【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ ·...

55
【目 次】 研究テーマ 教員氏名 空港経営の効率性評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 安達 晃史 社会の変化と交通の役割 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 青木 真美 大企業間取引の構造 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 麻生 マーケティング・チャネルにおける企業間関係の研究 ・・・・・・・・・・・・・・・ 容熏 韓国の財閥と経済発展 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 遠藤 敏幸 日本とアメリカの経済危機と経済政策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 服部 茂幸 国際貿易の古典理論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 久松 太郎 コーポレート・ガバナンス,企業と社会 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 今西 宏次 会計基準の国際的統合に関する研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 稲見 金融・証券市場のグローバルな統合深化の功罪 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 五百旗頭 真吾 物流システムの研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 石田 信博 財務・非財務情報を併用した業績測定の研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 河合 隆治 社会・生活と商品に関する史的研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 川満 直樹 市場の社会経済学的研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 小島 秀信 経済データの時系列分析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 大樹 金融システムの制度設計に関する理論的研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 丸茂 俊彦 経済活動と制度に関する研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 森田 雅憲 国際電子商取引の普及プロセスに関する理論的・実証的研究 ・・・・・・・・・ 長沼 地域の集積と分散のメカニズムの解明 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 内藤 企業環境の変化と管理会計システム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 中川

Upload: others

Post on 19-Jun-2020

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

【目 次】

研究テーマ 教員氏名

空港経営の効率性評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 安達 晃史

社会の変化と交通の役割 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 青木 真美

大企業間取引の構造 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 麻生 潤

マーケティング・チャネルにおける企業間関係の研究 ・・・・・・・・・・・・・・・ 崔 容熏

韓国の財閥と経済発展 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 遠藤 敏幸

日本とアメリカの経済危機と経済政策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 服部 茂幸

国際貿易の古典理論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 久松 太郎

コーポレート・ガバナンス,企業と社会 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 今西 宏次

会計基準の国際的統合に関する研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 稲見 亨

金融・証券市場のグローバルな統合深化の功罪 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 五百旗頭 真吾

物流システムの研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 石田 信博

財務・非財務情報を併用した業績測定の研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 河合 隆治

社会・生活と商品に関する史的研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 川満 直樹

市場の社会経済学的研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 小島 秀信

経済データの時系列分析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 牧 大樹

金融システムの制度設計に関する理論的研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 丸茂 俊彦

経済活動と制度に関する研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 森田 雅憲

国際電子商取引の普及プロセスに関する理論的・実証的研究 ・・・・・・・・・ 長沼 健

地域の集積と分散のメカニズムの解明 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 内藤 徹

企業環境の変化と管理会計システム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 中川 優

Page 2: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ 教員氏名

事業システムと競争優位 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 中道 一心

東アジア諸国における自動車産業の発展 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 西川 純平

訪日外国人観光客に対する住民の態度 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 西村 幸子

商品化におけるユーザー参画の意義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 大原 悟務

生産組織におけるイノベーション:課題の発見、および解決に向けての理論的・実践的考察・・・・・・・・・ 太田原 準

財務会計情報と投資戦略 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 櫻井 貴憲

リスクと保険~年金問題を題材に~ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 佐々木 一郎

組織の社会学的分析・研究政策の国際比較・社会科学方法論 ・・・・・・・・・ 佐藤 郁哉

Global business communication ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 佐藤 研一

グローバル社会における会計の役割と課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 佐藤 誠二

魅力ある日本の中小企業の発展プロセス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 関 智宏

会計実務・会計基準・会計理論の本質的な役割 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 志賀 理

マネジメントを通じた働く人々の活性化の探求 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 鈴木 智気

社会に役立ち、社員がやりがいを感じながら元気に働ける、新しいマネジメントと組織の研究・・・・・・・・ 鈴木 良始

貿易・貨幣・権力から読み解く世界経済 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 田淵 太一

未来社会をデザインする:人間心理と経済制度設計 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 田口 聡志

消費者行動論にもとづくマーケティング、ブランディング研究・・・・・・・・・ 髙橋 広行

サービス産業における人材活用の構造 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 谷本 啓

企業戦略 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 冨田 健司

ファイナンス理論に基づく戦略的な意思決定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 辻村 元男

サービス・マーケティングの研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 内野 雅之

Page 3: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ 教員氏名

金融的要因と経済活動―理論・実証分析の展開― ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 植田 宏文

産業組織の実証分析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 上田 雅弘

ソーシャルイノベーションと行動変容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 瓜生原 葉子

環境情報開示,実証分析,社会学理論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 王 睿

人々を幸せにする会計制度の構築 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 山本 達司

近代日本看護史 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 山下 麻衣

ファッションビジネスの経営史 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 山内 雄気

企業法務から見た国際取引紛争の予防と解決 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 吉川 英一郎

小売国際化とコンビニエンスストアのビジネスモデル ・・・・・・・・・・・・・・・ 章 胤杰

グローバル企業の組織運営と人的資源管理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 趙 怡純

Page 4: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ: 空港経営の効率性評価

あだち こうじ

安達 晃史

私の研究テーマは、空港の経営を定量的に評価する、ということです。①航空輸送にお

ける「港」としての活動が効率的かどうか、②様々なサービスを提供する「商業施設」と

しての活動が効率的かどうか、③上記二つの活動を複合的に捉えた「空港全体の活動」が

効率的かどうか、という三つの視点から分析を行なっています。

現在日本で運用されている 97 の空港は、周りを海で囲まれているわが国にとって、「世

界とつながる玄関口」です。それと同時に、飲食店や免税店など様々なサービスが集約さ

れている「商業施設」でもあります。つまり、空港は航空輸送に関する活動(航空系事業)

とその他の活動(非航空系あるいは商業系事業)という二つの役割を担う施設であると捉

えることができます。しかしながら、多くの空港では「滑走路は国・空港ビルは民間会社」

などといった形でそれらの活動が別々の主体によって運営されているため、空港経営にお

ける非効率の存在が指摘されてきました。観光立国の実現を目指すなか、わが国にも多く

の外国人観光客が訪れるようになり、空港は単なる交通機関としてだけでなく、経済活動

の拠点としても、その重要性は高まりつつあります。

関西3空港や仙台国際空港などを皮切りに始まった空港コンセッションの潮流は加速し

ており、民間の力を活用した航空系事業と商業系事業の一体運営が全国の空港で始まろう

としています。このような変革期を迎えている空港の効率的な運営は、交通政策や観光戦

略における重要な課題の一つとして挙げられます。最新の動向を捉えながら、各空港が効

率的に運営されているかどうかだけでなく、効率性に影響を与える要因がどのようなもの

かを明らかにするために、空港経営の効率性に関する研究をしています。

Page 5: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:社会の変化と交通の役割

あおき まみ

青木 真美

交通の発達は,社会に大きな影響を与えてきました。低廉・安全・正確な交通サービスは,

現在われわれの生活水準の質の高さや商品の選択の幅の大きさを支えています。一方、近

年多くの天災が日本を襲い、道路や鉄路の分断、空港の機能停止などさまざまな問題がク

ローズアップされました。

都市内のことを考えても、自動車の普及と道路の発達により郊外へのスプロール現象が

もたらされ、郊外の大規模ショッピングセンターの出現と中心市街地の衰退,環境問題,

治安問題,公共交通の衰退などさまざまな社会的変化と課題をもたらしています。

目下取り組んでいるテーマは,自動車とその他の交通モードとの共生ということです。

便利で手軽な自動車交通は,現代社会に欠くことのできないものですが,エネルギーの過

大な使用やそれによる環境問題,渋滞による時間の損失,事故による財産や生命の損失,

そして自動車を利用することができない層の移動の自由を制限する結果となるバスや鉄道

といった公共交通の衰退をもたらしています。出発地と目的地を直接,乗換えなしで結ぶ

自動車の便利さを生かす一方,できるだけエネルギーのロスや環境負荷を軽減し,自動車

を利用できない層の移動をどのように保証していくのか,その財政的裏づけは,といった

ことについて研究しています。

Page 6: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:大企業間取引の構造

あそう じゅん

麻生 潤

日本の製造業巨大企業は主要な原材料を国内の企業から調達してきた。たとえば自動

車・電機・造船など機械メーカーが使用する鋼材はほとんどすべて日本の高炉企業の生産

したものであった。このように素材や原材料の調達先を国内に限定するということはそれ

だけ購入価格を引き上げ,結果として機械メーカーの製造コストを増大させる効果をもた

らすはずである。しかし日本の機械メーカーは世界に冠たるコスト競争力を維持してきた。

このような不思議な現象はなぜ生じていたのだろうか。

このような現象は諸外国から批判されている日本市場の「閉鎖性」や「異質さ」の基幹

的要素となっていると私は考えている。そこで,このような大企業相互の素材や原材料な

どをめぐる取引関係はどのような特質をもっており,どのような条件のもとで成立してい

るのか,それは機械メーカーの競争力にとってどんな経済的意味があるのかを,実態調査

を踏まえながら研究していきたいと考えている。

Page 7: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:マーケティング・チャネルにおける企業間関係の研究

ちぇ よんふん

崔 容熏

メーカーの製品が市場で成功を収めるためには流通業者との関係を有効にマネジメント

することが重要です。いかに上手に開発された製品でも販路の開拓に遅れたり、流通業者

からの協力を獲得せずには成功に辿り着くことが困難です。しかし、メーカーと流通業者

は協力すべきパートナーであると同時に、取引の条件や販売リスクの分担をめぐっては互

いに対立する部分をも抱えています。このような対立の可能性をうまく抑えながら、流通

業者から自社製品の販売に対する特別な努力を引き出せるかどうかは、メーカーのマーケ

ティング管理における極めて重要な部分であります。

特に、近年には流通業者からの需要情報を上手に活用し、ヒット商品の開発に繋げるよ

うな事例も多数報告されています。つまり、メーカーにとって流通業者の役割は単なる販

売の窓口としてだけではなく、革新的な製品を生み出す源泉としても注目されているので

す。こういったメーカー・流通業者間の企業間関係の中で発生する諸問題のメカニズムを

探るのが現在の私の最大の関心事です。そのために日々過去の研究をフォローしながら、

現場の話を聞いたり、アンケート調査を行ったりしています。

最近は、産業財ブランド研究という新しい研究領域にも取り組んでいます。インテルに

代表されるように産業財にも優れたブランドを構築したケースは少なくありませんが、こ

れまでのブランド研究は消費財に偏っており、産業財のブランド研究は手薄でした。産業

財分野で多くの企業が優れた技術力を保有しながらも、それに見合う利益を上げることが

できない一つの原因にはマーケティングやブランドの軽視という要因も無視できないの

で、アカデミックだけではなく、実務的にも貢献できる研究分野だと考えられます。

Page 8: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:韓国の財閥と経済発展

えんどう としゆき

遠藤 敏幸

韓国は 1996 年に OECD に加盟し,今や先進国にもひけをとらない経済大国になっていま

す。世界的な企業に成長した大企業も増え,最近,みなさんも「サムスン(三星:SAMSUNG)」

とか「ヒュンダイ(現代:HYUNDAI)」という韓国の企業名を耳にすることも多くなったか

と思います。ただ,厳密に言うと,一口に「サムスン」と言っても,それが三星電子㈱を

指すのか,三星財閥を指すのかによって,意味は異なります。韓国は,1960 年代後半あた

りから 70年代にかけての経済発展の過程で,財閥と呼ばれる企業グループを形成し,韓国

経済を牽引してきました。当初は政府の統制下にあった財閥ですが,次第に政府をもしの

ぐ力をつけていき,いまや,韓国国内における財閥のプレゼンスの大きさは圧倒的で,他

の国ではあまり例をみない状況になっています。

財閥とは,おおざっぱに言うと,創業者一族が傘下の系列会社をすべて支配している集

団を指しますが,1997 年に起こった経済危機を契機に,こうした前近代的な企業形態が問

題視され,大胆な改革が実行されました。韓国の財閥は,その存在意義とともに,大きな

転換点を迎えています。しかし,それでも依然,韓国には財閥は存在し,その影響力は絶

大です。たとえば,既述している「サムスン」は,最も経営改革が進んでいる模範的な企

業と言われていますが,その「サムスン」ですら,財閥であることは死守し続けています。

韓国の企業がますますグローバル企業へと成長していくのに反して,財閥であることをや

めようとしない(それも意識的に)この現象は,経済的な理屈から離れた,もっと別の力

学関係が働いているのかもしれません(あまりにこればかり強調するのは注意する必要が

ありますが)。

韓国は,法律などの制度も社会状況もめまぐるしく変化し,少し目を離しているすきに

大きく様変わりしていることがしばしばです。こうした変化を地道にひとつずつ拾ってい

くことで,財閥が財閥であり続ける理由,あるいはそれが可能である理由,あるいはその

限界が見えてくるのではないかと,個人的に考えています。

Page 9: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:日本とアメリカの経済危機と経済政策

はっとり しげゆき

服部 茂幸

2008 年の金融危機が生じた時に、アメリカを代表する経済学者とも言えるクルーグマン

が過去 30年間のマクロ経済学は「最高では華々しく役立たなく、最低では全く有害である」

と述べたことは有名である。金融と経済の危機は同時に経済学の危機でもある。

しかし、2008年においてアメリカと世界が経験したことは、1990年代以降の日本が経験

したことも繰り返しである。私は『金融政策の誤算』、『日本の失敗を後追いするアメリカ』、

『危機・不安定性・資本主義』などの著作によって、日本の失敗を再考することを通じて、

現在の経済学とそれに基づく政策の問題点を明らかにした。今では金融政策に思ったほど

の効果がなかったことはバーナンキも認めるところである。

けれども、その後、バーナンキは積極的な金融緩和によって、デフレを防ぎ、アメリカと

世界の経済崩壊を防いだという新しい「神話」が作られた。だから、日本もアメリカに倣っ

て、金融緩和を行えば、デフレを脱却させれば、経済が回復するはずだという主張が通り、

アベノミクスの第一の矢が放たれた。

日銀の異次元緩和の実施からすでに6年がすぎているが、デフレ脱却の見通しはたたな

い。異次元緩和を支持するリフレ派は、異次元緩和とインフレ目標によって予想インフレ率

を高めると主張していた。ところが、主張とは反対に予想インフレ率はむしろ低下している。

ここでも理論の主張と現実は反対である。加えて、こうした状況ではさらにマネタリーベー

スを大量供給すべきということになろう。ところが、実際にはマネタリーベースの供給ペー

スは鈍ってきている。日銀が国債を買いたくても売り手を見つけることができなくなって

いるのである。インフレ目標の達成時期の公表も取りやめた。これは日銀の事実上の敗北宣

言と言えるだろう。

日本の金融政策は様々なところで行き詰っている。現在、こうした経済と政策の行き詰ま

りの原因を明らかにし、新しい思考を打ち立てることが求められているのである。

Page 10: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:国際貿易の古典理論

ひさまつ たろう

久松 太郎

現代社会に生きる私たちは、国境を越えた企業買収や業務提携、企業の海外進出、貿易

交渉など、国際経済にかかわる話題を日常生活の中でよく耳にします。このような経済・

経営・政治に関する国際問題を考える上で重要な役割を担ってきたのが、国際貿易の理論

や思想です。私はこれまで、19 世紀イギリスの古典学派が対象としてきた経済問題、とり

わけ価値と分配の理論、成長理論、人口論、貿易論を総合的に研究してきましたが、最近

は、国際貿易の古典理論を歴史的に考証したり数理的に分析したりすることに重点をおい

ています。

また、国際貿易に関する最近のトピックとして米中間の貿易戦争があります。報復関税

によって激化してきたこの対立は、単に当事国だけの問題ではなく世界中の耳目をも集め

ています。報復関税論は、1834 年のドイツ関税同盟の結成をひとつの契機として、19 世紀

中葉のイギリス議会でも活発に議論された歴史をもっています。私は、国際共同研究を通

じて、このような報復関税論を含む 19 世紀イギリス貿易政策論の研究にも取り組んでいま

す。

Page 11: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:コーポレート・ガバナンス,企業と社会

いまにし こうじ

今西 宏次

私の研究は,簡単にいえば「会社って何だ」ということです。われわれは,日々会社と

かかわって生活しています。会社は,現代社会において極めて大きな影響力を有している

といえます。では,会社とはどのようなものであり,現代社会においてどのような役割を

果たし,また果たすように期待されているのでしょうか。私はこのような問題を,コーポ

レート・ガバナンスや「企業と社会(Business & Society)」に関する研究を行うことを通

じて日々考えています。

コーポレート・ガバナンスは,近年,わが国だけでなく,世界中の国々で議論されてい

ます。私は,コーポレート・ガバナンスは,株式会社の権力(Corporate Power)を巡る問

題であると考えています。会社権力を統制しようとする場合,株主の立場から見て経済的

に効率的に権力を統制しようとする立場と,さまざまな利害関係者を含んだ社会的な視点

から統制しようとする立場があります。近年の議論を見ると,一般的には前者の立場から

の議論が多くなされていますが,私は,両者を詳細に比較検討し,利害関係者理論の立場

からの議論を展開しています。したがって,私は,企業と社会の関係の中からコーポレー

ト・ガバナンスの問題を考えているということになり,企業の社会的責任(CSR)や経

営倫理(Business Ethics)まで守備範囲に含まれることになります。また,最近は,東京

電力をめぐる問題についても関心をもっています。

近年わが国で起こったBSE問題,乳製品の製造会社による食中毒事件,ガス器具によ

る中毒死事件やアメリカで起こったエンロン事件などの会社不祥事と,それに伴う経営倫

理に対する関心の高まりにより,株主だけではなく,もっと広く従業員,消費者,取引先,

地域社会なども含んだ社会的な視点からも会社経営や経営者権力を統制していこうとする

議論も徐々にではあるがなされるようになってきています。今後,わが国の商学部・経営

学部などのビジネス教育にかかわる学部において,「経営倫理」に関する教育が必要不可欠

のものになっていくのではないかと考えています。

Page 12: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:会計基準の国際的統合に関する研究

いなみ とおる

稲見 亨

簿記・会計には長い歴史と伝統があります。とくに複式簿記の確立は,いまから五百年

以上も前,イタリア商人の実務慣行にまでさかのぼることができます。その後,世界各国

に広がり,近代的な簿記・会計の知識が欧米から日本に移入されたのは明治の頃です。

このように,会計には世界各国で用いられているスタンダード(標準)としての側面が

あります。ただしその共通性の一方で,各国で独自の文化が形成されているように,会計

のルールには,各国特有の経済・社会的背景に根ざした異質性が備わっています。その異

質性を強調すれば,世界には大きく分けて,イギリス・アメリカを中心とする「英米モデ

ル」と,ドイツ・フランスに代表される「大陸ヨーロッパモデル」という,会計の2大潮

流が存在するといわれています。

会計情報の発信源である企業の活動に加えて,情報の受信者である利害関係者層(株主・

投資家等)もまた国際化しています。そのような中で,世界各国で異なる会計ルールの存

在は,会計関係者間のコミュニケーションの阻害要因となります。そこで求められるのが

“世界各国共通の会計ルール(国際標準)”の確立です。つまり,各国で異なる会計情報を

標準化できるよう,国際ルールを策定しようというもので,こうした試みが国際会計分野

の最大のテーマといえます。その場合に,我が国も含めて世界で議論されているのが IFRS

(国際財務報告基準)の導入です。私は現在, IFRS 導入の先行的事例である欧州連合(EU),

とくにドイツ連邦共和国における IFRS 対応について研究を進めているところです。

Page 13: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:金融・証券市場のグローバルな統合深化の功罪

いおきべ しんご

五百旗頭 真吾

日本国内には,銀行預金や株式など金融資産を持っている人と,住宅ローンや自動車ロー

ンなど負債を抱えている人がいます。これらは金融取引を通じて生まれたものです。同様に

外国との間でもさまざまな金融取引が行われており,現在日本人は外国人に多額の資金を

貸し付け,日本人全体として外国に巨額の金融資産を保有しています。

借金は返してもらわないと貸す側は困ります。そのため,一般に返済能力の低い個人・企

業ほど銀行から融資を受けるのは難くなります。一国全体として外国からお金を借りると

きも同様です。外国から多額の借金をしている国の返済能力に疑問が生じると,その国に対

する融資は引き上げられ,通貨危機や金融危機が生じます。1997~98年のアジア通貨危機,

2007~08年の「サブプライム危機」後のドル安・世界金融危機は,その例です。2010年か

ら 2015年にかけて欧州の単一通貨ユーロを揺るがしたギリシャ危機も,対外借入に対する

ギリシャ政府の返済能力に疑問が生じたことから始まりました。

国際金融取引拡大に伴うこのようなリスクをいかに見極め、いかに対処すべきか。これが

私の研究テーマです。最近はとくに,国際資本移動の拡大要因やその変容について,グロー

バルに事業展開している大規模銀行の行動や、世界的なデフレ傾向(経済成長率の停滞)と

の関係性を探りつつ研究しています。

Page 14: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:物流システムの研究

いしだ のぶひろ

石田 信博

私たちの周りには、モノが溢れています。それらは、どこか遠くで生産されて、誰かが

運んできたものです。現代の経済社会では、無数の製品や原材料が世界中で頻繁に輸送さ

れていますが、このモノの流れを支える物流システムをより良いものにすることが常に望

まれます。効率的で使いやすい物流システムが構築されると、それは周辺地域にさまざま

な経済的・文化的影響を及ぼします。

私は、この物流システムと地域の経済的・文化的関係について研究しています。特に、

日本とアジアの港湾と空港に注目しています。アジアには経済が急成長した地域がたくさ

んあります。経済成長を経験した地域では、その過程において、港湾や空港をはじめとす

る物流インフラが整備されてきました。それは、経済が急成長するもとで増えつつある貨

物輸送に対応できるように、物流システムが整備されたとみることができます。一方、物

流システムが整備されることによって、そこは生産活動のしやすい地域になり、人や産業

が集中し、それがさらに地域の経済・文化の発展を促進したと考えることも可能です。同

様の現象は日本の地域においてもたくさんみられます。

日本やアジアの物流システムはどのように構築されてきたのか。港湾・空港をはじめと

する物流インフラは、地域にどのような経済的・文化的影響を与えるか。これらの問題に

ついて、統計データにもとづきながら実証的に分析することが私の研究課題です。

Page 15: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:財務・非財務情報を併用した業績測定の研究

かわい たかはる

河合 隆治

会計学領域は大きく財務会計と管理会計に分けられます。私の研究領域は管理会計ですが、

その中で特に組織内部のさまざまな活動や組織の戦略と関連付けた業績測定の問題につい

て研究しています。管理会計領域では、主に利益、収益、コストといった財務情報を用いて

企業経営をみていきます。この情報により、企業活動がどれくらい利益を生み出しているの

か、どのあたりに無駄なコストがあるのかといったことを集約的にとらえることができま

す。しかし、単に財務情報だけをみて企業経営を行うと、会計数値だけが一人歩きし、現実

に何が起こっているか把握することができず、時として重大な問題を見落とすことがあり

ます。例えば、潜在的に重要な品質問題を生産現場でかかえていたとしても、そういった兆

候が財務情報に現れるのは問題が顕在化して、企業が大きなダメージを受けてからとなり

ます。

企業内には財務情報以外にも有用な情報があります。例えば、品質に関する情報、生産管理

に関する情報、お客様に関する情報、従業員に関する情報、研究開発に関する情報などです。

こういった財務情報以外のこれらの情報を非財務情報と呼びます。最近では財務情報と非

財務情報をうまく組み合わせながら企業の業績を把握するシステムが注目されています。

非財務情報を測定することにより、より具体的に経営がどうなっているのかをとらえるこ

とが期待されています。しかし、非財務情報も問題がないわけではありません。非財務情報

の種類は無数にあり、それぞれの企業が自らの判断で測定する情報を選択しなければなり

ません。また、これらの情報を過度に重視すると、時には財務状況が悪化する場合もありま

す。そのため、財務情報と非財務情報の両者をうまく利用する必要があります。

財務情報と非財務情報はただ並列的に用いればよいという単純なものではなく、両者をう

まく関連付けなければなりません。これらをつなぎ合わせるヒントはいくつかありますが、

未だどのようにこれらの情報を測定し、管理するのかについては結論にいたっていない状

況です。これらの情報の関連性およびこれらの情報をうまく活かしていく方法について考

えていかなければなりません。この研究を通じて、もう一度財務情報と非財務情報の特徴や

役割について深く考えたいと思っています。

Page 16: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:社会・生活と商品に関する史的研究

かわみつ なおき

川満 直樹

日ごろ何気なく使っている商品(財・サービス)の中には、私たちの意識や生活、そして社

会に影響を与えるものがある。現代の日本では、衣食住だけではなく娯楽・レジャーまでもが

商品として提供されている。私たちは生活に必要なものを購入し、その商品を使用することに

対し特に考えることもなく、またそれを使うことの意味すら考えないと思う。今の時代を生き

る私たちにとって、商品を消費し生活することはごくごく自然なことになっている。

私たちの生活に影響を与えている代表的な商品をあげると「三種の神器」とよばれる白黒テ

レビ、電気洗濯機、電気冷蔵庫などがある。例えば、電気洗濯機の登場そして普及は私たちの

生活、特に家事労働の軽減と家事労働時間の短縮に大きく貢献した。電気洗濯機の普及が、日

本人の生活ならびに日本社会に与えたインパクトは大きかったと言える。

しかし、日本以外の国ではどうだろうか。例えば、電気洗濯機はパキスタンで日本と同様に

家事労働の軽減に貢献するだろうか。実はそうとも言えないところがある。理由は、商品の普

及や使用には、宗教(カースト、他)や慣習(パルダー(女性隔離制度)、他)などが影響する

からである。ある国や地域で、日本と同じように商品(例えば洗濯機など)が普及しない、あ

るいは生活に影響を与えない要因は何か。その要因を明らかにすることができれば、商品をと

おし日本と他国・他地域の生活、社会、文化などの違いを知ることができるであろう。

Page 17: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:市場の社会経済学的研究

こじま ひでのぶ

小島 秀信

自由市場社会をアトミスティックな個人主義的社会だと捉える点では新古典派経済学も

マルクス経済学も同根であり、きわめて根強い一つの経済学的な「通念」になっていると

言っても過言ではありません。しかもその「通念」は、経済政策や経済学者たちの言説な

どを通じて、現実に対して大きな影響を及ぼしています。1990 年代以降の自由市場化の流

れとともに自己責任原則が唱えられるようになったのも故なきことではないのです。しか

し、私は、市場社会が安定的に、そして効率的に維持されるためには、その基底には共同

性の領域が伏在していなくてはならないと考えています。近年、そのことを思想的かつ実

証的に論じているのが、ロバート・パットナムらによるソーシャル・キャピタルの議論でし

ょう。ソーシャル・キャピタルの概念は、信頼関係や規範といった人格的な共同性の領域

が自由市場の基底に伏在し、市場社会を支えていたのだということを明らかにしたのです。

私の現在の研究テーマは、この経済関係を支える人格的共同性という新たな視座を、社

会経済学的に、また社会哲学的に討究していくことです。そもそも自由市場と共同性とを

結び付ける議論については、経済学説史的に言えば、既にアダム・スミスの『国富論』と

『道徳感情論』との関係性(いわゆるアダム・スミス問題)という形で、経済学が生誕し

た 18世紀以降、常に問われてきたものです。経済学の父たるスミスから、エドマンド・バ

ーク、F・A・ハイエクへと至る、偉大な自由主義思想家たちの系譜は常にそうした経済

的自由主義と人格的共同性との関係性についての考察を深めてきました。この共同性と自

由市場社会との融和という考え方――私は「共同性的市場主義」と呼んでいますが――は、

共同性を掘り崩すグローバリズムへの重要な批判的視座を与えてくれるという点でも極め

て今日的な研究課題であると思います。

Page 18: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:経済データの時系列分析

まき だいき

牧 大樹

世の中にある多くの経済データは、時間とともに変化しています。代表的なデー

タとして、ある企業の株価や商品の売上等が挙げられます。このようなデータは、

常に変動しています。データが時間とともにどのように動くか、さらにはデータ間

にどのような関係があるかを分析することで、様々な企業のビジネス戦略や将来の

予測に活かすことができます。このような時間とともに変動するデータを統計的に

分析する分野が時系列分析です。例えば、前日の売上が今日の売上に与える影響を

明らかにできれば、今日の売上の予測に有益な情報となります。時系列分析では、

データの時間的な関係について、統計手法を用いて明らかにします。時系列分析は

多くの企業で購買予測や出店計画の判断等に使用されているだけでなく、政策立案

を行う政府や中央銀行においても用いられています。時系列分析の研究分野は 1920

年代に始まり、1970年代以降に大きな発展を遂げてきました。近年は情報処理技術

の発展に伴い、人工知能技術の一部である機械学習や深層学習と言われる分析手法

も使用されています。

私の研究では、時系列データを扱うための適切な分析手法について、シミュレー

ションや実際のデータを用いて検証しています。一般的な分析の多くは、ある時系

列データが上昇したときも下落したときも、その変化の仕方を同様に扱っています。

しかし、時系列データがこうした一定の動きをしているとは限りません。例えば、

好景気と不景気で動きが異なる経済時系列データは多く存在します。そのような動

きを適切に捉えるためにはどのような統計手法が望ましいかを研究しています。こ

の研究を通して、経済時系列データの動きの精緻化や予測の精度を高められること

が期待できます。

Page 19: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:金融システムの制度設計に関する理論的研究

まるも としひこ

丸茂 俊彦

私の研究領域は金融論です。その中でも,特に,応用ミクロ経済学(情報の経済学や契

約理論)の手法を用いた「金融システムの制度設計」を研究の対象としています。

金融システムは,金融組織と金融市場という二つの構成要素と,それを取り巻く会計・

法律・規制等の諸制度から成り立つ構築物です。金融システム内部の各主体(家計・企業・

金融仲介機関)の行動や,市場あるいは取引における各主体間の戦略的な相互依存関係に

焦点をあてて,資産構成,資本構成,金融仲介機関の経済機能,マーケット・マイクロス

トラクチャー,証券設計,コーポレートガバナンス等の様々な組織的・制度的問題につい

て理論的に分析することが主な研究内容です。

最近行っている研究では,証券化の進展が銀行の経済機能をどのように変化させたのか、

2007 年から起きた金融危機の発生と伝播メカニズムの解明、銀行の自己資本比率規制を中

心としたマクロプルーデンス政策が銀行信用や実体経済に及ぼす影響、などのテーマに取

り組んでいます。

近年の情報通信革命により,先進各国の金融システムは,資本市場を中心とした直接金

融型システムへと一様に収斂しつつあります。しかし,直接金融型システムにも様々な問

題(例えば,バブルの発生など)が残されています。現実の経済において,ファーストベ

ストを求めることは困難ですが,セカンドベストの中から最良の結果を生み出せるような

最適な金融システムの構築について考察していきたいと考えています。

また,将来的には,金融システムの国際比較分析を通じて,異なる金融システムがリス

ク分担や流動性供給などの経済機能をどのように果たしてきたのか,という問題について

取り組んでいきたいと考えています。

Page 20: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:経済活動と制度に関する研究

もりた まさのり

森田 雅憲

私たちは,変えることのできない過去と不確実な将来の狭間で,他者と協同したり交渉

したりあるいは対立したりしながら生きています。その中で,個人や組織や社会を維持・

再生産していくために,意識的・無意識的を問わず,行為の仕方・振る舞い方について,

さまざまなノウハウを私たちの社会は蓄積してきました。「制度」とはそのようなノウハウ

を総称したものです。普通は,制度といえば明文化された法律や就業規則のようなものを

思い浮かべがちですが,私が研究対象としている制度は,それらに加えて,明文化されな

いものや意識さえされていないものまで含んでいます。私がもっとも関心を寄せているの

は,言語や貨幣あるいは所有権といった人間社会をその根底において支えているものです。

こうした意味での制度が私たちの行為を如何に規定し,逆に私たちの行為が如何にその制

度を維持・再生産しているか,という問題を追究しています。

こうした問題を研究するようになったのは,経済学の方法論的基礎となっている全知全

能の「合理的経済人」という仮構に、経済学を学び始めたころから一貫して疑問を持って

いるからです。個人は社会を構成する諸制度の中で人間として育成される以上,制度の産

物たらざるを得ないにもかかわらず,標準的な経済学は,ひとえに効用の最大化という視

点からすべてを説明しようとします。こうした経済学の根本的な欠陥を鋭く見抜いた一人

が,フリードリヒ・A・ハイエクでした。私は,ハイエクの切り開いた地平に学ぶことで、

私たちが置かれている市場経済の本質に迫って行こうと考えています。

Page 21: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:国際電子商取引の普及プロセスに関する理論的・実証的研究

ながぬま けん

長沼 健

私の研究対象は,国際電子商取引です。国際電子商取引とは,グローバル市場において,

インターネットを含むコンピュータ・ネットワークを通じて,製品,サービス,そして情

報を売買もしくは交換するプロセスです。この国際電子商取引の中で大部分を占めるのが

企業間(B2B)の取引ですが,近年,インターネットの普及により,この国際電子商取引が

私たち消費者の身近になりつつあります。例えば,amazon.comで本や CDを購入するといっ

た取引も,海外の音楽配信サイトで音楽を購入しダウンロードするといった取引も国際電

子商取引となります。これは,消費者企業間(B2C)の国際電子商取引といいます。皆さん

の中には,これらを実際に利用して,その便利さを体験した人も多いのではないでしょう

か。国際電子商取引の普及は,消費者行動の水準を高め,企業の経済活動を効率化・活性

化させると期待されています。

しかしながら,この国際電子商取引には,各国の法律,国際機関の条約や規則,各地域

に所属する業界や企業の商慣習などといった国際取引特有の問題が存在し,それらが円滑

な国際電子商取引を実施していく上で阻害要因となっています。この問題を解決するため

には,国際電子商取引を,契約(商流),国際運送(物流),代金決済(金流)などの面か

ら法的・経済的に分析していくことが求められます。その中でも,私は,国際電子商取引

が消費者・企業・国家にどのような影響を与え,それが既存の紙ベースで構築された取引

形態にどのような変化をもたらすのか,さらに,電子商取引が国際的に普及していく際に

どのような力学が働くのかなどを中心に研究をしています。

Page 22: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:地域の集積と分散のメカニズムの解明

ないとう とおる

内藤 徹

2015年の国勢調査の結果で、わが国は大正 9年の調査開始以来、初の人口減少を記録し

ました。しかしながら、都道府県別に見てみると東京など首都圏への人口の集中は進んで

おり、東京都の人口に至っては 20年前と比較するとおよそ 174万人もの増加がみられま

す。東京を中心とする首都圏の人口や企業の集中が進む一方、人口減少に歯止めがかから

ず消滅の危機に瀕している限界集落の数も増加しています。首都圏への人口集中は、住宅

事情の悪化や騒音・廃棄物などの環境の悪化をもたらしますし、限界集落となっている地

域では、人口の消滅とともに文化や伝統の継承が困難になってきています。実際に、市場

メカニズムだけではこの状況を改善することは事実上困難ですから、何らかの政策が必要

となってきます。ただ、その政策を策定するためには人口や企業が特定の地域に集中する

メカニズムを理解しておかなければなりませんし、そのメカニズムには複数の要因が複雑

に絡み合っています。私の専門分野は空間経済学と呼ばれ、こうした都市や地域にかかわ

る問題を経済学の手法を用いて分析する分野です。現在、地域間の人口や企業の移動行動

と世代間の家計の行動を同時に分析することが可能なモデルを考え、望ましい政策のあり

方を研究しています。

Page 23: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:企業環境の変化と管理会計システム

なかがわ まさる

中川 優

企業環境の変化と管理会計システムということを研究のメインテーマとしています。一

口に「企業環境の変化」と言っても様々な側面があります。経済のグローバル化に伴い、企

業は国内における競争だけではなく、世界中の企業を相手に競争しなければなりません。ま

た、事業の海外展開や海外の工場での生産活動などグローバル化の波は大企業のみならず、

中小企業でさえも避けることはできません。

また、次々と生み出される新技術は、新製品や新たな市場の出現に留まらず、競争のルー

ルさえも変えてしまう状況です。

また、地球環境問題の深刻化は、企業にとっても対応は不可避な状況です。このように、

企業を取り巻く環境は、大きく変化しており、その変化に対応するために,企業が生き残り

を賭けて競争を行っております。

管理会計は、会計学と経営学の学際領域とも言えます。企業戦略の策定や実行においても管

理会計システムから提供されるデータの活用や、管理会計システムそのものが、企業の戦略

的課題の策定・実行に大きな役割を果たしていることは、意外と知られておりません。この

ように企業活動を裏から支える、神経系のような管理会計の重要性は、ますます高まると考

えます。このように多岐にわたる幅広い知識を要求される管理会計の研究に、様々な角度か

ら取り組んでいきたいと思っています。

Page 24: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:事業システムと競争優位

なかみち かずし

中道 一心

2000 年代、エレクトロニクス業界において多くの製品分野で日本のブランドメーカーは

苦境に立ち、大多数の企業が消費者向けエレクトロニクス事業を縮小してきた。そんな状況

のなかで異彩を放っていたのがデジタルカメラを供給する日本企業群である。日本のブラ

ンドメーカーは民生用市場の立ち上がりから現在に至るまで、80%を超える世界シェアを獲

得しつづけている。多くの家電製品がデジタル化し、製品構造もモジュール化した。これが

日本企業の競争力低下の一因とされているが、デジタルカメラでも同様のことが起こって

いるにも関わらずいまもなお国際競争力を維持し続けているのか、その要因分析をわたし

はれまで行ってきた。デジタルカメラを供給するブランドメーカーは競争次元が高度化し

続ける市場環境に対応するために、絶えず事業の仕組みを変え続け、その際、自らの経営資

源を正確に認識し、それを補いうる外部企業の経営資源を組み込むことによって、国際競争

力を維持し続けられたのだと考えている。

一方で、個別企業のデジタルカメラ関連事業の売上高と利益高の増加スピードや、売上高

営業利益率の安定性をみると、企業間で相当な違いがある。それを明らかにするためには、

各企業が各国市場の各チャネルにどんな製品ラインアップを、どのように提供したのかを、

問わねばならない。各国市場における製品ラインアップとそれを提供する事業システムと

の関係や、その背後にある各企業が設定した事業ドメインに関して、文献調査及びインタビ

ュー調査を行っている。

現在、デジタルカメラの総集荷台数は 2,498万台(2017年)であり、ピーク時 1億 2,146

万台(2010 年)と比べると約 1/5 にまで市場が縮小している。しかし、各企業の売上高営

業利益率でみればピーク時と遜色ない、あるいは、当時を上回る収益性をたたき出している

企業もある。市場の急拡大と急激な市場縮小に対し、企業がどのように立ち回ればよいのか

を考えるとき、とても興味深い研究対象でもある。

Page 25: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:東アジア諸国における自動車産業の発展

にしかわ じゅんぺい

西川 純平

私は東アジア諸国における自動車産業を研究しています。自動車産業は自動車メーカー

だけで成り立っているのではありません。製鉄会社や自動車の部品を製造する企業はもち

ろん,直接的な関係はありませんがガソリンスタンド,運送業,郊外のショッピングセン

ターも自動車産業と関わっていると言えるでしょう。つまり,自動車産業は広範でしかも

膨大な数の企業が関わるとても大きな産業なのです。

したがって,多くの東アジアの国々は自動車産業を国の経済発展の重要な部分に位置付

けています。なぜなら自動車産業がその国に形成され,さらに発展していけば膨大な数の

雇用機会も生まれ,しかも幅広い産業も形成・発展していくからです。実際に,これまで

自動車製造の経験がない(あるいは経験が不足している)多くの東アジアの国々が,外国(先

進工業国)の自動車メーカーや部品メーカーの力を借りながら,これまで様々な課題を克服

しつつ、自動車産業の形成・発展に取り組んできました。

今や自動車生産台数世界一の中国を筆頭に,韓国,台湾,ASEAN諸国など東アジアの国々

の自動車産業の発展はめざましいものがあります。とはいえ,これらの国々の自動車産業

に課題がまったくないわけではありません。私はこうした課題を明らかにしようと研究し

ています。

Page 26: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:訪日外国人観光客に対する住民の態度

にしむら さちこ

西村 幸子

2018年の訪日外国人旅行者は 3119万人(前年比 250万人増)と過去最高を更新し、東日

本大震災の翌年である 2012年から 7年連続で増加して、年間旅行者数はその間に 5倍にも

なりました。さらなる外国人旅行者の来訪による日本経済の活性化への期待は大きく、日

本政府は 2016年に策定した「明日の日本を支える観光ビジョン」において、訪日外国人旅

行者数を 2020年には 4000万人、2030年には 6000万人へと増加させるという目標を掲げて

います。その一方で、外国人観光客が好んで訪れる観光地では様々な変化が目立つように

なりました。駅やバス・電車内の混雑、飲食店や小売施設での行列、ゴミの増加といった

ような、物理的に観光地が許容できる水準以上に観光客が集中して来訪することによって

生じる状況に対して「オーバーツーリズム」という表現が使われるなど、観光地に居住す

る住民の生活への影響がすでに顕在化しているという認識が急速に広まっています。

その対策として、観光客が特定の地域や時間に集中しないようにするために地理的・時

間的な分散を誘導することや、外国人観光客に対して日本で許容されるマナーについての

啓蒙を行うのは当然のことですが、日本が今後も毎年数百万人単位での訪日外国人観光客

の増加を目指すのであれば、外国人観光客が来訪する地域に居住している住民の観光客に

対する態度に着目する必要があると私は考えています。ある人の生活圏に来訪する観光客

が以前よりも増加した場合に、結局のところ、その人が「にぎやかになった」とポジティ

ヴに受け止めれば問題視されず、逆に「うるさくなった」とネガティヴに受け止めるので

あれば問題視されることになるからです。

私は、この観光地住民の観光客に対する態度について、住民自身の海外旅行経験との関

連を調査データによって明らかにしようとしています。

Page 27: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:商品化におけるユーザー参画の意義

おおはら さとむ

大原 悟務

研究において関心を寄せているのは「ユーザーイノベーション」や「イノベーションの民主化」

と呼ばれる現象です。ユーザーがより主体的に技術や商品の開発に参画することを指します。ユー

ザーが参画することにより、革新性や収益性に優れたイノベーションが生まれた例が報告されてい

ます。

しかし、ユーザーがイノベーションに関わることにより、コストがかさんだり、特定のユーザー

の好みにしか合わないものができあがったりと、マイナス効果も心配されます。私は医療における

ユーザーイノベーションの事例をもとに、ユーザーが技術や商品の開発に参画することの意義を探

ろうとしています。

Page 28: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:

生産組織におけるイノベーション:課題の発見、および解決に向けての理論的・実践的

考察

おおたはら じゅん

太田原 準

私が学生時代に受講した経営学関連の講義では,よく儲かっていることを前提としたうえで,それ

がどのような仕組み(システム)で成り立っているかといった話か,それがいかに従業員を搾取した

結果なのかといった話のどちらかであった。今はどうであろうか。日本企業には元気がない,利益が

出ていないという話が多く,それはなぜなのかという説明に多くの時間をつかう講義が多いように思

われる。

内閣府のデータによると,2005 年の日本全体の平均生産性は 0ECD 諸国の平均を下回り,アメリ

カを 100 とすると 70 という水準でしかないという。これでは確かに,私の学生時代に喧伝された,

ジャパン・アズ・ナンバーワンであるとか,グローバル・ジャパナイゼーションという状況とは程遠

い。でも,もう少し突っ込んで調べてみると,今も昔も,世界でやれている日本企業は,法人数を分

母に取ればわずか 1%くらいで,大部分の企業は,国内依存,内需依存でやっている。

これからの日本人がどれだけ現在の生活水準を維持・向上させられるか,未来に希望をもてるかと

いった問題にとって本当に問題なのは,トップ企業の動向よりも広範囲な生産組織全体の平均生産性

の方ではないかと,最近考える。そういう私も,自動車産業を中心に研究対象としてきたのだけれど,

トヨタやホンダのような企業は,これからますます,母国に依存しなくなるだろうと思う。車の買い

手はもちろん,原料の調達や従業員採用といった点でも,日本への依存率をどんどん下げていき,本

当の意味でのグローバル企業へと急速に変わっていくだろう。自動車産業の成長が,日本の経済成長

であり,生産性向上の象徴であった時代は,終わりを迎えつつある。

私の長期的な問題関心は,産業間で観察できる生産性の分布の偏りをもたらす要因について,経営

学の理論を用いて考察し、イノベーションの適用によって課題解決していくことである。日本にはさ

まざまな産業やセクターがあるが,産業間あるいはセクター間で生産性の格差が著しい。トップ企業

を有する産業は生産性の分布が高いほうに偏っている場合が多いけれども、これは少数で、全体とし

ては生産性の分布が低い方に偏っている産業の方が多く平均生産性が押し下げられる。今後,全体の

生産性を上げていくには,企業ごと,産業ごとに生産性をあげていく努力が必要である。スター企業

がポンと出て,全体を引っ張り上げる場合もあれば,業界企業が全体として束になって上がってくる

場合もある。したがって製造業だけでなく、農業、地場産業、地方自治体といったセクターも含め、

イノベーションの観点から,生産組織が直面している課題を正確に認識し,その解決に向かって,理

論的・実践的に考察を進めていきたいと考えている。

Page 29: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:財務会計情報と投資戦略

さくらい たかのり

櫻井 貴憲

財務会計には,大きく2つの役割があると考えられています。1つは,財務会計によって提供され

る会計情報が,利害関係者間の不信や懸念を解消したり,利害関係を調整したりすることによって,

利害関係者間の協力関係を促進させるという役割です。たとえば,銀行から融資を受けたいと考えて

いる経営者は,財務諸表に記載された会計情報を用いて元本や利息の支払能力が十分にあるというこ

とを銀行に説明し,銀行側の懸念を解消させることによって資金的な協力を得ようとします。企業は

各種の利害関係者の協力のもとで成り立っているので,財務会計が果たすこの役割はとても重要であ

り,一般に,利害調整機能とよばれています。2つ目は,主に株式市場に対して会計情報を提供する

ことによって,経営者と投資家の間にある情報の非対称性を緩和し,適切な株価形成を促すという役

割です。会計情報の提供は情報劣位にある投資家を保護することになるだけでなく,市場メカニズム

を通じて効率的な資金配分を促すことになります。これも財務会計が果たすべき重要な役割です。こ

の役割は情報提供機能とよばれています。

私は主に後者の情報提供機能に着目し,財務会計情報が証券市場における価格形成とどのような関

連性を持っているのかについて,また財務会計情報を利用して株式市場で実現リターンを獲得するた

めの投資戦略について,実証的に調査することを研究課題にしています。

Page 30: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:リスクと保険~年金問題を題材に~

ささき いちろう

佐々木 一郎

私の研究テーマは,年金問題を題材に,リスク処理手段として保険が有効活用されるための条件を

明らかにすることです。 現代社会はリスク社会ともいわれるように,企業や家計のまわりには多く

のリスクが存在します。企業や家計がスムーズに経済活動を行うためには,リスクを効率よく処理す

ることが求められます。保険は,小額の保険料負担で大きな保障を得ることができるので,リスクマ

ネジメント手法として不可欠のものとなりつつあります。

しかし,現実の経済・社会に目を向けると,保険を有効活用していないケース事例がいくつか存在

しています。実は,現在国民的関心の高い年金未納問題も,そのひとつです。昨今のわが国では,老

後の経済的リスクへの不安が高まってきているにもかかわらず,国民年金は老後リスクを処理する保

険としては十分に機能していないのが実情なのです。

では,なぜ多くの若者は年金未納者になるのでしょうか。その理由として,従来の研究では,主に

年金システムの問題点を指摘してきましたが,私は,年金に加入する若者のサイドにも何らかの原因

や事情があるのではないかと考えています。そこで,大学生やフリーターなどを対象にしたアンケー

ト調査を独自に実施し,未知の年金未納理由が何かを明らかにするための調査・分析をしています。

未知の年金未納理由の候補として私が今とくに注目しているのは,若者の近視眼的なものの考え方

です。現実的にみて,20 代の若者が 40~50 年先の老後のことを合理的に設計することは簡単ではあ

りません。この先どうなるか分からない老後のためによりも,今お金を使いたいという気持ちのほう

が優先した結果として,若者が年金未納者になることも十分に考えられます。 年金問題に焦点をあ

て,保険の有効活用を阻害する要因に接近していくことで,リスク処理手段として保険が有効活用さ

れるための条件を明らかにしていきたいと思います。

Page 31: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:組織の社会学的分析・研究政策の国際比較・社会科学方法論

さとう いくや

佐藤 郁哉

組織と制度の関係が主な研究テーマです。

特に大きな関心を持って研究を進めてきたのは、典型的な「営利企業」とは幾つかの重要な点で異

なる性格を持つ団体や組織(劇団、学術出版社等)において、ビジネス的な発想や手法が、組織を維

持しまたその活動をより充実したものにしていくためにどのように生かされてきたか、という点です。

この数年は、以前からよく「新公共経営(NPM: New Public Management)」などと呼ばれてきた公共

政策の実情と今後のあるべき方向性という問題に取り組んでいます。政府や中央官庁から公表される

各種の文書には、「選択と集中」「KPI」「PDCA」など、企業経営の領域に由来するとされる発想や

特定の手法を指す用語が見られる場合も多くあります。しかしながら、それらの文書には明らかな誤

用や本質的な思い違いが含まれている例が少なくありません。「民間の知恵」と言われるものを公共

政策の立案やその実行に生かしていこうとする考え方それ自体は、大いに評価されるべきものだと思

います。しかし、それが生半可な知識や基本的な誤解にもとづくものである場合には、重大な結果を

招いてしまうことが避けられないでしょう。今後の研究においては、諸外国における新公共経営の実

践とその帰結の分析という点も視野に入れながら、このような問題について検討を重ねていきたいと

思っております。

Page 32: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:Global business communication

さとう けんいち

佐藤 研一

グローバルなビジネスの世界では、英語によるコミュニケーションの重要性が日に日に高まってい

ます。従来は英語圏諸国との取引に使われることが多かった英語は、今や非英語圏出身のビジネスパ

ーソンの共通語となり、イギリスやアメリカの文化に裏打ちされた伝統的な「英語」とは全く違った

様相を見せるようになりました。特に世界のビジネスパーソンが共通語として使用する英語は

Business English as a Lingua Franca (‘BELF’) と呼ばれ、その姿と未来を探る研究が各方面で

展開しています。

「共通言語としての英語」を語る際に常に議論の的になるトピックがいくつかあります。たとえば、

「特定の英語変種をモデルにすべきか」、「ノンネイティブ同士が英語を使えば不自由さが増すだけで

はないのか」、「英語支配の拡大は文化的・言語的な帝国主義につながるのではないか」などは、その

主なものです。

私が今取り組んでいるテーマは、日本のように英語を外国語としてしか使用しない地域にある企業

や大学などの組織が英語を公用語のように使用する場合の組織・個人に対するインパクトについてで

す。また、これまでに存在した、あるいは現在も存在する他の Lingua Franca との比較対照を通し

て、BELF が持つ特徴を明らかにし、また BELF がこれから辿る道程を考察するということにも取

り組んでいます。

Page 33: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:グローバル社会における会計の役割と課題

さとう せいじ

佐藤 誠二

企業の経営実態を写すといわれる会計の基本的な仕組みのなかで、会計ディスクロージャー制度と

会計規制がどのように関連しているのか、国際的視野で考察する。とくに、近年、企業活動の国際化

に応じて、会計システムと会計情報を国際的に比較可能なものにしようとする会計制度改革が、会計

の世界標準とされる「国際会計基準(IFRS)」を中心に各国で進行しているが、そうした会計の国際

化の動向に照らしながら、会計制度の持つ社会制度的な意義と問題について検討するのが中心的テー

マである。

会計の世界では、会計的思考と法的思考が複合して存在しているが、経営者の経験と判断に基づく

経営・会計上の意思決定の適正性と適法性とをどのように判断するのか、会計行為の社会的合意形成

のあり方について日欧米の会計制度の比較を行うとともに、今日のグローバル社会において、各国の

会計制度がどう国際的に調和化され形成されようとしているか、またそこでもたらされる課題は何な

のかを検討しながら、会計の将来像について展望する。

Page 34: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:魅力ある日本の中小企業の発展プロセス

せき ともひろ

関 智宏

日本における中小企業は、日本の全企業数のなかで 99.7%を占めています。この比率は、戦後から

ほとんど変わっていません。雇用についても、従業員数のおおよそ 60~70%が中小企業に従事して

います。これらのように、日本の中小企業は、日本の経済社会にとって重要な存在であると認識され

ています。これは全世界での共通認識でもあります。

しかしながらその認識はあるものの、残念ながら、中小企業の実態については国民に十分に理解さ

れているとは言えません。一般的には、中小企業の事業内容はおろか、企業名すら認識されていない

ことがあります。さらなる問題は、中小企業は、大企業と比べて「悪い」と思われていることです。

私は、中小企業という言葉によって引き起こされる、規模が小さいことによる不利性を強調する一面

的理解は正しくないと考えています。中小企業のなかには、間違いなく、魅力的で、かつ発展を実現

している(あるいは発展可能性のある)企業が存在しています。問題は、その事実を国民が知らない

ということにあります。

私は、そのような魅力ある、発展している(あるいはその可能性のある)中小企業をできる限り多

く発掘し、その発展プロセスを広く社会に発信していくということを研究の柱としています。このよ

うな研究活動によって、中小企業の本来的な経済社会における存在価値が明らかになるとともに、国

民に正しい価値認識を創造することができると確信しています。

中小企業といってもその範囲は広いわけですが、そのなかでも私は製造業、とくに産業集積地域に

おける機械金属業種を対象とし、おもにサプライヤー・システム下における中小ものづくり企業を研

究対象としています。さらに最近では、ASEAN にて事業展開している(しようとしている)ものづ

くり中小企業を対象に、前向きに取組む経営者の皆様と直接的に密に関わりながら研究を深めていま

す。日—ASEAN の連携の深化とそれによる中小企業の発展に貢献する研究を今後も続けていきたい

と考えています。

Page 35: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:会計実務・会計基準・会計理論の本質的な役割

しが おさむ

志賀 理

企業は貸借対照表と損益計算書という財務諸表を作成し,企業の経営活動の結果を株主や債権者な

どの利害関係者に報告しなければならない。経営活動の結果とは主には純利益のことを表し,その純

利益は貸借対照表と損益計算書によって計算される。貸借対照表と損益計算書によって純利益を計算

するプロセスは複雑であるが,それらの財務諸表によって結果として表されるのは,たとえば,「現

金預金 1,000 万円」というように,ある項目と金額だけというきわめて単純なものである。

しかし,貸借対照表と損益計算書で表される項目と金額が大きく変化している。これまで,どのよ

うな項目をどのような金額で財務諸表に表すかということは,各国の会計基準によって規定されてき

た。しかし,世界中の企業の財務諸表を世界中の投資家が比較することができるようにするために,

世界共通の会計基準(国際会計基準:IFRS)が設定されている。その内容は,企業の経営活動の「過

去」の結果だけでなく,「将来」の起こりうる事柄を予測して,将来の項目を見積による金額によっ

て財務諸表に表そうとするものである。

会計の研究対象には,会計実務,会計基準,会計理論がある。表面的には,会計理論にもとづいて

会計基準が設定され,その会計基準にしたがって企業は会計実務を行っていると見える。しかし,そ

のような見方では会計の本質が見えてこない。つまり,企業が行う会計実務から財務諸表に計上され

る項目と金額がどのように変化し,最終的に算出される純利益がどのようになるのかを見ることによ

って,会計理論が果たす本質的な役割が明らかになり,会計の本質が見えてくるものと考える。

Page 36: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ: マネジメントを通じた働く人々の活性化の探求

すずき ともき

鈴木 智気

新入生の皆さん、初めまして。商学部の鈴木智気です。春から皆さんの大学生としての

学びがスタートしますね。皆さんがこれまで接してきた中学や高校の先生と、これから出

会う大学の先生には、一つ大きな違いがあります。それは、大学の先生とは、授業をする

教員(teachers)としての姿だけではなく、それぞれが自分の研究テーマを探求する、研

究者(researchers)としての姿を持っているということです。そこで、私がどんな研究を

しているのかを、簡単に自己紹介したいと思います。

私の研究テーマは、会社をはじめとする組織のマネジメントを通じて、働く人々がより

生きやすく、喜びや充実感を持って仕事に従事できる方法を探求することです。会社でも

病院でも大学でも、組織とはそこで働く人々がいて初めて成り立ちます。そして、そこで

働く人々が活力や充実感を持って働けているかどうかは、その組織が社会に提供する商品

やサービスの魅力、会社としての競争力に直結します。例えば Googleやトヨタなど、皆さ

んも知っている「すごい会社」というのは、往々にして自社の人々が元気に働くことがで

きるよう、十重二十重の努力を行なっていることで有名です。また、しばしば忘れがちな

ことですが、働く人々が喜びや充実感を持って仕事や生活を送ることができるということ

は、それ自体より健全な社会の実現にとっては大切なことです。

この働く人々の生きやすさや充実感の探求という研究テーマの中でも、私が特に関心を

持っているのは、会社の部長や課長、あるいは店長、工場長など、いわゆる管理者(managers)

と呼ばれる、組織の中でリーダーシップを発揮する立場にある人々です。従来、研究の世

界は、管理者の部下である従業員(employees)の働きがいや働きやすさに焦点を当ててき

ました。その一方で、管理者として働く人々がどうすれば喜びや充実感を持つことができ

るかという問題は、あまり重要視されていません。しかし、部活やアルバイトでリーダー

の立場に立ったことのある人ならわかると思いますが、管理者もまた一人の働く人間です。

管理者には管理者の苦しみや大変さ、それと同時に喜びや充実感があります。何より、リ

ーダーシップを発揮する立場にある管理者が充実感や活力を持つことは、その下で働く従

業員の働き方にも良い影響を及ぼすのではないか、と考えています。

皆さんが社会に出た時、あるいはこれからの大学生活においても、きっと管理者として

リーダーシップを発揮するべき立場に立つ日がきます。その時に役立つような「学び」を、

私の研究を通じて提供したいと思っています。教員として、研究者として、皆さんに会う

日を楽しみにしています!

Page 37: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:社会に役立ち、社員がやりがいを感じながら元気に働ける、新しいマネジ

メントと組織の研究

すずき よしじ

鈴木 良始

研究領域は,モチベーションと経営慣行,チーム組織論、開発と生産のグローバル化,自動車産業

における生産管理・生産システム,人的資源管理,経営理念と組織文化,リーダーシップ論などです。

詳細は,大学の研究者情報(下記の URL)をご覧ください。

https://kenkyudb.doshisha.ac.jp/rd/html/japanese/index.html

これらの研究テーマの中で,私がゼミ生と一緒に学んでいるのが,上のタイトルに掲げたテーマ「社

会に役立ち、社員がやりがいを感じながら元気に働ける、新しいマネジメントと組織の研究」です。

企業を「社会に役立ち,長期に安定成長できるもの」「社員が元気に働けるもの」という視角から探

究します。これは,企業倫理や社会的責任(CSR)の研究ではありません。企業を利潤追求手段とみ

る伝統的な考えが一方にあり,他方に企業の社会的責任とか企業倫理という高邁な考え方があります

が,そのいずれでもありません。社会に役立ち,そして社員にも働きがいがあり,そしてそれゆえに

こそ企業として長期的に成功するような経営のあり方を探究するものです。そんな企業があるのか,

と思われそうですが,じつは大企業、中小企業の中に意外にそうした企業が存在します。将来に向か

ってそうした企業,経営スタイルが徐々に増えていくと、社会も良くなり、働きがいもある,そのよ

うに考えてゼミ生とともに学んでいます。

Page 38: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:貿易・貨幣・権力から読み解く世界経済

たぶち たいち

田淵 太一

グローバルな完全雇用がつねに成立していることを暗黙裏に想定し,そうした非現実的な仮定のも

とで,貨幣抜きの貿易論,権力的要素を捨象した国際通貨論をテキストブックのなかで反覆している

のが,主流派(新古典派)の国際経済学です。私はこのことを,『貿易・貨幣・権力──国際経済学

批判』(法政大学出版局,2006 年)という著書で,ケインズ経済学の視点に立って学説史的に明らか

にしました。

近年の世界金融危機は,主流派国際経済学にとって,いわば「想定外」の災害のようなものなので

す。

主流派の経済分析が現実の理解には無力である一方,格差と貧困を拡大する極端な自由市場主義的

経済政策が各国で展開されています。金融危機,財政危機が,各国でリストラや増税,社会保障削減

を進めるために人々を脅迫する手段として利用されるようになりました。

そうした権力的要素の理解を含む「世界経済論」を構築することが目下の課題です。

Page 39: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:未来社会をデザインする:人間心理と経済制度設計

たぐち さとし

田口 聡志

現代社会は多くの問題を抱えている。グローバル化、少子高齢化、AI と人間の共存、政治

不安、国家財政危機、経済の二極化、貧困問題、環境問題などを鑑みるに、未来の社会を

明るく描くことは困難であると言わざるをえない。そしてこのような「暗い未来」を変え

ることは、ついにはできないのだろうか。

このような問いに対して、「そんなことはない!」と断言したいし、また、断言できるよ

うなエビデンスを、研究の立場から明らかにしたい。それが私の近年の関心事である。特

にゲーム理論と経済実験を合わせた実験社会科学という研究領域から、「人間心理」と「社

会の仕組み」との関係を科学的に分析し、様々な問題を克服し、希望あふれる未来社会を

構築しうるような処方箋作りを目指すというのが、私の研究の大きな狙いである。

実験社会科学は、どのような制度を導入したら、どんな人間行動がもたらされ、どんな

社会を構築することが出来るのか、ということを現実の人間心理に即して(そして現実の

制度を作る前に)検証することができるという大きなメリットを有する。さらに最近では、

実験から得られるエビデンスの力を政策決定や経営に積極的に役立たせよう、ひいては未

来社会をデザインしようという文理融合・産学連携の大きなムーブメントも生じている。

「デザイン」という言葉には能動的な意味合いがあり、未来の経済や経営を、研究の力で

能動的に変革していこう(実務家と研究者が協同していこう)というのがこのムーブメン

トの主眼である。私自身もこのムーブメントの真っ只中におり、未来社会をどのようにデ

ザインするかということを、研究室の学生達とともに分析している。

Page 40: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:消費者行動論にもとづくマーケティング、ブランディング研究

たかはし ひろゆき

髙橋 広行

消費者が、市場にある多くのブランドを「どのように認知し、理解しているのか」「ど

のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力

的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

ぐことを目的に研究しています。

最近は、①デジタル時代の消費者行動全般に興味があります。特に、スマート・フォン

の活用や QR決済やサブスクリプションなどが消費者行動に及ぼす影響です。また、②消

費者視点の小売イノベーションにも興味があります。

①デジタル時代において、多くの消費者はスマート・フォンに代表されるデジタル・デ

バイスを通じて、企業やブランドに関する多くの情報を獲得しています。こういった状況

においてブランドは、単に選んでもらえる(モノ)としての存在にとどまらず、消費者か

らの共感を得られるような、接点構築や買い物体験が、消費の対象として選び続けてもら

うことが条件になってきていると考えます。さらにレンタルやシェアでモノが代替できる

時代にあり、「買わなくても良い時代」に買ってもらう必要性が問われています。これら

の消費者行動に影響するのがスマート・フォンです。このモバイル端末の活用方法やデザ

イン性などが、情報探索や小売企業での購買行動に与える影響を調べたいと思っていま

す。もうひとつは、このモバイル・フォンを併用した買い物体験、いわゆる「カスタマー

ジャーニー」(購買のきっかけから検討・選択に至るまでの過程)を理解し、それぞれの

「タッチ・ポイント」(顧客接点)において、どのようなコンテンツや情報を提供するべ

きなのか、決済方法の変化はどのような影響を与えるのか、などの点を検討していきたい

と思っています。企業のデジタル・マーケティング担当者の方々、ブランド担当者へのイ

ンタビューや消費者調査を通じて、最適なブランディング、マーケティングについて検討

していきたいと考えています。

②小売イノベーションとは、この数年間に行ってきた小売のブランド研究や業態研究を

まとめ上げ、『消費者視点の小売イノベーション-オムニ・チャネル時代の食品スーパ

ー』(単著)として、2018年 11月に有斐閣から上梓(刊行)しました。小売のブランディ

ング、業態を通じた小売イノベーション、オムニ・チャネル時代のアプリ対応について検

討したものです。オムニ・チャネルやアプリの視点は、上記の①と絡めて現在も研究を進

めています。

共同研究では「ブランドの本物感(本物らしさ:ほんまもん)」がどのように形成され

るのか、その背景にある「こだわり」という概念の存在感など、これらの構成要素や尺度

開発について検証を重ねています。

Page 41: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

上記以外にも、同志社大学の位置する「京都市」とも様々な実務的な取り組みを行って

います。京都市内で店舗を持ちたい方を支援する「みせづくりカレッジ」、京都の伝統産

業の持つ良さや価値を維持しながら、それを現代の消費者にどのように合わせていくべき

なのか(また、変えずに残すべきか)を考えながら、新市場創造を考える企画などです。

京都を中心とする企業や職人の方々との交流を深めながら、少しずつ進めています。

このように、「消費者の視点で対象を理解し、それを企業のマーケティング、ブランデ

ィング戦略につなげる」という点を貫き、実務の現場に役立つ研究を日々続けています。

Page 42: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:サービス産業における人材活用の構造

たにもと あきら

谷本 啓

経済の高度化に伴い、第三次産業、いわゆる用益という無形の商品を提供するサービス

業が雇用において大きな位置を占めるようになりました。一説では、現在の日本経済の約

7割はサービス業が占めるといいます。

サービス産業は大変幅広い分野にわたります。そこでは機械や情報技術がどんなに発達

しても、接客において重要な役割を果たすのは生身の人間である従業員です。顧客の幅広

い要望に応えることは人間の柔軟性の方が優位にあるといえます。しかし同時に、ちょっ

とした顧客への対応のミスが企業イメージを損なうことにもなります。例えばホテル業に

おいてよくいわれる言葉に、「100マイナス1は 99ではない、ゼロである」という言葉があ

ります。これはどんなに客室の居心地が良くても、レストランの料理が美味しくても、ほ

んのささいな不満足、とりわけ従業員のちょっとした言葉や態度が、そのホテルの印象そ

のものを台無しにしまうことを意味しています。

しかし現実には、「最も給料が低い従業員こそ最も大切な仕事をしている」という言葉が

象徴するように、最前線で接客するパートやアルバイト、派遣社員といった非正規雇用の

従業員が企業の印象を決める仕事を担うことが少なくありません。しかも必ずしも接客に

必要な指導や訓練を十分に受けているとも限りません。お客様に満足して頂き、リピータ

ーとして繰り返し来店して頂くためには、従業員に気持ちよく、お客様に喜んで頂ける行

動を取ることができる環境や仕組みをいかに構築するかが重要になります。あわせてマニ

ュアルにはない状況に直面したときどう対応するか、自社の提供するサービスの理念の明

確化や判断基準(行動基準)を浸透させ、仕事の裁量権を与えることも重要となっていま

す。

以上のようなことは言われてみれば当たり前のことです。しかし、この「あたりまえ」

の事をきちんと、徹底してできるかどうか、そのための人材活用の構造をいかに構築する

かを研究の対象としています。

Page 43: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:企業戦略

とみた けんじ

冨田 健司

経営戦略,マーケティング戦略が専門分野で,さまざまな企業の戦略について研究して

います。

たとえば,アパレル業界を考えてみると,ユニクロや H&M などたくさんの企業を思い浮

かべることができます。ユニクロと H&M が同じ業界にいながら,共に成功しているのはな

ぜでしょうか。それはビジネスモデルが異なるからです。

従来からある,いわゆる DCブランドと呼ばれるアパレルメーカーでは「デザイン(商品

開発)」に力が注がれています。たとえばラコステはデザイナーが数年前に変わり,ブラン

ド全体のイメージが随分変わりました。こうしたメーカーでは他の人が着ていないデザイ

ン性に富んだ洋服を,数多くの種類作り,また少しずつ生産しています。そのため,Mサイ

ズの洋服がすぐに売り切れてしまうことも多々あります。このビジネスは「多品種少量生

産」が特徴です。

次に,ユニクロは低価格で販売するために,低コストでの「生産」に力を注いでいます。

そして,代表商品のフリースに見られるように,同一の商品でありながら,カラーバリエ

ーションを豊富にすることにより,店舗では色鮮やかにとてもたくさんのフリースが売ら

れています。そこでは,1人の消費者が何枚ものフリースを買っています。つまり,ユニ

クロのビジネスは「少品種大量生産」と言えます。

一方,H&Mでは開発した新商品を素早く全世界の消費者に届けられるよう,飛行機を使っ

て輸送しています。従来,商品を海外に運ぶにはコストの面から,海上輸送が行われてき

ましたが,H&M や ZARA では空輸が行われております。つまり,ビジネスの着眼点は「流通

(輸送)」です。そして,たくさんのデザインの新商品を,世界の市場に向け大量に生産し

ています。そのため,消費者は世界各地で H&Mや ZARAの新商品を買うことができます。こ

のビジネスは「多品種大量生産」と言えます。

このように,それぞれの企業は異なるビジネスモデルを採用しているため,同じ業界に

いながら,ともに利益を得ることが可能となります。商品開発→生産→流通→販売という

流れをバリュー・チェーンと呼びますが,時代の流れに伴い,アパレル業界では商品開発,

生産,流通と異なる段階に目が向けられてきました。この流れから考えると次の競争の次

元は「販売」にあるのかもしれません。

さらに別の業界に目を向けてみると,スターバックスとドトールもビジネスモデルが異

なるために,共存が可能です。また,ガリバーとバイク王は異なる業界に属していますが,

同様のビジネスモデルで共に成功しています。こうしたさまざまな企業のケースを取り上

げ,具体的なビジネスの仕組みについて研究しています。

Page 44: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:ファイナンス理論に基づく戦略的な意思決定

つじむら もとお

辻村 元男

複雑化した現代社会においては、将来の見通しはますます不確かとなっています。我々

はその中で様々な意思決定に迫られています。例えば、企業価値を高めるための企業経営

の意思決定を考えると、1)既存事業を拡張すべきか、縮小あるいは撤退すべきか、2)新

規事業に参入すべきか、2a)それは自社でゼロから始めるべきか、2b)他社を買収し一気

にその事業でのプレゼンスを高めるか、などがあります。これらの意思決定においては、

ビジネス環境の不確かさに起因するリスクを計量化し、いかに対応するかが問われていま

す。このような背景の下、金融市場で金融資産の価格評価などを分析する理論を用いてリ

スクを計量化し、企業経営に関わる意思決定について研究活動を行っています。

Page 45: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:サービス・マーケティングの研究

うちの まさゆき

内野 雅之

マーケティングを学んで一体何が役に立つのか,あれは金儲けのテクニックではないの

か,といった意見(批判)はよく耳にします。実際のところ,学んだ知識でビジネスが成

功すればこれほど簡単なことはないのですが。「実学」という言葉があるように,マーケテ

ィングの理論は社会での成果を上げることを期待されるのですが,それは常に変化し続け

る人と人,そして社会とシステムの関係をとらえようとする(ほとんど無謀な)試みにほ

かなりません。

にもかかわらず,ここ数年,僕が特に興味を持っている研究対象が「サービス」という,

形がないのにも関わらず取引されるという,さらに輪をかけてとらえどころのない存在で

す。日常生活の中でも,GDP に占める割合でも,サービスは実に膨大な支出が行われてい

るにも関わらず専門の研究者が極めて少ない,つまり先達によってエスタブリッシュされ

ていない分野です。雲を掴むような,という表現がありますが,サービスという実態のな

い鵺のような存在を,どうにかしてマーケティングという檻の中に捕まえてやろう,と獏

のように夢を見続けているところです。

Page 46: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:金融的要因と経済活動――理論・実証分析の展開――

うえだ ひろふみ

植田 宏文

現在,金融市場は国際化,自由化の中で急速に発達し多くの注目を集めている。それに

ともない,金融市場での参加主体である中央銀行,金融仲介機関(銀行等),企業,家計,

海外部門の金融取引は活発化し金融変数のみならず現実の経済に大きな影響を及ぼしてい

る。今日,ミクロ的な側面のみならずマクロ経済の動向をみるうえでも金融市場で展開さ

れる事象を正しく認識する必要性が益々求められていると言える。

日々の金融市場における需給状態で金利,為替レート,株価,債券価格等の金融変数は

変化し,時に大きな乱高下を繰り返し先進諸国間の政治問題にまで発展している。それで

は,どのような要因によって金利,為替レート,株価等は決定され変化するのであろうか。

さらに上述した金融指標間の相互依存関係はどのようになっているのか。これらの金融変

数の変化はいかなる経路を通じてわれわれの暮しに密接に関連するマクロ経済に影響を及

ぼすのであろうか。高度に複雑化した先進国では特に重要な問題であり,様々な制度の改

革も行われている。また,政府・中央銀行も如何なる目標をもち,その達成のための政策

手段は何であるのか。金融的要因と実体経済との関連性を理論実証分析を通じて解明して

いきたい。

Page 47: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:産業組織の実証分析

うえだ まさひろ

上田 雅弘

近年,情報通信技術の発展や経済のグローバル化,さまざまな分野における規制緩和に

よって社会・経済構造が大きく変革し,企業の競争環境もまた劇的に変化しています。そ

うした状況下で,企業は研究開発や広告宣伝活動,また資本提携や合併・買収を活発に行

い,生産性の向上やシェア拡大を図っています。企業行動や市場競争のあり方が急速に変

わってきた現在,企業間の競争と協調の場である市場(産業)のダイナミズムを理論的・

実証的に捉え,企業のさまざまな経営戦略がどのように組織の優位性につながるのか,ま

た消費者の厚生にどのような影響を及ぼすのか,さらには市場経済の基本的なルールであ

る競争政策はどうあるべきかを検討することが,産業組織を研究する大きなテーマとなり

ます。

具体的な産業として私がいま注目しているのは,1990 年代から大型合併が相次いでいる

製紙業界です。

製紙業界はこの 20年ほどでかなり寡占的な市場になってきました。大型合併前後の市場構

造がどのように変化したのか,またその結果,価格水準や企業の利益はどうなっているの

か,さらにはそれぞれの企業における生産性や効率性は上昇しているのだろうかというこ

とを,経済理論に基づいた実証分析の方法を用いて検証しています。

理論・実証・政策および戦略をテーマにしたゼミでは,実証分析を柱として自由なテー

マで卒業論文を作成してもらっています。世の中には様々な問題があり,みなさんが関心

を持つテーマも多種多様なはずです。製造業・サービス業・金融・情報などの分野を対象

とした特定の産業に関する実証分析をはじめ,個別企業や消費者行動の分析,さらには教

育・社会問題,環境問題など,あらゆる分野のテーマを対象としています。

Page 48: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:ソーシャルイノベーションと行動変容

うりゅうはら ようこ

瓜生原 葉子

社会には様々な課題が存在します。その課題を解決し,持続可能なより良い社会に

しようと取り組む新しい考えや方法が「ソーシャルイノベーション」です。それを生

みだすためには,企業,非営利組織,行政,大学などの多様な立場の人々が協力し合

い,役割や関係性を変化させ,持続的に人々のニーズを満たす新たな価値やビジネス

モデルを共に創造することが必要です。

そのため,大きく二つの視座から研究しています。一つ目は行動変容,ソーシャル

マーケティングです。具体的な社会課題として,「臓器提供の意思表示率が低い」こ

とに着目し,人々の意思表示行動を促進しています。その理由は,グローバル製薬企

業で,20年にわたり臓器移植分野の研究開発・マーケティングに従事する中,日本で

は,移植医療に対する理解不足や偏見から,意思表示率が低く,個々の意思と権利が

尊重されていないことを実感し続けてきたからです。

それを解決するため,例えば,移植や意思表示に関心がない人,関心をもって

YES/NOの意思決定はしたものの意思表示するきっかけがない人に同じメッセージを伝

えても心に響きません。異なるアプローチが必要です。前者には,移植医療の意義を

伝えたり,誤解を解いたり,共感を得る施策などが有効です。後者には,行動の障壁

になっている不安を払拭し,意思表示をする時間・媒体を提供することが有効です。

また,意思表示に新しい価値を与えて,人々の認識を変えることも重要です。「研究室学

生と Share Your Value Project をたちあげ,『意思表示は家族へのメッセージ』という

新たな価値を人々に認知していただく「MUSUBU2016キャンペーン」というアクションリサ

ーチを行いました。これにより,関心がない人は 31.9%から 8.5%に減少し,意思表示率

(YES/NO関わらず)は 14.4%から 24.9%に増加しました。このようにマーケティングの手

法を用いて,人々の自発的な向社会行動を促し、社会課題の解決に貢献するソーシャルマ

ーケティングの実効性を理論・実践両面から研究しています。」

もう一つ,組織イノベーションです。課題が多様化,複雑化し,営利,非営利,その組

織形態に関わらず社会的価値の創造が必要とされている現在において,その価値

を創出しうるケイパビリティについて研究しています。

人々の願い(human value)を実現可能にする technologyはあっても,実行可能に

する社会のしくみが整備されていなければ,真の『ソーシャルイノベーション』は起

こりません。多様な専門分野を横断的に再編して新しい分野を創成する「学融合

(trans disciplinary)」によって,その社会のしくみを探究し,結果を社会に還元

し,結果を基に自らも実践する良循環型の研究者であり続けたい,社会課題の解決に

微力ながら貢献したいと思っています。

Page 49: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ: 環境情報開示,実証分析,社会学理論

おう えい

王 睿

近年環境問題への関心が高まり,企業はどのようにして環境と経済を両立させるべきか

という議論も増えつつあります。企業は環境問題に対応する一つの重要な方法としては,企

業の環境情報を開示することです。環境情報開示の利用により,ステークホルダーとの環境

コミュニケーションを取るようになっています。しかし,企業の環境情報開示は財務情報開

示とは異なって,強制的かつ統一的な規制及び形式がないため,様々な影響要素に左右され

ています。したがって,環境情報開示はどの場合でより効率的に環境情報の非対称性を減少

できるか,また,環境保護の目的に効果があるのかについての問題が生じました。それらの

問題を分析するために,社会学理論をフレームワークとして,異なる国において実証分析を

行い,環境情報開示の国際的な動向及び国における特徴の分析が主要な研究方向となりま

す。

以前の研究では日本電気機器業界の企業をサンプルとして,環境パフォーマンスと環境

情報開示の関連性を検証しました。結果としては,日本企業が環境情報を開示する時,異な

るシグナル(有害化学物質の排出,温室ガスの排出)により開示の動機(環境活動をアピー

ルする,正統性を保つ)が異なることを示しました。

そして,中国企業の環境情報開示に影響する制度的要素も分析しました。結果としては,

中国企業の環境情報開示においては,政府規制が最も強力的な要因だが,環境情報開示の質

も改善できるように,開示内容に対するより詳しい政府規制が必要です。企業がコストを抑

えるために,要求された最低限の情報しか開示していない状況にあるので,短期的には環境

と利益を直接関連させる政策(グリ-ン貸付,排出量取引等)が必要であり,長期的には,環

境教育や環境専門機構の宣伝などにより,企業の環境責任を認識させ,環境意識を高めるこ

とが重要です。

以上の分析から見ると,異なる国においては環境情報開示の特徴が異なっています。したが

って,環境情報開示の国際的な動向及び国における特徴の分析は,環境問題の解決および環

境情報開示今後の発展においては重要だと思います。そして、異なる国の環境情報開示の特

徴をより理解できるなら、海外進出企業の実務にも貢献可能だと考えられます。

Page 50: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:人々を幸せにする会計制度の構築

やまもと たつじ

山本 達司

私は、「会計は人々を幸せにできる1つのツールである」という考え方に基づいて、「どの

ようにすれば、人々を幸せにする会計制度ができるのか」という問題について研究します。

では、人々を幸せにする会計制度とは何でしょうか?例えば、企業が会計不正により倒産

した場合を考えてください。このとき、経営者が厳しく罰せられることは当然ですが、株主、

債権者、取引先も大きな損失を被ります。これでは、みんなが不幸になってしまいます。そ

こで、経営者に会計不正をさせないシステムが必要です。解決法は、ただ単に会計法規を厳

しくすればいいというわけではありません。経営者も感情をもつ人間ですから、会計不正の

防止に有効なシステムを作るには、心理学や行動経済学の知見が必要になるわけです。

そのため、私は会計学のみにとどまらず、心理学、ゲーム理論、行動経済学、実験経済学

などの知見を用いて、人々を幸せにする会計について研究しています。

Page 51: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:近代日本看護史

やました まい

山下 麻衣

日本における看護史記述の主題の中心は、看護婦の社会的地位の高低の判断、その判断

をもとにした社会的地位の方策の提示であり続けてきたと私は考えています。私の研究上

の目標はこのような先行研究をふまえつつ、看護婦を「女性が多く就く労働者」と見なし、

日本の看護婦の働き方の歴史を描き出すことにあります。

少なくとも日本では、どのような特性を持った女性が「看護婦」とみなされ、どこでど

のように雇用されたのか、誰をどのように看護したのかという基本的な史実について、わ

からない点が多くあります。看護婦の社会的地位の判断を求められた場合には、より多面

的に検討できているのかを、繰り返し問い続けるべきだと考えます。そして、より正確さ

を期した分析を前提として、何からの判断をしていく必要があるとも思っています。

このような問題意識に基づいた、私の研究上の主たる目的の第1は、近代日本社会にお

ける多様な「看護婦」の存在をあぶり出し、「看護婦」と称せられていた女性たちがどのよ

うな環境で育った人たちで、どのように働いていたのかがわかりうる史料を貪欲に発掘し、

それを元にして、より深く検討することです。検討の際には、日本経済史の専門知識を用

いて、看護婦の待遇に代表されるなんらかの「数値」に関する史料を多く収集しかつ分析

していくことを目指しています。第2に、看護婦の待遇がどのような基準軸でもって誰に

よってどのように判断されてきたのかを描きだそうと考えます。この点に意識的になるこ

とによって、看護婦のみならず看護婦資格を持たない人々もまた看護婦の社会的地位をど

のようなプロセスで理解してきたのかを明示できるのではないかと考えます。

(本文では研究対象および歴史的呼称として「看護婦」を使用しています。)

Page 52: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:ファッションビジネスの経営史

やまうち ゆうき

山内 雄気

経営史は,時代固有の経営問題を理解したうえで,その歴史的意義を探る学問です。単

にある企業が成功した失敗したといった歴史的事実を覚える学問ではありません。問題に

直面した企業の対応およびその対応の結果を理解し,その背後にある論理を解き明かすこ

とが目的なのです。さらに,その企業の選択の結果が社会や経済に与えた影響も理解しよ

うとします。思い切って言うと,経営学の問題意識に基づいて歴史事実を解釈することに

よって,人類の発展に対する企業活動の果たした役割を明らかにしようとしているのです。

こうした問題意識に基づき,私は 1920年代の日本のファッションビジネスを研究してい

ます。具体的には,銘仙という絹織物の流行を創出しようと苦闘した商人を中心に,百貨

店や生産者,職業図案家などにも注目しつつ,日本の近代的なファッションビジネスの誕

生の瞬間を描き出そうとしています。日々,商人の発行していた冊子をめくったり,新聞

の広告を数えたり,図案を眺めたり,生産地域を巡ったりしています。

私がこの研究を進める理由は,ファッションビジネスが好きだからということもありま

すが,それ以上に,この研究にロマンを感じるからです。19 世紀中葉に日本の商人によっ

て世界へ紹介されはじめた日本の装飾品や美術品は,19 世紀末のフランスで起こった新た

な芸術様式として知られるアールヌーヴォーに強い影響を与えました。20 世紀に入ると,

逆に日本の工芸や美術が,アールヌーヴォーの影響を受けはじめます。

その影響はファッションビジネスの世界にも伝播します。とりわけ,その影響を強く受け

たのが銘仙でした。

銘仙の斬新なデザインは,その当時拡大しつつあった大衆消費を牽引しました。日本の開

国がヨーロッパの新たな美術運動に影響し,その新たな考え方が 20世紀初頭の日本に再起

し,大衆消費を牽引する流行商品を生み出す。私は,この半世紀にわたるダイナミックな

国際的な変化を描き出したいと考えているのです。

Page 53: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:企業法務から見た国際取引紛争の予防と解決

よしかわ えいいちろう

吉川 英一郎

一言で私の関心事を表すなら「国際ビジネス法務」です。それは割と範囲が広いもので

す。現代社会においてビジネスのグローバル化が進み,国際的な取引はありふれたものと

なりましたが,それにつれてビジネス紛争も国際化し複雑化しているのです。 例えば,国

際的訴訟が国内の訴訟と違うことを端的に示す特徴としては,国際裁判管轄と準拠法決定

の問題が挙げられます。「紛争が持ち込まれた国の裁判所に裁判を遂行する権限があるのか

どうか」というのが国際裁判管轄の問題であり,「紛争を解決するにあたってどこの国の法

律を基準とするか」というのが準拠法決定の問題です。国際企業はそのような争点をも十

分理解しなければならないのです。

さらに,「どこの国の法律を基準とするか」という問題に関連して言えば,「国際契約に

適用される契約法」とはどのようなものが望ましく,しかし,実際には(例えば,アジア

の EMS 企業と日本企業との間の契約には)どのような法が適用されることになっているの

でしょうか。日本が 2008 年7月に「国際物品売買契約に関する国際連合条約(いわゆる,

ウィーン売買条約,CISGと略される)」に加入したのも,その1つの答えでしょう。

また,国際企業は,新規・新種の取引に合わせて,諸条項について工夫しながら契約書

をドラフトするわけですが,それも将来のビジネス紛争を予防する一手であると言えそう

です。

私の研究は,企業法務の視点から,さまざまな国際ビジネス紛争(特に国際契約トラブ

ルをめぐる訴訟や国際商事仲裁など)を眺め,その予防や解決方法を,実務的に検討する

ところにあります。企業が当事者となる紛争の予防・解決ということでは,国際契約紛争

だけでなくハラスメント・雇用差別等の労働問題や交渉学などにも関心を持っています。

Page 54: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ:小売国際化とコンビニエンスストアのビジネスモデル

しょう いんけつ

章 胤杰

われわれは日々,様々な小売店舗を利用しています。中でもコンビニエンスストアは,

最近では食品廃棄物の削減,24 時間営業の問題,スマホ決済の導入と普及などでよく話題

になっています。出店する場所やスピード,取扱う商品・サービスの種類,売場のレイア

ウト,レジ精算や商品発注業務,商品の生産と供給体制など,現在のビジネスモデルはど

のようなもので,どのように構築されてきたか,そしてなぜ見直しが必要で,どのように

再構築すべきかを議論する必要があります。

一方,海外に進出して事業展開を行う小売企業も多く,コンビニの場合もそうです。例

えば,中国ではセブン-イレブン,ファミリーマート,ローソン,ミニストップの日系コ

ンビニ四社が事業展開をしています。当然ながら,日本で作ったお弁当を中国に届けて販

売するわけにはいかないため,現地で生産工場や物流センターを設立する必要があります。

中国で加盟店を募集する時は日本の契約書をそのまま用いることも不可能であり,言語か

ら内容まで変更または修正しなければなりません。すなわち,小売企業の国際展開におい

ては,ビジネスモデルをどのように移転させるかだけでなく,現地の事情に合わせてどの

ように変容させるかをも考察する必要があります。

以上のことを踏まえて,私は現地調査などを通して小売企業の国際展開の実態を正確に

把握し,そのうえで小売国際化の論理を用いて研究しています。理論を使って現象を説明

したり,また実態に基づいて理論を修正したりすることを続けると同時に,実務家とのコ

ミュニケーション重視しながら,自らの研究を通して学術の発展や産学連携に貢献したい

と考えています。

Page 55: 【目 次】 - com.doshisha.ac.jp€¦ · のような接点を作ることがブランディングにおいて最適なのか」「どのような訴求が魅力 的なのか」などの点を把握し、それを企業のマーケティングやブランディング戦略につな

研究テーマ: グローバル企業の組織運営と人的資源管理

ちょう いじゅん

趙 怡純

私の研究分野は国際経営です。この分野が扱う研究テーマは多岐にわたります。私がとく

に関心を持っているのは、企業の海外拠点におけるトップマネジメントの人材配置の問題

や、本社と海外拠点および海外拠点間の連携にかかわる問題です。

通信・輸送技術の発展によってグローバル化が急速に進んだ現代では、数多くの企業が国

境を越えて事業を展開しています。私たちは海外で作られた商品やサービスだと知らずに

購入していることもあります。世界各地に複数の販売・生産・開発等の拠点を保有する企業

も少なくありません。このような海外拠点の運営を誰に任せるのかは重要な問題です。本社

から人を派遣するのか、現地で人を採用するのか、優秀な人を世界中からヘッドハンティン

グするのか、さまざまな選択肢が考えられます。海外拠点におけるトップマネジメントの決

定要因を国籍(本社採用の人か現地採用の人か)の観点から分析した研究や、海外拠点の人

材配置が組織の運営や本社との連携の面でどのような影響をもたらすのかについて明らか

にした研究は数多くあります。また、グローバルに活躍する人材に必要とされる能力や、そ

れを育成・活用するための人材マネジメントについても活発に議論されています。このよう

に、豊富な研究蓄積はあるものの、海外拠点のトップへの人材登用にかんする背景やプロセ

スはまだ明らかになっていない部分もあります。私は日本の製造企業の海外拠点を対象に、

海外拠点間の協働や競争関係など多面的な視点から人材配置の問題や課題を明らかにしよ

うと取り組んでいます。