福岡導水 通水30年を経過して...特集 7 福岡導水 水30年を経過して...

4
特集 4 水とともに 水がささえる豊かな社会 特集 ◇事業の経緯と目的◇ 福岡市を中心とする福岡都市圏では、昭和30年代 から40年代にかけて、都市機能の集積と進展、生活 水準の向上、産業の地域展開等に伴い水道用水の需 要は著しく増大してきました。 この地域は、水源を域内の中小河川と地下水に依 存し、乏しい水源を効率的に利用していましたが、 慢性的な水不足に悩まされてきました。 また、佐賀県基 きやまちょう 山町は、地理的に福岡都市圏のベッ ドタウンとして都市化が進み、同じく水道施設の整 備が急務となっていました。 福岡導水事業は、このような水道用水の需要増加 に対処するものとして、筑後川水系水資源開発基本 計画(昭和 49 年 7 月閣議決定)に基づき、筑後川か ら福岡都市圏の 8 市 12 町(現在、9 市 7 町)及び佐賀 県基山町への水道用原水を供給することを目的とし ています。 福岡導水 通水30年を経過して ~筑後川の恵みで、潤いのある暮らしを守る~ 筑後川局福岡導水管理室 宗像市 福津市 古賀市 新宮町 篠栗町 須恵町 宇美町 江川ダム 基山浄水場 牛頸浄水場 寺内ダム 合所ダム 大山ダム 太宰府市 大野城市 筑紫野市 那珂川町 志免町 基山町 春日市 福岡市 糸島市 粕屋町 天拝湖 天拝湖 山口調整池 小郡市 久留米市 佐賀東部水道企業団 基山浄水場 福岡地区水道企業団 牛頸浄水場 凡 例 福岡導水路 水道企業団の送水管 給水行政区域 配水池(水道企業団) 基山分水 取水口 筑 後 川 宝満川 福岡導水 筑後大堰 筑後川局 福岡導水管理室 福岡導水揚水機場 博 多 湾 博 多 湾

Upload: others

Post on 12-Jan-2020

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

特集

4 ● 水とともに 水がささえる豊かな社会

特集

◇事業の経緯と目的◇

福岡市を中心とする福岡都市圏では、昭和30年代から40年代にかけて、都市機能の集積と進展、生活水準の向上、産業の地域展開等に伴い水道用水の需要は著しく増大してきました。

この地域は、水源を域内の中小河川と地下水に依存し、乏しい水源を効率的に利用していましたが、慢性的な水不足に悩まされてきました。

また、佐賀県基きやまちょう

山町は、地理的に福岡都市圏のベッドタウンとして都市化が進み、同じく水道施設の整備が急務となっていました。

福岡導水事業は、このような水道用水の需要増加に対処するものとして、筑後川水系水資源開発基本計画(昭和 49 年 7 月閣議決定)に基づき、筑後川から福岡都市圏の8市12町(現在、9市7町)及び佐賀県基山町への水道用原水を供給することを目的としています。

福岡導水 通水30年を経過して~筑後川の恵みで、潤いのある暮らしを守る~

筑後川局福岡導水管理室

宗像市福津市古賀市

新宮町

篠栗町

須恵町宇美町

江川ダム

基山浄水場

牛頸浄水場

寺内ダム

合所ダム

大山ダム

太宰府市

大野城市

筑紫野市

那珂川町

志免町

基山町

春日市

福岡市

糸島市

粕屋町

天拝湖天拝湖

山口調整池

小石原川

多々良川

御笠川

那珂川

室見川

佐田川

小郡市

久留米市

佐賀東部水道企業団基山浄水場

福岡地区水道企業団牛頸浄水場

凡 例

福岡導水路

水道企業団の送水管

給水行政区域

配水池(水道企業団)

基山分水

取水口筑 後 川

宝満川福岡導水

筑後大堰

筑後川局

福岡導水管理室福岡導水揚水機場

博 多 湾博 多 湾

特集 ● 5

福岡導水 通水30年を経過して

本事業は江川ダム、寺内ダム、筑後大堰、合ごうしょ

所ダム、大山ダムから補給を受けつつ、筑後大堰の湛水区域内(久留米市髙野地先の筑後川右岸)から取水し、途中、佐賀県基山町で佐賀東部水道企業団基山浄水場に分水して、福岡県大野城市の福岡地区水道企業団牛うしくび

頸浄水場までの導水を行うもので、延長約24.7kmの導水路及び山口調整池で導水の安定供給を図っています。

工事は、昭和49年8月1日に福岡導水調査所を発足後、昭和51年9月16日の建設所発足、同12月29日導水路工事に着工し昭和58年4月26日に導水路

工事が完成、昭和58年11月2日に福岡地区の暫定通水(基山町は昭和61年12月1日)を開始しました。

また、平成4年2月15日には、導水の安定供給を目的として、福岡県筑

ち く し の し

紫野市山口に中央遮水ゾーン型ロックフィルタイプの調整池本体工事を着工し、平成 8 年 3 月 12 日に本体盛立完成後、平成 11 年 3月31日に総貯水量4,000千m3 の山口調整池が完成しました。

これにより、渇水時、導水路の事故時等にも安定して水道用原水を供給することが可能となりました。

新宝満川

新宝満川

1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 8,000 9,000 10,000 11,000 12,000 13,000 14,000(m)

◇水を送り続けて30年◇

福岡導水施設は、昭和58年11月の暫定通水以降、昭和61年の第1回変更で調整池、基山分水追加、平成元年の第2回変更で合所ダム分追加、平成11年の第3回変更により大山ダム分追加と開発水量等の変更を経て、現在、筑後川から最大2.767m 3/sの取水が可能となっています。

水源別開発水量一覧 (単位:m3/s)

区分水源区分

計江川ダム寺内ダム 筑後大堰 合所ダム 大山ダム

福岡地区水道企業団 1.669 0.076 0.326 0.603 2.674

佐賀東部水道企業団 0.058 0.035 — — 0.093

計 1.727 0.111 0.326 0.603 2.767

特集

6 ● 水とともに 水がささえる豊かな社会

これは、基山町全域と福岡都市圏 9 市 7 町の約240 万人の水道水の 1/3 に相当し、通水開始以降24時間365日導水を続け、この30年間で約17億5千万m 3 に達しました。

このように、福岡導水により供給地域は、筑後川から流域を越え、広域的かつ多様な水利用の恩恵を受けています。

福岡導水取水量

◇平成6年渇水時の効果について◇

福岡導水の工事中の昭和53年に、福岡都市圏は大渇水となり、福岡市では、最も厳しい時の給水時間は1日5時間で、給水制限期間が287日も続きました。また、この期間の給水車出動台数は、延べ13,400台というものでした。

昭和 53 年 平成 6 年

年雨量

福岡管区気象台 1,138mm 891mm福岡市の年間降水量 1,604mm

(1961 年~ 1990 年の平均値)

福岡市の例

一番厳しい時の給水時間 5 時間給水 12 時間給水給水制限日数 287 日 295 日延断水時間 4,054 時間 2,452 時間給水車の延出動台数 13,433 台 0 台上水道の施設能力 478,000m3/ 日 704,800m3/ 日うち筑後川から水利権量 100,000m3/ 日 233,300m3/ 日

昭和 53 年と平成 6 年渇水の比較

その後、平成6年には、昭和53年を上回る大渇水となりましたが、福岡導水により給水時間12時間、給水車の出動台数0と混乱を大幅に軽減できました。

◇安定供給に向けた施策◇

福岡導水のさらなる安定供給に向けて、平成22年度から24年度まで地震対策等安定供給施策として、①大規模地震による変位へ対応可能とする可とう

管の取替え②管水路からの排水時間を短縮するための排水施

設の増設と制水弁の電動化を主な内容として実施しました。

現在、さらなる安定供給に向けた課題として、①水道システムの基幹施設として、施設の重要性を

考慮して地震への十分な対応を行う必要がある

特集 ● 7

福岡導水 通水30年を経過して

◇通水30年を振り返って◇

福岡導水にとって最も大きな出来事は、導水路工事を開始してまもない昭和 53 年に、我が国における近年最大規模の渇水被害を経験したことです。

その後も、昭和 57 年、59 年、60 年、61 年、平成5 年にも取水制限が行われ、平成 6 年から 7 年にかけては過去最大級の渇水に見舞われ、水に対する市民の関心も非常に高くなりました。

昭和 58 年 11 月の暫定通水開始後の福岡導水による筑後川からの導水は、福岡都市圏の水道水を賄うライフラインとしての機能を果たし、給水制限等の被害を最小限度に抑えるなどその効果を大いに発揮しました。

また、筑後川からの導水が一時たりとも停止すればその影響が大きいことから、この影響をなくすために福岡導水事業の計画段階から検討されていた山口調整池が、関係者の協力を得て昭和 61 年 8 月に建設着手、平成 11 年 3 月に完成し運用が開始されました。

山口調整池が完成したことにより、渇水時や導水路の事故時等における水道用原水の安定供給が図られることになりました。

その効果は、平成 22 年度から 24 年度まで実施した福岡導水の安定供給に向けた地震対策等工事において、計 6 回(10 日~ 15 日間 ) の断水を伴う工事で発揮されることになりました。

断水の間、福岡地区水道企業団の節水協力を頂き

ながら、山口調整池から水道用原水の供給を行い、重要な工事を完成させることができました。

最近では、増大する水道用水の需要に対処するため、平成 25 年 3 月の大山ダムの完成により大山ダムで開発された水道用原水も加え、筑後川からの取水量は、それまでの 2.129 m 3/s から 2.767 m 3/s に増量され、供給の安定化が図られました。

このように、通水を開始してからの 30 年は、筑後川流域の関係者間の深い理解と協力のもと、導水の安定を図ることが可能となりました。

◇更なる水の安定供給をめざして◇

福岡導水管理室では、日々施設の機能を維持・保全するとともに、周辺施設の定期的な巡視を行うなど安全確保に努めています。

また、山口調整池には、水質保全対策として曝ば っ き

気装置を設置しており、この効率的な運用方法について、福岡地区水道企業団水質センターなどと協働で検証を行っています。

福岡導水は、通水を開始してから 30 年が経過し、施設の老朽化や近年多発する大規模地震への対応も懸念されています。一時たりとも断水することができない福岡導水施設は、利水者、関係機関等の方々のご理解・ご協力を得ながら施設の点検と評価を継続的・定期的に行い、必要な整備を実施し、今後とも安全で良質な水を安定して利水者の皆様にお届けしてまいります。

ゴム製可撓管 手動弁鋼製可とう管 電動弁

—安定供給への取り組み—①可とう管の取替 ②制水弁の電動化

②年間を通じて休むことなく水道用原水を導水する単一路線の施設のため、定期的な点検実施が困難な状況であり、概ね 5 年を 1 サイクルとす

る内面点検を実施し、必要に応じた施設機能の確保が必要であることなどが残っています。