特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体...2014 4 vol.87 no. 特集...

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2014 Vol.87 No. 4 ػใɹୈ 87 רɹୈ 4 ߸ʢ௨רୈ 884 ߸ʣɹ2014 12 30 ߦɹISSN 2187-1817 ಛɹΤωϧΪʔϚωδϝϯτʹݙߩΔύϫʔಋମ

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2014Vol.87 No. 4

富士電機技報 第 87 巻 第 4号(通巻第 884 号) 2014 年 12 月 30 日発行 ISSN 2187-1817

特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

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42014Vol.87 No.

特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

低炭素社会の実現に向けて,太陽光発電や風力発電などの再生可能エ

ネルギーの普及と,そのエネルギーを効率的に利用するパワーエレクト

ロニクス技術に対する世の中の期待は非常に高まっています。この期待に応えるため,富士電機では,環境,エネルギー,自動車,産業機械,

社会インフラ,家電製品など多くの分野に向けて,エネルギー変換効率が高く,低ノイズで使いやすいパワー半導体製品を開発しています。

本特集では,パワーエレクトロニクス技術のキーデバイスであるパ

ワー半導体について,最新の技術および製品を紹介します。

表紙写真(左上から右周り) SiCハイブリッドモジュール(6 in1パッケージ),IGBTモジュール(6 in1パッケージ),産業用RC-IGBTモジュー

ル(2 in1パッケージ),All-SiCチョッパモジュール,SiCハイブリッドモジュール(2 in1パッケージ)

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目 次

〔現状と展望〕パワー半導体の現状と展望 234(4)高橋 良和 ・ 藤平 龍彦 ・ 宝泉  徹

1,200V耐圧SiCハイブリッドモジュール 240(10)小林 邦雄 ・ 北村 祥司 ・ 安達 和哉

略語・商標 289(59)

〔特集に寄せて〕パワー半導体 233(3)― 材料科学とパワーエレクトロニクスの架け橋 ―木本 恒暢

特集 エネルギー マネジメントに貢献するパワー半導体

メガソーラー用パワーコンディショナ向けAll-SiC モジュール 244(14)梨子田典弘 ・ 仲村 秀世 ・ 岩本  進

新型パッケージを採用した産業用RC-IGBTモジュール 249(19)高橋 美咲 ・ 吉田 崇一 ・ 堀尾 真史

マイルドハイブリッド車用RC-IGBT 254(24)野口 晴司 ・ 安達新一郎 ・ 吉田 崇一

ハイブリッド車用第2世代アルミニウム直接水冷パッケージ技術 258(28)郷原 広道 ・ 齊藤  隆 ・ 山田 教文

第3世代臨界モードPFC制御 IC「FA1A00シリーズ」 263(33)菅原 敬人 ・ 矢口 幸宏 ・ 松本 和則

自動車用大電流 IPS 273(43)岩水 守生 ・ 竹内 茂行 ・ 西村 武義

LLC電流共振電源の回路技術 268(38)川村 一裕 ・ 山本  毅 ・ 北條 公太

1,700V耐圧SiCハイブリッドモジュール 277(47)AT-NPC 3 レベル大容量 IGBTモジュール 279(49)― 大容量モジュール用パッケージ「M404パッケージ」 ―ディスクリートSiC-SBD 281(51)株式会社ジャパンビバレッジホールディングス向け超小型カップ式自動販 283(53)売機小型パッケージ“MiniSKiiP”製品の系列化 286(56)

新製品紹介論文

富士電機技報 vol.87 2014(平成26年)総目次

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Contents

Abbreviations and Trademarks 289(59)

[Preface] Power Semiconductors–– 233(3)A Bridge between Material Science and Power ElectronicsKIMOTO, Tsunenobu

Power Semiconductors Contributing in Energy Management

2014Vol.87 No. 4

Power Semiconductors: Current Status and Future Outlook 234(4)TAKAHASHI, Yoshikazu FUJIHIRA, Tatsuhiko HOSEN, Toru

1,200 V Withstand Voltage SiC Hybrid Module 240(10)KOBAYASHI, Kunio KITAMURA, Shoji ADACHI, Kazuya

All-SiC Module for Mega-Solar Power Conditioner 244(14)NASHIDA, Norihiro NAKAMURA, Hideyo IWAMOTO, Susumu

RC-IGBT Module with New Compact Package for Industrial Use 249(19)TAKAHASHI, Misaki YOSHIDA, Soichi HORIO, Masafumi

RC-IGBT for Mild Hybrid Electric Vehicles 254(24)NOGUCHI, Seiji ADACHI, Shinichiro YOSHIDA, Soichi

Packaging Technology of 2nd-generation Aluminum Direct Liquid 258(28)Cooling Module for Hybrid VehiclesGOHARA, Hiromichi SAITO, Takashi YAMADA, Takafumi

3rd-Gen. Critical Mode PFC Control IC “FA1A00 Series” 263(33)SUGAWARA, Takato YAGUCHI, Yukihiro MATSUMOTO, Kazunori

Circuit Technology of LLC Current Resonant Power Supply 268(38)KAWAMURA, Kazuhiro YAMAMOTO, Tsuyoshi HOJO, Kota

1,700 V Withstand Voltage SiC Hybrid Module 277(47)AT-NPC 3-level High-Power IGBT Module–– 279(49)Package for High-Power Module “M404 Package”Discrete SiC-SBD 281(51)Extremely Compact Cup-Type Beverage Vending Machines for 283(53)Japan Beverage Holdings Inc.Product Lineup of Miniaturized Package “MiniSKiip” 286(56)

New Products

High Current IPS for Vehicle 273(43)IWAMIZU, Morio TAKEUCHI, Shigeyuki NISHIMURA, Takeyoshi

Volume Contents of FUJI ELECTRIC JOUNAL vol.87, 2014

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特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

富士電機技報 2014 vol.87 no.4

特集 

エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

233(3)

特集に寄せて

パワー半導体― 材料科学とパワーエレクトロニク

スの架け橋 ―

エレクトロニクス分野において中核的な機能を果たす半導体デバイスの進展は目覚ましく,さらなる高性能化,高機能化を目指して新しい半導体材料の導入が進められてい

る。近年,クリーンエネルギーの効率的生成とエネルギー

利用効率の向上が強く望まれ,太陽電池や電力用半導体素子の革新に寄せられる期待が大きい。筆者は,企業にお

ける研究開発を数年経験した後,大学に戻り,SiC(炭化けい素)の研究に取り組んで 25 年が経過した。今でこそ,

SiCは高耐圧・低損失・高速の次世代パワー半導体として

注目されているが,25 年前は大学における学術的好奇心に頼る研究にすぎなかった。材料の研究開発には長い時間とリソースの投入が必要である。執念ともいえる研究者,

技術者の長年の努力が 10 年後に開花することも多い。

研究開発および技術開発は,常に未知への挑戦であり,

心が熱くなる仕事である。特に新しい材料開拓の要素があ

ると,誰にでも先端を走るチャンスがある。このような新材料とデバイスに関する研究および技術開発で思うところ

をいくつか述べたい。

⑴ 現象の背景にある学理に踏み込んだ者に勝機が訪れる

どのような泥臭い技術開発にも,必ず学理がある。筆者は最初,硬い SiC 結晶の手動研磨の技を磨いたが,そこに

はせん断応力による転位導入という材料科学があった。酸化膜/SiC 界面の窒化を行う場合,N2Oガスを用いる場合と NOガスを用いる場合で異なる結果が得られる理由も気相反応の化学平衡に起源があった。新しい材料を開発する

場合,熱膨張と熱応力,塑性変形と転位論,固体物理と電子物性論,化学反応論などの学理を見いだしてほしい。そ

こに必ず突破口のヒントがある。

⑵ いつもと違うサインを見逃さない

先端的な研究開発の現場では日常のことで,たとえルー

ティン的な仕事をしていても,装置・試料の不具合や人的要因により当初に予定していなかった実験となることがあ

る。そのときの結果に好奇心を持って臨むべきである。仕事の効率だけを追い求めてはいけない。科学技術の長い歴史を見てもマイルストーンとなるような発見の多くは,緻密な計算と考察により(計画通りに)達成されたとは言え

ない。むしろ,偶然とも言える現象を見逃さなかったこと

で発見につながったことが少なくない。筆者のグループで

も,浅学な筆者の計画した研究では平凡な結果が多く,好奇心に満ちた学生が現場で異常を発見し,それを大発見に

つなげた例が多い。

⑶ 常識にとらわれずに挑戦する勇気を持つ

その分野における技術開発の歴史の長短にかかわらず,

“常識”や“標準”が存在する。そこに,自分が十分納得できる学理があるか。⑴とも関連するが,物理や化学に裏打ちされた確固たる学理の体系化がない場合は,突破口のチャンスと考えたい。過去に,現在とは異なる制約条件の中で“最適化”された事実が“標準”として横行してい

ることは多い。勇気を持って自分の考える解決策を提案し,

実行してほしい。

⑷ 自分の専門分野や業務内容に閉じこもらない

材料の合成や成長をテーマとしている人も,最終的なデ

バイスや回路動作を学び,その材料に求められる特性を把握するべきである。逆に,デバイス作製や回路設計をテー

マとしている人も,用いる材料の特徴や,その材料特有の

問題点を把握しておくことが望まれる。材料屋,デバイス

屋,回路屋の垣根を越えた問題点の議論は必ず前進の駆動力を与える。

少々脱線したが,パワー半導体の研究は,材料科学,半導体工学,デバイス物理,電気電子回路,電力工学などさ

まざまな学問を横断する学際分野を提供している。これを

支える技術も多岐にわたり,日進月歩の様相を呈している。

今世紀,パワーエレクトロニクスとそのキーデバイスとな

るパワー半導体の研究開発は,産業的にも社会的にも重要性を増すばかりである。幸い,わが国は当該分野で強い産業競争力を発揮しており,今後もその先導的立場を維持す

ることが強く期待されている。当該分野に携わる方々は,

強い自負と使命感を持ってほしい。10 年後,20 年後の社会を創るのは,現在,研究や技術開発の現場で汗を流して

いる方々である。研究および技術開発の醍醐味を楽しみな

がら,材料科学とパワーエレクトロニクスの間に強固な架け橋をかける人が一人でも多く現れることを期待したい。

京都大学 大学院 工学研究科 教授博士(工学)

Power Semiconductors––A Bridge between Material Science and Power Electronics

木本 恒暢 KIMOTO, Tsunenobu

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富士電機技報 2014 vol.87 no.4

特集 

エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

234(4)

Power Semiconductors: Current Status and Future Outlook

1 まえがき

富士電機は,創業から 90 年の長い歴史の中で,エ

ネルギー技術を革新し,産業・社会のインフラ分野で,

広く世の中に貢献してきている。

地球温暖化を防止し,変化し続ける地球環境との調和を図り,安全・安心で持続可能な社会を実現する上で,太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー

の普及と,そのエネルギーの効率的な利用を支えるパ

ワーエレクトロニクス(パワエレ)技術に対する世の

中の期待は非常に大きい。

このような期待の中,富士電機では,エネルギー変換効率が高く,低ノイズで地球環境にやさしいパワー

半導体製品を開発している。パワー半導体は,エネル

ギーと環境分野の製品や,自動車,産業機械,社会イ

ンフラおよび家電製品に量産品として適用され,世の

中に貢献している。

本稿では,パワエレ技術のキーデバイスであるパ

ワー半導体について,パワーモジュール(* 1)

,パワーディ

スクリート(* 2)

,パワー IC(* 3)

を中心に最新の技術および製品の現状と展望について述べる。

2 パワーモジュール

図1に,パワーモジュール製品の応用例を示す。大容量市場においては,SiC

(* 4)

(炭化けい素)を用いた SBD(* 5)

(Schottky Barrier Diode)と Si の IGBT(* 6)

(Insulated Gate Bipolar Transistor)とを組み合わせた 1,200V 耐圧 SiCハイブリッドモジュール,およびメガソーラー

用パワーコンディショナ向け All-SiCモジュールを開発した。中容量市場においては,マイルドハイブリッ

高橋 良和 TAKAHASHI, Yoshikazu 藤平 龍彦 FUJIHIRA, Tatsuhiko 宝泉  徹 HOSEN, Toru

パワー半導体の現状と展望

(*1)パワーモジュールダイオードやトランジスタといった複数のパワー素子を一つのパッケージに搭載したものである。一つ

のモジュールの中の素子(通常は IGBT+逆並列接続FWD)の数に応じて,1 in1, 2 in1, 6 in1 などと呼ば

れる。パワー素子を制御する駆動回路も搭載したもの

は,インテリジェントパワーモジュール(IPM)と呼ばれる。

(*2)パワーディスクリートパワー素子の IGBTやMOSFETを 1 素子,またはそ

れに逆並列にダイオードが挿入された 1 in1と呼ばれ

る回路から構成されるパワー半導体である。形状は,

汎用的にピンレイアウトが決まっており,TO-220やTO-3Pなどがある。小容量タイプの PC 電源,無停電電源装置,液晶ディスプレイ,小型モータの制御回路などに使われている。

(*3)パワー ICパワー素子と制御・保護回路を一つの半導体チップ上に集積した高耐圧 ICである。パワーエレクトロニク

ス機器の小型化や低消費電力化が可能となり,産業,

車載,民生の各用途に応じて数十Vクラスから 1,200Vクラスまでのものが製品化されている。

(*4)SiCけい素(Si)と炭素(C)の化合物である。3C,4H,6Hなど多くの結晶の構造多形が存在し,構造によっ

て 2.2〜3.3 eVのバンドギャップを持つワイドギャッ

プ半導体として知られる。絶縁破壊電圧や熱伝導率が

高いなどパワーデバイスとして有利な物性を持つた

め,高耐圧・低損失・高温動作デバイスが実現できる

として実用化が進められている。

(*5)SBDSchottky Barrier Diodeの略である。金属と半導体と

の接合によって生じるショットキー障壁を利用した整流作用を持つダイオードである。その優れた電気特性により,SiC-SBDの FWDへの適用検討が始まって

いる。少数キャリアも利用する PiN(P-intrinsic-N)ダイオードと比較して,多数キャリアのみで動作する

SBDは逆回復スピードが速く,逆回復損失も小さい。

(*6)IGBTInsulated Gate Bipolar Transistorの略である。ゲー

ト部はMOSFETと同じ構造で,酸化物絶縁膜で絶縁されたゲート部を持つ電圧制御型デバイスである。

MOSFETとバイポーラトランジスタの長所を生かし

たものである。バイポーラ動作であるため伝導度変調を用いることができるので,インバータへの応用に十分なスイッチング速度と高耐圧・低オン抵抗を両立で

きる。

電 流

電 圧

データサーバ

家電製品

風力発電

電気鉄道

太陽光発電

大容量市場

中容量市場

小容量市場

HEV・EV

インバータ

ロボット

UPS

産業用RC-IGBTモジュール

マイルドハイブリッド車用RC-IGBTチップ

1,200V耐圧SiCハイブリッドモジュール,All-SiCチョッパモジュール

図1 パワーモジュール製品の応用例

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現状と展望パワー半導体の現状と展望

富士電機技報 2014 vol.87 no.4

特集 

エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

235(5)

ド 車 用 RC-IGBT(Reverse-Conducting Insulated Gate Bipolar Transistor:逆導通 IGBT)チップや新型パッケージの技術を採用した産業用 RC-IGBTモ

ジュールを開発した。そして,ハイブリッド車用の直接水冷のためのパッケージ技術についても取り組んで

いる。

2 . 1  1,200V耐圧SiCハイブリッドモジュール

富士電機では,これまでに 600V 耐圧または 1,200V耐圧の SiC-SBDを適用した EPパッケージや PCパッ

ケージのハイブリッドモジュール,ならびに 1,700V耐圧 SiC-SBDを適用した 2 in1パッケージのハイブ

リッドモジュールを製品化してきた。

現在,FWD(* 7)

(Free Wheeling Diode)に 1,200V 耐圧 SiC-SBDを適用した 2 in1パッケージのハイブリッ

ドモジュールを開発している。SiC-SBDチップ⑴

は,独立行政法人 産業技術総合研究所と共同で開発し,富士電機で量産している。IGBTチップには,富士電機製の第 6世代「Vシリーズ」を適用している。このハイ

ブリッドモジュールにおけるターンオン損失は,Siモジュールに比べて 35% 低減し,逆回復電流がほとん

ど発生しないため,逆回復損失はほぼ 0であった。ま

た,SiCハイブリッドモジュールは,Siモジュールと

比較したインバータ発生損失の低減率が,キャリア周波数が高くなるにつれて 12%から 28%と大きくなり

(図2),高周波動作に有利であることを確認した(240ページ“1,200V 耐圧 SiCハイブリッドモジュール”

参照)。

2 . 2   メガソーラー用パワーコンディショナ向けAll-SiC モジュール

富士電機は,松本工場において次世代半導体である

SiC-MOSFET( * 8)

(Metal-Oxide-Semiconductor Field-

Eff ect Transistor)と SiC-SBDを量産しており,併せ

てこの SiCデバイスが持つ性能を引き出す All-SiCモ

ジュールも開発している。

All-SiCモジュールは,銅ピンでパワーチップに接続するワイヤボンディングレス構造と低熱抵抗絶縁基板を適用した新型パッケージを採用している。図3に,

新型パッケージの断面図を示す。従来は,ワイヤボン

ディングと DCB(Direct Copper Bonding)基板上の

銅パターンによってチップと各端子間の配線を行って

いた。新型パッケージでは,ワイヤボンディングの代わりに銅ピンが形成されたパワー基板によって配線を

行っている。これにより,1,200V/100A 定格の All-

SiCモジュールのフットプリントサイズは,従来パッ

(*7)FWDFree Wheeling Diodeの略である。還流ダイオード

ともいう。インバータなどの電力変換回路において,

IGBTと並列に接続され,IGBTをオフした際にイン

ダクタンスに蓄えられたエネルギーを電源側へ還流させる役割を担うデバイスである。Siの FWDでは,

PiN ダイオードが主流である。少数キャリアも用いた

バイポーラタイプであるため,順方向電流通流時の電圧降下を小さくできるが,その分,逆回復損失が大き

くなる。

(*8)MOSFETMetal-Oxide-Semiconductor Field-Eff ect Transistor の略である。電界効果トランジスタの一つであり,酸

化物絶縁膜で絶縁されたゲート部を持つ電圧制御型デ

バイスである。LSIでは最も一般的な構造である。ユ

ニポーラ動作であるため高速動作が可能であるが,耐圧に応じてオン抵抗も上昇するため低耐圧・高周波デ

バイスとして用いられる。

300

150

200

250

50

100

0

発生損失(W)

P rr P f Poff Pon Psat

13.9

16.7

28.0

31.4

101.1

18.2

28.7

20.3

101.1

25.4

13.1

47.2

53.3

77.8

14.0

48.3

34.4

77.8

36.0

6.7

57.9

67.6

38.4

7.0

59.3

43.7

38.4

191.2168.3

216.7

174.5

206.6

148.3

28%低減19%低減12%低減

Siモジュール

SiCハイブリッドモジュール

Siモジュール

SiCハイブリッドモジュール

Siモジュール

SiCハイブリッドモジュール

3kHz 6kHz 12kHz

Tj=125℃,VGE=+15/-10V,cosφ=±0.85,λ=1,fo=50Hz,3arm

0.00.0

0.0

図2 インバータ発生損失の比較

パワー基板

エポキシ樹脂

厚銅板

セラミック基板

(b)従来パッケージ

(a)新型パッケージ

銅ピン

シリコーンゲル アルミニウムワイヤ

パワーチップ 外部端子

樹脂ケース

銅ベース

接合はんだ セラミック基板

DCB基板

図3 新型パッケージの断面図

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現状と展望 パワー半導体の現状と展望

富士電機技報 2014 vol.87 no.4

特集 

エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

236(6)

ケージの IGBTモジュールと比較し,約 40%まで小型化している。

また,SiCデバイスの高速スイッチングに必要不可欠となるモジュール内部の低インダクタンス化に関し

て,新型パッケージは従来パッケージから約 80% 低減した。その結果,新型パッケージではスイッチング

損失が低減し,特に高周波数動作における損失低減に

有利である。さらに,モジュールの信頼性に関しても,

樹脂封止構造を採用した新型パッケージは従来パッ

ケージより高寿命である⑵

この新型パッケージ技術を適用した All-SiCモ

ジュールを搭載し,出力容量 1,000 kWのメガソーラー

用パワーコンディショナ(PCS)を開発し,量産を開始した(図4)。All-SiCモジュールを昇圧回路に適用することで,PCSの変換効率として世界最高レベル

の効率 98.8%を実現している(244ページ“メガソー

ラー用パワーコンディショナ向けAll-SiCモジュール”

参照)。

2 . 3   新型パッケージを採用した産業用RC-IGBT モジュール

電力変換装置の小型化と低コスト化のために,

IGBTモジュールには従来にも増して高パワー密度化が求められている。この要求に応えるために,富士電機では IGBTと FWDを一体化した産業用 RC-IGBT

を開発し,低熱抵抗と高信頼性を両立した新型パッ

ケージ(図3)と組み合わせることにより,高い信頼性を持つ小型モジュールを実現した。ワイヤボンディ

ングエリアおよび銅パターンの面積を削減することが

でき,58%もの設置面積を低減し,従来モジュールと

ほぼ同等のインバータ損失,および大幅な IGBT 接合温度の低下を実現した(249ページ“新型パッケージ

を採用した産業用RC-IGBTモジュール”参照)。

2 . 4  マイルドハイブリッド車用RC-IGBT地球温暖化防止に代表される世界的な環境保護に対

する意識の高まりの中,自動車分野においても CO2 排出量低減に向けてエンジンとモータの双方を利用する

ハイブリッド車(HEV),さらにモータのみで駆動す

る電気自動車(EV)の普及が進んでいる。

富士電機では,マイルドハイブリッド車向けのイン

バータへの要求である低損失化と小型化の両立に対応するため,IGBTと FWDを 1チップ化した 650V 耐圧の RC-IGBTを開発した

。図5に RC-IGBTの概略構造を示す。RC-IGBTと従来の IGBT+FWDにつ

いて,パッケージ内のチップ発熱を比較したところ,

RC-IGBTではチップ全体に熱が行き渡っており,チッ

プからの発熱を 50℃以上抑制することができた。こ

の発熱の制御により,25% 小型化した RC-IGBTで

従来 IGBT・FWDと同程度の温度となっており,こ

れにより,モジュール面積は 20% 低減が可能である

(254ページ“マイルドハイブリッド車用 RC-IGBT”参照)。

2 . 5   ハイブリッド車用第2世代アルミニウム直接水

冷パッケージ技術

自動車の動力制御に用いるインバータユニットは限られたスペースに搭載されるため,小型かつ搭載方法の自由度の高さと,低燃費を意識した軽量化と効率向上が求められる。インバータに搭載されるパワーモ

ジュールにおいても,小型・軽量化,高効率化が必要であり,特に,車載用パワーモジュールでは,直接水冷構造を用いた高放熱化やアルミニウム冷却器を用い

た軽量化が進んでいる。

富士電機では,二つのモータを制御するインバータ

と昇降圧コンバータを内蔵した,車載用アルミニウム

直接水冷型インテリジェントパワーモジュール(IPM:

(a)All-SiC モジュール (b)メガソーラー用PCS

図4  All-SiC モジュールとメガソーラー用パワーコンディショナ

エミッタ

コレクタ

p+コレクタ

フィールドストップ層

エミッタ

ゲートpベース

電流IGBT FWD

n+p+

n+カソード

図5 RC-IGBTの概略構造

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現状と展望パワー半導体の現状と展望

富士電機技報 2014 vol.87 no.4

特集 

エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

237(7)

Intellignt Power Module)を開発し,ハイブリッド車に必要とされる高出力を実現した。図6に,第 2世代の IPMを示す。第 2世代の IPMは第 1世代に対して,

体積を 30%,質量を 60% 低減している⑸

高密度実装かつ高出力を実現するため,ヒートシン

クとウォータージャケットを一体化した高放熱冷却構造と超音波接合技術,ならびに高出力と 175℃連続動作を可能とする高耐熱技術を開発した。

本パッケージ技術を基に技術革新を推進することで,

車載用パワーモジュールのさらなる高効率化と省エ

ネルギーへの貢献が期待できる(258ページ“ハイブ

リッド車用第 2世代アルミニウム直接水冷パッケージ

技術”参照)。

3 パワーディスクリート・パワー IC

パワーディスクリート・パワー ICの製品および

技術の最近の成果として,第 3 世代臨界モジュール

PFC(Power Factor Correction:力率改善)制御 IC「FA1A00シリーズ」,自動車用大電流 IPSの製品化,

および LLC 電流共振電源の回路技術がある。

3 . 1   第 3 世代臨界モード PFC 制御 IC「FA1A00

シリーズ」

富士電機では,テレビや PCなどの電子機器に必要なクラス D〔高調波電流を一定以下に抑える法的規制

(国際規格 IEC 61000-3-2)〕を満足している高調波電流特性を持つ低待機電力,低コストの第 2 世代臨界モード PFC 制御 IC「FA5590シリーズ」を製品化し

ている⑹

。今回はさらに軽負荷時の効率を改善し,また

保護機能を強化した第 3世代臨界モード PFC 制御 IC「FA1A00シリーズ」を開発した。FA1A00シリーズ

の外観を図7に,FA5590シリーズとの比較を表1に

示す。

軽負荷時のMOSFETのターンオンのタイミングを

遅らせてスイッチング周波数を低減させるボトムス

キップ機能により,効率を 14% 向上させた(AC240V 10% 負荷)。

パワーグッド信号出力機能を内蔵しているため,後続の電源回路において,従来は必要であった PFC 出力電圧を監視する回路が省略でき,電源のコストが削減できる。

また,軽負荷時安定機能を新たに追加して各種安全性を向上させることで,消費者のニーズに応えて

いる(263ページ“第 3 世代臨界モード PFC 制御 IC「FA1A00シリーズ」”参照)。

3 . 2  LLC電流共振電源の回路技術

富士電機では,スイッチング電源分野において,

100Wクラスから比較的大容量の 500Wクラスまでの

電源を,小型で薄く構成するとともに,高効率化,低ノイズ化にも優れた,LLC 電流共振電源の制御用 ICを製品化している

。この制御用 ICでは,LLC 電流共振方式で課題となってきた上下アーム短絡による貫通電流に対する防止機能を内蔵し,機器のスタンバイ時などの軽負荷時に,低待機電力モードで動作する。そ

のため,これまで待機時に低待機電力化するために必要であったスタンバイ専用電源を不要にできるという

メリットがある。

図6  ハイブリッド車用第 2世代アルミニウム直接水冷型IPM

図7 「FA1A00シリーズ」

表1 臨界PFC制御 ICの性能比較

項 目 FA1A00 FA5590

高効率軽負荷時スイッチング周波数

200kHz(AC240V, 10%負荷で効率14ポイント改善)

600kHz

低コスト

パワーグッド信号出力機能 あ り な し

安定性

軽負荷時安定機能 あ り な し

ゼロ電流検出電圧 -4mV±3mV -10mV±5mV

安全性

オーバーシュート低減機能

あ り(オーバーシュート電圧10V低減)

な し

基準電圧 2.5V±1.0% 2.5V±1.4%

過電流検出電圧 -0.6V±2.0% -0.6V±3.3%

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現状と展望 パワー半導体の現状と展望

富士電機技報 2014 vol.87 no.4

特集 

エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

238(8)

図8に,LLC 電流共振コンバータの回路図を示す。

回路は,二つのMOSFETを直列接続したハーフブ

リッジ回路と,共振用コンデンサ(Cr),トランス(T),出力整流ダイオード(D1,D2)および出力電解コンデ

ンサ(Co)から成る(Np:トランスの一次巻線の巻数,

Ns:二次巻線の巻数)。LLC 電流共振コンバータで用いるトランスは結合係数を小さくすることで,漏れイ

ンダクタンスを大きくし,これを共振用インダクタと

して利用している。

富士電機の LLC 電流共振制御 ICのスムーズな導入のために,特に設計が難しく電源動作の鍵を握るトラ

ンスの設計例と,実際に試作したトランスを搭載した

電源の代表特性を述べる(268ページ“LLC 電流共振電源の回路技術”参照)。

3 . 3  自動車用大電流 IPS

自動車電装分野では,“環境”“安全”“省エネル

ギー”をキーワードとして,排ガスの低減,安全な

車両制御,高度な燃焼技術による燃費向上を図って

いる。これに伴って電子システムが複雑化し,ECU(Electronic Control Unit)の大規模化が進んでいる。

ECUは,搭載スペース捻出のためにエンジンの近く

などに設置され,搭載部品の温度環境は年々高温化し

ている。このため,ECUの小型化や高温度環境での

信頼性の向上が切望されている。これを実現するため

の,パワー半導体とその周辺保護回路,状態検出・

状態出力回路,ドライブ回路などを一体化した,ス

マートパワーデバイスである IPS(Intelligent Power Switch)が注目されている。

富士電機では,これに応えて大電流 IPSを開発した⑻

図9に,自動車用大電流 IPSのチップを示す。本製品は特に,モータ制御用などの誘導性負荷や機械式リ

レーの半導体化用途で使用されることを意識した設計としている。低オン抵抗化,高放熱処理可能な小型パッケージ,各種保護機能(バッテリ逆接続時の温度上昇抑制など),および高誘導性負荷エネルギー耐量を特徴としている。本製品は,2014 年度中に市場への

供給を開始する予定である(273ページ“自動車用大

電流 IPS”参照)。

4 あとがき

パワー半導体は,産業,電源,自動車などの分野に

おけるパワーエレクトロニクス製品にとって必要不可欠なキーデバイスである。特に,近年の環境保護意識の高まりに伴い,再生可能エネルギー分野の拡大,ハ

イブリッド車や電気自動車の普及が進み,パワー半導体の果たす役割は大きくなっている。

IGBT,SiCモジュール,ハイブリッドモジュール,

パワーディスクリート・パワー ICなどのパワー半導体における技術革新や高信頼性化,低コスト化,適用分野の拡大はさらに進み,省エネルギー技術の発展に

貢献をしていくであろう。

富士電機は,これからも,地球環境にやさしいパ

ワー半導体製品を開発し,安全・安心で持続可能な社会の実現を目指していく。

参考文献⑴ 木下明将ほか.“高温でのVfを特徴とした600V/

1,200VクラスSiC-SBD”. つくば市. 2010-10-21. 応用物理

学会SiC及び関連ワイドギャップ半導体研究会第19回講

演.

⑵ Horio, M. et al. “Ultra Compact and High Reliable

SiC MOSFET Power Module with 200ºC Operating

Capability”, Proceedings of ISPSD 2012. p.81-84.

⑶ Voss, S. “Anode Design Variation in 1200-V Trench

Field-stop Reverse-conducting IGBTs”. Proceeding of

ISPSD 2008. p.169-172.

⑷ Takahashi, K. et al.“New Reverse-Conducting

IGBT (1200 V) with Revolutionary Compact Package”,

Proceedings of ISPSD 2014. p.131-134.

⑸ Gohara, H. et al. “Next-gen IGBT module structure

+

Vin

NsNp

T

Co

Q2

Cr

Q1

Ro

D2

D1

図8 LLC電流共振コンバータ回路

図9 自動車用大電流 IPSのチップ

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エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

239(9)

for hybrid vehicle with high cooling performance and

high temperature operation”. Proceedings of PCIM

Europe 2014. May 20-22, Nuremberg, p.1187-1194.

⑹ 菅原敬人ほか. 第2世代臨界モードPFC制御IC「FA5590

シリーズ」. 富士時報. 2010, vol.83, no.6, p.405-410.

⑺ 山田谷正幸ほか . 第 2 世代 LLC 電流共振制御 IC

「FA6A00Nシリーズ」. 富士電機技報 . 2013, vol.86, no.4,

p.267-272.

⑻ Toyoda, Y. et al.“60V-Class Power IC Technology

for an Intelligent Power Switch with an Integrated

Trench MOSFET”ISPSD 2013. p.147-150.

高橋 良和パワー半導体の研究開発に従事。現在,富士電機株式会社技術開発本部電子デバイス研究所次世代モジュール開発センター長。工学博士。

電気学会会員,応用物理学会会員,エレクト

ロニクス実装学会会員,日本デザイン学会会員。

宝泉  徹パワー半導体の開発,事業企画に従事。現在,

富士電機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部長。電気学会会員。

藤平 龍彦電子デバイスの研究開発に従事。現在,富士電機株式会社電子デバイス事業本部開発統括部長兼技術開発本部電子デバイス研究所長。

工学博士。電気学会会員,応用物理学会会員,

日本金属学会会員,IEEE会員。

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特集 

エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

240(10)

1,200V耐圧SiCハイブリッドモジュール

小林 邦雄 KOBAYASHI, Kunio 北村 祥司 KITAMURA, Shoji 安達 和哉 ADACHI, Kazuya

1,200 V Withstand Voltage SiC Hybrid Module

富士電機は,省エネルギーに貢献するインバータ用のパワーデバイスとして,1,200V 耐圧の SiCハイブリッドモジュー

ルの開発を推進している。このハイブリッドモジュールには,独立行政法人 産業技術総合研究所と共同で開発し,富士電機で量産立ち上げを行った SiC-SBD(Schottky Barrier Diode)チップを採用した。IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)には,富士電機製で最新の第 6世代「Vシリーズ」IGBTチップを採用した。300A 品において,従来の Siモジュールに比べて約 25%低い発生損失を確認した。

Fuji Electric is working on the development of a 1,200 V withstand voltage SiC hybrid module as a power device for inverters that contribute to energy conservation. This hybrid module uses a SiC-Schottky barrier diode (SiC-SBD) chip, which has been developed jointly with the National Institute of Advanced Industrial Science and Technology and has been mass-produced by Fuji Electric. As the insulated-gate bipolar transistor (IGBT), Fuji Electric’s latest 6th-generation “V Series” IGBT chip was adopted. For its 300A products, the generated loss has been reduced by approximately 25% compared with conventional Si modules.

1 まえがき

地球温暖化を防止するために,これまで以上に CO2などの温室効果ガスの削減が求められている。その削減手段の一つに,パワーエレクトロニクス機器の省エネルギー

化がある。その中で重要なアイテムが,インバータを構成するパワーデバイス,回路,制御などの技術革新によ

るインバータの高効率化である。低損失の要求が強いパ

ワーデバイスで,代表的な IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)モジュールは,今まで Si(シリコン)の

IGBTチップと FWD(Free Wheeling Diode)チップを

用いてきた。しかし,Siデバイスの性能は,物性に基づ

く理論的限界に近づきつつある。そこで,Siの限界を超える耐熱性と高破壊電界耐量を持った SiC(炭化けい素)

デバイスが,装置の高効率化や小型化を実現するものとし

て期待されている。

本稿では,今回系列化した 1,200V 耐圧 SiCハイブリッ

ドモジュール(2 in1パッケージ)について述べる。

2 製品の構成

富士電機の SiCハイブリッドモジュールの系列を表1

に示す。これまでに 200V 系用の 600V 耐圧 SiC-SBD(Schottky Barrier Diode)や 400V 系用の 1,200V 耐圧SiC-SBDを使った EPパッケージと PCパッケージ

のハ

イブリッドモジュール,ならびに 690V 系用の 1,700V 耐圧 SiC-SBDを使った 2 in1パッケージのハイブリッド

モジュールを製品化⑵

している。これらのハイブリッドモ

ジュールを使った装置では,従来の Si-IGBTモジュール

に比べて発生損失が約 25%減少する。

今回系列化した 1,200V 耐圧 SiCハイブリッドモジュー

ルのパッケージには,Siモジュールと同じ 2 in1パッケー

ジを採用した(図1)。従来の EPパッケージと PCパッ

ケージに加えて広く普及している 2 in1パッケージを採用することで,従来の Siモジュールから容易に置き換える

ことができる。FWDには,独立行政法人 産業技術総合研究所と共同で開発して,富士電機で量産化した SiC-SBDチップを使用し

,IGBTには,富士電機製で最新の第 6世代「Vシリーズ」IGBTチップを採用した。300A 品にお

いて,従来の Siモジュールに比べて約 25%低い発生損失

図1 SiC ハイブリッドモジュール(2 in1パッケージ)

表1 SiC ハイブリッドモジュールの系列

用 途 構 成 パッケージ

200V系 600V耐圧 SiC-SBD+VシリーズIGBT EPパッケージと

PCパッケージ 400V系 1,200V耐圧 SiC-SBD+

VシリーズIGBT

400V系 1,200V耐圧 SiC-SBD+VシリーズIGBT 2 in1パッケージ

690V系 1,700V耐圧 SiC-SBD+VシリーズIGBT 2 in1パッケージ

:開発品

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1,200V耐圧SiC ハイブリッドモジュール

富士電機技報 2014 vol.87 no.4

特集 

エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

241(11)

を確認した。

3 特 性

3 . 1  FWDの順方向特性

図2に,SiCハイブリッドモジュールと Siモジュール

の FWDの順方向特性を示す。ジャンクション温度Tjが25℃で定格電流300Aにおける SiCハイブリッドモジュー

ルの順方向電圧VFは,SiモジュールのVFと同等である。

125℃でのVFは,Siモジュールに比べて SiCハイブリッ

ドモジュールが高くなるものの,3.2節に示すようにトー

タル損失は,SiCハイブリッドモジュールが小さくなる。

3 . 2  スイッチング損失

図3に,SiCハイブリッドモジュールと Siモジュール

のスイッチング損失の比較を示す。SiCハイブリッドモ

ジュールのターンオン損失Eonは,Siモジュールよりも約

35%小さく,逆回復損失Errはほぼ 0である。ターンオフ

損失Eoff は SiCハイブリッドモジュールと Siモジュールと

の差がほとんどない。

⑴ ターンオン波形図4に,ターンオン波形の比較を示す。SiC-SBDの逆回復ピーク電流は対向アーム側の IGBTターンオン電流に

影響し,SiCハイブリッドモジュールのEonは Siモジュー

ルよりも約 35%低い。

⑵ ターンオフ波形図5に,ターンオフ波形の比較を示す。SiC-SBDは Si-

FWDと比較してドリフト層が非常に低抵抗であるため,

過渡オン電圧が低減される。したがって,SiCハイブリッ

ドモジュールでは,ターンオフ時のサージ電圧を低く抑え

ることができる。

⑶ 逆回復波形図6に,逆回復波形の比較を示す。SiCハイブリッドモ

ジュールは逆回復ピーク電流がほとんどなく,Errはほぼ

0である。これは SiC-SBDがユニポーラデバイスである

ため,少数キャリアの注入が起きないことに起因する。

3 . 3  負荷短絡評価

図7に,SiCハイブリッドモジュールのTjが-40〜+125℃のときの負荷短絡波形を示す。低温から高温までの

領域で問題ないことを確認した。

3 . 4  インバータ発生損失

図8に示すように,SiCハイブリッドモジュールを使っ

SiC ハイブリッドモジュール

Si モジュール

600 800400200IC(A)

Eon, Eoff, Err(mJ)

0

EonEoffErr

EonEoffErr

T j=125℃, VGE=+15V/-10V, Rgon/off=6.0/6.0Ω, CGE=10nF, VCC=600V

160

80

120

100

140

20

40

60

0

図3 スイッチング損失

600

400

500

100

200

300

04 52 31

VF(V)

I F(A)

0

Si モジュール25℃

SiC ハイブリッドモジュール125℃

SiC ハイブリッドモジュールTj=25℃

Si モジュール125℃

図2 FWDの順方向特性

t: 200ns/div

0V

0V

0A0V

0A0V t: 200ns/div

T j=125℃, VCC=600V, IC=300A, VGE=+15/-10V, Rg=6.0Ω, CGE=10nF, LS=30nH, lower arm

(a)SiCハイブリッドモジュール

(b)Si モジュール

VGE: 10V/div

VCE: 200V/div

IC: 100A/div

VGE: 10V/div

VCE: 200V/div

IC: 100A/div

Eon=28.0mJ

Eon=43.4mJICP=540A

ICP=350A

図4 ターンオン波形

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1,200V耐圧SiC ハイブリッドモジュール

富士電機技報 2014 vol.87 no.4

特集 

エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

242(12)

たインバータの発生損失は Siモジュールを使った場合に

比べて 12〜 28% 低く,キャリア周波数が高いほど低減率が大きい。したがって,SiCハイブリッドモジュールは,

高周波動作においてより有利である。

4 あとがき

本稿では,独立行政法人 産業技術総合研究所と共同で

開発した SiC-SBDと富士電機の最新 Si-IGBT 第 6 世代「Vシリーズ」とを適用した SiCハイブリッドモジュール

について述べた。本製品は,デバイス自身の大幅な損失低減により,インバータの高効率化に大きく貢献できるもの

と考える。今後,耐圧・電流容量・パッケージの系列化を

推進し,市場要求に対応していくとともに,SiCチップ製品の適用を進め,パワーエレクトロニクス機器の省エネル

ギー化により地球温暖化の防止に貢献していく所存である。

SiC-SBDチップの開発にご協力いただいた独立行政法人 産業技術総合研究所先進パワーエレクトロニクス研究センターの関係各位に謝意を表する。

t: 200ns/div

t: 200ns/div

(a)SiCハイブリッドモジュール

(b)Si モジュール

VCE: 200V/div

IC: 100A/div

VCE: 200V/div

IC: 100A/div

Err=0.0mJ

Err=15.3mJ

0A

0V

0A

0V

Tj=125℃, VCC=600V, IC=300A, VGE=+15/-10V, Rg=6.0Ω, CGE=10nF, LS=30nH, lower arm

図6 逆回復波形

300

150

200

250

50

100

0

発生損失(W)

P rr P f Poff Pon Psat

13.9

16.7

28.0

31.4

101.1

18.2

28.7

20.3

101.1

25.4

13.1

47.2

53.3

77.8

14.0

48.3

34.4

77.8

36.0

6.7

57.9

67.6

38.4

7.0

59.3

43.7

38.4

191.2168.3

216.7

174.5

206.6

148.3

28%低減19%低減12%低減

Siモジュール

SiCハイブリッドモジュール

Siモジュール

SiCハイブリッドモジュール

Siモジュール

SiCハイブリッドモジュール

3kHz 6kHz 12kHz

Tj=125℃,VGE=+15/-10V,cosφ=±0.85,λ=1,fo=50Hz,3arm

0.00.0

0.0

図8 インバータ発生損失

Tj=-40℃ -20℃ 0℃ +25℃

+50℃ +75℃ +100℃ +125℃

VCEICVGE

VCEICVGE

VCEIC

VCEIC

VGEVCE

ICVGE

VCEIC

VGEVCE

ICVGE

VGEVCE

ICVGE

VCE:500V/div, IC:500A/div, VGE:20V/div, t: 5µs/div

VCC=800V, VGE=+15/-10V, Rg=+3.4/-20Ω

図7 負荷短絡波形

t: 500ns/div

t: 500ns/div

(a)SiCハイブリッドモジュール

(b)Si モジュール

VGE : 10V/div

VCE: 200V/div

IC: 100A/div

VGE : 10V/div

VCE: 200V/div

IC: 100A/div

Eoff=37.1mJVCEP=851V

Eoff=37.1mJVCEP=908V

Tj=125℃, VCC=600V, IC=300A, VGE=+15/-10V, Rg=6.0Ω, CGE=10nF, LS=30nH, lower arm

0V

0V

0A0V

0A0V

図5 ターンオフ波形

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1,200V耐圧SiC ハイブリッドモジュール

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特集 

エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

243(13)

参考文献⑴ 中沢将剛ほか. Si-IGBT・SiC-SBDハイブリッドモジュー

ル. 富士時報. 2011, vol.84, no.5 p.331-335.

⑵ 小林邦雄ほか. 1,700V耐圧SiCハイブリッドモジュール. 富

士電機技報. 2013, vol.86, no.4, p.240-243.

⑶ 木下明将ほか.“高温でのVfを特徴とした600V/1,200Vク

ラスSiC-SBD”. つくば市. 2010-10-21. 応用物理学会SiC及び

関連ワイドギャップ半導体研究会第19回講演.

小林 邦雄IGBTモジュールの開発・設計に従事。現在,富士電機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部モジュール技術部。

安達 和哉感光体の開発,有機ELの開発,IGBTモジュール

のパッケージ設計に従事。現在,富士電機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部モジュール技術部。

北村 祥司半導体デバイスの開発・設計に従事。現在,富士電機株式会社電子デバイス事業本部開発統括部デ

バイス開発部。

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特集 

エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

244(14)

1 まえがき

低炭素社会を実現するため,再生可能エネルギーの活用や省エネルギー化への必要性が高まっている。中でも,わ

れわれの生活に必要不可欠である電気を効率的に利用する

上で,電力変換技術はますます重要となっている。その電力変換において重要な役割を果たしているのがパワー半導体である。近年,その主力であった Si(シリコン)デバ

イスに代わる次世代半導体として,SiC(炭化けい素)や

GaN(窒化ガリウム)といったワイドバンドギャップ半導体を使用したパワー半導体の研究・開発が活発に行われて

いる。中でも,SiCデバイスは産業分野をはじめ,家電製品など身近なパワーエレクトロニクス製品への採用が進ん

でおり,ハイブリッド車(HEV),電気自動車(EV)な

ど今後ますます採用範囲が広まるものと考えられる。

本稿では,SiC-MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Eff ect Transistor) と SiC-SBD (Schottky Barrier Diode)を搭載した All-SiCモジュール技術と,メガソー

ラー用パワーコンディショナ(PCS)への適用について述べる。

2 All-SiC モジュールの特徴

2 . 1  モジュール構造

図1に開発構造と従来構造のモジュールの断面図を示す。

All-SiCモジュール用に開発した構造は,従来の Si-IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)モジュール用と構造が大きく異なっている。開発構造では,従来のアルミニウ

ムのボンディングワイヤに代わり,パワー基板上に形成し

た銅ピンで配線している。これにより,大電流が流せるよ

うになり,SiCデバイスの高密度実装が可能である。チッ

プを搭載する絶縁基板には,従来の DCB (Direct Copper Bonding)基板に代わり,厚い銅板が接合された Si3N4(窒化けい素)セラミック基板を採用し,低熱抵抗化を図って

いる。さらに,モジュール内部の封止材料として,従来の

シリコーンゲルに代わってエポキシ樹脂を採用し,高温動作において高い信頼性を確保している。

図2に,新型パッケージの All-SiCモジュールと従来パッケージの Si-IGBTモジュールの外観写真を示す。ど

ちらも定格 1,200V/100Aのモジュールである。新型パッ

ケージのフットプリントサイズは,従来パッケージと比較して約 40%にまで小型化している。

メガソーラー用パワーコンディショナ向けAll-SiC モジュール

梨子田 典弘 NASHIDA, Norihiro 仲村 秀世 NAKAMURA, Hideyo 岩本  進 IWAMOTO, Susumu

All-SiC Module for Mega-Solar Power Conditioner

メガソーラー用パワーコンディショナ向けの All-SiCモジュールを開発した。All-SiCモジュール用に開発した構造は,

ワイヤボンディングを使用した従来構造と比較して配線のインダクタンスを約 80%低減している。これにより,大幅な損失低減が可能となり,SiCデバイスの高速スイッチングにおいて有利である。また,パワーサイクル試験による熱負荷に対しても,従来構造と比べて高い耐量を持つ。これらの技術を適用した昇圧回路用の All-SiCチョッパモジュールを開発し,

メガソーラー用パワーコンディショナに搭載することで,世界最高レベルの効率 98.8%を達成した。

An all-SiC module for mega-solar power conditioners has been developed. The structure developed for the all-SiC module has achieved a reduction in wiring inductance of approximately 80% from the existing structure that uses wire bonding. This allows for a signifi cant reduc-tion in loss, leading to an advantage in high-speed switching of SiC devices. In addition, it has shown a higher resistance to thermal load in a power cycling test as compared with the conventional structure. We have developed an all-SiC chopper module for booster circuits by apply-ing these technologies and integrated it in a mega-solar power conditioner, thereby achieving the world’s highest level of effi ciency of 98.8%.

パワー基板

エポキシ樹脂

厚銅板

セラミック基板

(b)従来構造(Si-IGBTモジュール)

(a)開発構造(All-SiCモジュール)

銅ピン

シリコーンゲル アルミニウムワイヤ

パワーチップ 外部端子

樹脂ケース

銅ベース

接合はんだ セラミック基板

DCB基板

図1 モジュールの断面図

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メガソーラー用パワーコンディショナ向けAll-SiC モジュール

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特集 

エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

245(15)

2 . 2  低インダクタンス設計

⑴ インダクタンス評価SiC-MOSFETは現在のパワーモジュールで使われてい

る Si-IGBTと比べ,高速スイッチングが可能である。し

かし,一般にスイッチング速度に比例してサージ電圧が増大するので,ゲート信号に対するノイズの影響を小さくす

るためには,モジュール内部の配線の低インダクタンス化が重要である。

図3に,ゲート配線と主配線のインダクタンスの比較を

示す。従来パッケージのシミュレーションによって求めた

ゲート配線と主配線におけるそれぞれの内部インダクタン

スを 1として比較している。まず,ゲート配線のインダク

タンスでは,従来パッケージよりも約 80%低減している

ことを確認した。また,主配線でも同様の評価を行い,新型パッケージでは解析と実測のそれぞれにおいて,従来パッケージより約 80%低減していることを確認した。

これらの結果は,新型パッケージではパワー基板および

低熱抵抗絶縁基板を採用してモジュールを小型化すること

によって電流経路が短縮し,インダクタンスの低下に大き

く寄与していることを示している。さらに,パワー基板と

厚銅板を並行に配置しているので,電流経路間の磁界の相互作用がインダクタンスを低下させている。

⑵ 損失比較All-SiCモジュールの低インダクタンス化の効果を確認

するため,同じ SiCデバイスを新型パッケージと従来パッ

ケージに搭載したモジュールを作製し,スイッチング試験を行った。図4に示すように,新型パッケージは従来パッ

ケージと比べてスイッチング損失が約 50%低減した。こ

れは,インダクタンスが低下した新型パッケージのサージ

電圧を抑制する効果によるものである。

図5に,スイッチング周波数 10〜 100 kHzの範囲にお

けるトータル損失の比較を示す。トータル損失はスイッ

チング損失と定常損失から成り,従来パッケージに SiC-

MOSFETを搭載した場合の 10 kHzのトータル損失を 1として比較している。従来パッケージでは,スイッチン

グ周波数が高くなるとスイッチング損失の増加が大きく,

100 kHzのトータル損失は 2.2になる。一方,新型パッ

ケージでは損失の増加は少なく,1.2に留まっている。損失の内訳に注目すると,従来パッケージと新型パッケージ

において定常損失はほぼ同じであり,周波数依存性は見ら

れない。また,スイッチング損失は,いずれの周波数でも

従来パッケージが新型パッケージの 4 倍以上となっており,

周波数が高くなるにつれ,全体の損失に占める割合が増加することが分かる。このように,モジュールの内部インダ

クタンスを低減させた新型パッケージは,SiCデバイスの

高速スイッチングに有利であることを確認した。

(b)Si-IGBTモジュール(従来パッケージ)

34.0mm

92.0mm

22.0mm

60.0mm

(a)All-SiCモジュール(新型パッケージ)

図2 モジュール外観

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

従来パッケージ

新型パッケージ

従来パッケージ

新型パッケージ

ゲート配線 主配線

内部インダクタンス(a.u.)

解析 実測

図3 ゲート配線と主配線のインダクタンス

スイッチング周波数(kHz)10 20 40 60 80 100

トータル損失(a.u.)

0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5新型パッケージスイッチング損失定常損失

従来パッケージスイッチング損失定常損失

図5 トータル損失

=600V, =100A,VDS=0ΩRg

I D

スイッチング損失(a.u.)

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

従来パッケージ新型パッケージ

図4 SiC デバイス搭載モジュールのスイッチング損失

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エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

246(16)

2 . 3  高信頼性

⑴ ΔTjパワーサイクル試験パワーモジュールではデバイス動作時の温度上昇によっ

て熱応力が発生し,チップ接合部などの破壊が引き起こさ

れることがある。ΔTjパワーサイクル試験は,このデバイ

ス動作を繰り返し行うことで,パワーモジュールの寿命を

評価する信頼性試験である。

図6に,ΔTjパワーサイクル試験寿命の比較を示す。試験開始温度を 25ºCとし,横軸に温度振幅ΔTj,縦軸に累積故障率 1%〔F(t)=1%〕となるサイクル数をプロット

したものである。実線は Siデバイスを搭載した従来パッ

ケージのパワーサイクル寿命であり,プロット(○)は

Siデバイスを搭載した新型パッケージにおいて検証した

寿命である。この結果から,ΔTj=150ºCの試験条件では,

新型パッケージは従来パッケージの 10 倍以上の寿命があ

ると見込まれる。

そこで今回,新型パッケージに独立行政法人 産業技術総合研究所と共同で開発した SiC-MOSFETであ

る IEMOS(Implantation and Epitaxial Metal Oxide Semiconductor)を搭載し,ΔTj=150ºCのパワーサイクル

試験を行った。その結果,F(t)=1%で 50,000サイクル

と Siデバイスを搭載した従来パッケージに対し,20 倍以上の寿命向上を確認することができた

(図6プロット:●)。

従来パッケージでは,動作温度が高くなると,チップ電極とワイヤボンディングの接合部に剝離が発生するといった

破壊が生じ,寿命が低下する⑵

。一方,新型パッケージでは,

高耐熱のエポキシ樹脂で封止しており,チップ電極と銅ピ

ンの接合部において,動作時に発生する熱応力を緩和する

ことで接合部の破壊を抑制している。また,エポキシ樹脂は,ガラス転移温度 Tgが 200ºC 以上となるものを開発し

たことにより⑶

,使用温度の範囲内で線膨張係数,弾性率な

どの機械的物性が大きく変化せず,高信頼性を実現してい

る。

⑵ ΔTcパワーサイクル試験メガソーラーなどの太陽光発電用 PCSへ搭載するには,

その動作モードを把握し信頼性試験を行う必要がある。太

陽光発電用 PCSは昼間の発電時は連続運転を行い,夜間は停止する。そこで,その際のモジュールにかかる熱負荷を検証するために,動作時のモジュール表面温度 Tcを変化させるΔTcパワーサイクル試験も重要となる。

図7に,従来のパッケージ構造でΔTcパワーサイクル

試験を実施したサンプルの超音波探傷像を示す。20,000サイクル経過後では,試験前には見られない銅ベースと

DCB 基板間のはんだ接合部において破壊が発生してお

り,熱抵抗の上昇を引き起こして故障に至ったと考えられ

る。しかし,新型パッケージでは銅ベースがない構造で

あるため,従来パッケージのような故障ではなく,絶縁基板とチップの接合部の耐久性がΔTcパワーサイクル試験の寿命に影響を与える。そこで,試験開始温度 25℃の

ΔTc=80℃条件においてΔTcパワーサイクル試験における

新型パッケージの熱抵抗の推移を確認した(図8)。縦軸の熱抵抗は,それぞれのサンプルの初期値を基準とし変動を表している。その結果,25,000サイクル経過後でも熱抵抗の変動は初期値の 7% 以内に収まっており,増加傾向は

確認されなかった。

図9に,ΔTcパワーサイクル試験前後のパッケージの

チップ下接合部の超音波探傷像を示す。試験前と比較し,

25,000サイクル経過した後でも接合状態の変化は確認され

なかった。また,セラミック基板の割れや厚銅板の剝離も

見られず,新型パッケージは PCSへの適用に十分な耐久性を持っていることを確認した。

サイクル数(cycle)

102

104

105

106

107

103

20010010 50 175125 150

t

チップジャンクション温度振幅 (℃)T jΔ

従来パッケージ

新型パッケージ

F( )=1% line

IEMOS搭載パッケージ

=25℃T j min

図6  ΔTj パワーサイクル試験寿命

熱抵抗(a.u.)

サイクル数(cycle)

0.8

0.9

1.0

1.1

1.2

5,0000 10,000 15,000 20,000 25,000

図8  新型パッケージ構造のΔTC パワーサイクル試験における熱抵抗の推移

(a)試験前(0cycle) (b)故障時(20,000cycle)

図7  従来パッケージ構造のΔTC パワーサイクル試験における超音波探傷像

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247(17)

3 メガソーラー用パワーコンディショナへの適用

メガソーラーをはじめとした太陽光発電では,太陽電池で発電した直流電圧を PCSで交流電圧に変換し,送電し

ている。太陽光発電では,日射量の減少や温度上昇による

電圧低下が発生し,PCSの変換効率が低下する問題があ

る。解決策として,PCSに昇圧回路(チョッパ回路)を

搭載する方法がある。この方法では,交流電圧へ変換する

インバータ部への入力最小電圧を高くすることができ,入力最小電圧の上昇に伴って交流電圧の出力も向上する。こ

こで,SiCデバイスを昇圧回路に適用することで,昇圧部の発生損失を抑えられ,インバータ部を含む PCS 全体の

変換効率の向上が期待できる。さらに,従来の Siデバイ

スでは,昇圧部はインバータ部と同程度の体積が必要で

あったが,SiCデバイスを使用することで小型化できる。

そこで,これまで述べた新型パッケージを適用し,SiCデ

バイスの特長を生かした昇圧回路用の All-SiCチョッパモ

ジュールを開発した(図10)。

All-SiCチョッパモジュールに搭載している SiCデバイ

スは,独立行政法人 産業技術総合研究所と共同で開発し

た IEMOSと SiC-SBDであり,松本工場で量産している

(図11)。図12 に,この All-SiCチョッパモジュールを搭載したメガソーラー用 PCSの外観を示す。大きさは 2,980×900×1,900(mm)であり,屋内型としては世界最大級の出力容量 1,000 kWを実現している。今回,開発した

All-SiCチョッパモジュールを昇圧回路に採用することで,

課題であった損失増加を抑制することができ,PCS 変換効率として世界最高レベルの 98.8%を達成した(従来機98.5%

)。さらに,回路の小型化も実現し,従来の配電盤と比較し 20% 縮小しており,輸送コストなど施工時のコ

ストの削減にも貢献している。

4 あとがき

メガソーラー用 PCS 向けの All-SiCチョッパモジュー

ルを開発し,Siデバイスでは困難であった世界最高レベ

ルの 98.8%の変換効率を達成するとともに,装置の小型化を実現した。

今後も All-SiCモジュールをさまざまなパワーエレクト

ロニクス機器へ適用し,エネルギー利用の高効率化を図る

ことで,低炭素社会の実現に貢献する所存である。

参考文献⑴ Nashida, N. et al. “All-SiC Power Module for Photovoltaic

Power Conditioner System,” Proceedings of ISPSD 2014.

p.342-345.

⑵ 百瀬文彦ほか. 175℃連続動作を保証するIGBTモジュール

のパッケージ技術. 富士電機技報. 2013, vol.86, no.4, p.249-252.

⑶ Horio, M. et al. “Ultra Compact and High Reliable SiC

MOSFET Power Module with 200℃ Operating Capability,”

Proceedings of ISPSD 2012. p.81-84.

⑷ 藤井幹介ほか. メガソーラー向け屋外設置型高効率PCS

(a)試験前(0cycle) (b)25,000cycle 経過後

図9  ΔTC パワーサイクル試験におけるチップ下はんだ接合部の超音波探傷像

図10  All-SiC チョッパモジュール

図11 6インチSiC ウェーハ

図12 メガソーラー用パワーコンディショナ

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248(18)

「PVI1000」. 富士時報. 2012, vol.85, no.3, p.245-249.

岩本  進SiCおよび IGBTモジュールの開発・設計に従事。

現在,富士電機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部モジュール技術部。博士(工学)。

梨子田 典弘パワー半導体デバイス用パッケージの研究開発に

従事。現在,富士電機株式会社技術開発本部電子デバイス研究所次世代モジュール開発センター

パッケージ開発部。エレクトロニクス実装学会会員。

仲村 秀世MEMS機器の研究開発,パワー半導体用パッケー

ジの開発に従事。現在,富士電機株式会社技術開発本部電子デバイス研究所次世代モジュール開発センターパッケージ開発部。

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エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

249(19)

1 まえがき

近年,化石燃料の枯渇や地球温暖化を防止する観点か

ら,エネルギー効率の改善と CO2の削減が求められている。

その重要なアイテムの一つとして,インバータの需要が拡大している。インバータに用いるパワー半導体として,産業用,民生用,自動車用および再生可能エネルギーなどの

広い分野で,IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)モジュールが用いられている。

富士電機の IGBTモジュールは,1988 年に製品化して

以来,多くの技術革新により大幅な小型化を達成し,イン

バータの小型化とコストダウンに貢献してきた。しかし,

IGBTモジュールのさらなる小型化は,パワー密度が高ま

ることによる動作温度の上昇と信頼性の低下を招く危険性がある。高い信頼性を保ったまま小型モジュールを実現す

るためには,IGBTチップおよびパッケージの技術革新が

必要である。

富士電機では,IGBTと還流ダイオード FWD(Free Wheeling Diode)を一体化した産業用 RC-IGBT (Re-

verse-Conducting IGBT:逆導通 IGBT⑴〜⑷

)を開発し,低熱抵抗と高信頼性を両立した新型パッケージ

⑸〜⑻

と組み合わせる

ことにより,高い信頼性を持つ小型モジュールを実現した。

2 RC-IGBTと新型パッケージの特徴

2 . 1  RC- IGBTの特徴⑴ 適用回路の部品点数低減と装置の小型化図1⒜に,PWM(Pulse Width Modulation)制御方式

インバータの主回路である,ハーフブリッジインバータ回路を示す。従来の IGBTはコレクタ-エミッタ方向にのみ

通電するスイッチングデバイスであり,逆方向の電流を

流すために FWDを必要としていた。今回開発した RC-

IGBTは,図1⒝に示すように FWDを内蔵することで逆方向の電流を流すことができる IGBT素子であり,適用回路の部品点数の低減と,装置の小型化を可能にする。

RC-IGBTは,図2に示すようにトレンチゲート-薄

新型パッケージを採用した産業用RC-IGBTモジュール

高橋 美咲 TAKAHASHI, Misaki 吉田 崇一 YOSHIDA, Soichi 堀尾 真史 HORIO, Masafumi

RC-IGBT Module with New Compact Package for Industrial Use

富士電機は,IGBTと還流ダイオード FWDを一体化した産業用 RC-IGBT(逆導通 IGBT)を開発し,低熱抵抗と高信頼性を両立した新型パッケージと組み合わせることにより,IGBTモジュールの大幅な小型化とパワー密度向上を達成した。

RC-IGBTは,従来の IGBT+FWDと同等の低損失化を実現し,熱抵抗の 30% 低減を達成した。RC-IGBTと新型パッケー

ジを組み合わせた新型モジュールは,従来モジュールの 42%の設置面積で,ほぼ同等のインバータ損失と,大幅な IGBT接合温度の低減を可能にする。また,同じ IGBT接合温度で比較した場合では,58% 大きい出力電流で動作が可能である。

Fuji Electric has developed an reverse conducting IGBT (RC-IGBT) for industrial use and it integrates an IGBT and freewheeling diode (FWD). We have combined it with a new package that achieves both low thermal resistance and high reliability to successfully realize a signifi cant miniaturization of the IGBT module and power density improvement. The RC-IGBT has reduced power loss to a level equivalent to that of the conventional IGBT+FWD and achieved a reduction in thermal resistance of 30%. The new module, combining the RC-IGBT and new package, which has a footprint 42% that of the conventional module, realizes an almost equivalent inverter loss and a signifi cant reduction in the IGBT junction temperature. A comparison based on the same IGBT junction temperature shows that it operates with a 58% larger output current.

IGBT 領域

FWD領域

(a)ハーフブリッジインバータ回路 (b)RC-IGBT

IGBT

FWD

図1 ハーフブリッジインバータ回路とRC-IGBT

IGBT 領域 FWD領域

フィールドストップ層

n+p+

n+ n+ n+ n+

図2 RC-IGBTの断面図

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250(20)

ウェーハ型の IGBTであり,富士電機の最新製品である第6世代 IGBT「Vシリーズ」に基づいている。製造プロセ

スは従来の IGBTとほぼ同じであり,裏面の p 層 /n 層を

形成するための工程と,ライフタイム制御工程を備える。

⑵ 出力特性とスイッチング波形RC-IGBTの出力特性を図3に示す。RC-IGBTは,1

チップで順方向(IGBT)と逆方向(FWD)の両方に電流を出力することができる。ライフタイム制御量が異なる三つの RC-IGBTを用意し,A,B,Cとして出力特性を比較した。制御量が小さい Aの方が,IGBT動作と FWD動作ともに動作抵抗が小さくなる。

RC-IGBTのターンオフ波形を図4に,ターンオン波形を図5に,逆回復波形を図6に示す。従来はスイッチン

グ素子として IGBT,還流素子として FWDを用いている

のに対し,RC-IGBTではスイッチング素子,還流素子と

もに RC-IGBTだけでスイッチングを行っている。RC-

IGBT(B)は従来の IGBT+FWDとほぼ同等のスイッチ

ング波形であり,RC-IGBT同士の組み合わせにより従来

と同様のスイッチング動作が可能である。また,ライフ

タイム制御量が大きい Cが,ターンオフ時の IGBTテー

ル電流ならびに逆回復時の FWD逆回復電流が小さくなっ

ている。RC-IGBTの IGBT 損失トレードオフを図7に,

FWD損失トレードオフを図8に示す。RC-IGBTは,従来の IGBTおよび FWDと同等の損失トレードオフ特性を

持っており,またライフタイム制御量により,低導通損失の Aから低スイッチング損失の Cまでトレードオフの調整が可能である。

⑶ 熱抵抗 Rth(j-c)の低減表1に,RC-IGBTのチップ面積と熱抵抗 Rth(j-c)を示

す。活性面積を,従来の IGBTおよび FWD(定格 100A)の合計と同等にした場合,従来は IGBTおよび FWDは

別々のチップであったのに対し,RC-IGBTは一つのチッ

プ内で共通のエッジ構造となるため,チップ面積では従来と比較して 9% 低減する。また,RC-IGBTは図1に示し

たように,IGBT 領域と FWD領域がストライプ状に並び,

この間隔が数百 µm程度と狭いため,IGBT 動作時にも

FWD領域を含めたチップ全体から放熱される。すなわち,

200

50

100

150

-150

-100

-50

0

-2002 40-2

VCE(V)

I C(A)

-4

RC-IGBT (A)RC-IGBT (B)RC-IGBT (C)従来 IGBT+FWD

Tj=150℃, VGE=15V(IC≧0), VGE=-15V(IC≦0)

逆方向(FWD)

順方向(IGBT)

図3 RC-IGBTの出力特性

1,200

600

800

1,000

0

200

400

-200800 1,4001,2001,000600400

時間(ns)

VCE(V)

I C(A)

0 200

Tj=150℃, VCC=600V, ICC=100A, VGE=±15V, Rg=9Ω

300

150

200

250

0

50

100

-50

RC-IGBT (A)RC-IGBT (B)RC-IGBT (C)従来 IGBT+FWD

図4 RC-IGBTのターンオフ波形

800

200

400

600

-400

-200

0

-600800 1,4001,2001,000600400

時間(ns)

VCE(V)

I C(A)

0 200

Tj=150℃, VCC=600V, IC=100A, VGE=±15V, Rg=9Ω150

0

50

100

-150

-100

-50

-200

RC-IGBT (A)RC-IGBT (B)RC-IGBT (C)従来 IGBT+FWD

図6 RC-IGBTの逆回復波形

1,200

600

800

1,000

0

200

400

-200800 1,4001,2001,000600400

時間(ns)

VCE(V)

I C(A)

0 200

Tj=150℃, VCC=600V, IC=100A, VGE=±15V, Rg=9Ω300

150

200

250

0

50

100

-50

RC-IGBT (A)RC-IGBT (B)RC-IGBT (C)従来 IGBT+FWD

図5 RC-IGBTのターンオン波形

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エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

251(21)

IGBTと FWDがそれぞれ別のチップである従来と比較し

て放熱面積が拡大するので,IGBT 動作時に 30%,FWD動作時に 59%の Rth(j-c)を低減した。

2 . 2  新型パッケージの特徴

⑴ 設置面積の低減図9に,新型パッケージの断面図を示す。従来は,ワ

イヤボンディングと DCB(Direct Copper Bonding)基

板(絶縁基板)上の銅パターンによってチップと各端子間の配線を行っていたが,新型パッケージでは,ワイヤボン

ディングの代わりに銅ピン,DCB 基板上の銅パターン配線の代わりにチップ上部に配置されたパワー基板によって,

チップと各端子間の配線を行っている。これにより,ワイ

ヤボンディングエリアおよび銅パターンの面積を削減する

ことができ,図10に示すように 58%もの設置面積の低減を実現した。

⑵ 熱抵抗 Rth(j-c)の低減新型パッケージは DCB基板の絶縁材料として,従来の

Al2O3よりも熱伝導率の高い Si3N4を用い,さらに DCB基板の両面を厚い銅ブロックとして,横方向に熱を拡散させ

ることで実効的放熱面積を拡大した。これにより,同一チップ面積で比較して 55%の Rth(j-c)を低減した。

⑶ パワーサイクル寿命の向上パワーサイクル寿命は,ボンディング接点と,チップ-

DCB基板間のはんだ層が熱サイクルによる熱応力で破壊することにより制約される。新型パッケージでは,従来の

パッケージで適用していたワイヤボンディングを銅ピン構造に置き換えることで,ボンディング接点の弱点を解消し

た。また,従来のゲル封止に代えて,エポキシ樹脂封止を

行うことで,銅ピン-チップ-DCB基板全体を強く拘束

20

15

5

10

02.5 3.02.01.5

VF(V)

Err(mJ)

1.0

従来 IGBT+FWDRC-IGBT

A

B

C

図8 RC-IGBTの FWD損失トレードオフ

20

15

5

10

02.5 3.02.01.5

VCE(sat)(V)

Eoff(mJ)

1.0

従来 IGBT+FWDRC-IGBT

A

B

C

図7 RC-IGBTの IGBT損失トレードオフ

表1 RC-IGBTのチップ面積と熱抵抗

チップ 従来 IGBT+FWD RC-IGBT

定格 1,200V 100A 1,200V

活性面積 (a.u.) IGBT:0.64, FWD:0.36 (合計:1.00) 1.00

チップ面積 (a.u.) IGBT:0.62, FWD:0.38 (合計:1.00) 0.91

熱抵抗 Rth(j-c) (K/W) IGBT:0.24, FWD:0.36 IGBT:0.17

FWD:0.18

パワー基板

エポキシ樹脂

厚銅板

セラミック基板

(b)従来パッケージ

(a)新型パッケージ

銅ピン

シリコーンゲル アルミニウムワイヤ

パワーチップ 外部端子

樹脂ケース

銅ベース

接合はんだ セラミック基板

DCB基板

図9 新型パッケージの断面図

(b)従来パッケージ(a)新型パッケージ31.3cm213.2cm2

58% 低減

図10 新型パッケージの設置面積 (1,200V/100A)

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エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

252(22)

する。これにより,はんだ層にかかる熱応力(ひずみ)を

緩和して,図11に示すようにΔTj=150℃で比較した場合,

20 倍以上のパワーサイクル寿命の向上を達成した。

3 インバータ損失と IGBT接合温度

従来の IGBT+FWDと RC-IGBT,従来のパッケージ

と新型パッケージの性能を比較するために,インバータ損失と IGBT接合温度Tjを比較した(図12)。

RC-IGBTと従来のパッケージを組み合わせた場合,

RC-IGBTのインバータ損失は従来モジュールよりも 3%低く,Tjは 5℃低減する。RC-IGBTは FWD領域を含め

たチップ全体から放熱されるため放熱面積が大きく,従来の IGBTよりも Rth(j-c)が 30% 低いため,Tjが低減できる。

RC-IGBTは同一活性面積の場合,従来モジュールよりTjが低いので,その分チップ面積を縮小することができる。

チップ面積を 26% 低減した RC-IGBTは,従来モジュー

ルとほぼ同等のインバータ損失とTjを達成できる。すな

わち,RC-IGBTは従来の IGBT+FWDに対し,同一パッ

ケージで比較した場合に 26%のチップ面積縮小が可能で

あり,IGBTモジュールの小型化によりインバータ装置全体の小型化に貢献できる。

最後に,RC-IGBTと新型パッケージを組み合わせた新規モジュールについて検討を行った。RC-IGBTと新型パッケージの効果により,IGBTの Rth(j-c)が 62% 低減し

た。これにより,従来モジュールと同等のインバータ損失でありながら,11℃以上の IGBT 接合温度が低下した。

新規モジュールと従来モジュールの,出力電流と IGBT接合温度の関係について図13に示す。Tj=119 ℃で比較し

た場合,従来モジュールの Iout=50A(実効値)に対して,

新規モジュールは Iout=79A(実効値)と,58% 出力電流を増大することができる。

4 あとがき

本稿では,ダイオード機能を一体化した RC-IGBTと,

小型で低熱抵抗かつ高信頼性の新型パッケージについて述べた。これにより,インバータの小型化とコストダウン

に大きく貢献することができると考える。今後も,IGBTチップおよびパッケージの技術革新を進め,省エネルギー

社会の実現に貢献していく所存である。

参考文献⑴ Takahashi, H. et al. “1200V Reverse Conducting IGBT”,

10 50 100 200125 150

Tj(℃)

102

103

104

105

106

107

従来構造

銅ピン構造エポキシ樹脂封止

パワーサイクル寿命(cycle)

ワイヤボンディングエポキシ樹脂封止

累積故障率=1%

Δ

図11 新型パッケージのパワーサイクル寿命

180

120

140

160

40

60

20

80

100

0RC-IGBT(ダウンサイズ)

RC-IGBT(ダウンサイズ)

RC-IGBT

従来パッケージ 新型パッケージ

インバータ損失(W)

IGBT接合温度Tj(℃)

従来 IGBT+FWD

FO=60Hz, FC=8kHz, VCC=600V, I out=50A(実効値), COSφ=0.9

120

105

110

115

95

90

85

80

100

75Psat

Pon

Poff

PrrPf

T j

パッケージ

チップ

熱抵抗  th(j-c)(K/W)

チップ面積(a.u.)

モジュール設置面積(cm2)

新型パッケージ

13.2

IGBT:0.10,FWD:0.10

RC-IGBT(ダウンサイズ)

0.74

IGBT:0.21,FWD:0.22

RC-IGBT

0.90

IGBT:0.17,FWD:0.18

従来パッケージ

従来 IGBT+FWD

31.3

IGBT:0.62,FWD:0.38(合計 :1.00)

IGBT:0.24,FWD:0.36

R

図12  RC-IGBT のインバータ損失および IGBT 接合温度計算結果

従来モジュール

+58%7950

180

140

160

100

120

80100806040200

出力電流(A)

IGBT接合温度 Tj(℃)

T j =119℃

新規モジュール

図13 新規モジュールのTj

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新型パッケージを採用した産業用RC-IGBTモジュール

富士電機技報 2014 vol.87 no.4

特集 

エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

253(23)

Proceeding of ISPSD 2004. p.133-136.

⑵ Satoh, K. et al.“A New 3A/600 V Transfer Mold IPM

with RC (Reverse Conducting) -IGBT”, Proceeding of PCIM

Europe 2006.

⑶ H. Rüthing. et al. “600V Reverse Conducting (RC-) IGBT

for Drives Application in Ultra-Thin Wafer Technology”,

Proceeding of ISPSD 2007. p.89-92.

⑷ S. Voss. “Anode Design Variation in 1200-V Trench

Field-stop Reverse-conducting IGBTs”, Proceeding of

ISPSD 2008. p.169-172.

⑸ Horio, M. et al. “New Power Module Structure with Low

Thermal Impedance and High Reliability for SiC Devices”,

Proceeding of PCIM Europe 2011.

⑹ Iizuka, Y. et al. “A Novel SiC Power Module with High

Reliability”, Proceeding of PCIM Europe 2012.

⑺ Ikeda, Y. et al. “Investigation on Wirebond-less Power

Module Structure with High-Density Packaging and High

Reliability”, Proceeding of ISPSD 2011. p.272-275.

⑻ Ikeda, Y. et al. “Ultra Compact and High Reliable SiC

MOSFET Power Module with 200ºC Operating Capability”,

Proceeding of ISPSD 2012. p.81-84.

高橋 美咲IGBTモジュールの開発に従事。現在,富士電機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部モジュー

ル技術部。

吉田 崇一パワー半導体素子の開発に従事。現在,富士電機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部モ

ジュール技術部。

堀尾 真史パワー半導体パッケージング構造の研究開発に従事。現在,富士電機株式会社技術開発本部電子デ

バイス研究所次世代モジュール開発センターパッ

ケージ開発部。IEEE会員。

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特集 

エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

254(24)

1 まえがき

地球温暖化の防止などの環境保護に対する意識が世界的に高まる中,CO2 排出量を低減するためにエンジンとモー

タの双方を利用するハイブリッド車(HEV),さらには

モータのみで駆動する電気自動車(EV)の普及が進んで

いる。

ハイブリッド車においては,特にマイルドハイブリッド

車が注目されている。マイルドハイブリッド車は,1 台の

モータで駆動と発電を行うものである。2 台のモータで駆動と発電を別々に行うフルハイブリッド車に比べて,構造がシンプルであることとガソリン車との価格差が抑制でき

ることから,今後,世界的には,マイルドハイブリッド車の比率が増加すると予測されている。 富士電機では,マイルドハイブリッド車向けのイ

ンバータに搭載される IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)モジュールの開発を進めている。燃費向上の

ために車載用モジュールの低損失化に加え,小型化の要求に応えるため,IGBTと FWD(Free Wheeling Diode)を 1 チ ッ プ化し た 650V 耐圧の RC-IGBT(Reverse-

Conducting IGBT:逆導通 IGBT) を開発し た。RC-

IGBTは家電向けの小容量チップでは実用化されているが,

車載用として要求される大容量チップでは,これまで低損失化のための技術的ハードルが高く困難であった

。本稿で

は,マイルドハイブリッド車用RC-IGBTおよびモジュー

ルへの適用時の効果について述べる。

2 RC-IGBT設計

マイルドハイブリッド車用の 650V 耐圧の RC-IGBTは,富士電機で量産しているフィールドストップ(FS)

型 IGBT⑵

をベースに開発したものであり,ストライプ状に

交互に IGBT領域と FWD領域を配置した構造としている。

図1に RC-IGBTの概略構造を示す。

マイルドハイブリッド車用の IGBTモジュールの電流容量はモータ容量によって異なるものの,電源電圧 VCCは

300〜400V,キャリア周波数 fswは 5〜 10 kHzの範囲で動作することが一般的である。図2に,マイルドハイブリッ

ド車用RC-IGBTをモジュールに適用した場合のインバー

タ動作時の発生損失を示す。

スイッチング損失(Pon,Poff ,Prr)が高くなるスイッチ

ング周波数が高い動作条件(10 kHz)においても,IGBTおよび FWDの定常損失(Psat,Pf)が支配的であること

が分かる。定常損失を低減するために,IGBT 領域のトレ

マイルドハイブリッド車用RC-IGBT

野口 晴司 NOGUCHI, Seiji 安達 新一郎 ADACHI, Shinichiro 吉田 崇一 YOSHIDA, Soichi

RC-IGBT for Mild Hybrid Electric Vehicles

環境意識の高まりを背景に,ハイブリッド車や電気自動車が注目されており,中でも 1 台のモータで駆動と発電を行う

マイルドハイブリッド車の比率が増加すると予想されている。富士電機では,マイルドハイブリッド車用の IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)モジュールの低損失化・小型化のために,IGBTと FWD(Free Wheeling Diode)を 1チップ化した 650V 耐圧の RC-IGBT(Reverse-Conducting IGBT)を開発した。RC-IGBTにより,従来の IGBT・FWDを超える

低損失化とパッケージサイズの小型化を実現した。

Hybrid electric vehicles and electric vehicles are attracting attention as people’s environmental awareness is growing. Above all, mild hybrid electric vehicles, in which one motor is responsible for both driving and power generation, is expected to account for a higher propor-tion of vehicles. To reduce the loss and size of Insulated-gate bipolar transistor (IGBT) modules for mild hybrid electric vehicles, Fuji Electric has developed a reverse-conducting IGBT (RC-IGBT) that has a withstand voltage of 650V, which integrates an IGBT and freewheeling diode (FWD) into one chip. The RC-IGBT has realized a lower loss and reduced package size that surpass the conventional IGBTs and FWDs.

エミッタ

コレクタ

p+コレクタ

フィールドストップ層

エミッタ

ゲートpベース

電流IGBT FWD

n+p+

n+カソード

図1 RC-IGBTの概略構造

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特集 

エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

255(25)

ンチピッチなどデバイス表面のデザインを工夫すること

で,定常損失を決めるパラメータであるコレクタ-エミッ

タ間飽和電圧を最小限に抑えている⑶

。また,チップは厚い

ほど耐圧を確保しやすく製造も容易であるが,飽和電圧お

よび順電圧が増加して定常損失が悪化するため,できるだ

け薄い方が望ましい。そこで富士電機では,早期から薄い

ウェーハに加工する技術に積極的に取り組んできた。

今回,最先端の薄ウェーハ加工技術を開発すること

で,従来は不可能だった 650V 耐圧に必要十分な厚さま

でウェーハを薄くし,低損失化を実現した。また,薄い

ウェーハの裏面へのパターニング技術と不純物層の形成技術も開発し,IGBTのコレクタ p 型層と FWDのカソード

n 型層を同一チップの裏面に形成した。IGBTと FWDの

スイッチング損失は,定常損失とトレードオフの関係にあ

る。そのため,キャリアライフタイム制御を行ってトレー

ドオフの最適化を行った。

3 損失特性

3. 1  電気的特性

本節では,従来 IGBT・FWDと活性面積が同じ RC-

IGBTの電気特性を示す。

⑴ IGBT特性図3に,RC-IGBTと従来 IGBTの飽和電圧出力特性を

示す。RC-IGBTでは,薄ウェーハ化および表面構造の最適化により従来 IGBTよりも低い飽和電圧を実現している。

また,IGBT 領域に隣接する FWD領域の裏面カソードで

ある n 型層へ電子が流入することにより,IGBTコレクタ

である p 型層からのホール注入が抑制されて伝導度変調が起こりにくくなる。そのため,低飽和電圧領域におい

て電流-飽和電圧曲線にスナップバック〈注〉

が起こることが

報告されている⑷

。スナップバックが発生すると飽和電圧が

増加し,損失悪化につながる。この対策として,IGBTと

FWDの各領域の構造を最適化して伝導度変調を起こしや

すくし,スナップバックを抑制するようにした。

図4に,RC-IGBTと従来 IGBTのターンオフ特性を示す。RC-IGBTの方が従来 IGBTに比べてターンオフ時の

dv/dt が大きく,キャリアの排出速度が速いことが分かる。

これは RC-IGBTでは裏面のコレクタ p 型層とカソード n型層が短絡されていることにより,ターンオフ時に電子が

コレクタ p 型層に加えて,隣接する FWD領域の裏面にあ

るカソード n 型層からも排出されるためである。この結

発生損失(a.u.)

1.2

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0回 生カ 行

VCC=300V, I out=300A(実効値), fsw=10kHz, f out=50Hz, m=0.8, cosφ=±0.85

Prr

Pf

Poff

Pon

Psat

図2 インバータ動作時の IGBTモジュールの発生損失

電流(A)

コレクタ-エミッタ間飽和電圧(V)

RC-IGBT

従来 IGBT

500

400

300

200

100

030 1 2

図3 IGBTの飽和電圧出力特性

RC-IGBT

従来 IGBT電流,電圧

時 間

VCE

I C

図4 IGBTのターンオフ特性

RC-IGBT

従来 IGBT

ターンオフ損失

コレクタ-エミッタ間飽和電圧

図5 IGBTのトレードオフ特性

〈注〉 スナップバック:電流と飽和電圧が途中で減少した後に増加に

転じる現象をいう。

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エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

256(26)

果,RC-IGBTの方が従来 IGBTに比べてターンオフ損失が低減されるというメリットがある。RC-IGBTでは,定常損失を改善する方向(低飽和電圧化)に調整しても,従来 IGBTよりもターンオフ損失を抑制することができ,ト

レードオフ特性を大きく改善することができた(図5)。

⑵ FWD特性図6に,RC-IGBTと従来 FWDの順方向出力特性を示

す。IGBTの定常損失と同様に,RC-IGBTでは薄ウェー

ハ化および表面構造の最適化の効果により従来FWDに比べて順電圧降下を低減させた。

図7に,RC-IGBT 逆回復動作時のスイッチング波形を

示す。RC-IGBTでは,FWD 定常動作時に電子が FWD領域に加え IGBT領域にも拡散するため,逆回復動作時に

従来 FWDに比べて逆回復電流 Irpが大きくなり,逆回復損失 Errが大きくなるという問題があったが,ライフタイ

ム制御技術により,Irpを低減している。

3. 2  放熱特性

RC-IGBTでは,IGBTと FWDを一体化することによ

りチップ面積およびモジュール面積を縮小した。さらに,

RC-IGBTにおいては,FWD領域からの発熱を IGBT 領域の部分も介して放熱するため,従来FWDよりも大幅に

熱抵抗が低い。直接水冷構造モジュールを想定し,同一活

性面積における RC-IGBTと従来 IGBT・FWDの熱抵抗を比較した(図8)。RC-IGBTの IGBT領域の熱抵抗は従来 IGBTに比べて 12%,FWD領域の熱抵抗は FWDに比べて 40% 低くなっている。

4 モジュールへの適用時の効果

本章では,RC-IGBTをマイルドハイブリッド車向け

IGBTモジュールに適用した際の小型化効果について述べ

る。

図9に,従来 IGBT・FWD と活性面積が同じ RC-

IGBT,および小型化 RC-IGBTのインバータ動作時の損失と温度計算結果を示す。表1に,チップ活性面積とモ

ジュール面積の比較を示す。従来 IGBTに比べて,飽和電圧,順電圧,ターンオフ損失を低減したことで,RC-

IGBTはインバータ動作時の電力損失を 10% 以上低減で

きる。低損失化に加え,3.2節で述べた放熱の優位性に

より,チップ最大温度は 14℃程度低減できる。モジュー

ルのチップサイズは動作時の最大温度で決まるため,この

結果は RC-IGBTはより小さいチップサイズで同定格のイ

ンバータ動作が可能であることを意味する。25% 小型化した RC-IGBTで従来 IGBT・FWDと同程度の温度となっ

ており,これにより,モジュール面積は 20% 低減が可能

電流(A)

順電圧(V)

RC-IGBT

従来 FWD

500

400

300

200

100

030 1 2

図6 順方向出力特性

0V

0A

:200ns/divt:100V/divV AK

:150A/divI F

I rp

図7 RC-IGBT逆回復動作時のスイッチング波形

(a.u.)

Rth(j-w)

(a.u.)

Rth(j-w)

時間(s)

RC-IGBT(IGBT領域)

高温度

低従来 IGBT

1.2

0.8

1.0

0.6

0.4

0.2

01000.001 0.01 0.1 1 10

(a)RC-IGBT(IGBT領域)と従来 IGBT

時間(s)

RC-IGBT(FWD領域)

高温度

従来 FWD

1.2

0.8

1.0

0.6

0.4

0.2

01000.001 0.01 0.1 1 10

(b)RC-IGBT(FWD領域)と従来 FWD

図8 同一活性面積における熱抵抗

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特集 

エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

257(27)

である。

5 あとがき

本稿では,マイルドハイブリッド車用RC-IGBTおよび

モジュールへの適用時の効果について述べた。

環境問題への対応から,ハイブリッド車,電気自動車は

今後も大きな発展が見込まれる。この中で,さらに車載機器の小型化の重要性が増すと考えられ,小型化を実現でき

る RC-IGBTは非常に有効な手段であると考える。今後も,

デバイスの改善,新材料デバイスの開発などでこの分野へ

の貢献をさらに進めていく所存である。

参考文献⑴ Takahashi, K. et al.“New Reverse-Conducting IGBT

(1200 V)with Revolutionary Compact Package” ,

Proceedings of ISPSD 2014. p.131-134.

⑵ Laska,T. et al. “The Field Stop IGBT(FS IGBT) ─ A

New Power Device Concept with a Great Improvement

Potential”, Proceedings of ISPSD 2000. p.355-358.

⑶ 百田聖自ほか. ハイブリッド車用めっきチップ. 富士時報.

2007, vol.80, no.6, p.385-387.

⑷ M,Rahimo. et al. “The Bi-mode Insulated Gate Transistor

(BIGT)A Potential Technology for Higher power

Applications”, Proceedings of ISPSD 2009. p.283-286.

野口 晴司IGBTチップの開発設計に従事。現在,富士電機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部モ

ジュール技術部。

安達 新一郎ハイブリッド自動車用 IGBTモジュール・IPMの

開発に従事。現在,富士電機株式会社パワエレ事業本部輸送パワエレ事業部EVモジュール開発部。

吉田 崇一パワー半導体素子の開発に従事。現在,富士電機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部モ

ジュール技術部。

発生損失(a.u.)

1.2

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0

150

125

100

75

50

25従来

IGBT・FWDRC-IGBT

(同一活性面積)RC-IGBT(小型化)

VCC=300V, I out=300A(実効値), fsw=10kHz, f out=50Hz, m=0.8, cosφ=±0.85,水温65℃

Prr

T jmax

Pf

Poff

Pon

Psat

(℃)

IGBT Tjmax

図9 RC-IGBTと従来 IGBT・FWDの発生損失

表1 チップ活性面積とモジュール面積

従来IGBT・FWD RC-IGBT(小型化)

チップ活性面積(a.u.) 1.00 0.75

モジュール面積(a.u.) 1.00 0.80

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富士電機技報 2014 vol.87 no.4

特集 

エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

258(28)

1 まえがき

地球温暖化の防止や資源の有効利用が各国共通の取組み

として重要性を増している。自動車分野では,ハイブリッ

ド車(HEV)や電気自動車(EV)の開発と普及が加速し

ている。これらの自動車の動力制御に用いるインバータユ

ニットは限られたスペースに搭載されるため,小型かつ搭載方法の自由度の高さと,低燃費を意識した軽量化と効率向上が求められる。インバータに搭載されるパワーモ

ジュールにおいても,小型・軽量化,高効率化が必要であ

り,世代ごとに,20% 以上の小型・軽量化が求められて

いる。特に,車載用パワーモジュールでは,直接水冷構造を用いた高放熱化やアルミニウム冷却器を用いた軽量化が

進んでいる。

富士電機では,二つのモータを制御するインバータと昇降圧コンバータを内蔵した,車載用アルミニウム直接水冷型インテリジェントパワーモジュール(IPM:Intelligent Power Module)を開発し

,HEVに必要とされる高出力を

実現した。図1に,車載用アルミニウム直接水冷型 IPMを示す。第 2世代の IPMは第 1世代に対し,体積を 30%,質量を 60% 低減した

本稿では,第 2 世代の IPMに適用した三つの新パッ

ケージ技術,すなわちアルミニウム直接水冷構造の冷却器設計技術,超音波接合技術,ならびに 175℃連続動作を可能とする高耐熱化技術について述べる。

2 冷却構造の技術課題

図2に,第 1世代アルミニウム直接水冷型 IPMの断面構造を示す。この構造では,モジュールとヒートシンクを

直接はんだで接合している。

ウォータージャケットはユーザが独自に設計するため,

ヒートシンクとウォータージャケットが別個の部品となり,

流路設計だけでなく,水密性と公差を考慮した設計が必要である。そのため,座屈や変形を考慮した材料選択やベー

ス厚さが必要であり,熱抵抗上昇の要因となっていた。

このような課題を解決し,アルミニウム直接水冷構造に

おける放熱能力の向上と高信頼性を確保するため,ヒート

シンクとウォータージャケットを一体化したアルミニウム

冷却器を開発した。

ハイブリッド車用第 2世代アルミニウム直接水冷パッケージ技術

郷原 広道 GOHARA, Hiromichi 齊藤  隆 SAITO, Takashi 山田 教文 YAMADA, Takafumi

Packaging Technology of 2nd-generation Aluminum Direct Liquid Cooling Module for Hybrid Vehicles

地球温暖化の防止や資源の有効利用に向けた取組みとして,ハイブリッド車などの環境対策車のさらなる燃費向上が求められている。そのため,ハイブリッド車用インテリジェントパワーモジュール(IPM)の小型・軽量化が必要である。こ

れに応えるため,富士電機は三つの新パッケージ技術,すなわちアルミニウム直接水冷構造の冷却器設計技術,超音波接合技術,ならびに 175℃連続動作を可能とする高耐熱化技術を開発した。これらの技術を適用した第 2世代アルミニウム直接水冷型 IPMは,第 1世代に対して体積を 30%,質量を 60% 低減した。

As activities for preventing global warming and allowing for eff ective use of resources, further improvements in the fuel effi ciency of eco-friendly vehicles such as hybrid electric vehicles is called for. To that end, size and weight reduction of intelligent power modules (IPMs) for hybrid electric vehicles is required. To meet this need, Fuji Electric has developed three new packaging technologies: technology for designing a radiator with a structure capable of direct liquid cooling using aluminum, ultrasonic bonding technology and thermal resistance improvement technology that allows continuous operation at 175°C. The 2nd-generation direct liquid cooling IPM using aluminum, which applies these technologies, has achieved a volume reduction of 30% and mass reduction of 60% from the 1st-generation model.

(a)第1世代 (b)第2世代

図1 車載用アルミニウム直接水冷型 IPM

ウォータージャケット

ヒートシンク

はんだ

絶縁基板

はんだ

半導体素子

Oリング

ベース厚さ

固定ねじ

クリアランス

図2 第1世代アルミニウム直接水冷型 IPMの断面構造

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ハイブリッド車用第2世代アルミニウム直接水冷パッケージ技術

富士電機技報 2014 vol.87 no.4

特集 

エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

259(29)

3 冷却器設計技術

3 . 1  放熱性能の設計

パワーモジュールの放熱性能は,熱抵抗と熱伝達係数の

二つで示すことができる。熱抵抗 Rthは,チップのジャン

クション温度と比較対象とする箇所の温度との差を発生損失で除した値である。また,熱伝達係数 h は冷媒とフィ

ンの熱交換性能を示す。これらの関係は式⑴で表される。

また,式⑵に置き換えることができる。

hR A1

=th

……………………………………………… ⑴

h: 熱伝達係数〔W/(m2・K)〕 Rth: 熱抵抗(K/W)

A: フィン表面の面積(m2)

hL

Num= ……………………………………………… ⑵

h: 熱伝達係数〔W/(m2・K)〕 Nu: ヌセルト数 : 構成部材の熱伝導率〔W/(m・K)〕 L: フィンの代表長さ(m)

ヌセルト数 Nu は,形状パラメータを用いて式⑶で計算することができる。このとき,レイノルズ数 Re は式⑷で,

プランクトル数 Pr は式⑸で表される。

0.664Ru e= 1/3PrN 1/2

……………………………… ⑶ Nu: ヌセルト数 Re: レイノルズ数 Pr: プランクトル数

RevLh

t= …………………………………………… ⑷

Re: レイノルズ数 : 冷媒の密度(kg/m3) v: 冷媒の流速(m/s) L: フィンの代表長さ(m) η: 冷媒の粘度(Pa・s)

pCPr

h= …………………………………………… ⑸

Pr: プランクトル数 η: 冷媒の粘度(Pa・s) Cp: 比熱〔J/(kg・K)〕 : 熱伝導率〔W/(m・K)〕

これらの式から,熱伝達係数は使用する冷媒の密度,粘度,比熱,熱伝導率と流速から計算できることが分かる。

流速に対する熱伝達係数を単位当たりの長さから計算した

結果を図3に示す。

フィン表面の流速が速いほど熱交換性能を示す熱伝達係数は大きくなる。これはチップで発生した熱がフィンに伝わり,冷媒を伝って放熱される状態について,フィン表面を流れる冷媒流速が放熱性能に大きく影響することを示し

ている。よって,フィン表面の流速向上が放熱設計のポイ

ントであることが分かる⑶

3 . 2  流速と放熱性能

シール材を用いた従来の冷却構造は,ウォータージャ

ケットをユーザが設計し用意するため,フィンの先端と

ウォータージャケットの間にクリアランスが必要である。

このクリアランスが放熱性能に与える影響について簡易モデルを用いて試算した。フィン形状は厚さ 1mm,間隔1mm,高さ 10mmとし,冷媒は冷媒導入口に均等に 1 L/minが流れるように設定した。図4に,簡易モデルとシ

ミュレーション結果を示す。

クリアランスが広がるほど熱抵抗は上昇し,悪化するこ

とが分かる。冷媒は圧力抵抗の低い部分を流れるため,開口部の広いクリアランス部に流出し,放熱性能に寄与する

フィン間の流速が低下する。さらに,モジュールが並列に

接続されると,冷媒流速の低下が顕著になることが予想で

熱伝達係数h〔W/(m2・K)〕

4×105

3×105

2×105

1×105

01.00.50

流速 v(m/s)

図3 熱伝達係数と冷媒流速の関係

熱抵抗Rth(j-w)(K/W)

フィン間を流れる冷媒流速v(m/s)

0.20 0.27

0.19 0.18

0.18 0.09

0.17 0210

クリアランス(mm)

冷媒排出口

冷媒導入口

ヒートシンク

絶縁基板

IGBT素子

冷却フィン

(a)簡易モデル

(b)シミュレーション結果

図4 簡易モデルとシミュレーション結果

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ハイブリッド車用第2世代アルミニウム直接水冷パッケージ技術

富士電機技報 2014 vol.87 no.4

特集 

エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

260(30)

きる。

ヒートシンクとウォータージャケットを一体化して,ク

リアランスをなくすことは,フィン間の冷媒流速を早くし

て熱抵抗を下げるのに効果的であることが分かる。

図5に,第 2世代のアルミニウム直接水冷構造として採用した新構造の断面図を示す。新構造は,ウォータージャ

ケットとフィン先端部を接合してクリアランスをなくし

た。これにより,冷媒を最大限に活用できる冷却構造とし,

ベースに相当する部分の厚さを薄くするとともに高熱伝導率材料を採用したものである。

図6に熱抵抗の比較結果を示す。新構造は,冷媒の活用と熱伝導性を考慮しており,従来構造と比較して熱抵抗を

20% 低減することができる。

4 超音波接合技術

第 1世代のアルミニウム直接水冷型 IPMでは,主端子と内部回路基板の接続にアルミニウムワイヤを採用してい

た。電流密度を確保するために必要な本数のワイヤをボン

ディングできる接合面積が必要であり,配線部は出力に応じた広い実装面積が必要であった。小型・軽量化するため

に,第 2世代の IPMでは,主端子である銅端子と内部回路基板の接続に超音波接合を用いた。図7に,超音波接合を行った銅端子の外観写真を示す。超音波接合では銅端子と基板銅回路が固相拡散によって直接接合しているため,

強固な接合部が得られる。図8に,同じ電流容量で比較し

た銅端子超音波接合とアルミニウムワイヤボンディングに

おける実装面積を示す。アルミニウムワイヤより導電率の

高い銅端子を直接接合したことで,超音波接合構造はアル

ミニウムワイヤボンディング構造と比較して 35%の実装面積の低減が可能となった

直接水冷構造における放熱性能の向上に加え,超音波接合技術を適用したことで,第 2世代のアルミニウム直接水冷型 IPMは,第 1世代に対して体積を 30%,質量を 60%低減した。

5 175℃連続動作を可能とする高耐熱化技術

IPMの動作時にチップで発生した熱は,放熱ベースを

通じて冷却フィンから放熱される。素子温度Tjの上限は

150℃が一般的であり,また水冷の場合,水温と素子上限温度の差であるΔT をどれだけ有効に活用できるかが出力特性を左右する。熱抵抗低減に加えて素子保障上限温度Tjmaxを 175℃に上げることで,よりいっそうの高出力化の達成を目指した。

Tjmaxを 150 ℃から 175 ℃に上昇させるには,素子周辺部材の信頼性に与える影響を改善しなければならない

。従来のモジュール構成を用い,Tjmaxを固定した場合のパワー

サイクル試験を行った。図9に試験結果を示す。25℃の

高温化により,ΔTj=75℃のときに寿命が 40% 低下した。

ここでは,素子下はんだ接合部の寿命低下に着目する。

従来の Sn-Ag 系はんだでは,熱劣化による強度低下が寿命低下の要因と考えられる。そこで,破壊モードを解析し,

耐熱に優れ高強度となるように,強化機構を取り入れた新はんだの開発を行った。

冷却器

はんだ

絶縁基板

はんだ半導体素子

図5 第2世代アルミニウム直接水冷型 IPMの断面構造

20%

熱抵抗Rth(j-w)(K/W)

0.20

0

0.16

0.12

0.08

0.04

従来構造新構造

図6 熱抵抗

実装面積(a.u.)

1.0

0銅端子超音波接合

35%

アルミニウムワイヤボンディング

図8 実装面積

(a)銅端子超音波接合 (b)アルミニウムワイヤ   ボンディング

図7 接合部の外観写真

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261(31)

5 . 1  Sn-Ag系はんだの破壊モード図10に,パワーサイクル試験後の断面を観察した

結果を示す。Snの粒界に沿ってクラックが観察された。

Sn-Ag 系はんだは,Snの粒界に Ag3Snが析出すること

で粒界を強化してクラック進展を抑制する構造であるが,

パワーサイクル試験によるはんだ部の発熱および繰り返し

応力により,Ag3Snの凝集と Sn 粒子の粗大化が発生する

ことで,粒界を強化する構造が消失したことが原因と考え

られる。特に,175℃で連続動作を行った場合,チップ直下にあるはんだ接合部の温度は,150℃動作時と比較して,

約 25℃上昇することとなり,金属組織の変化と熱疲労に

よるクラック進展が加速し,寿命が低下したと考えられる。

5 . 2  はんだの強化機構

175℃連続動作においても金属組織が変化せず,強度を

維持するはんだを開発するために,金属材料の強化機構に

着目した。代表的なはんだの強化機構としては,Sn-Ag系はんだに代表される析出強化と Inや Sbを添加した固溶強化がある

。従来はどちらか一方の強化機構を利用した

組成であったが,175℃連続動作時の信頼性を確保するた

め,Sn-Sb 系はんだをベースに第 3 元素を添加し,析出強化と固溶強化の二つの強化機構を合わせた複合強化型の

新はんだとした。

5 . 3  はんだの機械的特性

析出強化と固溶強化の両方の強化機構を持つはんだの

機械的特性について,高温下での組織変化による強度低下の影響を調査するために,室温および高温時効

〈注〉

175℃,

1,000 hを行ったサンプルの引張強度を測定した。図11に,

Sn-Ag 系はんだ,Sn-Sb 系はんだ,新はんだの測定結果を示す。

Sn-Ag 系はんだは 175 ℃で 1,000 h 加熱後,強度が約44% 低下し,固溶強化である Sn-Sb 系はんだは,約 5%の強度低下であった。一方,複合強化型の強化機構を持つ

新はんだは 13%の強度低下であった。強度の低減割合は

多少大きかったものの,複合強化型は強度自体が高く,寿命改善に効果を発揮することが期待できる

5 . 4  パワーサイクル試験結果

開発した新はんだの高温での信頼性を評価するため,

Tjmax=175℃の試験条件でパワーサイクル試験を実施した。

図12に,パワーサイクル試験の結果を示す。新はんだは,

Sn-Ag 系はんだと比較して,ΔTj=75℃のときに 2.6 倍の

パワーサイクル寿命を持つことが分かった。

30 60 90 120

パワーサイクル寿命(cycle)

T jmax=150℃

Tjmax=175℃40%

104

105

106

107

試験条件Ton=2s, Toff =18s

累積故障率=1%

推定寿命

150

Tj(℃)Δ

図9 Tjmax 上昇によるパワーサイクル寿命の低下

25µm 10µm

Ag3Sn

図 1 0  パワーサイクル試験後(Tjmax=175℃)のはんだ断面観察結果

〈注〉 時効:時間の経過に伴い金属の性質(例えば,硬さなど)が変

化する現象をいう。

引張強度(MPa)

100

初期

175℃ 1,000h加熱後

80

60

40

20

0Sn-Ag系はんだ(析出強化)

Sn-Sb 系はんだ(固溶強化)

新はんだ(複合強化)

図 1 1 引張強度

30 60 90 120

パワーサイクル寿命(cycle)

104

105

106

107

累積故障率=1%

新はんだ

推定寿命

従来はんだ

150

Tj(℃)Δ

2.6 倍2.6 倍

図 1 2  新はんだのパワーサイクル試験結果

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262(32)

6 あとがき

本稿では,ハイブリッド車用 IPMの小型・軽量化を実現するパッケージ技術として,アルミニウム直接水冷構造の冷却器設計技術と超音波接合技術,および 175℃連続動作を可能とする高耐熱化技術について述べた。

パッケージ技術は,お客さまのインバータ開発設計を支援するものであり,これらの技術を基にさらなる技術革新を推進し,高効率,省エネルギー化に貢献する製品を提供していく所存である。

参考文献⑴ 郷原広道ほか. ハイブリッド自動車用IPMのパッケージ技

術. 富士電機技報. 2013, vol.86, no.4, p.258-262.

⑵ Gohara, H. et al. “Next-gen IGBT module structure for

hybrid vehicle with high cooling performance and high

temperature operation”. Proceedings of PCIM Europe 2014,

May 20-22, Nuremberg, p.1187-1194.

⑶ Morozumi, A. et al. “Next-gen IGBT module structure

for hybrid vehicle with high cooling performance and high

temperature operation”. Proceedings of the 2014 IEEJ,

Hiroshima, p.671-676.

⑷ 百瀬文彦ほか. IGBT モジュールの高信頼性実装技術. 富士

電機技報. 2012, vol.85, no.6, p.408-412.

⑸ K, Vogel. et al. “IGBT with higher operation temperature

- Power density, lifetime and impact on inverter design”.

Proceedings of PCIM Europe, 2011, p.679-684.

⑹ Saito, T. et al. “New assembly technologies for Tjmax=175°C continuous operation guaranty of IGBT module”.

Proceedings of PCIM Europe 2013, Nuremberg, p.455-461.

⑺ Saito, T. et al. “Novel IGBT Module Design, Material and

Reliability Technology for 175°C Continuous Operation”.

Proceedings of IEEE 2014, Sep 14-18, Pittsburgh, p.4367-

4372.

郷原 広道パワー半導体パッケージの研究開発に従事。現在,

富士電機株式会社技術開発本部電子デバイス研究所次世代モジュール開発センターパッケージ開発部。日本機械学会会員。

齊藤  隆パワー半導体パッケージの研究開発に従事。現在,

富士電機株式会社技術開発本部電子デバイス研究所次世代モジュール開発センターパッケージ開発部。表面処理技術協会会員,エレクトロニクス実装学会会員。

山田 教文パワー半導体パッケージの研究開発に従事。現在,

富士電機株式会社技術開発本部電子デバイス研究所次世代モジュール開発センターパッケージ開発部。

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エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

263(33)

1 まえがき

電子機器の小型化や軽量化を図るためにスイッチング電源の利用が広く普及しているが,スイッチング電源ではコ

ンデンサインプット型の整流・平滑回路が採用されている

ため,大量の高調波電流が発生する。高調波電流の増加は,

機器の動作障害や力率低下による無効電力の増加などの問題を発生させる。高調波電流を一定の値以下に抑えるため,

国際規格 IEC 61000-3-2において,表1に示すように電気・電子機器がクラス A〜Dに分類され,それぞれに規制値が設定されている。

この高調波電流および力率の問題を解決するためには,

力率改善(PFC:Power Factor Correction)回路が必要であり,特に高い力率を出すことができるアクティブフィ

ルタ方式の PFC 回路が広く使われている。これに対し,

富士電機は PFC回路を制御する ICを多数製品化している⑴⑵⑶

また,地球環境の悪化を抑えるため,電気製品全般での省エネルギー化が重要になっている。アメリカの

ENERGY STARプログラムやヨーロッパのEuP(Energy-

using Products)指令など,電子機器の消費エネルギーを

制限する規格などが設けられ,年々その規制が厳しくなっ

ている。

例えば,待機電力の規制,ならびに軽負荷を含めた広い

負荷領域での最低効率や平均効率に対する規制がある。こ

のため,PFC 回路の制御 ICにおいても,待機電力の削減や,軽負荷時の効率を向上させることが求められている。

さらに,近年の電子機器に対する低価格化の要求と消費者の安全意識の高まりを受け,電源においてもコストの削減と安全性の向上の両立が強く求められている。

富士電機は,これらの要求に応えて第 2 世代臨界制御 IC「FA5590シリーズ

」に続き,第 3世代臨界制御 IC「FA1A00シリーズ」を開発した。電源のコストの低減と

低待機電力が可能であり,軽負荷時の効率を改善するとと

もに保護機能を強化した。

2 製品の概要と特徴

FA1A00の外観を図1に,FA1A00と FA5590の性能比較を表2に示す。PFC回路における軽負荷時の効率向上,

電源のコストの低減,安定性や安全性の向上などの要求に

応えるものであり,FA1A00は次に示す特徴を持っている。

⑴ 軽負荷時の効率向上○ ボトムスキップ機能交流 240V,10% 負荷において効率を 14% 向上した。

第3世代臨界モードPFC制御 IC「FA1A00シリーズ」

菅原 敬人 SUGAWARA, Takato 矢口 幸宏 YAGUCHI, Yukihiro 松本 和則 MATSUMOTO, Kazunori

3rd-Gen. Critical Mode PFC Control IC “FA1A00 Series”

電子機器に広く用いられているスイッチング電源には,高調波電流を抑えるために力率改善(PFC)回路が必要である。

富士電機は,電源の消費電力の削減と低コスト化という市場要求に応えるため,PFC 回路用の第 3世代臨界モード PFC制御 IC「FA1A00シリーズ」を開発した。ボトムスキップ機能により軽負荷時の効率を改善するとともに,パワーグッド

信号出力機能により電源回路の部品の削減を可能にした。また,オーバーシュート低減機能や基準電圧精度の向上などに

より,安全性を向上した。

Switching power supplies, which are widely used for electronic devices, are required to have a power factor correction (PFC) circuit to reduce harmonic current.

In order to meet the market demand for less power consumption and lower cost of power supplies, Fuji Electric has developed the third-generation critical mode PFC control IC “FA1A00 Series” intended for PFC circuits. The bottom-skip function has successfully improved the effi ciency under low load and the power good signal function has reduced the number of power circuit parts. Safety has also been improved by having an overshoot suppression function and improved reference voltage accuracy.

表1 高調波電流の規制(IEC 61000-3-2)の分類

分 類 代表的な機器

クラスA 白物家電,音響機器

クラスB 手持ち電動工具,アーク溶接機

クラスC 照明機器

クラスD テレビ,PC 図1 「FA1A00」

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264(34)

⑵ 電源のコストの低減○ パワーグッド信号出力機能n-MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-

Eff ect Transistor)を 1 個追加し,シャントレギュレー

タを 1 個,抵抗を 2 個,コンデンサを 1 個,それぞれ削減した。

⑶ 動作安定性の向上○ 軽負荷時安定機能

⑷ 安全性の向上○ オーバーシュート低減機能 オーバーシュート電圧を 10V 低減した。

○ 基準電圧精度の向上○ 過電流検出精度の向上

2 . 1  ボトムスキップ機能

インダクタ電流がゼロになってからMOSFETをオンに

する臨界動作の PFC 回路は,軽負荷時にスイッチング周波数が増加してMOSFETのスイッチング損失が増加し,

効率が悪化するという問題がある。

富士電機では,臨界モード PFC 制御 ICの世代を重ね

るごとに軽負荷時のスイッチング周波数を低減する機能を

改良してこの問題に対処している。

表3に,各世代の周波数低減機能および軽負荷時ス

イッチング周波数を示す。第 1世代の FA5500は 800 kHz,第 2 世代の FA5590は 600 kHz,第 3 世代の FA1A00は200 kHzと軽負荷時のスイッチング周波数を低くし,効率を改善している。

図2に,ボトムスキップ機能の動作波形を示す。臨界動作では,MOSFETのVDS の第 1ボトムを検出して

MOSFETをターンオンしている。FA1A00では,重負荷時は通常の臨界動作と同様に第 1ボトムでMOSFETをターンオンしているが,負荷が軽くなるのに合わせて,

ターンオンのタイミングを第 1ボトムから第 2ボトム,第3ボトムと遅らせる。この動作によって,MOSFETがオ

フしている期間が長くなり,スイッチング周波数が低くな

る。

図3に,200W 定格電源における FA5590と FA1A00の軽負荷時の効率を示す。FA1A00の効率は,ボトムス

キップ機能によって FA5590に比べて 20% 負荷で 3ポイ

ント,10% 負荷で 14ポイント改善している。

FA1A00を使用すると,ENERGY STARプログラムな

どの規格に対応できるようになる。また,MOSFETの損失が低減することで発熱も小さくなる。そのため,放熱の

ためのヒートシンクが小さくなり,電源のコストの低減に

つながる。

2 . 2  パワーグッド信号出力機能

一般的な電源は,PFC 回路で交流入力電圧 90〜264Vを 400V 程度に昇圧し,後段の DC/DCコンバータでさら

に電圧を変換して負荷へ供給している。DC/DCコンバー

タは,PFC 回路で昇圧された電圧で動作するよう設計さ

れているため,PFC 回路の出力電圧が一定電圧以下に低下すると誤動作を起こすことがある。そのため,電源には,

PFC 回路の出力電圧を監視し,一定電圧以下になった場合に DC/DCコンバータを停止する回路が使われている。

表2 臨界PFC制御 ICの性能比較

項 目 FA1A00 FA5590

高効率 軽負荷時スイッチング周波数

200kHz(AC240V, 10%負荷で効率14ポイント改善)

600kHz

低コスト

パワーグッド信号出力機能 あ り な し

安定性軽負荷時安定機能 あ り な し

ゼロ電流検出電圧 -4mV±3mV -10mV±5mV

安全性

オーバーシュート低減機能

あ り(オーバーシュート電圧10V低減)

な し

基準電圧 2.5V±1.0% 2.5V±1.4%

過電流検出電圧 -0.6V±2.0% -0.6V±3.3%

表3 周波数低減機能および軽負荷時スイッチング周波数

世 代 型 式 周波数低減機能 軽負荷時スイッチング周波数

第1世代 FA5500 な し 800kHz

第2世代 FA5590 最大スイッチング周波数制限機能 600kHz

第3世代 FA1A00 ボトムスキップ機能 200kHz

MOSFET VDS

(a)重負荷時 (b)軽負荷時

時 間 時 間

第1ボトム

MOSFET VGS

第3ボトム

図2 ボトムスキップ機能の動作波形

効率(%)

100 定格200W,入力電圧240V

95

90

85

80

75403020100

負荷(%)

+3ポイント

FA1A00

FA5590

+14ポイント

図3 軽負荷時の効率

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265(35)

FA1A00では,この回路の機能を内部に取り込んでい

る。図4に,パワーグッド信号出力機能の動作波形を示す。

PFCの出力電圧が一定電圧以上に上昇したときにパワー

グッド信号を Lから Hに,一定電圧以下に低下したとき

に Hから Lにする。この信号を後段の DC/DCコンバー

タに伝達することで電源における出力電圧監視回路の削減が可能となり,電源のコストの低減を図ることができる。

なお,パワーグッド信号の切替えの電圧にはヒステリシス

を設けており,チャタリングが発生せず安定に動作する。

FA1A00は,PFC 出力電圧を監視するための端子を備えている。また,パワーグッド信号出力を既存の発振周波数設定端子と共用することにより,端子の数を増やすこと

なく前述の機能を実現している。

2 . 3  軽負荷時安定機能

PFC 回路には,2.2節で述べたとおり 90〜264Vとい

う幅広い入力電圧がかけられる。低入力電圧で重負荷のと

きに電力が供給できるようにパルス幅制御のゲインを高く

設定すると,高入力電圧で軽負荷のときにはゲインが高す

ぎて不安定動作となり,出力電圧のリップル電圧が高くな

る場合がある。この場合,PFC 回路の後段に接続される

DC/DCコンバータの誤動作や,スイッチングノイズの増加などの問題が発生する。

FA1A00では,低入力電圧で重負荷のときにだけゲイ

ンを高くし,高入力電圧で軽負荷のときにはゲインを低く

することで,電力を安定して供給できる機能を内蔵してい

る。

図5に,軽負荷時安定機能の動作波形を示す。PFC回路の出力電力はMOSFETのオン幅で制御される。

MOSFETのオン幅は,ターンオンから右肩上がりで増加

するランプ発振信号が,出力電圧と IC 内部の基準電圧の

誤差増幅信号に到達してターンオフすることで決定される。

そのため,制御のゲインはランプ発振信号の傾きに依存す

る。

ランプ発振信号は,傾きが小さいほどゲインが高く,大きいほどゲインが低くなるため,FA1A00では高入力電圧で軽負荷のときにランプ発振信号の傾きを大きくする機能を内蔵した。これにより,高入力電圧軽負荷時に制御の

ゲインを低くして動作を安定化させることができる。

2 . 4  オーバーシュート低減機能

PFC 回路は,入力電源の周波数で発生する出力電圧の

リップルを小さくするため,出力電圧制御の応答を遅く設定している。しかし,応答が遅いと起動時に出力電圧の

オーバーシュートが発生する。さらに,近年,電源のコス

トの低減を図るために,実使用条件に対してマージンのな

い耐圧の電解コンデンサを PFC 回路の出力に接続するこ

とが多くなっている。その場合,起動時のオーバーシュー

トによる一時的な過電圧がかかり,電解コンデンサの寿命が縮まってしまう。

FA1A00では,起動時に出力電圧が設定電圧まで到達すると,一時的に応答性を早くして出力電圧のオーバー

シュートを低減する。図6に,オーバーシュート低減機能の動作波形を示す。

PFC 制御 ICは,誤差増幅信号が高いほど大きな電力を

出力に供給する。起動時は出力電圧を設定電圧まで上昇さ

せるときに大きな電力を必要とするため,誤差増幅信号は

最大値まで上昇している。前述のとおり,出力電圧制御の

応答を遅く設定しているため,出力電圧が設定電圧値まで

到達しても,誤差増幅信号の低下が遅れ,電力を過剰に供給し,出力電圧のオーバーシュートが発生する。

FA1A00では,出力電圧が設定電圧値に到達したとき

に誤差増幅信号を強制的に引き下げることで応答遅れを小さくし,起動時のオーバーシュートを低減している。これ

により,耐圧の低い電解コンデンサを安全に使用できる。

また,FA1A00では,前述の保護機能以外にも,出力電圧制御の基準電圧精度の向上や過負荷保護検出電圧の精度向上により,電源の安全性を向上している。

PFC出力電圧

パワーグッド信号

H

L

ヒステリシス

時 間

図4 パワーグッド信号出力機能の動作波形

ランプ発振信号

時 間 時 間

MOSFET VGS

(a)低入力電圧

誤差増幅信号

(b)高入力電圧

図5 軽負荷時安定機能の動作波形

誤差増幅信号

応答遅れ(機能なし)

時 間

機能なし

機能あり

応答遅れ(機能あり)

最大値

設定値出力電圧

オーバーシュート

図6 オーバーシュート低減機能の動作波形

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266(36)

3 応用回路例

図7に応用回路例(入力 90〜264V,出力 390V,200W)を,図8に同回路で測定した力率特性を,図9に

高調波電流特性を示す。

力率特性は,標準的な入力電圧(100V,240V)の定格負荷で,一般的な電子機器に求められる力率 0.95 以上を

確保している。高調波電流特性は,テレビや PCなどの電子機器に必要な IEC 61000-3-2のクラスDを満足している。

4 あとがき

スイッチング電源の待機電力の削減,軽負荷時の効率改善,コスト低減,安全性の向上を実現可能な第 3世代の臨界モード PFC 制御 IC「FA1A00シリーズ」について述べ

た。今後も,市場の要求に応える機能を取り入れて系列化を行うとともに,年々厳しくなる規格・規制に合わせて開発を行っていく所存である。

参考文献⑴ 鹿島雅人, 城山博伸. CMOS力率制御用電源IC. 富士時報.

2001, vol.74, no.10, p.551-553.

⑵ 鹿島雅人ほか. 連続モードPFC回路用電源IC「FA5550/51シ

リーズ」. 富士時報. 2007, vol.80, no.6, p.441-444.

⑶ 菅原敬人ほか. 第2世代臨界モードPFC制御IC「FA5590シ

リーズ」. 富士時報. 2010, vol.83, no.6, p.405-410.

L101 TH101

D101

C201

L201

R207D204

IC201 C210

交流85~264V 600V25A

175µH

100

10

FA1A00N/01N

1500k

390V200W

FB

COMP

RT

OVP

VCC

OUT

GND

IS

1000p

VCCGND

J101

J201

L102F1016.3A

R101

R102

R103

C1010.47µ

ZT101

C102

C103

C104

C105

C106

D201

R215

R216

R217

R218

R219VR201

C2021500k

1500k

1000k

33k

220µQ201

R208

R209

D203

47k

C21156µ

R214100k

C2090.1µ

R2010.068

R213

100

C2082200pC207

1000p

R211200k

0.1µC205

C2060.47µ

R21033k

510k

510k

510k

1000p

1000p

0.47µ

2200p

2200p

J202

D205

1

3

1

4

2 1

L

N

GNDERA91-02

FMH21N50ES

YG952S6RP

R21236k

R221

R222

R223

R224

2200k

1500k

1500k

390k

5k

C204100p

図7 応用回路例

力 率

1.0

0.9

0.8

0.7

0.6200150100500

出力電力(W)

入力100V

入力240V

図8 力率特性

高調波電流(A)

10

1

0.1

0.01

0.00139373533312927252321191715131197531

次 数

IEC 61000-3-2クラスD上限

図9 高調波電流特性

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第3世代臨界モードPFC制御 IC「FA1A00シリーズ」

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エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

267(37)

菅原 敬人スイッチング電源制御 ICの開発に従事。現在,富士電機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部ディスクリート・IC 技術部。

矢口 幸宏スイッチング電源制御 ICの開発に従事。現在,富士電機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部ディスクリート・IC 技術部。

松本 和則スイッチング電源制御 ICを主としたエンジニアリ

ング業務に従事。現在,富士電機株式会社営業本部半導体営業統括部応用技術部。

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特集 

エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

268(38)

1 まえがき

近年,電気・電子機器の電源装置では,ICをはじめと

する電子部品の進歩により,小型,安価で高効率なスイッ

チング電源が一般的となっている。特に,薄型テレビの大画面化や,情報通信の進歩によるサーバ機器の大容量化な

どに伴い,比較的大きな容量の電源において,高効率,低ノイズ,小型化の要求が高まっている。

このようなスイッチング電源の分野において,富士電機では,100Wクラスから比較的大容量の 500Wクラスま

での電源を小型で薄く構成でき,高効率・低ノイズ化に優れる LLC 電流共振電源の制御用 ICを製品化している

⑴⑵

。こ

の制御用 ICの特徴は,LLC 電流共振方式で問題となっ

てきた上アームMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Eff ect Transistor)と下アームMOSFETの短絡に

よる貫通電流を防止する機能を内蔵していることや,機器のスタンバイ時などの軽負荷時に低待機電力モードで動作することである。この結果,より安全性に優れ,これまで

低待機電力化のために必要であったスタンバイ専用電源が

不要な電源を構成できる⑶

また同時に,富士電機製の電源制御用 ICをお客さまが

採用する際に,よりスムーズな電源開発ができるよう,デ

モボードの提供,アプリケーション資料の充実,IC 周辺回路の定数提案などに加え,特に設計が難しく電源動作の

鍵を握るトランス設計のサポートも実施している。

本稿では,LLC 電流共振電源の動作原理,およびトラ

ンスの設計方法と設計例,さらにそのトランスを搭載した

電源の代表的な特性について述べる。

2 LLC電流共振コンバータ

LLC 電流共振コンバータの回路図を図1に示す。

この回路は,2つのMOSFET(Q1,Q2)を直列に接続したハーフブリッジ回路と共振用コンデンサ(Cr),トラ

ンス(T),出力整流ダイオード(D1,D2),および出力電解コンデンサ(Co)から成る。Npはトランスの一次巻線の巻数,Nsは二次巻線の巻数である。

LLC 電流共振コンバータで用いるトランスは,結合係数を小さくすることで漏れインダクタンスを大きくし,こ

れを共振用インダクタとして利用している。漏れインダク

タンスを示した等価回路を図2に示す。Lr1,Lr2が漏れイ

ンダクタンス,Lmが励磁インダクタンスである。

LLC電流共振電源の回路技術

川村 一裕 KAWAMURA, Kazuhiro 山本  毅 YAMAMOTO, Tsuyoshi 北條 公太 HOJO, Kota

Circuit Technology of LLC Current Resonant Power Supply

大画面テレビやサーバ機器などに用いられる比較的大きな容量の電源装置では,高効率化,小型化,低ノイズ化の要求を背景に LLC 電流共振電源が一般的になっている。LLC 電流共振電源は,トランスの漏れインダクタンスを共振に利用し

ており,電圧ゲインがスイッチング周波数により変化するため,トランスの設計が他の制御方式と比較して難しい。富士電機では,LLC 電流共振電源の制御用 ICの開発・量産とともに,顧客の電源開発の技術サポートを行っている。LLC 電流共振電源の動作原理,ならびにトランスの設計方法とその特性について解説する。

For relatively large capacity power supplies, such as ones for large screen TVs and server devices, LLC current resonant power supplies are commonly used to meet the requirements for high effi ciency, reduced size and lower noise. An LLC current resonant power supply uses leakage inductance of a transformer for resonance and the voltage gain varies along with the switching frequency, which makes the design of a transformer more diffi cult than other control methods. Fuji Electric is working on the development and mass production of control ICs of LLC current resonant power supplies and provides technical support for customers in the area of power supply development. This paper describes the principle of operation of an LLC current resonant power supply and the design method and characteristics of transformers.

+

Vin

NsNp

T

Co

Q2

Cr

Q1

Ro

D2

D1

図1 LLC電流共振コンバータ回路

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エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

269(39)

3 LLC電流共振コンバータの基本動作

図3に LLC 電流共振コンバータの動作波形を示す。基本動作は A〜 Dの四つの状態に分けられ,その動作を繰り返すことで共振電流を制御している。図4に各状態にお

ける電流経路を示す。

⒜ 状態A:Q1がオンしているので,Q1には正方向の

電流 IQ1が流れる。

⒝ 状態B:IQ1が正方向の状態で Q1をオフすると,遮断した直後は Q2のボディーダイオードを通して Q2側に負方向の電流が流れる状態となり,共振電流 Icr

は連続的に変化を続ける。また,ダイオードに電流が

流れている期間で Q2をオンさせる。

⒞ 状態 C:Icrが正方向から負方向に転じると,Q2には正方向の電流 IQ2が流れる。

⒟ 状態D:IQ2が正の状態で Q2をオフすると,遮断し

た直後は Q1のボディーダイオードを通して,Q1 側に

負方向電流が流れる状態となり,共振電流 Icrは連続的に変化する。また,ダイオードに電流が流れている

期間で Q1をオンさせる。

状態 Bでは,Q2のボディーダイオードが最初にオンし,

Q2の電圧がほぼゼロになった状態で Q2をオンさせるゼロ

電圧スイッチングを行う。状態Dでは Q1に対し同様とな

る。

4 LLC電流共振コンバータの動作モード

LLC 電流共振コンバータは周波数変調で出力電圧を制御する回路方式であり,その入出力特性を求めるには,一般に図5のような等価回路を用いる。

出力電圧は一次側に換算した電圧Vpoで示している。ま

た,交流等価抵抗Racは式⑴で表される。

r r

8 8= =2

2

2

R nI

V nRac

o

o

o …………………………… ⑴

Rac :交流等価抵抗(Ω)

n :トランスの巻数比 Vo :出力電圧(V) Io :出力電流(A) Ro :負荷抵抗(Ω)

ここで,n は式⑵で示される。

nNN

s

p= ……………………………………………… ⑵

Np :トランスの一次巻線の巻数 Ns :トランスの二次巻線の巻数

この等価回路において入出力電圧比は式⑶となる。

+

Vin

T

Co RoNsNp

L r2L r1

Lm

Q2

Cr

Q1

D2

D1

図2 漏れインダクタンスを示した等価回路

A

Q1

Icr

I Q1

IQ2

Q2

BC

D

ONOFFONOFF

図3 LLC電流共振コンバータの動作波形

TCr Lr2L r1

LmON

OFF

Q2

Q1

Q2

Q1

Q2

Q1

Q2

Q1

OFF

(a)状態A (b)状態B

(c)状態C (d)状態D

ON

ON

OFF

OFF

ON

ON

OFF

図4 電流経路

Vs

Cr

Ro

Vpo

L r

Lm

図5 LLC電流共振コンバータの等価回路

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270(40)

n n+ -~ ~

d d+ - 21 jQVV

LL1

1

s

p

m

o

0

0r

~

~ ~~= 2

0

…… ⑶

Vpo :一次側に換算した出力電圧(V) Vs :等価入力電圧(V) Lr :漏れインダクタンス(H) Lm :励磁インダクタンス(H) ω,ω0 :角周波数(rad/s)

ここで,ω,ω0,Q は式⑷〜式⑹で示される。

~ r2 fs= ……………………………………………… ⑷ ω :角周波数(rad/s) fs :スイッチング周波数(Hz)

L C

1

r r

~ =0 …………………………………………… ⑸

ω0 :角周波数(rad/s) Lr :漏れインダクタンス(H) Cr :共振コンデンサの容量(F)

QCL

R1

r

r

ac

= ……………………………………… ⑹

Lr :漏れインダクタンス(H) Cr :共振コンデンサの容量(F) Rac :交流等価抵抗(Ω)

なお,図1に示す LLC 電流共振コンバータはハーフブ

リッジ型コンバータであるため,等価回路における入力電圧は半分となる。

VV2sin= …………………………………………… ⑺

Vs :等価入力電圧(V) Vin :入力電圧(V)

式⑴〜式⑶を用いて,スイッチング周波数 fsに対する

入出力電圧比を求めた(図6)。LLC 電流共振コンバータ

では入出力電圧比の最大値を境界に動作モードが異なる。

このうち入出力電圧比が最大値を示す周波数よりも低い領域は,容量性動作領域と呼ばれる。この領域で動作させる

と,上アーム側と下アーム側がアーム短絡を起こす。この

場合,MOSFETが破壊に至ることがあるため,通常はこ

の状態に陥らないように,入出力電圧比が最大値よりも高い周波数領域で使用する。また,共振周波数(fo=wo/2π)

よりも fsが高い領域では,fsの変化に対して出力電圧の変化が小さく制御性が悪いなどの理由により一般的には使用しない。そのため,入出力電圧比が 1より大きい昇圧モー

ドの領域で使用する。

5 LLC電流共振コンバータのトランス設計

実際に LLC 電流共振制御 ICを使用したトランス設計の

手順を述べる。続いて,具体的な仕様でトランスを設計し,

実機で検証した結果を述べる。

5 . 1  設計手順

LLC 電流共振コンバータは4章で述べたとおり,昇圧モードで動作するので,入力電圧が最大の場合も昇圧モー

ドで動作するように入出力電圧比を決める。まず,トラン

スの二次巻線の巻数を求め,その後,一次巻線の巻数を決定する。また,共振周波数 foは最大のスイッチング周波数になるので,ICの最大周波数を超えない範囲であらか

じめ決めておく。

⑴ トランスの二次巻線の巻数Nsを式⑻から求める。

] g2

NA B

V V To

se m

F ON=+ ……………………………… ⑻

Ns :二次巻線の巻数 Vo :出力電圧(V) VF :整流ダイオードの順方向電圧降下(V) TON :スイッチング素子の最大オン時間(s) (最低スイッチング周期の 1/2に等しい)

Ae :トランスのコアの実効断面積(m2) Bm :コアの磁束密度(T) (Bmはコアが飽和しない値とする)

⑵ 入力電圧が最大のときも昇圧モードで動作させるよう

にするため,トランスの一次側と二次側の巻数比 n を

式⑼から求める。なお,Vsは最大入力電圧のときの値である。

] gnNN

V VV

o F

$=+s

p s ……………………………… ⑼

n :巻数比 Np :トランスの一次巻線の巻数 Ns :トランスの二次巻線の巻数 Vs :等価入力電圧(V) Vo :出力電圧(V) VF :整流ダイオードの順方向電圧降下(V)

⑶ トランスの一次巻線の巻数を式⑽から求める。

入出力電圧比Vo/V

s

2.0

1.0

1.5

0.5

010080604020

スイッチング周波数(kHz)

容量性動作領域

使用領域

fo

図6 スイッチング周波数に対する入出力電圧比

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エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

271(41)

N nNp s= ……………………………………………… ⑽

Np :トランスの一次巻線の巻数 n :巻数比 Ns :トランスの二次巻線の巻数

⑷ 漏れインダクタンスLr を求める。

本コンバータではトランスの漏れインダクタンスを共振用のインダクタとして使用する。一次巻線の巻数Npで,

トランスの一次巻線からみたLrが求まる。

⑸ 共振コンデンサの容量Crを決定する。

共振周波数 foとLrから,Crを式⑸から算出する。

⑹ 励磁インダクタンスLmを決定する。

入力電圧が最低のときに出力電圧が定格値を得られる入出力電圧比を求めてLmを決定する。このときのスイッチ

ング周波数は最低になり,電圧ゲインおよびコアギャップ

を考慮して決定される。なお,トランスのコアのギャップ

lgは式⑾で計算する。

A N= -e p

2

lL

lg

m

e

c

0n

n ………………………………… ⑾

lg :トランスのコアのギャップ(m) µ0 :真空透磁率(=4π×10-7H/m) Ae :トランスのコアの実効断面積(m2) Np :トランスの一次巻線の巻数 Lm :励磁インダクタンス(H) le :コアの実効磁路長(m) µc :コアの振幅透磁率(=3,000H/m)

5 . 2  設計例

トランス設計の例を次に示す。図7が実際に設計したト

ランス周辺の回路である。

™ 入力電圧Vin 390V(350〜400V)™ 出力電圧Vo 12V™ 出力電流Io 12A(Ro=1 Ω)

™ 使用トランス EE4717 Ae=90mm2

le=70mm Bm=0.20T™ 共振周波数 125 kHz 程度

™ 最低スイッチング周波数 85 kHz(TON=5.88 µs)™ 整流ダイオードの順方向電圧降下VF 0.6 V⑴ トランスの二次巻線の巻数Ns(式⑻より)

V V2#90#0.200

..

.N

A BT

212 0 6

2 15 88

se m

F ONo #=

+=

+ ≒] ]g g

したがって,Nsを最小の 3ターンとする。

⑵ トランスの巻数比 n(式⑼より)

g g] ] .nNN

V VV

12+0.6200

15 9s

p

F

s

o

$=+

= ≒

⑶ トランスの一次巻線の巻数Np(式⑽より)

p s . .N nN 15 9 3 47 7#= = =

したがって,Npを最小の 48ターンとする。

⑴〜⑶により,トランスの巻数比 n=16となる。

⑷ トランスの漏れインダクタンスLrの算出EE4717のトランスでは 1ターン当たりの漏れインダク

タンスは 38 nHであるので,一次巻線の巻数Npが 48のときの漏れインダクタンスは 87.6 µH〔=482×38(nH)〕となる。

⑸ 共振コンデンサCrの決定式⑸に fo=125 kHz,Lr=87.6µHを代入してCr を求め

ると 0.019µFとなり,0.022µFのコンデンサを選択する。

⑹ 励磁インダクタンスLmの決定入力電圧が最低のときに出力電圧が定格値を得られるよ

うなLmを求める。入力電圧の最小値は 350Vなので,こ

のときの入出力電圧比をトランスの巻数比から求める。

.VV

NN VV V

2 483

2350

12 0.61 2

s

p

p

s in

o Fo=

+=

+ ≒×

したがって,スイッチング周波数が最低のとき(ここで

は fs=85 kHz)に,入出力電圧比が 1.2 以上になるような

Lmを式⑶から求める。

この結果,Lmは 490 µH 以下であればよいということ

になる。そこでLm=450 µHを選択し,トランスのコアの

ギャップ lgを式⑾から求めると約 0.6mmになる。

4 10# #

= -2

7 2 3- -90#10 #48 70 10

lLA N l

6-

6-

450#10 3,000

gm

e p

c

e0

#

n

n

r= 3-0.6 10#≒-

5 . 3  試作トランスの特性

試作したトランスを搭載した電源における動作波形を図

8に示す。定格時のスイッチング周波数は 110 kHzとなり,

ほぼ設計で狙った値となった。

また,試作したトランスを搭載した電源の変換効率は

93〜94%と高効率であった(図9)。

+Vin=350~     400V

Vo=12VCr

VCC

CoNs

Ns

Np1

L r2L r1

Lm

Np2

トランス

LLCIC

D1Q2

Q1

D2

図7 設計したトランスの周辺回路図

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LLC電流共振電源の回路技術

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エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

272(42)

6 あとがき

本稿では,お客さまが富士電機の LLC 電流共振制御 ICをスムーズに導入し,使用できるように,トランスの設計

例と実際に試作したトランスを搭載した電源の代表的な特性について述べた。

今後も,市場要求に対応した製品をタイムリーに開発す

るとともに,お客さまのよりスムーズな電源開発をサポー

トするために努力する所存である。

参考文献⑴  山田谷正幸ほか. LLC電流共振制御IC「FA5760」. 富士電機

技報. 2012, vol.85, no.6, p.445-451.

⑵  陳健. PFC及び待機用コンバータ無しで高入力範囲に対応

したLLC共振コンバータ. 第27回スイッチング電源技術シン

ポジウム. 2012, D2-2.

⑶  山田谷正幸ほか. 第2世代LLC電流共振制御IC「FA6A00N

シリーズ」. 富士電機技報. 2013, vol.86, no.4, p.267-272.

川村 一裕パワー半導体のフィールドアプリケーションエン

ジニアリング業務に従事。現在,富士電機株式会社営業本部半導体営業統括部応用技術部。

山本  毅パワー半導体のフィールドアプリケーションエン

ジニアリング業務に従事。現在,富士電機株式会社営業本部半導体営業統括部応用技術部。

北條 公太パワー半導体のフィールドアプリケーションエン

ジニアリング業務に従事。現在,富士電機株式会社営業本部半導体営業統括部応用技術部。

Vin=DC390V, Vp=12.0V, I p=12.0A

下アーム電流:2A/div

下アーム電圧:100V/div

スイッチング周波数:110kHz

5µs/div

図8 動作波形

変換効率(%)

95

85

80

75

70

90

160140120100806040200Po(W)

DC350VDC390V

図9 試作したトランスの変換効率特性

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特集 

エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

273(43)

1 まえがき

自動車の電装分野では“環境”“安全”“省エネルギー”

をキーワードとして,排ガスの低減,安全な車両制御,高度な燃焼技術による燃費の向上を図っている。これに伴い電子システムが複雑化し,ECU(Electronic Control Unit)の大規模化が進んでいる。ECUは搭載するスペー

スを捻出するためにエンジンの近くなどに設置され,その

設置環境は年々高温化している。そのため,ECUの小型化や高温環境での信頼性の向上が切望され,パワー半導体とその周辺保護回路,状態検出・状態出力回路,ドライブ

回路などを一体化したスマートパワーデバイスの適用が拡大している。

これらの要求に応えるため,富士電機では自動車用大電流 IPS(Intelligent Power Switch)を開発した。

2 特徴と機能

2 . 1  特 徴

図1に自動車用大電流 IPSの外形図を示す。本製品は,

特にモータなどの誘導性負荷の制御や機械式リレーの半導体化用途で使用されることを意識した設計としている。主な特徴は次のとおりである。

⑴ 低オン抵抗⑵ 高放熱小型パッケージ

⑶ 各種保護機能バッテリ逆接続時の温度上昇の抑制などを行う。

⑷ 高誘導性負荷エネルギー耐量モータロック時の破壊防止および並列接続時のエネル

ギー分担が可能である。

2 . 2  基本性能

開発目標のオン抵抗 5mΩ(Tc=25 ℃,Iout=40A)お

よび小型パッケージ(図1)を実現するために,自動車電装向けデバイスで実績のある第 3 世代トレンチゲー

ト MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)技術を用い,低Ron・A のパワー MOSFETチップを開発した。また,回路部には第 4 世代 IPSデバ

イス・プロセス技術を適用し,2.3節で述べる保護機能を追加した上で回路部のチップサイズを小型化した。これ

らのチップを COC(Chip on Chip)組立技術(図2)に

より,パワーMOSFETチップ上に回路部チップを積層さ

せることで,小型パッケージで大電流の通電が可能となっ

自動車用大電流 IPS

岩水 守生 IWAMIZU, Morio 竹内 茂行 TAKEUCHI, Shigeyuki 西村 武義 NISHIMURA, Takeyoshi

High Current IPS for Vehicle

富士電機は,自動車用高出力モータの制御などに使用する大電流 IPS(Intelligent Power Switch)を開発した。トレン

チ構造を用いたパワーMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Eff ect Transistor)と制御部 ICとをチップオンチッ

プ構造とすることで,小型パッケージで低オン抵抗(最大 5mΩ)を実現している。高い信頼性を実現するために,過電流・過熱検出,低電圧検出などの保護機能を搭載した。また,放熱性の良いパッケージを採用し,並列接続時のエネルギー

分担バランスの良い構成とすることで,低オン抵抗化による電流量の増加から生じる温度上昇に対処している。

Fuji Electric has developed a high current intelligent power switch (IPS) for controlling high output motors of vehicles. The power MOSFET using a trench structure and the control IC are built into a chip-on-chip structure, thereby realizing low on-state resistance (maximum of 5mΩ) with a compact package. To achieve high reliability, protective functions such as overcurrent/overheat detection and low voltage detection have been provided. In addition, a package with good heat dissipation properties has been adopted, and a confi guration that off ers well-balanced energy distribution in parallel connections is provided. This package can thereby cope with temperature rises caused by an increased current due to a low on-state resistance.

7.86.3

⑫ ⑦

2.45 5.1

単位:mm

1.6

7.5

10.3

4.1

0.4①

図1 自動車用大電流 IPSの外形図

端子番号 端子名 端子番号 端子名

①~④ OUT ⑨ NC

⑤ NC ⑩ IN

⑥ VCC ⑪,⑫ VCC

⑦,⑧ GND

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自動車用大電流 IPS

富士電機技報 2014 vol.87 no.4

特集 

エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

274(44)

た⑴

。本製品の仕様を表1に,基板実装時の熱抵抗Rth 特性の例を図3に示す。

2 . 3  保護機能

本製品は,モータなどの誘導性負荷の制御と機械式リ

レーの半導体化用途に適した仕様とした。高い信頼性の実現および ECU側での冗長設計を最小限にするために,次に示す保護機能を搭載している。

⑴ 負荷短絡保護機能(過電流検出,過熱検出機能)

本製品は,負荷短絡状態を検出する電流センサと温度センサをパワーMOSFETチップ上に搭載することにより,

パワーMOSFETの昇温に対する高い応答性と,負荷短絡の状態でもパワーMOSFETの破壊を防止する設計とした。

負荷短絡保護は過電流と過熱の二重保護とし,過電流には

制限タイプとラッチタイプの 2 種類を用意して,アプリ

ケーションに合った選択が可能である。

⑵ 低電圧検出機能本製品は,VCC 端子がバッテリに直接接続されること

を考慮している。厳冬期にバッテリ電圧が一定の値まで低下しても十分な通電能力を確保できるようにしている。ま

た,その値より低下した場合は,出力を完全にオフする低電圧検出機能を搭載している。

⑶ バッテリ逆接続保護機能負荷インピーダンスが低い場合にバッテリの逆接続を行

うと,負荷経由でパワーMOSFETのボディーダイオード

に大電流が流れる。このときに発生する熱で温度が上昇し,

端子のはんだが融解する危険性がある(図4)。

本製品では,バッテリの逆接続を行ったときにパワー

MOSFETを積極的にオンさせるバッテリ逆接続保護回路を採用した。パワーMOSFETに通電すると,ボディーダ

イオードに電流が流れる場合よりも圧倒的に損失が低いの

で,バッテリの逆接続時に生じる発生損失によるパワー

MOSFETの破壊を防止する。

⑷ 誘導性負荷クランプ耐量モータなどの誘導性負荷を駆動するパワーMOSFETの

課題として,モータロックによる大電流遮断時に発生する

過大な誘導性負荷エネルギーの処理がある。このためには,

モータロック時に高い誘導性負荷エネルギーが加わる場合

図2 自動車用大電流 IPSのチップ

表1 自動車用大電流 IPSの仕様

項 目 定 格

定 格

動作電源電圧 6.0~16.0V

出力電流 80A

許容電力損失 114W(at 25℃)

接合部温度 150℃

項 目 条 件 規 格

特 性

静止電源電流 Icc(off )

Vcc=16V, OUT-GND 短絡,

110℃50µA(max.)

オン抵抗 Ron

25℃, 40A, 16V 5.0mΩ(max.)

150℃, 40A, 16V 9.0mΩ(max.)

25℃, 40A, 6V 7.5mΩ(max.)

150℃, 40A, 6V 14.5mΩ(max.)

スイッチング時間

td(on)

Vcc=16V,R=0.25Ω

0.2ms(max.)

tr 0.8ms(max.)

td(off ) 0.8ms(max.)

tf 0.7ms(max.)

定常熱抵抗 Rth(j-c) - 1.1℃/W

保護機能

誘導性負荷クランプ耐量

Iout≦80A, Vcc=16V, Tc=150℃

800mJ(min.)

過電流検出機能(負荷短絡保護)

Vcc=16V, 負荷ショート 100A(min.)

過熱検出機能 検出155℃(min.), 復帰150℃(min.)

低電圧検出機能 検出4.0V(min.), 復帰6.0V(max.)

項 目 条 件 結 果

信頼性

温度サイクル試験 -55~+150℃ >1,000cycle

プレッシャクッカ試験 130℃, 85% >300時間

高温高湿バイアス試験 85℃, 85%, 16V >1,000時間

パワーサイクル試験 ΔTj=100℃ >20,000cycle

熱抵抗(℃/W)

100

10

1

0.1

0.01

Rth(j-a)max.

R th(j-c)max.

1,0001001010.10.010.001パルス幅(s)

* 1 j-a:junction-ambient* 2 j-c:junction-case

*1

*2

図3 基板実装時の熱抵抗特性の例

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自動車用大電流 IPS

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エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

275(45)

でも,素子が破壊しない設計が必要である。

本製品では,1 素子単独の誘導性負荷クランプ耐量を高めるのと同時に,並列接続で誘導性負荷を駆動させた際の

冗長設計として,誘導性負荷エネルギーを並列接続の素子全てで分担し,破壊耐量が向上する設計とした。

2 . 4  パワーパッケージ

本製品では,低オン抵抗化による電流量増加に対し,放熱性の良いパワーパッケージ(PSOP-12)を採用してい

る。また,COC組立技術により,大電流を通電するパワー

MOSFETをチップ搭載エリアの中央に配置し,放熱バラ

ンスの良い構造としている。さらに,実装時に裏面の放熱部にはんだが確実に広がったことを表面から確認できるよ

うに,両側からフレームを出す構造とした(図5)。

3 適用技術

3 . 1  第 3世代トレンチゲートMOSFET技術

開発目標のオン抵抗 5mΩ(Tc=25℃,Iout=40A)を実現するために,パワーMOSFETには,第 3世代トレンチ

ゲートMOSFET 技術を適用している。本技術の微細加工技術を取り入れることでセル密度を 40% 以上向上させ,

さらにプロセスとウェーハの仕様を最適化することでオン

抵抗の大幅な低減と大電流化を図った(図6)。また,薄膜化したトレンチゲートの信頼性を確保するため,形状や

プロセス,スクリーニング条件を最適化している。

3 . 2  IC 回路の小型化・高機能化技術

本製品では,IC 回路の小型化と高機能化を実現するた

めに,第 4 世代 IPSデバイス・プロセス技術を適用して

いる⑵

。本技術は,要素デバイス自体の微細化に加え,多層配線技術を適用して要素デバイス間を接続する配線の面積を低減している。

IC 回路用デバイスとしては,回路用 5V系 CMOSに加えて,60V 系 CMOSを備えている。60V 系のデバイスは,

ハイサイド型でチップ裏面が電源端子に直結しているため,

自動車用 12V 系バッテリで発生し得るロードダンプサー

ジなどの各種サージ耐性の要求を満たすことができる。

また,ゲート酸化膜としては,薄膜と厚膜の 2 種類を用意した。薄いゲート酸化膜のMOSFETはしきい値電圧が

低いので,バッテリ電圧の低下時に駆動が要求される回路に使用できる。一方,厚いゲート酸化膜のMOSFETでは

しきい値電圧は高くなるが,ゲート耐圧を高くすることが

できるので,例えば外部電源電圧 VCCで直接駆動するよ

うな,高電圧でのゲート駆動が必要な回路にも使用するこ

とができる。

さらに,寄生動作の心配がないポリシリコン適用デバイ

スや,トリミングデバイスも備えている。

これらの要素デバイスの組合せにより,従来品よりも高集積化や高精度化が可能であり,市場要求に応えることが

できる。

上昇温度(℃)

300

250

200

150

100

50

0120100806040200

時間(s)

ドライブ回路 半導体素子

負 荷

IN OUT

GND

バッテリ逆接続保護回路あり

バッテリ逆接続保護回路なし

VCC

(a)上昇温度の例

(b)バッテリ逆接続の例

図4 バッテリ逆接続時の回路と温度変化の例

(a)表 面 (b)裏 面

図5 パワーパッケージ(PSOP-12)の構造

Ron・A相対比

1.1

1.0

0.9

0.8

0.7

0.6

0.5

0.4

0.3第 3世代第2世代第1世代

図6 世代別トレンチMOSFETのRon・A

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自動車用大電流 IPS

富士電機技報 2014 vol.87 no.4

特集 

エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

276(46)

4 あとがき

本稿では,自動車用大電流 IPSの特徴や機能,適用し

た技術について述べた。富士電機は,2014 年度中に自動車用大電流 IPSの市場への供給を開始する。今後も大電流用途の半導体では,パワーMOSFETによるさらなる低オン抵抗化,および IC 回路の微細化により,小型化と高機能化を推進し,市場ニーズに対応していく所存である。

参考文献⑴  Imai, M. el al. “Development of Power Chip-On-Chip

(COC) Package Technology”. Mate 2008. p.323-326.

⑵ Toyoda, Y. et al. “60 V-Class Power IC Technology for

an Intelligent Power Switch with an Integrated Trench

MOSFET” ISPSD 2013. p.147-150.

⑶ 鳶坂浩志ほか. 車載用第4世代IPS「F5100シリーズ」. 富士

電機技報. 2012, vol.85, no.6, p.440-444.

竹内 茂行半導体デバイスの開発に従事。現在,富士電機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部自動車電装技術部。

西村 武義パワー半導体素子の開発・製造に従事。現在,富士電機株式会社電子デバイス事業本部開発統括部デバイス開発部。

岩水 守生半導体デバイスの開発に従事。現在,富士電機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部自動車電装技術部。

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新製品紹介

2014-S04-1

1,700V耐圧SiCハイブリッドモジュール1,700 V Withstand Voltage SiC Hybrid Module

富士電機技報 2014 vol.87 no.4

近年,地球温暖化を防止するために,これまで以上に

CO2などの温室効果ガスの削減が求められている。温室効果ガスを削減する手段の一つとして,パワーエレクト

ロニクス機器の省エネルギー化がある。中でもインバー

タの高効率化が挙げられ,特にインバータの主要な素子であるパワーデバイスの低損失化の要求が強い。

代表的なパワーデバイスである IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)モジュールには,従来は Si(シリ

コン)の IGBTチップと FWD(Free Wheeling Diode)チップを用いてきた。この Siデバイスに替わって,耐熱性と高い破壊電界強度を持った SiC(炭化けい素)デバイ

スが装置の高効率化や小型化を実現するものとして期待されている。

富士電機では 600V 耐圧 SiC-SBD(Schottky Barrier Diode),および 1,200V 耐圧 SiC-SBDの開発を完了し,

これらの SiC-SBDと Si-IGBTを組み合わせて搭載し

た SiCハイブリッドモジュールを製品化している。今回,

690V 入力インバータ用に 1,700V 耐圧の SiCハイブリッ

ドモジュールを開発し,製品化した。

本稿では,「M277パッケージ」に搭載した 1,700V 耐圧SiCハイブリッドモジュールの特徴とスイッチング特性に

ついて述べる。

1 特 徴

M277パッケージの外観と外形図を図1に示す。従来の Siモジュールから容易に置き換えることができるよう

に Siモジュールと同じM277パッケージを採用し,富士電機で量産立上げを行った 1,700V 耐圧 SiC-SBDチップ

と第 6世代「Vシリーズ」IGBTチップを搭載した。SiC-

SBDは,これまで使用していた Siダイオードに比べ,低抵抗でかつスイッチング特性に優れている。また,バン

ドギャップが広いため,熱励起されるキャリアが非常に

少なく温度上昇による影響を受けにくい。したがって,

高温動作が可能である。図2にトータル発生損失のシミュ

レーション結果を示す。キャリア周波数 fcが 2 kHzのとき,

SiCハイブリッドモジュールの損失は Siモジュールに比べて約 26% 低い。また, SiCハイブリッドモジュールは,

fcが高い領域における損失が Siモジュールより低いので

高周波動作に有利である。

牛島 太郎 * USHIJIMA, Taro

* 富士電機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部モジュール技

術部

(a)外 観

(b)外形図

G2E2

E1G1

C1C2E1 E2

110

単位:mm

30

80

図1 「M277パッケージ」

トータル発生損失(W)

1,400

1,200

1,000

800

600

400

200

0SiC Si SiC Si SiC Si SiC Si

26%低減

SiC Si=1kHzf c 2kHz 4kHz 8kHz 10kHz

E rrV FE offE onV sat

=150℃,T j =177A,I o =1,073V,Ed =50Hz,F ocosφ=0.85,λ=1.0, 3 相 PWM

図2 トータル発生損失のシミュレーション結果

新製品紹介

277(47)

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1,700V耐圧SiC ハイブリッドモジュール

2014-S04-2富士電機技報 2014 vol.87 no.4

向アーム側の IGBTターンオン電流に影響するため,ター

ンオン損失が低減する。逆回復波形と同様にターンオン

ピーク電流はほとんどなく,400A 品のターンオン損失は

Siモジュールと比べて約 58%低い。

発売時期2014 年 10 月

お問い合わせ先富士電機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部モジュール技術部産業モジュール3課電話(0263)27-7457

2 スイッチング特性

⑴ 逆回復損失特性図3に,SiCハイブリッドモジュールと Siモジュール

の 400A 品における逆回復波形を示す。SiCハイブリッド

モジュールは,逆回復ピーク電流がほとんどない。これ

は SiC-SBDがユニポーラデバイスであるため,少数キャ

リアの注入が起きないことに起因する。400A 品の逆回復損失は Siモジュールに比べて約 91%低い。

⑵ ターンオン損失特性図4に,SiCハイブリッドモジュールと Siモジュール

の 400A 品におけるターンオン波形を示す。SiCハイブ

リッドモジュールは,SiC-SBDの逆回復ピーク電流が対

(a)SiCハイブリッドモジュール

(b)Si モジュール

0A

ピーク電流

0V

0A

0V

V CE :200V/div

I F :200A/div

V CE:200V/div

I F:200A/div

=900V,Vcc =400A,I F =+15V/-7V,VGE =1.0Ω,Rg=150℃Tj

=900V,Vcc =400A,I F =+15V/-7V,VGE =4.7Ω,Rg=150℃Tj

E rr:10.0mJ(91%減)t:500ns/div

Err:112.5mJt:500ns/div

図3 逆回復波形

0At :500ns/div

t:500ns/div

0V

0V

ピーク電流

VGE:20V/div

IC:200A/div

VCE:200V/div

VGE:20V/div

IC:200A/div

VCE:200V/div

0A0V

0V

(a)SiCハイブリッドモジュール

(b)Si モジュール

=900V,Vcc =400A,I c =+15V/-7V,VGE =1.0Ω,Rg=150℃Tj

=900V,Vcc =400A,I c =+15V/-7V,VGE =4.7Ω,Rg=150℃Tj

Eon:64.8mJ(58%減)

Eon:155.6mJ

図4 ターンオン波形

(2014年 11月 21日Web公開)

新製品紹介

278(48)

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新製品紹介

2014-S05-1

AT-NPC 3 レベル大容量 IGBTモジュール―大容量モジュール用パッケージ「M404パッケージ」―AT-NPC 3-level High-Power IGBT Module-Package for High-Power Module “M404 Package”

富士電機技報 2014 vol.87 no.4

近年,再生可能エネルギーが注目され,特に太陽光発電や風力発電の市場が伸びている。これらの分野では電力変換効率を向上させるため,高電圧化,大容量化,高効率化が進んでいる。

富士電機は,3レベル電力変換回路を一つのパッケー

ジに収めた 1,200V/400A 定格の IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)モジュールを既に製造している。さ

らなる大容量化に対応するため,PrimePack〈注〉

の一部を

改良し,太陽光発電用 PCS(Power Conditioner)や風力発電,UPS(無停電電源装置)などに対応できる汎用性の高い 3レベル大容量 IGBTモジュール用パッケージ

「M404パッケージ」を開発した。定格電圧 1,200V,定格電流 450A,650A,900Aの 3 型式をラインアップした。

M404パッケージは,並列接続も容易であるため,装置の

いっそうの大容量化に対応できる。

本稿では,M404パッケージの特徴と電気的特性につい

て述べる。

1 特 徴

M404 パ ッ ケ ー ジ は,既存の大容量パ ッ ケ ー ジ

PrimePack 内に 3レベル変換回路とサーミスタを集積し

た大容量 IGBTモジュール用のパッケージである。M404パッケージの外観と外形図を図1に,ラインアップと主な特性を表1に示す。

⒜ さらなる大容量化のための並列接続が可能である。

⒝ モジュール内部の主端子ブスバーをラミネート構造としたため,内部インダクタンスが小さい。

⒞ 装置の小型化に対応できるようにモジュール実装面積を省スペース化し,冷却フィンの面積を小さく

できる。

⒟ 温度検出用のサーミスタを内蔵している。

2 電気的特性

RB(Reverse Blocking)-IGBTを使用することで,素子数が減り,オン抵抗が下がり,変換効率が向上する。

⑴ 導通損失の低減3レベル電力変換方式は,2レベル電力変換方式より

も変換効率が高い。3レベル電力変換方式には 2 種類あ

り,中間双方向スイッチング(ACスイッチ)を使用する

AT-NPC(Advanced T-type Neutral-Point-Clamped)方式と,スイッチング素子が直列につながる NPC方式が

ある。等価回路を図2に示す。

AT-NPC 方式は,電流を通過する素子数が NPC 方式より少ないので,導通損失が抑えられる。さらに,ACスイッチに富士電機独自の RB-IGBTを適用することで,

素子数が少なくなり,さらに導通損失が低減する。図3に,

各変換方式におけるトータル発生損失とトータル効率を

示す。RB-IGBTを適用した AT-NPC 方式は,RB-IGBTを用いない場合に比べ,0.1ポイント効率が向上している。

2レベル電力変換方式と比較した場合,0.6ポイントもの

効率向上となる。

⑵ 耐圧の最適化既存の 3レベル製品は,ACスイッチ部が 600V 耐圧RB-IGBTであった。これに対し,現在,太陽光発電分

山本 紗矢香 * YAMAMOTO, Sayaka

* 富士電機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部モジュール技

術部

〈注〉 PrimePACK:Infi neon Technologies AGの商標または登録

商標

(a)外 観

(b)外形図

89

LABEL

38

25.5

250

単位:mm

図1 「M404パッケージ」

新製品紹介

279(49)

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AT-NPC 3 レベル大容量 IGBTモジュール ―大容量モジュール用パッケージ「M404パッケージ」―

2014-S05-2富士電機技報 2014 vol.87 no.4

発売時期2015 年 1 月

お問い合わせ先富士電機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部モジュール技術部電話(0263)27-2943

野ではバス電圧DC1,000Vが主流になりつつあり,この

分野の製品の ACスイッチ部は DC500Vでスイッチン

グする。このため,既存の 600V 耐圧では過電圧による

素子破損の恐れがある。一方,既存の 1,200V 耐圧 RB-

IGBTではオン電圧が高くなるため損失に影響が出る上,

チップ占有面積が大きくなり集積化が困難になる。そこ

で,適用電圧に対して十分な過電圧耐量のある 900V 耐圧 RB-IGBTを開発し,最適化を行った。

(2014年 11月 21日Web公開)

2レベル 3レベル(AT-NPC)

回路方式

トータル発生損失(W)

トータル効率(%)

98

95

96

97

3レベル(AT-NPC)

(RB-IGBT適用)

0

1,000

2,000

3,000

導通損失

スイッチング損失フィルター損失装着損失

97.197.1

97.6 97.797.7

図3 各変換方式のトータル発生損失とトータル効率

表1 「M404パッケージ」ラインアップと主な特性

項 目 仕 様

方 式 AT-NPC

形 式 4MBI450VB-120R1-50 4MBI650VB-120R1-50 4MBI900VB-120R1-50

パッケージ寸法 L250×W89×H38(mm)

インバータ部

VCES 1,200V

IC(IGBT) 450A 650A 900A

-IC(FWD) 450A 650A 900A

VGES ±20V

Tj 175℃

Tjop 150℃

VGE(th)(chip)VGE=20V

6.0 ~ 7.0V(IC=450mA)

6.0 ~ 7.0V(IC=650mA)

6.0 ~ 7.0V(IC=900mA)

VCE(sat)(chip)VGE=15V, Tj=25℃

typ.1.85V(IC=450A)

typ.1.8V(IC=650A)

typ.1.85V(IC=900A)

VF(chip)Tj=25℃

typ.1.70V(IC=450A)

typ.1.75V(IC=650A)

typ.1.70V(IC=900A)

Rth(j-c)(IGBT) max. 0.068℃/W max. 0.049℃/W max. 0.038℃/W

Rth(j-c)(FWD) max. 0.098℃/W max. 0.077℃/W max. 0.054℃/W

ACスイッチ部

VCES 900V

IC(RB-IGBT) 450A 650A 900A

VGES ±20V

Tj 150℃

Tjop 125℃

VGE(th)(chip)VGE=20V

5.3 ~ 7.3V(IC=450mA)

5.3 ~ 7.3V(IC=650mA)

5.3 ~ 7.3V(IC=900mA)

VCE(sat)(chip)VGE=15V, Tj=25℃

typ.2.30V(IC=450A)

typ.2.25V(IC=650A)

typ.2.30V(IC=900A)

Rth(j-c)(RB-IGBT) max. 0.063℃/W max. 0.047℃/W max. 0.034℃/W

共 通 Viso AC 4,000V(AC:1min)

(a)AT-NPC回路 (b)NPC回路

インバータ

クランプダイオード

インバータ

サーミスタ

サーミスタ

ACスイッチ

RB-IGBT

図2 3レベル IGBTモジュールの等価回路

新製品紹介

280(50)

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新製品紹介

ディスクリートSiC-SBDDiscrete SiC-SBD

2014-S06-1 富士電機技報 2014 vol.87 no.4

太陽光発電用パワーコンディショナ,風力発電用DC/ACコンバータ,ハイブリッド車(HEV)や電気自動車

(EV)やエアコン用の高効率インバータなどのパワーエ

レクトロニクス機器には,パワー半導体が数多く使用さ

れている。パワーエレクトロニクス機器の電力損失を低減する上で,パワー半導体の効率向上が必須課題となっ

ている。このため,従来の Si 半導体の性能限界を打ち破る次世代半導体として,SiC(炭化けい素)や GaN(窒化ガリウム)などのワイドバンドギャップ半導体が実用化されてきている。SiCは,Siに比べてバンドギャップは 3倍以上,絶縁破壊電界は 5 倍以上,電子飽和速度は 2 倍以上,熱伝導率は約 3 倍といった優れた物性を持ち,Siよりも高温で利用できる。Si 半導体を SiC 半導体に置き

換えることにより,パワー半導体素子のオン抵抗を下げ

て電力変換回路の電力損失を大幅に削減できるので,機器のエネルギー利用効率の大幅な改善と省電力化が可能である。

富士電機は,SiC-SBD(Schottky Barrier Diode)を

搭載したパワー半導体モジュールを製品化してきており,

今回,ディスクリートパッケージに搭載した 650V 10〜50A,1,200V 18〜36Aの SiC-SBDを開発した。本稿で

は,650V/10A 品を代表として,その特徴と適用例につ

いて述べる。

1 特 徴

1 . 1  順方向特性

図1に,SiC-SBDの順方向特性を示す。SiC-SBDの順方向電圧 VFは,Si-FRD(Fast Recovery Diode)より低い。また,Si-FRDとは逆に正の温度特性を持ち,温度上昇とともに VFは増加する。このため,ダイオードを並列で使用する場合,Si-FRDでは温度上昇により VFが低下し,さらに電流が流れやすくなるため,一部のダイオー

ドに電流が集中する。これに対して,SiC-SBDの場合は,

温度の高いダイオードの電流が VFの増加により抑えられ,

並列のダイオード全体で電流を分担するので並列使用が

容易になる。さらに,温度依存性も小さいため,高温で

の使用に適している。

1 . 2  逆方向特性

図2に,SiC-SBDの逆方向特性を示す。SiC-SBDは,

一ノ瀬 正樹 * ICHINOSE, Masaki

* 富士電機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部ディスクリー

ト・IC 技術部

I F(A)

100

10

1

0.1 3210VF(V)

Tj=25℃

IF=10A

(a)VF-I F

(b)Tj-VF

VF(V)

3

2

1200150100500

Tj(℃)

Si-FRD

Si-FRD

SiC-SBD

SiC-SBD

図1 順方向特性

Tj=150℃

I R(µA)

100

10

1

0.1

0.018006004002000

VR(V)

Si-FRD

SiC-SBD

図2 逆方向特性VR-I R

新製品紹介

281(51)

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ディスクリートSiC-SBD

2014-S06-2富士電機技報 2014 vol.87 no.4

幅な電力変換効率の向上が期待できる。

効率向上とノイズ低減により電力損失や発熱量が低減し,冷却機構,ノイズ対策部品,周辺部品の小型化また

は省略が可能となる。このため,高密度な実装によって

小型・軽量で,高効率・高信頼性の電源が提供できるよ

うになる。

3 製品系列

表1に,ディスクリート SiC-SBDの製品系列を示す。

発売時期2015 年 1 月

お問い合わせ先富士電機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部ディスクリート・IC技術部ディスクリート・IC企画課電話 (0263)25-2942

Si-FRDに比べて逆漏れ電流 IRが小さい。高温でも IRが

小さいので,高温動作においても熱暴走が起こりにくい。

1 . 3  スイッチング特性

図3に,SiC-SBDと Si-FRDのスイッチング波形の比較を示す。Si-FRDはバイポーラ動作であり少数キャリ

アの蓄積があって消失に時間がかかるため,スイッチン

グ速度は温度に依存する。一方,ユニポーラデバイスで

ある SiC-SBDは,伝導に寄与するのは蓄積効果のない多数キャリアであって寄生容量に基づく電流の充放電しか

ないため,高速スイッチングが可能であり,温度依存性もほとんどない。また,スイッチング電流の低減により,

ノイズも低減する。これらの特徴から,SiC-SBDは高温高周波動作には極めて有利である。

2 適用例

ディスクリート SiC-SBDの適用例として,太陽光発電用パワーコンディショナ(図4)のチョッパ回路,および

電気自動車(EV)用急速充電器の DC/DCコンバータや

インバータが挙げられる。スイッチングロスの低減によっ

て効率改善やノイズ抑制,高周波駆動化に大きく寄与す

る。太陽光発電用パワーコンディショナでは,高速スイッ

チングが要求される電流連続モードでの効率向上が期待できる。また,EV用急速充電器では,高出力・大容量の

二次電池に短時間で充電することが求められており,大

(2014年 12月 12日Web公開)

SiC-SBD 25℃SiC-SBD 25℃

0A

SiC-SBD 150℃SiC-SBD 150℃

Si-FRD 25℃Si-FRD 25℃

Si-FRD 150℃Si-FRD 150℃

I:1A/divI:1A/div t:20ns/divt:20ns/div

図3 スイッチング波形

DC80~450V

AC100, 200V

チョッパ回路

ソーラーパネル

ドライバ ドライバ

コントロール回路

SiC-SBD

図4 太陽光発電パワーコンディショナ

表1 ディスクリートSiC-SBDの製品系列

電 圧(V)

電 流(A)

パッケージ

TO-220 TO-220F T-Pack(s) TO-247

650

10 FDCP10S65 FDCA10S65 FDCC10S65 FDCY10S65

20 FDCP20C65 FDCA20C65 FDCC20C65 FDCY20C65

25 FDCP25S65 FDCA25S65 FDCC25S65 FDCY25S65

50 - - - FDCY50C65

1,20018 - FDCA18S120 - FDCY18S120

36 - - - FDCY36C120

新製品紹介

282(52)

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新製品紹介

2014-S07-1

株式会社ジャパンビバレッジホールディングス向け超小型カップ式自動販売機Extremely Compact Cup-Type Beverage Vending Machines for Japan Beverage Holdings Inc.

富士電機技報 2014 vol.87 no.4

カップ式自動販売機は,オフィス,工場,病院,高速道路のサービスエリアなどさまざまなロケーションで稼動している。約半数は従業員が多いオフィスで利用され

ており,中・大型機や多機能機が主体となっている。従業員が少ないオフィス向けのコンパクトサイズの製品は,

ホット飲料専用機が主流であり,夏季に売上が減少する

ため設置箇所を増やすことが困難であった。

一方で,カップ式自動販売機のレギュラーコーヒー抽出システムを応用して 2013 年に開発したカウンタートッ

プ機材は,その味が消費者から評価され,コンビニエン

スストアにおけるコーヒー販売を大ヒットに導いた。

このような自動販売機の状況を捉え,“オフィス市場全体の活性化”を実現するため,カップオペレータ企業である株式会社ジャパンビバレッジホールディングス

(JBHD)と超小型カップ式自動販売機を共同で開発した。

コンパクトサイズで小規模オフィス向けの仕様でありな

がら,身近でおいしい本格的なコーヒーを提供するもの

である。

1 特 徴

従来機種と比べた主な特徴は次のとおりである。

⒜ オフィス向けの新デザイン扉⒝ コンパクトサイズでホット &コールド仕様⒞ おいしいコーヒーを提供する 1 杯取りドリップ式のコーヒーブリュア

⒟ カップ内で飲料を調理する,清掃性・衛生性に優れたカップミキシング方式JBHD向け超小型カップ式自動販売機の外観を図1に,

仕様を表1に示す。

⑴ 新デザイン扉従来のカップ式自動販売機のイメージを一新するため,

デザイン自由度の高い一体シートキーを採用した。これ

はパネル表示器とシートキーを一体化したものであり,

コーヒーショップのメニューボードをイメージした商品展示と選択ボタンを実現した。また,左右のモール部の

色をシルバーメタリックとすることで高級感を演出し,

さらに将来のリニューアルに備えて,着脱可能な構造と

した。

⑵ 業界最先端の調理技術

2013 年のコンビニエンスストアにおけるコーヒーブー

ムの火付け役であり,富士電機の自動販売機コア技術で

あるレギュラーコーヒー抽出システムを搭載した。また,

コンパクトサイズでカップミキシング方式を採用するた

め,業界初の横一軸搬送カップミキシング方式を搭載し

た。さらに,調理効率を高めるため,プロペラ撹拌(か

くはん)時にカップを揺らす制御機能を搭載した。

⑶ 環境対応真空断熱材を搭載した温水タンクや高効率制御製氷機

畔柳 靖彦 * KUROYANAGI, Yasuhiko 山口 直美 * YAMAGUCHI, Naomi 中島 一秀 * NAKASHIMA, Kazuhide

* 富士電機株式会社食品流通事業本部三重工場設計部

表1 JBHD向け超小型カップ式自動販売機の仕様

項 目 仕 様

型 式 FJX10

外形寸法 W550×D600×H1,700(mm)

製品質量 135kg

商品展示/押しボタン フレーバ数:6個/商品選択:12ボタンファンクション:9ボタン

販売原料

レギュラー 2.1L×2クリーム  1.4L×1砂糖    1.4L×1パウダー  1.4L×3

コーヒーブリュア ドリップ式 ペーパーフィルタカスバケツ容量:14L

カップ機構 9オンス限定 2種類(収容数:210個)

製氷機貯氷量 2.1kg

湯タンク容量 3.0L

給 水 水道直結/カセットタンク

排水バケツ容量 5.5L

冷 媒 HFO-1234yf

消費電力量 849kWh/y

図1 JBHD向け超小型カップ式自動販売機

新製品紹介

283(53)

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株式会社ジャパンビバレッジホールディングス向け超小型カップ式自動販売機

2014-S07-2富士電機技報 2014 vol.87 no.4

から 325 kWh/yとなり 14% 削減した。

2 . 2  省エネルギー製氷機

製氷機は氷を製造してためておく機構である。製氷機用のコンプレッサは,氷の溶ける量に応じて起動と停止を繰り返す。起動開始から 1〜2minは冷媒が循環する

ために必要な時間であり,この間は氷を製造していない。

つまり起動回数を減らすことは,氷を製造せずに冷媒を

循環させるだけの時間を減少させることにつながり,よ

り効率的に製氷することができることとなる。

氷の需要は,季節による気温の変動によって大きく変化する。これに着目し,周囲温度をパラメータとして製氷機内の貯氷量を最適化する高効率制御機能を開発した。

コンプレッサに運転遅延時間(図3)を設けることで,夏季に製氷量を多く,冬季に少なくした。これにより,製氷機の年間消費電力量を 25% 削減した。

2 . 3  最先端調理技術“揺らぎ制御”

カップ式自動販売機は,カップ内で原料と湯をプロペ

ラで攪拌するカップミキシング方式により調理を行って

いる。プロペラによる攪拌は,位置,回転数,時間の設定が可能であり,粒子,粘度など原料の特性に合わせて

幅広く調整できる。これに加えて,本製品ではパドル攪拌時にカップを左右に移動させる最先端の調理技術“揺らぎ制御”(図4)を搭載した。攪拌効率を高めることで,

などの搭載により,業界トップの低消費電力量 849 kWh/yを実現した。また,環境に優しいグリーン購入法適合冷媒HFO-1234yf

〈注〉

を採用した。

⑷ 簡単オペレーション

1 杯ごとに攪拌用プロペラをリンスするオートサニテー

ション機能を搭載した。また,清掃部に脱着が簡単で丸洗いできる構造を採用した。

⑸ サービス性・組立性の向上コンパクトサイズであってもスマートにサービスや組立ができるように各機構部をブロック構造とし,ブロッ

クごとに着脱できるようにした。

2 背景となる技術

2 . 1  省エネルギー温水タンク

カップ式自動販売機の保温・保冷の温度帯域は,97℃の熱湯から氷塊まであり,一般的な缶飲料自動販売機の

ホット飲料の 55 ℃からコールド飲料の 5 ℃までと比較して広い。さらに,食の安全のため,それぞれの制御温度は「食品衛生法」で規制され,その条件を外れた場合には自動的に売切れとする安全最優先の制御を行ってい

る。食の安全を最優先で確保しつつ,高効率な冷却・加熱と調理機構をシステムとして確立することが課題であ

る。その中でも,常に熱湯をためておく温水タンクは常時電力が最も大きいことから,温水タンクに関する省エ

ネルギーの取組みが重要である。

従来の温水タンクは発泡樹脂だけで断熱していた。サー

モグラフィーによる実測や熱解析などを行った結果,省エ

ネルギーのためには全体的に断熱材の厚さを増す必要が

あることが分かった。しかし,全体のレイアウトからそ

れは困難であるため,より断熱性能の高い真空断熱材を

採用することとした。真空断熱材を直接温水タンクに接触させることは,経年劣化や外表面の傷による断熱性能の低下などの問題がある。そこで,発泡樹脂で内側と外側から挟み込む三層断熱構造を採用した(図2)。これに

より,温水タンクの年間消費電力量は従来の 380 kWh/y

〈注〉 HFO-1234yf:地球温暖化係数(GWP)が 4と低く,「国等に

よる環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入

法)」基準の GWP140 未満に適合したノンフロン冷媒である。

(b)従来断熱構造

外層:難燃性発泡樹脂

内層:耐熱性発泡樹脂

(a)三層断熱構造

外層:難燃性発泡樹脂最内層:耐熱性発泡樹脂

内層:真空断熱材

図2 温水タンク断熱構造

遅延時間(min)

80

60

40

20

0 6040200周囲温度(℃)

図3 製氷機コンプレッサの運転遅延時間

(b)従来の制御(a)揺らぎ制御

図4 最先端調理技術“揺らぎ制御”

新製品紹介

284(54)

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株式会社ジャパンビバレッジホールディングス向け超小型カップ式自動販売機

2014-S07-3 富士電機技報 2014 vol.87 no.4

(2014年 12月 12日Web公開)

飲料バリエーションのアップ,飲料品質の向上,販売時間の短縮が可能となった。

発売時期2014 年 10 月 29 日

お問い合わせ先富士電機株式会社営業本部食品流通営業統括部営業第三部営業第一課電話(03)5435-7077

新製品紹介

285(55)

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新製品紹介

小型パッケージ“MiniSKiiP”製品の系列化Product Lineup of Miniaturized Package “MiniSKiip”

2014-S08-1富士電機技報 2014 vol.87 no.4

富士電機は,コンバータ回路,インバータ回路,ブ

レーキ回路および温度センサを一体化した PIM (Power Integrated Module)において,富士電機の最新の「Vシ

リーズ」IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)チッ

プを小型パッケージ“MiniSKiiP〈注 1〉

”に搭載した新製品を開発し,系列化した。

インバータ装置の高効率化と小型化を達成するため

に,IGBTモジュールに対しては損失の低減および小型化が強く求められている。これに対して富士電機は,イ

ンバータの高効率化と小型化に貢献する PIMタイプの

“ECONOPIM〈注 2〉

”製品を既に系列化している。今回,新製品として系列化したMiniSKiiP 製品は,銅ベースレス

構造とスプリングコンタクト構造により,従来品である

ECONOPIM製品と比較して設置面積を 36% 縮小するこ

とを実現している。

1 特 徴

1 . 1  製品ラインアップ

表1に,MiniSKiiP 製品と従来品の ECONOPIM製品の

ラインアップを示す。従来品の定格電流が 25〜150Aで

あるのに対して,新製品のMiniSKiiP 製品は 8〜100Aと

し,新たに 25A 未満の定格をラインアップに加えて定格電流領域を拡充した。

また,MiniSKiiP 1タイプは 8Aと 15A,MiniSKiiP 2タ イ プ は 25A と 35A,MiniSKiiP 3 タ イ プ は 50A と

75Aと 100Aであり,容量に応じてサイズが異なってい

る。図1にMiniSKiiP 1の内部回路構成を示す。三相のコ

〈注 1〉 MiniSKiiP:SEMIKRON Elektronik Gmbh & Co.KGの商標

または登録商標

〈注 2〉 ECONOPIM:Infi neon Technologies AGの商標または登録

商標

関野 裕介 * SEKINO, Yusuke 磯崎  誠 * ISOZAKI, Makoto 小松 康佑 * KOMATSU, Kosuke

* 富士電機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部モジュール技

術部

表1 MiniSKiiP 製品と ECONOPIM製品のラインアップ

定格電流 8A 15A 25A 35A 50A 75A 100A 150A

MiniSKiiP(新製品)

パッケージタイプ MiniSKiiP 1 MiniSKiiP 2 MiniSKiiP 3

外 観

MiniSKiiP 1 MiniSKiiP 2 MiniSKiiP 3

設置面積 1,680mm2 3,068mm2

(36%削減)4,838mm2

(36%削減)

質 量 35g 58g(68%削減) 91g(70%削減)

ECONOPIM(従来品)

パッケージタイプ ECONOPIM 2

ECONOPIM 3

外 観

ECONOPIM 2 ECONOPIM 3

設置面積 4,837mm2 7,564mm2

質 量 180g 300g

新製品紹介

286(56)

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小型パッケージ“MiniSKiiP”製品の系列化

2014-S08-2 富士電機技報 2014 vol.87 no.4

よるはんだ付け工数の削減により,インバータ装置の組立が簡素化できる。

1 . 4  インバータの低損失化

図3に,1,200V/100A 定 格 の MiniSKiiP 製 品 と

ECONOPIM製品のインバータ発生損失とモジュールの取付け面積の比較を示す。MiniSKiiP 製品は,ECONOPIM製品と同等の低損失でありながら,モジュールの設置面積の低減を実現している。

2 背景となる技術

MiniSKiiP 製品は,高密度実装,スプリングコンタクト

構造の適用および絶縁封止材料の最適化により,小型化を実現している。

2 . 1  高密度実装

図4に,MiniSKiiP 製品と ECONOPIM製品の内部構造を示す。ECONOPIM製品は DCB(Direct Copper Bond-

ンバータ回路,三相のインバータ回路,ブレーキ回路お

よび温度センサを 1パッケージに収めているため,1 台で

三相交流インバータを構成することができ,インバータ

装置の小型化および装置設計の効率化に貢献する。

1 . 2  パッケージの小型化

表1に示すように,同一定格電流で比較すると,Mini-SKiiP 2は ECONOPIM 2に対して設置面積で 36%,質量で 68% 削減し,MiniSKiiP 3は ECONOPIM 3に対して

設置面積で 36%,質量で 70% 削減している。

1 . 3  装置取付け工数の削減

図2に,MiniSKiiPと ECONOPIMをインバータ装置に

取り付けたときの断面図を示す。MiniSKiiP 製品は,はん

だを使用しないスプリングコンタクト構造を採用してい

るので,1 回のねじ締め工程によってモジュール,ヒート

シンク,PCB(Printed Circuit Board)を同時に一括実装組立を行うことが可能である。一方,ECONOPIM製品は,

モジュールと PCBを別々にねじでヒートシンクに組付け

した後,はんだやプレスフィット構造による圧入で端子と PCBを接合し実装する。このように,MiniSKiiP 製品は,ねじ締め工数の削減とスプリングコンタクト構造に

インバータ発生損失(W)

取付け面積(cm

2)

240

200

160

120

80

40

0

100

80

60

40

20

0MiniSKiiP 製品(新製品)

ECONOPIM製品(従来品)

定格:1,200V/100A条件:電流:50A(実効値),Fc :8kHz,電圧:600V,   力率:0.85,制御率:1

75.6cm2

48.4cm2

図3 インバータの発生損失とモジュールの取付け面積

端子ケース端子アルミニウムワイヤ

スプリング端子

チップ

チップ

スプリングコンタクト

ゲル

ゲル

ワイヤ接合

端子ケース

銅ベース

(b)ECONOPIM製品(従来品)

(a)MiniSKiiP 製品(新製品)

DCB基板

DCB基板

アルミニウムワイヤ

図4 内部構造

R S T

P P1

B

GuEu

GvEv

U V

Gx Gy

GwEw

W

Gz

T1 T2

Gb

Nb Ex Ey EzN

図1 MiniSKiiP 1 の内部回路構成

抑え用ふたねじ

(a)MiniSKiiP

(b)ECONOPIM

はんだ

PCB

PCB

DCB基板放熱用グリスヒートシンク

銅ベース

放熱用グリス

端子ケースねじ

端子

MiniSKiiP

ECONOPIM

図2 装置取付け時の断面図

新製品紹介

287(57)

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小型パッケージ“MiniSKiiP”製品の系列化

2014-S08-3富士電機技報 2014 vol.87 no.4

(2014年 12月 19日Web公開)

ing)基板と外部接続した端子間をアルミニウムワイヤで

接合していたため,DCB 基板面積の縮小化に限界があり,

設置面積が大きくなっていた。これに対してMiniSKiiP製品は,DCB 基板上に外部接続端子を配置したため,設置面積を縮小化できる。この結果,大幅な小型化を可能とした。

2 . 2  スプリングコンタクト構造

MiniSKiiP 製品には,インバータ装置の組立工程にお

けるはんだレス組立を実現するために,スプリングコン

タクト構造の外部接続端子を採用した。図5に PCB 実

装後の断面図を示す。PCBとMiniSKiiP 製品を同時に締め付けることで生じる応力によりスプリングが圧縮され,

PCBと端子間で安定した接合が可能である。

2 . 3  絶縁封止材料の最適化

ECONOPIM 製品は,絶縁耐圧を考慮して十分な沿面距離を確保していたが,MiniSKiiP 製品は小型化によ

る沿面距離の減少により,絶縁耐圧の低下が懸念され

た。そのため,従来採用していた封止材では,絶縁耐圧が市場要求を満足できないため,新たにゲルを開発し,

ECONOPIM 製品と同等以上の絶縁耐圧を持つ高信頼性パッケージとした。

発売時期2015 年 4 月

お問い合わせ先富士電機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部モジュール技術部企画課電話(0263)25-2943

PCBと端子の接合

DCB基板

締付け圧

端子ケース

PCB

端子とDCB基板の接合

図5 PCB実装後の断面図

新製品紹介

288(58)

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略語・商標

富士電機技報 2014 vol.87 no.4

289(59)

略語(本号で使った主な略語)

AT-NPC Advanced T-type Neutral-Point-Clamped COC Chip on Chip DCB Direct Copper Bonding ECU Electronic Control Unit 電子制御装置EV Electric Vehicle 電気自動車FRD Fast Recovery Diode FWD Free Wheeling Diode HEV Hybrid Electric Vehicle ハイブリッド車IEMOS Implantation and Epitaxial Metal Oxide Semiconductor IGBT Insulated Gate Bipolar Transistor 絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ

IPM Intelligent Power Module IPS Intelligent Power Switch MOSFET Metal-Oxide-Semiconductor Field-Eff ect Transistor 金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ

PCB Printed Circuit BoardPCS Power Conditioner パワーコンディショナ

PFC Power Factor Correction 力率改善PIM Power Integrated ModulePWM Pulse Width Modulation パルス幅変調RB-IGBT Reverse-Blocking IGBT 逆阻止 IGBTRC-IGBT Reverse-Conducting IGBT 逆導通 IGBTSBD Schottky Barrier Diode UPS Uninterruptible Power Supply 無停電電源装置

商標(本号に記載した主な商標または登録商標)

ECONOPIM Infi neon Technologies AG の商標または登録商標MiniSKiiP SEMIKRON Elektronik Gmbh & Co.KG の商標または登録商標PrimePack Infi neon Technologies AG の商標または登録商標

その他の会社名,製品名は,それぞれの会社の商標または登録商標である。

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主要事業内容

次号予定

発電・社会インフラ環境にやさしい発電プラントとエネルギーマネジメントを融合させ,スマートコミュニティの実現に貢献します。

発電プラント火力・地熱・水力発電設備,原子力関連機器,太陽光発電システム,燃料電池

社会システムエネルギーマネジメントシステム,電力量計,スマートメーター

社会情報情報システム

産業インフラ産業分野のさまざまなお客様に,生産ライン・インフラ設備に関わる「省エネ化」「ライフサイクルサービス」を提供します。

変電変電設備,産業電源設備

機電システム産業用ドライブシステム,加熱・誘導炉設備,工場エネルギーマネジメントシステム,データセンター,クリーンルーム設備

計測制御システムプラント制御システム,計測システム,放射線管理システム

設備工事電気・空調設備工事

パワエレ機器エネルギーの効率化や安定化に寄与するパワーエレクトロニクス応用製品を提供します。

ドライブインバータ・サーボ,モータ,EV(電気自動車)システム,輸送システム

パワーサプライ無停電電源装置,パワーコンディショナ

器具受配電・制御機器

電子デバイス産業機器・自動車・情報機器および新エネルギー分野に欠かせないパワー半導体をはじめとする電子デバイスを提供します。

半導体パワー半導体,感光体

ディスク媒体ディスク媒体

食品流通冷熱技術をコアに,メカトロニクス技術や IT を融合し,お客様に最適な製品とソリューションを提供します。

自販機飲料・食品自販機

店舗流通流通システム,ショーケース,通貨機器

富士電機技報企画委員会

編集兼発行人

発 行 所

編 集・印 刷

発 売 元

定 価

江口 直也

富士電機株式会社 技術開発本部〒 141-0032 東京都品川区大崎一丁目 11 番 2 号

(ゲートシティ大崎イーストタワー)

富士オフィス&ライフサービス株式会社内「富士電機技報」編集室〒 191-8502 東京都日野市富士町 1番地電話(042) 585-6965FAX(042) 585-6539

株式会社 オーム社〒 101-8460 東京都千代田区神田錦町三丁目 1番地電話(03) 3233-0641振替口座 東京 6-20018

756 円(本体 700 円・送料別)

290(60)

富士電機技報 第87巻 第4号平成 26 年 12 月 20 日 印刷  平成 26 年 12 月 30 日 発行

*本誌に掲載されている論文を含め,創刊からのアーカイブスは下記URLで利用できます。

    富士電機技報(和文) http://www.fujielectric.co.jp/about/company/contents_02_03.html    FUJI ELECTRIC REVIEW(英文) http://www.fujielectric.com/company/tech/contents3.html*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する商標または登録商標である場合があります。

© 2014 Fuji Electric Co., Ltd., Printed in Japan(禁無断転載)

企 画 委 員 長

企画委員幹事

企 画 委 員

特 集 委 員

事 務 局

江口 直也

瀬谷 彰利

荻野 慎次  森岡 崇行  片桐 源一  根岸 久方

八ツ田 豊  尾崎  覚  鶴田 芳雄  久野 宏仁

須藤 晴彦  吉田  隆  橋本  親  眞下 真弓

安納 俊之  大山 和則

鶴田 芳雄  井川  修  多田  元

木村  基  小野 直樹  山本 亮太  柳下  修

富士電機技報 第88巻 第1号

特集 パワーエレクトロニクス機器

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富士電機技報 vol.87 2014(平成26年) 総目次

〔特集に寄せて〕新しい計測・制御技術への期待 ……………………………………………………………………… 増田 士朗 3( 3)〔現状と展望〕ソリューションを支える計測・制御技術の現状と展望 …………………………… 近藤 史郎 福住 光記 4( 4)安定操業・省エネルギー・環境保全を支える計測・制御システムソリュー

 ション ………………………………………………………………………………… 庄林 直樹 小出 哲也 稲村 康男 9( 9)高速コントローラ・大容量ネットワークによる駆動制御システムソリュー

 ション ………………………………………………………………………………… 小田 孝一 常盤 欣史 大坪 宏輔 14(14)安全・安心に貢献する放射線管理ソリューション ……………………………… 中島 定雄 石倉  剛 松下 智行 19(19)プラントの安定操業・効率化を支援するサービスソリューション …………… 福島 宗次 北谷 保治 占部  昇 25(25)プラント制御におけるデータ分析技術 …………………………………………… 松井 哲郎 村上 賢哉 鈴木  聡 33(33)安定と安全を支える情報・プロセス制御システム「MICREX-NX」 …………… 篠 淳一郎 鈴木 健浩 小野 健一 38(38)顧客資産の継承と進化を実現する中小規模監視制御システム

 「MICREX-VieW XX」 …………………………………………………………… 西脇 敏之 藤田 史彦 永塚 一人 44(44)中小規模監視制御システム「MICREX-VieW XX」の最新オペレーション

 機能とエンジニアリング機能  …………………………………………………… 佐藤 好邦 北村 純郎 日向 一人 49(49)機械制御から高度なモーション制御まで実現する統合コントローラ

 「MICREX-SXシリーズ」 ……………………………………………………………………………………………… 石井  靖 54(54)省エネルギーに貢献する直接挿入レーザ方式ガス分析計「ZSS」 ……………… 小西 英之 金井 秀夫 小川 敬晴 59(59)MEMS応用感振センサを用いた構造ヘルスモニタリングシステム …………… 坂上  智 村上 敬三 北川 慎治 63(63)クランプ式無線電力センサ「FeMIEL-SC」「FeMIEL-WL」による

 エネルギーの見える化 …………………………………………………………… 項  東輝 太田 英樹 中野 年康 68(68)普通論文データセンター向け間接外気活用省エネルギーハイブリッド空調機 「F-COOL NEO」 …………………………………………………………………… 大賀 俊輔 高松 武史 高橋 正樹 73(73)新製品紹介論文自動車用タンク圧センサ「EPL11E-GM」―― 燃料漏れ検出用圧力センサ ――  ……………………………………………………78(78)「Vシリーズ」IPM ―― 中容量・小型パッケージ「P636パッケージ」―― …………………………………………………………80(80)

〔特集に寄せて〕「エネルギー関連事業」で,安全・安心で持続可能な社会に貢献 ……………………………… 北澤 通宏 88( 2)〔特別対談〕 パワーエレクトロニクスでエネルギー革新を目指す ………………………………… 赤木 泰文 江口 直也 90( 4)      ―― デバイスのイノベーションで加速化するパワエレの応用 ――〔成果と展望〕エネルギーソリューションの提供 ……………………………………………………………………… 江口 直也 98(12)ハイライト ………………………………………………………………………………………………………………………………… 104(18)発電システム □火力・地熱プラント □風力発電システム □燃料電池 □原子力  ………………………………………… 112(26)社会インフラ □系統・配電 □エネルギーマネジメント □社会環境  ………………………………………………………… 117(31)産業インフラ □変電システム □機電システム □計測制御システム ………………………………………………………… 122(36)パワエレ機器 □ドライブ □パワーサプライ □輸送パワエレ □受配電・制御機器コンポーネント  …………………… 136(50)電子デバイス □パワー半導体 □感光体 □ディスク媒体 ……………………………………………………………………… 144(58)食品流通 □自動販売機 □冷熱制御技術 □通貨機器 …………………………………………………………………………… 151(65)基盤・先端技術 □基盤技術 □先端技術 …………………………………………………………………………………………… 154(68)

特集 産業・社会に貢献する計測・制御ソリューションNo.1

特集 2013年度の技術成果と展望No.2

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総目次

〔特集に寄せて〕電力システム改革の取組みと受配電・開閉・制御機器コンポーネント ………………………… 田中 康規 167( 3)〔現状と展望〕受配電・開閉・制御機器コンポーネントの現状と展望 ……………………………………………… 淺川 浩司 168( 4)電磁接触器「FJシリーズ」「SKシリーズ」の機種拡充 ………………………… 森下 文浩 深谷 直樹 堤  貴志 176(12)「シンクロセーフコンタクト」搭載 非常停止用押しボタンスイッチ

 (φ22,φ30) ……………………………………………………………………… 町田 謹斎 野村 浩二 下山栄治郎 181(17)高圧真空遮断器「MULTI.VCB」「Auto.V」  ……………………………………… 岡崎 貴幸  臼井 英人 木村  剛 186(22)ストライカ引外し式限流ヒューズ付高圧交流負荷開閉器(LBS) ……………… 菊地 征範 宮﨑 哲司 徳永 圭秀 191(27)直流高電圧用ブレーカの無極性遮断技術 ……………………………………………………………………………… 佐藤 佑高 196(32)直流配電システムの短絡故障・地絡故障推定技術 ……………………………… 佐竹 修平 恩地 俊行 外山健太郎 201(37)受配電・開閉・制御機器コンポーネントの製品評価 …………………………… 宮沢 秀和 秦 淳一郎 沼上  毅 206(42)受配電・開閉・制御機器コンポーネントの環境対応材料技術 ………………… 原  永治 岩倉 忠弘 吉澤 利之 211(47)アークシミュレーション技術 ………………………………………………………………………… 坂田 昌良 榎並 義晶 216(52)多様化するニーズに対応するものつくり ……………………………………………………………………………… 小川  拓 222(58)新製品紹介論文海外向け大容量UPS「7000HX-T4」  …………………………………………………………………………………………………… 226(62)

〔特集に寄せて〕パワー半導体 …………………………………………………………………………………………… 木本 恒暢 233( 3)        ――材料科学とパワーエレクトロニクスの架け橋――〔現状と展望〕パワー半導体の現状と展望 ………………………………………… 高橋 良和 藤平 龍彦 宝泉  徹 234( 4)1,200V 耐圧 SiCハイブリッドモジュール ………………………………………… 小林 邦雄 北村 祥司 安達 和哉 240(10)メガソーラー用パワーコンディショナ向け All-SiCモジュール ……………… 梨子田典弘 仲村 秀世 岩本  進 244(14)新型パッケージを採用した産業用RC-IGBTモジュール ……………………… 高橋 美咲 吉田 崇一 堀尾 真史 249(19)マイルドハイブリッド車用RC-IGBT ……………………………………………… 野口 晴司 安達新一郎 吉田 崇一 254(24)ハイブリッド車用第 2世代アルミニウム直接水冷パッケージ技術 …………… 郷原 広道 齊藤  隆 山田 教文 258(28)第 3世代臨界モード PFC制御 IC「FA1A00シリーズ」 ………………………… 菅原 敬人 矢口 幸宏 松本 和則 263(33)LLC 電流共振電源の回路技術 ……………………………………………………… 川村 一裕 山本  毅 北條 公太 268(38)自動車用大電流 IPS ………………………………………………………………… 岩水 守生 竹内 茂行 西村 武義 273(43)新製品紹介論文1,700V 耐圧 SiCハイブリッドモジュール ……………………………………………………………………………………………… 277(47)AT-NPC 3レベル大容量 IGBTモジュール ――大容量モジュール用パッケージ「M404パッケージ」―― ………………… 279(49)ディスクリート SiC-SBD ………………………………………………………………………………………………………………… 281(51)株式会社ジャパンビバレッジホールディングス向け超小型カップ式自動販売機 ………………………………………………… 283(53)小型パッケージ“MiniSKiiP”製品の系列化 …………………………………………………………………………………………… 286(56)

特集 受配電・開閉・制御機器コンポーネントNo.3

特集 エネルギー マネジメントに貢献するパワー半導体No.4

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富士電機技報 第 87 巻 第 4号(通巻第 884 号) 2014 年 12 月 30 日発行

本誌は再生紙を使用しています。 雑誌コード 07797-12  定価 756円(本体700円)