研究にロマンを求めて - tokyo metropolitan university...2 研究テーマ...

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VOL.9 研究にロマンを求めて 研究にロマンを求めて ~研究者から学生へのメッセージ~

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Page 1: 研究にロマンを求めて - Tokyo Metropolitan University...2 研究テーマ 数学の研究はどのように行われているか?カテゴリー:数学 研究者名:Martin

VOL.9

研究にロマンを求めて研究にロマンを求めて~研究者から学生へのメッセージ~

Page 2: 研究にロマンを求めて - Tokyo Metropolitan University...2 研究テーマ 数学の研究はどのように行われているか?カテゴリー:数学 研究者名:Martin

目 次

研究テーマ 研究者

発行:公立大学法人 首都大学東京

所属:都市教養学部 都市教養学科   人文・社会系 社会学コース研究にロマンなんて存在しない

カテゴリー:社会学 丹野 清人 准教授 1

所属:都市教養学部 都市教養学科   理工学系 数理科学コース数学の研究はどのように行われているか?

カテゴリー:数学 Martin Guest(マーティン ゲスト) 教授 2

建築をめぐる「水」 ― 自然の流れに ―カテゴリー:建築学(建築環境学、建築環境設備) 市川 憲良 教授 3

所属:システムデザイン学部   航空宇宙システム工学コース航空宇宙を舞台にした電磁波応用の研究

カテゴリー:環境計測工学(リモートセンシング)、通信工学 福地 一 教授 4

所属:都市環境学部 都市環境学科   建築都市コース

カテゴリー:放射線科学

核医学画像と機器及び保健物理・放射線教育に関する研究

福士 政広 教授 5所属:健康福祉学部 放射線学科

Page 3: 研究にロマンを求めて - Tokyo Metropolitan University...2 研究テーマ 数学の研究はどのように行われているか?カテゴリー:数学 研究者名:Martin

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研究テーマ 研究にロマンなんて存在しないカテゴリー:社会学

研究者名:丹野 清人 ( タンノ キヨト ) 准教授所  属:都市教養学部 都市教養学科     人文・社会系 社会学コース担当科目:【学部】社会調査法、社会調査法Ⅱ、社会調査法演習、     社会学特殊講義、社会学 A、社会学 B     【大学院】社会学特論演習、社会調査法特殊講義

 自らの研究のロマンを書くようにとの依頼だが、研究していて楽しいと思ったことは数えるほどし

かない。むしろ、きつい、苦しいと思うことが多い。年齢を重ねる毎にその傾向が強まっていると思う。

実際、研究のなかに楽しさを感じていたのは大学院生時代で、給料をもらうようになって以降はそれ

がない。世間からは学者様と思われているのかもしれないが、自分が教えている学部生や大学院生で

すら私が書いた本を読んだことがある者なんて皆無に近いのだから、世の中になんか影響を与えるこ

となんてできない。それでもやり続けているのはなぜだろう。

 このことを考えていると、一つの回答に辿り着く。昨年、博士号取得論文を下に本を出させていた

だいた。そのあとがきに大学院の指導教官に対して「何もしないでくれてありがとう」などと指導が

なかったことに感謝を述べ、半分嫌みのようなことを書いてしまった。その指導教官はもう一つのこ

とを実は言っていた。「すべての社会科学者は現代史家でなければならない」と。私の主たる研究対象

は、日本の工場で働いている外国人労働者とその労働者を工場に配置していくブローカーたちである。

新聞記事や週刊誌の記事等で彼・彼女たちの問題は後々まで残るかもしれない。しかし、たまたま新聞

記者や雑誌記者にあうことができた人の言葉は伝わるかもしれないが、そうでない人々がどのような

生活をこの国でしていたのか、そのような生活が日本のさまざまな社会構造とどのように結びついて

いたのかといったことは、ジャーナリズムに任せるだけでは後の人々に伝わることは無くなってしま

うだろう。実際今から20年前に、パキスタン人、バングラデシュ人、イラン人の人々が大挙して日本

就労にきたが、彼らのことは事実としては残っていても、当時の詳しい生活状況・社会構造に関する記

録はほとんどないと言っていい。外国人かもしれないが、この国の歴史のある部分で、その時代の社

会問題にまでなった人々ですら、記録が残らなければその人々の存在自体がなきものにされかねない。

 今を生きる人間として、自分と同時代に生きている人々が、どのような状態で暮らし、それがどの

ように社会と関連していたのか。これを書き記し、後の人々に記録を残すこと、それが自分の使命で

あるし職業であると思っている。だから、きつくて苦しいことばかりでもなんとかやり続けている。

私は、夢やロマンなんか持つ必要はないと思っている。自分の職業に対する使命感を自覚することの

方が大切なのではないだろうか。むしろ最終的にはこれができれば一般に夢と言われるものをなんと

かかなえていくことができるのでないだろうかと思っている。

研究概要

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研究テーマ 数学の研究はどのように行われているか?カテゴリー:数学

研究者名:Martin Guest(マーティン ゲスト) 教授所  属:都市教養学部 都市教養学科 理工学系 数理科学コース担当科目:数学英語、幾何学特別講義Ⅲ

 数年前の Andrew Wiles によるフェルマーの予想の解決はゆっくりと進歩する数学の存在を実証しま

した。また、19 世紀の科学革命の核心として用いられたそれ以前の様々な計算法が現在も重要な技術

として使われているという事実も、数学がおおらかで古典的な学問であるように思われる原因の 1 つ

かもしれません。

 しかしながら実際は、驚くかもしれませんが、数学の研究はとても競争的であり、特にここ 50 年間

は急速に進歩しています。というのも、現在は電子メールの普及や旅行が簡単になったことで、研究

者の交流が盛んになり、有名な研究機関に所属しない個人の研究者でも最先端で研究を進めていくこ

とが可能になったからです。

 実際多くの数学者はどのように研究をしているのでしょうか?一般的な研究の流れは次のようにな

ります。まずは方程式を解く、一般的な法則を発見する、ある数学的対象の分類、等の問題を見つけ

るところから始まります。次に問題解決の為の有用な技術を得るために文献を調べます。そのために

は充実した数学の図書設備を持つことが重要です。そして問題の特殊な(より具体的な)場合につい

て考えます。これは、数学的な実験と考えて良いでしょう。その際、コンピュータによる計算も具体

的な問題を解決するプロセスから本来の問題を解決する為のヒントや難しさの本質を発見することが

できます。

 不幸にも何百年間もの研究で十分な進歩が見られなかったとき、問題は " 未解決問題 " や " 予想 " と

して後世に託されることになりますが、別の研究者や別のアプローチで研究が続けられていくことも

あります。最初に挙げたフェルマー予想も、長い間未解決問題として知られていました。新しい分野

を開拓するための研究は混沌としていますが、一度その困難さが解決されてしまうと、その中心をな

すアイディア、理論はすぐに魅力的な事柄へと変化します。ここまでくると、元々の問題が解決した

かということより、数学的に重要で未来まで有用な発見があったかどうか、が重要になってきます。

いつまでも時代遅れとならない、画期的な発見であるか?ということです。

 数学に興味を持つ学生もこのような発見の喜びを経験することができます。なぜなら身近な演習問

題を解くためにも研究者と同様の技術と手法が必要で、自ら問題を解き、正解に辿り着くことで、研

究者が発見したときのような気持ちの高揚を体験することができるのです。

 このような体験を可能にすることが大学で数学を教える教員としての責任であると考えています。

研究概要

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研究テーマ 建築をめぐる「水」 ― 自然の流れに ―カテゴリー:建築学(建築環境学、建築環境設備)

研究者名:市川 憲良(イチカワ ノリヨシ) 教授所  属:都市環境学部 都市環境学科 建築都市コース担当科目:建築環境システムA、建築環境システム設計、     建築環境学演習など

 「しばらく水の研究をやってみては?」の一言が、この分野で仕事をしてきたきっかけです。それまでの道程はやや長くて複雑。工業高校で電気を、専門学校で2年間機械設計を学んだ後、冷凍機メーカの陸上プラント設計部に勤務。入社間もない時、会社の将来構想で建築士の必要性があげられた。何故かこれに敏感に反応してしまい、勤務後に建築を学ぶことを決意。しかし1年後、この流れに変化が生じ、M大学の建築学科環境設備系研究室に技術員として転職していた。これが建築環境学や環境設備に触れた最初のきっかけ。昼間は空気、光、熱および音を扱う2つの研究室で実験装置の作製、基礎的実験・データ収集及び整理等を、夜は建築学科の学生となった。4年後の卒業と同時に、新たに着任された「水」を専門とする先生の研究室へ配属変更。やがて一言 ・・・・・。 私の専門は建築の中の環境学や環境設備。建築空間における音、熱、光、空気、水などの環境要素を扱っている分野。自然の環境要素に似せた快適な建築空間を創出しようと、風土に合った建築的手法や設備的手法を用いた努力がなされてきた。建築的手法は自然の環境要素を取り込むための「しかけ」。設備的手法は人工的にそれを補完するための「しかけ」。ただし、「水」に関しては補完的というより人間や建築にとって必須の設備である。 建築や都市の「水」の供給方法、排除方法、装置・器具の評価、再利用、雨水利用、有効利用、水回り空間及び演出など様々な切り口から研究に携わり三十数年が経過した。得られた成果・知見・提案等は、基準や設計データなどにも活用されているが反省も多い。 いま種々のイスを用意した空間があるとする。犬はイスの下も含め最も安全な居場所を見抜く。しかし曖昧な適応性を有する人間は全てのイスに座るだろう。そして次なる要求へ。これまで「しかけ」を中心に工学的研究が多かったが、人間の「脳」・

「感覚」・「リズム」などと関連づけた研究の重要性を感じる。 2005 年の都立系4大学統合で都立短大から本学へ。最近、細胞増殖をモデルとした水供給システムの開発、待ち時間や使用感に関する研究、水の演出なども興味ある研究テーマに加えた。一方、1775 年にイギリスで特許申請されたバルブ・クローゼットは単純な様々の「しかけ」をもつ。200 年以上の時を越えた今も、形を変えて一般に用いられていることへの驚きと感動を覚えながら、研究・開発の原点をそこに観る。

研究概要

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研究テーマ 航空宇宙を舞台にした電磁波応用の研究カテゴリー:環境計測工学(リモートセンシング)、通信工学

研究者名:福地 一(フクチ ハジメ) 教授所  属:システムデザイン学部 航空宇宙システム工学コース担当科目:宇宙電波工学、航空宇宙情報システム工学、     宇宙電波工学特論、宇宙からみた地球環境

 研究の面白さは大学で学んだ。学部学生の私は、研究分野に惹かれてというよりは教授、助教授の人となりや授業に好感をもって研究室を希望した。その結果、修士論文は希土類コバルト金属間化合物の磁気特性という内容である。現在の専門とは異なるが、この時代に、行き詰ってもがむしゃらにやっていると不思議と報告等の締め切り前夜に何かが見えてくるという研究の醍醐味を体感させていただいた。時は大学も世間も就職難であったが、「何か研究ができれば」という思いで国立研究機関の門をたたいた。その国研も大きな電総研(当時)でさえも1,2名しか採用しないという状況だったが、なぜか郵政省の電波研究所(略称:電波研 現在の情報通信研究機構)だけは 7 名も採用するという恩恵にあずかってそこに採用となった。この多くの採用の理由は 1977 年当時、日本初の通信衛星 CS, 放送衛星 BS, ミリ波通信衛星 ECS といった静止通信・放送衛星の実験が本格化し、電電公社(当時)やNHK と一緒に電波研がこれらの実験研究の推進をするため、とにかく専門はどうでも体力ある実験要員が必要だったということらしい。ともあれ、これが私の宇宙との出会いである。 電波研も通信総合研究所、情報通信研究機構と名称を変えたが、私は衛星通信、衛星放送、ディジタル放送、電波伝搬の研究を実施してきた。特に、1970 年代の電波研にはあらゆる波長の電磁波に関する著名な研究者が居り、電磁波研究で世界をリードしていたと思う。その中でいくつもの実験衛星を用いて多くの先輩、仲間と切磋琢磨できたのは非常に幸いであった。 縁あって 2006 年に首都大学東京に奉職することとなったが、経験をふまえて標記の研究テーマを掲げている。具体的には、(1)ミリ波高速衛星通信・放送の研究、(2)合成開口レーダによる宇宙からの地球環境計測の研究 を当面の 2 本柱として NHK や JAXA 等と連携して研究を進めている。前者は、アジア地域も含めた大容量衛星通信・放送のための降雨減衰対策技術が、後者は昼夜・天候・噴煙の有無によらない地上高分解能識別技術が研究課題である。いずれも電波の伝わり方の理論がベースとなっている研究課題といえる。写真1は3つの衛星電波の降雨減衰を測るパラボラアンテナ、写真2は解析に使用している世界初の 4 偏波合成開口レーダを搭載した日本の ALOS(陸域観測衛星)のイメージ図である。

研究概要

写真1 衛星電波受信アンテナ 写真2 衛星 ALOS イメージ図

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カテゴリー:放射線科学

研究者名: 福士 政広(フクシ マサヒロ) 教授所  属:健康福祉学部 放射線学科担当科目:核医学検査技術学、核医学診断機器学、核医学検査技術学実習、

放射線安全管理学、放射線安全管理学実験、放射化学、放射線科学実験、核医学臨床実習、ペイシェントケアⅡ、核医学物理学・保健物理学特論・同演習、核医学物理学・保健物理学特講・同演習など

 核医学との関わりは、新卒で昭和52年に東京都立駒込病院放射線科 RI 室に配属されたのが始まりです。当時も核医学は放射線診断部門で最もホットな領域でした。新しい診断薬が次々と開発され、その有用性の臨床試験を手伝うことで核医学診断にのめり込んでいきました。その後、診療放射線技師養成機関の進展(養成所→短期大学→4年制大学→大学院)に伴い、臨床の場から教育の場へと身を移し、現在に至ります。その間、核医学分野の他、保健物理学分野である自然放射線の調査研究、放射線防護材の開発研究と放射線教育に関わる実践的研究を行ってきました。 ここで、私と福士研究室が取り組んでいる研究とその成果をご紹介いたします。スタッフは現在のところ核医学画像と機器及び保健物理・放射線教育に関する研究を17名(教授:1名,客員研究員:3名,博士課程:6名,修士課程:5名,学部4年:5名,留学生:1名(エジプト))で行っております。PET( 陽電子放射型 CT) に関する研究  18F-FDG および18F-FLT PET/CT の診断精度の改善を目的とした CAD アルゴリズムの開発  PET/CT 検査における PET 画像のノイズ予測システムの構築 など医療被ばく解析および施設遮蔽に関する研究

幹細胞を考慮した皮膚簡易モデルにおける放射線エネルギー付与解析モンテカルロシミュレーションを用いたPET 検査における患者臓器線量評価含鉛ガラスの消滅放射線に対する遮蔽効果の検討無鉛ボードの遮蔽能力に関する研究 など

環境放射線・能に関する研究各種環境下におけるラドンおよびトロンの動態メカニズムの解析伊豆・小笠原諸島における環境放射線 ・ 能の空間分布の解析 など

放射線教育に関する研究第2回日本診療放射線教育学会(平成20年8月)大会長として教育講演 など

研究概要

研究テーマ 核医学画像と機器及び保健物理・放射線教育に関する研究

CT画像 Fusion(CT+PET)画像〔直腸癌リンパ節転移の症状〕

PET画像

〔小笠原諸島における環境放射線・能測定〕

〔医療施設等で用いられている含鉛ガラス〕

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登録番号 20(11)

研究にロマンを求めて~研究者から学生へのメッセージ~

vol.9

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