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東京理科大学「光触媒研究推進拠点」
■平成28年度研究成果概要報告書
研究カテゴリー
(いずれかに○を付け
てください)
特定研究課題 ・ 一般研究課題 ・ 機器利用課題
研究課題 光触媒による消毒薬抗菌効果の亢進作用
研究代表者 所属 川崎医科大学 自然科学
氏名 吉岡大輔
1.研究の背景および目的[全角 600 字程度]
医療現場では清潔な環境が求められ,日々の洗浄や消毒・殺菌をはじめ,光触媒フィル
ターなどによる空気の浄化も行われている。しかし,細菌の微細構造や性状により,既存
の消毒薬では死滅しきれない場合がある。また,紫外線照射時の光触媒から発生する活性
酸素種による殺菌は耐性菌など様々な細菌種に対して効果はあるが,長時間の紫外線照射
が必要であり,基材へのダメージなどが問題点として挙げられる。
我々の研究グループでは,消毒薬と光触媒を積極的に併用することで,これらの問題点
を解決できると考えた。光触媒の有機物分解作用により細菌の表層構造に障害を惹起する
ことで,消毒薬の有効成分が菌体内へと浸透しやすくなり,処理時間の短縮化や,より低
濃度での抗菌効果が得られると期待できる。また,紫外線照射時間も短時間化できるため,
基材へのダメージの低減や,洗浄,殺菌の作業効率の改善が期待できる。
特に消毒薬との併用時の最も大きな効果と期待される光触媒の有機物分解作用による最
近表層構造に及ぼす影響について,光触媒による抗黄色ブドウ球菌効果・抗大腸菌効果に
ついて確認した上で,処理菌の超微形態変化を電子顕微鏡により観察し,併せて作用機序
を追求する。両菌種間における光触媒の有機物分解作用について検討する。
2.研究成果および考察(申請時の計画に対する達成度合いも含む)
[図表を除いて全角 800 字程度]
ペルオキソチタン酸をバインダーとし,酸化チ
タンを塗布,焼成したスライドガラス上に,黄色
ブドウ球菌および大腸菌を分散させた菌液を滴
下し,UV-A(0.210 mW/cm2)の照射を試みた。3 時
間後,黄色ブドウ菌の生菌数は照射前の 7.8 log10
colony forming units ( CFU/ml )(以下 log)から
6.6 log へと減少し(図 1),大腸菌の生菌数は 6.9
log から 3.5 log へと減少した(図 2)。なお,UV-A
照射のみでの生菌数は,黄色ブドウ球菌は 7.3 log に、大腸菌では 6.7 log に減少するに
とどまり,光触媒の有機物分解作用の効果が見られた。特に,大腸菌に対する抗菌効果が
図 1 黄色ブドウ球菌に対する抗菌効果
高いことが分かった。
次に,UV-A 照射のみおよび酸化チタン+
UV-A処理を行った菌の超微形態の SEM観察を
行ったところ,黄色ブドウ球菌,大腸菌とも
に,いずれの条件においても菌内容物の漏出
が観察できた(図 3 および図 4)。さらに,大
腸菌に対して酸化チタン+UV-A 処理では,処
理黄色ブドウ球菌に比べ,内容物の漏出が確
認された細菌の割合は
高く,生菌数の結果を支
持する結果が得られた。
以上の結果から,UV-A
照射のみでも黄色ブド
ウ球菌および大腸菌へ
の抗菌作用は確認でき
るが,酸化チタン存在下
での UV-A 照射は高い抗
菌作用を惹起すること
が判明した。UV-A 照射
により酸化チタン表面
で発生した活性酸素種
が,細胞膜の障害をもた
らしたと考えられる。し
かしながら,UV-Aおよび酸化チタン+UV-A処理は,外膜を持ちペプチドグリカン層の薄い
大腸菌に対しては効果が高いものの,厚いペプチドグリカン層を細胞壁に有する黄色ブド
ウ球菌に対しては,UV-Aおよび酸化チタン+UV-A処理に対する効果が薄かった。活性酸素
種による有機物分解作用はペプチドグリカンに対してはたらいているが,黄色ブドウ球菌
の厚いペプチドグリカン層に阻まれるために,菌体内まで達し得なかったため,効力が乏
しいと考えられる。
本研究の題目および申請において,消毒薬との併用を計画していたが,我々の研究施設
内での実験条件の確定に多大な時間を割いてしまったため,期間内では光触媒の抗菌効果
の検証,超微形態の観察による作用機序の追究にとどまり,当初の計画通りには進まなか
った。
図 2 大腸菌に対する抗菌効果
未処理の
ブドウ球菌
UV-A照射後のブドウ球菌
TiO2+UV-A照射後のブドウ球菌
図 3 黄色ブドウ球菌の超微形態変化
未処理の
大腸菌
UV-A照射後の大腸菌
TiO2+UV-A照射後の大腸菌
図 4 大腸菌の超微形態変化