建築分野no.1 土壁が主な耐力要素となる伝統木造 …...h cv1 k cv h cv2 k k cv v...
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土壁が主な耐力要素となる伝統木造建築のためのシミュレーション技術の開発
Development of FEM analysis code FEERTs-PW for traditional wooden buildings with mud wall
京都工芸繊維大学 准教授 村本 真
(研究計画ないし研究手法の概略)
1.はじめに 本研究では,伝統木造建築のための精度良いシミュレーション技術の構築を目的に解析法とそのプログラム
FERTs-PW を開発する.解析法の基礎理論は文献 1)に基づき,増分摂動法を採用し平面梁-柱有限要素法で定式化されている.文献 1)では,鋼構造を対象として片持ち梁の理論と実験,骨組実験によりその解析精度を検討した.本研究では,木造解析法開発の第一段階として長枘込み栓打ち接合部の要素実験の解析を通して,解析法の精度を検討する.はじめに,各種設計資料を用いた木材の応力ひずみ関係モデルを検討した結果を示し,次に,木材の材料実験結果を用いて応力ひずみ関係モデルを検討した結果を示す.続いて,土壁の実験荷重-変形角関係包絡曲線を予測するためのモデルについて検討した結果を述べる.
2.伝統木造建築のための数値解析法 2.1 解析法の概要
FERTs-PW で基礎とする解析法は,増分摂動法を採用した平面梁-柱有限要素法に材料線要素(いわゆるファイバー要素)でせん断変形を考慮した定式化を行っている 1). 部材は材軸方向に並ぶ平面梁-柱有限要素で構成される.木造接合部の履歴特性を表現するため,材軸を交点とする部材節点と部材表面までの仕口等による接合領域を接合部近傍領域として 1つの要素とする.平面梁-柱有限要素は,断面諸量が等価になるように集中断面積を持ついくつかの材料線要素からなるものとする.接合部近傍の要素についてもその断面の断面諸量からいくつかの材料線要素にモデル化する.有限要素は片持ち梁-柱型の変位関数で定式化され,座標変換則は文献 1)と同じである.
接合部近傍領域の解析モデルは,材料構成則として以下の 3 つの構成則を材料線要素に適用し,それぞれを独立に制御する.(1) 材軸方向の垂直応力-ひずみ関係である.一軸の応力とひずみの関係に従うものとし,材軸直交方向との連成は考えない.残りの 2つは材軸直交方向の応力-ひずみ関係である.この材軸直交方向の材料線要素は,解析モデルが木部材か接合部近傍かに応じて,それぞれ以下の材料特性を与える.木部材そのものの材軸直交方向の材料特性を考える場合は,せん断応力とせん断ひずみを考える.部材間の接触によるめり込みが生じる領域では,材軸直交方向の横圧縮特性を考える.この領域では,部材がめり込む方向においてめり込みにより生じる応力とそのひずみの関係を与える.以上の考え方に基づき解析法の理論[1]とプログラム FERTs-PWを作成している.
2.2 長枘込み栓打ち接合部の実験の概要 伝統木造建築の最も基本的な接合部に長枘込み栓打ちがある.しかしながら,その内部の応力伝達に
ついては文献 2)で検討されているものの,FERTs-PWを開発するために必要な情報が充分に得られているわけではない.そこで,文献 2)とは異なる部材断面の長枘込み栓打ち接合部の繰り返し載荷実験を実
研究報告 平成30年度 建築分野No.1
施して,接合部の解析モデルの検討を行った.
図 1に示すように,柱と土台は 105mm角のヒノキ,込栓は 15mm角のカシでとした長枘込み栓打ち接合部の繰り返し載荷実験を行った.試験体は 4体用意し,枘寸法は図 2上の試験体 1,下のひずみゲージ貼付のための切り欠きを施した試験体 2~4とした.枘に貼付するひずみゲージ NE1~3,SE1~3は木材の繊維方向のひずみを計測した.NG1~3,SG1~3は木材の繊維に対して直交方向のひずみを計測した.
実験の結果,図 3 に示すように枘内部のひずみ履歴(ここでは,繰り返し履歴から制御変形角毎の最
-2
-1.5
-1
-0.5
0
0.5
-0.15 -0.1 -0.05 0 0.05 0.1 0.15 0.2ひずみ[%]
見かけの回転角[rad](b) SG1
-2
-1.5
-1
-0.5
0
0.5
-0.15 -0.1 -0.05 0 0.05 0.1 0.15 0.2
試験体2表試験体2裏試験体3表
試験体3裏試験体4表試験体4裏
ひずみ[%]
見かけの回転角[rad](a) NG1
-0.4
-0.2
0
0.2
0.4
-0.15 -0.1 -0.05 0 0.05 0.1 0.15 0.2
ひずみ[%]
見かけの回転角[rad](b) SE1
-0.4
-0.2
0
0.2
0.4
-0.15 -0.1 -0.05 0 0.05 0.1 0.15 0.2
試験体2表試験体2裏試験体3表
試験体3裏試験体4表試験体4裏
ひずみ[%]
見かけの回転角[rad](a) NE1
-2
-1.5
-1
-0.5
0
0.5
-0.15 -0.1 -0.05 0 0.05 0.1 0.15 0.2
ひずみ[%]
見かけの回転角[rad](d) SG2
-2
-1.5
-1
-0.5
0
0.5
-0.15 -0.1 -0.05 0 0.05 0.1 0.15 0.2
ひずみ[%]
見かけの回転角[rad](c) NG2
-0.4
-0.2
0
0.2
0.4
-0.15 -0.1 -0.05 0 0.05 0.1 0.15 0.2
ひずみ[%]
見かけの回転角[rad](d) SE2
-0.4
-0.2
0
0.2
0.4
-0.15 -0.1 -0.05 0 0.05 0.1 0.15 0.2
ひずみ[%]
見かけの回転角[rad](c) NE2
-2
-1.5
-1
-0.5
0
0.5
-0.15 -0.1 -0.05 0 0.05 0.1 0.15 0.2
ひずみ[%]
見かけの回転角[rad](f) SG3
-2
-1.5
-1
-0.5
0
0.5
-0.15 -0.1 -0.05 0 0.05 0.1 0.15 0.2
ひずみ[%]
見かけの回転角[rad](e) NG3
-0.4
-0.2
0
0.2
0.4
-0.15 -0.1 -0.05 0 0.05 0.1 0.15 0.2
ひずみ[%]
見かけの回転角[rad](f) SE3
-0.4
-0.2
0
0.2
0.4
-0.15 -0.1 -0.05 0 0.05 0.1 0.15 0.2
ひずみ[%]
見かけの回転角[rad](e) NE3
図 9 繊維方向ひずみ 図 10 繊維直交方向ひずみ繊維方向ひずみ 繊維直交方向ひずみ 図 3 枘内部のひずみ履歴
901537.5 37.5 30
15100
62.5
22.5
9015
401515 8 8
14.514.5
405
530
815.25
5 530
830.7523.5
1010
7.257.25
15100
62.5
22.5
図 2 ほぞ部詳細寸法835
500 5001000
1000
60105
52.5 52.5105
ヒノキ105×105
図 2を参照
19.5
15
5
1519.5
試験体 2~4のみ土台に切り欠き
[mm]
図 1 試験体寸法
(a) 試験体 1
901537.5 37.5 30
15100
62.5
22.5
9015
401515 8 8
14.514.5
405
530
815.25
5 530
830.7523.5
1010
7.257.25
15100
62.5
22.5
図 2 ほぞ部詳細寸法
835
500 5001000
1000
60105
52.5 52.5105
ヒノキ105×105
図 2を参照
19.5
155
1519.5
試験体 2~4のみ土台に切り欠き
[mm]
図 1 試験体寸法
(a) 試験体 1
図 2 枘寸法の詳細 図 1 試験体と載荷装置
終時のひずみを抽出して図示している)を得た.ここでは,枘の上部下部に関係なく引張ひずみが生じること,枘下部には圧縮ひずみが生じないことの 2点などを確認した.
2.3 長枘込み栓打ち接合部の解析 実験を受けて,解析は既往の文献情報(設計資料等)値による応力ひずみ関係モデルを用いた解析(CASE-A)と別途行った木材の材料実験(圧縮試験,引張試験,横圧縮試験)に基づく結果を参考とした応力ひずみ関係モデルを用いた解析(CASE-B)の 2段階で実施した.
CASE-Aでは,図 4と表 1の応力ひずみ関係モデルを用いた.図 5に示す載荷点の荷重-変位関係の解析結果を得た.実験結果は 4体の繰り返し荷重-変位関係の包絡曲線を細実線でそれぞれ描き,平均包絡曲線を太実線で示している.実験では正側と負側での最大耐力が若干異なるため,両側の実験包絡曲線を描き,解析結果と比較した.解析結果は,単調載荷の結果を負側にも反転して描き,計算ステップを○印で示している.
この荷重-変位関係により,正側で解析結果が実験結果より耐力が大きいことを除き,概ね実験包絡曲線を予想できている.実験結果が最大耐力を発揮した変形時以降,実験の平均包絡曲線では負勾配となるが,解析結果の耐力は増加し続けている.これは,ここで設定した解析モデルでは,長枘の割裂等による耐力低下を表現できていないこと
H1E
H2E
H3E
E
σ
σy2
σy1
σy3
ε
H4G
G
τ
τy
γ
H5KCV
KCV
σCV
σCVy
εCV
図 7 構成則のモデル(a) 垂直応力-ひずみ関係 (b) せん断応力-ひずみ関係 (c) めり込み応力-ひずみ関係
図 4 CASE-Aの応力ひずみ関係モデル
表 1 材料特性E
[N/mm2]G
[N/mm2]KCV
[N/mm2]σy1
[N/mm2]σy2
[N/mm2]σy3
[N/mm2]τy
[N/mm2]σCVy
[N/mm2] H1 H2 H3 H4 H5
8800 586.7 352 * 6.2 12.4 18.6 2.1 2.6 * 1/4 1/6.7 1/33 1/25 1/14 *
* は長枘をモデル化した繊維直交方向の特性値.
表 1 CASE-Aの材料特性値
-2
-1
0
1
2
-150 -100 -50 0 50 100 150 200
試験体(4体分)
荷重[kN]
水平変位[mm]
実験の平均包絡曲線
解析結果(単調載荷)
図 5 CASE-Aの解析結果
Et
σσty2σty1
εσcy1
σcy2
Ec
Hc1Ec
Hc2Ec
Ht1Et
Ht2Et
(a) 柱・土台 (b)ほぞ
Eht
σhty2σhty1
σhcy1σhcy2
EhcH
hc1Ehc
Hhc2Ehc
Hht1Eht
Hht2Eht
σ
ε
図 2 材軸方向の構成則のモデル
Hcv1Kcv
Hcv2Kcv
Kcv
σcv2
σcv1
σcv
εcv(b) ほぞ
Hg1G
Hg2G
G
τ
τy2
τy1
γ(c) 柱・土台図 3 材軸直交方向の構成則のモデル
Et
σσty2σty1
εσcy1
σcy2
Ec
Hc1Ec
Hc2Ec
Ht1Et
Ht2Et
(a) 柱・土台 (b)ほぞ
Eht
σhty2σhty1
σhcy1σhcy2
EhcH
hc1Ehc
Hhc2Ehc
Hht1Eht
Hht2Eht
σ
ε
図 2 材軸方向の構成則のモデル
Hcv1Kcv
Hcv2Kcv
Kcv
σcv2
σcv1
σcv
εcv(b) ほぞ
Hg1G
Hg2G
G
τ
τy2
τy1
γ(c) 柱・土台図 3 材軸直交方向の構成則のモデル
Hcv1Kcv
Hcv2Kcv
Kcv
σcv2
σcv1
σcv
εcv(d) ほぞ
図 6 CASE-Bの応力ひずみ関係モデル 繊維方向応力ひずみ関係 繊維直交方向応力ひずみ関係
が原因である.
CASE-Bでは材料実験の結果を参照し,繊維直交方向では圧縮と引張側で弾性係数が異なり,折れ点位置が異なるような図 6と表 2の応力ひずみ関係モデルを用いた.部材と長枘に対応する要素で応力ひずみ関係モデルを使い分けている.図 7
に,正側載荷時の実験包絡線(試験体 4体)を細線で解析結果を太線で示す.解析結果上の○印は解析ステップを示している.図 7より,解析結果と実験包絡線が良い対応を示していることがわかる.図 5の CASE-Aの解析では,実験包絡曲線と比較して,解析結果の剛性がやや大きくなっていたが,CASE-Bの解析モデルでは解析結果と実験包絡線の剛性が良く対応している.
さらに,軸組のみの実験の解析を実施しており,そこでは概ね良好な結果を得ている.
3.土壁の荷重-変形角関係モデルの検討 土壁の荷重-変形角関係を把握しそれをモデル化することは,土壁を有する伝統木造建築の数値解析を実現する上で重要である.これまでに,文献 3)と 4)において,京土壁の繰り返し載荷実験を実施しており,ここではこれらの結果を用いた荷
表 2 CASE-Bの材料特性値
0 20 40 60 80 100 120
解析結果試験体(4体分)
0
0.5
1
1.5
2
2.5
荷重[kN]
水平変位[mm]図 7 CASE-Bの解析結果
図 8 処女載荷曲線モデルの検討
0
5
10
15
20
0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1
繰り返し載荷実験結果提案モデル曲線
荷重P[kN]
せん断変形角θ[rad](a) B-2P2
0
5
10
15
20
0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1
荷重P[kN]
せん断変形角θ[rad](b) C-2P2
0
5
10
15
20
0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1
荷重P[kN]
せん断変形角θ[rad](c) D-2P2
0
5
10
15
20
0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1
荷重P[kN]
せん断変形角θ[rad](d) E-2P2
Fig.16 Envelope curve of reference 9) and virgin loading model
0
5
10
15
20
0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1
繰り返し載荷実験結果提案モデル曲線
荷重P[kN]
せん断変形角θ[rad](a) B-2P2
0
5
10
15
20
0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1
荷重P[kN]
せん断変形角θ[rad](b) C-2P2
0
5
10
15
20
0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1
荷重P[kN]
せん断変形角θ[rad](c) D-2P2
0
5
10
15
20
0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1
荷重P[kN]
せん断変形角θ[rad](d) E-2P2
Fig.16 Envelope curve of reference 9) and virgin loading model
木材の材料試験に基づく構成則を用いた長ほぞ込み栓打ち接合部の解析モデル 正会員 〇 井上祥子 * 同 村本 真 **数値解析 平面梁-柱有限要素 ファイバー要素伝統木造軸組 長ほぞ込み栓打ち接合部
An Analysis Model of Mortise-tenon Joint with Dowel Using Constitutive Law Based on Material Testing of Wood
INOUE Sakiko and MURAMOTO Makoto
1.はじめに 筆者らは、伝統木造建築のための数値解析法 FERTs-PWを開発中である.FERTs-PWはファイバー要素を用いて材軸直交方向の変形を考慮した平面梁-柱有限要素法である.増分摂動法を用いた解析法の基礎理論は文献 1)に基づく.木造接合部は、接合部のめり込み変形を材軸直交方向の構成則でモデル化している.文献 2)では、設計指針等の文献特性値に基づいて解析モデルを構築し、接合部の繰り返し載荷実験の荷重変位関係を概ね追跡できることを示した.本報告では、木材の材料実験結果 3)に基づいた構成則モデルを用いた場合の解析結果について述べる.2.長ほぞ込栓打ち接合部の解析モデル 筆者らは文献 4)において、長ほぞ込栓打ち接合部の繰り返し載荷実験時における長ほぞ内部のひずみ計測を試みた.そこでは、ほぞの上部下部に関係なく引張ひずみが生じること、ほぞ下部には圧縮ひずみが生じないことの 2点を確認した.これを受けて、本論文では新たに図 1に示すような接合部の解析モデルを提案する.モデルでは土台の材軸より上部のほぞのみをモデル化している.このと
き材料実験結果に基づく弾性係数を設定すると実験耐力と異なったため、ほぞに生じる伸び変形と引張力の関係が解析モデルにおいて実験と同等になるように引張弾性係数を1/2に調整した.圧縮側は応力負担しないものとして、降伏応力を低く、降伏後の弾性係数は十分小さくとることとする. 解析に用いる材料構成則は、材料実験結果に基づいて決定する.構成則は、繊維方向引張・圧縮と横圧縮の実験結果 3)を参照した.図 2、図 3に構成則のモデルを示す.材軸方向では引張と圧縮側で異なる応力ひずみ関係となる.
図 1 接合部の解析モデル
引張ひずみ計測範囲
圧縮ひずみ計測せず
引張ひずみが生じている材料線要素のみが応力負担
ほぞ長さh
接合部のモデル化
要素長h/2
伸び変形量と引張力の関係を考え材軸方向の弾性係数を低減
Et
σσty2σty1
εσcy1
σcy2
Ec
Hc1Ec
Hc2Ec
Ht1Et
Ht2Et
(a) 柱・土台 (b)ほぞ
Eht
σhty2σhty1
σhcy1σhcy2
EhcH
hc1Ehc
Hhc2Ehc
Hht1Eht
Hht2Eht
σ
ε
図 2 材軸方向の構成則のモデル
Hcv1Kcv
Hcv2Kcv
Kcv
σcv2
σcv1
σcv
εcv(b) ほぞ
Hg1G
Hg2G
G
y2
y1
(c) 柱・土台図 3 材軸直交方向の構成則のモデル
P
4
① (500,887.5)
② (500,52.5)
□:部材番号 ○ :節点番号 [mm]
④(500,0)
⑤(1000,0)
③(0,0)
2 3
1
図 4 解析モデル(105角部材の場合)
表1 材料特性値Et
[N/mm2]Ec
[N/mm2]Eht
[N/mm2]Ehc
[N/mm2]G
[N/mm2]Kcv
[N/mm2]
8800 11000 4400 11000 586.7 880
Ht1 Ht2 Hc1 Hc2 Hht1 Hht2
1/100 1/100 3/5 1/20 1/100 1/100
Hhc1 Hhc2 Hg1 Hg2 Hcv1 Hcv2
1/1000 1/1000 1/25 1/25 3/4 1/100
sty1[N/mm2]
sty2[N/mm2]
scy1[N/mm2]
scy2[N/mm2]
shty1[N/mm2]
shty2[N/mm2]
70 140 20 43 70 140
shcy1[N/mm2]
shcy2[N/mm2]
tsy1[N/mm2]
ty2[N/mm2]
scvy1[N/mm2]
scvy2[N/mm2]
2.0 4.3 2.1 4.2 4 7
重-変形角曲線モデルの検討を行った.文献 3)と 4)より軸組損傷の影響がない実験結果を抽出し,4事業所が製作し事業所毎に仕様が異なる 7 試験体の繰り返し載荷実験の正側履歴を用いて履歴モデルを作成した.仕様が異なるが,それらの実験曲線の様相が概ね類似していることを用いて実験値を統計処理する.まず,最大荷重で実験荷重を基準化した.そして,最大荷重点近傍までと耐力低下領域にわけて 2つの曲線式(多項式と双曲線)でモデル化している.これらの式に,試験体の最大荷重点の情報を与えることで,仕様が異なる 4つの試験体の荷重-変形角関係包絡曲線を図 8のように推定することができた.次に,このモデル式が他研究者らの実験の推定に利用できるかどうかを確認した.文献 5)と 6)の実験結果3体(2P-25), 2P-45), No.4a6))を参照し,最大荷重点を与えると図 9のような推定結果を得た.最大荷重が異なる 3 つの実験結果について,それらの実験包絡曲線とモデル式の比較の結果,最大荷重点までは概ね良好に実験結果に対応しているが,耐力低下域については必ずしも対応していない場合も見られた.なお,2P-4試験体は縦貫の貫伏を行っていない比較的耐力が小さくなる場合の実験例である.
謝辞 本研究で開発した FERTs-PW は京都工芸繊維大学大学院生の井上祥子氏によるプログラムの改良に依るところが大きい.解析法について京都工芸繊維大学森迫清貴学長から助言を頂きました.また,長枘込み栓打ち接合部の実験では,京都工芸繊維大学高度技術支援センター技術職員の小山清司,四方利和,川端勝己の諸氏,同大学院生の井上 彰,河野達己,学部学生の朝倉尚平,髙田莉子の諸氏の協力を得ました.ここに記してお礼申し上げます.
参考文献 1) 王 丹, 林 慶樹, 村本 真, 森迫清貴: ファイバー要素でせん断変形を考慮した弾塑性平面梁-柱有限要素モデル, 日本建築学会構造系論文集, 第 82巻, 第 737号, pp. 1035-1045, 2017. 7
2) 西村 督, 後藤正美, 鈴木祥之: 木造軸組構法における長ほぞ込栓打ち接合部の応力伝達に関する実験的研究, 日本建築学会構造系論文集, 第 75巻, 第 658号, pp. 2197-2204, 2011. 3
3) 村本 真, 平田 良, 午來嵩顕, 森迫清貴: 左官事業所が異なり仕様に違いがある京土壁の繰り返し載荷実験, 日本建築学会技術報告集, 第 23巻, 第 53号, pp. 103-108, 2017. 2
4) 藤本ゆかり, 牛谷和弥, 村本 真, 森迫清貴: 京土壁の性能における左官技能の経験差, 日本建築学会近畿支部研究報告集・構造系, 第 56号, pp. 585-588, 2016. 6
5) 岡本滋史, 村上雅英, 鈴木 有, 稲山正弘: 耐荷機構に基づいた土壁の構造性能評価法とその検証-そ
0
5
10
15
20
0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1
2P-2の実験包絡曲線 5)推定した荷重-変形角モデル
2P-4の実験包絡曲線 5)
推定した荷重-変形角モデル
荷重P
[kN
]
せん断変形角θ[rad]
0
5
10
15
20
0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1
No.4aの実験包絡曲線 6)推定した荷重-変形角モデル荷
重P
[kN
]
せん断変形角θ[rad]
0
5
10
15
20
0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1
2P-2の実験包絡曲線 5)推定した荷重-変形角モデル
2P-4の実験包絡曲線 5)
推定した荷重-変形角モデル
荷重P
[kN
]
せん断変形角θ[rad]
0
5
10
15
20
0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1
No.4aの実験包絡曲線 6)推定した荷重-変形角モデル荷
重P
[kN
]
せん断変形角θ[rad]
図 9 他研究者の実験結果の推定結果
の 2 京壁による要素試験法の検証-, 日本建築学会大会学術講演梗概集, C-1, 構造 III, pp. 407-408,
2004. 7
6) 鈴木祥之, 中治弘行: 木造住宅土塗り壁の実大実験による耐震性能の再検討, 日本建築学会構造系論文集, 第 64巻, 第 515号, pp. 115-122, 1999. 1
(実験調査等により得られた新しい知見)
本研究では,これまでに提案されてきた棒材要素モデルに材端ばねモデルを組み合わせた木造解析法とは異なり,梁-柱有限要素の位置に応じた応力ひずみ関係モデルを与え,繊維方向と繊維直交方向の応力ひずみ関係モデルを独立に制御する解析法を開発した.また,この解析法を用いて伝統木造建物の長枘込み栓打ち接合部の要素実験を良好に予測可能とした.さらに,土壁の繰り返し載荷実験結果の統計処理によって得た土壁の荷重-変形角曲線モデルを作成した.このモデルは最大荷重点のみの情報を必要とする.このモデルで,他研究者らの土壁実験の荷重-変形角包絡曲線を最大荷重点近傍までは概ね予測できることを確認した.
(発表論文)
[1] 井上祥子, 村本 真: 木造軸組解析のための梁-柱有限要素モデルの提案, 構造工学論文集, Vol. 65B,
pp. 247-255, 2019. 3
[2] 井上祥子, 村本 真: 長ほぞ込栓打ち接合部のほぞに生じるひずみ履歴, 日本建築学会近畿支部研究報告集・構造系, 第 59号, 4p., 2019. 6(掲載予定)
[3] 井上祥子, 村本 真: 木材の材料試験に基づく構成則を用いた長ほぞ込み栓打ち接合部の解析モデル,
日本建築学会大会学術講演梗概集, 2p., 2019. 9(掲載予定)