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九州大学大学院 理学府物理学専攻 修士論文 粘弾性コルモゴロフ流の安定性 椎葉 力哉 (統計物理学研究室) 指導教員 中西秀 坂上貴洋 2017 2

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  • 九州大学大学院 理学府物理学専攻

    修士論文

    粘弾性コルモゴロフ流の安定性

    椎葉 力哉

    (統計物理学研究室)

    指導教員 中西秀 坂上貴洋

    2017年 2月

  • 2

    概要

    粘弾性体のモデルとして, 流体中の高分子溶液の微視的モデルを構築し, Kolmogorov

    流の安定性を数値シミュレーションによって調べた.

    Newton 流体では高 Reynolds 数で流れが乱流化 (Karman 渦の場合 Re ≳ 50 ∼ 103)することが知られている. しかし, 粘性だけでなく弾性を持った媒質, 粘弾性体では低 Re

    でも, 応力の緩和時間と流れのせん断速度の積で表される無次元量であるWeisenberg数

    (Wi)が高い場合は乱流化することが実験で示されている. これは粘弾性体特有の性質で

    あり「弾性乱流」と呼ばれているが, その発生原理はまだ解明されていない. 本研究は数

    値シミュレーションを用いて弾性乱流の発生原理を解明することを目的としている.

    本研究では粘弾性体の例として二次元高分子溶液を考え, 単位質量当りの周期的外力

    F = (0, νU/L2 cos(x/L)) の下での流れの安定性を調べた. このような周期的外力によ

    り駆動される流れは「Kolmogorov流」と呼ばれ, Newton 流体の場合 Re >√2 で線形

    不安定化し乱流が生じる. 粘弾性体の場合には, Wiと Reの値に応じて安定性が決まる.

    Kolmogorov 流のシミュレーションでは, 溶媒の流れを格子 Boltzmann 法 (LBM) を用

    い, 高分子の運動は分子動力学法 (MD)を用いて計算し, それらをカップルさせることで

    流動場に及ぼす弾性効果を取り入れた. 高分子にはダンベルモデルを用い、溶液は希薄で

    あるとし異なるダンベル間の相互作用は無視している. 本研究で行ったことと, それらか

    ら分かったことは以下の 3つである. 1. 微視的モデルを評価するため, 粘弾性応力の時間

    発展を記述する現象論的方程式として広く用いられている Oldroyd-Bモデルとの比較を

    行った. 速度の一次元空間パワースペクトルを解析したところ, 乱流の性質が現れる長波

    長領域において, 2つのモデルで同等の結果が得られた. また微視的モデルと Oldroyd-B

    両方で乱流状態で短波長領域が指数 −2のべき則に従うことが分かった. 異なる 2つのモデルで同等の結果が得られ, 低 Wi での流れの微視的モデルの妥当性が示せた. 2. 高分

    子の配向の時間変化の違いについて調べた. その結果, 乱流化するWi,Reでは不安定化

    する前でも回転運動を起こすことが分かった. また層流化する Wi,Re では初期位置が

    外力 = 0,渦度 < 0 の地点に置いた高分子は時計周りの回転運動をすることが分かった.

    また初期位置が 外力 > 0,渦度 = 0 の地点に置いた高分子は一定方向の回転はしないこ

    とが分かった. 3. 微視的モデルでは低 Wi では粘弾性体の性質である Re >√2 での層

    流 (抵抗低減)を確認することができたが, 高Wi低 Reでの乱流は確認することができな

    かった.

  • 3

    目次

    概要 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2

    第 1章 弾性乱流について 5

    1.1 弾性乱流についての実験 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

    1.2 本研究の目的 及び本論文の構成 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

    第 2章 格子 Boltzmann法 9

    2.1 Boltzmann方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

    2.2 BGK-Boltzmann方程式とMaxwell分布 . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

    2.3 格子 Boltzmann法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

    2.4 数値計算例と境界条件 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12

    第 3章 粘弾性体と高分子の物理 18

    3.1 粘弾性体のモデル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

    3.2 Oldroyd-Bモデルに対する LBM . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21

    3.3 鎖状高分子 Rouse鎖 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23

    3.4 ダンベルモデル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25

    3.5 ダンベルの運動方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25

    3.6 ブラウン運動の運動方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26

    3.7 LBMとMDのカップリング . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 27

    3.8 固有粘度と LBM+MDにおける Re及びWi . . . . . . . . . . . . . . . 28

    第 4章 Kolmogorov流 31

    4.1 Kolmogorov流の安定性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 31

    4.2 安定性とパワースペクトル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 33

    4.3 ダンベルの配向の時間変化と軌跡 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 42

    4.4 ダンベル位置分布 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 46

  • 4 目次

    第 5章 まとめと展望 49

    参考文献 52

    付録 A Poiseuille流と Couette流 54

    A.1 Poiseuille流 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 54

    A.2 Couette流 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 55

    付録 B Oldroyd-B 構成方程式 (3.11)の導出 56

    B.1 Maxwellモデルの解 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 56

    B.2 Fingerテンソル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 56

    B.3 Oldroyd-B 構成方程式の導出 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 58

    付録 C 電気二重層理論 (DLVOポテンシャル) 60

    C.1 電気二重層 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 60

    C.2 コロイドの電気二重層 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 61

    付録 D LBMとMDのカップリングでの空間の格子化に伴う線形補間 63

    付録 E 鎖状高分子の固有粘度 式 (3.44)の導出 65

    付録 F ダンベルによる応力の表式 67

    付録 G 離散フーリエ変換 69

    G.1 区間 [0, L]の関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 69

    G.2 逆変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 70

    付録 H 第 4章の数値計算で用いたパラメタ及び初期条件 71

    H.1 LBMで用いる条件 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 71

    H.2 MD+LBMで用いる条件 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 72

    H.3 Oldroyd-B+LBMで用いる条件 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 73

  • 5

    第 1章

    弾性乱流について

    1.1 弾性乱流についての実験

    高分子溶液などの粘弾性体は, せん断応力がせん断速度に比例する「Newton流体」と

    比べると興味深い流動物性がある. その中でも「弾性乱流」と呼ばれる高分子溶液の乱流

    はその発生原理がよく分かっていない. 弾性乱流について以下のような実験が行われて

    いる.

    Fig.1.1 実験のセットアップ. R = 38 mm, R2 = 43.6 mm, d = 10 mm. [1]からの引用

    Groisman と Steinberg [1] (2000) によって以下のような実験が行われた. Fig.1.1 の

    ように円筒容器に高分子溶液を入れ, 溶液をプレートで挟み込み上部のプレートを回転さ

    せることで溶液にせん断を加える. 容器の壁と底は透明で中の様子が観察できる. 壁側か

    ら 2本のレーザーを当て, その交点で散乱した光を容器の底から観察している. 溶媒の粘

    度 ηs = 0.324Pa · s,溶液の粘度η = 0.424Pa · s,せん断速度γ̇ = 1s−1 である. Fig.1.2 は異なる 2つの時刻における流れの様子である. 層流であれば層状構造を示し, 異なる時刻

  • 6 第 1章 弾性乱流について

    でも同様のパターンの流れが観測されるが, Fig.1.2 は不規則な流れであり乱流が生じて

    いると言える. Fig.1.3 はせん断応力のせん断速度依存性を示している. 流れが層流から

    乱流に転移したことで流れ場が変化し, それが応力に影響し, 急激に値が増加しているこ

    とが分かる. 弾性乱流は Newton流体の乱流とは性質が異なる. Newton流体で通常の乱

    流が生じるのは高 Re の場合である. 例えば Karman 渦列が不安定化し列が崩れるのは

    Re ≳ 50 ∼ 103 である. この実験での乱流は Re = 0.7, Weissenberg 数 (式 (3.23) で説明) Wi = 13で発生している. 低 Re高Wiでの乱流を「弾性乱流」と呼ぶ.

    Fig.1.2 異なる時刻における流れの様子. 流れの不安定化. Wi=13(Wi: Weissenberg

    数 式 (3.23)), Re=0.7 Newton流体と比べ小さな Reで乱流になる. [1]

    1.2 本研究の目的 及び本論文の構成

    本研究の目的は「弾性乱流の発生原理を究明すること」である. 弾性乱流についての研

    究は始まったばかりで, 何について理解が進めば発生原理の理解が進むのかという問題設

    定についても明確に定まっているわけではない. 弾性乱流の研究は第 1章前半で説明した

    ような実験での研究が盛んであるが, 本研究では高分子の細かい動きまで知ることができ

    る数値シミュレーションを用いて発生原理について究明しようと試みた.

    本論文の構成は以下である. 第 2章で「格子 Boltzmann法」について説明する. これ

    は溶媒の流速場を求める方法で, Navier-Stokes方程式を解くより早いことから近年注目

    されている. 第 3章で「粘弾性体と高分子の物理」について説明する. 粘弾性体は通常 液

    体が持つ粘性の性質と固体が持つ弾性の合わせ持つ物質である. 粘弾性応力場の時間発展

    についての有名なモデル Oldroyd-Bがある. それを説明するのが第 3章前半の主な目的

    である. 後半では高分子の物理を説明する. 本研究で用いる「微視的モデル」中の高分子

    の運動方程式を説明するのが後半部分の主な目的である. 第 4章で「Kolmogorov流」に

  • 1.2 本研究の目的 及び本論文の構成 7

    Fig.1.3 せん断応力のせん断速度依存性. 縦軸は応力を層流の場合の値で割ったもの.

    1,2 の線はそれぞれ d = 10 mm, 20 mm の場合, 3 は溶質がない場合である. 濃い線

    はせん断を大きくしていき, 薄い線は小さくしていき測定したものである. あるせん断

    速度で流れに転移が生じ, それが応力に影響を与え急激に値が増加していることが分か

    る. [1]

    Fig.1.4 流れの空間パターンの時間平均された一次元パワースペクトル. 濃い線は動

    径方向, 薄い線円周方向に沿って測定したもの. k = 1が実空間の 2πdに対応. [1]

  • 8 第 1章 弾性乱流について

    ついて説明する. 本研究は高分子溶液中の Kolmogorov流の安定性を解析することが主な

    内容である. 第 5章の前半で Kolmogorov流の説明と先行研究 [11]から分かっている安

    定性について説明する. Kolmogorov流は粘弾性特有の低 Reでの乱流を示すのでこれを

    用いて弾性乱流の発生原理を究明する. この章の後半が本研究の内容で, [11]の安定性の

    予想と微視的モデルで求めた安定性を比較する. また Oldroyd-Bモデルと微視的モデル

    で空間のパワースペクトルの比較し, 微視的モデルを評価する. 最後に微視的モデルを用

    いて高分子の配向時間変化と移動軌跡について調べ, 考察を述べる. 第 5章は「まとめと

    展望」で弾性乱流の理解について考察を述べる.

  • 9

    第 2章

    格子 Boltzmann法

    本研究では流速場を求めるのに格子 Boltzmann法を用いる. 流速場を求める場合, 通常

    Navier-Stokes方程式を解く必要があるが, これは計算に時間がかかる. 格子 Boltzmann

    法は Boltmann 方程式に簡単な近似を行うことで Navier-Stokes 方程式と同様の結果を

    導出できる計算アルゴリズムである. 計算手順が簡単で Navier-Stokes方程式より短時間

    で計算することができ, 近年注目されている. この章では Boltzmann方程式, BGK近似,

    格子 Boltzmann法と分布関数の境界条件を説明する. また簡単な数値計算の例として密

    度変化伝搬, Poiseuille流, Couette流, Karman渦列を紹介する.

    2.1 Boltzmann方程式

    粒子分布関数 f(x,v, t)は, 時刻 tに粒子の位置が xの微小な直方体 d3xにあり, かつ

    速度空間の v を中心とする微小な直方体 d3v にある粒子の数を表す. f(x,v, t)を用いて

    数密度 ρ(x, t), 流速密度 j(x, t)は

    ρ(x, t) ≡∫

    dvf(x,v, t), (2.1)

    j(x, t) = ρu =

    ∫dv vf(x,v, t), (2.2)

    と与えられる. つまり, f の v についての0次モーメントが数密度, 1次モーメントが運動

    量を表している. f の時間発展が分かると, 各時刻での流速場を求めることができる. 以下

    で f の時間発展の方程式 (Boltzmann方程式)を導出する.

    粒子の衝突と外力を無視すると,粒子の「流れ」のみに注目すれば良い. dt後に以下の式

  • 10 第 2章 格子 Boltzmann法

    が成立していると仮定する.

    f(r + udt,u, t+ dt)drdu = f(r,u, t)drdu (2.3)

    これは時刻 tに位相空間 (r,u)にあった粒子が dt後にすべて (r + udt,u)に流れたこと

    を表している. ここに衝突と外力の効果を考慮したい. 衝突オペレータ Ωを導入し, 衝突

    による f の変化を形式的に Ωdrdudtと書くことにすると, 運動方程式 du = (F /m)dtを

    用いて, 式 (2.3)は,

    f(r + udt,u+ (F /m)dt, t+ dt)drdu− f(r,u, t)drdu = Ωdrdudt (2.4)

    となる. dtが小さいとして Taylor展開し整理すると,

    (∂t + u · ∇r +F

    m· ∇u)f(r,u, t) = Ω (2.5)

    となる. これを Boltzmann方程式という.

    2.2 BGK-Boltzmann方程式とMaxwell分布

    Boltzmann方程式 式 (2.5)の右辺 (衝突項)を正確に表すのは難しい. そこで衝突の効

    果を最も簡単な近似として, 平衡分布への緩和で簡便に表したものがある. 緩和時間を τ

    とし, 流速 uと密度 ρが与えられたときの平衡分布をMaxwell分布 f (0) として, 式 (2.5)

    の右辺を,

    df(x,u, t)

    dt= −1

    τ[f(x,u, t)− f (0)(x,u, t)] (2.6)

    f (0)(x,u, t) =1

    2πkBTexp[− mu

    2

    2πkBT] (2.7)

    と近似する. 式 (2.6) を BGK(Bhatnagar-Gross-Krook) 近似の Boltzmann 方程式と

    いう.

    2.3 格子 Boltzmann法

    2.3.1 格子化

    式 (2.6)を格子化した計算スキームが格子 Boltzmann法 (Lattice Boltzmann Method,

    以下 LBM) である. 格子化とは, 空間や時間を格子点で離散化し種々の物理量を格子点

    上のみで定義させることである. 導出過程は, 例えば [2] が途中計算も含め丁寧に書かれ

    ている. ここでは結果のみ書くことにする. 式 (2.6) を時空間と時間について格子化し,

    m = πkBT = 1と取ると,

  • 2.3 格子 Boltzmann法 11

    fi(r + ci, t+ 1)− fi(r, t) = −1

    τ[fi(r, t)− feqi (r, t)] (2.8)

    ここで i は方向を指定する添字で, Fig.2.1 のように定義する. τ は緩和時間. また

    feqi (r, t)はMaxwell分布 式 (2.7)を格子化したものであり,

    feqi = ρwi[1−u2

    2c2s+

    u · cic2s

    +(u · ci)2

    2c4s] (2.9)

    と表される. ウエイト wi は Fig.2.2で定義する. これは Navier-Stokes方程式の振る舞い

    を再現するのに十分な格子ベクトル ci の等方性を保証するものである. ci の等方性の条

    件は Viggen, [3])を参考にした. Fig.2.1 のような 2次元 9方向の ci は D2Q9モデルと

    呼ばれる. 他に D2Q7モデルなども ci の等方性を満たしているが, これは六角形の格子

    で計算機で扱うのは苦労がいる. そこで D2Q9モデルが広く用いられている. cs は LBM

    での音速であり, cs ≡ 1/√3である. また式 (2.9)中の ρは分布関数 f の uの 0次モーメ

    ントである式 (2.1)を格子化したものである. 式 (2.1), 式 (2.2)を格子化したものを並べ

    て書くと,

    密度 : ρ(r, t) =8∑

    i=0

    fi(r, t) (2.10)

    運動量: ρ(r, t)u(r, t) =8∑

    i=0

    cifi(r, t) (2.11)

    となる. また式 (2.8)の左辺は時間ステップが 1 進んだときの「流れ」を表しておりスト

    リーミングと名付ける. 右辺は緩和を表している.

    Fig.2.1 ci (i=0,...,9)の方向

    Fig.2.2 ci の大きさとウエイト wi

  • 12 第 2章 格子 Boltzmann法

    以下の手順で分布関数の時間発展を表現する.

    1.平衡: 各格子点で時刻 tの平衡分布を計算 式 (2.9)を用いる

    feqi = ρwi[1− u2

    2c2s+ u·cic2s

    + (u·ci)2

    2c4s]

    2.緩和: 緩和項の計算 式 (2.8)の右辺を用いる

    − 1τ [fi(r, t)− feqi (r, t)]を新しい fi(r, t)とする

    3.ストリーミング: ストリーミング項の計算 式 (2.8)の左辺を用いる

    fi(r + ci, t+ 1) = fi(r, t), fi(r, t)は 2.緩和で求めた fi(r, t)を用いる.

    4.境界条件: 境界条件の計算 第 2.4.3節で説明

    5.物理量: fi(r + ci, t + 1)を用いて新しい流速場 u(x, t + 1)を計算 式 (2.10),(2.11)を

    用いる

    密度 : ρ(r, t+ 1) =∑8

    i=0 fi(r, t+ 1)

    運動量 : ρ(r, t+ 1)u(r, t+ 1) =∑8

    i=0 cifi(r, t+ 1)

    1.平衡: 5.物理量で求めた ρ(r, t+1),u(r, t+1)を用いて時刻 t+1での新しい平衡分布

    を計算する

    feqi = ρwi[1− u2

    2c2s+ u·eic2s

    + (u·ci)2

    2c4s]

    流体の動粘度は ν = c2s(τ − 12 ) で与えられる. τ < 1/2 だと ν < 0 となり式 (2.8) からfi は時間経過と共に発散する. また負の動粘度 ν < 0は物理的でない. 従って, 緩和時間

    τ > 1/2でなければならない. またマッハ数Ma = |u|/cs ≤ 1の場合, 非圧縮条件は満たされていると考える.

    2.4 数値計算例と境界条件

    2.4.1 密度変化の伝搬

    ここで簡単な数値計算結果を示す. 100×100の格子で, 各地点での初期密度を 1.0とし,格子点 (x, y) = (33, 33)上のみ密度に摂動を加える. それが時間発展でどのように広がる

    かを Fig.2.3∼ Fig.2.5に示す. x, y 方向ともに周期境界を用いた.

  • 2.4 数値計算例と境界条件 13

    Fig.2.3 密度場 τ=1, t=5 Fig.2.4 密度場 τ=1, t=40 Fig.2.5 密度場 τ=1, t=90

    2.4.2 外力の導入

    外力の導入方法は Guo et al, [4]を参考にした. 流体に加わる外力が F のとき,

    Fi = (1−1

    2τ)ωi[

    ci − uc2s

    +ci · uc4s

    ci] · F , (2.12)

    と Fi を定義する. これは Fi が ci で級数展開できると仮定し, 多スケール解析から導出し

    たものである. この Fi を用いて fi の外力による変化を与える. 具体的には, ストリーミ

    ングと緩和の式 式 (2.8)に Fi を加えれば良い. つまり,

    fi(r + ci, t+ 1)− fi(r, t) = −1

    τ[fi(r, t)− feqi (r, t)] + Fi (2.13)

    を計算すれば良い. これに伴い 運動量 式 (2.11)も変更され,

    運動量 : ρ(r, t)u(r, t) =8∑

    i=0

    cifi(r, t) +1

    2F (2.14)

    となる.

    2.4.3 境界条件

    LBMで用いられる境界条件を 2種紹介する. それらは Navier-Stokes方程式の粘着境

    界条件に対応するものであり, 特に 2つ目の Zou-He境界条件は境界が動く場合を考慮す

    ることができる.

    跳ね返り境界条件

    Navier-Stokes 方程式でしばしば用いられる境界条件に粘着境界条件がある. LBM で

    それに対応するのが跳ね返り境界条件 [5]である.

  • 14 第 2章 格子 Boltzmann法

    Fig.2.6 左壁における境界

    Fig.2.6のように左壁のある一点での境界条件を考える. 時刻 tで f3,6,7 がストリーミング

    で壁内部に侵入しようとしている. 時刻 t + 1でそれら f3,6,7 を反対向き (180度逆向き)

    の fi に置き換えるのが跳ね返り境界条件である. f6 は y 軸に正の成分を持っているが,

    跳ね返りで f8 という y 軸に負の成分を持つことになる (f7 も同様). このことが跳ね返

    り境界が粘着境界に対応する理由である. 実際の数値計算の例が Fig.2.7である. これは

    左右を壁挟まれた流体の y 方向に圧力差がある状況を考えている. 壁が粘着境界の場合,

    Navier-Stokes方程式の定常解は Poiseuile流 (付録 A)になる. Fig.2.7では Poiseuille流

    を再現できていることが分かる.

    Fig.2.7 速度 uy の分布. 時刻を色で区別し, 赤実線は Poiseuille流を示している.

    初期速度は (ux, uy) = (0, 0), τ = 1.0

  • 2.4 数値計算例と境界条件 15

    Zou-He境界条件

    Zou-He境界条件 [6]は, せん断を加える場合などで有効な境界条件である. Fig.2.6と

    同様に左壁における境界を考える. 壁上で, 式 (2.10), 式 (2.11) に加え 以下の Zou-He

    条件を加える. ただし壁上での流速は壁の速度に等しいとし Uwall = (u, v) を用いて

    fi, feqi を求める.

    ρ =8∑

    i=0

    fi (2.15)

    ρUwall =8∑

    i=0

    fici (2.16)

    f1 − feq1 = f3 − feq3 ← Zou−He条件 (2.17)

    これらを連立して解くと,

    f1 = f3 +2

    3ρu (2.18)

    f5 = f7 −1

    2(f2 − f4) +

    1

    6ρu+

    1

    2ρv (2.19)

    f8 = f6 +1

    2(f2 − f4) +

    1

    6ρu− 1

    2ρv (2.20)

    ρ =1

    1− u[f2 + f4 + f0 + 2(f3 + f6 + f7)]. (2.21)

    となる. この境界条件を用いた実際の数値計算の例が Fig.2.8である. これは左右を壁挟

    まれた流体を考え, 右壁は y 方向, 左壁は −y 方向に動き, 流体にせん断を加える状況を考えている. 壁が粘着境界の場合, Navier-Stokes方程式の定常解は Couette流 (付録 A)

    になる. Fig.2.8では Couette流を再現できていることが分かる.

    壁を組み合わせることで任意の形状の境界を設定することができる. Fig.2.10, Fig.2.11

    は流路途中に正方形の物体を置き, その下流での流れを数値計算したものである (高

    Reynolds数 (≳ 50)では下流の流れが不安定化し Karman渦列ができることはよく知られている (Fig.2.9)). 上下には壁を設定し, 跳ね返り境界 (粘着境界)を用いた. また流路

    の入口 (左側)から Poiseuille流を流入し, 流路の終わり (右側)は開境界とした.

  • 16 第 2章 格子 Boltzmann法

    Fig.2.8 速度 uy の分布. 時刻を色で区別し, 赤実線は Couette流を示している.

    初期速度は (ux, uy) = (0, 0), τ = 1.0

    Fig.2.9 実験で得られる Karman渦列と Reynolds数 R

  • 2.4 数値計算例と境界条件 17

    Fig.2.10 正方形障害物による渦度場. 左側に正方形の物体が 1つ, Re=110.

    物体は一辺 10で, 重心を (x, y) = (15, 100)に置いた.

    Fig.2.11 3つの正方形障害物による渦度場. 左側に正方形の物体が 3つ, Re=110.

    物体は一辺 10で, 重心を (x, y) = (55, 100), (15, 92), (15, 108)に置いた.

  • 18

    第 3章

    粘弾性体と高分子の物理

    この章では, 前半で粘弾性体の物理を説明する. 粘弾性体とは粘性と弾性両方の性質を

    持つ媒質で例にプラスチック, ゴム, そして本研究で扱うような高分子溶液などがある. 粘

    弾性体の応力の時間発展のモデルをいくつか示し, そのうちの一つ Oldroyd-B モデルを

    LBMの手法を用いて数値計算する方法を説明する [2]. 後半で高分子の物理について説明

    する. 鎖状高分子の有名なモデルである Rouse鎖 [9]とその単純化であるダンベルモデル

    を説明する. また本研究で用いる高分子の運動方程式を示し, LBM とのカップリングに

    ついて説明する. また分子動力学法でどのように ReやWiを定義するか説明する.

    3.1 粘弾性体のモデル

    3.1.1 Maxwellモデル

    粘弾性流体のモデルの中で最も単純なものの一つがMaxwellモデル [7]である. これは

    粘性の性質をダッシュポッドで, 弾性の性質をばねで表しそれらを直列に繋いだモデルで

    ある. ダッシュポッドでは応力は変形率に比例する (比例定数は粘度 η, Newtonの法則).

    一方ばねでは応力は変形に比例する (比例定数は弾性率 G, Hookの法則). これらの関係

    はそれぞれ以下の式で表す.

    Fig.3.1 Maxwellモデル

  • 3.1 粘弾性体のモデル 19

    {σ = ηγ̇η

    σ = GγG(3.1)

    σ は応力, γ̇η はダッシュポッドにの変形率, γG はばねの変形である. 素子は直列に繋がれ

    ているので, それぞれにかかる応力は等しい. また直列だと全体の変形率はそれぞれの変

    形率の和になるので,

    γ̇ ≡ γ̇η + ˙γG = σ/η + σ̇/G, (3.2)

    整理すると以下の式が得られる.

    σ + λσ̇ = ηγ̇, (λ = η/G) (3.3)

    この式をMaxwellモデルの構成方程式と言う. また λは緩和時間である.

    3.1.2 Voigtモデル

    ダッシュポッドとばねを並列に繋いだモデルは Voigtモデル [7]と呼ばれる. 並列に繋

    いでいるので, それぞれの素子の変形が等しく, 全体にかかる応力はそれぞれの応力の和

    になる. ση, σG をそれぞれダッシュポッドの応力, ばねの応力とすると, 構成方程式は,

    σ ≡ ση + σG = Gγ + ηγ̇ (3.4)

    となる. これを Voigtモデルの構成方程式という.

    Fig.3.2 Voigtモデル

  • 20 第 3章 粘弾性体と高分子の物理

    3.1.3 Jeffreyモデル

    実際の粘弾性, 例えば高分子溶液では, 溶質である高分子が粘性と弾性の性質を持ち, 溶

    媒である流体は粘性の性質のみ持つ. Fig.3.3のように, 高分子の粘弾性をMaxwellモデ

    ルで表し, 流体の粘性をダッシュポッドで表しそれらを並列に繋いだものを Jeffreyモデ

    ル [7]という.

    Fig.3.3 Jeffreyモデル

    流体と高分子のそれぞれに成り立つ式は以下になる.{σs = ηsγ̇

    σp + λσ̇p = ηpγ̇(3.5)

    σs は溶媒 (solvent) にかかる応力, σp は高分子 (polymer) にかかる応力, ηs は溶媒の粘

    度, ηp は高分子の粘度, γ̇ は変形率, λは高分子の応力の緩和時間である. 並列なので全体

    にかかる応力はそれぞれの応力の和になる. つまり σ ≡ σs + σp, η ≡ ηs + ηp とすると,

    σ = ηγ̇ − λσ̇p (3.6)= ηγ̇ + λσ̇s − λσ (3.7)= ηγ̇ + ληsγ̈ − λσ (3.8)

    遅延時間を λR ≡ ληs/η と定義すると,

    σ + λσ̇ = η(γ̇ + λRγ̈) (3.9)

    これを Jeffreyモデルの構成方程式と言う. 注意すべきことは λが高分子の緩和時間とい

    うことである.

  • 3.2 Oldroyd-Bモデルに対する LBM 21

    3.1.4 Oldroyd-Bモデル

    粘弾性体の流体力学モデルで最も広く用いられているのが Oldroyd-B モデル [7] であ

    る. これは Jeffreyモデルを 2次元以上の粘弾性体媒質に拡張したものであり,応力 及び

    歪み速度テンソル場を用いて表現される. また応力テンソルの時間微分は, 以下で定義さ

    れる上対流微分と呼ばれる Lagrange微分をテンソル場に拡張したものを用いる (σ̂ は応

    力テンソル, uは流速場).

    ∇σ̂≡ ∂

    ∂tσ̂ + (u · ∇)σ̂ − {(∇u)T σ̂ + σ̂(∇u)} (3.10)

    Maxwellモデルをテンソル場形式に拡張した構成方程式は,

    λ∇σ̂ +σ̂ = 2ηD̂ (3.11)

    で与えられる. ただし, D̂ は歪み速度テンソルで D̂ ≡ 1/2(∇u + (∇u)T )と定義される.Oldroyd-B構成方程式の導出の詳細は付録 Bで説明する. この式は高分子の応力に対す

    る式である. そこで σ̂ = σ̂s + σ̂p とし, 式 (3.11)を高分子と溶媒の両方を考慮した式に拡

    張する. 式 (3.11)の σ̂ を σ̂p とし, σ̂p = σ̂ − σ̂s を代入する. σ̂s = 2ηsD̂ なので,

    λ∇σ̂ +σ̂ = (2ηp + 2ηs)D̂ + 2ληs

    ∇D̂ (3.12)

    → λ∇σ̂ +σ̂ = 2η(D̂ + 2λR

    ∇D̂) (3.13)

    ただし, 遅延時間 λR ≡ ληs/η, η = ηs + ηp とした. この式を Oldroyd-B モデルの構成方程式という. 注意すべきことは λ が高分子の緩和時間ということである. 式 (3.13) は

    Jeffreyモデルの構成方程式 式 (3.9)の時間微分を上対流微分に置き換えたものになって

    いる. また式 (3.11)は式 (3.13)の λR = 0の場合である. 本研究ではこれ以降Oldroyd-B

    モデルの構成方程式として式 (3.11)を用いる.

    3.2 Oldroyd-Bモデルに対する LBM

    高分子のコンフォメーションの分布関数を考え, LBM と同様の格子化を行うによ

    り Oldroyd-B 構成方程式 式 (3.11) をシミュレーションすることができる. これは O.

    Malaspinas([2], 2009)により開発された. 詳しく学ぶ場合は, 同著者の [8]なども参考に

    なる.

  • 22 第 3章 粘弾性体と高分子の物理

    高分子の末端間ベクトルを Q = (Qx, Qy), Ψ(Qx, Qy, t)を末端間ベクトルに対する確率

    分布関数とする. コンフォメーションテンソルは高分子の長さと向きで決まる量で, Qと

    Ψ(Qx, Qy, t) を用いて以下で定義する.

    Aαβ ≡∫

    dQxdQy QαQβΨ(Qx, Qy, t) (3.14)

    これは高分子の向きと長さに関係する量である. 例えば Axx は, 向きが x軸に対して平行

    で, 大きさが長さの二乗平均になっている. 粘弾性応力 σ̂p はコンフォメーションテンソル

    Âを用いて

    σ̂p =ηpλ(Â− Î) (3.15)

    で与えられる [2]. これは高分子の復元力による応力と運動量による応力を考慮した表式

    であり, 復元力として Hookの法則を仮定している.

    すると式 (3.15)を用いて Oldroyd-B 構成方程式 式 (3.11)は以下のコンフォメーション

    の方程式に変形できる.

    ∂tÂ+ (u · ∂)Â = −1

    λ(Â− Î) + Â(∇u) + Â(∇u)T (3.16)

    この式を LBM の fi に対応する分布関数 hiαβ を用いて格子化する. 2 次元の場合

    i = 0, ..., 4, α, β = 1, 2である. LBMとの対応で以下に記す.

    密度, 式 (2.3.1)に対応

    コンフォメーション : Aαβ =∑i

    hiαβ +Gαβ2

    (3.17)

    ただし, Gαβ = − 1λ (Aαβ − δαβ) +Aαγ∂γuβ + ∂γuαAγβ .

    ストリーミングと緩和, 式 (2.8)に対応

    hiαβ(r + ci, t+ 1)− hiαβ(r, t)

    = − 1φ[hiαβ(r, t)− heqiαβ(Aαβ , r, t)] + (1−

    1

    2φ)GαβAαβ

    heqiαβ (3.18)

    拡散係数 : κp = c2l (φ−

    1

    2), cl =

    1√3

    (3.19)

    平衡分布, 式 (2.9)に対応

    heqiαβ = qiAαβ(1 +u · cic2l

    ) (3.20)

  • 3.3 鎖状高分子 Rouse鎖 23

    ここで注意したいのは, 式 (3.18)は以下の式を導くということである.

    ∂tAαβ + (u · ∂)Aαβ = Gαβ + κp∇2Aαβ +κpc2l∇ · (Aαβ∂tu− u∇ · (Aαβu))(3.21)

    右辺第 2, 3項はコンフォメーションを用いた表記の Oldroyd-B 構成方程式 式 (3.16)と

    比較し余分な項である. 従って κp は小さく取るべきである.

    LBMと Oldroyd-Bのカップリング

    流体の流速場を LBMで, 高分子のコンフォメーションを Oldroyd-Bに LBMの手法を

    適用したもの (以後 LBM型 Oldroyd-Bと記す)を用いて計算し, 2つをカップリングさ

    せたい. コンフォメーションは流速に影響を与える. その力は,

    F = ∇ · σ̂ (3.22)

    と表される. これを LBMの外力項 式 (2.12)中で用いる. この外力の元の LBMで流速場

    が求まるので, その流速場を LBM型 Oldroyd-B 式 (3.18)で用いることでカップリング

    させる.

    Weissenberg数

    粘弾性体の場合, Reに加えWeissenberg数 Wiという無次元数が定義できる. U は系

    の典型的速さ, Lは系の典型的長さとする. 式 (3.11)の緩和時間 λを用いて,

    Wi ≡ λUL

    (3.23)

    と Weissenberg 数を定義する. Wi は高分子の粘性と弾性に関係する量である (λ =

    ηp/G).

    3.3 鎖状高分子 Rouse鎖

    鎖状高分子を複数のモノマーとばねで表現したモデルに Rouse鎖がある [9]. この章で

    は Rouse鎖について説明する. n番目のビーズの位置を Rn とするとそれらの Langevin

    方程式は,

  • 24 第 3章 粘弾性体と高分子の物理

    Fig.3.4 鎖状高分子の模式図

    ζdR1dt

    = −k(R1 −R2) + f1 (3.24)

    ζdRndt

    = −k(2Rn −Rn+1 −Rn−1) + fn, (n = 2, 3, ..., N − 1) (3.25)

    ζdRNdt

    = −k(RN −RN−1) + fN (3.26)

    fn はランダム力で, ⟨fn(t)⟩ = 0, ⟨fnα(t)fmβ(t′)⟩ = 2ζkBTδnmδαβδ(t − t′) を満たす.α, β は座標を区別する添字, ζ は抵抗係数である. nを連続変数と見なすと,

    ζ∂Rn∂t

    = k∂2Rn∂n2

    + fn. (3.27)

    境界条件として, 周期境界 R0 = R1,RN+1 = RNと∂Rn/∂n|n=0 = 0, ∂Rn/∂n|n=N =0を取る.

    後の為に式 (3.27)を基準座標で表す. 基準座標を,

    Xp ≡1

    N

    ∫ N0

    dn cos(pπn

    N)Rn(t), (p = 0, 1, 2...) (3.28)

    と定義する. すると, 式 (3.27)は,

    ζp∂Xp∂t

    = −kpXp + Fp, (p = 0, 1, 2...) (3.29)

    ただし, ζ0 = Nζ, ζp = 2Nζ, (p = 1, 2, ...), kp = 2π2kp2/N, (p = 0, 1, ...). F は,

    ⟨Fpα⟩ = 0, ⟨Fpα(t)Fqβ(t′)⟩ = 2ζkBTδpqδαβδ(t− t′)を満たす.

  • 3.4 ダンベルモデル 25

    3.4 ダンベルモデル

    高分子のモデルで最も単純なモデルがダンベルモデルである. Fig.3.5 の左側は鎖状高

    分子が複雑に絡み合い,鞠のようになっているものを表している. その始点終点のみに着

    目し, 内部の自由度は無視し運動をダンベルでモデル化したものがダンベルモデルである.

    Fig.3.5 鎖状高分子とダンベルモデルの対応模式図

    3.5 ダンベルの運動方程式

    Oldroyd-B 構成方程式 式 (3.11)は巨視的な応力場に対する方程式であるが, 個々の高

    分子に対し運動方程式を立て (分子動力学法; MD) それらと LBMをカップリングさせる

    ことで微視的なモデルを作ることができる. まず高分子の運動方程式から説明する.

    ビーズ iの位置座標を ri = (xi, yi), 線形ばねの自然長を lとすると, ビーズ 1,2それぞれ

    の運動方程式は,

    {mẍ1 = k(|r2 − r1| − l) cos θmÿ1 = k(|r2 − r1| − l) sin θ

    (3.30)

    {mẍ2 = −k(|r2 − r1| − l) cos θmÿ2 = −k(|r2 − r1| − l) sin θ

    (3.31)

    で与えられる (Fig.3.6). ただし, mはビーズの質量, cos θ = x2−x1|r2−r1| , sin θ =y2−y1|r2−r1| で

    ある.

  • 26 第 3章 粘弾性体と高分子の物理

    Fig.3.6 ダンベルの座標の取り方

    3.6 ブラウン運動の運動方程式

    次節の式 (3.39)をシミュレーションする為に Langevin方程式

    mv̇ = −γv +R(t) (3.32)

    を計算機で扱うにはどうすれば良いか考える. ここで γ は抵抗係数, R はランダム力で,

    ⟨Ri(t)⟩ = 0, ⟨Ri(t)Rj(t′)⟩ = Dδijδ(t− t′)を満たす. まず式 (3.32)を,

    v(t+∆t) = v(t)−∆t γmv(t) +

    1

    mf∆t (3.33)

    と差分化する. ここで f は

    f ≡ 1∆t

    ∫ t+∆tt

    R(t′)dt′ (3.34)

    であり, ∆t の間のランダム力の時間平均である. まずランダム力の定義より, ⟨f⟩ = 0.また,

    ⟨fifj⟩ =1

    (∆t)2

    ∫ t+∆tt

    dt1

    ∫ t+∆tt

    dt2⟨Ri(t1)Rj(t2)⟩ (3.35)

    =1

    (∆t)2

    ∫ t+∆tt

    dt1

    ∫ t+∆tt

    dt2Dδijδ(t1 − t2) (3.36)

    =D

    ∆tδij (3.37)

    である. 従って平均がゼロ, 分散が D∆t の一様乱数ベクトル fi を生成して,

    v(t+∆t) = v(t) +∆t

    m[−γv(t) + f ] (3.38)

  • 3.7 LBMとMDのカップリング 27

    を数値計算することは, 式 (3.32)を数値計算するのと同等である. この内容は [10]を参考

    にした.

    Fig.3.7 ブラウン運動する粒子の

    軌跡 (横軸: x, 縦軸: y)

    Fig.3.8 ブラウン運動する粒子の

    速度の軌跡 (横軸 : ux,縦軸 : uy)

    3.7 LBMとMDのカップリング

    流速場を LBMで計算し, 高分子の挙動をMDで求めそれら 2つをカップリングさせた

    い. ダンベルが流体から抵抗を受け, さらにランダム力も考慮するとビーズ iの運動方程

    式は,{mẍi = k(|ri+1 − ri| − l) cos θ −∇rUDLVO cos θ − ζ0(ẋi − ufluidx ) +Rx(t)mÿi = k(|ri+1 − ri| − l) sin θ −∇rUDLVO sin θ − ζ0(ẋi − ufluidy ) +Ry(t).

    (3.39)

    ここで流体の速度によってばねに付いている双方のビーズが近づきすぎるのを防ぐため,

    斥力相互ポテンシャルとして,以下の DLVO(Derjaguin, Landau, Verwey, Overbeek)ポ

    テンシャルを,

    UDLVO = U0exp(−κDHr)

    r(3.40)

    と導入する (導出は付録 C). κDH は Debye長の逆数, r はビーズ間の距離. 今回は希薄溶

    液を考えるので, 異なるダンベル同士の相互作用は無視する.

    また, ζ0は流体とビーズの抵抗係数. ランダム力は,{⟨Ri(t)⟩ = 0⟨Ri(t)Rj(t′)⟩ = 2kBTζ0δαβδ(t− t′)

    (3.41)

    を満たすとする. ランダム力の相関の大きさは Einstein 関係式を用いて求めた. また

    Stokes則が成り立つとし, ビーズの半径を a, 溶媒の粘度を ηs とすると ζ0 = 6πηsaとな

  • 28 第 3章 粘弾性体と高分子の物理

    る.

    またビーズが受けた抵抗力の反作用を流体が受ける. 従って LBM での外力 F は以下に

    なる.

    F = (weight ∗ [ζ0(ẋi − ufluidx )−Rx(t)], weight ∗ [ζ0(ẋi − ufluidy )−Ry(t)]) (3.42)

    ここで weightとは, ビーズが連続的に動くのに対し, 流体は格子点上でのみ値を持つので

    それらを補完する際の重み付けである. ビーズのまわりにある流体までの距離と溶媒の粒

    子数に応じて補完する. この詳細は付録 Dで述べる.

    自然長 l = 0とし, n番目のダンベルの i番目のビーズ (i=1,2)の運動方程式をポテンシャ

    ルを用いた形で書くと,

    mr̈(n)i = −∇i(

    1

    2kr2 + U0

    e−κDHr

    r)− ζ0(ṙ(n)i − u

    fluid) +Ri(t) (3.43)

    となる.

    Fig.3.9 希薄溶液系の模式図

    3.8 固有粘度と LBM+MDにおける Re及びWi

    希薄高分子溶液中の高分子の粘度に対応する量として,

    [η] ≡ limρp→0

    η − ηsρpηs

    (3.44)

    で定義される固有粘度 [η]を考える. 次元は [密度]−1 であることに注意する. η は溶液全

    体の粘度である. η − ηs は高分子の正味の粘度であり, 高分子の質量密度 ρp に比例する.ρp → 0の極限は希薄溶液を示すものである (希薄極限). Rouseモデルの鎖状高分子では式 (3.44)は以下になる. 計算の詳細は付録 Eを参照 [9].

  • 3.8 固有粘度と LBM+MDにおける Re及びWi 29

    [η] =kBT

    2ρpηs

    c

    N

    ∑m

    ζmkm

    (3.45)

    ここで, cは単位体積中のセグメント数,N は鎖状高分子あたりのセグメント数, ビーズの

    質量は 1, また mは鎖状高分子のモードを表す添字で, ζm, km は式 (3.29)で定義された

    mモードでの抵抗係数とばね定数である. ダンベルモデルを用いるので p = 1の場合のみ

    考える. ρp = c/N なので,

    [η] =kBT

    2ηs

    ζ

    k(3.46)

    となる. 溶液全体の粘度は

    η = ηs(1 + ρp[η]) (3.47)

    と書ける. 動粘度は,

    ν ≡ ηρs + ρp

    (3.48)

    と定義する. 注意したいのは ν ̸= νs + νp ということである. U は系の典型的速さ, Lは系の典型的長さである.溶液の Reynolds数は Re = ρUL/η で定義され, ρ, η がそれぞれ

    溶液の密度, 溶液の粘度であるから, 動粘度 式 (3.48)で与えられる. 式 (3.44)には抵抗係

    数 ζ が含まれている. 流体効果がある場合 ζ をどのように取るかは議論が要る. 本研究で

    は ζ = 6πηsaを用いることにする. ばね定数は k = 2kBT/r2eq を用いる. req は鎖状高分

    子が球を作ったときの平衡状態での大きさである.

    Boffetta et alの論文 [11]の図 2は Kolmogorov流の安定性の相図である. 同様のものを

    次節 Fig.4.1に載せる. この相図は溶媒の溶液に対する粘度比 (β = νs/νt, νt = νs + νp)

    によって変わっている. 従ってMD+LBMモデルでの粘度比に対応する量を定義する必

    要がある. 式 (3.47)を ρ ≡ ρs + ρp で割ると,

    η

    ρ=

    η

    ρ

    ηsη

    +ηsρp[η]

    η

    η

    ρ(3.49)

    [11]で ν = νβ + ν(1 − β)とあるので, 本論文でも β ≡ ηs/η と定義する. 以上の定義を用いて, Wiと Reを以下で定義する.

    Wi ≡ ζ0k

    U

    L(3.50)

    Re ≡ ULν

    (3.51)

  • 30 第 3章 粘弾性体と高分子の物理

    ζ0/kは慣性項を無視した運動方程式 式 (3.43)から求めたダンベルの緩和時間である. Wi

    はダンベル密度に依らず, Reがダンベル密度に依存している.

  • 31

    第 4章

    Kolmogorov流

    Kolmogorov流とは, 空間的に周期的な単位質量当りの外力 F = (0, νU/L2 cos(x/L))

    により駆動される流れのことであり, Newton流体の場合 Re >√2で層流が線形不安定

    化し乱流が生じることが示されている. 粘弾性体の場合, Reに加えてWiの値も流れの性

    質を決めるのに必要である. この章ではまず Kolmogorov流の性質を説明した後, 数値計

    算の結果を順に説明する. まず Newton流体と粘弾性体の速度の y成分の空間パワースペ

    クトルを示す. 粘弾性体については Oldroyd-Bモデルと微視的モデルを用いた結果を比

    較し微視的モデルの妥当性を評価する. またダンベルの配向と位置に注目しその時間変化

    を示す. また x軸方向に沿ったダンベルの位置分布の変化を層流, 乱流下の場合で比較す

    る.

    4.1 Kolmogorov流の安定性

    2 次元高分子溶液に周期的外力 F = (0, νU/L2 cos(x/L) を加えると, 外力の周期は

    2πLなので, 層流の場合 πL毎に向きの反対の縦向き (y方向)の流れが生じる. 非圧縮流

    体を仮定し, 流速場を Navier-Stokes 方程式で, ダンベル高分子のコンフォーメションテ

    ンソル Âを Oldroyd-B 構成方程式で求める. つまり,以下の式を考える.

    ∇ · u = 0 (4.1)

    ∂tu+ (u · ∂)u = −∂p+ νβ∂2u+ν(1− β)

    λ∂ · (Â− Î) + F (4.2)

    ∂tÂ+ (u · ∂)Â = (∂u)T Â+ Â(∂u)−1

    λ(Â− Î) (4.3)

    ただし, β = νs/ν, (∂u)αβ = ∂αuβ . この定常解は,

  • 32 第 4章 Kolmogorov流

    usteady = (0, U cos(y/L)) (4.4)

    Âsteady =

    (1 + 2λ2 U

    2

    L2 sin(y/L) −λUL sin(y/L)

    −λUL sin(y/L) 1

    )(4.5)

    で与えられる [11]. Newton流体の場合は非圧縮条件と Navier-Stokes方程式のみ考えば

    よく, その定常解に対する線形不安定性は Sinai [12]で求められており, Re >√2で長波

    長モードが不安定化する. 一方, 粘弾性体の場合, Reに加え, Wiが定義される. 式 (4.3)

    の緩和時間 λを用い, 系の典型的速さ U に外力 F の大きさに含まれる U を, 系の典型的

    長さ Lとして外力の三角関数の位相に含まれる Lを採用して, Wiを式 (3.23)より

    Wi ≡ λUL

    (4.6)

    と Weissenberg 数を定義する. Wi は高分子の粘性と弾性に関係する量である (τ =

    ηp/G). 粘弾性体における Kolmogorov 流は Re とWi の値に応じて安定性が変化する.

    このWi-Re平面における安定性の相図は Boffetta [11]で求められた. Fig.4.1にその相

    図を引用する.

    Fig.4.1 粘弾性体の Kolmogorov流の安定性の相図. 横軸Wi, 縦軸 Re,

    β = 0.77(3.8節で説明)

    S: 安定, U: 不安定, CSL: 長波長モードの摂動に対して安定,その他では不安定.

    図は文献 [11]の引用

    実線は線形化した式 (4.1)∼式 (4.3)に多スケール解析を行い層流の線形安定性解析を行うことで求めている. また黒三角は同様に線形化した式 (4.1)∼ 式 (4.3) に対する線形安定性解析の数値計算結果である. この相図の左上部分, つまり低 Wi 高 Re での乱流は

  • 4.2 安定性とパワースペクトル 33

    Newton流体での振る舞いと同様である. 一方, 高Wi低 Reでの乱流は粘弾性体特有の

    乱流であり「弾性乱流」であると言える.

    文献 [11]では, 高分子の寄与はOldroyd-Bモデルに基づいている. それに対して本研究で

    は Oldroyd-Bモデルの代わりに微視的モデルに基づく高分子の運動方程式をシミュレー

    ションすることで Fig.4.1の相図の予想を確認する.

    4.2 安定性とパワースペクトル

    4.2.1 流れの安定性

    Newton流体の場合

    Fig.4.2 ∼ 4.10 は Re=5.7, 9.6, 23.9 での Newton 流体の渦度場である. 時刻は t =1000, 10000, 40000を表示している. また第 4章での数値計算で用いるパラメタは付録 H

    にまとめてある. 不安定化する際は層流が波打ち, その後層が崩れ乱流となる. Reが大き

    いほど不安定化するまでの時間が短い. Fig. 4.10を見ると構造は無いように見えるが, 相

    関関数 ⟨uy(x)uy(0)⟩を見ると層流の構造があることがわかる. Fig.4.11, 4.12は時刻別の相関関数 ⟨uy(x)uy(0)⟩であり, Reynolds数は Fig.4.8 ∼ 4.10と同じ Re = 23.9である.また Fig.4.13, 4.14が相関関数を求めるのに用いたパワースペクトルである. Fig.4.13で

    は目立ったピークがある. これは実空間の外力の周期に対応する波数 kx であり, 外力の周

    期構造を反映したピークである. Fig.4.14ではピークがなくなり長波長領域全体での値が

    大きくなっている. 短波長領域でのべき指数は Fig.4.13は −4, Fig.4.14は −2である.

  • 34 第 4章 Kolmogorov流

    Fig.4.2 Re=5.7,

    t=1,000

    Fig.4.3 Re=5.7,

    t=10,000

    Fig.4.4 Re=5.7,

    t=40,000

    Fig.4.5 Re=9.6,

    t=1,000Fig.4.6 Re=9.6,

    t=10,000

    Fig.4.7 Re=9.6,

    t=40,000

    Fig.4.8 Re=23.9,

    t=1,000Fig.4.9 Re=23.9,

    t=10,000

    Fig.4.10 Re=23.9,

    t=40,000

  • 4.2 安定性とパワースペクトル 35

    Fig.4.11 相関関数 ⟨uy(x)uy(0)⟩, t=100,000

    Fig.4.12 相関関数 ⟨uy(x)uy(0)⟩, t = 200, 000 ∼ 700, 000

  • 36 第 4章 Kolmogorov流

    Fig.4.13 Newton流体の層流の空間パワースペクトル: LBM, Re=9.6

    Re >√2であるが, 乱流化する以前の時刻で求めたので層流状態である.

    Fig.4.14 Newton流体の乱流の空間パワースペクトル: LBM, Re=9.6

  • 4.2 安定性とパワースペクトル 37

    粘弾性体の場合

    以下の図は粘弾性体の渦度場である. Fig.4.15,4.17 は MD と LBM を用いて求め,

    Fig.4.16,4.18 は LBM 型 Oldroyd-B と LBM を用いて求めたものである. 各 Wi と Re

    は低 Wi の安定, 不安定領域のもので, MD を用いた場合, Oldroyd-B モデルを用いた

    場合の両方で Fig.4.1 で予想される安定性を確認することができた. Fig.4.17, 4.18 は

    Re >√2であるが層流化しており粘弾性体特有の結果である. これは実験で知られてい

    る「抵抗低減 (drag-reduction)」の性質である. 抵抗低減は少量の高分子を溶液に加える

    ことで乱流化が抑えられる現象として知られている.

    Fig.4.15 渦度場

    MD+LBM,

    Wi =0.98, Re=9.6

    Fig.4.16 渦度場

    Oldroyd-B +LBM ,

    Wi =0.50, Re=9.18

    Fig.4.17 渦度場

    MD+LBM,

    Wi =2.96, Re=1.6

    Fig.4.18 渦度場

    Oldroyd-B+ LBM,

    Wi =3.14, Re=2.04

  • 38 第 4章 Kolmogorov流

    Fig.4.19 渦度場

    MD+LBM,

    Wi =19.7, Re=1.19

    Fig.4.19 はWi =19.7, Re=0.96, つまり高Wi 低 Re 領域での渦度場である. Fig.4.1

    の相図ではWi =19.7, Re=0.96だと乱流になると予想されている. 本研究では様々な場

    合の高Wi低 Re領域 (例えば, (Wi, Re)=(30.8, 0.48), (83.3,0.5), (157, 1.9)など)で渦

    度場を確認したが, 層流のままであった.

    Fig.4.20 渦度場

    Oldroyd-B+NavierStokes

    Wi =22

    [13]の引用

    Fig.4.21 渦度場

    Oldroyd-B+NavierStokes

    Wi =45

    [13]の引用

    Fig.4.20, 4.21は [13]の引用である. これらの渦度場は応力場を Oldroyd-B 構成方程式,

    流速場を Navier-Stokes方程式を用いて求めている. 本研究と異なり外力を x方向に加え

    ていることに注意すること. 各 Re の値について明記はされていないが, Reynolds 数の

    最大値は Remax = 0.7と記述されている. Fig.4.20では流れは乱れ始めており, Fig.4.21

    では乱流化している. これは高Wi低 Re領域での乱流である. 本研究の微視的モデルで

    高Wi低 Re領域での乱流が確認できず, 巨視的モデルである Oldroyd-Bモデルで確認で

    きるかの考察は今後の課題である. 2つモデルの大きな違いは, 高分子の位置情報にある.

  • 4.2 安定性とパワースペクトル 39

    微視的モデルはそれぞれの高分子が一様には分布するとは限らないが, 巨視的 Oldroyd-B

    モデルでは位置情報が構成方程式に取り込まれておらず高分子が一様に分布している場合

    を想定している. 今後は微視的モデルで高Wi低 Re領域での乱流を確認するために, 高

    分子を一様に分布させ位置が変化しないように固定し同様の計算を試みたい.

    4.2.2 一次元空間パワースペクトルの比較

    流速の y成分 uy の x軸方向のパワースペクトル ⟨|ũy|2⟩を求めた. 各 yの値で平均したパワースペクトルを求め, さらにそれらの時間平均を取っている. 流れが層流, 乱流の両

    方の場合を求め MD+LBM の場合と Oldroyd-B+LBM の場合を比較した. 図は, 縦軸:

    ⟨|ũy|2⟩, 横軸: kx である.

    Fig.4.22, 4.23 は長波長領域である横軸の値 5, 及び 10 あたりに目立ったピークがある.

    横軸の値 5が実空間での外力の周期 100に対応しており, その周期とその半分に uy の x

    方向の速度相関があることが分かる. 短波長領域では Fig.4.22では指数 −2のべき則に,Fig.4.23では指数 −4のべき則に従っている. Fig.4.22で値が揺らいでいるのは, MDが複数のダンベルを扱っていることとランダム力を扱っていることが原因である. 赤線が数

    値計算結果で, 緑線はそれを平均化したものである. 平均化は短波長領域でのみ行った.

    Fig.4.24, 4.25 は乱流状態での結果である. Fig.4.24,4.25 両方で長波長領域の目立った

    ピークはないが長波長領域全体で値が大きくなっている. これは流れが乱流化することで

    広い長さスケールで相関が生じたためだと考えられる. 短波長領域でのべき指数はどちら

    も −2. 以上のことから MD+LBM の微視的モデルと巨視的な量である応力についてのモデル Oldroyd-B で同等の結果が得られ, 低 Wi 高 Re での流れの微視的モデルの妥当

    性が示せた. また, Newton流体でのパワースペクトル Fig.4.13, 4.14と粘弾性体の結果

    Fig.4.22, 4.24比較すると長波長領域においてピークの位置など同等の振る舞いをしてい

    ることが分かる.

  • 40 第 4章 Kolmogorov流

    Fig.4.22 層流状態での空間パワースペクトル: MD+LBM, Wi=0.98, Re=9.6

    Re >√2であるが, 乱流化する以前の時刻で求めたので層流状態である.

    Fig.4.23 層流状態での空間パワースペクトル: Oldroyd-B+LBM, Wi = 0.50,

    Re = 9.18. Re >√2 であるが, 乱流化する以前の時刻で求めたので層流状態で

    ある.

  • 4.2 安定性とパワースペクトル 41

    Fig.4.24 乱流状態での空間パワースペクトル: MD+LBM, Wi=0.98, Re=9.6

    Fig.4.25 乱流状態での空間パワースペクトル: Oldroyd-B+LBM, Wi=0.50, Re=9.18

  • 42 第 4章 Kolmogorov流

    4.3 ダンベルの配向の時間変化と軌跡

    流れが層流か乱流かによって, ダンベルの配向の運動にどのような違いがあるかは興味

    深い. そこで層流と乱流の場合でダンベルの配向の時間変化を調べる.

    Fig.4.26 配向 θ の取り方

    Fig.4.26のように配向 θ (0∼360度)を取り, ダンベルの配向の時間変化を調べる. 特に流れが層流, 乱流の場合で結果を比較したい.

    ・A. 乱流化するパラメタ Re=39.8, Wi = 0.07

    ・B. 層流化するパラメタ Re=1.59, Wi = 2.96(抵抗低減; drag-reductionの領域)

    初期条件 (以下の条件を Aと Bで同じにする)

    流速: Kolmogorov流の厳密解 [13]+摂動 (ux, uy) = (0, U cos(x/L) + δ[−10−3 : 10−3])ダンベルの位置: ランダムに割り振る

    ダンベルの長さ: 0∼1でランダムに決める (平衡長 req: 1.0)ダンベルの向き: ランダムに割り振る (0∼360度)

    上記のダンベル以外に別のダンベルを設定する. 以下 2つの場合の配向の時間変化を調べ

    る.

    (i)初期位置: 外力 0の地点 (x, y)=(125, 250), Fy ダンベルと呼ぶ

    (ii)初期位置: 渦度 0の地点 (x, y)=(100, 250), ωz ダンベルと呼ぶ

    初期配向はいずれも θ = 180, 長さ 0.6, 重心が外力, 渦度 0地点になるようにする.

  • 4.3 ダンベルの配向の時間変化と軌跡 43

    Fig.4.27 層流状態での Fy ダンベル, ωz ダンベルと外力, 渦度の模式図

    4.3.1 結果

    Fig.4.28 は ωz ダンベルの配向時間変化, Fig.4.29 は ωz ダンベルの配向時間変化の結

    果である. 縦軸: 配向, 横軸: 時刻. またダンベルは固定されているわけではないので, ダ

    ンベルがどの程度移動したかに興味がある. そこでダンベルの移動の軌跡を Fig.4.30 ∼4.33に載せている. 縦軸: x, 横軸: y.

  • 44 第 4章 Kolmogorov流

    Fig.4.28 ωz ダンベルの配向時間変化, 青: 層流化するパラメタ, 紫: 乱流化するパラメタ

    Fig.4.29 配向時間変化. Fy ダンベル, 青: 層流になるパラメタ, 紫: 乱流になるパラメタ

  • 4.3 ダンベルの配向の時間変化と軌跡 45

    Fig.4.30 ダンベルの軌跡. ωz ダンベル,

    層流

    赤 : t = 0 ∼ 7, 000,緑 : t = 7, 000 ∼ 10, 000

    Fig.4.31 ダンベルの軌跡. Fy ダンベル,

    層流

    赤 : t = 0 ∼ 7, 000,緑 : t = 7, 000 ∼ 10, 000

    Fig.4.32 ダンベルの軌跡. ωz ダンベル,

    赤 : t = 0 ∼ 7, 000(層流),緑 : t = 7, 000 ∼ 10, 000(乱流)

    Fig.4.33 ダンベルの軌跡. Fy ダンベル,

    赤 : t = 0 ∼ 7, 000(層流),緑 : t = 7, 000 ∼ 10, 000(乱流)

  • 46 第 4章 Kolmogorov流

    Fig.4.28, 4.29 いずれの場合も乱流になるパラメタ (紫) の場合に回転運動が観察できる.

    1回転したのちに逆周りで 1回転するときもあり, 一方向に回転するわけではないことが

    分かる. また層流になるパラメタ (青) の場合は, Fig.4.28 では回転運動は見られず, 配

    向 θ は平均 213 の 150∼ 280 の範囲で揺らいでいる. 回転方向が定まらず配向が揺らいでいるのは Fy ダンベルが初期位置 x = 125からほとんど動いておらず, 渦度 ωz > 0と

    ωz < 0の両方の影響を受けるからである. Fig.4.29では乱流化するパラメタ (紫)と比べ

    ゆっくりと角度変化をし, 時刻 28,000程度で反時計回りに一回転する. 反時計回りなのは

    ωz ダンベルが初期位置 x = 100からほとんど動いておらず, 渦度 ωz < 0の位置であるか

    らである. さらに, 配向時間変化 Fig.4.28, 4.29の乱流になるパラメタ (紫)を見ると, 流

    れが乱流になる t=7000以前でも流れ場の影響を受けて配向が大きく変化していることが

    分かる.

    Fig.4.30 ∼ 4.33はダンベルの軌跡を示している. 配向変化の考察はダンベルが x軸方向にあまり移動しないことを仮定している. ダンベルを固定しているわけではないので

    移動の程度を確かめるために軌跡を示した. いずれの場合も x 軸方向にはほとんど移動

    していないことが分かる. 緑線は不安定化後の時刻 7001以降を示している. Fig.4.32を

    見ると, 流れ場の影響を受けて不安定化直後から軌跡が揺らいでいることが分かる. こ

    れは渦度が 0 の地点は流速場の揺らぎが特に大きいからである (Fig. 4.2, 4.3 などを参

    照). Fig.4.33 は不安定化後の時刻 7001 以降で揺らいでいない. これは ωz < 0 の地点

    は Fig.4.32 のような ωz = 0 地点ほどは流速場の揺らぎを受けないからである. また時

    刻 7000程度までは-y方向に移動し, 7000以降で y方向へ移動するのは, 流れが乱流化す

    ることで外力 Fy < 0 の地点から Fy > 0 の地点へ移動したからである. Fy ダンベルは

    Fy = 0地点を初期位置としているので少し移動するだけで外力の受ける向きが変化する.

    この結果からも移動に関してもダンベルは流れ場の影響を受けていることが分かる.

    4.4 ダンベル位置分布

    流れが乱流化するまでに, ダンベルの位置がどのように変化するかは興味深い. そこで

    層流になるWi, Re と乱流になるWi, Re でダンベルの x軸方向に沿った分布に興味が

    ある (500×500格子にダンベル数は 500個). そこで x軸を 5格子ごとに分けヒストグラムを描いた. 緑線は渦度=0のラインである. 縦軸はダンベルの数であり, そのグラフに重

    ねられた緑線の縦の大きさには意味がない. 渦度によってダンベルに掃き寄せがあるかに

    興味があるので比較のため表示している. Fig.4.34,4.36,4.38 の縦の列が層流の場合であ

    り, Fig.4.35,4.37,4.39の縦の列が乱流になる場合である (t ∼ 7, 000で不安定化). 初期条件は前節回転角を調べた場合と同じである.

  • 4.4 ダンベル位置分布 47

    ・乱流化するパラメタ Re=39.8, Wi = 0.07

    層流化するパラメタ Re=1.59, Wi = 2.96(抵抗低減; drag-reductionの領域)

    結果は次ページに載せてある. この条件でダンベルが掃き寄せられる場合があるか興味

    があったが, 時間 15,000程度ではダンベルが移動するのに短すぎることに後になって気が

    ついた. Einstein関係式により拡散係数D = kBT/ζ0が求まるが, 今回はD = 3.9×10−6

    であり, 外力の周期である L = 100まで移動するには, t ≈ D × L2 ∼ 1010 程度かかると見積もれるからである. 温度 kBT を大きくとり拡散係数 D を大きくすることで再度計算

    することが今後の課題である.

  • 48 第 4章 Kolmogorov流

    4.4.1 結果

    ダンベルの位置分布

    縦軸: ダンベルの数, 横軸: ダンベルの位置 (5格子ごとに分けヒストグラムを描いた)

    Fig.4.34 時刻: 1,000 層流 Fig.4.35 時刻: 1,000 層流

    Fig.4.36 時刻: 7,000 層流 Fig.4.37 時刻: 7,000 層流

    Fig.4.38 時刻: 15,000 層流 Fig.4.39 時刻: 15,000 乱流

  • 49

    第 5章

    まとめと展望

    まず最初に本研究で行ったこと, 分かったことを以下に列挙する.

    • 格子 Boltzmann法 (LBM)を用いて流速場を求めた.• 高分子の応力場の時間発展を記述する Oldroyd-Bモデルに LBMの手法を用いた数値計算モデル (LBM型 Oldroyd-B)と LBMをカップリングした.

    • 高分子のダンベルモデルについて運動方程式を立て, 分子動力学法 (MD)と LBMをカップリングさせる数値計算モデルを構築した (微視的モデル).

    • 上記 2 つの数値計算モデルで渦度場を観察することで, 先行研究 [11] で描かれたFig.4.1 の低 Wi, 高 Re 領域での安定性を確かめ, Fig.4.1 の予想と同等の結果を

    得た.

    • 微視的モデルを評価するため, 粘弾性応力の時間発展を記述する現象論的方程式として広く用いられているOldroyd-Bモデルで求めた, 速度の一次元空間パワースペ

    クトルの結果を比較した. その結果, 乱流の性質が現れる長波長領域において, 2つ

    のモデルで同等の結果が得られた. また微視的モデル, Oldroyd-B両方で乱流状態

    に置いて短波長領域が指数 −2のべき則に従うことが分かった. 異なる 2つのモデルで同等の結果が得られ, 低Wi高 Reでの流れの微視的モデルの妥当性が示せた.

    • 低Wi, 高 Re領域での粘弾性体のパワースペクトルは, 乱流状態の Newton流体のものと同等の振る舞いであることが分かった.

    • 高分子の配向の時間変化の違いについて調べた. その結果, 乱流化するWi, Reでは不安定化する前でも回転運動を起こすことが分かった. また層流になるWi,Re

    では初期位置が外力 0の地点に置いた高分子は時計周りの回転運動をすることが分

    かった. また初期位置が渦度 0の地点に置いた高分子は一定方向の回転はしないこ

    とが分かった.

  • 50 第 5章 まとめと展望

    • 乱流化する場合は不安定化が生じる以前でも, 流れ場が高分子の配向と位置に影響を与えていることが分かった.

    • 微視的モデルで, ドラッグリダクションと呼ばれる, Re >√2での層流が確認でき

    たが, 高Wi低 Reでの乱流は確認できなかった.

    本研究の目的は「弾性乱流の発生原理を究明すること」であった. 本研究では発生原理

    の解明はできなかったが, 現象の理解は進んだ. 以下, それについて述べる.

    まず微視的モデルで低Wi高 Reの乱流は確認でき, 高Wi低 Reでは確認できなかっ

    たことから低Wiと高Wiで乱流の発生原理が異なるのでないかと予想が立てられた. 先

    行研究 [13]で, Oldroyd-Bモデルを用いて低Wi高 Reの乱流を確認していることから,

    Oldroyd-B モデルと微視的モデルの違いに重要な点があると考えている. 注目したのは

    高分子の位置である. Oldroyd-Bモデルでの構成方程式 式 (3.11)は応力場についての方

    程式で高分子の位置情報は含まれておらず, 高分子が一様に分布している系を想定してい

    る. 一方微視的モデルは高分子各々の運動方程式を解くので高分子の位置情報がある. 微

    視的モデルで高分子が一様分布する系を考えるには, 初期条件として高分子を一様に分布

    させ固定させれば良い. 高分子は回転運動のみ行う. この条件で低 Wi 高 Re の乱流が

    確認できるか調査する必要がある. また微視的モデルには高分子数密度が必要になるが,

    Oldroyd-B モデルにはそれが必要ないことも注目すべき点である. 本研究では高分子数

    50 に対し, 系の面積が 500 × 500 なので, 高分子数密度は 50/500 × 500 = 1/5000 である. この値が低Wi高 Reの乱流を確認するのに妥当かどうかはあまり検討できていない.

    高分子数を変化させ計算してみる必要がある. また高分子数を増やすと数値計算に時間が

    かかるので計算効率化も研究の課題である.

    別の課題は, 4.4節で述べた通り, 温度 kBT を小さく取ったことからを拡散にかかる時

    間が大きいことである. Oldroyd-B モデルと微視的モデルの違いから高分子の位置に着

    目しているが, 本研究の計算時間では, 乱流化するのに理想的な位置まで高分子が移動し

    終わってない可能性があるからである. 今後は温度 kBT を大きく取り同様の計算を行い

    たい.

    また現状況で Kolmogorov流の安定性の相図を作成し Oldroyd-Bモデルの線形安定性

    解析との比較をし結果の整理をする必要もある. その他前半に箇条書きした結果を得られ

    たが, そこから弾性乱流の発生原理に繋がる見解は得られていない.

  • 51

    謝辞

    本研究を進めること, 本論文の執筆において非常に多くの方々にお世話になりました.

    心から感謝を申し上げます.

    指導教員である中西秀教授には研究全般において非常に多くのアドバイスを頂きまし

    た. 私の勉強不足のせいで簡単な質問をすることも多々ありましたが一つ一つ丁寧に答え

    て頂きました. また毎週の研究報告会では研究内容についてはもちろんのこと, 書類の書

    き方や文章表現まで指導して頂きました.

    同じく指導教員である坂上貴洋助教にも多くのアドバイスを頂きました. 特に専門であ

    る高分子物理については特に密な議論をして頂きました.

    松井淳講師には副指導教員として修士論文予備審査, 中間発表, 本論文の査読で親切に

    指導して頂きました. 野村清英助教授にも修士論文予備審査, 中間発表, 本論文の査読で建

    設的な質問, ご指導を頂きました. また, 研究を始めるにあたり以前統計物理学研究室に所

    属していた設楽恭平さん, Shiwani Singhさんには粘弾性体のことについて議論して頂き

    ました.

    同じ研究グループで切磋琢磨してきた工藤竜矢さん, 宇土弘毅さん, 案納桂子さん, 佐藤

    俊之さんとは毎週の研究報告会で建設的な意見を頂くとともに, 雑談をすることで楽しく

    研究することができました. 研究室のメンバーとも多くも時間を共有し密度の濃い楽しい

    時間を過ごすことができました.

    そして最後にこれまで私を支えて下さり, 育ててくれた家族に感謝を申し上げます.

  • 52

    参考文献

    [1] A. Groisman and V. Steinberg, NATURE 405 (2000)

    [2] Orestis Pileas Malaspinas,(2009), ”Lattice Boltzmann Method for the Simulation

    of Viscoelastic Fluid Flows”, https://infoscience.epfl.ch/record/140623/

    files/EPFL_TH4505.pdf (Ph.D thesis).

    [3] Erlend Magnus Viggen,(2009), ”THE LATTICE BOLTZMANN METHOD

    WITH APPLICATIONS IN ACOUSTICS” https://brage.bibsys.no/xmlui/

    bitstream/handle/11250/246271/279558_FULLTEXT01.pdf?sequence=1&

    isAllowed=y (Master thesis).

    [4] Zhaoli Guo, Chuguang Zheng, and Baochang Shi, PRE 65 (2002)

    [5] Michael C. Sukop and Daniel T. Thorne, Jr. ,Springer, (2005), ”Lattice Boltz-

    mann Modeling An Introduction for Geoscientists and Engineers”

    [6] Qisu Zou and Xiaoyi He, Phys. Fluids 9 (1997)

    [7] Patrick Oswald, CAMBRIDGE UNIVERSITY PRESS, (2009), ”Rheophysics

    The Deformation and Flow of Matter”

    [8] O. Malaspinas, N. Fietier and M. Deville, J. Non-Newtonian Fluid Mech. 165

    (2010)

    [9] M.Doi and S. F. Edwards, Oxford Science Publication,(1986), ”The Theory of

    Polymer Dynamics”

    [10] ”熱物理工学 2016 講義ノート”(京都大学 松本充弘)

    [11] G. Boffetta, A. Celani A. Mazzino, A. Puliafito and M. Vergassola, J. Fluid Mech.

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    [12] L. D. Meshalkin and Y. Sinai, PMM 25 (1961)

    [13] S. Berti, A. Bistagnino, G. Boffetta, A. Celani, S. Musacchio, PRE 77, (2008)

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    istry. 8 (2012)

    [15] O. Berk Usta, Anthony J. C. Ladd and Jason E. Butler, THE JOURNAL OF

  • 53

    CHEMICAL PHYSICS. 122 (2005)

    [16] Aslan Izmitli, David C. Schwartz, Michael D. Graham and Juan J. de Pablo,

    THE JOURNAL OF CHEMICAL PHYSICS. 128 (2008)

    [17] Rainer Kimmich, ”Principles of Soft-Matter Dynamics Basic Theories, Non-

    invasive Methods, Mesoscopic Aspects” Springer, (2012), p. 39∼43.[18] Sofie Janas,(2014), ”An Investigation of Rayleigh-Benard Convection using Lat-

    tice Boltzmann methods” (Bachelor thesis).

    [19] Hannes Risken, Springer, (1996), ”The Fokker-Planck Equation Methods of So-

    lution and Applications”

  • 54

    付録 A

    Poiseuille流と Couette流

    Poiseuille流と Couette流は Navier-Stokes方程式の定常厳密解である. それぞれ簡単

    に導けるのでそれぞれ紹介する.

    A.1 Poiseuille流

    チャンネルやパイプ中を流体が流れる場合, 粘着境界条件において, 放物線状の速度分

    布が得られる. これが Poiseuille流である. チャンネル中の流れを考える. NS方程式は以

    下である.

    ∂uy∂t

    =∂p

    ∂y+ η(

    ∂2

    ∂x2+

    ∂2

    ∂y2)uy.  (A.1)

    流れの方向を y 方向に取り, x 方向に速度は持たないと仮定した. 非圧縮条件 ∇ · u = 0は,

    ∂uy∂y

    = 0. (A.2)

    式 (A.2)を考えると, 定常状態における式 (A.1)は,

    η∂2

    ∂x2uy =

    ∂p

    ∂y. (A.3)

    ∂p∂y ≡ −C(Const)とすると, 粘着境界条件で

    uy = −C

    2η(x2 − Lx). (A.4)

    uy の最大値を U とすると, CL2/8η = U より,

  • A.2 Couette流 55

    C =8ηU

    L2(圧力勾配). (A.5)

    A.2 Couette流

    Poiseuille 流の場合, 境界の壁は静止していた. 壁が動くなどして流体にせん断がかか

    る場合, その速度分布は一次関数になる. これが Couette 流である. 壁は x = 0, L に存

    在し, 壁の速度 uwall = (0, Uwall) とする. 流速が満たすべき境界条件は, uy(x = 0) =

    0, uy(x = L) = Uwall である. 定常 NS方程式は,

    ∂p

    ∂y= η

    ∂2uy∂x2

    . (A.6)

    これを満たすのは左辺 = 右辺 = 定数 C のみである. A.6を xで 2回積分すると,

    dp

    dx

    x2

    2= ηuy + C1x+ C2 (A.7)

    境界条件より, {dpdy

    L2

    2 = ηUwall + C1L+ C2

    0 = C2(A.8)

    従って,

    uy =UwallL

    x− L2

    2η(dp

    dy)x

    L(1− x

    L) (A.9)

    特に dp/dy = 0だと,

    uy =UwallL

    x = γ̇x (A.10)

    であり, これを Couette流と呼ぶ場合が多い.

  • 56

    付録 B

    Oldroyd-B 構成方程式 (3.11)の導出

    この章の内容は主に [7]を参考にした.

    B.1 Maxwellモデルの解

    Maxwellモデルの構成方程式は式 (3.3)で

    σ + λσ̇ = ηγ̇ (B.1)

    と与えられた. 時刻 t=0で一定の γ̇ が与えられた際の解は,

    σ(t) = ηγ̇[1− exp(− tλ)] (B.2)

    である. また式 (B.1)の形式解が,

    σ(t) =η

    λ

    ∫ t−∞

    exp(− t− t′

    λ) ˙γ(t′)dt′ (B.3)

    と書けることは実際に代入することですぐ分かる.

    B.2 Fingerテンソル

    流体中のある 2点を考える. 時刻 t′ でそれら 2点を結ぶベクトルを dr′ とし, 流体の運

    動に伴い, 時刻 tで dr になったとする. その変換は,

    dr = F̂ (t, t′)dr′. (B.4)

    ただし, Fij = ∂xi/∂x′j . また明らかに F̂ (t, t) = Î. 連続体力学などの教科書にある通り,

    変形は回転部分と伸縮部分に分けられる. つまり回転行列 R̂と伸縮を表す行列 V̂ を用い

  • B.2 Fingerテンソル 57

    て, F̂ = V̂ R̂と書ける. この F̂ をそのまま用いて (Oldroyd-Bなどの)構成方程式を導出

    することはできない. なぜならば, F̂ には回転作用が含まれており, 物理法則が座標に依

    らないという原理に反するからである. 従って F̂ から回転作用 R̂を除去するために,

    B̂ ≡ F̂ F̂T = V̂ 2 (B.5)

    を導入する. B̂ を用いて, Fingerテンソル Ĥ を,

    Ĥ ≡ 12(B̂ − Î) = 1

    2(F̂ F̂T − Î) = 1

    2(V̂ 2 − Î) (B.6)

    と定義する.

    Fig.B.1 立方体の変形模式図

    この Fingerテンソルは変形が小さい場合は, 歪みテンソルを意味する. 例えば, 3次元単

    位立方体にせん断をかけ, 変形し平行六面体になったとする. そのときの F̂ は,

    F̂ =

    1 γ 00 1 00 0 1

    (B.7)と表せる. そのときの Ĥ と歪みテンソル ϵ̂は,

    Ĥ =

    γ2/2 γ/2 0γ/2 0 00 0 0

    (B.8)

    ϵ̂ =

    0 γ/2 0γ/2 0 00 0 0

    (B.9)これらは, 変形が小さいとして γ2 を無視すると一致する.

  • 58 付録 B Oldroyd-B 構成方程式 (3.11)の導出

    B.3 Oldroyd-B 構成方程式の導出

    式 (B.3)でMaxwellモデルの解が積分形,

    σ(t) = G

    ∫ t−∞

    exp[−(t− t′)/τ ] ˙γ(t′)dt′ (B.10)

    と書けることは既に説明した. これをテンソルに拡張し Oldroyd-B構成方程式を求める.

    式 (B.10)を部分積分すると,

    σ(t) = G

    ∫ t−∞

    2

    τexp[−(t− t′)/τ ]ϵ(t, t′)dt′ (B.11)

    ϵ(t, t′) =1

    2[γ(t)− γ(t′)] = 1

    2

    ∫ tt′

    ˙γ(t′′)dt′′ (B.12)

    となる. これをテンソル形に書き換える. ϵ(t, t′)は歪みを表している. これを Fingerテン

    ソルに置き換える. つまり,

    σ̂(t) = G

    ∫ t−∞

    2

    τexp[−(t− t′)/τ ]Ĥ(t, t′)dt′ (B.13)

    がMaxwellモデルのテンソル形である. ただし H(t, t′)は Fingerテンソル. 構成方程式

    を導出したいのでこの式を tで微分すると,

    ˙̂σ(t) = −G∫ t−∞

    2

    τ2exp[−(t− t′)/τ ]Ĥ(t, t′)dt′ +G

    ∫ t−∞

    2

    τexp[−(t− t′)/τ ] ˙̂H(t, t′)dt′

    この右辺第 1項は,式 (B.13)より −σ/τ . Fingerテンソルの時間微分は定義より,

    ˙̂H(t, t′) =

    1

    2[˙̂FF̂T + F̂

    ˙̂FT ] (B.14)

    となる. ただし ˙̂F は,

    Ḟij =∂ẋi∂x′j

    =∂ui∂xk

    ∂xk∂x′j

    = (∇u)ikFkj = (∇uF̂ )ij (B.15)

    従って Fingerテンソルの微分は,

    ˙̂H(t, t′) =

    1

    2[(∇uF̂ )F̂T + F̂ (∇uF̂ )T ] (B.16)

    =1

    2[∇u(F̂ F̂T ) + (F̂ F̂T )∇uT ] (B.17)

    = ∇uĤ + Ĥ∇uT + D̂ (B.18)

  • B.3 Oldroyd-B 構成方程式の導出 59

    ただし D̂ ≡ 1/2(∇u+∇uT )は歪み速度テンソル. 従って式 (B.14)の右辺第 2項は,

    G

    ∫ t−∞

    2

    τexp[−(t− t′)/τ ] ˙̂H(t, t′)dt′ = ∇uσ̂ + σ̂∇uT + 2G.D̂ (B.19)

    従って式 (B.14)の表式は,

    λˆ̇σ = −σ̂ + λ∇uσ̂ + λσ̂∇uT + 2ηD̂ (B.20)(B.21)

    つまり以下が最終表式である.

    λ∇σ̂ +σ̂ = 2ηD̂ (B.22)

    ∇σ̂≡ ∂

    ∂tσ̂ + (u · ∇)σ̂ − {(∇u)T σ̂ + σ̂(∇u)} (B.23)

  • 60

    付録 C

    電気二重層理論 (DLVOポテンシャル)

    ダンベルの運動方程式 式 (3.43) 中のビーズ間斥力ポテンシャルに DLVO ポテンシャ

    ルを用いている. ここではそのポテンシャルの意味を説明する. この章の内容は [17]を参

    考にした.

    C.1 電気二重層

    Fig.C.1 電気二重層の模式図

    電解質溶液中では正負の電荷が存在しているが、それがが近いた際 Fig.C.1のような層

    が出来ていると考える. 真ん中, 正に帯電している層 (青層)の電荷は, 左側の負に帯電し

    た層 (グレー層)に束縛され動けなくなっている. 青層の右の層 (拡散層)正電荷はグレー

    層から離れているので動くことができる. さらにその右側は帯電していないとする. 拡散

  • C.2 コロイドの電気二重層 61

    層中での静電ポテンシャルは以下の Poisson方程式を解くことで求まる.

    ∇2Φ(r) = − 1ϵ0ϵr

    ρc (C.1)

    境界条件として, Φ(∞) = 0,Φ(0) = ζ を課す. ϵ0はクーロン定数, ϵrは比誘電率.ρc は拡散層に分布している電荷密度分布で,

    ρc = e∑i

    ni0zi exp[−zieΦ

    kBT] (C.2)

    と Boltzmann因子で書ける. eは素電荷, ni0は i番目の種類のイオン数密度, zi は原子価

    を表す. 式 (C.1)と式 (C.2)を合わせた以下の式を, Poisson Boltzmann方程式という.

    ∇2Φ(r) = − 1ϵ0ϵr

    e∑i

    ni0zi exp[−zieΦ

    kBT] (C.3)

    |zieΦ| ≪ kBT の高温近似 (Debye Huckel 近似) と 1 種類のイオンのみを考えることで,式 (C.3)は,

    ∇2Φ(r) ≈ 2e2n0z

    2

    ϵ0ϵrkBTΦ(r) (C.4)

    ≡ κ2Φ(r) (C.5)

    となる. 電荷が一様に分布しているとすると 1次元の式 (C.5)は簡単に解け,

    Φ(x) = ζ exp(−κx). (C.6)

    ただし x = 0での電位を Zeta電位と言い ζ で表した. 拡散層の平均厚さも計算できる.

    x =

    ∫∞0

    x′Φ(x′)dx′∫∞0

    Φ(x′)dx′=

    1

    κ(C.7)

    x = 1κ のことを Debye長という.

    C.2 コロイドの電気二重層

    球座標系で式 (C.5)を解けば, コロイド周りの静電ポテンシャルが分かる. 球対象な静

    電ポテンシャルを考える. 球座標でのラプラシアンは動系方向のみ考えればよく,

    2

    r

    ∂Φ(r)

    ∂r+

    2

    r

    ∂2Φ(r)

    ∂r2= κ2Φ(r) (C.8)

    を解けばよい. 境界条件として, Φ(∞) = 0,Φ(r = R表面) = ζ を課す.

    Φ(r) = ζR表面r

    exp[−κ(r −R表面)] (C.9)

    となる.

  • 62 付録 C 電気二重層理論 (DLVOポテンシャル)

    Fig.C.2 コロイド周りの電気二重層の模式図

  • 63

    付録 D

    LBMとMDのカップリングでの空間の格子化に伴う線形補間

    この章の内容は [15] を参考にした. LB では空間の格子間隔が 1 に固定されてしまう.

    一方ビーズはもっと小さい間隔で移動できる. ビーズの座標が小数の場合, 流体との摩擦

    はどのように計算すれば良いか. つまり小数の座標での流体の運動量の補間を考える必要

    がある.

    Fig.D.1 1次元線形補間の模式図

    運動量 p(x) のうち, p(xi), p(xi+1) が既知 (整数座標で LB で求まる), 小数座標の p(X)

    を線形補間で求めることを考える. これは梃子の原理で簡単に求まり,

    p(X) =1

    xi+1 − xi[(xi+1 −X)p(xi) + (X − xi)p(xi+1)] (D.1)

    ≡ wip(xi) + wi+1p(xi+1) (D.2)

    質量についても同様に補間でき,

    ρ(X) = wiρ(xi) + wi+1ρ(xi+1). (D.3)

  • 64 付録 D LBMとMDのカップリングでの空間の格子化に伴う線形補間

    ここで速度 u(X)を

    u(X) ≡ wiρ(xi)u(xi) + wi+1ρ(xi+1)u(xi+1)wiρ(xi) + wi+1ρ(xi+1)

    (D.4)

    とすると, u(X)ρ(X) = p(x)となる.

    2次元の場合も同様に補間できる. p(xi, yj)(以下 pi,jと書く)と pi+1,jで補間し pX,jを得

    る.pi,j+1と pi+1,j+1でも補間し p(X, j + 1)を得る. それら 2つを用いてさらに補間すれ

    ば pX,Y を得る.

    Fig.D.2 2次元線形補間の模式図

    pX,j =1

    xi+1 − xi[(xi+1 −X)pi,j + (X − xi)pi+1,j ] (D.5)

    pX,j+1 =1

    xi+1 − xi[(xi+1 −X)pi,j+1 + (X − xi)pi+1,j+1] (D.6)

    pX,Y =1

    yj+1 − yi[(yj+1 − Y )pX,j + (Y − yj)pX,j+1] (D.7)

    =1

    (xi+1 − xi)(yj+1 − yj)[(yj+1 − Y )(xi+1 −X)pi,j + (yj+1 − Y )(X − xi)pi+1,j(D.8)

    + (Y − yj)(xi+1 −X)pi,j+1 + (Y − yj)(X − xi)pi+1,j+1] (D.9)

  • 65

    付録 E

    鎖状高分子の固有粘度 式 (3.44)の導出

    速度 v(r, t) = κ(t) · r の元で, 鎖状高分子の基準座標での Lagevin方程式 式 (3.29)は以下になる (この速度 v はビーズが流体効果を受けることを想定している).

    ∂Xp∂t

    = −kpζp

    Xp +1

    ζpFp + κ̂(t)Xp (E.1)

    これに対応する FP方程式は,

    ∂Ψ

    ∂t= Σp

    1

    ζp

    ∂Xp· (kBT

    ∂Ψ

    ∂Xp+ kpXpΨ)− Σp

    ∂Xp· κ̂(t)XpΨ (E.2)

    となる. 両辺に XpαXpβ をかけ,基準座標で部分積分すると,

    ∂t⟨XpαXpβ⟩ = ⟨Σq

    1

    ζq[

    ∂Xq· kBT

    ∂Xq(XpαXpβ)

    − kqXq ·∂

    ∂Xq(XpαXpβ)] + Σqκ̂(t)Xq

    ∂Xq(XpαXpβ)⟩

    =1

    ζp[2kBTδαβ − 2kp⟨XpαXpβ⟩] + κpµ⟨XpµXpβ⟩+ κβµ⟨XpµXpα⟩

    (E.3)

    ここで, せん断流が与えられている場合を考えると, 式 (E.3)は,

    ∂t⟨XpxXpy⟩ = −2

    kpζp⟨XpxXpy⟩+ κ⟨X2py⟩ (E.4)

    κ, ⟨X2py⟩ が小さい場合, ⟨X2py⟩を平衡値 kBT/kp に置き換えられる. 定常状態だと,

    ⟨XpxXpy⟩ =ζp2ζ2p

    kBTκ (E.5)

  • 66 付録 E 鎖状高分子の固有粘度 式 (3.44)の導出

    付録 Fで求める応力の表式, 式 (F.13)を用いると,

    σ(p)xy =c

    NΣ∞p=1kp⟨XpxXpy⟩ =

    1

    2

    c

    NΣ∞p=1

    ζpkp

    kBTκ. (E.6)

    固有粘度の定義式, 式 (3.44)より,

    [η] =σ(p)xy

    ρpηsκ=

    kBT

    2ρpηs

    c

    NΣp

    ζpkp

    . (E.7)

  • 67

    付録 F

    ダンベルによる応力の表式

    Fig.F.1 ばねのポテンシャルによ

    る面への応力の模式図 Fig.F.2 面とその面の上下にある

    ビーズ

    考えている面より上にあるビーズを n, 下にあるビーズをmとする. mから nへのビー

    ズ間の力を Fmnα とすると, 考えている面に働く力 Sα(h)は,多数のビーズの寄与を足し

    合わせると,

    Sα(h) =∑m,n

    FmnαΘ(h−Rmz)Θ(Rnz − h). (F.1)

    ここで

    Θ(x) =

    {1 x > 0,0 x < 0.

    (F.2)

    また, 応力 σαz は, 面の面積を Aとすると,

    σαz =< Sα > /A. (F.3)

    平均 < ... > はビーズ間の長さの平均, つまり Q を末端間ベクトルとして, < ... >≡∫dQ...Ψ(Q, t). < Sα(h) >が hに依らないと仮定すると (一様流), 式 (F.4)は以下のよ

    うに書ける.

  • 68 付録 F ダンベルによる応力の表式

    σαz =1

    AL<

    ∫ L0

    dhSα(h) > (F.4)

    <

    ∫ L0

    dhSα(h) > = <∑m,n

    Fmnα

    ∫ L0

    dhΘ(h−Rmz)Θ(Rnz − h) > (F.5)

    = <∑m,n

    Fmnα(Rnz −Rmz)Θ(Rnz −Rmz) > (F.6)

    = <1

    2

    ∑m,n

    (Fmnα(Rnz −Rmz)Θ(Rnz −Rmz)

    +Fnmα(Rmz −Rnz)Θ(Rmz −Rnz)) >

    = <1

    2

    ∑m,n

    Fmnα(Rnz −Rmz)(Θ(Rnz −Rmz) (F.7)

    +Θ(Rmz −Rnz)) > (F.8)

    = < −12

    ∑m,n

    Fmnα(Rmz −Rnz) > (F.9)

    = < −12

    ∑m,n

    FmnαRmz +1

    2

    ∑m,n

    FmnαRnz > (F.10)

    = − <∑m

    FmαRmz > (F.11)

    ここで式 (F.5)から式 (F.6)の変形では,∫Θ(h−Rmz)dh = (h�