感染症防御および管理に関する abcdガイドライン...

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556 JFMS CLINICAL PRACTICE 概要 猫カリシウイルス(FCV)は変異性に富むウイルスである。 近年、重い症状を引き起こす全身性のFCV感染症(強毒全身 性FCV感染症)が報告されている。 感染 FCV感染症を発症した猫、感染初期の猫、およびFCV持続 感染猫は、唾液、鼻汁や結膜分泌物中にウイルスを排泄する。 症状 おもな症状は、口腔内潰瘍、上部呼吸器症状および発熱であ る。慢性の口内炎および歯肉炎を呈する猫では、高い確率で FCVが分離される。強毒全身性FCV感染症を発症した猫では、 発熱、皮膚の浮腫、頭や四肢における潰瘍性病変、黄疸などさ まざまな症状が認められる。強毒全身性FCV感染症の致死率 は高く、おもに成猫で重症化する。 診断 FCV 感染症の診断方法として、ウイルス分離や RT-PCR が 行われる。RT-PCRによるウイルスRNAの検出には、結膜お よび口腔拭い、血液、皮膚掻爬物、肺組織などが用いられる。 FCV持続感染猫では、分泌物中に排泄されるウイルス量が少 ない場合もあるので、RT-PCRの結果については注意深く解 釈しなければならない。強毒全身性FCV感染症は臨床症状、 そして同一症状の猫の血液中から同一のウイルス株が分離さ れるか否かで判断する。 疾患の管理 FCV感染症の管理は、支持療法(輸液など)と献身的な看護 を主体とする。食欲のない猫に対しては、嗜好性の高い食事、 もしくは混ぜたり、加温した食事を与え る。粘液溶解薬(例:ブロムヘ キシン)の投与、生理的食 塩水による吸入は症状 を改善するかもしれ ない。細菌による二 次感染を防ぐため に、広域スペクト ルの抗生物質を投 与する。環境中に おいて、FCVの活性 は1カ月間以上保持 される。また、FCVは ほとんどの消毒剤に対し て抵抗性を示す。 猫カリシウイルス感染症 感染症防御および管理に関する ABCDガイドライン ウイルスの特性 FCVは、猫の集団に広く蔓延している感染性の強い病原体である。FCVゲノムは 小型のプラス鎖一本鎖RNAである(FCVが変異性に富むのは、この性質が理由であ る)。ゲノムの大部分は1個の主要キャプシド蛋白質をコードしている。この蛋白質 は、宿主における免疫応答の標的となる 1, 2) 。FCVは変異性に富むにもかかわらず、 血清型は単一である 3) 。しかし、FCVの抗原性は分離株間で異なる。このため、あら ゆるFCV株に対して交差防御が認められるFCVワクチンを開発するのは困難である。 疫学 FCV感染症では、レゼルボア(病原保有動物)や中間宿主は存在しない。FCVは ヒトに感染しない。犬では、FCVに似た犬カリシウイルスが分離されている 4) 。FCV 感染症における犬の疫学的な関連性は不明であるが、おそらく重要ではないと考え られる 5) 急性FCV感染症では、唾液や鼻汁にウイルスが排泄される。回復しても、持続的 なウイルス排泄が認められることが多い。ウイルス排泄期間は平均30日間、長い場 合は数年間におよぶこともある 6) 。わずかではあるが、FCV感染に対して抵抗性を 持つ猫もいる。抵抗性の賦与には、宿主やウイルスに関連したなんらかの因子が影 響していると思われる 7) FCVは、猫集団内において広く蔓延する。FCVの流行は猫の頭数とおおよそ比例 しており、多数の猫が一緒に飼育されている環境下では爆発的に流行する。FCV感 染率は、小規模集団の猫では約10%、大規模集団や保護施設内の猫では25~40% である 5, 8, 9) 。大規模集団では、時に高い感染率(50~90%)を示す 7, 10, 11) Alan D Radford, Diane Addie, Sándor Belák, Corine Boucraut-Baralon, Herman Egberink, Tadeusz Frymus, Tim Gruffydd-Jones, Katrin Hartmann, Margaret J Hosie, Albert Lloret, Hans Lutz, Fulvio Marsilio, Maria Grazia Pennisi, Etienne Thiry, Uwe Truyen and Marian C Horzinek 翻訳:北里大学 高野友美 European Advisory Board on Cat Diseases(ABCD) European Advisory Board on Cat Diseases(ABCD)は免疫 学、ワクチン学、猫の臨床学などの専門家集団で、猫の健康な らびに福祉への恩恵のためにヨーロッパにおける猫の感染症の 防止、管理についてのガイドラインを発行している。ガイドラ インは疾患に関連する現行の科学知識や入手可能なワクチンを 考慮して作成されている。 本論説に示されている 猫の感染症ガイドラインについての拡張版は、 www.abcd-vets.orgで入手可能である。 予防接種の推奨 初年度接種は、生後9週齢、12 週齢の 2 回接種を推奨する。最初の追加 接種は1年後に行う。FCV感染リスクが高い 環境の猫は、生後16週目に3回目の接種をする ことが望ましい。2 回目以降の追加接種は 3 年お きに行うべきである。しかし、感染リスクが高い 場合は1年おきに行う。FCV感染症から回復した猫 でも、異なるFCV株の再感染を防ぐのは生涯を通 じて不可能である。とはいえ、このような猫もワ クチン接種が推奨される。

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Page 1: 感染症防御および管理に関する ABCDガイドライン …...で入手可能である。予防接種の推奨 初年度接種は、生後9週齢、12 週齢の2回接種を推奨する。最初の追加

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556 JFMS CLINICAL PRACTICE

概要 猫カリシウイルス(FCV)は変異性に富むウイルスである。近年、重い症状を引き起こす全身性のFCV感染症(強毒全身性FCV感染症)が報告されている。感染 FCV感染症を発症した猫、感染初期の猫、およびFCV持続感染猫は、唾液、鼻汁や結膜分泌物中にウイルスを排泄する。症状 おもな症状は、口腔内潰瘍、上部呼吸器症状および発熱である。慢性の口内炎および歯肉炎を呈する猫では、高い確率でFCVが分離される。強毒全身性FCV感染症を発症した猫では、発熱、皮膚の浮腫、頭や四肢における潰瘍性病変、黄疸などさまざまな症状が認められる。強毒全身性FCV感染症の致死率は高く、おもに成猫で重症化する。診断 FCV感染症の診断方法として、ウイルス分離やRT-PCRが行われる。RT-PCRによるウイルスRNAの検出には、結膜および口腔拭い、血液、皮膚掻爬物、肺組織などが用いられる。FCV持続感染猫では、分泌物中に排泄されるウイルス量が少ない場合もあるので、RT-PCRの結果については注意深く解釈しなければならない。強毒全身性FCV感染症は臨床症状、そして同一症状の猫の血液中から同一のウイルス株が分離されるか否かで判断する。疾患の管理 FCV感染症の管理は、支持療法(輸液など)と献身的な看護を主体とする。食欲のない猫に対しては、嗜好性の高い食事、

もしくは混ぜたり、加温した食事を与える。粘液溶解薬(例:ブロムヘキシン)の投与、生理的食塩水による吸入は症状を改善するかもしれない。細菌による二次感染を防ぐために、広域スペクトルの抗生物質を投与する。環境中において、FCVの活性は1カ月間以上保持される。また、FCVは

ほとんどの消毒剤に対して抵抗性を示す。

猫カリシウイルス感染症感染症防御および管理に関するABCDガイドライン

ウイルスの特性

 FCVは、猫の集団に広く蔓延している感染性の強い病原体である。FCVゲノムは小型のプラス鎖一本鎖RNAである(FCVが変異性に富むのは、この性質が理由である)。ゲノムの大部分は1個の主要キャプシド蛋白質をコードしている。この蛋白質は、宿主における免疫応答の標的となる1, 2)。FCVは変異性に富むにもかかわらず、血清型は単一である3)。しかし、FCVの抗原性は分離株間で異なる。このため、あらゆるFCV株に対して交差防御が認められるFCVワクチンを開発するのは困難である。

疫学

 FCV感染症では、レゼルボア(病原保有動物)や中間宿主は存在しない。FCVはヒトに感染しない。犬では、FCVに似た犬カリシウイルスが分離されている4)。FCV感染症における犬の疫学的な関連性は不明であるが、おそらく重要ではないと考えられる5)。 急性FCV感染症では、唾液や鼻汁にウイルスが排泄される。回復しても、持続的なウイルス排泄が認められることが多い。ウイルス排泄期間は平均30日間、長い場合は数年間におよぶこともある6)。わずかではあるが、FCV感染に対して抵抗性を持つ猫もいる。抵抗性の賦与には、宿主やウイルスに関連したなんらかの因子が影響していると思われる7)。 FCVは、猫集団内において広く蔓延する。FCVの流行は猫の頭数とおおよそ比例しており、多数の猫が一緒に飼育されている環境下では爆発的に流行する。FCV感染率は、小規模集団の猫では約10%、大規模集団や保護施設内の猫では25~40%である5, 8, 9)。大規模集団では、時に高い感染率(50~90%)を示す7, 10, 11)。

Alan D Radford, Diane Addie, Sándor Belák, Corine Boucraut-Baralon,Herman Egberink, Tadeusz Frymus, Tim Gruffydd-Jones, Katrin Hartmann,Margaret J Hosie, Albert Lloret, Hans Lutz, Fulvio Marsilio,Maria Grazia Pennisi, Etienne Thiry, Uwe Truyen and Marian C Horzinek

翻訳:北里大学 高野友美

European Advisory Board on Cat Diseases(ABCD) European Advisory Board on Cat Diseases(ABCD)は免疫学、ワクチン学、猫の臨床学などの専門家集団で、猫の健康ならびに福祉への恩恵のためにヨーロッパにおける猫の感染症の防止、管理についてのガイドラインを発行している。ガイドラインは疾患に関連する現行の科学知識や入手可能なワクチンを考慮して作成されている。

本論説に示されている猫の感染症ガイドラインについての拡張版は、www.abcd-vets.orgで入手可能である。

予防接種の推奨 初年度接種は、生後9週齢、12

週齢の2回接種を推奨する。最初の追加接種は1年後に行う。FCV感染リスクが高い環境の猫は、生後16週目に3回目の接種をすることが望ましい。2回目以降の追加接種は3年おきに行うべきである。しかし、感染リスクが高い場合は1年おきに行う。FCV感染症から回復した猫でも、異なるFCV株の再感染を防ぐのは生涯を通じて不可能である。とはいえ、このような猫もワクチン接種が推奨される。

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R E V I E W / ABCD guidelines on feline calicivirus infection

557JFMS CLINICAL PRACTICE

病因

 FCVは、鼻、口または結膜を介して感染する。ウイルスは咽頭で一時増殖し、感染3~4日後には多くの組織でウイルスが検出される。すなわち、一過性のウイルス血症が起こる。FCVは上皮細胞の壊死を引き起こす。舌の辺縁には水疱が生じ、これはやがて潰瘍となる。病変部位では、真皮において好中

球の浸潤が認められる。治癒には2~3週間以上を必要とする14)。

 ほかの組織への感染による肺炎(急性滲出性肺炎・間質性肺炎)と跛行(滑膜肥厚および滑液増加を伴う急性関節炎)が稀に認められる15)。いわゆる、「limping syndrome (歩行異常症候群)」の病理学的発生については明らかになっていない。 近年、「virulent systemic FCV disease(強毒全身性猫カリシウイルス病)」と呼ばれる病気が報告されている。本病は従来のFCV感染症と異なる様相を呈する。すなわち、全身性の脈管炎や各種臓器における病変が認められ、発症猫の3分の2が死亡する16, 17)。強毒全身性猫カリシウイルス病の原因は不明であるが、おそらくFCVの変異性が影響していると思われる。また、環境因子・飼育要因、ならびに免疫学的因子なども関与する可能性が考えられる18)。 ほとんどの猫はおよそ30日で治癒する。しかし、このような猫、すなわちFCV持続感染猫は、長期(おそらく終生)にわたって少量のウイルスを排泄し続ける。持続感染猫の扁桃上皮にはウイルスが認められる。しかし、このような猫の扁桃を除去しても、ほかの組織にウイルスが存在する可能性は否定できず、結局、感染は持続していると考えられる。持続感染の成立理由として、FCVの変異(おそらく、キャプシド蛋白質のアミノ酸の変化)による宿主免疫機構からの逃避が考えられる19, 20)。

免疫

初乳を介した受身免疫 生後数週齢の子猫は、移行抗体によって保護される。この時期は、ワクチンが干渉される時期でもある。猫ヘルペスウイルス(FHV)の場合と比べると、抗体価が高く、かつ有効期間が長い。FCVの移行抗体の半減期は15日であり、抗体価は10~14週間維持される21)。野外試験の結果によると、6週齢の子猫のうち20%がワクチン株に対する抗体を保有していないことが明らかになっている22)。

能動免疫 FCV感染後、約1週間で中和抗体が産生される23)。FHVの場合と比べると、抗体価が高く、同じFCV株に対して防御効果が認められる3)。FCVでは、株間における抗原の多様性が広く認められるが、in vitroの試験結果(交差試験)より、FCVは単一の血清型であることが証明されている24)。FCV株に感染したことがある猫は、異なるFCV株が感染した場合に急性症状が緩和される。また、口腔内からのウイルス産生も抑制される。異なるFCV株に対する防御効果は、かつて感染したウイルス株が影響する。 ワクチン接種猫では細胞性免疫も賦与されるので、たとえ中和抗体が検出限界以下の場合であっても、その猫は感染および発症を防御するかもしれない25, 26)。

臨床所見

 FCV感染症では、口内炎を伴う口腔内・上部気道における急性症状が認められる。これらの症状は免疫機構が関与する。強毒全身性猫カリシウイルス病は、通常のFCV感染症と異なる症状を示す(下記参照)。

急性口腔内疾患と急性上部気道疾患 FCV感染後の臨床所見は、感染したウイルス株の病原性、猫の年齢や環境因子によって異なる。大部分の猫は、不顕性感染の後、舌の潰瘍や軽度の呼吸器疾患のようなFCV感染症の典型症状を示す(図1および図2)。本病は、FHV由来の呼吸器疾患に類似した症状を示す。 子猫では急性の口腔内疾患および上部気道疾患が認められる。2~10日間の無症候期を経て、口腔内潰瘍、くしゃみ、漿液性の鼻汁、顕著な発熱が認められるようになる。食欲不振を伴う猫では、口腔内の糜爛と関連した過度の流涎を呈することもある。糜爛はおもに舌に認め

伝播 急性のFCV感染猫および

持続感染猫の分泌物に直接触れることで感染が成立する。ウイルス粒子の感染性に関して、乾燥下の室温では1カ月間、低温であればさらに長期にわたって感染性が維持される。間接的な伝播も起き得る。とくに、飼育舎にある汚染源、例えば、感染猫の分泌物で汚染されたケージ、食事、掃除道具または飼育舎を掃除した人の周囲において伝播が成立する。しかし、感染成立のおもな原因は、FCV感染が疑われる猫や持続感染猫に直接接触することであろう13)。

FCV感染症は、猫集団内において広く蔓延する。FCVの流行は猫の頭数とおおよそ比例しており、

多数の猫が一緒に飼育されている環境下では爆発的に流行する。

FCV感染症から回復しても、多くの猫は30日間以上、

時に数年間ウイルスを排泄し続ける。

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R E V I E W / ABCD guidelines on feline calicivirus infection

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られる。舌の糜爛は鼻炎よりもわかりやすい症状である。糜爛は数日で治癒する。重症化した場合、呼吸困難、咳、発熱、沈うつ、肺炎を呈するようになる。

慢性口内炎 慢性リンパ形質細胞性歯肉炎/口内炎を併発するほぼすべての猫からFCVを分離することができる。増殖性/潰瘍性アンギーナを特徴とするこの症状は、FCV(または口腔内のほかの抗原)に対する免疫反応が関与すると考えられる(図3)。しかし、本症状は実験的に再現されておらず、したがってFCVと本症の関連性ついては不明のままである。

歩行異常症候群 FCVの自然感染およびFCVワクチン接種と関連した、発熱を伴う急性の一過性跛行が認められることがある。自然感染例においては、FCV感染症に典型的な急性症状が認められた数日から数週後に起きることが確認されている27)。

強毒全身性猫カリシウイルス病 近年、アメリカおよびヨーロッパにおいて、高病原性で時に致死的なFCV感染症の発生が報告されている16, 17)。かつては「全身性出血熱様急性伝染病(訳者注:当初、ウサギのカリシウイルス性出血熱に類似しているのでこの病名が使用された)」と呼ばれたこの病気は、現在「強毒全身性猫カリシウイルス病」と呼ばれている。また、

本疾患の病原体は「強毒全身性猫カリシウイルス」と命名されている。 強毒全身性猫カリシウイルスの潜伏期は1~5日であるが、屋内飼育の猫では、最長12日間の潜伏期が確認されている28)。本疾患は子猫より、むしろ成猫で重篤になる。野外感染例では、予防接種を受けた猫も本疾患を防ぐことはできなかった。しかし、実験感染例では、ある程度の防御効果が得られている16, 28, 29)。この結果の理由は明らかではない。おそらく、強毒全身性猫カリシウイルス特有の性質に起因するのかもしれない。または、通常の強毒全身性猫カリシウイルス株は、ワクチンが普及しているため流行が封じ込められているのかもしれない。 強毒全身性猫カリシウイルス病は、全身性炎症反応症候群(SIRS)、播種性血管内凝固(DIC)や多臓器不全を伴い、やがて死に至る。本病の致死率は67%である30)。 臨床所見は変化に富む。最初の症状として、上部気道において重症の急性疾患が認められることが多い。浮腫は全身、とくに頭部や四肢に認められる。皮膚や四肢に潰瘍が認められるのも特徴である28)。鼻、口唇、耳、目および肉球周囲における潰瘍と脱毛症も皮膚所見の1つで

大部分の猫は舌の潰瘍や軽度の上部呼吸器疾患など、FCV感染症でしばしば認められる症状を呈するが、一部の猫は症状を示さないまま潜伏感染に至る。

図1 FCV感染猫における舌潰瘍(Albert Lloretの好意による) 図2 FCV感染猫における口腔内潰瘍部分の皮膚剥離および鼻炎症状(メリアルの好意による)

図3 慢性の潰瘍性増殖性歯肉口内炎。この痛みを伴う症状は、慢性FCV感染症で認められている。しかし、本症状を実験的に再現することは成功していない(Albert Lloretの好意による)

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ある。肝壊死や膵炎などによる黄疸が認められることもある。肺浮腫による重度の呼吸困難も認められる。点状出血、斑状出血、鼻出血、血便などが認められた場合、播種性血管内凝固による血栓塞栓症や血液凝固不全を疑う17, 28)。

診断

 いかなる場合においても、「FCV陽性」という結果に対しては懐疑的に解釈しなければならない。なぜなら、無症状の持続感染猫がいるからである。FCV感染の有無と臨床所見については、十分な相関関係が得られていない[EBMグレードⅢ]31)。強毒全身性FCV感染症は臨床症状、高い感染性および高致死性、さらに同様の症状が得られた猫の血液から同じFCV株を分離する(ゲノムシークエンスにおいてキャプシド遺伝子の高可変領域を評価する)ことで診断が成立する。

ウイルス遺伝子または抗原の検出❖核酸の検出 FCV遺伝子の検出が可能なnested RT-PCRおよびreal-time RT-PCRが開発されている。病型および臨床転帰にも依存するが、基本的なサンプルは結膜拭い、口腔拭い、血液、皮膚掻爬物および肺組織である。FCV遺伝子は高頻度で変異が生じるため、プライマーおよび標的となるウイルス株がRT-PCRの診断感度を左右する31-33)。診断結果が偽陰性となるのを最小限にするためには、多くのウイルス株パネルを用いて行うべきである。新規FCV株の同定、分子疫学およびFCV発生の調査にはRT-PCRが役立つ。しかし、強毒全身性FCVを特異的に検出できる、すなわち、病原性関連遺伝子を検出できるRT-PCRはまだ開発されていない34)。

❖ウイルス分離 ウイルス分離はウイルスの増殖を証明できるが、ウイルス株の鑑別に関してはRT-PCRよりも劣る。FCVは猫由来株化細胞で増殖可能である。FCVは株化細胞で強い増殖性を示す。細胞での増殖速度が遅いFHVが共存する場合は注意が必要である35)。口腔、鼻腔、結膜および咽頭の拭い液からFCVを分離する。サンプル中にウイルス粒子が少ない場合、輸送中にウイルスが失活した場合およびサンプル中に中和抗体が存在する場合はウイルスを分離することができない36)。ウイルス分離をするためにもっとも適したサンプルは、結膜と咽頭から採取した拭い液である32)。

抗体の検出 FCV抗体は中和反応もしくはELISAで検出することが可能である。猫集団では高いFCV抗体陽性率が認められるが、これは自然感染だけではなくワクチンの接種も影響している。したがって、抗体測定はFCVの診断に有効

ではない[EBMグレードⅠ]36)。 しかし、中和抗体価の測定はFCV感染を防御できるか否かを推測するうえで有効である。中和試験の場合、試験に用いたFCV株(実験室株)を中和しないこともある(偽陰性)。すなわち、中和試験に用いる実験室株と感染ウイルス株の違いによって、試験結果が異なる。使用する実験室株の由来が明らかではない中和試験において、試験の結果を解釈するのは困難である22, 37)。

疾患の制御

急性上部呼吸器疾患に対する治療 重症の猫には、集中的な看護と支持療法が施される。このような猫に対しては、静脈輸液による脱水状態からの回復と電解質および酸-塩基平衡の補正が必要となる。食事も重要である。発症猫のほとんどは食事を食べない。そのおもな理由は、発熱および口腔内潰瘍の存在であり、また鼻づまりによる嗅覚の消失も理由の1つである。発熱および口腔内の疼痛に対して、非ステロイド系消炎鎮痛剤が使用可能である。食事は混ぜたり、ペースト状にして、また時には(食事のにおいを増幅させるために)

本論説で使用しているEBMランキング(格付け)

 科学的根拠に基づいた医療(EBM)は臨床的な意思決定を行う手順で、臨床医がおのおのの臨床経験や飼い主の希望や患者の要求とともに根拠を発見、評価、統合することができる(論説p. 529にある特集、doi:10.1016/j.jfms.2009.05.001参照)。 本論説はEBMランキングを用いて、疾患の診断や管理ならびにワクチン接種に関する記述の根拠レベルを位置づけている。記述は下記のようにⅠからⅣ段階に格付けしている。❖EBMグレードⅠ 対象動物(この場合は猫)で適切に計画され、無作為かつ管理された治験から得られた、もっとも優れた根拠および構成データ。

❖EBMグレードⅡ 実験的に設定した状況下で自然発生した疾患を持つ対象動物で、適切に計画され無作為に行われた研究で得られたデータ。

❖EBMグレードⅢ 無作為ではない治験、複数の症例シリーズ、ほかの実験研究および管理されていない研究から得られた劇的な結果を基にしたデータ。

❖EBMグレードⅣ 専門家の意見、ケースレポート、ほかの動物種での研究、病態生理学的に妥当なもの。どのグレードにも属さない場合、EBMグレードはⅣとなる。

推薦図書Roudebush P, Allen TA, Dodd CE, Novotny BJ. Application of evidence-based medicine to veterinary clinical nutrition. J Am Vet Med Assoc 2004; 224: 1765‒71.

強毒全身性猫カリシウイルス病は、全身性炎症反応症候群、播種性血管内凝固、多臓器不全を起こし、やがて死に至る。

致死率は67%である。

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560 JFMS CLINICAL PRACTICE

加温して与えてもよいかもしれない。3日間以上採食していない猫には、食道チューブによる投与や経腸栄養法を行ってもよい。重症例や細菌感染が疑われる場合、臨床医の判断で広域スペクトルの抗生物質を投与する。この場合気道や口腔粘膜に分布しやすい抗生物質を使うことが重要である。 鼻部は1日に複数回、生理的食塩水を用いてふき取る。軟膏は病変部に限局して用いるべきである。もし、粘液性の鼻汁が認められた場合は粘液溶解薬(例えば、ブロムヘキシン)が役立つこともある。気道の脱水改善を目的に食塩水の吸入を行うのもよい。

抗ウイルス療法 獣医学領域で用いられている抗ウイルス薬のほとんどは、DNAウイルスまたはレトロウイルスの複製を抑制する薬のみで、FCVを標的とした抗ウイルス薬は臨床治験の段階にすら入っていない。リバビリンは、in vitroにおいてFCVの複製を抑制できる、数少ない抗FCV剤の1つである。しかし、本製剤は猫に対する有毒性が示唆されており、副作用の観点から全身投与は禁じられている[EBMグレードⅢ]38)。猫インターフェロンω(ヨーロッパの一部の国において犬パルボウイルス感染症および猫白血病の治療に認可されている薬剤)は、in vitroにおいてFCVの複製を抑制することが確認されている。しかし、無作為の野外試験は実施されていない[EBMグレードⅣ]39, 40)。

強毒全身性猫カリシウイルス病の治療 強毒全身性猫カリシウイルス病に対しては、ステロイドとインターフェロンの投与と集中支持療法によって臨床状態が改善した例が報告されている[EBMグレードⅢ]18)。しかし、本治療法に対する無作為の臨床試験は実施されていない。

慢性口内炎の治療 慢性の増殖性潰瘍性口内炎に対する治療法については、対照をおいた試験がほとんど行われていない。現在、増殖性潰瘍性口内炎の治療として、歯のクリーニング、ステロイドやほかの免疫抑制剤、免疫調整剤(金製剤、クロラムブシル、サリドマイド、シクロスポリンなど)に抗生物質を併用する方法[EBMグレードⅣ]、抜歯[EBMグレードⅢ]41, 42)が推奨されている。 FCVに関連した慢性口内炎の治療に猫インターフェ

ロンωやヒトインターフェロンの局所投与もしくは局所投与と全身投与の併用の実施が報告されているが、効果については確証的ではない[EBMグレードⅣ]42)。

ワクチン接種 FCV感染症は野外に蔓延しており、場合によっては重症化する。したがって、ABCDはFCVワクチンをコアワクチンと考え、健康猫すべてが接種を受けるように推奨する(561ページ、Box1参照)。予防接種を受けている猫は、ほとんどの場合において急性の口腔内疾患および上部気道疾患を効果的に抑制できるが、ウイルス感染を防御、またはウイルス排泄を抑制するのは難しい43)。また、FCVワクチンがすべての野外株に対して(発症に対する)防御効果を示すとは限らない。

特殊な状況下での疾患の制御

保護施設(シェルター) FCV感染症は、保護施設において問題化しやすい。FCV予防において、物理的にウイルス伝播を制限する方法は、ワクチン接種と同じくらい重要である。つまり、保護施設を設計する際、または管理する際にはこの概念を念頭に置かなければならない。猫を収容する際は、同じ飼育下にいた猫以外は、隔離して収容するべきである。 保護施設内の猫において急性呼吸器疾患が認められた場合、その病原体(FCVとFHV、Chlamydophila felis、Bordetella bronchiseptica、Mycoplasma種)を鑑別することは、適切な予防につながる。自然環境下において、約1カ月間FCVの感染性が保持される。FCVを効果的に不活化する消毒剤として、次亜塩素酸ナトリウム(32倍希釈した5%漂白剤)、過酸化カリウムモノ硫酸塩、二酸化塩素またはそれらを含む市販製品があげられる。健康な新規導入猫は、できるだけ早くワクチン接種を行うべきである。FCV感染症の発症を予防するため、保護施設内では弱毒生ワクチンが推奨される。

ブリーダーの猫舎 猫のブリーダーにとって、FCV感染症は頻繁に遭遇する問題である。若齢猫では、移行抗体が減少する時期(生後4~8週齢)に上部気道疾患が認められる。同腹の子猫はすべて重篤な症状を示す場合が多く、死亡率も高い。母猫にワクチン接種をしてもウイルスの排泄を防ぐことはできない。しかし、高い移行抗体を子猫に賦与できると考えられる。これは、生後1カ月齢までは感染を抑制

現行のFCVワクチンは、口腔内疾患や上部気道疾患の発症を抑制できるが、感染およびウイルス排泄を抑制する効果は不十分である。

さらに、FCVワクチンがすべての野外株に対して効果を発揮する訳ではない。

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R E V I E W / ABCD guidelines on feline calicivirus infection

561JFMS CLINICAL PRACTICE

できる量である。 母親となる雌猫は、交尾前にワクチンの追加接種を受ける。妊娠中のワクチン接種は避けたほうがよい。母猫に対して弱毒生ワクチンを接種するのは認可されていない。もし、母猫へのワクチン接種を考慮するのであれば、不活化ワクチンを使用する。 出産は飼育施設から隔離された場所で行う。同腹の子猫は、ワクチン接種をするまでほかの猫と交流してはいけない。以前出産した子猫においてFCV感染症が認めら

れた場合、その母猫から新たに生まれる子猫に対して、早期のワクチン接種を考慮すべきである。FCVワクチンの接種が許されるのは、最速で生後6週齢である。しかし、生後4週齢の子猫に対するワクチン接種を考慮してもよいかもしれない(その時期の子猫はある程度の免疫機能を保有している)。その場合、2週おきにワクチン接種を行い、通常の初回免疫時期、すなわち生後12週齢まで接種を続ける。すべての方法が失敗に終わった場合、生後4週齢までに母猫や同腹猫から隔離する。しかし、この

Box1 ワクチン接種に関する推奨事項

一般的な考慮事項 最近では、FCVとFHVの二価ワクチン(数カ国で実施)、または抗原をさらに添加したワクチンが利用されている。FCVワクチンには、弱毒生ワクチンと非経口型の不活化ワクチンが存在する。ヨーロッパでは弱毒生ワクチンを利用することはできないが、米国では利用可能である。 FCVワクチンは中和抗体を誘導することで予防効果を発揮する。ウイルスは、変異と(集団免疫から逃れた変異体の)選択の2つの機序を経て進化するが、この現象はワクチン免疫に対して抵抗性を持つFCV野外株を作り出す契機となる。また、この現象は特定のFCV株(またはFCV株の組合せ)がワクチンとして長期間使用された地域において顕著に認められることが示唆される。これらの仮説を支持する研究はいくつか行われているが45-47)、FCVワクチン免疫を逃れうるFCVの存在を証明した決定的な論文は未だ発表されていない。ヨーロッパでは、野外における流行株の情報を得るため、また、広く防御効果が認められるFCV変異株を同定するために研究が行われている25)。大部分のワクチン製品に用いられているFCV株はF9株(1950年代に分離されたもっとも古い株)とFCV 255株である。近年では、G1株と431株が用いられている。使用しているFCV株の種類を公表していない企業もいくつかある。 ワクチン株として利用するFCV株について、完璧なデータが発表されないかぎり、特定の株を推奨することは難しい。しかし、全頭がワクチン接種を受けている環境下の猫において、ウイルス学的にFCV感染症が起きていることが証明された場合、このような環境の猫に対しては、異なるウイルス株で作製されたワクチンに切り替えるのがよいと思われる。 ウイルスの排泄に対するワクチン効果の有無については、議論の最中である。ある程度の抑制効果が得られたという報告もあれば、ウイルス感染後のウイルス排泄期間が延長された可能性が示唆された報告もある10, 20, 25, 50, 51)。生ワクチン接種猫においてウイルス排泄が認められることもあるが、この現象は稀なことである50-52)。 生ワクチンを間違った方法で接種した場合、例えば、偶然にエアロゾル化した状態で接種されたり、皮膚にこぼしたりして異なった経路から接種されてしまった場合、病気を誘発する可能性がある。しかし、このようなケースはFCVが常在化しているような地域においても稀な出来事である。 ワクチンによる防御効果を予測する場合、血清学的データの利用価値は限定的

なものと考えられる。なぜなら、野外株に対する抗体が検査機関などの実験室で用いられている株を中和するとは限らないからである。

初年度接種 FCVワクチンは9週齢前後で初回接種を行う。しかし、いくつかのワクチンでは早期の使用が許されている。子猫の場合、2~4週後、遅くても12週齢になる前に2回目のワクチン接種を行う。しかし、移行抗体の存在時期が長い場合は、この方法は適さない[EBMグレードⅠ]22)。FCVの感染リ

スクが高い状況下、とくにワクチン接種した子猫でもFCV感染症が認められるような環境では、16週齢において3回目のワクチン接種を行う。ABCDでは、初年度接種は同一のメーカーのワクチンを使用することを推奨する。 ワクチン既往歴がよくわからない老齢猫では、同じ株のワクチンを2~4週間隔で2回接種するべきである。このことは弱毒生ワクチンを使用する際にも当てはまる。

追加接種 ABCDは、FCV感染のリスクが低い環境下(ほかの猫との

接触機会のない室内など)で飼育されている猫については、ワクチンの追加接種は3年間隔で行うことを推奨する。この意見は、公表されているいくつかの研究成果を参考に導き出した結論である[EBMグレードⅡ]。しかし、猫の飼い主は、最後にワクチンを接種してから次の接種をするまでの期間を長くすればするほど、ワクチンによる感染防御効果が薄れていくことを念頭に置かなければならない。猫を密飼いしているようなハイリスクの環境下(猫の保護施設など)では、1年間隔で追加接種を行うべきである。ほかのケースでは、リスク対効果の評価に基づいて接種を決定するべきである。 追加免疫に関して、最後のワクチン接種からの期間が3年未満である場合、ABCDは1回の接種を推奨する。3年以上の間隔があいている場合、確実な防御効果を得るためには2回接種を行うのがよい。追加接種に使用するワクチンは、前回の接種と異なるワクチンメーカーを利用してもよい。

通常のワクチンはFCVを含む混合ワクチンである。したがって、FCV以外の感染症を予防する目的で1年おきにワクチン接種をした場合、結果としてFCVの追加免疫にもつながる。

コア・ワクチン ABCDは、FCV感染症

に対して防御効果をもたらすワクチンをコア・ワクチンとする。FCV感染症から回復した猫でも、異なるFCV株の感染を防ぐことは、生涯不可能であろう。

FCV感染症から回復した猫でも、異なるFCV株の再感染を防ぐことはできないだろう。

しかし、このような猫に対してもワクチン接種が推奨される。

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562 JFMS CLINICAL PRACTICE

場合は、後になんらかの行動障害が起きることを考慮しなければならない。

免疫不全の猫 免疫機能不全の動物、例えば、栄養失調、先天性または後天性免疫不全症状群または全身性の疾患を呈している動物、免疫抑制剤や細胞増殖抑制剤の投薬または環境ストレスを受けている動物は、ワクチンによる免疫賦与を十分に得ることができない。もし、病原体からの保護が十分ではない免疫機能不全の猫がいたとしたら、このような猫はワクチン接種を受けなければいけない。ABCDは、このような免疫機能不全の猫に対しては、安全上の理由から不活化ワクチンの接種を推奨する。生ワクチンを接種した場合は、ワクチン株が増殖して臨床徴候を示すことがあるからである。

❖猫免疫不全ウイルス陽性猫 FIV感染猫(感染末期を除く)では、外来抗原に対する免疫応答が認められる。しかし、初期免疫応答は遅延もしくは減弱すると考えられる[EBMグレードⅢ]49, 53)。FIV攻撃直後の実験感染猫では、FCVワクチンの効果はほとんど認められなかった。むしろ、FCVの排泄を長引かせたような結果が得られた49)。in vitroにおいて、FIV感染リンパ球を刺激すると、ウイルスの複製が促進される。また、in vivoにおいて、FIV抗体陽性猫に(FIV抗原由来の)合成ペプチドを投与する

と、CD4/CD8比の低下が認められる。これらの事実を踏まえると、FCVワクチンを接種してFCVの感染・発症を防御しても、その代わりにFIV複製が促進され、FIV感染症が進行すると考えられる。まとめると、FIV感染猫の場合は、FCV感染のリスクが高い場合にかぎり不活化ワクチンを接種するべきである。

❖猫白血病ウイルス感染猫 猫白血病ウイルス(FeLV)に感染している猫は屋内で隔離して飼うべきである。この理由は、FCV感染を避けるだけではなく、ほかの猫へのFeLV伝播を防ぐためである。症状が認められないFeLV感染猫については、不活化FCVワクチンを接種すべきである。FeLV感染猫では、狂犬病ワクチンに対する免疫応答が起きない可能性が示唆されている。FCVワクチンを含むほかのワクチンについても同様の現象が起こり得る。そのため、FCVワクチンを接種しても、FeLV非感染猫レベルの防御効果は得られないと思われる。したがって、FeLV感染猫に対してワクチン接種する場合、接種回数を増やすことを考慮すべきである。

❖慢性疾患の猫 一見、健康そうな猫であっても、慢性疾患の猫については、ワクチン接種の基本概念が適合しない。腎疾患、糖尿病、甲状腺機能亢進症の猫では、症状が安定している場合にかぎり、健康猫と同様のプログラムで

❖猫カリシウイルス(FCV)は、上部呼吸器疾患を起こす感染性が強い病原体である。

❖ FCVは、幅広い病原性、抗原性、免疫原性を示す。

❖慢性口内炎および歯肉炎を示す猫では、FCVが検出されやすい。

❖分泌物中のFCV量が少ない持続感染猫もいるため、RT-PCRの結果については注意深く解釈しなければならない。

❖「強毒全身性猫カリシウイルス病」は、類似した臨床徴候が認められる猫から同じウイルス株が分離されること、高い感染率および高致死率という結果を基に診断する。

❖環境中では、FCVの活性は約1カ月間保持される。FCVは大部分の消毒剤に抵抗性を示すが、次亜塩素酸ナトリウム(32倍希釈した5%漂白剤)でFCVを失活できる。

❖以前出産した子猫においてFCV感染症が認められた場合、その母猫から新たに生まれる子猫に対して、早期のワクチン接種を考慮すべきである。

❖健康な猫は、すべてFCVワクチンを接種するべきである。

❖ワクチン接種は、生後9週齢と12週齢で2回接種することが望ましい。3回目の追加接種は1年後に行う。

❖ FCVの感染リスクが高い環境では、生後16週齢で3回目の追加接種が推奨される。

❖初回のワクチンスケジュールの後は、3年おきにワクチンを追加接種する。FCVの感染リスクが高い環境では1年ごとに追加接種を行う。

❖ FCV感染症から回復した猫でも、再感染を免れることはできないだろう(とくに、異なるFCV株が感染した場合)。しかし、このような猫でもワクチン接種が推奨される。

キーポイント

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ワクチン接種を行う。しかし、なんらかの症状を伴う場合や発熱している場合は、ワクチン接種を受けるべきではない。慢性口内炎を伴うFCV感染猫に対しては、弱毒生ワクチンを接種するべきではない[EBMグレードⅣ]50)。

❖ステロイドやほかの免疫抑制剤を投与している猫 投与量と投与期間にもよるが、ステロイドは免疫抑制を引き起こす。ワクチン接種の時期にステロイドを使用することは避けるべきである。しかし、ワクチン効果に対する免疫抑制剤の影響については知られていない。

謝辞

 The European Advisory Board on Cat Diseases(ABCD)は、この特別な刊行を企画するにあたり、Dr. Karin de Langeに謝意を表します。彼女の賢明な援助、親身に締め切りを守ってくれたことに対し感謝します。またChristina Espert-Sanchezの大変な編集協力に対して感謝します。そして、本ガイドラインのシリーズの基礎はメリアルの資金援助なくしては築くことが難しかったと思われます。ABCDは、とくにチームの主張を科学的に中立な立場で評価を下したDr. Jean-Christophe Thibaultに敬意を表します。

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