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第1回 オープンソースとは?
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第3回 オープンソースと Ruby(1)
オープン・ソース Ruby
(1)Ruby から Ruby on Rails へ
Ruby は、まつもとゆきひろ氏(1965 -)1によ
り 1993 年に開発されたオブジェクト指向スクリ
プト言語(プログラム言語)である2。オープン
ソース・ソフトウェアとして世界中のプロ
グラマの注目を集めている言語である。
Rubyは当初キラー・アプリケーションを
持たなかったため、一部の技術者の間を除
いては業務用には爆発的な普及はしなかった。
それが、2004 年にデンマークのプログラマである David
Heinemeier Hansson により、Web アプリケーションフレー
ムワーク(Ruby の多くの再利用可能なコードがフレームワー
クにまとめられることによって開発者の手間を省き、新たな
アプリケーションのために標準的なコードを改めて
書かなくて済むようにする)
である Ruby on Rails(RoR と
か単に Rails と呼ばれる)とし
てリリース され、特に米国おいて、
Twitterなどの Webサービスを行うサイトにおいてRails
が利用されるようになった一気に注目を集めるようにな
った3。集めるようになったのである4。
1 本名は「松本 行弘」だが、一般にはひらがな表記が定着している。英語圏では Matz の
通称で知られる。現在は島根県松江市に在住し、同市の株式会社ネットワーク応用通信研
究所(NaCl)に特別研究員として勤務している。 2 Rubyは当初1993年2月24日に生まれ、1995年12月に fj上で発表された。名称のRuby
は、プログラミング言語 Perl が 6 月の誕生石である Pearl(真珠)とほぼ同じ発音をする
ことから、まつもと氏の同僚の誕生石(7 月)のルビーを取って名付けられた。 3 Ruby on Rails はアプリケーションの開発を他のフレームワークより少ないコードで簡単
に開発できるよう考慮し設計されている。Rails の基本理念は「同じことを繰り返さない」
(DRY:Don't Repeat Yourself)と「設定よりも規約」(Convention over Configuration)である。
「同じことを繰り返さない」というのは定義などの作業は一回だけですませろとの意味。 4 Rubyが他のプログラミング言語に比べて記述量が少なくてすむ他、文法が英語に近く人
間のイメージを表現しやすく、その結果開発の生産性が高いということが大きな理由であ
る。Ruby はコンパイルを必要としないスクリプト言語であるためにプログラムを記述し
てすぐに実行→結果を確認できるが、その分実行速度は遅くなる。しかしながらハードウ
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Ruby はまつもと氏が既存の言語を研究しつくし、理想の言語として設計し
たプログラム言語である。Ruby on Rails を開発した Hansson が「美しいコー
ドを書けるから Ruby を選んだ」と話すように、技術者は仕事でも Ruby で快適
にプログラムを書きたいと考えていた。そして今までに Ruby で開発されたソ
フトウェアの蓄積と、こられすべてがオープンソース・ソフトウェアとして公
開されているため、業務用としても注目を集めるようになったのである。
(2)Ruby と地域の情報産業振興
松江市ではオープンソース・ソフトウエアによる地域
振興施策「Ruby City MATSUE」プロジェクトを進めて
おり、2006 年 7 月 31 日には松江駅前市に交流・開発拠
点「松江オープンソースラボ」を開設した。
また、島根県の IT 関連企業などは「しまね OSS(オ
ープン・ソース・ソフトウエア)協議会」を 2006 年 9
月 3 日に設立した。オープンソース・ソフトウエアに関
わる企業や技術者、研究者、ユーザーの交流によって技
術力と競争力の向上を図ることを目的にしている。
オープンソースの開発方式自体は,地域の情報サービ
ス産業にとってもその技術力を有していれば,新しいビジネス市場の拡大の可
能性をもたらす.もちろん Ruby はオープンソースのプログラミング言語である
ので、何処で誰が Ruby を使って開発してもかまわないわけであるが、松江市
はまつもと氏が在住する他,(株)ネットワーク応用通信研究所(松江市)を中心
に Ruby のエンジニアがある程度集積するなどの地理的・技術的優位性を利用し
て Ruby を地域のブランドとして拡大する IT 市場のシェアを獲得しようという
取組であると考えられる。
ェアの性能の急速な向上によって処理の部分はハードウェアが担うことが可能になり、素
早いリリースと頻繁な変更を求められる Web アプリケーションの開発においては Ruby の
生産性が評価された。
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2006年にRuby City MATSUEプロジェクトとしてスタートしたプロジェクト
は行政機関が主導した面もあるが、その主体は松江市内の民間企業や技術者、
そして大学の研究者であり、Rubyという技術的優位性を活かしながら、産学官
の連携によって地域産業振興につなげようという取り組みであった。しまね
OSS協議会による勉強会(オープンソースサロンやRuby勉強会)の開催などを
通じて地元のIT企業はRubyやオープンソースに関する事業・開発を進める中で、
Ruby開発の技術力・プロジェクトマネジメント力を高めていった。そしてビジ
ネス拡大、市場獲得のための研究と、大規模開発の県内企業による共同受注へ
と進めていった5。
2008年になると島根県もIT産業振興を産業振興の中心に位置づけるようにな
り6、特に2009年9月に松江市で開催されたRubyWorld Conference7では松江市
に国内外から約1000人の開発者、研究者、ビジネス関係者が集まり、国内外に
Ruby City MATSUEを幅広くアピールした。
島根県松江市の IT産業振興の取組によって島根県の IT産業は 2007年度から
2013 年度にかけて売上高を 44%伸ばし,県内の従業員数も 21%伸ばすという成
果をあげてきた。また 2008 年度から 2014 年度までに開発拠点を設けるなどし
て島根県に進出した IT 企業は 28 社、特に 2014 年度は 11 社と急増するなど注
目すべき成果を示している。
5 地元企業や進出企業によるビジネス向けのソリューション開発も進み、小松電機産業
(株)(松江市)が i モードとインターネットによる上下水道施設・社会インフラの管理監視
制御を行うソフトウェア「やくも水神」を Ruby で開発(2008 年)、(株)マツケイ(松江
市)が帳票印刷を伴う業務ソフトを Ruby で再構築(2009 年)するなど、地元企業による
Ruby の技術力向上を伴った業務システム開発が進んでいる。 6 島根県 IT 産業振興策としては、人材育成事業・OSS/Ruby エンジニア育成講座、実践
型 OSS 開発力強化支援事業・高度エンジニア派遣事業、ソフト産業ビジネス研究会支援事
業・専門家などを招聘したビジネス研究会の創設・運営を支援、販路拡大支援事業・県内
のソフト系企業のソフトウェア製品の販路獲得、高い開発技術による業務獲得を目指し、
首都圏で開催される IT関連展示会への出展を支援、県内就職支援事業・県内外の情報系の
学生などを対象に Ruby 講座を実施し、県内 IT 企業への就職につなげる研修を合宿形式で
実施、などがある。 7 RubyWorld Conference は 2009 年以降毎年開催されており、そして今年(2016 年)も
11 月 3 日、4 日に RubyWorld Conference 2016 の開催が予定されている。
http://2015.rubyworld-conf.org/ja/ 参照
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(3)Ruby・オープンソースと人材育成
また、地域産業振興のためには市場拡大と同時に、開発を担う人材の育成が
必要である。島根大学ではRuby City MATSUEプロジェクトがスタートした直
後の2007年度からRuby、Ruby on Railsやオープンソースに関する講座を開設
し8、同様に松江高専・松江商業などの地元の教育機関においてもRuby、Ruby
on Railsの講義・授業が進められてきた。また島根県も2008年から毎年Ruby合
宿を続けている。
これらの講義などによってソフトウェア開発の
実践力を備えた人材が育成され、島根県のIT企業
でも活躍をし始めている。この人材育成の成果を
産学官が連携して地域のIT企業の技術者養成につ
なげていくために、島根大学では2015年度から「地
(知)の拠点整備事業」(COC事業)の一環として、
特別副専攻プログラム「Ruby・OSS履修プログラ
ム」を開設した。このプログラムは、実践的なプログラミングの学習と、これ
を活用するための経済・産業に関する学習やIT企業でのインターンシップなど
を通じて、実社会の場で活躍することができる高度なIT人材を育成することを
目的とするものである9。地域IT企業の市場(売上)が拡大し、またIT技術者の
不足が地域でも深刻となっている中で期待も大きい。
8 「島根大学のすごい講義とオープンソースの果てしない広がり」(日経 ITpro 記事)
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20080526/304047/?rt=nocnt 参照 9 地域における IT 高度人材育成の課題は、育成した人材の地元の IT 企業への定着である。
大学等の高度教育機関で育成した優秀なソフトウェア技術者の都会(特に東京)への流出
はどこの地方も抱える課題である。優秀な技術者の流出は、それ自体はその地域の技術レ
ベルの向上を意味するものであるので一概に否定することはできないが、地域の IT企業が
継続して売上と雇用を拡大していくためには優秀な人材の定着を併せて進めていく必要が
ある。
特別副専攻「Ruby・OSS 履修プログラム」
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参考資料「Ruby」による地域振興の取組(島根県松江市)(『平成 22 年版 情報通信白
書』より)
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h22/html/md112100.html
参考ビデオ Ruby City MATSUE Project のスタート(Ruby City MATSUE プロジェ
クト活動紹介ビデオ by YouTube)
https://www.youtube.com/watch?v=SyJGSfGQUiE
参考ビデオしまねオープン・ソース・ソフトウェア協議会(しまねオープン・ソー
ス・ソフトウェア協議会活動紹介ビデオ by YouTube)
https://www.youtube.com/watch?v=2yJ_ujpMVlg