特集: シェアリングエコノミー - incapsule ·...

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CONTENTS MARKETING HORIZON June 2016 シェアリングエコノミーは成長するか !? ── 加藤 雅己 …… 21 Uber の利用の仕方と見習うべきポイント? ── 吉田 けえな …… 24 「シェアな生 活 」で 人生の可能性を伸ばすコツ ── エチエンヌ・バラール …… 26 BOOKS 『限界費用ゼロ社会』『営業の課題解決』 …… 31 特集: シェアリングエコノミー 次世代のビジネスヒント MARKETING EYES 女性マーケターの眼/クリエーターの眼 …… 30 FEATURE MARKETING NEWS トピックス★ 大坪 檀 …… 29 新しい社会の仕組みの起動力 シェアリングエコノミーの可能性 株式会社スペースマーケット 代表取締役社長 /CEO 重松 大輔 …… 4 TOP INTERVIEW Case File なぜ&どのようにフランス企業は シェアリングエコノミーの分野に投資するのか? InCapsule by ifop社 マルティンヌ・グナッスィア …… 12

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Page 1: 特集: シェアリングエコノミー - Incapsule · ペースのマッチングの事業を思いついたこと、そ してウエディングの新規事業を形にすることがで

CONTENTS

MARKETING HORIZON

June 2016

シェアリングエコノミーは成長するか !? ── 加藤 雅己 ……21

Uber の利用の仕方と見習うべきポイント ? ── 吉田 けえな ……24

「シェアな生活」で人生の可能性を伸ばすコツ ── エチエンヌ・バラール ……26

BOOKS

『限界費用ゼロ社会』『営業の課題解決』 ……31

特集: シェアリングエコノミー 次世代のビジネスヒント

MARKETING EYES

女性マーケターの眼/クリエーターの眼 ……30

FEATURE

★MARKETING NEWSトピックス★ 大坪 檀 ……29

新しい社会の仕組みの起動力シェアリングエコノミーの可能性 株式会社スペースマーケット 代表取締役社長 /CEO 重松 大輔 氏 ……4

TOP INTERVIEW

Case File

なぜ&どのようにフランス企業はシェアリングエコノミーの分野に投資するのか? InCapsule by ifop社 マルティンヌ・グナッスィア ……12

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次世代のビジネ スヒントへの期待THE SHARI NG ECONOMY

 筆者は、昨年の秋に初めてキューバを観光で訪ねた。50 年間あまり隣の米国からボイコットを受けているキューバ人達は、経済的な困難を乗り越えるのに日常生活の中でいろんな知恵を付けた。絵ハガキでよくあるビンテージのアメ車の中で、ピカピカなのはほんのわずかであり、99%がボロボロのポンコツ車である。しかし、どんなボロ車であろうが、その所有者以外にも役に立っている。必要に応じて近所の人々を乗せることはキューバ人のドライバーの常識だ。たとえば、朝、車のハンドルを握って一人で仕事に向かうドライバーは、道端に手を上げる人がいれば必ず止まり、行き先が同じ方向なら赤の他人だろうが自分の車に乗せて、一緒に出発する。乗用車に席が余っている限り、こうやってドライバーが止まり、三人目、四人目の人を乗せているのだ。お金のやりとりは一切ない。わずかな物しか所有していないキューバの人々は、こうやって当たり前のようにシェアをしているのだ。筆者はお金で換算できない一種の豊かさをその場で感じた。世界有数の豊かな国日本に 30 年間あまり暮らしてきた筆者にとって、このキューバでの究極の原型シェアリングエコノミーは貴重な体験になった。 シェアリングエコノミーをあらためて見極めたい。本来の意味は、余っている物・スキル、時間などを必要としている人に供給する。需要と供給のバランスを保つという資本主義の原理はインターネットやスマホを通じて、仲介業者を省いて、直でCtoC に働く。現状のサービスやビジネスモデルに不満を抱く人は、シェアリングエコノミーを通じて自分に合う体験やサービスを求めるようになった。筆者はパリ生まれ、パリ育ちだが、30 年前に東京のタクシーの運転手のマナーの良さを体験して

Introduction

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次世代のビジネ スヒントへの期待THE SHARI NG ECONOMY

以来、フランスに戻るたびにパリのタクシードライバーの悪い態度に対してより敏感になり、いち早くUber のようなサービスに移り変えた。筆者と同じようにパリのタクシーに対して不満を持っているユーザーの多くにとって、Uber の登場は救世主のようなサービスだ。強い競争力のUber に対して危機感を抱いたパリのタクシードライバーは、ストライキやデモをはじめ、法的な規制も求めて、自分の縄張りを一生懸命守ろうとした。だが、新しい風が吹き始めたら、パンドラの箱に戻るまい。Uber はパリのタクシーユーザーの不満を暴露する役割を担った。面白いことに、数週間前に筆者がパリに出張した際、天敵だったタクシーには改革の風も吹いていたことに気付いた。今まで不満を感じていたいくつかの点が改善されて、以前より快適にタクシーに乗れた。つまり、長年独占的な市場に甘んじていたタクシー業界はUber の競争に刺激を受けて、ユーザー達が待ち望んでいた遅れた改善をやっと実施した。結局、Uber のおかげで、既存のタクシー業界の競争力が高まったともいえる。 同じように、AirBnB のような民泊サイトが近年日本にも話題になり、ホテルや旅館業界の反発を呼んでいる。インバウンド旅行者のブームによって、宿泊施設の不足はもちろん、多様性を求めている旅行者が、日本ホテル業界の古い掟の問題点を指摘している。民泊を法律や条例によって禁じるより、ホテル業界がその新しい波から学べる点をうまく利用して、内外の宿泊者が満足出来る新しいサービスを改めて提案すれば、民泊も従来の宿泊施設も共に栄えるはずだ。では、シェアリングエコノミーのすっぴんの姿を一緒に見つめて、次世代のビジネスヒントを期待しよう。本誌編集委員 エチエンヌ・バラール

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シェアリングエコノミーとは、スキルを含む遊休資産を共有し活用する、新しい社会の仕組みだ。人々の消費活動は単独所有から共同利用へと変化している。モノや労働力、場所の共有によって生まれる新たな価値をどう利用するか。先行き不透明感が漂う日本経済にシェアリングエコノミーはどのように作用するのか。その可能性について、日本のシェアリングエコノミーの旗手、㈱スペースマーケット代表 重松大輔氏にお話を伺った。

TOP INTERVIEWシェアリングエコノミーは経済を活性化させるか

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新しい社会の仕組みの起動力シェアリングエコノミーの可能性

Interview

重松 大輔 氏  

株式会社スペースマーケット 代表取締役社長 /CEO 一般社団法人シェアリングエコノミー協会 代表理事

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TOP INTERVIEW

スペースマーケット創始双方向でハッピーに

─── まず、簡単に自己紹介をしていただければと思います。重松さんは、スペースマーケットの会社をつくる前は、どういったキャリアを築いてこられたのでしょうか。重松 私は大学卒業の 2000 年に大手通信社に入社しました。そこでは 7 年ほどお世話になり、その後、30 歳のタイミングでベンチャー企業に転職をしました。新しい会社では、インターネットでイベントの写真を販売するサービスの運営に携わりました。ベンチャー企業だったので様々な業務を兼務する中、多くのイベントに足を運びました。 転職時は、自分の手で何かを仕掛けたいという気持ちはあったものの、この分野にこだわっていたわけではなかったのですが、働いていくうちに、

「場所」という付加価値の大きさに気づくようになったのです。まったく同じことをしている写真でも、どこで撮るかが違うだけで売れ方も全然違います。 例えば、草野球の大会をどこかの河原でやるのではなく甲子園球場でやるというユニークなものや、ただのマラソンではなく東京マラソンのように東京の名所を回るようなものに関しては、自分たちも感動するし、お客さんも写真を喜んでくれるんですよね。 また一方で、新規事業も任され、ウエディング写真販売の事業を立ち上げました。 結婚式で撮影された写真は通常届くのに2〜3ヵ月かかるのですが、WEB 上で1週間程度で見ることができ、その場で買えるようなサービスを作りました。これは新郎新婦だけでなくそのご両親にもとても喜ばれ、年間3万組が利用するビジネスにまで発展させることができました。 そうやってこのサービスを拡大させている時、たまたま平日の結婚式場に営業に行くことがありました。すると、土日はものすごく混んでいるにも

関わらず、平日は全く人がいなくガラガラで、とても立派な設備が整っているのに何だかもったいないなと、違和感を覚えました。 もともとイベントに携わる中で、場所が見つからなかったり使えなくなってしまったことでイベントができないことがあり、課題を感じていたので、この空きスペースと、使いたい人をマッチングさせたら良いのではと思いつきました。 また、同じ内容のイベントを開催するにしても、普段使わないような場所で行うことで場所の効果が働き、イベントの価値をもっと高められるのではないかと考えました。 当時、そろそろ独立しようかと考え始めていたものの何の事業をするか定まらず自信もなく起業には至っていませんでした。しかし、この空きスペースのマッチングの事業を思いついたこと、そしてウエディングの新規事業を形にすることができ、自信がついてきたことにより、独立の意思が固まりました。 年齢的にもやるなら今しかないと思い、37 歳の時ついに起業することを決意し、2014 年の 1月にスペースマーケットを創業しました。─── スペースマーケットをつくるにあたっては、どういったビジョンで、何をつくろうとしていたのですか。重松 イベントやパーティを開こうとする際、まずは、必ず場所探しから始まると思うのですが、その場所探しというのは実は結構面倒でして、決して楽しい作業ではありませんでした。私が感じていた課題は、それを、もう少し簡単に、しかも楽しいサービスをつくれたら良いのではないかと。 原体験の一つにあるのは、スペースとか施設もそうなのですが、繁閑の差があって、忙しい時とそうでない時がある。先ほどの、結婚式場のように土日祝日はよく稼働していますが、平日は逆にすごく空いている。一方で、企業の会議室は、土日は空いていますが、平日は埋まっていると。そういう状況のミスマッチを、見える化して無駄なく稼働さ

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新しい社会の仕組みの起動力

せられたら、貸す方、借りる方の双方にとってハッピーなことではないかと思いました。 日本中にユニークなスペースはまだまだたくさんあります。それをもっと顕在化させていきたいと思っています。やはり普段とは違う場所というのは、人々のテンションを上げる効果があると思います。特に会議などはいつもと違う場所でやれば、より良いアイディアが出るかもしれません。場所というのはとても大切です。 だからその選択肢をもっと作っていきたいと思っていますし、もっと多くの人に場所の持つ付加価値を知ってもらいたいと考えています。─── なるほど。そのミスマッチを埋めるスタイルのビジネスは、アメリカでは Airbnb が話題になっていたと思うのですが、それも意識はされていたのでしょうか。それとも全く別の需要でしょ

うか。重松 起業をしようと思ってビジネスモデルを考えていたのは、今からちょうど三年ほど前です。なにかいいビジネスはないかとずっと考えていました。その時に参考にしたのが、アメリカの Y コンビネータとか、ファイブハンドレッド スタートアップス(50 ヶ国 1,500 社以上のスタートアップへ投資する投資ファンド)です。なにか面白いドメインで仕事している会社はないかな、そう思っていろいろ見ていたときに、テーマとしてシェアリングエコノミーのビジネスをおこなっている会社が登場してきていて、これは面白いなと思いました。もちろん Airbnb も参考にさせていただいておりまして、当時は法律で規制されていたので民泊はできなかったのですが、イベントスペースや、スペースの一時貸しのところであれば特に規制は

しげまつ・だいすけ

1976年生まれ千葉県出身。早稲田大学法学部を卒業後、2000年NTT東日本(日本電信電話株式会社)へ入社。企画やプロモーションを担当。2006年創業間もない株式会社フォトクリエイトへ入社、同社事業の基盤となるインターネット写真サービスやフォトクラウド事業の企画立案を行い東証マザーズ上場に大きく貢献。2014年1月株式会社スペースマーケットを創業し代表取締役に就任、現在に至る。

重 松 大 輔

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TOP INTERVIEW

なかったので、この分野であればいけると判断しました。 いくつかのプレイヤーを参考にして、特に、会議室のマーケットプレイスやイベントスペースのマーケットプレイスは、当時からそれなりに成功はしていたので、そこを参考にして作り上げたという感じですね。

シェアリングエコノミー協会の役割日本の課題とは

─── シェアリングエコノミーは、ようやく日本でも形になってきたような気がします。そこで、まだシェアリングエコノミーの認知が低い中、他よりも早くにシェアリングエコノミーを普及するために協会を組織した経緯について、簡単に紹介していただければと思います。重松 シェアリングエコノミー協会の役割としては、そもそも新しい業界なので、こんな業界がある、プレイヤーがいる、ということを世の中に知ってもらうというのが大事なことだと思います。当然、これからの業界であるが故に、法律が未整備だったり、事業者自体も解決していかなければいけない課題がいろいろ見えてきているところです。 例えば、スキルシェアをやっている会社や我々のようなスペースシェアをやっている会社、お金のシェアをやっている会社だとか、いろいろな形のシェアリングビジネスがあるのですが、ドメインが違っても、得られる知見といいましょうか、サービスを提供する上で、使えるノウハウというのがお互いにあります。それを持ち寄って、そして知見を集めて皆でブラッシュアップしていこうという場です。その二点は協会の意義として大きいです。また、それを形式化するために勉強会やイベント等を開催したりしています。─── 日本国内でのシェアリングエコノミーのどういう点に貢献していきたいですか。

重松 そうですね、新しい産業をつくって経済を発展させなければいけないということが一つ。あとは、政府や自治体が提供するインフラに代わるものを、共に助け合う社会ですとか、そういった仕組みを作らなければいけないと思っていまして、そこにシェアリングエコノミーの仕組みは当てはまると思っています。例えば、タクシー会社が無いような自治体であれば、ライドシェアがはまるかもしれませんし、子育てが大変な都会に関しては、子育てのシェアやスペースのシェア。民泊などに関しても、大きな投資をせずに今あるものをうまく活用して活性化することができる仕組み作りが必要です。これから先、明らかにやって来る未来で、その課題を解決する手段としてシェアリングエコノミーというのは非常に有効な手段であると思っています。─── では、協会としてはどういう課題に直面してらっしゃるのですか。重松 課題という点では、ライフシェアやハウスシェアというのが話題になっていますが、そこに関しては、まだ賛否両論はあると思っています。既に世界で成功をしている Airbnb さんや Uber さんも、協会にご登録いただいておりますので、彼らは膨大な世界中のデータ、世界中の成功例・失敗例を含めた膨大な実績が蓄積されていますので、そういったデータ等を参照にしながらやっていきたいと思っています。 とはいえ、日本には日本の市場にあったやり方はありますので、海外の成功事例をそのまま日本にもってきても自治体や政府、ステイクホルダーがうまくいくとは思えません。そこを我々が間に入って、うまくコミュニケーションをとりもつような立場になれればいいなと思っています。─── シェアリングエコノミーは日本より進んでいる国が多いようです。後発している日本にとって海外の例をどう評価していますか。また、それをどのように展開していきますか。重松 私はアジア方面へ行く機会が度々ありまし

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新しい社会の仕組みの起動力

たが、やはり中国やジャカルタとかの方が進んでいます。ライドシェアは中国においては、そもそもEC が日本の倍以上に発達しているという背景もあって、シェアリングエコノミーはあらゆる分野で発展しています。それを目の当たりにして、非常にもったいないと。日本人の性格もあると思いますが、ある程度成熟した国なので、少々保守的な面があります。それは当然わからないこともないのですが、あまりに石橋を叩いて渡るような感じですと、多くの機会を逸失することになります。これはすべてのビジネスに共通していると思うのですが、新しいビジネスをやる上で、トライ&エラーをしてみないとわからない。まずトライを大事にしていかなきゃいけない。そういう気風もつくっていきたいと思っています。─── 重松さんは、日本ならではのシェアリングエコノミーの特徴や独自の路線を感じていますか。重松 日本ならではの特徴でいくと、やはりローカルの課題に基づいたサービスというのが非常に伸びている気はします。実際にローカルでは、それぞれの地域事情に基づいたビジネスが立ち上がってきています。─── ローカルな課題というと、それは例えばどういった課題ですか。それはどんなサービスに、結びついているのしょうか。重松 例えば、AsMama(アズママ)というサービスがあるのですが、子育てのシェアのようなイメージです。なぜそのサービスが出てきているかといいますと、昔は日本にも家政婦さんは比較的多かったのですが、最近はあまり見かけなくなりました。子供は女性が、奥さんが育てるもののような、そんな社会規範が家事代行のようなものを普及させていたのですが、それを埋めるサービスとして、AsMama が伸びています。ANYTIMES(家庭の困りごとを近所の人に手伝ってもらうためのマッチングサイト)さんもそうです。

シェアをどう組み合わせるかビジネスの可能性

─── 重松さんは、シェアリングエコノミーの旗手としてシェアリングエコノミーに抵抗がある既存業界の人々にどういうメッセージを伝えたいですか。重松 協会としては、シェアリングエコノミーというのはヒトの経済行動といいましょうか、経済のトレンドだと思っています。25 年ほど前にインターネットの登場が生活を変えたように、シェアリングエコノミーが出てきて、今までそれぞれ需要と供給がわからなかったものがどんどん見える化されていって、N 対 N でどんどん繋がっていくわけです。個人同士が繋がっていく。そういう仕組みができて、その中で、ユーザーレビューが蓄積したり、保険の制度が整ってくることで、より安心・安全なインフラになっていくはずです。なので、まず、その仕組みをどう既存業界に入れるか、その仕組みをどううまく使ってビジネスをしていくかと、切り替えた方がいいですよね。─── 私はフランス人で、フランスのマーケティング絡みの仕事も入っておりますが、日本で東京海上日動火災が、「ちょいのり保険 ( 一日自動車保険 )」を出していますが、フランスでも似たような例がたくさんあります。車のライブエコノミー、ライブシェアリングに関して、シェアのレンタカーも普及しています。「ちょいのり保険」と同じような発想で、シェアリングエコノミーとうまくリンクして、既存のビジネスを展開させていくような動きは出ていますか。重松 いま、保険会社とお話をさせていただいておりまして、彼らはビジネスチャンスととらえて新しい保険をまさに作っていこうとしています。大手の企業も、どうシェアリングエコノミーを取り込むかということを考えはじめています。民泊でいいますと、セコムさんやアルソックさんもリリースを出していましたし、オリックスさんなど

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TOP INTERVIEW

も参入してきています。あと、HIS さんなどの旅行業界からも注目されていますね。そこで啓蒙活動の一環として、リンクアンドモチベーションさんとイベントや企業の研修などを一緒に企画してやっています。まさにこれから、出張シェフのサービスや民泊など、様々な取り組みをしていこうというところです。─── 出張シェフは面白いですね。ご存知ですか、フランスではテロ事件以降、外で食べることに対して皆かなり引いて、それぞれのレストランが出張シェフや出前のサービスをやるようになり、それが非常に普及してきました。フランス人にとって、今までそういうものがほとんどなかったのですが、テロによって、いつ、どこで、どんなふうに事件に巻き込まれるかわからない、だから自宅で食べよう、という風潮に変わってきています。しかし、フランス人には自宅で食べるということは、よく友達同士でもやりますが、料理をつくるのはなかなか難しいというか、めんどうくさい。だから、最近では出張シェフや出前が、非常に伸びているのです。重松 日本のレストランって、子供を連れて行くことが難しいところが多かったりします。子供がいても、おいしいものが食べたいというようなときに、出張シェフのサービスを利用して、自宅で料理をつくってもらえれば、子供が騒いでいても問題ないですし、車の運転もせずに済みますからお酒も飲める。 また、我々のスペースで非常に人気があるのが、キッチン付きのレンタルスペースなのです。どういうイベントで使われるかといいますと、仲間内のちょっとしたお祝い会とか、子連れでパーティなどです。貸し切りであれば、子供を連れて行って誕生パーティも可能です。自分の家でパーティをやると、皆が帰った後、片付けるのを自分でやらなきゃいけませんが、レンタルスペースなら、みんなで協力して片付けるというメリットもあります。─── 民泊については、結局どの方向にいくのか

と、ちょっと気になるところです。政府の方はなるべく民泊を許そうとしているのに、それぞれの地域にも制限があって、条例によっては更に規制があったりしますね。重松 そうですね。上乗せ条例があると、少々面倒かなと思います。本当は登録制くらいでいいはずなんですよ。あとは定期的にチェックが入ったりとか、プラットフォーマーサイドから報告をしたりといったような。それくらいでいいはずなんですよね。全部規制で管理しようというのは無理な話です。

シェアリングエコノミーを「体験する」まず、トライすること

─── 日本でシェアリングエコノミーの成功の秘訣はどこに有ると思いますか。重松 成功の秘訣は、早く経験を重ねることですね。PDCA をどんどん恐れずにまわしていくことです。とにかく、チャレンジする、とにかく体験の蓄積をどんどん増やしていく、ということが大事かと思っています。今、日本に「メルカリ」というサービスがあります。フリーマーケットの WEBサービスで、これもシェアリングエコノミーの1つといわれており、急速にシェアを伸ばしています。ある程度普及して使うユーザー数が増加していけば、シェアの概念が変わってくるのではないでしょうか。そうなれば、加速度的にますます広がっていきます。たぶんアメリカだと Uber がその入り口になったのではないでしょうか。一度使ってみて、これは便利だなとなると、ずっと使っていきます。ですので、メルカリのようなサービスがもっと増えていって、どんどん経験をさせ意識を変えていくことを早々にやるべきですね。─── 他に、メッセージとしてお伝えしたいことはありますか。重松 あとは、シェアリングエコノミーの面白いところは、個人にもビジネスチャンスが広がって

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新しい社会の仕組みの起動力

いくことです。それこそ場所さえあれば、主婦や学生たちでもビジネスができるようになります。このことは、いまの日本において大事なことだと思っています。 結局、現在の日本で何が問題かといいますと、人口が減少し働き手が減って、国内のマーケットがどんどん縮小していくことは明かです。しかし、シェアリングエコノミーをやることでビジネスチャンスが広がり、働ける人がどんどん増えていく可能性があります。働き手を増やすという面でも、シェアリングエコノミーはかなり日本の経済に貢献できるのではないか、という点は強調しておきたいですね。─── では、結論としてはシェアリングエコノミーをどう見ていけばいいでしょうか。重松 これはもう避けられない大きなトレンドですので、それをどう、うまく自分たちのビジネスに取り入れて新しいビジネスや仕組みをつくっていくか、というのを考えなければいけない段階にきていると思います。このトレンドはもはや避けては通れません。─── シェアリングエコノミーには大きな可能性があると思いますが、一方で、ある特定のシェアをするビジネスを見てみると、労働単価が下がってきていたりする例も見受けられます。シェアリングエコノミーが C to C の取り引きになるほど、個人間の競争というのは価格の競争なりやすいのではないでしょうか。そういう意味では労働力、モノの値下がりを引き起こす可能性もあるのではないでしょうか。重松 確かに単価が安くなっていくという現象はあります。以前メディアでもそういう論考が出ていました。しかし、プラットフォームの力が強くなってくると、プラットフォームサイドで逆の規制もできるようになります。ある限度を超えるとそれ以上価格を下げないような仕組みをつくることもできるようになってきます。また、行政と組んで、きちんとした制度をつくっていくこともでき

るようになると思います。─── 私はこれに関しては、需要と供給のバランスもまたすごく大事だと思います。というのは、民泊でいえば、今は非常に需要があるから、それに伴って家事代行などのサービスの単価は高くなっています。需要と供給をうまくマッチさせて双方にとって Win-Win の関係をつくるのもプラットフォームの役割かもしれませんね。重松 そういうことも含めて実際にやってみないとわからないことがたくさんあります。 シェアリングエコノミーは、カスタマイズの時代の象徴であり、つながりの時代の象徴だと思っています。従来のフォーマットで満足しなくなったユーザーがオリジナリティをもってカスタマイズできるプラットフォーム。そこで、意外な組み合わせの楽しさを作っていくのも大切な役割の1つだと思います。─── 自分でもいろいろとトライしてみたいと思います。本日は有難うございました。

◎ Interviewer エチエンヌ・バラール 本誌編集委員

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なぜ&どのようにフランス企業はシェアリングエコノミーの分野に投資するのか?

Case File

THE NEW SHARING ECONOMY

Text : マルティンヌ・グナッスィア

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フランスの大手グループ企業の< Uber 化現象>

 あらゆる全ての構造的イノベーションと同様に経済の Uber 化は、フランス国内に軽視できない対立を生み出している。というのも、この現象は、近い将来、消費のあり方、雇用の市場の定義をしなおすということにつながるからだ。 このような<経済の津波>とも呼べる現象に直面し、「この流れに乗るべきだ」「いや、そうではない」と、企業間で2つの意見に分かれている。 さて、私がこれから紹介しようとしているフランスのグループ企業の例を見ると、この分野に進出することは、その企業のビジネスを脆弱化させることもなければ、その企業のコアの事業を問い直すことにもつながらない。それどころか、総体のパズルに欠けていたサービスのピースを追加することにもなる。いずれにしても、消費者の新しい要求に共鳴を呼び起こすことができることがわかる。 実際、IFOP(世論・市場調査機関)の最新のアンケートによれば、インターネットを介して個人間で不動産やサービスの売買や貸し借りをすることが可能になるという観点でシェアリングエコノミーを採用する動きに対して、消費者の動向は好意的であるという。 フランス人の 74%が、このような買い物の仕方を利口であると考えており、72%がシェアリングエコノミーは近隣的な経済システムのイメージを媒介すると考えている。また、その中の 68%が人間味のある経済であると捉えている。 シェアリングエコノミーへの見方は、「束の間の流行」ではなく、フランス人の新しい消費・労働方法にしっかりと根付き、長く続くと考えられている。 この記事では、共有・シェアリングエコノミーの発展に対して、フランス人が好意的に感じている背景にあるいくつかの要素を説明し、共有・シェアリングエコノミーの分野に身を投じたフランス経済の主役達の体験した事例研究(ケーススタディ)

から得られた情報を伝える。

共有・シェアという新しい経済に対して好意的なフランス人の社会経済的かつ社会文化的背景とは?

 大容量ブロードバンドインターネットおよび、スマートフォンへの簡単なアクセスとジオロケーション技術の発展により、サービスを提供する企業とその顧客を直接結びつけるプラットフォームの出現が可能になった。 アクセスしやすく、便利で、カスタマイズしやすい上に、低コストのサービスを追及していくうちに、個人資産と時間を他の消費者とシェアできるこのプラットフォームに魅力を感じるようになっている。 それを裏付ける結果として Airbnb を紹介する。登録者数は最初の年に記録的な数に達し、市場としては米国に次いで第二位となり、25 億ユーロに達している。 冒頭で引用した IFOP の調査結果が示すように、シェアビジネスはフランス人の間で購買能力をあげ、かつ新たなる財源の発見を実現する利口な手段だと考えられている。 雇用市場が逼迫しているフランスは(就労可能な人口の 10%以上が、そして 25 歳以下に限ると20% 以上が失業中)、複数の副業(いわゆる、バイトやパートタイム)を持つことが定着する生活パターンとなる。より多くの現役労働人口、とりわけ若い世代は、2つまたはそれ以上の副業を掛け持ちするようになっている。 <スラッシャー>と呼ばれる人々は、アラカルトで自分のキャリアを好きなように選ぶ。複数の仕事をこなしながら、一人前のプロフェッショナルのキャリアを築いている。 個人事業主というスタイルはますますフランス人を魅了しており、URSAAF(社会保険の雇用者、被雇用者の負担額の調査機関)の調べによると、毎年9%もその人口は増えている。

THE NEW SHARING ECONOMY

Case File : なぜ&どのようにフランス企業はシェアリングエコノミーの分野に投資するのか?

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 その一方で、ラスベガスの CES(Consumer Electronics Show)では、「ベンチャー企業が最も発展している賞」を受けたフランス。中間業者を取り除き、財産、時間、専門的能力を持つ人と、それらを必要とする人を結びつけるビジネスを始めた多くのベンチャーが成功している状況が垣間見えた。 人の運搬、レンタル業務、配達、リース、行政業務、クリエイティブ業務などなど。この発想は、ほぼ全ての分野において、すごい速さで勢力を広げ成功している。

大企業とベンチャー企業との提携

 フランスの大企業は、提供するサービスを見直し、最適化する必要性を感じつつ、ベンチャー企業のようなフットワークの軽い企業とのパートナーシップ協定の獲得を進めている。 ベンチャー企業は、開発費として高額の財政支援を得ることができる。フランスの大企業は自社にないスキルで、自社開発しようとするとあまりに複雑であるまたは、長い時間がかかる技術を組み込むことができる。創造性と「テスト・アンド・ラーン(試しながら学ぶ)」精神がある意味でグループ企業の開発ラボの一部になりつつある。両者にとって Win-Win の影響を与え合えるということである! INCAPSULE BY IFOP は、フランス経済における大きな役割を担うシェアリングエコノミー の方針からインスピレーションを得たアプローチの仕方を読み解いた。

ケーススタディ

 フランスの大手企業が<シェア>という今までに無かったパーツを現行のビジネススタイルに付け加えることで、消費者のニーズに答える企業であるというポジションを守りつつ、他社との競争で勝ち抜こうとしている例を紹介する。

 Maif:保険業社として、15 社以上のシェア・プラットフォームをサポートし、新しい保険サービスの提案は控えめに用意しつつ、新しいタイプの消費動向に対してシェア企業を活動する。 保険業社は、フランス人の消費動向が変わりつつあり、物の所有から物の使用に対して今後はニーズが変わることに気づき、保険の種類の拡大を決定した。 2011 年より、Maif 社は家を交換したい個人間の間を仲介するベンチャー企業 <Guestoguest>に 400 万ユーロ投資することに決めた。(現在この企業に、87 以上の国籍と 89,000 件に及ぶ住宅が登録している)。そして、2014 年には更に 260万ユーロを Koolicar(鍵の交換をせずに出来る個人間の車のレンタル)の資本に参入するために投資した。 Maif社は、さらにシェアビジネスに介入し続け、その他のシェア・プラットフォームに参入する。たとえば、Airvy(キャンピングカーをレンタルするプラットフォーム。フランスには 350,000 台ものキャンピングカーが、年に 8 週間しか稼動していない)または、BabyLoan(個人から企業家への貸付をするクラウドファンディングのプラットフォーム)などがある。このアプローチをすることで、シェアリングエコノミーの活動家として、またこの分野にいち早く参画し根を下ろしたという個性をはっきりと示すことになった。

 Mr. Bricolage、ホームセンターの大手であるミスター・ブリコラージュは、所有することよりも利用すること自体に対してお金を使いたいという新

THE NEW SHARING ECONOMY

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しい消費の欲求のトレンドに対して、投資し、個人間で日曜大工の道具を交換できるプラットフォームを開発した。 商品の旧式化傾向にあるなか、個人が毎回新しい道具を買うよりも、必要な時に必要な道具を貸し借りし合うことを好むようになった。 このようなちょっとしたサービスのやりとりや道具のシェアに対するトレンドに直面して、Mr Bricolage 社は、La Depanne.fr という名前のコミュニティーサイトを立ち上げた。このサイトにより、新しい電気ドリルを買う代わりにご近所さんの電気ドリルを借りることができるようになった。経済における Uber 化現象の巨大な波に対抗することは不可能であるということを察知し、いち早く新しい世代の顧客のニーズをキャッチし適応することで、企業理念への好感度をアップさせることに成功した。Mr Bricolage 社の大工道具の販売というコアビジネスの売上が下がらないように、このコミュニティーサイトには控えめなテイストで小さなロゴを入れていることに注目すべきだろう。

 フランス国有鉄道の SNCF は鉄道輸送業を独占しているが、さらに参与型経済において強烈な存在感を示し、移動・交通部門のマークになるべくベンチャー企業とアライアンスを組んでいる。 注目すべきケースをいくつか紹介する。駅から駅までだけで終わるのではなく、旅行のスタートから目的地までの交通機関のソリューション提供の普及をするために、まず、ラストワンマイル輸送サービスの開発をした。 SNCF は、特にイル・ド・フランス地域(パリを中心にその周辺の地域)の<ラストワンマイル>の輸送をスムーズにするニーズに答えるべくIDVroom という名の子会社を設立した。ウェブサイトとアプリを無料で利用することができるこのサービスを使うと短い区間で移動したい人と自分の所有している自動車の空いている席を生かして、ガソリン代など維持費を軽減したいと願うドライバーを結びつけることができる。 このサービスは特に自宅から駅までの間の移動するのに便利だ。この「乗り合い自動車サービス」

Case File : なぜ&どのようにフランス企業はシェアリングエコノミーの分野に投資するのか?

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はイル・ド・フランス地域の鉄道網の始まったばかりの大規模工事に不満を持つユーザーのニーズに答える。ローカル線の小規模の路線の削除対策になればと SNCF が期待している。我々は、クライアントに、より快適で心地よいサービスを提供し、今現在は理想的な解決策がないクライアントに対して、この素晴らしいラストワンマイル(駅と自宅の間の)サービスを提案したいと考えている。 そして、TGV Pop で SNCF は予約 2.0 で機能するラストミニット購入サービスを新たに導入した。

 Blablacar はヒッチハイク 2.0 ともいえる新サービスで、ここ数年フランスを始め、注目されているシェアリングエコノミーの代表サービスの 1 つ。スマホのアプリを利用して、同じ出発地域と同じ目的地に行く利用客と車のドライバーをマッチングさせる仕組みだ。燃費代の一部負担だけで利用者がドライバーと一緒に長距離の目的地までたどり着くことができて、ドライバーにとって車の維持費はもちろんだが、人との出会いも楽しめる。昔はやっていたヒッチハイクの発想に似ていることが人気の秘密だ。 だが、急成長した Blablacar の普及により、SNCF 社は 2015 年に 100 万人のユーザーを失い、80,000 万ユーロの減収となった。この数字が総売上高の 4%にしか満たないとしても、SNCF 社はニーズに答えるサービスをリリースすることに決めた。SNCF 社は TGVpop という名前のサービスをリリースした。このサービスを使うと、ユーザーはラストミニュットに 25-35 ユーロという格安の値段を計画することができる(この値段はBlablacar に近い)。

 簡単にいうと、POP 電車が出発するには投票数が相当数なければならない。旅行者は、自分が乗りたい電車が出発する姿を見る確率を最大限にしたいのならば、選択した行程を最大限シェアしなければならないのである。SNCF グループ社はシェアリングエコノミーの分野で結果を出しているベンチャー企業に対抗しうるオファーを提案するためには、2.0 マーケティングの分野に巨大な投資をする必要があることをよく理解した。2015年 6 月に開業したこの解決策は SNCF 社の機能と完全に断絶したモデルという意味で注意深く監視されるべきだ。

 RATP 社、パリ市交通公団がベンチャー企業と手頃な値段で開発した ZenBus アプリを使ってバスの到着時刻をリアルタイムで乗客に知らせる。 パリ都庁、周辺の市役所と交通機関と共に、パリ市交通公団は 2011 年にベンチャー企業 JOUL 社に投資して、ZenBus という名前のアプリケーションを共同開発することを決めた。 アイディアとしては、バスのドライバーが持っているスマートフォンの位置情報に基づき、GPSのアプリを使ってどんなバス停にいても居場所がわかるようになる。 これにより利用客は町の地図上、自分が乗ろうとしているバスをリアルタイムで追うことができ、日々の移動をより落ち着きのある、正確なものにする。 アプリケーションは簡単に発揮することがで

THE NEW SHARING ECONOMY

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き、コストも安くすみます。なぜなら、輸送交通会社の SIV(旅行者情報システム)タイプを使う際に必ず必要なソリューションに対して投資する必要がないのだ。SIV をインストールするとなると複雑で値段も高くつく(バス一台あたり 5 〜 10 000 ユーロかかります)。ベンチャー企業の JOUL社はその後で他の輸送交通会社とパートナーシップを組み、イル・ド・フランスと郊外を結ぶ交通網サービス開発をすることができる。

 保険業界のリーダー、Axa 社は、Blablacar システムに対して、<目的地への到着保障>という保障をつくったが、これは乗り合い自動車のプラットフォームを使う人のためにつくられたものである。 2015 年、AXA はヨーロッパの「乗り合い自動車」のリーダー企業にシェアリング旅行をする際にユーザーにより信頼性が高いサービスを提供することで AXA 社のオファーをより強く勧める

Case File : なぜ&どのようにフランス企業はシェアリングエコノミーの分野に投資するのか?

事を決める。AXA 社が提供する新しいオファーとは<目的地到着の保障>という名前で、例えば途中でパンクが起きたとしても、ドライバーと同乗者が目的地に到着することを保障するものだ。AXA 社のパートナーシップにより、Blablacar は、例えば自動車の牽引、ホテルの宿泊費、人を目的地まで無事に届けるなどして、予定された旅行を保障することができる。パートナーシップ協定には、ドライバーが疲れた際には同乗者にハンドルを任せることができるという画期的なサービスも含ま

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れています。損害が生じた際は、AXA 社がドライバーの被保険者負担額の払い戻しをする。 Driiveme社のサービスを利用するとレンタカー会社(Avis, hertz, Europcar など)の代わりに個人に貸した車をピックアップしてくれるため、経費節約をすることができる。 人がレンタカーを借りてどこかにたどり着くと、レンタカー屋が会社の負担で車をピックアップしにいかなければならない。民間の輸送会社にコンタクトして取りに行ってもらうか、自社の社員を現地まで送り込まなければならなかった。これにかかる経費は何百ユーロにもなり、多くの時間を費やしていた。ベンチャー企業の Driivemeは、レンタカーを取りに行かなければならないレンタカー屋と低価格で移動する手段を探している個人を結びつけるサービスを提供している。

 Incapsule by Ifop は、大手調査会社 Ifop 社の分子であり、消費トレンドと想像性を活性化させるマネージメントのコンサルティングを中心に業務を行っている企業だ。 トレンド特集、未来予想ノート、トレンドツアーなどにより、Incapsule は有益なサインを掴みとり、分析し、構造化します。それらが明日、ブランドにとって競争力を高める強みとなる。 イノベーションの動きのプロトコールのなか

THE NEW SHARING ECONOMY

に、InCapsule は共同作業アプローチの実践を生かしながらクライアント企業内に新しいアイデアを生み出し、新しい概念を定着させるコンサルティング会社です。このプロセスを通じて、クライアント企業が社内で想像力を高めることができる。 InCapsule は、親会社 Ifop 社と同じ価値観を持ち、データソーシングとアドバイスの正確さを重視している。InCapsule は注目している国々のローカル支部に拠点を置き、独占的なトレンドハンター網に基づいて最新情報と分析をクライエント企業に提供している。

筆者 : マルティンヌ・グナッスィアInCapsule by ifop 社の共同創立者兼所長

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FEATURE

シェアリングエコノミー次世代のビジネスヒント

Jugaad に学ぶ

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FEATURE 次世代のビジネスヒント

ことで、供給量が圧倒的に増えただけでなく、サービスの質も向上したことがシェアリングエコノミーを大きく成長させた理由である。米調査会社によると、従来型レンタルサービスとシェアリングエコノミーの市場規模は、2013 年でそれぞれ24 兆円、1.5 兆円の合計 25.5 兆円が、2025 年にはそれぞれが 33.5 兆円の合計 67 兆円と、「所有から利用」への動きが大きく加速し、レンタル市場そのものが 2.75 倍になる内、シェアリングエコノミーが 20 倍以上成長すると見られている(図 1)。

Text 加藤 雅己

シェアリングエコノミーとは 昨今、日本のメディアでも配車サービスの

「UBER」や、民泊サービスの「Airbnb」などの米国シェアリングエコノミー企業が取り上げられるようになってきた。それら企業の急成長スピードもさることながら、既存事業者との軋轢や規制に対するグレーゾーンの議論になりがちだが、本稿ではシェアリングエコノミーが持つインパクト、それらが普及した要因、最先端の事例をいくつか取り上げたい。 総務省の白書によると、シェアリングエコノミーの定義は、「個人が保有する遊休資産(スキルのような無形のものも含む)の貸出しを仲介するサービスであり、貸主は遊休資産の活用による収入、借主は所有することなく利用ができるというメリットがある。」とされている。事業者が行うレンタルやリースサービスの歴史は長く、多くの読者もレンタカーや DVD レンタルなどを利用してきたかと思う。ここに一般人の供給者が加わった

シェアリングエコノミーは 成長するか !?

FEATURE >> Case sutudy

図1

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Sharing economy

車の事例:「所有から利用」へのシフトは止まらない 2009 年に創業した配車サービスの UBER は、2016 年 4 月時点で 1 兆円以上の資金をベンチャーキャピタルから調達し、その企業価値は 7 兆円以上といわれている。この額がいかに凄いかというと、UBER を上回る時価総額を持つ自動車メーカーはトヨタ、ダイムラー、フォルクスワーゲン、BMW の 4 社しかいないということになる(図 2)。そのユーザーは全世界で 1100 万人、ドライバーは60 万人ともいわれている。 筆者も米国出張の時に UBER を利用するが、その便利さに毎回舌を巻いている。日本から持ち込んだスマホで配車を頼んだらものの 2 分で目の前に車が到着。予想以上に小綺麗な車に乗り込んだ後は、事前に設定されたルートで目的地まで向かい、到着したらチップの計算や小銭を出すこと無くキャッシュレスで決済される。料金はタクシー同等だが、UBER Pool という他ユーザーとの相乗りサービスを利用すれば半分程度に下がることもある。この感動は実際に利用しないと分からない部分も多いが、今の話の中には車だけでなくシェアリングエコノミーが普及するために必要な要素がいくつか隠れている。

シェアリングエコノミーの普及に必要な前提条件 様々なシェアリングエコノミーサービスを見ていると、共通項が多いことに気づく。それらを列記してみよう。1)スマホの普及 世界的に普及したスマホだが、筆者が 10 年前に

モバイルアプリを開発していたときは、各キャリア専用のアプリを作るばかりか、端末ごとにアプリのカスタマイズ・評価を行い大変な時間とコストがかかっていた。 それが今や、iPhone と Android 向けのアプリを作ってそれぞれのストアに登録すれば、あっという間に全世界のユーザーに同じサービスを届けることができる。実際シェアリングエコノミーは都市ごとにコミュニティー開拓を行う必要があるが、アプリ開発を一元化できるのはグローバル規模で普及を進めるための重要な前提条件である。2)相互評価システム 「知らない人の車に乗りたくない」、「知らない人に家を貸したくない」といった不信感は誰しも持っている。この点を克服したのがユーザーと供給者が互いを評価するシステムである。UBERの例でいうと、目的地で車を降りた直後にアプリがドライバーの評価を求めてくる。評価は 5 段階だが、現地の人の話だと平均が 4.85 あたりを下回ると配車リクエスト頻度が下がるという。逆にドライバーも同様に客を評価しており、乱暴な態度の客には車が来なくなる。レビューサイトでは当たり前になった評価システムを応用することで、シェアリングエコノミーのボトルネックである不信感を克服しているのだ。3)決済や地図など、ツールの普及 シェアリングエコノミーサービスの利用を阻むペインポイントを簡単に克服できるツールが数多く・低コストで利用できるようになっている。キャッシュレス決済も、アプリに数行のコードを埋め込むだけでクレジットカード決済ができるSprout のようなものから、Google の地図・ナビ機能が、当たり前のようにアプリ内で使われている。これらツールや API(アプリケーションインターフェース)の普及がシェアリングエコノミーの影の立役者であることは間違いない。4)ユーザー・供給者双方の「慣れ」 日本ではまだまだシェアリングエコノミーが一般的でなく、今一歩利用に踏み込めない方が多いと思う。これは米国でも同じで、数年前までは今ほ

図 2

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FEATURE 次世代のビジネスヒント

ど UBER や Airbnb が当たり前に使われていなかった。これはひとえにユーザーが慣れたといってしまうと身も蓋もないが、一度サービスを利用し、利便性がわかり、不信感が薄らぐと同様のサービスに対する心情的ハードルは相当下がる。これはユーザーも供給者も同じであり、新規サービスが出るたびに「ああ、UBER の XX 版ね」と一瞬で理解し、積極的に利用する状態になったことが、今後のシェアリングエコノミーサービスの普及を後押しするであろう。

米国シェアリングエコノミー最新事例 これまでの話を踏まえて米国の最新事例を幾つか紹介しよう。どれも前項にある「型」を踏襲しており、その上に独自性を打ち立てようとしている。1)毎日の買い物代行「InstaCart」 日常アイテムや食材の買い物は、低単価ながら高頻度で行われる面倒な家事の代表である。ここに目をつけたのが創業 5 年目の InstaCart だ。結果から言うと、2012 年の売上 1 億円から、2013年が 10 億円、2014 年が 100 億円と急成長を遂げているベンチャーである。仕組みは UBER と同じだが、ユーザーがアプリで買い物アイテムを選んでオーダーすると、近くのドライバーたちにリクエストが出る。ドライバーはアプリの地図に導かれスーパーに行き、商品を買い、ユーザー宅まで届ける仕組みだ。 ここで興味深いのが彼らのビジネスモデルだ。ユーザーから4〜10ドル程度のデリバリーフィー

加藤 雅己 (かとう まさみ)NetService Ventures パートナー・日本代表ソニー株式会社、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て 2007 年現職カルガリー大学商学部、INSEAD MBA

が徴収されるが、場合によってはスーパーから「実売価格データベース接続料」を徴収している。通常リアル価格は分からないので、平均的な市場価格から 20%程度上乗せされた価格が表示される。ところがスーパーが実売価格データベースをInstaCart に接続すると、実売価格店舗という形で紹介される。当然ユーザーは実売価格の店舗を選択するので、集客が良くなる仕組みだ(図 3)。2)犬のお散歩代行「Wag!」 愛犬の散歩もなかなか手間がかかる作業だ。独身や共働きだと犬が一匹で家にいることが多くなり、運動不足、トイレ、騒音など悩み事はつきない。このようなシンプルかつリアルな悩みを、近所に住む人間を使って解決したのが 2014 年に創業した「Wag!」だ。まだまだ未知数な部分が多いベンチャーだが、創業の地ロサンゼルスでトライアルを行った後、サンフランシスコ、ニューヨーク、シカゴなど 19 都市に急展開している今後が楽しみなベンチャーだ(図 4)。 現在爆発中のシェアリングエコノミーだが、課題もある。先日の出張時には、「昔ほど儲からなくなった」と多くの UBER ドライバーがぼやいていていた。今後の展開が気になるところだが、一度使ったユーザーは病みつきになるほど価値は証明されているので近い将来エコシステム全体が継続的に発展するようになることを期待している。

図 3

図 4

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Sharing economy

Text 吉田 けえな

 「Uber( ウーバー)」とは、IT 関連の仕事に携わる人は知らない人はいない、シェアリングエコノミーを代表するスタートアップで知られる自動車配車ウェブサイト及びアプリである。現在 NY に住み、アメリカ国内及びヨーロッパや日本を行き来しながら生活する私にとって Uber アプリは出張に欠かせない存在になっている。日本でも 2014年 3 月に本ローンチしているが、タクシーサービスのクオリティが高く安定している為か、金額が高いこともあるからか一部報道で取り上げられてはいるものの、一般にはあまり知られていないということを日本出張時に知り驚いた。もちろんホライズン読者の方々は知っているだろうし、出張時に使用している人も多いと思う。後発の Lyft、NY では Gett など追随サービスも出てきているなかでサービススタートから 7 年で時価総額 520 億ドルを超える Uber。Uber の人気の秘密と共に、インバウンド需要で日本でも拡大するだろう需要について今回は使用実例と共にご紹介する。

 Uber の登録方法及び使い方は非常に簡単、まずはスマートフォンでアプリをダウンロードし、名前やメールアドレス、電話番号、クレジットカード情報などを登録するだけである。あとはネット接続環境さえあれば、世界 54 カ国 250 都市以上で使用可能になる。さらに利点は Google Map とも連動していることでもある。これまでは Google Map に行き先をいれると、電車の乗り換えルートの 1 番下に写真 1 のように、広告で Uber の概算見積もりがでそれをタップすると Uber アプリが起動するという形式だったが、現在ではさらに進化し、写真 2 のようにルート検索の時点で車、電車・バス、徒歩、自転車に並び、広告で Uber ルートと各クラスの簡易見積もりが表示されるようになった。車のランクを決め、タップすると乗車場所を設定をタップするだけでドライバーが迎えにきて、ドライバーが私の名前を確認後、後は目的地まで運んでくれる。Uber の登場により英語やその他の言語が話せなくても、世界の主要都市であれば簡単に目的地にたどり着くことを可能にしてくれた。 私自身は日本に帰ると Uber よりタクシーを使

Sharing economy

Uber の利用の仕方と 見習うべきポイント ?

FEATURE >> Case sutudy

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FEATURE 次世代のビジネスヒント

用する機会が多いが、流しているタクシーの数が多いことと日本語が話せるからである。英語を含めた外国語に対応する運転手が少ないだけではなく、NY やパリ、ロンドンと違い、未だナビを搭載しない車があったり、運転手に伝えただけでは目的地にたどりつくのが困難な日本の住所配置の規則性からナビに入力が必要になることを考えると、この GoogleMap と連携したサービスの利便性は外国人観光客にとってなくてはならない存在だろう。 さらに Uber の凄まじい勢いの進化は、各都市毎に必要な属性に対応している点だ。例えば、自転車フレンドリーな街として知られるポートラン

ドに行った際のことだが、Uber Pedal という見慣れない表記を目にした。そこで調べてみると自転車を載せるラックがついた Uber をリクエストできるサービスで、シアトル、ポートランド地区にローカライズされたサービスだった。NY ではタクシーが呼べる T というサービスや Pool という乗車エリアと目的地のエリアが近い人たち同士がシェアして安く移動できるサービスや Rush と呼ばれるメッセンジャーサービス、さらに、LA などでは Access という車椅子など追加のサポートが必要な方に対応するサービスもはじめている。 全世界で規制違反やドライバーによる犯罪等が注目を集める一方、Uber 創業のきかけが CEO のトラビス・カラニック氏がパリでタクシーを捕まえるのが困ったことだったように、GoogleMapと連携することでより簡単に利用しやすくしたり、既存サービスに加え都市毎にこんなことができれば助かるというサービスを次々取り入れたり、利用者が運転手をダイレクトに評価したりと、利用者視点でのサービスを改善しようとする姿勢が垣間見える。この顧客視点でサービスが考えられている点が、各国で法律や規制と戦いながらも、スタートからわずか 7 年で世界 54 カ国 250 都市で展開する勢いに繋がっているのではないだろうか。2020 年に向け訪日者の増加を考えた時や、各都市や各国での展開を考えた時に Uber の手法から学ぶことは多いと感じる。

吉田 けえな (吉田 けえな) NY U.S.A. 在住。ファッションコーディネーター& マーケティングディレクター。マーケティングホライズン編集委員

以前は左の写真 1 のように下に広告が出て、それをタップ後、Uber アプリ内でクラスを選択する必要があったが、現在はルート候補の時点で Uber の項目が登場し、そこでクラスまで選ぶことが可能になった為、Uber アプリ起動後は乗車場所を設定をタップするだけで、Uber がピックアップにきてくれる

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Sharing economy

 シェアリングエコノミー元年といわれている2016 年だが、最近のマスコミには、Airbnb やUber を中心とした「黒船」が日本の「穏やかな」ホテル業界とタクシー業界のビジネス環境をやっつけに来たのではないかと懸念する一連の記事が目立って来た。しかし、シェアリングエコノミーは果たしてそれだけなのだろうか? この思い込みを解消するのに、もうすでに日本国内に存在しているサービスを利用している架空の人物「トモアリ(共有)さん」の一週間を想定してみた。 トモアリさんはフリーのデザイナーであることにしよう。彼は 35 歳で、妻、共子さんと、3歳の男児有太郎くんと一緒に東京練馬区の1LDK のマンションで暮らしている。犬の黒丸もいる。トモアリさんは、CrowdWorks を通じて仕事の依頼を受けている。そのサイトに、デザインを必要としている企業が詳細を載せて注文を受けてくれるデザイナーにアピールし、一般公募している。クライ

アントがオンラインですべての要望や条件などを書き込んでいるので、無駄な打ち合わせなく黙々と本番作業に集中できる。クライアントとデザイナーが CrowdWorks のプラットフォームを通じて結ばれるので、仲介手数料をあっさりといただく代理店を関与させなくても済む。Crowdworksにはデザイナーだけではなく、カメラマン、ビデオ編集者、ライター、翻訳者などのクリエイター、税理士や弁護士などの士業をしているプロもたくさん登録している。ヤマハや TBS といった大手クライアントも利用しているようだ。

 共子さんは OL で、育児休業をとってから出版社での仕事に復帰した。仕事柄残業も多くて、トモアリさんが自宅で仕事していないときには、AsMama を通じて、有太郎くんを近所の知り合いのお母さんに世話してもらっている。AsMamaは子育てシェアを専門にしているサイトで、同じ園や学校に通うお母さんやお父さん、もしくは顔見知りの友達とつながって、子供の送迎や託児を頼り合うサービスだ。僅かな謝礼で(一時間当たり

Text エチエンヌ・バラール

「シェアな生活」で 人生の可能性を伸ばすコツ

FEATURE >> Life style

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FEATURE 次世代のビジネスヒント

500 円など)、前もって予約するか、突然用事が出来たときにも利用できる。万が一のことを考えて、AsMama を通じて依頼をした場合、事故の時に保険が適用されるという安心な仕組みになっている。また、周りに登録しているママ達の知り合いがいなければ、託児研修を受けた「ママサポーター」という世話役の人々が各地域にいて、いざとなったときに依頼もできる。見知らぬ人にサイトから案内が行かないように工夫されているので、共子さんは安心して有太郎くんの送り迎えを頼んで、自分のキャリアにもバリバリ集中できるスーパーママになった。 子供が生まれた時、トモアリさん夫妻は軽自動車を購入した。満員電車でベビーカーを押すのはとても耐えられないという共子さんの強い要望だった。しかし、有太郎君が近所の幼稚園に通う様になってから、使用頻度は激減。 せいぜい、山梨に住んでいる彼女の両親を訪ねるときぐらいだろうか。車はマンションの駐車場

に寝ていることが多くなった。当初思ったより、車をあまり使わないと気づいたトモアリさんは所有車のランニングコストにおびえて、手放そうと提案したが、妻の共子さんは大反対。そこで、妥協案として、トモアリ夫妻はその車を Anyca のサイトに登録した。これは、個人が愛車を登録ユーザーに短期貸し出しする仕組みで、Anyca を通じてオーナーが自車を使う予定のない日をカレンダーに記載し、日にちが合えば安く借りられる様にユーザーとマッチングするサービスだ。つまり「車のAirbnb と考えれば良いだろう。Careco やタイムズプラスの様なカーシェアリング企業と違って、Anyca の場合個人同士が交渉しているので、返却時間に多少の融通が利いたり、なかには喫煙 OK、ペット OK というオーナーもいる。トモアリさんもその一人。普段から愛犬の黒丸を車に乗せているので、Anyca のサイトにもペット OK(ケージ内という条件で)と記載している。Anyca は東京海上日動火災保険のちょい乗り保険と組んでいる

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Sharing economy

ので、万が一の時に利用者がかけた一日保険でカバーされるのだ。月に8日間ぐらい車をこうやって貸しているトモアリさんは、一日 2500 円で換算して毎月 2 万円弱を稼ぎ、車の所有コストを抑えられるようになった。 山梨のご両親も電車が苦手で、孫の顔を見たいときには車で上京するが、トモアリ夫妻のマンションには駐車出来ないため困っているのだ。幸い、余っている駐車スペースを Akkipa で貸しているオーナーが近所にいて、訪問が決まったら、滞在期間中だけの駐車スペースを一日 540 円という格安価格で確保している。Akkipa は、スマートフォンアプリを通じて駐車の空きスペースを提供するオーナーと一時的に借りたい人をマッチングするサービスで、企業が運営しているコインパーキングよりは安くすむ上に、行動予定に合わせて事前に予約することができる。 トモアリさんは 料理が全くできない男だ。共子さんは年に数回九州の支社に出張をせざるを得ない。その際、出張日数分の夫と子供の分の料理を前もって作って冷凍しているが、間に合わない時にAnytimes の料理代行サービスに依頼する。料理に自信のある「サポーター」が予算内に人数と好みに合わせて食事を自宅に作りに来てくれる。依頼すれば掃除もしてくれるので、 共子さんは安心して出張に出かけられる。 フリーターや単発バイトをしたい主婦は、特技と空いている時間帯、希望時給を Anytimes のサイトに記入するだけで、そのサービスを受けたいユーザーとマッチング出来る。手伝いのジャンルによって違うサポーターに依頼できるので、気軽に自分が間に合わない物をその分野の得意な人に助けてもらえる。代行サービスの項目には、イケアの家具組み立て、部屋の修理、排水パイプのクリーニング、ペットシッター、買い物代行、語学レッスン、名刺整理など、たくさんの「面倒くさい仕事」があり、地域毎に代わりにやってくれる人々を探せるようになっている。 来月結婚 5 周年を向かえるトモアリ夫妻は、久しぶりに友人を呼んで盛大な記念パーティーを企画している。貸し切りレストランという手もある

のだが、共子さんの友人に料理研究家がいるので、彼女にビュフェスタイルの料理を準備してもらおうとしている。40 〜 50 人を収容出来るスペースを探していたトモアリさんは Space Market でぴったりの場所を見つけた。キッチン、グラス、食器類、そしてピアノとドラムセットが常設され、プロジェクターや音響設備も完備されている。新宿四谷にあるこのイベントスペースは食べ物も飲み物も持ち込みOKで、一時間 2500 円で借りられる。これなら、学生時代のバンド仲間と楽しい時間を思う存分過ごせるはずだ。 Space Market は個人や企業利用で、「余っているスペース」に改めて需要を見いだしているサービスで、撮影ロケやパフォーマンス会場を探すにも便利だ。 シェアリングエコノミーを徹底的に活用しようとしているトモアリさん夫妻は、こうやって賢く自分のニーズに合わせていろいろなサービスに登録している。 かつては近所付き合いで自然にお願いできたことを、今ではスマホのマッチングサービスに頼るようになった。 企業は、こういうニッチ市場のニーズを無視したり、または高額な料金設定にし、結局富裕層にしか使えないサービスにしてしまう。その点シェアリングエコノミーは、基本的に個人個人の需要と供給を仲介業者なしに瞬時にマッチさせる仕組みであり、これで助かるユーザーは日々増えているのだ。

AsMama : http://asmama.jpAnyca : https://anyca.netChoi Nori : http://www.choinori-jidousya.jpAnytimes : https://anytimes.co.jpSpace Market : https://spacemarket.comCrowdworks : http://crowdworks.jp Akkipa : https://www.akippa.com

エチエンヌ・バラールフランス人ジャーナリスト。1964 年生まれ。パリ第3大学東洋語学院卒。「ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール」誌の特派員として 1986 年に来日。以来日本発のレポートを送りつづけている。本誌編集委員

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FEATURE 次世代のビジネスヒント

 アメリカマーケティング協会(AMA)の機関誌マーケテ

ィングニューズ誌の2016年2月号が到着。”データ分析特集“と本号を位置付けており記事、論文にビッグデータ時代のデータ分析能力、マーケターに求められる新しい視点、課題、活用法を論じるものが目立つ。IBM社が開発したワトソンと呼ばれるデータ分析のプログラムに焦点を当てた活用法の紹介記事もその一例。 常連寄稿者のシュルツ博士はマーケティングの環境変化で既存のマーケティング・コンセプトが役立たなくなっていると警鐘を鳴らす。マーケティングにパラダイム転換が起きているようだ。いつものように独断と偏見で日本のマーケターに参考になる記事を選んで紹介する。 本号の中心課題“データ分析”で取り上げられているのが前述のIBM社が開発したデータ分析ソフト“ワトソ

ン”とよばれる人工知能。日本では人工知能が将棋の名人と対戦し勝利した話が話題になったがこのワトソンはアメリカでジェオパディート呼ばれるTVのゲームショウで挑戦者と競争、勝利し一躍注目された。このワトソンは人工知能で英語の会話も理解、データ分析に卓越しマーケターに特別の分析スキルと情報を付与すべくマーケター用に開発されたプログラムとして本誌では紹介。TVショウで話題になったこともあり、アメリカではマーケターの間で注目されているという。 このワトソンの特徴はマーケティングの専門家や博士号を持った分析者が専門的に使用するのではなく誰でもどこでも顧客と個別に対応し顧客のニーズ、欲求に応えすることができる容易性が売り物。専門的な知識がなくても身近で、容易に活用できるこのワトソンの出現はビッグデータ時代のマーケターに有力な新兵器を提供し、マーケターの役割も大きく進化させるものだという。 本号の面白注目記事 スモールビジネスのマーケティ

ングイノベーションと呼んでもよいのかもしれない面白いビジネスの仕方。ニューヨークのソーホー地区のパン屋さんが売り出したクロナツ(クロワッサンとドーナツのハイブリッド製品)が人気を呼びこの商品を求めてなんと毎日2時間待ちの行列ができるという。この製品はシェフのドミニク・アンセルさんの発明品。 2013年の売出し以来、評判になり、ニューヨークタイム

MARKETING NEWS

★ TOPICS★

ズ誌は2013年のイノベーション製品の一つに選び、国際的にも知られるようになり、東京に進出し日本でも話題となった。成功の戦略はユニークな製品の提供、お客さんに立場になる→お客さんに奉仕するということ。行列して待つお客さんに対しサービス品を配る、飽きさせない、おもてなしの心。メディアに取り上げられるようにする気配り。アンセル氏はユニークであること、トライすることを恐れない、熱意の発揮が重要だと強調し顧客を理解することの重要性も説いている。 シュルツ博士の警鐘 ノースウエスタン大学教授でマ

ーケティングコミュニケーション理論の著名学者のシュル

ツ教授はセグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングを包括する概念STP理論は1970年代に登場したもの。マーケティング環境が大変化した今日では、役に立つどころかマーケターに取ってハザードだと断言。ではSTPに代わるものは何か。シュルツ博士はRMRを提唱する。Rはrecognition、Mはmaching、Rはresponseでそれぞれの頭文字を組み合わせたもの。顧客や市場が解決を求めている問題、関心事、必要事項を認識すること、そしてそれに応じた商品、サービスを捜し、それを提供すること、それがマッチングであり、顧客のニーズ、欲求のシグナルを受け止め,それを探知したえるコミュニケーション能力が必要で、しかも顧客の使用する情報機器と同じもので対応することが必要だとシュルツ博士は指摘。ビッグデータの時代、マーケターはデータ分析が容易になりこのRMR理論を容易に行使うることがこのRMR概念のベースにあるようだ。 最も効果的なマーケティングキャンペーンは顧客が困っている問題を解決するもの。アメリカの洗剤メーカーのクロロックス社はインフルエンザの流行期にツイッターに登場するやり取りからマーケティングキャンペーンでインフルエンザ予防の方法を知らせる手法を展開。このキャンペーンでソーシャルメディアに登場した書き込みは300万件以上に上り、インフルエンザの予防を考えるとき、クロロックスのことが頭に浮かぶことになった。ブランドイメージの構築に非常に貢献したとリポート。

(大坪 檀 静岡産業大学総合研究所教授・所長)

MH June 2016 29

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たけだ・あつし株式会社フジテレビジョンデジタル技術推進部兼務技術開発部UHDTVコンテンツ制作、ネット連動コンテンツ制作・配信、放送規格国際標準化の業務に携わる

HDR映像がもたらすリアリティー

 放送業界にもHDR(ハイダイナミックレンジ)の話が出てきた。4Kや8Kと言われているのは解像度の向上(画面の粒の数が増える)の話であって、HDRは明るさの階調表現増大

(暗い部分から明るい部分までの表現できる幅が広がる)の話である。これらの要素を同時に組み合わせる事により、より直感的に分かりやすい画質向上をもたらすことができる。 デジタル技術の進歩により、豊富な階調で撮影できるカメラが開発された後、ディスプレイの表示技術も合わせて進化し、自然な階調を表示できるようになった。 ディスプレイの明るさが増すと同時に、暗い部分から明るい部分までをより緻密に表現できるようになり、暗部の黒つぶれや、明部の白飛びが軽減される効果がある。これまで限られた範囲で明るさを表現していたが、一気に映像表現範囲が広がるのである。 例えば、テレビ番組においては、昼間のサッカー中継などが分かりやすい例となる。スタジアムの影がピッチにかかり、影の中の選手に映像の明るさを合わせると周囲の日が当たっている部分は白飛びになり、逆に日の当たっている部分に明るさを合わせると影の中は真っ暗でしか表現されない。これがHDR技術を採用する事で、黒つぶれや白飛びが軽減され全体的にバランス良く、より人間の視覚特性に近い映像表現が可能となり、視聴者にリアリティーをもたらす効果がる。 テレビ番組だけでなく、もちろんCMにおいてもその効果が期待できそうだ。食品の映像は、よりリアルに食欲をそそる映像に。車の映像は、光沢が一層際立ち、重厚さと高級感がそのまま表現できそうだ。これらの映像表現の向上は、イメージを直感的に伝達できる事が想像できる。放送業界におけるHDR映像がもたらすリアリティーは、被写体そのもののイメージをより早く的確に視聴者に届ける事が実現できると共に、その映像自体の価値を高める可能性を秘めているかもしれない。

女性マーケターの眼

クリエーターの眼

EYESMARKETING EYESMARKETING

人の心をうごかし、幸せを届けるプロモーション谷島 千明 凸版印刷㈱

 生活者が人と多くの情報を共有し、自由に意見しあ

うことがソーシャルメディアによって顕在化した昨今、商

品の良し悪しだけでなく、その商品をつくっている企業

が、社員が、社長が何をしているのか、全て透明に見え

るようになった。口先だけ上手い(広告だけキレイな)商

品はウソっぽく感じるし、本当のところが知りたいと思う。

プロモーションも商品の言動の一つとして、口だけの「メ

ッセージを言う」表現Sayより、「メッセージをやる」実現

Doに心を打たれる。ホントにやるから価値があるし、信

じられる。

 最近私が感動した取り組みの1つに”Call Her

Name”(POLA RED B.A)がある。「RED B.A」は心

理ストレスと肌との関係に着目し「すべての女性には、

美しさという本能がある」をブランドコンセプトに掲げたス

キンケアブランドだが、その「メッセージを本当にやった」

のだ。普段名前で呼ばれていない“お母さん”が、ある

日突然、旦那さんに再び名前で呼びかけられる。その

女性はびっくりしながらもとても嬉しそうに照れ笑いをし

ていて、肌も気持ちも美しくなっていった。「RED B.A」

は、お母さんの心理ストレスを名前で呼ばれることで変

え、肌をキレイにしたのだ。

 その女性の嬉しそうな顔と美しくなっていく姿に私は

感銘をうけて、普段は気にも留めずにスルーしていた通

りがかりのPOLAカウンターについ立ち寄ってしまった。

 類似商品が多く、その商品が持つ特徴(USP)に差

が感じられない飽和状態の市場において、プロモーショ

ンという生活者と深く関われる接点で、心をうごかす取

組自体が差別化になると思う。この商品と出会えてよか

ったと感じてもらえるように、生活者の心をうごかし、幸せ

を届けるプロモーションを実現したい。

やじま・ちあき凸版印刷株式会社トッパンアイデアセンターマーケティング本部 プロモーション企画部プロモーションプランナーとして従事。プロモーショナル・マーケター認証

武田 篤 ㈱フジテレビジョン

30 MH June 2016

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『限界費用ゼロ社会』

ジェレミー・リフキン 著、柴田裕之 訳、NHK出版

 シェアリングエコノミーを捉えるときに、その現象面に目を奪われるか、本質的な変化と論理を理解するかで、大きな差がつくだろう。 「モノのインターネットと共有型経済の台頭」なる副題が邦訳に付く本書は、10年前から独メルケル首相のアドバイザーとして、いまや日本でも話題の「インダストリー 4.0」へと導いた文明評論家でありウォートンスクール講師も務めるジェレミー・リフキンの最新著だ。 著者は、技術革新により資本主義が進化・変貌すると将来像を予言する。 効率が極限まで高められると、モノやサービスを追加で生み出すコスト(限界費用)は限りなくゼロに近づく。やがて多くのモノやサービスは無料になり、企業の利益は消失し資本主義は衰退を免れない、と説く。 代わって台頭するのが、共有型経済=シェアリングエコノミーだ。人々が協働でモノやサービスを生産し、共有し、管理する、協働型の新しい社会=コモンズが実現する、という。 IoT、3Dプリンティング、MOOC、クラウドファンディングなど、様々なテクノロジーと新たなシステムが紹介されているとともに、実際の動向、歴史、思想家や経済学者ほか識者の見解を踏まえて著者の洞察が示されている。 つまり、シリコンバレーやIT系のエヴァンジェリストが声高に革新を唱えるものではなく、以前からの流れをくみ、体制側やこれまでの主役たちと将来を橋渡しする書だと言えよう。 日本語版には特別に「岐路に立つ日本」が加えられている。日本は立ち遅れているが、日本が起業の才を発揮し、技術と文化的資産を活かせれば、限界費用ゼロの時代において、世界のリーダーとして貢献できるかもしれない、という。激励であり、このままではダメだという警告だ。 ちなみに、著者の前著「第三次産業革命」は、中国政府が将来の経済アジェンダの核心として称揚している。置いてけぼりになる前に、本書を手にとり、将来に向けての本質論を考えてみてはいかがだろう。

(本荘事務所 代表 本荘 修二)

 本書は、45のエピソードを通じて、営業の現場で起こりうる典型的な問題とその解決策を紹介している。いわば医療現場の症例集のようなもので、営業とはどんなものなのか全体像をつかむために、あるいは実際に営業を進めていて何か壁にぶつかった時に何が問題なのかを診断するために、とても有用な良書だといえる。 そもそも営業について書かれた本は、特定の業種の、特定の問題について書いた本がほとんどだ。しかし、特定の問題に首を突っ込む前に、まず営業という仕事の全体像をとらえておかなければ、思わぬところに落とし穴が待ち受けているかもしれない。 その点、本書を読めば、45のエピソードを読み進むうちに、様 な々業種で生じる様 な々問題を、自然と理解することができる。しかも、45のエピソードは、一話読み切りのようでいて、縦横に関連しあっている。例えば、エピソード11で信頼の大切さを説いたかと思えば、信頼を築くためにも相当な努力がいるので、努力を払うべき相手の選択も避けられないと説く。そこで重要になるのが、エピソード12で紹介されるキーパーソンとの関係構築の問題だ。さらにエピソード14では、顧客を選ぶことの功罪についても論じている。またエピソード13では、信頼を失った場合にどう回復するかといった問題も論じている。このように、エピソード間の関連を探りながら立体的に読めるのも、本書の良さの一つだろう。 欲を言えば、一つ一つのエピソードを、もう少し深堀りしてほしい気もする。ただそのために、営業の広がりをとらえるという本書の良さが失われてはいけないので、仕方のないことかもしれない。むしろ、本書で営業の全体像をつかみ、自分の抱える問題の所在と解決のヒントをつかんだら、後は読者自身で、あるいは同僚や上司と一緒にじっくり考えてみるべきなのだろう。本書のもう一つの良さは、そうした深い思考のきっかけを与えてくれるところかもしれない。

高嶋克義・田村直樹 著、同文舘出版

(広島経済大学 経済学部 教授 細井 謙一)

BOOKSEditor'sChoice

Professor'sChoice

45のエピソードからみる『営業の課題解決』

MH June 2016 31

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表紙ロゴ/柳沢光二 表紙デザイン・本文編集/松熊慎一郎無断複写・転載を禁ず。

マーケティングホライズ 6号/ NO.6952016年7月1日発行©発行者:塚田宗紀 発行所:公益社団法人日本マーケティング協会 〒106 -0032東京都港区六本木3-5 -27六本木YAMADAビル9FTEL.03 -5575 -2101 FAX.03 -5575 -0626  http://www.jma-jp.org定価:1部200円(送料別)(購読料は会員費に含まれています) 印刷所:大日本印刷㈱

「マーケティングホライズン」編集委員編集委員長

片平秀貴丸の内ブランドフォーラム編集委員(五十音順)

子安大輔㈱カゲン松風里栄子㈱センシングアジアツノダフミコ㈱ウエーブプラネット中島聡㈱明治中塚千恵東京ガス㈱本荘修二本荘事務所見山謙一郎㈱フィールド・デザイン・ネットワークス

吉田けえな㈱RBK吉田就彦㈱ヒットコンテンツ研究所エチエンヌ・バラールジャーナリスト

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㈱紀文食品 表4凸版印刷㈱ 表2㈱インテージ 表3日清オイリオグループ㈱ 15㈱テレビ朝日 17㈱アサツーディ・ケイ 19花王㈱ 25㈱電通 27

32 MH June 2016

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