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1 生体膜を模倣した 安定な人工脂質二重膜の作成 福井大学 学術研究院医学系部門 医学領域分子生理学分野 教授 老木 成稔 Department of Molecular Physiology & Biophysics

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Page 1: 生体膜を模倣した 安定な人工脂質二重膜の作成 - JST...2 生体膜は複雑すぎる チャネルが働いている生体膜は複雑すぎる。もっと単純な膜での実験が必要!これがチャネルを使ったデバイスなど多様な応用につ

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生体膜を模倣した安定な人工脂質二重膜の作成

福井大学 学術研究院医学系部門医学領域分子生理学分野

教授 老木 成稔

Department of Molecular Physiology & Biophysics

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生体膜は複雑すぎるチャネルが働いている生体膜は複雑すぎる。

もっと単純な膜での実験が必要!

これがチャネルを使ったデバイスなど多様な応用につながる。

従来の方法にない新しい特性をもった様々な新しい人工膜の方法を開発した。

Nicolson,

2013Singer & Nicolson, 1972

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可溶化精製

人工膜技術とその意義

生体膜中のチャネル

チャネル蛋白質

チェンバー法

ドロップインウェル法

単純な組成の膜で再現性・精度の高い実験ができる

脂質二重膜と埋め込まれたチャネル

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従来人工膜技術とその問題点

脂質二重膜を

• 速やかに

• 安定に

• 再現性良く

形成することが難しかった。

• チェンバー法

• 油中水滴法

安定膜のためのガラス小孔法

だれにでもできる

ドロップインウェル法

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従来のチェンバー法の問題点

小孔に膜を張るには

• 速やかに薄膜化すること

• 安定に膜が維持できること

が必須。

ところがこのための小孔を再現性よく作ることができなかった。

ガラス小孔法

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より安定な膜形成のためのガラス小孔による再構成法

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膜支持のための細孔

直径50 μm

シャープなエッジ平滑な表面

様々な素材テフロンポリスチレンなど 問題点:

細孔形成の再現性が低い

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安定二重膜形成のためのガラス小孔

• ブラスティングによるガラス板穿孔

• 高圧スパークによるエッジ平滑化

• ガラス表面疎水化

速やかに脂質二重膜が形成でき、長時間や大きな電場の負荷に耐えられる安定な膜を形成できる。

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ガラス板穿孔

ブラスティング

エッジの欠損バリ

厚さ200 μm

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スパーク放電によるエッジの平滑化

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利点

• 膜を張りやすい

• 漏れ電流が微小(数100 GΩ)

• 形成された膜が安定(数時間~)

• チェンバーの隔壁が透明であるため操作がしやすい

• 自動的な加工ができ、新しい膜デバイスの基幹素材となる

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応用1:密閉型軽薄短小チェンバーの作成

溶液量: 1.5 ml

溶液量: 50 ml

•ノイズの減少•可搬性

様々なノイズに弱い機械的刺激で膜が破れる

密閉型

開放型

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ガラス小孔チェンバー法とその意義

従来、脂質二重膜を張ることが困難。

→安定な脂質二重膜を簡単に張ることができる。

従来、膜を張った状態でチェンバーを動かすことは不可能であった。

→密閉容器として可搬性を持たせることができる。

脂質二重膜に様々なチャネルを埋め込んでBiomimeticセンサーとすることができる。

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企業への期待

• 自動膜形成装置などの基幹技術としての利用。

• オートパッチなど電気生理学的スクリーニング装置を開発中の企業には本技術の導入が有効と思われる。

• チャネルを利用したデバイスの共同開発。

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脂質二重膜実験のためのドロップイン・ウェル

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Channel on

the native

membrane

Solubilized

Purified

KcsA

potassium

channel

脂質二重膜実験のためのドロップイン・ウェル

油中水滴法

リン脂質含有油相

電解質液相

界面へのリン脂質の吸着

接着による脂質二重膜の形成

単分子層の形成

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ドロップイン・ウェルoil

滴下した2つの液滴が接するように

• 液滴がスロープを滑り落ちウェルに達する

• 液滴が落ちていく間に液滴表面に単分子層が形成される

• ウェルに落ち着いたところで接触する• 底から突き出たAgCl電極が自動的に液滴に刺さる

15 mm

液滴の直径約1 mm

AgCl電極

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水溶液液滴のオイル相への滴下

1つ目の油中水滴調製

1

2

3

4

2つ目の油中水滴調製

わずか

10秒

On

ly t

en

se

co

nd

s

液滴界面二重膜法

±400 mV

液滴接触膜Contact bilayer

ピペット電極Pipette electrode

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ドロップインウェル法の意義

• 誰にでも簡単に脂質二重膜を形成できる。

• マイクロピペットだけで脂質二重膜ができる(顕微鏡も必要ない)。

• できた膜が安定。

• 脂質二重膜を単分子層レベルで操作できる。

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想定される用途

• どこででも簡単に脂質二重膜の実験ができる(たとえばフィールドで、学生実験で)。

• チャネルなどの電気生理学的特性(単一チャネル電流測定も含む)を明らかにする実験の導入(もちろんプロ仕様の実験も可能)。

• トランスポータなど輸送膜蛋白質による輸送活性の測定。

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企業への期待

• だれにでも脂質二重膜の実験ができるシステムの開発。

• 特に測定系(アンプ・デジタル処理)のコンパクト化が可能な企業との共同研究を期待。

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本技術に関する知的財産権

1.発明の名称:脂質二重膜形成装置、脂質二重膜形成方法、

および評価システム

2.出願番号 :特願2017-063796

3.出願人 :国立大学法人福井大学

4.発明者 :老木成稔、岩本真幸

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関連する知的財産権• 発明の名称:脂質平面膜を形成するための貫通孔を有するガラス基板、およびその製造方法と用途

• 出願番号 :特許第6128554号

• 出願人 :福井大学

• 発明者 :老木成稔・岩本真幸

• 意匠に関わる物品:脂質二重膜形成器

• 出願番号:意願2017-006362号

• 出願人:福井大学

• 発明者:老木成稔・岩本真幸

• 発明の名称:シス-トランス液流方式によるイオンチャネル解析方法と、その方法に使用するイオンチャネル解析装置出願番号 :

• 特許第4516356号

• 出願人:老木成稔・轟産業株式会社

• 発明者:老木成稔・山内紀宏・坪田圭介• 発明の名称:変異型HERGチャネル

発現細胞およびその用途

• 出願番号 :特許第4828896号

• 出願人:国立大学法人福井大学・武田薬品工業株式会社

• 発明者:柳承希・明貝俊彦・今井友美・老木成稔

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産学連携の経歴

• 2001年-2009年 JST、CREST事業に採択

• 2002年-2010年 小野薬品と共同研究実施

• 2005年-2010年 武田薬品と共同研究実施

• 2016年- 東海ヒット社と共同研究実施

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お問い合わせ先

福井大学 産学官連携本部

コーディネーター 佐治 栄治

TEL 0776-27-8956

FAX 0776ー27ー8955

e-mail e-saji@u-fukui.ac.jp