catalytic chemistry division 触媒化学部門catalytic chemistry division 東工大 資源研...

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6 環境にやさしいものづくり ~その決め手は触媒~ 授 野村 淳子 教 横井 俊之 触媒化学部門 キーワード : 触媒化学、ゼオライト、メソポーラス物質、赤外分光法 現在我々が直面しているエネルギー問題・環境問題の解決に、新規な触媒および触媒反応の開発は本質的 な重要性をもっています。触媒化学部門では、ゼオライト・メソポーラス物質・規則性シリカ粒子などの新 しいナノ材料の設計とこれらの材料を中心とした触媒反応プロセスの開発を行っています。有用な物質をつ くる際に、危険な薬品を用いたり、環境に有害な廃棄物を排出することのない新しい化学を築き上げること、 それが私たちの目標です。 東工大 資源研 触媒化学 野村研 Catalytic Chemistry Division ゼオライトの新規合成手法の開拓 現在、固体触媒として用いられているゼオライトの合 成にはアミンや有機アンモニウム塩等の有機構造規定剤 (Organic Structure - Directing Agent、 以 後「 有 機 SDA」)が使用されています。この有機 SDA の使用は ゼオライト製造の高コスト化をもたらしています。また、 合成に用いた有機 SDA は最終的には燃焼除去されます が、その際多量のエネルギーを必要とし、CO2 や NOx 等を多量に排出します。 私たちは高価な有機 SDA の使用が必須とされて いたゼオライトを有機 SDA を使用せずに合成する 手法の開発に取り組んでいます。このような合成 手法の開発により従来は合成が困難であったゼオ ライトが容易に合成できるようになり、新規な触 媒プロセスの開発も期待されます。 バイオマスの有効利用のためのゼオライ ト触媒開発 化石資源の枯渇や地球温暖化などの環境問題に伴い、 再生可能な資源であるバイオマスが注目されています。 特に林産廃棄物や農産廃棄物中に含まれる非食物系バイ オマスの有効利用が重要視されるようになっています。 私たちは、全バイオマス中の約75% を占める糖類(炭 水化物)に着目しました。グルコースやキシロースは脱 水されることで有用化学品の中間体であるフルフラール 類に変換できます。私たちは Al 原子を含んだゼオライ トがこの反応に有効な触媒であることを見出しました。 この反応が固体酸触媒を用いて行うことが可能になり、 バイオマス利用の幅が広がることが期待されます。 個性の強いメソポーラス遷移金属酸化物 遷移金属酸化物はもともと個性が強く、メソポーラ ス構造をとることで特徴的な様々な機能の発現が期待 されます。私たちは遷移金属酸化物を骨格としたメソ ポーラス材料を調製しています。たとえば、酸化タン タルのメソポーラス構造の細孔空間は非常に疎水的に なります。左の写真では色 素がメソポーラス酸化タ ンタルの疎水空間に取り 込まれ、水層から分離でき ることがわかります。この 特徴的な性質は、水中に微 量存在する有害有機分子 の除去などに応用するこ とができます。 触媒反応はなぜおこるの? ─ IR 法による触媒上の分子の観測─ 触媒反応は、活性点と呼ばれる特別なサイトで進行す ることから、活性点の構造や反応機構の詳細を理解する ことは、触媒開発のためのみならず学術的にも重要です。 私達は触媒反応の理解を進めるために IR 法を用いて、 分子が触媒上に吸着する様子や吸着分子が活性化され触 媒反応が進行する過程を基礎から詳細に調べています。 私たちはメタノール転換反応を段階的に進行させ、且 つ実際の反応条件よりも低温下で希薄なメタノールを用 い、その過程を IR 法により解析しました。その結果、 メタノール転換反応の素反応の 1 つであるエチレンの メチル化反応について有用な情報が得ることに成功して います。

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Page 1: Catalytic Chemistry Division 触媒化学部門Catalytic Chemistry Division 東工大 資源研 触媒化学 野村研 ゼオライトの新規合成手法の開拓 現在、固体触媒として用いられているゼオライトの合

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環境にやさしいものづくり ~その決め手は触媒~准 教 授 野村 淳子

助  教 横井 俊之

触媒化学部門

キーワード : 触媒化学、ゼオライト、メソポーラス物質、赤外分光法

 現在我々が直面しているエネルギー問題・環境問題の解決に、新規な触媒および触媒反応の開発は本質的な重要性をもっています。触媒化学部門では、ゼオライト・メソポーラス物質・規則性シリカ粒子などの新しいナノ材料の設計とこれらの材料を中心とした触媒反応プロセスの開発を行っています。有用な物質をつくる際に、危険な薬品を用いたり、環境に有害な廃棄物を排出することのない新しい化学を築き上げること、それが私たちの目標です。

東工大 資源研 触媒化学 野村研Catalytic Chemistry Division

ゼオライトの新規合成手法の開拓 現在、固体触媒として用いられているゼオライトの合成にはアミンや有機アンモニウム塩等の有機構造規定剤

(Organic Structure-Directing Agent、 以 後「 有 機SDA」)が使用されています。この有機 SDA の使用はゼオライト製造の高コスト化をもたらしています。また、合成に用いた有機 SDA は最終的には燃焼除去されますが、その際多量のエネルギーを必要とし、CO2 や NOx等を多量に排出します。 私たちは高価な有機 SDA の使用が必須とされていたゼオライトを有機 SDA を使用せずに合成する手法の開発に取り組んでいます。このような合成手法の開発により従来は合成が困難であったゼオライトが容易に合成できるようになり、新規な触媒プロセスの開発も期待されます。

バイオマスの有効利用のためのゼオライト触媒開発 化石資源の枯渇や地球温暖化などの環境問題に伴い、再生可能な資源であるバイオマスが注目されています。特に林産廃棄物や農産廃棄物中に含まれる非食物系バイオマスの有効利用が重要視されるようになっています。 私たちは、全バイオマス中の約 75% を占める糖類(炭水化物)に着目しました。グルコースやキシロースは脱水されることで有用化学品の中間体であるフルフラール類に変換できます。私たちは Al 原子を含んだゼオライトがこの反応に有効な触媒であることを見出しました。この反応が固体酸触媒を用いて行うことが可能になり、バイオマス利用の幅が広がることが期待されます。

個性の強いメソポーラス遷移金属酸化物 遷移金属酸化物はもともと個性が強く、メソポーラス構造をとることで特徴的な様々な機能の発現が期待されます。私たちは遷移金属酸化物を骨格としたメソポーラス材料を調製しています。たとえば、酸化タンタルのメソポーラス構造の細孔空間は非常に疎水的に

なります。左の写真では色素がメソポーラス酸化タンタルの疎水空間に取り込まれ、水層から分離できることがわかります。この特徴的な性質は、水中に微量存在する有害有機分子の除去などに応用することができます。

触媒反応はなぜおこるの?─ IR 法による触媒上の分子の観測─ 触媒反応は、活性点と呼ばれる特別なサイトで進行することから、活性点の構造や反応機構の詳細を理解することは、触媒開発のためのみならず学術的にも重要です。私達は触媒反応の理解を進めるために IR 法を用いて、分子が触媒上に吸着する様子や吸着分子が活性化され触媒反応が進行する過程を基礎から詳細に調べています。 私たちはメタノール転換反応を段階的に進行させ、且つ実際の反応条件よりも低温下で希薄なメタノールを用い、その過程を IR 法により解析しました。その結果、メタノール転換反応の素反応の 1 つであるエチレンのメチル化反応について有用な情報が得ることに成功しています。