特集インタビュー 子どもが育つ!第 玄米和食で - uminosei · 2014-10-02 ·...

43 30 30 西 福江 (高取保育園園長) 1929年(昭和 4年)福岡県生まれ。68年 (昭和43年)に高取保育園を開園して以来、 園長を務める。玄米和食にこだわった給 食を実践しているほか、毎日の給食や食 べものにかかわる年中行事を通じて、独 自の食育を展開している。92年、藍綬褒 賞受章。高取保育園との共著として『ゼロ から始める玄米生活』(西日本新聞社)、 『子 どもが育つ玄米和食 高取保育園のいのち の食育』(光文社新書)などがある。 32 特集インタビュー 0歳児のクラスもみんな集中して静かに食べています。 取材の日はお誕生会でハレの日ごはんでした。みんな楽しそうです。 4 西

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玄米和食で落ち着いた子に

玄米和食を給食にされたきっかけを

教えてください。

昭和43年にアトピーのお子さんを

初めて預かりました。それからもア

トピーや食物アレルギーのある子は

どんどん増えていきました。これは

戦後、急激に食が変わったことと無

関係だとは思えず、給食の先生たち

と勉強を始めました。

その後、「昭和30年代の食に戻せ」

とおっしゃっていた下関市立中央病

院小児科の永田良隆先生のお話を聞

きました。先生はアレルギーの原因

は食にあって、昭和30年代を境に日

本人の食生活が偏ってきたことを説

いておられました。お話を伺って、

やはり給食をきちんとすることが何

より先決で、近道だと感じて、玄米

和食を始めました。給食の先生たち

にはマクロビオティックの勉強もし

てもらいました。

子どもにとっては三食のうちの一

食ですが、毎日のことです。卒園す

るころにはアトピーがきれいに治る

子もいます。何より見学にいらっ

しゃった方は「すごいですねぇ、子ど

もが落ち着いていますねぇ」とおっ

しゃいます。残食がなく、よく食べ

ることにも驚かれます。親御さんも

卒園して小学校に入ってから、我が

子の集中力や運動能力の高さに気づ

かれる方が多いです。

こんなふうに子どもに集中力があっ

たり、多動児やキレる子が出ないのは、

やはり玄米和食にあると確信してい

ます。

母乳から集中力が生まれる

玄米和食が集中力を養って

いるんですね。

西 福江(高取保育園園長)

1929年(昭和4年)福岡県生まれ。68年(昭和43年)に高取保育園を開園して以来、園長を務める。玄米和食にこだわった給食を実践しているほか、毎日の給食や食べものにかかわる年中行事を通じて、独自の食育を展開している。92年、藍綬褒賞受章。高取保育園との共著として『ゼロから始める玄米生活』(西日本新聞社)、『子どもが育つ玄米和食 高取保育園のいのちの食育』(光文社新書)などがある。

玄米和食で

子どもが育つ!

第32回特集インタビュー

0歳児のクラスもみんな集中して静かに食べています。

取材の日はお誕生会でハレの日ごはんでした。みんな楽しそうです。

4

ベストセラーとなった『はなちゃんのみそ汁』(安武信吾、千恵、はな著、

文藝春秋)にも登場し、昨年6月の「海の精サロン」では、正食協会の岡

田校長からも紹介があった、高取保育園(福岡市)の西福江園長にお話を

伺いました。高取保育園さんは玄米和食の給食など、独自の食育を実践し

ておられます。子育て中の方だけでなく、多くの方に、毎日の食を振り返っ

ていただけたらと思います。

集中力はすでに乳児で違います。

 

ここでは母乳育児を勧めています

が、おっぱいは血液です。人工栄養

のミルクは牛の血液です。それを人

間の赤ちゃんが飲むのはおかしいで

しょ。牛のミルクを血液に注入した

ら死んでしまいますが、母乳なら死

なないそうです。いまはアメリカで

すら、牛乳はガンを助長するのであ

んまり飲むなと言っています。

でも、いまの人はミルクの方が高

栄養と思い込まされている。医者も

体重が増えないのは母乳が足りない

からで、ミルクを足しなさいと必ず

言います。素直にミルクを足して

いたら、おっぱいはだんだんでなく

なっていきます。

母乳はきれいな血液から、その血

液は食べものからつくられます。お

母さんが玄米和食をおいしく楽しく

感謝して食べていたら、きれいな血

液がつくられます。

それに母乳だと、赤ちゃんはお母

さんの顔をじっと見ながら、ありが

とうっていう思いを込めて飲みま

す。一年間、いのちをもらうお母さ

んとのスキンシップで深い安心感が

得られます。すると五ヶ月の乳児で

も相手をしっかり見つめる集中力が

出てくるんです。ミルクで育った子

との違いは明らかです。

子どもがよころぶ玄米和食

給食の内容を教えてください。

玄米には雑穀や豆を入れていま

す。しっかり発酵した手づくり味噌

の味噌汁をつけます。それと旬の野

菜のおかずです。厳選した無農薬の

野菜を使っています。

おやつは食事を補う「補食」という

位置づけで、おにぎりや漬物などで

す。甘いものは出しません。子ども

たちも、お菓子より自分たちで漬け

たたくあんを食べたいと言います。

味噌やたくあん、梅干など発酵し

ているものは非常に体にいいです。

とくに味噌は体内に入った有害なも

のを出す力が一番あると言います。

だから味噌汁は欠かせません。本物

であるということが一番なんです。

小さいときに本当においしい味を体

や舌に覚えさせることです。

料理の仕方はマクロビオティック

だから、皮を取りません。大根もニ

ンジンもむきません。ネギのひげ根

すら、小さく切って入れ込みます。

一物全体食です。

赤ちゃんの離乳食には玄米クリー

ムを出します。無農薬の玄米から、

手間暇かけてつくっています。赤

ちゃんは大好きで、本当にむしゃぶ

るように食べてくれます。

玄米クリームは滋養のある、すば

らしい食べものです。点滴しか入ら

ないような重篤の病人が出て、どう

しようもないとき、玄米クリームを

一滴でも飲み込んでくれたら、しめ

たものというほど力があります。

納豆は離乳食にも入れています。

発酵しているので赤ちゃんでもしっ

かり消化できます。ウンチに納豆が

出てくることは全くないです。食べ

飽きないように、醤油だけでなく味

噌や梅干で味つけしたり、刻み野菜

やしらす、ゴマを混ぜ込んで、工夫

しています。

0歳児も玄米をごはん茶碗一杯

に、お味噌汁もお椀一杯。「これだ

け赤ちゃんが食べるんですか」と驚

かれますが、みんなおいしいから集

中して食べています。残食を本当に

出しません。

子どもたちも「保育園の食事はお

いしい」と言って、残食を全く出し

ません。「保育園のお野菜は甘くて

おいしい。お母さん、保育園と同じ

お野菜を使ってね」と言い出す子も

います。子どもの方が、大人より味

覚が鋭く感性が豊かだと思います。

 子どものころの食は大切な原点

子どもの食事で一番大切なのは

何ですか?

それは素材ですね。素材がしっか

りしたものを選んで、できるだけシ

ンプルに、ごてごてした料理じゃな

くて、素材の味が活かされる料理。

それには和食がぴったりです。ソース、

ケチャップ、マヨネーズといったカタ

カナの調味料はまず使いません。

和食は健康食なんですよね。小さ

いときに、おいしいごはん、おいし

い味噌汁、それに発酵した漬物があ

れば、それでもう原点はおさえられ

ます。

卒園して大学生になって東京に

行った子が、夏休みに「ただいま」と

来てくれたことがあります。よく見

たら幼いころの面影が感じられまし

たが、180センチくらいにすっか

り大きくなっていました。玄米を食

べたいと言うんですね。ふだんは都

会でいろんなものを食べているんで

しょうけれど、味覚が原点に戻るん

でしょうね。だから食べたいだけ食

べなさいって言ったら、うれしそう

に食べていきました。子どものころ

に覚えた感覚が残っていて、本能や

体が要求するんだと思います。

最近は、若年性認知症が増えてい

るそうですが、それも玄米食は未然

に防ぐと言われています。食事の内

玄米和食で子どもが育つ!

ふだんの玄米和食。この日は小豆入り玄米ごはん、味噌汁、野菜の煮もの、納豆。

5

容だけでなく、玄米だとよく噛むの

がいいんでしょう。

そのように私たちが考える以上

に、食と健康のかかわりは深いと思

います。私たちの自覚が足りないだ

けです。食と健康の関係がもっと意

識されて、おいしく、楽しく、質の

いい食を、だれでも、いつでも、と

ることができるようにならなきゃ嘘

だと思います。お金もかからないん

だから。もっと本当の知恵を使った

らいい。本質的に元気じゃないと、

感性も鈍ってきますからね。

食の結果が便に出る

玄米和食の良さは

何で実感できますか?

すぐに分かるのは排便です。ぜひ

毎日のウンチを観察してみてくださ

い。食べ方や食べものの結果が分か

ります。よく噛んで食べたら浮きま

す。噛んでいないウンチは沈んでし

まいます。

それとお肉などの動物性たんぱく質

が多かったら臭いウンチが出ます。

日本人は欧米人に比べると腸が長

く、野菜や米などを消化しやすく、

肉や乳製品などの動物性たんぱく質

を消化するは得意ではありません。

肉食の歴史もまだ100年くらいし

か経っていません。だから肉類を多

く食べていると、腸内で腐敗して臭

いウンチが出ます。

穀物と野菜をしっかり噛んで、腹

八分目でおさめた食なら、そんな悪

臭はしません。歳をとってもそうで

す。よく親の介護で虐待をする原因

が、ウンチの臭いや後始末の不快さ

にあると言われています。ぼけてウ

ンチをあちこちに散らかされたら、

親といえども嫌になってしまう。死

ぬまで食べ続けるわけで、排便はつ

いて回ります。玄米和食なら、悪臭

のしない後始末のしやすいウンチを

出すことができます。

食の楽しさを伝える味噌づくり

保育園での味噌づくりについ

て教えてください。

五歳の園児が給食で食べる味噌を

すべて手づくりしています。そのた

め毎月100kg仕込みますが、男の

子も女の子も味噌をつくるのが大好

きです。

自分たちが食べるものを自分たち

でつくる。そのために仕事の段取り

など、いろいろ工夫することを体験

します。つくっているときは麹や煮

豆をこぼさないように慎重に扱い、

おしゃべりをせず、心を込めてつく

ります。食べものの大切さ、生きる

知恵を学びます。自分たちでつくっ

た味噌が毎日の給食になるのですか

ら、それは楽しいし、うれしいです

よね。

毎月仕込みますが、寒い季節は熟

成に一年かかり、暑くなってくると

四ヶ月ほどでできます。そうした気

温が発酵熟成に影響することも体で

つかんでいきます。ただ見ただけ、

聞いただけではそうはいきません。

お金で買っていたのでは、得られな

い体験なんです。

こうした実践で、食と子どもを深

く結びつけるのが一番いいやり方な

んです。一生食事をとらないで生き

ることはできません。夏は梅干、冬

はたくあんを漬けています。

広げたい家庭での手づくり

ほかに料理教室も

されているそうですね。

親子での料理教室を月に一回やっ

ています。この日はお母さんだけで

なく、お父さんやほかの兄弟も、家

族みんなで参加してくださいねとお

伝えしています。

おいしいマクロビオティックの料理

が初めての子は、おかわりをします。

「白米を玄米に代える必要があるのか」

と言っていたお父さんは、「こんなに

もちもちしておいしいとや」「こんな

給食を毎日食べている我が子がうら

やましい」とアンケートに書かれます。

教室で使った食材は、園で購入で

きるようにして、家庭でもこの食事

ができるようにしています。これで

健康で家庭円満に生活できる場が広

がったら素敵ですよね。前向きに生

きていく姿勢ができます。

卒園した親子の味噌づくりも毎月

第三土曜日にやっています。ここで

つくった味噌のおいしさと安全安心

が忘れられないから、お店で味噌を買

うのを、みな止めてしまいます。親子

6

お当番さん4人が前に出て、食器の位置を確認。食前の挨拶をしてから、100回噛む声かけをします。

煮豆と塩、麹を混ぜて、湯冷ましを加えて、よく手でこねます。足にきれいなポリ袋をはいて全身の力で豆をつぶしていきます。

で実践できる場を提供して、つくる

ことの楽しさを経験してもらえたら

と思っています。味噌を買わないで、

一年分を手づくりする家族があちこ

ちでできたらいいなと思います。

食の大切さを知ると、手当ても自然

なものになっていきます。熱が出た

らキャベツの葉を貼って30分経って、

一寝入りしたら、すっと熱が下がる

こともよく分かります。手当ての本

当の意味は、やはり心が寄り添って、

子どもの気持ちをきちっと受け止め

たところからです。薬や注射だけじゃ

ダメだなぁって、よく分かります。

体験する、ほめる、遊ばせる

子育てで大切なことは

何でしょうか?

ここでは何でも体験させ、考えさ

せます。おやつのおにぎりも五歳に

なったら自分たちでにぎらせます。

三角、丸、四角と、いろんなおにぎ

りの違いがどうしたらできるか、や

らせてみる。三角にするにはどうし

たらうまくできるか考えさせる。だ

んだんできるようになると、楽しく

なって喜びになります。ほかにも、

ごはんをよそったり、陶器の食器を

洗ったり、野菜を包丁で切ったり、

暮らしのなかの食にまつわるいろん

なことを体験させます。そうするこ

とで好奇心が満たされるだけでな

く、自分で考え、注意力が高まり、

感性も育っていくんですね。

それからほめます。五歳児は五時

を過ぎたら園庭をほうきできれいに

掃いたり、廊下は一日三回ぐらい

ぞうきんで拭きます。最後は職員の

いる事務室まできれいにしてくれま

す。すると「ひまわりさん(年長組の

名)って偉いねぇ。小さい子の代わ

りにちゃんとしてくれて」と、先生

たちが声をかけてくれます。それが

うれしいんですね。掃除が決して負

担になっていません。こうした人の

役に立つことがやりがいや生き甲斐

になれば、人間が本来のまっとうに

生きていくことと一致しますよね。

子どもをほめて、認め、受け入れて

あげることが、まず親がしてあげる

ことでしょう。

そしてしっかり遊ばせる。遊びに

夢中になる年ごろには、思いっきり

遊ばせた方が、子どもは伸びます。

あまり早いうちから英才教育をする

必要はないと思います。それよりも

全身を使って遊ばせる。思う存分、

遊ばせて、お腹がすいたら本物の食

事をきちって食べて、「おいしかった

よ。またあしたもお願いね」って言う。

これの繰り返しですよね。こうして、

生きることが楽しいことにつながっ

ていくのじゃないですかね。保育園

なら、お友達と一緒に「おいしいね、

おいしいね」と言いあって生きる、

喜びの世界です。

子どもは大人がちゃんとまじめに

伝えたら、子どもは分かるものです。

親や周りのメッセージをきちんと受

け取れる集中力のある方が、生きる

力があることは確かです。大人がど

う関わってあげるのか。まっすぐの

びのびと育った子どもたちを見てい

て、大人は誠心誠意、向かい合って

あげるのが当たり前で、お金やほか

のものにすり替えてはいけないと思

いますね。

食を長い目で見る感覚

いまの食についてご意見を

聞かせてください。

私はいま85歳ですが、毎日、朝昼

晩の三食、その集約がいまの私を支

えている寿命なんです。一食一食を

ていねいにしっかり噛んで腹八分目

で食べ続けたのか、好きなものをお

腹いっぱい食べ続けたのか、そうし

た食の違いで人生が変わっていくと

思うんです。

食は、そうした長いスパンで見る

感覚が必要だと思います。ただ目先

の欲に心を奪われて、おいしければ

いい、楽しければいい、便利ならいい、

そういう食の流れが和食自体を変え

てしまったと思うんですね。手て

間ま

暇ひま

がかかることは面倒がっている。

でも生きることをそんなに手短に

済ませていいのか、人生50年くらい

で死んでしまっていいの?って。そう

ではないだろうって思うんです。い

のちより便利さを大人が選んだら、

そのツケは大人じゃなくて、一番か

けがえのない子どもに出るんです。

ただその答えはすぐ目の前では見え

ない、すぐに死ぬわけではないから、

買ってきた添加物だらけのものを食

べていても平気で、便利さを選ぶん

でしょう。

昔は家庭生活の中で、おばあちゃ

んやお母さんが食の大切さを子ども

たちに伝えてきましたが、いまはそ

れがありません。包丁を使ったこと

のないお母さん、鍋のない家もざら

にあります。本当に壊れかかってい

ます。だから日本民族の将来が非常

に気になります。

地球規模で食料が思うように手に

入らない時代、飢えの時代は確実に

やって来ます。そういうことを諸も

々もろ

の感覚から考えたら、日本人は本当

にすばらしい食を有史以来つくって

きました。そのことをぜひ思い出し

てほしいです。

玄米和食で子どもが育つ!

7

大皿の料理を一粒残さず、きれいに配り分けて、食器も自分たちで洗います。