第 2 章 設計条件 - maff.go.jp...d)朔望平均干潮位(l.w.l.)...

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― 9 ― 第 2 章 設計条件 2-1 総説 【処理基準】 海岸保全施設は,施設の求められる機能と高潮,波浪,地震,津波等による作用が構造 物ごとに異なることを考慮し,求められる機能を満たし,考慮すべき作用に対して構造的 に安全でなければならない. 設計に際しては,高潮,波浪,津波,流れ,漂砂,海浜形状,地盤,土圧,水圧,地震, 環境と利用等の設計条件を考慮するものとする. 【解説】 2-1-1 一般 海岸保全施設は,求められる機能を満足するとともに対象とする作用に対して長期 にわたる安定を確保するように設計する必要がある.特に設計条件は,構造物の型式 や規模を決定するための基礎的事項である.なお,考慮しなければならない事項は, 「海岸施設設計便覧 2000 年版」に詳述されている. 2-1-2 性能設計における標記の基本 海岸保全施設の設計において対象とする主な作用は,高潮,波浪である.構造物, 条件によっては,津波,地震,水圧力,土圧力,流れ,風圧等も含まれる.構造物の 安全性の検討には,設置地点の地質構造,地盤支持力も必要となる.海浜変形,地盤 変動,海面の長期変動等も施設の安全性の支配要因になる.したがって,これらの事 項について,十分な調査・観測が必要である. (1) 作用 従来,一般的に設計外力と呼ばれていたもの (2) 照査 断面の基本諸元や形状,細目などを定める行為 (3) 性能 施設あるいは構造物に求められる要件

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Page 1: 第 2 章 設計条件 - maff.go.jp...d)朔望平均干潮位(L.W.L.) 朔望の日から前2日後4日以内に現れる各月の最低干潮位を平均した水面である.

― 9 ―

第 2 章 設計条件

2-1 総説

【処理基準】

海岸保全施設は,施設の求められる機能と高潮,波浪,地震,津波等による作用が構造

物ごとに異なることを考慮し,求められる機能を満たし,考慮すべき作用に対して構造的

に安全でなければならない.

設計に際しては,高潮,波浪,津波,流れ,漂砂,海浜形状,地盤,土圧,水圧,地震,

環境と利用等の設計条件を考慮するものとする.

【解説】

2-1-1 一般

海岸保全施設は,求められる機能を満足するとともに対象とする作用に対して長期

にわたる安定を確保するように設計する必要がある.特に設計条件は,構造物の型式

や規模を決定するための基礎的事項である.なお,考慮しなければならない事項は,

「海岸施設設計便覧 2000 年版」に詳述されている.

2-1-2 性能設計における標記の基本

海岸保全施設の設計において対象とする主な作用は,高潮,波浪である.構造物,

条件によっては,津波,地震,水圧力,土圧力,流れ,風圧等も含まれる.構造物の

安全性の検討には,設置地点の地質構造,地盤支持力も必要となる.海浜変形,地盤

変動,海面の長期変動等も施設の安全性の支配要因になる.したがって,これらの事

項について,十分な調査・観測が必要である.

(1) 作用

従来,一般的に設計外力と呼ばれていたもの

(2) 照査

断面の基本諸元や形状,細目などを定める行為

(3) 性能

施設あるいは構造物に求められる要件

Page 2: 第 2 章 設計条件 - maff.go.jp...d)朔望平均干潮位(L.W.L.) 朔望の日から前2日後4日以内に現れる各月の最低干潮位を平均した水面である.

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2-1-3 設計供用期間と作用の年超過確率

設計供用期間とは,当該施設の性能照査を行う場合に考慮する時間(期間)を示す

ものである.すなわち,施設の要求性能を満足させる機関である.

また,年超過確率は,再現期間とも呼ばれ,波力や地震力などの作用が発生する確

率の基準となる期間を示すものである.

国内においては,これまでに設計供用期間として,コンクリート構造物は 50年,鋼

構造物では 30年とされてきたが,これは財務上,管理が必要な期間であり,設計思想

に立った考え方ではない.

現在では,土木構造物においては,ISO2394:1998 で示された設計供用期間の考え方

を適用することが一般化しつつあり,表 2-1-1 を参考として設計供用期間を設定する

ことができる.

表 2-1-1 ISO2394:1998 における設計供用期間の概念

クラス 設計供用期間 適用例

1 1~5年 仮設構造物

2 25 年 交換構造要素

3 50 年 一般的な構造物、建築物

4 100 年(以上) 記念的建物、重要構造物

一方,年超過確率は,作用が発生する確率を示すものであり,地域や施設の重要度

などで適宜設定されてきた.再現期間 50年の年超過確率は 1/50=0.02 となり, 30 年

の場合では 1/30=0.033 となる.

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2-2 潮位

2-2-1 設計高潮位

【処理基準】

設計高潮位の設定に当たっては,

(1)既往最高潮位

(2)朔望平均満潮位に既往の潮位偏差の最大値を加えたもの

(3)朔望平均満潮位に推算した潮位偏差の最大値を加えたもの

より,当該海岸保全施設の背後地の状況等を考慮して海岸管理者が総合的に判断して定

めるものとする.

また,必要に応じて,当該満潮位の時に当該潮位偏差及び設計波が発生する可能性を考

慮して,当該潮位偏差の最大値の範囲内において下方補正や,平均海水面変動を考慮して

上方補正することもできるものとする.

【解説】

(1) 一般

海岸保全施設の設計に当たっては,設計に用いる潮位を適切に設定することが重要

である.

設計に用いる潮位は,天文潮及び高潮等による異常潮位の実測値または推算値に基

づいて定める 2).

ここで,設計高潮位とは,上記に示す設定手法にて設定される潮位の上限値であり,

海岸保全施設の設計に当たって定める設計潮位として一義的に規定されるものでない.

また,考慮すべき背後地の状況としては,人口の集中度,資産の集積度,重要施設

の有無,背後地地盤高等が挙げられる.

天文潮による基準面の設定諸元としては,基本水準面,平均水面,朔望平均満潮位

及び朔望平均干潮位の各高さを考慮するものとし,その諸元は,原則として一箇年以

上の整数年の検潮記録から定める.

本文に示した各基準面の定義は次のとおりである.

a)平均水面(M.S.L.)

ある期間の海面の平均の高さに位置する面をその期間の平均水面という.実用上は

1箇年の潮位を平均して平均水面とする.

b)基本水準面(C.D.L.)

平均水面から主要4分潮の振幅の和だけ低い水準面であり,海図における基準面と

同じになるように設定されている.平成 13年4月に改正された水路業務法では,海図

における基準面自体の変更はないが, 低水面という用語に変更された.ただし,当

分の間は, 低水面はそれまでの基本水準面と同じ水準面であるとされている.

c)朔望平均満潮位(H.W.L.)

朔望の日から前2日後4日以内に現れる各月の 高満潮位を平均した水面である.

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d)朔望平均干潮位(L.W.L.)

朔望の日から前2日後4日以内に現れる各月の 低干潮位を平均した水面である.

e)平均満潮面(M.H.W.L.)

大潮,小潮を含んだすべての満潮の平均値をいう.

f)平均干潮面(M.L.W.L.)

大潮,小潮を含んだすべての干潮の平均値をいう.

g)東京湾平均海面(T.P.)

我が国の測量の基準となる水準点をいう.もともとは,明治時代に東京湾の潮位観

測を行った結果から定めた水準点であるが,現在の東京湾の平均水位と一致するもの

ではない.東京都千代田区永田町に水準点がある.

図 2.2.1.1 は,これらの各潮位・水準面の関係を,東京検潮所を例にとった図 4)で

ある.

図 2.2.1.1 東京(晴海)検潮所の潮位実況図 4)

(2) 潮位の変化

高潮と津波はそれぞれ異なる原因によりまれに起こる現象であることから,同時に

は起こらないと考える.

(3) 平均海面の上昇

設計潮位をとる際に考慮する天文潮や高潮とは別に,長期的な海面水位の上昇に関

して,国内外で検討が進められている.

IPCCの第三次影響評価報告書 5),6)によれば,1990 年から 2100 年までの間に海

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面水位の上昇量は,9~88cm と推定されている.また,1958 年から 1995 年迄の約 38

年間における久里浜湾の年平均潮位が,推定値+2.03mm/年で上昇していることが報

告されている 7).

一般的には,こうした定量的に不確実な水位上昇量を設計時点で見込むことは難し

いので,海面水位上昇への対応は,嵩上げ等のメンテナンスによって行わざるを得な

い.しかし,非常に長期間にわたって供用が必要となる排水口の設計などのように,

事後的な修復が極めて困難であることが予測される重要構造物の設計に当たっては,

海面水位上昇予測量を適切に考慮して設計を行うことが必要である.

波浪・高潮対策施設の設計高潮位

波浪・高潮対策施設に対する設計高潮位の決め方としては,以下のa),b)がある

が,その他にc),d)といった方法もある.

a)既往 高潮位を用いる.

b)朔望平均満潮位に既往の潮位偏差の 大値,あるいは推算した潮位偏差の 大

値を加えたものを用いる.

c)既往の異常高潮位の生起確率曲線を求め,ある再現期間(例えば 50年,100 年

など)の間に,それより高い潮位が平均して1回発生するような潮位を用いる.

d)異常高潮位の生起確率と各潮位に対する背後地の被害額及び波浪・高潮対策施

設の建設費を経済的に勘案して決定する.

これらの方法は,いずれも次の長所と短所がある.a)の方法は も簡明ではある

が,相当長期間の観測資料を必要とする.b)の方法は高潮の主特性である潮位偏差

に着目している点で優れているが,再現期間が明確でないため,設定値の信頼性を定

量的に評価することができない問題点が残されている.c)の方法は確率的な考え方

によるもので,設計に用いる高潮位がどの程度の生起確率を持っているかが明瞭であ

る.しかし,観測記録の残されている比較的短期間の資料から長期間の予想を行うの

で,信頼性の問題がある.d)の方法は,将来的に目指すべき合理的かつ国民経済上

も有益な方法であるが,現状では被害額の推定などの方式が確立されておらず,実

際に適用するのは困難である.

現在広く採用されている方法は,a)及びb)である.b)の場合には,朔望平均

満潮位として台風期(7月~10月)朔望平均満潮位を採用してもよい.一般に台風期

朔望平均満潮位は,通年の朔望平均満潮位より高く,その差は太平洋岸では 10cm 以上

に達する場合もある.

これらの手法のいずれを採用するかは,それぞれの数値を比較検討し,実測期間,

生起頻度,施設の重要性及び経済性などを考慮のうえ決定する.これらの場合におい

て,朔望平均満潮位に既往の潮位偏差の 大値を加えたものが,非常に大きすぎて実

際の計画にそぐわない場合には,過去の資料をよく検討して両者が同時に起こる頻度

を考慮し設計高潮位を補正する.いずれの方法を用いるにせよ,既往 高潮位以上の

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異常高潮位が起こらないという保証がないことには,十分な注意を要する.

設計に用いる潮位のとり方

海岸保全施設の設計に当たって用いる潮位は,対象とする施設に求められる要求性

能と安全性能に対し,適切に設定された設計高潮位を上限値として, も危険となる

潮位を設計潮位として設定する.したがって,要求性能の検討潮位と安全性能の検討

潮位が異なることもあることに注意が必要である.例えば波浪・高潮対策施設におい

ては,天端高は,波のうちあげ高や越波流量により決定されるのでそれらが 大とな

る潮位を設計潮位とするが,安定計算に当たってはより低い潮位でより危険となる場

合があり,このときにはその潮位を設計潮位としなければならない.堤体の安定検討

の場合は,その構造物が も不安定となる潮位を設計潮位とする.また,円形すべり

の検討では,その安全率が も小さくなる潮位を設計潮位とする.

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2-2-2 高潮

【処理基準】

設計に用いる高潮の検討に当たっては,できるだけ長期間にわたる実測値若しくは浸水

記録をもとに定めるか,又は実測値若しくは浸水記録を十分に再現した数値計算若しくは

適切な算定式により算定した値に基づき定めるものとする.

【解説】

(1) 高潮の定義

月や太陽の引力によって生じる天文潮の他に,低気圧(台風や熱帯低気圧を含む)

や高気圧の通過に伴う気圧変動,風などによっても,海面の高さは変化する.これら

気象による海面の変化を気象潮といい,推算天文潮位との差を潮位偏差という.気象

潮の中でも特に,台風や熱帯低気圧の通過によって潮位が高くなるものを高潮(たか

しお)という.

(2) 高潮の予測

高潮は,気圧低下による海面の吸い上げ 8),強風による海水の吹き寄せ 8),砕波帯

における風波やうねりの砕波によって生じる平均水位の上昇 8),9),長波としての変

形(動的な増幅)8),さらにこれらがもとで生じる湾内の副振動,セイシュとの共振

などが合わさったものである.

東京湾,伊勢湾,大阪湾,有明海,八代海など,南北に長く南側に口を開いた内湾

では,台風が湾の西側を北上すると,主として台風の目の右方で吹く南風又は後方で

吹く西風によって,湾奥に顕著な高潮が発生しやすい.一方,周防灘など,東西に長

く東側に口を開いた内湾では,台風がその内湾を横断するコースを通っても,台風の

目が通過することによる顕著な気圧低下や目の前方で吹く東風によって,湾奥に顕著

な高潮が発生しやすい.

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表 2.2.2.1 1900~2002 年の間に観測された主要な高潮(瞬間 大値)(気象庁 10)に加筆)

年 月 日

発生域

偏差

(m)

原 因

年 月 日

発 生 域

偏差

(m)

原 因

1917.10. 1

1930. 7.18

1934. 9.21

1938. 9. 1

1950. 9. 3

1956. 8.17

1959. 9.26

1961. 9.21

1964. 9.25

東京湾

有明海

大阪湾

東京湾

大阪湾

有明海

伊勢湾

大阪湾

大阪湾

2.1 外

2.5 外

3.1 外

2.2 外

2.4

2.4 外

3.5

2.5

2.1 外

台風

台風

室戸台風

台風

ジェーン台風

台風第5609号

伊勢湾台風

第2室戸台風

台風第6420号

1965.9.10

1970.8.21

1972.9.16

1991.9.27

1995.9.17

1996.9.22

1999.9.24

2000.7. 8

2002.10.1

瀬戸内海東部

土佐湾

伊勢湾

有明海

八丈島

八丈島

周防灘

八丈島

八丈島

2.2

2.4 推

2.0

2.7

3.4

2.9

2.1 外

2.5

2.4

台風第6523号

台風第7010号

台風第7220号

台風第9119号

台風第9512号

台風第9617号

台風第9918号

台風第0003号

台風第0221号

無印:気象庁管轄検潮所の資料,推:推定値,外:気象庁管轄外検潮所の資料による

台風による潮位偏差は,式(2.2.2.1)のような経験式によって求めることができる

10),13).

cbUPPa cos2100 (2.2.2.1)

ここに,

η ;潮位偏差(cm)

P0 ;基準気圧(=1010hPa)

P ; 低気圧(hPa)

U10 ;10分間平均風速の 大値(m/s)

θ ;主風向と 大風速 U10 のなす角

a,b,c ;各地点ごとに既往の観測結果から求めた定数

表 2.2.2.2 に代表地点について定数の値や主風向を示す 10).

なお,波浪が直接来襲する海岸では,式(2.2.2.1)に砕波による平均水位の上昇量を

加えるものとする.

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表 2.2.2.2 経験的予測式の定数 10)

定数 cの値,浜田-12.9,境+15.4,宮津-4.8 を除き,ゼロである.

主風向の「S29 ゚ W」は南から 29 ゚西寄りの方向であることを示す.

高潮の数値計算

高潮の現象を詳しく解析するためには,数値計算を行う.数値計算は,海面に作用

する気圧,風による海面の摩擦応力,海底で海水の流れに作用する摩擦応力,海水の

渦粘性などを考慮し,平面的に配置された計算格子点における潮位や流速の変化を,

台風が接近して通過するまで時々刻々と計算する 14).台風の気圧及び風速の分布は,

中心気圧,半径,移動速度などをパラメータとする台風モデル 15)によって計算する.

湾の海底地形は間隔が数百 m またはそれより細かな格子で近似し,それぞれの格子点

に水深を与える.高潮の数値計算モデルには様々なものがあり,対象とする海域の高

潮を十分に再現できる適切な計算方法を採用する.

なお,近年では,密度層や河川からの流入水を考慮した数値計算モデルや,高潮,

天文潮,波浪をそれぞれ独立した現象として扱うのではなくこれらの相互作用を考慮

した数値計算モデルも作られており,これらのモデルの方が実際の現象を良く再現す

ることもある 9,16-19).

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(3) 潮位偏差

表 2.2.2.1 は我が国沿岸の検潮所で観測された代表的な高潮を示したものであり,

太平洋及び東シナ海の沿岸で 2m 以上の潮位偏差が記録されている.その 大値は,

1959 年の伊勢湾台風によって名古屋港で生じた 3.5m である.また,この表には含ま

れていないが,八代海,鹿児島湾などでも顕著な潮位偏差が記録されている 10),11).

潮位偏差は同じ海域でも場所によって異なり,検潮所のある位置がその海域で 大

の潮位偏差が生じる場所であるとは限らない.例えば,現地調査によると,八代海の

北部では1999年の台風18号によって3.9mの潮位偏差が生じた海岸もある12).また,

過去と全く同じ条件の台風が再来しても,埋立てなどによってその当時から海岸線が

著しく変化したところでは,過去とは異なる潮位偏差が生じる.

高潮と天文潮

高潮は台風など気象擾乱によって起き,天文潮は月や太陽の引力によって起きる.

このように,高潮と天文潮の発生原因は互いに独立した現象で,高潮による潮位偏差

が 大となる時刻が天文潮の満潮と重なる場合もあれば,干潮と重なる場合もある.

特に瀬戸内海や東シナ海沿岸の内湾では天文潮差が大きく,顕著な潮位偏差が生じて

も,干潮と重なることによって,大きな災害から免れていた場合もある.設計潮位を

設定する際には,このような高潮の発生を見落とさないためにも,高潮と天文潮を合

わせた潮位だけを整理するのではなく,高潮による潮位偏差だけの出現特性について

も整理するとよい.

台風が接近すると,気圧低下による海面の吸い上げと強風による吹き寄せによって

湾内の海水は振動し,これがきっかけとなって湾内に顕著な固有振動が生じることも

ある.吸い上げや吹き寄せによる振動を主振動と考えると,これによって生じる固有

振動は二次的な振動であり,副振動とも呼ばれる.天文潮位が上昇しているときには,

副振動の振幅が小さくても,主振動のときより高い潮位が現れることがある.

(4) 高波との同時生起

内湾の高潮は,主として気圧低下による海面の吸い上げと風による吹き寄せによっ

て生じる.一般に湾口部では,吸い上げの効果が卓越し,台風が 接近して も気圧

が低下する頃に潮位偏差が 大となる.湾奥部では吹き寄せの効果が卓越する場合が

多く,台風による風が湾口から湾奥に向かって吹く頃に潮位偏差が 大となることが

多い.一方,波浪は気圧低下と直接の関係はなく,風によって発達し,海底地形の影

響を受けながら伝播する.また波浪は岬や島などによっても遮蔽されやすい.高潮と

波浪にはこのような違いがあるので,台風の経路や湾内の位置によっては,潮位偏差

のピークと波高のピークが同時ではないこともある 20).

護岸等の設計では,朔望平均満潮位等の天文潮位に,潮位偏差のピーク値と波高の

ピーク値が重なった, 悪の条件を考慮して天端高を決定する.ただし,このような

条件では設計高潮位が非常に高くなり,実際の計画にそぐわない場合には,満潮,潮

位偏差のピーク,波高のピークが同時に起こる頻度を考慮して設計高潮位を補正する.

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(5) 砕波による平均水位の上昇

砕波帯では,気圧低下による海面の吸い上げや風による吹き寄せの有無に関わらず,

砕波によって平均水位が上昇するとともに長周期の振動が生じる.このうち平均水位

の上昇をウェーブ・セットアップ(wave-setup)という.その上昇量は海底勾配,来襲

する波浪の波形勾配などによって異なるが,汀線に近づくほど大きくなるという性質

があり,沖合の有義波高の 10%以上になることもある.そのため,波浪が直接うち寄

せる海岸では,平均水位の上昇量の絶対値が大きくなり,吸い上げや吹き寄せととも

に潮位偏差を構成する主要な要素となる.例えば,表 2.2.2.1 に示した台風 7010 号に

よる土佐湾の潮位偏差の約半分は,砕波による平均水位の上昇と考えられている 9).

砕波帯内に設置する海岸保全施設の設計には,砕波によって生じる平均水位の上昇

や振動を考慮しなければならないが,通常,波高変化や波力,越波流量,波のうちあ

げ高などの算定式や算定図には平均水位の上昇の影響が含まれており,設計潮位に平

均水位の上昇分を改めて加える必要はない.ただし,浅瀬(リーフ)が広く発達してい

るところでは,その水位上昇は特に大きく,1m以上になることもあるため,このよう

な場所では設計に用いる潮位にこの水位上昇分を含めるものとする.

(6) 副振動(セイシュ)

周囲が閉じた湖,入口が狭く外海と水の出入がほとんどない湾などでは,風など外

力の変化に応じて内部の水が一定の周期で自己振動を起こす.これをセイシュ(静振)

という.また湾の一端が外海に通じ,水の出入が自由にできる場合に,その水の出入

によって湾内に生じる振動を副振動という.海岸保全施設で問題となるのは主として

後者であり,設計ではその振動周期及び振幅を考慮する.

台風による気圧低下や吹き寄せをきっかけとして湾内に副振動が発生することがあ

るが,これとは別に,外海から侵入した長周期波などによっても湾又は港内に強制的

な振動が起きる.後者の副振動の周期は,来襲波の周期に支配される.また,この副

振動が湾又は港の形状に固有な振動周期に対して,大きな共振を起こす場合が多い.

したがって,対象とする湾または港に固有な振動周期を知る必要がある.日本の主要

な港における副振動の特性については宇野木 21)の研究がある.

副振動の振幅は,その原因となる長周期波の振幅と,その周期に対する振幅増幅率

によって決まる.来襲波の周期が湾または港の固有周期と等しい場合に振幅増幅率は

大きな値となるが,これ以外の周期に対しても振幅の小さな副振動は生ずる.

形状を単純にモデル化した湾又は港については,その固有振動周期及び振幅増幅率

を理論計算によって求めることができる.しかし,実際の湾又は港の形状,境界条件

などは非常に複雑であるため,現地観測または数値計算によって固有振動周期及び振

幅増幅率を求めることが望ましい 22).参考までに, も単純な場合について固有振

動周期の推定式を示す.

1) 等深な長方形水面

(周りが閉じられており,水の出入がない場合)

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― 20 ―

ghm

lT

2

ここに,

T;固有振動周期(s)

l;水面の長さ(奥行き)(m)

m;振動の次数(=1,2,3,...)

g;重力加速度(=9.8m/s2)

h;水深(m)

2) 等深な長方形湾の場合

(一端より水の自由な出入りがある場合,図 2-2-1 参照)

gh

l

mT

12

4

図 2-2-1 長方形湾における副振動

なお,実際には,湾内の海水が定常的に振動するばかりでなく,湾口付近の外海の

海水も多少振動するので,その影響によって固有振動周期は式(2.2.2.3)の値よりもや

や長くなる 23).また,振幅増幅率は m=1あるいは 2の場合に 大となることが多く,

実用上はこの場合についてのみ検討すればよい.

【参考】

3) 網引(あびき)

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― 21 ―

2-3 波

2-3-1 一般条件

【処理基準】

設計には原則として不規則波を用いるものとする.不規則波の代表波高及び周期を,有

義波高及び有義波周期とする.波高,周期及び波向の沿岸域における変化を検討するとき

には,地形による波の屈折,回折,砕波変形等を適切な手法で考慮するものとする.ただ

し,これまでに規則波によって設計された施設及びそれに関連する施設については,改良

等の設計を規則波で行うことができるものとする.

【解説】

(1) 不規則波

風によって起こされる海面の波は,固定した観測点で波形解析を行うと,波高と周

期が不規則な変動を示すことから,海の波は不規則性を有している.ただし,波形を

単純化して取り扱う場合には,周期一定,波高一定の規則波を仮定することができる.

水深 h で一定方向へ進行する規則波を考えた場合に,波の谷から峯までの高さを波高

H,隣り合う波の峯から峯までの距離を波長 Lという.波形勾配 H/Lが非常に小さい波

は微小振幅波といい,微小振幅波理論でその性質を説明できる.微小振幅波理論では,

周期 Tと波長 Lの関係が以下の分散関係式で結びつけられる.

khgk tanh2 (2.3.1.1)

ここに,

σ;角周波数(=2π/T)

g;重力加速度

k ;波数(=2π/L)

h;水深

波形勾配 H/L が大きくなると波形は上下が非対称となり,静水面から測ると波の峰

の方が谷よりも振幅が大きくなる.このような波は有限振幅波(非線形波)とよばれ

有限振幅波理論で特性を説明できる.有限振幅波理論では,定型の進行波として波形

を表して,水粒子運動の残差運動に起因する質量輸送などを取り扱う.有限振幅波理

論としては,深海から浅海波を対象とするスト-クス波理論と極浅海波を対象とする

クノイド波理論が一般的に用いられる.

実際の海の波は,一波一波の波高と周期が不規則で,無数の周期と波高が異なる規

則波(成分波)が重なり合ったものとして考えることができる.不規則な波形デ-タ

の平均水面を負から正へ水面が横切る点を波の始点・終点として一波を定義する手法

をゼロアップクロス法という.一般には,ゼロアップクロス法で定義した各波の波高

を大きいものから並べて,上から全体の 1/3 に当たる個数を抽出して平均した値を有

義波高とし,H1/3 で表す.有義波高を定義するために取り出した各波の周期を平均し

た値を有義波周期 T1/3 とし,一連の波形記録の周期を表す代表値とする.一般に有義

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― 22 ―

波の決定に当たっては,約 100波以上の連続した波(多くの場合 10~20分間の継続し

た波に相当する)の観測値に対して上記の処理を行う.観測波全体の波高が 大のも

のを 高波高 Hmax といい,有義波高と同様に,全体の波数の上位 1/10 に対して求め

たものを 1/10 大波高 H1/10 という.平均波高 Hmean は全体の平均値である.これら

は,一般に式(2.3.1.2)の関係にあることが知られている.

3/11/10 27.1 HH

meanHH 6.11/3

meanTTT 1.13/110/1

3/1max 0.26.1 HH ~ (2.3.1.2)

不規則波に含まれる成分波の周波数fと振幅エネルギー(スペクトル密度)S(f)の関

係を示すものが波の周波数スペクトルである.図 2.3.1.1 に周波数スペクトルの例を

示す.

図 2.3.1.1 スペクトル解析結果の例

これは各周波数に対応する成分波の平均エネルギ-を縦軸に表したもので,これま

でに観測結果に応じて経験式が提案されてきた.我が国の浅海域では,以下の示す

Bretschneider-光易型を合田が改良した周波数スペクトル形が適用できる 1).

])[-0.75(exp205.0)( -43/1

543/1

23/1 fTfTHfS (2.3.1.3)

(2) 多方向性

海の波は本来様々な方向から来襲するエネルギ-を含んでおり,波の峰は通常連続

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ではなく途切れている.この状態を切れ波あるいは多方向不規則波といい,各方向へ

のエネルギ-のばらつきを表す関数を方向関数という.多方向不規則波のエネルギ-

のばらつき状態を示す指標が方向スペクトル S(f;θ)で,周波数スペクトル S(f)と方

向関数 G(θ;f)の積で示すことができる.

)( )();( fGfSfS ;・ (2.3.1.4)

ここでθは主方向からの角度を示す.方向関数としては,我が国では一般的に次式

で示す光易型を用いることができる.

2

cos)( 20

SGfG ;

1max

min

20 2

cos

dG s

pp ffffS ;)/( 5

max

pp ffffS ;)/( 5.2

max (2.3.1.5)

ここで Smax は,エネルギ-の中心方向への集中度を表すパラメータ,すなわち方向

集中度パラメータであり,fpはピーク周波数である.合田・鈴木は実験や観測結果か

ら Smax として以下の値を提案している 2).また,H0/L0 との関係として,図 2.3.1.2

が提案されている.ただし,実際の海域では,Smax がこの図の上下に広く分布するの

で,できるだけ観測結果を参照することが望ましい.

図 2.3.1.2 方向集中度パラメータ Smax と深海波形勾配 H0/L0 の関係

Smax =10 : 風波

Smax =25 : 減衰距離の短いうねり

Smax =75 : 減衰距離の長いうねり

S

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図 2.3.1.3 に Smax =20 の場合の光易型方向関数の例を示す.図中のf*は,周波数

fを fpで割ったものである.

図 2.3.1.3 光易型方向関数の例示

海岸保全施設の設計においては,設置水深が比較的浅く沖合いの多方向不規則波の

全ての成分波の波向が屈折によって汀線に直角に揃ってくると考えられる領域では,

単一方向不規則波として取り扱ってもよい.ただし,離岸堤の背後の波高分布や海浜

流の変化を検討する場合には,波の多方向性を考慮して詳細な解析を行う必要がある.

(3) 周期

構造物に作用する波としては,周期数秒~8s程度の風波,周期8s~30s程度

のうねりが主なものになる.周期30s~300sの長周期の水面変動はサーフビー

トともいわれ,波のうちあげ高や越波流量を検討する際に重要な要素となる.文献 3),

4),5)を参考にして適切に考慮することが望ましい.

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2-3-2 設計に用いる波の決定方法

【処理基準】

設計に用いる波高,周期,波向等の波浪諸元は,長期間の観測データに基づいた統計解

析によって設定するものとする.ただし,観測データが十分でない場合は,波浪推算の結

果を準用できるものとする.

【解説】

(1) 沖波

海岸保全施設の設計に当たっては,設計波を適切に設定することが重要である.設

計波は,沿岸波浪観測値または推算値に基づいて定める 7),8).

常時の波浪特性は,波浪資料より,月別,季別及び通年の資料について波向別に波

高,周期の相関度数分布表として表すことを標準とする.

異常時の波浪特性は,極大波については統計処理を行い,確率波高として表すこと

を標準とする.なお,極大波については,簡易な統計処理の一つとして,既往 大値

をそのまま抽出して採用する場合もある.

常時の波浪分布特性は,波向別に波高・周期の相関度数分布として表す.波高,周

期については観測データが利用できる場合は,これを使用することを標準とする.観

測データが利用できない場合は波浪推算によるものとする.波向については一般に観

測データが少ないので,推算によることを標準とするが,うねりの影響について十分

考慮する必要がある.

設計の対象となる波の波高は,長期間(原則として 30年以上)のデータから,極大

波についての再現期間に対する確率波高として表すことを標準とする.長期間にわた

る観測データを利用できない場合には波浪推算結果を利用することになる.

確率波高の推定資料である極大波とは,ある一つの気象条件において波が発達し,

減衰する過程において波高が 大となる時の波(一般に有義波)をいい,サンプリン

グされた極大波は統計的に互いに独立であると仮定する.確率波高の推定に当たって

は,対象期間中において極大波高がある設定値以上のデータの時系列を使う場合と,

各年ごとに極大波高の 大値を求めておいて,この毎年 大波のデータを使う場合が

ある.いずれの場合にも,確率波高の母分布関数は一般的には不明であるので,Gumbel

分布, Weibull 分布,その他の分布関数をあてはめ,データに も適合する関数形を

見出し,その推定関係式を用いて所要の再現期間(例えば 50年,100 年など)に対す

る確率波高を推定する.

なお,こうした推定値の精度は統計処理の方法よりも使用したデータの精度に支配

されるものであるから,極大波のデータを波浪推算によって作成する場合には,推算

法の適切な選択及び推算結果の実測値に基づいた検証を行うように心掛けるべきであ

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― 26 ―

る.

確率波高に対応する周期については,確率波高の推定資料である極大波のデータに

ついて波高と周期の関係をプロットし,その相関関係に基づいて適宜決定する.

統計処理に当たっては,波高を大きさの順に並べ替え,各波高値に対する未超過確

率を計算する.

今,データ個数をN,大きいほうからm番目の波高をXm,Nとすると,波高がXm,

Nを越えない確率Fmを次式で計算する.

)()(1 NmFm / (2.3.2.1)

上式中のαとβは,表 2.3.2.1 に示す確率分布関数ごとの値を用いる.Gumbel 分布

に対する値は,Gringorten(グリンゴーテン)9)が求めたもので,順序統計量Xm の

期待値に対応する非超過確率Fを用いて,データの統計的ばらつきの影響が 小にな

るように定められたものである.Weibull 分布に対する値は Petruaskas・Aagaard(ペ

トラウスカス・アガード)10)が同様の考え方で求めたものである.

表 2.3.2.1 異常波浪の未超過確率計算のためのパラメータ 6)

水文統計などでは分布関数として Gumbel 分布(二重指数分布),対数極値分布,あ

るいは平方根指数型 大値分布などが用いられる.波高の極大値に関しては長期間に

わたるデータの集積が得られていないため,沿岸の各地点で,どのような分布関数に

適合するのか明確にはわかっていない.あてはめ分布関数の選択に当たっては,文献

11)または 12)を参考にすることができる.

仮設構造物の設計に当たっても,基本的には,以上述べた考え方で設計波を設定す

る.しかしながら,仮設構造物は,設置期間が限定されているため,対象再現期間を

短く設定することは可能である.2~3年程度の期間の仮設構造物であれば,10年間

程度の対象再現期間で設計が行われることが多い.

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― 27 ―

(2) 換算沖波波高の算出

海岸保全施設の設計に用いる換算沖波波高の算出に当たっては,エネルギー平衡方程式

を用いた解析的手法または,同手法と同等以上の精度を有する方法により求めることが望

ましい.

(3) 照査対象と年超過確率の関係

設計に用いる波浪の年超過確率(再現期間)は,照査対象となる構造物の重要度を考慮

して適切に設定することが望ましい.

(4) 浅海域における波の変化

浅海域の波向,波長及び波高は,水深変化に伴う波の浅水変形,屈折,砕波,構造物で

の回折等を考慮して算定するものとする.ただし,比較的単純な地形を有する海域では,

実績のある適切な図表による解法を用いることができるものとする.

① 屈折と回折

同一周期であれば水深が大きい方が波速が大きい.水深が異なる境界に斜めに波が

入射した場合には図 2.3.4.5 に示した模式図のように波向線は浅い領域でより境界に

直角になるように変化する.これを屈折といい,図のような関係をスネルの法則とい

う.すなわち屈折による波向きの変化(屈折角)αは次式で示される.cは波速であ

る.

constc /sin (2.3.4.3)

図 2.3.4.5 水深急変部における屈折図 69)

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また,深海部の波高 Hoに対して浅海域の波高 Hは次の関係を有する.

0HKKH rs (2.3.4.4)

ここで,Krは波向線間隔の変化に伴う波高変化を示す屈折係数と呼ばれる.規則波

の屈折係数と屈折角の変化は算定図で求めることができる.図 2.3.4.6 に規則波の屈

折係数と屈折角の算定図を示す.

図 2.3.4.6 規則波の屈折角と屈折係数の算定図

微小振幅波を仮定して,浅海域の不規則波の屈折係数は,波の方向スペクトルを用

いて各成分波の屈折係数にエネルギーに応じた重みをかけて求めることができる.す

なわち,次式で不規則波の屈折係数 を求める.

2/1

1 1

2)()()(

M

i

N

jijrijeffr KEK (2.3.4.5)

ここに, は,不規則波の成分波として周波数について i=1~M,波向についてj

=1~Nのものを考えた時の(i,j)番目の成分波を持つエネルギーの割合である.

平行等深線海岸における不規則波の屈折係数は,鈴木・合田 70)によって求められ

ており図 2.3.4.7 で算定できる.砕波帯において波は非線形を有しており,厳密には

算定図は適用できないが,屈折による変化と砕波による変化を別個に分けてそれぞれ

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― 29 ―

の係数をかけることによって近似的な推定が可能で,算定図の活用範囲は広い.

図 2.3.4.7 不規則波の屈折係数の算定図

(4)回折

構造物の背後に波が回り込む現象が回折である.海岸保全施設による背後の遮蔽域

における波高変化を推定することは構造物の効果を検討する際に重要で,回折によっ

て変化する波高比を回折係数 Kdで表す.規則波の回折基礎方程式はヘルムホルツ方程

式と呼ばれ,速度ポテンシャルが構造物から無限に離れた点で0になるという境界条

件と水深が一定の条件で解が得られる.入射波高 Hin に対する遮蔽域での回折波高 H

は次式で示される.

ind HKH (2.3.4.6)

回折係数は図式解法で算定される例が多く,片側に無限にのびる半無限防波堤及び

防波堤開口部からの波による回折係数の変化を示す算定図を回折図と呼ぶ.図

2.3.4.8 に規則波に対する代表的な回折図を示す.

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― 30 ―

図 2.3.4.8 半無限堤に対する規則波の回折図 71)

微小振幅波の場合には,屈折係数の場合と同様に,規則波の回折係数を成分波のエ

ネルギーに応じて重ね合わせて不規則波の回折図を求めることができる.図 2.3.4.9

に不規則波の回折図を示す.

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図 2.3.4.9 不規則波の回折図(1)半無限 (2)防波堤開口部 72)

波が斜めに入射する場合には,図 2.3.4.10 に示すように中心軸の偏向角を見込めば

直角入射の図を回転させて用いることができる.表 2.3.4.1 に偏向角の一覧表を示す.

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図 2.3.4.10 防波堤開口部に対する斜め入射の不規則波の回折図における軸の偏向 72)

表 2.3.4.1 斜め入射不規則波に対する防波堤開口部からの回折波の偏向角 72)

回折図は水深が一定の条件で提案されたものである.また,不規則波の港内におけ

る回折と反射による変化を求める高山法 73)は港内水深を一定としている.港内にお

ける水深変化が小さい場合には,回折図や回折計算法の結果を採用しても構わない.

ただし,航路掘削や浅瀬の造成により港内や海岸部での水深が急激に深くなったり,

浅くなったりする海域では,屈折や砕波による変化が同時に起こるので,屈折と回折

を同時に考慮できるような非線形波浪変形法で波の変形を推定することが望ましい

74).

② 浅水変形と砕波変形

平行等深線海岸に波が直角に入射すると,水深の減少に伴って,波高が変化する.

これを浅水変形という.微小振幅波の浅水変形による波高変化の割合は浅水変形係数

Ksで表され,波高 Hは次式で示される.

0HKH S (2.3.4.1)

浅水係数は図 2.3.4.261)で求めることができる.横軸の沖波波長は Lo=1.56T2 で

ある.図では,有限振幅性を考慮した場合の浅水係数も示している.

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図 2.3.4.2 有限振幅性を考慮した浅水係数の算定図 61)

図でわかるように浅くなると波高が大きくなり,やがて表層の水粒子速度が波速よ

りも大きくなるような領域になると波形が崩れて,波は砕波する.砕波現象は非線形

性の強い現象で,数値計算で波高変化を求めることが難しい. 近では,エネルギー

減衰項を工夫していくらかの実用的な数値計算法が提案されている 62).実用的には,

水理実験で得られた波高変化をもとにして提案された算定図を用いることができる.

図 2.3.4.3 は規則波の砕波限界 63)を示すもので,図 2.3.4.4 は不規則波の砕波帯で

の波高変化を海底勾配ごとに示したものである 64).

図 2.3.4.3 砕波限界波高の算定図 63)

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図 2.3.4.4 砕波帯内の 大波高と有義波高の変化 64)

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図 2.3.4.4 砕波帯内の 大波高と有義波高の変化 64)

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図 2.3.4.4 砕波帯内の 大波高と有義波高の変化 64)

なお,図 2.3.4.4 では海底勾配が 1/10 までしか示されていないが,それよりも急勾

配の斜面上でも 1/10 勾配の算定図を近似的に適用できる.数値的に砕波限界を検討す

る場合には,次式の砕波限界条件を用いることができる 62).

)tan151(5.1exp117.0/ 3/4

0

0 L

hLH b

b (2.3.4.2)

ここに,

;砕波限界波高

;砕波限界水深

;海底勾配

沖合養浜の場合には,沖合でバーが生じ,岸へ向かうほど深くなる地形が出現する.

このような地形を逆勾配斜面といい,近似的には砕波変形を考慮しなくてもよいが,

厳密には逆勾配斜面での波高減衰が生じる.逆勾配斜面での波高減衰は,栗山が現地

観測で検討し 65),合田が段階的砕波モデルによる計算法を示している 66).

2次元的な地形変化に対応した浅水変形及び砕波変形による波形変化を推定する数

値計算法として近年,流体の運動方程式を直接計算する一連の VOF(Volume of Fluid)

法が活用されつつある.VOF 法は,不規則波への展開や砕波後の波形変化に困難さを

伴っているものの,構造物の型式による波形変化や越波の様子を視覚的にとらえるた

めに有用な手法である.標準的な VOF 法プログラムは文献 67)に示されている.砕波

直前までの波形を比較的短時間で計算できるものとして境界要素法による数値計算法

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も活用できる 68).

③ 砕波による平均水位の上昇

④ 反射と透過、伝達

波は構造物に当たると進行方向とは逆方向に反射する.反射による波高変化の割合

を反射率といい KRで表す.入射波高 Hinと反射波高 HRは次式で関係づける.

inRR HKH (2.3.4.7)

波が直角に構造物に作用する場合,合成波高は次式で示される.

inR HKH 2/12 )1( (2.3.4.8)

反射率が高い場合には,合成波高も高くなるので構造物の安全性を高めたり,海域

を静穏に保つためには,一般的に反射率を下げた方がよい.低反射構造物としては,

緩傾斜護岸,スリット式直立消波護岸等が提案されているが,波の周期が長くなると

消波効果が低くなるので注意を要する.一般的な反射率は以下のようになる 75).

直立壁(天端は静水面上) 0.7~1.0

直立壁(天端は静水面下) 0.5~0.7

捨石斜面(斜面勾配1:2~1:3) 0.3~0.6

異形消波ブロック斜面 0.3~0.5

直立消波構造物 0.3~0.8

自然海浜 0.05~0.2

人工干潟やれき浜は自然海浜に準ずる.模型実験や現地観測で構造物の反射率を求

める手法としては,鈴木,合田による不規則波の入反射波分離推定法 76)や方向スペ

クトルを解析して,入射波の方向範囲に含まれる波のエネルギーと反射波の方向範囲

に含まれる波のエネルギーの比から反射率を推定する手法 77),78)が提案されている.

波の透過は透水層を波のエネルギーが通過する現象で,波の伝達は構造物の上を波

が伝わったり越流することによって構造物背後に波が伝播する現象である.ただし,

捨石潜堤では波の透過と伝達が同時に起こるため明確に区別されずに”波の透過”と

して総称されることがある.

波の透過は透水層中の波浪運動を解いて計算する必要があり,文献 79)等を参照す

る.波の伝達については,これまで実験的に各種構造物の伝達率を求める算定図が提

案されてきた.それらは文献 80)にまとめられている.模型実験ではマウンド部を小

石で製作するので,これらの算定図の結果はマウンド部からの透過の影響を含んだも

のとなっている.

【参考】

⑤ リーフ上の波の変形

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― 38 ―

2-3-3 波力の算定

【処理基準】

構造物に作用する波力は,構造物の形態,海底地形,水深,波の諸元等を考慮して,適

切な算定式,水理模型実験等により算定するものとする.その際,波の不規則性について

も考慮するものとする.

(1) 直立壁に作用する波力

直立壁に作用する波力は,波の条件のほか潮位,水深,海底地形,海岸保全施設の断面

形状,法線形状等により変化するので,これらを考慮して適切に算定するものとする.

特に急勾配の海底面上又は高マウンド上の直立壁にあっては,強大な衝撃砕波力が作用

することがあるので,その発生条件に十分留意して波力を算定するものとする.

修正合田式

(2) 衝撃砕波力

(3) 汀線より陸側の壁体に作用する波力

(4) 被覆石及びブロックの所要質量

波力を受ける傾斜構造物の表法(のり)面を被覆すべき捨石及びコンクリートブロック

の所要質量並びに混成堤マウンドの被覆石及びブロックの所要質量は,適切な算定式又は

水理模型実験により算定するものとする.

一般化されたハドソン式

自然石:ファン・デル・メーヤの Ns

消波ブロック:谷本らの Ns

【参考】

(5) 消波工に被覆された壁

(6) 傾斜堤上部工に作用する波力

(7) 留意事項

堤頭部割増し

施工端部

既存ブロック等の有効活用

中アンコ(表層厚、再利用) 他

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― 39 ―

2-3-4 水中部材の作用する波力

海中部材に作用する波力は,波による水粒子速度の2乗に比例する抗力と水粒子加速度

に比例する慣性力の和として算定するものとする.海中に設置した大型の孤立構造物に作

用する波力は,構造物の大きさや断面形状を考慮して適切な数値計算,水理模型実験等に

よって算定するものとする.

モリソン式

2-3-5 越波流量の推定

【処理基準】

設計に用いる越波流量は,護岸,堤防の構造,周辺地形等を考慮して,適切な算定方法

又は水理模型実験により算定するものとする.設計に用いる許容越波流量は,背後地の重

要度に応じて適切な値を設定するものとする.

(1) 直立壁の越波流量

(2) 消波工被覆壁の越波流量

(3) 越波流量への影響要因

1) 波の入射角

2) 階段工の形状(蹴上高)

3) 消波ブロックの天端並び数

4) 直立消波ブロック

5) パラペット後退型

6) 遊水部付き

(4) 緩傾斜護岸の越波流量

2-3-6 許容越波流量

被災限界

背後地の被害

利用

越波流量の水平分布

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2-3-7 波の打ち上げ高

【処理基準】

設計に用いる波のうちあげ高の算定に当たっては,波の不規則性を考慮した模型実験,

不規則波を対象とする算定法又は代表波高と周期を有する規則波を対象とする算定法を

用いるものとする.

(1) 一般

(2) 各種堤防の波の打ち上げ高

(3) 改良仮想勾配法

(4) 簡便法

(5) 留意事項

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2-4 津波

【処理基準】

設計に用いる津波は,過去の浸水の記録等に基づく最大の津波又は数値計算等により算

定した最大の津波を考慮して,海岸保全施設に到達する可能性の高い津波を定めるものと

する.

2-4-1 津波の定義

2-4-2 津波の伝播

2-4-3 湾内における津波の変形及び共振

2-4-4 段波

2-4-5 過去の代表的な津波

2-4-6 設計に用いる津波

2-4-7 津波の伝播に関する数値計算及び模型実験

2-4-8 津波の陸上又は堤防への遡上に関する数値計算及び模型実験

2-4-9 単純な地形における津波の遡上高

2-4-10 津波の波力

2-4-11 津波の発生原因

2-4-12 地震と津波の規模

2-4-13 検潮記録上での津波

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2-5 流れ

【処理基準】

設計に用いる流れは,原則として海浜流,潮汐流,吹送流及び河口流とするものとする.

2-5-1 一般

2-5-2 海浜流

2-5-3 潮汐流

2-5-4 吹送流

2-5-5 河口流

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2-6 漂砂・飛砂及び飛沫

【処理基準】

設計に用いる漂砂の卓越方向及び移動量は,風,波,流れ,地形及び底質の資料に基づ

き,一連の漂砂系における底質移動の連続性を考慮して算定するものとする.

2-6-1 漂砂

(1) 漂砂の定義

(2) 漂砂の運動形態

(3) 漂砂の卓越方向

(4) 漂砂量

(5) 漂砂系と漂砂の連続性

2-6-2 飛砂

設計に用いる飛砂量は,実測の飛砂量から求めるか,又は現地の風及び底質の特性等を

考慮して,適切な飛砂量算定式を用いて求めるものとする.

2-6-3 飛沫

2-7 海浜形状

【処理基準】

設計に用いる海浜形状の諸元は,平面形状を規定する汀線の方向及び断面形状を規定す

る後浜幅,後浜高,前浜幅,前浜勾配,外浜幅,外浜勾配,沖浜勾配等のうち必要な諸元

を定めるものとする.

2-7-1 海浜形状の諸元

(1) 一般

(2) 海浜形状

2-7-2 海浜形状の変化

海浜形状の変化の予測に当たっては,その長期的変化及び短期的変化を考慮するものと

する.長期的変化については,広域的な土砂収支からその変動量を推定するものとする.

短期的変化については,実測を基に推定された形状又は良好な再現が可能とされている数

値計算により推定するものとする.

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(1) 一般

海浜は,自然外力の変化や人為的な影響により複雑に変化している.海浜形状の変

化は,沿岸漂砂が卓越する数ヶ月以上の時間スケールの長期的変化と,岸沖漂砂の影

響が無視できない数ヶ月未満の時間スケールの短期的変化に大別される.海浜形状の

短期的変化は,洗掘などによる構造物の安全性への影響や波のうちあげ高を評価する

上で重要な要素であり,長期的変化は,海岸侵食の有無を判断するために重要な要素

となっており,海浜形状の変化はこの両者を把握することが重要である.

(2) 長期的変化

海浜地形の長期的変化としては,数千年から数万年スケールの海水準変動の影響を

受けた変化もあるが,工学的な時間スケールとしては,数十年スケールの海浜地形の

変化を対象とする.また,この時間スケールを対象とするためには,空間スケールも

漂砂供給源となる河川の流域も含めた流砂系全体を対象とした広域なエリアを対象と

する必要がある.

この時間スケールの海浜地形の変化は,人為的改変が海浜地形の変化に大きな影響

を与えており,沿岸漂砂の不均衡に起因している.侵食原因を解明するためには,海

浜は安定していた時期(概ね 1950 年代)以降の流域や沿岸域の土砂動態の変化を空中

写真等の資料から把握する必要がある.

長期的変化は,将来の土砂動態に基づき,再現性の確認されている時間スケール,

空間スケールに応じた数値計算,もしくは模型実験によって推定する.

(3) 短期的変化

海浜地形の短期的変化としては,季節変化や一時化中に発生する海浜の変形である.

この変化には,岸沖漂砂が通常は高波浪期に侵食,静穏期に堆積となる可逆的な変化

をしている.ただし,著しい高波浪時や構造物の新設により漂砂移動に不均衡が生じ

た場合には,不可逆的な変化(沖への流出,洗掘)が生じる.また,短期的変化は,

長周期波や潮位など海象の短期的な変動の影響も受けている.

自然海浜の短期的な岸沖断面の変化は,数値計算によって,バームや浜崖の形成な

ど前浜の地形変化に関して計算精度に課題を残しながら,概ね再現が可能な段階にあ

る.しかし,構造物に伴う地形変化について,数値計算で予測できる段階には至って

いない.

いずれの場合においても,基本的には現地または波浪特性等の外力や地形特性等漂

砂環境が類似した海岸の海浜地形の実測結果をもとに評価する.ただし,再現性が確

認されている模型実験あるいは数値計算結果を用いてもよい.

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2-8 地盤

【処理基準】

設計に用いる地盤条件は,原則として地盤調査及び室内試験を行って決定するものとす

る.

2-8-1 一般

2-8-2 土の物理的性質

2-8-3 土の力学的性質

2-9 土圧及び水圧

2-9-1 土圧

【処理基準】

設計に用いる土圧は,地盤の特性,構造物の特性,地震力等を考慮して適切な算定式に

より算定するものとする.

2-9-2 水圧

【処理基準】

設計に用いる水圧は,構造物前面及び背面の水位変化,地震力等を考慮して適切な算定

式により算定するものとする.

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2-10 地震

2-10-1 総説

【処理基準】

地震の作用を考慮する必要のある海岸保全施設については,施設の機能及び構造,施設

背後地の重要度,地盤高等を考慮して,当該施設が所要の耐震性能を満足することを適切

に照査するものとする.

【解説】

2-10-2 海岸保全施設の耐震性能

海岸保全施設の耐震設計は,施設の供用期間中に1~2度発生する確率を有する地震動

(レベル 1地震動)に対して所要の構造の安全を確保し,かつ,海岸保全施設の機能を損

なわないものとする.

さらに,海岸保全施設のうち,施設の機能及び構造,施設背後地の重要度,地盤高,当

該地域の地震活動度等に基づいてより高い耐震性能が必要と判断されるものに係る耐震

設計は,現在から将来にわたって当該地点で考えられる最大級の強さを持つ地震動(レベ

ル 2地震動)を想定し,これに対して生じる被害が軽微であり,かつ,地震後の速やかな

機能の回復が可能なものとする.

【解説】

(1) 一般

(2) レベル1地震動

(3) レベル2地震動

(4) 耐震性能

2-10-3 耐震性能の照査基準

海岸保全施設の耐震設計においては,当該施設の耐震性能を満足するため,耐震性能を

工学的なパラメータと対応させて照査規準を設定し,これに基づいて耐震性能照査を行う

ものとする.

【解説】

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2-10-4 耐震解析法

海岸保全施設の耐震性能照査は,各施設の構造特性に応じた適切な耐震解析法に基づい

て行うものとする.

(1)レベル 1地震動に対する耐震性能は,震度法による耐震設計により安全性が確保

されることで満足されているものとみなせる.ただし,液状化が発生すると判定される場

合には,要求する耐震性能の高さに応じて適切に照査するものとする.

(2)レベル 2地震動に対する耐震性能は,変形,応力,ひずみ量等を精度よく評価で

きる手法により照査するものとする.

【解説】

2-10-5 設計震度・地震動・液状化

海岸保全施設の耐震設計では,設計震度,設計入力地震動を適切に設定するとともに,

地盤の液状化を適切に考慮するものとする.

(1)設計震度は,地域別,地盤種別及び構造物の重要度を考慮して定めるものとする.

(2)設計入力地震動は,過去の地震観測結果,活断層の調査結果,地盤の地震応答解

析等に基づいて求めるものとする.

(3)ゆるく詰まった飽和砂質土等は地震により液状化し構造物に被害を及ぼすことが

あるため,必要に応じ液状化の影響を考慮するものとする.

【解説】

(1) 設計震度

1) レベル1地震動からの設計震度の算出手順

2) 広域的に算出された設計震度

地域別震度(水工研)

設計震度の修正

(2) 入力地震動

1) レベル1地震動の設定

2) レベル2地震動の設定

(3) 液状化

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2-11 環境と利用

2-11-1 一般事項

海岸保全施設の設計においては,海岸の環境や利用について,現状のみならず海岸の歴

史的な経緯又は将来の計画や予測について,周辺の海岸を含めて把握することが必要であ

る.

【解説】

2-11-2 自然環境

海岸保全施設の設計に当たっては,波,流れ,底質,水質及び生態系だけでなく,音や

景観等についても,台風等の荒天時のみならず日常的な静穏時における時間的及び空間的

変動を把握するものとする.

2-11-3 海岸利用

海岸保全施設の設計に当たっては,海岸の利用について一日の変動や季節変動を把握す

るものとする.

2-11-4 海岸景観

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2-12 その他の作用

2-12-1 風圧

【処理基準】

風圧は,海岸保全施設の構造や設置場所の状況等を勘案して適切に設定するものとす

る.

【解説】

(1) 一般

(2) 照査に用いる風速

(3) 風圧力の計算

(4) 風の観測と推算

2-12-2 漂流物等による振動及び衝撃

【処理基準】

漂流物,船舶等の作用を受けることが想定される場合には,それらによる振動及び衝撃

を考慮するものとする.

【解説】

(1) 台風等の擾乱による漂流物

(2) 津波による漂流物

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2-13 材料

2-13-1 コンクリート

コンクリートは,海水の化学的及び物理的作用,波浪による衝撃,漂流固形物等による

摩耗,鉄筋の腐食その他の有害な作用に抵抗するための耐久性を有するものを使用するも

のとする.

コンクリートに使用する材料としては,所要の品質を有するものを用いるものとする.

【解説】

2-13-2 鋼材

原則としてJISに規定されている鋼材を用い,腐食対策を講じるものとする.

【解説】

【参考】

2-13-3 石材

2-13-4 その他の材料

(1) 養浜材料

(2) 防砂シート等

(3) 木材

(4) 瀝青材量

(5) 建設発生土

(6) リサイクル材