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知識ゼロからものづくりを学ぶ「機械設計エンジニアの基礎知識」
熱力学の基礎を学ぶ
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【 目 次 】
1. はじめに ..................................................................................................................................... 5
1-1. 熱力学とは ............................................................................................................................ 5
1-2. 熱がエネルギーに変換される理由 .............................................................................................. 5
2. 熱力学で使われる温度の単位について ........................................................................................... 7
2-1. 温度の単位 ............................................................................................................................ 7
2-2. 摂氏℃を絶対温度 Kに換算する方法 ........................................................................................ 8
3. 仕事とエネルギー ........................................................................................................................ 9
3-1. 力が一定の場合の仕事の求め方 ............................................................................................... 9
3-2. 力が変化する場合の仕事の求め方 ........................................................................................... 10
3-3. ピストンが動いたときの仕事の求め方 ......................................................................................... 11
4. 熱力学第一法則 .......................................................................................................................... 12
5. 内部エネルギーUとは ................................................................................................................ 14
6. 熱量Qとは................................................................................................................................ 14
7. 物質の温まりやすさと冷めにくさを表す「比熱」 ......................................................................... 15
8. 定容比熱 Cvと定圧比熱 Cp について ......................................................................................... 17
9. ボイル・シャルルの法則 ............................................................................................................. 18
9-1. ボイルの法則 ........................................................................................................................ 18
9-2. シャルルの法則 ..................................................................................................................... 19
9-3. 理想気体における状態方程式 .................................................................................................. 20
10. モルとアボガドロ数 .................................................................................................................. 23
11. 熱力学第二法則 ........................................................................................................................ 24
11-1. エントロピー増大の法則 ......................................................................................................... 24
11-2. クラウジウスの原理 ................................................................................................................ 25
11-3. トムソンの原理(ケルビンの法則) ............................................................................................. 25
12. カルノーサイクル ..................................................................................................................... 26
12-1. カルノーサイクルとは ............................................................................................................. 26
12-2. カルノーサイクルの熱効率 ..................................................................................................... 27
12-3. 逆カルノーサイクル ............................................................................................................... 28
13. 熱力学におけるエントロピー ..................................................................................................... 29
13-1. エントロピー ......................................................................................................................... 29
13-2. カルノーサイクルとエントロピー ................................................................................................ 30
14. 不可逆変化(可逆変化)とは ..................................................................................................... 31
15. 熱伝導と熱伝達と熱放射(輻射) .............................................................................................. 32
15-1. 熱伝導 ............................................................................................................................... 32
15-2. 熱伝達(対流)...................................................................................................................... 33
15-3. 熱放射(輻射)...................................................................................................................... 34
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1. はじめに
「熱力学」は目に見えない現象を扱うため、直観的に理解するのが難しい学問です。熱力学と聞いただけで、 「な
んか難しそうだなー」 というイメージをもたれる方も多いと思います。そこで、このテキストでは具体例や図を用いて、
イメージが沸きやすいように熱力学を解説していきたいと思います。
1-1. 熱力学とは
熱力学とは、「熱の力学」 と書かれるように 「熱が力学的な仕事を行う」ことを
表しています。 例えば、今はもう走っていない「蒸気機関車」を例に説明しま
す。
蒸気機関車は、石炭や重油の燃焼により水を沸騰させ蒸気を作ります。
そして、その蒸気の力によって動力をつくります。
石炭や重油を燃やす➔熱が発生➔水が沸騰➔蒸気が発生➔蒸気の力でピストンが動く➔蒸気機関車が動く
といった流れになります。
つまり、熱 が持つエネルギーによって、機関車が仕事を行うことになります。
自動車の場合も同様です。ガソリンを燃やして発生する熱をピストンの往復運動に変えます。
以上のことから、「熱」は「エネルギー」であるということが理解できます。
1-2. 熱がエネルギーに変換される理由
ここで、なぜ熱がエネルギーに変換されるのか考えてみます。
「蒸気機関車」や「自動車のエンジン」は、燃料を燃やして力学的エネルギーに変換します。しかし、熱が直接ピス
トンを動かしているわけではありません。 ピストンを直に熱しても動きません。
ピストンは空気を熱で膨張させることで動かすことができます。
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つまり、「熱は空気という気体を介して、運動エネルギーに変換される」 というところがポイントとなります。
それでは、次に温度が上がるとなぜ空気が膨張するのか考えてみます。温度とは、 「原子や分子の運動の激しさ」
のことを表します。空気の温度があがると、原子や分子の熱運動が激しくなります。原子や分子が激しく動くことで
空気が膨張します。
この原理を活用した製品の1つが圧力鍋です。圧力鍋を熱すると空気が膨張して鍋の内部の圧力が上昇します。
次に、熱を加えずにピストンを押して圧縮してみます。すると、シリンダー内部の原子や分子の運動が激しくなり、
温度が上がります。逆にピストンを引っ張ってみると原子や分子の運動が遅くなり温度が下がります。
以上のことから、「原子や分子の運動の激しさ」 と 「温度」 は依存していることが理解できます。
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2. 熱力学で使われる温度の単位について
2-1. 温度の単位
一般的に使われる温度の単位はさまざまですが、
熱力学を学ぶためには、熱力学で使われる温度の単位を正しく理解する必要があります。
温度の単位には、
日本で使われている摂氏温度(せっしおんど) (℃)
アメリカで使われている華氏温度(かしおんど) (°F)
絶対温度 ケルビン(K)
があります。
日本で一般的に使われているのは 「摂氏 ℃」 です。標準気圧での水が凍る温度を 0 度、水が沸騰する温度を
100度としています。そして、水が凍る温度と沸騰する温度を 100等分した温度を1度と定めています。
アメリカで使われる華氏温度は、標準気圧での水が凍る温度を32度、水が沸騰する温度を 212度としています。
「なんか中途半端な数字だなー」と思いますよね。
元をたどれば華氏温度は、海水が凍る温度を0度、羊の肛門の温度を100度としています。羊の肛門の温度は風
邪で発熱したときの人間の体温と同じだそうです。
以上のように、普段生活においては、「摂氏」 や 「華氏」 という温度の単位を使いますが、熱力学や物理学にお
いては「絶対温度のK(ケルビン)」が温度の単位としてよく用いられます。下図は気体、液体、固体の温度範囲を
単位別に示しております。
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絶対温度と分子、原子の動きを見て頂くと分かりますが、温度が上がるにつれて原子や分子の動きが激しくなって
いることがわかります。
また固体において、原子や分子は所定の位置で微妙に振動していますが、絶対温度が0度になると完全に停止し
ます。つまり、絶対温度0度 = 熱エネルギーがゼロ ということになります。そして絶対温度0度以下にすることは
できません。 この温度の事を「絶対零度」といい、単位にはK(ケルビン)が使われます。
以上のように、熱力学や物理学では、熱エネルギーという視点から物事を考えるため、絶対温度を使うのが都合良
いわけです。
2-2. 摂氏℃を絶対温度 Kに換算する方法
絶対零度 は私たちが普段よく使う摂氏に置き換えると -273.16℃ になります。
また、1K=1℃ なので、1K温度が上がったといえば、1℃温度があがったこと同じです。
ゆえに絶対温度Tは次の式で表すことができます。
T[K] = t [℃]+273.16
普段使っている摂氏温度に 273.16を足すことで絶対温度に換算できます。
(例) 100℃の場合
100 [℃] + 273.16 = 373.16 [K]
現在において、絶対温度は世界的な基準温度として、SI単位で扱われています。
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3. 仕事とエネルギー
3-1. 力が一定の場合の仕事の求め方
これまでの解説で、熱は仕事であり、エネルギーであることを理解して頂きました。
次にさらに詳しく理解して頂くために、仕事の求め方について説明します。高校物理では、仕事を求める式として
下記を学びます。
W=FL
W :仕事
F :力
L :移動距離
仕事は力×移動距離 で求めることができます。この式は熱力学で非常に重要な式となります。
例えば、10Nの力で 10m 荷物を移動させたときの仕事は
W=10N×10m=100 N・m と求めることができます。
これを力と移動距離を表すグラフにすると、下図のようになります。仕事は 力×移動距離 なのでちょうどグラフの
面積を求めることが、仕事を求めることになります。但し、この式(W=FL)は力が一定のときのみ使えます。
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3-2. 力が変化する場合の仕事の求め方
次に荷物がばねで固定されおり、荷物が移動するにつれて力が変化する場合における仕事を求めてみます。
フックの法則からバネにかかる力Fは F = Kx となり、力と移動距離の関係をグラフに表すと下図のようになります。
初期段階ではばねを引く力は小さくてすみますが、ばねが伸びるに従って大きな力を必要とします。
「力が一定」 のときと同様に仕事をグラフの面積から求めると、
仕事W = グラフの面積 = 三角形の面積
=底辺×高さ÷2
=L×KL÷2
W = 𝟏
𝟐 KL2
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3-3. ピストンが動いたときの仕事の求め方
ここまでの内容を踏まえて熱力学の話に戻ります。次の図のようにシリンダーを熱で温めると、ピストンが圧力を受
けて上昇します。これは熱がエネルギーに変わり仕事をしたからです。
この場合の仕事(W)は、圧力が一定なため W = FL で求めることができます。
ピストンにかかる力は、 力(F)=圧力(P)×断面積(A)で求めることができ、
ゆえに、ピストンが動いたときの仕事は、 W = PAL となります。
※ 圧力とは単位面積あたりの力なので、力は圧力に断面積をかければ良い。
例えば、圧力 P=5N/mm2 が 10mm2の断面積にかかる力 Fは、 F = 5N/mm2×10mm
2 = 50N
また、AL は 断面積×ピストンの移動距離 なので増えた体積(ΔV)となります。
(Δはデルタと読み、変化量を示す記号のこと)
ゆえに
仕事(W)= PAL =PΔV と書き換えることができます。
これをグラフにすると以下のようになります。
つまりピストンに加えた熱 Q が仕事 W に変わったということです。しかし、『 加えた熱量 Q 』 = 『 ピストンがした
仕事 W 』 にはなりません。 実際は Q=ΔU+W となります。これを熱力学の第一法則といいます。次にこのこと
について解説します。
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4. 熱力学第一法則
熱力学第一法則は次の式で表されます。
Q = ΔU + W
Q は加えた熱量
ΔU は内部エネルギーの増加量
W は行った仕事です。
この式を具体例で解説します。
下図のように、ピストンを固定した状態 で、シリンダーを熱量(Q)で加熱します。
すると内部の気体の温度が上昇して、圧力が上昇します。
この場合、加えた熱量(Q)は全て温度の上昇「=内部エネルギーの上昇(気体の場合)」に変化します。
従って、これを式にすると、 Q = ΔU となります。
次にピストンを固定せずに熱量(Q)を加えてみます。
すると内部の分子の運動が激しくなることで温度が上昇して、空気が膨張しピストンが移動します。
つまり、内部の気体が 「外部に対して仕事を行った」 ということです。
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ここで、ピストンは大気の圧力(P)とバランスを取りながら移動するため、内部圧力は常に一定となります。このとき
の仕事W は圧力が一定であるため、 W = PΔV となります。
従って、加えた熱量(Q)が内部エネルギーの上昇(ΔU)とピストンを動かすという仕事(W)に変換されたことにな
り、
Q = ΔU + W
= ΔU + PΔV
が成り立ちます。
熱と仕事は同じものであり、「熱から仕事へ」、「仕事から熱へ」 変換することができ、その間においてはエネルギ
ーが保存されます。
これを 熱力学第一法則 といいます。
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5. 内部エネルギーU とは
ここで内部エネルギーについてもう少し理解を深めます。内部エネルギーとは、物体内部に持っているエネルギー
のことです。物体内部のエネルギーとは、
1. 分子の運動によるエネルギー
2. 分子間で働く力によるエネルギー
です。
この2つのエネルギーを合わせて 内部エネルギー といいます。
分子は熱を受けることで激しく運動を行います。
固体や液体は、分子間で働く位置エネルギーを持っています。
しかし、気体では分子間で働く位置エネルギーを無視することができます。
前章の例で解説したピストンでは、内部にあるのは気体であったため、「分子間で働く位置エネルギー」 を無視す
ることができます。従って、このケースでは、 内部エネルギー(ΔU) = 分子の熱運動による運動エネルギー
となります。
6. 熱量 Q とは
私たちが身近に接する熱は高い温度から低い温度に移動する性質があります。例えば、冷たい水が入ったヤカン
をストーブで熱すると温度が上昇します。このように、物体間で熱として移動するエネルギー量のことを 「熱量」 と
いいます。
例えば、水 1kgを 1K (=1℃)上昇させるのに必要な熱量は 1kcal(カロリー) です。
この熱量は物体の温度変化以外に、物体の質量によっても変わります。
例えば、10kgの水を熱して、20℃から 80℃にしたときの水の熱量 Qは、
熱量 Q = 水の質量(kg)×温度変化(℃) = 10 × 60 = 600 kcal
となります。
熱量の単位 カロリー [kcal] は、以前に使われていた単位です。現在では ジュール [J] が使われます。
単位換算する場合、1kcal = 4186 J となります。
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7. 物質の温まりやすさと冷めにくさを表す「比熱」
物質の温まりやすさや冷めにくさを表す比熱について解説します。
比熱とは、1kg の物質の温度を 1K (=1℃)上げるのに必要な熱量です。
例えば、水 1kgの場合、1K (=1℃)上げるのに必要な熱量は 4186Jです。水は、温まりにくい物質です。
逆に温まりやすい物質である鉄 1kg の場合、1K (=1℃)上げるのに必要な熱量は 444J です。鉄は水より少ない
熱量で 1K (=1℃)上がります。
従って、鉄の方が水に比べて温度が上がりやすいということです。これは夏場における鉄棒の温度が予想以上に
高いことから経験的に理解できると思います。
つまり、比熱とは 「温まりやすさ」 「冷めにくさ」 を表すものです。
比熱の単位は [J/kg・K] となります。
下記に主な物質の比熱を記載します。上から比熱が高いものを並べています。
物質 比熱 単位:[J/kgK]
水 4186
空気 (湿度 100%) 1030
空気 (乾燥) 1005
アルミニウム 900
ガラス 677
鉄 444
銅 385
金 129
※ ウィキペディアより
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比熱は以下の式で表されます。
比熱 Cv = 𝐐
𝐦×𝚫𝐓 ・・・(1)
Q :加える熱量 J
m :質量 kg
ΔT :温度差 K (℃)
(1) の式を変形すると、
Q = m・Cv・ΔT となります。
この式から物質の質量が多い場合、加えなければならない熱量が大きくなることがわかります。
また、物質の種類によっても加えなければならない熱量が変わり、その違いが比熱(Cv)となります。
問題 :
20℃の水 1kgに 30,000Jの熱量を加えたときに、水の温度は何度になるでしょうか?
答え :
Q = m・Cv・ΔT
ΔT = Q/(m・Cv)
= 30,000J/(1kg・4186J/kg・K)
= 7.2 K (7.2℃)
20℃ + 7.2℃ = 27.2℃
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8. 定容比熱 Cv と定圧比熱 Cp について
水や金属のような 液体 や 固体 は、温度によって容積が変化しませんが、気体は温度によって膨張するため容
積が異なります。
比熱には、定容比熱 Cv (又は定積比熱) と 定圧比熱 Cp があり、液体や固体では Cv ≒ Cp となりますが、
気体では Cp > Cv となります。
・ Cv の v は volume(体積)の v
・ Cp の p は pressure(圧力)の p
Cp > Cv となる理由
Cp は、一定の圧力で熱を受けると、膨張により外に対して仕事を行いながら温度を上昇させる比熱であり、仕事
を行う分だけ大きくなります。
その差が気体定数 R となり、
Cp - Cv = R
また、定圧比熱 Cp と 定容比熱 Cv の比 K を比熱比といいます。
比熱比 K = Cp/Cv
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9. ボイル・シャルルの法則
気体の 圧力(P) と 温度(T) と 体積(V) は次の関係があります。
𝐏𝐕
𝐓= 一定
これを 「ボイル・シャルルの法則」 といいます。
このボイル・シャルルの法則は、「ボイルの法則」 と 「シャルルの法則」 を合わせた法則ですので、次にそれぞれ
について解説します。
9-1. ボイルの法則
ボイルの法則を理解して頂くために、針のない注射器を事例に説明します。針のない注射器に栓をした状態で、ピ
ストンを押し込むと内部の体積が減少して圧力が上昇します。
圧力が上昇する理由は、体積が減少することで空気の中の分子が壁にぶつかったり、分子同士でぶつかったりす
る回数が増えるからです。
このように温度が一定の場合、
体積が減少すると圧力が上昇、
逆に、体積が増加すると圧力が減少するように、
体積(V)と圧力(P)が反比例の関係になる法則が 「ボイルの法則」 です。
ボイルの法則 PV = 一定
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9-2. シャルルの法則
次にシャルルの法則です。例えば鍋にふたをして加熱すると鍋のふたが持ち上がります。これは温度が上がること
で、鍋の中の原子や分子が激しく動くことで空気が膨張し体積が増えるからです。
このように圧力が一定の場合、温度(T)が上がると、体積(V)が増加し、また逆に温度(T)が下がると、体積(V)が
減少するように温度(T)と体積(V)が比例関係になる法則を 「シャルルの法則」 といいます。
シャルルの法則 𝐕
𝐓= 一定
この 「ボイルの法則」 と 「シャルルの法則」 を合わせたものが 「ボイル・シャルルの法則」 です。
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9-3. 理想気体における状態方程式
ボイル・シャルルの法則は実在する気体では成立せず、理想気体において成立します。
理想気体とは?
理想気体とは、分子の体積がゼロであり、分子間力が働かない実在しない気体のことです。
理想気体は -273℃ (0K) になっても 液体 や 固体 になりません。
一方、実在する気体は冷やしていくと 液体 や 固体 になります。
例えば窒素は -195℃ で液体窒素になります。
理想気体のような気体は実在しませんが、空気、窒素、水素などの気体は、常温、常圧では理想気体として扱うこ
とができます。なぜなら、圧力が低い場合は分子を無視することができるからです。
この理想気体において、「圧力」・「体積」・「温度」の三つの要素間で一定の関係があります。このうち2つの要素が
決まれば残りの1つの要素は必然的に決定されます。
これらの関係を数式にしたものが 「状態方程式」 です。
理想気体の質量が m [kg] の状態方程式は、ボイル・シャルルの法則より、
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𝐏𝐕
𝐓 = 一定 であり、気体の質量 m と 気体定数 R をかけたものと一定となるため
𝐏𝐕
𝐓 = mR となります。
式を変形して、
PV = mRT ・・・ 状態方程式(1)
P : 圧力
V : 体積
m : 質量
R : 気体定数
T : 温度
気体定数 Rはガス定数とも呼ばれ、単位は J/(kg・K) となります。
この Rは以下の表に示すとおり、気体によって異なる定数です。
気体の種類 気体定数 R J/(kg・K)
二酸化炭素 188.9
酸素 259.8
窒素 296.8
水素 4124.6
空気 287.0
因みに化学では、状態方程式を質量 m[kg] ではなく「モル数」で表現します。(※「モル」については後程に詳しく
解説します。) 状態方程式をこのモル数で表現すると、
PV = nR0T で表されます。
1モルの気体は標準状態で 22.4L です。 (化学の一般常識、後程解説します。)
また、標準状態とは 0℃、1気圧( 1.013×105Pa ) の状態です。
これを状態方程式に代入すると、R0 を求めることができます。
R0 = PV/nT = (1.013×105×22.4) /( 1×273)
= 8.31*103 [(Pa・L)/(K・mol)]
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= 8.31 [J/(K・mol)]
この R0 は一般気体定数といい、気体の種類に依存しない定数となります。
PV = nR0T ・・・ 状態方程式(2)
P : 圧力
V : 体積
n : 分子数
R0: 一般気体定数
T : 温度
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10. モルとアボガドロ数
「モル」とは原子や分子の単位のことです。原子や分子はご存知のとおり、とても小さいですがちゃんと重さを持っ
ています。しかし、1個単位では測定ができません。そのため「モル」という単位が誕生しました。
原子や分子 6.02×1023個 = 1モル とした。 (602000000000000000000000 個 = 1モル)
鉛筆 12本を1ダースとしたのと同じです。
そして、このかたまりのことを世界共通の基準として アボガドロ数 としました。
アボガドロ数 NA = 6.02×1023 [mol-1]
従って、1モルの気体に含まれる分子の数は、気体の種類に関係なく一定の 6.02×1023 となります。
(1ダースに含まれる鉛筆の数は鉛筆の種類に関係なく 12本です。)
ここで 0℃の空気 100L(リットル)に含まれるモル数 及び 分子の数 を求めてみます。
状態方程式 PV=nRT より
P :大気圧 1.013×105Pa
V :体積 100L = 0.1m3
R :気体定数 8.31 J/(K・mol)
T :温度 273K (0℃)
モル数 n = PV/RT
= (1.013×105×0.1)/(8.31×273) = 4.46 mol
従って、1mol = 100L / 4.46 = 22.4 L より、
標準状態(1気圧、0℃)では 1mol = 22.4 L となります。
また、100Lの空気に含まれる分子の数 n は
n = 4.46 × 6.02×1023 = 2.68×1024 個 となります。
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11. 熱力学第二法則
中央に仕切板のある水槽の左右に 「20℃の水」 と 「90℃のお湯」 が入っています。
仕切板を伝って熱は移動しますが、「20℃の水」 から 「90℃のお湯」 の方へ熱は移動しません。必ず熱は高い温
度(90℃)から低い温度(20℃)へ移動します。
このように逆にならない「不可逆的な現象」のことを 「熱力学第二法則」 といいます。
熱力学の第2法則
熱は熱いものから冷たいものへ移動するが、その逆は成立しない。
熱力学第二法則は、次の 3つの原理や法則で説明されます。
1. エントロピー増大の法則
2. クラウジウスの原理
3. トムソンの原理
11-1. エントロピー増大の法則
エントロピーとは、「分子の乱雑さ」 のことです。
エントロピーは、ドイツの理論物理学者であるクラウジウスが熱力学で導入でした概念のこと。「エネルギー」の
en と「変化」を意味するギリシア語の tropy を合わせた言葉。
例えば、水の中にインクを1滴垂らします。インクは垂らした位置から広がります。
しかし、広がったインクが一箇所に集まってくることはありません。
インクの分子は、乱雑な方向へ増大していきます。これを 「エントロピーが増大する」 といいます。
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11-2. クラウジウスの原理
クラウジウスの原理とは、 「外部から何も変化を与えずに、低温から高温へ熱を移すことができない」 という原理で
す。 例えば、冷めたコーヒーが、外部の熱を吸収してホットコーヒーにはならないということです。
11-3. トムソンの原理(ケルビンの法則)
トムソンの原理とは、 「一つの熱源から熱を受け取り,そのすべてを仕事に変換することは不可能である」 という原
理です。
これを言い換えると、原理的には 「熱の全てを運動として取り出すことはできない」 ということです。例えばエンジ
ンです。エンジンはガソリンを燃やした 「熱」 から 「ピストン運動」 に変えますが、100%ピストン運動に変えること
はできません。一部が必ず 「排熱」 として排出されます。
高温の熱エネルギーから仕事を取り出すには、低温の熱源に熱を捨てなければなりません。「熱を全て仕事に変
える熱機関は存在しない」 というのが トムソンの原理 です。
以上のように熱力学第二法則は、私達の身近で起こる現象と一致しています。「なぜ、そうなるのか?」より、自然に
起こる経験則であると捉えることが大切です。
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12. カルノーサイクル
12-1. カルノーサイクルとは
カルノーサイクルは熱機関の中で最も効率の良いエンジン です。フランスの物理学者であるカルノーによって考
案されたため、「カルノーサイクル」 と呼ばれています。
現実的にカルノーサイクルを持つエンジンを作ることは不可能ですが、比較対象の基準となるサイクルとして用いら
れます。
「熱力学の第二法則」 から、熱機関は、高熱源から熱を受け取り仕事を行った後に、低熱源へ熱を放熱します。こ
の時に放熱する量を可能な限り小さくすることで熱効率が上がります。
カルノーサイクルは下図に示すとおり、圧力(P) と 体積(V) の P-V線図 で表すことができ、
等温膨張➔断熱膨張➔等温圧縮➔断熱圧縮 の4工程を繰り返すサイクルです。
カルノーサイクルでは、シリンダーは断熱状態にあり、熱の出入りがある時のみ熱交換が行われます。
① 等温膨張
等温膨張は熱の出入りが可能な膨張のことで
す。膨張すると内部の気体の温度は下がりま
すが、熱が流入するため温度が一定に保たれ
ます。
② 断熱膨張
シリンダーが外から完全に断熱されている状
態で、気体が膨張して外部に仕事をします。
気体が膨張すると温度は低下します。
③ 等温圧縮
等温圧縮は熱の出入りが可能な圧縮のことで
す。圧縮すると内部の気体の温度は上がりま
すが、熱を吐き出すため温度が一定となりま
す。
④ 断熱圧縮
シリンダーが外から完全に断熱されている状態で、気体が圧縮されます。気体が圧縮されると温度は上
昇します。
以上のように、カルノーサイクルは、「等温変化」 と 「断熱変化」 を繰り返すサイクルとなります。
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12-2. カルノーサイクルの熱効率
カルノーサイクルでは、等温膨張の工程で熱を得て仕事を行い、等温圧縮の工程で熱を吐き出します。このように
入ってきた熱の一部を捨てながら仕事を行うため、その熱量の差が行った仕事となります。
入ってきた熱量を Qin
吐き出した熱量を Qout とすると、
行った仕事は、
W=Qin - Qout
カルノーサイクルの熱効率は、加えた熱量(Qin)に対して、どのくらいの仕事(W)を行えたかであるため、以下の式
で定義されます。
カルノーサイクルの熱効率
η= W/Qin
※読み方: η → イータ 又はエータ
熱効率 η の式は次のように変形できます。
η = W/Qin
= (Qin - Qout)/Qin
= 1- Qout/Qin
= 1- T2/T1
T1 :高熱源温度
T2 :低熱源温度
以上より、カルノーサイクルの熱効率ηは温度によって決まることがわかります。
例えば、室温 25℃で 1000℃の高熱源温度の熱機関における最大の熱効率を求めてみます。
T1 :高熱源温度 1000℃
T2 :低熱源温度 25℃
η = 1- T2/T1
= 1 - (25+273)/(1000+273) = 0.76
以上より、このケースにおける最大の熱効率は「76%」、排熱は「24%」となります。
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12-3. 逆カルノーサイクル
逆カルノーサイクルとは、カルノーサイクルを逆向きにしたサイクルのことです。この原理は、空気中から熱を集めて
熱エネルギーに変換する「エアコン」や「冷蔵庫のヒートポンプ」で利用されています。
エアコンの「暖房モード」では、屋外の熱を室外機で集めて室内へ送ります。暖房モードを使うのは一般的には冬
ですが、冬の寒い日の外気から熱を集めると言われてもイメージしづらいと思います。
このことを詳しく説明したいと思います。
例えば、下図のようにシリンダー内の空気を外から力 W を加えて膨張させてみます。するとシリンダー内部の温度
が低下します。外部の温度より内部の温度が低いため、熱がシリンダーへ移動していきます。
このように外から仕事を加える事で、熱を内部に取り込むことが可能となります。逆カルノーサイクルを図で表すと
下図のようになり、等温膨張で外部から熱をもらい、等温圧縮で熱を放出します。
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13. 熱力学におけるエントロピー
13-1. エントロピー
「11. 熱力学第二法則」で解説いたしましたが、エントロピーとは分子の乱雑さのことを表しています。
これを熱力学の視点から解説していきます。水にインクを垂らすと広がります。インクが広がった状態では分子が乱
雑であり、「エントロピーが大きい」ということになります。
熱力学第二法則においてエントロピーは、熱は熱いものから冷たいものへ移動するが、冷たいものから熱いものへ
は移動しないような「不可逆現象」においては増大し、「可逆現象」では一定となります。
エントロピーは次の式で表されます。
ΔS = ΔQ/T ・・・(式 1)
ΔS :エントロピーの増加量
T:温度
ΔQ:加えた熱量
※ Δの読み方 → デルタ
温度(T)に、微小の熱量(ΔQ) が加わったときのエントロピーの変化量(ΔS)は、
「加えられた熱量(ΔQ)」 を 「温度(T)」 で割った値となります。
なぜ、加えた熱量(ΔQ) を 温度(T) で割ったものがエントロピーとなるのか感覚的に理解し難いですが、こういう
ものだと理解して下さい。
また、(式 1)は可逆現象でのみ成立します。
次にこの理由について、カルノーサイクルを用いて説明します。
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13-2. カルノーサイクルとエントロピー
最も効率のよいエンジンとされるカルノーサイクルにおけるエントロピーの変化について考えてみます。
カルノーサイクルについて、前述のページでは、P-V 線図(圧力と体積の関係)で紹介しましたが、熱の出入りを分
かりやすくする目的で、T-S線図(温度とエントロピーの関係)で確認していきます。
カルノーサイクルにおいて、外部へ行う仕事は、P-V線図の「線で囲われた面積」となります。
式で表すとΔW=PΔV となります。(※ 「3-3. ピストンが動いたときの仕事の求め方」を参照)
ここで、エントロピーの式 ΔS = ΔQ/T を変形させると、ΔQ=TΔS となり、ΔW=PΔV と似たような式で表す
ことができます。
以上より、
上左図(P-V線図)で外に行った仕事は、薄緑色の面積 ΔW であることから、
上右図(T-S線図)で外から受け取った熱量は、薄緑色の面積 ΔQ となることが理解できます。
また、カルノーサイクルの解説ページで説明しましたが、
外に行った仕事 ΔW は ΔW = Q1-Q2 であるため、
ΔW とΔQ (= Q1-Q2)は等しく、上図の線で囲われた薄緑色の面積は等しいことがわかります。
カルノーサイクルは、逆が成り立つ可逆現象です。また、このときエントロピーは増大しません。従って、エントロピ
ーの増加量 ΔS=0 となります。
一方、シリンダーとピストンの間に摩擦熱が発生すると仮定すると、仕事に変換されない熱量が発生するため Δ
S>0 となりエントロピーが増加します。
以上より、エントロピーが増加しないサイクルの場合は、熱が仕事へ、仕事が熱へ可逆変化することができ、熱効率
が最大となります。一方、摩擦熱が発生するようなエントロピーが増加するサイクルの場合は、熱効率が下がること
になります。
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14. 不可逆変化(可逆変化)とは
不可逆変化とは、
熱は熱いものから冷たいものへ移動するが、冷たいものから熱いものへは移動しない。
コーヒーにミルクを入れると広がるが、広がったミルクが集まってくることはない。
煙突から吐出された煙は空気中に広がるが、広がった煙は煙突に集まらない。
上記のように、逆が成立しない変化のことを 「不可逆変化」 といいます。
例えば、下図のように断熱されたシリンダー内で、ピストンを押して手を離すとピストンは元の位置に戻ってきません。
なぜなら、摩擦による仕事が発生するからです。
摩擦がゼロの場合は元の位置に戻ってきます。この場合は元に戻ることができるため可逆変化となります。しかし、
実際は摩擦がゼロであることはありえません。自然界において、可逆変化はありえず全て不可逆変化となります。
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15. 熱伝導と熱伝達と熱放射(輻射)
熱の伝わり方には次の3つの種類が存在します。
熱伝導
熱伝達(対流)
熱放射(輻射)
これらの違いについて説明します。
15-1. 熱伝導
熱伝導は、固体または流体内部に熱が伝わることを言います。
例えば、金属の棒の片方を加熱すると、金属内部を伝って熱が移動します。このように物質内部において温度を
均一化する方向に熱が移動する現象を 「熱伝導」 といいます。
また、熱伝導は異なる物質間でも可能です。異なる温度を持つ物体が接触することで接触部を介して熱は高い方
から低い方へ移動します。
尚、温度差があるほど熱の移動速度は早まります。
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15-2. 熱伝達(対流)
熱伝達(対流)は、「熱を伝える」ことであり、例えば「加熱された固体」と「流れる液体」との間で 「熱をやり取りする」
ことを意味します。自動車のラジエターは、エンジンの熱を冷却水に伝えて、エンジンで発生する熱を下げる「熱伝
達」を利用したものです。
熱伝達は表面間で熱が移動するため、接触する面積を大きくすることで熱の移動速度が上がります。例えば、バイ
クのエンジンに刻まれたフィンは、外気との接触面を大きくして冷えやすいように工夫された形状です。
そして、この部分に風を当てるとさらに冷えやすくなります。さらに、風の温度が低いとより冷えやすくなるのは言うま
でもありません。
以上より、熱の移動速度は、
・ 物体の表面積
・ 流体の速度
・ 温度差
に比例することがわかります。これを「ニュートンの冷却の法則」といいます。
- d𝑄
dt = αS(T−Tm)
Q: 固体の持つ熱量
t: 時刻
S: 固体の表面積
T: 固体の温度
Tm: 媒質の温度
ここで比例定数 α は固体境界面形状、媒質の性質および流れ方などによって決まる定数で、熱伝達率といいま
す。 (Wiki より)
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15-3. 熱放射(輻射)
熱は離れた場所にあっても伝わることができます。例えば、太陽の熱は地球に伝わってきます。
理由は、物体が電磁波を放射しているためです。
電磁波は熱ではありません。しかし、空間を伝って伝達先の物体に当たると、電磁波の振動エネルギーにより伝達
先の物体の分子が振動して熱を発します。これを熱放射(輻射)といいます。
この仕組を利用した身近なものが電子レンジです。食品が電磁波を受けることで、食品の分子が振動して温まりま
す。
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熱力学の基礎を学ぶ
2015年 8月 15日 発行
2016年 4月 28日 改訂 2
発行元:株式会社 RE
TEL:052-766-6900
http://www.re-re-e.com
本書の内容は、事前に株式会社 REの文書による許諾を得ずに、本書の内容の一部あるいは、
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