時系列モデルを利用した動的資産配分 ·...

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©日本証券アナリスト協会 2012 63 1.はじめに 多くの年金基金にとって資産運用の舵取りは非 常に難しくなってきている。市場に目を向けると、 リーマンショック以降もマーケットは十分に回復 することはなく、欧州債務危機や東日本大震災、 また福島第一原発事故などが起こり、全体的に不 透明感が漂っている。また世界経済、とりわけ日 本経済は低迷しており、明るい材料はあまりない。 そのような中、多くの年金基金においては制度 の成熟化によってキャッシュフローが支出超過に なっている。少子高齢化の影響から掛け金が減少 する一方で年金給付は増加するため、資産の取り 崩しを行いながら運用しなくてはならない。厳し い環境下でも給付支払に充当する原資を確実に確 保しなくてはならないため、年金基金のリスク回 年金基金の運用において、政策アセットミックスの決定は運用のパフォーマンスを決める上で最も重要な意思 決定と位置付けられている。いったん定めた政策アセットミックスは、5年程度は維持すべきものとされてきた が、最近はこうした運営に疑問が呈されており、ポートフォリオを市場や経済の状況に応じて機動的に変更する 動的資産配分という考え方が注目されている。本稿では時系列モデルを利用した動的アセットミックスの策定方 法を提案する。これは、VAR(1)・DCC-GARCH(1,1)という時系列モデルを利用して資産の予測期待リタ ーン・標準偏差・相関行列を定期的に導出し、それらに基づいて最適化を行い、アロケーションを動的に変更す る手法である。数値例としては、伝統的4資産(国内債券・国内株式・外国債券・外国株式)のヒストリカルデ ータを用い、時系列モデルを利用した動的資産配分の有効性をバックテストにより確認する。また、中長期にわ たり固定する従来型の静的アセットミックスと時系列モデルによる動的アセットミックスを合成した、折衷的な ポートフォリオ構築法についても議論する。 .はじめに .政策アセットミックスの策定方法 .伝統的資産の時系列分析 .動的資産配分 .終わりに 佳 作 時系列モデルを利用した動的資産配分 ─政策アセットミックス見直しへの応用─ CMA 島井 祥行(しまい よしゆき) 公立学校共済組合本部 財務部資産運用課 専門職(みずほ銀行より出向)。2000年一橋大 学商学部卒業、第一勧業銀行(現・みずほ銀行)入行。市場営業部、みずほ投信投資顧問 (出向)等を経て、 11月より現職。12年一橋大学大学院国際企業戦略研究科、金融戦略・ 経営財務コース(MBA)修了。

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Page 1: 時系列モデルを利用した動的資産配分 · 動的資産配分という考え方が注目されている。本稿では時系列モデルを利用した動的アセットミックスの策定方

©日本証券アナリスト協会 2012� 63

1. はじめに

 多くの年金基金にとって資産運用の舵取りは非

常に難しくなってきている。市場に目を向けると、

リーマンショック以降もマーケットは十分に回復

することはなく、欧州債務危機や東日本大震災、

また福島第一原発事故などが起こり、全体的に不

透明感が漂っている。また世界経済、とりわけ日

本経済は低迷しており、明るい材料はあまりない。

 そのような中、多くの年金基金においては制度

の成熟化によってキャッシュフローが支出超過に

なっている。少子高齢化の影響から掛け金が減少

する一方で年金給付は増加するため、資産の取り

崩しを行いながら運用しなくてはならない。厳し

い環境下でも給付支払に充当する原資を確実に確

保しなくてはならないため、年金基金のリスク回

 年金基金の運用において、政策アセットミックスの決定は運用のパフォーマンスを決める上で最も重要な意思

決定と位置付けられている。いったん定めた政策アセットミックスは、5年程度は維持すべきものとされてきた

が、最近はこうした運営に疑問が呈されており、ポートフォリオを市場や経済の状況に応じて機動的に変更する

動的資産配分という考え方が注目されている。本稿では時系列モデルを利用した動的アセットミックスの策定方

法を提案する。これは、VAR(1)・DCC-GARCH(1,1)という時系列モデルを利用して資産の予測期待リタ

ーン・標準偏差・相関行列を定期的に導出し、それらに基づいて最適化を行い、アロケーションを動的に変更す

る手法である。数値例としては、伝統的4資産(国内債券・国内株式・外国債券・外国株式)のヒストリカルデ

ータを用い、時系列モデルを利用した動的資産配分の有効性をバックテストにより確認する。また、中長期にわ

たり固定する従来型の静的アセットミックスと時系列モデルによる動的アセットミックスを合成した、折衷的な

ポートフォリオ構築法についても議論する。

1.はじめに

2.政策アセットミックスの策定方法

3.伝統的4資産の時系列分析

4.動的資産配分

5.終わりに

目 次

佳 作

佳 作

時系列モデルを利用した動的資産配分─政策アセットミックス見直しへの応用─

島 井 祥 行 CMA

島井 祥行(しまい よしゆき)

公立学校共済組合本部 財務部資産運用課 専門職(みずほ銀行より出向)。2000年一橋大

学商学部卒業、第一勧業銀行(現・みずほ銀行)入行。市場営業部、みずほ投信投資顧問

(出向)等を経て、11年4月より現職。12年一橋大学大学院国際企業戦略研究科、金融戦略・

経営財務コース(MBA)修了。

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64� 創立50周年記念懸賞論文集 2012.10

避度は高まっている。資産を効率的に運用するだ

けでなく、積立不足を回避するべくリスクを従来

以上に抑えて運用することが求められている。

 またAIJ問題を受け、運用会社や信託銀行など

の受託者サイドのみならず年金基金など委託者サ

イドも、今後はより一層透明な運用を行い外部へ

きちんと説明することが求められるだろう。多く

の公的年金では数年前から、定期的にホームペー

ジ上で運用状況を開示するようになったようだ

が、その頻度も増えるかもしれない。

 年金基金の運用において、政策アセットミック

スの決定は運用のパフォーマンスを決める上で最

も重要な意思決定と位置付けられている。政策ア

セットミックスとは、どの資産にどのような割合

で投資するかを定める資産配分の目標であり、基

本ポートフォリオとも呼ばれる。これは、いった

ん定めたら5年程度の長期にわたって維持すべき

ものとされており、背景には資産のリスクプレミ

アムの分布は中長期のスパンで見ると変わらない

という考え方がある。また資産運用のリスクは、

9割は政策アセットミックスで定まると言われて

いる。

 しかしながら近年、世界経済の低迷や市場の混

乱による投資家のリスク回避度の高まりを受け、

このように資産配分の割合を長期にわたり固定す

る政策アセットミックス(以下、静的アセットミ

ックス、静的AM)に疑問が呈されている。ここ

数年の間に、リーマンショックなどの100年に1

度といわれる規模の金融混乱が複数回起こってい

る。環境の変化が激しさを増す中、資産のリスク

プレミアムの分布を長期間同一と考えるのは無理

があるであろう。そのような中、資産配分を固定

せずに動的に変更する政策アセットミックス(以

下、動的アセットミックス、動的AM)も徐々に

注目されてきている。

 本稿では時系列モデルを利用した動的アセット

ミックスの策定方法を提案する。これは、VAR

(1)・DCC-GARCH(1,1)という時系列モデルを

利用して資産の予測期待リターン・標準偏差・相

関行列を定期的に導出し、それらに基づいて最適

化を行い、アロケーションを動的に変更する手法

である。

 本稿の構成は以下のようになっている。第2章

では、最適化方法や動的資産配分など政策アセッ

トミックスの策定に関わる先行研究を整理し、時

系列モデルを利用した動的資産配分の手法と比較

する。第3章では、短期資産と伝統的4資産を

VAR(1)・GARCH(1,1)モデルに当てはめ、モ

デルに織り込まれた標準偏差(以下、インプライ

ドボラティリティ)、および相関(以下、インプ

ライド相関)の時系列推移を観察し、政策アセッ

トミックスの策定に利用できるかを確認する。第

4章では動的アセットミックスと静的アセットミ

ックス、およびその折衷的なアセットミックスの

パフォーマンスをバックテストにより計算し、ポ

ートフォリオのリターン特性や統計量を比較して

どれが年金基金に適しているか議論する。第5章

では全体を総括する。

2. 政策アセットミックスの策定方法

 本章では、まずポートフォリオ最適化の先行研

究を3つの最適化手法(シャープレシオ最大化、

大局的最小分散、CVaR最小化)を中心に整理する。

次に動的資産配分に関わる先行研究を振り返り、

本稿で提案する時系列モデルを利用した動的資産

配分の手法と比較する。

 最適化手法

 最適化手法の最も知れ渡ったものは平均分散モ

佳 作

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©日本証券アナリスト協会 2012� 65

デルであり、多くの年金基金の政策アセットミッ

クスはこの手法に基づいている。平均分散モデル

は、各資産の期待リターンと分散共分散行列を、

リターンとリスクの尺度にすることにより、ポー

トフォリオ選択問題を2次計画問題として定式化

した理論である。効率フロンティア上でシャープ

レシオが最も高くなる点を選ぶ方法がよく採られ

ている。

 年金積立金管理運用独立行政法人(以下、

GPIF)が2004年に策定した政策アセットミック

スの例を取り上げる。これは、「厚生年金・国民

年金平成16年財政再計算結果、以下財政再計算」

における経済前提を踏まえ、実質的な運用利回り

1.1%(名目運用利回り3.2%)が確保されるよう

策定された。まず、有効フロンティアを導出し、

この曲線上に位置している組み合わせの中から、

期待リターンが3.2 ~ 3.7%となるような11通り

のアロケーションを選択する。その際、①外国債

券<外国株式<国内株式、②短期資産=5%、の

2つの制約を課している。次に、この中からシャ

ープレシオが最大となるアロケーションを選び、

端数調整を通して2通りの候補に絞る。さらに、

モンテカルロシミュレーションを行い、2029年

度末時点で年金積立金が計画水準を下回る可能性

が低いものを政策アセットミックスとして採用し

ている。

 また、これも平均分散モデルの一種ではあるが、

大局的最小分散という手法がある。これは、有効

フロンティア上で標準偏差が最小となる点を取る

ものであり、リスク回避度が高まっている年金基

金には受け入れやすい手法だと思われる。この手

法は標準偏差と相関行列のみで最適化できるた

め、期待リターンを推計しなくてもよいという技

術面でのメリットもある。

 山田・上崎[2009]は、日本株式やグローバ

ル株式を対象に大局的最小分散の実証分析を行

い、このような標準偏差を最小化させるポートフ

ォリオ運用がシャープレシオ向上につながり得る

ことを示している。

 ただ、このような平均分散モデルを基本とした

政策アセットミックス策定方法についてはさまざ

まな議論が繰り広げられている。問題点を列挙す

ると、①リターンの分布が正規分布であることを

前提にしている、②リスクの尺度を標準偏差に限

定している、③資産の期待リターンの僅かな変化

に対して、ポートフォリオ構成比率が大きく影響

を受ける、④期待リターンが上方にぶれることも

リスクとして認識する、⑤年金は長期運用である

にもかかわらず平均分散法は1期間のモデルであ

る、などに集約できる。これらは竹原[2005]、

臼杵[2009]、甲斐[2006]、企業年金連合会[2010]

のいずれかによって指摘されている。

 平均分散モデルのこのような問題点を受け、ポ

ートフォリオの下方リスクに注目した最適化手法

も開発されている。その中の1つとして、ダウン

サイドリスク尺度として下方部分積率(Lower

Partial Moments、LPM)に注目し、これを最小化

する方法がある。竹原[2005]では、リスク概

念の再検討の必要性と、正規分布とは異なるリタ

ーンの分布を持つ資産の評価を平均分散モデルで

行うことの危険性を指摘した上、LPMの考え方

を整理し、政策アセットミックスへの応用につい

て議論している。また、山口・小松原[2005]は、

インフレ率を目標リターンに置き、LPMを最小

化するポートフォリオ構築方法を提案した。ダウ

ンサイドリスクを最小化するための株式と債券の

配分比率を、日米のリターンデータで検証してい

る。

 その他のダウンサイドリスク尺度としては

CVaR(Conditional Value at Risk)がある。これは、

佳 作

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66� 創立50周年記念懸賞論文集 2012.10

損失がVaRを超える場合の平均的な損失を測るも

のである。CVaRを最小化するポートフォリオ最

適化手法はRockafellar and Uryasev[2000]によ

って提案されている(注1)。甲斐[2006]では、

CVaRが、正規分布でないリターンを持つ資産を

内包したポートフォリオの最適化に適していると

言及しており、最適化の数値例が示されている。

 しかし残念ながら、これらダウンサイドリスク

尺度のアプローチも課題を抱えており、平均分散

モデルに完全に取って替わるわけではない。実務

においては、平均分散モデルも含めた幾つかの最

適化手法に対して、いろいろなバックテストやシ

ミュレーションを行い、その時々のマーケット環

境に適合した手法を選択するしかない。第4章で

は静的ポートフォリオと動的ポートフォリオをバ

ックテストによって比較するが、最適化の手法と

してシャープレシオ最大化、大局的最小分散、

CVaR最小化の3つの手法を用いることになる。

 動的資産配分

 動的アセットミックスの手段としては、ポート

フォリオ・インシュアランス、TAA(Tactical

Asset Allocation)、ロスカットの利用などが知ら

れている。政策アセットミックスの策定に応用し

ている例として企業年金連合会[2010]では、

積立水準をリスク尺度と置き、このダウンサイド

リスクを最小化するような動的アセットミックス

を導入している。これは、その時々の積立水準に

応じてアロケーションを変更するという動的資産

配分のプロセスである。ある資産が下落した場合、

その資産への投資ウェイトを上げるという逆張り

的な発想に基づく戦略になっている。また、菅原・

片岡[2012]では、トータルリスクが閾値を超

えたらリバランスを行い、閾値を下回ると元の基

本ポートフォリオに戻すという動的アセットミッ

クスを提案している。ここでは、GARCHモデル

を使って推定した標準偏差を基に、CVaRを計算

したものをリスク尺度としている。

 動的資産配分という手法が脚光を浴びるように

なった背景は、世界経済の低迷や金融市場の混乱、

リスク回避度の高まりを受け、静的アセットミッ

クスの手法に疑問が呈されているからであろう。

 静的アセットミックスを策定する際は、推計に

かなり長期のヒストリカルデータを使うことが多

い。そして、何らかのモデルを利用して期待リタ

ーン、標準偏差、相関行列を推計する。

 再び、GPIFが2004年に策定した政策アセット

ミックスの例を見る。国内債券の期待リターンに

は、「財政再計算」と平仄が合うよう実質長期金

利の推計結果を利用している。国内株式には配当

割引モデルを、外国債券、外国株式については、

79年~ 03年の過去実績を用いて期待リターンを

推計している。また、標準偏差、相関行列は、

73年~ 03年の過去実績によって推計している。

 臼杵[2009]は以下のように指摘している。

通常、政策アセットミックスは一度定めると5年

程度は変更しない。しかしながら、ポートフォリ

オを中長期にわたって固定するのは必ずしも適切

ではなく、マーケット環境や経済情勢に応じて機

動的に変更する方法もある。また徳島[2012]は、

中長期的な最適解である政策アセットミックスを

ある時点に1度に構築する必要は必ずしもないと

述べている。これらの主張の背景には、各資産の

分布は中長期的に一定ではなく時間と共に変動し

ているという見方がある。

 本稿では、期待リターン・標準偏差・相関行列

は時変であるという立場を取り、VAR(1)・DCC-

GARCH(1,1)という時系列モデルを利用した動

佳 作

(注1) CVaR最小化については補論1を参照されたい。

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©日本証券アナリスト協会 2012� 67

的アセットミックスの策定方法を提案する。前提

となる期待リターン・標準偏差・相関行列を固定

するのではなく、時系列モデルによって定期的に

予測・推計することで、直近の相場変動をモデル

の前提に織り込んでゆく方法である。具体的には、

VAR(1)モデルにより期待リターンを予測し、

DCC-GARCH(1,1)により標準偏差や相関行列

を推計する(注2)。このようにリターンの分布を

一定の時間的サイクルで更新することで、先に挙

げた平均分散モデルの問題点も幾分は緩和され

る。

3. 伝統的4資産の時系列分析

 本章では、短期資産と伝統的4資産をVAR(1)・

GARCH(1,1)モデルに当てはめ、そこから割り

出されるインプライドボラティリティ(Implied

Volatility、以下IV)・インプライド相関(Implied

Correlation、以下IC)の時系列推移を観察する。

また、これらをヒストリカルボラティリティ

(Historical Volatility、以下HV)・ヒストリカル相

関(Historical Correlation、以下HC)と比較する

ことで、政策アセットミックス策定に利用できる

かを確認する。

 時系列モデル適用の手順

 5資産のリターンをVAR(1)・DCC-GARCH

(1,1)モデルに当てはめる手順を説明する。この

モデルを適用することで、各資産の相互の影響を

考慮しながら、それらの挙動を動学的に捉えるこ

とができるのである。

 最初に、短期資産と伝統的4資産(国内債券・

国内株式・外国債券・外国株式)の合計5資産の

リターンデータにVAR(1)モデルを当てはめ、条

件付き平均を導出する。

 自己回帰(AR)モデルの過程は、ある時系列

が時系列自身の過去に回帰された形で表現され

る。ある時点における値は、過去の自身の値に依

存することになる。これは、現在の値を入力する

と将来の値が返されることを意味している。AR

モデルは将来の予測に役立つと言えよう。

 VARモデルとは、自己回帰モデルを多変量に拡

張したものである。VARモデルを使う目的は、1

つ目は複数の変数を用いて予測精度の向上を図る

ことであり、2つ目は変数間の動学的な関係の分

析を行うことである。

 5資産のリターンが、5資産の過去のリターン

により説明できると仮定するのはそう不自然なこ

とではない。例えば日米の相互の経済的な影響力

などを考慮すると、1時刻前の米国の株式市場の

動きが日本の株式市場に影響を与えるという考え

方は実態に即しているであろう。VAR(1)モデル

を用いることで、資産の条件付き期待リターンが

導出できるのに加え、将来リターンの予測も可能

となる。

 次の段階として、VAR(1)モデルを当てはめた

結果として発生する残差に対してDCC-GARCH

(1,1)モデルを当てはめ、時変の標準偏差、相関

行列を導出する。

 GARCHモデルとは、前期のショックの大きさ

と前期の条件付き分散が、今期の条件付き分散に

影響を与えるモデルである。多変量GARCHモデ

ルは、GARCHモデルを多変量に拡張したもので

ある。DCC-GARCHモデルは、分散に加え、相関

にも動学的な依存関係を持たせたモデルである。

 標準偏差が時間と共に変動している点について

は異論がないであろう。株式であれば、特に材料

がなく経済情勢が落ち着いている時は標準偏差が

佳 作

(注2) VARについては補論2、DCC-GARCHについては補論3を参照されたい。

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68� 創立50周年記念懸賞論文集 2012.10

安定している反面、ネガティブサプライズや金融

不安により市場のセンチメントが急速に悪化して

いる局面では標準偏差は一気に高まる。また、最

近は資産間の相関も時間と共に変動しているとい

う見方が主流になっている。これを示す典型的な

例がリーマンショック時のマーケット環境であ

る。米経済への不安から世界的な金融危機に連鎖

し、多くのプロダクト間の相関が一斉に高まり売

り一色となった。その結果、分散投資の効果は消

え多数のファンドが壊滅的な被害を受けたのであ

る。

 モデルによる伝統的4資産の分析結果

 短期資産として無担保コールオーバーナイト、

国内債券としてNOMURA-BPI(総合)、国内株式

と し てTOPIX( 配 当 込 )、 外 国 債 券 と し て

Citigroup世界国債(除く日本、円ベース)、外国

株式としてMSCI-KOKUSAI(GROSS、円ベース)

を使う。これらは、年金基金が一般的に利用して

いる伝統的4資産のベンチマークである。

 モデルによる伝統的4資産の分析には05/4/1

~ 12/3/31までの週次のデータを用いた。モデル

のパラメータ推定には、推定時点を基準として過

去1年間(52週)のヒストリカルデータを利用

する。そして、VAR(1)により将来3カ月間(13週)

の予測期待リターン、DCC-GARCH(1,1)によ

って3カ月間(13週)の標準偏差、相関行列を

導出する。この作業を、13週ずつローリングし

ながら逐次的に繰り返してゆく。

 図表1は、VAR(1)モデルにより推定された予

測期待リターンの時系列推移である。横軸の日付

に対して、その時点から将来3カ月間の予測期待

リターンの推移を年率換算で示したものである。

モデルに織り込まれたリターンは必ずしもプラス

ではなく大きくマイナスになる局面もある。例え

ば、リーマンショック時には内外株式が大幅なマ

イナスとなっており、相場の下落を予測している。

 図表2は、DCC-GARCH(1,1)モデルによっ

て導出された、TOPIXのIVとHVの推移をプロッ

トしたものである。両者の動きは大きく異なって

おり、IVは相場の材料に対して即座に反応して

いる一方、HVは比較的なだらかに推移している。

IVは、11年3月の東日本大震災の時には50%、

07年8月のパリバショック時は80%、そして08

年9月のリーマンショック時は何と500%超(グ

ラフの枠外)まで上昇している。一方、HVは各

種イベントに対して反応しないこともあり、反応

したとしても穏やかである。

 図表3は、DCC-GARCH(1,1)モデルによっ

て推定された、TOPIXとBPIの間のICとHCである。

ICとHCを比較すると、IVとHVを比較したときと

全く同じ傾向が読み取れる。ICは、相場が落ち着

佳 作

-125

-75

-25

25

75

125

2006/03

2006/12

2007/09

2008/06

2009/03

2009/12

2010/09

2011/06

2012/03

BPI総合TOPIXCiti世界国債MSCI-KOKUSAI

図表1 VAR(1)モデルによる予測期待リターン

(出所)筆者作成、以下同じ(図表5、6を除く)

0102030405060708090

100

2006/03/31 2007/03/31 2008/03/31 2009/03/31 2010/03/31 2011/03/31

TOPIX_IVTOPIX_HV

図表2 TOPIXのボラティリティ比較

Page 7: 時系列モデルを利用した動的資産配分 · 動的資産配分という考え方が注目されている。本稿では時系列モデルを利用した動的アセットミックスの策定方

©日本証券アナリスト協会 2012� 69

いている時はあまり変動していないが、07年8

月のパリバショック時や08年9月のリーマンシ

ョック時は大きく振れている。それに対して、

HCは案の定なだらかに推移しておりイベントへ

の反応もやや鈍い。

 このように、モデルに織り込まれた標準偏差や

相関を観察すると、過去データから単純に算出し

たものと異なり、マーケットの変化に対して即座

に反応していることが分かる。これは、データを

時系列モデルに当てはめることで、未来の予測を

目的にした変数間の動学的な関係を捉えることが

できているからであろう。GARCHモデルは短期

的視点で比較的検出の遅れが少ないと言われてい

るが、今回の分析結果はそれを支持している。紙

幅の関係でグラフは省略するが、国内株と国内債

券以外のペアにおいても、同じような分析結果が

出ている。

4. 動的資産配分

 時系列モデルを利用した動的資産配分とは、

VAR(1)モデルに織り込まれた将来の予測期待リ

ターンとDCC-GARCH(1,1)モデルから得られ

る標準偏差・相関行列に基づき、ポートフォリオ

最適化を行う手法である。

 本章では、動的アセットミックスと静的アセッ

トミックス、およびその折衷的なアセットミック

スのパフォーマンスを06年3月末から12年3月

末の期間でバックテストする。また、ポートフォ

リオのリターン特性や統計量を比較して、どれが

年金基金に適しているか議論する。最適化手法と

してはシャープレシオ最大化(以下、Max-

Sharpe)、 大 局 的 最 小 分 散( 以 下、Min-Var)、

CVaR最小化(以下、Min-CVaR)の3つを用いる

ことにする。

 バックテストにおいては、第3章で導出した結

果も利用する。すなわち、過去1年間のヒストリ

カルデータから将来3カ月間の予測期待リター

ン、3カ月間の標準偏差、相関行列を導出し、3

カ月ごとにポートフォリオを最適化する。

 図表4はバックテスト期間における資産ごとの

累積リターンの時系列推移である。一見して分か

る通り、この6年間は投資家にとって厳しい期間

であった。国内債券はプラスを確保しているが、

外国債券はほぼプラスマイナスゼロ、国内株式と

外国株式はマイナスとなっている。

 動的アセットミックスと静的アセットミック

スの比較

 静的なアセットミックスと動的なアセットミッ

クスのパフォーマンスをバックテストによって比

佳 作

-0.8

-0.7

-0.6

-0.5

-0.4

-0.3

-0.2

-0.1

0

0.1

2006/03/31 2007/03/31 2008/03/31 2009/03/31 2010/03/31 2011/03/31

内債-内株_HC内債-内株_IC

図表3 BPI総合とTOPIXの相関比較

-100

-80

-60

-40

-20

0

20

40%

2006/03/31

2007/03/31

2008/03/31

2009/03/31

2010/03/31

2011/03/31

BPI総合TOPIXCiti世界国債MSCI-KOKUSAI

図表4 伝統的4資産の累積リターン

Page 8: 時系列モデルを利用した動的資産配分 · 動的資産配分という考え方が注目されている。本稿では時系列モデルを利用した動的アセットミックスの策定方

70� 創立50周年記念懸賞論文集 2012.10

較する。繰り返しになるが、静的アセットミック

スとは、始めにポートフォリオのウェイトを定め

それ以降は変更しないものである。

 ここでは静的アセットミックスの代表例として

GPIFの現行の政策アセットミックス(以下、基

本ウェイト)を取り上げ、バックテストに用いる

ことにする。これは国内債券を中心に分散された

ポートフォリオであり04年度に策定された

(図表5)。共済組合など他の公的年金においても、

政策アセットミックスは国内債券中心のポートフ

ォリオになっているようである。また、GPIFが

前提に置いた各資産の期待リターン、標準偏差、

相関行列を図表6に示す。

 バックテストをするに当たって、静的なアセッ

トミックスにおける固定的な最適ウェイトの導出

法について説明する。まず、基本ウェイトはシャ

ープレシオ最大化の手法に基づいて算定されてい

るため、シャープレシオ最大化のバックテストで

は基本ウェイトをそのまま用いる。大局的最小分

散、CVaR最小化のバックテストでは、図表6の

前提条件に基づいて最適化し、導出したウェイト

をバックテスト期間中ずっと適用する。また、時

間の経過とともに実現ウェイトは最適ウェイトか

ら離れてくるため、定期的にリバランスを行う必

要がある。バックテストでは3カ月ごとにリバラ

ンスすることにする。

 続けて、動的アセットミックスにおける最適ウ

ェイトの導出法を説明する。まず、時間と共に変

動する期待リターン、標準偏差、相関行列を導出

する。具体的には、VAR(1)により将来3カ月間

の予測期待リターン、DCC-GARCH(1,1)によ

って3カ月間の標準偏差、相関行列を導出する。

次に、それらの統計値に基づいて最適化して最適

ウェイトを求める。その際、リスク性の低い短期

資産への投資には0~ 10%の制約を与える。こ

のような、分布を更新し、最適化し直し、最適ウ

ェイトを導くというプロセスを3カ月毎に繰り返

し、リバランスするのである。

 全てのバックテストを行うに当たって、リバラ

ンスに係るコストは売買高に対して一律1%とす

る。1%のコストはやや過剰な見積もりであるが、

マーケットインパクトや流動性リスクの問題を考

慮し保守的に設定した。年金基金がリバランスを

行う場合は金額が大きくなりがちであり、これら

の問題には十分配慮する必要があろう。

 結果は図表7の通りである。静的AM(①)・

動的AM(②)の各々のケースで、Max-Sharpe、

Min-Var、Min-CVaRの3通りの最適化手法をバッ

クテストした結果である(合計6通り)。各種統

計値を比較する。シャープレシオ、平均リターン

については、全ての最適化手法において動的AM

が静的AMを上回っている。一方、標準偏差を見

ると、Min-CVaRで動的AMが静的AMより大きく

ボラタイルである。次に最小リターンを見ると、

Max-Sharpe、Min-CVaRで動的AMが静的AMより

低水準であり、ダウンサイドリスクが大きいこと

佳 作

図表5 基本ウェイト

(%)

国内債券 国内株式 外国債券 外国株式 短期資産

構成比 67 11 8 9 5

乖離許容幅 ±8 ±6 ±5 ±5 -

(出所)GPIFホームページ

図表6 前提条件

(%)

国内債券 国内株式 外国債券 外国株式 短期資産

期待リターン �3.0 �4.8 �3.5 �5.0 �2.0

標準偏差  5.42 �22.27 �14.05 �20.45 ��3.63

国内債券 国内株式 外国債券 外国株式 短期資産

国内債券  1.00

国内株式  0.22  1.00

外国債券 -0.05 -0.29  1.00

外国株式 -0.01  0.25  0.55  1.00

短期資産  0.39  0.05 -0.03 -0.07  1.00

(出所)GPIF、第19回運用委員会資料等

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©日本証券アナリスト協会 2012� 71

を示している。また尖度を見ると、Max-Sharpe、

Min-CVaRでは動的AMが高水準になっている。こ

れは分布の裾が厚いことを示しておりリスク管理

上は不都合である。

 図表8は動的AMと静的AMの累積リターンを

比較したものである。両者の大きな違いとしては、

08年9月のリーマンショック時に静的AMは大き

くマイナスになったのに対して動的AMのマイナ

スは小幅に留まったという点であり、これが動的

AMのリターン優位に寄与している。一方、07年

8月のパリバショック時には逆の現象が起きてお

り、静的AMはほぼ横ばいとなっている一方、動

的AMは大きく落ち込んでいる。時系列モデルに

よる動的AMは基本的に順張型の戦略であるた

め、相場がトレンドと逆方向に向かうと大きな損

失を被ることを示している。

 これらを総合すると、動的AMは静的AMに対

して、リターンなどの収益性やシャープレシオな

どの効率性に関しては優位性があるものの、標準

偏差や最小リターンなどのリスクの観点からは必

ずしも優れてはいないと判断できる。これらの性

質は、リスク許容度の低下している年金基金には

受け入れ難いかもしれない。

 時系列モデルだけを利用する動的AMを採用す

るということは、「将来のリターンは過去の動き

のみに依存する」と考えるのに等しい。これは完

全な定量運用を行うということに他ならず、仮に

バックテストやシミュレーションで申し分ない結

果がでたとしても、2つの理由から年金運用には

なじまない。

 1つ目は、年金基金の場合、完全な定量運用で

は運用の説明責任を果たすのが難しいからだ。多

くの年金基金は運用実績を定期的に公表している

が、定量運用のプロセスなどを年金受給者に分か

りやすく納得のいく形で説明するのは困難であ

る。ただでさえ運用の中身は門外漢には分かりづ

らいのに、運用判断のより所が数式の羅列に立脚

していると説明されても釈然としないであろう。

内外マクロ経済やマーケット環境、そしてヒスト

リカルデータ、ごく簡単なモデルを参考にした運

用判断(以下、このような判断を定性判断と呼ぶ)

の方が明瞭である。

 2つ目の理由として、年金運用においては完全

な定量運用で安定的なパフォーマンスを確保する

佳 作

図表7 バックテスト結果(静的AM、制約なし動的AM)

ケース 制約最適化タイプ

累積リターン

平均リターン(年率)

標準偏差(年率)

シャープレシオ

最大リターン

最小リターン

歪度 尖度 勝率

静的 - Max-Sharpe �3.89% 0.65% 4.96% 0.13 2.39% -5.43% -1.87 12.69 55.6%

① Min-Var �6.28% 1.04% 2.90% 0.36 1.43% -3.21% -1.78 12.95 57.5%

Min-CVaR �5.83% 0.97% 3.10% 0.31 1.52% -3.44% -1.81 13.17 57.5%

平均 �5.33% 0.89% 3.65% 0.27 1.78% -4.03% -1.82 12.94 56.9%

動的 なし Max-Sharpe 12.88% 2.14% 4.80% 0.45 4.44% -5.91% -2.14 29.56 59.4%

② Min-Var �7.49% 1.24% 2.06% 0.60 1.42% -1.73% -0.60 �7.19 56.5%

Min-CVaR 10.07% 1.67% 4.16% 0.40 4.13% -5.60% -2.49 39.84 58.5%

平均 10.15% 1.69% 3.67% 0.48 3.33% -4.41% -1.74 25.53 58.1%

-10

-5

0

5

10

15

2006/03/31 2007/03/31 2008/03/31 2009/03/31 2010/03/31 2011/03/31

% 静的_Max-Sharpe静的_Min-Var静的_Min-CVaR

動的_Max-Sharpe動的_Min-Var動的_Min-CVaR

図表8 累積リターンの推移(静的AMと制約なし

動的AM)

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72� 創立50周年記念懸賞論文集 2012.10

のは困難だからだ。これは、投資ホライズンを中

長期に置き、基本的にはロングオンリーという制

約があるためである。それらの制約により、運用

するに当たっては、各資産の絶対的な均衡水準を

導き出す必要があるため難易度は高くなる。

 ちなみに、これに対して、完全な定量運用がう

まく機能する例としては投資ホライズンが短いク

オンツ運用がある。一言にクオンツ運用といって

も多種多様であるが、ロングとショートを組み合

わせ、相場の短期的なミスプライス解消にベット

するものが典型的である。短期運用であれば、原

因の判然としない相場の綾を取りにいくこともで

きよう。また、ショートが可能であれば、資産間

の相対的な割安割高が分かれば十分であり、中長

期な均衡水準まで知る必要はない。

 これらを考慮すると、年金運用には従来から行

っている多方面からの定性判断も重要になってく

るであろう。

 動的アセットミックスと静的アセットミック

スの混合

 今度は、定性判断に基づく中長期の見通しをベ

ースに、時系列モデルによる短期的な予測を組み

込んだ動的AMを2つ考える。これらは、最適化

する際に制約を与えることで具現化される。

 ⑴では、最適化する際に何の制約も与えていな

かった。そもそも、何の制約も与えずに最適化を

行うと、その都度アロケーションが大きく変動す

るという問題がある。多くの年金基金は巨額の資

金を運用しているため、流動性やマーケットイン

パクトの観点からドラスティックな投資割合の変

更は困難である。無理やり実行しようとするとマ

ーケットを壊しかねないため、慎重な対応が必要

である。

 1つ目の制約付き動的AMは単純であり、中長

期の見通しに幅を持たせて、その範囲内で最適化

する方法である。言い換えると、アロケーション

の目標を1点に定めるのではなく、上限と下限を

定めたレンジにする手法である。なお、政策アセ

ットミックスにレンジを設けるということ自体は

特段新しいプロセスではない。GPIFの政策アセ

ットミックス(図表5)の国内債券の例では、中

心値は67%、乖離許容幅は8%であるため、59

~ 75%のレンジが設けられている。

 このようなレンジをアロケーション制約とし、

時系列モデルで導出した統計値を基に最適化を行

う手法が考えられる。この手法のメリットは、レ

ンジの幅を調整することで簡単に定性判断もしく

は定量判断を重視する割合を変更できることであ

る。レンジの幅を狭める(広げる)ということは、

時系列モデルの影響が小さくなる(大きくなる)

ため、定性判断(定量判断)をより重視すること

になる。

 もう1つの制約付き動的AMは、定性判断に基

づく分布と定量判断に基づく分布を適当に合成

し、新たな分布に基づき最適化を行うという方法

である。ここでは、ブラック・リッターマン法(以

下、BL法とも表記)を応用することでこれを実

現する。BL法とは、市場均衡に対して投資家が

持つビューを組み込むことで、最適なポートフォ

リオのウェイトを導出する仕組みである(注3)。

ここでは定性判断によって得られた分布を市場均

衡とみなし、時系列モデルによって導かれた分布

を投資家のビューとみなす。BL法においても、

パラメータを調整することで定性判断もしくは定

量判断を重視する割合を変更することはできる。

 これらの手法が有効か確認するべく、⑴と同様

の前提条件でバックテストを行う。レンジ制約を

佳 作

(注3) ブラック・リッターマン法については補論4を参照されたい。

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設けたもの(ケース③)、BL法によるもの(ケー

ス④)、レンジ制約およびBL法によるもの(ケー

ス⑤)の3つを取り上げる。

 レンジ制約については、図表5にあるGPIFの

許容乖離幅を用いる。またBL法については、

図表6の前提条件による分布を市場均衡とみな

し、時系列モデルによる予測期待リターン・標準

偏差・相関行列を投資家のビューとみなす。バッ

クテストの結果は図表9の通りである。

 最初に、図表7における静的AM(①)、制約

なし動的AM(②)、図表9における制約あり動

的AM(③~⑤)の3つを比較する。制約あり動

的AM(③~⑤)の平均を制約なし動的AM(②)

の平均と比べると、リスク関連の指標である標準

偏差、最小リターンは格段に改善している。静的

AM(①)の平均と比べてもこれらの指標は改善

しており、制約あり動的AM(③~⑤)の手法が

3つの中で最も低リスクだと言えよう。シャープ

レシオはケース③、ケース⑤の平均では制約なし

動的AM(②)の平均と比べてやや悪化している

が、静的AM(①)に比べると随分改善している。

一方、ケース④の平均は制約なし動的AM(②)

の平均と比べて改善している。これは、平均リタ

ーンは悪化するものの標準偏差が大きく低下して

いるためである。また勝率では、制約あり動的

AM(③~⑤)の平均は制約なし動的AM(②)

の平均と比べてやや改善している。

 次に視点を変えて、静的AM(①)と動的AM(②

~⑤)を比較する。平均リターン、シャープレシ

オは、全ての動的AMの全ての最適化パターンで

改善している。また勝率に関しては、動的AM(②

~⑤)の平均は静的AM(①)の平均と比べて上

昇している。

 図表10は、ケース①~⑤の累積リターンの平均

の時系列推移である。⑴では、2007年8月のパ

リバ・ショック時に、制約なし動的AM(②)が

静的AM(①)を大きくアンダーパフォームして

いた。ここでは、制約あり動的AM(③~⑤)の

推移を観察しよう。ケース④では大きな落ち込み

を見せているが、制約なし動的AM(②)ほどで

はない。また、ケース③、ケース⑤ではマイナス

佳 作

図表9 バックテスト結果(制約あり動的AM)

ケース 制約最適化タイプ

累積リターン

平均リターン(年率)

標準偏差(年率)

シャープレシオ

最大リターン

最小リターン

歪度 尖度 勝率

動的 上下限 Max-Sharpe 8.71% 1.45% 3.60% 0.40 1.73% -2.75% -0.98 �3.96 58.5%

③ Min-Var 8.24% 1.37% 2.74% 0.50 1.33% -2.75% -1.44 �9.27 59.1%

Min-CVaR 9.28% 1.54% 3.16% 0.49 1.66% -2.75% -1.19 �6.56 58.8%

平均 8.74% 1.45% 3.17% 0.46 1.57% -2.75% -1.20 �6.60 58.8%

BL Max-Sharpe 12.25% 2.04% 4.72% 0.43 4.11% -5.59% -1.80 24.27 59.7%

④ Min-Var 7.90% 1.31% 2.13% 0.62 1.12% -1.75% -0.87 �5.40 59.4%

Min-CVaR 8.54% 1.42% 3.18% 0.45 2.63% -3.43% -1.43 16.95 57.8%

平均 9.57% 1.59% 3.34% 0.50 2.62% -3.59% -1.37 15.54 59.0%

上下限 Max-Sharpe 8.75% 1.45% 3.58% 0.41 1.84% -2.75% -1.02 �4.53 58.8%

⑤ +BL Min-Var 7.53% 1.25% 2.82% 0.44 1.35% -2.85% -1.46 �9.42 59.1%

Min-CVaR 7.62% 1.27% 3.23% 0.39 1.50% -2.75% -1.10 �5.51 57.8%

平均 7.97% 1.32% 3.21% 0.41 1.56% -2.78% -1.19 �6.49 58.6%

-8

-6

-4

-2

0

2

4

6

8

10

12%

2006/03/31 2007/03/31 2008/03/31 2009/03/31 2010/03/31 2011/03/31

静的動的(なし) 動的(上下限) 動的(BL)動的(BL+ 上下限)

図表10 累積リターンの推移(ケース①~⑤の平均)

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74� 創立50周年記念懸賞論文集 2012.10

の幅は相応に抑えられている。これらの結果は、

動的AMに制約を与えることで、ダウンサイドリ

スクへの頑健性が強まることを示している。

 これらを総合すると、動的AMを導入すること

で、平均リターン、シャープレシオ、勝率は改善

しており投資の収益性・効率性の向上には結び付

く公算が大きい。ただし、リスク関連項目である

標準偏差や最小リターンは必ずしも改善しない。

そのような中、アロケーションに何かしらの制約

を設け、静的AMと動的AMを合成することで、

リスク関連項目も相応に改善することが認められ

た。このような折衷的な戦略は、昨今リスク許容

度が低下している年金基金向けといえよう。

 ここで認識しておきたいのは、図表4をみれば

直ちに分かるように、バックテストの期間は「下

げ局面」であり、なおかつリーマンショックや震

災、欧州債務危機などの急落局面を含んでいると

いう事実である。この期間をアウトオブサンプル

としたバックテストで良い結果が得られるという

ことは、将来的に類似した「下げ局面」に遭遇し

たときにもポートフォリオの痛みを最小化できる

可能性が高いということである。

 最適化手法の比較

 今度は切り口を変え、Max-Sharpe、Min-Var、

Min-CVaRの3つの最適化の手法を比較する。

図表11はケース①~⑤の結果を、最適化手法ごと

に平均を取ったものである。

 累積リターン・平均リターン・最大リターンに

ついてはMax-Sharpe、Min-CVaR、Min-Varの順番

に高水準であり、収益性のみに着目するとMax-

Sharpeが最も高い。他方、標準偏差、最小リター

ンなどのリスク項目に目を向けるとMin-Var、

Min-CVaR、Max-Sharpeの順番に低リスクである。

 投資の効率性であるシャープレシオは、Min-

Var、Min-CVaR、Max-Sharpeの順番に高い。驚く

ことに、Max-Sharpeはシャープレシオ最大化で最

適化しているにもかかわらず、シャープレシオは

3つのうちで最低となっている。

 また、Min-Varの歪度が最も0に近く尖度は最

も3に近いため、Min-Varのリターン分布が最も

正規分布に近いと言える。これは、分析しやすい

ことを意味しており運用者にとっては好都合であ

る。

 このような結果が得られたのは、Min-Varは

Max-SharpeやMin-CVaRよりも最適化の精度が高

かったからだと考えられる。ここで重要なのは、

Min-VarはMax-SharpeやMin-CVaRと違い期待リタ

ーンが最適化のための入力項目となっていない点

である。図表4にあるように、バックテストの期

間が基本的には「下げ相場」だったため、全体的

に期待リターンの推計は難しかったのであろう。

その結果、期待リターンの入力を必要とするMin-

CVaR、Max-Sharpeは最適化の精度がやや劣った

のかもしれない。

 Min-Varは、より少ない入力項目で最適化が可

能なため、運用者としては扱いやすく便利な手法

とも言える。ただし、「下げ相場」においては持

ち味が生かされるものの、「上げ相場」においては、

Max-Sharpeなどに大きく遅れを取る可能性がある

佳 作

図表11 バックテスト結果(最適化手法ごと)

最適化タイプ

累積リターン

平均リターン(年率)

標準偏差(年率)

シャープレシオ

最大リターン

最小リターン

歪度 尖度 勝率

Max-Sharpe 9.29% 1.54% 4.33% 0.36 2.90% -4.49% -1.56 15.00 58.4%

Min-Var 7.49% 1.24% 2.53% 0.50 1.33% -2.45% -1.23 �8.85 58.3%

Min-CVaR 8.27% 1.37% 3.37% 0.41 2.29% -3.59% -1.60 16.41 58.1%

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©日本証券アナリスト協会 2012� 75

点には十分留意したい。

5. 終わりに

 本稿では、VAR(1)・DCC-GARCH(1,1)とい

う時系列モデルを利用した、動的アセットミック

スの策定方法を提案した。

 伝統的4資産をVAR(1)・GARCH(1,1)モデ

ルに当てはめ、各資産の将来の期待リターンを予

測し、標準偏差、相関行列を推計した。時系列推

移を観察した結果、HV、HCよりも、モデルに織

り込まれたIV、ICの方がその時々の相場の材料

にビビッドに反応していることが確認できた。

GARCHモデルは短期的視点で比較的検出の遅れ

が少ないと言われているが、今回の分析結果はそ

れを支持している。将来を予測するという目的に

はHV、HCよりもIV、ICの方が役立つであろう。

 また、3つの最適化手法(シャープレシオ最大

化、大局的最小分散、CVaR最小化)について、

過去からの議論を振り返りつつ整理を行ってい

る。

 そして、これが本稿の最大の貢献だと認識して

いるが、資産の分布が時間と共に変動している点

に着目し、時系列モデルを利用して定期的に資産

配分を変更する動的資産配分の手法を提案した。

静的AMと制約なし動的AM、制約あり動的AMを、

06/3月末から12/3月末までの期間、アウトオブ

サンプルでバックテストを行いパフォーマンスを

計測した。時系列モデルによる予測を利用した動

的AMが、静的AMに比べて投資の収益性や効率

性を高めるという結果が確認できた。また動的

AMに、①レンジを設ける、②BL法を利用する、

③レンジを設けBL法を利用する、などの制約を

課すと標準偏差や最小リターンなどのリスク関連

指標も改善することが分かった。年金基金のリス

ク許容度が低下していることを鑑みれば、このよ

うな、時系列モデルによる予測を一部取り入れた

動的AMの実務への応用は検討できるように思わ

れる。

 それから、バックテスト結果に基づき、Max-

Sharpe、Min-Var、Min-CVaRの3つの最適化の手

法の特徴について整理した。

 今後の課題としては以下が挙げられる。このよ

うに、動的AMにおいて時系列モデルを利用する

としても、パラメータ推定に使うヒストリカルデ

ータの期間、アロケーションを変更するまでの期

間などによって結果は変わってくる。これらの項

目は、さまざまな角度から分析を行い慎重に定め

る必要があるため一筋縄にはいかない。また、動

的AMに制約を与える場合も同種の問題が発生す

る。レンジの許容幅をどう定めるか、ブラック・

リッターマン法を用いるにしても事前分布と事後

分布のどちらをどの程度重視するかなどは簡単に

定められない。結局のところ、完全な定量モデル

と謳われていても、前提条件の定め方は多分に定

性的にならざるを得ない。言うまでもなく、いか

に最先端のテクノロジーを取り入れて高度化しよ

うとも定量モデルには限界がある。

 繰り返しになるが、年金基金を取り巻く環境は

極めて厳しい。年金受給者への安定的な給付を実

現すべく、リスクをなるべく抑制しつつ投資の収

益性・効率性も追求しなくてはならない。なおか

つ、ここにきて運用の透明性がより強く求められ

るようになり、従来以上に外部への説明責任を丁

寧に果たす必要が生じるであろう。マーケット環

境は日増しに不安定化しており、今後はより一層

運用の巧拙がパフォーマンスを左右する。本稿で

提案する時系列モデルを利用した動的資産配分の

考え方が、持続可能な運用を模索する中で少しで

も参考になれば幸いである。

佳 作

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76� 創立50周年記念懸賞論文集 2012.10

補論1 CVaR最小化による最適化

 CVaRはポートフォリオのリターンの損失がある確

率水準 βを上回る時の平均損失である。シミュレー

ションによって次の線形計画問題を解けば、CVaR最小化による最適ポートフォリオを導出できる。これ

はRockafellar and Uryasev[2000]によって示された。

 rjt はパス t でのリスク資産 j のリターン、xj はポー

トフォリオのウェイトを示す。 αはVaRの値、 βは信

頼係数、 z はスラック変数、 T はシミュレーション

回数、r-p はポートフォリオのリターンである。

補論2 ベクトル自己回帰(VAR)モデル

 ARモデルをベクトルに一般化したものであり、

VAR(p)モデルは yt を定数と yt 自身の p 期前までの過

去の値に回帰したモデルである。

と表現できる。ここで、 c は n×1 の定数ベクトルで

あり、 iφ は n×n 係数行列、εtは分散共分散行列Σの

ホワイトノイズである。

補論3 GARCHモデル

 1変量GARCH(p, q)モデルは以下のように表現

できる。

 ここで、誤差項 tη の条件付き分散を、

と表した。

 次に多変量DCC-GARCHモデルへ拡張する。DCC-GARCHモデルは、変数間の動学的関係において重要

な役割を果たす相関係数を時変的に扱うモデルであ

り、Engle[2002]によって考案された。分散共分散

行列は、

と 表 現 す る。 こ こ で Rt は 相 関 行 列 で あ り、

,Njjt …,2,1, =σ は1変 量GARCHモ デ ル で あ る。

DCC-GARCHでは、相関行列 Rt が、次式のように動

的に変動する、つまり無条件の共分散行列 Q─に回帰

するような変動構造を持つことを仮定している。

ただし、

である。

 Rt が相関行列になるためには、Qt が正定値行列で

ある必要があるが、a>0、b>0、a+b≦1のとき、

Qt は必ず正定値行列になる。

補論4 ブラック・リッターマン法

 ブラック・リッターマン法は、市場均衡と投資家

のビュー(主観)を組み合わせることによって最適

なポートフォリオのウェイトを導出する枠組みであ

り、Black and Litterman[1992]によって考案された。

 期待リターンに関して市場均衡に不確実性がある

と考えると、市場均衡は、

の分布に従うと考えられる。 μは N 変量正規分布に

従うことになり、 τが小さいほど μは市場均衡に近い

と見なすことができる。 τは投資家の市場均衡の確信

度合を表しているのである。

 次に投資家の将来の期待リターンに関するビュー

を反映させる。投資家のビューは、

と表現できる。Pμも N 変量正規分布に従う。 Ωは投

資家のビューに対する確信度を反映した行列であり、

Ωが大きい(小さい)ほど投資家は自分のビューの

確信度を低く(高く)評価していると考える。ベイ

ズの定理を用いてこれらを総合すると、

となる。ただし、

∑=−

+T

ttz

TMinimize

1)1(1β

α

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佳 作

Page 15: 時系列モデルを利用した動的資産配分 · 動的資産配分という考え方が注目されている。本稿では時系列モデルを利用した動的アセットミックスの策定方

©日本証券アナリスト協会 2012� 77

である。

 投資家のビューに対する確信度である Ωと市場均

衡の確信度である τを調整することで市場均衡と投

資家のビューを重視する割合を定めることができる。

ブラック・リッターマン法を実務に応用する際、 Ωと τをどう設定するかが問題になる。

本稿の内容は全て筆者の個人的見解によるもので

あり、その責任は全て筆者個人に帰属する。

〔参考文献〕

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アセットミックス)を考える」、『証券アナリスト

ジャーナル』、47(9). pp.6-16.甲斐章文[2006]「期待ショートフォールを用いたリ

スクバジェッティング」、『第一生命の年金通信 

特別レポート』、8月号.企業年金連合会[2010]「政策アセットミックスの見

直しについて―ダウンサイドリスクモデルを使っ

た積立水準に応じた動的資産配分モデル―」、企業

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菅原周一・片岡敦[2012]「トータルリスクに基づく

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徳島勝幸[2012]「投資におけるタイムホライズンを

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Rockafellar, R. T. and S. Uryasev [2000]“Optimization of Conditional Value at Risk”, Journal of Risk, 2, pp.21-41.

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佳 作