多彩な免疫異常を合併した parvovirus感染後急性糸 …...― 24 ―...

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22 腎炎症例研究 29 巻 2013 年 多彩な免疫異常を合併した Parvovirus 感染後急性糸球体腎炎の一例 古 谷   玲  岩 上 将 夫  堤   大 夢 持 田 泰 寛  石 岡 邦 啓  岡   真知子 真栄里 恭 子  守 矢 英 和  大 竹 剛 靖 日 髙 寿 美  小 林 修 三          症  例 症 例:46 歳女性 主 訴:発熱,関節痛 現病歴:2010 6 20 日に 39 ℃の発熱。23 日 肘・膝・足・腰部に関節痛を認めた。24 日疼痛増強の為,当院救急部を受診。上記症 状に加え,血小板低下(4.2 万/μ l)を来たし, 精査加療目的の為同日入院となった。 既往歴・家族歴:特記事項なし 生活歴:喫煙 20 本/日 x30 年,飲酒なし 内 服 薬: イブプロフェン(ブルフェ ン)200mg2x,セフカペン(フロモックス) 450mg3x 入院時現症: 身長 160 cm,体重 59.7 kgBMI 23.3血圧 107/60 mmHg,脈拍 120/min体温 39.0℃,顔:蝶形紅斑なし,頸部:両側後 頸部に紅色丘疹,胸部:異常所見なし,腹部: 肝脾を触知せず,上肢:両側手掌手背前腕に紫 斑,下肢:浮腫なし 皮膚所見:両側前腕に網状紫斑,及び顎下か ら後頸部にかけて紅色丘疹を認めました。(図 1図1 入院時検査所見:尿所見では尿蛋白,尿潜血 ともに陽性で,蓄尿では 0.79g の尿蛋白を認め ました。また,尿中 BJ 蛋白陽性の所見を認め ました。血液検査では,入院時は Hb14 と貧血 を認めませんでしたが,後に Hb9 まで低下を認 めます。血小板は 4 万と低下しておりました。 生化学では軽度の肝障害及び低タンパク血症 を認めました。また,炎症反応の上昇,低補体 血症,immune complex の上昇を認めましたが, 抗核抗体及び ssdsDNA は陰性,ANCA につ きましても陰性でした。RA 2+ でしたがクリ オは陰性。また免疫電気泳動で M 蛋白は陰性 でした。CMV や肝炎ウイルスは陰性でしたが, パルボウイルス B19IgM は上昇を認めました。 血小板関連抗体も陽性でした。 湘南鎌倉総合病院 腎免疫血管内科 Key Word :管内増殖性糸球体腎炎,パルボウイルスB19 感染, クリオグロブリン血症

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腎炎症例研究 29巻 2013年

多彩な免疫異常を合併したParvovirus感染後急性糸球体腎炎の一例

古 谷   玲  岩 上 将 夫  堤   大 夢持 田 泰 寛  石 岡 邦 啓  岡   真知子真栄里 恭 子  守 矢 英 和  大 竹 剛 靖日 髙 寿 美  小 林 修 三         

症  例症 例:46歳女性主 訴:発熱,関節痛現病歴:2010年6月20日に39℃の発熱。23

日 肘・膝・足・腰部に関節痛を認めた。24

日疼痛増強の為,当院救急部を受診。上記症状に加え,血小板低下(4.2万/μ l)を来たし,精査加療目的の為同日入院となった。既往歴・家族歴:特記事項なし生活歴:喫煙20本/日x30年,飲酒なし内 服 薬: イ ブ プ ロ フ ェ ン( ブ ル フ ェ

ン)200mg2x,セフカペン(フロモックス)450mg3x

入院時現症:身長 160 cm,体重 59.7 kg,BMI 23.3,血圧 107/60 mmHg,脈拍 120/min,体温 39.0℃,顔:蝶形紅斑なし,頸部:両側後頸部に紅色丘疹,胸部:異常所見なし,腹部:肝脾を触知せず,上肢:両側手掌手背前腕に紫斑,下肢:浮腫なし皮膚所見:両側前腕に網状紫斑,及び顎下か

ら後頸部にかけて紅色丘疹を認めました。(図1)

図1

入院時検査所見:尿所見では尿蛋白,尿潜血ともに陽性で,蓄尿では0.79gの尿蛋白を認めました。また,尿中BJ蛋白陽性の所見を認めました。血液検査では,入院時はHb14と貧血を認めませんでしたが,後にHb9まで低下を認めます。血小板は4万と低下しておりました。

生化学では軽度の肝障害及び低タンパク血症を認めました。また,炎症反応の上昇,低補体血症,immune complexの上昇を認めましたが,抗核抗体及び ss,dsDNAは陰性,ANCAにつきましても陰性でした。RAは2+でしたがクリオは陰性。また免疫電気泳動でM蛋白は陰性でした。CMVや肝炎ウイルスは陰性でしたが,パルボウイルスB19IgMは上昇を認めました。血小板関連抗体も陽性でした。

湘南鎌倉総合病院 腎免疫血管内科 Key Word:管内増殖性糸球体腎炎,パルボウイルスB19感染,クリオグロブリン血症

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第57回神奈川腎炎研究会

臨床所見のまとめ:・臨床症状:発熱(BT 39℃),皮疹,関節痛・異常所見:血小板減少,低補体,PVB19IgM

陽性,PA-IgG陽性,尿蛋白陽性,尿潜血陽性,尿中BJP陽性・正常所見:抗核抗体陰性,他各種自己抗体陰性臨床経過:入院後,発熱,皮疹,関節痛の症

状に加え,血小板低下,低補体血症,尿蛋白潜血等の異常所見を認めました。入院後,Cre,貧血が増悪した為,第12病日に腎生検を施行しております。 (腎生検の説明)。腎生検後は自然経過にて改善を示し,低補体血症,尿蛋白いずれも改善傾向を示し,第19病日に退院

となっております。退院後もParvoIgM,尿蛋白は漸減し,またPA-IgG,BJPは発症4か月後に陰性化を来たしております。但し,同時期にCryogloburinが陽性となり,一時的な皮疹も伴いましたが,現在皮疹は消失し,Cryoも陰性化しております。(図3)

PAS染色ですが,管内細胞増生を認め,係蹄腔は狭小化を認めております。輸出入細動脈のヒアリノーシスを認めました。また,他の残存する糸球体の中にはごく一部にメサンギウム基質の増生とメサンギウム細胞の増殖,及びメサンギウムの融解所見を認めました。(図5)

PAM染 色 で は,double contourやspike formationといった所見は認めておりません。(図6)

尿所見pH 6.0gravity 1.025

U-pro 2+

U-Glu -U-OB +

U-RBC 1-4/HPF

U-WBC 1-4/HPF

Cast 1+

U-β2MG 4062 μg/l

U-NAG 54.5 IU/l

U-pro 0.79 g/day

U-Cre 0.59 g/day

Ccr 92.8 ml/min/1.73m2

尿中BJP Κ型

血算WBC 4000 /μl

 Neut 74.3 %

 Lymp 20.4 %

 Eosino 0.3 %

Hb 14.3 g/dl

Hct 40.5 %

Plt 4.2x104 /μl

凝固PT-INR 1.00

APTT 35.2 sec

Fibrinogen 194.0 mg/dl

FDP 49.7 μg/dl

D-dimer 31.8 μg/dl

ATⅢ 68 %

生化学AST 85 IU/l

ALT 59 IU/l

LDH 612 IU/l

γGTP 26 IU/l

ALP 174 IU/l

TP 5.6 g/dl

Alb 3.5 g/dl

BUN 17.7 mg/dl

Cre 0.99 mg/dl

UA 4.5 mg/dl

Na 133 mEq/l

K 4.5 mEq/l

Cl 99 mEq/l

Ca 8.1 mg/dl

IP 2.9 mg/dl

T-Cho 117 mg/dl

TG 284 mg/dl

HDL-C 24.5 mg/dl

免疫CRP 3.29 mg/dl

IgG 661 mg/dl

IgA 66 mg/dl

IgM 127 mg/dl

IgE 512 mg/dl

C3 32 mg/dl

C4 2 mg/dl

CH50 <5 U/ml

IC-C1q 3.0 μg/ml

ANA <40 倍SS-A Ab -SS-B Ab -ss-DNA Ab 4.6 AU/ml

ds-DNA Ab 4.0 IU/ml

抗CL Ab IgG 1 U/ml

抗CL Ab IgM 2 U/ml

MPO-ANCA -PR3-ANCA -GBM Ab -RA 2+

cryoglobulin -IEP M蛋白-CMV IgG 9.3CMV IgM 0.42

EBV-IgG 80

EBV-IgM <10

HBs Ag -HCV Ab -ASO価45 IU/ml

PVB19 IgM 3.63

PA-IgG 587.4 ng/107

入院時検査所見

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腎炎症例研究 29巻 2013年

AZAN染色で赤染するdepositは認めませんでした。(図7)

間質の繊維かはごく軽度みとめるのみでした。(図8)

血管につきましては特記すべき所見をみとめませんでした。(図9)

蛍光抗体では,メサンギウム領域において,IgM,C1qの沈着を認めました,IgA,C3では,やはりメサンギウム領域に軽度沈着を認めました。IgGでは沈着を認めませんでした。(図10)

電子顕微鏡では,係蹄腔内には単球を主体として細胞浸潤を認め,endcapillary proliferative gromerulonephritisの所見と考えます。(図11)

内 皮 下やメサンギウムに沈 着 物を認 め,immune complexの形成が示唆されます。沈着は内皮下よりはメサンギウム領域により多く認められました。一方,明らかなhumpや,クリオで特徴的な管状構造は認めませんでした。(また,足突起は広範囲に癒合しています。)(図12)

図2

図3

図4

図5

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第57回神奈川腎炎研究会

図6

図7

図8

図9

図10

図11

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腎炎症例研究 29巻 2013年

図12

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図14

図15

図16

図17

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第57回神奈川腎炎研究会

病理のまとめ:光学顕微鏡所見:管内増殖性糸球体腎炎,免疫蛍光抗体法所見:メサンギウム領域に IgMとC1qが沈着,IgAとC3が軽度沈着 電子顕微鏡所見:係蹄腔内に単核球浸潤:内皮下(<)メサンギウム領域へのdense deposit

経過のまとめ:経過をまとめますと,パルボウイルス感染後に発熱,皮疹,関節痛を来たし,腎生検で管内増殖性糸球体腎炎の診断を得ました。その後自然軽快で貧血や皮疹,尿所見は改善しました。その経過の中で,尿中BJ蛋白,血小板関連抗体,クリオなどが陽性となりましたが,すべて自然消失いたしました。ParvovirusB19感染と腎障害:Parvovirus

B19感染に伴う腎障害に関してはendcapillary proliferative glomerulonephritisが 多 く 報 告 され て お り, 本 症 例 に お い て もendcapillary proliferative glomerulonephritisの組織診断を得ました。他,FSGSとパルボの関係が言われている他,2009年の本研究会では当院の本田がパルボの持続感染と膜性腎症の関連について報告しております。また,パルボB19の局在に関しましては,過去の報告では係蹄壁にB19のDNAが存在したと言われております。

考  察一方,本症例においては実に多彩な免疫異常

を来したことが特徴であり,感染後にBJP,血小板関連抗体,クリオグロブリンが陽性となっております。実際過去にも,パルボ感染とクリオの関連,血小板関連抗体との関連は報告されております。一方,多発性骨髄腫がない症例でのPVB19とBence Jones蛋白とが合併している症例は,文献上ではこれまで報告が認めておりません。いずれにせよ,本症例ではすべて陰性化しており,感染による一過性のものと考えております。今回,パルボB19感染を呈し管内増殖性糸球体腎炎の結果を得ましたが,管内増殖性腎炎を来たす疾患としてご存知の通り,溶連菌感染後の糸球体腎炎やループス,クリオ,

IgA腎症などがあげられます。本症例では臨床経過やASO陰性所見から溶連菌感染後の糸球体腎炎は否定的と考え,また,ループスに関しましてはSLEの分類基準を満たさず可能性は低いと考えました。また,クリオにつきましては,電顕で管腔構造は認めず,典型的ではないと考えました。

まとめ・ ParvovirusB19感 染 後 急 性 糸 球 体 腎 炎 に

Bence Jones蛋白陽性,血小板関連抗体陽性,Cryoglobulin陽性を来たしたがいずれも自然寛解に至った一例を経験した。

・ ParvovirusB19感染に関連する腎症の病因を考える上で示唆に富む症例と思われた。

疑問点ParvovirusB19感染後急性糸球体腎炎と診断したが,病理組織学的に矛盾はないか。・ Bence Jones蛋白陽性,cryoglobulin陽性が腎

病理に影響を及ぼしている可能性はあるか。

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腎炎症例研究 29巻 2013年

討  論古谷:よろしくお願いします。湘南鎌倉総合病院の古谷玲と申します。「多彩な免疫異常を合併したParvovirus感染後急性糸球体腎炎の一例」を報告いたします。 症例は46歳女性。主訴は発熱,関節痛です。 現病歴です。2010年6月20日に39度の発熱を来し,その三日後から,肘,膝など複数の関節の関節痛を認め,疼痛が増強したため,当院救急部を受診されました。発熱,関節痛に加え,このとき血小板4.2万と低下を認めていたため,精査加療目的に当日入院となりました。 既往歴,生活歴,内服薬に関しましてはご覧のとおりです。 入院時検証です。体温が39度と高熱を認め,それに伴い頻脈を認めております。両側後頚部,および前腕に皮疹を認めました。 こちらが皮膚所見ですが,両側の前腕には網状の紫斑を認め,両側の胸部から後頚部にかけては紅色丘疹を認めております。 入院時検査所見です。尿所見では,尿蛋白,尿潜血ともに陽性。蓄尿では0.79gの蛋白尿を認めております。尿中ベンス・ジョーンズ蛋白κ型が陽性でした。血液検査では,入院時はヘモグロビン14と正常でしたが,その後の経過でヘモグロビン9台まで低下しております。血小板は4.2万と低下しておりました。生化学では,AST,ALT,LDHが上昇,軽度の低蛋白血症を認めました。CRPが3台と軽度上昇。低補体血症および immune complexの上昇を認めました。血液検査では軽度の肝障害と低蛋白血症を認めました。CRPは3.2と軽度上昇しており,低補体血症と immune complexの上昇を認めました。一方,抗核抗体は陰性で,single strand,double strad,DNAも陰性。ANCAに関しましても陰性でした。RA1+でしたが,入院時はcryoglobulinは陰性でした。免疫電気泳動でM

蛋白の形成はありませんでした。cytomegalovi-

rusや,肝炎ウイルスに関しては陰性でしたが,

Parvovirus-B19-IgMが上昇しておりました。また血小板関連抗体が上昇しておりました。 ここまで臨床所見のまとめですが,臨床症状としては,発熱と皮疹,関節痛。ラボの異常所見としましては,血小板減少,低補体,Parvovirus-B19-IgMが陽性,血小板関連抗体が陽性。尿所見では,蛋白,潜血ともに陽性。尿中のベンス・ジョーンズ蛋白が陽性でした。一方,抗核抗体や,ほかSLE関連の自己抗体に関しては陰性でした。 入院後の経過です。発熱,関節痛,皮疹に,血小板減少や低補体が伴いました。入院時,ヘモグロビンは14と正常だったのですが,入院後,ヘモグロビンは9台まで低下。クレアチニンに関しましても,入院時は0.9だったのですが,その後1.3程度まで一時的に上昇しておりましたため,発症から12日目に腎生検を施行いたしました。 腎生検後の自然経過で,低補体血症,血小板数や,尿蛋白に関して改善を認めており,発症19日目に退院となっております。 退院後も,Parvovirus-B19-IgMは減少傾向。尿蛋白も減少してきておりまして,外来で発症4カ月目には,ベンス・ジョーン蛋白や血小板関連抗体は陰性化しておりました。一方,そのころからcryoglobulinが陽性となり,一時的に皮疹を伴いましたが,すぐに消失。cryoglobu-

linも最終的には陰性化いたしました。 病理です。採取された糸球体は14個。うち荒廃0個,半月体0個でした。こちらがPAS染色ですが,係蹄内に単球を主体とした細胞浸潤を認めております。こちらがhyalinosisを認めております。PAM染色では,double contourやspike formationといった所見は認めませんでした。こちらがmasson trichromeですが,赤染するdepositは明らかなものは認めませんでした。間質は繊維化を軽度認めるのみでした。血管につきましては特記すべき所見を認めませんでした。こちらが IFですけれども,mesangium領域において,IgMとC1qが沈着しておりました。

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第57回神奈川腎炎研究会

IgAとC3に関しましても,同様にmesangium領域にごく軽度沈着を認めました。電顕では,係蹄腔内に単核球を主体とした細胞浸潤を認めました。内皮下やmesangium領域にdepositを認めました。沈着物に関しましては,内皮下よりはmesangium領域に優位に認めております。また,明らかなhumpや,cryoで特徴的とされる管腔構造ははっきりとしたものは認めませんでした。足突起は広範囲で癒合しておりました。 病理のまとめですが,光顕では管内増殖性糸球体腎炎,IFではmesangium領域に IgMとC1q

が沈着しておりまして,IgAとC3は軽度沈着を認めました。電顕では係蹄腔内に単核球を主体とした細胞浸潤を認め,内皮下,およびmesangium領域へdepositを認めました。 経過のまとめですが,Parvovirus-B19感染後,発熱や皮疹,関節痛,低補体,血小板低下,尿異常などを伴いまして,腎生検を施行したところ,管内増殖性糸球体腎炎の診断を得ました。が,その後は自然経過のみで改善しております。一方この経過の中で,尿中ベンス・ジョーンズ蛋白,血小板関連抗体,cryoglobulinが陽性になっておりますが,いずれも自然経過で消失しております。 Parvovirus-B19感染と,腎障害に関しましては,endocapillary proliferative glomerulonephritis

が多く報告されております。またFGSの報告も幾つかあります。また2009年の本研究会では,当院のホンダがParvovirus-B19の持続感染と膜性腎症の関連について報告をしております。また,Parvovirus-B19の局在に関しましては,係蹄壁にDNAが存在したという過去の報告があります。 一方,本症例では,実に多彩な免疫異常を合併したことが特徴であると考えられ,経過中にベンス・ジョーンズ蛋白,血小板関連抗体,cryoglobulinが陽性となっております。実際,過去の報告でも,パルボの感染とcryoglobulin,または血小板関連抗体が合併したという報告があります。ただ,ベンス・ジョーンズ蛋白に関

しましては,myelomaではない症例で,パルボの感染とベンス・ジョーンズ蛋白が合併したという報告は文献上認めておりません。いずれにせよ,全て自然消失を認めておりますことから,感染に伴う一過性のものであると考えております。 また今回は腎生検で管内増殖性腎炎の診断を得ましたけれども,ご存じのとおり,管内増殖性変化を伴う腎障害としましては,溶連菌感染後の糸球体腎炎や lupus,あとはcryoなどがあります。溶連菌感染に関しましてはASOが陰性であったのと,のどの所見もなかったことから否定的と考えております。cryoに関しては,明らかな管腔構造がなかったことから,あまり強くは疑っておりません。今回は immune complexも上昇していて,C1qも沈着していたことから,lupusも鑑別に挙がりますけれども,SLEの分類基準はリージョン的には満たさずに,SLEの診断はついておりませんので,今回はParvovirus-B19に感染に伴う腎障害と考えています。 まとめですが,Parvovirus-B19に感染後,急性糸球体腎炎にベンス・ジョーンズ蛋白,血小板関連抗体,cryoglobulin陽性を来しましたが,いずれも自然緩解に至った一例を経験しました。Parvovirus-B19の感染に関連する腎の病因を考えるうえで,示唆に富む症例と思われましたので報告いたします。 臨床側の疑問点としましては,Parvovirus-B19

感染後,急性糸球体腎炎と診断しましたが,病理組織学的には矛盾はないか。また,ベンス・ジョーンズ蛋白陽性,cryoglobulin陽性が腎病理に影響を及ぼしている可能性はあるかどうかについて,ご検討をいただきたいと思います。 以上です。松井 どうもありがとうございます。ただ今のご発表,臨床経過について,ご質問のある方はいらっしゃいますでしょうか。はい。先生,どうぞ。金綱 慈恵医大柏病院病理の金綱と申します。

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腎炎症例研究 29巻 2013年

 この方の場合は,入院されたときにもう既にIgMの抗体が出ていらしたということなので,ちょっと確かめたいのですけれども,その数週間前に,例えば不定愁訴的な症状があったとか,周りにParvovirusの感染症を示唆させる人がいらしたかどうか。この人の網状赤血球に何か異常が見られなかったかどうかを教えていただければありがたいのですが。古谷 この方は実はお子さんがParvovirus感染があったという経過があります。網状赤血球に関しては詳しく検討しておりません。金綱 どうもありがとうございます。松井 ほかに,どなたか先生いらっしゃいませんか。木村先生どうぞ。木村 聖マリアンナ医科大学の木村です。貴重な症例だと思います。 先生,C4が非常に低いですね。その後,正常になりましたか。古谷 正常化しております。退院時に,C4は13。木村 13になられた。C4の糸球体への沈着はなかったのですか。古谷 C4は染めていなかったと思います。すみません。当院では染めていなかったです。木村 相当低かったので,非常に印象的だったものですから,お聞きしました。どうもありがとうございます。松井 ほかにどなたかいらっしゃいますか。どうぞ。田中 横須賀共済病院の田中と申します。 Parvovirus感染は,関節リウマチのような関節炎症状を来すこともあるといわれているのですが,この患者さんで皮疹はあったということですが,肝脾腫の存在はありましたでしょうか。古谷 肝腫大はありませんでしたが,脾腫はありました。田中 あともう1点,紫斑について伺いたいのですが,紫斑はいわゆる外から触れるようなpalpableなpurpuraなのか,あるいはnon-palpableなのか。あるいはその紫斑に関して生

検をなさっていたら,その所見等を教えていただきたいのですが。古谷 紫斑は触れるようなものではなかったと思いますので,生検はされておりません。田中 ありがとうございました。松井 ほかに,どなたかいらっしゃいますか。 私が質問してもいいですか。cryoglobulinが陽性だったということですけれども,これはIgGのクラスだったとか,Aのクラスだったとかは分かっていますか。というのは,IgGは染まっていないのですよね。古谷 染まっていないです。松井 そうすると,どういうクラスのcryoglob-

ulinが出たかは,ちょっと面白いかなと思って,分かったら教えていただければ。古谷 はい。それに関しても,当院では検討しておりませんでした。松井 cryoglobulinの量は多かったですか。古谷 当院では,プラスかマイナスで出るので,そのときはプラスかマイナスで出ていたので,量とか,IgMかGかということは,ちょっと調べられておりません。松井 多く出ていると,頼むと調べてくれます。古谷 はい。松井 ほかに何かありますでしょうか。なければ病理の先生のコメントをいただきたいと思います。重松先生よろしくお願いします。重松 では,重松のスライドをお願いします。

【スライド01】Parvovirusの感染後の糸球体腎炎と,cryoglobulinemiaが臨床的にあって,それが糸球体に反映されているかどうかという問題点の指摘がありました。 15の主に管内増殖性の腎炎を示しています。一つだけ,thrombotic lesionと書きました。これが,私はこのcryoglobulinによるものだろうと思います。それから,focalですけれども,tubulitisが見られたということです。

【スライド02】尿細管の障害は,ある程度あって石灰化したような部分も見られるし,尿細管上皮が萎縮して管腔が広がっていますので,そ

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第57回神奈川腎炎研究会

ういうような尿細管障害がある。それから,糸球体には,それほど強くないけれども,管内増殖性の病変が見られるといえると思います。

【スライド03】PASで染めますと,糸球体全体が腫大していて,管内,それから一部はmesan-

gium,こういうところに炎症細胞が浸潤しています。

【スライド04】PAM染色で見ますと,係蹄壁に特に強い変化はないですけれども,血管極にちょっと思わせぶりな変化があると思います。演者はここをhyalinosisと言われたけれども,私はこれは大事な所見だと思います。それに内皮というか,遊走細胞というか,それが反応しているような病変があるのです。

【スライド05】ここをHE染色で観察すると,は っ き り とhyalinous thrombusみ た い な も のが見られます。thrombusだけだと,なかなかcryoglobulinというものに関連付けにくいのです。cryoglobulinは, こ の 会 で も 何 回 か 幻 のcryoglobulinemiaは経験していますが,そのたびに私はcryoだったらmacrophages,あるいは好中球という食細胞の反応が非常に強くなる特徴があるから,それが見られたらcryoの可能性があると言ってきました。この症例はまさしく,そういうことを示唆する所見と思います。

【スライド06】これだけだったら血栓になってしまうのですけれども,ここに,わいわいと管内に細胞が出て来て,そして一部はこの血栓を溶かしているのでしょうか,そういう遊走細胞の反応が血栓を中心にして起こっているということです。これは普通の血栓には見られないことで,普通染色の組織像で考える場合に大事な所見だと思います。

【スライド07】PASでもそういう変化があります。

【スライド08】しつこく出してありますけれども,別の切片でも血栓様の変化と細胞の反応が見られる。

【スライド09】これはPAMであります。これはちょっと細胞反応がはっきりしません。メサン

ギウムmatrixはあまり増えていませんから,管内増殖性変化というのは,かなり急性のものであるということが分かります。

【スライド10】また,Massonでも,やはり遊走細胞が入って貪食を示しています。

【スライド11】あまり反応がないけれども,血栓様の変化が一部で見られます。

【スライド12】ここでも少しあるようですけれども,matrixの増加がなくて,mesangiumはむしろ浮腫状で,これは普通の管内増殖性腎炎,PSGNなんかと光顕上はちょっと区別ができません。

【スライド13】C1qと IgMでしたか。同じように非常に強く見えます。IgMだから,ひょっとしたらcryoが IgMなのかもしれません。

【スライド14】蛍光抗体法では管内増殖性腎炎の存在を示唆する所見があるのですけれども,Parvovirusの感染のときの一つの特徴に,depositが内皮下に出てくることが比較的多いという報告があります。そういうところを探しました。

【スライド15】基底膜は障害が結構あるようです。これは管内のmonocyteの集積がある。me-

sangiumにちょっとデポジティブなものがあるかな。

【スライド16】ここではmesangiumです。【スライド17】これはmesangiumで,こっちは血管壁があって,ここにdepositがあります。内皮下のdepositがあるということで,普通のPSGNなんかのdepositionのパターンと違って,このParvovirusの急性感染のときのパターンは,subendothelial depositがまだ時期が早いせいでしょうか,まだ見えるということが一つの特徴みたいなようです。

【スライド18】この電顕を見せたかったのです。これだと,皆さんに納得してもらえると思います。endothelがあって,subendothelial depositということです。

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腎炎症例研究 29巻 2013年

 この症例はParvovirus関連の管内増殖性腎炎。内皮下のdepositがあるということで,少しは特徴があるだろう。もう一つは,cryo-

globulinemia腎炎を非常に疑います。それは光顕像で,単なる血栓だけではなくて,そこにmacrophages,monocyteの単核細胞が反応をして,cryoを貪食しているのです。そういう変化があることは,電顕ではちょっとつかまりませんでしたけれども,光顕像からも十分類推できるので,この二つの組み合わせが考えられるだろうと考えました。 以上です。松井 ありがとうございます。では,山口先生お願いします。山口 私もほとんど重松先生と同じ意見で,気になったのは,血管極部の血栓様の病変です。

【スライド01】きょうの症例の中でも何例かありますけれども,確かにcapillaryの中に単核多核球が入り込んでいますので,endocapillaryな反応があるのです。もう一つは,血管極部の周りに少し炎症反応があるのです。ですから,これはヤマナカ(山中宣昭?)先生たちがme-

sangial channelをやりますと外へ漏れ出てくるわけで,そういうものに対する反応なのかどうかは,もうちょっと解析してみないといけないと思います。ここは通常のhyalinosisなのです。年齢的に来てもいいのかもしれないですが。

【スライド02】また似た写真になってしまいます。この糸球体は非常に大きくなって,ずいぶんhypercellularで,浸潤細胞も(★01:29:06

/一語不明,エクスタティブ)な変化が強いです。やはり血管極部の炎症反応があって,血管極部に硝子物の沈着が見られます。cryoですと,症例によっては,peritubular capillariesが来る場合もあります。

【スライド03】PAS陽性で,重松先生が詳しく言われたように,少し核の fragmentationを起こすような,わずかな炎症反応が起きているということです。それが,cryoの一つの特徴にはなっています。mesangiumの反応はあまりなくて,どちらかというと,mesangiumのところはルーズになってしまって,endocapillaryで,一部ちょっと二重化しているようなところもあります。これは切れ方かもしれないです。

【スライド04】massonで見てみても,何かちょっと炎症細胞が少し絡んでいるような。ですから普通のhyalineではなくて,immune complexなのかは分かりません。炎症反応を起こす補体も絡んでいないと,反応は起きないかもしれないです。同じ糸球体なので,macrophagesなのでしょうか。やや泡沫状の細胞がずいぶん多いです。

【スライド05】しつこいようですが,同じなわけです。

【スライド06】主体が IgMとC1qなのです。私が調べた範囲ですと,parvoのendocapillaryとか,MPGN-likeになるのですが,主に IgGが主体で,抗体は IgMが出るのですが,どういうわけか,組織には IgG,C3が通常は付いてくるわけです。そうすると IgMとC1qというのは,その点,parvoの今までの記載とは合わないものが付いているということになると思います。

【スライド07】電子顕微鏡では,やはり sub-

endoです。subendoかmesangiumの領域だろうと思いますが,endocapillaryで単核球は一部泡沫化したようなmacrophagesです。それから,subendoということです。

【スライド08】よく目を凝らしても,cryoを示唆するはっきりとした structureはないように思います。いつもcryoでは重松先生との議論に

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なってしまうので,私は structureがなくても,cryoでも構わないと一方では考えているものですから,そこで食い違いが出てしまうのだろうと思います。

【スライド09】基本形はendocapillary prolifera-

tive glomerulonephritis で,vascular polary に,hyaline thrombiがある。ものの本を見ますと,parvoでもAPS(リン脂質抗体症候群)のようなhyalineで,普通はあまり炎症反応はないですが,それも起こしてくるということで,一応それも少し考えなくてはいけない。だから全体をcryoで,ちょっと IgMとC1qのパターンというのが気になるので,parvoで説明できるのかどうかです。cryoの成分が分かって,これと一緒ならば,cryoだけで全部説明できてしまうと思います。

【 ス ラ イ ド10】Parvovirus-B19-induced type2のcryoglobulin野があるということですし,APS

も起こしてくるということもありますが。その辺は治ってしまったのでは,今更もうしょうがないかもしれませんけれど。 以上です。松井 どうもありがとうございます。ただ今の病理の先生のコメントについて,ご質問,コメントはありますでしょうか。 先生,よろしいですか。Parvovirus感染後の急性糸球体腎炎ということで,溶連菌だと,みんなサブエピ(subepithelial)のほうに行くわけですけれども,パルボの場合は,私は不勉強でよく知らないのですけれども,subendoに行くというのが普通のことなんでしょうか。山 口 endocapillaryの 病 態 か,MPGN-likeになるか,どっちかなのです,多くは。それでimmune depositは,大体 subendoからparamesan-

gium,mesangial deposit。サブエピにはあまり付かないです。松井 それはウイルスの特徴というか,例えば,streptococcalだとcationicでというような話が一時期ありましたよね。そういうようなことは。山口 文献ですと,糸球体のendothelにparvo

付いているのが証明できるというようなことが書いてあるのですけれども,本当かなと。あとは,やっぱり renal tissueを直接PCR法かなんかでparvoの証明をするということが,もう一つ重要だろうと思います。もしペーパーとしてちゃんと出すならば,renal tissueから直接parvoを証明することが必要だと思います。どこに感染しているか分からないです。松井 どこかにくっついたということ。特に,糸球体に親和性があるといわれているわけではないのですか。山口 ですから,われわれが普段出合っている,いわゆるcytomegalovirusですと,endothelに明らかに inclusionをつくってきますし,polyoma

ですと,上皮細胞から付いてくる。だから,そういうタイプではないです。parvoは赤血球の中にも入りますし,SLE-likeにも,多彩な病態になってきますから,非常に不思議なウイルスだと思います。松井 なるほど。どうもありがとうございます。先ほど,先生の質問でAPSはどうだったですか。測っておられますか。古谷 カルジオリピン抗体は測定していますけれども,陰性でした。松井 ありがとうございます。ほかに,どなたかコメントのある先生いらっしゃいませんか。よろしいですか。古谷先生,教えてもらいたいことがほかにあったら,よろしいですか。古谷 はい。松井 どうもありがとうございました。では,二つ目の演題をこれで終わりにしたいと思います。

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