科学史1:ルネサンス期の科学 魔術的自然観と機械論的自然...

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科学史1:ルネサンス期の科学 魔術的自然観と機械論的自然観 早稲田大学 424金曜5担当:隠岐さや香 今日の授業内容 ・天動説から地動説への転換:コペルニクスとケプラー ・ルネサンスと魔術的自然観とガリレオの「新科学」(魔術的世界観への反論) 1.15 世紀までに起きたこと 古代ローマ:ギリシア科学継承 しかし停滞 →技術や医術の重視、コンクリートの発明、巨大建築物、水道橋、上水道設備など アラブ世界による古代ギリシア科学の継承 ユークリッド『原論』の幾何学 プトレマイオス『アルマゲスト』の天動説 中国の技術の継承 アラビア数字・筆算の使用、医学・薬学、化学(錬金術も含む) 羅針盤、火薬(起源は中国) 2.西洋ルネッサンスの背景 アラブ世界から古代の科学・アラビア科学を継承(12 世紀~) ヨーロッパ世界独自の技術的発展:機械時計(14 世紀?)、活版印刷術(15 世紀) 3.コペルニクスと地動説 ニコラウス・コペルニクス(Nicolaus Copernicus, 1473-1543) 職業:教会参事会員 地動説 30年近く草稿のまま…著作『天球回転論』(1543) 特徴:惑星の軌道は完全な円とする・太陽の賛美・恒星球が維持 れた限定空間 プトレマイオスの周転円、離心円の保持 影響力:限定的 神学者オシアンダー による無署名の序文: 「仮説である」「計算の道具」「実際に地球が動き太陽が宇宙の中心に制止していること を主張するものではない」と弁明 何故か? 4.ケプラーの地動説 ティコ・ブラーエ(Tycho Brahe, 1546-1601, スウェーデン出身)

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科学史1:ルネサンス期の科学 魔術的自然観と機械論的自然観

早稲田大学 4月24日 金曜5限 担当:隠岐さや香

今日の授業内容 ・天動説から地動説への転換:コペルニクスとケプラー ・ルネサンスと魔術的自然観とガリレオの「新科学」(魔術的世界観への反論) 1.15 世紀までに起きたこと 古代ローマ:ギリシア科学継承 しかし停滞 →技術や医術の重視、コンクリートの発明、巨大建築物、水道橋、上水道設備など アラブ世界による古代ギリシア科学の継承 ユークリッド『原論』の幾何学 プトレマイオス『アルマゲスト』の天動説 中国の技術の継承 アラビア数字・筆算の使用、医学・薬学、化学(錬金術も含む) 羅針盤、火薬(起源は中国) 2.西洋ルネッサンスの背景 アラブ世界から古代の科学・アラビア科学を継承(12 世紀~) ヨーロッパ世界独自の技術的発展:機械時計(14 世紀?)、活版印刷術(15 世紀) 3.コペルニクスと地動説 ニコラウス・コペルニクス(Nicolaus Copernicus, 1473-1543) 職業:教会参事会員 地動説 30 年近く草稿のまま…著作『天球回転論』(1543) 特徴:惑星の軌道は完全な円とする・太陽の賛美・恒星球が維持 された限定空間 プトレマイオスの周転円、離心円の保持 影響力:限定的 神学者オシアンダー による無署名の序文: 「仮説である」「計算の道具」「実際に地球が動き太陽が宇宙の中心に制止していることを主張するものではない」と弁明 何故か? 4.ケプラーの地動説 ティコ・ブラーエ(Tycho Brahe, 1546-1601, スウェーデン出身)

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デンマーク人 プラハの神聖ローマ皇帝ルドルフ二世の宮廷付き天文学者 肉眼で精密な観測 天動説支持 ヨハネス・ケプラー(Johannes Kepler, 1571-1630, 独出身): 占星術で 生計を立てる ティコの助手 地動説支持→『新天文学』(1609 年) 楕円軌道の採用(詳細は次回) 近代的ではない側面…神秘主義と数学崇拝→ネオプラトニズムの強い影響 ・ 太陽崇拝 ・ 数と数学こそが自然を探究する最も確実な方法である→宇宙は複雑な幾何学的な形をとらない

コペルニクスとの方法論的な違いは? 5.魔術的自然観とガリレオの反論 自魔術…アリストテレス自然学と医学、薬草、錬金術、占星術、光学 (黒魔術…いわゆる悪魔学) 自然界にある「共感関係」や「反感関係」を的確に識別、操作することで人間に役立たせる=「魔術」 ピコ・デラ・ミランドラ(Giovanni Pico della Mirandora, 1463-1494) …人間は受動的な存在ではない 主体的な行為としての魔術 「自然魔術」「秘儀的魔術」 パラケルスス(Paracelsus, 1493/4-1541 本名 Aureolus Philippus Theophrastus Bombastus von Hohenheim)…錬金術と医薬術 ガリレオ・ガリレイ(Galileo Galilei, 1564-1642, 伊) 自然学の数学的アプローチ ・数学的な「機械学」と位置運動論(=力の釣り合いや物体の運動など) ・自然学に数学的な機械学を介してのみアプローチ ・世界における転化を位置運動を通して捉える ・反アリストテレス自然学 ・粒子論的自然観 アリストテレス学派:自然には数学的には扱いきれない要素がある 自然学と数学は重なり合いながらも異なる分野 ガリレオ:「この最も巨大な書(すなわち宇宙)…は数学の言語で記述されている」[『偽金鑑識官』(1623 年)] 物体のいかなる性質を考察の対象にするか? 第一性質:形、大きさ、位置・運動、数(物体そのものに内在する性質→数学的に取り扱える)

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第二性質:色、味、匂い(人間の感覚に属するもの) →「第二性質」を「第一性質」により説明 「…下降する微粒子は、下の上面に達し、入り込み、水分と混じり合って味覚をもたらします。それがうまいかまずいかは、接触する微粒子のさまざまな形の相違、その微粒子の多少、その運動の速い遅いによって異なります。」〔ガリレオ『偽金鑑識官』(1623)〕 【資料】

左)ローマ人による水道橋の例(Pont du Gard、在フランス、B.C.1 世紀~A.D.1 世紀) 右)アル・フワーリズミー『アル・ジャーブルとアル・ムカーブルの書』830 年頃

左)コペルニクス『天球回転論』(1543)より 右)イブン・アッシャーティル(Ibn al-Shatir, 1306-1375)の『諸原理の修正に関する最終探究』(Kitab nihayat al-sul fi tashih al-usul)[図参照] →地球中心 周転円を重ねた惑星運動論 数学的方法同じ

ケプラーと神秘主義思想の例:五つの正多面体と惑星球面の構成 『宇宙誌的神秘』(1596)より 外側より 土星球面(土星の軌道を表す面) 正六面体 木星球面(木星の軌道を表す面) 正四面体 火星球面(火星の軌道を表す面)

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参考文献 平田寛『科学・技術の歴史̶ピラミッドから進化論まで̶』朝倉書店、初版 1985 年、2006 年 橋本毅彦『物理科学史̶自然科学から巨大科学まで̶』放送大学出版会、1995 年 佐々木力『科学革命の歴史構造(上)』講談社学術文庫、1995 年 ケプラー「世界の調和」島村福太郎訳『世界大思想全集 社会・宗教・科学思想篇 31』河出書房新社、1963 年 パラケルスス『奇跡の医書』大月真一郎訳、工作舎、1980 年