歯科保存学系「根管治療薬剤の選択基準がよく分かりま...

3
Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/ Title Author(s) �, �; �, Journal �, 111(2): 212-213 URL http://hdl.handle.net/10130/2379 Right

Upload: others

Post on 26-Jun-2020

2 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,

Available from http://ir.tdc.ac.jp/

Title歯科保存学系「根管治療薬剤の選択基準がよく分かりま

せん。使い分けのマニュアルを教えてください。」

Author(s) 中川, 寛一; 宮下, 卓

Journal 歯科学報, 111(2): 212-213

URL http://hdl.handle.net/10130/2379

Right

根管治療薬剤の役割は大きく3つある。根管の消毒,根尖部における創傷治癒の促進,根管治療後の疼痛緩和である。従って実際の臨床ではこれら目的に応じた薬剤の選択を考慮する必要がある。また,応用環境(根管の状態)も重要である。

1.根管の環境歯髄疾患に起因する抜髄根管では歯髄の摘出部位

によってその接触界面における組織に違いが生じる。根尖部において歯髄が残存する場合と歯髄のほとんどが摘出され歯根膜が創面となる場合である。これに対して根尖性歯周炎ではすでに根管内に生活組織は無く(息肉の増生を除けば),根尖部の組織は歯根膜あるいは病態を構成する肉芽組織と言うことになる。

抜髄を例にとって見ると,当教室において過去50年余にわたって実施されてきたヒト生活歯髄を用いた臨床病理学的検討結果からの結論として比較的長期にわたって残存する傾向のある打診不快感,挺挙感の持続期間,さらに残存歯髄における炎症所見の消退から術後5-10日が抜髄創面の治癒に関する一応の目安となる。一方,創傷治癒に係わる重要な事項に感染がある。抜髄根管における根管内細菌の残存について吉田ら(1995)は不可逆性歯髄炎の69.2%,可逆性歯髄炎の24.0%に細菌の残存を認めたと

報告した。また紅林ら(1999)は同様な結果を得るとともに,根管充填前におけるコロニ-数が10以上の根管での無菌獲得の困難性を示した。先の吉田の検索では不可逆性歯髄炎と可逆性歯髄炎のうち細菌の残存を認めた症例のそれぞれ55.6%と33.3%に100以上のコロニ-が認められたとされ,これらの根管では非常に高い確率で根管充填後に根尖性歯周炎を惹起する可能性が示唆されている。このように現在の根管内細菌叢に関する検討結果は処置当該歯の臨床診断名の如何に係わらず全ての根管は感染していると考えるのが妥当であることを示している。このことからいわゆる麻酔抜髄即時根管充填の可否について検討が加えられている。

2.根管貼薬(剤)の選択根管治療消毒薬はいわゆる従来薬である非特異製

剤と抗菌剤を主体とする特異製剤とに分類されている。いわゆる外傷性損傷の消退を持って根管充填に移行するとすれば,抜髄根管に対する第一選択として歯髄創面に応用された剤品によって長く炎症が継続するものは好ましくない。また抜髄根管では細菌感染は歯髄(腔)に限局して起きており,根管壁への細菌の進入はほとんど無いかあってもごく表層にとどまる。そのため強力な殺菌,消毒作用のある薬剤は必要ないと考えられる。以上のようなことを考慮

臨床のヒント

Q&A20

歯科保存学系

Q&Aコーナーを新設しました。まず東京歯科大学の3病院の臨床研修歯科医から寄せられた質問に対しての回答です。回答は本学3施設の専門家にお願い致します。内容によっては基礎や臨床,あるいは歯科や医科と複数の回答者に依頼する場合もあります。毎号掲載いたしますので,会員の皆様もご質問がございましたら,ぜひ東京歯科大学学会までeメールかファックスで依頼していただきたいと存じます。必ずご期待に添えることと思います。今号は根管治療薬剤の選択基準に関する質問です。

Question

根管治療薬剤の選択基準がよく分かりません。使い分けのマニュアルを教えてください。

Answer

歯科学報 Vol.111,No.2(2011)212

― 84 ―

するとフェノ-ル系あるいは水酸化カルシウムがその選択肢となろう。水酸化カルシウム系剤品の効果の主たるものは,高アルカリ環境下での細菌への直接的な作用,炎症巣の沈静,接触界面での硬組織形成を主体とする生物学的作用などである。その特徴としては,他の非特異性薬剤の効果が比較的短期間であるのに対して,短期~中・長期的な応用が可能なことである。

抜髄根管と言えば残髄炎や残髄そのものを忌避するあまりパラホルム系の剤品が多用される傾向にある。本剤はホルムアルデヒドガスの発生により持続的な消毒・除痛作用があるが,長期間の応用は根尖歯周組織に障害を与える可能性がある。また,最近これらの剤品応用後のアナフィラキシ-が報告されていることも忘れてはならない。患者さんの薬剤耐性に変化が生じ,日常生活においてもシックハウス症候群に代表されるようなホルマリンアレルギ-,感作が確認されている。ごく微量な根管治療薬とはいえ,時としては重大な事例に発展する可能性を忘れてはならない。

先にも示したように抜髄根管であっても根管の感染は無視できない。一例として根管治療用薬剤であるクレオドン(2-Methoxyphenol)をヒト抜髄根管に応用し,臨床病理学的見地から検討した鳥居

(1976)によれば,特に抜髄前の臨床診断名が不可逆性歯髄炎のもので病理組織所見が良好,不良の比率が同率であり,健全歯や齲蝕症第2度に対して同様な処置をほどこしたものとの間に有意差が認められている。抜髄根管における根管内無菌化の確認においては保険診療上からもその適否が分かれるところではあるが,少なくとも抜髄に至った臨床診断名から根管内汚染の程度について考えることが必要である。

近年では抜髄根管,感染根管に関わらず機械的・化学的清掃を十分に行い,根尖周囲組織への為害物質を排除することに主眼がおかれているが,複雑な根管系への無菌化をはかるために状況に応じた薬剤を貼薬することは必要不可欠である。特に感染根管では根管内のフロ-ラまたは根尖部におけるバイオフィルムの形成,各種剤品に対する感受性が治癒の進捗に影響を与える。最近の傾向として従来薬に対する感受性の低下や難治性の症例における嫌気性菌

の関与が挙げられる。根管内の細菌叢は複雑で,混合感染が指摘されている。根管培養検査は従来こうした細菌の存在そのものにスポットをあて,無菌状態の指標として活用されてきた。近年,感染菌種の中でもいわゆる嫌気性菌の存在が,難治性の根端性歯周組織炎の原因菌として注目されている。それに伴って特異性薬剤,すなわち抗菌剤の局所的あるいは全身的な投与による治療が着目されている。感染菌種の特定と,それに感受性を示す適切な抗菌剤の投与によって,選択的かつ効果的な成果が期待できる。

Answer:中川寛一,宮下 卓東京歯科大学歯科保存学講座

文 献1)加藤広之,淺井康宏:水酸化カルシウムの根管治療剤としての応用.日歯医師会誌,50:31~36,1998.

2)中川寛一,淺井康宏:根管形成・根管充填のための総合戦略根管系-副根管の理解と効果的な根管形成法.ザ・クインテッセンス,19:67~78,2000.

3)須田英明,和達礼子,中田和彦,鈴木一吉,中村 洋,林 宏行,戸田忠夫:根管貼薬剤使用のためのガイドライン.日歯医学会誌,23:38~48,2004.

4)木嶋晶子,西野 洋,梅田二郎,片岡葉子:歯科用根管治療剤に含まれるホルムアルデヒドによる即時型アレルギー:2例の症例報告と過去報告例のまとめ.アレルギー,56:1397~1402,2007.

5)野入由一郎,恵比須繁之:難治性根尖性歯周炎とバイオフィルム⑵根尖孔内・外側のバイオフィルムの特徴とその対処法.歯界展望,110:1029~1035,2007.

6)加藤大輔,小山隆夫,中野雅子,新井 高,前田伸子:難治性根尖性歯周炎から分離される微生物に対する各種根管消毒剤の抗菌効果の検討.日本歯科保存学雑誌,53:58~65,2010.

根管治療・消毒剤の種類と特徴・効果

ホルマリン系

パラホルム系

パラクロロ フ ェノール系

グアヤコール

水酸化カルシウム系

消毒作用の強さ ◎ ◎ ○ △ ○

消毒作用の持続性 △ ◎ △ △ ◎

組織壊死の作用 ○ ◎ ○ ― △

鎮痛鎮静作用 △ ― ◎ ◎ △

組織治癒促進作用 ― ― ― ― ◎

歯科学報 Vol.111,No.2(2011) 213

― 85 ―