環境経済勘定体系セントラルフレームワークの構造 …-1- はじめに...

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-1- はじめに 『環境経済勘定体系セントラルフレームワーク』 System of Environmental-Economic Accounting Central FrameworkSEEA-CF1 SNA サテライト勘定のひと つである。 SEEA-CF SNA の概念、構造、規則を基盤とし、そ れを拡張した形で経済情報(財・サービスの供給・使用 など)と環境情報(天然資源の投入やストックなど)を 体系的に記録する。SEEA-CF SNA 中枢体系とも親和 性が高く、両者を組み合わせることにより、経済循環 2 と環境情報をより体系的に捉えることができる 3 。また 国連統計委員会は 2012 年、SEEA-CF を環境経済勘定に 関する初の国際統計基準として採択した 4 SEEA-CF のこのような特性及び国際的な位置付けに より、各国は今後、それに準拠したマクロ的環境経済勘 定を整備することが予想される。我が国でも SEEA-CF の推計・公表に向けた検討が必要になろう。 本稿はそれに向けて、United Nations et al.2014)に 基づき、SEEA-CF の概要、それを構成する各勘定表の 内容と関連、留意点を考察することを目的とする。 第Ⅰ章では SEEA-CF の特徴を簡潔に述べ、自然投入 や残留物、生産資産や環境資産、環境活動分類など SEEA-CF が対象とするフローや資産の考え方、範囲を 整理する。第Ⅱ章では SEEA-CF を構成する 4 種類の勘 定表について、概要をそれぞれ考察する。第Ⅲ章ではそ れら勘定表の関連を整理するとともに、いくつかの留意 点を述べる。 第Ⅰ章 SEEA-CF の概要 前述の通り、SEEA-CF SNA を基盤とし、それを拡 張した形で経済情報、環境情報を体系的に記録する。以 下では SEEA-CF の特徴を簡潔に述べ、SEEA-CF が対象 とするフローや資産の考え方、範囲を整理する。 1 SEEA-CF の特徴 本稿では、SEEA-CF の特徴として、以下の 3 点をあ げる。 第一に、SEEA-CF は図 1.1 に示すように、経済領域 内や経済・環境間に見られる生産物、天然資源、廃棄物 などのフロー、天然資源を含む資産のストック及びその 変動、環境関連の経済活動・取引を、互いに整合性を持 つ複数の勘定表により、体系的に捉える 5 第二に、SEEA-CF 2008SNA の概念、構造、規則を 基盤とし 6 、経済情報、環境情報を示す。したがって、 前述の通り、SNA 中枢体系とも親和性が高い。 第三に、SEEA-CF は範囲、定義、分類を共通とする 貨幣的データと物的データを連結して示す 7 。例えば、 環境経済勘定体系セントラルフレームワークの構造 静岡産業大学 経営学部 准教授 牧野 好洋 本稿は内閣府経済社会総合研究所(2014)『平成 25 年度 環境経済勘定セントラルフレームワークに関する検討作業 報告書本編 SEEA-CF 概説書)』及び同報告書に掲載の拙著「SEEA-CF の体系の考察」を再構成し、加筆・訂正したものである。本稿の作成にお いてはご関係の多くの先生方より数々の有益なコメントをいただいた。心より感謝申し上げる。なお本稿の問題点、不備等はすべて筆 者に帰すものである。 1 著:United Nations et al.2014System of Environmental-Economic Accounting 2012 Central Frameworkhttp://unstats.un.org/unsd/ envaccounting/seeaRev/SEEA_CF_Final_en.pdf2014 6 17 日アクセス)。 以下、本稿の内容に最も関連深いパラグラフを SEEA-CF para.#.#、本稿が引用した図表の出所を同 figure#.#、同 table#.# と示す。なお SEEA-CF のパラグラフ、図表番号は同 final version に基づく。 2 SNA 中枢体系は期首ストック、フロー(財・サービスの投入・産出、所得循環、資金循環、対外取引)、調整、期末ストックをひとつ の経済循環として、体系的に捉える。 3 例えば拙著(2014)「経済循環と水の循環-「日本版 NAMWA」作成と活用の試み-」は SNA 中枢体系が捉える経済循環を勘定行列上 に示すとともに、SNA サテライト勘定のひとつである SEEA-Water が捉える水の使用・供給、汚染物質の排出・処理を同一の行列上に 記述、我が国における経済循環と水の循環を接合して明示する。 4 SEEA-CF preface 1 5 SEEA-CF para.2.6 6 SEEA-CF para.1.3 7 SEEA-CF para.1.54

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はじめに

『環境経済勘定体系セントラルフレームワーク』

(System of Environmental-Economic Accounting Central

Framework;SEEA-CF)1 は SNA サテライト勘定のひと

つである。

SEEA-CF は SNA の概念、構造、規則を基盤とし、そ

れを拡張した形で経済情報(財・サービスの供給・使用

など)と環境情報(天然資源の投入やストックなど)を

体系的に記録する。SEEA-CF は SNA 中枢体系とも親和

性が高く、両者を組み合わせることにより、経済循環 2

と環境情報をより体系的に捉えることができる 3。また

国連統計委員会は 2012 年、SEEA-CF を環境経済勘定に

関する初の国際統計基準として採択した 4。

SEEA-CF のこのような特性及び国際的な位置付けに

より、各国は今後、それに準拠したマクロ的環境経済勘

定を整備することが予想される。我が国でも SEEA-CF

の推計・公表に向けた検討が必要になろう。

本稿はそれに向けて、United Nations et al.(2014)に

基づき、SEEA-CF の概要、それを構成する各勘定表の

内容と関連、留意点を考察することを目的とする。

第Ⅰ章では SEEA-CF の特徴を簡潔に述べ、自然投入

や残留物、生産資産や環境資産、環境活動分類など

SEEA-CF が対象とするフローや資産の考え方、範囲を

整理する。第Ⅱ章では SEEA-CF を構成する 4 種類の勘

定表について、概要をそれぞれ考察する。第Ⅲ章ではそ

れら勘定表の関連を整理するとともに、いくつかの留意

点を述べる。

第Ⅰ章 SEEA-CF の概要

前述の通り、SEEA-CF は SNA を基盤とし、それを拡

張した形で経済情報、環境情報を体系的に記録する。以

下では SEEA-CF の特徴を簡潔に述べ、SEEA-CF が対象

とするフローや資産の考え方、範囲を整理する。

第 1 節 SEEA-CF の特徴

本稿では、SEEA-CF の特徴として、以下の 3 点をあ

げる。

第一に、SEEA-CF は図 1.1 に示すように、経済領域

内や経済・環境間に見られる生産物、天然資源、廃棄物

などのフロー、天然資源を含む資産のストック及びその

変動、環境関連の経済活動・取引を、互いに整合性を持

つ複数の勘定表により、体系的に捉える 5。

第二に、SEEA-CF は 2008SNA の概念、構造、規則を

基盤とし 6、経済情報、環境情報を示す。したがって、

前述の通り、SNA 中枢体系とも親和性が高い。

第三に、SEEA-CF は範囲、定義、分類を共通とする

貨幣的データと物的データを連結して示す 7。例えば、

環境経済勘定体系セントラルフレームワークの構造※

静岡産業大学 経営学部

准教授 牧野 好洋

          ※ 本稿は内閣府経済社会総合研究所(2014)『平成 25 年度 環境経済勘定セントラルフレームワークに関する検討作業 報告書本編

(SEEA-CF 概説書)』及び同報告書に掲載の拙著「SEEA-CF の体系の考察」を再構成し、加筆・訂正したものである。本稿の作成にお

いてはご関係の多くの先生方より数々の有益なコメントをいただいた。心より感謝申し上げる。なお本稿の問題点、不備等はすべて筆

者に帰すものである。1 原 著:United Nations et al.(2014)System of Environmental-Economic Accounting 2012 Central Framework(http://unstats.un.org/unsd/

envaccounting/seeaRev/SEEA_CF_Final_en.pdf、2014 年 6 月 17 日アクセス)。

以下、本稿の内容に最も関連深いパラグラフを SEEA-CF para.#.#、本稿が引用した図表の出所を同 figure#.#、同 table#.# と示す。なお

SEEA-CF のパラグラフ、図表番号は同 final version に基づく。2 SNA 中枢体系は期首ストック、フロー(財・サービスの投入・産出、所得循環、資金循環、対外取引)、調整、期末ストックをひとつ

の経済循環として、体系的に捉える。3 例えば拙著(2014)「経済循環と水の循環-「日本版 NAMWA」作成と活用の試み-」は SNA 中枢体系が捉える経済循環を勘定行列上

に示すとともに、SNA サテライト勘定のひとつである SEEA-Water が捉える水の使用・供給、汚染物質の排出・処理を同一の行列上に

記述、我が国における経済循環と水の循環を接合して明示する。4 SEEA-CF preface 15 SEEA-CF para.2.66 SEEA-CF para.1.37 SEEA-CF para.1.54

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SEEA-CF の供給・使用表は、経済情報を貨幣的、物的

の両面から、環境情報を物的な面から示す。

第 2 節 SEEA-CF の勘定表

SEEA-CF の勘定表は「供給・使用表」「資産勘定」「経

済勘定系列」「機能勘定」の 4 種類に大別される 8。

なお SEEA-CF は、検討するべき最も喫緊の環境課題

に応じて、限られた変数のみを勘定表に含めることが合

理的であるとする 9。すべての物質を含む包括的な物的

供給・使用表を作成すること、またすべての天然資源を

対象とする資産勘定を作成することを求めていない 10。

第 3 節 生産物、自然投入、残留物

SEEA-CF は、生産物の供給と使用を貨幣的、物的に

捉えるとともに、自然投入、残留物の供給と使用を物的

に捉える。

生産物とは、経済の生産プロセスから得られる財・サ

ービスのことである 11。

自然投入とは、経済の生産プロセスの一部として、環

境におけるその所在地から移動されるか、又は生産に直

接使用されるすべての物的投入のことである 12。その分

類を表 1.1 に示す。

自然投入は天然資源投入、再生可能資源からのエネル

ギー投入、その他の自然投入から成る。

天然資源投入は経済への天然資源の投入であり、育成

生物資源の投入を含まない。育成生物資源は経済領域内

で生産され、その投入は環境からのフローとされない 13。

天然資源残留物は天然資源の採取後、生産プロセスに

組み込まれずに、直ちに環境に返される天然資源投入で

ある 14。採取中の損失、不使用採掘・採取物、再注入か

ら成る 15。育成木材資源からの伐採残留物、家畜の飼育

による堆肥など育成生物資源の収穫に関連する残留物は

          8 SEEA-CF para.2.49 SEEA-CF para.6.6010 SEEA-CF para.6.411 SEEA-CF para.2.9112 SEEA-CF para.3.4513 SEEA-CF para.3.4714 SEEA-CF para.3.9815 SEEA-CF para.3.50。それぞれの意味を同パラグラフより以下に引用する。

【採取中の損失】採取者が留保できるのであればそうしたであろう資源(燃焼や通気によるガスの散失)

【不使用採掘・採取物】採取者が継続的に利益を認識しない資源(鉱物採取時の表土層、採掘坑の排水及び漁業者が廃棄した捕獲物など)

【再注入】採取されたが、直ちに鉱床に返され、後に再採取されることがある天然資源(帯水層に再注入された水、貯留層に再注入さ

れた天然ガスなど)

図 1.1 経済の生産境界と関連付けた物的フロー

環境

自然投入

天然資源残留物

残留物

経済

生産物

経済領域(たとえば、

埋立地)内で処理ま

たは保管された残留

(出所)SEEA-CF figure 3.1

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          16 SEEA-CF para.3.9917 SEEA-CF para.3.5318 SEEA-CF para.3.5919 SEEA-CF para.3.6020 SEEA-CF para.3.6221 SEEA-CF para.3.63

天然資源残留物でなく、固形廃棄物とされる 16。また伐

採時の残留物が薪として販売されるなど、天然資源残留

物がその後、売却される場合、生産に使用された採取と

して記録される 17。

再生可能資源からのエネルギー投入は、環境から提供

される非燃料エネルギー源のことである 18。その推計は、

エネルギーを収集するために実施された技術(例えば太

陽光パネル、風力タービンなど)に利用されるエネルギ

ー量を反映すべきであり、利用される可能性のある潜在

エネルギー量に基づくべきでない 19。

土壌からの投入は、土壌に存在している栄養素やその

他の要素のうち、経済が生産プロセスに取り入れる物質

である 20。大気からの投入は、生産・消費のために経済

が大気から取り入れる物質である。大気からの投入は、

育成生物資源が使用する化合物や成分(窒素、酸素及び

二酸化炭素を含む)、及び燃焼やその他の産業プロセス

中に吸収された物質を含む 21。

残留物とは、生産、消費又は蓄積の各プロセスを通じ

表 1.1 自然投入

1 天然資源投入

1.1  生産に使用された採取

1.1.1   鉱物・エネルギー資源

1.1.1.1    石油資源

1.1.1.2    天然ガス資源

1.1.1.3    石炭・泥炭資源

1.1.1.4    非金属鉱物資源(石炭・泥炭資源を除く)

1.1.1.5    金属鉱物資源

1.1.2   土壌資源(採掘済み)

1.1.3   天然木材資源

1.1.4   天然水産資源

1.1.5   その他の天然生物資源(木材資源と水産資源を除く)

1.1.6   水資源

1.1.6.1    地表水

1.1.6.2    地下水

1.1.6.3    土壌水

1.2  天然資源残留物

2 再生可能資源からのエネルギー投入

2.1  太陽光

2.2  水力

2.3  風力

2.4  波力・潮力

2.5  地熱

2.6  その他の電力・熱

3 その他の自然投入

3.1  土壌からの投入

3.1.1   土壌栄養素

3.1.2   土壌炭素

3.1.3   その他の土壌からの投入

3.2  大気からの投入

3.2.1   窒素

3.2.2   酸素

3.2.3   二酸化炭素

3.2.4   その他の大気からの投入

3.3  その他の自然投入(他に分類されていないもの) (出所)SEEA-CF table 3.2

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て事業所及び家計から廃棄、放出又は排出される固体、

液体、気体の物質、及びエネルギーフローのことであ

る 22。その分類を表 1.2 に示す。

廃棄者が廃棄した生産物と引き換えに金銭もしくはそ

の他の利益を受け取る場合、これを残留物としてではな

く、生産物の取引とする 23。

廃水は、処理の有無を問わず、再利用水を含む。ただ

し、SEEA-CF は同じ事業所内で再利用された廃水を記

録しない 24。また慣例により、大気への排出は蒸発によ

る蒸気又は水の放出を除く 25。水中への排出は事業所又

は家計が排出した物質の総量ではなく、それらが水中に

追加した物質の量である 26。散逸損失とは、生産・消費

活動から間接的に生じた物質的な残留物である。例えば、

自動車のブレーキやタイヤからの摩耗残留物、道路の表

面からの微粒子状の摩耗物などがある 27。

第 4 節 生産資産、環境資産

SEEA-CF の資産境界は貨幣的と物的でやや異なる。

貨幣的な資産境界は、SNA と SEEA-CF で同じである。

すなわち、SEEA-CF は SNA の評価原則に即した経済的

価値を持つ資産を対象とする 28。一方、物的な資産境界

は、経済的価値がないものを含み、SEEA-CF の方が

SNA よりも広い 29。

SEEA-CF は天然資源を含む資産を生産資産、環境資

産に分類し、それらを貨幣的、物的に捉える。生産資産

と環境資産を区別するのは、供給・使用表でこれらのフ

ローの記録が異なることを強調するためである 30。

生産資産と環境資産の関係を図 1.2 に示す。

生産資産は、SNA の生産境界内に含まれる生産プロ

セスの結果、産出として出現した資産である。固定資産

(建物、機械等)、在庫品(将来使用するための小麦の貯

蔵等)及び貴重品(美術品、貴金属等)から成る 31。

          22 SEEA-CF para.2.9223 SEEA-CF para.3.7524 SEEA-CF para.3.8725 SEEA-CF para.3.9126 SEEA-CF para.3.9227 SEEA-CF para.3.9728 SEEA-CF para.1.4729 SEEA-CF para.1.48 及び para.2.10630 SEEA-CF para.2.5731 SEEA-CF para.5.34

表 1.2 残留物

グループ 代表的な構成要素

固形廃棄物(回収原料を含む) 化学・医療廃棄物、放射性廃棄物、金属廃棄物、その他の再生可能資源、廃

棄装置・車輛、動植物廃棄物、住宅・商業施設混合廃棄物、鉱物廃棄物・土壌、

焼却廃棄物、その他の廃棄物

廃水 処理・処分用の水、リターンフロー、再利用水

大気への排出 二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、亜酸化窒素、ハイドロフルオロカーボ

ン、パーフルオロカーボン、6フッ化硫黄、一酸化炭素、非メタン揮発性有

機化合物、二酸化硫黄、アンモニア、重金属、残留性有機汚染物質、粒子状の

もの(たとえば、PM10)

水中への排出 窒素化合物、リン化合物、重金属、その他の物質・(有機)化合物

土壌への排出 パイプラインからの漏出、化学薬品の漏出

生産物の散逸使用からの残留物 肥料からの未吸収栄養素、道路に散布された塩

散逸損失 摩耗(タイヤ/ブレーキ)、インフラの浸食/腐食(道路等)

天然資源残留物 鉱物採取時の表土層、伐採残留物、廃棄した捕獲物

(出所)SEEA-CF table 3.4

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環境資産は、地球において自然に発生した生物・非生

物の構成要素であり 32、鉱物・エネルギー資源、土地、

土壌資源、木材資源、水産資源、その他の生物資源(木

材資源及び水産資源を除く)、水資源から成る。

経済資産 33 は生産資産、非生産資産、金融資産から

成る。非生産資産は生産プロセス以外の方法で出現した

資産である。天然資源や土地、契約、賃貸借、免許、マ

ーケティング資産などを含む 34。

SEEA-CF は経済資産のうち生産資産と環境資産を対

象とする。固定資産の多くや在庫品は環境資産ではない

が 35、生産資産として SEEA-CF の対象に、天然資源及

び土地は非生産資産であるが、環境資産として SEEA-

CF の対象にされる。契約やマーケティング資産、金融

資産は SEEA-CF の対象でない。

環境資産の分類を表 1.3 に示す。

SEEA-CF は土地と土壌資源を 2 つの別の資産として

認識する。土地は空間の提供という役割を持ち 36、河川

や湖沼などの陸水をも包含する 37。土壌資源は天然資源

に含まれる。水産資源は当該国の排他的経済水域内の資

源を含む 38。

木材資源、水産資源は育成資源と天然資源に分類され

る。その区分は、資源の成長に対して、どの程度積極的

な管理が行われているかに基づく 39。育成資源は経済領

域の中にあるため、SEEA-CF はそれらが環境から吸収

する物質を自然投入とする 40。一方、天然資源は環境領

域の中にあるため、SEEA-CF はそれらが環境から吸収

する物質を環境内のフローとし、対象としない。天然資

源の採取のみを自然投入とする 41。

          32 SEEA-CF para.5.833 SEEA-CF における経済資産は、経済的所有者(経済活動を行う中で資産を使用することに伴って得られる便益を、それに付随するリス

クを受け容れることにより主張する資格のある制度単位)がその実体を一定期間にわたり保有または使用することにより得られる便益、

または一連の便益に相当する価値の蓄積である(SEEA-CF para.5.32)。  図 1.2 において、天然資源及び土地のうち、経済的便益を伴うものは経済資産であり、環境資産である。それを伴わないものは経済

資産でないが、環境資産である。

 なお経済資産である環境資産の場合、勘定において経済的便益は、天然資源及び育成生物資源の販売による営業余剰の形、環境資産

の使用許可または採取許可で得られる賃貸料の形、環境資産が売却された際(土地の販売など)の取引費用を除いた純受取額の形で記

録される(SEEA-CF para.5.33)。34 SEEA-CF para.5.3635 一部の固定資産は環境資産とみなされる。乳牛や羊毛用の羊など継続的に産出を生み出す動物、ぶどう園や果樹園など多数の産出を生

み出す植物は、環境資産でもある固定資産である(SEEA-CF para.4.192)。36 SEEA-CF para.1.4937 SEEA-CF para.5.2138 SEEA-CF preface 2939 SEEA-CF para.5.2440 SEEA-CF para.3.5841 SEEA-CF para.3.57

図 1.2 環境資産と経済資産の関係

* 育成生物資源以外のもの

(出所)SEEA-CF figure 5.1

経済資産

生産資産

固定資産 及び 育成生物資源

在庫品*

非生産資産

契約、

マーケティング資産、他.

金融資産

天然資源 及び 土地

環境資産

経済的便益を伴わ

ない天然資源及び

土地(不毛地、現

時点で経済的価値

のない確認済みの

鉱物埋蔵量)

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その他の生物資源は家畜、小麦や米などの一年生作物、

ゴム園などの多年生作物、果樹園・ぶどう園など育成動

植物を含む 42。その大半が育成生物資源であるが、野生

のキイチゴ、鹿など一部は天然生物資源である 43。

SEEA-CF の環境資産は海洋、大気を含まない 44。特

に海洋の水の量はストックが大きすぎ、分析上意味がな

いため、水資源に含めない 45。

環境資産はまた、天然資源〔鉱物・エネルギー資源、

土壌資源、天然木材資源、天然水産資源、その他の生物

資源(そのうち天然資源)、水資源〕、育成生物資源〔育

成木材資源、育成水産資源、その他の生物資源(そのう

ち育成生物資源)〕、土地に分類される 46。

第 5 節 環境活動分類

SEEA-CF が対象とする環境活動は、環境保護活動と

資源管理活動である。これらの分類である環境活動分類

(Classification of Environmental Activities;CEA)を表 1.4

に示す。

環境保護(Environmental Protection;EP)活動とは、

環境の汚染やその他の形態による劣化の防止・削減及び

除去を主目的とする活動のことである。これは廃棄物や

廃水の防止・削減又は処理、大気への排出の防止・削減

又は除去、汚染された土壌や地下水の処理及び処分など

を含む 47。

資源管理(Resource Management;RM)活動とは、天

然資源のストックを保全・維持し、それによって減耗か

ら保護することを主目的とする活動のことである。これ

は天然資源の引き出しの縮小(天然資源の回収・再利用・

再生及び代替による場合を含む)、天然資源ストックの

復元(天然資源ストックの増加又は回復)などを含む 48。

なお SEEA-CF は、天然資源の採取など天然資源使用

活動 49 や自然災害の経済・社会への影響を最小化する

活動 50、転居もしくは転職により、地元の騒音又は大気

汚染から逃れることに伴う支出など、すでに汚染された

          42 SEEA-CF para.5.46043 SEEA-CF para.5.46144 SEEA-CF preface 3045 SEEA-CF para.2.10246 SEEA-CF para.2.10147 SEEA-CF para.4.1248 SEEA-CF para.4.1349 SEEA-CF para.4.1950 SEEA-CF para.4.24

表 1.3 環境資産

1 鉱物・エネルギー資源

1.1  石油資源

1.2  天然ガス資源

1.3  石炭・泥炭資源

1.4  非金属鉱物資源(石炭・泥炭資源を除く)

1.5  金属鉱物資源

2 土地

3 土壌資源

4 木材資源

4.1  育成木材資源

4.2  天然木材資源

5 水産資源

5.1  育成水産資源

5.2  天然水産資源

6 その他の生物資源(木材資源及び水産資源を除く)

7 水資源

7.1  地表水

7.2  地下水

7.3  土壌水

(出所)SEEA-CF table 5.1

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環境に起因する損害の回避又は処理を目的とする活動 51

を環境活動とみなさない。

第Ⅱ章 SEEA-CF の勘定表

前述の通り、SEEA-CF の勘定表は「供給・使用表」「資

産勘定」「経済勘定系列」「機能勘定」の 4 種類に大別さ

れる。以下では図 2.1 により、各勘定表の概要を考察する。

第 1 節 供給・使用表

供給・使用表は生産物の供給と使用を貨幣的、物的に

捉えるとともに、自然投入、残留物の供給と使用を物的

に捉える。それは「貨幣的供給表」「貨幣的使用表」「物

的供給表」「物的使用表」の 4 表から成る。

各表の構造は以下の通りである。

「貨幣的供給表」は各生産物の供給を貨幣的に示す。

同表は行方向に産業による生産物の産出など 52、海外か

らの生産物の輸入を記述、行和に総供給を記録する。

「貨幣的使用表」上段は各生産物の使用を貨幣的に示

す。同表は行方向に中間消費、家計最終消費支出、政府

最終消費支出、総資本形成、輸出を記述、行和に総使用

を記録する。下段には産出などから中間消費を除き、付

加価値を計上する。

総資本形成は在庫品増加を含む。したがって生産物そ

れぞれについて総供給と総使用は一致する。

「物的供給表」は自然投入、生産物、残留物それぞれ

の供給を物的に示す。自然投入欄は行方向に環境からの

自然投入を記述、行和に自然投入の総供給量を記録する。

生産物欄は貨幣的供給表と同様の形式で生産物の供給を

記述する。残留物欄は行方向に産業より発生した残留物、

処理後に発生した残留物などを記述、行和に残留物の総

供給量を記録する。

「物的使用表」は自然投入、生産物、残留物それぞれ

の使用を物的に示す。自然投入欄は産業による自然投入

の採取を記述、行和に自然投入の総使用量を記録する。

生産物欄は貨幣的使用表と同様の形式で生産物の使用を

記述する 53。残留物欄は行方向に産業による残留物の処

理・収集、管理型埋立地における廃棄物の蓄積などを記

表 1.4 環境活動分類

グループ 分類

I:環境保護(EP) 1 大気と気候の保護

2 廃水管理

3 廃棄物管理

4 土壌、地下水及び地表水の保護・改良

5 騒音と振動の軽減(作業場の保護を除く)

6 生物多様性と景観の保護

7 放射能からの保護(外部安全性を除く)

8 環境保護のための研究開発

9 その他の環境保護活動

II:資源管理(RM) 10 鉱物・エネルギー資源の管理

11 木材資源の管理

12 水産資源の管理

13 その他の生物資源(木材資源及び水産資源を除く)の管理

14 水資源の管理

15 資源管理のための研究開発活動

16 その他の資源管理活動

(出所)SEEA-CF table 4.1

          51 SEEA-CF para.4.2552 供給・使用表の貨幣的供給表における「産出など」は、基本価格表示の産出、運輸・商業マージン、生産物に課される税-補助金を含

む(SEEA-CF para.6.127 及び table 6.2)。53 ただし物的使用表は政府最終消費支出を記述しない、とする。これは SEEA-CF における政府最終消費支出は、政府サービス生産者が

生産したサービス(公務など)の政府による自己消費のみを含み、物的な財の消費を含まないとするためである。政府サービス生産者

がサービス(公務など)の生産に要した財・サービス、天然資源などはそれぞれ中間消費、自然投入の採取として記録される(SEEA-CF para.2.40)。

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- 8-

述、行和に残留物の総使用量を記録する。

自然投入、生産物、残留物それぞれについて総供給量

と総使用量は一致する。

なお残留物が処理・加工され、再生生産物・再利用生

産物とされた場合、「物的使用表」残留物欄に残留物の

収集・処理を記録、それとともに「物的供給表」生産物

欄に再生生産物・再利用生産物の産出を記録する。さら

に処理後の残留物を環境に蓄積した場合、「物的供給表」

残留物欄に処理後に発生した残留物を記録、それととも

に「物的使用表」残留物欄に環境への残留物を記録す

る 54。

また天然資源残留物が生じた場合、「物的供給表」自

然投入欄に環境からの自然投入を記録、「物的使用表」

自然投入欄に自然投入の採取を記録する。それとともに

「物的供給表」残留物欄に産業より発生した残留物を記

録、「物的使用表」残留物欄に環境への残留物を記録する。

上記を通じ、天然資源残留物は環境に返される 55。

第 2 節 資産勘定

環境資産に関する資産勘定の基本型は貨幣的、物的に

編集される。それぞれ期首ストック、ストックの増加、

ストックの減少、再評価(貨幣的資産勘定のみ)、期末

ストックから成る。

ストックの増加はストックの成長(会計期間中の成長

に起因した資源ストックの増加)、新規ストックの発見

(発見された資源のストックへの追加)、再査定による上

方修正(天然資源の品質や等級の評価の変更、又は採取

の経済的な実行可能性の変化など)、分類の変更(造林

による森林地の増加など)を含む 56。

ストックの減少は採取(生産プロセスに伴う環境資産

の除去または収穫)、ストックの通常の減少(会計期間

中に見込まれるストックの減少)、壊滅的損失(壊滅的

かつ異常な事象に起因する損失)、再査定による下方修

正(天然資源の品質や等級の評価の変更、又は採取の経

済的な実行可能性の変化など)、分類の変更(永久的な

森林伐採による森林地の減少など)を含む 57。

再評価は価格の変更による資産価値の変動を示す 58。

期首ストックにそれらを加算し、期末ストックを得る。

また資産勘定は供給・使用表との関係を明示した関連

型として記述される。それは生産資産、環境資産のスト

ックとその変動を示す 59。

関連型の資産勘定も「貨幣的資産勘定」「物的資産勘定」

の 2 表から成る。

各表の構造は以下の通りである。

「貨幣的資産勘定」は生産資産、環境資産のストック

とその変動を貨幣的に示す。

同表は上記 2 つの資産を対象とし、環境資産とされる

土地、天然資源を除く非生産資産や金融資産を対象とし

ない 60。また貸借対照表と異なり、負債や正味資産を対

象としない。

同表は表頭に上記 2 つの資産の期首ストックを記録、

次に列方向に資産の蓄積を記録する。生産資産に関して

は、当該部分で総資本形成を加算する 61。その他の資産

量変動は自然成長、発見、災害などによる壊滅的損失な

どを 62、再評価は価格の変更による資産価値の変動を示

す 63。期首ストックにそれらを加算し、期末ストックを

得る。

「物的資産勘定」は生産資産、環境資産のストックと

その変動を物的に示す。

同表は貨幣的資産勘定と同様に、表頭に上記 2 つの資

産の期首ストックを記録、次に列方向に資産の蓄積を記

録する。生産資産に関しては、生産物として総資本形成

を、残留物として管理型埋立地における廃棄物の蓄積を

加算する 64。一方、過去に生産した生産資産を廃棄・解

体することで生じた残留物、これまでの埋め立てから排

出される残留物を一度減算、物的供給表、物的使用表を

          54 SEEA-CF para.3.4155 SEEA-CF para.3.4256 SEEA-CF para.5.4857 SEEA-CF para.5.4958 SEEA-CF para.2.5859 ここで生産資産と環境資産を区別するのは、供給・使用表でこれらのフローの記録が異なることを強調するためである。図 1.2 に示す

ように、育成生物資源は生産資産であり、環境資産である。60 SEEA-CF figure 5.161 SEEA-CF には明記されていないが、総資本形成を加算するとともに、固定資本減耗を減算する。62 SEEA-CF table 2.463 SEEA-CF para.2.5864 SEEA-CF は、管理型埋立地や整備された埋立地、廃棄物処理施設は経済領域内にあるとみなす。したがって、これらの施設への残留物

のフローを、環境へのフローでなく、経済領域内のフローとして記録する(SEEA-CF para.3.78)。

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環境目的限定の生産物

適合財

(注3)SEEA-CFでは、同一の表であっても、記載箇所により説明内容が異なることがある。ここではそれらを調整し、図を作成した。また項目の一部を省略した。

(注2)表番号はSEEA-CFにおけるものである。同一の表がSEEA-CFのなかで複数回、記載されている場合、代表的な表の番号を使用した。

(注1)濃灰色のセルは、定義により空値である。

環境財・サービスの

産出

生産された環境財・サービス

の合計

末端技術

中間消費 粗付加価値

統合技術

(貴重品の取得-処分)

【表4.5 環境保護に対する国民支出の資金調達】

【表4.2 環境保護に特化したサービスの生産】

【機能勘定】環境保護支出勘定(EPEA)

【機能勘定】環境財・サービス部門(EGSS)

【生産勘定】

環境に特化した

サービス

【表4.6 環境財・サービス部門(EGSS)】

最終消費支出

【供給・使用表】

【表6.3 資本勘定】

減耗調整済み純貯蓄

総固定資本形成

在庫品増加

生産に課されるその他の税-補助金

【表6.3 第1次所得の配分勘定】

生産物に課される税-補助金

資本移転(受取)

純貸出/借入

【表6.3 所得の第2次分配勘定】

減耗調整済み第1次所得バランス

(天然資源及び土地の取得-処分)

(その他の非生産、非金融資産の取得-処分)

減耗調整済み純貯蓄

【表6.3 可処分所得の使用勘定】

【経済勘定系列】

減耗調整済み純可処分所得

天然資源枯渇・減耗

減耗調整済み純付加価値

固定資本減耗

天然資源枯渇・減耗

減耗調整済み純可処分所得

経常移転(受取)

経常移転(支払)

資本移転(支払)

減耗調整済み純営業余剰

被用者報酬

減耗調整済み第1次所得バランス

【表6.3 所得の発生勘定】

被用者報酬

生産に課されるその他の税-補助金

粗営業余剰

減耗調整済み純営業余剰

財産所得(支払)

財産所得(受取)

固定資本減耗 純付加価値

粗付加価値

蓄積

生産物に課される税-補助金

産出など(貨幣的)

中間消費

粗付加価値

合計

蓄積

中間消費

【表6.3 生産勘定】

政府最終消費支出

産出など(物的)

輸出(物的)

合計

生産物の総供給量

産業より発生した残留物

生産資産の廃棄・解体

による残留物家計最終消費により発生した残留物

生産物

自然投入

産業 家計

〔-〕環境から回収した残留物

自然投入の採取

〔+〕管理型埋立地における廃棄物の蓄積

生産物

環境からの自然投入

  採取

総供給

合計

総使用

環境

自然投入

環境 合計

  再評価(貨幣的)

  期末ストック(貨幣的)

海外

自然投入の総供給量

海外から受け取った残留物処理後に

発生した残留物

管理型埋立地からの

排出

輸入(物的)

産出など(貨幣的)

輸入(貨幣的)

政府

中間消費家計最終消費支出

付加価値

自然投入の総使用量

  期首ストック(貨幣的)

【表2.2 物的使用表】 産業 家計

残留物の総供給量

蓄積 海外

環境から回収した残留物

生産物の総使用量

残留物残留物の収集・処理

管理型埋立地における廃棄物の蓄積

海外へ送られた残留物

環境への残留物

残留物の総使用量

総資本形成(物的)生産物

家計最終消費

【資産勘定】

【表2.3 資産勘定】(基本型)

〔-〕生産資産の廃棄・解体

による残留物

〔-〕管理型埋立地からの

排出

〔+〕総資本形成

(物的)

〔-〕環境からの自然投入

期首ストック(貨幣的、物的)

【表2.4 資産勘定】(関連型)

  分類の変更

  ストックの減少(物的)

海外

産業 家計

【表2.1 貨幣的供給表】

【表2.1 貨幣的使用表】

生産物

【表2.2 物的供給表】

総資本形成(貨幣的)

海外

輸出(貨幣的)

輸入(貨幣的)

合計

総供給

その他の資産量変動(貨幣的、物的)

期末ストック(貨幣的、物的)

業産産資境環産資産生

残留物

〔+〕環境への残留物

被用者報酬 純営業余剰中間消費

生産に課される税-補助金

粗付加価値

固定資本減耗

環境保護に対する

国民支出合計

【所得の発生勘定】

環境保護に特化したサービス

【貨幣的供給表】 産業

産出(貨幣的)

粗付加価値環境保護に特化したサービスの

産出

【生産勘定】

運輸・商業マージン

海外

合計

総使用

法人企業

府政業産

環境保護に特化したサービス

蓄積

特徴別の資本形成

中間消費政府最終消費支出

〔-〕海外からの

環境保護移転

環境保護に対する

国民支出合計

環境保護に特化したサービス

家計

家計【貨幣的使用表】

総固定資本形成

輸出(貨幣的)

海外

政府

海外

居住者単位の総使用

【表4.4 環境保護に対する国民支出合計】

【表4.3 環境保護に特化したサービスの供給と使用】

生産物に課される税-補助金

家計最終消費支出

関連生産物 適合財

上記に含まれない

環境保護移転

海外への環境保護移転

環境資産

  ストックの増加(貨幣的)

  ストックの減少(貨幣的)

  ストックの成長

  新規ストックの発見

  再査定による上方修正

環境資産

  期首ストック(物的)

  ストックの増加(物的)

  ストックの成長

  新規ストックの発見

  再査定による上方修正

  分類の変更

  採取

  ストックの通常の減少

  壊滅的損失

  ストックの通常の減少

  壊滅的損失

  再査定による下方修正

  分類の変更

〔+〕総資本形成(貨幣的)

  期末ストック(物的)

再評価(貨幣的)

  再査定による下方修正

  分類の変更

【表2.3 資産勘定】(基本型)

図 2.1 SEEA-CF の勘定表と構造

- 9・10 -

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- 11 -

経由させて管理型埋立地、又は環境へ蓄積させる 65。環

境資産に関しては、経済領域で用いる自然投入を減算、

環境への残留物を加算する。また残留物を処理するため、

環境から残留物を回収した場合、それを減算する 66。期

首ストックにそれら変動及びその他の資産量変動を加算

し、期末ストックを得る。なお物的資産勘定に再評価を

記録しない 67。

第 3 節 経済勘定系列

経済勘定系列は貨幣的に編集され、制度部門別に付加

価値の循環(生産、分配、支出)を示す。SEEA-CF で

は固定資本減耗に加え、天然資源枯渇・減耗 68 をも記

録する。経済勘定系列は SNA と同様に「生産勘定」「所

得の発生勘定」「第 1 次所得の配分勘定」「所得の第 2 次

分配勘定」「可処分所得の使用勘定」「資本勘定」の 6 表

から成る。

各表の構造は以下の通りである。

「生産勘定」は産出など及び中間消費に基づき 69、粗

付加価値を生産する。同勘定では基本価格表示の産出に

運輸・商業マージン、生産物に課される税-補助金を加

算し、購入者価格表示とする。それから中間消費を控除

し「粗付加価値」を得る。さらに粗付加価値から固定資

本減耗を除き「純付加価値」を、天然資源枯渇・減耗を

除き「減耗調整済み純付加価値」を得る。

「所得の発生勘定」は粗付加価値を項目別に分配する。

同勘定では粗付加価値から被用者報酬、生産に課される

その他の税-補助金、生産物に課される税-補助金を控

除し「粗営業余剰」を得る。さらに粗営業余剰から固定

資本減耗、天然資源枯渇・減耗を控除し「減耗調整済み

純営業余剰」を得る。生産物に課される税-補助金は生

産勘定に記録され、基本価格から購入者価格への変換に

用いられる。

「第 1 次所得の配分勘定」では所得の発生勘定から被

用者報酬、生産に課されるその他の税-補助金、減耗調

整済み純営業余剰を受け取り、利子、配当、賃貸料など

財産所得の受け払いを記録、「減耗調整済み第 1 次所得

バランス」を得る。

「所得の第 2 次分配勘定」では第 1 次所得の配分勘定

から減耗調整済み第 1 次所得バランスを受け取り、経常

移転の受け払いを記録、「減耗調整済み純可処分所得」

を得る。

「可処分所得の使用勘定」では所得の第 2 次分配勘定

から減耗調整済み純可処分所得を受け取り、一部を最終

消費支出にあてる。残りを「減耗調整済み純貯蓄」とす

る。減耗調整済み純貯蓄は会計期間中に費消される固定

資産、環境資産の置き換えを行った後、資産基盤を増加

させるのに利用可能な資源を意味する。すなわち、減耗

調整済み純貯蓄は再生不可能な環境資産の置き換えは出

来ないものの、所得と消費のパターンが生産資産と環境

資産を含む資産基盤全体の変化とどの程度調和している

のか、目安を示すことができる 70。

「資本勘定」は可処分所得の使用勘定から減耗調整済

み純貯蓄を、所得の発生勘定から固定資本減耗、天然資

源枯渇・減耗を受け取る 71。また資本移転の受け払いを

行う。得た資金を総固定資本形成、在庫品増加などに充

て、残りを「純貸出/借入」とする。

第 4 節 機能勘定

機能勘定は貨幣的に編集され、供給・使用表や生産勘

定などにおける前述の環境活動(環境保護活動、資源管

理活動)を特定化して示す。それは「環境保護支出勘定

(Environmental Protection Expenditure Accounts;EPEA)」

及び「環境財・サービス部門(Environmental Goods and

Services Sector;EGSS)」から成る。

各表の構造は以下の通りである。

EPEA は環境保護を対象とし、主に需要の観点からそ

          65 SEEA-CF para.3.109 及び para.3.11066 環境から残留物を回収、それらを処理し、管理型埋立地に蓄積した場合、これを環境から経済への残留物のフローとして記録する

(SEEA-CF para.3.80)。67 SEEA-CF table 2.368 天然資源枯渇・減耗(又は枯渇・減耗)とは、物的には、経済単位が再生レベルを超えるレベルで天然資源を採取したために、ある会

計期間にわたり天然資源のストック量が減少することである(したがって生物資源の自然成長も考慮に入れられている)。SNA では、

天然資源枯渇・減耗はその他の資産量変動勘定に含まれる(SEEA-CF para.1.52)。SEEA-CF では、それは所得から差し引かれる費用と

みなされる(SEEA-CF para.1.53)。69 経済勘定系列の生産勘定における「産出など」は、基本価格表示の産出、運輸・商業マージンを含む。70 SEEA-CF para.6.3871 当期の貨幣的支出の観点からすれば、固定資本減耗及び天然資源枯渇・減耗は支出でなく、固定資産の取得に利用可能な額である。し

たがって、それらを資本勘定に再加算する(SEEA-CF para.6.40)。

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          72 EPEA における環境保護に特化したサービスとは、販売又は自己使用のために経済単位が生産する環境保護サービスのことである。例

えば廃棄物や廃水の管理・処理サービスがある(SEEA-CF para.4.53)。73 SEEA-CF para.4.39 及び para.4.4574 同勘定表は環境保護に特化したサービスを対象とするため、在庫品増加はないと考えられる。したがって総資本形成でなく、総固定資

本形成とする(SEEA-CF table 4.3)。75 EPEA における関連生産物とは、その使用は直接、環境保護の目的に役立つが、環境保護だけに特化したサービス又は環境保護目的の(特

徴をもつ)活動への投入ではない生産物のことである。例えば触媒コンバーター、浄化槽(その維持管理サービスを含む)がある

(SEEA-CF para.4.65)。76 EPEA における適合財とは、より環境に優しい、又はよりクリーンなものになるよう、具体的に改変されており、その使用が環境保護

上有益な財のことである。例えば脱硫燃料、無水銀電池、ノンフロン生産物がある。EPEA では適合財を取得するために支払った追加

費用のみを計上する(SEEA-CF para.4.67)。購入者が環境保護目的で支出した金額は、追加費用のみだからである(SEEA-CF para.4.76)。77 SEEA-CF para.4.12078 SEEA-CF para.4.9279 EGSS における環境に特化したサービスとは、販売又は自己使用のために経済単位が生産した環境保護及び資源管理に特化したサービ

スである。例えば廃棄物や廃水の管理・処理サービス、エネルギーや水の節約活動がある(SEEA-CF para.4.96)。80 EGSS における環境目的限定の生産物とは、その使用が直接、環境保護あるいは資源管理の目的に役立つ財(耐久財又は非耐久財)・サ

ービスであって、環境保護や資源管理以外に用途がないもののことである。例えば触媒コンバーター、浄化槽(その維持管理サービス

を含む)、太陽光パネルの設置がある(SEEA-CF para.4.98)。81 EGSS における適合財とは、より「環境に優しい」又はより「クリーン」になるような目的で改良され、結果としてその使用が環境保

護又は資源管理上有益な財のことである。例えば無水銀電池や大気への排出が少ない自動車がある。生産段階や使用段階で含まれてい

る天然資源が少ないことにより、天然資源枯渇・減耗の防止に有用とされる財を含む。なお大気への排出が少ない自動車の主目的は輸

送であるように、適合財の主たる目的は環境ではない(SEEA-CF para.4.99 及び para.4.100)。EGGS では適合財を取得するために支払っ

た追加費用だけでなく、適合財の完全な価値を計上する(SEEA-CF para.4.101)。82 EGSS における末端技術とは、主に汚染、環境劣化・悪化、又は資源の枯渇・減耗の測定、抑制、処理及び復元/修正のために生産さ

れた技術設備及び装置である。例えば下水処理施設、大気汚染測定装置、高レベル放射性廃棄物の格納施設がある(SEEA-CF para.4.102(a))。

83 EGSS における統合技術とは、他の生産者が用いる同等の「通常」の技術より汚染が少なく、生産プロセスで用いられる資源集約的で

ない技術のプロセス、方法、知見である(SEEA-CF para.4.102(b))。84 末端技術、統合技術の一部は環境目的限定の生産物や適合財に含まれることがある(SEEA-CF para.4.103)。

れを示す。環境保護のなかで典型的とみなされる環境保

護に特化したサービス 72 についてはその供給と使用、

生産を捉え、環境保護に特化したサービスを含む環境保

護のための財・サービスについてはそれに対する支出を

捉える 73。「環境保護に特化したサービスの供給と使用」

「環境保護に特化したサービスの生産」「環境保護に対す

る国民支出合計」「環境保護に対する国民支出の資金調

達」の 4 表から成る。

「環境保護に特化したサービスの供給と使用」のうち

貨幣的供給表は、その供給を貨幣的に示す。同表は環境

保護に特化したサービスを対象とする。行方向に、基本

価格表示の産出に生産物に課される税-補助金、運輸・

商業マージンを加算し、購入者価格表示とする。さらに

海外からの生産物の輸入を加算、行和にその総供給を記

録する。貨幣的使用表はその使用を貨幣的に示す。同表

は行方向に中間消費、家計最終消費支出、政府最終消費

支出、総固定資本形成 74、輸出を記述、行和に総使用を

記録する。貨幣的供給表における総供給と貨幣的使用表

における総使用は一致する。

「環境保護に特化したサービスの生産」のうち生産勘

定は、環境保護に特化したサービスの産出に伴う粗付加

価値の生産を示す。所得の発生勘定はそれを項目別に分

配する。同勘定では粗付加価値から被用者報酬、生産に

課される税-補助金、固定資本減耗を控除し、粗営業余

剰を得る。

「環境保護に対する国民支出合計」は、環境保護に特

化したサービスや関連生産物 75、適合財 76 などへの支

出を記録する。同表は中間消費、最終消費だけでなく、

総固定資本形成や移転を含む。また海外への環境保護移

転を含め、海外からの環境保護移転を控除する 77。した

がって、その合計は国民概念である。

「環境保護に対する国民支出の資金調達」は、第一に

環境保護に対する国民支出を政府、法人企業、家計など

支払主体別に示す。第二にそれに海外の支払い分を加え、

居住者単位の総使用を国内概念で捉える。

EGSS は環境保護及び資源管理を対象とし、供給の観

点から環境活動を示す 78。ここでは環境に特化したサー

ビス 79、環境目的限定の生産物 80、適合財 81、末端技術

82、統合技術 83 を「環境財・サービス」とする 84。

EGSS のうち生産勘定は、環境財・サービスの産出に伴

う粗付加価値の生産を示す。

環境財・サービスの生産を担うのは「環境生産者」で

ある。環境生産者は、環境財・サービスの生産を主たる

活動とする専門生産者、販売目的で環境財・サービスを

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- 13 -

生産するが、それが主たる活動ではない非専門生産者、

自己勘定生産者から成る 85。専門生産者をさらに政府生

産者、その他の専門生産者に区分する。

第Ⅲ章 SEEA-CF の構造

SEEA-CF は互いに整合性を持つ複数の勘定表により、

経済情報、環境情報を体系的に捉える。以下では各勘定

表の関連を整理、留意点を述べる。

第 1 節 各勘定表の関連

SEEA-CF は「供給・使用表」「資産勘定」「経済勘定

系列」「機能勘定」の 4 種類の勘定表を用いて、経済と

環境の関係を体系的に記録する。これら 4 種類の勘定表

はそれぞれ異なる内容を記録するが、2008SNA を基礎

とする概念、構造、規則を共通して使用しており 86、相

互に関連する。ここではそれを整理する。

第一に「供給・使用表」を構成する 4 表の関連を整理

する。

それらの表において産業や家計など表頭部門は共通で

ある。同一の表頭部門を 4 表で縦断的に考察することに

より、当該部門が行った生産物の生産や消費、自然投入

の採取、残留物の発生、収集・処理を関連付けて貨幣的、

又は物的に把握できる。

第二に「供給・使用表」と「資産勘定」の関連を整理

する。

貨幣的使用表、物的使用表に記録される総資本形成は、

それぞれ貨幣的資産勘定、物的資産勘定において生産資

産を増加させる。同様に物的使用表に記録される管理型

埋立地における廃棄物の蓄積、環境への残留物は、物的

資産勘定においてそれぞれ生産資産、環境資産を増加さ

せる。

物的資産勘定の環境資産列では環境からの自然投入、

環境から回収した残留物を減算、物的供給表においてそ

れらをそれぞれ供給する。

物的資産勘定の生産資産列では前述の通り、過去に生

産した生産資産を廃棄・解体することで生じた残留物、

これまでの埋め立てから排出される残留物を一度減算、

物的供給表、物的使用表を経由させて管理型埋立地、又

は環境へ蓄積させる。それらは物的資産勘定の生産資産

列、環境資産列にそれぞれ加算される。

第三に「供給・使用表」と「経済勘定系列」の関係を

整理する。

貨幣的供給表に記録された産出など(運輸・商業マー

ジン、生産物に課される税-補助金を含む)は、経済勘

定系列の生産勘定における産出など(運輸・商業マージ

ンを含む)、生産物に課される税-補助金に相当する。

また前表の中間消費、付加価値は、後表の中間消費、粗

付加価値に相当する。経済勘定系列はこの付加価値の循

環(生産、分配、支出)を示す。前表の家計最終消費支

出、政府最終消費支出は、後表の最終消費支出に、前表

の総資本形成は、後表の総固定資本形成、在庫品増加に

相当する。

第四に「供給・使用表」と「機能勘定」のうち EPEA

の関連、及び EPEA を構成する 4 表の関連を整理する。

前者のうち「貨幣的供給・使用表」は生産物全体を対

象とする。一方、後者のうち「環境保護に特化したサー

ビスの供給と使用」は生産物のなかで環境保護に特化し

たサービスを対象とする。

環境保護に特化したサービスの総供給は、「環境保護

に対する国民支出合計」におけるそれへの支出と一致す

る。また環境保護に特化したサービスの産出は、「環境

保護に特化したサービスの生産」における産出と一致す

る。

第五に「経済勘定系列」と「機能勘定」のうち EGSS

の関連を整理する。

前者の産出は生産物全体を対象とする。一方、後者の

産出は生産物のなかで環境財・サービス部門を対象とす

る。

第六に「機能勘定」における EPEA と EGSS の関連を

整理する。両者はともに環境活動を特定化して示すが、

表 3.1 に示す相違がある。

勘定構造について、EPEA は勘定系列を用いて、環境

保護に特化したサービスの供給と使用を関連生産物、適

合財などに関連づける。EGSS は環境財・サービスの生

産を捉える 87。また前述の通り、EPEA は中間消費、最

終消費だけでなく、総固定資本形成や移転を含む。また

海外への環境保護移転を含め、海外からの環境保護移転

を控除する 88。

環境活動の対象範囲について、EPEA は環境保護活動

          85 SEEA-CF para.4.3386 SEEA-CF preface 1787 SEEA-CF para.4.11488 SEEA-CF para.4.120

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のみを対象とする。EGSS は環境保護活動と資源管理活

動の両方を対象とする 89。

財・サービスの対象範囲について、EPEA は需要の観

点から、環境保護活動に用いられるすべての財・サービ

スを含む。ただし、そのすべてが環境財・サービスでは

ない。一方、EGSS は生産の観点から、技術に基づき財・

サービスの範囲を定義する 90。

環境生産者の対象範囲について、EPEA の専門生産者

は、環境保護に特化したサービスの生産を主たる活動と

する事業所である。EGSS の専門生産者は、環境財・サ

ービスの生産を主たる活動とする事業所である 91。

適合財の評価について、EPEA は環境保護目的で支出

された金額を把握するため、適合財を取得するために支

払った追加費用のみを計上する 92。したがって EPEA は

追加費用のかからない、よりクリーンな財への支出を含

まない。EGSS は適合財の総額を計上する 93。

国際貿易に関する対象範囲について、EPEA は支出面

を捉えるため、輸入財への支出を含む。EGSS は生産面

を捉えるため、輸出分を含む 94。

税と補助金の取扱いについて、EPEA における支出は

購入者価格で評価されるため、生産に課される税を含め、

生産への補助金を控除する。EGSS の測定値は基本価格

で評価されるため、生産に課される税を控除、生産への

補助金を含める 95。

第 2 節 留意点

SEEA-CF の勘定表及びその関連について、以下の 3

点に留意することが必要である。

第一に、供給・使用表における産出は、家計・企業に

よる「自己勘定生産」を含む。例えば住宅への太陽光パ

ネルの設置、廃棄物の焼却によるエネルギーの生産、自

己使用のための取水である 96。SNA は一般に自己勘定

生産を区分しないが、SEEA-CF は環境活動を特定する

ため、それが経済領域で行われるときは、できるだけ区

分することを推奨する 97。こうした活動に関連する生産

物、自然投入、残留物のフローは、産業による場合と同

様に、生産として扱われる 98。自己勘定生産の評価は生

産費用の合計による 99。ただし、自己勘定生産物は市場

表 3.1 EPEA と EGSS の比較

相違分野 EPEA EGSS勘定構造 完全機能勘定 生産関連統計表

環境活動の対象範囲 環境保護を特徴とする活動 環境保護と資源管理に用いら

れる財・サービスの生産

財・サービスの対象範囲 すべての環境保護財・サービ

ス、環境保護目的のその他の

財・サービスへの支出

環境保護・資源管理に関する

すべての財・サービス

環境生産者の対象範囲 環境保護に特化したサービス

に関連して含まれる生産者の

すべての環境財・サービスに

関連して含まれる生産者

適合財の評価 純/追加費用のみ (基本価格による)完全価値

国際貿易に関する対象範囲 支出総額に含まれる輸入 生産総額に含まれる輸出

税と補助金の取扱い 購入者価格での支出の評価 基本価格での産出の評価

(出所)SEEA-CF table 4.7

          89 SEEA-CF para.4.11590 SEEA-CF para.4.11691 SEEA-CF para.4.11792 SEEA-CF para.4.7693 SEEA-CF para.4.11894 SEEA-CF para.4.11995 SEEA-CF para.4.12096 SEEA-CF para.1.43 及び para.2.11797 SEEA-CF para.4.3598 SEEA-CF para.2.4199 SEEA-CF para.2.146

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          100 SEEA-CF para.6.77101 SEEA-CF para.3.33102 SEEA-CF para.6.18103 SEEA-CF para.6.18(a)104 SEEA-CF para.3.77105 SEEA-CF para.6.91106 SEEA-CF para.3.68107 SEEA-CF para.3.204108 廃棄費用とは、生産又は営業が停止し、固定資産の使用が終了したときに環境問題が発生するのを防止するために生じる費用である。

廃棄費用は終末費用と修復費用から成る。前者は閉鎖前の生産期間中に予想でき、かつ予想すべき費用である。後者は修復行為のた

めの引当てが行われないまま、生産が停止されたときに生じる。例えば燃料貯蔵地、旧埋立地、採掘が停止された採掘現場など過去

の活動により汚染された現場の回復のための費用である。その現場の運営者以外の主体がそれを負担することもある(SEEA-CF para.4.194 及び para.4.195、para.4.197)。

で取引されないことが多いため、観察及び推計は困難で

ある 100。

第二に、供給・使用表における「海外から受け取った

残留物」「海外へ送られた残留物」は、主に異なる経済

領域間の固形廃棄物の移動に関するものである。大気へ

の排出が他国の上空に移動することなど越境的なフロー

は、環境内のフローであり、ここには記録されない。た

だし補足項目として記録されることがある 101。

第三に、供給・使用表における貨幣的記録と物的記録

の差異である。両者には一般的に一貫性があるが、一部、

以下のような例外がある 102。

加工用財の輸出及びそれに基づく完成品の輸入は、記

録方法が貨幣的、物的で異なる。貨幣的には財の輸出入

ではなく、それに伴う加工賃のみを計上する。一方、物

的には財の輸出、輸入をそれぞれ記録する 103。

耐久消費財は貨幣的に消費される時期と、物的に廃棄

される時期が異なる。貨幣的には耐久消費財はそれを購

入した期に消費されるものとする。一方、物的にはそれ

はある一定期間使用された後、廃棄され、購入期とは別

の期に残留物が発生する 104。同様に、生産物の取得と

消費が、異なる会計期間に行われることがある。例えば、

家計が暖房用に石油を購入しておく場合などである 105。

貨幣的には取引として認識されないが、物的にはフロ

ーが記録される場合もある。例えば企業内で使用するた

め固形廃棄物を燃焼して生成された電気は、貨幣的に記

録されず、物的に記録されることがある 106。

逆に貨幣的には取引として認識されるが、物的にはフ

ローが記録されない場合もある。例えば水は使用者に引

き渡される前に配水業者間で取引されることがある。貨

幣的にはそれら産業内販売をすべて計上する。物的には

産業内販売の有無を問わず、ひとつの物的フローとして

記録する 107。

SEEA-CF の作成、活用においてはこれらに留意すべ

きである。

おわりに

SEEA-CF は SNA を基盤とし、それを拡張した形で経

済情報、環境情報を体系的に記録する。その有用性及び

国際統計基準という位置付けから、今後、我が国でも

SEEA-CF の推計・公表に向けた検討が必要になろう。

それに向けて、本稿では United Nations et al.(2014)

に基づき、SEEA-CF の概要、それを構成する各勘定表

の内容と関連、留意点を考察した。

今後、我が国でも推計する勘定表・対象を決め、推計

上の課題の抽出、SEEA-CF の活用の検討を目的に、そ

の試作に取り組むこと、それと同時に SEEA-CF に関連

する国際的な動向を調査、把握しておくことが必要であ

ろう。

具体的には以下の通りである。

第一に、推計する勘定表の種類と対象を検討すべきで

ある。勘定表は前述の通り、供給・使用表、資産勘定、

経済勘定系列、機能勘定から成る。供給・使用表の対象

はエネルギー、水、物質、資産勘定の対象は鉱物・エネ

ルギー資源、土地、土壌資源、木材資源、水産資源、そ

の他の生物資源、水資源である。SEEA-CF はすべてを

含む包括的な物的供給・使用表を作成すること、またす

べての天然資源を対象とする資産勘定を作成することを

求めていない。その実現可能性及び統計の必要性から、

我が国が推計する勘定表の種類と対象を検討することが

必要である。

第二に、推計上の課題の抽出、SEEA-CF の活用の検

討を目的に、勘定表を試作すべきである。推計上の課題

には、例えば、自己勘定生産に関する基礎統計の利用可

能性、EPEA、EGSS の推計可能性がある。また固定資

産に関連する廃棄費用(終末費用、修復費用)108、取引

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可能な排出権の扱い、研究開発支出の記録などについて、

2008SNA に準拠した国民経済計算と整合性の確認が必

要である 109。さらに試作された勘定表を用いて、現状

の把握や分析への適用などを試みたい。

第三に、SEEA-CF に関連する国際的な動向を調査、

把握しておくべきである。それらには、例えば、『SEEA

実験的生態系勘定』(System of Environmental-Economic

Accounting 2012 Experimental Ecosystem Accounting)110、

『SEEA 応用と拡張』(System of Environmental-Economic

Accounting 2012 Applications and Extensions)111、『環境保

護 支 出 勘 定: 編 集 ガ イ ド 』(SERIEE Environmental

Protection Expenditure Accounts - Compilation Guide)112、

『環境財・サービス部門:データ収集ハンドブック』(The

environmental goods and services sector)113 などがある。

参考文献

United Nations et al.(2014)System of Environmental-Economic Accounting 2012 Central Framework(http://unstats.un.org/unsd/envaccounting/seeaRev/SEEA_CF_Final_en.pdf、2014年 6 月 17 日アクセス)

氏川恵次(2014)「新たな環境・経済統合勘定(SEEA2012)における構造・物量フロー・環境評価」『国民経済計算

関連統計の新たなる展開』法政大学日本統計研究所、

pp.25-37(http://www.hosei.ac.jp/toukei/shuppan/g_shoho43_ujikawa.pdf、2014 年 6 月 17 日アクセス)

作間逸雄(2003)『SNA がわかる経済統計学』有斐閣

茂野正史(2014)「環境経済勘定中心的枠組のあらまし」『季

刊国民経済計算』内閣府経済社会総合研究所、第 154 号、

pp.89-101内閣府経済社会総合研究所(2014)『平成 25 年度 環境経済

勘定セントラルフレームワークに関する検討作業 報告

書本編(SEEA-CF 概説書)』

牧野好洋(2014)「経済循環と水の循環-「日本版 NAMWA」

作成と活用の試み-」(近刊)

          109 例えば機能勘定のうち EPEA、「環境保護に対する国民支出合計」における総固定資本形成は、環境保護に関する研究開発支出を含む

可能性がある(SEEA-CF para.4.63)。110 United Nations et al.(2013)System of Environmental-Economic Accounting 2012 Experimental Ecosystem Accounting(https://unstats.un.org/

unsd/envaccounting/eea_white_cover.pdf、2014 年 4 月 27 日アクセス)。111 United Nations et al.(2014)System of Environmental-Economic Accounting 2012 Applications and Extensions(https://unstats.un.org/unsd/

envaccounting/ae_white_cover.pdf、2014 年 4 月 27 日アクセス)。112 Eurostat(2002)SERIEE Environmental Protection Expenditure Accounts - Compilation Guide(http://epp.eurostat.ec.europa.eu/cache/ITY_

OFFPUB/KS-BE-02-001/EN/KS-BE-02-001-EN.PDF、2014 年 4 月 27 日アクセス)。113 Eurostat(2009)The environmental goods and services sector(http://epp.eurostat.ec.europa.eu/cache/ITY_OFFPUB/KS-RA-09-012/EN/KS-RA-

09-012-EN.PDF、2014 年 4 月 27 日アクセス)。