

25

期間業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

201404-201903 0685 1318 1402 0722 0744

200904-201403 0711 1295 1141 0549 0563

200404-200903 0210 1081 1294 0713 0634

199904-2004-03 -0091 0499 0887 0411 0292

199404-199903 0182 0969 1332 0887 0561

198904-199403 1002 1017 0936 1084 0825

全期間 0545 1025 1121 0788 0640

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(4)算定上の留意事項

業種

期間

電気機器 輸送用機器 銀行 通信 精密機械

1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動

2001年5~8月 07924 03674 06096 07978 06391

8~11月 07630 05086 05172 06367 08286

11~2002年2月 07381 06376 05638 06457 06820

2~5月 07548 04907 06162 06007 06110

5~8月 08143 06928 06543 05699 07137

26

出典内閣府「今週の指標No368 業種別株価の決定係数とベータ値からみる本邦株式市場の動向」(平成14年8月19日)一部抜粋

CAPMにおけるベータ値の推計はモデルの決定係数(R2)が低ければ説明力が低い

3(4)算定上の留意事項

投資家との対話 ~ビルディングブロック方式~ 株主資本コスト=長期国債利回り+一定のリスクプレミアム 自社に適用すべきリスクプレミアムを投資家と率直に議論 リスクプレミアムの水準は5から8程度が標準 業種自社の業務特性に応じて自社の事業リスクが平均より高め

か低めかに応じて設定する ある程度幅をもって(つまりレンジで)資本コストを把握してお

くことにも合理性がある

27

CAPMの限界を補う必要があるrArr投資家からのヒアリングで修正する

資本コストの把握方法(3)

3(4)算定上の留意事項

ビルディングブロック法のイメージ

28

50

30~40

03

合計株主資本コスト(例) 83~93

リスクフリーレート

マーケットリスクプレミアム

個社のリスクプレミアム 見直し(内部)

見直し(外部)

見直し(外部)

3(4)算定上の留意事項

留意点②エクイティスプレッドを用いた分析の留意点 エクイティスプレッド=ROE-株主資本コスト エクイティスプレッドが高いほど望ましいがそれをどのように

活用することができるか

hArrエクイティスプレッドがプラスであれば問題ないと判断してよいのか

29

3(4)算定上の留意事項

30

エクイティスプレッド = ROE ndash 株主資本コスト

マーケットリスクプレミアム times 120631120631 + 03

(例)6と想定

各企業で異なるベータ

国債利回りをベース

自社ROE

エクイティスプレッドの求め方

(出所)大和証券ウェブサイトを一部改変

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

39Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
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  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
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  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
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  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
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  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
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  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
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  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 12: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

現在の株価を11987511987501年後の予想株価を11987511987511年後の予想配当額を1198631198631とすると

この株式から投資家が予想する年間期待投資収益率 119903119903は以下のとおり

119903119903 =1198631198631 + 1198751198751 )minus1198751198750

1198751198750

投資家は期待投資収益率が要求利回り=資本コストを超えているか否かによって投資のパフォーマンスを評価する

(注)実際はもっと長期の期間を対象に評価する

11

2株主資本コストの役割 (1)投資家

インカムゲイン キャピタルゲイン

資本コストを割引率としてキャッシュフローの割引現在価値を計算する

12

2株主資本コストの役割 (2)企業

評価額

1年目 2年目 3年目 4年目

CFCF

CFCF CF CF

割引率(資本コスト)を用いて割引現在価値を計算

CGコード原則を実践するためには 自社の資本コストを的確に把握する 自社の資本コストを効果的にかつ整合的に活用する 自社の資本コスト水準を適宜見直す

rarr 一種のPDCAサイクルとして実践することが考えられる(次スライド参照)

最初に取り組むべきは企業内の役割分担の問題 資本コストの把握検証を行うのはどの部署か 資本コストの情報をどの部署と共有するか 資本コストを用いてどの部署が意思決定(稟議)するか 資本コストの開示(外部提供)はどの部署が行うか

13

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

14

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

行動②(資本コスト

に基づく意思決定)

③ 評価(資本コストの水準の検証)

計画①(資本コストの算定と把握)

④ 改善(必要に応じて修正)

PLAN

DOCHECK

ACTION

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

資本コストの把握方法

1 (メイン)CAPM

2 (併用)配当割引モデル

3 (調整)ビルディングブロックモデル

4 (比較)PERの逆数

15

リスクとリターンの考え方 = リスクフリーレート+リスクプレミアム

16

リターン

リスク

【仮定】投資はリスクが多いほど見返りとして多くの(平均)リターンを要求する

リターン平均の収益率リスクリターンの不確実性(変動の大きさ)

リスクフリーレート=リスクのない投資から得られるリターン

リターンrArr期待値リスクrArr分散として数値化してみる

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

0

リスクフリーレート

リスクプレミアム

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMとは 資本コスト=リスクフリーレート+企業のリスクプレミアム

bull リスクフリーレート≒安全資産(長期国債)の利率 企業のリスクプレミアム=マーケットリスクプレミアム times(β)

bull マーケットリスクプレミアム=市場全体のリターンがリスクフリーレートを超える部分

bull β (ベータ)当該企業の株式の市場全体に対する感応度 当該企業に固有の数値(変数)はベータのみ

bull いわゆるシングルファクターモデル β値は基本的には過去の一定期間(たとえば5年)のマーケット

(市場たとえばTOPIX)の収益率と個別銘柄の株価の収益率の変動を比較して推計

17

資本コストの把握方法(1)

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

【図CAPMのモデル

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )

Cov(Rm Ri)ただしβi = (Cov共分散)

σm 2

Ri個々の証券(i)の期待収益率 ( E( )は期待値を示す)

Rm市場全体の期待収益率

Rfリスクフリーレート ( (Rm - Rf ) を 「マーケットリスクプレミアム」という)

σm 2市場全体の分散

18

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

証券市場線期待収益率が唯一のリスク要素 β の1次関数で表現される

19

M

リスクが小さい リスクが大きい

繊維119864119864 119877119877

119864119864 119877119877119872119872

119877119877119891119891

1

証券市場線

120573120573

1)リスクが市場全体と同じ()rArr株主資本コストも市場全体と同じ

2)リスク(β)の1次関数rArrリターンはリスクの大きさに比例

3)リスク(β)が0のときのリターンが「無リスク資産利子率」

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例 リスクフリーレートとマーケットリスクプレミアム

ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

20

リスクフリーレート 03

マーケットリスクプレミアム 60

出典Pablo Fernandezet alDiscount Rate (Risk-Free Rate and Market Risk Premium) used for 41 countries in 2017 a survey

業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

ベータ値 0685 1318 1402 0722 0744

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例(つづき) 自社の業種が医薬品としてβ=0744を用いて株主資本コストを

計算する

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )=03 + 0744 times 60=4764

で株主資本コストは4764と計算される

21

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

22

配当成長モデルに基づく株主資本コストの算定式の例

119903119903119890119890 = 1198631198631119875119875+119892119892

re 株主資本コストD1 翌期の1株当たり予想配当P 株価g 配当成長率

なお成長率としてサステナブル成長率(財務構成を変えずに内部留保により実現可能な成長率)を用いれば配当成長率は

119892119892 = 119877119877119877119877119864119864 times 1 minus配当性向 として計算することができる

119875119875 =1198631198631

119903119903119890119890 minus 119892119892

配当割引モデルをreについて解く

1ー配当性向rArr内部留保割合

資本コストの把握方法(2)

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

配当成長モデルを用いた数値例

配当成長率(g)= 50 times (1 - 02) = 40

株主資本コスト= 50 10000 + 40 = 45 と計算される

23

翌期の1株当たり予想配当 50円

株価 10000円

ROE 50

配当性向 20

3(4)算定上の留意事項

留意点①CAPMに過度な信頼を置かないこと 特定の手法を用いさえすれば株主資本コストの推計結果の妥当性が

保証されるわけではないbull (例)CAPMを使えば妥当な推計値が得られるわけではない

特定の手法を継続して用いることによって算出結果の信頼性が増すものではないbull (例)CAPMを毎年使い続ければ精度が向上するものではない

CAPMを採用している企業でも配当成長モデルによる株主資本コストの推計を試す意義は大きいbull CAPMは過去の株価の推移配当成長モデルは現在の株価を用

いるrarr2つの異なる情報から資本コストを推計することができる

24

3(4)算定上の留意事項

CAPMのβ値はデータの集計期間等によって大きく異なる可能性がある ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

(東証第一部上場会社対象)

25

期間業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

201404-201903 0685 1318 1402 0722 0744

200904-201403 0711 1295 1141 0549 0563

200404-200903 0210 1081 1294 0713 0634

199904-2004-03 -0091 0499 0887 0411 0292

199404-199903 0182 0969 1332 0887 0561

198904-199403 1002 1017 0936 1084 0825

全期間 0545 1025 1121 0788 0640

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(4)算定上の留意事項

業種

期間

電気機器 輸送用機器 銀行 通信 精密機械

1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動

2001年5~8月 07924 03674 06096 07978 06391

8~11月 07630 05086 05172 06367 08286

11~2002年2月 07381 06376 05638 06457 06820

2~5月 07548 04907 06162 06007 06110

5~8月 08143 06928 06543 05699 07137

26

出典内閣府「今週の指標No368 業種別株価の決定係数とベータ値からみる本邦株式市場の動向」(平成14年8月19日)一部抜粋

CAPMにおけるベータ値の推計はモデルの決定係数(R2)が低ければ説明力が低い

3(4)算定上の留意事項

投資家との対話 ~ビルディングブロック方式~ 株主資本コスト=長期国債利回り+一定のリスクプレミアム 自社に適用すべきリスクプレミアムを投資家と率直に議論 リスクプレミアムの水準は5から8程度が標準 業種自社の業務特性に応じて自社の事業リスクが平均より高め

か低めかに応じて設定する ある程度幅をもって(つまりレンジで)資本コストを把握してお

くことにも合理性がある

27

CAPMの限界を補う必要があるrArr投資家からのヒアリングで修正する

資本コストの把握方法(3)

3(4)算定上の留意事項

ビルディングブロック法のイメージ

28

50

30~40

03

合計株主資本コスト(例) 83~93

リスクフリーレート

マーケットリスクプレミアム

個社のリスクプレミアム 見直し(内部)

見直し(外部)

見直し(外部)

3(4)算定上の留意事項

留意点②エクイティスプレッドを用いた分析の留意点 エクイティスプレッド=ROE-株主資本コスト エクイティスプレッドが高いほど望ましいがそれをどのように

活用することができるか

hArrエクイティスプレッドがプラスであれば問題ないと判断してよいのか

29

3(4)算定上の留意事項

30

エクイティスプレッド = ROE ndash 株主資本コスト

マーケットリスクプレミアム times 120631120631 + 03

(例)6と想定

各企業で異なるベータ

国債利回りをベース

自社ROE

エクイティスプレッドの求め方

(出所)大和証券ウェブサイトを一部改変

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

39Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 13: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

資本コストを割引率としてキャッシュフローの割引現在価値を計算する

12

2株主資本コストの役割 (2)企業

評価額

1年目 2年目 3年目 4年目

CFCF

CFCF CF CF

割引率(資本コスト)を用いて割引現在価値を計算

CGコード原則を実践するためには 自社の資本コストを的確に把握する 自社の資本コストを効果的にかつ整合的に活用する 自社の資本コスト水準を適宜見直す

rarr 一種のPDCAサイクルとして実践することが考えられる(次スライド参照)

最初に取り組むべきは企業内の役割分担の問題 資本コストの把握検証を行うのはどの部署か 資本コストの情報をどの部署と共有するか 資本コストを用いてどの部署が意思決定(稟議)するか 資本コストの開示(外部提供)はどの部署が行うか

13

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

14

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

行動②(資本コスト

に基づく意思決定)

③ 評価(資本コストの水準の検証)

計画①(資本コストの算定と把握)

④ 改善(必要に応じて修正)

PLAN

DOCHECK

ACTION

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

資本コストの把握方法

1 (メイン)CAPM

2 (併用)配当割引モデル

3 (調整)ビルディングブロックモデル

4 (比較)PERの逆数

15

リスクとリターンの考え方 = リスクフリーレート+リスクプレミアム

16

リターン

リスク

【仮定】投資はリスクが多いほど見返りとして多くの(平均)リターンを要求する

リターン平均の収益率リスクリターンの不確実性(変動の大きさ)

リスクフリーレート=リスクのない投資から得られるリターン

リターンrArr期待値リスクrArr分散として数値化してみる

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

0

リスクフリーレート

リスクプレミアム

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMとは 資本コスト=リスクフリーレート+企業のリスクプレミアム

bull リスクフリーレート≒安全資産(長期国債)の利率 企業のリスクプレミアム=マーケットリスクプレミアム times(β)

bull マーケットリスクプレミアム=市場全体のリターンがリスクフリーレートを超える部分

bull β (ベータ)当該企業の株式の市場全体に対する感応度 当該企業に固有の数値(変数)はベータのみ

bull いわゆるシングルファクターモデル β値は基本的には過去の一定期間(たとえば5年)のマーケット

(市場たとえばTOPIX)の収益率と個別銘柄の株価の収益率の変動を比較して推計

17

資本コストの把握方法(1)

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

【図CAPMのモデル

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )

Cov(Rm Ri)ただしβi = (Cov共分散)

σm 2

Ri個々の証券(i)の期待収益率 ( E( )は期待値を示す)

Rm市場全体の期待収益率

Rfリスクフリーレート ( (Rm - Rf ) を 「マーケットリスクプレミアム」という)

σm 2市場全体の分散

18

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

証券市場線期待収益率が唯一のリスク要素 β の1次関数で表現される

19

M

リスクが小さい リスクが大きい

繊維119864119864 119877119877

119864119864 119877119877119872119872

119877119877119891119891

1

証券市場線

120573120573

1)リスクが市場全体と同じ()rArr株主資本コストも市場全体と同じ

2)リスク(β)の1次関数rArrリターンはリスクの大きさに比例

3)リスク(β)が0のときのリターンが「無リスク資産利子率」

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例 リスクフリーレートとマーケットリスクプレミアム

ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

20

リスクフリーレート 03

マーケットリスクプレミアム 60

出典Pablo Fernandezet alDiscount Rate (Risk-Free Rate and Market Risk Premium) used for 41 countries in 2017 a survey

業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

ベータ値 0685 1318 1402 0722 0744

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例(つづき) 自社の業種が医薬品としてβ=0744を用いて株主資本コストを

計算する

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )=03 + 0744 times 60=4764

で株主資本コストは4764と計算される

21

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

22

配当成長モデルに基づく株主資本コストの算定式の例

119903119903119890119890 = 1198631198631119875119875+119892119892

re 株主資本コストD1 翌期の1株当たり予想配当P 株価g 配当成長率

なお成長率としてサステナブル成長率(財務構成を変えずに内部留保により実現可能な成長率)を用いれば配当成長率は

119892119892 = 119877119877119877119877119864119864 times 1 minus配当性向 として計算することができる

119875119875 =1198631198631

119903119903119890119890 minus 119892119892

配当割引モデルをreについて解く

1ー配当性向rArr内部留保割合

資本コストの把握方法(2)

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

配当成長モデルを用いた数値例

配当成長率(g)= 50 times (1 - 02) = 40

株主資本コスト= 50 10000 + 40 = 45 と計算される

23

翌期の1株当たり予想配当 50円

株価 10000円

ROE 50

配当性向 20

3(4)算定上の留意事項

留意点①CAPMに過度な信頼を置かないこと 特定の手法を用いさえすれば株主資本コストの推計結果の妥当性が

保証されるわけではないbull (例)CAPMを使えば妥当な推計値が得られるわけではない

特定の手法を継続して用いることによって算出結果の信頼性が増すものではないbull (例)CAPMを毎年使い続ければ精度が向上するものではない

CAPMを採用している企業でも配当成長モデルによる株主資本コストの推計を試す意義は大きいbull CAPMは過去の株価の推移配当成長モデルは現在の株価を用

いるrarr2つの異なる情報から資本コストを推計することができる

24

3(4)算定上の留意事項

CAPMのβ値はデータの集計期間等によって大きく異なる可能性がある ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

(東証第一部上場会社対象)

25

期間業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

201404-201903 0685 1318 1402 0722 0744

200904-201403 0711 1295 1141 0549 0563

200404-200903 0210 1081 1294 0713 0634

199904-2004-03 -0091 0499 0887 0411 0292

199404-199903 0182 0969 1332 0887 0561

198904-199403 1002 1017 0936 1084 0825

全期間 0545 1025 1121 0788 0640

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(4)算定上の留意事項

業種

期間

電気機器 輸送用機器 銀行 通信 精密機械

1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動

2001年5~8月 07924 03674 06096 07978 06391

8~11月 07630 05086 05172 06367 08286

11~2002年2月 07381 06376 05638 06457 06820

2~5月 07548 04907 06162 06007 06110

5~8月 08143 06928 06543 05699 07137

26

出典内閣府「今週の指標No368 業種別株価の決定係数とベータ値からみる本邦株式市場の動向」(平成14年8月19日)一部抜粋

CAPMにおけるベータ値の推計はモデルの決定係数(R2)が低ければ説明力が低い

3(4)算定上の留意事項

投資家との対話 ~ビルディングブロック方式~ 株主資本コスト=長期国債利回り+一定のリスクプレミアム 自社に適用すべきリスクプレミアムを投資家と率直に議論 リスクプレミアムの水準は5から8程度が標準 業種自社の業務特性に応じて自社の事業リスクが平均より高め

か低めかに応じて設定する ある程度幅をもって(つまりレンジで)資本コストを把握してお

くことにも合理性がある

27

CAPMの限界を補う必要があるrArr投資家からのヒアリングで修正する

資本コストの把握方法(3)

3(4)算定上の留意事項

ビルディングブロック法のイメージ

28

50

30~40

03

合計株主資本コスト(例) 83~93

リスクフリーレート

マーケットリスクプレミアム

個社のリスクプレミアム 見直し(内部)

見直し(外部)

見直し(外部)

3(4)算定上の留意事項

留意点②エクイティスプレッドを用いた分析の留意点 エクイティスプレッド=ROE-株主資本コスト エクイティスプレッドが高いほど望ましいがそれをどのように

活用することができるか

hArrエクイティスプレッドがプラスであれば問題ないと判断してよいのか

29

3(4)算定上の留意事項

30

エクイティスプレッド = ROE ndash 株主資本コスト

マーケットリスクプレミアム times 120631120631 + 03

(例)6と想定

各企業で異なるベータ

国債利回りをベース

自社ROE

エクイティスプレッドの求め方

(出所)大和証券ウェブサイトを一部改変

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

39Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 14: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

CGコード原則を実践するためには 自社の資本コストを的確に把握する 自社の資本コストを効果的にかつ整合的に活用する 自社の資本コスト水準を適宜見直す

rarr 一種のPDCAサイクルとして実践することが考えられる(次スライド参照)

最初に取り組むべきは企業内の役割分担の問題 資本コストの把握検証を行うのはどの部署か 資本コストの情報をどの部署と共有するか 資本コストを用いてどの部署が意思決定(稟議)するか 資本コストの開示(外部提供)はどの部署が行うか

13

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

14

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

行動②(資本コスト

に基づく意思決定)

③ 評価(資本コストの水準の検証)

計画①(資本コストの算定と把握)

④ 改善(必要に応じて修正)

PLAN

DOCHECK

ACTION

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

資本コストの把握方法

1 (メイン)CAPM

2 (併用)配当割引モデル

3 (調整)ビルディングブロックモデル

4 (比較)PERの逆数

15

リスクとリターンの考え方 = リスクフリーレート+リスクプレミアム

16

リターン

リスク

【仮定】投資はリスクが多いほど見返りとして多くの(平均)リターンを要求する

リターン平均の収益率リスクリターンの不確実性(変動の大きさ)

リスクフリーレート=リスクのない投資から得られるリターン

リターンrArr期待値リスクrArr分散として数値化してみる

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

0

リスクフリーレート

リスクプレミアム

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMとは 資本コスト=リスクフリーレート+企業のリスクプレミアム

bull リスクフリーレート≒安全資産(長期国債)の利率 企業のリスクプレミアム=マーケットリスクプレミアム times(β)

bull マーケットリスクプレミアム=市場全体のリターンがリスクフリーレートを超える部分

bull β (ベータ)当該企業の株式の市場全体に対する感応度 当該企業に固有の数値(変数)はベータのみ

bull いわゆるシングルファクターモデル β値は基本的には過去の一定期間(たとえば5年)のマーケット

(市場たとえばTOPIX)の収益率と個別銘柄の株価の収益率の変動を比較して推計

17

資本コストの把握方法(1)

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

【図CAPMのモデル

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )

Cov(Rm Ri)ただしβi = (Cov共分散)

σm 2

Ri個々の証券(i)の期待収益率 ( E( )は期待値を示す)

Rm市場全体の期待収益率

Rfリスクフリーレート ( (Rm - Rf ) を 「マーケットリスクプレミアム」という)

σm 2市場全体の分散

18

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

証券市場線期待収益率が唯一のリスク要素 β の1次関数で表現される

19

M

リスクが小さい リスクが大きい

繊維119864119864 119877119877

119864119864 119877119877119872119872

119877119877119891119891

1

証券市場線

120573120573

1)リスクが市場全体と同じ()rArr株主資本コストも市場全体と同じ

2)リスク(β)の1次関数rArrリターンはリスクの大きさに比例

3)リスク(β)が0のときのリターンが「無リスク資産利子率」

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例 リスクフリーレートとマーケットリスクプレミアム

ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

20

リスクフリーレート 03

マーケットリスクプレミアム 60

出典Pablo Fernandezet alDiscount Rate (Risk-Free Rate and Market Risk Premium) used for 41 countries in 2017 a survey

業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

ベータ値 0685 1318 1402 0722 0744

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例(つづき) 自社の業種が医薬品としてβ=0744を用いて株主資本コストを

計算する

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )=03 + 0744 times 60=4764

で株主資本コストは4764と計算される

21

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

22

配当成長モデルに基づく株主資本コストの算定式の例

119903119903119890119890 = 1198631198631119875119875+119892119892

re 株主資本コストD1 翌期の1株当たり予想配当P 株価g 配当成長率

なお成長率としてサステナブル成長率(財務構成を変えずに内部留保により実現可能な成長率)を用いれば配当成長率は

119892119892 = 119877119877119877119877119864119864 times 1 minus配当性向 として計算することができる

119875119875 =1198631198631

119903119903119890119890 minus 119892119892

配当割引モデルをreについて解く

1ー配当性向rArr内部留保割合

資本コストの把握方法(2)

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

配当成長モデルを用いた数値例

配当成長率(g)= 50 times (1 - 02) = 40

株主資本コスト= 50 10000 + 40 = 45 と計算される

23

翌期の1株当たり予想配当 50円

株価 10000円

ROE 50

配当性向 20

3(4)算定上の留意事項

留意点①CAPMに過度な信頼を置かないこと 特定の手法を用いさえすれば株主資本コストの推計結果の妥当性が

保証されるわけではないbull (例)CAPMを使えば妥当な推計値が得られるわけではない

特定の手法を継続して用いることによって算出結果の信頼性が増すものではないbull (例)CAPMを毎年使い続ければ精度が向上するものではない

CAPMを採用している企業でも配当成長モデルによる株主資本コストの推計を試す意義は大きいbull CAPMは過去の株価の推移配当成長モデルは現在の株価を用

いるrarr2つの異なる情報から資本コストを推計することができる

24

3(4)算定上の留意事項

CAPMのβ値はデータの集計期間等によって大きく異なる可能性がある ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

(東証第一部上場会社対象)

25

期間業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

201404-201903 0685 1318 1402 0722 0744

200904-201403 0711 1295 1141 0549 0563

200404-200903 0210 1081 1294 0713 0634

199904-2004-03 -0091 0499 0887 0411 0292

199404-199903 0182 0969 1332 0887 0561

198904-199403 1002 1017 0936 1084 0825

全期間 0545 1025 1121 0788 0640

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(4)算定上の留意事項

業種

期間

電気機器 輸送用機器 銀行 通信 精密機械

1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動

2001年5~8月 07924 03674 06096 07978 06391

8~11月 07630 05086 05172 06367 08286

11~2002年2月 07381 06376 05638 06457 06820

2~5月 07548 04907 06162 06007 06110

5~8月 08143 06928 06543 05699 07137

26

出典内閣府「今週の指標No368 業種別株価の決定係数とベータ値からみる本邦株式市場の動向」(平成14年8月19日)一部抜粋

CAPMにおけるベータ値の推計はモデルの決定係数(R2)が低ければ説明力が低い

3(4)算定上の留意事項

投資家との対話 ~ビルディングブロック方式~ 株主資本コスト=長期国債利回り+一定のリスクプレミアム 自社に適用すべきリスクプレミアムを投資家と率直に議論 リスクプレミアムの水準は5から8程度が標準 業種自社の業務特性に応じて自社の事業リスクが平均より高め

か低めかに応じて設定する ある程度幅をもって(つまりレンジで)資本コストを把握してお

くことにも合理性がある

27

CAPMの限界を補う必要があるrArr投資家からのヒアリングで修正する

資本コストの把握方法(3)

3(4)算定上の留意事項

ビルディングブロック法のイメージ

28

50

30~40

03

合計株主資本コスト(例) 83~93

リスクフリーレート

マーケットリスクプレミアム

個社のリスクプレミアム 見直し(内部)

見直し(外部)

見直し(外部)

3(4)算定上の留意事項

留意点②エクイティスプレッドを用いた分析の留意点 エクイティスプレッド=ROE-株主資本コスト エクイティスプレッドが高いほど望ましいがそれをどのように

活用することができるか

hArrエクイティスプレッドがプラスであれば問題ないと判断してよいのか

29

3(4)算定上の留意事項

30

エクイティスプレッド = ROE ndash 株主資本コスト

マーケットリスクプレミアム times 120631120631 + 03

(例)6と想定

各企業で異なるベータ

国債利回りをベース

自社ROE

エクイティスプレッドの求め方

(出所)大和証券ウェブサイトを一部改変

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

39Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 15: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

14

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

行動②(資本コスト

に基づく意思決定)

③ 評価(資本コストの水準の検証)

計画①(資本コストの算定と把握)

④ 改善(必要に応じて修正)

PLAN

DOCHECK

ACTION

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

資本コストの把握方法

1 (メイン)CAPM

2 (併用)配当割引モデル

3 (調整)ビルディングブロックモデル

4 (比較)PERの逆数

15

リスクとリターンの考え方 = リスクフリーレート+リスクプレミアム

16

リターン

リスク

【仮定】投資はリスクが多いほど見返りとして多くの(平均)リターンを要求する

リターン平均の収益率リスクリターンの不確実性(変動の大きさ)

リスクフリーレート=リスクのない投資から得られるリターン

リターンrArr期待値リスクrArr分散として数値化してみる

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

0

リスクフリーレート

リスクプレミアム

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMとは 資本コスト=リスクフリーレート+企業のリスクプレミアム

bull リスクフリーレート≒安全資産(長期国債)の利率 企業のリスクプレミアム=マーケットリスクプレミアム times(β)

bull マーケットリスクプレミアム=市場全体のリターンがリスクフリーレートを超える部分

bull β (ベータ)当該企業の株式の市場全体に対する感応度 当該企業に固有の数値(変数)はベータのみ

bull いわゆるシングルファクターモデル β値は基本的には過去の一定期間(たとえば5年)のマーケット

(市場たとえばTOPIX)の収益率と個別銘柄の株価の収益率の変動を比較して推計

17

資本コストの把握方法(1)

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

【図CAPMのモデル

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )

Cov(Rm Ri)ただしβi = (Cov共分散)

σm 2

Ri個々の証券(i)の期待収益率 ( E( )は期待値を示す)

Rm市場全体の期待収益率

Rfリスクフリーレート ( (Rm - Rf ) を 「マーケットリスクプレミアム」という)

σm 2市場全体の分散

18

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

証券市場線期待収益率が唯一のリスク要素 β の1次関数で表現される

19

M

リスクが小さい リスクが大きい

繊維119864119864 119877119877

119864119864 119877119877119872119872

119877119877119891119891

1

証券市場線

120573120573

1)リスクが市場全体と同じ()rArr株主資本コストも市場全体と同じ

2)リスク(β)の1次関数rArrリターンはリスクの大きさに比例

3)リスク(β)が0のときのリターンが「無リスク資産利子率」

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例 リスクフリーレートとマーケットリスクプレミアム

ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

20

リスクフリーレート 03

マーケットリスクプレミアム 60

出典Pablo Fernandezet alDiscount Rate (Risk-Free Rate and Market Risk Premium) used for 41 countries in 2017 a survey

業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

ベータ値 0685 1318 1402 0722 0744

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例(つづき) 自社の業種が医薬品としてβ=0744を用いて株主資本コストを

計算する

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )=03 + 0744 times 60=4764

で株主資本コストは4764と計算される

21

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

22

配当成長モデルに基づく株主資本コストの算定式の例

119903119903119890119890 = 1198631198631119875119875+119892119892

re 株主資本コストD1 翌期の1株当たり予想配当P 株価g 配当成長率

なお成長率としてサステナブル成長率(財務構成を変えずに内部留保により実現可能な成長率)を用いれば配当成長率は

119892119892 = 119877119877119877119877119864119864 times 1 minus配当性向 として計算することができる

119875119875 =1198631198631

119903119903119890119890 minus 119892119892

配当割引モデルをreについて解く

1ー配当性向rArr内部留保割合

資本コストの把握方法(2)

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

配当成長モデルを用いた数値例

配当成長率(g)= 50 times (1 - 02) = 40

株主資本コスト= 50 10000 + 40 = 45 と計算される

23

翌期の1株当たり予想配当 50円

株価 10000円

ROE 50

配当性向 20

3(4)算定上の留意事項

留意点①CAPMに過度な信頼を置かないこと 特定の手法を用いさえすれば株主資本コストの推計結果の妥当性が

保証されるわけではないbull (例)CAPMを使えば妥当な推計値が得られるわけではない

特定の手法を継続して用いることによって算出結果の信頼性が増すものではないbull (例)CAPMを毎年使い続ければ精度が向上するものではない

CAPMを採用している企業でも配当成長モデルによる株主資本コストの推計を試す意義は大きいbull CAPMは過去の株価の推移配当成長モデルは現在の株価を用

いるrarr2つの異なる情報から資本コストを推計することができる

24

3(4)算定上の留意事項

CAPMのβ値はデータの集計期間等によって大きく異なる可能性がある ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

(東証第一部上場会社対象)

25

期間業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

201404-201903 0685 1318 1402 0722 0744

200904-201403 0711 1295 1141 0549 0563

200404-200903 0210 1081 1294 0713 0634

199904-2004-03 -0091 0499 0887 0411 0292

199404-199903 0182 0969 1332 0887 0561

198904-199403 1002 1017 0936 1084 0825

全期間 0545 1025 1121 0788 0640

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(4)算定上の留意事項

業種

期間

電気機器 輸送用機器 銀行 通信 精密機械

1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動

2001年5~8月 07924 03674 06096 07978 06391

8~11月 07630 05086 05172 06367 08286

11~2002年2月 07381 06376 05638 06457 06820

2~5月 07548 04907 06162 06007 06110

5~8月 08143 06928 06543 05699 07137

26

出典内閣府「今週の指標No368 業種別株価の決定係数とベータ値からみる本邦株式市場の動向」(平成14年8月19日)一部抜粋

CAPMにおけるベータ値の推計はモデルの決定係数(R2)が低ければ説明力が低い

3(4)算定上の留意事項

投資家との対話 ~ビルディングブロック方式~ 株主資本コスト=長期国債利回り+一定のリスクプレミアム 自社に適用すべきリスクプレミアムを投資家と率直に議論 リスクプレミアムの水準は5から8程度が標準 業種自社の業務特性に応じて自社の事業リスクが平均より高め

か低めかに応じて設定する ある程度幅をもって(つまりレンジで)資本コストを把握してお

くことにも合理性がある

27

CAPMの限界を補う必要があるrArr投資家からのヒアリングで修正する

資本コストの把握方法(3)

3(4)算定上の留意事項

ビルディングブロック法のイメージ

28

50

30~40

03

合計株主資本コスト(例) 83~93

リスクフリーレート

マーケットリスクプレミアム

個社のリスクプレミアム 見直し(内部)

見直し(外部)

見直し(外部)

3(4)算定上の留意事項

留意点②エクイティスプレッドを用いた分析の留意点 エクイティスプレッド=ROE-株主資本コスト エクイティスプレッドが高いほど望ましいがそれをどのように

活用することができるか

hArrエクイティスプレッドがプラスであれば問題ないと判断してよいのか

29

3(4)算定上の留意事項

30

エクイティスプレッド = ROE ndash 株主資本コスト

マーケットリスクプレミアム times 120631120631 + 03

(例)6と想定

各企業で異なるベータ

国債利回りをベース

自社ROE

エクイティスプレッドの求め方

(出所)大和証券ウェブサイトを一部改変

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

39Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 16: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

資本コストの把握方法

1 (メイン)CAPM

2 (併用)配当割引モデル

3 (調整)ビルディングブロックモデル

4 (比較)PERの逆数

15

リスクとリターンの考え方 = リスクフリーレート+リスクプレミアム

16

リターン

リスク

【仮定】投資はリスクが多いほど見返りとして多くの(平均)リターンを要求する

リターン平均の収益率リスクリターンの不確実性(変動の大きさ)

リスクフリーレート=リスクのない投資から得られるリターン

リターンrArr期待値リスクrArr分散として数値化してみる

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

0

リスクフリーレート

リスクプレミアム

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMとは 資本コスト=リスクフリーレート+企業のリスクプレミアム

bull リスクフリーレート≒安全資産(長期国債)の利率 企業のリスクプレミアム=マーケットリスクプレミアム times(β)

bull マーケットリスクプレミアム=市場全体のリターンがリスクフリーレートを超える部分

bull β (ベータ)当該企業の株式の市場全体に対する感応度 当該企業に固有の数値(変数)はベータのみ

bull いわゆるシングルファクターモデル β値は基本的には過去の一定期間(たとえば5年)のマーケット

(市場たとえばTOPIX)の収益率と個別銘柄の株価の収益率の変動を比較して推計

17

資本コストの把握方法(1)

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

【図CAPMのモデル

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )

Cov(Rm Ri)ただしβi = (Cov共分散)

σm 2

Ri個々の証券(i)の期待収益率 ( E( )は期待値を示す)

Rm市場全体の期待収益率

Rfリスクフリーレート ( (Rm - Rf ) を 「マーケットリスクプレミアム」という)

σm 2市場全体の分散

18

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

証券市場線期待収益率が唯一のリスク要素 β の1次関数で表現される

19

M

リスクが小さい リスクが大きい

繊維119864119864 119877119877

119864119864 119877119877119872119872

119877119877119891119891

1

証券市場線

120573120573

1)リスクが市場全体と同じ()rArr株主資本コストも市場全体と同じ

2)リスク(β)の1次関数rArrリターンはリスクの大きさに比例

3)リスク(β)が0のときのリターンが「無リスク資産利子率」

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例 リスクフリーレートとマーケットリスクプレミアム

ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

20

リスクフリーレート 03

マーケットリスクプレミアム 60

出典Pablo Fernandezet alDiscount Rate (Risk-Free Rate and Market Risk Premium) used for 41 countries in 2017 a survey

業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

ベータ値 0685 1318 1402 0722 0744

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例(つづき) 自社の業種が医薬品としてβ=0744を用いて株主資本コストを

計算する

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )=03 + 0744 times 60=4764

で株主資本コストは4764と計算される

21

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

22

配当成長モデルに基づく株主資本コストの算定式の例

119903119903119890119890 = 1198631198631119875119875+119892119892

re 株主資本コストD1 翌期の1株当たり予想配当P 株価g 配当成長率

なお成長率としてサステナブル成長率(財務構成を変えずに内部留保により実現可能な成長率)を用いれば配当成長率は

119892119892 = 119877119877119877119877119864119864 times 1 minus配当性向 として計算することができる

119875119875 =1198631198631

119903119903119890119890 minus 119892119892

配当割引モデルをreについて解く

1ー配当性向rArr内部留保割合

資本コストの把握方法(2)

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

配当成長モデルを用いた数値例

配当成長率(g)= 50 times (1 - 02) = 40

株主資本コスト= 50 10000 + 40 = 45 と計算される

23

翌期の1株当たり予想配当 50円

株価 10000円

ROE 50

配当性向 20

3(4)算定上の留意事項

留意点①CAPMに過度な信頼を置かないこと 特定の手法を用いさえすれば株主資本コストの推計結果の妥当性が

保証されるわけではないbull (例)CAPMを使えば妥当な推計値が得られるわけではない

特定の手法を継続して用いることによって算出結果の信頼性が増すものではないbull (例)CAPMを毎年使い続ければ精度が向上するものではない

CAPMを採用している企業でも配当成長モデルによる株主資本コストの推計を試す意義は大きいbull CAPMは過去の株価の推移配当成長モデルは現在の株価を用

いるrarr2つの異なる情報から資本コストを推計することができる

24

3(4)算定上の留意事項

CAPMのβ値はデータの集計期間等によって大きく異なる可能性がある ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

(東証第一部上場会社対象)

25

期間業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

201404-201903 0685 1318 1402 0722 0744

200904-201403 0711 1295 1141 0549 0563

200404-200903 0210 1081 1294 0713 0634

199904-2004-03 -0091 0499 0887 0411 0292

199404-199903 0182 0969 1332 0887 0561

198904-199403 1002 1017 0936 1084 0825

全期間 0545 1025 1121 0788 0640

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(4)算定上の留意事項

業種

期間

電気機器 輸送用機器 銀行 通信 精密機械

1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動

2001年5~8月 07924 03674 06096 07978 06391

8~11月 07630 05086 05172 06367 08286

11~2002年2月 07381 06376 05638 06457 06820

2~5月 07548 04907 06162 06007 06110

5~8月 08143 06928 06543 05699 07137

26

出典内閣府「今週の指標No368 業種別株価の決定係数とベータ値からみる本邦株式市場の動向」(平成14年8月19日)一部抜粋

CAPMにおけるベータ値の推計はモデルの決定係数(R2)が低ければ説明力が低い

3(4)算定上の留意事項

投資家との対話 ~ビルディングブロック方式~ 株主資本コスト=長期国債利回り+一定のリスクプレミアム 自社に適用すべきリスクプレミアムを投資家と率直に議論 リスクプレミアムの水準は5から8程度が標準 業種自社の業務特性に応じて自社の事業リスクが平均より高め

か低めかに応じて設定する ある程度幅をもって(つまりレンジで)資本コストを把握してお

くことにも合理性がある

27

CAPMの限界を補う必要があるrArr投資家からのヒアリングで修正する

資本コストの把握方法(3)

3(4)算定上の留意事項

ビルディングブロック法のイメージ

28

50

30~40

03

合計株主資本コスト(例) 83~93

リスクフリーレート

マーケットリスクプレミアム

個社のリスクプレミアム 見直し(内部)

見直し(外部)

見直し(外部)

3(4)算定上の留意事項

留意点②エクイティスプレッドを用いた分析の留意点 エクイティスプレッド=ROE-株主資本コスト エクイティスプレッドが高いほど望ましいがそれをどのように

活用することができるか

hArrエクイティスプレッドがプラスであれば問題ないと判断してよいのか

29

3(4)算定上の留意事項

30

エクイティスプレッド = ROE ndash 株主資本コスト

マーケットリスクプレミアム times 120631120631 + 03

(例)6と想定

各企業で異なるベータ

国債利回りをベース

自社ROE

エクイティスプレッドの求め方

(出所)大和証券ウェブサイトを一部改変

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

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株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 17: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

リスクとリターンの考え方 = リスクフリーレート+リスクプレミアム

16

リターン

リスク

【仮定】投資はリスクが多いほど見返りとして多くの(平均)リターンを要求する

リターン平均の収益率リスクリターンの不確実性(変動の大きさ)

リスクフリーレート=リスクのない投資から得られるリターン

リターンrArr期待値リスクrArr分散として数値化してみる

3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~

0

リスクフリーレート

リスクプレミアム

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMとは 資本コスト=リスクフリーレート+企業のリスクプレミアム

bull リスクフリーレート≒安全資産(長期国債)の利率 企業のリスクプレミアム=マーケットリスクプレミアム times(β)

bull マーケットリスクプレミアム=市場全体のリターンがリスクフリーレートを超える部分

bull β (ベータ)当該企業の株式の市場全体に対する感応度 当該企業に固有の数値(変数)はベータのみ

bull いわゆるシングルファクターモデル β値は基本的には過去の一定期間(たとえば5年)のマーケット

(市場たとえばTOPIX)の収益率と個別銘柄の株価の収益率の変動を比較して推計

17

資本コストの把握方法(1)

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

【図CAPMのモデル

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )

Cov(Rm Ri)ただしβi = (Cov共分散)

σm 2

Ri個々の証券(i)の期待収益率 ( E( )は期待値を示す)

Rm市場全体の期待収益率

Rfリスクフリーレート ( (Rm - Rf ) を 「マーケットリスクプレミアム」という)

σm 2市場全体の分散

18

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

証券市場線期待収益率が唯一のリスク要素 β の1次関数で表現される

19

M

リスクが小さい リスクが大きい

繊維119864119864 119877119877

119864119864 119877119877119872119872

119877119877119891119891

1

証券市場線

120573120573

1)リスクが市場全体と同じ()rArr株主資本コストも市場全体と同じ

2)リスク(β)の1次関数rArrリターンはリスクの大きさに比例

3)リスク(β)が0のときのリターンが「無リスク資産利子率」

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例 リスクフリーレートとマーケットリスクプレミアム

ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

20

リスクフリーレート 03

マーケットリスクプレミアム 60

出典Pablo Fernandezet alDiscount Rate (Risk-Free Rate and Market Risk Premium) used for 41 countries in 2017 a survey

業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

ベータ値 0685 1318 1402 0722 0744

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例(つづき) 自社の業種が医薬品としてβ=0744を用いて株主資本コストを

計算する

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )=03 + 0744 times 60=4764

で株主資本コストは4764と計算される

21

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

22

配当成長モデルに基づく株主資本コストの算定式の例

119903119903119890119890 = 1198631198631119875119875+119892119892

re 株主資本コストD1 翌期の1株当たり予想配当P 株価g 配当成長率

なお成長率としてサステナブル成長率(財務構成を変えずに内部留保により実現可能な成長率)を用いれば配当成長率は

119892119892 = 119877119877119877119877119864119864 times 1 minus配当性向 として計算することができる

119875119875 =1198631198631

119903119903119890119890 minus 119892119892

配当割引モデルをreについて解く

1ー配当性向rArr内部留保割合

資本コストの把握方法(2)

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

配当成長モデルを用いた数値例

配当成長率(g)= 50 times (1 - 02) = 40

株主資本コスト= 50 10000 + 40 = 45 と計算される

23

翌期の1株当たり予想配当 50円

株価 10000円

ROE 50

配当性向 20

3(4)算定上の留意事項

留意点①CAPMに過度な信頼を置かないこと 特定の手法を用いさえすれば株主資本コストの推計結果の妥当性が

保証されるわけではないbull (例)CAPMを使えば妥当な推計値が得られるわけではない

特定の手法を継続して用いることによって算出結果の信頼性が増すものではないbull (例)CAPMを毎年使い続ければ精度が向上するものではない

CAPMを採用している企業でも配当成長モデルによる株主資本コストの推計を試す意義は大きいbull CAPMは過去の株価の推移配当成長モデルは現在の株価を用

いるrarr2つの異なる情報から資本コストを推計することができる

24

3(4)算定上の留意事項

CAPMのβ値はデータの集計期間等によって大きく異なる可能性がある ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

(東証第一部上場会社対象)

25

期間業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

201404-201903 0685 1318 1402 0722 0744

200904-201403 0711 1295 1141 0549 0563

200404-200903 0210 1081 1294 0713 0634

199904-2004-03 -0091 0499 0887 0411 0292

199404-199903 0182 0969 1332 0887 0561

198904-199403 1002 1017 0936 1084 0825

全期間 0545 1025 1121 0788 0640

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(4)算定上の留意事項

業種

期間

電気機器 輸送用機器 銀行 通信 精密機械

1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動

2001年5~8月 07924 03674 06096 07978 06391

8~11月 07630 05086 05172 06367 08286

11~2002年2月 07381 06376 05638 06457 06820

2~5月 07548 04907 06162 06007 06110

5~8月 08143 06928 06543 05699 07137

26

出典内閣府「今週の指標No368 業種別株価の決定係数とベータ値からみる本邦株式市場の動向」(平成14年8月19日)一部抜粋

CAPMにおけるベータ値の推計はモデルの決定係数(R2)が低ければ説明力が低い

3(4)算定上の留意事項

投資家との対話 ~ビルディングブロック方式~ 株主資本コスト=長期国債利回り+一定のリスクプレミアム 自社に適用すべきリスクプレミアムを投資家と率直に議論 リスクプレミアムの水準は5から8程度が標準 業種自社の業務特性に応じて自社の事業リスクが平均より高め

か低めかに応じて設定する ある程度幅をもって(つまりレンジで)資本コストを把握してお

くことにも合理性がある

27

CAPMの限界を補う必要があるrArr投資家からのヒアリングで修正する

資本コストの把握方法(3)

3(4)算定上の留意事項

ビルディングブロック法のイメージ

28

50

30~40

03

合計株主資本コスト(例) 83~93

リスクフリーレート

マーケットリスクプレミアム

個社のリスクプレミアム 見直し(内部)

見直し(外部)

見直し(外部)

3(4)算定上の留意事項

留意点②エクイティスプレッドを用いた分析の留意点 エクイティスプレッド=ROE-株主資本コスト エクイティスプレッドが高いほど望ましいがそれをどのように

活用することができるか

hArrエクイティスプレッドがプラスであれば問題ないと判断してよいのか

29

3(4)算定上の留意事項

30

エクイティスプレッド = ROE ndash 株主資本コスト

マーケットリスクプレミアム times 120631120631 + 03

(例)6と想定

各企業で異なるベータ

国債利回りをベース

自社ROE

エクイティスプレッドの求め方

(出所)大和証券ウェブサイトを一部改変

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

39Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
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  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
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  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
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  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
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  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
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  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 18: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMとは 資本コスト=リスクフリーレート+企業のリスクプレミアム

bull リスクフリーレート≒安全資産(長期国債)の利率 企業のリスクプレミアム=マーケットリスクプレミアム times(β)

bull マーケットリスクプレミアム=市場全体のリターンがリスクフリーレートを超える部分

bull β (ベータ)当該企業の株式の市場全体に対する感応度 当該企業に固有の数値(変数)はベータのみ

bull いわゆるシングルファクターモデル β値は基本的には過去の一定期間(たとえば5年)のマーケット

(市場たとえばTOPIX)の収益率と個別銘柄の株価の収益率の変動を比較して推計

17

資本コストの把握方法(1)

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

【図CAPMのモデル

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )

Cov(Rm Ri)ただしβi = (Cov共分散)

σm 2

Ri個々の証券(i)の期待収益率 ( E( )は期待値を示す)

Rm市場全体の期待収益率

Rfリスクフリーレート ( (Rm - Rf ) を 「マーケットリスクプレミアム」という)

σm 2市場全体の分散

18

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

証券市場線期待収益率が唯一のリスク要素 β の1次関数で表現される

19

M

リスクが小さい リスクが大きい

繊維119864119864 119877119877

119864119864 119877119877119872119872

119877119877119891119891

1

証券市場線

120573120573

1)リスクが市場全体と同じ()rArr株主資本コストも市場全体と同じ

2)リスク(β)の1次関数rArrリターンはリスクの大きさに比例

3)リスク(β)が0のときのリターンが「無リスク資産利子率」

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例 リスクフリーレートとマーケットリスクプレミアム

ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

20

リスクフリーレート 03

マーケットリスクプレミアム 60

出典Pablo Fernandezet alDiscount Rate (Risk-Free Rate and Market Risk Premium) used for 41 countries in 2017 a survey

業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

ベータ値 0685 1318 1402 0722 0744

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例(つづき) 自社の業種が医薬品としてβ=0744を用いて株主資本コストを

計算する

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )=03 + 0744 times 60=4764

で株主資本コストは4764と計算される

21

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

22

配当成長モデルに基づく株主資本コストの算定式の例

119903119903119890119890 = 1198631198631119875119875+119892119892

re 株主資本コストD1 翌期の1株当たり予想配当P 株価g 配当成長率

なお成長率としてサステナブル成長率(財務構成を変えずに内部留保により実現可能な成長率)を用いれば配当成長率は

119892119892 = 119877119877119877119877119864119864 times 1 minus配当性向 として計算することができる

119875119875 =1198631198631

119903119903119890119890 minus 119892119892

配当割引モデルをreについて解く

1ー配当性向rArr内部留保割合

資本コストの把握方法(2)

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

配当成長モデルを用いた数値例

配当成長率(g)= 50 times (1 - 02) = 40

株主資本コスト= 50 10000 + 40 = 45 と計算される

23

翌期の1株当たり予想配当 50円

株価 10000円

ROE 50

配当性向 20

3(4)算定上の留意事項

留意点①CAPMに過度な信頼を置かないこと 特定の手法を用いさえすれば株主資本コストの推計結果の妥当性が

保証されるわけではないbull (例)CAPMを使えば妥当な推計値が得られるわけではない

特定の手法を継続して用いることによって算出結果の信頼性が増すものではないbull (例)CAPMを毎年使い続ければ精度が向上するものではない

CAPMを採用している企業でも配当成長モデルによる株主資本コストの推計を試す意義は大きいbull CAPMは過去の株価の推移配当成長モデルは現在の株価を用

いるrarr2つの異なる情報から資本コストを推計することができる

24

3(4)算定上の留意事項

CAPMのβ値はデータの集計期間等によって大きく異なる可能性がある ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

(東証第一部上場会社対象)

25

期間業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

201404-201903 0685 1318 1402 0722 0744

200904-201403 0711 1295 1141 0549 0563

200404-200903 0210 1081 1294 0713 0634

199904-2004-03 -0091 0499 0887 0411 0292

199404-199903 0182 0969 1332 0887 0561

198904-199403 1002 1017 0936 1084 0825

全期間 0545 1025 1121 0788 0640

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(4)算定上の留意事項

業種

期間

電気機器 輸送用機器 銀行 通信 精密機械

1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動

2001年5~8月 07924 03674 06096 07978 06391

8~11月 07630 05086 05172 06367 08286

11~2002年2月 07381 06376 05638 06457 06820

2~5月 07548 04907 06162 06007 06110

5~8月 08143 06928 06543 05699 07137

26

出典内閣府「今週の指標No368 業種別株価の決定係数とベータ値からみる本邦株式市場の動向」(平成14年8月19日)一部抜粋

CAPMにおけるベータ値の推計はモデルの決定係数(R2)が低ければ説明力が低い

3(4)算定上の留意事項

投資家との対話 ~ビルディングブロック方式~ 株主資本コスト=長期国債利回り+一定のリスクプレミアム 自社に適用すべきリスクプレミアムを投資家と率直に議論 リスクプレミアムの水準は5から8程度が標準 業種自社の業務特性に応じて自社の事業リスクが平均より高め

か低めかに応じて設定する ある程度幅をもって(つまりレンジで)資本コストを把握してお

くことにも合理性がある

27

CAPMの限界を補う必要があるrArr投資家からのヒアリングで修正する

資本コストの把握方法(3)

3(4)算定上の留意事項

ビルディングブロック法のイメージ

28

50

30~40

03

合計株主資本コスト(例) 83~93

リスクフリーレート

マーケットリスクプレミアム

個社のリスクプレミアム 見直し(内部)

見直し(外部)

見直し(外部)

3(4)算定上の留意事項

留意点②エクイティスプレッドを用いた分析の留意点 エクイティスプレッド=ROE-株主資本コスト エクイティスプレッドが高いほど望ましいがそれをどのように

活用することができるか

hArrエクイティスプレッドがプラスであれば問題ないと判断してよいのか

29

3(4)算定上の留意事項

30

エクイティスプレッド = ROE ndash 株主資本コスト

マーケットリスクプレミアム times 120631120631 + 03

(例)6と想定

各企業で異なるベータ

国債利回りをベース

自社ROE

エクイティスプレッドの求め方

(出所)大和証券ウェブサイトを一部改変

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

39Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 19: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

【図CAPMのモデル

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )

Cov(Rm Ri)ただしβi = (Cov共分散)

σm 2

Ri個々の証券(i)の期待収益率 ( E( )は期待値を示す)

Rm市場全体の期待収益率

Rfリスクフリーレート ( (Rm - Rf ) を 「マーケットリスクプレミアム」という)

σm 2市場全体の分散

18

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

証券市場線期待収益率が唯一のリスク要素 β の1次関数で表現される

19

M

リスクが小さい リスクが大きい

繊維119864119864 119877119877

119864119864 119877119877119872119872

119877119877119891119891

1

証券市場線

120573120573

1)リスクが市場全体と同じ()rArr株主資本コストも市場全体と同じ

2)リスク(β)の1次関数rArrリターンはリスクの大きさに比例

3)リスク(β)が0のときのリターンが「無リスク資産利子率」

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例 リスクフリーレートとマーケットリスクプレミアム

ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

20

リスクフリーレート 03

マーケットリスクプレミアム 60

出典Pablo Fernandezet alDiscount Rate (Risk-Free Rate and Market Risk Premium) used for 41 countries in 2017 a survey

業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

ベータ値 0685 1318 1402 0722 0744

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例(つづき) 自社の業種が医薬品としてβ=0744を用いて株主資本コストを

計算する

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )=03 + 0744 times 60=4764

で株主資本コストは4764と計算される

21

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

22

配当成長モデルに基づく株主資本コストの算定式の例

119903119903119890119890 = 1198631198631119875119875+119892119892

re 株主資本コストD1 翌期の1株当たり予想配当P 株価g 配当成長率

なお成長率としてサステナブル成長率(財務構成を変えずに内部留保により実現可能な成長率)を用いれば配当成長率は

119892119892 = 119877119877119877119877119864119864 times 1 minus配当性向 として計算することができる

119875119875 =1198631198631

119903119903119890119890 minus 119892119892

配当割引モデルをreについて解く

1ー配当性向rArr内部留保割合

資本コストの把握方法(2)

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

配当成長モデルを用いた数値例

配当成長率(g)= 50 times (1 - 02) = 40

株主資本コスト= 50 10000 + 40 = 45 と計算される

23

翌期の1株当たり予想配当 50円

株価 10000円

ROE 50

配当性向 20

3(4)算定上の留意事項

留意点①CAPMに過度な信頼を置かないこと 特定の手法を用いさえすれば株主資本コストの推計結果の妥当性が

保証されるわけではないbull (例)CAPMを使えば妥当な推計値が得られるわけではない

特定の手法を継続して用いることによって算出結果の信頼性が増すものではないbull (例)CAPMを毎年使い続ければ精度が向上するものではない

CAPMを採用している企業でも配当成長モデルによる株主資本コストの推計を試す意義は大きいbull CAPMは過去の株価の推移配当成長モデルは現在の株価を用

いるrarr2つの異なる情報から資本コストを推計することができる

24

3(4)算定上の留意事項

CAPMのβ値はデータの集計期間等によって大きく異なる可能性がある ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

(東証第一部上場会社対象)

25

期間業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

201404-201903 0685 1318 1402 0722 0744

200904-201403 0711 1295 1141 0549 0563

200404-200903 0210 1081 1294 0713 0634

199904-2004-03 -0091 0499 0887 0411 0292

199404-199903 0182 0969 1332 0887 0561

198904-199403 1002 1017 0936 1084 0825

全期間 0545 1025 1121 0788 0640

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(4)算定上の留意事項

業種

期間

電気機器 輸送用機器 銀行 通信 精密機械

1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動

2001年5~8月 07924 03674 06096 07978 06391

8~11月 07630 05086 05172 06367 08286

11~2002年2月 07381 06376 05638 06457 06820

2~5月 07548 04907 06162 06007 06110

5~8月 08143 06928 06543 05699 07137

26

出典内閣府「今週の指標No368 業種別株価の決定係数とベータ値からみる本邦株式市場の動向」(平成14年8月19日)一部抜粋

CAPMにおけるベータ値の推計はモデルの決定係数(R2)が低ければ説明力が低い

3(4)算定上の留意事項

投資家との対話 ~ビルディングブロック方式~ 株主資本コスト=長期国債利回り+一定のリスクプレミアム 自社に適用すべきリスクプレミアムを投資家と率直に議論 リスクプレミアムの水準は5から8程度が標準 業種自社の業務特性に応じて自社の事業リスクが平均より高め

か低めかに応じて設定する ある程度幅をもって(つまりレンジで)資本コストを把握してお

くことにも合理性がある

27

CAPMの限界を補う必要があるrArr投資家からのヒアリングで修正する

資本コストの把握方法(3)

3(4)算定上の留意事項

ビルディングブロック法のイメージ

28

50

30~40

03

合計株主資本コスト(例) 83~93

リスクフリーレート

マーケットリスクプレミアム

個社のリスクプレミアム 見直し(内部)

見直し(外部)

見直し(外部)

3(4)算定上の留意事項

留意点②エクイティスプレッドを用いた分析の留意点 エクイティスプレッド=ROE-株主資本コスト エクイティスプレッドが高いほど望ましいがそれをどのように

活用することができるか

hArrエクイティスプレッドがプラスであれば問題ないと判断してよいのか

29

3(4)算定上の留意事項

30

エクイティスプレッド = ROE ndash 株主資本コスト

マーケットリスクプレミアム times 120631120631 + 03

(例)6と想定

各企業で異なるベータ

国債利回りをベース

自社ROE

エクイティスプレッドの求め方

(出所)大和証券ウェブサイトを一部改変

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

39Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 20: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

証券市場線期待収益率が唯一のリスク要素 β の1次関数で表現される

19

M

リスクが小さい リスクが大きい

繊維119864119864 119877119877

119864119864 119877119877119872119872

119877119877119891119891

1

証券市場線

120573120573

1)リスクが市場全体と同じ()rArr株主資本コストも市場全体と同じ

2)リスク(β)の1次関数rArrリターンはリスクの大きさに比例

3)リスク(β)が0のときのリターンが「無リスク資産利子率」

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例 リスクフリーレートとマーケットリスクプレミアム

ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

20

リスクフリーレート 03

マーケットリスクプレミアム 60

出典Pablo Fernandezet alDiscount Rate (Risk-Free Rate and Market Risk Premium) used for 41 countries in 2017 a survey

業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

ベータ値 0685 1318 1402 0722 0744

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例(つづき) 自社の業種が医薬品としてβ=0744を用いて株主資本コストを

計算する

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )=03 + 0744 times 60=4764

で株主資本コストは4764と計算される

21

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

22

配当成長モデルに基づく株主資本コストの算定式の例

119903119903119890119890 = 1198631198631119875119875+119892119892

re 株主資本コストD1 翌期の1株当たり予想配当P 株価g 配当成長率

なお成長率としてサステナブル成長率(財務構成を変えずに内部留保により実現可能な成長率)を用いれば配当成長率は

119892119892 = 119877119877119877119877119864119864 times 1 minus配当性向 として計算することができる

119875119875 =1198631198631

119903119903119890119890 minus 119892119892

配当割引モデルをreについて解く

1ー配当性向rArr内部留保割合

資本コストの把握方法(2)

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

配当成長モデルを用いた数値例

配当成長率(g)= 50 times (1 - 02) = 40

株主資本コスト= 50 10000 + 40 = 45 と計算される

23

翌期の1株当たり予想配当 50円

株価 10000円

ROE 50

配当性向 20

3(4)算定上の留意事項

留意点①CAPMに過度な信頼を置かないこと 特定の手法を用いさえすれば株主資本コストの推計結果の妥当性が

保証されるわけではないbull (例)CAPMを使えば妥当な推計値が得られるわけではない

特定の手法を継続して用いることによって算出結果の信頼性が増すものではないbull (例)CAPMを毎年使い続ければ精度が向上するものではない

CAPMを採用している企業でも配当成長モデルによる株主資本コストの推計を試す意義は大きいbull CAPMは過去の株価の推移配当成長モデルは現在の株価を用

いるrarr2つの異なる情報から資本コストを推計することができる

24

3(4)算定上の留意事項

CAPMのβ値はデータの集計期間等によって大きく異なる可能性がある ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

(東証第一部上場会社対象)

25

期間業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

201404-201903 0685 1318 1402 0722 0744

200904-201403 0711 1295 1141 0549 0563

200404-200903 0210 1081 1294 0713 0634

199904-2004-03 -0091 0499 0887 0411 0292

199404-199903 0182 0969 1332 0887 0561

198904-199403 1002 1017 0936 1084 0825

全期間 0545 1025 1121 0788 0640

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(4)算定上の留意事項

業種

期間

電気機器 輸送用機器 銀行 通信 精密機械

1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動

2001年5~8月 07924 03674 06096 07978 06391

8~11月 07630 05086 05172 06367 08286

11~2002年2月 07381 06376 05638 06457 06820

2~5月 07548 04907 06162 06007 06110

5~8月 08143 06928 06543 05699 07137

26

出典内閣府「今週の指標No368 業種別株価の決定係数とベータ値からみる本邦株式市場の動向」(平成14年8月19日)一部抜粋

CAPMにおけるベータ値の推計はモデルの決定係数(R2)が低ければ説明力が低い

3(4)算定上の留意事項

投資家との対話 ~ビルディングブロック方式~ 株主資本コスト=長期国債利回り+一定のリスクプレミアム 自社に適用すべきリスクプレミアムを投資家と率直に議論 リスクプレミアムの水準は5から8程度が標準 業種自社の業務特性に応じて自社の事業リスクが平均より高め

か低めかに応じて設定する ある程度幅をもって(つまりレンジで)資本コストを把握してお

くことにも合理性がある

27

CAPMの限界を補う必要があるrArr投資家からのヒアリングで修正する

資本コストの把握方法(3)

3(4)算定上の留意事項

ビルディングブロック法のイメージ

28

50

30~40

03

合計株主資本コスト(例) 83~93

リスクフリーレート

マーケットリスクプレミアム

個社のリスクプレミアム 見直し(内部)

見直し(外部)

見直し(外部)

3(4)算定上の留意事項

留意点②エクイティスプレッドを用いた分析の留意点 エクイティスプレッド=ROE-株主資本コスト エクイティスプレッドが高いほど望ましいがそれをどのように

活用することができるか

hArrエクイティスプレッドがプラスであれば問題ないと判断してよいのか

29

3(4)算定上の留意事項

30

エクイティスプレッド = ROE ndash 株主資本コスト

マーケットリスクプレミアム times 120631120631 + 03

(例)6と想定

各企業で異なるベータ

国債利回りをベース

自社ROE

エクイティスプレッドの求め方

(出所)大和証券ウェブサイトを一部改変

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

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株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 21: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例 リスクフリーレートとマーケットリスクプレミアム

ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

20

リスクフリーレート 03

マーケットリスクプレミアム 60

出典Pablo Fernandezet alDiscount Rate (Risk-Free Rate and Market Risk Premium) used for 41 countries in 2017 a survey

業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

ベータ値 0685 1318 1402 0722 0744

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例(つづき) 自社の業種が医薬品としてβ=0744を用いて株主資本コストを

計算する

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )=03 + 0744 times 60=4764

で株主資本コストは4764と計算される

21

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

22

配当成長モデルに基づく株主資本コストの算定式の例

119903119903119890119890 = 1198631198631119875119875+119892119892

re 株主資本コストD1 翌期の1株当たり予想配当P 株価g 配当成長率

なお成長率としてサステナブル成長率(財務構成を変えずに内部留保により実現可能な成長率)を用いれば配当成長率は

119892119892 = 119877119877119877119877119864119864 times 1 minus配当性向 として計算することができる

119875119875 =1198631198631

119903119903119890119890 minus 119892119892

配当割引モデルをreについて解く

1ー配当性向rArr内部留保割合

資本コストの把握方法(2)

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

配当成長モデルを用いた数値例

配当成長率(g)= 50 times (1 - 02) = 40

株主資本コスト= 50 10000 + 40 = 45 と計算される

23

翌期の1株当たり予想配当 50円

株価 10000円

ROE 50

配当性向 20

3(4)算定上の留意事項

留意点①CAPMに過度な信頼を置かないこと 特定の手法を用いさえすれば株主資本コストの推計結果の妥当性が

保証されるわけではないbull (例)CAPMを使えば妥当な推計値が得られるわけではない

特定の手法を継続して用いることによって算出結果の信頼性が増すものではないbull (例)CAPMを毎年使い続ければ精度が向上するものではない

CAPMを採用している企業でも配当成長モデルによる株主資本コストの推計を試す意義は大きいbull CAPMは過去の株価の推移配当成長モデルは現在の株価を用

いるrarr2つの異なる情報から資本コストを推計することができる

24

3(4)算定上の留意事項

CAPMのβ値はデータの集計期間等によって大きく異なる可能性がある ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

(東証第一部上場会社対象)

25

期間業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

201404-201903 0685 1318 1402 0722 0744

200904-201403 0711 1295 1141 0549 0563

200404-200903 0210 1081 1294 0713 0634

199904-2004-03 -0091 0499 0887 0411 0292

199404-199903 0182 0969 1332 0887 0561

198904-199403 1002 1017 0936 1084 0825

全期間 0545 1025 1121 0788 0640

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(4)算定上の留意事項

業種

期間

電気機器 輸送用機器 銀行 通信 精密機械

1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動

2001年5~8月 07924 03674 06096 07978 06391

8~11月 07630 05086 05172 06367 08286

11~2002年2月 07381 06376 05638 06457 06820

2~5月 07548 04907 06162 06007 06110

5~8月 08143 06928 06543 05699 07137

26

出典内閣府「今週の指標No368 業種別株価の決定係数とベータ値からみる本邦株式市場の動向」(平成14年8月19日)一部抜粋

CAPMにおけるベータ値の推計はモデルの決定係数(R2)が低ければ説明力が低い

3(4)算定上の留意事項

投資家との対話 ~ビルディングブロック方式~ 株主資本コスト=長期国債利回り+一定のリスクプレミアム 自社に適用すべきリスクプレミアムを投資家と率直に議論 リスクプレミアムの水準は5から8程度が標準 業種自社の業務特性に応じて自社の事業リスクが平均より高め

か低めかに応じて設定する ある程度幅をもって(つまりレンジで)資本コストを把握してお

くことにも合理性がある

27

CAPMの限界を補う必要があるrArr投資家からのヒアリングで修正する

資本コストの把握方法(3)

3(4)算定上の留意事項

ビルディングブロック法のイメージ

28

50

30~40

03

合計株主資本コスト(例) 83~93

リスクフリーレート

マーケットリスクプレミアム

個社のリスクプレミアム 見直し(内部)

見直し(外部)

見直し(外部)

3(4)算定上の留意事項

留意点②エクイティスプレッドを用いた分析の留意点 エクイティスプレッド=ROE-株主資本コスト エクイティスプレッドが高いほど望ましいがそれをどのように

活用することができるか

hArrエクイティスプレッドがプラスであれば問題ないと判断してよいのか

29

3(4)算定上の留意事項

30

エクイティスプレッド = ROE ndash 株主資本コスト

マーケットリスクプレミアム times 120631120631 + 03

(例)6と想定

各企業で異なるベータ

国債利回りをベース

自社ROE

エクイティスプレッドの求め方

(出所)大和証券ウェブサイトを一部改変

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

39Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

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連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
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  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
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  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
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  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
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  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 22: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)

CAPMを使った数値の計算例(つづき) 自社の業種が医薬品としてβ=0744を用いて株主資本コストを

計算する

E(Ri) = Rf +βi times(Rm - Rf )=03 + 0744 times 60=4764

で株主資本コストは4764と計算される

21

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

22

配当成長モデルに基づく株主資本コストの算定式の例

119903119903119890119890 = 1198631198631119875119875+119892119892

re 株主資本コストD1 翌期の1株当たり予想配当P 株価g 配当成長率

なお成長率としてサステナブル成長率(財務構成を変えずに内部留保により実現可能な成長率)を用いれば配当成長率は

119892119892 = 119877119877119877119877119864119864 times 1 minus配当性向 として計算することができる

119875119875 =1198631198631

119903119903119890119890 minus 119892119892

配当割引モデルをreについて解く

1ー配当性向rArr内部留保割合

資本コストの把握方法(2)

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

配当成長モデルを用いた数値例

配当成長率(g)= 50 times (1 - 02) = 40

株主資本コスト= 50 10000 + 40 = 45 と計算される

23

翌期の1株当たり予想配当 50円

株価 10000円

ROE 50

配当性向 20

3(4)算定上の留意事項

留意点①CAPMに過度な信頼を置かないこと 特定の手法を用いさえすれば株主資本コストの推計結果の妥当性が

保証されるわけではないbull (例)CAPMを使えば妥当な推計値が得られるわけではない

特定の手法を継続して用いることによって算出結果の信頼性が増すものではないbull (例)CAPMを毎年使い続ければ精度が向上するものではない

CAPMを採用している企業でも配当成長モデルによる株主資本コストの推計を試す意義は大きいbull CAPMは過去の株価の推移配当成長モデルは現在の株価を用

いるrarr2つの異なる情報から資本コストを推計することができる

24

3(4)算定上の留意事項

CAPMのβ値はデータの集計期間等によって大きく異なる可能性がある ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

(東証第一部上場会社対象)

25

期間業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

201404-201903 0685 1318 1402 0722 0744

200904-201403 0711 1295 1141 0549 0563

200404-200903 0210 1081 1294 0713 0634

199904-2004-03 -0091 0499 0887 0411 0292

199404-199903 0182 0969 1332 0887 0561

198904-199403 1002 1017 0936 1084 0825

全期間 0545 1025 1121 0788 0640

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(4)算定上の留意事項

業種

期間

電気機器 輸送用機器 銀行 通信 精密機械

1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動

2001年5~8月 07924 03674 06096 07978 06391

8~11月 07630 05086 05172 06367 08286

11~2002年2月 07381 06376 05638 06457 06820

2~5月 07548 04907 06162 06007 06110

5~8月 08143 06928 06543 05699 07137

26

出典内閣府「今週の指標No368 業種別株価の決定係数とベータ値からみる本邦株式市場の動向」(平成14年8月19日)一部抜粋

CAPMにおけるベータ値の推計はモデルの決定係数(R2)が低ければ説明力が低い

3(4)算定上の留意事項

投資家との対話 ~ビルディングブロック方式~ 株主資本コスト=長期国債利回り+一定のリスクプレミアム 自社に適用すべきリスクプレミアムを投資家と率直に議論 リスクプレミアムの水準は5から8程度が標準 業種自社の業務特性に応じて自社の事業リスクが平均より高め

か低めかに応じて設定する ある程度幅をもって(つまりレンジで)資本コストを把握してお

くことにも合理性がある

27

CAPMの限界を補う必要があるrArr投資家からのヒアリングで修正する

資本コストの把握方法(3)

3(4)算定上の留意事項

ビルディングブロック法のイメージ

28

50

30~40

03

合計株主資本コスト(例) 83~93

リスクフリーレート

マーケットリスクプレミアム

個社のリスクプレミアム 見直し(内部)

見直し(外部)

見直し(外部)

3(4)算定上の留意事項

留意点②エクイティスプレッドを用いた分析の留意点 エクイティスプレッド=ROE-株主資本コスト エクイティスプレッドが高いほど望ましいがそれをどのように

活用することができるか

hArrエクイティスプレッドがプラスであれば問題ないと判断してよいのか

29

3(4)算定上の留意事項

30

エクイティスプレッド = ROE ndash 株主資本コスト

マーケットリスクプレミアム times 120631120631 + 03

(例)6と想定

各企業で異なるベータ

国債利回りをベース

自社ROE

エクイティスプレッドの求め方

(出所)大和証券ウェブサイトを一部改変

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

39Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 23: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

22

配当成長モデルに基づく株主資本コストの算定式の例

119903119903119890119890 = 1198631198631119875119875+119892119892

re 株主資本コストD1 翌期の1株当たり予想配当P 株価g 配当成長率

なお成長率としてサステナブル成長率(財務構成を変えずに内部留保により実現可能な成長率)を用いれば配当成長率は

119892119892 = 119877119877119877119877119864119864 times 1 minus配当性向 として計算することができる

119875119875 =1198631198631

119903119903119890119890 minus 119892119892

配当割引モデルをreについて解く

1ー配当性向rArr内部留保割合

資本コストの把握方法(2)

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

配当成長モデルを用いた数値例

配当成長率(g)= 50 times (1 - 02) = 40

株主資本コスト= 50 10000 + 40 = 45 と計算される

23

翌期の1株当たり予想配当 50円

株価 10000円

ROE 50

配当性向 20

3(4)算定上の留意事項

留意点①CAPMに過度な信頼を置かないこと 特定の手法を用いさえすれば株主資本コストの推計結果の妥当性が

保証されるわけではないbull (例)CAPMを使えば妥当な推計値が得られるわけではない

特定の手法を継続して用いることによって算出結果の信頼性が増すものではないbull (例)CAPMを毎年使い続ければ精度が向上するものではない

CAPMを採用している企業でも配当成長モデルによる株主資本コストの推計を試す意義は大きいbull CAPMは過去の株価の推移配当成長モデルは現在の株価を用

いるrarr2つの異なる情報から資本コストを推計することができる

24

3(4)算定上の留意事項

CAPMのβ値はデータの集計期間等によって大きく異なる可能性がある ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

(東証第一部上場会社対象)

25

期間業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

201404-201903 0685 1318 1402 0722 0744

200904-201403 0711 1295 1141 0549 0563

200404-200903 0210 1081 1294 0713 0634

199904-2004-03 -0091 0499 0887 0411 0292

199404-199903 0182 0969 1332 0887 0561

198904-199403 1002 1017 0936 1084 0825

全期間 0545 1025 1121 0788 0640

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(4)算定上の留意事項

業種

期間

電気機器 輸送用機器 銀行 通信 精密機械

1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動

2001年5~8月 07924 03674 06096 07978 06391

8~11月 07630 05086 05172 06367 08286

11~2002年2月 07381 06376 05638 06457 06820

2~5月 07548 04907 06162 06007 06110

5~8月 08143 06928 06543 05699 07137

26

出典内閣府「今週の指標No368 業種別株価の決定係数とベータ値からみる本邦株式市場の動向」(平成14年8月19日)一部抜粋

CAPMにおけるベータ値の推計はモデルの決定係数(R2)が低ければ説明力が低い

3(4)算定上の留意事項

投資家との対話 ~ビルディングブロック方式~ 株主資本コスト=長期国債利回り+一定のリスクプレミアム 自社に適用すべきリスクプレミアムを投資家と率直に議論 リスクプレミアムの水準は5から8程度が標準 業種自社の業務特性に応じて自社の事業リスクが平均より高め

か低めかに応じて設定する ある程度幅をもって(つまりレンジで)資本コストを把握してお

くことにも合理性がある

27

CAPMの限界を補う必要があるrArr投資家からのヒアリングで修正する

資本コストの把握方法(3)

3(4)算定上の留意事項

ビルディングブロック法のイメージ

28

50

30~40

03

合計株主資本コスト(例) 83~93

リスクフリーレート

マーケットリスクプレミアム

個社のリスクプレミアム 見直し(内部)

見直し(外部)

見直し(外部)

3(4)算定上の留意事項

留意点②エクイティスプレッドを用いた分析の留意点 エクイティスプレッド=ROE-株主資本コスト エクイティスプレッドが高いほど望ましいがそれをどのように

活用することができるか

hArrエクイティスプレッドがプラスであれば問題ないと判断してよいのか

29

3(4)算定上の留意事項

30

エクイティスプレッド = ROE ndash 株主資本コスト

マーケットリスクプレミアム times 120631120631 + 03

(例)6と想定

各企業で異なるベータ

国債利回りをベース

自社ROE

エクイティスプレッドの求め方

(出所)大和証券ウェブサイトを一部改変

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

39Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 24: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)

配当成長モデルを用いた数値例

配当成長率(g)= 50 times (1 - 02) = 40

株主資本コスト= 50 10000 + 40 = 45 と計算される

23

翌期の1株当たり予想配当 50円

株価 10000円

ROE 50

配当性向 20

3(4)算定上の留意事項

留意点①CAPMに過度な信頼を置かないこと 特定の手法を用いさえすれば株主資本コストの推計結果の妥当性が

保証されるわけではないbull (例)CAPMを使えば妥当な推計値が得られるわけではない

特定の手法を継続して用いることによって算出結果の信頼性が増すものではないbull (例)CAPMを毎年使い続ければ精度が向上するものではない

CAPMを採用している企業でも配当成長モデルによる株主資本コストの推計を試す意義は大きいbull CAPMは過去の株価の推移配当成長モデルは現在の株価を用

いるrarr2つの異なる情報から資本コストを推計することができる

24

3(4)算定上の留意事項

CAPMのβ値はデータの集計期間等によって大きく異なる可能性がある ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

(東証第一部上場会社対象)

25

期間業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

201404-201903 0685 1318 1402 0722 0744

200904-201403 0711 1295 1141 0549 0563

200404-200903 0210 1081 1294 0713 0634

199904-2004-03 -0091 0499 0887 0411 0292

199404-199903 0182 0969 1332 0887 0561

198904-199403 1002 1017 0936 1084 0825

全期間 0545 1025 1121 0788 0640

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(4)算定上の留意事項

業種

期間

電気機器 輸送用機器 銀行 通信 精密機械

1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動

2001年5~8月 07924 03674 06096 07978 06391

8~11月 07630 05086 05172 06367 08286

11~2002年2月 07381 06376 05638 06457 06820

2~5月 07548 04907 06162 06007 06110

5~8月 08143 06928 06543 05699 07137

26

出典内閣府「今週の指標No368 業種別株価の決定係数とベータ値からみる本邦株式市場の動向」(平成14年8月19日)一部抜粋

CAPMにおけるベータ値の推計はモデルの決定係数(R2)が低ければ説明力が低い

3(4)算定上の留意事項

投資家との対話 ~ビルディングブロック方式~ 株主資本コスト=長期国債利回り+一定のリスクプレミアム 自社に適用すべきリスクプレミアムを投資家と率直に議論 リスクプレミアムの水準は5から8程度が標準 業種自社の業務特性に応じて自社の事業リスクが平均より高め

か低めかに応じて設定する ある程度幅をもって(つまりレンジで)資本コストを把握してお

くことにも合理性がある

27

CAPMの限界を補う必要があるrArr投資家からのヒアリングで修正する

資本コストの把握方法(3)

3(4)算定上の留意事項

ビルディングブロック法のイメージ

28

50

30~40

03

合計株主資本コスト(例) 83~93

リスクフリーレート

マーケットリスクプレミアム

個社のリスクプレミアム 見直し(内部)

見直し(外部)

見直し(外部)

3(4)算定上の留意事項

留意点②エクイティスプレッドを用いた分析の留意点 エクイティスプレッド=ROE-株主資本コスト エクイティスプレッドが高いほど望ましいがそれをどのように

活用することができるか

hArrエクイティスプレッドがプラスであれば問題ないと判断してよいのか

29

3(4)算定上の留意事項

30

エクイティスプレッド = ROE ndash 株主資本コスト

マーケットリスクプレミアム times 120631120631 + 03

(例)6と想定

各企業で異なるベータ

国債利回りをベース

自社ROE

エクイティスプレッドの求め方

(出所)大和証券ウェブサイトを一部改変

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

39Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

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連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
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  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
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  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
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  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
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  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
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  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 25: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

3(4)算定上の留意事項

留意点①CAPMに過度な信頼を置かないこと 特定の手法を用いさえすれば株主資本コストの推計結果の妥当性が

保証されるわけではないbull (例)CAPMを使えば妥当な推計値が得られるわけではない

特定の手法を継続して用いることによって算出結果の信頼性が増すものではないbull (例)CAPMを毎年使い続ければ精度が向上するものではない

CAPMを採用している企業でも配当成長モデルによる株主資本コストの推計を試す意義は大きいbull CAPMは過去の株価の推移配当成長モデルは現在の株価を用

いるrarr2つの異なる情報から資本コストを推計することができる

24

3(4)算定上の留意事項

CAPMのβ値はデータの集計期間等によって大きく異なる可能性がある ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

(東証第一部上場会社対象)

25

期間業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

201404-201903 0685 1318 1402 0722 0744

200904-201403 0711 1295 1141 0549 0563

200404-200903 0210 1081 1294 0713 0634

199904-2004-03 -0091 0499 0887 0411 0292

199404-199903 0182 0969 1332 0887 0561

198904-199403 1002 1017 0936 1084 0825

全期間 0545 1025 1121 0788 0640

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(4)算定上の留意事項

業種

期間

電気機器 輸送用機器 銀行 通信 精密機械

1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動

2001年5~8月 07924 03674 06096 07978 06391

8~11月 07630 05086 05172 06367 08286

11~2002年2月 07381 06376 05638 06457 06820

2~5月 07548 04907 06162 06007 06110

5~8月 08143 06928 06543 05699 07137

26

出典内閣府「今週の指標No368 業種別株価の決定係数とベータ値からみる本邦株式市場の動向」(平成14年8月19日)一部抜粋

CAPMにおけるベータ値の推計はモデルの決定係数(R2)が低ければ説明力が低い

3(4)算定上の留意事項

投資家との対話 ~ビルディングブロック方式~ 株主資本コスト=長期国債利回り+一定のリスクプレミアム 自社に適用すべきリスクプレミアムを投資家と率直に議論 リスクプレミアムの水準は5から8程度が標準 業種自社の業務特性に応じて自社の事業リスクが平均より高め

か低めかに応じて設定する ある程度幅をもって(つまりレンジで)資本コストを把握してお

くことにも合理性がある

27

CAPMの限界を補う必要があるrArr投資家からのヒアリングで修正する

資本コストの把握方法(3)

3(4)算定上の留意事項

ビルディングブロック法のイメージ

28

50

30~40

03

合計株主資本コスト(例) 83~93

リスクフリーレート

マーケットリスクプレミアム

個社のリスクプレミアム 見直し(内部)

見直し(外部)

見直し(外部)

3(4)算定上の留意事項

留意点②エクイティスプレッドを用いた分析の留意点 エクイティスプレッド=ROE-株主資本コスト エクイティスプレッドが高いほど望ましいがそれをどのように

活用することができるか

hArrエクイティスプレッドがプラスであれば問題ないと判断してよいのか

29

3(4)算定上の留意事項

30

エクイティスプレッド = ROE ndash 株主資本コスト

マーケットリスクプレミアム times 120631120631 + 03

(例)6と想定

各企業で異なるベータ

国債利回りをベース

自社ROE

エクイティスプレッドの求め方

(出所)大和証券ウェブサイトを一部改変

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

39Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 26: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

3(4)算定上の留意事項

CAPMのβ値はデータの集計期間等によって大きく異なる可能性がある ベータ値(データ例2014年4月~2019年3月の5年間)

(東証第一部上場会社対象)

25

期間業種 電力ガス 保険 銀行 水産農林 医薬品

201404-201903 0685 1318 1402 0722 0744

200904-201403 0711 1295 1141 0549 0563

200404-200903 0210 1081 1294 0713 0634

199904-2004-03 -0091 0499 0887 0411 0292

199404-199903 0182 0969 1332 0887 0561

198904-199403 1002 1017 0936 1084 0825

全期間 0545 1025 1121 0788 0640

出典新井富雄「資本コスト推定の実際(その1)」(証券アナリストジャーナル2019年7月号)より一部抜粋

3(4)算定上の留意事項

業種

期間

電気機器 輸送用機器 銀行 通信 精密機械

1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動

2001年5~8月 07924 03674 06096 07978 06391

8~11月 07630 05086 05172 06367 08286

11~2002年2月 07381 06376 05638 06457 06820

2~5月 07548 04907 06162 06007 06110

5~8月 08143 06928 06543 05699 07137

26

出典内閣府「今週の指標No368 業種別株価の決定係数とベータ値からみる本邦株式市場の動向」(平成14年8月19日)一部抜粋

CAPMにおけるベータ値の推計はモデルの決定係数(R2)が低ければ説明力が低い

3(4)算定上の留意事項

投資家との対話 ~ビルディングブロック方式~ 株主資本コスト=長期国債利回り+一定のリスクプレミアム 自社に適用すべきリスクプレミアムを投資家と率直に議論 リスクプレミアムの水準は5から8程度が標準 業種自社の業務特性に応じて自社の事業リスクが平均より高め

か低めかに応じて設定する ある程度幅をもって(つまりレンジで)資本コストを把握してお

くことにも合理性がある

27

CAPMの限界を補う必要があるrArr投資家からのヒアリングで修正する

資本コストの把握方法(3)

3(4)算定上の留意事項

ビルディングブロック法のイメージ

28

50

30~40

03

合計株主資本コスト(例) 83~93

リスクフリーレート

マーケットリスクプレミアム

個社のリスクプレミアム 見直し(内部)

見直し(外部)

見直し(外部)

3(4)算定上の留意事項

留意点②エクイティスプレッドを用いた分析の留意点 エクイティスプレッド=ROE-株主資本コスト エクイティスプレッドが高いほど望ましいがそれをどのように

活用することができるか

hArrエクイティスプレッドがプラスであれば問題ないと判断してよいのか

29

3(4)算定上の留意事項

30

エクイティスプレッド = ROE ndash 株主資本コスト

マーケットリスクプレミアム times 120631120631 + 03

(例)6と想定

各企業で異なるベータ

国債利回りをベース

自社ROE

エクイティスプレッドの求め方

(出所)大和証券ウェブサイトを一部改変

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

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株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 27: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

3(4)算定上の留意事項

業種

期間

電気機器 輸送用機器 銀行 通信 精密機械

1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動 1198771198772 変動

2001年5~8月 07924 03674 06096 07978 06391

8~11月 07630 05086 05172 06367 08286

11~2002年2月 07381 06376 05638 06457 06820

2~5月 07548 04907 06162 06007 06110

5~8月 08143 06928 06543 05699 07137

26

出典内閣府「今週の指標No368 業種別株価の決定係数とベータ値からみる本邦株式市場の動向」(平成14年8月19日)一部抜粋

CAPMにおけるベータ値の推計はモデルの決定係数(R2)が低ければ説明力が低い

3(4)算定上の留意事項

投資家との対話 ~ビルディングブロック方式~ 株主資本コスト=長期国債利回り+一定のリスクプレミアム 自社に適用すべきリスクプレミアムを投資家と率直に議論 リスクプレミアムの水準は5から8程度が標準 業種自社の業務特性に応じて自社の事業リスクが平均より高め

か低めかに応じて設定する ある程度幅をもって(つまりレンジで)資本コストを把握してお

くことにも合理性がある

27

CAPMの限界を補う必要があるrArr投資家からのヒアリングで修正する

資本コストの把握方法(3)

3(4)算定上の留意事項

ビルディングブロック法のイメージ

28

50

30~40

03

合計株主資本コスト(例) 83~93

リスクフリーレート

マーケットリスクプレミアム

個社のリスクプレミアム 見直し(内部)

見直し(外部)

見直し(外部)

3(4)算定上の留意事項

留意点②エクイティスプレッドを用いた分析の留意点 エクイティスプレッド=ROE-株主資本コスト エクイティスプレッドが高いほど望ましいがそれをどのように

活用することができるか

hArrエクイティスプレッドがプラスであれば問題ないと判断してよいのか

29

3(4)算定上の留意事項

30

エクイティスプレッド = ROE ndash 株主資本コスト

マーケットリスクプレミアム times 120631120631 + 03

(例)6と想定

各企業で異なるベータ

国債利回りをベース

自社ROE

エクイティスプレッドの求め方

(出所)大和証券ウェブサイトを一部改変

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

39Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 28: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

3(4)算定上の留意事項

投資家との対話 ~ビルディングブロック方式~ 株主資本コスト=長期国債利回り+一定のリスクプレミアム 自社に適用すべきリスクプレミアムを投資家と率直に議論 リスクプレミアムの水準は5から8程度が標準 業種自社の業務特性に応じて自社の事業リスクが平均より高め

か低めかに応じて設定する ある程度幅をもって(つまりレンジで)資本コストを把握してお

くことにも合理性がある

27

CAPMの限界を補う必要があるrArr投資家からのヒアリングで修正する

資本コストの把握方法(3)

3(4)算定上の留意事項

ビルディングブロック法のイメージ

28

50

30~40

03

合計株主資本コスト(例) 83~93

リスクフリーレート

マーケットリスクプレミアム

個社のリスクプレミアム 見直し(内部)

見直し(外部)

見直し(外部)

3(4)算定上の留意事項

留意点②エクイティスプレッドを用いた分析の留意点 エクイティスプレッド=ROE-株主資本コスト エクイティスプレッドが高いほど望ましいがそれをどのように

活用することができるか

hArrエクイティスプレッドがプラスであれば問題ないと判断してよいのか

29

3(4)算定上の留意事項

30

エクイティスプレッド = ROE ndash 株主資本コスト

マーケットリスクプレミアム times 120631120631 + 03

(例)6と想定

各企業で異なるベータ

国債利回りをベース

自社ROE

エクイティスプレッドの求め方

(出所)大和証券ウェブサイトを一部改変

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

39Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 29: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

3(4)算定上の留意事項

ビルディングブロック法のイメージ

28

50

30~40

03

合計株主資本コスト(例) 83~93

リスクフリーレート

マーケットリスクプレミアム

個社のリスクプレミアム 見直し(内部)

見直し(外部)

見直し(外部)

3(4)算定上の留意事項

留意点②エクイティスプレッドを用いた分析の留意点 エクイティスプレッド=ROE-株主資本コスト エクイティスプレッドが高いほど望ましいがそれをどのように

活用することができるか

hArrエクイティスプレッドがプラスであれば問題ないと判断してよいのか

29

3(4)算定上の留意事項

30

エクイティスプレッド = ROE ndash 株主資本コスト

マーケットリスクプレミアム times 120631120631 + 03

(例)6と想定

各企業で異なるベータ

国債利回りをベース

自社ROE

エクイティスプレッドの求め方

(出所)大和証券ウェブサイトを一部改変

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

39Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 30: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

3(4)算定上の留意事項

留意点②エクイティスプレッドを用いた分析の留意点 エクイティスプレッド=ROE-株主資本コスト エクイティスプレッドが高いほど望ましいがそれをどのように

活用することができるか

hArrエクイティスプレッドがプラスであれば問題ないと判断してよいのか

29

3(4)算定上の留意事項

30

エクイティスプレッド = ROE ndash 株主資本コスト

マーケットリスクプレミアム times 120631120631 + 03

(例)6と想定

各企業で異なるベータ

国債利回りをベース

自社ROE

エクイティスプレッドの求め方

(出所)大和証券ウェブサイトを一部改変

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

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株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 31: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

3(4)算定上の留意事項

30

エクイティスプレッド = ROE ndash 株主資本コスト

マーケットリスクプレミアム times 120631120631 + 03

(例)6と想定

各企業で異なるベータ

国債利回りをベース

自社ROE

エクイティスプレッドの求め方

(出所)大和証券ウェブサイトを一部改変

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

39Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 32: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

3(4)算定上の留意事項

留意点②つづき資本コスト()と目標ROE()のとらえ方 株主資本コストを8とすると

bull 「何に対して」「何が」8あればよいのか 投資家目線では「収益」の「投資」に対するリターン 企業側は「収益」の「簿価純資産」に対するリターン

rarr同じ目線と考えてよいのだろうか

31

<ポイント>隠れた株主資本コスト株価に対する予想(期待)利益の割合でもあるrArr 投資家の期待する利益と株価の関係(期待されるPER)が資本コストに対応している

資本コストの把握方法(4)

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

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株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

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4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

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4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 33: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

3(4)算定上の留意事項

【事例1】A社は新規上場(IPO)により取引所に上場した A社のIPO時価総額1000円times1000万株=100億円と仮定する A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 A社の自己資本(簿価純資産)≒時価総額とするとIPO時の投資家は

100億円times8=8億円の利益を期待すると考えてよい A社が8億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=8100=8 となり投資家が期待する利益と一致する 【結論】簿価純資産≒時価総額つまりPBRが1に近い状態であれば

株主資本コスト()を上回るROE()を目標とすることは合理的

32

3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

39Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
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3(4)算定上の留意事項

【事例2】A社の上場後A社の株価は1500円(15倍)に高騰 A社の時価総額1500円times1000万株=150億円とし負債がない

と仮定 A社の資本コストが8と算定されたものと仮定

【A社の利益目標とROE】 現時点でA社に投資した投資家は

150億円times8=12億円の利益がないと期待利回りに達しない A社が12億円の利益を獲得すればA社のROEは

ROE=12100=12=8times15 が必要となる 【結論】PBRが1よりも大きい場合ROE()=資本コスト()で

あっても投資家を本当に満足させられていないかもしれない

33

<ポイント>資本コストが8なら投資家は150億円times8=12億円の利益を要求するrArr 期待PER=150億円12億円=125倍と表裏一体の関係

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

39Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

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連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
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  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
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  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
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  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 35: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

PBR>1のときの特殊事情

現在の株価を119875119875簿価純資産を1198611198610株式資本コストを119903119903成長率を119892119892とすると株価(PBR)と割引現在価値との関係式は以下のとおり

(いわゆる残余利益モデル)

1198751198751198611198610

= 1 +119877119877119877119877119864119864 minus 119903119903119903119903 minus 119892119892

つまり計算上はPBR>1 であれば市場は ROE>株主資本コスト

と評価しているはずrArr建前上の評価と実際の投資家の感覚が違うという難しさ

34

3(4)算定上の留意事項

PBR残余利益(毎年の株主資本コストを超えて獲得できた利益)

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

39Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 36: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

3(4)算定上の留意事項

参考別の数値例

35

平成30年3月期 平成31年3月期

純資産額 1000000 1000000

当期純利益 85000 85000

時価総額 1800000 1800000

配当金 - 35000

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

39Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

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連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 37: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

3(4)算定上の留意事項

諸数値を計算してみる ROE=850001000000=85 この1年間(平成31年3月末までの1年間)の投資家の投資利回り

は 350001800000=194 資本コストが8とするとこの1年で投資をする投資家が期待す

るリターンは 1800000times8=144000 ROEベースで換算すると 1440001000000=144 PBR=18000001000000=18(倍) これは資本コスト8times18=144として計算することもできる

これをベースに投資家の期待リターンに応える水準のROEを要検討

36

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

39Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

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連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

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  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 38: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(1) (2) 目標とする経営指標

bull 当社は限られた経営資源を有効活用することで利益の最大化株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており目標とする経営指標としては資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えておりますまた当社はROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており中長期的に株主資本コスト(現状8)を上回るROEを達成することを経営目標としております

37

具体的な資本コストの数値を表示するかどうかrArr資本コスト概念を社内で存分に活用できるようになるまでは不要では

開示文言は定型化のおそれあり

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

39Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 39: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

3(4)算定上の留意事項

資本コストの開示例(2) 資本コストと資本利益率

bull 当社グループの資本コストは株主資本コスト(約38)及び加重平均資本コスト(約31)であります当社グループとして当社の自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回ることを目標といたします

38

株主資本コストと加重平均資本コストの両方を開示する例

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

39Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 40: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

39Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

株主

債権者有利子負債

(D)

株主資本(E)

事業投資

貸付社債購入

金利

出資

配当+キャピタルゲイン

企業 投資家

株主資本コスト

負債コスト

加重平均資本コスト

株主(投資家)との対話 rArr 株主資本コスト社内での活用(意思決定会計業績評価) rArr 加重平均資本コスト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
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  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
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  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
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  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
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  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
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  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
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  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 41: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC(加重平均資本コスト)の公式

WACC = 負債コストtimes(1-税率)(注)times負債比率

+株主資本コストtimes株主資本比率

負債比率= D (D+E)株主資本比率= E (D+E)

ここで D=有利子負債の時価(≒簿価)E=株式の時価総額

40

(注)節税効果

収益 100

配当 60税金 40

収益 60

利子 60

支払利子は法人税法上損金算入できるので配当に比べ利子を支払うために必要な収益の額が税金の金額だけ少なくてすむ

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 42: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

WACC = rE timesE

E + D+ rD 1 minus TC times

DE + D

株主資本コスト rE ∶ 20負債コスト rD ∶ 5株主資本(時価)E ∶ 100万円(100円 times 10000株)負債 時価 D ∶ 1000万円法人実効税率 TC ∶ 40

20 times 100万円100万円 +1000万円

+ 5 times 1 minus 40 times 1000万円100万円 +1000万円

= 45

41

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 43: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

NPV(正味現在価値法) WACCを割引率として投資の予想キャッシュフローを現在価値に

割り引いた額の総額が投資額を上回れば投資を実行するのが合理的

42

1年後 2年後 4年後

FCF1 FCF2 FCF3 FCF4 FCF5

3年後 5年後現時点

FCF1 1 + r ^1FCF2 1 + r ^2

FCF5 1 + r ^5

FCF3 1 + r ^3FCF4 1 + r ^4

FCFPrime3 1 + r ^3

FCFPrime3

プロジェクトが生み出すキャッシュインフロー

投資に必要なキャッシュアウトフロー

プロジェクトが生み出すCF(IN)の現在価値

投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV=プロジェクトからのCF(IN)の現在価値-投資に必要なCF(OUT)の現在価値

NPV(Net Present Value)とはプロジェクトが生み出すCFの現在価値と投資に必要なCFの現在価値の差額である

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
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4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

IRR(内部利益率法) NPV=0となるような割引率=IRR IRR > WACC であれば投資は実行すべき まさにWACCがハードルレートとして機能

43

プロジェクトや投資を行うべきかどうかの意思決定rArr企業価値を「増やす」か「減らす」かhArrプロジェクトの正味現在価値が「プラス」か「マイナス」かhArrプロジェクトのリターン(IRR)が資本コストより「上」か「下」か

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 45: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

44

105100

100円times105-105円=0

100円が1年後に105円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(12)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

105円105-100円=0

5

割引率

目標リターン

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
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  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
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  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 46: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

45

102100

100円times102-105円<0

100円が1年後に102円

現在 1年後

簡単な例でイメージ(22)

現在の100円と1年後105円の価値が同じ

102円105-100円<0

2

割引率

目標リターン

IRR2<割引率5

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
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  • 3(4)算定上の留意事項
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  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
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  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
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  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
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  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
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  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
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  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
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  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 47: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率とNPVの関係

46

0

NPV

r1 IRR r2 割引率

NPV=0となる点の割引率がIRR

期待収益率=r1のときNPV>0かつIRR>r1

rarr採用すべきプロジェクト

期待収益率=r2のときNPV<0かつIRR<r2rarr採用すべきでないプロジェクト

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 48: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(1)

47

0

NPV

100

IRR=7 8 割引率

資本コスト(割引率)6~8IRR=7とする

NPVがプラスの可能性がある(例-100万円~100万円)IRRが資本コストのレンジ内

rArrプロジェクトは許容範囲内6

-100

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
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4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レンジでとらえる(2)

48

0

NPV

8IRR=7

9 割引率

資本コスト(割引率)8~9IRR=7とする

NPVが常にマイナス(例-120万円~-100万円)IRRが資本コストのレンジを下回る

rArrプロジェクトは却下-100

-120

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

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4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 50: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

割引率として常に全社WACCを使うことが適切なのか 一見同じような将来キャッシュフローに見えてもその確度(手堅

さ)が違えば投資すべきか否かの判断は異なるのでは 確度が低い=将来キャッシュフローの変動が大きい=リスクが大き

いrarr割引率は相対的に高くなるはず(リスクプレミアム) 事業リスクに応じて割引率を傾斜配分する工夫も有効では

特に多角的事業経営の場合に要検討

49

割引率の過小評価 NPVの過大評価 不採算な案件を採用するリスク

割引率の過大評価 NPVの過小評価 採算性のある案件を逃すリスク

割引率の過小評価 EVAの過大評価 貢献度の小さい部門の過大評価

割引率の過大評価 EVAの過小評価 貢献度の大きい部門の過小評価

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 51: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業ポートフォリオのリスクを分析する リスク特性の異なる事業ごとに対応する資本コストを考えては

50

市場成長率

相対的マーケットシェア率 高

問題児

金のなる木負け犬

花形事業事業A

事業D 事業C

事業B

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 52: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

51

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 53: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

52

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 54: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

53

(出典 グループガバナンスシテムに関する実務指針 (グループガイドライン) 2019年6月28日策定 経済産業省)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 55: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

54

資産A(ビジネスリスク)

ビジネスリスクとはビジネスからのリターン(キャッシュフロー)の変動性であり調達する負債自己資本の比率に左右されないはずである

負債D

資本E

債権者は自己資本比率にはそこまで関心がない(株主に優先して弁済が受けられるから)

負債が多いと財務リスクが高まるため負債比率に応じてβ値が高まる(レバードβ)

債権者

株主レバードβ

事業リスクのみを反映したβに変換

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 56: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

55

類似事業を営む競合他社のβ情報の収集

レバレッジのないβ情報の作成

自社のレバレッジに合わせて修正

目標事業部(セグメント)ごとのWACC

β値はレバレッジの影響を受けるためそのまま

使えない

いったんレバレッジの

影響を除去する

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 57: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

56

資産100

自己資本50

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(12)

資産100

自己資本100

負債50

A社とB社のそれぞれがまったく同じ事業を営んでいるとする(事業価値同じ)A社の自己資本の50 B社の自己資本50に投資したとして価値の変化をみる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 58: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

57

A社 レバレッジ0 B社 レバレッジ1

簡単な例でイメージ(22)

50

自己資本の価値

事業の価値 100 100

50

50

負債

B社の自己資本の方が傾きが大きいrArrリスクが大きい

傾き12 傾き1

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 59: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

58

β[a]

全社 B事業部

A事業部

C事業部

A事業部と同業の他社

C事業部と同業の他社

B事業部と同業の他社

アンレバードβ

アンレバードβ

アンレバードβ

β[b]

β[c]

β

全社βでは個々の事業部の固有リスクを適切に反映した意思決定ができない可能性がある

事業部のリスクは事業部固有のβで測定その事業のみを営む他社のアンレバードベータを算定し事業部ごとの資本構成(負債比率)を用いてレバードβを算出

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 60: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

レバードベータ(βL)とアンレバードベータ(βU)の関係式

βL = βU times 1 + 1 minus t DE

βU = βL 1 + 1 minus t DE

(D有利子負債の簿価E株主価値の時価t実効税率)

59

レバレッジが0であればβUとβLの値は一致するレバレッジが大きくなるとレバレッジに比例してβLが大きくなる

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 61: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

60

リスク

短期金融資産

事業A

期待リターン資本コスト

全社平均資本コスト 事業B 事業C

資本コスト(要求収益率)

(出典)新井富雄「資本コストとは」(証券アナリストジャーナル2019年5月号)

(例)

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 62: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

(誤) 全社資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止(点線より上か下かで判断する)

(正) 当該事業部の資本コストを上回る収益をあげている事業部は続行下回る収益をあげている事業部は廃止

(右上がりの資本コスト直線より上か下かで判断する)

61

事業部 A 廃止 事業部 B 続行 事業部 C 続行

事業部 A 続行 事業部 B 続行 事業部 C 廃止

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

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Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

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アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

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  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 63: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

数値例(計算過程は次スライドを参照)

62

A事業部 B事業部 C事業部 全社

業界平均のβ(アンレバード)

075 120 150

事業部の負債比率 150 0429 0111 050

各事業部のβ(レバード)

1425 1509 1600 1500

株主資本コスト 885 935 990 930

各事業部のWACC 426 691 903 660

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

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  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
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  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
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  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
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  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
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  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
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  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
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  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
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  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 64: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

計算資料(補足) リスクフリーレート 030 税率 40

マーケットリスクプレミアム 600 負債コスト 200

63

リスクフリーレート 030マーケットリスクプレミアム 600税率 40負債コスト 200

A B C 全社業界平均β(アンレバード) 075 120 150自己資本 4000 7000 9000 20000負債 6000 3000 1000 10000負債比率 1500 0429 0111 0500事業部β(レバード) 1425 1509 1600 1500株主資本コスト(CAPM) 885 935 990 930事業部WACC 426 691 903 660

Sheet1

Sheet2

Sheet3

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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リスクフリーレート 030
マーケットリスクプレミアム 600
税率 ゼイリツ 40
負債コスト フサイ 200
A B C 全社 ゼンシャ
業界平均β(アンレバード) ギョウカイ ヘイキン 075 120 150
自己資本 ジコ シホン 4000 7000 9000 20000
負債 フサイ 6000 3000 1000 10000
負債比率 フサイ ヒリツ 1500 0429 0111 0500
事業部β(レバード) ジギョウ ブ 1425 1509 1600 1500
株主資本コスト(CAPM) カブヌシ シホン 885 935 990 930
事業部WACC ジギョウ ブ 426 691 903 660
Page 65: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>事業部に負債自己資本を割振るときの考え方 事業部ごとに貸借対照表を作成する 複数のシナリオアプローチから考える

bull (例)先ほどのA事業部の例の場合

64

(ケース1)全社平均 (ケース2)業界平均 (ケース3)分社仮定

負債 6667 4000 6000

自己資本 3333 6000 6000

合計 10000 10000 12000

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
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4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

<補足>レンジでの事業部資本コストの考え方(例)bull 全社資本コスト事業部レバレッジ(さらには当該事業部の

業界平均のベータ値)等の組み合わせにより事業部の資本コストもある程度の幅をもってとらえることとなる

65

事業部レバレッジ逆数

全社資本コスト(β) 高低

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
Page 67: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

事業部(セグメント)ごとのWACCを定める意義 他の事業部の事業リスクに左右されない意思決定

bull 全社WACCを用いた場合(a)他の事業部のWACCが高いとハードルレートが上昇

rarr競合他社が実行する投資案件が却下される(b)他の事業部のWACCが低いとハードルレートが下降

rarr競合他社が控える投資案件を実行してしまう 複数事業による分散リスクに甘んじない

bull 複数の事業展開により全社的にはリスク分散効果があるが(a)保守的な見地からリスク分散を考慮しない(b)リスク分散は全社的な責任を有する経営者に帰属するもので事業部の意思決定に反映させるべきではない

事業の多角化はリスク分散ではなくシナジー創出のため66

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
Page 68: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用

今後の課題海外事業における資本コスト 海外における事業リスク

bull その事業を行う地域の証券市場における資本コストを参照 実際は集計が困難であるため自国に比べてカント

リーリスクプレミアムの調整を考える 収益性を計算する通貨の問題(為替リスクの反映)

bull 海外の事業の収益性を円建で評価するか現地通貨建で評価するか 為替リスクの管理(ヘッジ)の問題 現地通貨ベースの資本コストと円ベースの資本コスト

インフレ率の差に応じて両者の資本コストに差異が生じる

67

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

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86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

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資本コストの見直し 専門家からの評価

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他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

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  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
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  • 3(4)算定上の留意事項
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
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  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
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  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
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4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

例EVAの算定式

経済的付加価値(EVA)= 税引後営業利益(NOPAT)- 投下資本timesWACC

NOPAT = 売上高-営業費用-営業活動に関連する税金

投下資本 = 有利子負債+株主資本

全社的なEVA算定には全社ベースのWACC事業部の業績評価には事業部ごとのWACCの利用を検討

68

資本コストを費用と考えて数値化し資本コストを差し引いても余剰利益があるかどうかを判断する(たとえばEVA や 残余利益)

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
Page 70: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

EVAの算定例

69

times

利益(NOPAT)

資本費用

EVA

投下資本 WACC

EVA=NOPAT-投下資本timesWACC

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
Page 71: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

150 150

1000 10000

5 5

50 500

100 350

70

NOPAT

投下資本

WACC()

資本費用

EVA

損益計算書(PL)

賃借対照表(BS)

PLとBSにまたがる

意思決定の結果

times

会計上の利益が同じでも資産効率が悪いとEVA(残余利益)が低くなる

4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
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4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用

71

(補足)EVAについても 投下資本とWACCに幅をもたせて計算することも可能

(ケース1)通常のWACC事業部投下資本

(ケース2)通常のWACC事業部投下資本+通常の本社機能

(ケース3)保守的WACC事業部投下資本

(ケース4)ストレステスト

NOPAT 150 150 150 150

投下資本 1000 1200 1000 1500

WACC 5 5 8 10

資本費用 50 60 80 150

EVA 100 90 70 0

(注)ストレステストは予測を超えて悪い(厳しい)環境が生じた場合ここでは資本コスト(WACC)の著しい増加と通常以上の本部資産の配賦を想定

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

72

減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
Page 73: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損会計との関係 固定資産またはそのグループに減損が生じている場合その減損損

失の測定の基礎となる使用価値の算定に際して資本コストまたはハードルレートが考慮される

MampA後の「のれん」の減損との関係でも資本コストが問題となる のれんの場合関係する「事業」の価値の算定が問題となる MampA実行時の資本コストと事後的な「のれん」評価時の資本

コストの整合性にも留意が必要

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減損会計では一部 資本コストの考え方がすでに存在する既存の実務との整合性(計算の前提等)に留意が必要

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
Page 74: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

「固定資産の減損に係る会計基準」の概要 減損損失の測定減損損失を認識すべきであると判定された資産又

は資産グループについては帳簿価額を回収可能価額まで減額し当該減少額を減損損失として当期の損失とする(二3)

回収可能価額とは資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(注1-1)

使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値を反映した税引前の利率とする資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクが将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合には割引率に反映させる(二5)

使用価値とは資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値をいう(注1ー4)

73

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
Page 75: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則95条の3の2第1項 減損損失を認識した資産又は資産グループがある場合には当該資

産又は資産グループごとに次の各号に掲げる事項を注記しなければならない

bull 当該資産又は資産グループについて用途種類場所等の概要

bull 減損損失を認識するに至った経緯

bull 減損損失の金額及び主な固定資産の種類ごとの当該金額の内訳

bull 資産グループがある場合には当該資産グループに係る資産をグループ化した方法

bull 回収可能価額が正味売却価額の場合にはその旨及び時価の算定方法回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率

74

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
Page 76: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(45項) 資産又は資産グループに係る将来キャッシュフローがその見積値

から乖離するリスクについて将来キャッシュフローの見積りに反映されていない場合使用価値の算定に際して用いられる割引率は貨幣の時間価値と将来キャッシュフローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したものであり以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなるbull 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを

反映した収益率企業は内部管理目的の経営資料や使用計画等企業が用いている内部の情報に基づき当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する

bull 当該企業に要求される資本コスト資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である

75

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
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  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
Page 77: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用

資本コストの開示の例 「割引率は資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎とし

て129~131となっております」 「割引計算に際しては加重平均資本コストに基づき一定の調整を

した税引前の割引率(前連結会計年度81当連結会計年度74)を使用しております」

「当該資金生成単位または資金生成単位グループの税引前の加重平均資本コスト145~166(当連結会計年度は144)により現在価値に割引いて算定しております」

「割引率は各資金生成単位の税引前の加重平均資本コストを基礎に算定しております(8~12) 」

76

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
Page 78: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

事業リスクの高い業務執行に関する意思決定と資本コスト 事業リスクが高い=資本コストが高いことが認識されているか

bull 事業リスクの高さが定性的定量的に評価されているかbull リスクを十分に考慮した採算性評価がなされているかbull リスクの高さに応じてNPVIRR以外の方法も加味

(投資回収期間等)することも経営判断としては合理的 資本コスト算定の合理的と使用の首尾一貫性

bull 会計処理に用いている株主資本コストとの整合性bull 資本コストの理解不足誤解がないかどうかbull MampA等のプロジェクトに用いている株主資本コストとの整合性bull 外部専門家の意見聴取の必要性

経営判断の原則に関する外部法律事務所の意見書の限界bull 社内弁護士の知見の活用を検討

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

77

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
Page 79: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点

要注意の状況 プロジェクト意思決定に用いている資本コストと経理部門が用

いている資本コストが一致しない(連携がとれていない) リスクの高い事業のWACCが過小評価されている 固定資産の減損損失の計上を回避するために資本コストの見直

し(資本コストの引下げ)が行われた 対応策

各部門で横断的に資本コストが算定共有される体制整備 リスクの高い事業の投資意思決定に関してWACCを用いる際に

は外部の専門家の意見を入手する 資本コストを見直す際には外部の専門家の意見を入手する

またはマーケット情報を広く入手する

78

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
Page 80: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

資本コストとは何かを経営者目線で意識しておく 企業経営の成果に正当性を与える手段

bull 経営が成功していれば資本コストの観点からのサポートが可能(例EVAを用いた分析など)

bull 会計上の利益だけでは投資家の期待に応えているか分からない 経営陣による企業経営の達成度を測定するバロメーター

bull 経営が成功したか否かの感覚を別の観点から分析定量化

rarr 経営陣の味方でもあり経営陣への注意喚起の手段でもある

79

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

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アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

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  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
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  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
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  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
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  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
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  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
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  • 3(4)算定上の留意事項
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  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
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  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
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  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
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  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
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4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

担当役員ごとのミッションに資本コストを関連づける 財務担当役員

bull 資本コスト(特に株主資本コスト)の推計継続的な見直しbull 取締役会(経営会議)への報告共有

業務執行役員bull セグメントごとの事業リスクの適切な把握bull 資本コスト(リターン目標)の適切な配分

セグメント責任者bull 資本コスト(ハードルレート)によるプロジェクト意思決定bull 事業セグメントの適切な業績評価

IR担当役員bull 株主投資家との対話の充実効果的な情報交換

80

バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

81

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
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  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
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  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
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  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
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  • 3(4)算定上の留意事項
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
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  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
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  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
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  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
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  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
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  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
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  • スライド番号 92
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バランスシートの「左側」の責任者と「右側」の責任者(例)

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4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

事業AROIC

事業BROIC

負債コスト

株主資本コスト

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC WACC

事業リスクの把握リターン目標の設定プロジェクト採否決定目標達成に責任を負うrarrCOO(最高執行責任者)の責任

資本構成(レバレッジ)の決定配当政策資金調達案件の採否決定に責任を負うrarrCFOの責任

全社的な責任はCEOが負う

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

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取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

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4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

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アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
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  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
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  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
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  • 3(4)算定上の留意事項
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
Page 83: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

経営陣に何が必要か 資本コストの感覚(コスト意識)を経営行動に浸透させる

bull コストを要しない資源はないrarr経営資源の最適活用の意識 重要な投資意思決定に際し適切に資本コストが活用されているか

bull 経営が成功したか否かの感覚を定量化可視化する手段 資本コストの肌感覚(主要機関投資家の要求水準に敏感になる) 資本コストの把握算定過程の理解検証

bull 専門家(情報ベンダーを含む)の活用の要否を判断する MampAが活発な企業ほど資本コストの重要性が高まる(のれん減損)

rarr 経営陣の味方でもあり客観的な分析ツールでもある

82

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
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4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

取締役会評価における「資本コスト」 チェック項目

bull 重要な投資を決定する際に「資本コスト」をベースにして採算性を判定しているか

bull 重要な投資の採算性を継続的に評価する際に「資本コスト」を用いているか

bull 使用している「資本コスト」の水準が適正か否かについて検証しているか

bull 「資本コスト」水準について監査人が違和感を示していないか

83

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
Page 85: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考1)「第8回企業価値向上表彰の表彰会社の決定について」(2020年1月28日 株式会社東京証券取引所) 資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」

を高いレベルで実践していると認められた会社を表彰bull 大賞(1社)と優秀賞(3社)

表彰理由のポイントbull 株主資本コスト水準を上回るROE目標を設定するとともに資

本コスト水準やその低減に向けての取組みを統合報告書で公表bull NPVEVAROICといった指標の活用投資採択に活用bull 役職員に対するトレーニング社内での普及活動

84

4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
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  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
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  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
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  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
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  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
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4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて

(参考2)「記述情報の開示の充実に向けた研修会」(金融庁)(説明資料が2020年3月6日付で金融庁ウェブサイト上で公表) 「記述情報の開示の好事例集」と同様資本コストについて

bull 自社の資本コスト財務目標(ROE)を具体的に設定bull 資本コストROEの時系列比較bull 資本コストを踏まえた事業ポートフォリオの見直しbull 資本コストを用いた設備投資研究開発投資等の検証の見直しbull 資本コストを上回る利益を実現するための評価基準bull 加重平均資本コストの低下のための最適資本構成の議論

85

資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

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アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

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  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
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  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
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  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
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  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
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  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
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  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
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  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
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  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
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  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
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  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
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  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
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資本コストに関する投資家との対話のポイント 資本コスト水準の「相場観」をつかむ 水準それ自体よりも算定方法活用方法の取組みをアピール

選択的開示に関する留意点 個別の開示よりも決算説明会等の集団的な場面での開示

86

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

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100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

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  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
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  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
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  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
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  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
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  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
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  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
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  • 3(4)算定上の留意事項
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  • 3(4)算定上の留意事項
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
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  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
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  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
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5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項

資本コストの見直し 専門家からの評価

bull アナリストレポートbull その他統計資料等bull 財務アドバイザーの選任bull MampA実施時の検討結果の利用

他社の開示例bull 有価証券報告書bull その他の開示

投資家との対話

87

断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

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(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

中村慎二

パートナー公認会計士

経 歴

Copyright (c) 2019 Shinji Nakamura - Anderson Mori amp Tomotsune -All Rights Reserved

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
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  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
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  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
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  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
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  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
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  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
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断定的開示よりもレンジを意識した開示 幅をもたせることは自然

算定方法および前提と併せた開示 前提が異なれば結果が変わるため

算定目的活用方法と併せた開示 算定方法の合理性は算定方法利用目的に密接に関連

法定開示(有価証券報告書における開示)の是非 経営目標としての開示と経理情報としての開示の関連性に注意 当面は統合報告(CFOからのメッセージ)が効果的か

88

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

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経 歴

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  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
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  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
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  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
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  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
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  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
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  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
Page 90: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

開示例

89

5(2)株主資本コストの開示上の留意事項

事業AROIC 35

(同水準)

事業BROIC 42

(上昇傾向)

負債コスト

05

株主資本コスト7~9

流動固定資産

流動資産

有利子負債

自己資本

事業ROIC38

WACC37~45<

90

2000年弁護士登録

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経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

(2011年7月-2013年7月)

著作物講演等

「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

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  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
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  • 2株主資本コストの役割
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  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
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  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
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  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
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  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
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  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
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  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
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  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
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  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
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  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
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  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
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  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
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  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
Page 91: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

90

2000年弁護士登録

証券発行案件会計上の論点をカバーしたディスクロジャー(金融商品取引法会社法)関連案件を広く取り扱う

連絡先E-mail shinjinakamuraamt-lawcomTel 03-6775-1076Fax 03-6775-2076

経歴職歴 東京大学法学部卒業(1999年) 米国University of Illinois ndash Urbana-

Champaign(会計学修士号)(2008年) KPMG LLPシカゴ事務所Federal Tax部門勤務

(2008年6月-2009年6月) 金融庁総務企画局企業開示課に出向

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「改訂CGコードと企業実務(3完) コーポレートガバナンスコードの改訂と資本コスト」(旬刊商事法務2174号(2018年8月))

「株式評価では企業規模や非流動性をいかに考慮すべきか」(日本CFA協会2015年7月)

保有資格 公認内部監査人 CFA協会認定証券アナリスト 米国イリノイ州公認会計士(RCPA) 日本アクチュアリー会正会員

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  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
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  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
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  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
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  • 3(4)算定上の留意事項
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  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
  • スライド番号 92
Page 92: CGコード改訂で見直される 資本コストの理解と活 …2020/06/01  · CG コード改訂で見直される 資本コストの理解と活用法 ~企業各部門における活用のためのヒント集~

連絡先

アンダーソン毛利友常 法律事務所弁護士公認会計士 中 村 慎 二

100-8136東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

TEL 03-6775-1076FAX 03-6775-2076E-Mail shinjinakamuraamt-lawcomURL httpwwwamt-lawcom

  • CGコード改訂で見直される資本コストの理解と活用法~企業各部門における活用のためのヒント集~
  • 目次
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 1資本コストに関する改訂CGコードの概要
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割
  • 2株主資本コストの役割 (1)投資家
  • 2株主資本コストの役割 (2)企業 
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(1)株主資本コストの算定と把握~概要~
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(2)株主資本コストの算定方法(CAPM)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(3)株主資本コストの算定方法(配当成長モデル)
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 3(4)算定上の留意事項
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(1)事業投資意思決定への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(2)業績評価への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(3)財務会計への活用
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(4)法務の観点からの留意点
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 4株主資本コストの活用(5)総括~経営者に向けて
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(1)株主資本コストをめぐる投資家との対話の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 5(2)株主資本コストの開示上の留意事項
  • 経 歴
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