産婦人科領域における 抗生剤予防投与 産科婦人科 クリニカル・...
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産婦人科領域における抗生剤予防投与
産科婦人科クリニカル・クラークシップ課題発表
発表内容
1.総論
2.背景
3.予防投与の理論
4.予防的抗生剤投与の際の抗生剤のスペクトラムと薬物動態
5.抗生物質の副作用
6.臨床的考察と推奨例
①具体的投与法
②ペニシリンアレルギー
③費用対効果
7.サマリー
発表内容
1.総論
2.背景
3.予防投与の理論
4.予防的抗生剤投与の際の抗生剤のスペクトラムと薬物動態
5.抗生物質の副作用
6.臨床的考察と推奨例
①具体的投与法
②ペニシリンアレルギー
③費用対効果
7.サマリー
総論
感染の予防と、抗生剤の投与法については、
エビデンスに基づいた方法を確立する必要がある。
抗生剤の必要性を適切に判断する事が重要
術後合併症⇒感染症が 多
抗生剤の予防的投与は、処置によって有効な場合がある。
抗生剤の乱用は、
①耐性菌を生み出す原因となる
②副作用を及ぼす
しかし
従って
術後患者の5%に及ぶ術後患者の5%に及ぶ
発表内容
1.総論
2.背景
3.予防投与の理論
4.予防的抗生剤投与の際の抗生剤のスペクトラムと薬物動態
5.抗生物質の副作用
6.臨床的考察と推奨例
①具体的投与法
②ペニシリンアレルギー
③費用対効果
7.サマリー
婦人科領域における術後感染症
感染性膣炎⇒子宮摘出後の蜂巣炎のリスクと相関
膣常在細菌膣の解放
皮膚常在菌(皮膚ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌)腹部の切開創
嫌気性細菌、グラム陰性好気性細菌会陰・鼠径部の切開創
グラム陽性好気性球菌(ブドウ球菌など)通常の切開創
術後感染症の起因菌
婦人科領域における感染症
経頚管処置
①子宮卵管造影②ソノヒステログラフィー③子宮内避妊具の挿入④子宮内膜の生検・拡張・掻爬
膣上部や頚管粘膜の細菌
子宮内膜や卵管に播種
子宮内膜炎あるいは骨盤腹膜炎
発表内容
1.総論
2.背景
3.予防投与の理論
4.予防的抗生剤投与の際の抗生剤のスペクトラムと薬物動態
5.抗生物質の副作用
6.臨床的考察と推奨例
①具体的投与法
②ペニシリンアレルギー
③費用対効果
7.サマリー
予防投与の理論
宿主の組織に取り込まれた抗生剤は自然免疫機構を賦活することができ、傷の細菌を殺傷する手助けになる。
予防投与の理論
予防投与の時期
細菌に汚染される直前もしくは同時期
婦人科的処置では、切開開始約1時間前(麻酔導入時)
①長時間の手術②1500ml以上の出血を伴う手術
追加投与が必要となる場合
手術開始以前や終了後の抗生剤投与は必要ない
抗生剤の半減期に応じて投与間隔を決定
発表内容
1.総論
2.背景
3.予防投与の理論
4.予防的抗生剤投与の際の抗生剤のスペクトラムと薬物動態
5.抗生物質の副作用
6.臨床的考察と推奨例
①具体的投与法
②ペニシリンアレルギー
③費用対効果
7.サマリー
予防的抗生剤投与の際の抗生剤のスペクトラムと薬物動態
セファロスポリン系抗生剤は、その広域なスペクトラムとアレルギーおよび副作用の頻度の低さ故に、外科的処置の際にもっとも選択される抗生剤として名を馳せてきた。
セファゾリン(セファメジンα)
①利便性の高い半減期(1.8時間)②低価格(1g注534円)③嫌気性細菌にスペクトラムを持つ他のセファロスポリン系抗生剤と同等の効果を有する
発表内容
1.総論
2.背景
3.予防投与の理論
4.予防的抗生剤投与の際の抗生剤のスペクトラムと薬物動態
5.抗生物質の副作用
6.臨床的考察と推奨例
①具体的投与法
②ペニシリンアレルギー
③費用対効果
7.サマリー
抗生物質の副作用
軽い皮疹 アナフィラキシー
様々な重症度
下痢
例えば、ペニシリンによるアナフィラキシーの発生率は0.2%しかなく、死亡率は0.0001%であると報告されている。(頻度としてはかなり稀)
発表内容
1.総論
2.背景
3.予防投与の理論
4.予防的抗生剤投与の際の抗生剤のスペクトラムと薬物動態
5.抗生物質の副作用
6.臨床的考察と推奨例
①具体的投与法
②ペニシリンアレルギー
③費用対効果
7.サマリー
考察と推奨予防的抗菌薬を選択するに当たり、以下のような要素を考慮しなくてはいけない。
①毒性が低い。②確立された安全性の記録がある。③重症感染症の治療薬として日常的に使われていない。
④ も感染を起こす可能性の高い微生物に対するスペクトラムを有している。
⑤関連のある組織に有効な濃度が届く。⑥手術時に術野に存在することが保証されている。
①毒性が低い。②安全性が確立されている。③重症感染症の治療薬として日常的に使われてい
る薬剤ではない。④ も感染を起こす可能性の高い微生物に対する
スペクトラムを有している。⑤関連のある組織に有効な濃度が届く。⑥手術時に術野に移行している。
発表内容
1.総論
2.背景
3.予防投与の理論
4.予防的抗生剤投与の際の抗生剤のスペクトラムと薬物動態
5.抗生物質の副作用
6.臨床的考察と推奨例
①具体的投与法
②ペニシリンアレルギー
③費用対効果
7.サマリー
具体的抗生剤の投与法
①膣式・腹式及び腹腔鏡下子宮摘出術
②腹腔鏡下検査と試験開腹
③子宮卵管造影(HSG)とソノヒステログラフィー、
子宮鏡検査④IUDと子宮内膜生検⑤人工中絶⑥腸管を含む手術に対する適切な予防⑦外科的手術における感染性心内膜炎の予防⑧導尿における尿路感染症予防
①膣式・腹式及び腹腔鏡下子宮摘出術
・膣式・腹式子宮摘出術
・腹腔鏡補助下子宮摘出術
具体的抗生剤の投与法
予防投与が有用
データはないがやはり予防投与が有用であると思われる。
②腹腔鏡検査と試験開腹
膣や腸管の操作を含まない腹部の清潔手術
予防的投与を薦めているデータはない
具体的抗生剤の投与法
腹腔鏡検査や試験開腹では抗生剤の予防投与は必要ない
③子宮卵管造影・ソノヒステログラフィー・子宮鏡検査
具体的抗生剤の投与法
抗生剤必要なし ドキシサイクリン(1日2回・5日間投与)
PID既往なし 卵管拡張があった場合
~(1)子宮卵管造影~
~(2)ソノヒステログラフィー~
子宮内に水などを入れた上で行うエコー検査
技術的にはHSGに類似していて、
起こりうるリスクも同様と考えられる
具体的抗生剤の投与法
③子宮卵管造影・ソノヒステログラフィー・子宮鏡検査
~(3)子宮鏡検査~
子宮鏡下の内膜レーザーアブレーションや内膜切除術
具体的抗生剤の投与法
はっきりしないがアモキシシリンとクラブラネートの投与が有用であるというデータがある。
③子宮卵管造影・ソノヒステログラフィー・子宮鏡検査
④IUDと子宮内膜生検
・感染のほとんどは使用後 初の数週~数ヶ月に発症
・IUD自体より、IUD挿入時のコンタミが感染に関連
・抗生剤の予防として、ドキシサイクリンやアジスロマイシンを使用した4つの無作為試験が行われた。
具体的抗生剤の投与法
~IUD~
効果なし
④IUDと子宮内膜生検
• 子宮内膜生検の感染症については、利用しうるデータはない
• その発生は無視してよいものとされている
• 抗生剤なしでの生検が推奨される
具体的抗生剤の投与法
~子宮内膜生検~
⑤人工妊娠中絶
抗生剤投与された患者のプラセボ群に対する
生殖器感染症のオッズ比
リスクに関わらず、予防抗生剤に効果あり
0.560.380.650.630.58
PID既往あり
クラミジア陽性者
PID既往なし
クラミジア陰性者
Total
具体的抗生剤の投与法
⑤人工妊娠中絶
・中絶後のPIDにかかるコストは、予防にかかるコストより高くつく。
・テトラサイクリンやニトロイミダゾールなどは中絶後PIDに対して効果あり。
処置1時間前100mg処置後 200mg
ドキシサイクリン 内服
具体的抗生剤の投与法
も効果的で安価な方法
⑥腸管を含む手術に対する適切な予防
腸管に対する適切な術前感染予防は以下の通りとされている。
・術前処置(下剤など)に経口抗生物質は必要なし
・術前の抗菌スペクトルの広い非経口抗生剤投与
具体的抗生剤の投与法
⑦外科的手術における感染性心内膜炎の予防
高リスク群
人工弁や生体弁
心内膜炎の既往
先天性心疾患(単心室、大血管転移症、ファロー四徴症)
外科的な肺血管シャント術
中リスク群
先天性心疾患のほとんど(高リスク群、低リスク群以外)
弁機能異常(リウマチ性心疾患など)
肥大型心筋症
逆流を伴う僧帽弁逸脱症
具体的抗生剤の投与法
(心内膜炎に対する予防が推奨されるもの)
低リスク群
ASD
ASD、VSD、PDAの外科的修復
冠動脈バイパス術の既往
逆流を伴わない僧帽弁逸脱症
生理的、機能的心雑音
弁機能異常のない川崎病の既往
弁機能異常のないリウマチ熱の既往
ペースメーカーや細動除去器
⑦外科的手術における感染性心内膜炎の予防具体的抗生剤の投与法
(心内膜炎に対する予防が推奨されないもの)
外科的手技における心内膜炎の予防
心内膜炎の予防が推奨されているもの
・胃腸管
腸粘膜を含む外科手術
・尿生殖器管
膀胱鏡検査
尿道拡張
その他の手技については感染が存在する場合のみ
具体的抗生剤の投与法
心内膜炎の予防が推奨されていないもの
腟式子宮摘出術
尿道カテーテル
子宮頚管拡張と内膜掻爬術
人工中絶
不妊に対する手技
子宮内避妊器具の挿入と抜去
具体的抗生剤の投与法
尿生殖器、胃腸管の手技によって感染症を起こしやすい患者に対する心内膜炎の予防のための抗生剤の使用法
具体的抗生剤の投与法
Allergy to ampicillin or amoxicillin(+)
Allergy to ampicillin or amoxicillin(-)
Allergy to ampicillin or amoxicillin(+)
Allergy to ampicillin or amoxicillin(-)
バンコマイシン1gを1~2時間かけて静注。点滴は手技開始前30分以内に終了しておく。
バンコマイシン
1時間前にアモキシシリン2gを経口投与、またはアンピシリン2gを手技開始前30分以内にIM/IV。
アモキシシリン+アンピシリン
Moderate-risk patients
バンコマイシン1gを1~2時間かけて静注とゲンタマイシン1.5mg/kg(120mgを超えない)IM/IV。注射、点滴は手技開始前30分以内に終了しておく。バンコマイシン+
ゲンタマイシン
アンピシリン2gを筋注または静注(IM/IV)とゲンタマイシン1.5mg/kg(120mgを超えない)を手技開始前30分以内に投与;6時間後にアンピシリン1g IM/IV、またはアモキシシリンを経口投与。
アンピシリン+ゲンタマイシン
High-risk patients
RegimenAgentsSituation
一回の導尿による尿路感染症の危険性
⇒約2%
尿路感染症発生の対する予防的抗生剤の効果
⇒不明瞭
導尿に対して、感染の危険性の低い症例では予防的抗生剤の投与の必要性は無い!
⑧導尿における尿路感染症予防
具体的抗生剤の投与法
2g単剤経口(手術の4-12時間前)
チニダゾール(ハイシジン)
1g単剤静注メトロニダゾール(フラジール)
2g単剤静注セフォキシチン(マーキシン)
1日2回5日間500mg経口メトロニダゾール
使用しない尿量動態検査
検査1時間前に100mg経口、検査後200mg経口
ドキシサイクリン人工流産・D&C使用しない子宮内膜生検
使用しないIUD挿入
使用しない子宮鏡
1日2回5日間100mg経口ドキシサイクリン(ビブラマイシン)子宮卵管造影
使用しない腹腔鏡
1or2g単剤静注セファゾリン(セファメジンα)膣式・腹式子宮摘出術
投与量抗生剤処置
各処置ごとの抗生剤のレジメ
発表内容
1.総論
2.背景
3.予防投与の理論
4.予防的抗生剤投与の際の抗生剤のスペクトラムと薬物動態
5.抗生物質の副作用
6.臨床的考察と推奨例
①具体的投与法
②ペニシリンアレルギー
③費用対効果
7.サマリー
ペニシリンアレルギーの患者に対してどの抗生剤を使うか?
アレルギーの免疫学的反応
①即時型過敏反応(アナフィラキシー反応)
②細胞障害性抗体
③免疫複合体
④細胞媒介反応
*全てβ-ラクタム系抗生剤でもみられる
β-ラクタム系抗生剤全体での発生率5~20%
ペニシリンによる発生率0.7~4%
抗生剤によるアレルギー反応の発生率
ただし、アナフィラキシー反応の発生率
0.02%以下
(ペニシリンでは0.2%)
一方、セファロスポリンでは・・・
アレルギー反応の発生率1~10%
ペニシリンとセファロスポリンの構造的類似点と相違点
チアゾリジン環
ジハイドロチアジン環
ペニシリン
セファロスポリン
ペニシリンとセファロスポリンのアレルギー反応における相関は?
•ペニシリンアレルギー既往のある患者においては、セファロスポリンによるアレルギー反応の発生率が多少増加する
•セファロスポリンにおいては、世代間の違いはない
310名98名合計
304名97名セファロスポリンアレルギー(-)
6名(2%)1名(1%)セファロスポリンアレルギー(+)
ペニシリン皮膚テスト陰性
ペニシリン皮膚テスト陽性
注意!!
ペニシリンによるアナフィラキシー反応の既往のある患者では、セファロスポリンでもアナフィラキシー反応を起すことがある
代替薬があれば、セファロスポリンを投与すべきではない
その場合、メトロニダゾール単剤による予防がも良い選択
代替薬:チニダゾール、ドキシサイクリン、クリンダマイシン、キノロン系 など
セファロスポリン系抗生剤は、アナフィラキシー反応以外のペニシリンアレルギーのある患者に感染予防薬として容認できる。
アナフィラキシー反応以外のアレルギーでは?
発表内容
1.総論
2.背景
3.予防投与の理論
4.予防的抗生剤投与の際の抗生剤のスペクトラムと薬物動態
5.抗生物質の副作用
6.臨床的考察と推奨例
①具体的投与法
②ペニシリンアレルギー
③費用対効果
7.サマリー
抗生剤による感染防御の費用対効果は?
予防的抗生剤使用による費用
=通常処置費用+抗生剤代
一見、コスト増に見えるが実際は・・・
予防的抗生剤使用による費用
=通常処置費用+抗生剤代
-術後合併症・感染症にかかる費用
⇒コスト削減!!
*ただし、値段の安い抗生剤を使用した場合に限る。
同様に、安価な抗生剤で妊娠中絶後の骨盤腹膜炎を予防することは費用効果がある。
アメリカでは
平均的な感染のリスクの女性に人工中絶を施行する際に抗生剤による感染予防をした場合、毎年50万ドルの費用が削減されると推算されている。
発表内容
1.総論
2.背景
3.予防投与の理論
4.予防的抗生剤投与の際の抗生剤のスペクトラムと薬物動態
5.抗生物質の副作用
6.臨床的考察と推奨例
①具体的投与法
②ペニシリンアレルギー
③費用対効果
7.サマリー
科学的根拠に基づく推奨例(Level A)
・腹式または腟式子宮摘出術を行う患者には感染予防薬を投与すべきである。
・子宮内避妊器具の挿入に合併する骨盤感染症ほとんどなく、淋病とクラミジアの検査で、陰性であった女性に予防的抗菌薬を投与することに全く利点はない。
・吸引掻破人工中絶における予防的抗生剤の投与の必要性は示されている。
・腸管を含む外科手術を受ける女性に対する適切な感染予防は、抗生物質を投与せずに行う機械的術前処置と、術前に抗菌スペクトルの広い抗生剤を非経口で投与することである。
制限があるか科学的根拠のない推奨例(Level B)
・骨盤感染の既往のない患者は予防的抗菌薬の投与を行わずに子宮卵管造影(HSG)を行う。もしHSGで卵管の拡張があれば、HSG後のPIDの発生を減少させるために抗生剤の投与を行うべきである。
・子宮鏡手術を行う患者に対する予防的抗菌薬の投与は推奨されない。
・即時型過敏症ではないペニシリンアレルギーの既往のある女性には、予防的抗生剤としてセファロスポリン系抗生剤を使う。
・術前に細菌性腟炎がある患者は手術前までに治療するべきである。
専門家の見解に基づく推奨例(Level C)
・検査のための開腹術には予防的抗生剤の投与は推奨されていない。
・ソノヒステログラフィーに対する予防的抗生剤投与は個々の危険因子を含め臨床的考慮に基づいて行うべきである。
・心臓の器質的欠陥の危険性が高度または中程度の患者が外科的手技を受ける場合、心内膜炎の予防のために抗生剤投与は有効である。
・ペニシリンに対してアナフィラキシー反応を起した既往のある患者には、セファロスポリンは投与すべきではない。
本日のまとめ!
• 抗生剤投与は手術開始1時間前~直前
• 長時間手術、大量出血の時は追加投与
• ATH、VTH、LHではセファゾリン1g(2g)i.v.
• 腹腔鏡、子宮鏡、IUD挿入、内膜生検では抗生剤は必要なし
• HSGでは、卵管拡張あればドキシサイクリン投与
• 人工妊娠中絶ではドキシサイクリン投与
• IEの高・中リスク患者に対してはリスクに応じて抗生剤投与
• ペニシリンショック既往患者にはメトロニダゾール
産婦人科領域における抗生剤予防投与
産科婦人科クリニカル・クラークシップ課題発表
鹿児島大学 医学部 医学科 6年中島 松本 藤崎 下倉