実績から見た日本の政府開発援助 - ministry of foreign affairs18 2017年版...

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18 2017 年版 開発協力白書 1 実績から見た日本の政府開発援助 2016 年、日本の政府開発援助(ODA)の支出総額は約 168 億 779 万ドル(約 1 兆 8,287 億円)で、 政府貸付の回収額を差し引いた支出純額 注1 は約 104 億 1,680 万ドル(約 1 兆 1,334 億円)で、いずれも 世界第 4 位の実績でした。 注2 < 実績の分析 > 2016 年の日本の ODA 実績(支出総額ドルベース) は、前年(2015年)に比べ約11.8%増で、経済協 力開発機構(OECD)の開発援助委員会(D ダック AC)加 盟国における順位は、米国、ドイツ、および英国に次 いで第 4 位となりました。また、支出純額ドルベース の実績でも約13.2%増で、順位も、米国、ドイツ、 英国に次ぎ第 4 位となりました(総額、純額いずれも 前年と同順位)。 円ベースでのODA実績は、支出総額0.6%増、支 出純額1.8%増といずれも前年とほぼ同水準でしたが、 為替レートが円高ドル安方向に推移したため、ドル ベースでは支出総額、支出純額のいずれも前年に比べ 10%を超える増となっています。 その内訳は、支出総額では二国間 ODA が全体の約 80.0%、国際機関に対するODAが約20.0%、支出 純額では、二国間ODAが全体の約67.7%、国際機 関に対する ODA が約 32.3%です。二国間 ODA は、 日本と被援助国との関係強化に貢献することが期待さ れます。また、国際機関に対するODAでは、「日本 の顔」も見える形で専門的知識や政治的中立性を持っ ミャンマーの新ヤンゴン総合病院で医療機器保守管理体制構築を支援する岩井久蔵シニア海外ボランティア。実際に機器を分解しながら構造について理解を深める。 (写真:久野真一/JICA) 注1 支出総額(グロス)と支出純額(ネット)の関係は次のとおり。 支出純額 = 支出総額-回収額(被援助国から援助供与国への貸付の返済額) 援助実績の国際比較においては、通常支出純額が用いられている。 注2 卒業国向け援助を除く。「卒業国を含む」実績値について、詳しくは図表IV-13(181ページ)をご覧ください。

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Page 1: 実績から見た日本の政府開発援助 - Ministry of Foreign Affairs18 2017年版 開発協力白書 第1章 実績から見た日本の政府開発援助 2016年、日本の政府開発援助(ODA)の支出総額は約168億779万ドル(約1兆8,287億円)で、

18 2017年版 開発協力白書

第1章 実績から見た日本の政府開発援助2016年、日本の政府開発援助(ODA)の支出総額は約168億779万ドル(約1兆8,287億円)で、政府貸付の回収額を差し引いた支出純額注1は約104億1,680万ドル(約1兆1,334億円)で、いずれも世界第4位の実績でした。注2

< 実績の分析 >2016年の日本のODA実績(支出総額ドルベース)

は、前年(2015年)に比べ約11.8%増で、経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(D

ダ ッ クAC)加

盟国における順位は、米国、ドイツ、および英国に次いで第4位となりました。また、支出純額ドルベースの実績でも約13.2%増で、順位も、米国、ドイツ、英国に次ぎ第4位となりました(総額、純額いずれも前年と同順位)。円ベースでのODA実績は、支出総額0.6%増、支

出純額1.8%増といずれも前年とほぼ同水準でしたが、

為替レートが円高ドル安方向に推移したため、ドルベースでは支出総額、支出純額のいずれも前年に比べ10%を超える増となっています。その内訳は、支出総額では二国間ODAが全体の約

80.0%、国際機関に対するODAが約20.0%、支出純額では、二国間ODAが全体の約67.7%、国際機関に対するODAが約32.3%です。二国間ODAは、日本と被援助国との関係強化に貢献することが期待されます。また、国際機関に対するODAでは、「日本の顔」も見える形で専門的知識や政治的中立性を持っ

ミャンマーの新ヤンゴン総合病院で医療機器保守管理体制構築を支援する岩井久蔵シニア海外ボランティア。実際に機器を分解しながら構造について理解を深める。(写真:久野真一/JICA)

注1 支出総額(グロス)と支出純額(ネット)の関係は次のとおり。 支出純額=支出総額-回収額(被援助国から援助供与国への貸付の返済額) 援助実績の国際比較においては、通常支出純額が用いられている。注2 卒業国向け援助を除く。「卒業国を含む」実績値について、詳しくは図表IV-13(181ページ)をご覧ください。

Page 2: 実績から見た日本の政府開発援助 - Ministry of Foreign Affairs18 2017年版 開発協力白書 第1章 実績から見た日本の政府開発援助 2016年、日本の政府開発援助(ODA)の支出総額は約168億779万ドル(約1兆8,287億円)で、

192017年版 開発協力白書

▼ 第1章実績から見た日本の政府開発援助 

第Ⅲ部

2017年の開発協力 第1章

実績から見た日本の政府開発援助

Ⅲ1

た国際機関を支えることを通じて、直接日本政府が行う援助が届きにくい国・地域への支援も可能になります。日本は、これらの支援を柔軟に使い分けるとともに相互の連携を図り、適切に援助が供与されるよう努力しています。無償資金協力は、開発途上地域の開発を主たる目的

として同地域の政府等に対して行われる無償の資金供与による協力です。また、無償資金協力は大きな災害が発生したときなどに開発途上国や国際社会のニーズに迅速かつ機動的に対応することができ、国際社会の安定確保や日本のリーダーシップを発揮できる大きな政策的効果があります。技術協力は、日本の知識・技術・経験を活かし、開発途上地域における経済社会開発の担い手となる人材の育成を行う協力であり、開発途上国の技術水準の向上、制度や組織の確立や整備などに役立ちます。また、技術協力は“人と人との接触”を通じて実現され、人の往来が基本となる援助形

態であるため、両国国民レベルでの相互理解に果たす役割は大きいといえます。有償資金協力(政府貸付等)は、大規模な支援を行いやすく、開発途上国の経済社会開発に不可欠なインフラ建設等の支援に効果的です。以上の援助手法別に見ると、二国間ODAでは、無

償資金協力として計上された実績が約28億695万ドル(約3,054億円)で、ODA支出総額の実績全体の約16.7%となっています。うち、国際機関を通じた贈与は、約15億9,882万ドル(約1,740億円)で全体の約9.5%です。技術協力は約27億7,570万ドル(約3,020億円)で、全体の約16.5%を占めています。政府貸付等については、貸付実行額は約78億5,680万ドル(約8,548億円)で、ODAの支出総額全体の約46.7%を占めています。貸付実行額から回収額を差し引いた純額は、約14億6,581万ドル(約1,595億円)となっています。

図表Ⅲ-1 2016年の日本の政府開発援助実績

2016年(暦年) ドル・ベース(百万ドル) 円ベース(億円)

援助形態 実績 前年実績 対前年比(%) 実績 前年実績 対前年比

(%)

無償資金協力 2,806.95 2,640.89 6.3 3,054.04 3,195.53 -4.4

(うち、債務救済) (15.32) - - (16.67) - -

(うち、国際機関を通じた贈与) (1,598.82)(1,441.22) (10.9)(1,739.56)(1,743.91) (-0.2)

技術協力 2,775.70 2,368.67 17.2 3,020.04 2,866.15 5.4

贈与計(A) 5,582.66 5,009.56 11.4 6,074.08 6,061.68 0.2

政府貸付等(D)=(B)-(C) 1,465.81 1,156.27 26.8 1,594.84 1,399.12 14.0

(貸付実行額)(B) 7,856.80 6,982.07 12.5 8,548.41 8,448.46 1.2

(回収額)(C) 6,390.99 5,825.80 9.7 6,953.56 7,049.35 -1.4

二国間政府開発援助計(総額ベース)(A)+(B) 13,439.45 11,991.63 12.1 14,622.49 14,510.14 0.8

二国間政府開発援助計(純額ベース)(A)+(D) 7,048.47 6,165.83 14.3 7,668.92 7,460.80 2.8

国際機関向け拠出・出資等(E) 3,368.34 3,036.81 10.9 3,664.84 3,674.61 -0.3

政府開発援助計(支出総額) (A)+(B)+(E) 16,807.79 15,028.43 11.8 18,287.33 18,184.75 0.6

政府開発援助計(支出純額) (A)+(D)+(E) 10,416.80 9,202.64 13.2 11,333.76 11,135.40 1.8

名目GNI速報値 (単位:10億ドル、10億円) 5,099.73 4,553.33 12.0 554,864.50 550,963.30 0.7

対GNI比(%) 0.20 0.20 0.20 0.20

(注)・四捨五入の関係上、合計が一致しないことがある。・[-]は、実績が全くないことを示す。・卒業国向け援助を除く。(卒業国向け援助を含めた実績については181ページの「図表Ⅳ-13 2016年の日本の政府開発援助実績」を参照。)

・ここでの「無償資金協力」は、債務救済および国際機関を通じた贈与(国別に分類できるもの)を含む。

・債務救済は、商業上の債務の免除であり、債務繰延は含まない(円借款債務の救済実績はなし)。

・換算率:2015年=121.0023円/ドル、2016年=108.8027円/ドル(OECD-DAC指定レート)。

・卒業国とは、233ページの「図表Ⅳ-37/DAC援助受取国・地域リスト」の記載から外れた国をいう。

・DAC加盟国以外の卒業国で支出実績を有するのは次の18か国・地域(アラブ首長国連邦、イスラエル、オマーン、カタール、クウェート、クロアチア、サウジアラビア、シンガポール、セントクリストファー・ネーヴィス、トリニダード・トバゴ、[ニューカレドニア]、バーレーン、バハマ、バルバドス、[フランス領ポリネシア]、ブルネイ、[香港]、ルーマニア)。

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20 2017年版 開発協力白書

地域別の二国間ODAは次のとおりです。支出総額(支出純額)(構成比)の順。(以下の実績値は、卒業国向け援助を含む。)アジア:約70億3,779万ドル(約17億8,761万ドル)(52.3%)中東・北アフリカ:約19億4,469万ドル(約12億8,786万ドル)(14.5%)サブサハラ・アフリカ:約14億9,007万ドル(約13億8,868万ドル)(11.1%)

中南米:約4億2,894万ドル(約8,239万ドル)(3.2%)大洋州:約1億8,077万ドル(約1億6,297万ドル)(1.3%)欧州:約4億206万ドル(約3億3,606万ドル)(3.0%)複数地域にまたがる援助:約19億6,644万ドル(約19億6,644万ドル)(14.6%)

図表Ⅲ-2 日本の二国間政府開発援助実績の地域別配分の推移

3.0

8.8

10.8

7.8

15.3

15.4

11.0

12.4

11.8

14.5

1.8

10.8

10.6

8.5

12.0

12.7

14.9

13.1

15.7

11.1

0.5

5.9

7.7

8.8

6.6

3.3

2.0

3.5

3.6

3.2

0.71.4

1.3

1.3

1.1

0.7

1.0

1.1

1.3

0.1

1.9

1.0

1.5

0.6

0.3

1.5

0.9

3.0

0.2

1.0

5.9

12.5

10.2

10.7

6.7

10.8

14.1

14.6

0 20 40 60 80 100

1970

1980

1990

2000

2010

2012

2013

2014

2015

2016

(暦年)

94.4

72.8

61.7

60.1

53.1

56.2

64.3

57.8

52.7

52.3

アジア 中東・北アフリカ サブサハラ・アフリカ 中南米 大洋州 複数地域にまたがる援助等欧州

(%)

支出総額ベース

(注)・1990年以降の実績には卒業国向け援助を含む。・複数地域にまたがる援助等には、複数地域にまたがる調査団の派遣等、地域分類が不可能なものを含む。

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212017年版 開発協力白書

▼ 第1章実績から見た日本の政府開発援助 

第Ⅲ部

2017年の開発協力 第1章

実績から見た日本の政府開発援助

Ⅲ1

図表Ⅲ-3 主要DAC加盟国の政府開発援助実績の推移■ 支出総額ベース

■ 支出純額ベース(暦年)

日本 米国 英国 フランス ドイツ イタリア カナダ

日本 米国 英国 フランス ドイツ イタリア カナダ

(百万ドル)

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

40,000

(暦年)

(百万ドル)

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

40,000

02015 2016201420132012201120102009200820072006200520042003200220012000199919981997

2015 2016201420132012201120102009200820072006200520042003200220012000199919981997

9,358

12,565

10,640

13,176

12,163

15,141

13,508

16,300

9,847

12,625

9,283

12,230

8,880

12,971

8,922

16,176

13,126

18,619

11,136

17,064

7,697

13,584

9,601

17,475

9,467

16,451

11,058

18,865

11,086

20,247

10,605

18,662

11,469

22,414

9,483

9,20310,417

15,02816,80815,925

出典:DAC統計(DACStatisticsonOECD.STAT)(注)・卒業国向け援助を除く。

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22 2017年版 開発協力白書

図表Ⅲ-4 DAC諸国における政府開発援助実績の国民1人当たりの負担額(2016年)

832.7 662.8

425.5 412.0

300.7 290.6

275.0 203.0

192.7 188.0

172.7 171.9

144.2 133.3

107.9 106.5

93.4 92.1

84.0 82.1

489.6

43.4 39.3 34.2 33.3

24.6 20.3 19.6 17.2

ノルウェールクセンブルク

スイスデンマーク

ドイツオランダ

英国ベルギー

フィンランドオーストリアアイスランドアイルランド

フランスオーストラリア

カナダ米国

ニュージーランドスペインイタリア

日本

スウェーデン

韓国スロベニアギリシャ

ポルトガルチェコ

ハンガリースロバキアポーランド

(ドル)0 200 400 600 800 1,000

出典:DAC統計(DACStatisticsonOECD.STAT)(注)・支出純額ベース。・卒業国向け援助を除く。・ニュージーランドは2016年実績の確定値データをDACに未提出であるため、暫定値を使用。

図表Ⅲ-5 DAC諸国における政府開発援助実績の対国民総所得(GNI)比(2016年)

1.12 1.00

0.94 0.75

0.70 0.70

0.65 0.55

0.53 0.44

0.42 0.38

0.35 0.32

0.28 0.28

0.27 0.26

0.25 0.20

0.19 0.19 0.19

0.17 0.17

0.16 0.15 0.14

0.12

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8

0.7

1.0 1.2ノルウェー

ルクセンブルクスウェーデンデンマーク

英国ドイツ

オランダベルギースイス

フィンランドオーストリア

フランススペイン

アイルランドアイスランド

イタリアオーストラリア

カナダニュージーランド

日本ギリシャ

スロベニア米国

ポルトガルハンガリー

韓国ポーランド

チェコスロバキア

(%)

出典:DAC統計(DACStatisticsonOECD.STAT)(注)・支出純額ベース。・卒業国向け援助を除く。・1970年、国連総会は政府開発援助の目標を国民総生産(GNP)(現在は国民総所得(GNI))の0.7パーセントと定めた。・ニュージーランドは2016年実績の確定値データをDACに未提出であるため、暫定値を使用。

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232017年版 開発協力白書

▼ 第1章実績から見た日本の政府開発援助 

第Ⅲ部

2017年の開発協力 第1章

実績から見た日本の政府開発援助

Ⅲ1

図表Ⅲ-6 日本の政府開発援助実績の対国民総所得(GNI比)の推移

11,136

7,697

9,601 9,467

11,058 11,086 10,605

11,469

9,483 9,203

10,417

0.25

0.17 0.19 0.18

0.20 0.18

0.17

0.22

0.20 0.20 0.20

0.05

0.10

0.15

0.20

0.25

0.30

0.35

0.40

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

政府開発援助実績 対GNI比

(暦年)

(百万ドル) (%)

(注)・支出純額ベース。・卒業国向け援助を除く。