第1部 地球環境保全のための資金メカニズムの現状 …-1- 第1部...

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1第1部 地球環境保全のための資金メカニズムの現状と課題 第1章 地球環境保全のための資金メカニズムの現状 1-1 途上国への資金フローと地球環境保全のための資金メカニズム 地球環境保全活動のためにはその裏づけとなる資金が不可欠である。この資金を誰が提 供すべきかは、歴史的に大きな課題であった。先進国が、資金提供も含めて、地球環境保 全は先進国、途上国共通の責任であると考えてきたのに対して、途上国は地球環境破壊、 過去の植民地経営及び不公平な交易条件に歴史的に責任を持つ先進国が国際的な資金や技 術の提供についてより多くの責任を果たすべきであると考えてきた。 このような考え方の違いは、様々な場面で顕在化してきた。例えば1992年のリオサ ミットに先立つ準備過程では、途上国より構成されるG77がODA(政府開発援助)の レベルを1995年までに援助国のGNP(国民総生産)の0.7%にまで引き上げ、2 0世紀末には1%にまで増やすことを求めたのに対して、アメリカは対GNP比率による ODA目標設定に執拗に反対し、欧州諸国も立場が分かれていた(オランダ、デンマーク、 フランスが2000年までのGNP0.7%目標達成を支持していたのに対して、イギリ ス、ドイツは支持していなかった) 1 。最終的には、リオサミットにおいて採択されたア ジェンダ21において、その実施のためには「新規で追加的資金」が必要であり、「先進国 は、ODAをGNP0.7%とする合意された国連目標への達成に向けてのコミットメン トを再確認するとともに、まだ達成していない場合は、できるだけ早期の当該目標の到達 と、アジェンダ21の迅速で効果的な実施を確実なものとするために援助計画を拡大させ ることに合意する」とされた 2 。しかし、現在にいたるまで、ほとんどの国においてこの目 標は達成されていない。 また、地球環境条約毎に別個の資金メカニズムを設立すべきか、あるいはGEF(地球 環境ファシリティー)等の既存の資金メカニズムを活用すべきかをめぐっても、対立が顕 在化した。先進国が、GEFや世界銀行のような既存の資金メカニズムの活用を主張した のに対して、途上国は、地球環境条約毎に別個の資金メカニズムを設立することを要求し た。オゾン層保護のためのモントリオール議定書の実施に関しては1990年に別個の多 数国間基金が設立されたものの、気候変動枠組条約、生物多様性条約に関しては1992 年にGEFが「公平かつバランスのとれた代表制」 (気候変動枠組条約)を持ち、「民主的」 (生物多様性条約)なものとなるという約束と引き換えに、GEFが「暫定的」資金メカニ ズムとして採用された 3 。このように現在にいたるまで、基本的には地球環境条約毎に別

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Page 1: 第1部 地球環境保全のための資金メカニズムの現状 …-1- 第1部 地球環境保全のための資金メカニズムの現状と課題 第1章 地球環境保全のための資金メカニズムの現状

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第1部 地球環境保全のための資金メカニズムの現状と課題

第1章 地球環境保全のための資金メカニズムの現状

1-1 途上国への資金フローと地球環境保全のための資金メカニズム

 地球環境保全活動のためにはその裏づけとなる資金が不可欠である。この資金を誰が提

供すべきかは、歴史的に大きな課題であった。先進国が、資金提供も含めて、地球環境保

全は先進国、途上国共通の責任であると考えてきたのに対して、途上国は地球環境破壊、

過去の植民地経営及び不公平な交易条件に歴史的に責任を持つ先進国が国際的な資金や技

術の提供についてより多くの責任を果たすべきであると考えてきた。

 このような考え方の違いは、様々な場面で顕在化してきた。例えば1992年のリオサ

ミットに先立つ準備過程では、途上国より構成されるG77がODA(政府開発援助)の

レベルを1995年までに援助国のGNP(国民総生産)の0.7%にまで引き上げ、2

0世紀末には1%にまで増やすことを求めたのに対して、アメリカは対GNP比率による

ODA目標設定に執拗に反対し、欧州諸国も立場が分かれていた(オランダ、デンマーク、

フランスが2000年までのGNP0.7%目標達成を支持していたのに対して、イギリ

ス、ドイツは支持していなかった)1。最終的には、リオサミットにおいて採択されたア

ジェンダ21において、その実施のためには「新規で追加的資金」が必要であり、「先進国

は、ODAをGNP0.7%とする合意された国連目標への達成に向けてのコミットメン

トを再確認するとともに、まだ達成していない場合は、できるだけ早期の当該目標の到達

と、アジェンダ21の迅速で効果的な実施を確実なものとするために援助計画を拡大させ

ることに合意する」とされた2。しかし、現在にいたるまで、ほとんどの国においてこの目

標は達成されていない。

 また、地球環境条約毎に別個の資金メカニズムを設立すべきか、あるいはGEF(地球

環境ファシリティー)等の既存の資金メカニズムを活用すべきかをめぐっても、対立が顕

在化した。先進国が、GEFや世界銀行のような既存の資金メカニズムの活用を主張した

のに対して、途上国は、地球環境条約毎に別個の資金メカニズムを設立することを要求し

た。オゾン層保護のためのモントリオール議定書の実施に関しては1990年に別個の多

数国間基金が設立されたものの、気候変動枠組条約、生物多様性条約に関しては1992

年にGEFが「公平かつバランスのとれた代表制」(気候変動枠組条約)を持ち、「民主的」

(生物多様性条約)なものとなるという約束と引き換えに、GEFが「暫定的」資金メカニ

ズムとして採用された3。このように現在にいたるまで、基本的には地球環境条約毎に別

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途の資金メカニズムを設立するという方策は採られておらず、基本的には資金は既存メカ

ニズムに依存している。ただし、気候変動に関しては、1997年の京都議定書において、

途上国等における相対的に低コストの温暖化ガス削減投資によって投資主体が一定の温暖

化ガス排出削減クレディットを得るというCDM(クリーン・ディベロップメント・メカ

ニズム)というものが構築され、途上国が追加的資金を得るメカニズムが構築された(た

だし京都議定書は未発効である)。

 このように、これまでのところ、地球環境保全のための資金メカニズムとして主たる議

論の対象となってきたのは、公的な資金移転であるODA等であった(これには当然のこ

とながら多国間の公的資金移転だけではなく、二国間等の公的資金移転も含まれる)。し

かし、1990年代における途上国への資金フローの大きな変化は、途上国への資金フロ

ー全体におけるODAの比率が大きく減少し、民間の資金フローの比率が大きく増大した

ことであった(また、民間資金の移動は地域的に偏在していた)。1980年代の累積債

務危機を経て途上国への資金フローにおけるODAの比率が増えていたが、1990年代

には状況は一変した4。いわゆるアジア通貨危機により、当該地域における民間の資金フ

ローの比率は一時減少したものの、その後再び増大している。そこで、民間の資金フロー

をいかに地球環境保全に役立つようにするかが、大きな課題として浮上しつつある。

 また、途上国における環境保全活動においてNGOが果たす役割が大きいことも広く認

識されており、これらの現場でのNGO等の活動と公的資金との連携をどのように図って

いくかも大きな課題となっている。

 以下では、まず、多国間公的資金メカニズムを中心に、どのような環境保全資金移転メ

カニズムがあるのかを概観しておこう。

1-2 主要環境条約下の資金メカニズムと関連国際機関による環境支援の概要

現在、途上国の環境保全への支援供与は、主に環境条約下の資金メカニズムと関連の国

際機関による様々な形での支援によってなされている。環境保全のための資金の流れのう

ち、多国間機関による支援の現状と概要を把握するため、ここでは、主要環境条約下の資

金メカニズムによる支援、関連国際機関による支援についてそれぞれ概観する。

1-2-1 主要環境条約下の資金メカニズム

1-2-1-1 地球環境ファシリティー(Global Environment Facility:GEF)5

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GEFは、気候変動枠組条約、生物多様性条約、オゾン層保護条約(GEFによるオゾ

ン層保護の供与対象国はモントリオール議定書実施のための多国間基金で資金供与対象と

なる5カ条国(途上国)以外の、移行経済諸国17カ国である)、ストックホルム条約(残

留性有機汚染物質:POPs)という環境条約上の資金メカニズムとされており、また、

上記以外にも国際水域汚染防止、土地劣化(砂漠化対処等を含め、気候変動、生物多様性、

オゾン層保護、国際水域汚染防止の4対象分野と関連性のある範囲において)を対象領域

としている。

 GEFは、開発途上国、経済移行国が地球環境問題に対処するために、新たに負担する

増加費用(incremental cost)を原則として無償資金(グラント)として供与(贈与)す

る資金メカニズムであり、1991年5月に3年間のパイロットフェーズとして発足した。

その後、1994年3月GEFの改組が行われ、GEF第1期(1994年7月-98年

6月)の増資(約20億ドル)が合意され、1998年には資金規模27.5億ドルで第

2期(1998年7月-2001年6月)の増資が行われた。GEFプロジェクトは、G

EFを構成する3つの実施機関(Implementing Agencies)である世界銀行(投資プロジ

ェクト、基金管理を担当)、UNDP(国連開発計画:技術協力プロジェクトを担当)、U

NEP(国連環境計画:科学技術的分析と評価を担当)によって実施されている。GEF

は、1991年の設立以来2000年6月までに、154カ国で約680のプロジェクト

に対して約30億ドルの資金提供を行ってきた。また、これらのプロジェクトに対しては、

国際機関や二国間援助機関等から約60億ドルの協調融資、途上国政府から約20億ドル

の資金提供が行われてきた。

1-2-1-2 多国間基金(Multilateral Fund for the implementation of the

Montreal Protocol)6

多国間基金はオゾン層保護条約実施のための資金メカニズムである。多国間基金は、1

990年のオゾン層保護条約第 2 回締約国会合(MOP2)で創設され、1991年か

ら運営を開始し、その後のMOP4で正式に永久基金となることが決定した。主な目的は、

モントリオール議定書の途上国締約国で、その一人当たりのODS(オゾン層破壊物質)

消費・生産が年間0.3Kg以下の各国(5カ条国と呼ばれる)が議定書の義務であるO

DS削減履行を、増加費用(Incremental Cost:この概念は多国間基金で初めて実験さ

れた)分支援することである。現在175カ国の締約国のうち130カ国が該当している。

多国間基金はこれまでに(2000年3月現在)4回増資されており(2.4億ドル(1

991-93年)、4.55億ドル(1994-96)、4.66億ドル(1997-99

年)、4.4億ドル(2000-2年))、2001年2月末現在で、32の先進国が約1

2.2億ドルの貢献をしている.プロジェクトは 4 つの実施機関(UNDP、UNEP、

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UNIDO(国連工業開発機関)、世界銀行)によって実施されているが、これらに加え

て、いくつかの先進国は同様の支援を二国間ベースでも行っている(拠出金のうち20%

を上限として、二国間プロジェクトに対する拠出で多国間基金への拠出を代替することが

可能)。1990年の設立より2001年2月までの間に32回の執行委員会が開催され、

執行委員会は、124の途上国における3460のプロジェクト(総額11.9億ドル)

を承認している。

1-2-1-3 グローバル・メカニズム(Global Mechanism:GM)7

砂漠化対処条約(UNCCD)に対応する資金メカニズムとして、グローバル・メカニ

ズム(GM)が存在する。1997年の第1回締約国会議において、IFAD(International

Fund for Agricultural Development:国連農業開発基金)のホストの下で設立が決定さ

れた。GMは、砂漠化対処活動に対して、既存のより多くの資金源等からのリソースを集

めるためのマルチチャンネルとして、ダイナミックなハブとして機能することを目指して

いる。運営に関しては、COP(締約国会議)での決定に従い、UNDPがGMの管理者

を任命し、また、補助する機関としてFC(Facilitation Committee)を設置している。

同FCのメンバーは世銀、UNDP、UNEP、地域開発銀行、GEF事務局、UNCC

D事務局、IFAD、FAO(国連食糧農業機関)である。GMの資金源は、締約国が拠

出するUNCCDのコアバジェットからCOPによってGMに割り当てられる コアバジ

ェット(Core Budget Administrative Expense Account)、多国間と二国間のドナーなど

から貢献される自主的拠出金(Voluntary Contributions Administrative Expense

Account)、SRCF(Special Resources for UNCCDD Finance Account)の 3 つから成

る。SRCFには、GMの設立を主導したIFADから、1999年に当面の資金として

250万ドルの拠出があった。2000年6月には世界銀行が125万ドルのグラントを

承認し、2001年にも同等の額の拠出が期待されている。

これらの代表的な資金メカニズムの他に、バーゼル条約(有害廃棄物の国境移動・処分

の規制に関する条約)、ラムサール条約(国際的に重要な湿地に関する条約)の下にも、

小規模な資金供与メカニズムが存在している。

1-2-2 関係国際機関による地球環境保全への支援

関連の国際機関では、上記のような資金メカニズムに関連する役割に加えて、GEFの

実施機関を中心に、独自のプログラムの下に、様々な資金供与や技術支援を行っている。

国際金融機関(世界銀行、地域開発銀行)による環境支援は、一般に、融資に対する環境審

査、環境分野への技術支援、業務一般や関連政策・戦略への統合の形態をとる。このうち、

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融資における環境分野プロジェクトの定義は、一様ではなく、通常プロジェクトとの線引

きも曖昧であるため流入資金の全体像を把握するのは困難である。しかしながら、通常、

環境プロジェクトのカテゴリーとしては、都市環境汚染、自然資源保護、地方環境整備、

環境マネジメントキャパシティー、クリーナープロダクション、省エネルギーなどが挙げ

られている。以下に、これらの環境関連支援のうち、地球環境保全関連に関する主な活動

をとり上げて概観する。

1-2-2-1 世界銀行グループ

 世界銀行(国際復興開発銀行:IBRD)は、1944年米国ブレトンウッズでの連合

国会議での協定を受けて、翌1945年設立された。通常、世界銀行とは、このIBRD

とその後1960年に設立された国際開発協会(IDA)の総称である。IBRD、ID

Aとも途上国の経済・社会発展、生活水準の向上、各国の自助発展の支援を目的として、

融資、技術協力、調査研究を行っている。IBRDは単一機関としては最大の開発資金貸

付機関であり、1人あたりGNPの比較的高い加盟途上国を対象に、政府、政府又はその

他の適切な保証を得られる公的・民間機関に貸付を行う(平均償還期間は15-20年で、

金利はIBRD借入れコストに応じて半年毎に変動する。原資は資本市場からの借入れを

中心に加盟国からの出資金、留保利益等)。一方、IDAは特に低所得開発途上国を支援

している(融資は無利子で償還期間は35-40年。主要な原資は、加盟国からの出資金

と拠出金、IBRDの純益からの移転、IDA融資の返済金)。

世銀グループには、この他、途上国の民間セクターの活動を支援することにより途上国

の経済開発を促進することを目的に設立(1956年)された、途上国の民間セクター・

プロジェクトへの最大の資金供給機関である国際金融公社(IFC)、途上国への直接投

資に関わる非商業的リスクによる損失に対して、加盟国の投資家に保証を提供する多数国

間投資保証機関(MIGA-1988年設立)、及び投資紛争解決国際センター(ICS

ID-1968年設立)の3つの姉妹機関がある。

 地球環境保全に関しては、具体的には以下のような分野で資金提供を行っている8。

 第1の分野は気候変動である。具体的には、まず、PCF(Prototype Carbon Fund)

がある。これは、カーボン・マーケット(炭素市場)の先駆けとして、政府、民間企業か

らの出資を募り、2000年4月に発足した約1.5億ドルの信託基金である。途上国と

経済移行国でGHC(温室効果ガス)削減プロジェクトを実施し、リターンを削減クレジ

ットの形で投資家に還元する。2001年3月現在、17企業及び6政府からの出資を得

て、20カ国の途上国政府との間でMOUを締結している。次に、再生可能エネルギー支

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援プログラムがある。2000年6月現在、世銀では、合計投資額34億ドルにあたる3

2のプロジェクトの実施にかかわっており(うち世銀融資が6.23億ドル、GEFグラ

ントが3.23億ドル、残りは民間との協調融資・事業者負担)、これらは、ESMAP

(Energy Sector Management Assistance Program:世銀とUNDP等によるグローバ

ルな再生可能エネルギー投資促進のための技術支援プログラム)、ASTAE(Asia

Alternative Energy Unit:アジア地域の再生可能エネルギー投資促進のための技術支援

プログラム)などの技術支援プログラムによって促進されている。また、IFCでは、民

間セクターと協調し、SDC(Solar Development Corporation)、REEF(Renewable

Energy & Energy Efficiency Fund)、 PVMTI(Photovoltaic Market Transformation

Initiative))等のスキームの下、再生可能エネルギー投資の促進を支援している。

 第2の分野は生物多様性保全である。世銀は1988-1999年の間、生物多様性の

保護支全として226のプロジェクト、他の資金源とあわせて合計約26億ドルの資金移

転を確保した。資金源は、世銀の融資(10.43億ドル)、GEFのグラント(4.5

5億ドル)、トラストファンド(Brazil Rainforest Trust Fund grant :1.55億ドル)

を通じてのグラント、協調融資(10.13億ドル)である。この他、2000年8月に

設立されたCEPF(Critical Ecosystem Partnership Fund :途上国の生物多様ホット

スポットの保護を目的とする1.5億ドルの基金-世銀、Conservation International、

GEF、米国マッカーサー財団の各機関が2500万ドルずつ拠出、残りの5000万ド

ルはドナー各国からの拠出を募集中)にも拠出を行っている。

 第3の分野は砂漠化対処である。土壌劣化対応を含む自然資源管理に関しては、199

0-98年の間に、159プロジェクト、合計180億ドルが確保されている。(うち、

90億ドルが世銀融資、90億ドルが協調融資)である。なお、このうち、土壌劣化を第

一義的な対象とするプロジェクトは54件、合計18億ドルである。

1-2-2-2 UNDP(国連開発計画)9

UNDPは、技術協力活動を推進する国連システムの中心的資金供与機関として196

6年に発足した。その任務は、10年毎に国連総会が採択している開発戦略を指針にしつ

つ、開発途上国および市場経済移行国における持続可能な開発を多角的に支援することで

ある。活動資金は国連の通常予算ではなく、加盟国等からの自発的拠出金でまかなわれ、

計画や政策は執行理事会の承認や決定を経て事務局が実施する。UNDPは本部をニュー

ヨークにおき、途上国132カ国に常駐事務所を設置しており、国連システム最大のネッ

トワークを通じて他の国際機関や政府、NGO等と協力しながら175の国や地域で年間

約6000件を上回るプロジェクトを実施している。プロジェクトの内容は、農業、林業、

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上下水道、環境、衛生、エネルギー、気象、都市管理、教育、行政、保健、住宅、貿易お

よび開発金融等、人間生活のあらゆる側面に広範に関わっている。また、UNDPの総裁

は、国連内の政策調整メカニズムとして設置された国連開発グループ(UNDG)の議長

役を務めている。

UNDPの環境関連活動は、BDP(Bureau for Development Policy )の中のESD

G(Environmental Sustainable Development Group)の下で運営されている(ESD

Gの前身はSEED(Sustainable Energy and Environment Division))。ESDGは、

モントリオール議定書、GEF(Global Environment Facility:その中に生物多様性、

気候変動、国際水域、オゾン層担当保護がある)、UNSO(Office to Combat

Desertification and Drought:在ナイロビ)等のユニットから構成されており、1)天

然資源管理(サステイナブル・エネルギーを含む)、2)オゾン層保護・生物多様性、3)

気候変動、4)環境経済、5)土地利用、6)砂漠化・乾燥地管理の諸分野で、政策的支

援を行う。また、OPARG(Operational Policies & Applied Research Group)という

組織も存在し、Capacity 21、公私協働プログラム(Public-Private Partnership

Programme)がその下に置かれている。これらは、1)能力開発、2)業務指針(operational

policies)、3)品質保証、4)実施方式(execution modalities)、5)公私協働、6)統

合的アプローチ(integrated approached)に関して、政策的支援を行っている。

具体的活動分野としては主として以下のものがある。第1の分野は気候変動である。E

AP(UNDP Energy and Atmosphere Programme: Sustainable Energy 担当)は、省

エネルギー(DSM: Demand Side Management)と再生可能エネルギーの促進活動を行

う。EAPには、Energy Account という独自の資金供与メカニズムがあり、カントリー

オフィスの特定する新エネ・省エネプロジェクトを他のグラントと共にファイナンスして

いる。第2の分野はオゾン層保護である。EAP(Montreal Protocol 担当)、多国間基

金の手続きに従って、案件形成やプロジェクト実施、モニタリング等技術支援を提供支援

している。第3の分野は砂漠化対処である。UNSOが信託基金(UNDP Trust Fund to

Combat Desertification & Drought)を管理しており、世界50カ国以上において国レベ

ル、地域レベルの砂漠化対処条約下の活動実施の資金と技術支援を提供している(199

6年から2000年末までで合計約1400万ドル)。

1-2-2-3 UNEP(国連環境計画)10

 UNEPは、1972年にストックホルムで開催された国連人間環境会議で採択された

「人間環境宣言」及び「環境国際行動計画」を実施に移すための機関として、同年の国連総会

決議に基づき設立された。本部はナイロビに置かれ、世界 7 ヵ所(ナイロビを含む)に

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地域事務所が置かれている。環境保全活動全体を活動対象としている機関であるが、地球

環境白書の作成などの環境アセスメントを行うほか、オゾン層保護、気候変動、廃棄物、

海洋環境保護、水質保全、土壌劣化防止、熱帯林保全等森林問題、生物多様性の保護、産

業活動と環境の調和、省エネルギー、省資源といった個別分野の問題も対象としている。

UNEPの活動は、技術面、政策面での支援を中心に多岐広範にわたっており、資金供

与機関ではないので一部のデモンストレーション効果を狙った技術支援のプロジェクト以

外には援助実施のための直接的な資金チャンネルは持たない。UNEPによる支援には具

体的には以下のようなものがある。第1に、ワシントン条約、ウイーン条約、モントリオ

ール議定書、バーゼル条約(有害廃棄物)、ボン条約(移動性野生生物保全)、生物多様性

条約といった国際条約の事務局機能と通じて援助プロジェクトの調整、推進を図る。第2

に、GEFや多国間基金の実施機関として、プロジェクト開発の役割とプロジェクト実施

機能を果たす。第3に、関連分野での技術支援活動(研究、キャパシティービルディング

等)を主に地域レベル、グローバル・レベルで実施し、個別の環境問題への技術的、政策

的支援を行うとともに、国レベル、地域レベルでの横断的な環境政策の発展と実施を推進

する。

1-2-2-4 ADB(アジア開発銀行)11

ADBは、1963年に開催された第1回アジア経済協力閣僚会議において設立が決議

され、1966年に正式発足した。現在、アジア太平洋地域内の国、地域及び欧州北米の

先進国等など合せて59のメンバーが加盟している。本部はマニラに置かれ、主な機能は、

開発途上加盟国に対する資金の貸付・株式投資、開発プロジェクト・開発プログラムの準

備・執行のための技術支援及び助言業務、開発目的のための公的・民間支援の促進、開発

途上加盟国の開発政策の調整のための支援である。ADBには、比較的所得の高い開発途

上加盟国への融資業務に使われ市場からの借入れを財源とする通常資本財源と、加盟国か

らの拠出を財源とし、低所得国向けに緩和された譲許性の高い条件で貸付を行うのに使わ

れるアジア開発基金、及び加盟国からの拠出金等からなり技術援助に用いられる技術援助

特別基金がある。

ADBは、過去5年間で地域各国の環境ガバナンス、環境政策や法案の形成関連の技術

支援に約700万ドルを供与し、各種ハイレベルの地域会合の主催を行っている。個別分

野に関しては、第1に、生物多様性に関して、1995年から2000年の間に3700

万ドルの無償技術支援と4億400万ドルの投融資を実行した。第2に、気候変動に関し

ては、ALGAS(Asia Least Cost GHG Abatement Strategies:1995年から19

98年に実施したアジア11カ国のGHG削減のインベントリー作成能力向上、削減対策

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オプション・戦略策定の研究)、1999-2000年に17カ国の代表者のための京都

議定書実施とCDMに関するワークショップ開催を実施した。最近では、アジア太平洋地

域の途上国において気候変動関連の活動(具体的な案件の準備や能力向上など技術支援)

にグラントベースで資金支援を行うファンドの設置(2001年4月にカナダ政府が約3

20万ドルを拠出)、PREGA(Promotion of Renewable Energy, Energy Efficiency and

GHG Abatement projects:2001年4月に発足した新エネルギー省エネルギーを促進

させるための研究プロジェクト)を開始している。

1-2-2-5 EBRD(欧州復興開発銀行)12

EBRDは、1991年に旧ソ連・中東欧27カ国の市場化支援のために設立された国

際金融機関で、その株主は欧州を中心とする加盟国とEC、欧州投資銀行である。EBR

Dは、対象地域各国のセクター改革、市場経済化、規制緩和を進め、民間セクターへの投

資活動を促進することを目的としており、その融資の7割以上が民間セクター向けである。

資金源の大半が市場からの調達であり、EBRDは商業ベースの条件で投資、融資、保証

等の広範な金融ツールを駆使し、他の二国間援助機関や多国間金融機関、商業銀行と協調

して、投融資、技術支援を行っている。

 具体的に環境については、第1に、気候変動に関して、エネルギー効率・排出削減基金

(Dexia Fondl Elec Energy Efficiency and Emission Reduction Fund:東欧地域の熱供

給、ガス事業等への省エネ投資を行い、効率改善による収益とGHG削減クレディット獲

得を目的に10億ユーロ規模を目指す投資ファンド)に一定のコミットを行い(2000

万ユーロ)、ESCO事業(省エネルギーサービス提供事業)やDMS事業 に1999年

末までに1億7100万ユーロの投融資を実行し、7カ国において14のESCO事業を

設立した。第2に、中東欧および旧ソ連邦諸国における環境保全投資プロジェクトに関し

て、複数の投資国による無償援助と国際金融機関による借款を付加させてプロジェクトの

実現および拡大をサポートするPPC(Project Preparation Committees)の事務局を担

い、支援の中心的役割を果たしている。第3に、東欧諸国等の環境改善に向けた技術支援

を、ECの環境改善プログラムや欧州各国の二国間援助と共同で供与している。

地球環境保全に向けての支援は、これらの機関の他にも、FAO、IFAD,UNID

O等においても、イニシアティブがとられており、支援活動は年々拡大しつつある。

1-3 各機関間の運用上の連携とGEFの役割

 以上のように、少なくとも部分的に地球環境保全に関わる様々な資金メカニズムが存在

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する。そのなかで、人的規模あるいは絶対額でいえば本報告書が主たる対象とするGEF

の規模は決して大きくはない。否、むしろ極めて小さい(ただし、UNDP、UNEPの

活動規模と比べれば大きい)。しかし、GEF受入国のコミットメントを確保し(カント

リー・ドリブン)、各機関と様々なかたちで連携し、関係する機関やアクターの地球環境

保全への取り組みを促進することによって、他とは異なるユニークな役割を発揮している

といえる。では、GEFは各機関、各資金メカニズムとどのように連携し、そのような連

携においてどのような役割を果たしているのであろうか。

 第1に、GEFには環境保全に関わる直接の資金提供機関としての役割が存在する。特

に、世界銀行等の多国間開発銀行と異なり、提供する資金が全て無償資金(グラント)で

ある点に大きな特色がある。ただし、設立当初より、GEFは直接プロジェクト等を実施

する部門を持たず、資金配分機能に特化し、実施機能は世界銀行、UNDP、UNEPと

いう3つの実施機関(Implementing Agency)を通じて担われてきた。GEFには、当

初、事務局も評議会もなかった。案件はすべて3つの実施機関によって企画され、GEF

に持ち込まれたが、GEF側にはそれに対応する組織能力はなかった。これは、実施機関

側、また、最終的利用者である途上国の側から見ると、GEFの手続きは煩雑で時間がか

かるという問題の原因として認識された(実際に第1期のGEFの活動においては、許容

された額をすべて使い切ることはできなかった)。他方、GEFの側からは、組織能力の

欠如により、実施機関の持ち込んだ案件を引き受けざるを得ないので、GEFは質の悪い

案件を強いられたと認識された。

 この状況はその後急速に改善された。リオサミットの後、GEFの組織再編が行われ、

その中で、事務局、評議員会が設置されるとともに、プロジェクト等を「客観的立場」から

政策レベルでレビューするSTAP(科学技術諮問パネル)が設立された。また、資金不

足という事情もあり、プロジェクトのパイプラインが蓄積していったため、その中から優

れたものを迅速に選べるようになってきた。

 第2に、GEFには環境保全に関わる追加的資金獲得のための触媒としての役割がある。

前述のように、これまで基本的にはGEFのプロジェクトは世界銀行等の実施機関により

企画されてきた。そこで、実際の運用としては、しばしば、企画中のあるプロジェクトの

地球環境保全に関係する部分を切り取って、GEFのプロジェクトとしてグラントを獲得

するという行動様式がとられてきたといわれている(これは特に世界銀行について当ては

まる。元来グラントしか提供していないUNDP、UNEPについてはこの傾向はあまり

強くない)。この行動様式のため、GEFが一定のプロジェクトに対して資金提供すると、

その数倍の資金が他のメカニズムによって提供されるということになることが多かった。

つまり、GEFは一定の梃子としての機能を持っているといえた。

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 しかし、この点については、批判も強かった。世界銀行といった実施機関は環境考慮の

「主流化(mainstreaming)」を唱えてきていた。その点からいえば、実施機関はプロジ

ェクトの環境部分をGEFの対象として切り離すのではなく、自らのプロジェクトの部分

とするべきなのであり、GEFとの連携はそのような批判をバイパスする口実であると考

えられた13。また、世銀は、その将来のプロジェクトの下準備をGEFを使って行ってい

るのではないかという懸念もでた。これらの点に関する争いは未だに残っているようであ

る。

 第3に、民間セクターやNGOセクターによる地球環境保全活動を促進するという連携

促進の機能がある。この点については、他の機関との協力を規定した改組後のGEF設立

のための文書第28パラグラフにおいて、「実施機関は、有効かつ費用対効果の高いプロ

ジェクト実施における、それらの団体の比較有利性を考慮し、国際開発銀行、国連の専門

機関及び計画、その他の国際的機関、二国間開発機関、国家機関、非政府機関、民間団体、

及び学術団体によるGEFのプロジェクトの準備及び実行のための取り決めを作成するこ

とができる」とされ、連携先としてNGOセクター(非政府機関)、民間セクター(民間団

体)が明示されている。

具体的には、民間セクターとの連携に関しては、途上国の民間セクター投資を支援する

IFCを通して途上国の中小企業等に提供し、省エネ等を促進するプログラムを各地で実

施しつつある14。また、再生可能エネルギーの開発に関しては、シェルやBP(ブリティ

ッシュ・ペトロリアム)といった企業と協力し、環境保全に効果に伴う増分コスト分をG

EFが負担するといったプログラムも行っている15。これらは、民間セクターの役割が大

きくなってくる中で、それに対応すべくGEFが試みている実験である。しかし、民間セ

クターとの協力を気にするあまり、民間企業の利益に囚われ過ぎているのではないかとい

う批判もある。

 また、NGOとの連携に関しては、具体的には、小規模グラント・プログラムにおいて、

1件あたり最大5万ドルの範囲で、UNDPの管理の下、途上国で活動するNGOやCB

O(Community Based Organization)に対して直接資金提供することができる。途上国

における開発活動において現地で活動するNGOやCBOが果たす役割が大きいとの認識

から、これらのNGOやCBOの活動に地球環境保全への配慮を埋め込むことが重要であ

るとして、このようなプログラムが実施されているわけである。また、前述の省エネ等に

関するIFCを通した資金移転先として、NGOが活用されることもある。

 GEFにおけるNGOとの連携の興味深い点として、GEF評議会へのNGOのオブザ

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ーバー参加が認められている点があげられる。この参加は、単なる受動的参加ではなく、

評議会においてGEFの政策に関して発言する機会も与えられている。また、NGOの自

主性を尊重する形でGEFに関係するNGOの組織化(GEF-NGOネットワーク)も

促進し、そのようなネットワークとGEFの対話も精力的に行っている。このように、単

に事業レベルでNGOの協力を求めるだけではなく、政策レベルでのNGOのインプット

を求めることによって、GEFはその正当性と交渉力を高めようとしているともいえる。

このような活動は、NGOが長年の努力によって世銀等多国間金融機関との関係において

実現したものと類似している。しかし、GEFの場合には、GEF自身にNGOとの対話

のインセンティブが大きいため、インプットはより有効であるといえよう。

 さらに、100万ドル以下の中規模プロジェクトにおいても、NGO、民間主体を含む

様々な主体が、実施機関に対してプロジェクト・コンセプトを提案することが認められて

いる。

 第4に、GEFには実験的プロジェクトに関するモデル・知識の構築という役割がある

16。近年、途上国における地球環境保全活動の一定の分野において、GEFが排他的資金

提供者としての役割を果たしている場合があるという。そのような例としては、電源ネッ

トワークに接続されない農村の太陽エネルギー、燃料電池バスといった分野が挙げられて

いる。GEFは、他に投資主体のないこのような分野に投資し、プロジェクトの経験を積

むことを通して、当該分野のプロジェクトのモデルという知識を獲得することができる。

そして、このような革新的な知識を流通させることによって、他の資金メカニズムによる

プロジェクトに対しても影響を与えることができるというわけである。

 以上のように、GEFは人的・資金的規模としては大きなものではないが、他の資金メ

カニズムや民間企業・NGOと連携することで、間接的に一定の影響力を発揮していると

いえる。

1-4 我が国との関わり

 以上のように、GEFは、他の資金メカニズムとは異なり、連携機能に重点を置いてい

る。では、GEFの資金の2割を拠出し、GEFの事実上のトップドナー(拠出のコミッ

トメント上は米国が2割強でトップであるが、拠出に米議会の承認が得られず、支払いが

滞っているため、日本が事実上のトップである)である我が国との連携はどうなっている

のであろうか。これまでのところ、以下のように、GEFと我が国の機関等との連携を行

ったプロジェクトは極めて限られていると言わざるを得ない。3つの局面に分けて状況を

概観しておこう。

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第1の局面は、プロジェクト形成の局面である。GEF案件は、カントリー・ドリブン

であり、事業対象国の主導によりプロジェクト形成が行われることとされているが、途上

国の多くはプロジェクト形成能力に乏しいため、先進国の二国間援助機関や多国間援助機

関等が技術協力(TA)等により、案件形成を支援している場合も多い。こうした現状で

は、形成されるGEFプロジェクトの内容は、案件形成にかかわった先進国や国際機関の

考えが色濃く反映されるとともに、GEFプロジェクトとこれらの先進国や国際機関との

実施面での連携(例えば協調融資)が多く見られることになる。しかし、我が国に関して

は、プロジェクト形成において、JICAや環境省等が積極的な役割を果たした例は見あ

たらないようである。

 第2の局面は、協調融資の局面である。我が国の援助機関との連携では、協調融資案件

としては旧OECFにおいて過去2件あるのみである。1件は、タイにおいて需要者サイ

ドの省エネルギーを促進するための5年間のプログラム(1993-97年)であり、も

う1件は、モロッコの既存発電所の高効率化事業である。しかし、後者に関しては、その

後モロッコ側の事情により、キャンセルされた。その後も、GEF側からは、連携促進の

ため協調融資案件の拡大について働きかけがあるものの、新たな協調融資案件はないよう

である。

 第3の局面は、NGOとの連携の局面である。前述のように、NGOとの連携に関して

は、1)評議会へのオブザーバー参加、GEF-NGOネットワークによる意見交換・情

報共有による政策レベルでのGEF全体への運営参加、2)NGO自身が小規模グラント・

プロジェクトなど案件実施の担い手となる、3)NGOとGEFとがイコール・パートナ

ーとして1つのプロジェクトに資金・技術等を提供し、実施する、という3つの道がある。

1)の運営への参画については、1996年3月30日、4月1日に開催されたGEF

のNGOコンサルテーション会合に、公益信託アジア・コミュニティ・トラスト、(財)

自然環境研究センター、経団連自然保護基金、(財)国立公園協会、(財)自然保護協会、

(財)オイスカ、(財)野鳥の会、(財)地球・人間環境フォーラムが参加した例がある。

しかし、この参加は、日本の環境団体職員向けに経団連自然保護基金とTNCが共同で主

催した米国自然保護NGO研修の一環としてアドホックに可能になったものであった。ま

た、この1996年の参加においては、参加したNGOは具体的プロジェクトの要請をす

るにとどまり17、積極的にGEFの政策に口をはさむということはなかったようである。

その後、GEFからは、これらのNGOへ評議会開催等の案内が毎回送られているものの、

これ以降、日本からNGOが評議会等に参加した形跡はない。NGO・GEFネットワー

クにおいて組織化に重要な役割を果たしているNGOであるモニター・インターナショナ

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ルやGEF事務局は、日本をはじめとする極東地域の参加が少ないため、評議会に出席し

ている政府代表に改善の努力を求めている。

2)の小規模グラント・プログラムについては、GEF受入国におけるNGO等のプロ

ジェクトに資金が提供される仕組みであるが、これまでのところ、我が国のNGOの途上

国における活動に資金が供与されたという情報はない。

3)については、最近では、GEF、世銀、マッカーサー財団、CI(Conservation

International)が共同で生物多様性のいわゆるホットスポットにおけるアセスメント・

計画作りを支援するファンド(Critical Ecosystem Partnership Fund:2000年8月

設立:管理はCIが行う)が注目を浴びた(現在、目標金額1億5千万ドルのうち1億ド

ルは集めた)。このような大規模なケースでは、IUCN、CI等の国際的な組織を持つ

NGOの例が多く、我が国のNGOの事例はないと思われる。ただし、最近では、世銀・

GEF案件として形成された国際水域のためのプロジェクトにおいて、(財)国際湖沼委

員会が、トレーニングやネットワーキングの担い手等として参画しているという例は見出

される。

第2章 地球環境保全のための資金メカニズムの課題

2-1 はじめに

 本報告書の焦点は、GEFという特定の資金メカニズムである。しかし、ここでは、G

EFを含む地球環境保全の国際的資金メカニズムが全体としてどのような課題を抱えてい

るのかを簡潔に概観しておきたい。この点に関する認識は、今後GEFをどのようにして

いくのか、あるいはどのように利用していくのかを考える上でも、ヒントを与えてくれる

と思われる。

本来、このような議論の前提としては、二国間、多国間のODAおよびOOF、あるい

は民間投資のうち、環境関連資金移転が各々どれくらいあるかの全体像を把握する必要が

ある。この点は、この報告書を検討した委員会の議論においても広く認識されていた。し

かし、国際的にもこの点に関する十分な調査は行われているとはいえない。本研究はこの

全体像を得る事を主たる目的とするものではないが、試論的に不十分ながら全体像を得る

試みを実験的に行ってみた。それについては、データ取得上の困難等も含めて、補論を参

照していただきたい。

以上のような作業の前提として、環境関連を含む国際的資金フロー全体像を図示してお

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くと以下の図表1ようになる。図表の各々の項目に関して、環境関連部分を切り取ること

が課題となるわけである。以下では、データ収集については補論に譲り、いくつかの個別

的論点について議論しておきたい。

<図表1> 国際的資金フローの全体像

民間資金 公的資金(多国間及び二国間資金)

現地

工場

建設

株式投資 債権/貸付 その他(譲許性の

低い借款、輸出信

用・保険)

譲許性の高

い借款

贈与

海 外 直 接

投資

ポートフ

ォリオ株

式投資

ポートフ

ォリオ債

券投資

銀行貸付 OOF ODA

Cf. プロジェクトファイナンス-一定のプロジェクトのための様々な資金源が組み合わせ

て利用される

出典:Lily Donge, Masaru Kato, Crescencia Maurer, “An Environmental Analysis of

Recent Trends in International Financial Flows with a Special Focus on Japan,” World

Resource Institute; July 2001 (補論添付資料1)Figure 2 を修正の上、作成した。

2-2 民間資金の役割の増大への対応

 前述のように、現在では途上国への資金移転のうち多くの部分は民間資金となっている。

従って、地球環境保全を進めるためには、これらの資金が環境保全にポジティブである必

要がある。

 しかし、そもそも、現在の民間投資が環境上どのような影響を与えているのかに関する

評価は十分行われていない。論理的には2つの可能性がある。1つの議論は、先進国から

の民間投資先は、途上国において、途上国の低い環境基準あるいはそれ以下で操業を行っ

ており、民間投資は途上国における環境保全にネガティブな影響を与えるというものであ

る。もう1つの議論は、先進国からの民間投資先は、途上国においてもしばしば当該途上

国の環境基準以上の基準に準拠して操業を行っているため、民間投資は途上国における環

境保全にポジティブな影響を与えるというものである。もし、後者が正しければ、民間投

資の増大は環境保全、地球環境保全にも寄与するということになる。実は一般に思われて

いる以上に後者の場合が多いということを示唆する断片的研究が存在する。しかし、実際

には、どちらになるのかは場合によって異なると思われる。地球環境保全の観点からは、

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後者の場合となる条件を明らかにし、そのような条件が満たされるよう促すことが必要に

なる。

 制度的にも、様々な公的資金メカニズムにおいて、民間資金移転を環境保全に寄与する

ように誘導する枠組みを構築する試みが見られる。

 第1に、既に述べたように、GEF自身、直接民間セクターを巻き込む枠組みを作りつ

つある。IFCを通して途上国の中小企業等に提供し、省エネ等を促進するプログラムを

各地で実施しつつあり、再生可能エネルギーの開発に関しては、シェルやBPといった企

業と協力し、環境保全に効果に伴う増分コスト分をGEFが負担するといったプログラム

も行っている。

 第2に、輸出信用プロジェクト・プログラムに関しても、ODA等に倣って環境ガイド

ラインを作っていこうという動きがある。これについては、既に議会対策上国内法的にか

かるガイドラインを策定せざるを得なかったアメリカが、競争条件均等化の観点から熱心

であり、他方、一般的には環境問題に熱心な欧州諸国は消極的である。民間レベルの投資

活動等においても、多くの場合、様々な輸出信用プログラム等を利用しているのであり、

ここを契機として民間資金移転に環境上の配慮を埋め込もうというのは環境政策の観点か

らは1つの戦略であるといえる。

 このような取り組みを展開・修正させて、いかに民間資金移転を環境保全上もプラスの

ものとするのかが大きな課題であるといえる。

2-3 ODA・OOFのグリーン化

 前述のように、途上国への資金移転における公的資金の役割は相対的に減少しつつある。

しかし、未だ重要な資金源であることは間違いない。そこで、これらの資金をいかに地球

環境保全に資するものにしていくのかということが課題となる。

 第1に、最近では、ほとんどの多国間機関、二国間機関において環境ガイドラインが策

定され、実施されるようになってきた。この環境ガイドラインの内容にはばらつきはある

ものの、その内容として資金受入国である途上国の環境基準以上の内容を要求している場

合も多い。このようなガイドラインを設定し、実施することを通して、少なくともODA

やOOFが環境保全上ネガティブな影響を与えることはないようになってきた。

 第2に、世界銀行における環境の「主流化(mainstreaming)」に見られるように、出

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資国(世界銀行の場合は具体的にはアメリカ)の世論を背景としつつ、ポートフォリオに

おける環境色を強化する試みが見られる。GEFも、個別プロジェクトの世界銀行による

実施の機会を与えることで、そのような傾向を助長しようと試みている側面がある。また、

日本のODAにおける環境ODA強化の背景にも同様な世論の背景があると思われる。し

かし、前述のように、世銀に関しては、実はプロジェクトの環境保全関連部分は切り離し

てGEFプロジェクトとして押し込んでいるのではないかという批判があることに見られ

るように、環境「主流化」にも限界がある。

 第3に、競争条件均等化の観点から、半ば意図せざる結果としてODAのグリーン化が

進む場合がある。OECD(経済協力開発機構)では、タイド援助(調達先がドナー国内

企業に限られる援助)が競争を歪めるとの議論が提起され、1991年にヘルシンキパッ

ケージというタイド援助規制が成立した。ヘルシンキパッケージの内容は、次のようなも

のである。まず、タイド援助とするためには、CL比率(援助の譲許性を示す指数であり

商業的融資だと0、贈与だと100となる)を35%(LLDCについては50%)にす

ることが最低限要求される。次に、CL比率が35(対LLDCについては50%)-8

0%である場合には、タイド援助にする条件として、「非商業性」が求められる。「非商業

性」とは、一定の市場金利を仮定して、キャッシュフロー分析を行った場合、収益が得ら

れない(第1キー・テスト)、あるいは、他の資金で実際に埋められるのか(第2キー・

テスト)ということである。しかし、個々の事例の分析によって判断されることに論理的

にはなっているものの、実際には、事実上、当該案件のセクターによって、「非商業性」

が認めら得るのか、「商業性」案件となりタイド化が否定されるのかが決まるようである。

例えば、火力発電においては多くの場合「商業性」案件となりタイド援助が否定されるの

に対して、再生可能なエネルギー源に関しては「非商業性」案件となりタイド援助が認め

られる。従って、このようなヘルシンキパッケージが存在すると、ODAをタイド化する

という動機から、ポートフォリオにおいて「商業性」のない環境案件が選好される可能性が

ある。

2-4 新たな環境問題に対する対応

 多国間の地球環境保全資金メカニズムとしては、オゾン層破壊対策に関してはモントリ

オール議定書実施のための多国間基金が設立され、気候変動、生物多様性、国際水域、オ

ゾン層(多国間基金では支援されない旧東欧・ソ連地域向け)についてはGEFが利用さ

れてきた。しかし、新たな環境問題の中には、以上のような資金メカニズムの対象に必ず

しもうまく含まれないものもあった。例えば、POPs(残留性有機汚染物質)対応等が

その例であったといえる。

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 しかし、例えばPOPsに関しては、条約交渉の進展を踏まえ、最近GEFの枠組みの

下でも扱えるようになり、砂漠化対処案件についても、より一層促進していくこととなっ

た。また、それに関連して、従来の3実施機関に加えて、FAO、UNIDO、IFAD

が執行機関(Executing Agency)として活動できるようになった。つまり、従来、GE

Fの実施機関の「独占問題」といわれた問題に関して一定の解答を示すことにもなった。従

って、これは単なる管轄の拡大だけではなく、組織的にもそれなりに大きな変化であると

いえる(なお独占問題に関しては、1999年5月のGEF第13回総会で地域開発銀行

を執行機関とするという決定もなされ、進展が見られた)。

 ただし、新たな環境問題への対応という課題への対応は、そのための特定の多国間資金

移転メカニズムに限定されるわけではない。例えば、二国間資金移転メカニズムや世界銀

行のような包括的資金メカニズムも各々自主的に新たな環境問題に対する対応が可能であ

る。従って、新たな環境問題への対応という実質問題に関しては、GEFの管轄の変化が

必ずしも大きな意味を持つとはいえない。

2-5 温暖化対応のためのCDM等

 気候変動枠組条約を具体化するために1997年12月に採択された京都議定書では、

排出ガス削減単価の安い途上国において義務の一部を履行するために先進国が途上国に対

して資金等を移転するメカニズムとして、CDM(Clean Development Mechanism)が

規定された。このCDMが実際に動き出すと、途上国への資金移転に大きなインパクトを

及ぼす可能性がある。しかし、CDMの具体的な制度設計に関しては、まだ十分に詰まっ

ていない。

 さらに、制度設計に内在する困難もある。CDMプロジェクトとして認められる条件と

しては、追加的であること(additional)が求められる。これは、当該プロジェクトがな

い場合の将来の温暖化ガス排出量よりも、プロジェクトの実施により排出量が少なくなる

ことを意味する。この要求を具体的にいかに解するのかというのは難しい。当該プロジェ

クトに商業性のある場合(投資に対する一定の収益が見込める場合:これは、前提となる

金利、プロジェクト実施国での社会的配慮に基づく規制を考慮するのか、収益率をどう仮

定するのかによって、具体的判断は異なってくるが)、当該案件はCDMがなくとも商業

ベースで実現される可能性があるので追加性がないと判断されるとすると、追加性を認め

る範囲はかなり狭くなる。他方、当該案件に関して提案の時点で具体的な競合する投資主

体が認められない場合には追加性が認められるとすると、その範囲はかなり広くなる。

 つまり、追加性等の条件がいかに定められるかにより、途上国における地球環境保全プ

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ロジェクトのための国際的資金移転が実際に増えるのかが決まるということになる。

 また、交渉がまとまらず再開会合の開催を決めた気候変動枠条約の第6回締約国会議(2

000年)後に、気候変動枠組み条約・京都議定書のための資金メカニズムとして、GE

F内に適応基金・気候変動基金を設置することが、議長から出された交渉包括案の中で新

たに提案された。前者は気候変動適応策(森林保全や砂漠化防止含む)、後者はその他の

広範な関連活動への資金供与を行うものとして提案されている。これらの案については、

第6回締約国会議再開会合(2001年7月)で討議されることになっている。

2-6 我が国の対応

 我が国は、国際協力銀行(JBIC)や国際協力事業団(JICA)のプログラムにお

いても環境分野を重視することを通して、地球環境保全のための資金メカニズムの拡充に

大きな貢献をしてきた。また、経済産業省のいわゆるグリーンエイドプラン(特別会計の

実証実験の範疇での活動)等を通して、ODAの枠外においても地球環境保全に対する貢

献を行ってきた。しかし、それらの活動は各々別個に行われており、有機的に連携されて

おらず、また、他の国や国際機関の活動との連携も少なかった。このことは本報告書の中

心であるGEFと我が国の援助機関との連携案件が実質1件であることにも現れている。

しかし、今後は、国の財政事情も悪化し、ODAに対する国内的支持もかつてのようには

安定的ではなくなる中で、様々なかたちでの連携を強化していく必要がある。確かに援助

機関の観点からすれば、未だにGEFの手続きは煩雑であったり時間がかかったりという

問題点はあり、それらについて改善を主張していくことは必要である。しかし、同時に、

我が国がその拠出に貢献しているGEFのような国際的資源も積極的に活用すべきなので

はないだろうか。

 同様の課題はNGOに関しても指摘できる。我が国のNGOの活動は質的にも量的にも

拡大してきた。しかし、GEFのような国際的資金源の利用はほとんどなく、また、GE

Fのように政策レベルでのインプットが可能である機関においても、政策的提言を行って

いるとも思われない。今後は、国際的メカニズムを用いたプロジェクトを拡大させていく

とともに、政策レベルでもきちっと発言できるようになるべきであろう。その際には、我

が国では既に世界銀行と財務省が協力してNGOとのパートナーシップというセミナーを

4回開催しているが、類似のものをGEFの関係で開催することを検討する意味はあろう。

 企業に関しても同様の課題が指摘できる。先にも述べた近年の途上国に対する民間資金

移転の重要性の増大もあって、様々なドナー機関は、民間資金、民間企業と開発援助のパ

ートナーシップを拡大することに熱心となっている。GEFにおいても、例えば企業が燃

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料電池バスを無償供与し、GEFが途上国政府における普及メカニズム作りを支援し、こ

れにより大規模な燃料電池バスの市場において普及させ、気候変動対策にするというプロ

ジェクトなど、民間とのパートナーシップによるプロジェクトが増えている。しかし、こ

のようなパートナーシップは欧米企業が中心であり、我が国企業はあまり積極的でないよ

うに見える。我が国企業においても環境技術で比較優位のある分野は多くあり、積極的な

パートナーシップの構築が望まれる。また、調達面においても、これまで我が国企業は、

我が国のODAが量的に急激に拡大するという環境のもとで、それに依存し、世界銀行や

GEFといったメカニズムにおいて調達を確保するという積極的行動をとってこなかった

傾向があるように思われる。しかし、そのような活動の結果、国内ODAにおける我が国

企業の調達獲得率と国際的メカニズムにおける調達獲得率はかなり異なっているといわれ

ており、それが海外からの猜疑心を基礎付ける1つの要因となっている。そのような猜疑

心を払拭する上でも国際的メカニズムにおける我が国企業の活動強化は不可欠である。さ

らに、GEFにおける欧米企業の積極的活動が示唆するように、高い公共性を持つGEF

のような機関との活動によって、企業は社会的に良いイメージを確保することができ、そ

れは最終的に企業の利益とも合致することになる。そのような意味でも、短期的利害計算

を超えて、我が国企業も国際的メカニズムにおける活動を強化するべきではないだろうか。

1 ガレス・ポーター、ジャネット・ブラウン、『入門・地球環境政治』有斐閣書店、14

8-149頁。2 『アジェンダ21』海外環境協力センター、384頁。3 ガレス・ポーター、ジャネット・ブラウン、『入門・地球環境政治』有斐閣書店、92、

170頁。4 ある研究によると、1990年では途上国への移転総額1006億ドルのうち、公的移

転が56%、民間移転が44%であったのに対して、1996年では移転総額2846億

ドルのうち、公的移転が14%、民間移転が86%であった。つまり、絶対額でいうと、

公的移転部分はほぼ一定であり、増加分は民間移転分で賄われたということになる。

Frances Seymour, “Go With The Flow?,” WRI, 1998, p.4.5 GEF homepage (http://www. gefweb.org). GEF, “Introduction to the GEF, “20 June2000. GEF,” GEF projects-Allocations & Disbursements,” November 17, 2000.6 Multilateral Fund Secretariat, Multilateral Fund for the implementation of theMontreal protocol, Policies, procedures, guidelines and criteria, December 2000. TheWorld Bank Group - Montreal Protocol Home Page (http://www-esd. worldbank. org/mp/). UN Multilateral Fund Secretariat for the implementation of the MontrealProtocol (http://www. unmfs.org). 松本泰子、「地球環境保全のための資金メカニズムの

あり方の検討:モントリオール議定書多国間基金」, 『環境と公害』30巻2号(200

0年)、岩波書店。7 GM homepage (http://www.ifad.org/gm)8 World Bank Approach to the Environment (http://www. worldbank.org/html/extdr/pb/pbenv.htm). Y. Sumi, World Bank Group Programs for Renewable EnergyDevelopment, November 6、2000.9 UNDP homepage (http://www. undp.org). Guide to UNDP’s SEED (http://www.undp.org/seed).ただし、BDPの改組によりSEEDはESDGに改編された。

Page 21: 第1部 地球環境保全のための資金メカニズムの現状 …-1- 第1部 地球環境保全のための資金メカニズムの現状と課題 第1章 地球環境保全のための資金メカニズムの現状

-21-

10 UNEP homepage (http://www. unep.org).11 ADB website ( http://www.adb.org/Environment). ADB, “The Asian Development Bank’sEnvironment Policy (downloadable at http://www.adb.org/Environment/Envpol/public.asp),”February 2001.ADB, The Environment Program Challenge and Changes at the Dawnof the New Millennium 2000-2001, 2001.12 EBRD website (http://www.ebrd.com.engish/enviro). EBRD, Serving theenvironment - The EBRD’s contribution to the environment and nuclear safety, 2000.EBRD, Financing with the EBRD, 1999.13 2001年2月GEFヒアリング(ワシントンDC)。14GEF資料(http://www.gefweb.org/Partners/Private_Sector/private_sector.html)。15 2001年2月GEFヒアリング(ワシントンDC)。16 2001年2月GEFヒアリング(ワシントンDC)。17 日本経済新聞1996年3月23日夕刊。

Page 22: 第1部 地球環境保全のための資金メカニズムの現状 …-1- 第1部 地球環境保全のための資金メカニズムの現状と課題 第1章 地球環境保全のための資金メカニズムの現状

-22-

補論:地球環境保全のための資金フローの全体像把握の試み

東京大学法学部 城山英明

はじめに

 本調査研究においては、GEFに焦点を当てているが、枠組みとしては地球環境保全の

ための資金メカニズム全体を対象としており、これを明らかにするには、GEFその他の

多国間ODAのみならず、二国間ODA、OOF、及び各種民間資金移動のうち環境保全

を目的とするもの全体のフローを知る必要があろう。しかし、これらの全体像を把握する

ことは、なかなか困難である。

そこで、本調査研究においては、不完全であることを認識しながら、地球環境保全のた

めの資金フローの全体像がどのようになっているのかを把握する試みを行った。方法論的

な資料的限界があることは認識しているが、実験的試みを行うことで課題をより明確に認

識する必要があると考えたわけである。この実験的試みに関しては、世界資源研究所(World

Resources Institute)と協力して一定の具体的作業を行った(WRIからの英文報告書につ

いては、参考のため、別紙補論資料1として添付する)。この具体的作業の試みは、あく

までも1つの試みであって、本研究会としてその結論を支持するという性格のものではな

い。ここでは、その具体的作業を主たる素材として、地球環境保全のための資金フローの

全体像の把握を試みる際の検討事項、暫定的成果、及び基本的論点について概観しておき

たい。なお、ここでの主要な目的は、地球環境保全のための資金メカニズムの全体像把握

のための方法論を検討することであり、ここで出てくる数字等については、より踏み込ん

で検討する必要のある暫定的なものであることを、あらかじめ断っておきたい。

1. 国際的資金フローの構成要素

1-1 国際的資金フローの全体像

 地球環境保全のための国際的資金フローを把握するためには、まず、国際的資金フロー

全体を把握する必要がある。その上で、各カテゴリーの資金フローにおいて、環境保全目

的部分をくくりだすことが必要になる。そこでここでは、国際的資金フローの全体像を把

握しておこう。

 国際的資金フローの全体像は、第1部第2章2-1図表1において記したように、次の

ように考えることができる。まず、国際的資金フローは民間資金と公的資金(これには多

国間資金と二国間資金がある)に分けることができる。

そして、民間資金は、海外直接投資(FDI:Foreign Direct Investment)、ポートフォ

リオ株式投資、ポートフォリオ債券投資、銀行貸付に分かれる。海外直接投資には、直接

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-23-

現地工場等を設立する場合、子会社等を設立してそこの株式を保有する場合がある。ポー

トフォリオ株式投資とは、一定のファンドを通した株式投資であり投資先の経営に直接的

に関与するものはないものであり、ポートフォリオ債券投資とは、同様に一定ファンドを

通した債券投資であり投資先の経営に関与することのないものである。また、銀行貸付と

は、銀行を通した融資であり、この場合には融資先の経営に銀行が関与することもある。

これらの4つのカテゴリーのうち、海外直接投資を除いた3つ(ポートフォリオ株式投資、

ポートフォリオ債券投資、銀行貸付)をまとめて資本市場フロー(Capital Market Flow)

と呼ぶこともある。

 また、公的資金は、ODA(Official Development Assistance)、OOF(Other Official Flow)

に分かれる。このうち、ODAとは、途上国あるいは多国間機関向けに政府機関が提供す

るものであり、経済開発・厚生目的を目的とするものである。ODAについては、譲許性

(グラントエレメント25%以上)が要求される。また、OOFは、開発目的以外の目的

(商業目的、輸出促進、投資支援等)のために供給される公的資金、あるいは開発目的の

ための公的資金ではあるが譲許性が低いもの(グラントエレメント25%以下)である。

 さらに、一定のプロジェクトの遂行のために、様々な資金フローが組み合わせて利用さ

れるものとして、プロジェクトファイナンスがある。

 以下では、ODA、OOF、海外直接投資、資本市場フロー(ポートフォリオ株式投資、

ポートフォリオ債券投資、銀行貸付)の各国際的資金フローについて、最近の動向を見て

みよう。

1-2 最近の各国際的資金フローの動向

1-2-1 公的資金メカニズム

1-2-1-1 ODA

 このODAは、近年停滞の傾向にある。1990年代においては、1991年から19

92年をピークにしてその後減少しており、1997年が最低レベルとなるが、その後若

干改善している。具体的には、その総量レベル(全体及びG7諸国)に関しては、以下の

図1のような動向にある(OECD統計による)。

Page 24: 第1部 地球環境保全のための資金メカニズムの現状 …-1- 第1部 地球環境保全のための資金メカニズムの現状と課題 第1章 地球環境保全のための資金メカニズムの現状

-24-

図1 Net ODA Disbursements from all donors and G7 countries to Developing

Countries (US $ Million, 1999 prices)

Source: OECD. 2001. DAC-Online, Table 1.

1-2-1-2 OOF

  OOFの近年の動向は、以下の図2のようになっている(OECD統計による)。最

近の増加は、金融危機後のリスケジュール(債務繰り延べ)への対応や輸出信用の増大に

よる。

図2 Net Disbursements of OOF to Developing Countries (US $ Million)

Source: OECD. 2001. DAC-Online, Table 2b.

1-2-2 民間資金フロー

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999

-

10,000.00

20,000.00

30,000.00

40,000.00

50,000.00

60,000.00

70,000.00

G7,Total

ALLDonors,Total

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999

0

5000

10000

15000

20000

25000

30000

G 7,T o tal

A LL

D o no rs ,

T o tal

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-25-

1-2-2-1 海外直接投資

 前述のように、海外直接投資(FDI)とは、現地工場や子会社設立、あるいは現地企

業の株式取得のための民間資金移転であり、以下の資本市場移動とは異なり、資金移転先

の経営に発言権を持つものである。上記の公的資金(ODA+OOF)及び下記の資本市

場資金と比較した近年の途上国向けFDIの動向は、以下の図3の通りである(世界銀行

統計による)。他の資金と異なり、近年まで伸びつづけていた点に特徴がある。

 ただし、FDI資金全体のうち、途上国向け資金の比率は減少しつつある。金融危機以

前の1997年には途上国向け資金が36.5%であったのに対して、2000年には1

5.9%になっている。また、2000年(総額1兆1118億ドル)において、途上国

向けFDIの74%は、上位10カ国(中国、ブラジル、メキシコ、アルゼンチン、マレ

ーシア、ポーランド、チリ、韓国、タイ、ベネズエラ)に投資されている。他方、FDI

の大部分は、先進国におけるM&Aに投資されている。

図3. Net Long term Resource Flows to Developing Countries

Sources: World Bank. 2001. Global Development Finance 2000 and 2001. Washington DC: World

Bank

1-2-2-2 資本市場フロー(Capital Market Flow)

 前述のように資本市場フローには、銀行等による貸付、債券発行によって調達された資

金、現地企業の株式取得のための資金のうちポートフォリオ投資によって行われたものが

含まれる。これらはいずれも、投資先の経営とは切断されている点に特色がある。上記の

公的資金及びFDIと比較した場合の近年の動向は図3の通りである(世界銀行統計によ

る。ただしここでは、長期資金移転に限定されている)。

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000

Of f icial

F lo w s

(public)

C apital

F lo w s

(private)

F o reig n

D irect

Investment

(private)

Page 26: 第1部 地球環境保全のための資金メカニズムの現状 …-1- 第1部 地球環境保全のための資金メカニズムの現状と課題 第1章 地球環境保全のための資金メカニズムの現状

-26-

 途上国向け資本市場フローは、1996年までは急増していたが、1997年の金融危

機後急激な減少に転ずる。その後、2000年には回復の方向に向かった。

 資本市場フローについては、全体的には、FDIの場合以上に先進国への集中度が高い。

2000年(総額4兆3240億ドル)には、5.5%のみが途上国向けであり、さらに

その途上国向け資金のうち97%は中所得国向けであった。

1-3 対象の限定

 以上のように、国際的資金フローとしては、公的資金(ODA、OOF)、民間資金(F

DI、資本市場フロー)が存在する。

これらのうち、ODAについては、個別案件に関して案件の内容等を含めて詳細に記録

しているOECD・CRS(Creditor Reporting System)というデータベースが存在する。

そのため、ODAの中から環境保全目的部分をくくりだす作業は相対的に容易である。し

まし、OOFに関しては、OECDの簡略化されたデータベースは存在するものの、CR

Sといった詳細なデータベースは存在しない。そこで、現段階では、公的資金のうちOD

A資金に限定して、2.において、環境保全目的部分をくくりだす試みを行ってみること

としたい。

 次に、民間資金については、FDI、資本市場フロー(ポートフォリオ株式投資、ポー

トフォリオ債券投資、銀行貸付)のいずれについても先に紹介したようなマクロ・データ

は存在するものの、個別案件に関するデータベースは存在しない。民間資金に関して若干

のデータがあるのは、プロジェクト・ファイナンスに関してである。具体的には、商業用

データベースとして、ProjectWare というものがある(これは、ロンドンの Capital Data

Limited という会社によって作成されている)。ただし、このプロジェクト・ファイナン

スのデータは、民間資金だけではなく、公的資金をも含んでいる。従って、ここで得られ

るデータは、プロジェクト・ファイナンスに限定されるという意味では、民間資金の一部

しか対象にできず、他方、公的資金も含んでしまうという点では、民間資金の量を過大評

価してしまうことになる。このような限界を認識した上で、2.においては、民間資金に

おける環境保全目的部分をくくりだしに資する実験として、プロジェクトファイナンスを

検討してみることとしたい。

2.各資金フローにおける環境保全目的部分の分離の試み

2-1 ODA

 前述のように、ODAについては、OECD・CRS(Creditor Reporting System)とい

うデータベースが存在する。このデータベースを用いて、環境保全目的部分をくくりだす

には、論理的は2つの方法が存在する。

Page 27: 第1部 地球環境保全のための資金メカニズムの現状 …-1- 第1部 地球環境保全のための資金メカニズムの現状と課題 第1章 地球環境保全のための資金メカニズムの現状

-27-

 第1の方法は、データベース化されている各ODAプロジェクトの目的に即して、環境

保全目的部分をくくりだすという方法である。CRSというプロジェクトごとのODAデ

ータベースでは、プロジェクトの目的がコードにより分類されている(目的コードについ

ては別紙補論資料2を参照)。この目的コードのうち、環境保全を目的とするものをくく

り出そうというわけである。

 第2の方法は、CRSにおける環境マーカーを用いるという方法である。CRSにおい

ては、各ドナーの自己申告に基づいて、各プロジェクトを、「環境保全を主たる目的とす

る」、「環境保全に資する」、「環境保全とは無関係」の3種類に色分けしている。そこで、

「環境保全を主たる目的とする」、「環境保全に資する」とされたプロジェクトを積み上げ

ることによって、環境保全目的部分をくくり出そうというわけである。

 本来、時間的余裕等があれば、双方について実験を試みてみることが望ましいのである

が、以下の理由により、今回は第1の方法をとることとする。

第1の理由は、環境マーカーについては、「環境保全を主たる目的とする」、「環境保全

に資する」、「環境保全とは無関係」の3種類の色分けが各ドナーの主観的判断に広範にゆ

だねられるので、各ドナーによって実質的基準が異なる可能性が大きいということである。

同様の可能性は、論理的には目的コード毎の振り分けにもあるのであるが、目的コードの

方がはるかに詳細であり、また、分類基準に客観的要素がより強いので、目的コード毎の

振り分けについてはより統一的処理の可能性が高いと考えられる。

第2の理由は、データ存在の制約である。環境マーカーは1995年以降に導入されて

いるため、データが1995年以降についてしか収集できない。しかし、今回は、199

2年のリオサミットを含む1990年代全体の環境保全目的資金フローの全体像をも把握

したいため、1995年以降に限定されるデータは使いづらい。

第3の理由は、環境保全目的案件をさらに細分化して検討したいということである。環

境保全案件にも様々なものがあるのであり、その中をプロジェクトの性格ごとにサブカテ

ゴライズし、そのサブカテゴリー毎の動向を見ることも必要である。そのためには、詳細

なサブカテゴリーに基づいて分類を行う第1の方法が望ましい。

第4の理由は作業上の理由である。目的コード別については、OECDデータベース上

で、簡単に目的コードを特定した上でプロジェクトの一覧を検索することが可能になる。

しかし、環境マーカーについてはそのような簡単な操作による一覧はできない。そのため

に、個別プロジェクトについてすべて打ち出した上で、その上で環境マーカーに応じて分

類集計する必要が出てくる。これは、今回のような時間の限られた作業では難しい。

 さて、第1の方法を採るとした上で、目的コードのうちどの部分を環境保全目的として

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-28-

くくり出すかが問題となる。これは、なかなか困難な作業である。例えば、交通(210

00)については海上、航空、鉄道といった交通モード別になっているため、環境保全部

分を括りだすのは難しい。他方、エネルギー(23000)に関しては、太陽光発電、再

生可能エネルギー発電、風力発電等が括りだされているので、環境保全関連プロジェクト

を括りだすのは相対的に容易である。また、産業発展(32100)、人口問題への対応

(13000)等、間接的に環境保全にも寄与すると思われるものをどう扱うのかという

問題もある。

 今回の作業では、産業発展、人口問題への対応等間接的に環境保全に寄与するものを取

り除き、さらに、交通等環境保全案件をくくりだすデータの存在しないものを取り除くと

いう保守的な前提のもとで、環境保全案件をくくりだす試みを行ってみたい。それでもく

くりだし方によってかなりの程度数字が異なってくる。これは、くくりだし基準の取り方

によって、どれくらい数字が変わってくるのかを試してみる実験でもある。

 具体的には、以下の4つの方式(Screen I、Screen II、Screen III、Screen IV)によって、

くくりだしを試みてみたい(別紙補論資料2では、それぞれのスクリーンを用いた場合に

くくりだす対象に、各々色付けしている)。このうち、第1スクリーン(Screen I)はOE

CDが、第2スクリーン(Screen II)は世界銀行があるところで使った基準である(ただ

し、この基準に基づいて経年的に収集したデータが存在するわけではない)。他方、第3

スクリーン(Screen III)は今回の作業において世界資源研究所が相対的に狭い基準として

用いてみたもの(それでも場合によってはスクリーン1、スクリーン2よりも広いが)、

第4スクリーン(Screen IV)は今回の作業において世界資源研究所が相対的に広い基準

として用いてみたものである。OECD・CRSコードでいうと、各々は以下のものを対

象とする(Table 1、Table 2、Table 3、Table 4 を参照)。なお、今回の作業の目的は、最適

の分類基準を作成することではなく、いくつかの分類を実験してみることであることを確

認しておきたい。また、以下のような分類についても、よく検討してみれば様々な疑義が

ありうることについては、3-2-1において、まとめて検討しておきたい。

Table 1. OECD Memo Item (Screen I)14015 Water resources protection14050 Waste management/disposal41010 Environmental policy and administrative management41020 Biosphere protection41030 Bio-diversity41040 Site preservation41050 Flood prevention/control41081 Environmental education/ training41082 Environmental research

Table 2. World Bank Classification (Screen II)23066 Geothermal energy23067 Solar energy23068 Wind power23070 Biomass23081 Energy education/training23082 Energy research31220 Forestry development31282 Forestry research31291 Forestry Service41010 Environmental policy and administrative management41020 Biosphere protection41030 Bio-diversity41081 Environmental education/ training41082 Environmental research

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-29-

 以上の各々の基準を用いた場合における、二国間ODA、多国間ODAに関する環境保

全案件の規模、及びODA総額との対比における環境保全案件の規模の推移は、以下の図

4、図5、図6、図7のようになる。

 

Table 3. WRI Narrow (Screen III)14015 Water resources protection14050 Waste management/disposal23030 Power generation/renewable sources 23066 Geothermal energy23067 Solar energy23068 Wind power23069 Ocean power23070 Biomass31130 Agricultural land resources31210 Forestry policy and administrative management31220 Forestry development31281 Forestry education/training31282 Forestry research41010 Environmental policy and administrative management41020 Biosphere protection41030 Bio-diversity41040 Site preservation41050 Flood prevention/control41081 Environmental education/ training41082 Environmental research

Table 4. WRI Broad (Screen IV)14010 Water resources policy and administrative management14015 Water resources protection14020 Water supply and sanitation - large systems14030 Water supply and sanitation - small systems14050 Waste management/disposal14081 Education and training in water supply and sanitation23030 Power generation/renewable sources 23066 Geothermal energy23067 Solar energy23068 Wind power23069 Ocean power23070 Biomass23081 Energy education/training23082 Energy research31130 Agricultural land resources31140 Agricultural water resources31192 Plant and post-harvest protection and pest control31210 Forestry policy and administrative management31220 Forestry development31281 Forestry education/training31282 Forestry research31291 Forestry Service31320 Fishery development41010 Environmental policy and administrative management41020 Biosphere protection41030 Bio-diversity41040 Site preservation41050 Flood prevention/control41081 Environmental education/ training41082 Environmental research43030 Urban development43040 Rural development

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-30-

.

図 4. Environmentally Targeted Bilateral ODA

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

8,000

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 Year

US $ in Million

Screen I (OECD) Screen II (WB) Screen III (WRI) Screen IV (WRI)

Screen IV Broad Estimation

Screen III Moderate Estimation Screen

I

Screen II Screen I and II Narrow Estimation

Source: CRS

図 5. Environmentally Targeted ODA as a Share of Net Bilateral ODA

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

40,000

45,000

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 Year

US $ in Million Screen I (OECD) Screen II (WB) Screen III (WRI) Screen IV (WRI) All Sectors

All Sectors/All Bilateral Commitments

Environmental ODA Screen I to IV

Source: CRS

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-31-

図6. Volume of Environmentally Targeted Net Multitaleral ODA Commitments

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 Year

US $ in Million Screen I (OECD) Screen II (WB) Screen III (WRI) Screen IV (WRI)

Screen IV Broad Estimation

Screen III Moderate Estimation

Screen I

Screen II Screen I and II Narrow Estimation

Source: CRS

図7. Environmentally Targeted ODA as a Share of Net Multilateral ODA

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 Year

US $ in Million Screen I (OECD) Screen II (WB) Screen III (WRI) Screen IV (WRI) All Sectors

All Sectors/ All Multilateral Commitments

Environmental ODA Screen I to IV

Source: CRS

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-32-

 また、各基準を用いた場合の環境保全ODAの絶対額の国別順位は図8のように、比率

の国別順位は Table 5 のようになる。

以上より、どの基準をとるかによって差異があるものの、環境保全案件に関しては、量

的には日本が、比率の上では北欧諸国等(デンマーク、フィンランド、オランダ)が優位

にあることがわかる(より厳密な比較を行うためには、量、比率各々の比較に際して、贈

与と借款を分けて検討する必要がある)。

2-2 民間資金メカニズム

民間資金に関して環境保全部分を切り離すことを可能にするようなデータベースはない。

前述のように、若干のデータがあるのは、プロジェクト・ファイナンスに関してである

(ProjectWare)。

Table 5. Donor Countries Directing Largest Shares of National ODA to Environmentally Targeted Activities, 1995-99

Year 1995-9 Country 1995-9 Country 1995-9 Country 1995-9 Country 1995-9Denmark 6.62% Netherlands 7.81% Finland 11.29% Denmark 22.11%Finland 6.35% Denmark 7.06% Netherlands 8.87% Japan 20.84%Netherlands 5.93% Finland 5.84% Denmark 8.86% Finland 20.36%Australia 5.00% Switzerland 5.33% Switzerland 7.50% Germany 19.88%Japan 4.66% Australia 5.31% Japan 7.47% Netherlands 19.25%

Screen I (OECD) Screen II (WB) Screen III (WRI) Screen IV (WRI)

図8. Top Donor Countries for Environmentally Targeted Bilateral ODA, 1995-99

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

Screen I (OECD) Screen II (WB) Screen III (WRI/Modrate) Screen IV (WRI-

Broad) Classification of CRS Codes

US$ in Million Japan US Netherlands Germany Denmark

Source: CRS

Japan Japan

Japan

Japan

US US US

US

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-33-

このプロジェクト・ファイナンスのデータベース(1994年以降で総額1兆2000

億ドルのプロジェクトが対象となっている)においては、特定の分野を選んで環境保全案

件として以下のものをくくりだすことができる。具体的には、再生可能なエネルギー

(Renewable:電力案件の一部を切り取る)、都市交通(Urban Railway/LRT/MRT)、廃棄

物(Waste)、及び水(Water&Sewerage)である。各分野の、民間資金、公的資金を含めた

これまでの額、今後計画分(表の右端部分)の額については図9のようになる。これまで

は、各分野を足しても毎年100億ドルに達しない。なお、今後計画分の内訳は、水33

0億ドル、都市交通250億ドル、再生可能エネルギー80億ドルである。

図9. Completed Project Finance Deals With Potential Environmental Benefits In

Developing Countries (US $ millions)

Source: Database search and analysis conducted by the World Resources Institute using

ProjectWare (a database product of Capital Data Ltd., United Kingdom, 2000).

3.現段階での暫定的解釈と今後の課題

3-1 暫定的解釈

3-1-1 ODAにおける環境部分

 ODAにおける環境部分の総額は、分類基準として第4スクリーンをとった場合でも年

0.00

10,000.00

20,000.00

30,000.00

40,000.00

50,000.00

60,000.00

70,000.00

1994 1995 1996 1997 1998 1999

R enewables

Urban railway

LR T /M R T

Water and

sewerage

Was te

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間55~85億ドル程度である。第3スクリーンをとった場合、年間12~32億ドル程

度、第2スクリーン、第1スクリーンをとった場合、年間7~24億ドル程度である。つ

まり、最大でODA総額の10~12%、狭義の定義の場合で1~4.5%程度というこ

とになる。

 なお、分類基準として第2スクリーン、第4スクリーンをとった場合、多国間環境保全

ODAのピークは1992年、二国間環境保全ODAのピークは1996年となる(第1

スクリーン、第3スクリーンでは、ピークの差異は明確にならない)。また、これは、各々、

ODA総量のピーク年とはずれている。

3-1-2 民間資金の役割

 図3に見られるように、民間資金の役割は急激に増大している。しかし、図9を見る限

り、プロジェクト・ファイナンスにおける環境保全案件の比率はかなり限られている(プ

ロジェクト・ファイナンス総額1兆2000億ドルのうち、環境関係案件は1994年か

ら1999年まで最大でも年100億ドル以下。今後計画分も640億ドル)。プロジェ

クト・ファイナンスには公的資金も含まれており、また、民間資金も資金の種類により環

境保全案件の比率は異なると思われるので、簡単な推計はできないが、プロジェクト・フ

ァイナンスの傾向を見る限り、民間資金フローにおける環境保全案件の比率はそれほど高

くはないのではないかと思われる。

3-1-3 環境保全案件内における各分野の動向

 ODA環境保全案件内の各分野(OECD・CRSコード別)における資金動向につい

ては詳細な資料があるが(別紙補論資料3)、それをみると各分野各々において次のよう

な資金動向の変化が観察される。特に、太陽光、風力発電の傾向などは興味深く思われる。

水資源政策行政(14010):当初に比べて減少の傾向が見られる(特に二国間)。

 水資源保護(14015):増大の傾向がみられる。

廃棄物(14050):増大の傾向がみられるが、ここ2年は必ずしもあてはまらない。

再生可能エネルギー発電(23030)・地熱(23066):1994年に突出して多

い。

太陽光(23067)・風力発電(23068):増加傾向にある(1994年あたりか

ら)。

農業水資源(31140):比較的コンスタントに多い。

林業(31200):1993年~1995年は相対的に少ない。

環境政策行政(41010):増加傾向にある。

3-1-4 各国比較

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環境保全目的のくくりだしに関して、どの基準をとるかによって、若干の差異があるも

のの、ODA環境保全案件に関しては、前述のように、量的には日本が、比率の上では北

欧諸国等(デンマーク、フィンランド、オランダ)が優位にあるようである。

3-2 今後の課題

3-2-1 ODAにおける環境保全目的のくくりだし

 ODAの中で、環境保全目的のものをいかにしてくくりだすのかという基本的問題に関

しては、なお検討の必要がある。

 例えば、現状では、いずれのスクリーンにおいても、交通については交通モード間の差

異化しかないため(大量交通手段を差異化していない)、含まれていない。また、天然ガ

ス(32262)通信(22000)も含まれていない。他方、第4スクリーンの場合、

林業(31210)水(14010)では政策・行政管理も環境案件に入るが、農業(3

1110)漁業(31310)では政策・行政管理は入っていない。また、第3スクリー

ンでは、林業のみが政策・行政管理が環境案件に入っている。さらに、第4スクリーンに

関しては、都市開発(43030)農村開発(43040)まで入っている。そのような

仕切りが果たして適切か否かといった課題もある。

また、産業発展(32100)、人口問題への対応(13000)等、間接的に環境保

全にも寄与すると思われるものをどう扱うのかという問題も残っている。確かに、国連の

DESA(Department of Economic and Social Affairs)の持続可能性に関する Financial Flow

Statistics のように、全てを環境保全=持続可能性の確保に入れてしまうのも問題であるが、

何らかの形で、間接的効果をも配慮する必要があるかもしれない。

 他方、CRSデータベースの整備という観点からは、目的コードに関して、環境的側面

をより反映できるものへと修正していくことも検討の必要があろう。例えば、交通(21

000)については海上、航空、鉄道といった交通モード別になっているため、環境保全

部分を括りだすのは難しいが、エネルギー(23000)に関しては、太陽光発電、再生

可能エネルギー発電、風力発電等がくくりだされているので、環境保全関連プロジェクト

をくくりだすのは相対的に容易である。今後は、交通(21000)についても、環境的

側面を配慮した目的コードの細分化を検討する必要があるのではないか。

3-2-2 OOF

 OOFについては、ODAの場合以上に、データ及び環境保全案件を括りだす基準が存

在しない。

 この分野に関しては、今後詳細なデータを整備していく必要がある。これは、世界銀行

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(この通常業務はOOFにあたる)がいうポートフォリオの環境主流化(mainstreaming)

を検証するためにも不可欠である。

3-2-3 民間資金

 民間資金の環境保全部分については、現在、プロジェクト・ファイナンスに関して、部

分的なデータがあるのみである(しかも、公的資金と民間資金を十分峻別できていない)。

この分野については、今後のデータ整備の相当の困難が予想されるが、その必要性は高い。

そこで、具体的に可能性のある方策として、以下のようなものが検討されうる。

第1に、輸出信用等のOOFとパッケージになっている民間資金について、まず、環境

上の観点からの情報収集を行う可能性を検討することができよう。多くの民間資金フロー

は輸出信用等OOFとリンクしているのであり、OOFを手がかりとして民間資金に関す

る情報収集を行うのは有効である。

第2に、民間のエコファンド等と協力し、その投資対象の判断基準や、そこへの投資規

模に関するデータを収集することが考えられる。ただしエコファンド自身の投資規模は限

られているので、今後はエコファンドのような民間主体が単に自らが投資主体になるので

はなく、他の民間資金フローに関する環境に関する評価主体として情報収集の結節点とな

るような方策も検討されうる。

おわりに

本調査研究においては、地球環境保全のための資金フローの全体像がどのようになって

いるのかを把握する試みを行った。方法論的、資料的限界があることは認識させられたが、

実験的試みを行うことで課題をより明確に認識することはできたように思われる。今後と

もさらに、3-2で論じたような課題を踏まえて、基礎的作業を積み重ねる必要があるの

ではないかと思われる。

注)この補論において用いた、図1、図2、図3、図4、図5、図6、図7、図8、図9、

Table 1、Table 2、Table 3、Table 4、Table 5 は、Lily Donge, Masaru Kato, Crescencia Maurer, “An

Environmental Analysis of Recent Trends in International Financial Flows with a Special Focus on

Japan,” World Resource Institute; July 2001 (補論添付資料1)の、各々、Figure 3、Figure 5、

Figure 1、Figure 6、Figure 7、Figure 8、Figure 9、Figure 10、Figure 20、Table 1、Table 2、

Table 3、Table 4、Table 5 を引用したものである。