幸福度に関する研究~ 経済的豊かさは幸福と関係が …esri discussion paper...

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ESRI Discussion Paper Series No.182 幸福度に関する研究 ~経済的ゆたかさは幸福と関係があるのか~ By 袖川 芳之・田邊 健 May 2007 内閣府経済社会総合研究所 Economic and Social Research Institute Cabinet Office Tokyo, Japan

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Page 1: 幸福度に関する研究~ 経済的豊かさは幸福と関係が …ESRI Discussion Paper Series No.182 幸福度に関する研究 ~経済的ゆたかさは幸福と関係があるのか~

ESRI Discussion Paper Series No.182

幸福度に関する研究 ~経済的ゆたかさは幸福と関係があるのか~

By

袖川 芳之・田邊 健

May 2007

内閣府経済社会総合研究所 Economic and Social Research Institute

Cabinet Office Tokyo, Japan

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ESRIディスカッション・ペーパー・シリーズは、内閣府経済社会総合研究所の研

究者および外部研究者によって行われた研究成果をとりまとめたものです。学界、研究

機関等の関係する方々から幅広くコメントを頂き、今後の研究に役立てることを意図し

て発表しております。 論文は、すべて研究者個人の責任で執筆されており、内閣府経済社会総合研究所の見

解を示すものではありません。

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幸福度に関する研究 ~経済的ゆたかさは幸福と関係があるのか~

平成19年5月

袖川 芳之

株式会社電通消費者研究センター情報サービス室プランニング・ディレクター (前内閣府経済社会総合研究所政策企画調査官)

田邊 健

東大和市役所課税課主事 (前内閣府経済社会総合研究所行政実務研修員)

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要 約

「戦後、一人当たりGDPが数倍に高まったのに、国民の幸福感が高まらないのはな

ぜか」という問いに対して、先行研究は幸福度が高まらない理由について経済合理的

な説明をするにとどまっている。そこで、本稿では主観的幸福度の質的な中身を再検

討し、経済成長と連動して主観的幸福度を高める可能性を考察した。 主観的幸福度は質問のフレーミングの仕方で測定する側面が変わるため、幸福感

を「将来に対する期待の幸福感」、「現状の生活満足についての幸福感」、「経済的な

豊かさの幸福感」に分け、「期待幸福」がマクロ経済指標を含む社会指標と連動した幸

福感であるという仮説を検証すべく、インターネットによる調査を行った。 その結果、「期待幸福」が経済成長を含む社会マクロ指標と連動することを確認した。

また、「期待幸福」を高めるためには、「自分の尊厳イメージと他人からの承認が一致し

ていること」および「一日のうちで仕事と余暇とを問わず充実した時間が何割あるかとい

う“時間密度”」が寄与する可能性を調査のデータで示した。

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Study on Happiness; Subjective Well-Being and Economic Growth

Yoshiyuki Sodekawa (Planning Director

Center For Consumer Studies Dentsu Inc.)

Takeshi Tanabe (Higashiyamato City)

Abstract

In affluent countries such as U.S., the U.K. as well as Japan, subjective well-being

remains unchanged for the past fifty years whereas the per capita GDP has increased several times. The answer to this issue has already discussed in terms of economics. This paper tries to provide more advanced answer; how we can gear the increase of per capita GDP up for the increase of subjective well-being of a nation, taking specifically the Japanese case.

This paper tries to find out specific aspect of subjective well-being by analyzing the result of the originally implemented internet research, and concludes that expectations to the future, which is a part of subjective well-being, will rise in accordance with the increase of economy.

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1.幸福度研究の課題設定 戦後、一人当たりGDPが数倍に高まったのに、国民の幸福感が高まらないのはなぜか。 このような問いが国内外の一部の経済学者の間で関心を集めている。この現象は日本だけで

なく、米国、英国でも観察されている。経済学では経済合理的な選択によって最も効用(=自分

にとって幸福感を高めるもの)の高いものと貨幣を交換するため、消費の額が大きければ効用も

高まるはずなのに、そうなっていないことが問題とされている。 この問いは、GDPという基数的に把握できるものと国民の主観的幸福度を対比させているわ

けだが、この問いは、主観的幸福度は基数的に把握できるのかということと、また主観的幸福度

を効用と素直に置き換えてもよいのか、という二つの問いを含んでいる。 しかし、前者の問題については1930年代以降、効用は基数的には測ることができず、個人間

で比較することも、同一個人で異時点間の比較をすることもできないということで決着がついてい

る。しかし、もうひとつの問い、経済的な効用が幸福と素直に置き換えられるのかについてはまだ

決着がついていない。社会の経済的成長や個人の消費によって得られる効用は、主観的幸福

度とは異なるものであるかもしれないからだ。 本稿では、一人当たりGDPと主観的幸福度との関係について、ブルーノ・フライ&アロイス・ス

タッツアーらが進めてきた従来の議論とは異なるアプローチを展開したい。つまり一人当たり

GDP と主観的幸福度について、本来一致すべきものが一致しないという視点ではなく、本来一

致すべきものなのかという視点から検討すべきだという立場をとった。そして次の項目について順

に考察を進めていきたい。 まず、日本の主観的幸福感について、それが何を表しているのかを検討する。 次に、その考察から、客観的幸福感と主観的幸福感との違いを考察する。 そして、「経済成長と連動する主観的幸福感」という概念が成立する可能性を示す。 最後は、その仮説を検証するための調査結果を紹介した上で、今後の政策へのインプリケー

ションを述べていくことにする。

2.効用と幸福 主観的幸福度を判断する対象と尺度は普遍的か

まず、ブルーノ・フライ&アロイス・スタッツァーやリチャード・レイヤードらが与件として取り上げ

ている「主観的幸福度」(SWB: Subjective Well-Being)について、主観的幸福度は心の中の

何を評価しているのかということを検討する。 本論のテーマで取り扱われている主観的幸福度とは、具体的には 1958 年以来、内閣府(平

成6年以前は総理府)がとりまとめてきた「国民生活に関する世論調査」の中にある「生活満足

度」のことである。 この「生活満足度」(以降では「主観的幸福度」という場合もある)は個人の心の中にある何を対

象として評価したものだろうか。また、フライらの問題提起では、一人あたりGDP(客観的指標)と

主観的幸福度を時系列的にマッチングさせているが、過去の主観的幸福度の中身と現在の中

身では、幸福度を判断する対象や基準が異なるのではないか、という疑問もある。過去に、何を

対象・基準として幸福感を表明したのかは正確にはわからないが、当時の生活の状況をみると、

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現在とは対象・中身が異なることを推測できる。そこで、「国民生活に関する世論調査」が始まっ

た 1958 年(昭和33年)の状況を振り返ってみた。 1958 年は、現在からみれば高度経済成長期が始まる直前で戦後の復興途上期である。三種

の神器ブームの中で 1956 年の経済白書の中には「もはや戦後ではない」と記述が見られるもの

の、57年にはなべ底不況に陥っていた1。歴史を振り返る視点からすると、この直後に高度経済

成長期が到来するのだが、当時の人々にはそれを予想できなかった。後に団塊の世代と呼ばれ

る世代は小学生であり、中卒での就職が一般的であったこの時代では、多少景気が良くなったと

しても市場は大量の労働者を吸収できず、労働過剰による失業が増えるのではないかという危

惧があり、心理的には不安の大きな年であった。 「国民生活に関する世論調査」が開始されたのはこのような状況下で、この調査の目的は、戦

後の復興の中で国民の衣食住を中心とした生活要素がどの程度整ってきたか、また国民が日常

生活の中で不便を感じている点は何かを政府が把握し、政策に活かすためであった。質問項目

も、「生活満足度」の他、「物の充実か、心の充実か」「生活の重視点」「生活水準の相対比較(上

中下流意識)」など現在まで時系列に把握されている項目がある一方、以下のような質問も同時

に尋ねられている。 • 配給米の不足について(量は足りているか、何日分必要か) • 米のつき方(精白)はどの程度がよいか • ナイロン製品の購入経験の有無 • 生活水準(ソ連と比べて、西ドイツと比べて、戦後直後と比べて)

それでもこの時代の人々の過半数の生活意識の回答は「中流」であり、かつ生活満足度は60

パーセント前後2になっている。 生活水準の相対的比較で過半数の人が「中流」と答えていることから見ても、この時代の「生活

満足度」が絶対水準ではなく周囲との相対比較で判断されている可能性が高い。この時代の「生

活満足度」を、現在の状況で、同じ水準のものとして論じるのは明らかに無理がある。 このように、衣食住の豊かさを最重視している時代では何を幸福と感じるかという対象が現在と

は異なる。従って、この時代の「生活満足度」60%と現在の「生活満足度」60%を、一人当たり

GDP のような客観的かつ基数的に把握された数値に呼応させて、同水準であると判断すること

はできない。

生活満足度は本当に経済の動きと連動していないか 数十年の期間を通して、主観的幸福度を一人当たり GDP のような客観的かつ基数的数値に呼

応するものと捉えるのには無理があるが、経済的な局面が著しく変わらない十年程度の期間では

一人当たり GDP と主観的幸福度とは、ある程度の相関関係があるのではないだろうか。生活満足

度は巨視的に見ると安定的な数字であるものの、約50年の間に、最低点は74年11月の50.4パ

ーセントから最高点は95年の72.7パーセントまで、22.3ポイント幅の間で変動している。 そこで、生活満足度の推移の変動を景気の山と谷に合わせてみると、景気の山に向かう時期

1 実際にはこの年の秋からいざなぎ景気が始まり、高度経済成長期に突入する。 2 次ページの図1参照

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に必ずしも生活満足度が高まっているわけではないことがわかる(図 1 の実線の短い矢印)。先

行性、遅行性を考慮しても明確な法則的な動きはみられない。 <図 1> 生活満足度と景気の山と谷

例えば、バブル経済期の生活満足度は、円高不況であった85年を頂点としてバブル経済期

には一貫して下降している。バブル崩壊後に生活満足度はいったん上昇するが、長期化する平

成不況の中で再び徐々に下げている。2001年からは、不況から脱出したわけではない時期か

ら若干上向きのトレンドが生まれている。 しかし、オイルショック後の調査(74年1月と11月)では明らかに生活満足度が低下しており、

急激なマイナスの経済変化には直接的に連動している。また、バブル経済崩壊後の「失われた

10 年」といわれた 90 年代の長期不況時にもマイナストレンドが継続している。 以上の考察から、景気変動と主観的幸福度(生活満足度)とは規則的な連動は見られないも

のの、急激な経済状況の悪化や長期的なマイナストレンドなどのネガティブな刺激に対しては、

生活満足度はネガティブに連動することがわかる。

世代で異なる幸福度の時系列推移 以上の考察は日本国民全体の平均値で見たものであるが、近年の「生活満足度」が若者層と

シニア層が高く 30~50 歳代の層で低いというように年齢間で差がある。このような場合には、平

均値だけで語るのは妥当ではない。 そこで、5歳年齢階層別に生活満足度を時系列で把握してみた3。年齢階層別にデータがある

1965年(昭和40年)以降の男性の年齢別グラフの推移は図2(次ページを参照)のようになる。

3 レイヤードらは幸福度に年齢は影響しないとしているが、日本の「生活満足度」では若者層とシニア層が高く、30

~50歳のいわゆる子育てファミリー層の生活満足度が低下している。そのため、5歳階層でグラフを描くとU字を描

く。この傾向は女性よりも特に男性に強く出る。

<図1>生活満足度と景気の山と谷

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ック

高度経済成長期

(

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(%)

 

高度経済成長

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<図2>5歳階層別の「生活満足度」の時系列推移(男性のみ)

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20~24 25~29 30~34 35~39 40~44 45~49 50~54 55~59 60~64 65~69 70 歳以上

% S42.6

S43.1

S44.1

S45.1

S46.1

S46.8

S47.1

S48

(1) S42.6~S48

注1 は、団塊の世代を中核とする年齢層を示している。 注2 S42.6~57 年の間で、10 歳刻みのデータなので、5 歳刻みにするため

に、各年代で 0~4 歳と 5~9 歳には、元データの同じ値を入力した。

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20~24 25~29 30~34 35~39 40~44 45~49 50~54 55~59 60~64 65~69 70 歳以上

S61

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H1

H2

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(4) S61~H3

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20~24 25~29 30~34 35~39 40~44 45~49 50~54 55~59 60~64 65~69 70 歳以上

% S52

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(3) S51~S60

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20~24 25~29 30~34 35~39 40~44 45~49 50~54 55~59 60~64 65~69 70 歳以上

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H9

H11

(5) H4~H11

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20~24 25~29 30~34 35~39 40~44 45~49 50~54 55~59 60~64 65~69 70 歳以上

H13

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(6)H13~H17

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20~24 25~29 30~34 35~39 40~44 45~49 50~54 55~59 60~64 65~69 70 歳以上

S49.6

S50.5

S50.11

S51.5

S51.11

(2) S49.6~S51.1

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1965年(昭和40年)当時の生活満足度は、年齢による差は大きくなく、年齢が高まるに従って

ゆるやかに生活満足度も高まるという形であった。それが次第に20代の生活満足度が下がり始

め、その後の世代を引き連れながら「生活満足度」が停滞する層を形成している。その層が現在

50歳台後半になっている。 すなわち、このたるみを作り、一貫してたるみを引き連れているのが、いわゆる団塊の世代(19

47年から49年生まれ)を中核とする世代である。団塊の世代は、20 代の頃から生活満足度は

50 パーセント程度で停滞している。それに対して、団塊の世代より上の世代は、1958年からの

60 年間に「生活満足度」を 60 ポイントから 80 ポイント近くまで高めてきたといえる。 今後、団塊の世代を中心とする男性層が定年を迎え、現在の 60 歳以上人々の生活満足度並

みに上昇するのか、あるいは戦後からのトレンドを引き継いで停滞を続けるのかによって、日本

人全体の生活満足度の水準が変化する可能性がある。 要するに、昭和40年代初頭の主観的幸福度(生活満足度)の平均値60パーセントと、現在の

平均値60パーセントとは、構成するサンプルの分布が異なるのである。従って、平均値が同じで

も、同じ数値とみなすことには抵抗がある、やはり、時系列的に一人当たり GDP の数字とマッチ

ングさせることはできないだろう。 以上、一人当たり GDP と主観的幸福度(生活満足度)との関係を要約すると以下のようにな

る。 (1)過去の「生活満足度」と現在の「生活満足度」は、評価の基となる対象や基準が時代によっ

て異なるので、時系列的に数値を比較することはできない。 (2)「生活満足度」は、時代によって年齢による偏りがあり、やはり時系列的に数値を比較するこ

とはできない。 (3)とはいえ、マイナスの急激な経済変動や長期の景気停滞に対しては「生活満足度」は連動

して低下する。 このように、先行研究が与件として取り扱ってきた主観的幸福度は、数十年におよぶ長期の時

系列で比較する数値としては適当ではない。しかし、景気がマイナスになると「生活満足度」が低

下することから、「生活満足度」は経済的豊かさと全く関連がないわけではない。いわば、上方硬

直性のある指標のようにも見える。レイヤードやフライらの幸福度と一人あたりGDPに関する先行

研究は、なぜ上方硬直性があるのかについて経済学的に明らかにすることには大きな寄与をし

てきたと言えるだろう。しかし、なぜ一人あたりGDPが、本質的に幸福度に寄与しないのかという

本質については別の角度からの検討が必要である。 つまり、一人あたりGDPが高まると当然に幸福度が高まるという素直な実感がなぜ“数値とし

て”観察されないか、そして幸福感という感情の全体(客観的な幸福)の中で、主観的幸福度とい

う指標が占める領域を見極める必要がある。要するに、幸福度(生活満足度)には主観的幸福度

で測定される感情以外にも様々な幸福感が存在し、一人当たり GDP の水準と連動する幸福感

が見過ごされている可能性があるということである。この点を検討するために、客観的な幸福から

のアプローチを試みたい。

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3.「客観的な幸福の構造」と「主観的幸福度」 幸福度の多面性

そこでもう一歩踏み込んで、主観的幸福度ではなく、幸福感の全体=「客観的にみた幸福」の

構造を考えることで、幸福感の全体像を把握し、主観的幸福度(生活満足度)はそのうちのどの

側面を測定しているのかを明らかにしてみたい。 リチャード・レイヤードは幸福(客観的幸福)に影響をもたらす7つの要因をビッグ・セブン(Big

Seven)として紹介している4。これらの要素は幸福感についての一種の全体像を示している。

<幸福に影響を与える 7 大要素(Big Seven)> (1)家族関係、(2)家計の状況、(3)雇用状況、(4)コミュニティと友人、

(5)健康、(6)個人の自由、(7)個人の価値観

これは General Social Survey の結果から得られたものとしている。また、この 7 つの要因のう

ち、家族関係が最も幸福に与える影響力が大きく、健康状態までは優先度の順位にもなってい

るという。また、イングルハート ミシガン大学教授の世界価値観調査(World Values Survey)

の結果についても、この要因で幸福度の80パーセントを説明できるとしている。しかし、この7つ

の要素は、幸福感を一見少ない要素に収斂させているようにみえるものの、その要素は多岐に

わたっている上に相互の独立性が高く、幸福感の構成要素を広範に集めたものであるにとどまり、

強固な構造を示したことにはなっていない。 幸福感の構造分析では、過去に、幸福の全貌を捉えるために幸福の構造分析を行った例が

ある。1978年実施の「第4回国民生活選好度調査」では、東京大学の飽戸弘助教授(当時)が

中心となって、幸福の構造分析を行っている。 この調査分析では、4通りの手法で把握した幸福度と生活満足度のあわせて 5 種類の指数を

把握している。それらは幸福感を、(1)「非常に幸福だ」「やや幸福だ」という5段階で把握するも

の、(2)「非常に幸福だ」から「非常に不幸だ」までの11段階(中央は「どちらでもない」)で把握

するもの、(3)幸福とは直接関係がない心理ムードに関する質問をして、ポジティブな回答(P)か

らネガティブな回答(N)を差し引きしてその結果を点数化したもの、(4)27の生活領域別5に 5段階で満足度を把握したもの、である。これに加えて(5)「生活満足度」も「非常に満足だ」「やや

満足だ」という5段階とっている。それぞれの測定方法について飽戸らは以下のようなネーミング

をつけている。

4 Richard Layard Happiness 2005 p63 5 ちなみに、(4)の27の領域とは、「平穏」「夫婦生活」「親子」「本人の健康」「家族の健康」「物質的豊かさ」「働き

がい」「昇進」「経済的安定度」「職場の友人」「近隣親戚」「遊び」「性愛」「自由」「社会的承認」「地位満足」「活動

性」「新奇制」「攻撃性」「支配」「自然」「審美」「安全」「相対的幸福」「希望」「野心」「出世」の27のテーマ内容を文

章にし、「非常にそう感じる」~「全くそう感じない」という 5 段階のスケールで把握したものである。

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(1)幸福感・・・「非常に幸福」「まあ幸福」「あまり幸福ではない」の 3 段階による把握 (2)幸福感情(P-N 得点)・・・幸福に関連する項目(この 2~3 週間のあいだに、「何かに熱中

したり興味をもったことがありますか」など 10 項目)の「はい」から「いいえ」を引いた得

点 (3)幸福別領域・・・夫婦生活、働きがいなど 27 領域について「非常にそう感じる」~「全くそ

う感じない」の 5 段階で評価したもの (4)総合幸福度・・・0 から 10 までの 11 段階で幸福度を測定したもの (5)生活満足度・・・「非常に満足」「まあ満足」~「全く満足ではない」の5段階による把握

これを同時に(シングルソースとして)把握している国民生活選好度調査の「ニーズと重視度」と

してとっている60項目と併せて因子分析した結果、以下のようなことがわかった。 ○生活満足度・・・収入、貯蓄、住居など即物的なものの評価

(経済的豊かさ+住と暮らし環境の評価) ○幸福感・・・生活満足度に心理的、審美的な要素を加味したもの。きわめて表面的な個人感

情の評価で、深く考えていない。領域的にも、家族の夫婦・親子関係や学歴の満足

度など個人的な要素の評価。 (例.住居面積、所得、持ち家でもローンがあると幸福感は低下する)

○幸福感情・・・社会的な関係も含めて評価。相対比較、コスト-ベネフィット関係も計算した

上で評価。 ○幸福領域・・・自分が重視する領域でひとつでも幸福であると全体の「幸福感」がポジティブ

になる。

そして、27の領域別に把握した満足度から幸福度の構造を把握した結果、この報告書では

「どこの領域であれ、どこかで幸福と感じた人は全体的な幸福感や幸福感情で自分は幸せだと

感じることになる。」としている。 リチャード・レイヤードやブルーノ・フライらは「生活満足度」と「幸福度」は主観的に測定すると

差がないとしているが、この分析の結論では明らかな差がみられる。飽戸らは「幸福度」と「生活

満足度」とは「異なる側面を把握している」としている。 こうしてみると、まず、「生活満足度」と主観的幸福度は異なるものであること、また、幸福感同

士でも問い方によってニュアンスが変わってくることがわかる。 たとえば「“愛”とは何か」とたずねられた時、人によって「男女の愛」を想起するかも知れないし、

「親子の愛」を想起するかもしれない。あるいはエロスの愛やアガヴェの愛を思い浮かべるかもし

れない。「愛があるか」と訊かれた場合、個人が愛のどの側面を想起するかは、尋ねられた時の

状況やムードによる。その蓋然性を取り除くには、質問の際に「親子の愛について」などというフ

レーミングをせざるを得ない。質問者が対象者に対して、愛に関する全ての領域を想起し、それ

らを統合した愛についての判断を知りたいと思っても、答える側はそのような考え方をしないだろ

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う。 幸福に関しても、同じようなことが起こっている可能性が高い。調査ではフレーミングを意図し

ていなくても、設問の順番やその前後の設問内容がフレーミングの効果を生む場合がある。 幸福度が問い方によって変化するということは、特定の領域について問うと、ある面がフレーミ

ングされて深く判断して回答されるが、領域がフレーミングされない場合は、直感的な浅い情報

処理の判断で回答される。このように考えると、主観的幸福度として測定されているものは、何ら

かのフレーミングがされた幸福度か、(一人当たり GDP と連動するようなものではない)ただ漠然

とした幸福感のどちらかだと理解できる。 結論としては、「幸福度とは何か」を把握することは、実はこちらが何を問うかということと同じこ

とになる。 このように、幸福度とは多面的なものであり、緻密な構造を持つものというよりは、多くの要素の

集合体のようなものである。

不幸の残余が幸福になるか 幸福が多面的で捉えにくいものであれば、幸福を反対の側面、すなわち“幸福であるものがな

い状態”を幸福だと考えて、幸福を不幸の補集合として捉える考え方があるのではないか。 しかし、多くの識者によって、幸福の反対は不幸ではないとされている。例えば、バートランド・

ラッセルは「幸福論」(1930)の中で、幸福の反対は不幸ではなく、退屈であるとしている。ケイン

ズも、退屈は経済的豊かさを克服した後に人類が直面する最大の危機であるとしている6。多くの

識者が指摘するのは、幸福の反対概念は不幸ではなく、退屈や無力感であるということである7。 それを裏付けるように、今回オリジナルに行ったインターネット調査の結果でも伺えるのは、一

人の人間の心の中に幸福と不幸が同居しうるということだ(図3参照)。この調査では、「全く幸福」

の他に、「いろいろ問題はあるが幸福だ」「だいたい幸福だが不安や退屈を抱えている」などの項

目を設けたが、いずれにも回答があった。ある面で不幸であっても他の面で幸福であれば幸福

であると感じることは可能ということである。 幸福感に対して、不幸はきわめて個人的・個別的な事象であり、不幸を感じる原因が明らかで

特定しやすく、刺激-反応の因果関係として捉えやすい感情である。幸福と不幸は同じ直線上

に並べられる概念ではない。従って、幸福度を測定する際には、幸福から不幸にわたるリニアな

尺度ではなく、幸福度のみの尺度で測定するべきである。よって、幸福感の残余から幸福感の

全体を捉えることも困難である。

6 Richard Layard 上掲書 p74 7 ただし、レイヤードは幸福であると同時に不幸であることはできないという理由で、「幸福の反対は不幸である」と

している。

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12

<図3> 幸福感と不幸との同居可能性

幸福度の重層性

幸福感が不幸と共存し、時には不幸の陰影をまとって幸福が成立しているということは、幸福が

単純で能天気なハッピー状態ではない、ということだ。それよりは、不幸を経験して初めて実感さ

れるとか、不幸があるおかげで幸福が際立つ感情でもある点だ。病気を克服して初めて健康の

ありがたさを感じるとか、戦争や災害から復興して希望に満ち溢れた気持ちになるような幸福の

あり方である。 このことは、幸福の概念を拡大する可能性を示唆している。つまり主観的幸福度として測定す

べき内容は、ある人のある時点の現状の評価だけではなく、現在が悪くても将来に良くなるという

希望や期待も含まれる可能性があるということである。 幸福度の把握には、このように時間の概念を取り入れて重層的に捉えてみる必要がある。「一

人当たりGDPが増加したのに、個人の幸福度が高まらないのはなぜか」という問いは、過去の自

分と現在の自分の幸福感の比較を想定している。それをさらに敷衍して、現在から将来にわたる

見通し期待から得られる幸福感という領域もあるのではないだろうか。

ライフスタイルと幸福感 もう一点指摘すべきことがある。それは、従来の主観的幸福度が、暗黙のうちに刺激-反応の

因果関係から生まれるものとして理解されてきたということである。しかし、各時代に各水準での

幸福感があるように、「生活の各要素(仕事、家庭、自分のやりたいことなど)が支障なく、あるい

N=2100 Q.自分の幸福感をどのように評価していますか

15.9

36.5

10.9

14.2

8.6

15.814.5

1.63.3

22.6

10.8 10.412.1

21.9

5.67.1

3.8

8 7.8

0.7 1

15.1

7.79.2

0

10

20

30

40

ほとんどの点で幸福

不幸はあるが取り返しのつかな

いものはないので幸福

将来に夢や希望があるので幸福

夢中になれることがあるので幸

不幸をばねにしているので幸福

大体幸福だが自分より幸福な人

はいる

大体幸福だが生活に張り合

いが

ない

大体幸福だが時間を持て余して

退屈

大体幸福だが期待されずさびし

大体幸福だが現状から抜け出せ

ないので不安

あまり幸福ではないが自分より

幸福でない人はいる

あまり幸福を感じない

MA

SA

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13

は選択肢を広げながら回っていくこと」も持続的な幸福感の源になっている。このような場合には、

自分の持つ資源だけでなく、社会の状況が自分の選択肢が広がる方向に動くことが自分の幸福

につながるはずである。 とすれば、幸福はレイヤードの「ビッグ・セブン(幸福の7大要素)」の要素を少しでも量的に増や

せば幸福度が高まるという刺激-反応の関係で幸福感を考えるのではなく、7つの要素の相互

の兼ね合いや要素のセットの状態が破綻なくフィットしていることが幸福感を生むと考えることもで

きる。つまり、幸福とは個々の要素の量を評価したものではなく、個々の要素が適切に組み合わ

されてできるライフスタイルについての評価とも考えられる。 「ディドロ効果8」という言葉があるように、生活の調和の中で、何かが分不相応に突出していた

り欠落すると違和感を覚え、幸福感が損なわれる。どんな水準であれ、調和が取れた状態に幸

福を感じることができる。とすれば、幸福とは、自分が目指すレベルの調和に向けてその他の要

素を獲得していける環境がある状態であるともいえる。自分の調和の目標として、もっと収入を高

めたいとか、もっと広い家に住みたい、結婚したいなどと考え、それを達成できる見込みがあり、

その目標に向かって進んでいるという実感が幸福であると考える。その目標達成が容易であるほ

ど幸福感が高まる。この場合、幸福とは、自分を通した社会のあり方を評価し、他人の中に見る

自分を評価したものだといえる。幸福は自分の幸福感を評価しながら、実質は自分を通した社会

の評価であるという面も含んでいるといえるだろう。 ここにきてようやく、「客観的な一人当たり GDP」と対比されうるものとして、「社会の状況を反映

した主観的幸福度」を取り上げる可能性が出てくる。次は、「社会の状況を反映した主観的幸福

度」とは何か、それはいかにして測定することが可能かということになる。これを幸福の新しい領

域として、測定することを試みた。 次に進む前に、ここでひと通り今までの議論を総括すると、次のようにまとめることができる。 1)幸福感は多義的な感情である。多義的とは、多面的(領域の幅が広く、フレーミングによっ

て内容が決まる)であり、かつ重層的(時間の概念が介在する)だということである。 2)幸福度には強固な構造はない。従って、幸福と不幸は同居することができる。幸福の反対

は不幸ではなく、退屈、無気力、無力感である。 3)幸福は個別の経験に対する刺激-反応による評価ではなく、自分の生活の要素間が調和

に向けて実現の過程にあるかどうかを含む。上向きのベクトルがあれば、絶対的水準が低く

ても幸福度は高まる。 4)従来の主観的幸福度は一人当たり GDP と相関しにくいが、「社会の状況を反映した主観的

幸福度」という新しい領域の幸福度は、一人当たり GDP と連動する可能性がある。 4.幸福感に関するインターネット調査

幸福感の因子分析と3つの主観的幸福度 以上の考察から、「国民生活に関する世論調査」で把握された「生活満足度」は具体的な状況

8啓蒙思想時代の哲学者ディドロが、友人から素敵なナイトガウンをプレゼントされたが、それを着て部屋にいるとど

うも落ち着かない。そこで、ナイトガウンに合うようにソファーを変えてみる、カーテンを変えてみる、照明を変えてみ

る、という行動を繰り返した結果、部屋がナイトガウンのデザインのトーンに統一されてしまったという逸話から生まれ

た言葉。

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に対する生活満足の評価ではなく、領域をフレーミングしていない浅いレベルの判断による幸福

度であることが推定される。このことが一人当たり GDP と連動しなかったことの主な原因ではない

か。つまり、主観が客観的指標の内容と意味的に整合性をもって対比されていないのである。 そこで、内容的により整合性をもって対比できる幸福の新領域として「社会の状況を反映した

主観的幸福度」、すなわち“将来に対する期待から得られる幸福感” にフレーミングしてこの新し

い主観的幸福度を測定することを試みた。 この新しい主観的幸福度を「期待幸福度」と名づけることにする。「現在がどうであれ、将来に

期待や希望をもっていることによって主観的幸福感が高い人々が社会的な経済状況をより重視

しているのではないか」という仮説を検証する。社会的な経済状況が良好なほど、将来に自分が

活躍する機会(チャンス)が増えるからである。アマルティア・センの提唱する「潜在能力を発揮で

きる環境があるかどうか」という豊かさの基準もこれに近いものである。 そして、従来から把握されているような、過去から現在までの自分の生活の結果としての現状

を評価した幸福を「現状幸福度」と名づける。最後に、お金さえあれば幸せになれるという金銭

的・物質的な豊かさを重視した幸福度を「経済幸福度」と名づけた。幸福感をこの3つに分けた

上で、「期待幸福感」は他の幸福感よりも、より一人当たり GDP と連動する指標である、という仮

説を設け、その仮説を検証するための調査を実施した。調査は、インターネット調査で行った。

(ステップ 1) 幸福要素の因子分析 3つそれぞれの幸福感のあり方を表現した短い文章を各8項目ずつ(計24項目)用意し、これ

にマクロ経済指標に関するものを4項目加えた32項目で、「自身の幸福にとって欠かせないもの

はどれか」という問い方でマルチアンサーで○をつけてもらい、その結果を因子分析にかけ、幸

福を構成する要素(因子)を把握した。 その結果、次のような6つの因子が得られた(次ページの表1を参照)。

第 1 因子=お金にゆとりがあることで、洗練された物質的に豊かな生活ができること ⇒(裕福な生活環境)

第 2 因子=経済の安定や景気が良いなど、社会のマクロ環境が良好なこと ⇒(安定した社会環境)

第 3 因子=現在の生活で、仕事面でも生活面でも順調で、将来にも希望を持てること ⇒(順調な生活の展開)

第 4 因子=生活の安心、安全が保たれ、環境面でもサステイナビリティに配慮すること ⇒(生活の安全・安心)

第 5 因子=社会的な地位が満たされ、他人から承認されていること ⇒(社会的承認)

第 6 因子=再チャレンジが容易で、社会に流動性があること ⇒(チャンスのある社会)

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第1因子 第2因子 第3因子 第4因子 第5因子 第6因子 独立性

贅沢できる収入・貯蓄 0.658 0.040 0.059 -0.065 0.053 0.028 0.555不労所得がある 0.558 0.135 0.015 0.037 0.024 0.098 0.659ゆとりのある広い家 0.532 0.009 0.118 0.209 0.116 -0.036 0.645収入が年々増える 0.530 0.230 0.114 -0.130 0.138 0.087 0.609他人よりも高い生活水準 0.509 0.007 0.069 0.079 0.329 0.023 0.621新式の商品で快適生活 0.508 -0.005 0.180 0.234 0.041 0.075 0.648持ち家・または相当の資産 0.502 0.125 0.277 0.149 0.076 -0.038 0.627洗練された住環境 0.491 -0.003 0.057 0.325 0.128 0.130 0.618おしゃれな住宅街 0.404 0.056 -0.021 0.343 0.154 0.037 0.690社会の失業率が低い 0.039 0.732 0.124 0.159 0.054 0.127 0.404経済が安定している 0.067 0.664 0.166 0.167 0.025 0.104 0.487景気が良い 0.124 0.628 0.199 0.035 0.056 0.056 0.543税負担が公平 0.061 0.593 0.187 0.131 0.043 0.139 0.571地方行政に参加 0.118 0.374 0.034 0.207 0.147 0.263 0.712余暇が充実 0.100 0.062 0.554 0.071 0.021 0.122 0.659ゆとりある貯蓄 0.233 0.169 0.526 0.029 -0.006 -0.034 0.639将来に希望がある 0.078 0.174 0.526 0.037 0.093 0.094 0.668家族間の信頼がある -0.016 0.122 0.482 0.126 0.058 -0.091 0.725時間の融通がきく 0.114 0.071 0.471 0.115 0.025 0.218 0.698消費を楽しむ 0.211 0.022 0.444 0.155 0.066 0.179 0.698仕事にやりがいがある -0.014 0.181 0.424 0.054 0.215 0.218 0.691商品安全性が高い社会 0.115 0.384 0.322 0.480 0.028 0.014 0.504文化的な街並み 0.134 0.188 0.150 0.462 0.093 0.159 0.677安全な住環境 0.086 0.255 0.423 0.452 0.038 -0.066 0.538医療レベルが高い 0.181 0.362 0.359 0.406 -0.018 0.006 0.543環境にやさしい生活 0.285 0.240 0.138 0.392 0.085 0.162 0.655自然に囲まれたゆとり生活 0.023 0.178 0.293 0.307 -0.017 0.041 0.785他人からの信頼が厚い 0.130 0.075 0.103 0.059 0.716 0.050 0.449職場や地域での承認がある 0.204 0.077 0.050 0.096 0.706 0.081 0.435社会的地位がある 0.392 0.044 0.111 0.001 0.509 0.007 0.572仕事に再チャレンジできる 0.159 0.263 0.192 0.046 0.073 0.566 0.541性や学歴で就職差別がない 0.037 0.338 0.236 0.152 0.064 0.555 0.494因子負荷量平方根 3.039 2.735 2.164 1.649 1.584 1.018寄与率(%) 9.5% 8.5% 8.2% 5.2% 5.0% 3.2%累積寄与率(%) 9.5% 18.0% 26.2% 31.4% 36.3% 39.5%

因子解釈

裕福な生活環境

安定した社会環境

順調な生活の展開

生活の安全・安心

社会的承認

チャンスのある社会

表1.因子分析結果 (対象:Q2+Q3+Q4) -因子負荷パターン-

※因子分析の対象とした「Q2+Q3+Q4」とは、「Q2.あなたにとって「豊かさ」とはどのよう

なものですか。次に挙げる1~32の事柄の中から、「豊かさ」として欠かすことのできないものをすべて選んでください(複数回答)」、Q3は「豊かさ」のところを「幸福」に置き換えたもの、同様に Q4 は「生活に満足できる条件」に置き換えたもので、32のワーディングは統一した(ワーディングの順番は回答者によりシャッフルしている)。当初、「豊かさ」「幸福」「生活に満足できる条件」それぞれに因子分析をしようと試みたが、ほぼ傾向が同じであったため(主観的幸福度はきき方が同じであれば同様の結果が出る傾向にあると考えられる)、Q2 から Q4までをひとまとめにして因子分析を行った。

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将来期待 経済的豊かさ

現在生活環境

経済幸福派

現状幸福派

期待幸福派

(ステップ 2) 一対比較による把握 因子分析で得られた因子は、今回のインターネット調査のターゲットである「30~50代の仕事

を持つ男女」の総合的な幸福の構成要素である。しかし、調査対象者の各サンプル個人が均等

にこの6つの因子を持っているわけではない。そこで今回の調査では、総合的な幸福感の因子

を得ることにとどまらず、個人レベルでの志向性による分類を行うべく、「期待幸福度」「現状幸福

度」「経済幸福度」について一対比較法を行った。 先の因子分析による因子得点によって各サンプルを「期待幸福派」「現状幸福派」「経済幸福

派」に分類することができるが、明確な志向性を見つけることが困難な場合に、「どちらかといえ

ば、左右どちらに近いか」という形で志向性を測定するのが一対比較法である。今回は、3つの

幸福感について、それぞれ 2 つずつを組み合わせて、「どちらかといえば、右に近いか、左に近

いか」を 9 段階のスケールで把握した。当然、右か左かはっきりと決められないため、「どちらとも

決められない」というスケールの真ん中につける人もあり、その傾向の強い人は「中間派」として把

握した。 この調査で今回のサンプルを分類した結果、以下のような割合に分かれた。 <図4> 一対比較によるサンプルの分類

絶対レベルでは、どの幸福感についても共感が高く、各個人はそれなりに3つのタイプを内包

していることが確認できた。その上で一対比較法によりサンプルを分類すると、「期待幸福派」は

31パーセント、「結果幸福派」は26.6パーセント、「経済幸福派」は24パーセント、どの志向にも

偏りがない人々(「中間派」とする)が17パーセントであった。

分類 回答者数 期待幸福派 599 (26.6%) 現状幸福派 650 (31.0%) 経済幸福派 522 (24.9%)

中間派 369 (17.6%) 計 2,100 (100%)

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(ステップ 3) 一対比較のクラスター×幸福要素の因子 一対比較で得られたクラスターのうち、「中間派」を除く3つのグループについて、先に行った

幸福の6つの因子の因子得点を比較したのが下の例である。 <図5 一対比較による分類×因子負荷>

この結果をみると、「経済幸福派」は「裕福な生活環境」の因子得点が高く、「順調な生活の展

開」が低い。現状についての満足感が高く、将来への期待よりも現状により幸福のベースがある

人びとである。年齢的には、比較的年齢の高い女性に多い。 「期待幸福派」は「順調な生活の展開」の因子得点が高く、一対比較の結果と因子分析の結果

が関連していることがわかる。さらに、「安定した社会環境」の因子得点も高く、マクロ経済指標の

好転と「期待幸福派」の幸福度とがリンクしていることも確認できる。その他、「社会的承認」も他の

2派よりも高く、社会的承認を最も求めている層であるといえる。 最後に「現状幸福派」は、「期待幸福派」に似た動きをしているが「期待幸福派」ほど傾向が顕

著ではなく、マクロ経済指標を含む「安定した社会環境」や「社会的承認」で低くなっているのが

特徴的である。 ここで最も強調したいことは、「期待幸福派」は一人当たり GDP などの客観的指標に連動して

幸福度が高まる可能性が高いということである。 従来の主観的幸福度の調査では「期待幸福派」のような幸福のあり方がフレーミングから外れ

ていて把握されておらず、その結果一人当たり GDP の増加が幸福度の上昇に反映されていな

いということがある程度確認できた。この結果は冒頭の問いに対するひとつの回答となるだろう。

-0.4

-0.2

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

現状幸福派 (n=559)

期待幸福派 (n=650)

経済幸福派 (n=522)

2 安定した社会環境

順調な生活の展開

生活の安全・安心

社会的承認

チャンスのある社会

裕福な生活環境

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(ステップ 4) SD 法による「自他イメージの一致」と「時間密度」の把握 次に、この結果から政策的なインプリケーションを得るために「期待幸福派」の人びとの幸福感

を高めるには何が必要かを検討した。ステップ 3 の結果でもみられるように、「期待幸福派」は「社

会的承認」を幸福の要素として高く評価している。また、贅沢などの金銭的なゆとりよりも、将来に

向けて自分を高めていくことが幸福の要素となっている。 そこで、社会的承認に関することを「自分が自分に対して抱くイメージどおりに他人が認めてく

れること」と読み直して「自他イメージの一致」という概念にした。これは、「自分に対する誇りや自

分を高めようとする気持ちの水準がどのくらい高いか」ということと、「他人からその水準にふさわ

しい評価や承認を得ているか」という二つの軸で捉えられる。自分がひとかどの人間だという自負

心を持っていても、周りからの評価が低ければ本人は認知的不協和に悩み幸福感が損なわれる。

自分が自分に対して抱くイメージと他人からの評価が一致している場合でも、それが高いレベル

で一致する場合は幸福感につながるが、低いレベルで一致していると幸福感にはつながらな

い。 さらに、お金と正反対の意味ではないが、お金に匹敵する人生の資源である時間の有効活用

という視点から「時間密度」という概念を考えた。「時間密度」とは、幸福は余暇からも仕事からも

得られるという考え方で、仕事であろうと余暇であろうと24時間のうちで充実した時間が何時間あ

るかという割合(充実した時間の密度)が高いほど幸福につながるという考え方である。余暇の時

間であっても、時間を持て余して退屈や孤独を感じている場合は幸福にとってマイナスである。

逆に仕事の時間でも、適切な課題を与えられて成果を残し、さらに重要な仕事を与えられ、地位

が高まり所得が増えるというプロセスは個人の幸福に寄与する。余暇でも、自分で目標を持って

何かを達成したり、我を忘れるほど夢中になれる時間が幸せである。このような時間を、仕事・余

暇に限らず幸福に寄与する「充実した時間」と捉えるのである。 この二つの概念は幸福に関係するものでありながら、現在の経済学の理論の中には十分に取

り入れられていないことがらでもある。すなわち、「自他イメージの一致」とは、需要の源となる欲

望がどこから芽生えてくるのかという消費需要発生9に関するポイントであり、「時間密度」は仕事

と余暇をトレードオフと考える考え方に反するものである。経済学的な効用ではなく、実感として

の主観的幸福度を捉える場合には、余暇時間が多いほど幸せである10とする経済学的な見方が、

社会的な実感では変化してきていることを取り入れたものである。 今回のインターネット調査では、「自他イメージの一致」と「時間密度」に関するいくつかの文章

について SD 法11(=セマンティック・ディファレンシャル法)によって志向性を判断してもらうこと

9 ガルブレイスは『ゆたかな社会』の中で、消費需要の理論は 2 つの大きな命題の上に立っているとする。「第一の

命題は、次第に多くの欲望が充足されても、欲望感がひどく減退することはない」ということ。「第二の命題は、欲望

は消費者の個性に根ざすものであって、経済学者にとっては予見にすぎない」ということで、「欲望がどのように出来

たかということについて経済学者が調べる必要は全然ない」としている。(p201~202)また同書で、「需要および生

産の後退は、近代の大社会にとってまだ防衛策がとられていない主要なリスクである」とも述べている。(p239) 10 松谷明、藤正巌『人口減少社会の設計』でも、「余暇のための時間が多いことを幸福と定義したい。・・・他の誰か

らも独立しており、他の誰にも支配されていないことが、人間にとっての真の幸福であると考える」(23ページ)として

いる。ただし、「労働時間あたりの所得が多いこと」を幸福だともしており、この文脈は「時間密度」に通じるものでは

ある。 11 対比概念を短い文章で表したものを両極に置いて、「どちらかといえば、どちらに近いか」という二分法で意識な

どの志向性を測定する方法。

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で、「自他イメージの一致」が高いレベルで実現している層、「時間密度」が高いと考えられる層を

抽出した。具体的には、次の二つの志向性判断から、「自他イメージの一致」度を測定した。 <自分に対する期待イメージの高さの軸>

(ポジティブ)「機会が与えられれば、いま以上に良い貢献ができると思う」 vs. (ネガティブ)「自分は人前ではあまりでしゃばらない方が良いと思う」

<他人から承認されることの期待の高さの軸> (ポジティブ)「努力は報われることが多い」 vs. (ネガティブ)「報われるあてがないので、努力する気にならない」

さらに、次の二つの志向性判断から、「時間密度」の高さを測定した。 <仕事からも余暇からも充実感を得ていることの軸>

(ポジティブ)「仕事以外にも、興味のあることを見つけている」 vs. (ネガティブ)「仕事の中にこそ、自分のやりたいことが見つけられる」

<やりがいのある仕事をしていることの軸> (ポジティブ)「いまの仕事で、自分が日々成長しているように感じる」 vs. (ネガティブ)「いまの仕事をいつまで続けていても、生活の状況が改善せず、焦りがある」

それぞれの A 象限に入る人が、それぞれ「自他イメージの一致」度が高い人、「時間密度」が

高い人という想定である。これら A 象限に入る人のプロフィールを、一対比較の3つのクラスター

(「経済的幸福派」「現状幸福派」「期待幸福派」)でみたのがその下にある図である。 <図6> 自他イメージの一致

A の象限に入る人が「自他イメージの一致」では高いレベルにある、と考える。 努力は報われることが多い 自分は人前ではあまり 機会が与えられれば、いま以上 でしゃばらない方が良いと思う に良い貢献ができると思う 報われるあてがないので、 努力する気にならない

50.1%

7.1%

28.7%

14.0%

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20

「自他イメージの一致」に関しては、A 象限に属する人の中に「将来期待幸福派」が、他の象限

に比べて多いという結果になった。ただし、B、D象限の人数が少ないことから、横軸の「自己イメ

ージの水準」軸が分類により優勢に影響を与えている。とはいえ、B、D象限に共通して「経済的

豊かさ派」が共通して多いことから、上下の「他人からの承認期待」軸が「経済的豊かさ派」と他の

2派を分ける基準となっている。 <図7> 時間密度

この場合も、A 象限の人が最も時間密度が高い(仕事からも余暇からも充実した時間を得て

いる)と考えられるが、B 象限の人もそれに準じると考えても良いかもしれない。

仕事以外にも、興味の あることを見つけている

いまの仕事をいつまで いまの仕事で、自分が日々 続けていても、生活の状況 成長しているように感じる が改善せず、焦りがある

仕事の中にこそ、自分の やりたいことが見つけられる

39.0%

12.8%

43.3%

4.8%

42.2

18.8

30.8

16.2

24.2

20.3

31.2

26.5

16.8

33.3

15.8

41.9

16.8

27.5

22.2

15.4

0% 20% 40% 60% 80% 100%

A(1).機会が与えられれば、いま以上に良い貢献ができると思うand

努力は報われることが多い(N=488)

B(1).機会が与えられれば、いま以上に良い貢献ができると思うand

報われるあてがないので、努力する気にならない

(N=69)

C(1).自分は人前ではあまりでしゃばらない方が良いと思うand

努力は報われることが多い(N=279)

D(1).自分は人前ではあまりでしゃばらない方が良いと思うand

報われるあてがないので、努力する気にならない(N=136)

将来期待派 現在生活環境派 経済的豊かさ派 中間派

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21

次に「時間密度」に関しては、「自他イメージの一致」ほど明確な結果は出なかった。こちらの場

合も横軸の「仕事の充実感」軸が優勢に働いている。「仕事のみの充実か、仕事と余暇双方の充

実か」という軸は、時間密度を測るのに十分に機能しなかった。それは「時間密度」を捉えるため

の軸の検討が未熟であったためである。「仕事にしか生き甲斐がない」「余暇にしか生き甲斐が

ない」「仕事と余暇の両方に生き甲斐を見つけている」という3つからの選択をSD法の二者択一

にしたところにワーディングとして無理が生じた。 参考までに、横軸の「仕事の充実感」のみで結果を見てみると、仕事の中で充実感を感じてい

るのは「将来期待派」がもっとも多いという結果になった。「時間密度」に関しては以下の図で確

認することとしたい。 <図8> 横軸(仕事の充実度)のみでの各派の割合

28.7

36.2

23.6

29.5

31.2

14.4

16.5

19.9

0% 20% 40% 60% 80% 100%

いまの仕事をいつまで続けていても、生活の状況が改善せず、焦りがある(N=641)

いまの仕事で、自分が日々成長しているように感じる(N=682)

将来期待派 現在生活環境派 経済的豊かさ派 中間派 結論としては、当初の仮説を十分に検証するまでには至らなかった。時間密度の捉え方など

34.7

37.6

28.0

38.0

34.0

22.6

24.9

16.0

13.5

12.0

30.0

28.0

17.7

27.8

17.1

18.0

0% 20% 40% 60% 80% 100%

A(2).いまの仕事で、自分が日々成長しているように感じる

and

仕事以外にも、興味のあることを見つけている

(N=406)

B(2).いまの仕事で、自分が日々成長しているように感じるand

仕事の中にこそ、自分のやりたいことが見つけられる

(N=133)

C(2).いまの仕事をいつまで続けていても、生活の状況が改善せず、

焦りがある and

仕事以外にも、興味のあることを見つけている

(N=450)

D(2).いまの仕事をいつまで続けていても、生活の状況が改善せず、

焦りがある and

仕事の中にこそ、自分のやりたいことが見つけられる

(N=50)

将来期待派 現在生活環境派 経済的豊かさ派 中間派

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22

は、今後さらに検討する必要があり、課題として残された。しかしながら、「将来期待派」の人は

「自他イメージの一致」や「時間密度」を志向する傾向が強いであろうことは予測できる。 2つのループ

以上の議論をまとめると、一人当たり GDP と主観的幸福感をめぐる大小2つのループが想定

できよう。 まず、小さいループは「自他イメージの一致」「時間密度」をめぐるループである。これは欲望と

需要を発生させるエンジンとして高い自己イメージの達成を描き他人からそのイメージ通りに見ら

れたいと思う欲求を想定する。そのような人ほど仕事、余暇の両面で充実感が高く、主観的幸福

感が高いのではないかという仮説である。 第二のループは大きなループで、「期待幸福派」と「マクロ経済指標」と上の小さなループをつ

なぐものである。結果としては、この大きなループが社会の経済成長(一人当たりGDPの増加)と

幸福とをつなぐ新しいループになる。このループの視点で主観的幸福度と客観的マクロ経済指

標を対比すれば、時系列的に両者の連動を把握していけるのではないだろうか。 <図9> 将来期待への幸福と経済成長との2つのループ

まず、第一のループについて、「自他イメージの一致」する人および「時間密度」の高い人は、

それぞれ「将来期待派」が多かった。次に、第2のループについて、将来期待派は一人当たり

GDPなどのマクロ経済指標と自分の幸福感とが重なる傾向が強かった(図3)。この図は今後さら

に精緻に検証すべき仮説であるが、ある程度の方向付けは今回の調査によって達成できたと考

えられる。

自 他 評価の一致

時間密度

将来期待幸福感

経済変数(一人当りGDP)

生活水準

心理的指標

安全・安心

小さなループ

大きなループ

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23

5.結論 豊かな社会において、マクロな経済社会状況と個人の幸福感がどのように結びつくのかという

ことに関して、一つの試論を提供した。 すなわち、主観的幸福感はフレーミングによって異なった側面の幸福感が測定される。従来、

測定されていた主観的幸福度は、その中でマクロ経済指標とは連動しない幸福度(「経済的豊

かさから得られる幸福度」や「現状の生活環境を評価した幸福度」)を測定していた可能性が高

い。「将来に対する期待感」から得られる幸福感は、比較的一人当たり GDP などのマクロ経済指

標との相関関係が深いと考えられる。「将来に対する期待感」から得られる幸福感は、「自他イメ

ージの一致」や「時間密度」によって高められる、というものである。 従って、政策としては、経済成長は幸福度に寄与するものとして推進しなければならない。また、

「自他イメージの一致」「時間密度」を高めるために、社会のチャンスを生み出し、再チャレンジが

しやすい社会を目指す必要がある。 日本が貧しく物質的なものや金銭への執着が強く、それらと幸福感とが結びついていた時代

から、幸福の源泉は、今では社会的承認や仕事での評価、ゆたかな社交、自由な学びなどに移

ってきている。 これは、ゆたかな時代の新しいライフスタイルの登場を予感させる。そのライフスタイルとは、従

来のように仕事を排除した“生活”部分のみの行動形態から幸福が創出されるライフスタイルでは

なく、これからは“仕事(働き方)を含んだライフスタイルの構築”が求められている。 今回の調査でも見られるように、仕事からも充実感を得ている人が多く、幸福という視点で人生

を見ると、仕事と余暇との区別ははっきりしたものではない。「仕事」と「生活」という2項があってそ

れをバランスさせるという意味のワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)を超えて、「ワークラ

イフ」というひとつの生き方を目指すことが将来的な目標になるのではないだろうか。「ワークライ

フがライフワークである」という生き方の中に幸福が宿っているのである。これが生涯現役社会の

ひとつのあり方であろう。 アメリカのジョージ・メイソン大学のリチャード・フロリダ教授はこのようなライフスタイルを持つ

人々をクリエイティブ・クラス12(クリエイティブ階級)と呼んでいる。彼らの特徴は、自立心が強く、

多様性を好み、半匿名性のある社会を望む。他人から支配されることを嫌い、時間の支配権を

自分で持ちたいと思う人々である。いつも仕事のことを考えている状態であるが、それは苦痛で

はない。遊びたいときにはメリハリをつけて思い切り楽しむ。所得は結果として高いものの、収入

の高い仕事よりも、自分にとってやりがいのある仕事を選ぶ。しかし所得は自分の能力に対する

評価だと考えているので、所得に無関心なわけではない、というものである。 何かの刺激によって幸福が高まるという発想で幸福感を高めるための要因探しをするよりは、

自分の望むライフスタイルがサステイナブルに発展できる状況があるかという視点が、今後の幸

福感の鍵となるだろう。そのためにも、経済が成長して社会にダイナミズムがあり、様々な新しい

チャンスが開けるような社会が求められている。 本研究の結論としては、一人当たり GDP に対比させるべき幸福度としては、「期待幸福」にフ

レーミングをした指標として測定しなおしたものにすべきである、ということだ。「期待幸福」は、

12 Richard Florida The Rise of the Creative Class Basic Books 2002

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24

「自他イメージの一致」(社会の失業率が高まり賃金が抑えられると低下すると想定される)や「時

間密度」(景気が悪くなってチャンスが少なくなると低下すると想定される)など、マクロ経済要因

との因果関係が、従来の主観的幸福度よりは高い。今後、さらなる精緻化が必要だが、主観的幸

福度のフレーミングの仕方については有効な方法論を示唆できたと考えている。

以上

Page 27: 幸福度に関する研究~ 経済的豊かさは幸福と関係が …ESRI Discussion Paper Series No.182 幸福度に関する研究 ~経済的ゆたかさは幸福と関係があるのか~

25

※参考 インターネット調査の概要 <目的>

• 幸福度の構造を因子分析から明らかにする。 • 幸福度に期待幸福という新領域を設定し、経済変数との積極的な関連を調べる。 • 自他イメージの一致、時間密度など、新たな幸福感の源泉を発見する。

<調査対象者> • 近年の「国民生活に関する世論調査」において相対的に「生活満足度」が低下する年齢層

であり、かつ経済的活動に関わりの深い30~50代の男女(専業夫・婦は除く) <サンプル数>

• 全国 2,100 サンプル <実施時期>

• 平成 18 年 11 月 17 日~24 日 <主な調査項目>

①構造分析 • 幸福感に関する因子分析

金銭的な豊かさ評価、現在の環境に対する評価、将来の期待に対する評価、マクロ指標

に対する評価を仮説軸として、32 項目で因子分析をする。 ②幸福に関する一対比較

「経済的豊かさに対する幸福」「現在の境遇に対する幸福」「将来の期待に対する幸福」の

3 つの中で、どちらかというとどれを重視するかにより、対象者を分類する。 ③自他評価の一致 • 自尊心のレベルと他人からの承認との一致度合い

④時間密度 • 課題を持った仕事や余暇/24時間

<調査実施・分析>

実施: NTT ナビスペース株式会社 分析: (株)リベルタス・コンサルティング

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26

参考文献 (書籍)

1. ブルーノ・フライ&アロイス・スタッツァー (2005)『幸福の政治経済学』 佐和隆光監訳 沢

崎冬日訳 ダイヤモンド社 2. Layard, R. (2005), Happiness The Penguin Press 3. 総理府 (1979),『第 4 回国民生活選好度調査』 4. 総理府、内閣府(1958-2006)『国民生活に関する世論調査』 5. バリー・シュワルツ (2004) 『なぜ選ぶたびに後悔するのか』 ランダムハウス講談社 瑞穂

のりこ訳 6. 多田洋介 (2004) 『行動経済学入門』 日本経済新聞社 7. 松谷明 藤正巌 (2002) 『人口減少社会の設計 幸福な未来への経済学』 中公新書 8. Florida, R. (2002), The Rise of the Creative Class Basic Books

(論文) 9. Frey, B. and Stutzer, A. (2002), ‘What Can Economists Learn from Happiness

Research?’ Journal of Economic Literature Vol. XL 10. 大竹文雄(2004)「失業と幸福度」 日本労働研究雑誌 No.528. 11. 白石賢・白石小百合(2006) 「幸福度研究の現状と課題 ―― 少子化との関連において」

内閣府経済社会総合研究所 ESRI Discussion Paper Series No.165 12. 富岡淳(2004)「幸福感の計量経済学」 JCER 研究員リポート No.46 (社)日本経済研究

センター 13. 池本幸生(2006)「経済発展の物差しを考える」 経済セミナー May 2006

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1

幸福度に関するインターネット調査報告書

2007.3.30

内閣府 経済社会総合研究所 政策企画調査官 袖川芳之

内閣府 経済社会総合研究所 総務部 田邊健

参考資料

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2

調査概要<目的>

幸福度の構造(構成要素)を因子分析から明らかにする。幸福度に期待幸福という新領域を設定し、経済変数との積極的な関連を調べる。自他イメージの一致、時間密度など、新たな幸福感の源泉を発見する。

<調査対象者>

近年の「国民生活に関する世論調査」において相対的に「生活満足度」が低下する年齢層であり、かつ経済的活動に関わりの強い30~50代の男女(専業夫・婦は除く)

<サンプル数>全国2,100サンプル

<実施時期>平成18年11月17日~24日

<主な調査項目>(1)構造分析• 幸福感に関する因子分析

• 金銭的な豊かさ評価、現在の環境に対する評価、将来の期待に対する評価、マクロ指標に対する評価を仮説軸として、32項目で因子分析をする。

(2)幸福に関する一対比較

• 「経済的豊かさに対する幸福」「現在の境遇に対する幸福」「将来の期待に対する幸福」の3つの中で、どちらかというとどれを重視するかにより、対象者を分類する。

(3)自他評価の一致• 「自尊心のレベル」と「他人からの承認期待」との一致度を「自他評価の一致」と捉える。(4)時間密度• 「仕事や余暇での充実した時間/24時間」を「時間密度」という概念で捉える。<調査実施・分析>

実施: NTTナビスペース株式会社分析: (株)リベルタス・コンサルティング

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3

こころのゆとり

3.2

3.7

2.7

35.4

33.6

37.2

24.0

25.3

22.7

30.2

29.4

31.0

6.6

7.4

5.8

0.5

0.5

0.6

0% 20% 40% 60% 80% 100%

総数

男性

女性

1.十分に持つことができている 2.だいたい持つことができている 3.どちらともいえない 4.あまり持つことができていない 5.まったく持つことができていない 6.よくわからない

N= 2100

N= 1050

N= 1050

Q1普段の生活で、あなたはこころのゆとりを持つことができていますか。(SA)(%)

• こころのゆとりをもつことができると答えた人(「十分に」+「だいたい」)は36.8%で、持つことができないと答えた人(「あまり」+「全く」)の36.8%とほぼ同じ程度であった。

• 男女による差は、持つことができるという人が若干、女性のほうが高かった。

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4

こころのゆとりがない領域

• こころのゆとりがもてないと答えた人に対して、どのような時間についてゆとりがないのかを尋ねたところ、「仕事」という回答が58.6%と最も多く、その他の領域はほぼ同じ程度であった。

58.5

40 .2 39 .4

31 .528 .2 28 .2

9 .4

65.4

38.0 39.5

29.526.9 28.2

4.9

51.7

42.439.3

33.629.5 28.2

14.0

0

20

40

60

80

の仕事

に対

して

自分

の趣味

や好きな

こと

して

自分

の健康

の維持

・増進

して

将来

の自分

のた

に勉強

や技術

習得をする

こと

に対

して

家族

との時間を持

つこと

して

どれ

いうわ

けではな

いか

、精

神的

にゆ

とり

がな

その他

全体

男性

女性

(%) N=2100SQ1.(Q1で「4」または「5」と答えた人のみ)どのような点で、こころのゆとりが持てなくなっていますか。(MA)

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5

豊かさの構成要素(複数回答)

71.3

65 .7

60 .7 59 .2

50 .4 50 .2 48 .744 .6

36 .734 .6 34 .2

30 .1 28 .926 .0 25 .6 25 .1

18 .9 18 .4 18 .1 16 .8 16 .0 15 .1 14 .9 14 .4 12 .5 11 .9 10 .2 8 .4 8 .1 6 .8 6 .4 5 .0

0

20

40

60

80

が信

に安

でき

る程

の貯

があ

に希

、日

々充

した余

を楽

いる

やり

いがあ

る仕

が安

、安

の融

った

した時

を楽

いる

て医

を受

けら

に贅

の安

が高

の景

が良

の収

が年

々増

が公

ち家

があ

、ま

は持

ち家

が買

ほど

の資

や学

が障

とな

が安

の失

が低

とり

のあ

る広

い家

い耐

(テ

レビ

コン

、自

に適

した仕

つく

かな

ても収

を得

る手

があ

や芸

にあ

た雰

やさ

い生

から信

た環

の人

に比

べて自

の方

がよ

しを

いる

の手

があ

かれ

いる

でお

ゃれ

な住

全体

(%)N=2100

Q2.あなたにとって「豊かさ」とはどのようなものですか。「豊かさ」として欠かすことのできないものをすべて選んでください。(MA)

• 豊かさの構成要素を、「豊かさに欠かすことのできないもの」として訊いたところ、「家族」(71.3%)という承認の項目がトップで、 次いで経済的な要素である「貯蓄」(65.7%)が続く。その後は 「将来の希望」(60.7%)、「充実した余暇」(59.2%)と、再び非経済的な要素が続いている。

• 「やりがいがある仕事」(50.4%)や「時間の融通」(48.7%)「ゆったりとした時間」(44.6%)などの充実感の他、「住環境の安全安心」(50.2%)「安心して医療を受けられる」(34.6%)など安全・安心の項目も高

い。

Page 34: 幸福度に関する研究~ 経済的豊かさは幸福と関係が …ESRI Discussion Paper Series No.182 幸福度に関する研究 ~経済的ゆたかさは幸福と関係があるのか~

6

豊かさの構成要素(3つまで回答)

36.7

11.0

8.0 7.65.9 5.6 4.9 4.8

4.0

2.01.3 1.2 1.2 1.1 0.8 0.7 0.4 0.4 0.4 0.3 0.3 0.2 0.2 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.0 0.0

0

10

20

30

40

家族が信頼

将来に希望、日々充実

生活に安心できる程度の貯蓄がある

金銭的に贅沢

充実した余暇を楽しんでいる

住環境が安全で、安心

時間の融通

やりがいがある仕事

ゆったりとした時間

自分の収入が年々増える

消費を楽しんでいる

安心して医療を受けられる

働かなくても収入を得る手段がある

ゆとりのある広い家

商品の安全性

持ち家がある、または持ち家が買えるほどの資産

性別や学歴が障害とならない

社会全体の景気が良い

経済が安定

洗練された環境

他人から信頼

文化や芸術にあふれた雰囲気

軌道修正をして、自分に適した仕事につく

新しい耐久財

(テレビやパソコンなど

環境にやさしい生活

周りの人に比べて自分の方がよい暮らしをしている

社会的地位

政治参加の手段がある

閑静でおしゃれな住宅街

一目おかれている

社会全体の失業率が低い

税負担が公平

総数(1番目)

総数(2番目)

総数(3番目)

(%)

N=2100(1番目)N=2011(2番目)N=1911(3番目)

SQ2.Q2であなたが選んだ事柄の中から、最も重視するものを3つまで選んでください。

• 豊かさの構成要素の選択を3つに制限したところ、「家族」が突出しており、 「将来の希望」 「貯蓄」という

順番になった。

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7

幸福の構成要素(複数回答)

67.7

59 .555 .5

54 .0

48 .3

39 .7

33 .0 31 .929 .3 28 .9

24 .6

18 .2 17 .9 16 .4 15 .313 .2 12 .3

10 .6 10 .3 10 .0 9 .9 9 .6 8 .9 8 .8 8 .46 .5 5 .5 5 .5 5 .0 4 .7 3 .9 3 .6

0

20

40

60

80

家族

が信頼

将来に希望

、日々充実

充実した余暇を楽しんでいる

生活に安心

できる程度の貯蓄がある

やりがいがある仕事

時間の融通

住環境

が安全

で、安心

ったりとした時間

消費を楽

しんでいる

金銭的

に贅沢

安心

して医療を受けられる

商品の安全性

持ち家

がある

、または持ち家

が買えるほどの

資産

社会全体の景気

が良

自分の収入が年々増える

性別や学歴が障害とならない

税負担

が公平

働かなくても収入を得る手段がある

軌道修正をして、自分

に適

した仕事につく

ゆとりのある広

い家

しい耐久財

(テレビやパソコンなど

他人から信頼

経済が安定

社会全体の失業率が低

文化や芸術

にあふれた雰囲気

環境にやさしい生活

一目おかれている

周りの人に比

べて自分の方がよい暮らしをし

ている

社会的地位

洗練された環境

政治参加の手段がある

閑静

でおしゃれな住宅街

全体

(%)

N=2100

Q3. あなたにとって「幸福」とはどのようなものですか。「幸福」に欠かすことのできないものをすべて選んでください。(MA)

• 幸福の構成要素を、「幸福に欠かすことのできないもの」として訊いたところ、「家族」(67.7%)という承認の項目がトップで、 「将来の希望」(59.5%)、 「充実した余暇」(55.5%)が続き、経済的な要素である「貯蓄」(54.0%)は「豊かさ」に比べてやや低くなった。

• 全体的な傾向は、「豊かさ」の場合とほぼ同じであった。

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8

幸福の構成要素(3つまで)

41.1

13.5

9.0 8.9

6.3 5.8

3.2 2.2 2.1 1.3 1.3 1.3 0.8 0.7 0.6 0.3 0.3 0.2 0.2 0.2 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.00

10

20

30

40

50

家族が信頼

将来に希望、日々充実

生活に安心できる程度の貯蓄

金銭的に贅沢

充実した余暇を楽しんでいる

やりがいがある仕事

時間の融通

住環境が安全で、安心

ゆったりとした時間

働かなくても収入を得る手段がある

自分の収入が年々増える

消費を楽しんでいる

社会全体の景気が良い

安心して医療を受けられる

持ち家であるか、または持ち家が買えるほどの

資産

周りの人に比べて自分の方がよい暮らしをして

いる

他人から信頼

税負担が公平

周りから一目おかれている

性別や学歴が障害とならない

ゆとりのある広い家

軌道修正をして、自分に適した仕事につく

閑静でおしゃれな住宅街

新しい耐久財

(テレビやパソコンなど

環境にやさしい生活

文化や芸術にあふれた雰囲気

商品の安全性

社会全体の失業率が低い

経済が安定

政治参加の手段がある

洗練された環境

社会的地位

総数(1番目)

総数(2番目)

総数(3番目)

(%)

N=2100(1番目)N=1966(2番目)N=1814(3番目)

SQ3. Q3であなたが選んだ事柄の中から、最も重視するものを3つ選んでください。

• 幸福の構成要素の選択を3つに制限したところ、「豊かさ」と同じく、「家族」が突出しており、 「将来の希望」 「貯蓄」という順番になった。

Page 37: 幸福度に関する研究~ 経済的豊かさは幸福と関係が …ESRI Discussion Paper Series No.182 幸福度に関する研究 ~経済的ゆたかさは幸福と関係があるのか~

9

生活満足度の構成要素(複数回答)

61.259 .3

57 .755 .7

51 .2

43 .0

38 .5

32 .9

29 .0 29 .0

22 .7 22 .520 .5

18 .6 18 .2 18 .0

14 .2 13 .7 12 .6 12 .1 10 .99 .1 8 .9 8 .8 8 .2 7 .6 7 .0

5 .5 5 .4 5 .33 .9 3 .6

0

20

40

60

80

家族が信頼

将来に希望

、日々充実

生活に安心できる程度の貯蓄がある

充実した余暇を楽しんでいること

やりがいがある仕事

時間の融通

住環境が安全で、安心

消費を楽しんでいること

ゆったりとした時間

安心して医療を受けられる

商品の安全性

金銭的に贅沢

自分の収入が年々増える

持ち家がある、または持ち家が買えるほどの資産

税負担が公平

社会全体の景気が良い

新しい耐久財

(テレビやパソコンなど

性別や学歴が障害とならないこと

ゆとりのある広い家

経済が安定

軌道修正をして、自分に適した仕事につく

文化や芸術にあふれた雰囲気

他人から信頼

働かなくても収入を得る手段がある

社会全体の失業率が低い

環境にやさしい生活

社会的地位

閑静でおしゃれな住宅街

一目おかれていること

洗練された環境

政治参加の手段がある

周りの人に比べて自分の方がよい暮らしをしている

こと

総数

(%)

N=2100

Q4. あなたにとって、生活に満足できる条件は何ですか。上をみればきりがないですが、現実的な範囲で感じられるものをすべて選んでください。(MA)

• 生活満足の構成要素を、「生活に満足できる条件」として訊いたところ、「家族」(61.2%)という承認の項目がトップで、 次いで「将来の希望」(59.3%)、経済的な要素である「貯蓄」(57.7%)が続く。その後は「充実した余暇」(55.7%)と「豊かさ」「幸福」と同じような傾向である。

• 全体的な傾向も、 「豊かさ」「幸福」と同じような傾向であった。

Page 38: 幸福度に関する研究~ 経済的豊かさは幸福と関係が …ESRI Discussion Paper Series No.182 幸福度に関する研究 ~経済的ゆたかさは幸福と関係があるのか~

10

生活満足度の構成要素(3つまで)

31.7

18.3

9.97.4

6.2 5.2 4.2 4.12.1 2.1 2.1

0.8 0.8 0.7 0.7 0.6 0.5 0.4 0.4 0.3 0.2 0.2 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.0 0.0 0.0 0.00

10

20

30

40

家族

が信

将来

に希

、日

生活

に安

でき

の貯

があ

やり

いがある

充実

した

暇を

いる

に贅

時間

の融

住環

が安

、安

った

した

の収

が年

いる

税負

が公

安心

て医

療を

けら

れる

持ち

があ

、ま

は持

える

ほど

の資

社会

の景気

が良

かな

ても収

る手

があ

社会

い耐

(テ

レビ

コン

から

商品

の安

閑静

でお

ゃれ

性別

や学

が障

らな

文化

や芸

にあ

雰囲

洗練

環境

経済

が安

政治

の手段

があ

のあ

い家

一目

かれ

いる

周り

の人

に比

べて自

の方

がよ

しを

いる

社会

の失業

が低

軌道

、自

に適

した

つく

環境

やさ

い生

総数(1番目)

総数(2番目)

総数(3番目)

N=2100(1番目)N=1974(2番目)N=1869(3番目)

(%) SQ4.Q4であなたが選んだ事柄の中から、あなたが最も重視するものを3つ選んでください。

• 幸福の構成要素の選択を3つに制限したところ、「豊かさ」と同じく、「家族」が突出しており、 「将来の希望」 「貯蓄」という順番になった。

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11

幸福と不幸の同居(複数回答)

15.9

36.5

10.9

14.2

8.6

15.814.5

1.63.3

22.6

10.8 10.4

0

10

20

30

40

ほとんどの点で私は幸福である

不幸なことはあるが

、取り返しの

つかないほどのものはないので

ほぼ幸福だ

将来に夢や希望があるので

、今の

状況がどうであれ幸福だ

夢中になれることがあるので

、今

の状況がどうであれ幸福だ

不幸なことをバネにすることで

今の幸せを感じることができる

だいたい幸福だと感じるが

、自分

より幸福な人の方が多

いと思う

だいたい幸福だと感じるが

、日々

の生活に張り合

いがない

だいたい幸福だと感じるが

、時間

を持て余しぎみで退屈を感じてい

だいたい幸福だと感じるが

、人か

ら期待されることもなく

、寂しさ

を感じている

だいたい幸福だと感じるが

、ず

と今の状態から抜け出せないと思

うと不安だ

あまり幸福ではないが

、自分より

幸福でない人の方が多

いと思う

自分はあまり幸福を感じることが

できない

全体

(%

N=2100

Q5. 現在の自分の幸福感をどのように評価していますか。あなたの気持ちに合うものをすべて選んでください。(MA)

• 幸福と不幸は同居できるかということを確認するために、「完全に幸福」「留保付幸福」「不幸が幸福のバランス材料になっている(不幸があるから幸福を感じる)」「留保付き不幸」「全く幸福がない状態」をさまざまな言葉で尋ねた。

• その結果、完全な幸福よりも、「致命的でない不幸を内包している幸福感」(36.5%)や「大体幸福だが先行きへの不安がある」(22.6%)などが完全な幸福や完全な不幸よりも高くなっている。

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12

幸福と不幸の同居(単一回答)

12.1

21.9

5 .67 .1

3 .8

8 .0 7 .8

0 .7 1 .0

15.1

7 .79.2

0

10

20

30

ほとんど

の点で私

は幸福

である

不幸な

こと

はあるが

、取り返

しの

かな

いほど

のも

のはな

いので

、ほぼ

幸福だ

将来

に夢や希望

がある

ので

、今の状

況がどう

であれ幸福だ

夢中

になれる

ことがある

ので

、今

状況がどうであれ幸福だ

不幸な

ことを

バネにする

ことで

、今

の幸せを感じる

ことができる

いた

い幸福だと感じる

、自分よ

り幸福な人

の方

が多

いと思う

いた

い幸福だと感じる

、日々

生活

に張り合

いがな

いた

い幸福だと感じる

、時間を

持て余しぎみで退屈を感じて

いる

いた

い幸福だと感じる

、人

から

期待される

こともなく

、寂しさを感

じて

いる

いた

い幸福だと感じる

、ず

っと

今の状態

から抜

け出

せな

いと思うと

不安だ

あまり幸福ではな

いが

、自分より幸

福でな

い人

の方が多

いと思う

自分

はあまり幸福を感じる

ことがで

きな

全体

N=2100

(%)SQ5.Q5であなたが選んだ選択肢の中から、あなたの気持ちに最も近いものを選んだください。(MA)

• 単一回答でも、複数回答とほぼ同様の分布を示している。

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13

幸福感の源泉

62.1

54.7 54.2

46.544.5 42.9

36.0 34.5

25.6 25.4 25.1 24.422.0 20.6 18.8

16.2 14.7 14.211.4 9.4 8.4 8.3

6.1 5.0 4.3 3.9 2.2 1.7 1.00

20

40

60

80

家族

(夫婦生活や子どもとの生活

自身の健康

家族の健康

経済的に安定していること

安全に暮らせること

趣味やレジャーなどの余暇活動

配偶者やパートナーとの愛情関係

働きがいのある仕事

豊かな自然に接すること

自分の親との交流

自由で気ままな生活

将来に対して期待や希望をもてること

がんばることに意味を見出せること

職場での人間関係

芸術に触れ

、感動すること

周りの人々から評価され

、認められて

いること

携帯電話やパソコンなどの通信機器の

ある生活

日々未知なことにめぐりあい、発見が

あること

日々新しいことに挑戦できること

近隣や親戚との関係

消費することが楽しいこと

耐久財に囲まれた快適な生活

景気や社会の経済状況がよいこと

自分の過去の思い出

地位や昇進

、表彰など

同年代の知人

、友人に比

べて自分がよ

い暮らしができていること

その他

社会で出世する

コースにのっているこ

日本人の平均年齢が伸びていること

全体

(%)

N=2100

Q6.あなたは、日常的に、どのようなことから幸福感を感じますか。次の選択肢から選んでください。(MA)

• 幸福感を感じる生活領域はどこにあるかを尋ねた。

• 「家族」(62.1%)がトップで、「健康」「「経済的な安定」「安心」「趣味などの余暇活動」「働きがい」「愛情

関係」「豊かな自然」が僅差で並び、領域としては多岐にわたっている。

• 幸福感の源泉としては、特定の領域ではなく、多くの領域から成り立っている。

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14

不幸の源泉

31.5

28 .327 .1

19 .1 18 .8 18 .417 .4 17 .2 17 .1 17 .0

11 .7 11 .710 .4 10 .1 10 .0 9 .5 9 .0 8 .4 8 .3

7 .4 6 .7 6 .3 5 .7 5 .2

2 .51 .5 1 .4

0

10

20

30

40

自分の経済状況

将来に対して期待や希望をもてないこと

景気や社会の経済状況

仕事

自身の健康

安心して暮らせないこと

家族の健康

消費を楽しめないこと

職場での人間関係

がんばることに意味を見出せないこと

家族

(夫婦生活や子どもとの生活

配偶者やパートナーとの愛情関係

日々新しいことがなく、退屈なこと

同年代の知人、友人に比べて自分の暮らし向き

が悪いこ

自分の過去の思い出

地位や昇進の状況

周りの人々から評価されず、認められていない

こと

近隣や親戚との関係

豊かな自然に接することができないこと

自分の親との交流

社会で出世するコースからはずれてしまったこ

芸術に触れ、感動する機会がないこと

その他

余暇時間の使い途がないこと

自由で気ままな生活

様々な耐久財に囲まれた生活

携帯電話やパソコンなどの通信機器のある生活

総数

(%)

N=2100

Q7.あなたは、日常的に、どのようなことから不幸な感じを受けますか。次の選択肢から選んでください。(MA)

• 不幸を感じる生活領域はどこにあるかを尋ねた。

• 「自分の経済状況」(31.5%)がトップで、「将来に期待できないこと」 (28.3%) 「景気や経済状況」(27.1%) が突出している。

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15

一対比較法について

■幸福に対する志向性について伺います。幸せをどのようなことから感じるかは、人によって違います。これについて、次の

3人の人たちがそれぞれの意見を述べています。

■Aさんの意見「現在の生活環境」(今の自分の生活環境がよければ幸せ)現在の状況は過去からの経緯の結果なのでいいことばかりではない。けれども私は、今の自分がどんな生活環境にいて、どんな気持ちで暮らしているかで、幸せを判断する。

■Bさんの意見「将来への期待」(将来への希望があれば幸せ)現在の自分がどんな状況にあっても、将来に希望や目標があって、自分はいまからそこに向かっていくんだというポジティブな期待感があれば、私はけっこう幸せな気持ちになれる。

■Cさんの意見「経済的豊かさ」(お金があれば幸せ)幸せって別にむずかしいことじゃない。お金があれば、好きなものを買ったり、好きなことをする自由が増えるので、収入が増えることがすなわち幸せになることだと私は思う。

• 幸福感の源泉が多岐にわたるため、どのようなことからより強く幸福を感じることができるか、サンプルを3つのタイプに分類した。

• その場合、明確な志向性によって分けることが困難であることが想定されたため、微妙な志向性の違いを把握する手法として一対比較法(一対比較法)を採用した。

• 一対比較法とは、複数の異なる志向の中から2つずつ取り出して両極に置き、「右か左か、どちらかといえば、どちらに近いか」を、たとえば9段階のなだらかなスケールで把握する方法である。

• 今回は、下の3つの志向に対して、2つずつを組み合わせて、サンプルをグループに分類した。

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16

幸福の価値観の共感度(絶対評価)

Q8 (前ページの)3人の意見をふまえて、次の(1)~(3)の質問にお答えください。

Q8(1) あなたは、Aさんの意見(現在の生活環境)にどの程度共感しますか。(回答は1つだけ)Q8(2) あなたは、Bさんの意見(将来への期待)にどの程度共感しますか。 (回答は1つだけ)Q8(3) あなたは、Cさんの意見(経済的豊かさ)にどの程度共感しますか。 (回答は1つだけ)

18.4

22 .5

7 .9

56 .1

50 .6

29 .8

18 .2

17 .8

22 .7

6 .4

7 .8

29 .9

0 .9

1 .3

9 .8

0% 20% 40% 60% 80% 100%

Aさんへの共感

Bさんへの共感

Cさんへの共感

非常に共感する やや共感する どちらでもない あまり共感しない まったく共感しない

N=2100

• 一対比較に入る前に、A~C氏それぞれの意見に対する絶対的な交換殿評価をきいた。

• Aさん(現状の生活がよければ幸福)とBさん(将来への希望があれば幸福)の意見には共感度が高く、「非常に共感する」+「やや共感する」とした人は、それぞれ74.5%、73.1%であった。

• Cさん(経済的に豊かであれば幸せ)とした人は、最も低く37.3%であった

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17

一対比較の結果

2.9

7.4

3 .9

9 .1

13 .0

4 .3

13 .5

14 .2

6 .0

17 .3

17 .0

13 .7

16 .8

17 .1

18 .2

18 .3

13 .6

21 .4

12 .7

7 .9

14 .4

7 .2

5 .9

11 .6

2 .1

4 .0

6 .6

0% 20% 40% 60% 80% 100%

A(現在の生活環境)

B(将来への期待)

C(経済的豊かさ)

1断然左に近い 2かなり左に近い 3やや左に近い 4どちらかというと左に近い 5どちらともいえない 6どちらかというと右に近い 7やや右に近い 8かなり右に近い 9断然右に近い

B(将来への期待)

C(経済的豊かさ)

A(現在の生活環境)

N=2100

Q9.Q8の3人の意見を踏まえて、次の比較質問にお答えください。あなたはどちらにより強く共感しますか。1~9の番号のうち、あなたの気持ちに最も近い番号を選んでください。(SA)

• 一対比較の結果、絶対比較にも見られたように、A(現在の生活環境)対C(経済的豊かさ)ではAが、B(将来への期待)対C (経済的豊かさ)ではBがそれぞれ優勢であった。

• AとBとの一対比較では、ほぼ拮抗する結果となった(一番上のグラフ。ややAが優勢)。

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18

自分が幸福だった年齢

Q10.あなたにとって、自分が最も幸福だ(った)と思うのは何歳の頃ですか。(SA)

50.0

34.4

15.5

0

20

40

60

具体

の年

在これ

から

の将

総数

過去の年齢

(平均)23.3歳

N=2100

(%)

• 自分が最も幸福なのはいつごろかをきいたところ、過去の具体的な年齢をあげた人が50.0%と最も高く、次いで「現在」(34.4%)であった。

• これからもっと幸福になると答えた人は15.5%と最も少なかった。

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19

幸福感の相対比較

Q11.次の(1)~(7)の各場合において、あなたがいま感じている幸福感はどのように変わりますか。(SA)

8.8

12 .2

9 .4

14.2

10.0

4.9

25.2

79 .5

69.4

74.1

59.4

68.1

54.2

43.6

11.7

18 .3

16.5

26.4

21.9

40.9

31.2

0% 20% 40% 60% 80% 100%

(1)身内の人と比べて

(2)職場の同僚

(同性)と比べて

(3)職場の同僚(異性)と比べて

(4)一般社会の同年代

(同性)と比べて

(5)一般社会の同年代

(異性)と比べて

(6)マスコミで取り上げられ

活躍して人々と比べて

(7)過去の自分と比べて

幸福度は高まる 変わらない 幸福度は下がる

N=2100

• 幸福感は周りの人やその時代の生活水準など、相対的なレベルで決まるとする説がある。自分の主観的な幸福感を考える際に、実際に参照する人物がいるかどうかを訊いた。

• その結果、参照とする人物がいてもいなくても幸福感は「変わらない」とする人が過半数を超えている(過去の自分と比べた場合のみ、43.6%とやや低くなっている) 。しかし、どの場合も、上がると答えた人

よりも下がると答えた人のほうが多い。

• 「マスコミで取り上げられた人々」と比べた場合には「幸福感が下がる」と答えた人が(40.1%)と高い

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20

幸福の相対比較(単一回答)

3.9

13.5

1.0

48.1

3.3

3.3

26.8

76.0

1.0

0 20 40 60 80

(1)身内

(2)職場の同僚(同性)

(3)職場の同僚(異性)

(4)一般社会の同年代(同性)

(5)一般社会の同年代(異性)

(6)マスコミで取り上げられ活躍して人々

(7)過去の自分

特に意識している人々はない

その他

(%)

SQ11.Q11で示した(1)~(7)のうち、あなたが比較対象の相手として最も意識しているのはどのグループの人々ですか。(SA)

N = 2100

• 相対比較の際に参照する人物として、誰を最も意識するかを尋ねたところ、「特に意識している人々はない」(76.0%)という回答が最も高かった。

• 次いで「一般社会の同性の同年代」(48.1%)、「過去の自分」(26.8%)が高い

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21

将来期待に関する意識の志向性

• この調査では、「将来への期待から得られる幸福感」により焦点を当てている。

• そこで、 「将来への期待から得られる幸福感」を高める要素として「自分に対するイメージ(自尊心)が高

く、他人から認められる期待が高いこと」と「仕事であろうと余暇であろうとどちらにも充実した時間を持てること(時間密度)」の二つを抽出するために、異なる志向性をSD法(セマンティック・ディファレンシャル

法)で把握した。その際に想定した軸は以下のとおりである。

<仕事からも余暇からも充実感を得ていることの軸 >

(ポジティブ)「仕事以外にも、興味のあることを見つけている」 vs(ネガティブ)「仕事の中にこそ、自分のやりたいことが見つけられる」

<やりがいのある仕事をしていることの軸 >

(ポジティブ)「いまの仕事で、自分が日々成長しているように感じる」 vs(ネガティブ)「いまの仕事をいつまで続けていても、生活の状況が改善せず、焦りがある」

時間密度

<自分に対する期待イメージの高さの軸>(ポジティブ)「機会が与えられれば、いま以上に良い貢献ができると思う」 vs(ネガティブ)「自分は人前ではあまりでしゃばらない方が良いと思う」

<他人から承認されることの期待の高さの軸>(ポジティブ)「努力は報われることが多い」 vs(ネガティブ)「報われるあてがないので、努力する気にならない」

自他イメージの一致

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22

将来期待に関連する意識の志向性

Q12. それぞれの比較で、あなた自身の感覚に近いものはどれですか。1~5の番号から選んでください。(それぞれについてSA)

8.5

6.7

3.7

3.3

6.2

7.7

18.2

1.9

0.6

9.5

5.9

0.8

34.6

37.6

15.6

14.4

24.7

29.7

47.2

9.5

6.9

40.8

26.6

9.0

35.8

35.6

36.4

23.1

19.5

31.3

22.2

28.1

19.0

37.5

37.0

26.7

16.6

15.7

31.7

40.4

33.3

24.1

9.7

38.5

43.0

9.7

19.9

41.5

4.5

4.4

12.6

18.8

16.3

7.2

2.7

22.0

30.4

2.5

10.6

21.9

0% 20% 40% 60% 80% 100%

(1)他人に任せるより自分でやる方がうまくいく

(2)自分が頑張れば評価が得られる

(3)仕事にやりがいがあり意欲的に働いている

(4)自分が選ぶ商品やファッションで人との違いを表現

(5)こだわりのあるものを買うときには金に糸目をつけない

(6)機会が与えられれば今以上に貢献できる

(7)適切な課題が与えられれば苦にならない

(8)仕事の中にこそやりたいことが見つけられる

(9)値段の高いものは信頼できる

(10)努力は報われる

(11)今の仕事で自分が日々成長していると感じる

(12)トレンドを意識して商品を購入

1左に近い 2やや左に近い 3どちらともいえない・わからない 4やや右に近い 5右に近い

(1)自分がいなくても物事はうまくまわっていく

   (自己イメージN)

(2)自分が頑張っても周りにはあまり評価してもらえない

   (他人承認N)

(3)めりはりをつけて余暇も楽しんでいる

   (仕事and余暇P)

(4)人との違いにはあまりこだわらない

(5)値段に見合った価値を求めて節約

(6)人前ではあまりでしゃばらない (自己イメージN)

(7)仕事はつらいものだ (仕事効用N)

(8)仕事以外にも興味のあるものを見つけている

   (仕事and余暇P)

(9)値段よりは自分が気に入るかどうかが基準

(10)報われるあてがないので努力する気にならない

   (他人承認N)

(11)生活の状況が改善せず焦りがある

(仕事効用N)

(12)機能を重視し、トレンドはほとんど考慮しない

N=2100

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23

消費の享楽度

52.850.5

44.8

30.729.4 29.4

27.5

23.122.1

17.316.0

13.4 13.111.0

8.2

4.43.0 2.5

0

20

40

60

生活に必要がなくても買ってもよい

買い物をすることは楽しい

生活に必要なものを買う

将来のためにお金はとっておく方だ

少しでも安くモノを買うためなら

苦労を惜しまない

必要のないものを買わない

自分にご褒美として何かを買う

お中元やお歳暮などは毎年送る

消費とは自分に投資することである

インターネット

・オークション

などは好ましい

形が残らないものの購入を増やしたい

欲しいものがあればすぐに買ってしまう

買うことを楽しむ

通販カタログは、満足度が高い

大きな買い物をするために、

他の消費は節約する

モノを買うことにストレスを感じる

モノを買うことに中毒になっている

もはや欲しいものはない

総数

(%)

N=2100

Q13.あなたにとって消費とはどのようなものですか。次の選択肢のうち、イメージに近いもの全てをお選びください。(MA)

• 「生活に必要がなくても買っても良い」(52.8%)、「買い物をすることは楽しい」(50.5%)が高い項目で、

消費から楽しみを得る傾向が強い。その一方で「生活に必要なものを買う」(44.8%)のように堅実な消費態度も健在で、「欲しいものはすぐに買ってしまう」(13.4%)や「買うことを楽しむ」(13.1%)など消

費享楽志向は低位である。※消費の志向性によって幸福感の感じ方が違うのではないかということを確認するため、消費の項目をQ12に引き続き測定したが、消費では価格、所得水準、

無駄遣いなどに対する倫理観など様々な要因が重なっており、消費意識と幸福感との間には明確な関係は得られなかった。

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24

収入の充足度

0.9

2.2

1 .1

5 .3

17 .8

7 .7

27 .1

23 .1

19 .6

37 .7

32 .9

37 .8

29 .0

24 .0

33 .9

0% 20% 40% 60% 80% 100%

(1)自分の働きに比較すると、収入をもらいすぎていると思う。

(2)今の自分の収入は、生活を維持するのに十分である。

(3)今の自分の収入は、今後生活をよくしていく.ために十分である。

非常にそう思う ややそう思う どちらでもない あまりそう思わない まったくそう思わない

N=2100Q14.現在の自分の収入に対してどのように評価していますか。この点について、次の(1)~(3)の質問にお答えください。(SA)

• 「現状の生活を維持するのに十分である」に対し、「収入をもらいすぎている」と「今後生活をよくしていくために十分である」が低い。

• 収入の額が自分の働きに対する評価であるとすれば、生活に十分であったとしても、収入は幸福にとってマイナス要因になりうる。また、生活に十分であったとしても、将来によりよい生活をする期待できない収入の額であることも、幸福にとってはマイナスになる可能性がある。