第1回 薬剤学概論・薬の副作用 - keio...
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C13 薬の効くプロセス(4) 薬物の臓器への到達と消失
- 第1回 -
薬剤学概論・薬の副作用
教科書:ネオメディカル「薬の生体内運命」(改訂3版第2刷)
pp.10 〜 39
薬剤学講座(3号館6階) 崔 吉道 准教授
平成20年4月10日(木) 13:15〜14:30 355講義室
講義と定期試験の範囲と評価
• 教科書:第1部、第2部(第5章を除く)
– 授業中に紹介するエピソード
– 最新情報 (論文・学会等でのトピックス)
• 国家試験過去問
• 外部講師による特別講義(3回)
~これら全てが定期試験の出題範囲
• 成績評価:定期試験76%、レポート24%
• 講義のレポート提出(A4専用用紙、1枚)
→ 復習することが目的、出欠ではない
• 次回講義日の前日、16:15(5限開始前)までに
ポスト(No. 31)に提出すること
経口剤
様々な剤形と投与方法
顆粒剤錠剤
カプセル剤
点眼剤
貼付剤
1. 無理のない投与2. 薬効が充分発揮
3. 適切な作⽤時間
医薬品に必要な条件とは?
経口剤
吸入剤坐剤 軟膏剤
注射剤
〜剤形は薬剤の特性に応じて決定される。くすりの⽣体内運命と深く関わっている。
4. 安全に使⽤可能
5. 必要量服⽤可能6. 物理的強度保持
効果 副作⽤ 致死
100 (%)治療に使う投与量の領域
は副作⽤
薬のさじ加減(効果と副作⽤は薬の⽤法・⽤量によって決まる)
50
0ED50 TD50 LD50
効果または
薬の投与量EffectiveToxicLethal
抗不安薬のED50とLD50
ジアゼパムクロルジアゼポキシドダゼパ
ED50 LD50 LD50/ED 50
2 970 485
8 530 66
主薬
メダゼパムニトラゼパムブロマゼパム
Gordon: Psychopharmacological Agents III (1974)
マウス mg/kg
7 820 117
0.7 2300 3,286
0.7 3200 4,571
ED50とLD50との間には60 ~ 4,500倍も差がある
効果 副作⽤
100 (%)
治療域⼀般薬
効果 副作⽤
治療域抗癌薬
投与量
50
0ED50 TD50 ED50 TD50
2
は副作⽤
薬の「効き⽅」の個体差(効果と副作⽤は患者によってまちまちである)
薬の効果または
投与量
患者A 患者B 患者C
薬物の体内動態(吸収・分布・代謝・排泄)と
作用部位局所での薬物濃度との関係
治療部位
“レセプター”
結合形 非結合形
非治療部位
結合形 非結合形
貯蔵組織
非結合形 結合形
分 布
排 泄
▲
吸 収(非結合形)
(タンパク結合形)(代謝物)
▲
血 液
分 布
代 謝
(薬物)
• インドメタシン(NSAID) 98%
• テオフィリン(喘息治療薬) 96%
• キニジン(抗不整脈薬) 80%
• ジゴキシン(強心配糖体) 70%
• ファモチジン(H2ブロッカー) 45%
様々な薬物の吸収率
• d-マレイン酸クロルフェニラミン
(抗ヒスタミン薬) 41%
• エリスロマイシン(抗生物質) 35%
• アシクロビル(抗ウイルス薬) 15~30%
• 塩酸モルヒネ(麻薬性鎮痛薬) 24%
薬剤師のための常用医薬品情報集(辻 彰 総編集) より
薬剤の崩壊、分散、溶解、生体膜透過
(p.17)
毒性域
血中
濃度
治療域
~薬物は、体内に取り込まれ、やがて消失する
薬効を発現するためには必要量、必要時間体内に存在する必要がある
無効域
時 間 (Hr)
くす
りの
血
薬物を内服後の血中濃度の時間推移
↑ 投与開始
毒性域
中濃
度
薬物B(投与量3倍)
くすり(剤形)によっても血中濃度の時間推移が違う!
くすりの処理能力が、変動することがある
→ 薬剤師がTDMを行い精密に管理する
薬物B
治療域
無効域
時間
くすりの血
中
いろいろな薬剤を内服後の血中濃度の時間推移
薬物A
6:00 12:00 18:00 24:00/0:00
薬物B1日3回
3
150200
mL)
静脈内投与後の血清中薬物濃度推移(例)
時間 血清中濃度(h) (μg/mL)0.08 155.80.16 149.40.25 147.50.50 146.70.75 134.7
ある薬物の静脈内投与後の⾎中濃度が図のように推移した。このデータから、この患者の体内動態の定
量的評価と予測可能となる。
050100150
0 5 10 15 20時間(h)
⾎清中濃度(ug/1.00 134.7
1.5 124.82.0 108.22.5 103.33 89.574 75.896 55.358 37.1112 18.78
ケーススタディ~65歳、男性、本態性高血圧患者。ここ数年Rp.1で血圧コントロール良好。数ヶ月地方に出向中に持参薬が切れ、近医受診。医師は、自分が良く使うセパミットRカプセルを処方した
Rp.1 (かかりつけの内科の処方)アダラートL錠(20mg) 2錠
1日2回 朝夕食後 14日分Rp.2 (出張先の内科での処方)
セパミ トRカプセルセパミットRカプセル1日2回 朝夕食後 14日分
【ニフェジピン徐放性製剤】アダラートL錠 (固形微粉化フィルムコート錠)
: Cmax: 49.8 ng/mL, Tmax: 3 hrセパミットRカプセル (腸溶性顆粒と胃溶性顆粒の混合物のカプセル)
: Cmax: 87.2 ng/mL, Tmax: 4 hr
の効果または副作⽤
患者A 患者B 患者CA B C
同じ投与量の薬を投与した時、薬の効果や副作⽤には個体差がある。しかし⾎中濃度と薬の効果や副作⽤との対応を⾒ると、⼀般にそのような個体差はより縮⼩する
効果または副作⽤
薬の
投与量 ⾎中濃度
薬の効
薬の⾎中濃度を理解することによって、「医師の勘」ではなく、より科学的根拠の基づいた精度の⾼い投与計画が可能となる
・ 血流量 : 多い臓器 → 薬物は速く分布する少ない臓器 → 薬物の分布は遅い
・血液ー組織関門の存在
(p.100)
脳(血液脳関門)
肺臓
胃
心臓
A 吸収
↓D 分布
↓
薬の生体内運命
-崩壊、分散、溶解-拡散-消化管内pH/運動性-⽣体膜透過-トランスポーター
薬 動 学(薬物動態学、薬物速度論)Pharmacokinetis (PK)
肝臓
心臓
腎臓
筋肉,その他の組織
胆管
動脈静脈腸管
↓M 代謝
↓E 排泄
-タンパク結合-酸化、還元、加⽔分解-抱合-⽷球体ろ過-尿細管分泌-尿細管再吸収
薬 力 学Pharmacodynamics (PD)
教科書の構成
薬の生体内運命
–到達目標
–Key Words–POINTS本文
(p.12-13)
–本文
–図
–表
–用語解説
–練習問題(国試過去問)
4
(p.28-29)
主作用 (main effect)
~本来の投与目的である作用
副作用 (広義の)
~通常用量での望ましくない作用
(adverse effect)
~主作用でない作用 (side effect)
有害事象 (adverse event)
~通常用量による望ましくない作用
~直接の薬理作用と無関係なもの
シルデナフィル ミノキシジル ジフェンヒドラミン
狭心症治療 高血圧 抗ヒスタミン
勃起 発毛 眠気
性機能障害治療 脱毛症治療 睡眠改善薬
• 副作用:Adverse drug reaction米国の病院での調査– 重篤な副作用:患者の6.7%– 致死的な副作用:0.32%
• 米国では10万人相当
• ヒトへの毒性は動物実験から予測される– 一般毒性
• 明らかな形で、しばしば全身症状として発現
(p.30-)
• 急性毒性 (LD50)
• 慢性毒性 (連続または反復投与、半年~1年~)
– 臓器毒性• 心毒性、肝毒性、血液毒性、細胞毒性 など
– 特殊毒性• 刺激性、発がん性、変異原性、催奇性、生殖毒性 など
• 間接的に毒性を現す場合– アセトアミノフェン: 肝臓で代謝されて発現
– 遺伝子多型や併用薬の関与
市場から撤退した医薬品(QT延長および肝毒性)
薬物名 薬効分類 撤退の理由
グレパフロキサシン ニューキノロン系抗菌薬 QT延長
シサプリド 消化管運動改善薬 QT延長
テルフェナジン 非鎮静性抗ヒスタミン薬 QT延長
アステミゾール 抗ヒスタミン薬 QT延長
ミべフラジル カルシウム拮抗薬 QT延長
テマフロキサシン ニューキノロン系抗菌薬 腎毒性/肝毒性
ゾメピラク 非ステロイド性抗炎症薬 肝毒性
ブロムフェナク 非ステロイド性抗炎症薬 肝毒性
ベノキサプロフェン 非ステロイド性抗炎症薬 肝毒性
チクリナフェン 利尿薬 肝毒性
トログリタゾン 糖尿病薬 肝毒性
医薬品・医療機器等安全性情報 No.219 (参考資料)
ファーマコゲノミクスの展望
薬食審査発第0318001号医薬食品局審査管理課長通知 (H17.3.18付):臨床薬理試験及びその他の臨床試験において,医薬品の作用に関連するゲノム検査を利用して
被験者を層別する等の手段を用い,被験薬の有効性,安全性等を検索的,検証的に解析・評価すること
米国FDAガイダンス (2005年3月):薬物応答性の個人差の潜在的な原因を特定し,個々の治療の効果を最大限に,リスクを最小限に
することに資するもの
ファーマコゲノミクス(ゲノム薬理学)
平成17年(2005年)11月厚生労働省医薬食品局
遺伝子多型が薬物治療に影響を与える例:CYP2C9、CYP2D6、CYP2C19、NAT2、UGT1A1等 (体内薬物濃度等が変化)MDR1、 β2受容体 (薬剤応答性、副作用発現に影響)
米国FDA:塩酸イリノテカン添付文書改訂 (2005年6月)UGT1A1*28 ホモ接合体 好中球減少のリスク高初回投与量の減量を考慮
我が国:遺伝子多型検査薬 研究用として販売されている段階開発,実用化への取組みを促進副作用のリスク因子を持つ患者の事前同定は、予測・予防型の安全対策に資するもの
Pfizer Inc. Prescribing Information (2005.6より)
…
(カンプト注、トポテシン注)
肝臓
イリノテカン(親化合物)
SN-38(活性代謝物)CE1 & CE2
(カルボキシエステラーゼ)
SN-38-G
UDP-グルクロン酸転移酵素
UGT1A1
*28はプロモーターのTAリピート変異*1(野生型)は6回、*28は7回・HCl ・3H2O
CYP3A4/5消化管
代謝物(不活性)
SN-38(副作用)
ABCB1 ?ABCC2 ?
SN-38-Gグルクロニダーゼ
(腸内細菌)
ABCG2
塩酸イリノテカンの動態
5
表1 薬物代謝酵素の遺伝子多型と薬剤応答の例
遺伝子 遺伝子多型の頻度 薬物 遺伝子多型が関与する薬剤応答
CYP2C9 0.2~1%:ホモ接合体
14~28%:ヘテロ接合体
ワーファリン
(血液凝固阻止薬)
出血
CYP2D6 5~10%(代謝の遅い人) β遮断薬(メトプロロール,チモロール等)
β遮断作用の増大
CYP2C19 3~6%(白人)8~23%(アジア人)
オメプラゾール
(プロトンポンプ阻害薬)
クラリスロマイシン及びアモキシシリンとの3剤併用によるヘリコバクター・ピロリ除菌における除菌率の上昇
医薬品・医療機器等安全性情報 No.219 参考資料(参考)
平成17年(2005年)11月厚生労働省医薬食品局
表2 薬物トランスポーター及び薬物受容体の遺伝子多型と薬剤応答の例
NAT2 T341Cアレル35%(アフリカ人)45%(白人)
イソニアジド(抗結核薬)
末梢神経障害・視神経炎
UGT1A1 12%:ホモ接合体,
48%:ヘテロ接合体(白人)3~6%:ホモ接合体,15~21%:ヘテロ接合体(日本人)
塩酸イリノテカン(DNAトポイソメラーゼI阻害薬)
白血球減少(好中球減少),下痢
遺伝子 ハイリスク患者の頻度 薬物 遺伝子多型が関与する薬剤応答
多剤耐性遺伝子(MDR1) 24% ジゴキシン 血漿中濃度の上昇
β2受容体(β2AR) 37% アルブテロール β2作動薬に対する応答性の低下
正常型の遺伝子配列
AGGGCGGCATGCGGGACTACG
214
CGGGACTACAGGGCGGCATGCGGGACTACG
Ins C, nt226
CTTGCAGTGGAACCTGGTG
8630
nt8639 G - A
ACTTGCAGTGGAACCTGGTG
正常型の遺伝子配列
変異型の遺伝子配列
変異型の遺伝子配列
遺伝子診断の一例(全身性カルニチン欠乏症)
Bcn IN 1 2 3 4 5
Insertion of C, nt226(Frameshift)
1 2
3 4 5Nla IV
N 1 2 3 4 5
G A Transition at nt8,639 (Change in Trp to Stop codon)
ヒトMDR1の遺伝子多型
N C
out
inmembrane Transmembrane
ATP ATP
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28
Transmembrane
Asn 21 Asp (17.6 % hetero) Ser 400 Asn
(12.9 % hetero)
Phe 103 Leu (1.2 % hetero) tCg3435tTg
Silent
MDR1遺伝子発現量とジゴキシン消化管吸収との関係
CC (3)
CT (4)
TT (1)
140012001000800600400200
0
P-G
P In
duce
d by
Rifa
mpi
n
80
60
40
20
0CC (3)
CT (4)
TT (1)
Dig
oxin
AU
C
Indu
ced
CC (7)
TT (7)
2.4
1.6
0.8
0
Dig
oxin
Cm
ax
(µg/
L)
( )
from Hoffmeyer et al., PNAS , 97:3473 (2000)
今日のまとめ① 生体には、薬物を吸収、分布、代
謝および排泄する特殊な働きが
ある
② 薬物は、標的部位に適切な濃度、
適切な時間存在することで効果
を発揮するを発揮する
③ くすりの生体内運命を理解し制
御することは、新たな創薬と最適
な薬物療法に繋がる
④ 現場の薬剤師の鋭い洞察と基礎
研究との連携が重要となる
今後の講義予定 [ H20-C13(4) ]
4/10 薬剤学概論・薬の副作用
4/17(特別講義) 関門組織の構造 トピックス 金沢大・医 若山友彦 先生
4/24 薬物の吸収①
5/ 8 薬物の吸収②
5/15(特別講義) 企業における生物薬剤学 参天製薬 疋田光史 先生
5/22 薬物の分布①
29
5/22 薬物の分布①
5/29 薬物の分布②
6/ 5 薬物の代謝①
6/12 薬物の代謝②
6/19(特別講義) 組織移行各論 トピックス 帝京大・薬 出口芳春 先生
6/26 薬物の排泄①
7/ 3 薬物の排泄②