第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - esri90 第3章...

37
90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教 育アスピレーション)は、将来の社会のありようを方向づける極めて重要な現在世代の意 思である。 出生意欲と教育アスピレーションの関係について例えば新谷(2005)は、両者はトレー ドオフの関係にある可能性を指摘している。また内閣府(2013)は、教育アスピレーショ ンが教育費等に係る経済的負担感を高め、そのことが中間の所得層の出生意欲を減じてい る可能性を指摘している。 本稿は教育アスピレーションと出生意向の関係について、女性の就業形態の別を意識し た検討を行う。女性の就業形態に着目するのは、主に就業形態の違いによって生じる就業 面(ワーク)での差が結婚や出産など私生活面(ライフ)での差につながる傾向が見られ るようになっているからである。正規雇用を中心に仕事と育児の両立支援が進み正規雇用 と有期雇用の第一子出産後の就業継続率の差に広まりがみられる 58 が、就業継続の違いは、 その後長期にわたる所得と人的資本蓄積の機会の違いも生む。様々な違いを内包する就業 形態の違いが、出生意欲と子どもの教育意欲とにどのような違いをもたらしているかを検 討するのが本章の課題である。 検討に当たっては、教育アスピレーションが経済的負担感を高め、そのことが出生意欲 に影響をあたえるとする内閣府(2013)が示した経路を踏襲する。 2先行研究 2-1 教育アスピレーション アスピレーションは社会的諸資源を具体的目標とする達成要求とされ、教育アスピレー ションはその下位分類の一つに位置づけられる。具体的には「どの程度までの教育達成を 望むか」を示す(三輪・苫米地;2011)。教育アスピレーションは出身階級や周囲の他者の 影響を受けて形成され、その高低が実際の教育達成に影響して職業などの地位達成に影響 するとされる。教育達成は社会的出自(親の職業)と到達的地位(子どもの職業)の関係 性を扱う世代間移動研究では重要な中継地点とされ(吉川;2012)、社会学や教育社会学で も「階級的地位の再生産へと寄与する側面」があるゆえ重要な研究対象とされてきた(片 瀬;2005、三輪・苫米地;2011)。 58 国立社会保障・人口問題研究所「第 14 回出生動向基本調査(夫婦調査)」をもとに作成 された出産前有職者の就業形態別就業継続率(内閣府「仕事と生活の調和レポート 2013図表 3-4-18)によれば、第一子出産後就業継続率は 19851989 年には正規雇用 40.4%、 パート等 23.7%であったが 20052009 年には正規雇用 52.9%、パート等 18.0%である。 なお、女性の就業継続の意向を踏まえた分析(同レポート図表 3-4-20)でも有期雇用は 出産前の就業継続の希望が反映しにくいことを示している。

Upload: others

Post on 23-Aug-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

90

第3章 教育アスピレーションと出生意欲

高村 静

1 問題意識

子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

育アスピレーション)は、将来の社会のありようを方向づける極めて重要な現在世代の意

思である。

出生意欲と教育アスピレーションの関係について例えば新谷(2005)は、両者はトレー

ドオフの関係にある可能性を指摘している。また内閣府(2013)は、教育アスピレーショ

ンが教育費等に係る経済的負担感を高め、そのことが中間の所得層の出生意欲を減じてい

る可能性を指摘している。

本稿は教育アスピレーションと出生意向の関係について、女性の就業形態の別を意識し

た検討を行う。女性の就業形態に着目するのは、主に就業形態の違いによって生じる就業

面(ワーク)での差が結婚や出産など私生活面(ライフ)での差につながる傾向が見られ

るようになっているからである。正規雇用を中心に仕事と育児の両立支援が進み正規雇用

と有期雇用の第一子出産後の就業継続率の差に広まりがみられる58が、就業継続の違いは、

その後長期にわたる所得と人的資本蓄積の機会の違いも生む。様々な違いを内包する就業

形態の違いが、出生意欲と子どもの教育意欲とにどのような違いをもたらしているかを検

討するのが本章の課題である。

検討に当たっては、教育アスピレーションが経済的負担感を高め、そのことが出生意欲

に影響をあたえるとする内閣府(2013)が示した経路を踏襲する。

2先行研究

2-1 教育アスピレーション

アスピレーションは社会的諸資源を具体的目標とする達成要求とされ、教育アスピレー

ションはその下位分類の一つに位置づけられる。具体的には「どの程度までの教育達成を

望むか」を示す(三輪・苫米地;2011)。教育アスピレーションは出身階級や周囲の他者の

影響を受けて形成され、その高低が実際の教育達成に影響して職業などの地位達成に影響

するとされる。教育達成は社会的出自(親の職業)と到達的地位(子どもの職業)の関係

性を扱う世代間移動研究では重要な中継地点とされ(吉川;2012)、社会学や教育社会学で

も「階級的地位の再生産へと寄与する側面」があるゆえ重要な研究対象とされてきた(片

瀬;2005、三輪・苫米地;2011)。

58 国立社会保障・人口問題研究所「第 14 回出生動向基本調査(夫婦調査)」をもとに作成

された出産前有職者の就業形態別就業継続率(内閣府「仕事と生活の調和レポート 2013」図表 3-4-18)によれば、第一子出産後就業継続率は 1985~1989 年には正規雇用 40.4%、

パート等 23.7%であったが 2005~2009年には正規雇用 52.9%、パート等 18.0%である。

なお、女性の就業継続の意向を踏まえた分析(同レポート図表 3-4-20)でも有期雇用は

出産前の就業継続の希望が反映しにくいことを示している。

Page 2: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

91

人々の教育アスピレーションは高度経済成長期の「大衆教育社会」(苅谷;1995)を経て、

現在では親の社会的階層により差がみられるとの指摘がある(苅谷;2001)。吉川(2012)

は進学率が 100%に近づき飽和状態となった高校進学に比べ、大学進学は進学率おおよそ

50%の現在の水準が飽和状態ではないかと指摘する。大学進学率の大幅な上昇がみられた

高度経済成長期からすでに再生産周期をこえ同型での繰り返しがみられるためである。

子に高い学歴を望む親の教育アスピレーションを規定するものとして、苅谷(2001)、吉

川(2012)は親の学歴を挙げる。学歴以外の親の社会的階層を示す変数としては職業(管

理職や専門職であること(苅谷;2001)も指摘される。それ以外に社会的変数としては例え

ば結婚年や居住地域、生まれ年(新谷;2005)などが指摘されている。

2-2 出生意向

夫婦で持つ子どもの数・持ちたい子どもの数には経年的な減少がみられるが59、出生や出

生意向を規定する要因としては出生コーホート、妻の初婚年齢、生育地などが検討されて

きた(津谷;2009)。第1子と第2子、第3子では異なる要因が出生意欲に影響することを

指摘する研究も多く、例えば山口(2006)は夫への経済的信頼度は夫の収入を制御して第

1子の出生意欲を高めるが第2子以降の出生意欲には影響しないこと、夫への精神的信頼

度は子どもの数に関わらず妻の出生意欲を高めることを明らかにした。内閣府(2012)は

第2子の出生意欲には男女とも配偶者からの情緒的サポートが、第3子の妻の出生意欲に

は夫の育児参加が影響していること、また家族規範意識は第1子・第2子の出生意欲を高

めるが、夫婦の行動やコミュニケーションに関する伴侶性は子どもの数に関わらず出生意

欲にプラスに影響することなどを指摘している。

収入については恒常所得の低下が出生率を低下させるとするもの(Fraser;2001)、景気の

悪化や所得リスクの高まりは直接出生を抑制することに加え妻の就業を促進することによ

って間接的に出生を抑制すること、(萩原;2011)、夫の所得の上昇は出生を高めるが妻の所

得の増加は抑制的だとするモデルの提示(Butz and Ward;1979)などがある。

女性の就業との関係については、労働市場で仕事が見つかる確率が低いほど出生率が低

下し、仕事が見つかる確率の変化により女性の就業率と出生率の相関の符号が変わること60

(Da Rocha and Fuster;2006)、また両立支援策が出生確率に与える効果については育児休

業の制度の有無(滋野・松浦;2003)、利用経験の有無(滋野;2006)、長時間労働の育児休

業制度の効果の相殺効果(坂爪・川口;2007)などが指摘されている。出生と妻の就労の選

59 出生動向基本調査(国立社会保障・人口問題研究所)によると、1972 年~2002 年まで

は 2.19 人~2.23 人で安定していた結婚継続期間 15~19 年の夫婦のもつ子ども数(完結

出生児数)は、2002 年の 2.23 人から 2005 年に 2.09 人→2010 年には 1.96 人と低下傾

向がみられる。同じ時期における結婚継続期間 15 年~19 年の夫婦の平均理想子供数は

2002年 2.69人→2005年 2.56人→2010年 2.42人と減少、平均予定子供数も 2002年 2.22人→2005 年 2.11 人→2010 年 1.99 人と減少している。

60 失業が出産の先延ばしや出産間隔をあけること、仕事が見つかる確率が低いほど出生率

が低下することなどを指摘し、OECD 諸国で観察される女性の労働参加率と出生率の相

関の符号の変化や正の相関を説明しようとした。

Page 3: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

92

択のタイミングについては野崎(2011)、駿河・張(2003)、樋口et. al.(2009)などが同時

性とトレードオフを指摘している。

女性の就業形態については、岩間(2006)は女性のフルタイム就業は女性の第2子の出

生意欲出生を低めると指摘しているが61、内閣府(2012)は女性が正社員であることは第2子

出生意欲にプラスであることを示し、正職員に対する仕事と育児の両立に関する制度やサ

ービスの充実が、正規職員のマイナス面を改善するようになってきている可能性があると

指摘している。酒井・樋口(2005)は、妻が正社員であり家計所得への寄与が大きい場合、

子どもに対する需要は所得効果で高まる可能性がある一方、仕事をやめたり中断すること

の機会費用が高いため低まる可能性もあると指摘する。ただし正社員は育児休業制度が利

用しやすく、しかも休業中の所得の保障もあるためその機会費用は低まっており、正社員

と非正規社員のうちどちらが子どもに対する需要が大きいかは実証分析の結果を待つしか

ないと述べている。

2-3 教育アスピレーションと出生意向

出生率の低下を理論的に説明した Becker and Lewis(1973)は、何人の子どもを持つか

(quantity)という家計の出生選択に質(quality)の議論を導入し、所得制約のもとで子ど

もの数と質はトレードオフの関係にあること(quantity-quality model)、出生に対する所

得効果(正の効果)は子どもの数に依存しないが、子どもの質の価格効果(負の影響)は

子どもの数に比例して増える(子どもにかかる費用は質の水準に依存する)ので、所得が

増えても子ども数は増加しない可能性がある(子どもの数が増えると出生に対する所得効

果は価格効果と相殺されてマイナスになることもある)とした。

経済学は顕示選好(Revealed Preference。行動の結果である実際の子どもの数と達成し

た教育年数など)を対象に分析をおこなうが期待・意欲という表示選好(Stated Preference)

を扱う研究でも両者にトレードオフの関係があることを示すものがある。新谷(2005)は

予定子ども数2人以上の場合に子どもへの進学期待が有意に低下すること、ただし学歴に

対する意識変数62を加えた分析では予定子ども人数の増加は進学期待を低めずむしろ予定

子ども数 1人、2人の場合の進学期待を有意に高めることを示している。

また内閣府(2012)は世帯の年収が高まると子どもへの進学期待(第1子を進学させた

い学校を大学以上とする比率)の高まりが見られ、年収 400万円~999万円の層では進学期

待の高い層はそうでない層よりも出生意欲が低いという、質への要求が高まると所得が増

えても子どもの数は増加せずマイナス効果がみられることもあるとするBecker and

Lewis(1973)の理論と整合的な状況63が見られることを報告している。

61 一方で男性の場合には妻のフルタイム就業は第2子の出生意欲を高めることが示されて

いる。男性にとって妻のフルタイム就労は「夫の稼ぎ手役割」を軽減するためではない

かと指摘している(岩間;2006)。 62 進学期待を有意に高めた学歴意識は「どの学校を出たかで人生のほとんどが決まる」と

するもので、この変数を加えた回帰分析では予定子ども人数が1人、2人である場合の

子どもに対する進学期待が有意に高まっている。 63 予定子ども数を3人以上とする人の割合が低く、1人とする者の割合が高い。

Page 4: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

93

このような出生意向と教育アスピレーションの関係は、女性の就業形態によりどのよう

に変化するのか(或いはしないのか)という視点についてこれまでの研究は相対的に弱か

ったと思われる。しかしバブル崩壊後の女性の正規雇用機会の狭まりは、高学歴であっっ

たり正規雇用である女性の学歴の効用に対する評価や認識を高め、教育アスピレーション

を高めている可能性が考えられる。企業の雇用抑制により女性の正規雇用の選抜ラインは

大学卒業以上へ引き上げられたとされるが(樋口・酒井;2004)、一旦正規雇用に就くとキ

ャリア形成過程を通じて人的資本の蓄積がなされやすく、高度な専門知識や経験を備えた

場合には、これまで男性が独占してきた高報酬が期待できる職場への進出もみられ(経済

産業省;2005)、その影響は長期に及び大きなものとなっている。就業期の入り口で非正規

雇用となった場合の影響はキャリア形成に及ぶだけでなく、有配偶率や配偶者の年収にも

及ぶことが報告されている(樋口・酒井;2004)64。

高い人的資本を備えた女性にとって出産ペナルティは消えつつあり65(野崎;2011)女性

の学歴や職業の状況によるワークでの格差がそのままライフにも格差をもたらす状況が現

出している(野崎;2011、吉川(2012))との指摘も踏まえ、女性の出生意欲と子どもに対す

る教育アスピレーション、さらに両者の間に経済的負担感がどのように介在するのかにつ

いて女性の就業形態別に次節以降で検討することとしたい。

3 分析

3-1 分析のフレームワークと仮説

以下では、教育アスピレーションはどのような人で高いのか、教育アスピレーションは

経済的負担感を高めるのか、教育アスピレーションや経済的負担感は理想の子ども数を予

定することにマイナスなのかについて、女性の就業形態別に検討をする。

分析は有子者のサンプルを就業形態(正規雇用、有期雇用、無職)と現在の子どもの数

(1人、2人以上)の組合せで6つのサブグループに分け、サブグループごとに(1)教

育アスピレーションの規定要因に関する分析[二項ロジスティック回帰分析]、(2)経済的

負担感の規定要因に関する分析[二項ロジスティック回帰分析]、(3)予定する子ども数の

64 樋口・酒井(2004)は、25 歳の時に未婚であり非正規労働者として働いていた者、あるい

は無業であった者を「フリーター経験者」と定義し、フリーター経験者はその後の有配

偶者の割合が低いことに加え、雇用状況が厳しさを増した 90 年代後半にはその配偶者の

平均年収はそうでない女性の配偶者の平均年収を下回ることをパネルデータにより明ら

かにしている。 65 出産ペナルティとは、母親とそうでない女性、あるいはある人の出産前と後との賃金の

間に観測される乖離を指し、ワークライフバランスの達成の指標とされている。なお出

産ペナルティはイギリス、アメリカ、カナダや南ヨーロッパ諸国で高いが、北欧諸国で

はほとんど存在しないなど国や社会によって違いがみられる。日本では高学歴の専門職

にはそのようなペナルティは見られないことが報告されている(野崎;2011)。ただし野崎

(2011)はそのような高学歴専門職女性にとっても依然として就業継続と出産が同時決

定問題でること、その主たる要因はワークライフバランスの欠如であることも示されて

いる。

Page 5: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

94

規定要因に関する分析[重回帰分析]の順で行う。なお、これらの分析は厳密な因果関係を

想定するものではないが、内閣府(2013)が示した、教育アスピレーションが経済的負担

感を高め、そのことが(中間の所得層の)出生意欲を減じているとの指摘を前提にしてい

る。

先行研究を踏まえ分析(1)~(3)において以下の仮説を設定する。

仮説1 教育アスピレーションと理想の子ども数はマイナスの関係にある。この傾向は

雇用形態に関係なく観察される。【分析(1)】

仮説2 教育アスピレーションは妻の学歴が高い場合に強く観察される。また、高い年

収や自己効力感を強める仕事経験など、高い人的資本から得られると考えられ

る経験により強められる。雇用形態別では、正規雇用において妻の教育アスピ

レーションは相対的に高い。【分析(1)】

仮説3 経済的負担感は教育アスピレーション高い場合に強い。その影響は妻や夫の年

収が高い場合や正規雇用の場合には相対的に弱い。【分析(2)】

仮説4 予定する子ども数は理想の子ども数に強く規定される。教育アスピレーション

はマイナスとなる。その影響は正規雇用の場合には相対的に弱い。

仮説5 予定子ども数は経済的負担感からマイナスの影響をうける。その影響は正規雇

用の場合には相対的に弱い。

Page 6: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

95

3-2 基本統計

サブサンプルごとの基本統計量を表1に示す。

表1 基本統計量

*これ以降の分析では有子者のみを対象にしている。ここでは参考として掲載している。

0人* 1人 2人以上 0人* 1人 2人以上 1人 2人以上

1,300 1,300 1,300 1,300 1,300 1,300 1,300 1,300理想の子どもの数(a) 1.75 2.24 2.66 1.62 2.15 2.57 2.18 2.58予定する子どもの数(b) 1.20 1.83 2.42 0.98 1.65 2.36 1.76 2.37充足度(b)/(a) 69% 82% 91% 60% 77% 92% 81% 92%どうしても (c) - 42% 33% - 29% 21% 32% 29%できれば(d) - 46% 54% - 55% 60% 54% 55%合計(c)+(d) - 88% 87% - 84% 81% 86% 84%補助学習 - 36% 32% - 29% 32% 31% 34%習い事 - 58% 58% - 54% 59% 57% 61%貯蓄 - 73% 65% - 70% 59% 70% 63%

コスト負担(「ほぼ負担可能」以上) - 81% 84% - 63% 62% 63% 65%妻 33.4 32.7 34.3 34.1 33.1 34.5 32.9 34.2夫 35.9 34.9 36.4 36.7 35.2 36.5 34.9 36.5妻 55% 60% 50% 45% 40% 31% 42% 39%夫 58% 59% 53% 57% 46% 41% 59% 54%

夫正規雇用の割合 88% 89% 89% 80% 79% 80% 84% 85%妻 358 355 302 186 140 115 55 55夫 486 495 492 489 448 471 510 541妻 70% 65% 81% 55% 66% 80% 71% 81%夫 87% 87% 85% 81% 84% 81% 83% 82%妻 8.0 7.8 7.3 6.5 5.9 5.6 0.0 0.0夫 9.1 9.2 9.0 8.9 9.1 9.2 9.1 9.1

0人* 1人 2人以上 0人* 1人 2人以上 1人 2人以上

1,300 1,300 1,300 1,300 1,300 1,300 1,300 1,300子育て・教育にお金がかかりすぎ 51% 60% 67% 47% 65% 77% 64% 77%保育サービスの不足 18% 25% 18% 17% 25% 19% 22% 20%両立困難な職場環境 24% 25% 18% 19% 29% 24% 29% 27%雇用が安定しないから 12% 13% 9% 21% 29% 24% 15% 14%昇進・昇格に影響する 4% 5% 8% 1% 2% 2% 1% 0%家が狭い 7% 15% 21% 10% 17% 21% 14% 24%社会環境 9% 6% 7% 10% 9% 8% 8% 10%夫婦の生活が大切 16% 3% 5% 13% 6% 6% 5% 4%高齢で出産が不安 33% 31% 25% 39% 25% 20% 30% 23%育児負担が重い 17% 21% 25% 17% 25% 29% 26% 31%妊娠・出産の負担 10% 11% 14% 9% 14% 14% 15% 20%健康上の理由 11% 6% 6% 13% 8% 5% 10% 7%不妊 35% 14% 6% 41% 16% 4% 17% 5%配偶者が非協力 6% 10% 13% 7% 17% 16% 13% 16%配偶者が望まないから 9% 7% 11% 8% 9% 12% 10% 14%定年までに成人しない 3% 4% 5% 5% 4% 7% 5% 6%夫は外・妻は家庭 51% 42% 39% 61% 53% 50% 73% 73%子どもが3歳まで母親が家庭で 63% 50% 45% 72% 54% 56% 81% 83%

22.4 21.3 20.5 22.1 20.0 19.7 20.4 19.9配偶者が家事・育児分担 30% 31% 35% 21% 28% 30% 21% 23%家族が家事・育児分担 3% 16% 20% 3% 15% 20% 10% 11%保育サービス利用可能ダミー 38% 67% 75% 31% 63% 68% 54% 61%東京近郊ダミー(3県) 20% 18% 15% 21% 19% 15% 24% 21%東京ダミー 20% 17% 11% 18% 13% 8% 13% 10%日本海側ダミー(7県) 5% 5% 9% 4% 5% 7% 3% 5%中部ダミー(3県) 10% 11% 10% 10% 9% 11% 11% 13%関西ダミー(2府1県) 12% 14% 13% 15% 16% 16% 15% 14%

居住地

出生意向(人)

教育費支出意向

大学卒業以上割合

年齢(歳)

年収(万円)

1日の労働時間(時間)

サブグループ

収入見通し(「変わらない」以上)

理想の子どもの数まで子どもを増やさない・増やせない理由

価値観

伴侶性得点

家事・育児分担

正規雇用 有期雇用 無職

n

無職有期雇用正規雇用

n

サブグループ

子どもへの学歴期待(大学以上への進学)

Page 7: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

96

(注)66

「子どもへの教育期待」(大学以上への進学)

有子者に対する、「お子さんをどの学校まで進学させたいですか(Q37)」との質問に対し、

「どうしても大学以上の教育をさせたい」と回答したケースの合計の比率 「コスト負担(「ほぼ負担可」以上)」

子どもをあなたが望む学歴まで進学させる場合の教育費について(Q39)「全く負担でない」

「どちらかというと負担でない」「今の収入が変わらなければほぼ負担可」と答えたケース

の合計の比率 「収入見通し(「変わらない」以上)」

今後5年間の収入の見通し(Q9-1、Q29-1)について「かなり増えると思う」「ある程度増え

ると思う」「変わらないと思う」と答えたケースの合計の比率 「価値観」(Q45)

「夫は外・妻は家庭」(夫は外で働き,妻は家庭を守るべきである)に「賛成」「どちらか

といえば賛成」と答えたケースの合計の比率 「3歳まで母親が家庭で」(子どもが 3 歳くらいまでの間は、保育所等を利用せずに母親が

家庭で子どもの世話をするべきだ)に「賛成」「どちらかといえば賛成」と答えたケースの

合計の比率 「伴侶性得点」(Q43)

下記の7つの設問に対する回答を「全くその通り:4点」~「全くそうでない:1 点」の4

段階で回答を求め、その得点を統計した点数。最低7点~最高 28 点。 ・配偶者は私を頼りにしてくれている ・配偶者は私を理解してくれている ・配偶者と過ごす時間が十分にある ・配偶者とよく会話している ・配偶者は私の趣味や行動を尊重してくれる ・配偶者はあなたの心配事や悩みを聞いてくれる ・配偶者は十分愛情表現をしてくれる」

「家事・育児分担」(Q41)

「配偶者が家事・育児分担」;負担する比率にかかわらず、配偶者が家事・育児を行ってい

ると答えたケースの比率 「家族が家事・育児分担」;同居・別居、また負担する比率にかかわらず、親を含む家族が

家事・育児分担を行っていると答えたケースの比率 「保育サービス利用可ダミー」;あなたが住んでいる地域は子どもを預けようと思った場合

に保育サービス(保育所など)が利用可能ですか、との問いに「待機せずに預けられる」「探

せばどこかに預けられる」と答えたケースの合計の比率 「居住地」(X2)

安部 (2011)に従い、下記のダミー変数を作成。 ・東京近郊(3県):埼玉県、千葉県、神奈川県

66 ここに示す以外に利用した変数は以下の通りである。理想の子どもの数(Q34)、予定する

子どもの数(実際に持つつもりの子どもの数;Q35)、教育費支出意向(Q38)、年齢(SC4)、大

卒以上比率(Q47、Q47-1)、夫正規の割合()、年収(Q9、Q29 を階級の中央値に置き換え算

出)、一日の労働時間(Q13-1、Q30-1 を階級の中央値に置き換え算出)。

Page 8: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

97

・東京:東京都 ・日本海側(7県):山形県、新潟県、富山県、石川県、福井県、鳥取県、島根県 ・中部(3県):岐阜県、愛知県、三重県 ・関西(2 府 1 県):京都府、大阪府、兵庫県

なお、上記の安部(2011)による居住地の区分は、女性就業率の地域差を考慮したもの

として示されている。安部(2011)は、男女雇用機会均等法(以下、「均等法」という)以後

の女性の従業の推移には地域別に大きな差がみられること、すなわち戦後の日本において

大都市圏では女性の就業が低調、一方大都市圏以外、もっとも顕著には日本海側で高かっ

たという傾向が均等法以降大きく変化していることを指摘する。均等法は東京に居住し働

く高学歴の若年女性の割合を高めたこと、また有配偶の女性について言えば、東京に居住

する大学卒業の女性の正規雇用率を高める一方、日本海側に居住する高校・短大卒業の女

性の正規雇用率を引き下げた可能性が高いことを指摘する。

表1の基本統計量に示される出生意向について、理想の子どもの数、予定する子どもの

数は、正規雇用で最も高く、続いて無職、有期雇用の順となっている。理想の子ども数に

対し予定する子ども数がどのくらいの割合に該当するのかを「充足率」として計算してみ

ると、正規雇用において、充足率も高くなっている。有期雇用では理想の子どもの数も相

対的に低く、また充足度も低い。

次に子どもへの学歴期待を見てみると、大学以上への進学を「どうしても」と「できれ

ば」と答えたケースを合計すると、どのサブグループでも8割台となっており大きな違い

はみられない。ただし「どうしても」の答えに絞ってみると、正規雇用・子ども 1 人のサ

ブグループで 42%とひときわ高い数字を示している。これは正規雇用では妻本人が大学以

上を卒業しているケース(子ども 1人 60%、2人以上 50%)が、有期雇用(子ども 1人 40%、

2人以上 31%)、無職(子ども 1 人 42%、2人以上 39%)よりも高いことと関係している

可能性がある。

理想の子どもの数まで子どもを増やさない・増やせない理由について「子育て・教育に

お金がかかりすぎ」とする者は、いずれの就業形態でも子どもの数が増えるほど多い。有

子者でみると正規雇用よりも有期雇用・無職の場合に高い。子どもが2人以上の場合には、

正規雇用 67%に対し、有期雇用・無職は 77%である。就業形態により差がみられ、有期雇

用・無職の者の方が高い値の他の項目としては「育児負担が重い」(子ども2人以上の場合;

正規雇用 25%、有期雇用 29%、無職 31%)、「雇用が安定していないから」(子どもが2人

以上の場合;正規雇用 9%、有期雇用 24%、無職 14%)、「両立困難な職場環境」(子どもが

2人以上の場合;正規雇用 18%、有期雇用 24%、無職 27%67)などがみられる。これらの

ことは、出生意欲は女性の就業それ自体よりも、就業形態に代表される働き方の特徴と関

連している可能性を示していると考えられる。すなわち先行研究が示す通り、我が国でも

67 無職が想定している職場環境は、自身が従前勤務していた職場なのか、現在夫が勤務し

ている職場なのか、どちらを想定しているかはこの回答からは判別できない。

Page 9: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

98

所得の水準もさることながら雇用の不安定性、両立困難性などが子どもをもつことの機会

費用に影響を与えており、そのような機会費用は以前は正規雇用で高いと考えられていた

が、現在、正規雇用では改善傾向にあり、むしろ相対的に低まっている可能性があると考

えられる。

なお本稿が関心をもつ出生意向と教育アスピレーションについて、表1に示されるサブ

グループごとに平均値の水準を現在の子どもの数別にプロットしたものが図1である。既

婚女性の有期雇用は勤務の時間などの制約が少ないことから従前は仕事と子育てのワーク

ライフバランスがとりやすく、有子者についていえばどちらかと言えば家庭や子育てを重

視する働き方とも解されてきた。それは表1に示される「価値観」において、「夫は外(で

働き)・妻は家庭(を守るべきである)」「子どもが3歳(くらい)までは母親が家庭で(子

どもの世話をすべきだ)」という考えを肯定する者が有期雇用や無職で高いことからも伺え

る(「夫は外・妻は家庭」を肯定する者は子ども2人以上の場合、正規雇用 39%、有期雇用

50%、無職 73%、「子どもが3歳まで母親が家庭で」を肯定する者は子ども2人以上の場合、

正規雇用 45%、有期雇用 56%、無職 83%)。

予定する子どもの数や理想の子どもの数に対する充足率、進学期待だけで測ることはで

きないが、しかし一方で、子どもに対する量(数)の希望や実現の度合い・質(教育期待)

に対する希望水準とも有期雇用や無職では正規雇用の場合よりも低いことが示された。例

えば、正規雇用では他の就業形態に比べ予定子ども数が少ないが教育アスピレーションが

高い、あるいは有期雇用では他の就業形態に比べ予定子ども数が多いが教育アスピレーシ

ョンが低いなどのトレードオフ(負の相関)は、平均値で見た場合、就業形態間では見ら

れなかった(図1)。女性の雇用形態間における子どもの量と質の期待はむしろ連動(正の

相関)がみられた。

図1 子どもの数別就業形態別予定子ども数と教育アスピレーション

2.242.15

2.18

1.831.65

1.76

0.42

0.290.32

0.2

0.3

0.4

1.5

2.0

正規雇用 有期雇用 無職

理想の子ども数(左軸)

予定する子ども数(左軸)

教育アスピレーション(右軸)

(人) (%)

現在の子ども数=1人

2.66

2.572.58

2.422.36

2.37

0.330.21

0.29

0.14

0.24

0.34

0.44

2.3

2.4

2.5

2.6

2.7

正規雇用 有期雇用 無職

理想の子ども数(左軸)

予定する子ども数(左軸)

教育アスピレーション(右軸)

(人) (%)

現在の子ども数=2人

Page 10: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

99

また表1からは居住地について、サブグループ間での分布の違いがみられる。東京に居

住している人の比率が高いのは正規雇用の子ども0人と1人のケース、有期雇用・子ども

0人のケースである。就業形態にかかわらず子どもが2人以上いるサブグループでは東京

に居住する人の比率はこの半分程度である。

3-3 教育アスピレーションの規定要因

教育アスピレーションはどのような人が高いのかを検討する。表 2は有子者に対する「お

子さんをどの学校まで進学させたいですか」との質問に対し、「どうしても大学以上の教育

をさせたい」と回答した場合を「1」とし、それ以外を「0」とするダミー変数を被説明

変数とする二項ロジスティック回帰分析の結果である。

結果をみると、いずれのサブグループにおいても1%水準で有意に教育アスピレーショ

ンを規定する大きな要因は、妻及び夫が大学以上の卒業であることを示すダミー変数であ

った。これは苅谷(2001)、吉川(2012)の指摘と一致する。妻本人が大学以上卒業のダミー

変数の係数の値は正規雇用、無職、有期雇用の順に大きい。正規雇用の場合、大学を卒業

したことの効用を他の就業形態よりも大きく感じていることが考えられる。妻及び夫の収

入が高いことの説明力も高い。妻の職種による有意な影響はみられなかったが、仕事の経

験としてアイディアや企画を提案する機会があったことなど自己効力感を感じるであろう

と考えら得る要因も教育アスピレーションを高めている。

なお、サブグループ間の居住地域の分布には有意な差があるため68居住地域ダミーをコン

トロール変数として投入しているが、その係数は地域によっては所得ダミーの係数と同程

度に高い。特に東京近郊3県や関西2府1県への居住を示すダミー変数は正規雇用・子ど

も1人のサブグループで教育アスピレーションに対して有意にプラスだが、有期・子ども

2人のサブグループでは有意にマイナスである。同一地域内において母親の就業形態や子

ども数によるサブグループ間で教育アスピレーションの差に開きが生じている可能性があ

り、それは到達学歴にも影響を及ぼしている可能性のあることも考えられる。

なお、理想とする子ども数は、正規雇用(子ども1人及び2人以上)のサブグループで

教育アスピレーションに対して有意にマイナスである。特に子ども一人のグループでは係

数の値も大きい。これはこのサブグループの教育アスピレーションが特に高いことによる

質への需要による価格効果(子ども数とのトレードオフが強まる)の影響ではないかと考

えられる。

3-4 教育アスピレーションは経済的負担感を強めるか

教育アスピレーションと経済的負担感の関係について検討する。予定子ども数が理想の

子ども数を下回る 3,808 人にその理由を尋ねた質問に対し「子育てや教育にお金がかかり

すぎるから」(複数回答。以下、「経済的負担感」という。)を選んだ場合を「1」とし、そ

68 表1の基本統計量を参照。

Page 11: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

100

れ以外を「0」とするダミー変数を被説明変数とする二項ロジスティック回帰分析の結果

を表3に示す。説明変数には教育アスピレーションのほか、先行研究や基本統計量を踏ま

え、経済的な負担を高めることが予想される下記の4つのダミー変数も投入した。(いずれ

も該当の回答を選んだ場合を「1」、それ以外を「0」とする。)

(説明変数として投入したダミー変数)

「保育サービスが整備されていない」

「雇用が安定しない」

「働きながら子育てできる職場環境ではない」

「家が狭い」

表3の結果を見ると高い教育アスピレーションをもつ場合に経済的負担感が強いという

結果は見いだせなかった。ほとんどのサブグループで経済的負担感に有意にプラスに関連

するものは「保育サービスが整備されていない」「雇用が安定していない」「家が狭い」で

あった。また有期雇用と無職の場合には「働きながら子育てできる職場環境でない」が有

意にプラス(経済的負担感が強まる)でありかつ説明力も高かった。

また妻の収入は経済的負担感を低めるが、夫の所得の効果は 300万円~600万円の層でむ

しろ負担感が強い状況が示されるなどの影響がみられた。居住地域については正規雇用で

子どもが1人のグループでは東京近郊3県、東京、関西2府1県に居住している場合に負

担感が強く、有期雇用で子ども1人場合は日本海側7県・関西2府1県に居住する場合に

負担感が低くいなどの傾向が見られた。

Page 12: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

101

表2 教育アスピレーションの規定要因(ロジスティック回帰分析)

B 標準誤差 B 標準誤差 B 標準誤差 B 標準誤差 B 標準誤差 B 標準誤差

理想子ども数 -0.29 0.11 *** -0.17 0.00 * -0.01 0.11 -0.06 0.03 -0.03 0.11 -0.10 0.10

年齢

年齢(妻) 0.00 0.02 -0.01 0.03 0.06 0.03 ** 0.03 0.03 0.02 0.02 0.04 0.03

年齢(夫) 0.01 0.02 -0.01 0.02 -0.03 0.02 * 0.01 0.02 -0.03 0.02 -0.01 0.02

結婚年 -0.01 0.03 -0.02 0.02 * 0.02 0.02 0.02 0.03 -0.04 0.02 0.00 0.02

学歴

大卒(妻)ダミー 1.14 0.15 *** 0.99 0.15 *** 0.84 0.15 *** 0.61 0.17 *** 0.91 0.14 *** 0.85 0.14 ***

大卒(夫)ダミー 0.64 0.15 *** 0.69 0.15 *** 0.72 0.15 *** 0.58 0.17 *** 0.67 0.15 *** 0.91 0.16 ***

職種

教師・保育士・看護師ダミー -0.20 0.42 -0.11 0.40 0.48 0.37 -0.61 0.39

専門・技術的職業及び管理職ダミー 0.26 0.39 0.22 0.38 0.54 0.35 0.19 0.34

事務職ダミー -0.15 0.38 0.06 0.37 0.47 0.31 0.28 0.28

営業・販売職ダミー -0.38 0.44 -0.28 0.45 -0.20 0.37 0.10 0.34

サービス職ダミー -0.55 0.52 -0.34 0.44 -0.01 0.34 -0.27 0.31

年収(妻)

100_200万円ダミー 0.44 0.33 0.42 0.26 0.02 0.17 0.37 0.18 ***

200_300万円ダミー -0.11 0.29 0.25 0.24 0.26 0.20 0.55 0.26 ***

300_400万円ダミー 0.11 0.27 0.16 0.23 0.11 0.28 0.27 0.41

400_500万円ダミー 0.18 0.28 0.36 0.24 0.52 0.62 -0.08 0.76

500_600万円ダミー 0.68 0.33 *** 0.77 0.31 ** 0.76 0.73 0.95 0.83

600万円以上ダミー 0.00 0.39 *** 0.90 0.36 ** 1.09 0.76 0.41 0.70

年収(夫)

100_200万円ダミー -0.25 0.58 -1.00 0.65 -0.11 0.62 -1.09 0.80

200_300万円ダミー 0.16 0.37 -0.64 0.38 * 0.05 0.33 -0.32 0.40 -0.59 0.42 -0.39 0.42

300_400万円ダミー -0.08 0.30 -0.91 0.32 *** -0.17 0.28 -0.58 0.34 -0.63 0.30 ** -0.98 0.31 ***

400_500万円ダミー 0.47 0.28 * -0.48 0.30 0.12 0.27 -0.45 0.33 0.15 0.26 ** -0.39 0.27

500_600万円ダミー 0.71 0.29 ** -0.45 0.31 -0.01 0.29 0.31 0.33 0.30 0.27 -0.39 0.26

600_800万円以上ダミー 0.97 0.29 *** -0.01 0.31 0.82 0.30 *** 0.18 0.33 0.73 0.27 *** -0.15 0.26

800万円以上ダミー 0.89 0.35 ** -0.04 0.36 0.73 0.42 * 1.07 0.42 1.07 0.34 *** 0.75 0.31 **

収入見通し

現状維持以上(妻)ダミー 0.23 0.14 0.21 0.18 0.21 0.15 0.29 0.21 -0.05 0.16 -0.13 0.20

現状維持以上(夫)ダミー -0.09 0.21 -0.04 0.20 0.01 0.20 * 0.30 0.22 0.35 0.20 * 0.08 0.20

居住地域

東京近郊(3県) 0.68 0.19 *** -0.10 0.20 0.17 0.19 -0.58 0.23 ** -0.02 0.18 0.02 0.18

東京 0.21 0.19 0.07 0.22 0.46 0.22 ** 0.22 0.26 0.14 0.21 0.12 0.23

日本海側(7県) -0.31 0.35 0.00 0.25 0.25 0.32 -0.71 0.36 ** -0.14 0.45 0.05 0.33

中部(3県) 0.07 0.23 -0.20 0.24 0.00 0.26 -0.50 0.27 * -0.12 0.24 0.04 0.22

関西(2府1県) 0.44 0.20 ** 0.15 0.21 0.04 0.21 -0.55 0.23 ** 0.23 0.20 -0.38 0.22 *

仕事の経験

自分のアイディアや企画を提案 -0.10 0.15 0.27 0.15 * 0.11 0.16 0.06 0.08 0.15 0.10 0.17

昇給や昇進、職種転換の機会 0.08 0.15 -0.06 0.17 -0.01 0.17 -0.01 0.32 0.16 ** -0.08 0.18

自分が成長していることそ実感 0.17 0.14 0.12 0.14 0.06 0.15 -0.01 -0.09 0.15 -0.01 0.15

定数 18.77 56.12 43.95 49.72 -39.74 50.44 -53.31 52,41 68.44 49.92 6.51 49.13

n 1,300 1,300 1,300 1,300 1,292 1,289

-2 対数尤度 1439.09 1409.14 1339.68 1147.63 1396.30 1336.15

Cox-Snell R2 乗 0.22 0.17 0.16 0.13 0.16 0.15

Nagelkerke R2 乗 0.30 0.23 0.23 0.21 0.22 0.22

(6)無職・2人以上(1)正規・1人 (2)正規・2人以上 (3)有期・1人 (4)有期・2人以上 (5)無職・1人

Page 13: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

102

表 3 育児・教育の経済的負担感の規定要因(ロジスティック回帰分析)

B 標準誤差 B 標準誤差 B 標準誤差 B 標準誤差 B 標準誤差 B 標準誤差

「どうしても大学」ダミー -0.30 0.25 -0.02 0.31 0.32 0.24 0.18 0.42 0.34 0.25 0.26 0.35

「保育サービスが整備されていない」ダミー 1.84 0.35 *** 0.78 0.42 * 0.75 0.29 ** 0.58 0.52 1.42 0.40 *** 1.36 0.59 **

「雇用が安定しない」ダミー 0.84 0.41 ** 0.76 0.65 0.89 0.27 *** 1.58 0.50 *** 0.89 0.48 * 1.43 0.82 *

「働きながら子育てできる職場環境でない」ダミー 0.26 0.30 0.68 0.42 0.67 0.27 ** 0.89 0.47 * 0.75 0.32 ** 1.53 0.55 ***

「家が狭い」ダミー 1.14 0.34 *** 1.32 0.40 *** 1.15 0.33 *** 0.99 0.44 ** 1.65 0.45 *** 0.74 0.41 *

年齢

年齢(妻) -0.06 0.04 -0.03 0.06 -0.03 0.04 0.00 0.06 -0.09 0.04 ** 0.02 0.06

年齢(夫) -0.01 0.03 0.00 0.04 -0.02 0.02 -0.03 0.04 0.00 0.02 -0.09 0.04 **

結婚年 0.02 0.05 0.10 0.05 * 0.04 0.03 0.02 0.05 0.01 0.04 -0.03 0.06

学歴

大卒(妻)ダミー 0.24 0.26 -0.11 0.31 0.61 0.24 ** -0.40 0.37 0.12 0.23 0.10 0.34

大卒(夫)ダミー -0.29 0.25 -0.76 0.31 ** 0.08 0.23 0.32 0.34 0.32 0.25 -0.54 0.35

職種

教師・保育士・看護師ダミー -0.67 0.70 -1.42 0.95 -0.56 0.50 -0.06 0.70

専門・技術的職業及び管理職ダミー -0.36 0.67 -0.84 0.92 -1.33 0.46 *** -0.24 0.67

事務職ダミー -0.79 0.64 -1.25 0.89 -0.72 0.37 * 0.29 0.54

営業・販売職ダミー -1.61 0.76 ** -1.78 1.15 -0.16 0.45 0.46 0.68

サービス職ダミー -1.26 0.84 -1.66 0.99 * -0.10 0.40 -0.21 0.53

年収(妻)

100_200万円ダミー -0.29 0.54 -0.70 0.51 0.28 0.25 -0.12 0.38

200_300万円ダミー -0.48 0.48 -0.24 0.48 0.11 0.30 -0.57 0.56

300_400万円ダミー -0.73 0.45 -0.53 0.47 -0.53 0.45 -1.34 0.73 *

400_500万円ダミー -0.25 0.47 -0.94 0.51 * -1.09 0.84 -2.02 1.54

500_600万円ダミー -0.45 0.56 -1.21 0.67 * -1.12 1.09 -3.75 1.47 **

600万円以上ダミー -0.75 0.64 -2.01 0.77 *** -1.14 1.29 -1.44 1.33

年収(夫)

100_200万円ダミー -0.30 0.87 -1.32 1.13 -0.51 0.79 -0.31 1.10 1.17 1.30

200_300万円ダミー 0.39 0.53 0.97 0.81 1.01 0.46 ** 0.17 0.66 0.08 0.69 0.33 0.73

300_400万円ダミー 1.14 0.47 ** 0.65 0.69 0.54 0.38 0.83 0.59 1.04 0.49 ** 1.01 0.62

400_500万円ダミー 0.31 0.44 0.91 0.68 0.74 0.37 ** 0.47 0.58 0.37 0.43 1.92 0.63 ***

500_600万円ダミー -0.02 0.47 -0.22 0.68 0.09 0.39 1.38 0.71 * 0.80 0.46 * 1.36 0.57 **

600_800万円以上ダミー -0.13 0.45 0.18 0.70 0.32 0.45 -0.38 0.62 -0.15 0.45 0.86 0.55

800万円以上ダミー 0.19 0.57 -0.14 0.77 -1.21 0.67 * -1.01 0.97 -0.81 0.55 0.85 0.83

収入見通し

現状維持以上(妻)ダミー -0.79 0.25 *** -0.21 0.39 0.24 0.23 -0.13 0.44 -0.25 0.27 0.18 0.43

現状維持以上(夫)ダミー 0.25 0.34 -0.13 0.45 -0.46 0.28 * -0.90 0.45 ** -0.36 0.30 0.32 0.43

居住地域

東京近郊(3県) 0.62 0.32 * 0.17 0.44 -0.07 0.29 0.41 0.46 0.67 0.30 ** 0.58 0.42

東京 0.57 0.33 * 0.59 0.48 -0.48 0.34 -0.54 0.52 -0.27 0.37 0.06 0.53

日本海側(7県) -0.51 0.51 -0.24 0.52 -0.80 0.41 * 0.48 0.69 0.24 0.69 0.16 0.67

中部(3県) -0.32 0.39 0.62 0.52 0.61 0.40 0.27 0.49 -0.55 0.37 0.08 0.45

関西(2府1県) 0.67 0.34 * 0.68 0.45 -0.50 0.30 * 1.36 0.55 ** -0.05 0.31 0.78 0.54

定数 -28.94 95.19 -187.69 105.03 * -79.02 68.92 -36.91 100.70 -16.69 81.14 69.87 114.32

n 510 368 594 361 533 339

-2 対数尤度 541.74 366.61 625.20 306.76 545.26 292.60

Cox-Snell R2 乗 0.25 0.24 0.21 0.20 0.25 0.19

Nagelkerke R2 乗 0.33 0.33 0.29 0.31 0.34 0.29

(6)無職・2人以上(1)正規・1人 (2)正規・2人以上 (3)有期・1人 (4)有期・2人以上 (5)無職・1人

Page 14: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

103

3-5 教育アスピレーションは出生意欲を低めるか

教育アスピレーションや経済的負担感は理想の子ども数を予定することにマイナスなの

だろうか。表4は予定子ども数を被説明変数とする回帰分析の結果である。

説明変数として、内閣府(2013)を参考に価値観に関する2変数、家事・育児分担に関

する3変数、伴侶性得点を加えた。また、表3によると教育アスピレーション(「どうして

も大学」ダミー)の経済的負担感に対する説明力は有意でなかったため、この2変数はそ

れぞれ独立した説明変数として回帰式に加えた。

表 4 を見ると、予定子ども数の規定要因としていずれのサブグープにおいても1%水準

で有意であったのは理想の子ども数であり、回帰係数は正規雇用・子ども1人のサブグル

ープ、正規雇用・子ども2人以上のサブグループ、有期雇用・子ども1人のサブグループ、

有期雇用・子ども2人のサブグループの順である。回帰式の説明力(R2乗、調整済み R二

2乗)も正規雇用、有期雇用、無職の順に弱まっている。

教育アスピレーションは、有期雇用・子ども2人以上、及び無職のサブグループにおい

て予定する子ども数に対してマイナスに有意であり、これらの就業形態では女性の子ども

に対する量と質の希望の間には、先行研究が指摘するトレードオフ関係がある可能性が見

いだされた。また「子育てにお金がかかりすぎる」とのダミー変数も、無職の場合に予定

する子ども数に対してマイナスに有意であり、教育アスピレーションに加え、経済的負担

感も予定する子ども数にマイナスに寄与している可能性がある。しかし両変数とも正規雇

用の場合には予定する子ども数との間には有意な関係は見られず、「教育アスピレーション」

「経済的負担感」と「予定子ども数」がマイナスに相関(トレードオフ)している証左は

見られなかった。

なお、有期雇用・子ども1人の場合に経済的負担感が予定する子ども数に対してプラス

に有意となっているのは、追加的な出生意向が経済的負担感を高めているからかもしれな

い。また、正規雇用・子ども2人以上の場合には「教師・保育士・看護師ダミー」と「専

門・技術的職業及び管理職ダミー」という資格や専門性が求められる職種であることが、

予定子ども数に対して有意である。これらは人的資本の蓄積が就業継続の可能性を高める

ことを通じて、出産や育児の機会費用を低めているからかもしれない。夫婦の「伴侶性」

が幅広いサブグループにおいて予定する子ども数に対して有意に観察されたことは、内閣

府(2013)の指摘と整合的である。

Page 15: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

104

表 4 予定する子ども数を規定する要因(重回帰分析)

B 標準誤差 B 標準誤差 B 標準誤差 B 標準誤差 B 標準誤差 B 標準誤差

理想子ども数 0.79 0.03 *** 0.70 0.03 *** 0.65 0.02 *** 0.62 0.03 *** 0.43 0.02 *** 0.45 0.02 ***

「どうしても大学」ダミー 0.01 0.03 -0.06 0.04 -0.02 0.03 -0.09 0.04 ** -0.09 0.03 *** -0.08 0.03 **

0.04 0.03 -0.02 0.04 0.08 0.03 *** -0.03 0.04 -0.01 0.00 *** -0.02 0.01 ***

年齢

年齢(妻) 0.00 0.00 -0.01 0.01 -0.01 0.00 -0.01 0.01 -0.01 0.00 *** 0.00 0.00

年齢(夫) 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.02 0.01 *** -0.02 0.00 ***

結婚年 0.00 0.01 -0.01 0.01 0.01 0.00 * 0.00 0.01 -0.04 0.03 -0.02 0.03

学歴

大卒(妻)ダミー -0.01 0.03 -0.01 0.04 0.01 0.03 0.04 0.04 0.07 0.03 ** 0.01 0.03

大卒(夫)ダミー 0.05 0.03 * 0.01 0.04 -0.02 0.03 0.03 0.04

職種

教師・保育士・看護師ダミー -0.08 0.08 0.20 0.09 ** -0.07 0.06 0.06 0.07

専門・技術的職業及び管理職ダミー -0.07 0.08 0.15 0.08 * -0.11 0.06 * -0.05 0.08

事務職ダミー -0.10 0.07 0.15 0.08 * -0.05 0.05 0.00 0.06

営業・販売職ダミー -0.03 0.09 0.05 0.11 -0.03 0.06 -0.01 0.07

サービス職ダミー -0.17 0.09 * 0.07 0.10 -0.08 0.05 -0.03 0.06

年収(妻)

100_200万円ダミー 0.08 0.07 0.11 0.06 * -0.01 0.03 -0.03 0.04

200_300万円ダミー -0.08 0.06 0.04 0.05 -0.03 0.04 -0.06 0.07

300_400万円ダミー 0.03 0.05 0.03 0.05 0.04 0.06 0.04 0.09

400_500万円ダミー -0.03 0.06 0.04 0.06 0.03 0.12 0.21 0.21

500_600万円ダミー -0.01 0.07 0.08 0.08 0.11 0.14 0.09 0.18

600万円以上ダミー -0.06 0.08 -0.06 0.09 0.03 0.16 -0.02 0.16

年収(夫)

100_200万円ダミー -0.04 0.10 -0.05 0.14 -0.15 0.10 -0.12 0.12 -0.16 0.18 0.48 0.29

200_300万円ダミー -0.07 0.07 -0.04 0.09 0.04 0.06 -0.01 0.07 0.01 0.08 -0.10 0.08

300_400万円ダミー -0.03 0.06 0.04 0.08 0.04 0.05 -0.04 0.06 -0.05 0.06 -0.06 0.06

400_500万円ダミー -0.02 0.06 0.04 0.08 0.12 0.05 ** -0.04 0.06 -0.10 0.05 * -0.04 0.06

500_600万円ダミー 0.01 0.06 0.01 0.08 0.09 0.05 * 0.04 0.07 -0.04 0.06 0.02 0.06

600_800万円以上ダミー 0.01 0.06 0.05 0.09 0.13 0.06 ** -0.08 0.07 -0.06 0.06 -0.07 0.06

800万円以上ダミー 0.01 0.07 0.02 0.09 0.11 0.09 0.03 0.11 -0.04 0.07 0.12 0.07 *

収入見通し

現状維持以上(妻)ダミー -0.01 0.03 0.05 0.04 0.00 0.03 -0.01 0.04 0.02 0.03 -0.01 0.04

現状維持以上(夫)ダミー 0.02 0.04 0.07 0.05 0.02 0.03 0.02 0.04 0.05 0.04 0.01 0.04

居住地域

東京近郊(3県) -0.02 0.04 0.03 0.05 0.00 0.04 -0.06 0.05 -0.01 0.04 -0.08 0.04 **

東京 -0.02 0.04 0.00 0.06 -0.01 0.04 -0.02 0.06 0.01 0.04 -0.09 0.05 *

日本海側(7県) 0.00 0.06 0.01 0.06 0.07 0.05 0.06 0.07 0.14 0.08 * 0.05 0.07

中部(3県) -0.02 0.05 0.02 0.06 -0.09 0.05 * -0.08 0.05 0.02 0.05 -0.11 0.04 **

関西(2府1県) -0.01 0.04 0.00 0.05 0.03 0.04 0.02 0.05 -0.06 0.04 0.00 0.04

価値観

「夫は外、妻は家庭」ダミー -0.03 0.03 -0.01 0.04 0.02 0.03 0.01 0.04 -0.01 0.03 -0.01 0.04

「3歳までは母親が家で」ダミー 0.00 0.03 -0.03 0.04 -0.05 0.03 * -0.02 0.04 0.04 0.04 -0.04 0.04

家事・育児の分担

同居・別居の家族が分担 0.01 0.03 0.00 0.04 0.01 0.03 -0.02 0.04 0.01 0.04 0.03 0.04

夫が分担 -0.05 0.04 0.03 0.04 -0.05 0.04 -0.08 0.04 * 0.01 0.05 -0.03 0.05

保育サービス利用可能ダミー 0.02 0.03 -0.01 0.04 -0.02 0.03 -0.03 0.03 0.04 0.03 0.03 0.03

伴侶性得点 0.01 0.00 *** 0.00 0.00 0.01 0.00 ** 0.00 0.00 0.01 0.00 *** 0.01 0.00 ***

定数 -0.73 11.53 11.70 12.12 -16.77 9.28 * 8.98 11.48 -33.29 10.34 *** 45.16 9.91 ***

n 1,300 1,300 1,300 1,300 1,300 1,300

R2 乗 0.73 0.71 0.64 0.60 0.35 0.34

調整済み R2 乗 0.71 0.67 0.61 0.55 0.33 0.32

(5)無職・1人 (6)無職・2人以上

「子育てや教育にお金がかかりすぎる」ダミー

(3)有期・1人 (4)有期・2人以上(1)正規・1人 (2)正規・2人以上

Page 16: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

105

3-6 小括

以上の分析結果により仮説を改めて検討する。

まず教育アスピレーションはいずれのサブグループにおいても、理想の子ども数とマイ

ナスの関係が認められ、仮説1は支持される。ただし、その負の関係の程度にはサブグル

ープ間で差が見られる。正規雇用においては理想の子どもの数と教育アスピレーションの

負の関係が大きく示された。正規雇用では理想の子ども数の段階で教育アスピレーション

との間で調整の意志決定が行われている可能性が考えられる。ただし、正規雇用において

は理想の子ども数・予定する子どもの数とも相対的な水準は他のサブグループに比べて高

かった。

教育アスピレーションは妻と夫の学歴に強く規定されることに加え、妻の年収が高かっ

たり、充実した仕事の経験をもつ場合にも高いこと、また妻が正規雇用の場合に、妻本人

が大学以上卒業であることの説明力が特に高いことから仮説2も支持される。

経済的な負担感は教育アスピレーションが高い場合に強いとの傾向は見られなかった。

経済的な負担感は雇用の不安定さや両立支援の不足(保育サービスの不足や両立可能な職

場環境でない)などと強く関連している可能性が高いことが分かった。保育サービスの不

足は就業形態によらず特に子ども1人のグループにおいて有意であり、大きな影響が認め

られた。また、働きながら子育てできる職場環境ではないときに有期雇用と無職の経済的

負担感が大きい。よって仮説3は支持されない。

予定する子ども数は理想の子ども数に強く規定される。ただしその関係は有期雇用・無

職の場合、相対的に小さい。教育アスピレーションの高さは有期雇用・子ども2人以上及

び無職の場合の予定子ども数と有意にマイナスである一方、正規雇用と有期雇用・子ども

1人のグループでは有意な影響をもたない。したがって仮説4は部分的に支持される。

一方、経済的負担感は有期雇用・子ども 2 人以上のグループ及び無職のグループで予定

子ども数に対してマイナスとなっており、仮説5も部分的に支持された。

4 まとめ

4-1 分析のまとめ

教育アスピレーションは正規雇用では理想の子ども数との間で調整の意志決定が起こっ

ている可能性が示された。有期雇用や無職の場合には、理想とする子ども数との間の明確

なトレードオフはみられなかったが、予定する子どもの数との間で調整されている可能性

がある。正規雇用において理想の段階で子どもの数と教育アスピレーションが調整される

のは、このサブグループでは教育アスピレーションが相対的に強く、子どもへの期待が形

成される初期の段階で質への需要による価格効果がみられるためかもしれない。

なお希望する子どもの数まで子どもを増やさない・増やせない理由として経済的理由を

挙げるものは有期雇用、無職の場合に多いが、これは所得水準もさることながら、雇用の

不安定さや両立困難さなど就業や収入あるいは人的資本獲得などの機会費用が要因となっ

ている可能性が示された。様々な要因をコントロールすると教育アスピレーションが経済

Page 17: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

106

的負担感に直結しているとの証左は見られなかった。これは、日本での高等教育は将来に

対する投資としてよりもあるいは消費と捉えられる側面が強く69、必ずしも「負担」とは捉

えられていないからかもしれない。

正規雇用では高い教育アスピレーションと理想の子ども数との間にトレードオフが見ら

れるが、理想の子ども数の水準自体は相対的に高い。それは高い人的資本の蓄積をもつこ

とが出産・育児の機会費用を低めていることを示すものとも考えらえる。また、理想の子

ども数と予定する子ども数との間の乖離も小さく、結果として、他の就業形態と比較した

ときの次世代に対する相対的に高い希望が実現しやすい状況にあると言えそうである。一

方、有期雇用と無職の場合には、教育アスピレーションと理想の子ども数との間には明確

なトレードオフは見られなかったが、理想の子ども数と予定する子ども数との乖離が相対

的に大きく、教育アスピレーションは、経済的な負担感とともにその乖離の要因の一つで

ある可能性が示された。

4-2 議論

大学卒業者の就職難や学費の私的負担割合の高さなどから学歴の効用の低下が言われて

いるが、企業の正規雇用が絞り込まれる中、女性の就業に関しては大学卒業であることの

就業時プレミアムは広まっている可能性がある70。学歴によってもたらされる労働市場の入

口での就業形態の違いがその後のキャリアパスや私生活全体に及ぶことを考えると、大学

卒/非大学卒の境界がもつ意味は広まっていると言えるのではないか。正規雇用の女性の場

合、他の雇用形態の場合と比べ大学卒業者の比率が高いこととだけでなく、大学卒業した

ことが教育アスピレーションを高める影響力も高かった。このことは、女性が正規雇用で

あること自体、また表1のロジスティック回帰分析にみられるように仕事での経験や評価

を通じて自己効力感を感じる機会の存在が学歴評価につながっている可能性があることも

示している。さらにこの学歴の評価が教育アスピレーションとして次世代に対する希望へ

と繋がっている可能性がある。ただし本研究のデータは1時点のクロスセクションデータ

であるので、雇用形態によるこの傾向は過去から続いているものなのか、それとも雇用環

境が厳しくなる中より高まってきたのかは判別できない。

また夫と妻の到達した学歴には相関がみられた71。学歴など類似の属性や選好を持つもの

69 吉川(2012)は、学歴や経済力とは独立に親学歴による進学率の差が発生することについ

て「相対的下降回避説」をあげている。これは次世代が自分の地位を下回ることを回避

したいという一般的な動機のことで、高地点を起点とする親子は下降リスクを避けるた

め学力にかかわらず高学歴を強く望みがちだと説明される。 70 樋口・酒井(2004)は、バブル崩壊後の企業の雇用抑制は学歴の低い女性の正規雇用に

よりダメージを与えたと指摘している。 71 大学以上(大学と大学院)を卒業したことの夫と妻それぞれのダミー変数の相関係数は

0.37 で 1%水準で有意であった。

Page 18: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

107

同士が結婚することによる次世代に対する教育アスピレーションと、それを通じて子ども

世帯に引き継がれる教育達成とは、妻の就業形態によって区別される世帯グループの間で

広まっている可能性がある。

このような構造があることを踏まえると、たとえば単に高等教育の費用負担を軽減する

施策を実施すると、教育アスピレーションが高い層、すなわち親が高学歴正規雇用かつ収

入の高い世帯の子が受益者になるという偏りを生むことにもなりかねない。内閣府(2012)

が指摘するように支援の対象などについて慎重な検討が必要であろう。

就業形態によってワークとライフの結びつきが強まり、就業形態間では子どもの量(数)

と質(教育アスピレーション)のトレードオフは見られなかったことも指摘しておきたい。

仕事の時間や強度の制約が少ない有期雇用や無職で子どもの数や教育に対する期待が高い

かというとそうではなく、仕事時間や強度の制約はあるものの高い人的資本と手厚い両立

支援のある正規雇用において次世代への数も質も期待が高いという結果がみられた。これ

は野崎(2011)が指摘する、ワークでの格差がそのままライフにも格差をもたらす状況の1

つの現れとも考えられる。

質の高い仕事経験が次世代に対する人的資本投資の動機づけを高めることや、就業形態

別に経済的負担感を高める要因が異なることなどを踏まえ、必要な政策を検討することが、

個人の希望の実現、さらに言えば希望(意欲)の持ち様を形作る上で重要であろう。子ど

もを持つことの経済的負担感の原因となっている保育サービスの整備・アクセスや、働き

ながら子育てができる職場環境などの整備、雇用不安にどのように対処すべきかなど社会

的なインフラと考えらえる点については丁寧に対応していくことが次世代を生み育てるイ

ンフラ整備の観点として重要ではないだろうか。

また今回のサンプルを、就業形態と現在の子どもの数の組み合わせでサブグループに分

けると居住地域の分布に差がみられた。地域によって世帯の構成や属性が異なることを示

していると考えられ、出生意向を高めるために有効となる施策にも地域による違いがある

と考えられる。それぞれの実情に合わせた取り組みが求められるだろう。特に都市部に居

住する場合には妻の就業形態による教育アスピレーションの開きがより大きいため、この

点が世代を継いでいく過程でどのような格差となっていくのかにも注意を払う必要がある

のではないだろうか。

Page 19: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

108

参考文献

安部由起子(2011)「女性の就業と家計の居住地選択:男女雇用機会均等法の影響を中心に」

一橋大学機関リポジトリ 62(4) pp318-330 苅谷武彦(1995)「大衆教育社会のゆくえ-学歴主義と平等神話の戦後史」中央公論社 苅谷武彦(2001)「階層化日本と教育危機-俯仰どう再生産から意欲格差社会へ」有信堂高

文社 経済産業省(2005)「男女共同参画に関する調査―女性人材活用と企業の経営戦略の変化に関

する調査」平成 17 年 6 月 酒井正・樋口美雄(2005) 「フリーターのその後--就業・所得・結婚・出産」日本労働研究

雑誌 47(1), pp 29-41, 2005-01 坂爪聡子・川口章(2007) 「育児休業制度が出生率に与える効果」人口学研究 第 40号 pp1-15 滋野由紀子(2006)「就労と出産・育児の両立―企業の育児支援と保育所の出生率回復への効

果」樋口美雄・財務省財務総合政策研究所編『少子化と日本の経済社会-2つの神話

と1つの真実』日本評論社 滋野由紀子・松浦克己(2003) 「出産・育児と就業の両立を目指してー結婚・就業選択と既

婚・就業女性に対する育児休業制度の効果を中心に」季刊社会保障研究 Vol.39 No.1: pp43-54

新谷由里子(2005)「親の教育費負担意識と少子化」人口問題研究 61-3 pp.20-38 鈴木透(2007)「『全国家庭動向調査』および『世帯動向調査』:世帯形成の動向」人口問題研

究 63-4 pp1-13 駿河輝和・張建華(2003)「育児休業制度が女性の出産と就業継続に与える影響についてーパ

ネルデータによる計量分析」季刊家計経済研究 No.59 pp56-63 仙田幸子、樋口美雄(2000)「妻の職種別にみた子どもをもつことの経済的コストの違い」人

口問題研究 56-4 pp19-37 仙田幸子 (2002)「既婚女性の就業継続と育児資源の関係:職種と出生コーホートを手がか

りにして」人口問題研究 58-2 pp2-21 津谷典子(2009)「なぜ我が国の人口は減少するのかー女性・少子化・未婚化」津谷典子・樋

口美雄編『人口減少と日本経済-労働・年金・医療制度のゆくえ』日本経済新聞社, pp 3-52

内閣府経済社会総合研究所 (2013)「夫婦の出生力の低下要因に関する分析」 ESRI Discussion Paper Series No.301

永瀬伸子(2002)「若年層の雇用の非正規化と結婚行動」人口問題研究 58-2(2002.6) pp.22-35

野崎祐子(2011)「ワーク・ライフ・バンバランスはどこで起こっているか;出産ペナルテ

ィと女性の就業継続」樋口美雄・府川哲夫編『ワーク・ライフ・バランスと家族形成;

Page 20: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

109

少子化社会を変える働き方』第4章 東京大学出版会 萩原里紗(2011)「所得リスクと危険回避度が出産行動に与える影響」瀬古美喜・照山博司・

山本勲・樋口美雄・慶應-京大連携グローバル CEO『日本の家計行動のダイナミズム

[VII]―経済危機後の家計行動』慶應義塾大学出版会株式会社 樋口美雄・酒井正(2004) 「均等法世代とバブル崩壊後世代の就業比較」樋口美雄・太田清・

家計経済研究所編『女性たちの平成不況-デフレで働き方・暮らしはどう変わったか』

日本経済新聞社 三輪哲、苫米地なつ帆 (2011)「社会化と教育アスピレーション」東北大学大学院教育学研

究科研究年報 第 60 集 第1号 pp1-13 山口一男(2006)「夫婦関係満足度とワーク・ライフ・バランス:少子化対策の欠かせない

視点」RIETI Discussion Paper Series 06-J-054 山口洋(1997)「学歴に関すする社会イメージと子供に対する教育期待」金沢大学学術情報

リポジトリ 金沢大学文学部論集 行動科学・哲学篇 17:pp61-81 吉川徹(2012)「人材育成・活用基盤としての学歴意識の実像」樋口美雄・財務省財務総合政

策研究所編著『グローバル社会の人材育成・活用;就学から就業への移行課題』第 8章 勁草書房

Becker G. S. and LewisnH. Gregg (1973) “On the Interaction between the Quantity and Quality of Chileren” Journal of Political Economy Vol..81(2) pp.S279-288

Becker G. S. and Tomes N. (1976) “Child Endowments and the Quantity and Quality of Children” Journal of Political Economy Vol. 84, No. 4, part 2, pp. S143-S162

Angrist J. A. and Schlosser A.(2010) ”Multiple Experiments for the Causal Link between the Quantity and Quality of Children” Journal of Labor Economics Vol.28 No.4 pp773-823

Black S. E., Devereux P. J. and Salvanes K. G. (2005) “The More The Merrier? The Effect of Family Size and Birth Order on Children’s Education” The Quarterly Journal of Economics, Volume 120 , Issue 2 pp669-700

Butz, W., P. and Ward, M., P. (1979) “The Emergence of Countercyclical U.S. Fertility” The American Economic Review, Vol.69, No.3 pp.318-328

Da Rocha, J. M. and Fuster, L.(2006) “Why Are Fertility Rates and Female Employment Ratios Positively Correlated across O.E.C.D. countries?” International Economic Review, 47:pp1187-1222.

Fraser, D.,C.(2001) “Income Risk, the Tax-Benefit System and the Demand for Children” Economica, Vol.68, No.269. pp.105-125

Page 21: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

110

第4章 育児期における女性の負担感と配偶者の関わり

-子ども1人の女性を中心に-

高見 具広

1 問題意識

本章は、育児期の女性の心理状態に焦点を当て、配偶者の関わり方を中心に考察する。

そして、子ども 1 人の女性では、育児期の負担感が追加出生意欲を阻害することを論じる。 乳幼児を抱える育児期が女性にとって負担やストレスの大きいライフステージであるこ

とは、児童虐待が社会問題化する中で「育児不安」や「育児ストレス」などの言葉によっ

て注目され72、研究が蓄積されてきた。既存研究は、女性の子育てに伴う困難や抑うつの状

況と、配偶者の協力や社会的サポートによる低減効果を主に検討してきた73。 育児不安の研究では、子どもや子育てに対する影響の大きさから問題が提起されること

が多いが、追加出生(意欲)を阻害するという分析結果もある(松田 2007、厚生労働省 2013)。松田(2007)は、子ども 1 人の女性において、育児不安があるほど追加出産意欲が低下す

ることを示す74。また、厚生労働省(2013)は、パネルデータの分析から、子育ての不安

や悩み、育児負担感が大きいほど、第 2 子出生が起こりにくいことを示した75。このように、

育児期の不安・負担感が第 2 子出生(意欲)を阻害する可能性が既存研究からうかがえる。 では、育児期の不安や負担感に何がかかわるのか。既存研究は、家事・育児分担や情緒

的サポートの低減効果など配偶者の関わり方に着目するものが多い。もっとも、こうした

配偶者のサポートは女性の追加出生意欲にも影響することが多く指摘されており76、ここか

ら妻へのサポートの阻害要因となる男性の働き方(長時間労働)が問題視されてきた。 なお、育児期女性の負担感に関わる配偶者要因は、家事・育児分担などのサポートの有

無だけでは描ききれない部分もあろう。例えば、男性の仕事が忙しすぎると、妻へのサポ

ート以前に、家庭にいても心理的余裕が乏しくなり、それが妻にも悪影響を及ぼす可能性

が考えられる。 以上の問題意識から、本稿の検討課題としては大きく 2 点を設定したい。1 点目は、育児

72 例えば、平成 15 年版厚生労働白書では、子どもを取り巻く環境の変化として、育児でイライラするこ

とが多い母親が増加しているデータを掲げ、児童虐待の増加も、母親の抱える「育児不安」と同様に子育

てを取り巻くさまざまな要因に端を発していると述べる。 73 牧野(1982)、牧野・中西(1985)、荒牧・無藤(2008)など。例えば、牧野・中西(1985)では、子

育てに関する関連する漠然とした不安が蓄積され持続している状態を<育児不安>とよぶ。そこでは、育

児不安は、疲労感や気力の低下、イライラの感情、育児意欲の低下などを含めた心理状態をさす。 74 松田(2007)における育児不安の尺度は、「子どものことがわずらわしくてイライラする」「子どものこ

とで、どうしたらよいかわからなくなることがある」「自分 1 人で子どもを育てているのだという圧迫感を

感じてしまう」「毎日毎日同じことの繰り返ししかしていないと思う」という項目からなる。 75 厚生労働省(2013)では、「子育ての不安や悩みがありますか」への回答(3 件法)をもって「子育て

の不安や悩み」とし、「お子さんをもって負担に思うことは何ですか」への回答(子育てによる身体の疲れ、

出費がかさむ、自由な時間が持てないなどの選択肢からの複数回答。その該当項目数)をもって「育児負

担感」の程度としている。 76 山口(2009)、内閣府経済社会総合研究所(2013)など参照。山口(2009)は、会話を通じた夫との「悩

みや楽しいこと」の共有度が出産意欲に影響すると論じる。内閣府経済社会総合研究所(2013)でも、配

偶者が心配事や悩みを聞いてくれるという情緒的サポートや夫婦の伴侶性(共同行動)が第 2 子出生意欲

に関係することを示している。

Page 22: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

111

期において女性が何に負担を感じているかを、配偶者の関わり方を中心に説明することで

ある。2 点目は、女性の負担感が追加出生意欲に与えるインパクトを検討することである。

以下では、「少子化と夫婦の就労環境・生活環境に関する意識調査」(内閣府経済社会総合

研究所・2013年、以下「本調査」と記す)の個票データを分析することで検討したい。 2 育児期における負担感の所在

2-1 育児期における女性の意識

最初に、育児期における女性の意識を検討することで、負担感の所在を探る77。まず、子

育て満足度の結果をみよう78(図 1)。女性の就業形態や子ども数によって満足度の分布は異

なるが、どの区分でも「非常に満足している」「満足している」を合わせると 8割以上が該

当し、不満を感じている割合は少ない79。

では、女性は自身の子育てを楽しいと感じているのか。結果をみよう80(図 2)。これも就

業形態や子ども数による違いがみられるが、どの区分でも「楽しいと感じることの方が多

い」の割合が高く、逆に「つらいと感じることの方が多い」の割合は 10%に満たない。

以上の 2 つの結果を見る限り、育児期の女性は、自身の子育て(あるいは子育て環境)

に対してトータルでは概ね肯定的な評価をもっているといえる。ただ、この結果のみをも

って、育児期の女性が問題を感じていないと結論を出すのは早計だろう。子育てや子育て

環境トータルの評価としては不満・負担として表明されないものの、日々の生活では負担

を感じている可能性があるからである。

77 本調査は 25 歳以上 40 歳未満の有配偶女性、そのうち子どもがいる人については末子年齢 6 歳未満のケ

ースを対象としているので、本稿の分析サンプルも 6 歳未満の乳幼児を抱える育児期の女性である。 78 Q44-1 への回答。なお、本調査の設計では、子ども数(0 人・1人・2 人以上)と女性の就業形態(正

規雇用・有期雇用・無職)による抽出サンプルの割付を行っている。そのため、割付区分を統合した分析

結果は母集団に議論を還元しにくいことから、以下の分析でもこの割付区分ごとに(子ども数別・女性の

就業形態別に)結果を示す。 79 なお、図表は割愛するが、結婚生活についての満足度、生活全体についての満足度の結果をみても、満

足しているという肯定的な評価が多い。 80 Q40 への回答を用いた。なお、「わからない」は除外している。

24.8%

17.4%

20.7%

18.2%

14.0%

15.6%

64.8%

66.0%

66.7%

70.5%

69.4%

67.7%

9.2%

14.6%

11.8%

10.2%

14.8%

14.6%

1.2%

2.0%

0.8%

1.2%

1.8%

2.1%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

子ども1人・正規(N=1300)

子ども1人・有期(N=1300)

子ども1人・無職(N=1300)

子ども2人以上・正規(N=1300)

子ども2人以上・有期(N=1300)

子ども2人以上・無職(N=1300)

図1 子育て満足度

―子ども数・就業形態別―

非常に満足 満足 不満 非常に不満

Page 23: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

112

この点を、健康・心理状態の回答結果をみることで検討しよう81(表 1)。まず確認できる

ことは、子どもなしの女性に比べて、子どものいる女性で「イライラしている」割合が大

きく上昇し、半数近くの女性がその状態にあることだ。これに対し、「気がはりつめている」

「何をするのも面倒だ」「気分が晴れず、ゆううつと感じる」については、子どもがいるこ

とで高くなるものではない82。この結果、「イライラ」こそが、子どもを持った後の心理的

変化の特徴であるとうかがえる。なお、就業形態による違いをみると、子ども数が同じな

らば、「イライラしている」割合は「正規雇用」よりも「有期雇用」「無職」の女性で高い

傾向にある。

イライラは、一般的な定義では「自分の思うとおりに進まないために、焦って心が落ち

着かないさま」をいう83。つまり、状況・物事が思うようにならないことからくる心理的ス

トレスを指そう。では、子育て期の女性に「イライラしている」割合が高い結果は何を意

81 Q49「1.あなた」への回答を用いた。なお、「6.上記にあてはまるものはない」への回答結果は除外した。 82 「何をするのも面倒だ」「気分が晴れず、ゆううつと感じる」は、むしろ子どもなしの女性において割

合が高いといえる。 83「大辞林 第三版」(三省堂)参照。

72.5%

58.0%

60.4%

59.6%

49.4%

53.1%

23.7%

36.2%

32.8%

35.6%

43.7%

39.9%

3.8%

5.8%

6.8%

4.8%

6.8%

7.0%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

子ども1人・正規(N=1273)

子ども1人・有期(N=1246)

子ども1人・無職(N=1270)

子ども2人以上・正規(N=1254)

子ども2人以上・有期(N=1262)

子ども2人以上・無職(N=1260)

図2 子育てについての感じ方

―子ども数・就業形態別―

楽しいと感じることの方が多い

楽しいと感じることとつらいと感じることが同じくらい

つらいと感じることの方が多い

心身ともに健康だ イライラしている 気がはりつめている 何をするのも面倒だ気分が晴れず、ゆう

うつと感じる

子どもなし・正規(N=1149)

71.3% 33.0% 19.8% 25.6% 22.6%

子どもなし・有期(N=1153)

67.4% 31.5% 19.8% 28.3% 25.8%

子ども1人・正規(N=1190)

76.0% 36.2% 19.3% 15.5% 14.3%

子ども1人・有期(N=1164)

67.3% 48.8% 23.7% 25.7% 22.5%

子ども1人・無職(N=1204)

69.9% 46.3% 19.9% 20.8% 21.0%

子ども2人以上・正規(N=1200)

75.9% 44.1% 17.9% 16.8% 16.0%

子ども2人以上・有期(N=1211)

67.4% 52.0% 22.1% 24.0% 21.6%

子ども2人以上・無職(N=1194)

69.6% 51.8% 17.7% 22.5% 20.8%

表1 女性の健康・心理状態―子ども数・就業形態別―

Page 24: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

113

味するか。まずは子育て自体に伴うストレスや不安が考えられる。ただ、内閣府経済社会

総合研究所(2013)によると、育児期の負担感の中身は、「子どもが言うことを聞かない」

「目が離せないので気が休まらない」など子どもに直接起因する感情のほか、経済的負担

や「自分の自由な時間が持てない」といったものも多い。本調査の示す「イライラ」も、

子どもや子育てに向けられた感情のみではないだろう。このことをふまえ、本稿では「イ

ライラしている」ことを、子どもとの関係のみならず、労働環境や保育環境など、育児期

の女性を取り巻く環境に起因する心理的負荷の指標として用いたい84。

以上、自身の育児や育児環境をトータルで評価する際には概ね肯定的な評価となるが、

日々の生活のレベルでは何らかの負担を感じている女性が少なくないといえる。以下では、

こうした問題意識から、「イライラしている」状態を検討の中心に置くことで、女性が育児

期に何に負担を感じ、それがどう問題なのかを検討したい85。

2-2 イライラがあることの意味―追加出生意欲への影響

もっとも、一般に子育てにはイライラが「付き物」とも言われ、イライラすること自体

に大きな問題を見出すことは難しいかもしれない。ただ、「イライラしている」ことが示す

日常的なストレスは、子育てを楽しいと感じるかどうかにも通じる。図 3 をみよう。子育

てを「楽しいと感じることの方が多い」割合は「イライラあり」の場合に大きく低下し、

つらいと感じる割合が増加する。逆に、「イライラなし」の場合は「つらいと思うことの方

が多い」割合はほとんどない。イライラすることがあっても、子育てを楽しいと感じる女

性が少なくないものの、「つらい」という感情が前面にくる場合も生じるといえる。

このように、日々負担を感じながら育児をしていると、子育てを楽しいと思えず、結果

として「もう 1 人子どもを持ちたい」という気持ちにもなりにくい可能性がある。イライ

ラの有無と追加出生意欲との関係を図 4 でみよう86。子ども 1 人の女性においては、「イラ

イラあり」の場合に追加出生意欲が低い87。育児期の女性、特に子ども 1人の女性にとって、

「イライラしている」ことが示す日々のストレスは追加出生意欲を阻害する可能性がある。

その背景には、図 3 が示唆するように、日常的なストレスがあると子育てを楽しいと感じ

られない場合もあり、結果、追加出生意欲の低下にまで結びついていることが考えられる。

この点の計量分析による検証は第 5 節で行うが、まず以下では、子ども 1 人の女性を分析

84 この点、子どもとの関係における育児不安や負担感に焦点を当てた既存研究とはやや異なろう。 85心理的負荷を扱う既存研究は、調査項目の合成をもって尺度を構成し、「ディストレス」「ストレーン」「負

担感」等の概念によって考察したものが多い(稲葉 2005、稲葉 1999、荒牧・無藤 2008 等)。この点、本

稿が「イライラ」の有無のみをもって育児期の負担の所在を検討することの限界はあろう。既存研究と同

様の尺度を構成していない理由には、調査項目に基づく制約もある。もちろん、本調査項目の範囲内で合

成尺度を作成することは可能であるが、表 1 から明らかなように「イライラしている」ことのみが子ども

を持った後の心理状態変化の特徴とうかがえ、育児期の半数近くの女性がこの状態にあるという、他の健

康・心理状態とは明確な傾向の違いがあることから、本稿で「イライラしている」ことのみを単独で考察

の中心に位置づける意義があると判断した。 86 (追加)出生意欲の変数については、「現在の子ども数」(SC6 への回答)と「実際に持つつもりの子ど

も数」(Q35 への回答)から算出した。そして、後者が前者を上回る場合に「追加出生意欲あり」とした。 87子ども 0 人の場合、子ども 2 人以上の場合は、イライラの有無によって追加出生意欲には差がみられな

かった。

Page 25: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

114

対象として、育児期において何が心理的負荷に関係するのかを検討したい。

3 育児期の女性は何に負担を感じているのか

3-1 子育て自体に起因する部分

育児期の女性がイライラしやすい理由として、まず、子育て自体から起因する部分を考

えるのが妥当だろう。この点、子どもの年齢を横軸にとってイライラしている割合を女性

の就業形態別にみると88(図 5)、どの就業形態でも、子どもが 3 歳のときをピークとして、

イライラを感じている割合が高くなる89。育児期における女性のイライラは、まずは子ども

88 SC7 への回答を用いた。 89 図 5 が示すもう 1 点の特徴は、子どもの年齢によらず正規雇用の女性は有期雇用や無職の女性に比べて

イライラしている割合が低いことだ。ただ、データの制約から、この就業形態間の差を説明することは本

稿の課題としない。

80.4%56.7%

71.3%41.1%

75.9%39.9%

75.9%36.1%

65.8%32.4%

69.2%35.3%

17.8%35.7%

26.6%48.4%

23.0%45.9%

22.6%54.3%

32.0%56.0%

29.3%51.7%

1.9%7.6%

2.0%10.6%

1.1%14.3%

1.5%9.6%

2.2%11.7%

1.5%13.0%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

▼子ども1人・正規

イライラなし(N=850)

イライラあり(N=423)

▼子ども1人・有期

イライラなし(N=698)

イライラあり(N=548)

▼子ども1人・無職

イライラなし(N=723)

イライラあり(N=547)

▼子ども2人以上・正規

イライラなし(N=742)

イライラあり(N=512)

▼子ども2人以上・有期

イライラなし(N=644)

イライラあり(N=618)

▼子ども2人以上・無職

イライラなし(N=662)

イライラあり(N=598)

図3 子育てについての感じ方

―就業形態別、イライラの有無別―

楽しいと感じることの方が多い 楽しいと感じることとつらいと感じることが同じくらい

つらいと感じることの方が多い

76.5%

68.7%

62.0%

53.2%

73.3%

61.6%

0% 20% 40% 60% 80%

▼正規雇用

イライラなし(N=869)

イライラあり(N=431)

▼有期雇用

イライラなし(N=732)

イライラあり(N=568)

▼無職

イライラなし(N=742)

イライラあり(N=558)

図4 追加出生意欲ありの割合

-イライラの有無別・就業形態別-

(子ども1人の女性)

Page 26: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

115

の成長に伴うしつけ等から起因する心理状態と考えられる90。

子どもの成長に伴って増大する焦りや不安には、子育てに対する考え方も関係しよう。

内閣府経済社会総合研究所(2013)によると、「子どもの成長の度合いが気になる」「子ど

もについてまわりの目や評価が気になる」も子育て負担感を構成している91。例えば、学歴

に対して強い意識のある女性は92、必ずしも思うようにいかない現状への焦り・不安からイ

ライラしやすいとも考えられる。学歴に対する意識の強さによってイライラを感じている

割合の違いをみると93(図 6)、学歴に対する意識の強い母親ほどイライラを感じる割合が高

い。つまり、学歴に対する意識が強いことからくる現状への焦り・不安がイライラの一部

を説明できると考えられる。

実際、学歴に対する意識の強い母親は子どもの補助学習や習い事に積極的である。表 2

をみると94、「学歴に対する意識が強い」母親は「あまり意識しない」母親と比べて、子ど

もの補助学習や習い事に積極的な割合が高い95。子どもの教育達成に強い関心をもっている

女性は、実際に子どもの補助学習・習い事に積極的だが、同時に、目の前のわが子の発育

状況や自身の子育てに対して焦りや不安を感じる場合も多いといえるかもしれない。

90表 1 でみたように、子ども数が多いほど「イライラしている」割合が高いことも、育児期の女性のイラ

イラが子育て自体から起因する部分が大きいことを推測させる。 91稲葉(2005)が、子どもに対して十全な育児を行いたい、行わなければならないというある種の「完全

育児」の追究として論じていることもこれに関わろう。 92学歴に対して過剰なほどの価値を置くことは、一般に「学歴信仰」と呼ばれることもある。 93 Q50 における「子どもの学歴は親の経済力で決まる」「学歴によって生涯に得られる合計所得にはかな

り差が出る」「日本では学歴によって人生の多くの部分が決まる」という 3 項目への回答を主成分分析によ

って合成した変数(「学歴に対する意識の強さ」の主成分得点)を作成した。図 6、表 2 の分析では、その

強弱によってカテゴリーを作成して検討した。 94 Q38 への回答を用いた。 95 子どもの将来のための預貯金に積極的な割合は、学歴に対する意識の強さによって違いはみられない。

30.4%

34.5%

29.2%

44.4%

37.6%35.6%

30.3%

42.5%

47.0%

51.6%

46.8% 45.7%

34.3%

45.6%

47.5%48.5%

45.0%

39.2%

20.0%

30.0%

40.0%

50.0%

0歳 1歳 2歳 3歳 4歳 5歳

図5 イライラを感じている割合

―就業形態・子どもの年齢別―

(子ども1人の女性)

正規雇用(N=1190) 有期雇用(N=1164) 無職(N=1204)

Page 27: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

116

3-2 配偶者の関わり方

育児期における女性の負担感に配偶者はどう関係するのか。まず、家事・育児分担によ

る違いをみよう。家事・育児を自分ひとりで担う場合、物理的な負担の重さから「子育て

に追われる」ことのストレスが大きいと考えられるからだ。特に、育児期に正規雇用とし

てフルタイムで働く女性では、家事・育児も自分ひとりで担わなければいけない場合、時

間に追われるストレスを感じているのではないか96。家事・育児分担による違いをデータで

みよう97(図 7)。正規雇用の女性においては、家事・育児分担が「もっぱら自分ひとり」の

場合にイライラを感じている割合が大きく上昇する。これに対し、有期雇用や無職の女性

96ホックシールドは、フルタイム勤務の女性における仕事と家庭とのやりくりの困難を「時間の板挟み状

態(time bind)」として描いている(Hochshield2001=2012)。 97 家事・育児分担の変数については Q41 と Q41-1 への回答から作成した。Q41 で「1.もっぱら一人が行

っている」と回答し、かつ Q41-1 で「1.自分」と回答したケースを「もっぱら自分ひとり」とし、それ以

外のケースを「自分以外も分担」とした。なお、「自分以外も分担」のケースでも配偶者が分担していると

は限らないが、本稿は、配偶者が家事・育児を分担しているかどうかよりも、女性が自分ひとりで家事・

育児をこなさなければならない状況か否かで負担感の違いをみることに主眼があるので、このように変数

化した。

35.7%

29.6%

47.8%

38.3%

44.9%

40.8%

0% 20% 40% 60%

▼子ども1人・正規

学歴に対する意識強い(N=750)

あまり意識しない(N=550)

▼子ども1人・有期

学歴に対する意識強い(N=734)

あまり意識しない(N=566)

▼子ども1人・無職

学歴に対する意識強い(N=672)

あまり意識しない(N=628)

図6 イライラを感じている割合

-学歴に対する意識の強さ別・就業形態別-

(子ども1人の女性)

女性の就業形態

学歴に対する意識の強さ

学歴に対する意識強い(N=750)

42.4% 61.5% 74.4%

あまり意識しない(N=550)

26.2% 54.4% 70.5%

学歴に対する意識強い(N=734)

36.8% 59.1% 69.5%

あまり意識しない(N=566)

18.9% 47.0% 69.6%

学歴に対する意識強い(N=672)

40.5% 61.6% 70.1%

あまり意識しない(N=628)

20.4% 52.1% 70.4%

無職

表2 子どもの教育等に対する積極性―学歴に対する意識の強さ別・女性の就業形態別―

(子ども1人の女性)

子どもの補助学習に積極的な割合

子どもの習い事に積極的な割合

子どもの将来のための預貯金に積極的な割合

正規雇用

有期雇用

Page 28: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

117

においては、家事・育児分担によってイライラの割合に大きな違いはない。つまり、正規

雇用の女性に限れば、育児期のイライラは、仕事と家事・育児との両立で忙しすぎること

によるストレスから説明できる部分があると考えられる。

家事・育児分担というサポートは女性のイライラを低減させる。ただ、男性の仕事が忙

しすぎると、妻へのサポート以前に、家庭にいても男性自身の心理的余裕がなくなるかも

しれない。そしてそれは妻にも悪影響を及ぼすだろう。既存研究は、仕事の影響が家庭に

も持ち込まれることをワーク・ファミリー・コンフリクト等の概念で問題にしてきた98。男

性の仕事が忙しすぎることで家庭にいても気が休まらない状態であることは、その妻にも

心理的負荷を与えているのではないか。この点、配偶者「気がはりつめている」有無と女

性が「イライラしている」ことの関係をみよう99(図 8)。女性の就業形態によらず、配偶者

98 金井(2006)、高村(2014)等を参照。既存研究では、例えば、「家にいても仕事のことを考えてしま

う」「仕事が気になって家庭や自分の用事に集中できない」などの問題が指摘される。仕事と家庭生活との

境界が侵食されることによる問題は、Glavin and Schieman(2012)、Bakker and Geurts(2004)など

も参照。 99 Q49 の「2.配偶者」における「3.気がはりつめている(ようだ)」への回答を用いた。

47.5%

29.5%

46.0%

42.9%

46.6%

40.5%

0% 20% 40% 60%

▼正規雇用

もっぱら自分ひとり(N=265)

自分以外も分担(N=1035)

▼有期雇用

もっぱら自分ひとり(N=341)

自分以外も分担(N=959)

▼無職

もっぱら自分ひとり(N=519)

自分以外も分担(N=781)

図7 イライラを感じている割合

-家事・育児分担別・就業形態別-

(子ども1人の女性)

50.2%

30.0%

60.2%

40.4%

51.8%

41.1%

0% 20% 40% 60% 80%

▼正規雇用

気がはりつめている(N=205)

はりつめていない(N=1095)

▼有期雇用

気がはりつめている(N=216)

はりつめていない(N=1084)

▼無職

気がはりつめている(N=222)

はりつめていない(N=1078)

図8 イライラを感じている割合

-配偶者「気がはりつめている」有無別・就業形態別-

(子ども1人の女性)

Page 29: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

118

が「気がはりつめている」場合に、妻もイライラを感じやすいことがわかる。

配偶者が「気がはりつめている」状態であると、なぜ女性もイライラしやすくなるのか。

心理学的なストレスの同調として説明することも可能であるが100、夫婦で過ごす時間の質

が阻害されるからという説明も可能であろう。表 3 をみると、配偶者が「気がはりつめて

いる」状態でいるかどうかで、夫婦関係に対する妻の評価は異なる101。配偶者の仕事が忙し

く、家庭にいても心理的余裕がない状態では、夫婦関係の質が阻害され、結果として女性

にも心理的な負担をもたらしている可能性がうかがえる。

3-3 配偶者の働き方の影響―帰宅時刻による違い

配偶者の関わりを検討する際に忘れてはならないのは、男性の働き方、労働時間との関

係である。既存研究では、男性の家事・育児分担を説明する要因のひとつとして時間的余

裕説が提示され102、男性の就業時間や通勤時間が長いほど家事・育児分担が低下するかの

検討がなされてきた(松田 2006、久保 2007 等)。なお、労働時間の長さとともに検討され

てきたのは帰宅時刻の影響である。例えば、松田(2002)は、男性の帰宅時刻が 21時以降

になると育児参加の度合いが急激に低下することを示し、帰宅時刻と育児参加との関係を

「閾値(threshold)のある関係」であると論じる。 時間が問題となるのは家事・育児分担のみではない。先に論じたように、仕事が忙しす

ぎる場合、家庭にいても心理的に仕事から解放されず、それが夫婦関係の質を阻害してい

る可能性がある。では、どの程度帰宅が遅くなると問題が生じうるのか。 まず配偶者帰宅時刻の分布を確認しよう103(図 9)。女性の就業有無によって若干の差が

100 例えば、加藤・金井(2007)は、夫婦の一方が体験するストレスが他方に同調的な行動を引き起こす

ことを「夫婦間クロスオーバー」として検討している。 101 もっとも、「配偶者と過ごす時間が十分にある」「よく会話している」などは、家庭で一緒に過ごす時

間の長さと比例する部分が大きい。このことと、後に論じるように、配偶者が「気がはりつめている」か

どうかは帰宅時刻が遅さと関係があることを合わせると、「気がはりつめている」こととこれらの関係の強

さは、見かけ上の関係として説明できる部分もあることを注記したい。 102夫であれ妻であれ自由な時間をより多く持つ方が家事や育児をより頻繁に行うというのがこの仮説で

ある(石井クンツ 2013)。 103 Q31-1 への回答から作成した。

女性の就業形態

配偶者の状態

気がはりつめている(N=205)

93.2% 82.0% 40.5% 63.4% 80.0% 69.3% 71.2%

はりつめていない(N=1095)

92.7% 85.0% 59.4% 74.7% 85.6% 75.6% 70.8%

気がはりつめている(N=216)

80.1% 63.0% 32.9% 50.0% 70.8% 53.2% 52.8%

はりつめていない(N=1084)

88.9% 80.1% 51.2% 66.3% 81.6% 69.9% 64.7%

気がはりつめている(N=222)

82.9% 74.3% 33.8% 58.6% 76.1% 61.7% 64.4%

はりつめていない(N=1078)

88.9% 80.1% 55.6% 69.4% 84.8% 71.6% 66.8%

無職

理解してくれている割合

配偶者とよく会話している

割合

配偶者と過ごす時間が十分にある割合

趣味や行動を尊重してくれ

る割合

有期雇用

表3 夫婦関係に対する評価―配偶者「気がはりつめている」の有無別・女性の就業形態別―

(子ども1人の女性)

頼りにしてくれている割合

心配事や悩みを聞いてくれ

る割合

じゅうぶん愛情表現をしてくれる割合

正規雇用

Page 30: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

119

あるが、午後 8 時より前に帰宅している割合は 4 割前後であり、午後 10 時以降というきわ

めて遅い時間帯も 2 割以上いる。 配偶者の帰宅時刻と家事・育児分担との関係みると(図 10)、家事・育児分担が「もっぱ

ら自分ひとり」の割合は配偶者の帰宅時刻が遅くなるほど増加する傾向にある104。なお、

女性が有期雇用や無職の場合ほど、男性の帰宅時刻による家事・育児分担の違いは大きい。 さて、男性の帰宅時刻が関係するのは家事・育児分担ばかりではない。配偶者「気がは

りつめている」割合と帰宅時刻との関係をみると(図 11)、「気がはりつめている」割合は

帰宅時刻が午後 10 時以降で大きく増加することがわかる。午後 10 時以降に帰宅する男性

は、帰宅後も仕事のことが頭から離れず気持ちが休まっていない可能性がある。少なくと

もその妻からはそう見えているのではないか。そして、先に図 8 で見たように、配偶者の

気がはりつめた状態はその妻にも心理的負荷を生んでいた。つまり、男性の帰宅時刻は、

間接的な形で、その妻にも負担を及ぼしていることが推測できよう。

104ベネッセ教育総合研究所(2010)によると、平均的な乳幼児の就寝時刻は 21 時前後であるなど、乳幼

児を抱える家庭生活には一定のリズム(決められた生活時間帯)があり、男性の帰宅時刻がそれに間に合

わない場合は育児参加できないという関係にあると推測される。

26.1%

25.2%

19.8%

19.4%

18.0%

19.1%

19.6%

18.6%

18.1%

13.4%

13.6%

17.4%

21.5%

24.6%

25.6%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

正規雇用(N=1207)

有期雇用(N=1178)

無職(N=1137)

図9 配偶者の帰宅時刻

―女性の就業形態別―

(子ども1人の女性)

午後7時より前 午後7時~8時前 午後8時~9時前 午後9時~10時前 午後10時以降

14.4%21.2%

25.3%29.2%

16.9%24.2%

31.2%40.0%

27.1%37.4%

49.0%56.0%

0% 20% 40% 60%

▼正規雇用午後8時より前(N=549)

午後8時~9時前(N=236)午後9時~10時前(N=162)

午後10時以降(N=260)▼有期雇用

午後8時より前(N=509)午後8時~9時前(N=219)

午後9時~10時前(N=160)午後10時以降(N=290)

▼無職午後8時より前(N=442)

午後8時~9時前(N=206)午後9時~10時前(N=198)

午後10時以降(N=291)

図10 家事・育児分担「もっぱら自分ひとり」の割合

-配偶者の帰宅時刻別・女性の就業形態別-

(子ども1人の女性)

Page 31: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

120

4 育児期の女性における負担の所在―計量分析による検証

以上の検討をふまえ、子ども 1 人の女性を対象に「イライラしている」ことの規定要因

を計量分析で検証し、育児期の女性が何に負担を感じているのかを考察したい。検証する

点は主に 2 点ある。1 点目は、子どもの年齢や学歴に対する考え方の影響である。2 点目は

配偶者の関わり方の影響である。具体的には、正規雇用の女性における家事・育児分担の

効果と、配偶者が家庭にいても気がはりつめた状態でいることのマイナス効果を検証する。 説明変数は以下のとおりである。まず、育児期の女性が何に負担を感じているのかを検

討する際には、保育環境や両立環境なども考慮すべき要素であり、変数として投入した。

保育環境については、地域の保育環境、本人や配偶者の親との同近居を説明変数として考

慮した105。就業者の両立環境については、「勤務先に両立支援制度あり」というダミー変数

を投入した106。そのほか、本人年齢、配偶者年齢、本人学歴、配偶者学歴、結婚年、子ど

も年齢、本人年収、本人労働時間、配偶者年収、配偶者帰宅時刻を説明変数として投入し

た107。 就業形態別に結果を読もう(表 4)。まず、「正規雇用・子ども 1 人」の女性においては、

子ども年齢が 3 歳のとき、本人労働時間が長い場合、学歴に対する意識が強い場合、家事・

105 地域の保育環境については Q42 への回答を用いた。なお、「わからない」という回答も、地域の保育サ

ービス利用可能性について重要な情報を提供することから除外せずに扱った。親との同近居については

Q46-1 から作成した。「1.あなたの父親」もしくは「2.あなたの母親」について「自分と同居している」「隣・

同じ敷地内」「歩いていけるところ」への回答があった場合に「同近居(自分の親)」ありとし、「同近居(配

偶者の親)」についても同様に作成した。 106 Q26 の「3.育児休暇がとれる」「4.子育て期に短時間勤務がある」「5.時間単位の休暇がとれる」の項目

のうち 1 つ以上に該当する場合に「勤務先に両立支援制度あり」とした。 107本人年齢は SC4、配偶者年齢は SC5 から算出した。本人学歴は Q47、配偶者学歴は Q47-1、結婚年は

SC2(カテゴリー化)、本人年収は Q9、本人労働時間は Q13-1(ただし 13 時間以上はエラーの可能性が高

い外れ値のため除外)、配偶者年収は Q29(「わからない」は除く)から作成した(本人の年収、労働時間、

両立支援制度は就業者のみ投入)。なお、配偶者の働き方を説明変数にしていることから、配偶者が非就業

のケースは除外している。

13.7%14.4%14.8%

21.5%

13.2%16.9%16.9%

22.1%

12.0%17.0%

16.2%26.8%

0% 10% 20% 30%

▼正規雇用午後8時より前(N=549)午後8時~9時前(N=236)

午後9時~10時前(N=162)午後10時以降(N=260)

▼有期雇用午後8時より前(N=509)午後8時~9時前(N=219)

午後9時~10時前(N=160)午後10時以降(N=290)

▼無職午後8時より前(N=442)午後8時~9時前(N=206)

午後9時~10時前(N=198)午後10時以降(N=291)

図11 配偶者「気がはりつめている」割合

-配偶者の帰宅時刻別・女性の就業形態別-

(子ども1人の女性)

Page 32: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

121

育児をもっぱら自分ひとりで行っている場合、配偶者が気がはりつめている場合に、イラ

イラしている確率が高く、勤務先に両立支援制度があるほどその確率が低い。次に、「有期

雇用・子ども 1人」の女性においては、結婚年が 2011年以降の場合、子どもの年齢が 1歳

~5 歳の場合、地域の保育事情が「探しても難しい」「わからない」場合、学歴に対する意

識が強い場合、配偶者が気がはりつめている場合にイライラしている確率が高く、本人学

歴が大学・大学院卒ほどその確率が低い。「無職・子ども 1 人」の女性においては、子ども

年齢が 1 歳、3 歳のとき、学歴に対する意識が強い場合、配偶者が気がはりつめている場合

にイライラしている確率が高く、本人学歴が大学・大学院卒である場合にその確率が低い。 分析からわかることは以下の点である。まず、家事・育児を自分ひとりで行わざるを得

ない環境が負担を感じさせるのは正規雇用の女性である。有期雇用の女性においては、地

域において子どもを預けられる環境にないことが負担に関係しよう。また、就業形態によ

らず、子どもの学歴に対する意識が強い女性は負担を感じやすい。さらには、配偶者が気

がはりつめた状態でいることは、その妻にも心理的負荷を与えていることがわかった。

係数(B) 標準誤差 Exp(B) 係数(B) 標準誤差 Exp(B) 係数(B) 標準誤差 Exp(B)

本人年齢 -.030 .025 .971 .011 .024 1.011 -.034 .023 .967

配偶者年齢 .012 .018 1.012 .007 .017 1.007 -.012 .017 .988

本人学歴(基準:中学・高校卒)

専門・短大・高専卒 -.097 .237 .907 -.265 .183 .767 -.254 .185 .775

大学・大学院卒 -.452 .237 .636 -.383 .193 .682 * -.571 .193 .565 **

配偶者学歴(基準:中学・高校卒)

専門・短大・高専卒 .019 .217 1.019 -.024 .187 .976 -.034 .210 .967

大学・大学院卒 -.034 .186 .967 -.002 .166 .998 -.163 .176 .850

結婚年(基準:2006年以前)

2007~2008年 -.075 .260 .928 .119 .192 1.126 .156 .208 1.168

2009~2010年 -.211 .263 .809 .403 .217 1.496 -.013 .222 .987

2011年以降 -.045 .285 .956 .702 .267 2.018 ** -.116 .251 .891

子ども年齢(基準:0歳)

1歳 .351 .191 1.420 .666 .241 1.947 ** .408 .183 1.504 *

2歳 .100 .231 1.105 1.025 .245 2.787 ** .354 .207 1.424

3歳 .757 .264 2.133 ** 1.102 .264 3.010 ** .525 .246 1.690 *

4歳 .113 .335 1.119 .947 .280 2.579 ** .433 .288 1.541

5歳 .146 .381 1.157 .951 .295 2.588 ** .108 .339 1.115

本人年収(基準:100万円未満)

100~300万円未満 .081 .291 1.085 -.039 .152 .962

300万円以上 .203 .294 1.224 .215 .253 1.240

本人労働時間 .115 .045 1.122 * -.071 .043 .932

勤務先に両立支援制度あり -.430 .187 .650 * .032 .135 1.032

配偶者年収(基準:400万円未満)

400~600万円未満 .166 .165 1.180 .230 .148 1.259 .313 .161 1.367

600万円以上 -.152 .182 .859 -.118 .199 .889 -.047 .168 .954

配偶者帰宅時刻(基準:午後8時より前)

午後8時~9時前 .353 .184 1.424 -.327 .186 .721 .024 .186 1.025

午後9時~10時前 .093 .214 1.097 .082 .207 1.085 -.153 .193 .858

午後10時以降 .020 .180 1.020 .157 .174 1.170 .011 .175 1.011

同近居(自分の親) .320 .166 1.378 -.160 .170 .852 .067 .188 1.069

同近居(配偶者の親) -.110 .194 .896 .037 .178 1.037 -.069 .184 .933

地域の保育環境(基準:待機せず預けられる)

探せばどこかに預けられる .100 .190 1.105 .369 .189 1.446 .176 .260 1.192

探しても難しい .177 .221 1.194 .554 .216 1.740 * .279 .275 1.322

わからない .170 .266 1.186 .716 .253 2.047 ** .332 .281 1.394

学歴に対する意識の強さ .210 .070 1.234 ** .243 .068 1.275 ** .175 .067 1.191 **

家事・育児分担:もっぱら自分ひとり .726 .165 2.068 ** .077 .155 1.080 .162 .138 1.176

配偶者:気がはりつめている .859 .180 2.361 ** .798 .178 2.221 ** .365 .170 1.440 *

定数 -1.159 .939 .314 -1.863 .853 .155 * 1.057 .854 2.877

χ2乗値 101.856 ** 91.65 ** 52.057 **

自由度 31 31 27

-2 対数尤度 1320.679 1370.02 1391.197

Cox-Snell R2乗 0.087 0.082 0.048

Nagelkerke R2 乗 0.121 0.11 0.065

N 1120 1069 1052

**1%水準で有意,*5%水準で有意

表4 育児期の女性における「イライラしている」ことの規定要因(二項ロジスティック回帰分析)

分析対象 正規雇用・子ども1人 有期雇用・子ども1人 無職・子ども1人

Page 33: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

122

5 子ども 1人の女性における追加出生意欲の規定要因

最後に、子ども 1 人の女性を対象に追加出生意欲の規定要因を分析する。図 4 でみたよ

うに、子ども 1 人の女性においてはイライラが追加出生意欲に関わる可能性があるからだ。

ここで検証する点は 2 点ある。1 点目は、「イライラ」が示す日々の心理的負荷が追加出生

意欲を低下させるかである。2 点目は、「イライラ」が追加出生意欲の低下につながるプロ

セスに関わる。つまり、イライラがあると子育てを「楽しい」と感じられない場合も生じ、

それが追加出生意欲を阻害するのではないかという点の検証である。以上の 2 点を検証す

るため、「イライラしている」ことの追加出生意欲への直接の影響を検証するモデル(モデ

ル 1)と、「子育てについての感じ方」変数を投入し係数値の変化を検証するモデル(モデ

ル 2)の 2 つのモデルで分析した。そのほか投入した変数は、表 4 とほぼ同一であるが、先

行研究をふまえて「配偶者:心配事や悩みを聞いてくれる」を投入している108。 結果をみよう(表 5)。モデル 1 から女性の就業形態別に結果をよむ。正規雇用の女性で

は、本人年齢、本人学歴、結婚年、子ども年齢、配偶者が心配事や悩みを聞いてくれるこ

と、本人のイライラが出生意欲に関係する。有期雇用の女性では、本人年齢、配偶者年齢、

子ども年齢、勤務先の両立支援制度、配偶者が心配事や悩みを聞いてくれること、本人の

イライラが出生意欲に関係する。無職の女性では、本人年齢、配偶者年齢、子ども年齢、

地域の保育環境、配偶者が心配事や悩みを聞いてくれること、本人のイライラが出生意欲

に関係する。配偶者の情緒的サポートがあるほど追加出生意欲が高まることは既存研究と

整合的な結果であるが、ここで重要な結果は、イライラがあるほど追加出生意欲が低くな

ることであり、育児期に負担を感じている場合に追加出生意欲が阻害される可能性である。 次に、「子育てについての感じ方」変数を投入したモデル 2 の結果をよむ。正規雇用の女

性では、子育てが「楽しい・つらいが同じくらい」「つらい」と感じる人は、「楽しい」と

感じる人に比べて追加出生意欲が低い。有期雇用の女性、無職の女性では、子育てが「つ

らい」と感じる人は「楽しい」と感じる人に比べて追加出生意欲が低い。注目すべきは、

モデル 1 からの変化として、どの就業形態の女性でも「イライラしている」の係数値が 0に近づき、正規雇用と有期雇用のケースではその有意な効果が消滅していることである。 分析からわかることは以下の点である。まず、子ども 1 人の女性においてイライラがあ

ることは追加出生意欲を低下させる。ただ、イライラ自体が直接に追加出生意欲を阻害す

るというより、子育てを「つらい」と感じることを媒介して追加出生意欲を阻害する部分

が大きい109。図 3 でみたように、イライラのある女性では、子育てを「楽しい」と感じる

割合が低いが、このことが追加出生意欲の低下にまでつながりうることを示していよう。

108 配偶者の情緒的サポートが女性の追加出生意欲にプラスとする先行研究をふまえ、情緒的サポートの

代理変数として投入した。なお、表 4 の分析で情緒的サポート変数を投入していないのは、イライラと密

接な関係にあり説明変数として適切でないという判断による(例えば、イライラしている場合に、配偶者

の情緒的サポートを低く見積もる可能性を否定できない)。 109 正規雇用と有期雇用における分析結果は、イライラが追加出生意欲に及ぼす影響が、主として「子育

てをつらいと感じること」を媒介とした間接効果であることを示唆する。

Page 34: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

- 123 -

分析対象

係数(B) 標準誤差 Exp(B) 係数(B) 標準誤差 Exp(B) 係数(B) 標準誤差 Exp(B) 係数(B) 標準誤差 Exp(B)

本人年齢 -.065 .026 .937 * -.067 .027 .935 * -.091 .024 .913 ** -.083 .024 .920 ** -.088 .024 .915 ** -.086 .025 .917 **

配偶者年齢 .000 .018 1.000 -.005 .018 .995 -.039 .016 .962 * -.041 .017 .959 * -.064 .017 .938 ** -.065 .017 .937 **

本人学歴(基準:中学・高校卒)

専門・短大・高専卒 .495 .238 1.641 * .529 .243 1.698 * .268 .180 1.308 .238 .185 1.269 .263 .194 1.301 .167 .198 1.181

大学・大学院卒 .444 .234 1.558 .458 .239 1.581 .138 .188 1.147 .098 .192 1.103 -.095 .202 .909 -.173 .206 .841

配偶者学歴(基準:中学・高校卒)

専門・短大・高専卒 -.062 .215 .940 -.008 .220 .992 .118 .183 1.125 .151 .188 1.163 .081 .219 1.084 .145 .222 1.156

大学・大学院卒 .222 .191 1.248 .212 .196 1.237 .077 .164 1.080 .084 .167 1.088 .287 .181 1.333 .360 .184 1.433

結婚年(基準:2006年以前)

2007~2008年 .324 .241 1.382 .279 .245 1.321 -.086 .185 .918 -.073 .190 .929 .049 .205 1.050 .072 .208 1.074

2009~2010年 .542 .247 1.719 * .516 .252 1.676 * .046 .209 1.047 .094 .216 1.098 .061 .219 1.063 .078 .223 1.081

2011年以降 .807 .277 2.242 ** .819 .283 2.268 ** -.088 .256 .915 -.166 .263 .847 .257 .260 1.293 .263 .265 1.300

子ども年齢(基準:0歳)

1歳 -.092 .203 .912 -.044 .208 .957 .020 .236 1.021 .003 .242 1.003 .641 .215 1.898 ** .618 .218 1.855 **

2歳 .114 .239 1.121 .149 .244 1.161 .041 .242 1.042 .033 .248 1.034 -.042 .217 .959 -.028 .222 .972

3歳 -.103 .265 .902 .047 .274 1.048 -.355 .252 .701 -.399 .259 .671 -.368 .249 .692 -.291 .256 .748

4歳 -.930 .306 .394 ** -.818 .313 .441 ** -.619 .267 .538 * -.649 .277 .523 * -.384 .286 .681 -.262 .294 .770

5歳 -.506 .353 .603 -.384 .360 .681 -1.130 .280 .323 ** -1.173 .287 .309 ** -.457 .328 .633 -.430 .332 .651

本人年収(基準:100万円未満)

100~300万円未満 -.315 .299 .730 -.313 .303 .732 -.122 .150 .885 -.150 .153 .860

300万円以上 -.404 .301 .668 -.429 .305 .651 .136 .254 1.146 .146 .263 1.157

本人労働時間 .053 .046 1.055 .066 .047 1.068 -.006 .042 .994 .001 .042 1.001

勤務先に両立支援制度あり .270 .191 1.310 .191 .198 1.211 .306 .134 1.357 * .272 .137 1.313 *

配偶者年収(基準:400万円未満)

400~600万円未満 .120 .173 1.127 .163 .177 1.177 -.073 .145 .930 -.004 .149 .996 .055 .174 1.056 .077 .178 1.080

600万円以上 .074 .187 1.077 .112 .190 1.119 -.329 .197 .720 -.320 .202 .726 .073 .174 1.075 .065 .177 1.067

同近居(自分の親) -.331 .174 .718 -.345 .177 .708 -.167 .168 .846 -.140 .173 .869 -.255 .197 .775 -.258 .201 .773

同近居(配偶者の親) .386 .205 1.472 .339 .208 1.404 -.123 .174 .885 -.117 .177 .890 .135 .202 1.144 .091 .202 1.095

地域の保育環境(基準:待機せず預けられる)

探せばどこかに預けられる -.114 .200 .893 -.093 .204 .911 -.216 .188 .806 -.251 .193 .778 .590 .270 1.804 * .588 .273 1.800 *

探しても難しい -.436 .225 .647 -.408 .230 .665 -.220 .214 .803 -.270 .219 .763 .095 .283 1.100 .120 .288 1.127

わからない -.119 .285 .888 -.140 .294 .870 -.168 .253 .846 -.182 .266 .833 .298 .289 1.347 .325 .294 1.384

家事・育児分担:もっぱら自分ひとり .109 .182 1.115 .167 .188 1.181 -.102 .153 .903 -.082 .158 .922 .065 .144 1.067 .050 .146 1.051

配偶者:心配事や悩みを聞いてくれる .341 .162 1.406 * .349 .165 1.418 * .438 .146 1.550 ** .382 .150 1.465 * .349 .152 1.418 * .351 .155 1.421 *

本人:イライラしている -.318 .153 .727 * -.208 .160 .812 -.313 .135 .732 * -.235 .144 .791 -.699 .143 .497 ** -.563 .156 .569 **

子育てについての感じ方(基準:楽しい)

楽しい・つらいが同じくらい -.438 .167 .645 ** -.179 .148 .836 -.195 .159 .823

つらい -.926 .354 .396 ** -1.023 .300 .360 ** -.650 .280 .522 *

定数 1.973 .986 7.195 * 2.237 1.004 9.368 * 4.971 .849 144.130 ** 4.929 .875 138.208 ** 5.297 .920 199.832 ** 5.335 .939 207.370 **

χ2乗値 120.096 ** 130.843 ** 172.707 ** 178.463 ** 185.142 ** 185.541 **

自由度 28 30 28 30 24 26

-2 対数尤度 1252.827 1206.679 1403.571 1348.907 1292.553 1252.768

Cox-Snell R2乗 0.096 0.106 0.138 0.146 0.144 0.147

Nagelkerke R2 乗 0.14 0.155 0.186 0.197 0.203 0.208

N 1196 1172 1164 1128 1187 1164

**1%水準で有意,*5%水準で有意

モデル2

正規雇用・子ども1人 有期雇用・子ども1人 無職・子ども1人

表5 子ども1人の女性における追加出生意欲の規定要因(二項ロジスティック回帰分析)

モデル1 モデル2 モデル1 モデル2 モデル1

Page 35: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

124

6 結論

本稿では、育児期における女性の負担感について検討した。子育てに対しては大半が満

足し、子育てを楽しいと肯定的に捉えている女性が多いが、これをもって育児期の女性が

負担を感じていないと結論を出すのは早計だ。「イライラしている」割合が子どもをもつ女

性において大きく上昇するからである。調査結果は、育児期において少なくない女性が日々

の生活で心理的な負担(焦り、不安、ストレスなど)を抱えていることを示す。 たしかに、イライラすることは子育てに「付き物」とも言え、それ自体が問題とまでは

言い難い。ただ、日々のイライラがあると子育てを「楽しい」と感じられない場合もあり、

それが追加出生意欲を低下させている可能性がうかがえた。本稿の分析結果が示すのは、

追加出生意欲に対してより直接に関わるのは「子育てを楽しいと感じられるか」であるが、

子育てを楽しめるかどうかは、育児期の女性を取り巻く環境に起因する負担感と大いに関

係するということだ。 では、育児期において女性は何に負担を感じているのか。たしかに、「しつけが思うよう

にいかない」など子育て自体も大きな要素だ。それは子ども数・子ども年齢別の結果が間

接的に示している。加えて、学歴に関する規範を強く内面化し、子どもの教育に積極的な

母親ほど、目の前のわが子の発育状況、自身の子育てが順調にいっているかなど、焦りや

不安を感じやすいのではないかと推察される。 配偶者の関わり方も大きく影響する。まず、家事・育児分担は、正規雇用で働く女性に

とって重要なサポートといえる。ただ、配偶者の仕事が忙しすぎる場合、妻へのサポート

を行う以前に、家庭にいても男性の心理状態が仕事から解放されないことがある。それは

結果としてその妻にも心理的負荷をもたらしていた。そして、この観点から問題となる忙

しさは、帰宅時刻が午後 10 時以降となるような働き方であった。男性の帰宅時刻は、直接

には妻の心理状態に影響しないが、家庭生活の質を阻害することを通じて間接的に女性に

も影響を与えうる。最低限の家庭生活を守るための働き方について、いま一度問題を提起

したい。 最後に、本稿の限界と今後の課題を述べたい。表 1、図 5 などが示すように、育児期に負

担を感じている度合いは、女性自身の就業形態によって大きな差がうかがえる。具体的に

は、正規雇用の女性に比べて有期雇用や無職ではイライラしている女性の割合が高い。こ

れは既存研究の示す、就業者に比べて無職の女性ほど育児不安が高いという結果と整合的

である。ただ、データの制約もあり、本稿は就業形態による違いの中身を説明できていな

い。この点は今後の課題としたい。 参考文献

荒牧美佐子・無藤隆(2008)「育児への負担感・不安感・肯定感とその関連要因の違い:

未就学児を持つ母親を対象に」『発達心理学研究』19(2): 87-97. Bakker, A. B. and S. A. E. Geurts(2004)“Toward a dual-process model of work-home

Page 36: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

125

interference,” Work and Occupations 31(3): 345-366. ベネッセ教育総合研究所(2010)『第 4 回 幼児の生活アンケート・国内調査 報告書』. 林治子・唐沢真弓(2009)「ワーク・ライフ・バランスに関する心理学的検討―肯定的

/否定的スピルオーバーの概念を用いて」『東京女子大学紀要論集』60(1):169-191. Glavin, P. and S. Schieman(2012)”Work-family role blurring and work-family

conflict: the influence of job resources and job demands,” Work and Occupations 39(1): 71-98.

Hochschild, A. R.[2001] The Time Bind: When Work Becomes Home and Home Becomes Work.(=2012,坂口緑・中野聡子・両角道代訳『タイム・バインド(時間の板挟み状態) 働く母親のワークライフバランス―仕事・家庭・子どもをめぐる

真実』)明石書店. 稲葉昭英(1999)「家族生活・職業生活・育児:育児と役割ストレーンの構造‐大都市近郊

‐」高橋勇悦監修・石原邦雄編『妻たちの生活ストレスとサポート関係』東京都立大学都

市研究所, 第 1 章. 稲葉昭英(2005)「家族と少子化」『社会学評論』65(1). 石井クンツ昌子(2013)『「育メン」現象の社会学―育児・子育て参加への希望を叶えるた

めに』ミネルヴァ書房. 金井篤子(2006)「ワーク・ファミリー・コンフリクトの視点からのワーク・ライフ・バラ

ンス考察」『季刊家計経済研究』N0.71. 加藤容子・金井篤子(2007)「共働き夫婦におけるワーク・ファミリー・コンフリクト―『ク

ロスオーバー効果』と『対処行動の媒介・緩衝効果』の吟味」『産業・組織心理学研究』

20(2):15-25. 厚生労働省(2013)『21 世紀出生児縦断調査及び 21 世紀成年者縦断調査特別報告書(10

年分のデータより)』. 久保桂子(2007)「フルタイム就業夫婦の育児分担を規定する要因―仕事との時間的葛藤を

生じる育児を中心に―」『家族社会学研究』19(2): 20-31. 牧野カツコ(1982)「乳幼児をもつ母親の生活と育児不安」『家庭教育研究所紀要』3, 35-56. 牧野カツコ・中西雪夫(1985)「乳幼児をもつ母親の育児不安―父親の生活および意識と野

関連」『家庭教育研究所紀要』6, 11-24. 松田茂樹(2002)「父親の育児参加促進策の方向性」国立社会保障・人口問題研究所編『少

子社会の子育て支援』東京大学出版会, pp.313-330. 松田茂樹(2006)「近年における父親の家事・育児参加の水準と規定要因の変化」『季刊家

計経済研究』No.71. 松田茂樹(2007)「育児不安が出産意欲に与える影響」『人口学研究』第 40 号, pp.51-63. 内閣府経済社会総合研究所(2013)『夫婦の出生力の低下要因に関する分析~「少子化と夫

婦の生活環境に関する意識調査」の個票を用いて~』ESRI Discussion Paper Series No.301.

Page 37: 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 - ESRI90 第3章 教育アスピレーションと出生意欲 高村 静 1 問題意識 子どもを何人持ちたいか(出生意欲)、子どもにどのくらいの教育水準を期待するか(教

126

高村静(2014)「仕事と生活の相互関係とワーク・ライフ・バランス」佐藤博樹・武石恵美

子編『ワーク・ライフ・バランス支援の課題―人材多様化時代における企業の対応』

東京大学出版会, 第 7 章. 山口一男(2009)『ワークライフバランス―実証と政策提言』日本経済新聞出版社.