無鉛はんだ実装技術の動向 · 2019. 7. 24. · ― 35 ―...

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33 無鉛はんだ実装技術の動向 無鉛はんだ実装技術の動向 The Trend of Lead-Free Soldering Hiroshi Matsubara センター まれる 一つ して大きく げられてい る。 替が えてきた される んだ し, 題について る。 される ,大 して ① ,② ,③ んだ,④ ,⑤ ,⑥ して される がある。これら 替が ている が①~③ される ,Sn Ag ,Sn Ag Bi In ,Sn Zn ,Sn Cu Sn Bi がそ じて され じめている。 する んだ を拡大し, いレベル ある。また, に対する (LCA) んだ リサイクル ため みを める がある。 Recent environmental consciousness raises a great concern on the lead in solder used in electric appliances In this paper we report the trend and the current status of the lead free soldering technology used in the connections of the electrical components and devices for the substitution of the Pb Sn solder The lead solders used in electrical products can be classified into several groups as follows Flow soldering Re flow soldering Bit soldering Electrode of electrical components Inner connection of the electrical components Functional materials The lead free solders have begun to be used for the groups denoted as and among them There however still have some challenges to be overcome to develop the lead free technology for the groups of and Growing interest also demands the overall measures for total environmental protection such as LCA Life Cycle Assessment and the establishment of solder recycling system まえがき にに まれる 一つ して大きく げられ ている。 に対する して, によ まれる され ており,これま にガソリン, および されている。 に,ヨーロッパ において に対する (WEEE 第4 ドラフト)が され, レベル られている。 において に対す されてい して, んだ をリードした められている。 替が えてきた される んだ し, 題について る。 1. 電気・電子機器に使用される鉛 WEEE ジャ ンルに対し カドミ する案 っている。ブラ セラミック っている , 替が えてい んだ( っており,こ まま して するか あるが, 替 がある えている して される 違い ころ えら れる。 される ,大 して よう がある。 んだ(フロー んだ け)に まれ

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Page 1: 無鉛はんだ実装技術の動向 · 2019. 7. 24. · ― 35 ― 無鉛はんだ実装技術の動向 が発生することが上げられる。下地の金属の変更や, 溶融処理などによって改善が可能である。3)

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無鉛はんだ実装技術の動向

無鉛はんだ実装技術の動向

The Trend of Lead-Free Soldering

松 原 浩 司*Hiroshi Matsubara

* 生産技術開発推進本部 生産技術開発センター

要  旨

電気・電子機器の廃棄物中に含まれる鉛の問題は,近年,環境問題の一つとして大きく取り上げられている。本報告では,代替が見えてきた電気・電子機器の部品接続に使用される無鉛はんだ実装技術に関し,現在の技術動向と今後展開の課題について述べる。電気・電子機器で使用される鉛には,大別して,①

挿入実装用,②表面実装用,③糸はんだ,④部品電極端子用,⑤内部端子接続用,⑥部品内部の機能材料として使用されるものがある。これらの内,代替が見えて着ているのが①~③の外部接続用に使用されるはんだで,Sn-Ag系,Sn-Ag-Bi-In系,Sn-Zn系,Sn-Cu系,Sn-Bi系等がその用途に応じて使用されはじめている。今後は,部品端子や部品の内部端子接続に使用する

高温はんだ等へ適用を拡大し,高いレベルでの無鉛化が課題である。また,環境負荷に対する評価(LCA)やはんだ材料のリサイクル等,環境保全のための総合的な取り組みを進める必要がある。

Recent environmental consciousness raises a greatconcern on the lead in solder used in electric appliances. Inthis paper, we report the trend and the current status of thelead-free soldering technology used in the connections ofthe electrical components and devices for the substitutionof the Pb-Sn solder.The lead solders used in electrical products can be

classified into several groups as follows. (1)Flowsoldering, (2)Re-flow soldering, (3)Bit soldering, (4)Electrode of electrical components, (5) Inner connection ofthe electrical components, (6)Functional materials. Thelead-free solders have begun to be used for the groupsdenoted as (1),(2) and (3) among them. There, however,still have some challenges to be overcome to develop thelead-free technology for the groups of (4) and (5).Growing interest also demands the overall measures for

total environmental protection, such as LCA (Life Cycle

Assessment) and the establishment of solder recyclingsystem.

まえがき

電気・電子機器の廃棄物中にに含まれる鉛の問題は,近年,環境問題の一つとして大きく取り上げられている。環境に対する鉛の問題として,慢性中毒による血液中に含まれる鉛濃度と知能との相関が報告されており,これまでにガソリン,塗料および水道管等への使用が規制されている。2000年4月に,ヨーロッパにおいては,電気・電子機器に対する具体的な規制案(WEEE第4次ドラフト)が提出され,全世界レベルでの対応を迫られている。

一方,日本国内においては,具体的な鉛使用に対する規制案は決定されていないものの,電気業界全体の動きとして,代替材料の開発や,無鉛はんだの一部商品への適用など,世界をリードした開発・実用化が進められている。本報告では,代替が見えてきた電気・電子機器の部

品接続に使用される無鉛はんだ実装技術に関し,現在の技術動向と今後展開の課題について述べる。

1 . 電気・電子機器に使用される鉛

WEEEの規制案では,電気・電子機器の10のジャンルに対し水銀やカドミウム等の有害物質と共に規制する案となっている。ブラウン管やセラミック中の鉛酸化物などが適応除外となっているものの,代替が見えていない高温はんだ(融点300℃前後)も規制の対象となっており,このまま法律として成立するかは微妙であるが,代替材料がある程度見えているものに関しては,規制されるのは間違いの無いところと考えられる。

電気・電子機器で使用される鉛には,大別して次のようなものがある。①挿入実装用はんだ(フローはんだ付け)に含まれる鉛

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シャープ技 報 第79号・2001年4月

②表面実装用はんだ(リフローはんだ付け)に含まれる鉛

③修正あるいは手付け等に使用される糸はんだに含まれる鉛

④部品電極端子用はんだ(はんだボール,はんだめっき)に含まれる鉛

⑤内部端子接続用はんだに含まれる鉛⑥部品内部の機能材料として使用される鉛これらの鉛を含む材料の内,比較的代替が見えてき

ているのが①~③の外部接続用に使用されるはんだ材料である。以下にこれらはんだ材料および部品電極端子材料における技術動向とその課題について述べる。

2 . 無鉛はんだ材料

2・1 無鉛はんだの種類と特徴

無鉛はんだとしては各種のはんだが提案されているが,安全性,資源,コスト等を総合的に見て,Snベースの合金にならざるを得ない。従って,Snに数種の金属を混ぜることによって融点や濡れ性をSn-Pbはんだに近づける努力が続けられている。以下にこれら材料の特徴を記す。(1)Sn-Ag系はんだ(Cu添加,Bi添加なし)Sn-Ag共晶はんだにCuを添加し,濡れ性,熱疲労

特性,クリープ特性を改善したものである。このはんだは,リフロー/フロープロセスに使用され,また,糸はんだ等に加工し易いと言う特徴がある。ただし,Sn-Pbはんだと比較して融点が少し高くなる欠点がある。(2)Sn-Ag系(Bi少量)Sn-Ag共晶はんだにBiを添加して融点を下げて,濡

れ性を改善したものである。Sn-Ag共晶はんだの優れた性質を生かしつつ若干融点を下げている。このはんだについても,Sn-Pbはんだと比較して,融点が少し高い欠点がある。また,Biの濃度が高くなるにつれ42アロイ材料との接合性が悪くなるという問題がある。また,フローはんだ付けに使用した場合,Biの増加によりフィレットリフティングが多発すると言う問題がある。(3)Sn-Bi系このはんだは,融点が157℃近辺で非常に低く,通

常用途としては使用はできないが,一部の耐熱性に対する要求の小さいものには使用できる可能性がある。(4)Sn-Ag-Bi-In系Sn-Ag系の無鉛はんだは,若干融点が高いため,搭

載する部品やプロセスによっては,部品耐熱温度を超える恐れがある。一方Biを多く添加すると,脆性や42アロイとの接合性が悪い問題がある。このため,は

んだの融点を下げる目的で,Inを添加したものがこのはんだである。このはんだの問題は,非常に高価で供給量の少ないInを使用することで,大量且つ継続的に使用することができないことである。(5)Sn-Zn系この系は,融点が低く,また金属材料コストが有利

であることから,安定した供給がされるものと期待される。しかしながら,Znの反応性が高いため,はんだペーストの保存性や,印刷工程においてスクリーン上で酸化による粘度変化等,作業性の問題がある。本はんだでは,リフロー時のプリヒートで不活性,接続時に活性となるようなフラックスの開発が重要である。また,フローはんだ付けに関しては,Znの酸化を

防止する観点から不活性雰囲気(N2)でのプロセスが必須であり,高い装置コストが要求される。(6)Sn-Cu系(Ni等を微少量添加)この材料は,融点が227℃と高く,リフロープロセ

スには不向きであるが,銀などの高価な材料を使用していないためコスト的に安く,片面のフロー接続用として有効である。しかしながら,強度的にPb-Snはんだと比較して弱いことと,両面基板ではフィレットリフティングが発生し易いなどの課題がある。

2・2 部品端子の無鉛化先にも述べたように,多くの電子部品の端子部は,

Pb-Snめっきが施されている。環境問題を考えた場合,当然これら部品端子めっきについても無鉛化が必要である。はんだ層の形成方法は,溶融はんだへのディップあるいは,無電解めっきされることが多い。ディップでは,Pb-Snの共晶組成に近いもの,無電解めっきでは,Sn-5~ 20wt%Pbの組成が多い。無電解めっきでは,めっき液の疲労度,浴温,PHの変化などによりめっきされる組成比にばらつきを生じることと,はんだ組成としてPbの組成比が40wt%以上になると,接続強度が急激に低下することから,Pbの含有量を少なく設定して製造している。Pbの組成比が増加すると急激に接合強度が低下する原因は,はんだ付けにおける接合において,Pbの成分は,主に濡れ性に寄与し,金属接合はSnによって行われるためと考えられている。このはんだPb-Snめっきの代替としては以下のもの

が提案されている。(1)無電解Snめっき生産装置など,現行のインフラを流用でき,また,

技術的にも安定しているため,導入が最も容易に行えるのがこのめっきである。はんだの濡れ性も良好で接続性に問題はない。しかしながら,Sn特有の問題として,高温放置,熱衝撃などの環境下においてホイスカ

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無鉛はんだ実装技術の動向

が発生することが上げられる。下地の金属の変更や,溶融処理などによって改善が可能である。3)

(2)無電解Sn-AgめっきSnと少量(約2wt%)のAgを析出させるもので,は

んだの濡れ性も良好で接続性に問題はない。また,Snめっきに見られるようなホイスカの発生も少ない。しかしながら,イオン化傾向の大きく異なる金属を同時に析出させるため,めっき液の構成が複雑でめっき浴の管理条件など不明確な点が多いく,量産時の安定したプロセス確立が課題である。(3)無電解Sn-BiめっきSnと少量(約2wt%)のBiを析出させるもので,は

んだの濡れ性も良好で接続性に問題はない。また,Snめっきに見られるようなホイスカの発生も少ない。また,Sn-Ag系のめっきと比較すると,イオン化傾向の差も大きくなく比較的安定しためっき条件のようである。但し,母材がNi系金属の場合,接続性がやや低下する傾向がある。今後の課題としては,Biが入っているため,フローはんだ付けなどの際にはんだ浴中にBiが蓄積され,フィレットリフティングの原因とならないかなど,量産における問題を明確化する必要がある。(4)無電解PdめっきこのPdめっきは,主にICパッケージのリードめっ

きとして使用されるもので,Cuリードの上にNi,Pdの順にめっきするものである。最近は,はんだ付け性を改善するために,Pdの上にさらにAuのフラッシュめっきを行っているものもある。このめっきの特徴として,はんだの濡れ広がり性が悪いものの接続強度は強いことが特徴である。本めっきは,42Alloy系のリードでは,実施できない。以上の4種のめっき処理した部品と2・1で述べた

各種無鉛はんだとの接続性は,概ね良好であり,部品めっきの種類に合わせて接続用のはんだを選定する必要は無い。むしろ,Pb-Snはんだめっき部品を使用してSn-Ag系あるいはSn-Cu系はんだでフロー接続した場合にフィレットリフティングが発生し易く,部品端子の早期無鉛化が望まれる。部品端子の無鉛化に関しては,国内大手部品メーカ

から2001年中に対応することが発表されており,順次実用化が進んで行くものと考えられる。

3 . 無鉛はんだ実装技術の実用化

これまでに述べてきたように,多くの無鉛はんだ材料が提案されている。日本国内においては,日本電子工業振興協会(現電子情報技術産業協会)が提案2)したSn-3.0Ag-0.5Cuはんだがあるが,実際には,その特

性に応じて,各種材料での実用化が図られている。表1にその例を記す。表1の実用例では,ほとんどの基板において部品の

端子めっきはPb-Snを使用している。今後は,部品端子めっきの採用による高いレベルでの無鉛化が課題である.                    

表1 無鉛はんだ適用商品例6)

Table 1 Actual examples of electric products using lead-free

solder.

4 . 今後の展開・課題

日本国内では,Sn-3Ag-0.5Cuを中心として,各種はんだ合金が使用されているのが現状である。一方,海外では,表2に示すはんだが推奨されており,主にSn-Ag-Cu系を中心として,実用化が進んで行くと思われる。

一方,無鉛はんだを使用していく上での課題には,以下のものが考えられる。(1)はんだを無害化しても,資源保護の観点からリサイクルを行うことは必須であり,そのシステムの確立を図ることが重要である。また,各種はんだ材料が使用された場合に,回収・リサイクルが難しくなる恐れがある。このため,欧州では,Zn系の材料を敬遠しているようである。(2)Sn-Ag-Cu系はんだの場合,融点が高くなるためプロセス温度を上げる必要がある。このため,装置の消費電力が増加し環境負荷が増加する。鉛による環

表2 各地域で推奨(提案)された無鉛はんだ組成

Table 2 Components of lead-free solders recommended in

each area.

はんだ組成�

Sn-Ag系�

Sn-Ag系(Bi少量)�

Sn-Bi系�

Sn-Ag-Bi-In系�

Sn-Zn系�

Sn-Cu系�

採用商品� はんだ付けプロセス�

洗濯機,冷蔵庫等�

ディジタルビデオカメラ�

大型サーバ�

ミニディスク�

パーソナルコンピュータ�

ビデオデッキ�

フロー�

リフロー�

リフロー�

リフロー�

リフロー�

フロー�

地域�

日本�

米国�

欧州�

推奨(提案)団体� はんだ組成�

JEIDA�

MENI�

ITRI�

IDEALS

Sn-3Ag-0.5Cu�

Sn-3.9Ag-0.6Cu�

Sn-3.4~4.1Ag-0.45~0.9Cu�

Sn-3.8g-0.7Cu�

Sn-3.8g-0.7Cu-0.5Sb

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シャープ技 報 第79号・2001年4月

境汚染とCO2増加がトレードオフの関係であり,RCA的手法による解析が待たれるところである。(3)部品内部の接続に使用する高温はんだは,これまでSn-95Pb等の300℃程度の融点を有する材料が使用されているが,良好な代替材料が見つかっていない。金属合金では難しいとの意見もあり,導電性ペーストを含めた広い開発が進められている。(4)機能材料として使用している鉛の代替はさらに難しい。但し,ガラスやセラミック中の鉛は,比較的安定な状態と思われるため,自然環境に置いた場合にどの程度鉛が溶出するか,正確な評価を行う必要がある。

むすび

無鉛はんだの採用は,ようやく緒についた状態であり,これから多くの課題が見えてくるものと思われる。特に,リサイクルを考えた場合には,一企業の取り組みでは不充分であり,使用するはんだ材料の表示方法や回収・処理方法の確立など,業界全体での取り組みが重要である。本年4月に施行された特定家庭用

機器再商品化法(廃家電リサイクル法)や,WEEEの4次ドラフトなど,今後環境保護に向けた法制化が進みつつあるが,法制化のみにとらわれず,地球環境の保全のために,何をすべきか何ができるかを考え,着実に実行して行くことがこれからの企業の責務であり,また,技術者として心すべきことと考える。

参考資料1) “鉛フリーはんだロードマップ -その実用化へのシナリオ-”,社

団法人日本電子工業振興協会・環境調和型実装技術専門委員

会(1998.2).

2) 鉛フリーはんだに関する調査研究成果報告書,社団法人日本電

子工業振興協会(2000.7).

3) 鎌田信雄他,“鉛フリーはんだに対応する部品めっきは?”,鉛フ

リーはんだ実用化セミナー 予稿集・日本溶接協会(2000.11).

4) 渥美幸一郎,“エレクトロニクス微細接合と環境調和 -鉛フリー

はんだ付け技術の現状と課題-”,平成10年度 溶接学会 春季大

会 オーガナイズドセッション(1998.4.17).

5) 鉛フリーはんだ評価報告集 vol.1,回路実装学会 環境保全・リサ

イクル技術委員会 鉛フリーはんだ研究会(1998).

6) 日経エレクトロニクス,12-4 2000, P145~P160.

(2001年1月31日受理)