第2章 単語の構造sils.shoin.ac.jp/~gunji/semprag/work/vol3-2.pdf第2章 単語の構造...

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Page 1: 第2章 単語の構造sils.shoin.ac.jp/~gunji/SemPrag/work/vol3-2.pdf第2章 単語の構造 前章で統語構造についての基本的な考え方について触れた.本章では,より

第2章

単語の構造

前章で統語構造についての基本的な考え方について触れた.本章では,より

具体的に,統語構造にはどのようなものがあり,また,どのようにして構造が

認定されるのかということを考えていきたい.本章を「単語の構造」としたの

は,単語にも「統語構造」があるからである.統「語」という日本語を単語内

部の構造に適用することは奇妙に響くかもしれないが,後に見るように,英語

で言うところの syntax は,「単語」に限らず,句や節の並べ方をも問題にする

ので,単語より小さい,単語を構成するものの並べ方を問題にしても差し支え

ないだろう.

2. 1 形態素形態素 (morpheme) というのは,言語記号†の最小の単位である.時間に沿っ

て分割していけば,個々の音声が最小の単位で,それは音韻論で言うところの

音素に対応した大きさになるが(音素の正確な定義については第 2巻『日本語

の音声』参照),個々の音声,あるいは音素には独自の意味はない.言語記号と

して成り立つためには音の他に意味がないといけないから,個々の音素がその

まま最小の言語記号になるわけではない.ただし,単独の音素が一つで意味を

なすこともある.例えば,/i/ という音素は次のようなさまざまな漢字で書く

ことができ,これらはそれぞれに独自の意味をもっている.

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36 2 単語の構造

(1) 井,異,位,意,偉,医,遺,違,衣,亥,萎,胃,緯,移,畏,慰,

尉,威,委,伊,以,猪,居

また,これらの中で,少なくとも次のようなものは,熟語の一部としてばかり

でなく,単独の単語としても使われている.

(2) a. 「井」(井の中の蛙大海を知らず)

b. 「異」(縁は異なもの味なもの)

c. 「意」(意に介さず)

d. 「医」(医は仁術)

e. 「亥」(亥の刻)

f. 「胃」(胃が痛む)

g. 「威」(虎の威を借る狐)

しかし,このような例は,日本語では母音に限られる.音素の中には子音も

あり,日本語では子音が単独で使われることはないから,一般には単独の音素

が固有の意味をもつとは言えないことになる.

そこで,1つ以上の音素が並んで,固有の意味をもつ場合に限り,その並び

を,単なる音素の並びと区別して,形態素と呼ぶ.ただし,形態素というのは,

音素と同様に抽象的な概念である.使われる音素の列が微妙に異なるにもかか

わらず,それらを同じ形態素の異形態と見なすことがあるからである.例えば,

日本語の動詞・形容詞の過去をあらわす形態素には「た」と「だ」があるが,こ

れらは通常同じ形態素の異形態とされる.それは,音素の場合と同様に,「た」

と「だ」は相補的分布 (complementary distribution) をし,同じ環境にはどち

らか一方しか出てこないからである.

(3) 「た」と「だ」の相補的分布: 「だ」は五段活用の動詞のうち,語

幹が /g/,/n/,/m/,/b/ で終るものの後にしかつかない.「た」

はそれ以外の場合の動詞・形容詞の後にしかつかない.

日本語では /t/ と /d/ とは別々の音素になるので(例えば,「ただ」と「だだ」

は意味が異なる最小対である),「た」と「だ」を区別しなくてよいのは,音韻

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2. 1 形態素 37

的レベルではなく,形態的なレベルにおいてである.また,形態的なレベルで

あっても,「た」と「だ」の交替は過去の形態素に限られる.例えば,いわゆる

形容動詞の活用語尾の「だ」や名詞の後につくコピュラ† (copula) の「だ」に

は「た」という異形態はない.

音素の中に,単独で固有の意味をもち形態素となるものと,そうでないもの

とがあるのと同じように,形態素の中にも,単独で単語として用いることがで

きるものと,そうでないものとがある.例えば,/i/ という音をもつ形態素の中

でも,(2) にあげた,単独で用いることができるもの以外の,「位,偉,遺,違,

衣,萎,緯,移,畏,慰,尉,委,伊,以,猪,居」などは,まず,単独で使う

ことはない.しかし,例えば,「位」ならば,一定の意味(広辞苑によれば,「人・

事物のある場所」「くらい」「身分」「席次」「基準」「等級・順番・程度」などの

意味)をもち,それに基づいて「位置,地位,位階,即位・官位・上位・名人

位,単位,本位,首位・下位・第一位」などの,この形態素を含む単語ができ

ている.他の形態素についても同様である.一般に,単独で単語として用いる

ことが可能な形態素を自由形態素 (free morpheme),不可能な形態素を拘束形

態素 (bound morpheme)と呼ぶ.

拘束形態素の中で生産的に他の形態素と結びついて単語を作るものに,接辞

(affix)がある.特に,接頭辞 (prefix)と接尾辞 (suffix)は種類も豊富であり,さ

まざまな意味を自由形態素である基体 (base) につけ加える(理論的には,他

に,単語の中にあらわれる接中辞 (infix) もあり得るが,日本語にはおそらく存

在しない).例えば,否定ないし反対をあらわす接頭辞には,次のような形態

素が使われている.

(4) a. 「非」(非人道的,非文)

b. 「不」(不完全,不倫)

c. 「反」(反社会的,反抗)

d. 「無」(無関係,無用)

e. 「逆」(逆命題,逆行)

f. 「抗」(抗ヒスタミン剤,抗戦)

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38 2 単語の構造

g. 「未」(未完成,未刊)

h. 「没」(没交渉,没頭)

i. 「アンチ」(アンチヒーロー,アンチ巨人)

j. 「ノン」(ノンストップ,ノンポリ)

程度が強い・弱いことをあらわす接頭辞には次のようなものがある.

(5) a. 「大」(大人気,大盛)

b. 「小」(小心,小太り)

c. 「超」(超満員,超忙しい)

d. 「激」(激賛,激辛)

e. 「爆」(爆笑,爆睡)

f. 「極」(極上,極端)

g. 「真」(真部分集合,真新しい)

h. 「微」(微生物,微罪)

i. 「重」(重装備,重傷)

j. 「軽」(軽音楽,軽量)

k. 「満」(満水,満面)

l. 「巨」(巨匠,巨額)

m. 「ど」(どぎつい,ど迫力)

n. 「スーパー」(スーパーカー,スーパーモデル)

o. 「ウルトラ」(ウルトラ C,ウルトラマン)

接頭辞は,多くは,漢語か近来の西欧語起源のものである.もっとも漢字で

書かれていても,「おお」と読む「大」,「こ」と読む「小」,「ま」と読む「真」

などは和語(大和言葉)であり,「ど」もそうだろう.また和語には「さ」(さ

迷う),「か」(か弱い)のように特に意味のないもの,「こ」(小腹が空く—腹が

ちょっと空く)のように,直後の名詞でなく,後続の動詞を修飾するような特

殊なものもある.

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2. 1 形態素 39

日本語の接尾辞には,品詞を変えるものが多い.これは後述(2. 3節)のように,

日本語では単語の中で最後の形態素がその単語全体の性質を決めるのが普通なた

め,接尾辞によって,単語の性質が大きく変わってしまうことが多いからである.

なお,接尾辞などによって品詞が変わるような形態的変化を派生 (derivation),

同じ品詞の中で別の語形になるような形態的変化を屈折 (inflection) と区別す

ることがある.日本語の派生の接尾辞には次のようなものがある.

(6) a. 名詞を動詞にするもの:「-めく」(春めく)「-じみる」(所帯じみ

る)「-ばむ」(汗ばむ)「-ぐむ」(涙ぐむ)など

b. 形容詞を動詞にするもの:「-がる」(悲しがる)「-すぎる」(高す

ぎる)「-める」(広める)など

c. 形容詞を名詞にするもの: 「-さ」(白さ,静かさ)「-み」(深み,

暖かみ)など

これらの中には,「-さ」のように生産的にほとんどの形容詞について名詞化す

るものもあれば,「-み」のように,一部の限られた形容詞としか結びつかない

ものもある.さらに例をあげると次のようなものがある(「イ形容詞」というの

は,名詞を修飾する形が「-い」となるもので,学校文法で「形容詞」と呼ば

れているもの,「ナ形容詞」というのは,名詞を修飾する形が「-な」となるも

ので,学校文法で「形容動詞」と呼ばれているものである),

(7) a. イ形容詞を名詞にする「-さ」:

愛らしさ,暖かさ,新しさ,暑さ,甘さ,痛さ,大きさ,多さ,悲

しさ,から

辛さ,厳しさ,黒さ,寒さ,白さ,少なさ,楽しさ,小ささ,

近さ,つら

辛さ,強さ,遠さ,無さ,深さ,古さ,難しさ,易しさ,優

しさ,良さ,弱さ

b. ナ形容詞を名詞にする「-さ」:

異常さ,うららかさ,おおらかさ,穏かさ,綺麗さ,元気さ,健康

さ,静かさ,正直さ,丈夫さ,親切さ,慎重さ,スマートさ,確か

さ,不愉快さ,便利さ,見事さ,勇敢さ,容易さ,立派さ,*感動

的さ(一般に *~的さ),*同じさ,*こんなさ,*邪魔さ

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40 2 単語の構造

c. イ形容詞を名詞にする「-み」:

暖かみ,甘味,痛み,悲しみ,から

辛味,黒み,白み,楽しみ,強味,

深み,古み,弱味,?新しみ,*暑み,*大きみ,*多み,*厳しみ,

*寒み,*少なみ,*小さみ,*近み,*つら

辛み,*遠み,*無み,*難し

み,*易しみ,*優しみ

d. イ形容詞をナ形容詞にする「-げ」:

新しげ,悲しげ,厳しげ,少なげ,楽しげ,難しげ,易しげ,優し

げ,?暖かげ,*暑げ,*甘げ,*痛げ,*大きげ,*多げ,*から

辛げ,*黒

げ,*寒げ,*白げ,*小さげ,*近げ,*つら

辛げ,*強げ,*遠げ,*無げ,

*深げ,*古げ,*良げ,*弱げ

e. イ形容詞をナ形容詞にする「-そう」:

暖かそう,新しそう,暑そう,甘そう,痛そう,大きそう,多そう,

悲しそう,から

辛そう,厳しそう,黒そう,寒そう,白そう,少なそう,

楽しそう,小さそう,近そう,つら

辛そう,強そう,遠そう,無さそう,

深そう,古そう,難しそう,易しそう,優しそう,良さそう,弱そう

(7c) のうち,「味」と漢字で書けるものは「甘味,辛味」のように,文字通り,

味をあらわすものもあり,この場合の「み」は「暖かみ」の「み」とは別の形

態素の可能性がある.ただし,「味」の「み」という読みは音読であり,和語の

形容詞につく要素としては不自然なので(「薄味,醤油味,ガーリック味」など

のよゆに「あじ」の意味では,通常,訓読みになる),漢字はあて字かもしれ

ない.いずれにせよ,(7a) と (7c) の分布の差が何に起因するものかは,よく

わかっていない.(7d) については,現代語ではイ形容詞の語幹に「し」を含む

ものに限られるようだが,「少なげ」のような例外もある.また,話し言葉では

「無さげ」「良さげ」という言い方が聞かれることもあるが,これは「無さそう」

「良さそう」からの類推だろう.「-そう」は「-げ」と異なり,生産的である.

すなわち,原則的にイ形容詞に例外なしにつくことができる.ただし,「無い,

良い」は「*無そう,*良そう」でなく,「さ」が間に入る.

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2. 2 単語の性質 41

日本語の学校文法で言うところの「自立語」と「付属語」の区別は,一見,自

由形態素と拘束形態素の区別に対応しているかのように見えるが,「付属語」に

分類される,助詞,助動詞は 1つの単語として分析する立場もあり,その場合

には,それ自体で単語となっているので,自由形態素ということになる.しか

し,日本語の単語に,このように,単独で用いることができないものを含める

と,形態素を自由なものと拘束されたものに分けることがそもそも意味をなさ

ないことになり,このような区別は,単語の境界が,西欧語のように,比較的

はっきりした言語に対して用いた方がより適切な意味をもつと言えるだろう.

2. 2 単語の性質さて,このような,さまざまな形態素が組み合わさって単語 (word) ができ

るわけだが,その組み合わせ方によって,一見同じように見える単語でも,そ

の内部構造が異なることがあり得る.そこで,次に単語の中の構造を考えるこ

とにしたい.

ただし,単語の中の構造を論じる前に,形態素を組み合わせた結果できるも

のは,どこまでが単語かという問題を考えておかないといけない.すなわち,単

語より大きな,句 (phrase),節 (clause) といった単位との境界をどこに設ける

かという問題である.日本語は西欧語のように分かち書きをしないので,どこ

からどこまでが単語かということは自明ではないからだ.

もっとも西欧語の場合にも,分かち書きの空白が常に単語の境界を示すわけ

ではない.よく引かれる例では,英語の kick the bucketという慣用句がある.

これは表面的には 3単語からなるが,意味的には,die(死ぬ)という一単語で

表現される内容をあらわす.さらにこの表現には,次に示すような,他の慣用

句と異なる性質がある.

一般に慣用句でも受身にしたり単語の一部を修飾したりすることは可能であ

る.その意味では,次の例の慣用句では,一般の,動詞+名詞句(目的語)と

いう構造と同じように振る舞う.

(8) a. We took advantage of every opportunity for improvement.

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42 2 単語の構造

(われわれは改善のためのあらゆる機会を利用した.)

b. Advantage is taken of every opportunity for improvement.

(改善のためのあらゆる機会が利用された.)

(Sag & Wasow 1999, p. 268)

しかし,kick the bucket は,他の 3単語からなる慣用句と異なり,受身文に

したり,bucket を形容詞で修飾すると慣用的な意味がなくなってしまう.この

ことは,一般の,動詞+名詞句(目的語)という構造とは異なることを示唆する.

(9) a. He kicked the bucket.

(彼は死んだ./ 彼はバケツを蹴った.)

b. The bucket was kicked by him.

(バケツは彼に蹴られた.)

c. He kicked the big bucket.

(彼は大きなバケツを蹴った.)

日本語の場合にも慣用句に関して同じような問題があるが,さらに事情はもっ

と複雑である.英語の慣用句の kick the bucket は,形の上では,誰が見ても

3単語からなるが,日本語の慣用句の,例えば「年貢を納める」は何単語から

なるだろうか.学校文法では,この表現を「年貢を」と「納める」という 2つ

の「文節」に分け,さらに,前者を「年貢」と「を」の 2単語に分けるために,

合計 3単語ということになるだろう.この場合,「納める」は 1単語である.し

かし,「納める」の「る」に関しては,動詞の終止形の語尾(したがって,「納め

る」という単語の一部)とせずに,現在時制の助動詞として別の単語とする考

え方もある.一方,「を」を格助詞とする代わりに,名詞「年貢」の接尾辞とす

る考え方もあり得るだろう.すると,最小で「年貢を」「納める」の 2単語,最

大で「年貢」「を」「納め」「る」の 4単語,その中間に,「年貢」「を」「納める」

と「年貢を」「納め」「る」の,3単語に分ける可能性があることになる.この

場合,いったいどのような基準によって単語の境目を設定しているのかをあら

かじめ明確にしておかない限り,単に数を数えることに意味はないのである.

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2. 2 単語の性質 43

ある形態素の並びを単語と認定するのは,単語という単位に,より小さい単

位の形態素,および,より大きい単位の句や節とは異なる特有の性質があると

考えられるからである.以下では,それをいくつかの主だった性質に分けて考

えていこう.

単一の形態素からなる単語であれ,複数の形態素からなる複合語であれ,単

語一般に関する制限として,Postal (1969) によって,「照応の島」(anaphoric

island) と呼ばれている制約がある.まず,単一の形態素からなる単語に関して

見ておくと,Postal は次のような例をあげている.

(10) The grolf wanted to visit Max.

ここで,grolf というのは,「~の伝記の作者」という意味の架空の単語である

が,実際には英語にはこのような単語は存在しない.それは,たまたま存在し

ないのでなく,そもそも不可能な単語であるというのが Postal の主張である.

このような単語がもし存在すれば,上のような文が使えて,「その人の伝記の作

者がマックスを訪ねたいと思った(= マックスの伝記の作者が彼を訪ねたいと

思った)」という意味をもつはずである.しかし,このように,意味的に代名

詞に相当するようなものを含むような単語は存在しないし,おそらく原理的に

存在し得ないだろう.これは,「内向きの照応の島」(inbound anaphoric island)

と呼ばれる.一つの単語内に照応関係を担うようなものは存在し得ないという

ことである.

逆の「外向きの照応の島」(outbound anaphoric island) と呼ばれるものも

ある.

(11) a. Max’s parentsi,j are dead and he deeply misses themi,j .

(マックスの両親i,jは亡くなっていて,彼は彼らi,jをとても恋しく

思っている.)

b. *Max is an orphan and he deeply misses them.

(*マックスは孤児で,彼らをとても恋しく思っている.)

これは,ophan(孤児)という単一形態素の単語は,いくら意味的に「両親を

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44 2 単語の構造

'

&

$

%

可能な単語と不可能な単語

本章では,後の統語的な議論の場合と同様に 「*」を単語の前につけることがあるが,これは,* がついた文を非文と呼ぶのになぞらえて,「非単語」と呼んでもよいであろう.ただし,ここで* がつくのは,そもそも存在することができない,不可能な単語ということであって,たまたま存在しない単語とは区別しなくてはならない.本節の例の「白」を「黒」に変えてみると,「黒雪」と「黒い雪」という 2つの表現になる.前者は日本語には存在しないが,これはたまたま雪は白いという事実があったために,そのような単語が作られなかったという事情を反映しているにすぎず,「黒雪」が不可能な単語であるということではない.つまり,ある単語が存在するかしないかは,その単語を使う言語集団がその単語を必要とするかどうかに依存し,必要になれば常に新しい単語が作られ(そしてしばらくすると死語になっ)ていくのである.その意味で,単語は言語集団による暗黙の登録という過程を経る必要があると言えるだろう.これがさらに半公式的になると,『広辞苑』のような大規模な辞書に載るかどうかという基準も立てられるだろうが,大きな辞書の改訂は数年か十数年に一度しかおこなわれず,新しい単語の作成・使用にはとうてい追いつかないので,辞書のみを拠り所にするのは問題がある.一方,句や節,文の場合には,このような登録は必要ないし,不可能である.

可能な句や文の数は無限になるので,登録という概念自体が成り立たないからである.実際,「黒い雪」という表現も,煤で汚れた雪の描写には使われることがあるだろう.

亡くした子ども」に等価であっても,その一部分の「両親」を外から代名詞で

参照することはできないということである.

以下では,この両方向の制約も含めて,複数の形態素からなる単語の性質を

考えていこう.

(a) 内部の緊密性一連の形態素の並びが単語であるからには,それらが 1つの単語としてのま

とまりを示す必要がある.以下では,基本的に「白雪」と「白い雪」とを例に

とって,これらがどのように違ってふるまうかを考えてみよう.前者は 1語で

あり,後者は,「い」を形容詞型の活用をする単語につく現在時制の助動詞とす

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2. 2 単語の性質 45

ると,3単語からなる句ということになる.「白雪」は,「白い雪」と異なり,次

のような性質をもつ.これらはいずれも,単語が内部の緊密性という性質をも

つことを示している.

(12) a. 内部への挿入の不可

b. 音韻的緊密性

c. 意味の不透明性

d. 照応表現の存在の不可

e. 内部的形態変化の不可

(12a) の内部への挿入の不可は,「白雪」の「白」と「雪」の間に他の形態素

を入れることができないということである.「白い雪」の場合には,「白い冷たい

雪」というように,間に「冷たい」という他の修飾語を入れることができるが,

「*白冷たい雪」や「*白冷雪」のような言い方はできない.これは,「白い雪」と

いう句においては,単語どうしをその都度組み合わせてより大きな構造を作る

のに対して,「白雪」という単語においては,いったん単語ができると,その構

造が固定される傾向が強いことを意味する.(ただし,語形成が再帰的に起こっ

て,次々と大きな単語ができることもある.2. 3節参照.)

(12b) の音韻的緊密性は,複数の形態素が 1語となると,音韻的な変化がお

き,その単語特有の音韻パターンを示すことがあるということである.まず,単

独ならば,「しろ

白」と発音される形態素が,「白雪」という単語では,「しら

白」という形

になっている.このように複合語で母音が変化することはしばしばあり,単独

では「あめ

雨」と発音される単語も複合語の中では「あま

雨」という音をもつ異形態が

ある(「雨傘,雨宿り,雨靴,雨合羽」など).また,「雪」は単独では,「ゆき」

というように「き」が高くなるアクセントをもつが,「白雪」では「しらゆき」

のようになり,「ら」が高くなった後,「ゆき」の部分では低くなる.つまり,単

語全体のアクセントは「ら」にあり,「ゆき」がもともともっていたアクセント

は失われるのである.このようなことは句の場合には起こらず,「白い雪」での

「雪」は「ゆき」というアクセントを保っている.

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46 2 単語の構造

(12c) の意味の不透明性は,「白い雪」の意味は「白い」の意味と「雪」の意

味から,それらを組み合わせて計算できる(意味論における構成性 (composi-

tionality))のに対して,「白雪」の意味は必ずしも「白」の意味と「雪」の意味

を知っていてもわかるとは限らないということである.実際,「白雪」は,現代

語では雪の意味で使うことはまずない.確かに,万葉集などには雪の美称とし

ての使用例が見られる(巻 8: 1654「松蔭の浅茅の上の白雪を消たずて置かむ

由はかもなき(ことはかもなき)」など 7例).しかし,これは古い用法であり,

現代語の用法ではない.むしろ,「白雪」と書いて「白い雪」の意味になるのは

「はくせつ

白雪」と発音した場合だろう.また,現代語には,追加の意味として,日本酒

の銘柄,サトザクラ系の花の名前,「白雪姫」のような人の名前などの用法があ

る.このような,「白」と「雪」からは予測されない不透明な意味は「白い雪」

にはなく,「白い雪」は,酒の銘柄にも,花の名前にも,姫の呼称にもならない

(興味深いことに,英語では「白い雪」は white snow だが,「白雪姫」は Snow

White と逆順になる).もっとも,先に見たように,このような意味的な不透

明性は,句であっても慣用句には見られるので,必ずしも単語と句を決定的に

区別する基準ではない.

(12d) の照応表現の存在の不可は,Postal (1969)の「内向きの照応の島」で

ある.句であれば,その一部の単語を照応表現で置き換えることが可能である

が,単語の場合にはその一部の形態素を照応表現で置き換えることは不可能で

ある.

複合語の「内向き照応の島」に関しては,Postal は次のような文が存在しな

いことを例にあげて,代名詞に相当する形態素を含むような複合語が存在しな

いことを指摘している.

(13) a. *McCarthyi was glad that himi ites were in the majority in the

room.

(*マッカーシーiは彼i信奉者たちがその部屋の大部分を占めてい

ることを喜んだ.)

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2. 2 単語の性質 47

b. *When he poked her in the legsi,j the long-themi,j ed girl started

to scream.

(*彼が彼女の足i,jをつついたら,それi,j長の少女は叫び出した.)

英語の -ite という形態素は「~信奉者」の意味をもち,McCarthy のような固

有名からも,(後に (19)の「外向きの照応の島」でも見るように)McCarthyite

(マッカーシー信奉者)のように新しく作ることができるが,文中の他の単語を

先行詞にとるような代名詞 him と組み合わせて作ることはできない.日本語の

「信奉者」という形態素も同様である.「彼の信奉者」という句は作れるが「彼

信奉者」という単語は作れない.また,-legged は,long-legged(足長の)や

four-legged(四つ足の)という形容詞を作ることができるが,文中の legs を受

けて,long-themed ということはできない.日本語にも「それ長の」とか「四

つそれの」という言い方はない.

「白雪」と「白い雪」の場合には,次のような違いがある.

(14) a. 雪が降ってきた.白いそれは故郷で待つ人を思い出させた.

b. 雪が降ってきた.*白それは故郷で待つ人を思い出させた.

前者では,前文に出てきた「雪」を「それ」で指して,「白い雪」の代わりに「白

いそれ」と言うことができるが,後者では,前文の「雪」を「それ」で代用し

て,「白雪」の代わりに「白それ」と言うことはできない.

「白雪」の代わりに「白それ」と言えないのと並行して,次のような対比も

ある.

(15) a. 白い雪は美しい.赤いそれもきっと美しいだろう.

b. 白雪は美しい.*赤それもきっと美しいだろう.

さらに複合語が名詞どうしの場合にもその一つを照応表現で置き換えること

はできない.

(16) a. 英語の教師とそれの教室 (cf. 英語の教師と英語の教室)

b. *英語教師とそれ教室 (cf. 英語教師と英語教室)

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48 2 単語の構造

'

&

$

%

「だす」の 2つの用法

動詞の連用形について複合動詞を作る「だす」という表現には,意味的に異なる 2 つの用法があることが知られている.一つは,物理的な外への移動で,「出す」の本来の意味に即している.例えば,「押しだす」は押して外へ出すことであり,「流れだす」は流れて外へ出ることである.一方,時間的にあることが始まるという用法もある.例えば,「罵りだす」は罵って外へ出すことではなく,罵り始めることであり,「泣きだす」は泣いて外へ出ることではなく,泣き始めることである.この 2つの用法のうち,物理的な移動の意味の複合動詞のみがもつ性質に(12d) の照応表現の存在の不可がある.次の例を見られたい.

(i) a. 栃東が千代大海を押しだした.魁皇もそうしだしたb. 副議長が議長を罵りだした.他の議員もそうしだした.

前者においては,「魁皇も(千代大海を)押しだした」という意味にはならず,「魁皇も押しだし始めた」という意味にしかならない.一方,後者では,「他の議員も(議長を)罵りだした」という意味になる(影山 1993, 第 3章 参照).他にも,この「だす」の 2つの用法にはさまざまな違いがある.より詳しくは,

今泉 (2000), 今泉 · 郡司 (2002)を参照されたい.

ここでは,「英語の教師」という句の中の「英語」という語を「それ」で置き換

えることはできるが,「英語教師」という語の中の「英語」という形態素を「そ

れ」で置き換えることはできないことが示されている.

(17) a. 日本の政府とそこの首相

b. *日本政府とそこ首相

ここでも,「日本の政府」という句の中の「日本」という単語は「そこ」で置き

換えることができるが,「日本政府」という単語の中の「日本」という形態素は

「そこ」で置き換えることはできない.

(12e) の内部的形態変化の不可は「白い雪」ならば,「白かった雪」や「白く

ない雪」というように,「白い」が形態的に変化することが可能だが,「白雪」の

場合にはそのようなことはないということである.「白」では変化のしようがな

いかもしれないが,動詞の活用語尾が残っているような,「書き初

ぞめ」に対して

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2. 2 単語の性質 49

「*書いた初め」「*書かせ初め」「*書かな初め」のような言い方はない.「泣き虫」

に対して「*泣いた虫」「*泣かせ虫」「*泣かず虫」がないのも同様である.

(b) 外部からの孤立このように内部的に緊密なまとまりをもつ単語は,外部に対して単一の要素

としてふるまう.その意味では,外部からの孤立という性質を示し,外部から

内部構造を見えなくするような効果がある.特に,次のような点が顕著な性質

である.

(18) a. 内部への修飾の不可

b. 内部へ言及する照応表現の不可

c. 内部からの「取り出し」の不可

d. 内部の等位接続の不可

(18a) の内部への修飾の不可は,単語の一部のみを外から修飾することはで

きないということである.「白い雪」ならば「白い」の部分を強めて「真白い雪」

と言うことができる.これは「真白い」という表現を「雪」とは独立に作るこ

とができ,できた「真白い」をさらに「雪」と組み合わせることができるから

である.一方,「白雪」の「白」だけを「真」で修飾して「*真白雪」と言うこ

とはできない.「真白」という表現自体は存在するが,「白」が「雪」と結びつい

て単語になるからといって,「真白」が「雪」と結びついて単語になるとは限ら

ないのである.「とても」のような副詞による修飾でも同じことで「とても白い

雪」とは言えるが「とても白雪」とは言えない.修飾語は「白雪」全体を修飾

するものしか許されず,これは名詞なので,「淡い」のような形容詞的なものに

限られることになる(「淡い白雪」).「白い雪」自体も全体として名詞句なので,

「淡い」のような語による修飾を受けることができるのはもちろんである(「淡

い白い雪」).

同様に,「英語教師」に「面白い」がついた場合には,それが「英語」のみを

修飾することはできないので,「面白い英語教師」は「面白い英語」を教える教

師ではなく,英語教師が面白いという意味しかない.「面白い英語の教師」の場

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50 2 単語の構造

合には,曖昧性があり,「面白い英語教師」と同じ解釈の他に「面白い英語」を

教える(面白くないかもしれない)「教師」という解釈もある.

(18b) の内部へ言及する照応表現の不可は,Postal (1969)の「外向きの照応

の島」で,次のような対比があげられている.

(19) a. Followers of McCarthyi are now puzzled by hisi intentions.

(マッカーシーiの支持者たちは今や彼iの意図に困惑している.)

b. *McCarhyi ites are now puzzled by hisi intentions.

(?マッカーシーi信奉者たちは今や彼iの意図に困惑している.)

「白雪」と「白い雪」に関して言えば,「白い雪」ならばその「雪」の部分の

みを「それ」などの表現で指すことができるが,「白雪」の「雪」の部分のみを

「それ」などで指すことができないということである.次の文を比べてみよう.

(20) a. 白い雪は冬に似合う.もっともそれがピンクでも私は構わない.

b. 白雪は冬に似合う.?もっともそれがピンクでも私は構わない.

(20a) の「それ」は「白い雪」全体でなく「雪」のみを指すことができ,むし

ろそう考える方が自然だろう.一方,(20b) の「それ」は「白雪」全体を指す

ことしかできないので,「白雪がピンクでも構わない」という,意味不明の文に

なってしまっている.同じことは次の文の対でも観察される.

(21) a. 雪が解ける季節が来て,∅ 川となった.b. ?雪解けの季節が来て,∅ 川となった.

(21a) では,後半の「川となった」のは「雪」であり,前半の主語の中の関係節

「雪が解ける」の中の「雪」が,後半の文の主語(ゼロ代名詞†となっている)の

先行詞となることが可能だが,(21b) では,「雪解け」という語の中の「雪」の

みを取り出せないので,後半の「川となった」の主語が何だかわからない文と

なっている.

ただし,日本語の例文で (20b) や (21b) を完全に非文としなかったのは,「白

雪」も「雪」であるので,(20b) の「それ」を「雪」ととることも,推論から可

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2. 2 単語の性質 51

能であるし,(21b) でも,何が川になるかという自然界の知識があれば,文意は

とれるので,統語論の外で解釈できる可能性があるからである.Postal の「外

向きの照応の島」の提案に対しても,Ward, Sproat, & McKoon (1991)などは,

これは統語的な制約でなく,談話的な制約であるという立場をとっている.

実際,(19b) の日本語訳はさほど悪くない.これは,日本語の「彼」が必ずし

も照応表現とは言えないという事情が関係しているかもしれない (Hoji (1991)

参照).そこで,もっと代名詞的にふるまうことが知られている,「そ」系列の指

示詞を用いた次のような例に変えてみよう.

(22) a. 学歴i信奉者たちも今やそれiが意外に役に立たないことを悟った.

b. 会社i運営の秘訣はそこiの従業員を味方につけることだ.

これもさほど悪くない.やはり談話的に推論が可能であるからかもしれない.

同様に,先の「内向きの照応の島」に対応した「外向き」の例をあげれば,次

のようなものがある.

(23) a. 英語の教師とそれのための教室 (=(16a)

b. ?英語教師とそれのための教室

(24) a. 日本の政府とそこの首相 (=(17a))

b. ?日本政府とそこの首相

(23b),(24b) のいずれも,何とか意味はとれるが,句を用いた,(23a),(24a)

に比べて容認度は落ちる.もっとも,これらも,談話的な推論が可能であれば,

何とか意味がとれそうではある.

影山 (1993, p. 253)は,次のような対比をあげて,外向きの照応は,名詞が

一般的な意味をあらわす場合には容認されるとしている(文の容認性の判断は

影山 (1993)による).

(25) a. 友達はみんなカラオケ狂いですが,ボクは ∅ 苦手です.b. ?*少年が凧挙げをしていたけれど,風が強くて ∅ 落ちてしまった.

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52 2 単語の構造

(25a) の ∅(ゼロ代名詞)が「カラオケ狂い」の中の「カラオケ」を意味することができるのは,「苦手です」の目的語は一般的概念であり,したがって,「カ

ラオケ」もカラオケの一般概念を指すからである.一方,(25b) の ∅ が「凧挙げ」の中の「凧」を意味することができないのは,「落ちてしまった」の主語は

特定の凧を指すことになるからだという.確かに,(25b) の方が (25a) よりも

やや悪いと思えるかもしれない.ただし,(25b) でも,その少年が遊んでいた

凧を「落ちてしまった」の主語としてとることは完全に不可能ではないようで,

談話的な推論特有の不確定性が伴う.

(18c) の内部からの「取り出し」の不可は,句の場合には,主題化文や疑問

文などにおいて,その一部の単語を文中の別の位置に置いたり,代名詞に変え

ることは可能だが,単語の場合には,そのようなことは不可能であるというこ

とである.Bresnan & Mchombo (1995, p. 187)では次のような英語の例をあ

げている.

(26) a. They’ve been [American history] teachers for years. →(彼らは長年 [アメリカ史]教師だった.)

b. *American history, which they’ve been teachers for years, . . .

(*彼らが長年 教師であったアメリカ史は,· · ·)c. *American history, which they’ve been it teachers for years, . . .

(*彼らが長年それ教師であったアメリカ史は,· · ·)

この場合,American history teachers は,英語では 1語のように振る舞う.

次の,teachers of American history という句の場合と比較されたい.

(27) a. They’ve been teachers of [American history] for years. →(彼らは長年 [アメリカ史]の教師だった.)

b. American history, which they’ve been teachers of for years, . . .

(彼らが長年その教師であったアメリカ史は,· · ·)

日本語のわれわれの例でも同じような対比がある.日本語では句の「白い雪」

からでも「白い」や「雪」を別の位置に置くことは難しいので,位置的な分布

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2. 2 単語の性質 53

で句と単語の区別はできないが,疑問詞の使用において違いを見ることができ

る.すなわち,句の一部を疑問の焦点にすることはできるが,単語の一部を疑

問の焦点にすることはできない.若干苦しいが,(28a) は,(28b) のように,「何

色の」と「雪」を離した言い方も可能だろう.一方,「君は」が間に入らなくて

も,(28c) のような,「何色雪」という表現は不可能である.

(28) a. 何色の雪が好きですか?

b. ?何色の君は雪が好きですか?

c. *何色雪が好きですか?

d. *何色君は雪が好きですか?

もっとも,これはさほど強い制約ではなく,「5人乗り」のような語の場合に

は「何人乗り」というような疑問形がある.「何円以上」「何冊未満」「何本限り」

のように,一般に類別詞 (classifier) と数や量の大小の表現を伴う場合には生産

的†に言えそうである.しかし,「英語教師」に対する「?何語教師」や「日本政

府」に対する「?何国政府」などは容認度が下がるだろう.

(18d) の内部の等位接続の不可も Bresnan & Mchombo (1995)が言及してい

る基準で,次のような英語の例があげられている.

(29) a. Mary outran and outswam Bill.

(メアリはビルよりもよく走り,よく泳いだ.)

b. *Mary outran and -swam Bill.

「白い雪」と「白雪」では次のような対比になる.

(30) a. 白い,かつ細かい雪

b. *白,かつ細雪

これは,「白雪」と「細雪」のようなそれぞれ固有の意味をもつ対でなくても不

可能で,「英語の教師」と「英語教師」との対比でも,次のような違いがある.

(31) a. 英語およびフランス語の教師

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54 2 単語の構造

b. *英語およびフランス語教師

同じような違いとして,Bresnan & Mchombo (1995)では,Simpson (1991)

による次のような例をあげている(これらの例は,ギャッピング (gapping) と

呼ばれる).

(32) a. John outran Bill and Mary, Patrick.

(ジョンはビルよりも,メアリはパトリックよりも,よく走った.)

b. *John outran Bill and Mary -swam Patrick.

(33) a. John liked the play and Mary, the movie.

(ジョンは芝居を,メアリは映画を好んだ.)

b. *John liked the play, and Mary dis- it.

同様の日本語の例としては次のようなものがある(これらの例は右節点繰り上

げ (right-node raising) と呼ばれる).

(34) a. 健は英語の,奈緒美はフランス語の教師になった.

b. *健は英語,奈緒美はフランス語教師になった.

2. 3 再帰的構造以上見てきた単語は,「白雪」「英語教師」などのように 2つの形態素からな

るものが多かったが,もちろん,3つ以上の形態素からなる語もある.その場

合,それらの形態素がどのような形で結びついているのかということが問題に

なる.例えば,「アフリカ系アメリカ人英語教師」という表現があった場合,次

の 2 通りの可能性がある(「アフリカ系アメリカ人」をさらに分解すると可能

性が増えるが,繁雑になるので,ここではこの形態素は分解しない).

(35) a. 「アフリカ系アメリカ人」+「英語教師」

b. 「アフリカ系アメリカ人英語」+「教師」

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2. 3 再帰的構造 55

この場合,「英語教師」という単語も「アフリカ系アメリカ人英語」(African

American Vernacular English, AAVE) という単語も存在するために,どちら

の可能性も一概に否定できない.これが単に「アメリカ人英語教師」ならば,

「アメリカ人英語」という語はない(「アメリカ英語」と言う)ので,「アメリカ

人」+「英語教師」という結びつきしか考えられないだろう.

実際,(35) では両方とも可能な単語である.そして,それらの意味が異なる.

(35a) はアフリカ系アメリカ人の英語教師であり,その英語教師の人種的属性

がアフリカ系アメリカ人であるということを意味するが,(35b) では,その教

師の教える言語が「アフリカ系アメリカ人英語」という英語の一方言であると

いうことを意味し,その教師の人種的属性については何も語っていない(ちな

みに,(35a) の場合にも,その教師が教える英語がアフリカ系アメリカ人英語

であるとは限らない).このような違いは,これらの構造を図式的にあらわし

て,その中の位置から一定の性質が予測されるということにすると考えやすく

なる.まず,上の 2つを次のような構造であらわすことにしよう.いくつか等

価な表示のしかたがあるが,ここでは木構造を用いることにする.(木構造は,

第 1巻第 3章で句について導入し,本書の第 1章でも部分的に用いた.ここで

はそれを単語の内部構造にも適用することにする.)

(36) a.N

m

アフリカ系アメリカ人

m

m

英語

m

教師

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56 2 単語の構造

b.N

m

m

アフリカ系アメリカ人

m

英語

m

教師

ここで N という節点は名詞をあらわし,m という節点は形態素をあらわす.形

態素の種類を節点のラベルよって細かく区別することも可能だが,ここでは区

別しないでおく.

「英語教師」という単語は,単独で使われている場合には,「英語の教師」と

いう句で置き換えることができるが,(36a) の「英語教師」を「英語の教師」と

いう句で置き換えることはできない.(36b) の「アフリカ系アメリカ人英語」に

ついても同様に「アフリカ系アメリカ人の英語」という句で置き換えることは

できない.単独では「アフリカ系アメリカ人の英語」と言ってもほぼ同じ意味

だが,複合語の一部分となっている場合には句で置き換えることはできないの

である.

(37) a. *アフリカ系アメリカ人 [英語の教師]

*N

m

アフリカ系アメリカ人

NP

NP

英語の

N

教師

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2. 3 再帰的構造 57

b. *[アフリカ系アメリカ人の英語]教師

*N

NP

NP

アフリカ系アメリカ人の

N

英語

m

教師

同様に,先にあげた「面白い英語教師」という表現においては,「面白い英語」

というのは句だから単語の一部とはなれず,「英語教師」という単語を「面白い」

という単語が修飾している構造しかない.

(38) a.NP

A

面白い

N

m

英語

m

教師

b.*N

NP

A

面白い

N

英語

m

教師

これらはいずれも,前節 (18a) で述べた,外からの内部の修飾の不可の例だ

が,(37), (38b) の構造からわかるように,単語や句と形態素を直接結びつける

ことはできないのである.

しかし,なかには例外もある.

(39) a. 小さな親切運動

b. 先祖の墓参り

これらのうち,(39a) は標語として作られたもので,生産的でなく(「*大きな

顔見せ」「*長い指輪」などはない),まったくの例外とするしかないが,(39b)

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58 2 単語の構造

に関しては,影山 (1993, p. 332)が次のような長い例をあげており,生産的で

あることが示唆される.

(40) 敬愛していた名バイオリニストフランチーニの墓参りをし · · ·(新聞)

一方,影山 (1993, p. 334)には「墓参り」に関しては次のような表現が不可能

な例としてあげられている.

(41) *古い墓参り,*御影石の墓参り,*山奥にある墓参り

(39b),(40) と (41) とはどこが違うのだろうか.

影山 (1993, pp. 334–335)は,この違いを,「墓参り」の前にある単語と「墓」

との関係の違いによって説明する .非単語となる表現の「古い」「御影石の」

「山奥にある」はいずれも「墓」に対して付加的につく修飾語であるが,「先祖

の」「フランチーニの」は「墓」にとって必須の情報を提供するという意味で,

一種の項と考えられる.「墓」は名詞であるが,他動詞が目的語を要求するのと

同様に他の名詞を要求するのである.影山 (1993)で「分離不可能所有」と呼ば

れているこのような関係は多くの名詞に存在する.身体の部分や親族関係,身

分・役割などをあらわすものが典型的で,これらの名詞は単独で使っても意味

が確定せず,たいてい「~の」という形で項を必要とするのである(このよう

な名詞を関係名詞と呼ぶことがある).影山 (1993, p. 334)にあげられている

例から身体の一部分に関するものを拾うと,次のようなものがある.

(42) お父さんの肩たたき,相手のあげ足とり,料理の腕自慢,テープの頭

出し,先輩の尻拭い

さらに親族関係や身分・役割の例をつけ加えてみると次のようなものがある.

(43) 太郎の親代わり,息子の嫁探し,親会社の役員総辞職,新年会の幹事

代行

「息子の嫁探し」は息子が自分で嫁探しをする場合には「嫁探し」という名詞全

体を「息子の」が修飾しているにすぎないが,「息子の嫁」を親などが探してい

る場合にはここで問題にしているかかり方になる.

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2. 3 再帰的構造 59

この違いはどう考えるべきだろうか.(18a)の外からの内部の修飾の不可の

制約は多くの単語について成り立たないということなのだろうか.以下に影山

(1993)の説明を,かいつまんで,かつ,形式化を与えつつ述べてみよう.

まず,単語の中には,内部的に中心となる部分があるということを仮定する.

これは句の中に中心となる部分があるという考え方を単語の内部にも拡張した

ものである.この中心となる部分を主要部とか主辞 (head) と呼ぶ.日本語の

句の統語構造では中心となる部分は必ず右側にくることが知られている.そし

て単語の場合にも中心は右側である.先に,派生という形態的変化では,接尾

辞がついて品詞が変わることがあると述べたが,これは品詞は中心となる部分

によって決定され,接尾辞がその中心となっているからに他ならない.

「墓参り」の場合には右側の「参り」が中心となる部分で,木構造上で,mh

であらわすことにすると,「先祖の墓参り」は次のような構造になる.

(44)NP

NP

先祖の

N

m

mh

参り

以下では,話を具体的にするために,主辞駆動句構造文法 (HPSG) の項構

造素性 arg-st を用いて,各形態素の項構造を考えていこう(HPSG の素性構

造の概略については補遺 Aも参照).「参り」という名詞的形態素は動詞から派

生したものなので,「参る」という他動詞と同じ項構造をもつと考えられる.

(45)phon 参り

synsem

arg-st ⟨ NPi , NPj ⟩sem visit(i, j)

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60 2 単語の構造

phon は音韻情報をあらわす素性で,ここでは簡略化して,かな漢字表記で代

用してある.synsem は統語・意味情報をあらわす素性で,ここでは,項構造

をあらわす arg-st と意味をあらわす sem のみを問題にする.すなわち,「参

り」は 2つの名詞句の項 NPiと NPjをとる.ここで,i,j は,それぞれの名

詞句の意味素性に対応する指標であり,「参り」の意味素性 sem の中で用いられ

ている.「参る」は「NPiが NPjを参る」という形で文を作り,2つの項は主語

と目的語に対応するが,それと同様に,「参り」は「NPiによるNPjの参り」と

いう形で名詞句を作る.その意味は sem素性で与えられるが,概略,i(NPiの

意味素性の値)が j(NPjの意味素性の値)と visit(「訪問」に対応する論理的

述語)という関係をもつということである.厳密には,名詞の「参り」の意味

は動詞の「参る」の意味とまったく同じではなく,何らかの名詞化に対応する

意味論的な構成が必要だろうが,ここでは省略してある.

一方,「墓」は名詞であるが,誰の墓であるかという情報を担うものを項とし

てもつと考える.

(46)phon 墓

synsem

arg-st ⟨ NPl , NPk ⟩sem tomb-of(l, k)

ここでは,「墓」は「NPlがNPkの墓である」という形で句が作られ,項を 2個

とるとしている.その意味素性の値は,l が k の墓であるということをあらわ

している.

「墓参り」という名詞は,「NPiによるNPkの墓参り」という形で用いること

ができるので,項を 2個とると考える.したがって,項構造は次のようになる

だろう.

(47)phon 墓参り

synsem

arg-st ⟨ NPi , NPk ⟩sem visit(i, j)∧tomb-of(j, k)

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2. 3 再帰的構造 61

以上の 3つの項構造は,決して互いに独立に決定されるのではなく,(47) は

(45)と (46)から一定の合成規則に従って作られる.図式的には次のような関係

が成立する(ここでは表記を簡略化して,音韻表記の下に synsem素性の値の

素性構造を記述する).

(48) 先祖の墓参りarg-st ⟨ 1NPi ⟩sem visit(i, j) ∧ tomb-of(j, k)

3先祖の

[sem k]

墓参りarg-st ⟨ 1 , 3 ⟩sem visit(i, j) ∧ tomb-of(j, k)

2墓jarg-st ⟨ NPj , 3 ⟩sem tomb-of(j, k)

参りarg-st ⟨ 1 , 2 ⟩

sem visit(i, j)

すなわち,「墓参り」の項構造は,「墓」の項構造と「参り」の項構造から,項構

造の一部をそれぞれ受け継ぐ.具体的には,

(49) a. 「墓参り」と,中心となる「参り」との間で項構造の第 1項(参る

人)を共有する.

b. 「墓参り」と「墓」との間で,項構造の第 2項(誰の墓か)を共有

する.

c. 「墓」の第 1項の指標と「参り」の第 2項の指標は同一である.

d. 「墓参り」の意味論は「墓」の意味論と「参り」の意味論との連言

である.

という関係が成り立っている.影山 (1993, p. 106)に述べられているように,複

合語の項構造がどのようにして合成されるかということについては,さまざま

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62 2 単語の構造

なパターンがあるので,すべてが上のパターンに従うわけではないが,左側の

名詞的形態素が「墓」のような,それ自体の項をもつような場合には,上のよ

うなパターンに従うことが多いだろう.

練習問題 2. 1

1. 次の表現はそれぞれどのような意味になるかを考えなさい.

(a) 盲目のライオン飼育係(新聞の見出し) (b) イチローの親バカ

(c) アルミの鍋料理

2. 次の表現はそれぞれどのような意味になるかを考えなさい.上の対

応する表現と異なる意味になるとしたら,どのような理由でそうな

るのかを説明しなさい.(「チチロー」は野球選手イチローの父親のこ

とである.)

(a) オスライオン飼育係 (b) チチローバカ (c) 土鍋料理

2. 4 レベル順序づけ音韻論において,形態素・単語の境界のあるなしによって音韻規則の適用の

しかたが変わることが知られている.例えば,日本語で「ん」と表記される文

字は後続する音によって 3通りの発音があるが,語末にきたときには,さらに

そのどれでもない音(ðで表記される,口蓋垂音鼻音)になる.

(50) a. [n]: /s/, /t/, /n/, /R/ などの前.「印刷」[insatsu], 「引退」[intai],

「院内」[innai], 「印籠」[inRoo]

b. [m]: /m/, /b/, /p/ の前.「隠滅」[immetsu], 「淫靡」[imbi], 「隠

蔽」[impei]

c. [N]: /k/, /g/ の前.「引火」[iNka], 「因果」[iNga]

d. [ð]: 語末.「遺産」[isað], 「異端」[itað], 「移民」[imið], 「遺感」

[ikað]

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2. 4 レベル順序づけ 63

このような場合,語末に抽象的な語境界記号があり,あたかも音素のように振

る舞うとすると,日本語の「ん」に対応する一つの音素が後続の「音素」の環境

に応じてさまざまな異音をもつという形で統一的にとらえることができる.生

成音韻論の枠組では次のような形の規則を立てることになるだろう.(調音点を

示す素性は便宜的なものである.概略,[+labial] は唇を使う音,[+velar] は喉

の奥を使う音をあらわす.また,ここでは,便宜上「ん」に対応する音素を/n/

で表記する.口蓋垂音鼻音の [ð] とは別の記号である.「→ X/ Y」という表

記は,Y が後続するという環境で X になるということをあらわす.)

(51)

/n/ →

[m] / [+labial]

[N] / [+velar]

[ð] / #

[n] otherwise

このような形態素の境界をあらわす記号は 1種類とは限らないことが指摘さ

れている.例えば,英語の -((c)a)tion という名詞化接尾辞は前の形態素の中の

母音を短くする効果をもつが,動名詞を作る -ing は母音を変化させない.

(52) a. -tion: convention, implication, deduction, modification, など.

b. -ing: convening, implying, deducing, modifying, など.

実際,これはこの特定の 2つの接尾辞だけに見られる違いではなく,-tion と

同じように振る舞い,母音を短くするものには,他に -er(比較級), -al, -ic(al),

-ify, -ity, -ous などの接尾辞,con-, ex-, in- などの接頭辞があり,-ing と同じ

ように振る舞い,母音を短くしないものには,他に -er(~する人), -ed [d], -s

[z], -ful, -hood, -ness, -less, -ly などの接尾辞,non-, over-, un- などの接頭辞が

ある.また,それぞれのグループは,母音の長短だけでなく,次のような性質

を共通してもつ(cf. Anderson (1992), p. 242).

(53) a. -tion のグループ (-er(比較級), -al, -ic(al), -ify, -ity, -ous, con-,

ex-, in-)

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64 2 単語の構造

1. アクセント位置の移動:

例 compute + -ation → computation

cf. compute + -ing → computing

2. 有声無声の前方同化:

例 describe + -tion → description ([b]→ [p])

cf. describe + -ing → describing

3. 二重子音の一重化:

例 contend + -tion → contention ([dt]→ [t])

cf. contend + -ing → contending

b. -ing のグループ (-er(~する人), -ed [d], -s [z], -ful, -hood, -ness,

-less, -ly, non-, over-, un-)

1. 有声無声の後方同化:

例 walks ([z]→ [s])

cf. plays [-z]

2. 屈折の際の母音挿入:

例 wanted ([td]→ [tid])

3. 鼻音の後の [g] の脱落:

例 singer [sIN@](歌う人)

cf. longer [lONg@](比較級)

この違いをとらえるために,-tionのグループと -ingのグループとは,それぞ

れ,異なる境界記号で形態素に接続するという考え方が提案された (Chomsky

& Halle 1968; Siegel 1979).前者のグループの境界を+境界(形態素境界),後

者のグループの境界を#境界(単語境界)と呼ぶことにすると,(53a) のような

音韻変化は +境界で(Siegel の言うクラス Iの)形態素が接するときに起こり,

(53b) のような音韻変化は#境界で(Siegel のクラス IIの)形態素が接すると

きに起こる.すなわち,上であげた例は,基底の表示で次のような異なる境界

記号をもつとし,それぞれの音韻変化に関係する音韻規則はこれらの特定の境

界記号が存在するときにのみ適用されるとするのである.

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2. 4 レベル順序づけ 65

(54) a. convene+tion, imply+cation, deduce+tion, modify+cation, com-

pute+ation, describe+tion, contend+tion, long+er

b. convene#ing, imply#ing, deduce#ing, modify#ing, compute#ing,

describe#ing, contend#ing, walk#z, want#d, sing#er

さらに,クラス Iの接辞(+境界で接する接辞)はクラス IIの接辞(#境界

で接する接辞)よりも常に内側にあるとする,「接辞順序づけの一般化」(affix

ordering generalization)が提案された (Selkirk 1982).すなわち,intensiveness

(intense+ive#ness) のような単語は,[intense+ive]#ness と分析できるので可

能だが,*carelessity (care#less+ity) のような単語は,[care#less]+ity とする

と接辞順序づけの一般化に違反するので,care#[less+ity] と分析するしかなく,

不可能であることが一般に言える.

ここまでの考え方は,現象の一般的な記述には成功しているが,2つの問題

がある.ひとつは,音形をもたない,抽象的な存在を仮定することの合理性で

ある.特に,それらを 2種類区別する必要があることに関して経験的な根拠が

与えられるかを吟味しないといけない.もうひとつは,特定の音韻規則がなぜ

一方のクラスの境界と関連づけられるのかということに関しての説明がないと

いうことである.特に,接辞順序づけの一般化がなぜ成立するのか理由を与え

ることができない.

この現象に対して,レベル順序づけの仮説 (level ordering hypothesis) が提

案された (Allen 1978; Siegel 1979).これは,2種類の形態素は,異なる形態

的プロセスの起こるレベルに存在すると仮定して,これらの形態的プロセスと

音韻的プロセスが連動すると考えるものである.上に出てきた 2種類の接辞に

関して言えば,レベル Iでは,クラス I の接辞(+境界で接する接辞)がつき,

レベル IIでは,クラス IIの接辞(#境界で接する接辞)がつく.そしてその

間で,例えばアクセント位置の移動のような音韻的プロセスが起こる.例えば,

typically([type+ical]#ly) は次のようなプロセスで生成されると考える.

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66 2 単語の構造

(55) レベル I(クラス I の接辞の付加): type+ical

二重子音の一重化: typical ([taip-] → [tip-])

レベル II(クラス II の接辞の付加): typical#ly

こう考えると,実は 2種類の境界という人工的な区別を設けずとも,接辞順序

づけの一般化が出てくる.レベル I で付加されるクラス I の接辞は,レベル II

で付加されるクラス II の接辞よりもかならず前に付加されるので,構造的に内

側にくることになるのである.

Allen (1978)はさらにレベル III(複合語形成),レベル IV(屈折辞の付加)

を加え,拡大化レベル順序づけの仮説 (extended level ordering hypothesis) を

提案している.複数語尾のような屈折辞は複合語が形成された後につくので(例

えば,university students とは言えるが,*universitiesstudent(s) とは言わな

い),より高いレベルということになるのである.

このようなレベルの考えをさらに一般化すると Kiparsky (1982)の語彙音韻

論 (lexical phonology) となる.このモデルでは,それぞれのレベルに,そのレ

ベルで生成される形態素を対象とする音韻規則が付随し,レベル n の形態的プ

ロセスが起こるとその後にレベル n の音韻的プロセスが起こり,その結果がレ

ベル n+ 1 の形態的プロセスへの入力となり,これが繰り返される.

語彙音韻論およびそれによって説明される順序づけの仮説には反例があるこ

とが知られているが,それらは見かけ上のものにすぎないという議論もある.詳

しくは影山 (1997)を参照.

以上,「レベル順序づけの仮説」についてやや詳しく見てきたが,この仮説の

有効性そのことよりも,ここで確認しておきたいことは,形態論と音韻論の間

の関係を見直すことで,抽象的で,「見えない」2種類の形態素を設定する必要が

なくなったということである.理論的構成物の中には,決して「見えない」も

のを想定せざるを得ないこともある.これは,物理学のような自然科学の場合

でも同様である(例えば,すべての素粒子と場を生みだすという 10次元の「超

ひも」(superstring).あるいはそこまで抽象的でなくとも,実験によって間接

的に存在が確認されているクォークでも直接観測することはできない).その

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2. 5 辞書の構成 67

ような抽象的存在がなくても,合理的な説明ができるのならばそれに越したこ

とはない.音形のない形態素も,それを設定することで理論全体の構成が単純

化され,本質的な理解に貢献していると多くの研究者に認められる限りにおい

て「存在」する意義があるのであるが,本節で見たのは,そうではなく,その

ようなものを想定しなくとも,合理的な理論を作ることができるということで

あった.このような抽象的な存在を仮定することの是非は次章で統語構造を考

えるときにまた議論になる.

2. 5 辞書の構成単語の一覧を語彙 (lexicon) と言う.文法における語彙の機能は人間が使う

辞書 (dictionary) と同じと考えてよい.つまり,一定の音形がどのような文法

的情報をもつかということを列挙したものである.この場合の文法的情報には

統語的情報と意味的情報の両方が含まれる.

実際に語彙にどのような形式を与えるかの細部は理論によって異なるが,基

本的には個々の語彙項目の音形と文法情報を対にしたものの集合と考えてよい.

例えば,具体的には,個々の語彙項目 (lexical entry) に次のような情報を与え

たものの集合となる(補遺 A (??) 参照).

(56)phon 出版した

synsem

syn [ head verb ]

arg-st ⟨ NPi , NPj ⟩sem publish(i, j)

この際,よく似た単語をどのように無駄なく辞書に登録したらよいだろうか.上

の例では,「出版した」「出版する」「出版しない」などを別々に登録する必要が

あるのだろうか,もっと節約する方法があるのだろうか.

まず,はっきりさせておかなくてはいけないのは,どこまで細かい形態素に

分けて記述すべきかということである.「出版した」「出版する」「出版しない」

には明らかに「出版」という部分が共通しているから,この 3つを別々の独立

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68 2 単語の構造

した単語として辞書の項目として立てるよりは「出版」という 1つの項目を立

て,それとは別に「した」「する」「しない」を立てる方が効率的だろう.この

場合,3つの「単語」のために 4つの項目を立てることになるが,それらのう

ち「した」「する」「しない」の 2つは「出版」以外にも多くの動詞に使われる

ので,全体としての項目数は少なくなる.例えば,他に「報道」「見物」「逮捕」

「起訴」「反省」の 5つの単語に関した「~した」「~する」「~しない」の形を

考えると,合計 18の「単語」が存在することになるが,項目としては 9個で済

む.一般に,3× n 個の「単語」に 3 + n 個の項目で済むのである.

この考え方はさらに徹底させると,「した」と「しない」の「し」は共通して

いると考えられるので,「した」「しない」の 2つを独立の項目とするのでなく,

「し」「た」「ない」の 3つの項目を立てるべきだということになる.また,「た」

は過去時制をあらわす形態素なので,同様に「る」を非過去の時制をあらわす

形態素と考えると,「する」も「す」と「る」に分けられることになる.また,「な

い」には「なかった」という過去形があることから,「な」のみが否定に関する

形態素で「い」は「る」と同様の非過去の形態素であると考えることができる.

結局,「し」「た」「す」「る」「な」「い」の 6つの形態素のレベルまで分けるこ

とができる.もともとの 3つから 6つに数が増えてしまっているが,新たにと

り出した「た」「る/い」「な」は「し/す」以外の動詞・形容詞などにもついて,

過去,非過去,否定の形を作るので,全体の項目数の減少には貢献している.

このようにできるだけ細かい形態素に分けた上で語彙一覧を作ると,列挙す

べき語彙項目の総数は減ることになる.さらに,「し/す」のような,同じ動詞の

異形態(学校文法の用語では活用形)や「る/い」のような,同じ機能をもち相

補的分布をするものも,別々の項目とするのでなく,一つの項目にまとめてし

まった方が見通しはよくなる.このように,語彙の構成を形態素という抽象的

な単位でおこなうと,全体として見通しのよい辞書ができるのである.

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2. 5 辞書の構成 69

練習問題 2. 2

「し」と「す」が相補的分布をすることを例をあげて立証しなさい.また

「る」と「い」はどのような相補的分布をするかを述べなさい.

しかし,実際の辞書の構成は必ずしもこのような徹底した還元主義をとって

いるとは限らない.今の例で言えば,「出版した」「出版する」「出版しない」の

間の関係は,「出版」「し/す」「た」「る/い」「な」の 5 つの形態素の組み合わせ

から「計算」することができるが,それは,直観的には,必ずしもある単語と

その関連語の集合に対してもっているわれわれの実感とは合わない.直観的に

は「出版した」は「出版する」の過去形であろうし,「出版しない」は「出版す

る」の否定形であろう.また,本章で述べてきた「単語」のもつ性質から「出

版した」「出版する」「出版しない」がそれぞれ 1つの単語として振る舞うこと

は間違いない.語彙一覧が「単語」をリストアップしたものであるならば,リ

ストアップされるべきものは「出版」「し」「た」というような形態素の断片的

なものでなく「出版した」という「単語」であるべきだろう.

このような直観的な考え方は一方で辞書の項目数の増大という問題を引き起

こす.「出版した」を 1つの語彙項目としてしまうと,「出版する」も 1つの語彙

項目とせざるを得ず,したがって,「出版しない」も 1つの語彙項目ということ

になる.

この困難から抜けだす 1つの方法が語彙素 (lexeme) という考え方である.こ

れは,複数の互いに関連のある単語に共通する基本的な語彙項目の原型を設定

して,各々の単語をそこから一連の語彙規則によって導き出すという考え方で

ある.「出版した」「出版する」「出版しない」を例にとってみよう.これらに共

通する語彙素としては,時制をもたず,否定形でもない形,例えば「出版s」の

ようなものを考える(語彙素の音形をどのように与えるかは,後に述べる単語

の音形を導き出す語彙規則との関係で整合性があればよいので,ここでは仮に

「出版s」としておく).具体的に次の形で「出版s」の語彙素を与えておこう.

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70 2 単語の構造

(57)phon 出版 s

synsem

syn [ head verb ]

arg-st ⟨ NPi , NPj ⟩sem publish(i, j)

この語彙素から「出版した」という単語 (word) を得るには次のような語彙

規則(過去形語彙規則)を適用すればよい.

(58) 過去形語彙規則phon 1

synsem [ sem 2 ]

phon Feuph( 1 ,ta)

synsem [ sem Past 2 ]

ただし,ここで Feuph は,その 1番目の項として与えられる動詞語彙素の音形

から音便形を作り,それに第 2項を(場合によって冒頭の子音を有声化して)

つけるという形態的・音韻的操作をおこなう関数である.言葉で言うとかなり

複雑な操作に響くが,実際には,第 1項が母音で終る場合には単に第 2項をつ

けるだけ,第 1項が子音で終る場合には,その子音によってきまった形に変化

した後に ta か da をつけることになる.意味の方は,全体が過去であるという

ことを Past という演算子を前につけることであらわしてある.これも時制論

理としてどのような形式的体系を採用するかによって,様々なあらわし方があ

るだろう.

練習問題 2. 3

日本語の動詞の語幹「書k」「課s」「勝t」「死n」「噛m」「刈r」「嗅g」「飛b」

「見」「寝」などをもとに,Feuph がどういう関数かを具体的に与えなさい.

この語彙規則は「出版した」だけでなく,すべての動詞に適用される形になっ

ていることに注意されたい.そのため,各々の動詞はその語彙素の形が与えら

れれば過去形を一般的に作ることができる.

同様にして,「出版する」を作る現在形語彙規則は次のような形になるだろう.

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2. 5 辞書の構成 71

(59) 現在形語彙規則phon 1

synsem [ sem 2 ]

phon Fconcat( 1 ,ru)

synsem [ sem 2 ]

ここでは,Fconcat によって記述されている音形の部分は一般に単に ru をつけ

るだけだが,語彙素の音形が子音で終るときには ru の r が取り去られ,u の

みをつけることになる.意味の方は単純な論理式では,何の演算子もついてい

ないときには現時点で成り立つということに等価であるということから,一見

変化がない形になっている.これも,現在時制の扱い方が異なる理論形式では

別の表現法になるだろう.

最後に,否定形を作る語彙規則を見ておこう.

(60) 否定形語彙規則phon 1

synsem [ sem 2 ]

phon Fconcat2 ( 1 ,na)

synsem [ sem ¬ 2 ]

ここでは,音形に関しては,一般に na をつけることになるが,語彙素の音形

が子音で終るときには,na の前に a を挿入することになるので,Fconcat とは

別の Fconcat2 という関数にしてある.意味に関しては否定の演算子 ¬ が前につく.

このように,ある動詞の関連した形を,1つの語彙素から一般的な語彙規則に

よって導き出す方法は,あらかじめ列挙しておくべき基本的要素の数を限られた

語彙素に絞ることを可能にするため,語彙一覧の見通しがかなりよくなる.「出

版した」「出版する」「出版しない」の 3つの単語の場合には 1個の語彙素と 3

個の語彙規則が必要だが,3× n 個の単語に対して n個の語彙素と 3個の語彙

規則があればよいので,かなり効率はよくなる.

以上の 2通りの方法,形態素への還元主義的やり方と語彙素・語彙規則のや

り方は,効率に関してはほぼ同じ結果を与える.日本語のように,動詞の語幹

のうしろに,否定,アスペクト,時制の形態素がつくという形をとる言語の場

合には,音形を一気に変えることも可能にするような語彙規則のアプローチは

強力すぎるかもしれない.一方,英語のように動詞の過去形がまったく形の違っ

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72 2 単語の構造

たものになる場合(例えば,go の過去形が went になる)には,還元主義的に

「時制の形態素」を設定することが(かなりの抽象化をしない限り)むずかしい

ので,語彙規則のアプローチの方が向いているかもしれない.

読書案内[1] 影山太郎 (1993):『文法と語形成』. ひつじ書房.

日本語で読める総合的な形態論の専門書.入門書というには少し程度が

高いかもしれないが,興味深い日本語の現象に数多く言及しているので,

根気さえあれば,読み通すことができるだろう.

[2] 影山太郎・由本陽子 (1997): 『語形成と概念構造』, 研究社出版.

接辞付加,品詞転換,複合などの語形成一般についての知識を得るととも

に,それに伴う統語構造や意味構造の再構成を,Jackendoff などの提案

による,語彙概念構造 (lexical conceptual structure, LCS) によって形式

的に示している.日英語で対象としている現象も多く,日本語と英語の類

似点と相違も明らかにされている.

[3] 松本裕治・影山太郎・永田正明・齋藤洋典・徳永健伸 (1997):『単語と辞

書』.岩波講座「言語の科学」第 4巻.本書の第 1章は影山氏による形態

論の入門となっているが,他に,計算機による形態素処理,心的辞書,情

報処理の観点からの辞書という,形態論に関連する領域の解説もまとめて

紹介されている.

[4] 仁田義雄・村木新次郎・柴谷方良・矢澤真人 (2000),『文の骨格』, 岩波書

店.

『日本語の文法』シリーズの第 1巻だが,内容は,単語と単語の類別,格,

態 (voice) など,語形成,形態論に関係の深い記述が収められている.記

述的一般化として,日本語の基礎的な性質を押さえておくのによい.

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2. 5 辞書の構成 73

演習問題2. 1 形容詞の語幹につく接尾辞の「さ」はかなり自由にさまざまな形容詞につ

くが,「み」はつき得る単語が限られている.「青い」のように両方の接尾

辞がつき得る単語の場合,それら(「青さ」と「青み」)の間に意味の違

いがあるだろうか.できるだけ多くの例を集めて考えなさい.

2. 2 「非友好的」のような接頭辞と接尾辞をもつ単語は,内部構造が曖昧であ

る可能性があるが,「非友好的」の場合には,「非友好」という言葉がない

から,「非友好」に「的」がついたものではなく,「友好的」に「非」がつ

いたものと考えられる.では,次の単語はそれぞれどのような内部構造を

もつと考えられるか.

「反社会的」「反粒子的」「非常識人」「超能力者」「超初心者」「多文化論」

2. 3 「小さな親切運動」のように,音韻的な区切りと意味的な区切りが例外的

にずれている標語,題名,広告のコピーなどを集めなさい.それらの間に

共通性が見られるだろうか.

2. 4 日本語では「白」「黒」「青」「赤」は色彩基本語と言われる.これらの語

が他の色彩語(「緑」「黄色」「茶色」「ピンク」など)と異なる性質をもつ

ことを論じなさい.

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