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*神奈川支部・田園調布学園中等部高等部 **神奈川支部 ***東京支部
生徒の主体的活動を生かした気象教育
荒川 知子*・竹内 仁**・本間静夫***
1.はじめに
21 世紀を生きる子供たちにとって必要な能力を
身につけるために,教育のあり方を検討すべきであ
るという動きが強くなってきた。文部科学省から
は,初等中等教育におけるアクティブ・ラーニング
の必要性が言われている。生徒が「教わる」授業か
ら,生徒が「学ぶ」授業へと,授業そのもののあり
方の転換が求められている。気象庁では既に対話型
ワークショップ教材を作成して配布し,出前授業等
に活用がなされている。
筆者の勤務校では,自由選択講座である『土曜プ
ログラム』として学年やクラスの枠にとらわれず,
生徒の興味・関心を広げる取組を行ってきた(荒川,
2011)。2014 年度からは 2 年間にわたり,東京私学
教育研究所の研究協力校として,アクティブ・ラー
ニングに取り組んでいる。筆者も,生徒の主体性を
伸ばす授業に取り組んでいる。筆者が土曜プログラ
ムの中で行っている「やってみよう天気予報」でも,
生徒の主体的な活動を多く取り入れようとしてい
る。ここでは,生徒の主体的活動を多く取り入れた
講座の一例について報告する。
2.実施内容
土曜プログラムでは,「実験で知る天気のしく
み」,「あなたもお天気キャスター」など 6 テーマ
を選び,1 テーマ 3 回の授業を 1 セットとして講座
を構成している。「どうやって守る?地球と自然」の
1 回目として行った「大雨・洪水から身を守ろう」
で,生徒の主体的活動を重視した授業を行った。メ
イン講師として竹内仁会員,サブ講師として本間静
夫会員の 2 名が担当し,筆者とともに本時の授業を
行った。
なお,本校では,防災訓練において,大雨や洪水
の際に警戒すべき事項(冠水による歩行困難,マン
ホールの蓋外れ,アンダーパスでの水没等)につい
ては,全教員が同じスライド資料を使って講話を行
っており,これらの事項については,今回の講座で
は取り扱わなかった。
1)テーマと目的
本時のテーマは,「朝,登校してきたら田園調布
駅が豪雨!あなたはどうしますか?」とした。 目標として,①きちんと通学路を守って学校に来
る,②迂回ルートで登校する,③駅でひたすら待つ,
④家に帰る,の 4 つから自分の行動を決めること,
またその理由を説明できること,を設定した。
生徒のグループは学年をまたいで構成した。1 グ
ループの人数は 3 名または 4 名とし,2 名ずつ向か
い合わせて,生徒が話しやすいような座席配置とし
た。また,開始にあたってはグループ内で自己紹介
をさせ,異なる学年の生徒でも話がしやすいよう促
した。
2)参考資料の入手
生徒が行動を決めるための資料を作成した。
まず,ハザードマップとは何かを説明した。次に,
学校周辺の地形図を生徒に渡し,田園調布駅,学校,
通常の通学路を地図上にマークして確認させた上
で,ハザードマップに示された浸水予想区域を色づ
けさせた。迂回路を探す際には,各グループに iPadを配布し,google map 等を利用して,生徒が実際
にその道で登校できるかどうかを確かめられるよ
うにした(写真 1)。
写真 1:迂回ルートの検討
3)発表
各グループでの検討結果を生徒が発表した(写真
2)。結果として,①通学路を守って登校する,を選
んだグループはなく,②迂回ルートで登校する,③
田園調布駅で待つ,④家に帰る,がそれぞれ 2 グル
ープずつであった。各グループで行動を考えた理由
は,およそ次のようであった。
写真 2:検討結果の発表
04 教育-03
① 通学路を守って登校する
ハザードマップから危険が予測されるので,避け
るべきである。
② 迂回ルートで登校する
通学路は危険なので,登校するのであれば迂回ル
ートを通る方が良い。迂回ルートであっても危険が
伴う可能性はあるが,駅の収容能力に限りがあるこ
と,帰宅途中で電車が止まるなどの危険を回避する
ことなどから,迂回ルートで登校することが望まし
い。
③ 田園調布駅で待つ
生徒 1000 名以上が登校することから,駅に人が
あふれてしまい,より危険である。しかし,動かず
駅に止まって情報を待つ方が良い。
④ 家に帰る
登校に危険が伴うこと,生徒が待つことで駅の収
容能力を超えてしまうことから,電車が動いている
のであれば運行中に行動した方が良いので,帰宅す
る。
4)講評
大雨・洪水の際に危険となる事項について,スラ
イドを使用して講義した。その際,各グループの結
果をふまえ,それぞれの場合についての問題点や注
意すべき事項について説明を行った。
この場合の行動を決めるポイントは,この後の雨
の見通しにある。駅に着いたときに豪雨でも,その
後弱まる見通しがあれば,駅に止まって雨が弱まる
のを待てば良い。また,駅から出られないほど酷い
降りであれば,駅に止まらざるを得ないであろう。
さらに降りが酷くなりそうであれば,その前に学校
に避難することが望ましい。また,電車が運行を中
止する可能性があれば,その前に帰宅することも考
えられる。
今回は,予報との関連を考えずに,豪雨の際の行
動を考えさせたが,予報をふまえて行動することが
重要であることを十分,説明できた。
3.教育効果
生徒が 1 つのテーマについて自ら調べ,話し合う
ことで,その問題を「自分の問題」として捉えるこ
とができる。
「大雨・洪水から身を守ろう」の講座は,5 年前
より毎年,同時期に行っている。昨年度までは,講
師が大雨・洪水被害と,その際の注意点について説
明し,ハザードマップを作成させていた。これにつ
いては,迂回ルートを示すところまでは,多くの生
徒が達成できていた。しかし,そこまで考えること
ができても,実際に自分がそのルートで登校できる
と答えた生徒は少なかったようである。
今回,google map などの資料を使いながら,グ
ループ討議を行うことで,生徒が実際のルートを具
体的にイメージすることができた。また,4 つの具
体的な行動パターンを提示したことで,考えをまと
めるための方向性が明確になった。
本時を含め 3 回限りではあるが,異なる学年の生
徒とグループを組ませ,コミュニケーション能力の
向上を図った。非常時には,見知らぬ人同士でも助
け合って被害を最小限に食い止める努力が必要と
なる。異なる学年の生徒と活動することは,意味の
あることと考えられる。
4.今後の展開
今回の授業では,駅に着いたときの豪雨が,降り
始めなのか終わりなのか,どのような原因で降って
いる雨なのか,雨の降り方についての検討はされて
いなかった。今後は,予報と関連させて,より具体
的な行動を講座展開として構築していく必要があ
る。
全ての行動パターンについて,全グループが同時
に検討を行ったが,各グループで 1 つの行動につい
て危険事項や注意点を検討させ,グループを組み直
して,検討結果を共有,さらに自分たちの行動を検
討させる,など,ジグソー法を取り入れたグループ
ワークも有効であろう。
5.まとめ
学校における授業でも,出前講座においても,教
える側は話したいことが沢山あり,それを全て伝え
たいと思いがちである。しかし,その全てを生徒が
自分の知識として吸収することは難しい。むしろ,
そのときには面白いと思って話を聞いても,実際に
自分が行動する際の適用性は乏しい,というのが実
情である。一人一人の生徒が,災害時に自らの考え
で行動することができなくては,防災教育の達成度
は低い。
生徒の主体的活動を講座の中心に据えることに
より,講座内容の生徒への定着を図り,生徒自身が
行動できるような防災教育が求められる。今後は,
このように生徒主体の活動を重視した講座を構築
していくことが重要であろう。
参考文献
荒川知子(2011) 出前授業を活用した気象教育の
充実,日本気象予報士会研究成果発表会予稿集
04 教育-03