神奈川県における微小粒子状物質(pm2.5) ~全体傾 …報告( note )...

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報告(Note神奈川県における微小粒子状物質(PM2.5)の特徴について(1)(平成 24 年度) ~全体傾向について~ 小松宏昭 武田麻由子 岡敬一 辻祥代 石割隼人 (調査研究部) Characteristics of PM2.5 in Kanagawa prefecture2012Hiroaki KOMATSUMayuko TAKEDAKeiich OKASachiyo TSUJIHayato ISHIWARI (Research Division) キーワードPM2.5,成分分析,イオン成分,有機炭素,元素状炭素 はじめに 微小粒子状物質(以下「PM2.5」という。) は粒径が小さく人の健康に影響を及ぼす恐れが あることから,平成 21 9 月に環境基準が設定 された。本県の環境基準の達成状況 1) をみると, 平成 23 年度は一般局で 20%(測定 5 局のうち達 1 局。全国平均は 2) 28%),自排局で 0%(測定 4 局のうち達成 0 局。全国平均は 29%)と全国平 均を下回った。平成 24 年度は一般局 67%( 測定 9 局のうち達成 6 ) ,自排局で 63%(測定 8 のうち達成 5 ) となったが,平成 25 年度は夏 季高濃度日の連続発生により達成率の低下が見 込まれ, PM2.5 の削減に向けた検討が急務と なっている。 一方,PM2.5 は複数の成分から構成され,関 連する発生源の種類も多岐にわたることから, 削減対策を検討するには質量濃度のモニタリン グに加えて,成分分析を行い各地点の構成成分 や高濃度発生時の成分の特徴を把握したうえで 発生源の種類別の生成寄与割合を明らかにしな ければならない。 神奈川県では大気汚染防止法の常時監視に係 る事務処理基準 3) に基づき,平成 23 年度から自 動濃度測定機による PM2.5 の質量濃度の測定と 四季の成分分析を開始し,県内における PM2.5 の発生時期や構成成分の特徴などの実態把握と 生成要因の解析を行っている。 この稿では平成 24 年度の成分分析結果を中 心に,県内の PM2.5 の発生状況や季節別の特徴 等の解析結果を報告し,発生源寄与について別 稿(次報)で報告する。 調査方法 2.1 調査地点 現在,全国的に自治体による PM2.5 の自動濃 度測定機の整備が進められており,県内では 57 地点で質量濃度が測定されている( 平成 26 1 月末現在)。質量濃度の測定地点数は対象期間に よって異なるため,各章の図中に示した。測定 地点を1 に示す。 環境科学センターでは成分分析を大和市役所 (一般局,以下「大和」という) ,茅ヶ崎駅前交 差点( 自排局,以下「茅ヶ崎」という),山間地 の犬越路( 研究局,質量濃度の通年モニタリング は未実施)3 箇所で実施しており,解析にはこ れら 3 地点の分析結果を用いた。 1 PM2.5 の質量濃度測定及び成分分析地点 H23 年度に整備,○H24 年度に整備, H25 年度(1 月末現在)整備 2.2試料採取方法及び期間 成分分析用の試料採取は,ろ紙交換機能付き サンプラ(Thermo FRM2025)を用い,年 4 節について 24 時間( 午前 10 時~翌日 10 )の採 取を 14 日間連続して行った。 犬越路 大和 茅ヶ崎 ★成分分析実施地点(県所管域) -11- 神奈川県環境科学センター研究報告 第36 号 (2013)

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Page 1: 神奈川県における微小粒子状物質(PM2.5) ~全体傾 …報告( Note ) 神奈川県における微小粒子状物質 (PM2.5) の特徴について (1)(平成24年度)

報告(Note)

神奈川県における微小粒子状物質(PM2.5)の特徴について(1)(平成 24年度)

~全体傾向について~

小松宏昭 武田麻由子 岡敬一 辻祥代 石割隼人

(調査研究部)

Characteristics of PM2.5 in Kanagawa prefecture(2012)

Hiroaki KOMATSU, Mayuko TAKEDA, Keiich OKA, Sachiyo TSUJI, Hayato ISHIWARI

(Research Division)

キーワード:PM2.5,成分分析,イオン成分,有機炭素,元素状炭素

1 はじめに

微小粒子状物質(以下「PM2.5」という。)

は粒径が小さく人の健康に影響を及ぼす恐れが

あることから,平成 21 年 9 月に環境基準が設定

された。本県の環境基準の達成状況1)をみると,

平成 23 年度は一般局で 20%(測定 5 局のうち達

成 1 局。全国平均は2)

28%),自排局で 0%(測定

4 局のうち達成 0 局。全国平均は 29%)と全国平

均を下回った。平成 24年度は一般局 67%(測定 9

局のうち達成 6 局) ,自排局で 63%(測定 8 局

のうち達成 5 局)となったが,平成 25 年度は夏

季高濃度日の連続発生により達成率の低下が見

込まれ,PM2.5 の削減に向けた検討が急務と

なっている。

一方,PM2.5 は複数の成分から構成され,関

連する発生源の種類も多岐にわたることから,

削減対策を検討するには質量濃度のモニタリン

グに加えて,成分分析を行い各地点の構成成分

や高濃度発生時の成分の特徴を把握したうえで

発生源の種類別の生成寄与割合を明らかにしな

ければならない。

神奈川県では大気汚染防止法の常時監視に係

る事務処理基準 3)に基づき,平成 23 年度から自

動濃度測定機による PM2.5 の質量濃度の測定と

四季の成分分析を開始し,県内における PM2.5

の発生時期や構成成分の特徴などの実態把握と

生成要因の解析を行っている。

この稿では平成 24 年度の成分分析結果を中

心に,県内の PM2.5 の発生状況や季節別の特徴

等の解析結果を報告し,発生源寄与について別

稿(次報)で報告する。

2 調査方法

2.1 調査地点

現在,全国的に自治体による PM2.5 の自動濃

度測定機の整備が進められており,県内では 57

地点で質量濃度が測定されている(平成 26 年 1

月末現在)。質量濃度の測定地点数は対象期間に

よって異なるため,各章の図中に示した。測定

地点を図 1 に示す。

環境科学センターでは成分分析を大和市役所

(一般局,以下「大和」という),茅ヶ崎駅前交

差点(自排局,以下「茅ヶ崎」という),山間地

の犬越路(研究局,質量濃度の通年モニタリング

は未実施)の 3 箇所で実施しており,解析にはこ

れら 3 地点の分析結果を用いた。

図 1 PM2.5の質量濃度測定及び成分分析地点

●H23年度に整備,○H24 年度に整備,

◇H25年度(1月末現在)整備

2.2試料採取方法及び期間

成分分析用の試料採取は,ろ紙交換機能付き

サンプラ(Thermo FRM2025)を用い,年 4 季

節について 24時間(午前 10時~翌日 10時)の採

取を 14 日間連続して行った。

犬越路 大和

茅ヶ崎

★成分分析実施地点(県所管域)

-11-

神奈川県環境科学センター研究報告 第36 号 (2013)

Page 2: 神奈川県における微小粒子状物質(PM2.5) ~全体傾 …報告( Note ) 神奈川県における微小粒子状物質 (PM2.5) の特徴について (1)(平成24年度)

表 1 成分分析の実施期間

時期 実 施 月 日

春季 平成 24 年 5 月 9 日~23 日

夏季 平成 24 年 7 月 25 日~8 月 8 日

秋季 平成 24 年 10 月 23 日~11 月 6 日

冬季 平成 25 年 1 月 22 日~2 月 5 日

2.3 分析方法

成分分析は「成分測定マニュアル 4)」に基づき,

表 2 に示す項目について実施した。

水溶性イオンは試料捕集後の石英ろ紙(Pall

2500QAT-UP 47mmφ)を 1/4 に切断し,超純水

8ml を加えたのち超音波で抽出した。抽出液は

親水性 PTFE フィルタ(孔径 0.45μm,13mmφ)

でろ過後,イオンクロマトグラフィー(東ソー

(株)IC-2010)により測定した。

炭素成分は石英ろ紙を一定面積に切り抜い

た後(0.498cm2),炭素分析計(DRI Model2001A)

により IMPROVE 法で測定した。無機元素成分

はテフロンろ紙(Pall Teflo 47mmφ)を 1/2 に切

断後,フッ酸 3mL,硝酸 5mL を加えてマイクロ

波分解装置(Milestone STARTD)にて分解した。

分解液はホットプレート上で濃縮し,硝酸(1+9

9)で 50ml に定容後に Rh を内部標準として ICP

-MS(Agilent 7500ce)で測定した。

表 2 測定項目と測定方法の概要

項 目 成 分 測定方法

イオン成分 Cl-,NO3

-,SO42-,Na

+,NH4+,K

+,Mg2+,Ca

2+

イオンクロマトグラフ法 超純水にて超音波抽出し,試料液を調製

炭素成分 OC(有機炭素),EC(元素状炭素) 熱分離・光学補正法

カーボンエアロゾル分析装置で分析

無機元素 Na,Al,K,Ca,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,As,Se,Rb,Mo,Sb,Cs,Ba,Ce,Hf,W,Pb

誘導結合プラズマ質量分析法 試料をマイクロ波分解装置を用いて分解し,試料液を調製

注)質量濃度は重量法による(温度 21.5℃,相対湿度 35%)

3 解析結果

3.1 高濃度日の発生時期

短期環境基準(35g/m3・日)を高濃度日の目安

として,県内の測定地点が1局でもこの値を超

えた日数を平成 23 年度から平成 25 年度(平成

26 年 1 月末まで)まで月別に集計し,図 2 に示

す。

図 2 から高濃度日の発生日数と発生時期は年

度により異なることが確認された。

平成 23 年度は高濃度日が年間 50 日発生し,

このうち秋季(9~11 月)が最も多く 16 日(32%)

であった。平成 24 年度は高濃度の発生は年間

29 日と減少し,秋季の高濃度日も 5 日(19%)に

とどまった。しかし平成 25 年度は年間 33 日(1

月末現在)と増加しており,特に夏季(6~8 月)

は 25 日発生するなど,この 3 ヶ月間で前年度の

発生日数を上回る状況となった。

3.2 日内変動(平成 24年度)

平成 24 年度の自動濃度測定の結果から,

図 2 高濃度の月別発生状況

0

2

4

6

8

10

12

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月

日数

平成23年度 高濃度日(≧35μg/m3)(11~14局)

0

2

4

6

8

10

12

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月

日数

平成24年度高濃度日(≧35μg/m3)

(18~31局)

0

2

4

6

8

10

12

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月

日数

平成25年度高濃度日(≧35μg/m3)

(33~50局)

未集計

(執筆時)

-12-

神奈川県環境科学センター研究報告 第36 号 (2013)

Page 3: 神奈川県における微小粒子状物質(PM2.5) ~全体傾 …報告( Note ) 神奈川県における微小粒子状物質 (PM2.5) の特徴について (1)(平成24年度)

季節別に日内変動を解析した。なお,自動濃

度測定機による質量濃度は,標準測定法(24

時間試料採取したろ紙の秤量値)との間での

等価性が保証されているが,1時間値の精度

は保証されていないため,複数の測定局(平成

24 年度に通年測定していた 17 局)の平均値を

用いて解析した。図 3 に季節別の結果を示す。

図 3 PM2.5の季節別の日内変動(17 局)

夏季(6~8 月平均)は日中に濃度が上昇し,

夜間は低下する傾向を示した。一方,冬季(12

~2 月平均)は日中の濃度上昇が起こりにく

く,夜間に濃度が上昇しており,夏季とは異

なる傾向を示した。春季(3~5 月)と秋季(9

~11 月)は夏季と冬季の両方の特徴を示した。

すなわち,春季は日中に濃度が上昇した後,

夜間の濃度低下が起こりにくく,秋季は夜間

の濃度上昇と弱いながらも昼間の濃度上昇が

みられた。夏季は主に日中の光化学反応に

よって硫酸イオン等の二次生成粒子が盛んに

生成されることから,全体の質量濃度が増加

していると考えられた。一方,冬季は光化学

反応が活発でないこと,気温低下により硝酸

(粒子中には硝酸アンモニウムとして存在)

の粒子化5)が起こり夕方以降に質量濃度が増

加することなどが考えられた。

3.3 成分分析結果の解析(平成 24年度)

(1)年平均値と季節別の構成成分

4 季節(各 14 日間計 56 日間)の平均値から算

出した各地点の年平均値を図 4 に示す。ここで

はナトリウムイオン,カリウムイオン,マグネ

シウムイオン及びカルシウムイオンの合計を無

機陽イオンとした。

全地点とも主要構成成分は硫酸イオン,炭素

成分(有機炭素,元素状炭素),硝酸イオン(犬越

路を除く)及びアンモニウムイオンであり,これ

ら成分で質量濃度全体の約 8 割を占めていた

(犬越路は約 6 割) 。硝酸イオンは,茅ヶ崎と大

和では 10%程度を占めていたが,犬越路では 1%

に過ぎなかった。

年平均値でみると,大和(一般局)と茅ヶ崎(自

排局)で質量濃度と構成比はほとんど差がみら

れなかった。近年,一部の測定局を除き,概ね

一般環境と自動車排ガス測定局間で粒子状物質

の濃度差がなくなってきたことと一致する結果

となった6)。

次に,季節別の成分構成を図 5(次頁)に示す。

大和,茅ヶ崎は四季を通じて質量濃度と構成

成分が概ね同程度であったのに対し,犬越路は

季節によって両地点と違いがみられた。

図 4 地点別の PM2.5成分構成比

10

12

14

16

18

1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 23

μg/m3

夏季(6~8月)

冬季(12~2月)

10

12

14

16

18

1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 23

μg/m3

春季(3~5月)

秋季(9~11月)

23%

9%

24%10%

2%

11%

1%

20%

H24

大和

13.0μ g/m3

有機炭素

元素状炭素

硫酸イオン

硝酸イオン

塩化物イオン

アンモニウムイオン

無機陽イオン

その他

22%

8%

23%11%3%

12%

1%

20%

H24

茅ヶ崎

13.5μ g/m3

有機炭素

元素状炭素

硫酸イオン

硝酸イオン

塩化物イオン

アンモニウムイオン

無機陽イオン

その他

19%

5%

30%1%

0%

10%1%

34%H24

犬越路

8.3μ g/m3

有機炭素

元素状炭素

硫酸イオン

硝酸イオン

塩化物イオン

アンモニウムイオン

無機陽イオン

その他

-13-

神奈川県環境科学センター研究報告 第36 号 (2013)

Page 4: 神奈川県における微小粒子状物質(PM2.5) ~全体傾 …報告( Note ) 神奈川県における微小粒子状物質 (PM2.5) の特徴について (1)(平成24年度)

すなわち,犬越路の質量濃度をみると,春

季は大和,茅ヶ崎の 7 割程度(66~68%),夏

季は概ね同等(92~103%)となるが,秋季は 5

割程度(48~55%),冬季は 4 割以下(36~38%)

となった。気温の低下により大気が安定する

ことで,人為発生源に近い都市域で発生した

PM2.5 が滞留し,犬越路まで輸送されにくく

なったことが原因の一つとして考えられた。

各成分をみると炭素成分は四季を通じて比

較的濃度が高い傾向を示す一方で,硫酸イオ

ン濃度は春季と夏季に高く,秋季と冬季は低

下する傾向を示し,硝酸イオン濃度は夏季に

低く秋季と冬季は高くなる傾向を示した。ア

ンモニウムイオン濃度は四季を通じて概ね同

程度となった。

犬越路の構成成分を大和,茅ヶ崎と比較す

ると,硫酸イオンは春季から秋季まで両地点

の 7~9 割となっており(冬季は 6 割),この成

分は広域移動していることを示唆していると

考えられた。

一方,硝酸イオンは四季を通じて犬越路の

濃度は低いままであった。この理由として窒

素酸化物による汚染は道路沿道など局地的に

発生しやすく,硫酸イオンほど広範な汚染に

なりにくいことに加えて,市街地では気温の

低下に伴う硝酸の粒子化により秋季や冬季に

硝酸イオン濃度が高まるものの,この時期に

大気は安定して汚染物質が滞留しやすく,犬

越路まで輸送されにくいことが考えられた。

また,犬越路の炭素成分は夏季に市街地と

同程度となるものの,秋季や冬季は大きく減

少している。上述の大気の安定化による粒子

の移動の違いのほかに,山間地である犬越路

では炭素成分の発生源が市街地と異なる可能

性もあり,原因究明には詳細な成分分析を行

う必要がある。

図 5 PM2.5 の地点別,季節別の構成成分について

(2)イオンバランスについて

PM2.5 中の陽イオンと陰イオンのイオンバ

ランス(当量濃度)を図 6 に示す。ここでは,

陽イオン(アンモニウムイオン,ナトリウムイ

オン,カリウムイオン,マグネシウムイオン,

カルシウムイオン),陰イオン(硫酸イオン,

硝酸イオン,塩化物イオン)それぞれの当量濃

度の合計値で示した。

全体の傾きは 1.05 であり,全体的なイオン

バランスは良好であった。なお,陽イオンを

アンモニウムイオンのみとした場合も傾きは

1.10(R2=0.98)となり,硫酸イオン等の陰イオ

ンはアンモニウム塩として存在していると考

えられた。また,季節によるバランスの違い

は見られなかった。

図 6 PM2.5のイオン当量

2.8 2.9 1.9 2.8 2.4 2.3 3.5 3.6 1.2

2.9 2.9 1.0

1.1 1.1 0.5

1.2 1.0 0.5 1.3 1.3

0.3

1.2 1.1

0.2

4.7 4.7

4.2 3.7

3.5 2.7

2.0 2.0

1.8

2.1 2.1

1.3

0.9 1.3

0.1 0.2

0.2 0.1

1.4 1.5 2.8 2.9

0.3

0.1

0.3 0.3 0.4 1.0 1.9 2.0

1.3 1.2

1.1 0.8

1.2 1.3

0.7

1.6 1.9

0.6

0.2 0.2

0.1 0.1

0.2 0.2 0.1

0.1 0.2

3.5 3.7

2.3 3.5

2.8 5.3

1.9 3.2

2.3

1.5 1.2

1.4

0

5

10

15

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

春 夏 秋 冬

g/m3

その他

無機陽イオン

アンモニウムイオン

塩化物イオン

硝酸イオン

硫酸イオン

元素状炭素

有機炭素

(15.0)(16.0)

(10.5)

(12.6)(11.2) (11.6) (11.7)

(13.4)

(6.4)

(12.6)(13.2)

(4.8)

y = 1.046xR² = 0.9837

0

50

100

150

200

250

300

350

0 100 200 300 400

陰イオン

(neq

/m3)

陽イオン(neq/m3)

春季夏季秋季冬季

-14-

神奈川県環境科学センター研究報告 第36 号 (2013)

Page 5: 神奈川県における微小粒子状物質(PM2.5) ~全体傾 …報告( Note ) 神奈川県における微小粒子状物質 (PM2.5) の特徴について (1)(平成24年度)

(3)成分分析期間中の日別構成成分

成分分析期間中の分析結果を図 7 に,期間

中に PM2.5 濃度が高くなった日の成分構成比

を図 8 に示す。

春季の日別構成成分をみると,濃度が高い

日は硫酸イオン濃度が高いことが確認され

た。また,期間中に質量濃度が高かった 5 月

9 日は大和,茅ヶ崎で硫酸イオンに加え,硝

酸イオン,「その他」(質量濃度と成分分析の

合計との差)の濃度が高くなったことにより,

全体の質量濃度を押し上げていた。一方,こ

の時犬越路は硝酸イオンと「その他成分」濃度

が高くならず質量濃度も高くなかった。

夏季は 7 月 26 日に質量濃度が高くなってお

り,この日は硫酸イオン,有機炭素濃度が高

かった。犬越路では有機炭素が大和,茅ヶ崎

とほぼ同水準となったものの,硫酸イオン濃

度は高くなっておらず,「その他」の濃度が高

かった。「その他」の具体的な成分は,水分

や有機炭素に含まれる官能基などが考えられ

るが,詳細は不明である。

秋季は大和,茅ヶ崎では 11 月 5 日に濃度が

高くなったが,これは有機炭素と硝酸イオン

濃度が高くなったことによる。犬越路では両

成分とも高くなっておらず,質量濃度は低

かった。

冬季も大和,茅ヶ崎は秋季と同様に有機炭

素,硝酸イオンの濃度が高い場合に全体の質

量濃度が高くなった(1 月 31 日)。犬越路は

有機炭素や硝酸イオンの濃度が高くならず,

質量濃度も高くならなかった。

今回の結果から,付近に人為的な発生源が

少ない山間地の犬越路と市街地である大和,

茅ヶ崎とを比較することにより,次のことが

推察された。

春季及び夏季の主要成分である硫酸イオン

は広域的に移動することがあり,犬越路まで

到達した場合に犬越路の質量濃度が市街地と

同程度となる。一方,秋季及び冬季の主要成

分となる硝酸イオンや有機炭素は犬越路まで

流入しておらず,市街地の近傍で発生したも

のと考えられた。

なお,植物由来の VOC からも粒子が生成さ

れることが知られており5),PM2.5 の削減対

策を検討するうえで,植物からの生成寄与割

合を把握することが必要である。本県で観測

される PM2.5 について,炭素成分の詳細は把

握されておらず,山間地である犬越路も含め

た試料の詳細分析を実施する必要があると思

われる。

図 7-① 各季節の日別構成成分(春季,夏季)

0

10

20

30

40

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

5/9 5/10 5/11 5/12 5/13 5/14 5/15 5/16 5/17 5/18 5/19 5/20 5/21 5/22

g/m3 その他

無機陽イオン

アンモニウムイオン

塩化物イオン

硝酸イオン

硫酸イオン

元素状炭素

有機炭素

春季

0

10

20

30

40

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

7/25 7/26 7/27 7/28 7/29 7/30 7/31 8/1 8/2 8/3 8/4 8/5 8/6 8/7

g/m3 その他

無機陽イオン

アンモニウムイオン

塩化物イオン

硝酸イオン

硫酸イオン

元素状炭素

有機炭素

夏季

-15-

神奈川県環境科学センター研究報告 第36 号 (2013)

Page 6: 神奈川県における微小粒子状物質(PM2.5) ~全体傾 …報告( Note ) 神奈川県における微小粒子状物質 (PM2.5) の特徴について (1)(平成24年度)

12%

6%

30%

14%0%

15%

1%

22%

大和5/9

31.3g/m3

有機炭素

元素状炭素

硫酸イオン

硝酸イオン

塩化物イオン

アンモニウムイオン

無機陽イオン

その他

11%5%

24%

20%0%

14%

1%

25%

茅ヶ崎5/9

36.9g/m3

有機炭素

元素状炭素

硫酸イオン

硝酸イオン

塩化物イオン

アンモニウムイオン

無機陽イオン

その他

21%

7%

51%

1%

17%1%

2%

犬越路5/9

15.2g/m3

有機炭素

元素状炭素

硫酸イオン

硝酸イオン

塩化物イオン

アンモニウムイオン

無機陽イオン

その他

22%

8%

29%1%11%

29%大和7/26

34.5g/m3

有機炭素

元素状炭素

硫酸イオン

硝酸イオン

塩化物イオン

アンモニウムイオン

無機陽イオン

その他

17%

8%

33%1%

0%

12%

0%

29%

茅ヶ崎7/26

36.6g/m3

有機炭素

元素状炭素

硫酸イオン

硝酸イオン

塩化物イオン

アンモニウムイオン

無機陽イオン

その他

19%

4%

14%

0%5%

58%

犬越路7/26

28.2g/m3

有機炭素

元素状炭素

硫酸イオン

硝酸イオン

塩化物イオン

アンモニウムイオン

無機陽イオン

その他

図 7-② 各季節の日別構成成分(秋季,冬季)

図 8-① 各季節における成分組成の比較(春季,夏季:調査期間中に最も濃度が高かった日 *)

*大和,茅ヶ崎で共通して濃度の高かった日を選定

0

10

20

30

40

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

10/23 10/24 10/25 10/26 10/27 10/28 10/29 10/30 10/31 11/1 11/2 11/3 11/4 11/5

g/m3 その他

無機陽イオン

アンモニウムイオン

塩化物イオン

硝酸イオン

硫酸イオン

元素状炭素

有機炭素

秋季

0

10

20

30

40

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

大和

茅ヶ崎

犬越路

1/22 1/23 1/24 1/25 1/26 1/27 1/28 1/29 1/30 1/31 2/1 2/2 2/3 2/4

g/m3 その他

無機陽イオン

アンモニウムイオン

塩化物イオン

硝酸イオン

硫酸イオン

元素状炭素

有機炭素

冬季

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神奈川県環境科学センター研究報告 第36 号 (2013)

Page 7: 神奈川県における微小粒子状物質(PM2.5) ~全体傾 …報告( Note ) 神奈川県における微小粒子状物質 (PM2.5) の特徴について (1)(平成24年度)

24%

8%

7%

28%

8%

12%

5%8%

大和11/5

27.8g/m3

有機炭素

元素状炭素

硫酸イオン

硝酸イオン

塩化物イオン

アンモニウムイオン

無機陽イオン

その他

23%

8%

5%

23%5%

11%

1%

24%

茅ヶ崎11/5

32.1g/m3

有機炭素

元素状炭素

硫酸イオン

硝酸イオン

塩化物イオン

アンモニウムイオン

無機陽イオン

その他

15%

3%

36%12%

34%犬越路

11/5

3.9g/m3

有機炭素

元素状炭素

硫酸イオン

硝酸イオン

塩化物イオン

アンモニウムイオン

無機陽イオン

その他

21%

12%

14%23%

4%

12%

2%12%

大和1/31

25.6g/m3

有機炭素

元素状炭素

硫酸イオン

硝酸イオン

塩化物イオン

アンモニウムイオン

無機陽イオン

その他

18%

7%

14%

23%11%

15%

1%11%

茅ヶ崎1/31

27.5g/m3

有機炭素

元素状炭素

硫酸イオン

硝酸イオン

塩化物イオン

アンモニウムイオン

無機陽イオン

その他

18%

5%

25%

6%10%

1%

35%犬越路

1/31

12.6g/m3

有機炭素

元素状炭素

硫酸イオン

硝酸イオン

塩化物イオン

アンモニウムイオン

無機陽イオン

その他

図 8-② 各季節における成分組成の比較(秋季,冬季:調査期間中に最も濃度が高かった日 *)

*大和,茅ヶ崎で共通して濃度の高かった日を選定

4 まとめ

県内の PM2.5自動濃度測定機による質量濃度

の推移を解析し,高濃度日の発生時期や日内変

動の特徴について検討した。その結果,日内変

動は季節によって異なる変動パターンを示し,

夏季は日中の濃度が高く,冬季は夜間に濃度が

高くなることが確認された。一方,短期環境基

準を目安とした高濃度日の発生時期については

年度によって状況が異なり,明確な特徴は見ら

れなかった。

次に成分分析の結果を用いて各季節の構成成

分の特徴や調査期間中の高濃度日の成分の特徴

について,市街地である大和(一般局),茅ヶ崎

(自排局)と犬越路(山間地の研究局)とを比較検

討した。その結果,夏季や春季の主要成分であ

る硫酸イオンは犬越路まで到達しており広域的

な移動を示唆するが,秋季及び冬季の主要成分

である硝酸イオンは犬越路まで輸送されておら

ず,市街地の近傍で発生した局地的な汚染であ

ることが示唆された。

参考文献

1)神奈川の大気汚染(平成 24 年度),神奈川県環

境科学センター

http://www.k-erc.pref.kanagawa.jp/center/taikiosen/con

tents.htm(2014.2.14 アクセス)

2) 大気汚染状況について(平成 23 年度),環境

省 http://www.env.go.jp/air/osen/index.html

(2014.2.14 アクセス)

3) 大気汚染防止法第 22 条の規定に基づく大

気の汚染の状況の常時監視に関する事務の

処理基準 (平成 13 年 5 月 環境省)

4) 大気中微小粒子状物質成分測定マニュアル

(平成 24 年 4 月 環境省)

5) 坂本和彦:微小粒子状物質 (PM2.5)の測定,

大気環境学会誌,46,61-68,(2011)

6) 小松宏昭ら:神奈川県内における微小粒子

状物質の経年変化について,大気環境学会講

演要旨集,503,(2012)

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神奈川県環境科学センター研究報告 第36 号 (2013)