生徒の問題意識を醸成しながら 進める地理学習...9 地 理 歴 史 公 民 地 図...

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8 長野県飯田市立飯田西中学校 中島博文 生徒の問題意識を醸成しながら 進める地理学習 1 世界の地震や火山の分布(第1時) (1) 問題意識の醸成 事象に向きあう場面で必要なことは、生徒 の問題意識を醸成し、「解いてみたい」とい う意識を持たせることではないか。確かに必 要事項を教えればすむことかもしれないが、 それでは追究への意欲を思うように喚起でき ないのではないか。なぜならば、生徒の問題 意識が弱ければ、認識の変容につながるよう な価値ある資料を提示しても、生徒は驚かな いし、「あっ、そうか」という認識で終わり、 主体的な追究にならないと考えたからである。 第1時ではまず、「世界で地震や火山が多 いのはどこだろう。作業をしてつかもう。」 と指示し、地図帳 *1 p.9〜10を参考にしながら、 下記の作業に取り組ませる。3部の学習なの で、山脈名や造山帯名は自力で調べさせる。 作業後、 ア 〜 エ の山脈名、①②の造山 帯名について、生徒に発言させて確認する。 造山帯の意味についてふれた後、2つの造山 帯の範囲(位置)について、地図帳p.9〜10 で地名を交えながら押さえる。地名は環太平 洋造山帯が南北アメリカ大陸・アリューシャ ン列島・千島列島・日本列島・台湾・フィリ ピン諸島・ニュージーランドであり、アルプ ス・ヒマラヤ造山帯がアルプス山脈・ヒマラ 「中学校スタンダード地理資料・ワーク」p.96 *1 「中学校社会科地図 初訂版」

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Page 1: 生徒の問題意識を醸成しながら 進める地理学習...9 地 理 歴 史 公 民 地 図 社会科 中学生の地理 ヤ山脈・インドネシアである。 次に、2つの造山帯で起こった地震を紹介

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長野県飯田市立飯田西中学校 中島博文

生徒の問題意識を醸成しながら進める地理学習

1世界の地震や火山の分布(第1時)

(1) 問題意識の醸成

 事象に向きあう場面で必要なことは、生徒

の問題意識を醸成し、「解いてみたい」とい

う意識を持たせることではないか。確かに必

要事項を教えればすむことかもしれないが、

それでは追究への意欲を思うように喚起でき

ないのではないか。なぜならば、生徒の問題

意識が弱ければ、認識の変容につながるよう

な価値ある資料を提示しても、生徒は驚かな

いし、「あっ、そうか」という認識で終わり、

主体的な追究にならないと考えたからである。

 第1時ではまず、「世界で地震や火山が多

いのはどこだろう。作業をしてつかもう。」

と指示し、地図帳*1p.9〜10を参考にしながら、

下記の作業に取り組ませる。3部の学習なの

で、山脈名や造山帯名は自力で調べさせる。

 作業後、 ア 〜 エ の山脈名、①②の造山

帯名について、生徒に発言させて確認する。

造山帯の意味についてふれた後、2つの造山

帯の範囲(位置)について、地図帳p.9〜10

で地名を交えながら押さえる。地名は環太平

洋造山帯が南北アメリカ大陸・アリューシャ

ン列島・千島列島・日本列島・台湾・フィリ

ピン諸島・ニュージーランドであり、アルプ

ス・ヒマラヤ造山帯がアルプス山脈・ヒマラ

「中学校スタンダード地理資料・ワーク」p.96*1「中学校社会科地図 初訂版」

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地 理

歴 史

公 民

地 図

社会科

地 理中学生の

ヤ山脈・インドネシアである。

 次に、2つの造山帯で起こった地震を紹介

する。まず、生徒は資料集*2p.96〜97を開け

ているので、タイ・プーケットでの津波の被

害を扱う。室内が津波に襲われ、机・椅子等

が流されている生々しい写真である。

 ここで、教科書*3p.132の写真「兵庫県南

部地震」をスキャナでとりこみ、その画像を

パソコンに入れ、プロジェクターでスクリー

ンに映写する。「兵庫県南部地震の写真を見

て、思うこと、気づくことを挙げさせる。問

題意識が乏しい状態のときに、生徒は様々な

資料を見ることを嫌う。価値ある資料であっ

ても生徒は乗ってこない。ゆえに、とってお

きの資料はまず、スクリーンや拡大写真など

で大きく提示し、その資料をもとに問題意識

を醸成していく。生徒から「この資料は教科

書にも載っている。教科書も見たい」との意

見が挙がればしめたものである。

 生徒の意識が「日本でも高速道路が倒れる

ほど、ひどく大きな地震が起こった。人々の

安否はどうだったのだろうか」となったとこ

ろで、追い打ちをかけるように、地図帳p.114

「火山と地震の分布」の資料を提示し、わか

ったことを発表させる。

 生徒たちから、

「あっ、この地図帳のページにも、さっき見

た『兵庫県南部地震』の写真が出ている。す

ごい迫力。高速道路が倒れている。」

「日本は地震が多い国だ。」

「地震はとくに太平洋側で多い。」

「マグニチュード7以上の地震も結構多い。」

「マグニチュード7以上の地

震が、1985年以降だけで6

ほどもある。」

「太平洋側の海岸は津波に襲

われやすい。」

「本州、とくに東日本と、九

州に火山が多い。」

「震源地の分布は太平洋に沿

って、南北に連なっている。」

「こんなにも巨大地震が多い

とは知らなかった。火山の分

布が影響しているのでは。」

などの発言があるであろう。

(2)学習問題設定〜問題の

   追究

(1)の学習場面を経て、学

習問題を「なぜ日本では大き

な地震が起きやすいのか」を

設定する。生徒から「火山が

多いから。」「中学校社会科地図 初訂版」p.114*2「中学校スタンダード地理資料・ワーク」*3「中学生の地理 初訂版」

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「地図帳に『プレート』と書いてあるけど、

『プレート』って何ですか。」

との反応があるだろう。

 ここで地図帳p.114の「考えてみよう」ど

おりに、「なぜ日本では大きな地震がおきや

すいのか、震源地の分布とプレートの図を参

考に考えてみよう。」と問いかけてみよう。

 生徒は考える。「プレート=板? とする

と、日本は4つもの板が合わさったところな

のか。複雑だなあ。4つの板が入り組んでい

る。」などと考えるだろう。

 ここで、技術家庭科から借りた板切れ4枚

で実験する。合わさっているところがいかに

危険であるか、よくわかるであろう。

 それぞれの板(プレート)の名称を、地図

帳p.113「プレートの境界」を使って確認し

ていく。とくに本州上にある北アメリカプレ

ートとユーラシアプレートとの境を「フォッ

サマグナ」と呼ぶことを教える。

2日本の地形の特色(第2時)

(1)日本列島の背骨について

 前時に扱ったフォッサマグナについて、資

料集p.98「日本海側からながめたフォッサマ

グナ」で確認する。南北が逆になっているこ

とに留意させ、飛騨山脈や木曽山脈の東側に

フォッサマグナがあることを確認させる。こ

の場合、山脈の名前を確認することが主眼で

あって、フォッサマグナの範囲、厳密な位置

については深入りしない。

 続いて、資料集p.98で山地・山脈名を調べ

させる。同時に「日本は山地・山脈がどのよ

うに並んでいるか」の課題を与えておく。

(2)日本の川を外国の川と比べてみよう

 教科書p.135「外国と日本の川の比較」の資

料を読み取らせる。本州中央部に位置する木

曽川が全長200kmにも満たない距離で、800m

もの標高差を流れていることに気づかせる。

木曽川の他にも常願寺川、利根川、信濃川が、

「中学校スタンダード地理資料・ワーク」p.98

「中学校社会科地図 初訂版」p.113

ユーラシアプレートユーラシアプレート

フィリピン海プレートフィリピン海プレート

北アメリカプレート北アメリカプレート

太平洋プレート太平洋プレート

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地 理

歴 史

公 民

地 図

社会科

地 理中学生の

短い距離なのに高低差がかなりあることを読

み取らせ、必ず、川の位置を地図帳で調べさ

せる。この際、源流部分から河口までの川の

流れをしっかり確認したい。山と山との間を

縫うように川が流れていることがわかるであ

ろう。地図の学習であるからしっかりと地図

帳を活用させたい。

 世界の川では、アマゾン川、ナイル川、メ

コン川、ライン川の位置ならびに源流部分か

ら河口までの流れを確認させる。ライン川の

確認は地図帳p.38が最適であろう。

 ナイル川は地図帳p.1〜3で、日本と対比

させながら確認させる。ナイル川の長さであ

るウガンダから地中海までは、日本だと種子

島〜赤道近くまで川が流れていることを発見

させたい。

3おわりに

 もしも授業がうまく進まなかったら、教師

の行為と生徒との間にズレが生じていること

が考えられる。このズレを埋めるのに生徒に

迎合するのではなく、学習者である生徒の問

題意識を高めることが肝要である。まずは事

象に向き合う場面で生徒が乗ってきたか、冷

静にチェックしながら授業を進めたい。

「中学校社会科地図 初訂版」p.92

「中学校社会科地図 初訂版」p.1〜3

「中学校スタンダード地理資料・ワーク」p.99

川曽木曽川