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1 第4章 社会的選択の理論(II) ギバード=サタースウェイトの定理 センのリベラル・パラドックス

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第4章社会的選択の理論(II)

ギバード=サタースウェイトの定理

センのリベラル・パラドックス

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1.戦略的操作とギバード=サタースウェイトの定理

個々人の価値判断

↓集計

社会全体の価値判断

戦略的操作可能性

①個人的操作可能性

②集団的操作可能性

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ボルダ・ルール

[定義]ボルダ数β i(x)

任意のx に対し,x より厳密に選好されない選択対象の数から,x より厳密に選好される選択対象の数を引いた数

ボルダ・ルールの下での社会的選択関数

C(X)={x} ⇔ ∑iβ i (x)≧ ∑i β i (y) ,∀y∈ X

[個人的操作可能性の例]

N={1,2,3}:社会

X={x,y,z,w}:選択対象

厳密な選好順序のみ

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真実のプロフィール a

R1a:x, y, z, w

R2a:w, x, y, z

R3a:w, x, y, z

ボルダ数

β 1a(x)=3, β 1

a(y)=1, β 1a(z)=-1, β 1

a(w)=-3

β 2a(x)=1, β 2

a(y)=-1, β 2a(z)=-3, β 2

a(w)=3

β 3a(x)=1, β 3

a(y)=-1, β 3a(z)=-3, β 3

a(w)=3

ボルダ数の集計

∑iβ ia(x)=5, ∑iβ i

a(y)=-1,

∑iβ ia(z)=-7, ∑iβ i

a(w)=3

社会的選択:C a(X)={x}

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虚偽のプロフィール bR1

b:x, y, z, wR2

b:w, x, y, zR3

b:w, y, z, x

ボルダ数β 1

b(x)=3, β 1b(y)=1, β 1

b(z)=-1, β 1b(w)=-3

β 2b(x)=1, β 2

b(y)=-1, β 2b(z)=-3, β 2

b(w)=3 β 3

b(x)=-3, β 3b(y)=1, β 3

b(z)=-1, β 3b(w)=3

ボルダ数の集計∑iβ i

b(x)=1, ∑iβ ib(y)=1,

∑iβ ib(z)=-5, ∑iβ i

b(w)=3

社会的選択:C b(X)={w}

個人3にとってはxより望ましい

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単純多数決による不敗者の選択

社会的意思決定ルール

どんな y に対しても,N(xPy)≧ N(yPx) となる

x∈ X を選ぶ.

[集団的操作可能性の例]

N={1,2,3,4},

X={x,y,z}

無差別の選好を許す

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プロフィール a(真実)

R1a:x f y ~ z

R2a:x ~ y f z

R3a:z f x f y

R4a:y f z f x

このとき

N(xPy) = 2 > 1 = N(yPx)

N(xPz) = 2 = 2 = N(zPx)

N(yPz) = 2 > 1 = N(zPy)

a の下では x が選ばれる

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虚偽のプロフィール b

R1b:x f y ~ z

R2b:x ~ y f z

R3b:z f y f x

R4b:z f y f x

このとき

N(xPy) = 1 < 2 = N(yPx)

N(xPz) = 2 = 2 = N(zPx)

N(yPz) = 1 < 2 = N(zPy)

b の下では z が選ばれる

個人3,4にとってはxより望ましい

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ギバード=サタースウェイトの定理

[公理 NT]非タブー性

∀ x ∈ X: [∃ a ∈ A : x ∈ C(a)]

[公理 NM]戦略的操作不可能性

∀ a, b ∈ A: [∀ j ∈ N-{i}: Rja=Rj

b]

⇒ C(a) Ria C(b)

[公理 ND]非独裁制

¬∃ i ∈ N:[∀ a ∈ A, ∀ x,y ∈ X: x Pia y

⇒ x ∈ C(a)]

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[ギバード=サタースウェイトの定理]

[公理 NT](非タブー性),[公理 NM](戦略的操作不可能性),[公理 ND](非独裁制)を同時に満足する社会的選択ルールは存在しない.

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2.自由主義的権利とリベラル・パラドックス

個人の私的領域における決定

個人の権利・自由の尊重

↓↑

パレート原理との対立

↓↓

リベラル・パラドックス

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『チャタレー夫人の恋人』の例

N={A,B}:社会

『チャタレー夫人の恋人』という一冊の本

X={ rA, rB, r0}:社会状態の集合

rA(Aがその本を読む)

rB(Bがその本を読む)

r0(両者ともその本を読まない)

選好順序(強い意味の選好)は,

RA : r0, rA, rB

RB : rA, rB, r0

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Aの権利→r0と rAの間の選択

→ r0はrAより社会的に選好

Bの権利→r0と rBの間の選択

→rBはr0より社会的に選好

パレート原理→rAは rBより社会的に選好

社会的選好関係に循環

『チャタレー夫人の恋人』を誰が読むかについての社会的決定は不可能

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ア ン ジ ェ リ ー ナ と エ ド ウ ィ ン の結婚の例 N={E,A,J}

X={ WE, WJ, W0}

WE:エドウィンとアンジェリーナが結婚,

WJ:アンジェリーナは判事と結婚,エドウィンは独身のまま

W0:エドウィンもアンジェリーナも独身のまま

3人の選好は,

RE : W0, WE, WJ

RA : WE, WJ, W0

RJ : WE, WJ, W0

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エドウィン: W0と WEの間で権利

→W0は WEより社会的に選好

アンジェリーナ: WJと W0の間で権利

→WJは W0より社会的に選好

パレート原理: WEは WJより社会的に選好

↓↓

社会的選好関係は循環を含む

→2人の結婚問題を社会的に解決す

ることはできない

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労働時間選択の例

N={1, 2}

X={(1, 1/2), (0, 1/2), (1/2, 1), (1/2, 0)}

(個人1の労働時間,個人2の労働時間)

パートタイムの仕事に就いている2人の個人1,2にフルタイムの可能性

個人1,2の選好は R1 : (1/2, 0), (1, 1/2), (0, 1/2), (1/2, 1)

R2 : (0, 1/2), (1/2, 1), (1/2, 0), (1, 1/2)

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個人1: (1, 1/2) と (0, 1/2) の間で権利

→(1,1/2) は (0, 1/2) より社会的に選好

個人2: (1/2, 1) と (1/2, 0) の間で権利

→(1/2, 1) は (1/2, 0) より社会的に選好

パレート原理:

(1/2, 0) は (1, 1/2) より社会的に選好

(0, 1/2) は (1/2, 1) より社会的に選好

↓↓

社会的選好に循環,社会的決定は不能

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リベラル・パラドックス

N={1, 2, ..., n} : 個人の集合

X : 論理的に可能なすべての社会状態の集合

Ri : 個人 i のX上の選好順序 a=(R1

a, R2a, ... , Rn

a) : プロフィール

A : 論理的に可能なすべてのプロフィールの集合

F : 集団的選択ルール 各プロフィールをX上の社会的選択関数Cに移す関数

[公理 UD](定義域の非限定性)

集団的選択ルールFの定義域はすべての論理的に可能なプロフィールから成る

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[公理 P ](パレート原理)

全員一致である状態を他よりも選好するならば,社会的選択も一致した選好に従わなければならない

[定義]

各個人に対して社会状態の順序対,すなわち X×X の部分集合 Di を指定するD=(D1, D2, ... , Dn)を権利システムという

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集団的選択ルールが任意のa∈A,i∈N,x, y∈X に対して

(x, y)∈Di∩Pia ⇒ [x∈S→y∉C a (S)]

のとき,権利は社会的に承認されるという

[公理 SL](センの自由主義的権利要求)

少なくとも2人の個人は権利をもち,その権利は社会的に承認されなければならない

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[センの定理](リベラル・パラドックス)

[公理 UD](定義域の非限定性),[公理 P ](パレート原理),[公理 SL](センの自由主義的権利要求)を同時に満足する集団的選択ルールは存在しない

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厚生主義(パレート原理)批判

厚生主義 社会状態の善さは究極的にはその状態における個人的効

用の組に依存

個人的効用の増加関数とみなしうる

そこで生み出される個人的効用以外に,いかなる情報も用いない一般的な評価原理(方法)

個人的効用が同一ならば,非効用の側面で異なっていても,同等に善いと判断される

リベラル・パラドックス 広範性の条件の下で,自由主義的権利の要求とパレート

原理(厚生主義)とが対立