causes and remedies of mottling problems

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215 モ ッ トリ ング の 発 生 原 因 とそ の 対 策 住友 ノーガタック株式会社 西岡 利 恭,石 哲雄 内田 Causes and Remedies of Mottling Problems Toshiyasu Nishioka, Tetsuo Ishikawa and Akira Uchida Research Department, Sumitomo Naugatuck Co., Ltd. Nowadays, sheet or web offset printing is a mainstream of multi-color printing in Japan. So, mottling-free multi-color printing is getting more important and more difficult with an increase in printing speed. In this paper, mottling problems are investigated with emphasis on the causes and remedies for them within coating and drying processes of coated paper production, as well as on suitable SBR latex designs for mottling-free coated paper. Keywords: Mottling, Multi-Color Offset Printing, Coated Paper, Back Trapping, Water Absorption, SBR Latex. 1.は じめ 多 色 オ フセ ッ ト印刷 は,PS版 の耐 刷 性 の向 上及 び 輪転 印刷 に代 表 され る印刷 の 高速 化等 に よ り,現 在, 日本 に おけ る多 色印 刷 の主 流 とな ってい る。 多 色 オ フ セ ッ ト印 刷 にお け る印 刷適 性上,特 に重 要 な問 題 とな るのは,重 ね 刷 りの際 に発 生す る印刷 イ ンキの 着 肉ム ラす な わ ち モ ッ トリング であ る。 モ ッ トリング の発 生 につ い ては,多 くの原 因 が考 え られ るが,特 に塗 工紙 に 内在 す るモ ッ トリ ンクの直接 的 な発 生原 因 と して主 に 次 の2つ が挙げ られ る。 (1)塗 工 層 の もつ イ ンキ乾 燥 速度 の不 均 一性 (2)塗 工層 表 面 の湿 し水に 対 す る濡 れ及 び吸 収 の不 均一性 本報 で は,上 記2つ の タイ ブの モ ッ トリングに 関す る発生 原 因 の解 析 とそ の対 策 につ い て過 去 の論 文 及び 著者 らの実験結果を紹介 しなが ら述べたい と思 う。 2.モ ッ トリ ン グ の 発 生 原 因 2.1イ ンキ 乾燥 性 の不 均一 Dr.S.SerraとDr.B.Perbelliniは,不 均一なイ ソキ乾燥 性 に基 づ く不 均 一 な印 刷 イ ンキ の逆 トラ ッピ ングに よ るモ ッ ト リング(米 国ではパ ック・トラ ップ・ モ トルと称 してお り,第1ユ ニッ トで印 刷 され た イ ン キが,第2ユ ニ ッ トの ブ ラ ソケ ッ ト上 の印 刷 イ ンキ に よっ て と られ る現 象)に つ い て報 告 して い る1)。 彼 らの 報告 に は,こ の種 の モ ッ トリ ングは,4色 るいは それ 以上 の オフ セ ッ ト印 刷 で顕 著 に現 れ,印 の刷 り順 序 を 変 えて も,1色 目 と2色 目の ユ ニ ッ トで 印 刷 され る色 で のみ モ ッ ト リングが起 こ る と述 べ られ て い る。 さ らに,も し塗 工 層 の イ ンキ乾 燥 性 が完 全 に 均一 で あ るな らば,印 刷 イ ンキの 逆 トラ ッ ピ ングが起 こって も,そ れは各印刷 手ニ ッ トで均一 とな りモッ ト リングは発 生 しな い が,通 常 の塗 工紙 では イ ンキ乾燥 性 が完 全 に均一 であ る こ とはな く,不 均 一 な逆 トラ ッ ピ ングが モ ッ トリング と して現 れ る と言 ってい る。 また,こ の種 の モ ッ ト リングは,イ ンキセ ッテ ィン グ速 度 と各 印刷 ユ ニ ッ ト間 のイ ンタ ーパ ル が きわ め て 重 要 な要 素 で あ り,た とえ塗 工紙 が イ ンキ乾 燥 性 の不 均 一 を有 してい る場 合 で も,印 刷 ユ ニッ ト間 の イ ンタ ーバ ルに 対 して,イ ンキ セ ッテ ィング時 間 が きわ め て 長 い か,あ るい は きわ め て短 い 場 合に は モ ッ トリング は 避け られ るが,こ れ らの極 端 な条 件 下 で は,他 のト ラブル を生 ず る と言 って い る。 昭 和62年(1987)3月 ―15―

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215

モ ッ トリングの発生原 因 とその対策

住友ノーガタック株式会社 西岡 利恭,石 川 哲雄

内田 明

Causes and Remedies of Mottling Problems

Toshiyasu Nishioka, Tetsuo Ishikawa and Akira Uchida

Research Department, Sumitomo Naugatuck Co., Ltd.

Nowadays, sheet or web offset printing is a mainstream of multi-color printing in Japan.

So, mottling-free multi-color printing is getting more important and more difficult with an

increase in printing speed.

In this paper, mottling problems are investigated with emphasis on the causes and remedies

for them within coating and drying processes of coated paper production, as well as on suitable

SBR latex designs for mottling-free coated paper.

Keywords: Mottling, Multi-Color Offset Printing, Coated Paper, Back Trapping,

Water Absorption, SBR Latex.

1.は じ め に

多色オフセ ット印刷は,PS版 の耐刷性の向上及び

輪転印刷に代表 され る印刷の高速化等に よ り,現 在,

日本における多色印刷の主流 となってい る。多色オフ

セッ ト印刷における印刷適性上,特 に重要な問題とな

るのは,重 ね刷 りの際 に発生す る印刷イ ンキの着肉ム

ラすなわちモッ トリングである。

モ ットリングの発生については,多 くの原因が考え

られ るが,特 に塗工紙に内在す るモ ットリンクの直接

的な発生原因 として主に次の2つ が挙げ られ る。

(1)塗 工層のもつイ ンキ乾燥速度の不均一性

(2)塗 工層表面の湿 し水に対する濡れ及び吸収の不

均一性

本報では,上 記2つ のタイ ブのモッ トリングに関す

る発生原因の解析とその対策について過去の論文及び

著者 らの実験結果を紹介 しなが ら述べたい と思 う。

2.モ ッ トリン グ の 発生 原 因

2.1イ ンキ乾燥性の不均一

Dr.S.SerraとDr.B.Perbelliniは,不 均一なイ

ソキ乾燥性に基づ く不均一な印刷イ ンキの逆 トラッピ

ングによるモ ットリング(米 国ではパ ック・トラ ップ・

モ トルと称 してお り,第1ユ ニッ トで印刷されたイ ン

キが,第2ユ ニットのブラソケ ット上 の印刷インキに

よってとられ る現 象)に ついて報告 している1)。

彼 らの報告には,こ の種のモ ットリングは,4色 あ

るいはそれ以上 のオフセッ ト印刷で顕著に現れ,印 刷

の刷 り順序を変えて も,1色 目と2色 目のユニッ トで

印刷される色でのみモ ットリングが起 こると述べ られ

ている。さらに,も し塗工層のインキ乾燥性が完全に

均一であるな らば,印 刷イ ンキの逆 トラッピングが起

こって も,そ れは各印刷 手ニ ッ トで均一 とな りモッ ト

リングは発生 しないが,通 常 の塗工紙 ではイ ンキ乾燥

性が完全に均一 であることはな く,不 均一な逆 トラッ

ピングがモッ トリングとして現れ ると言 ってい る。

また,こ の種のモ ットリングは,イ ンキセ ッテ ィン

グ速度 と各印刷 ユニッ ト間のイ ンターパルがきわめて

重要な要素であ り,た とえ塗工紙 がインキ乾燥性の不

均一を有 してい る場合で も,印 刷ユニッ ト間のイ ンタ

ーバルに対 して,イ ンキセ ッテ ィング時間がきわめて

長いか,あ るいは きわめて短い場合にはモ ッ トリング

は避け られるが,こ れ らの極端な条件下では,他 の ト

ラブルを生ずると言っている。

昭 和62年(1987)3月 ―15―

216 西岡 利恭,石 川 哲雄,内 田 明

著者等の経験で も,こ の種のモ ットリングはハ ーフ

トーンの中間部か らシャ ドウ部及びペタ部に多 く見 ら

れるよ うであ り,ス ミ→ シアン→ マゼ ンタ→イエ ロー

の刷 り順の4色 印刷 では,モ ッ トリングを発生 しなか

った塗工紙 でも6色 印刷では,2色 目のシア ンにモ ッ

トリング(著 者 らは"ア イムラ"と 称 してい る)が 認

め られた例 もある。

この現象 も2色 目に刷 られたシアンが不均一なセ ッ

テ ィング状態 とな り,そ の後の不均一な逆 トラッピン

グを受け る回数が増えたためにモ ットリングとして現

れた と理解できる。

また,こ の種のモ ッ トリングの多 くが"ア イ ム ラ"

としてシア ンのムラとして認め られ るのは,人 間の視

覚が シア ンのわずかな色濃度差に対 して敏感であ るた

めで もあ る。

2,2塗 工層表面の湿 し水に対 する濡れと吸水性の

不均一

先に述べた ように,イ ンキ乾燥性の不均一によって

発生するモ ットリングがハーフ トー ンの中間部からシ

ャ ドウ部及びペタ部の重ね刷 り部分に多 く見 られ るの

に対 し,多 色印刷の単色あるいはそれに近い部分(例

えば,印 刷見本のハーフ トーンスケールや風景印刷物

の空の部分等)等 で発生するモッ トリングもある。

この種のモッ トリング,例 えばシア ンや マゼ ンタの

ハ ーフ トーンスケールの30~50%に 起 こ る濃度ム ラ

は,単 色であ ることよ り逆 トラッピングとは異なる別

の原因に よって発生 していると考え られ る。

モ ットリング発生場所を光学顕微鏡 によって観察 し

てみると,濃 度の高い部分は網点の再 現性が良好であ

るのに対 し,濃 度 の低い部分は網点の再現性 が悪 く,

各々の ドッ トも濃度が低 くな っているこ とが わ か る

(写真1)。

図1湿 し水量 とイ ンキ転移量 の関係A:吸 水速度の速い塗工紙

B:吸 水速度 の遅い塗工紙

著者 らは,こ の種 のモ ッ トリングは1色 目(2色 目)

印刷時の非画線部のプランヶッ トより,湿 し水が塗工

層表面に供給 され,こ れが不均一に吸収 される ことに

よって,2色 目(3色 目)の インキ着肉 ムラとなって

現れるのではないが と考えている。

図1はPrufbauの 印刷適性試験機 を用いて湿 し水

を塗工表面に均一に与え,一 定のイ ンターバル後,一

定 イ ソキ量 にて印刷 した場合のイ ンキ転移量を供給す

る湿 し水量 に対 してプロッ トした ものであ る。

この図 より紙の吸水性及び湿 し水量に よってイ ンキ

転移量が大 きく変化す ることがわか る。

よって,実 機印刷 においてブランヶ ッ トよ り塗工層

表面に不均一に湿 し水が供給され るか,あ るいは均一

に供給 されても次の印刷ユニ ットに至るまで塗工 層が

不均一に これを吸収すれば,こ の種のモ ットリング発

生の原因 となることが考 えられる。

写真1モ ッ トリン グ トラプ ル を発生 した印刷 物の 濃度 の高 い部分

(左)と 低 い部 分(右)の 光学顕 微鏡 写真

紙パ技協誌 第41巻 第3号―16―

モットリングの発生原因とその対策 217

3.塗 工 紙 表 面 の 不 均 一性 と モ ッ トリング

対 策

一般に塗工層のもつ印刷 イ ンキの不均一な乾燥性,

あるいは湿 し水 の不均一な吸水性は不均一なバインダ

ーマイグレーシ ョン(塗 料の塗工乾燥時にパイ ンダー

が塗工層表面や原紙内部に移動す る現象)に よると考

え られてお り,こ の解析及びこれを防 ぐための研究が

数多 くなされてい る2)-7)。

これ らの研究を要約す ると,塗 工層が有す る不均一

性の発生原因に関す る塗工紙製造上の因果関係は,図

2の よ うにな るのではないか と考えられ る。

一般に,塗 工紙に使用される原紙は多かれ少なかれ

地合い ムラを もってお り,塗 工に より塗工直後の塗工

層厚みのムラを発生する。

鴻野氏は彼の総説の中でコーターヘ ッ ドと塗工層断

面の形状について,図3の ようになると述べてお り,

この中でブレー ド塗工に よって作 られ る塗工紙の欠点

として光沢モッ トルを挙げている8}。

また,Per-Johan Aschan氏 は,ブ レー ド塗工 した

図2塗 工層表面の不均一性の発生原因

図3塗 工方法による塗工層の断面形状の違い

場合にはあ る限 られた塗工条件下でのみモ ットリング

フ リー とな るが,エ アーナイフコーティングした場合

には図3-aの よ うな輪郭塗工層 となるので塗工層や乾

燥条件に関係な くモ ッ トリングフ リーの紙 を与えると

述べている4)。

さらに,DAN E.Eklund氏 はベベル ブレー ドとロ

ーアングルプレー ドにおけるブレー ド角及び ブレー ド

圧 と塗工層の不均一性について報告 してお り,そ の中

でベベルブレー ドは原紙の空隙を埋めて平滑な塗工層

表面 を与える(塗 工層厚みは不均一とな る)の に対 し,

ローア ングルブレー ドは輪郭塗工層によ り近い塗工層

を与え易いと述べている9)。

よって,塗 工厚みの均一性 とい う点か らは,エ アー

ナイフコーティングが最 も有利であるといえるが,高

濃度塗料を塗工できない,塗 工速度が上げ られず生産

性が低い等の理 由か ら,現 在では塗工紙 の製造に用い

られ ることは ごく稀であ る。

現在,塗 工紙 の生産性及び塗工層表面の平滑性 が良

い等の理 由か ら塗 工紙の製造に用いられるコーターヘ

ッ ドとして,ブ レー ドが主流になっているが,前 述の

ごとくブ レー ドコーターは表面の平滑性 が良 くなるが

ために,モ ッ トリング発生の可能性が高いと言える。

ブレー ドコーテ ィングによって生 じる塗工直後の塗

工厚みの不均一性は,塗 工 層の厚い部分 と薄い部分 と

で塗料の固化速度を不均一にし乾燥工程及びそれに至

る過程でC.S.R.(Critical Solid Range:同 一塗工面

に塗料の固化 した部分 と固化 しない部分 が不均一に存

在する領域)を 生ずる。

塗工直後からC.S.R.に 至るまでの タイ ミングは,

原紙のサイズ度,塗 工量,塗 料処方(顔 料,バ ィ ンダ

ー,固 形分濃度に よるカラーの固化速度)等 に よって

決定 され,こ れ と塗工速度及び乾燥 ユニ ットの能力 と

配置によって決定され る乾燥のタイ ミングを うま くコ

ントロールすることによって,不 均一なバインダーマ

イグレーショ ンはある程度避け られ ると考え られ る。

A.KrishnagopolanとG.L.Simardは,EPMA

(Electron Prebe Microanalyzer)を 用いてSBR

Latexの マイグレーシ ョンに与える原紙 のサイズ,塗

料濃度,乾 燥のタイ ミングの影響 について検討 した結

果,サ イズのあ る原紙を用い,塗 料濃度が低 く,乾 燥

のタイ ミングが短い条件下で塗工層表面のバイ ンダー

密度が最 も高 くなると報告 してお り,こ れ と同一条件

下 で塗料濃度を上げ るこ とに よって大幅に塗工層表面

のバインダー密度 は低下す る結果を紹介 している%

この ような結果 も塗料濃度が不均一なC.S.R.で の

強い乾燥は,塗 工層の厚い部分の表面でバイ ンダー密

昭 和62年(1987)3月 ―17―

218 西岡 利恭,石 川 哲雄,内 田 明

度 が高 くなるような,不 均一なバ インダーマイグレー

シ ョンを発生することを示唆 してい る。

Per-Johan氏 はC.S.R.に おけ る強い乾燥 を避ける

ように,エ アーホイル ドライヤーの温度及び塗工量 を

設定すれば ブレー ドコーテ ィングに よって もモッ トリ

ングフ リーの紙が得 られると報告 しているし4),Ken-

neeth G.Hagen氏 はバインダーマイグレーションを

抑制す るには,塗 料の固化点に至 るまでは強い乾燥を

避けるべ きであると述べてい る7)。

また,Erik W-Stephansen氏 は不均一なバイ ンダ

ーマイグレーションを抑 制 す る に は,HIHF(High

Intensity High Frequency)IRド ライヤーが有効 で

あ ると報告 している2)。

彼 らは乾燥後の含水率を一定に保つ ためには,塗 工

速度が上がるにつれてエアー ドライヤーの乾燥能力を

高 くせねばならず,こ れによってモ ッ トリングは発生

し易 くなるが,コ ーターヘ ッ ド直前の原紙 の予備加熱

や コーターヘ ッ ドと エアホイル ドライヤー間に,HI-

HF,IRド ライヤーを用い ることに よって塗工層及び

原紙 を均一加熱 し,エ アホイル ドライヤー下 での強 い

乾燥が避け られ,モ ッ トリングが著 しく改善 される と

述べてい る。

4.SBRラ テ ック ス の 品 質 設 計 に よ る

モ ッ トリンゲ 対策 の可 能 性

現在,SBRラ テ ックスはデ ン プ ンや カゼイ ン等の

天然パインダーと共に,塗 工紙用バイ ンダー として広

く用いられてお り,塗 料の高品質化,高 固形分化に伴

って,パ インダー中におけ る使用比率 も高 くなって き

ている。

塗工層を形成する構成要素の中で,配 合量が少ない

分散剤,添 加剤を除けばSBRラ テックスは唯一の合

成物であ り,他 の構成要素(顔 料,天 然パイ ンダー)

に比べて品質設計の自由度は きわめて高い。

特に日本では,米 国の ように鉱物顔料資源が豊富に

あ るわけではな く,塗 工紙の品質設計に お け るSBR

ラテ ックスの役割 もかな り大 きいと言える。

著者 らはSBRラ テ ックスの性質 と塗工紙 のインキ

セ ッ ト性及び湿 し水が関与 した際のイ ンキ着肉性 との

関係に着 目し,SBRラ テ ックスの品質設計に よる モ

ッ トリング対策について検討 したので以下に紹介 した

い10)。

まず著者 らは表1に 示す ような4種 類の カルボキシ

変性SBRラ テックスを使い,表2に 示す配合処方に

より塗料を作製 した。

これ ら4種 類の塗料を各 々7g/m2,14g/M2,23g/m2

の塗工量になるように,ワ イヤーロッ ドを用いて地合

いム ラの 少ない平滑な原紙に 塗工乾燥 し,12種 類 の

塗工紙試料を作製 した。 これ らを同一条件下にて,い

くつ かの試験を行 い,各 々のラテ ックスが示す塗工量

依存性を調べ,モ ットリング対策の可能性について検

討 した。

表14種 類のSBRラ テ ックス

表2塗 料 処 方

4.1イ ンキセ ット性の塗工量依存性

一般にオフセッ ト印刷イ ンキは顔料,樹 脂,乾 性油,

鉱物 油等を成分 としている。

塗工紙のバ インダーとして用い られ るデ ンプ ンや カ

ゼイ ンはそれ 自身,乾 性油や鉱物油等のインキ中の低

粘度成分を吸収 しな い が,SBRラ テ ックスはこれを

吸収す る能 力を有 してい る。

表1に 示 した4種 類の ラテ ックス フィル ム(非 多孔

写真2各SBRラ テ ックスフ ィルムの アマ ニ

油吸収 性(赤 色濃度 が高 いほ ど吸収

性 が 大 きい)

*copyright, 1986, TAPPI coating

conference proceedings.

紙パ技協誌 第41巻 第3号―18―

モ ットリングの発生原因とその対策 219

性)の アマニ油吸収性を写真2に 示 した。油溶性の赤

色染料をアマニ油に溶解 し,こ れを各々のラテ ックス

フィルムに過剰 に塗布 し,一 定時間後にふきとって,

その着肉濃度を相対的に比較 した ものである。 この写

真 よ り,MFT(最 低造膜温度)の 低いSBRラ テ ック

スほどアマニ油の吸収性が高い ことがわかる。

また,一 般にSBRラ テ ックスのゲル含有率(ポ リ

写真3塗 工紙 試料 の インキセ ッ ト性 試験

* copyright, 1986. TAPPI coating

conference proceedings.

写 真4塗 工 紙試料 の トラ ッピ ング性 試験

* copyright, 1986, TAPPI coating

conference proceedings.

マーのペ ンゼン不溶部の割合)が 低 くなるにつれて,

アマニ油の吸油性は高 くなるが,ア クリル ニ トリルを

共重合 しているSBRラ テックスDは,低 ゲル含有率

であるに もかかわ らず,そ のアマニ油吸収性は低い。

一般に塗工紙 のイ ンキセッ ト性 は,塗 工層の多孔性

構造に よるものと理解 されてい るが,上 述 のように,

SBRラ テックス自身 もイ ンキ中 の低粘度成分を吸収

し,イ ンキセ ッ ト性に寄与す るのであ る。

写真3,4は12種 類の塗工紙 試料について行 ったイ

ンキセッ ト性及び トラッピング性試験の結果である。

(写真中のI,II,IIIは 塗工量7,14,23g/m2を 各

々表す)

イ ンキセ ット性試験 はRIテ スターを用いて塗工紙

試料を印刷 し,一 定時間後(20~180秒)に 別の塗工

紙に転写させて,そ の濃度に より相対比較 してい る。

よって写真3に おいて,濃 度 の低い部分ほどインキ

セッ トが進 んでいることを示 している。

トラッピング性試験 は,RIテ スターの1本 目の ロ

ールによって塗工紙試料をイエ ローイ ンキで印刷 し,

一定時間後(2~20秒)に2本 目のロールに よって,

マゼ ンタイ ンキを重ね印刷 し,こ の濃度に より相対比

較 してい る。写真4で マゼンタインキの濃度が高い部

分ほど,1色 目のインキセ ットが速 く,ト ラッピング

性が良い ことを示している。

写真3,4よ りSBRラ テックスB・DはSBRラ テ

ックスA・Cに 比較 して塗工量依存性の小さなインキ

セッ ト性,ト ラッピング性を与えることがわかる。

図4は 塗工紙試料のK&Nイ ンキ吸収性 と塗工量の

図4塗 工紙試料の塗工量 とK&Nイ ンキ

吸収性 の関係

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昭 和62年(1987)3月 ―19―

220 西岡 利恭,石 川 哲雄,内 田 明

関係を示 してい る。一般にK&Nイ ンキ吸収性は塗工

層表面の多孔性 と相関のある量 として用い られ る。

事実,SBRラ テ ックスBの ように ア マ ニ油等を良

く吸収す るフ ィルムもK&Nイ ンキを全 く吸収 しない

ので,K&Nイ ンキの吸収に よる白色度の低下率は,

塗工層表面の多孔性構造によるものであると言 える。

よって,SBRラ テックスA・Cが 与 え るイ ンキセ

ット性及び トラッピング性の大 きな塗工量依存性は,

塗工量が多 くな るにつれバイ ンダーマイグレーション

が激 しくな り,塗 工層表面の多孔性が減少 した ことに

よる と理解できる。

また,SBRラ テ ックスDの イ ンキセッ ト性 及 び ト

ラッピング性にわずかな塗工量依存性 しかみられない

のは,塗 工層表面の多孔性構造 が塗工量にほとん ど依

存 しない ことに基づ くものであ り,こ れが低 ゲル含有

率のSBRラ テ ックスの特徴であ る。

SBRラ テ ックスBのK&Nイ ンキ吸収性は,SBR

ラテ ックスA・Cと 同様,塗 工量の増加 と共に減少す

るが,そ のインキ乾燥性及び トラッピング性の塗工量

依存性はほとんどみ られない。

SBRラ テックスBの 場合 も,SBRラ テ ックスA・

Cと 同様に塗工量が多 くなるに従 って豊工層表面への

ラテックス粒子のマイグレーションが激 しくな り,表

面 の多孔性が低下するため ミクロボアーによるイ ンキ

の物理的吸収は減少す るが,そ の反面,表 面にマイグ

レーシ ョンしたSBRラ テックスBは ポ リマー自身が

イ ンキの低粘度成分を吸収 し易いので,イ ンキの化学

的吸収を増加させ,こ れが物理的吸収の減少を補 うた

めに上述 のような小さな塗工量依存性が得 られ るので

はないかと,著 者 らは理解 している。

以上 のようなことから逆 トラッピングによるモ ット

リング対策 としてSBRラ テ ックスB・Dの 使用が有

効であると考えられる。

4.2塗 工層表面の吸水性の塗工量依存性 と

イ ンキ着肉

著者 らは,湿 し水で濡 らされた塗工紙 に対す るイン

キ着肉性を試験す る場合,通 常供給する湿 し水量が相

対的に異なる2種 類の試験法を採用 している。

なぜなら,実 機印刷時に供給 される湿 し水量が印刷

条件に より異なるからである。

本報の中では,湿 し水が少ない場合の試験法をオフ

セ ットイ ンキ着 肉I法,湿 し水が多い場合の試験法を

オフセ ッ トイ ンキ着肉II法 と呼ぶ ことにす る。

I法 は湿 し水が少ないため,印 刷時には塗工層表面

の湿 し水が塗工層内に吸収 され湿潤状態にある塗工紙

のイ ンキ着肉性を見ている事にな る。

II法では,か な り吸水速度の速い塗工紙 でも,湿 し

水を供給 してか ら印刷するまでのイ ンターバ ル内で,

これを完全に吸収す ることがで きない程の供給量であ

るため,塗 工 層表面に湿 し水が残っている状態におけ

写真5塗 工紙 試料 の オフ セ ッ トイ ン キ着

肉性(I法)

*copyright, 1986, TAPPI coating

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写 真6塗 工紙 試料 の オフセ ッ トインキ着 肉

性(II法)

*copyright, 1986, TAPPI coating

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―20― 紙パ技協誌 第41巻 第3号

モットリングの発生原因とその対策 221

るイ ンキ着 肉性を見ていることになる。

12種 類の塗工紙試料の オフセ ットイ ンキ 着 肉1法

の結果を写真5に 示 した。

SBRラ テックスCを 用 い た塗工紙試料が塗工量依

存性の少ない良好なイ ンキ着肉性を示 した。

同様に,オ フセ ットイ ンキ着肉II法 の結果を写真6

に示 したが,I法 とは異な りSBRラ テックスDを 用

いた塗工紙試料が塗工量依存性の少ない良好なインキ

着 肉性を示 している。

図5塗 工紙試料の塗工量と吸水性の関係* copyright, 1986, TAPPI coating

conference proceedings.

図6塗 工紙試料に対する水の接触角と塗工量の関係

* copyright, 1986, TAPPI coating

conference proceedings.

図5,6は 塗工紙試料の吸水性 及び水 の試料表面 に

対す る接触角を塗工量 に対 してプロッ トした ものであ

る。図4に 示され るように,ど のSBRラ テックスを

用 いた塗工紙 試料に も吸水速度の塗工量依存性は認め

られ るが,ラ テ ックスCが 最 も速い吸水速度を与え,

ラテ ックスDが 最 も遅 い吸水速度を与 える。

また,図5に 示 した水の接触角は,ラ テ ックスCを

用いた塗工紙が最 も低い値を示 しているのに対 し,ラ

テ ックスDを 用いた塗工紙は90° 以上 の値 とな り,発

写真7プ レー ド塗工紙 の イ ンキ乾燥性

試験

写 真8ブ レー ド塗工 紙 の トラ ッピ ン グ性 試

昭 和62年(1987)3月―21―

222 西岡 利恭,石 川 哲雄,内 田 明

Latex A B C D

写真9プ レー ド塗工紙 の オフセ ッ トイ ン

キ着 肉性(1法)

写真10ブ レー ド塗工紙 の オフセ ッ トイ

ンキ着 肉性(II法)

水傾向を示 してい る。

著者 らは上述のようなI法,II法 における結果の相

違 は次の ような理 由に よるもの と考えている。

つ ま りI法 では,供 給 される湿 し水の量が少ないた

め吸水速度 の速い塗工紙 では,湿 し水付与直後の印刷

時 に,塗 工紙表面が よ りドライな状態 とな り良好なイ

ンキ着肉性を示すが,過 剰な湿 し水が与え られ る狂法

では,吸 水速度の速い塗工紙で も,印 刷時にはまだ表

面 に水が残 ってい るため,発 水傾向を示すイ ンキとな

じみの良い塗工層の方が良好なイ ンキ着肉性を示す。

以上の結果を踏 まえ,ペ ンチス ケールの ブレー ドコ

ータを用 いて塗工量15g/m2と な る よ うに作製 した

塗工紙について,イ ンキ乾燥性,ト ラッピング性,オ

フセッ トイ ンキ着 肉I,II法 を行 った結果を 写真7~

10に 各々示 した。 これ らから塗工紙試料 にみ られ た

塗工量依存性が,各 々の試験においてム ラとな って現

れ てい るのがよくわか る。

この ように,モ ッ トリングの発生原因 に応 じて,塗

工紙のバイ ンダー として用いるSBRラ テックスの品

質設計を変えることに よ り,あ る程度 のモッ トリング

対策を とることが可能であると考え られ る。

5.ま と め

多色オフセ ッ ト印刷時のモ ットリング トラブル の中

で塗工層のバイ ンダーに起因す る問題について考えた

場合,印 刷 インキのセ ッテ ィング速度の不均一性に基

づ くトラブル と湿 し水の吸収速度 の不均一性に基づ く

トラブルとに分け られる。

しか し,い ずれの場合 も原紙 の不均一な地合いが不

均一な塗工層厚み,さ らには塗工層表面 の不均一なパ

インダー分布を生 じさせ,こ の不均一性 が上記モ ッ ト

リング トラプルに結 びついてい る。

これ らの問題につ いて塗工紙製造上 の対策が種 々提

案されているが,塗 料に用いるSBRラ テッ クスによ

ってもある程度の対策が可能であ る。

SBRラ テックスの品質設計 として は,不 均一な塗

工層厚みが存在 しても,塗 工層表面にバインダ分布の

不均一を発生 させないような設計が理想であるが,た

とえ不均一なバイ ンダー分布が発生 して も,イ ンキ及

び湿 し水に対する性質が一定の条件下 で均一 と見 なせ

るようにすることが基本 となる。

モ ットリング トラブルの対策はその原因がどこにあ

るか,す なわち,イ ンキセ ッ ト速度に問題があるのか,

湿 し水の吸収速度 に問題があるのかを判断する ことが

重要 であ り,そ れによって塗工紙 の製造における操業

条件や塗工顔料だけでな く,バ イ ンダー面か らだけで

もある程度 の対応をとることがで きる。

参 考 文 献

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Druckausf all von Gestrichenen Papieren in

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High Intensity Infrared to Reduce Binder

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3) Engstrum, G et al "How Drying Conditions

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5) Wolfgang E. Garber, "Correlations BetweenDrying Conditions and Quality of Coated

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ration of SBR Binder in Coated Paper ", Tappi

Coating Conference Proceedings, 1976, 71-76

7) Kenneth G. Hagen "A Fundamental Assess-ment of the Effect of Drying of Coating

Quality", Tappi Coating Conference Procee-

dings, 1985, 131-137

8) 鴻 野銃 二 郎, "印 刷 用塗 工紙 の最 近 の技 術 に つ い

て(II)", 紙 パ技 協誌, 39,(4), 1~12

9) Dan E. Eklund, "Influence of Blade Geome-

try and Blade Pressure on the Appearance

of a Coated Surface", Tappi Coating Con-

ference Proceedings, 1984, 37-43

10) T. Nishioka, K. Fujita, A. Uchida, K. Matsu-

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Problems with Offset Printing", Tappi Coa-

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昭 和62年(1987)3月 ― 23―